特表2017-523810(P2017-523810A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ファーマシスト リミテッドの特許一覧

特表2017-523810試料中のPIK3CA突然変異状態を決定する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-523810(P2017-523810A)
(43)【公表日】2017年8月24日
(54)【発明の名称】試料中のPIK3CA突然変異状態を決定する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20170728BHJP
   C12Q 1/68 20060101ALI20170728BHJP
【FI】
   C12N15/00 A
   C12Q1/68 ZZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
【全頁数】42
(21)【出願番号】特願2017-526770(P2017-526770)
(86)(22)【出願日】2015年7月28日
(85)【翻訳文提出日】2017年3月31日
(86)【国際出願番号】GR2015000036
(87)【国際公開番号】WO2016020710
(87)【国際公開日】20160211
(31)【優先権主張番号】62/034,231
(32)【優先日】2014年8月7日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】517037870
【氏名又は名称】ファーマシスト リミテッド
【氏名又は名称原語表記】PHARMASSIST LTD
(74)【代理人】
【識別番号】100169904
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100159916
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 貴之
(72)【発明者】
【氏名】エヴリクレイア リアニドウ
(72)【発明者】
【氏名】アティナ マルコウ
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ03
4B063QQ08
4B063QQ44
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
本発明は、循環腫瘍細胞(CTC)、血漿/血清中の無細胞DNA(cfDNA)、またはホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織からのDNA試料中のアレル特異的、非対称高速PCRおよび融解分析の組合せに基づく、癌患者の生物学的試料中のPIK3CA突然変異の検出のための超高感度で高特異度の方法に関する。本発明により、エクソン9および20中のそれぞれのホットスポット突然変異(それぞれ、E545KおよびH1047R)についてのアレル特異的プライマーを使用して、検出は、突然変異PIK3CAアレル配列の増幅を向上させ得る一方、それぞれのエクソンについての対応する競合ブロッキング非標識プローブの存在が野生型PIK3CA配列の非特異的増幅を回避し得、方法の感度および特異度を増加させる。突然変異検出は、非標識プローブおよび突然変異PIK3CA配列のDNAテンプレートの融解曲線分析により完了される。癌患者の末梢血中のCTCおよび血漿/血清中のcfDNA上のPIK3CA突然変異状態の評価は、潜在的な臨床適用を有する方針であり、PIK3CA突然変異の存在が分子標的療法に対する応答に関連するため治療介入に対して重要な影響を有し得た。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
DNA試料中のPIK3CA突然変異アレルDNAの存在を分析する方法であって、前記突然変異アレルDNAの非対称およびアレル特異的ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を実施するステップ、ならびに前記PCRにおいて産生されたDNAの融解分析を実施するステップを含み、
前記PCRを、
− 増幅すべき前記突然変異アレルDNAの第1鎖の3’(3プライム)末端に相補的な突然変異アレル特異的プライマー、および
− 検出すべき突然変異が存在する対応位置における突然変異アレルDNAの第1鎖に対応する野生型DNAの第1鎖の野生型配列に相補的なオリゴヌクレオチドであり、前記PCR反応におけるDNA合成のためのプライマーとして作用するのをブロックされる非標識ブロッキングプローブ、および
− 前記PCRにより増幅すべき前記突然変異アレルDNAの第2鎖の3’末端に相補的な共通プライマー
の使用により実施し、
前記融解分析を、
− 前記野生型アレルDNAに相補的であり、前記突然変異アレルDNAの配列と重複する配列を含むオリゴヌクレオチドである非標識プローブである融解プローブ、および
− 増幅突然変異アレルDNA鎖または野生アレルDNA鎖に結合している前記融解プローブの二本鎖成分を少なくとも含む二本鎖DNA成分の融解温度を計測するための検出可能な成分であって、前記融解温度は、前記増幅突然変異アレル鎖に結合している前記融解プローブおよび前記増幅野生アレル鎖に結合している前記融解プローブの前記二本鎖成分間で異なる、検出可能な成分
の使用により実施する方法。
【請求項2】
前記PCR反応において増幅すべき前記突然変異アレルDNAが、PIK3CAのエクソン9(配列番号1)および/またはエクソン20(配列番号2)を含むか、またはそれからなり、前記突然変異アレル特異的プライマー配列が、エクソン9(配列番号4)または20(配列番号9)のDNA鎖に相補的である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記融解プローブが、前記非標識ブロッキングプローブである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記非標識ブロッキングプローブが、増幅のためのPCRプライマーと比較して付加リン酸基により修飾されている修飾3’末端を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記検出可能な成分が、蛍光成分を含み、前記融解分析が、前記蛍光成分を検出することを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記蛍光成分が、前記試料中の二本鎖DNAの存在下でのみ蛍光を発光しているLC−Green PlusまたはSYBR Green Iからなる群のDNA結合蛍光色素である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記非標識ブロッキングプローブおよび前記共通プライマーが、前記突然変異アレル特異的プライマーよりも高濃度において存在する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記突然変異がPIK3CAのエクソン9中に存在し、前記突然変異アレル特異的プライマーが、配列5’−TTTCTCCTGAT−3’(配列番号3)(は、突然変異部位を示し、Aは、付加ミスマッチを示す)を含むか、またはそれからなる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記突然変異アレル特異的プライマーの前記配列が、5’−ACTCCATAGAAAATCTTTCTCCTGAT−3’(配列番号4)(は、突然変異部位を示し、Aは、付加ミスマッチを示す)を含むか、またはそれである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記非標識ブロッキングプローブが、配列5’−CTGATAGTGA−3’(配列番号5)およびPCRブロッキング成分を含むか、またはそれからなる、請求項8または9に記載の方法、
【請求項11】
前記非標識ブロッキングプローブが、配列5’−CTTTCTCCTGATAGTGATTTCAGAG−P−3’(配列番号6)(Pは、リン酸である)を含むか、またはそれである、請求項8または9に記載の方法。
【請求項12】
前記共通プライマーが、配列5’−GCTCAAAGCAATTTCTACACGAGA−3’(配列番号7)に対して75%から100%の同一性を有する、請求項8〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記突然変異がPIK3CAのエクソン20(配列番号2)中に存在し、前記突然変異アレル特異的プライマーが、配列5’−AATGATGCAC−3’(配列番号8)(は、突然変異部位を示す)を含むか、またはそれからなる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記突然変異アレル特異的プライマーが、5’−ATGAAACAAATGAATGATGCAC−3’(配列番号9)(は、突然変異部位を示す)を含むか、またはそれである、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記非標識ブロッキングプローブが、5’−TGCACTCATG−3’(配列番号10)の配列およびPCRブロッキング成分を含む、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
前記非標識ブロッキングプローブが、5’−GAATGATGCACATCTGGTGG−P−3’(配列番号11)(Pは、リン酸である)の配列を含む、請求項13〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記共通プライマーが、5’−TCTCAGTTATCTTTTCAGTTCAATGC−3’(配列番号12)の配列に対して75%から100%の同一性を有する、請求項13〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
i)対象における悪性新生物疾患を診断し、および/または
ii)対象における悪性新生物疾患の治療の効力を予測し、および/または
iii)対象における悪性新生物疾患の治療のアウトカムを評価し、および/または
iv)対象における悪性新生物疾患の再発を評価する
方法であって、
前記対象は、悪性新生物疾患を有する、または有すると疑われる哺乳動物であり、
請求項1〜17に記載の方法により試料中のPIK3CA突然変異アレルDNAの存在を分析することを含む方法。
【請求項19】
前記試料が、生物学的試料である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記生物学的試料を、対象から得る、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記悪性新生物疾患が、乳癌、結腸癌、肺癌、子宮頸癌、卵巣癌、食道癌、脳癌、皮膚癌、肝臓癌、膵臓癌、頭頸部癌、胃癌および甲状腺癌である、請求項18〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
試料中のPIK3CA突然変異アレルDNAの存在を検出し、
i)悪性新生物疾患を診断し、および/または
ii)悪性新生物疾患の治療の効力を予測し、および/または
iii)悪性新生物疾患の治療のアウトカムを評価し、および/または
iv)悪性新生物疾患の再発を評価するための、
前記対象が、悪性新生物疾患を有する、または有すると疑われる哺乳動物である、請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記試料が、生物学的試料である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記生物学的試料を、対象から得る、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記悪性新生物疾患が、乳癌、結腸癌、肺癌、子宮頸癌、卵巣癌、食道癌、脳癌、皮膚癌、肝臓癌、膵臓癌、頭頸部癌、胃癌および甲状腺癌である、請求項22〜24のいずれか一項に記載の方法。。
【請求項26】
試料中のPIK3CA突然変異アレルDNAの存在を検出し、
i)対象における悪性新生物疾患を診断し、および/または
ii)対象における悪性新生物疾患の治療の効力を予測し、および/または
iii)対象における悪性新生物疾患の治療のアウトカムを評価し、および/または
iv)対象における悪性新生物疾患の再発を評価するための、
前記対象が、悪性新生物疾患を有する、または有すると疑われる哺乳動物である、請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法の使用。
【請求項27】
前記試料が、生物学的試料である、請求項26に記載の使用。
【請求項28】
前記生物学的試料を、対象から得る、請求項27に記載の使用。
【請求項29】
前記悪性新生物疾患が、乳癌、結腸癌、肺癌、子宮頸癌、卵巣癌、食道癌、脳癌、皮膚癌、肝臓癌、膵臓癌、頭頸部癌、胃癌および甲状腺癌である、請求項26〜28のいずれか一項に記載の使用。
【請求項30】
試料中のPIK3CAのエクソン9中の突然変異の存在を検出するためのポリヌクレオチドであって、少なくとも配列5’−TTTCTCCTGAT−3’(配列番号3)、好ましくは、5’−ACTCCATAGAAAATCTTTCTCCTGAT−3’(配列番号4)(は、突然変異部位を示し、Aは、付加ミスマッチを示す)を含むか、またはそれからなる配列を含むか、またはそれからなるポリヌクレオチド。
【請求項31】
試料中のPIK3CAのエクソン9中の突然変異の存在を検出し得る核酸プライマーまたは核酸プローブである、請求項30に記載のポリヌクレオチド。
【請求項32】
試料中のPIK3CAのエクソン9中の突然変異の存在を検出するためのプローブとしての、請求項30または31に記載のポリヌクレオチドの使用。
【請求項33】
乳癌のための予後診断マーカーとしての、請求項30〜32のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドの使用。
【請求項34】
試料中のPIK3CAのエクソン20中の突然変異の存在を検出するためのポリヌクレオチドであって、少なくとも配列5’−AATGATGCAC−3’(配列番号8)、好ましくは、5’−ATGAAACAAATGAATGATGCAC−3’(配列番号9)(は、突然変異部位を示す)を含むか、またはそれからなる配列を含むか、またはそれからなるポリヌクレオチド。
【請求項35】
試料中のPIK3CAのエクソン20中の突然変異の存在を検出し得る核酸プライマーまたは核酸プローブである、請求項34に記載のポリヌクレオチド。
【請求項36】
試料中のPIK3CAのエクソン20中の突然変異の存在を検出するためのプローブとしての、請求項34または35に記載のポリヌクレオチドの使用。
【請求項37】
乳癌のための予後診断マーカーとしての、請求項34〜36のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドの使用。
【請求項38】
i)試料中のPIK3CA中の突然変異の存在を検出し、および/または
ii)対象における悪性新生物疾患を検出する;または
iii)対象における悪性新生物疾患を診断する;または
iv)対象における悪性新生物疾患の治療のアウトカムを予測する;または
v)対象における悪性新生物疾患の治療の効力を評価する;または
vi)対象における悪性新生物疾患の再発を評価するため
のキットであって、
− 請求項30または31に記載の第1のポリヌクレオチド、および/または
− 請求項34または35に記載の第2のポリヌクレオチド
を含むキット。
【請求項39】
− 少なくとも配列5’−CTGATAGTGA−3’(配列番号5)およびPCRブロッキング成分を含むか、もしくはそれからなる第3のポリヌクレオチドであって、好ましくは、5’−CTTTCTCCTGATAGTGATTTCAGAG−P−3’(配列番号6)(Pは、リン酸である)を含むか、またはそれである、第3のポリヌクレオチド、ならびに/または
− 少なくとも配列5’−TGCACTCATG−3’(配列番号10)およびPCRブロッキング成分を含むか、もしくはそれからなる第4のポリヌクレオチドであって、好ましくは、5’−GAATGATGCACATCTGGTGG−P−3’(配列番号11)(Pは、リン酸である)を含むか、またはそれである、第4のポリヌクレオチド
をさらに含む、請求項38に記載のキット。
【請求項40】
− 配列5’−GCTCAAAGCAATTTCTACACGAGA−3’(配列番号7)に対して75%から100%の同一性を有する第5のポリヌクレオチド、および/または
− 配列5’−TCTCAGTTATCTTTTCAGTTCAATGC−3’(配列番号12)に対して75%から100%の同一性を有する第6のポリヌクレオチド
をさらに含む、請求項38または39に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、循環腫瘍細胞(CTC)、血漿/血清中の無細胞DNA(cfDNA)およびホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織のDNA試料中のPIK3CA突然変異状態を決定する高感度の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
循環腫瘍細胞(CTC)検出および計数は、「リキッドバイオプシー」およびに全身療法に対する応答の初期マーカーとして機能し得る一方、それらの分子特徴付けは、個別化された標的化治療に転換され、癌患者に不要で無効な治療法を控える強力な潜在性を有する。
【0003】
アジュバント化学療法前の7.5mLの血液中の1つ以上のCTCの検出は、全生存率(OS)を正確に予測し得ることが示されている。フォローアップの最初の5年の間のCTCの持続的検出は、後期疾患再発および死亡のリスクの増加を伴い、化学およびホルモン療法耐性残留疾患の存在を示す。近年のプロスペクティブ臨床試験は、早期再発および全生存率(OS)の減少について予測される1つ以上のCTCの存在を裏付けた。
【0004】
転移性乳癌(MBC)において、CTCは無進行性生存率(PFS)およびOSについての独立予後因子を表し、転移性乳癌、前立腺癌、および結腸直腸癌のためのCTC計数アッセイ(CellSearch(商標)システム、Veridex)が、FDAにより認可された。治療法の第2サイクル前のCTCの数の増加は、不良PFSおよびOSの初期予測マーカーであり、それを使用して治療利益をモニタリングすることができた一方、治療下のCTC減少は、標的療法についてより強力であった。最先端の治療法前のMBCを有する患者におけるCTCの検出は、不良臨床アウトカムを有する患者の下位群を定義し得た。
【0005】
目下、無細胞DNA(cfDNA)が、アポトーシスまたは微小環境ストレスにより誘導される他の生理学的イベントを受ける細胞からの循環に放出され、癌を有する患者の血液試料中で同定することができることが確立されている。しかしながら、産生されるcfDNA断片の長さに関して(DNA完全性)、cfDNAの資源を、アポトーシスまたは壊死起源と区別することができる。循環腫瘍DNA(ctDNA)という用語は、本質的に、腫瘍に由来する全cfDNAのサブタイプを含む。多くの研究が、ctDNAおよびCTCの両方が癌患者の血漿/血清および末梢血中に、進行期だけでなく初期においても存在することを示している。
【0006】
多くの市販のcfDNA抽出キットが存在するが、効率および収率は、抽出の間の出発材料の損失に起因して依然として低く、その定量は標準化の欠落のために変動し得る。これにもかかわらず、cfDNA抽出の効率は、突然変異検出のアウトカム、すなわち、アッセイ感度に直接影響を与え得る。
【0007】
ホスホイノシチド3−キナーゼ(PI3K)は液体キナーゼのファミリーをなし、1980年代に発見され、重要な生物学的機能、例えば、細胞生存、分化および増殖の媒介を担う。ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(PI3K)/AKTシグナリング経路は、ヒト疾患、例として、癌に関与し、この経路の複雑性の理解は、治療介入のための新たな手段を提供し得る。PI3Kのp110α触媒サブユニット中の体細胞突然変異は、多くのタイプの固形癌、例えば、乳癌、結腸直腸癌、前立腺癌、卵巣癌、子宮頸癌、頭頸部癌、食道癌、肺癌、脳癌、皮膚癌、肝臓癌、膵臓癌、胃癌または甲状腺癌において極めて高頻度であり、分子標的療法に対する応答における重要な役割を担い、乳癌におけるHER−2増幅と同時に生じることが多い。PIK3CAの突然変異は、乳癌患者の18〜40%において報告されている一方、症例の約90%をなす圧倒的多数は、エクソン9およびエクソン20中の2つのホットスポット領域に集中している。
【0008】
CTC、cfDNAまたはFFPE組織のDNA試料中のPIK3CAホットスポット突然変異の検出の臨床的関連性は極めて重要である。それというのも、PIK3CA突然変異の存在は標的療法における薬物耐性と関連するためである。問題は、突然変異が臨床腫瘍試料中に極めて少量で存在し、既存の方法の検出限界が極めて低く、したがって、臨床診断および患者管理に影響を与え得る偽陰性をもたらすことである。
【0009】
ctDNAの分析は、腫瘍進行を評価し、予後診断、診断および治療に対する応答を評価するための有用なツールとして示されている。多くの研究は、ctDNAの臨床的有用性を裏付けており、この目的に使用される方法の分析感度を増加させるために多くの技術が開発されてきた。Jankuらは、ビーミング(beaming)法を使用し、両方のエクソン中のPIK3CA突然変異についての組織および血漿間の一致率が91%であったことを示している[Janku F,et al.Actionable mutations in plasma cell−free DNA in patients with advanced cancers referred for experimental targeted therapies.Oncotarget.2015;6:12809−21]。別の研究において、デジタルPCR(dPCR)アッセイを使用するctDNA中のPIK3CA突然変異の割合は、乳癌を有する患者の22.7%において見出された[Oshiro C,et al.PIK3CA mutations in serum DNA are predictive of recurrence in primary breast cancer patients.Breast Cancer Res Treat.2015;150:299−307]。
【0010】
この理由のため、極限感度(0.05%)および高特異度(100%)を特徴とするPIK3CAホットスポット突然変異のための新規方法が開発されてきた[Markou A,et al.PIK3CA mutational status in circulating tumor cells can change during disease recurrence or progression in patients with breast cancer.Clin Cancer Res.2014 Nov 15;20(22):5823−34]。このアッセイは、多くの利点を提供する:それは、過剰の野生型アレルの存在下でPIK3CA突然変異を有する極めて少量の突然変異アレルを検出し得る。さらに、開発された方法を使用することにより、CTCから単離されたDNA中のPIK3CA突然変異を、初期乳癌患者(20.3%)および臨床的に確認された転移を有する患者(35.1%)の両方で以前に報告されたものよりもかなり高い割合において検出することができた。
【0011】
この理由のため、アレル特異的プライミング、野生型増幅の競合ブロッキングプローブ、非対称PCR、およびプローブ融解分析の組合せに基づく、CTC中のPIK3CAホットスポット突然変異(エクソン9および20)の検出のための超高感度および高特異度の方法[Markou A,et al.PIK3CA mutational status in circulating tumor cells can change during disease recurrence or progression in patients with breast cancer.Clin Cancer Res.2014 Nov 15;20(22):5823−34]が、開発およびバリデートされた。データは、PIK3CA突然変異状態が乳癌を有する患者における疾患再発または進行の間に変化し得ること、およびCTC中のPIK3CA突然変異の存在が臨床的に確認された転移を有する患者のより悪い生存率を伴うことも示唆する[Markou A,et al.PIK3CA mutational status in CTCs can change during disease recurrence or progression in patients with breast cancer.Clin Cancer Res.2014 Nov 15;20(22):5823−34]。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、例えば、CTCの試料中のPIK3CA突然変異状態を決定する改善された方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題は、請求項1に記載の方法により完全にまたは部分的に解決される。本発明の実施形態およびさらなる詳細が、添付の従属請求項、図面および配列表に記載される。
【0014】
したがって、本方法は、試料中のPIK3CAアレル、すなわち、試料中の突然変異、例えば、ホットスポット突然変異を含有するPIK3CAアレルの存在の決定に関する。試料は、例えば、CTCのものであり得るが、本方法は、任意の他のタイプの生物学的試料中で、例えば、血漿/血清中の無細胞DNAまたは固形腫瘍のFFPE組織中で使用することもできる。PIK3CA突然変異の検出を使用して多くのタイプの癌、例として、結腸、乳房、脳、甲状腺、膵臓、前立腺、頭頸部、卵巣、子宮頸部、肝臓、胃、食道、皮膚および肺の癌を決定することができる。本方法は、例えば、乳癌の初期診断の間にPIK3CA突然変異が存在し得た癌の発症のリスクを決定する場合に特に有利である。
【0015】
本発明の方法は、L.Zhouら[Zhou L,et al.Rare allele enrichment and detection by allele−specific PCR,competitive probe blocking,and melting analysis.BioTechniques 2011;50:311−8]によりBRAF突然変異について最初に記載されたアプローチに基づく。この方法の基本的アプローチを使用して、CTCの試料中のPIK3CAホットスポット突然変異を検出するようにデノボプライマーおよびプローブを設計し、全ての実験条件を確認した。融解分析および非標識プローブの態様は、ユタ大学(University of Utah)からIDAHO technologyにライセンス付与された。
【0016】
本発明による方法は、均一系中の希少アレルの検出を向上させ得る。本方法は、競合ブロッキングプローブを使用する非対称およびアレル特異的ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、および融解分析を含む。本方法は、増幅すべき突然変異アレルDNA標的の第1鎖の3’(3プライム)末端に相補的な突然変異アレル特異的プライマーおよび検出すべき突然変異が存在する正確な位置における野生型DNAの対応する第1鎖の野生型配列に相補的なオリゴヌクレオチドである非標識ブロッキングプローブ(競合プローブ)を要求する。さらに、本方法は、PCRにより増幅すべきDNA標的の第2鎖の3’末端に相補的な共通プライマーを含む。
【0017】
この場合、例えば、CTCの試料中のPIK3CA突然変異アレルの存在を決定する本発明による方法は、
・非対称およびアレル特異的ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を実施するステップ、ならびに
・PCRにおいて産生されたDNAの融解分析を実施するステップ
を含み、
PCRを、
・増幅すべき突然変異アレルDNA標的の第1鎖の3’(3プライム)末端に相補的な突然変異アレル特異的プライマー、
・検出すべき突然変異が存在する対応位置における突然変異アレルの第1鎖に対応する野生型DNAの第1鎖の野生型配列に相補的なオリゴヌクレオチドであり、PCR反応におけるDNA合成のためのプライマーとして作用するのをブロックされる非標識ブロッキングプローブ;および
・PCRにより増幅すべきDNA標的の第2鎖の3’末端に相補的な共通プライマー
の使用により実施し、
融解分析を、
・野生型アレル配列に相補的であり、突然変異アレルの配列と重複する配列を含むオリゴヌクレオチドである非標識プローブである融解プローブ;および
・増幅突然変異アレル鎖または野生アレル鎖に結合している融解プローブの二本鎖成分を少なくとも含む二本鎖DNA成分の融解温度を計測するための検出可能な成分(融解温度は、増幅突然変異アレル鎖に結合している融解プローブおよび増幅野生アレル鎖に結合している融解プローブの二本鎖成分間で異なる)
の使用により実施する。
【0018】
次いで、アレル特異的PCRを使用して希少アレルを濃縮する。アレル特異的PCRは、所望の突然変異アレルに完全に特異的であるように設計される突然変異アレル特異的プライマー(リバースまたはフォワード)である第1のプライマーを要求し、その3’末端は、検出すべき突然変異部位に正確に存在するように設計される。共通プライマー(フォワードまたはリバース)である第2のプライマーも使用し、そのプライマーは第1のプライマーが結合する相補鎖に結合し、突然変異および野生型鎖アレルの両方の増幅に使用することができる。このように、試料中に存在する他のアレル、例えば、野生型はミスマッチし、非特異的増幅は制限される。しかしながら、突然変異アレル特異的プライマーのみを使用することにより、この阻害は、これまで記載された全ての例において100%完全ではない。それというのも、野生型は、通常、過剰濃度において存在するためである。
【0019】
したがって、本方法は、非標識ブロッキングプローブを使用する競合プローブブロッキングの使用を含む。非標識ブロッキングプローブ(競合プローブ)は、検出すべき突然変異が存在する正確な位置中の野生型配列に相補的なオリゴヌクレオチドである。この非標識ブロッキングプローブは、PCRにおいてプライマーとして使用されるその3’末端においてブロックされ、例えば、PCRのための通常プライマーと比較してその3’末端における付加リン酸基を有することによりブロックされる。この非標識ブロッキングプローブは、野生型アレルの競合ブロッキングに使用し、突然変異アレル特異的プライマーよりも高濃度、例えば、アレル特異的プライマーの5から20倍または10倍高い濃度において付加する。突然変異アレル特異的プライマーおよび非標識ブロッキングプローブの配列における重複が存在し、突然変異アレル特異的プライマーおよびこの非標識ブロッキングプライマーの両方が存在する場合(野生型および突然変異体);非標識ブロッキングプローブは野生型にハイブリダイズし、突然変異アレル特異的プライマーは突然変異アレルにハイブリダイズする。したがって、非標識ブロッキングプローブは、感度増加のためのアレル特異的プライマーと競合する。それというのも、それは野生型とマッチさせるように設計され、したがって、野生型アレル上に正確に結合するためである。非標識ブロッキングプローブは、対応するホットスポット突然変異が可能な限り非標識ブロッキングプローブの中央近くに配置されるように設計することができる。このように、野生型の非特異的増幅を最小の程度に低減させることができる。希少アレル濃縮は、アレル特異的プライマーと比較して過剰のブロッキングプローブおよびリバースプライマーについて最適である。
【0020】
非対称PCRは、突然変異アレル特異的プライマーを、共通プライマーに関してより低濃度(例えば、10倍低い)において添加するアレル特異的PCRを含む。このように、この突然変異アレル特異的プライマーは、極めて低い濃度において存在する突然変異アレルによってのみPCRにおいて完全に使用される。突然変異アレルの存在下で、および数回のPCRサイクル後、突然変異アレル特異的プライマーは完全に使用され、次いで突然変異情報を含む鎖が過剰に産生される。それというのも、それは、両方のアレルに共通である他のプライマーのための一定のテンプレートとして使用され、野生型アレルの増幅が突然変異アレル特異的プライマーおよび非標識ブロッキングプローブの使用により制限されるためである。産生される一本鎖PCR産物は、突然変異情報を含有する。PCR後、それらは過剰であり、過剰で完全に相補的でないプローブにより認識されるため、融解曲線がより低温である。
【0021】
融解分析はPCR反応に行い、目的の融解温度よりも低い温度から、目的の融解温度を超える温度に温度を増加させ、二本鎖DNAの融解温度を検出するステップを含む。
【0022】
融解分析は、野生型アレル配列に相補的であり、好ましくは、突然変異位置の周囲の突然変異アレルの配列と重複する配列を含むオリゴヌクレオチドである非標識プローブである融解プローブの使用を含む。この場合、融解プローブ(非標識ブロッキングプローブ)は、突然変異アレル特異的プライマーの配列と重複する配列を含み得る。融解プローブは、野生型アレルへのその結合と比較して突然変異アレルへのその結合について異なる融解温度を提供する。融解プローブは、本明細書においても例示されるとおり、非標識ブロッキングプローブであり得る。突然変異アレルに対する非標識ブロッキングプローブの融解温度は、野生型アレルに対する非標識ブロッキングプローブの融解温度よりも低い。非標識ブロッキングプローブは極めて高い濃度において添加し、これは、主として、野生型配列をブロックする反応において使用し、突然変異アレル特異的プライマーは、野生型に非特異的に結合せず、非特異的PCR産物を生じさせ得ない。さらに、この同一の非標識ブロッキングプローブは、上記のとおり突然変異情報を含有する一本鎖および野生型一本鎖を認識している。結果として、得られる融解曲線は、プローブ下のアレルに特異的なシグネチャーに類似する。
【0023】
融解プローブおよび非対称PCR産物の相補第1鎖間の融解温度の計測は、蛍光色素を使用する蛍光検出技術の使用により実施することができる。一実施形態において、蛍光色素は、計測試料中の二本鎖DNAの存在下でのみ蛍光を発光する色素である。色素は、LC−Green Plusであり得る。二本鎖DNAおよび蛍光色素LC−Green Plusの蛍光の発光を計測することにより、突然変異アレルについて特徴的な融解曲線を導出する。それというのも、突然変異DNA配列の融解温度は、野生型配列のものよりも低いためである。本方法は、全ての産物が二本鎖であり、100%において蛍光を発光する場合、PCR反応の終了後に温度を増加させることを含み得る。次いで、温度を徐々に増加させ、温度がDNA配列について特徴的な温度、すなわち、Tmに達する場合、蛍光が減少し始める。Tmは、DNAの50%が二本鎖であり、50%が一本鎖である温度である。
【0024】
色素を使用する融解分析は、例えば、55から60摂氏度の10秒間および95摂氏度の1分間のアニーリングのステップ(温度を、55から60摂氏度の温度から開始して0.2摂氏度/秒の増分(変化速度)だけ徐々に増加させる)、ならびに色素を検出することにより融解温度を計測するステップ(データ収集ステップ)を含み得る。
【0025】
PCR反応において増幅すべき突然変異アレルDNA標的は、PIK3CAのエクソン9(配列番号1)および/またはエクソン20(配列番号2)を含み得、またはそれからなり得、突然変異アレル特異的プライマー配列は、エクソン9(配列番号1)またはエクソン20(配列番号2)のDNA鎖に相補的である。
【0026】
融解プローブは、非標識ブロッキングプローブであり得る。非標識ブロッキングプローブは、増幅のためのPCRプライマーと比較して付加リン酸基により修飾されている3’末端を有し得る。これは、DNA鎖の合成のためのPCRプライマーとしての非標識ブロッキングプローブの使用をブロックする。場合により、非標識ブロッキングプローブは、1つ以上の非蛍光部分、例えば、限定されるものではないが、非蛍光副溝バインダー、ビオチン、スペーサー、リンカー、リン酸、塩基類似体、非天然塩基などにより修飾することができる。
【0027】
上記のとおり、検出可能な成分は蛍光成分を含み得、この場合、融解分析は蛍光成分を検出することを含み得る。蛍光成分は、蛍光色素、例えば、試料中の二本鎖DNAの存在下でのみ蛍光を発光するLC−Green PlusまたはSYBR Green Iからなる群の蛍光色素であり得る。
【0028】
非標識ブロッキングプローブは、突然変異アレル特異的プライマーよりも高濃度において反応中で添加して野生型アレル配列の増幅をブロックする。非標識プローブは、野生型DNAに優先的に結合し、プライマー結合と競合する。同時に、より低濃度の突然変異アレル特異的プライマーは、突然変異アレル配列のみの伸長をもたらす。したがって、ブロッキングプローブの濃度は、過剰の野生型アレルへの結合のため突然変異プライマーよりも高いことが望ましい。さらに、突然変異アレル特異的プライマーおよび共通プライマー間の異なる濃度は、突然変異情報を含む鎖の産生を過剰にもたらして本方法の感度を増加させる。
【0029】
突然変異は、PIK3CAのエクソン9(配列番号1)中に存在し得、突然変異アレル特異的プライマーは、配列5’TTCTCCTGAT−3’(配列番号3)(は、突然変異部位を示し、Aは、野生型アレル配列の増幅を阻害する付加ミスマッチを示す)を含むか、またはそれからなり、突然変異希少アレルのみの増幅を増加させ、方法の特異度の向上をもたらす。突然変異アレル特異的プライマーの配列は、好ましくは、5’−ACTCCATAGAAAATCTTTCTCCTGAT−3’(配列番号4)を含み得、またはそれであり得る。
【0030】
非標識ブロッキングプローブは、配列5’−CTGATAGTGA−3’(配列番号5)(は、配列が野生型部位に相補的な正確な位置を示す)、および非標識ブロッキングプローブがPCR反応においてDNA合成のためのプライマーとして作用するのをブロックするPCRブロッキング成分を含み得、またはそれからなり得る。非標識ブロッキングプローブの配列は、好ましくは、5’−CTTTCTCCTGATAGTGATTTCAGAG−P−3’(配列番号6)(Pは、PCRブロッキング成分として作用するリン酸である)を含み得、またはそれであり得る。
【0031】
共通プライマーは、配列5’−GCTCAAAGCAATTTCTACACGAGA−3’(配列番号7)に対して75%から100%の同一性を有し得る。これは、共通プライマーが、核酸配列5’−GCTCAAAGCAATTTCTACACGAGA−3’(配列番号7)に対して少なくとも75%、または少なくとも80%、または少なくとも85%または少なくとも90%の同一性、例えば、75〜100%、76〜100%、77〜100%、78〜100%、79〜100%、80〜100%、81〜100%、82〜100%、83〜100%、84〜100%、85〜100%、86〜100%、87〜100%、89〜100%、90〜100%、91〜100%、92〜100%、93〜100%、94〜100%、95〜100%、96〜100%、97〜100%、98〜100%、99〜100%または約100%の同一性を有し得ることを意味する。
【0032】
突然変異は、PIK3CAのエクソン20(配列番号2)中にも存在し得、突然変異アレル特異的プライマーは、配列5’−AATGATGCAC−3’(配列番号8)(は、突然変異部位を示す)を含むか、またはそれからなる。突然変異アレル特異的プライマーの配列は、好ましくは、5’−ATGAAACAAATGAATGATGCAC−3’(配列番号9)を含むか、またはそれであり得る。
【0033】
非標識ブロッキングプローブは、配列5’−TGCACTCATG−3’(配列番号10)(は、配列が野生型部位に相補的な正確な位置を示す)、および非標識ブロッキングプローブがPCR反応においてDNA合成のためのプライマーとして作用するのをブロックするPCRブロッキング成分を含み得、またはそれからなり得る。非標識ブロッキングプローブの配列は、好ましくは、5’−GAATGATGCACTCATGGTGG−P−3’(配列番号11)(Pは、PCRブロッキング成分として作用するリン酸である)を含み得、またはそれであり得る。
【0034】
この場合、共通プライマーは、配列5’−TCTCAGTTATCTTTTCAGTTCAATGC−3’(配列番号12)に対して75%から100%の同一性を有し得る。これは、共通プライマーが、核酸配列5’−TCTCAGTTATCTTTTCAGTTCAATGC−3’(配列番号12)に対して少なくとも75%、または少なくとも80%、または少なくとも85%または少なくとも90%の同一性、例えば、75〜100%、76〜100%、77〜100%、78〜100%、79〜100%、80〜100%、81〜100%、82〜100%、83〜100%、84〜100%、85〜100%、86〜100%、87〜100%、89〜100%、90〜100%、91〜100%、92〜100%、93〜100%、94〜100%、95〜100%、96〜100%、97〜100%、98〜100%、99〜100%または約100%の同一性を有し得ることを意味する。
【0035】
本文書はまた、
i)対象における悪性新生物疾患を診断し、および/または
ii)対象における悪性新生物疾患の治療の効力を予測し、および/または
iii)対象における悪性新生物疾患の治療のアウトカムを評価し、および/または
iv)対象における悪性新生物疾患の再発を評価する
方法であって、
対象は、悪性新生物疾患を有する、または有すると疑われる哺乳動物であり、
本明細書に記載のステップにより試料中のPIK3CA突然変異アレルDNAの存在を分析することを含む方法
に関する。
【0036】
本明細書に記載の方法は、有利には、試料中のPIK3CA突然変異アレルDNAの存在を検出するため、ならびに
i)対象における悪性新生物疾患を診断し、および/または
ii)対象における悪性新生物疾患の治療の効力を予測し、および/または
iii)対象における悪性新生物疾患の治療のアウトカムを評価し、および/または
iv)対象における悪性新生物疾患の再発を評価するため
に使用することができ、
対象は、悪性新生物疾患を有する、または有すると疑われる哺乳動物である。
【0037】
分析される試料は生物学的試料であり得、前記生物学的試料は、対象から得ることができる。有利には、対象はヒトである。
【0038】
悪性新生物疾患は、乳癌、結腸癌、子宮内膜癌、食道癌、胃(gastric)癌、頭頸部癌、肝臓癌、卵巣癌、甲状腺癌、皮膚癌、膵臓癌、前立腺癌および胃(stomach)癌からなる群から選択することができる。
【0039】
有利には、悪性新生物疾患は、乳癌である。
【0040】
対象における悪性新生物疾患を診断および/または予後診断する場合、本方法は、
a)所与の対象から生物学的試料を得るステップ
b)本明細書に記載の前記生物学的試料から得られたDNA試料中のPIK3CA突然変異アレルDNAの存在を分析する方法を実施するステップ
c)前記DNA試料中のPIK3CA突然変異アレルDNAの存在を検出するステップ;ならびに
d)前記DNA試料中で検出されたPIK3CA突然変異アレルDNAの量を陽性および/または陰性対照と比較し、それにより対象における悪性新生物疾患を診断および/または予後診断するステップ
を含む。
【0041】
さらなる実施形態は、陽性対照が突然変異を担持する細胞系からの細胞を含む実施形態である。いっそうさらなる実施形態は、陰性対照が悪性新生物疾患を罹患していない健常対象からの細胞を含む実施形態である。
【0042】
悪性新生物疾患を罹患する対象における治療のアウトカムを予測するか、または治療に対する応答を予測する場合、本方法は、
a)所与の対象から生物学的試料を得るステップ
b)本明細書に記載の前記生物学的試料から得られたDNA試料中のPIK3CA突然変異アレルDNAの存在を分析する方法を実施するステップ;ならびに
c)前記DNA試料中のPIK3CA突然変異アレルDNAの存在を検出するステップ;ならびに
d)前記DNA試料中で検出されたPIK3CA突然変異アレルDNAの量を陽性および/または陰性対照と比較し、それにより前記DNA試料中で検出されたPIK3CA突然変異アレルDNAの存在に基づき前記対象における悪性新生物疾患の治療のアウトカムを予測するステップ
を含む。
【0043】
悪性新生物疾患について治療されている対象における悪性新生物疾患の治療の効力を評価する場合、本方法は、
a)悪性新生物疾患について治療を受けている対象から生物学的試料を得るステップ
b)本明細書に記載の前記生物学的試料から得られたDNA試料中のPIK3CA突然変異アレルDNAの存在を分析する方法を実施するステップ;
c)前記DNA試料中のPIK3CA突然変異アレルDNAの存在を検出するステップ;および
d)悪性新生物疾患についての前記対象の治療間の1つ以上の時点においてステップa)からc)を繰り返すステップ
を含み、経時的な前記DNA試料中のPIK3CA突然変異アレルDNAの相対存在の変化は、治療の効力を示す。
【0044】
したがって、有効な治療の指標は、本方法を繰り返すステップにおける事前の分析試料に対する前記DNA試料中のPIK3CA突然変異アレルDNAの存在の減少の相対変化である。
【0045】
場合により、当技術分野に公知の、または本明細書に記載の標準的なスコアリング系により、前記DNA試料中の検出されたPIK3CA突然変異アレルDNAのスコアリングを行うことができる。
【0046】
試料は、悪性新生物疾患を含む可能性がある任意の試料、好ましくは、悪性新生物疾患を有する対象からの生物学的試料であり得、その対象は、治療予定、治療の合間または現在治療中の患者である。
【0047】
悪性新生物疾患の再発を評価する場合、本方法は、
a)既に悪性新生物疾患を有した対象から生物学的試料を得るステップ、
b)前記生物学的試料から得られたDNA試料中のPIK3CA突然変異アレルDNAの存在を検出するステップ、
c)悪性新生物疾患についての前記対象の治療後の1つ以上の時点においてステップa)およびb)を繰り返すステップ
を含み、経時的な前記DNA試料中のPIK3CA突然変異アレルDNAの相対存在の変化は、悪性新生物疾患の再発を示し得る。
【0048】
したがって、再発の指標は、悪性新生物疾患を同定する前記DNA試料中のPIK3CA突然変異アレルDNAの増加量の相対変化、すなわち、本方法を繰り返すステップにおける事前の分析試料に対する前記DNA試料中のPIK3CA突然変異アレルDNAの存在の経時的増加である。
【0049】
本方法はまた、試料中のPIK3CAのエクソン9中の突然変異の存在を検出するためのポリヌクレオチドであって、少なくとも配列5’−TTTCTCCTGAT−3’(配列番号3)、好ましくは、5’−ACTCCATAGAAAATCTTTCTCCTGAT−3’(配列番号4)(は、突然変異部位を示し、Aは、付加ミスマッチを示す)を含むか、またはそれからなる配列を含むか、またはそれからなるポリヌクレオチドに関する。ポリヌクレオチドは、有利には、上記の方法において、PIK3CAのエクソン9中の突然変異の存在を検出するための突然変異アレル特異的プライマーとして使用することができる。ポリヌクレオチドは、乳癌のための予後診断マーカーとして使用することができる。
【0050】
本発明はまた、試料中のPIK3CAのエクソン20中の突然変異の存在を検出するためのポリヌクレオチドであって、少なくとも配列5’−AATGATGCAC−3’(配列番号8)、好ましくは、5’ATGAAACAAATGAATGATGCAC−3’(配列番号9)(は、突然変異部位を示す)を含むか、またはそれからなる配列を含むか、またはそれからなるポリヌクレオチドに関する。ポリヌクレオチドは、本明細書に記載の方法において、PIK3CAのエクソン20中の突然変異の存在を検出するための突然変異アレル特異的プライマーとして使用することができる。ポリヌクレオチドは、乳癌のための予後診断マーカーとして使用することができる。
【0051】
本発明はまた、試料、例えば、CTC、ctDNAまたはFFPE中のPIK3CA突然変異アレルDNAを検出するためのキットに関する。試料中のPIK3CA中の突然変異を検出するためのキットは、
i)生物学的試料中のPIK3CA突然変異アレルDNAを検出し、および/または
ii)対象における悪性新生物疾患を検出する;または
iii)対象における悪性新生物疾患を診断または予後診断する;または
iv)対象における悪性新生物疾患の治療のアウトカムを予測する;または
v)対象における悪性新生物疾患の治療の効力を評価する、または
vi)対象における悪性新生物疾患の再発を評価するため
に使用することもできる。
【0052】
キットは、
− 試料中のPIK3CAのエクソン9中の突然変異を検出するための第1のポリヌクレオチド(前記第1のポリヌクレオチドは、少なくとも配列5’TTTCTCCTGAT−3’(配列番号3)を含むか、またはそれからなり、好ましくは、前記第1のポリヌクレオチドは、5’−ACTCCATAGAAAATCTTTCTCCTGAT−3’(配列番号4)を含むか、またはそれからなる)、および/または
− 試料中のPIK3CAのエクソン20中の突然変異を検出するための第2のポリヌクレオチド(前記第2のポリヌクレオチドは、少なくとも配列5’−AATGATGCAC−3’(配列番号8)を含むか、またはそれからなり、好ましくは、前記第2のポリヌクレオチドは5’−ATGAAACAAATGAATGATGCAC−3’(配列番号9)を含むか、またはそれからなる)を含み得る。第1および/または第2のポリヌクレオチドは、上記の方法において、突然変異アレル特異的プライマーとして使用することができる。
【0053】
キットは、少なくとも配列5’−CTGATAGTGA−3’(配列番号5)およびPCRブロッキング成分を含むか、もしくはそれからなる第3のポリヌクレオチド(好ましくは、前記第3のポリヌクレオチドは、5’−CTTTCTCCTGATAGTGATTTCAGAG−P−3’(配列番号6)(Pは、リン酸であり、Aは、付加ミスマッチである)を含むか、またはそれである)、ならびに/または少なくとも配列5’−TGCACTCATG−3’(配列番号10)およびPCRブロッキング成分を含むか、もしくはそれからなる第4のポリヌクレオチド(好ましくは、前記第4のポリヌクレオチドは、5’−GAATGATGCACTCATGGTGG−P−3’(配列番号11)(Pは、リン酸である)を含むか、またはそれである)をさらに含み得る。第3および/または第4のポリヌクレオチドは、上記の方法において、非標識ブロッキングプローブとして使用することができる。
【0054】
キットは、配列5’−GCTCAAAGCAATTTCTACACGAGA−3’(配列番号7)に対して75%から100%の同一性を有する配列を有する第5のポリヌクレオチド、および/または配列5’−TCTCAGTTATCTTTTCAGTTCAATGC−3’(配列番号12)に対して75%から100%の同一性を有する第6のポリヌクレオチドをさらに含み得る。第5および/または第6のポリヌクレオチドは、上記の方法において、共通プライマーとして使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
図1】本試験の実験フローチャートを説明する。
図2A-D】エクソン9 1633G>A(A)およびエクソン20 3140A>G(B)について開発されたPIK3CA突然変異アッセイの特異度ならびにエクソン9 1633G>A(C)およびエクソン20 3140A>G(D)について開発されたPIK3CA突然変異アッセイの感度を示す。
図3A-D】エクソン9 1633G>A(A)およびエクソン20 3140A>G(B)についての手術可能な乳癌を有する患者におけるCTC中のPIK3CA突然変異の検出を示す。エクソン9 1633G>A(C)およびエクソン20 3140A>G(D)についての臨床的に確認された転移を有する患者におけるCTC中のPIK3CA突然変異の検出。
図4】CTC中のPIK3CA突然変異状態に関して臨床的に確認された転移を有する乳癌を有する患者についての月数におけるOSを推定するカプラン・マイヤー曲線を示す。
図5】エクソン9 1633G>A(A、B)およびエクソン20 3140A>G(C)についての臨床的に確認された転移性乳癌を有する患者における無細胞DNA中のPIK3CA突然変異の検出を示す。
図6】本方法の原理を表す。
図7】エクソン9および20についてのヌクレオチド配列を表す。
【0056】
定義
本発明において使用される用語は、一般に、分子生物学の当業者により一般に受け入れられる標準的な定義に従うことが求められる。以下に挙げるいくつかの例外を本発明の範囲内でさらに定義した。
【0057】
本明細書において使用される「少なくとも1つ」は、1つ以上、すなわち、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10などを意味する。
【0058】
本明細書において使用される「検出」、「検出する」、「検出すること」は、対照を参照してまたは参照しない定性および/または定量的検出(レベルの計測)を含み、所与のPIK3CA突然変異アレルDNA分子の存在、不存在、または量の同定をさらに指す。
【0059】
本明細書において使用される用語「核酸配列」、「核酸分子」、「核酸」などは、核酸塩基のストリングを含むポリヌクレオチド分子(DNA−デオキシリボ核酸、またはRNA−リボ核酸)を指す。これらの核酸塩基は、「A」(アデニン)、「T」(チミジン)/「U」(ウラシル)、「C」(シチジン)および「G」(グアニジン)である。RNAにおいて、「T」は、「U」により置き換えられる。DNAまたはRNAは、一本鎖でも二本鎖でもよい。本明細書においてDNA配列として表現される核酸配列「に対応する」RNA配列により、対応するRNA配列を得るために「T」が「U」により置き換えられる同一の核酸配列が意図される。用語「核酸」は、一方または他方が具体的に言及されない限り、DNAおよび/またはRNA配列の両方を含み得る。
【0060】
核酸分子(DNAおよびRNA分子)と関連して本明細書において使用される用語「単離」は、分子がその元の環境から除去されていることを意味する。これは、生存生物中に存在する場合、核酸分子が「単離」されていないことを意味する。化学結合の破壊および/または他の手段により配列をその天然環境から分離することは、核酸分子が「単離」されていることを意味する。
【0061】
本明細書において使用される用語「プライマー」は、合成により産生され、核酸鎖に相補的なプライマー伸長産物の合成が誘導される条件下で、すなわち、ヌクレオチドおよび重合のための薬剤、例えば、DNAポリメラーゼ、逆転写酵素などの存在下で、好適な温度およびpHにおいて配置される場合に核酸合成の開始点として作用し得るオリゴヌクレオチドを指す。プライマーは、好ましくは、最大の効率のために一本鎖であるが、代替的に二本鎖であってもよい。二本鎖の場合、プライマーは、最初にその鎖を分離するように処理してから使用して伸長産物を調製する。プライマーは、重合のための薬剤の存在下で伸長産物の合成をプライミングするために十分に長くなければならない。プライマーの正確な長さは、多くの因子、例として、温度およびプライマー源に依存する。例えば、標的配列の複雑性に応じて、プライマーは、典型的には、15から25以上のヌクレオチドを含有するが、それは、より少ないヌクレオチドを含有し得る。短鎖プライマー分子は、一般に、十分に安定なテンプレートとのハイブリッド複合体を形成するためにより冷温を要求する。
【0062】
用語「突然変異アレル特異的プライマー」は、突然変異アレル配列にハイブリダイズし、突然変異を有する場合にのみ、プライマーが好適な条件下で核酸ポリメラーゼにより効率的に伸長される点において標的配列のバリアントを区別し得るプライマーを指す。標的配列の他のバリアントについては、伸長はそれほど効率的でなく、または非効率的である。
【0063】
用語「フォワードプライマー」は、変性DNA検体の鎖の3’末端への5’から3’方向の結合により伸長産物を形成するプライマーを指す。
【0064】
用語「リバースプライマー」は、変性DNA検体の鎖の5’末端への3’から5’方向の結合により伸長産物を形成するプライマーを指す。
【0065】
用語「アンプリコン」は、核酸伸長アッセイ、例えば、PCRの増幅産物を指す。
【0066】
用語「非標識プローブ」は、色素に共有結合しておらず、標的配列に完全にまたは部分的にハイブリダイズするように構成されるオリゴヌクレオチドを指す。混合物中に存在する色素は、特にプローブが標的配列にハイブリダイズし、それから融解する場合に非標識プローブに自由に結合またはそれから解離する。
【0067】
ブロッキングプローブまたは競合プローブという用語は、野生型アレル配列に相補的であり、突然変異アレル特異的プライマーと競合して非特異的野生型産物の増幅を回避するオリゴヌクレオチドを指す。
【0068】
オリゴヌクレオチドに関連して本明細書において使用される用語「融解温度」(Tm)は、DNAの50%が安定な二重らせんを形成し、他の50%が一本鎖分子に分離した温度として定義される。当業者に公知のとおり、PCRアニーリング温度は、典型的には、Tmよりも数度低く、それは反応中のオリゴおよび塩濃度に基づき計算される。
【0069】
用語「相補的」または「相補性」は、ワトソン・クリック塩基対合則により関連するポリヌクレオチドの逆平行鎖を参照して使用される。用語「完全に相補的」または「100%相補的」は、逆平行鎖間の全ての塩基のワトソン・クリック対合を有する相補的配列を指し、すなわち、ポリヌクレオチド二本鎖中の任意の2つの塩基間のミスマッチが存在しない。しかしながら、二本鎖は、完全な相補性の不存在下でも逆平行鎖間で形成される。用語「部分的に相補的」または「不完全に相補的」は、100%完全未満の逆平行ポリヌクレオチド鎖間の塩基の任意のアラインメントを指す(例えば、ポリヌクレオチド二本鎖中の少なくとも1つのミスマッチまたは非マッチ塩基が存在する)。部分的に相補的な鎖間の二本鎖は、一般に、完全に相補的な鎖間の二本鎖よりも安定でない。
【0070】
用語「ポリヌクレオチド」および「オリゴヌクレオチド」は、互換的に使用される。「オリゴヌクレオチド」は、より短鎖のポリヌクレオチドを説明するために使用されることもある用語である。
【0071】
用語「ハイブリダイズされた」および「ハイブリダイゼーション」は、二本鎖の形成をもたらす2つの核酸間の塩基対合相互作用を指す。ハイブリダイゼーションを達成するために全長にわたり2つの核酸が100%の相補性を有することは要求されない。
【0072】
本文書において使用される「そのバリアント(variant thereof)」または「そのバリアント(variants thereof)」などは、少なくとも85%または少なくとも90%、例えば、85〜100%、86〜100%、87〜100%、89〜100%、90〜100%、91〜100%、92〜100%、93〜100%、94〜100%、95〜100%、96〜100%、97〜100%、98〜100%、99〜100%または約100%の規定の核酸配列に対する同一性を有する核酸配列が意図される。
【0073】
PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)は、核酸分子の増幅のための方法である。PCR反応は、当業者に周知であり、プライマーおよびプライマーへの相補性を有し、標的配列を増幅するために試料中に存在する可能性がある標的(テンプレート)配列間のハイブリダイゼーションを可能とする条件下で試料をいわゆるオリゴヌクレオチドプライマーのペア(1つのフォワードおよび1つのリバースプライマー)と接触させることを含む。
【0074】
本明細書において使用される「診断」は、疾患の性質の同定を包含する。
【0075】
本明細書において使用される「予後診断」は、疾患の性質および症状により示される疾患の推定アウトカムに関する予想、疾患からの回復に関する見込みを包含する。
【0076】
「真陽性」は、限局性または転移性悪性新生物中のPIK3CA特異的突然変異の存在を指す。
【0077】
「偽陰性」は、限局性または転移性悪性新生物のいずれかにおける、診断アッセイによりそれとして分類されないPIK3CA特異的突然変異の存在を指す。
【0078】
「真陰性」は、限局性悪性新生物も転移性悪性新生物も有さず、診断アッセイによりそれとして分類されない対象を指す。
【0079】
「偽陽性」は、限局性悪性新生物も転移性悪性新生物も有さないが、慣用の診断アッセイにより限局性または転移性悪性新生物を有すると分類される対象を指す。
【0080】
状況に応じて、用語「偽陽性」は、悪性新生物を有さないが、診断アッセイにより悪性新生物または非悪性疾患を有すると分類される対象も指し得る。
【0081】
診断アッセイへの適用の文脈で本明細書において使用される「感度」は、正確にそれと同定される限局性または転移性悪性新生物を有する全ての対象の比率(すなわち、真陽性の数を真陽性および偽陰性の総数により割ったもの)を指す。
【0082】
診断アッセイへの適用の文脈で本明細書において使用される診断アッセイの「特異度」は、正確にそれと同定される限局性悪性新生物も転移性悪性新生物も有さない全ての対象の比率(すなわち、真陰性の数を、真陰性および偽陽性の総数により割ったもの)を指す。
【0083】
用語「新生物」または「腫瘍」は、互換的に使用することができ、塊状物の成長が正常組織の成長を上回り、正常組織の成長と協調しない異常な組織塊状物を指す。新生物または腫瘍は、以下の特徴:細胞分化の程度、例として、形態および機能性、成長速度、局所侵入および転移に応じて「良性」または「悪性」と定義することができる。「良性」新生物は、一般に、十分分化しており、悪性新生物よりも特徴的に緩慢な成長を有し、出現部位に局在したままである。さらに、良性新生物は、遠位部位に浸潤する能力も、侵入する能力も、転移する能力も有さない。
【0084】
「悪性」新生物は、一般に、分化が不十分であり(未分化)、進行性浸潤、侵入、および周囲組織の破壊を伴う特徴的に急速な成長を有する。さらに、悪性新生物は、遠位部位に転移する能力を有する。用語「転移」は、一次(原発性)腫瘍からの、別の器官または組織への癌性細胞の拡散または移動を指し、典型的には、一次(原発性)腫瘍の組織型のものであり、二次(転移性)腫瘍が局在する器官または組織のものでない「二次腫瘍」または「二次細胞塊」の存在により同定可能である。例えば、骨に移動した肺の癌腫は転移性肺癌と言われ、骨組織中で成長する上皮肺細胞から生じる癌細胞からなる。
【0085】
「健常」は、良好な健康状態を保有する対象を指す。このような対象は、任意の悪性または非悪性疾患の不存在を実証する。この適用の文脈において、「健常個体」は、それらが任意の悪性または非悪性疾患の不存在を有するという点でのみ健常であり;「健常個体」は、通常、「健常」とみなされない他の疾患または病態を有し得る。
【0086】
本明細書において使用される「対象」としては、ヒト、非ヒト霊長類、例えば、チンパンジーおよび他の類人猿およびサル種、家畜、例えば、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギおよびウマ、家庭向き哺乳動物、例えば、イヌおよびネコ、実験動物、例として、げっ歯類、例えば、マウス、ラットおよびモルモットなどが挙げられる。この用語は、特定の年齢も性別も示さない。したがって、成体および新生児対象、ならびに胎児が、雄雌にかかわらず含まれるものとする。好ましい実施形態において、対象は哺乳動物、例として、ヒトおよび非ヒト哺乳動物である。最も好ましい実施形態において、対象はヒトである。
【0087】
「血漿(blood plasma)」または「血漿(plasma)」は、通常、懸濁液中の全血中の血球を保持する血液のわら色/薄黄色の液体成分である。これは、総血液の約55容量%を構成する。これは、細胞外液(細胞外側の全ての体液)の血管内液部分である。これは、ほぼ水であり(93容量%)、溶解タンパク質、例として、アルブミン、免疫グロブリン、およびフィブリノゲン、グルコース、凝固因子、電解質(Na、Ca2+、Me2+、HCO3−、CIなど)、ホルモンおよび二酸化炭素を含有する。
【0088】
本明細書において使用される「生物学的試料」は、悪性新生物を有する、または有さない任意の対象から得られる種々の試料タイプを包含する。典型的な対象は、ヒトである。例えば、生物学的試料としては、悪性新生物を有すると疑われる個体から回収された組織液または血液から得られる試料が挙げられる。
【0089】
本明細書において使用される用語「治療」は、医薬的または外科的手段を介する患者の管理として定義される。治療は、医学的病態または疾患の少なくとも1つの症状を改善または緩和し、治癒を提供することが要求される。本明細書において使用される用語「治療アウトカム」または「治療のアウトカム」は、治療の患者に対する身体的効果である。
【0090】
本明細書において使用される循環腫瘍細胞(CTC)という用語は、一次腫瘍から血管系中に排出され、血流中で循環する細胞である。したがって、CTCは、生体遠位器官中の後続の付加的腫瘍(転移)の成長のためのシードを構成し、圧倒的多数の癌関連死を担う機序を誘発する。
【0091】
無細胞DNA(cfDNA)という用語は、アポトーシスまたは微小環境ストレスにより誘導される他の生理学的イベントを受ける細胞から循環に放出されるDNAを指す。cfDNAは、癌を有する患者の血液中で検出することができる。
【0092】
循環腫瘍DNA(ctDNA)という用語は、一次腫瘍の細胞から循環に放出され、一次腫瘍または転移性腫瘍の状態についての情報を提供するDNAを指す。
【0093】
本明細書において使用されるPIK3CAという用語は、「ホスファチジルイノシトール−4,5−ビスリン酸3−キナーゼ触媒サブユニットアルファ」と呼ばれる遺伝子の正式名称を指す。ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(PI3K)/AKTシグナリング経路は、ヒト疾患、例として、癌に関与し、この経路の複雑性の理解は、治療介入のための新たな手段を提供し得る。PI3Kのp110α触媒サブユニット中の体細胞突然変異は極めて高頻度であり、分子標的療法に対する応答における重要な役割を担い、乳癌におけるHER−2増幅と同時に生じることが多い。PIK3CAの突然変異は、乳癌患者の18〜40%において報告されている一方、症例の約90%をなす圧倒的多数は、ヘリカルおよびキナーゼドメインをそれぞれコードするエクソン9およびエクソン20中の2つのホットスポット領域に集中している。PI3K経路の異常な活性化は、HER2指向療法に対する応答の縮小と相関する。それというのも、トラスツズマブにより治療されたHER2陽性患者のアウトカムは、野生型腫瘍と比較してPIK3CA突然変異を有する患者において有意に悪いためである。
【0094】
突然変異アレルDNAという用語は、参照配列によるPIK3CA遺伝子中の2つのエクソン間の少なくとも1つの突然変異を含むDNA配列を指す。突然変異アレルDNAは、エクソン9中の1633G>Aホットスポット突然変異またはエクソン20中の3140A>Gホットスポット突然変異のいずれかを有し得た。
【0095】
突然変異は、配列が参照配列中で見出されるものと異なるように遺伝子を構成するDNA配列中の恒久的変化である。突然変異は、サイズに幅があり;それらは、単一DNAビルディングブロック(塩基対)から複数の遺伝子を含む染色体の大きなセグメントまでいずれの場所にも影響し得る。
【0096】
本明細書において使用される用語「参照ゲノム」または「参照配列」は、対象からの同定配列を参照するために使用することができる任意の生物またはウイルスの任意の特定の公知ゲノム配列(部分であるか完全であるかを問わない)を指す。例えば、ヒト対象および多くの他の生物に使用される参照ゲノムは、www.ncbi.nlm.nih.govにおけるNational Center for Biotechnology Informationにおいて見出される。「ゲノム」は、核酸配列で表現される生物またはウイルスの完全な遺伝子情報を指す。
【0097】
用語「野生アレル鎖」は、特定の天然集団において最も一般的な表現型をコードするDNA配列を指す。もともと野生型は、非標準的「突然変異」アレルにより産生されるものと対照的に遺伝子座における標準的「正常」アレルの産物として概念化された。
【0098】
用語「ホットスポット突然変異」は、平均配列よりも遺伝子損傷/変化を受けやすい染色体領域において生じる突然変異を指す。
【発明を実施するための形態】
【0099】
本発明は、例えば、循環腫瘍細胞または循環腫瘍DNAの試料中のPIK3CAホットスポット突然変異の高スループット突然変異検出のための超高感度および高度に特異的な分子的方法を提供する。PIK3CA突然変異の重要性は、乳癌における分子標的療法に対する応答に関連する。
【0100】
材料および方法
患者
訓練群として、合計78の試料を分析した:i)63の末梢血試料;アッセイの特異度を規定するために使用される臨床的に確認された転移を有する患者からの37および健常女性被験者からの26、およびii)15の一次乳腫瘍組織(FFPE)。独立群として、合計175の末梢血試料を、手術可能な乳癌を有する118人の患者および臨床的に確認された転移を有する57人の患者から得;さらに、それらの乳癌患者の76人(転移を有する32人および手術可能な乳癌を有する44人)については、一次腫瘍からのFFPEも分析した。157のこれらの試料については、EpCAM陽性CTC分画中のCK−19の発現に関する情報も従来の研究を介して利用可能であった。手術可能な乳癌を有する118人の患者の独立群において、9人の患者が再発し、疾患進行に起因して死亡した(フォローアップ中央値:42ヵ月)。さらに、HER2+腫瘍を有する患者はトラスツズマブを12ヵ月間受けた一方、HR+腫瘍を有する患者は内分泌治療を受けた(LH/RH類似体とタモキシフェンまたはアロマターゼ阻害剤のいずれか)。アジュバント放射線療法も、ガイドラインに従って施した。全ての試験参加者は、機関の倫理および科学委員会により承認されたインフォームドコンセントフォームに署名して試験に参加した。
【0101】
CTCの陽性免疫磁気選択
CTCを、既に記載のとおり20mLの末梢血から単離した[Strati A,et al.Gene expression profile of circulating tumor cells in breast cancer by RT−qPCR.BMC Cancer 2011;11:422]。より具体的には、20mLのPBS(pH=7.3)による末梢血の希釈後、Ficoll−Paque(商標)PLUS(GE Healthcare,Bio−Science AB)を670gにおいて室温において30分間使用する密度勾配遠心により末梢血単核細胞(PBMC)を得た。界面の細胞を除去し、40mLの無菌PBS(pH=7.3、4℃)により530gにおいて10分間、2回洗浄し、10mLのPBS中で再懸濁させた。細胞をトリパンブルーにより染色し、血球計数器中で計数した。免疫磁性Ber−EP4[抗上皮細胞接着分子(EpCAM)]コート捕捉ビーズ(Dynabeads Epithelial Enrich,Invitrogen)を使用して上皮細胞を濃縮した。
【0102】
CTCからのDNA抽出
ゲノムDNA(gDNA)を、既に記載のとおりCTCから抽出した[Chimonidou M,et al.DNA methylation of tumor suppressor and metastasis suppressor genes in circulating tumor cells.Clin Chem 2011;57:1169−77]。Trizolの水相の除去後、150μlの100%エタノールを添加することによりDNAを(界面から)沈殿させた。試料を反転により混合し、室温において2〜3分間保持し、次いでDNAを遠心分離(2000g、5分間、4℃)において堆積させ、0.1mol/Lのクエン酸ナトリウムを10%エタノール(500μl)中で含有する溶液中で2回洗浄した。それぞれの洗浄後、DNAペレットを洗浄溶液中で室温において定期的に混合しながら30分間貯蔵し、遠心分離した(2000g、5分間、4℃)。これらの2回の洗浄後、DNAペレットを1mLの75%エタノール中で懸濁させ、室温において定期的に混合しながら10〜20分間保持し、遠心分離した(2000g、5分間、4℃)。次いで、単離gDNAを15分間空気乾燥させ、50μlの8mmol/LのNaOH中で溶解させた。DNA濃度をNanodrop ND−1000分光光度計中で決定した。患者試料に使用されたものと全く同一の手順を使用することにより、特異度試験のために回収された26人の女性健常被験者からの末梢血を処理した。
【0103】
血漿からのDNA抽出
QIAamp Circulating Nucleic Acidキット(QIAGEN)を製造業者の説明書に従って使用して無細胞DNAを血漿試料から単離した。最初に、EDTA中の末梢血試料を1時間以内に血漿中の単離に使用し、血漿試料をcfDNA単離まで−70℃において貯蔵した。cfDNA単離直前、血漿試料を室温において解凍し、13,400gで4℃において10分間遠心分離して残留沈殿細胞成分を除去した。全てにおいて、2.00mLの血漿を作業溶液の1.6mLのBuffer ACL(1.0μgのキャリアRNAを含有)および200μlのプロテイナーゼK(18mg ml−1)と混合し、60℃において30分間インキュベートした。次いで、DNA単離を、製造業者のプロトコルに記載のとおり処理した。
【0104】
プライマーおよびプローブ設計
全てのオリゴヌクレオチドは、PrimerPremier5ソフトウェア(Premier Biosoft International)を使用することによりPIK3CAエクソン9(配列番号1)およびエクソン20(配列番号2)のそれぞれについてデノボインシリコ設計し、IDT(Intergraded DNA Technologies)により合成した。エクソン9(配列番号1)およびエクソン20(配列番号2)についての配列は、図7参照。それぞれのエクソンについて、1つのアレル特異的プライマー(エクソン9についての1633G>A突然変異およびエクソン20についての3140A>G突然変異にマッチしている)、1つの非標識競合ブロッキングプローブ、および非対称増幅のための1つのプライマーを、Zhouらの研究[Zhou L,et al.Rare allele enrichment and detection by allele−specific PCR,competitive probe blocking,and melting analysis.BioTechniques 2011;50:311−8]に従って設計した。エクソン9について、エクソン9のホットスポット突然変異を含む領域(70bp)を増幅するようにプライマーセットS1を設計した。リバースプライマー(アレル特異的プライマー)は、30末端を由来アレルにマッチさせることにより突然変異アレルを増幅するように設計した。非標識プローブおよびフォワードプライマーは、野生型とマッチさせるように設計した。ブロッキングプローブは、感度増加のためのアレル特異的プライマーと競合する。エクソン20について、エクソン20のホットスポット突然変異を含む領域(104bp)を増幅するようにプライマーセットS2を設計した。フォワードプライマー(アレル特異的プライマー)は、30末端を由来アレルにマッチさせることにより突然変異アレルを増幅するように設計した。非標識プローブおよびリバースプライマーは、野生型とマッチさせるように設計した。ホットスポット突然変異は、可能な限り非標識プローブの中央近くに配置した。全てのプライマーおよびプローブは、PIK3CAのエクソン9に対して>95%の相同性を有する第22染色体上の偽遺伝子の増幅を回避するように留意して設計した。全てのプライマーおよびプローブ配列を表1に詳細に挙げる。
【0105】
【表1】
【0106】
PCRおよび融解分析
リアルタイムPCRおよび融解曲線は、ガラスキャピラリーチューブ(Roche Applied Science,Germany)を使用するLightScanner 32(Idaho Technology,USA)を使用して得た。しかしながら、LightCycler 2.0(IVD)装置およびLightCycler 480(Roche Diagnostics)を使用することにより同一の結果を得ることもできた。LC−Green Plus(Idaho Technology,USA)を蛍光計測に使用した。MCF−7(c.1633G>A:E545K;ヘテロ接合)、およびT47D(c.3140A>G:H1047R;ヘテロ接合)乳癌細胞系から単離された2つのgDNA試料を、PIK3CA突然変異対照として使用した。それぞれのエクソンについてのPCR条件および融解分析プロトコルを表2に詳述する。それぞれのエクソンについてのPCR反応ミックスを表3に詳述する。
【0107】
【表2】
【0108】
【表3】
【0109】
統計分析
カイ二乗検定を使用することにより、CTCおよび一次腫瘍中のPIK3CA突然変異状態間の相関を評価した。定性項目についての判定者間一致率または被験者間一致率の統計的尺度であるコーエンカッパ係数を、CTCおよび一次腫瘍中のPIK3CA突然変異間、ならびにCTC中のPIK3CA突然変異およびCK−19 mRNA発現間の一致率の評価に使用した。それというのも、それは一般に、kが偶然に生じる一致率を考慮するために単純な一致率計算よりもロバストな尺度であると考えられるためである。カプラン・マイヤー法を使用することにより無病期間(DFI)および全生存(OS)曲線を計算し、ログランク検定を使用して比較を実施した。<0.05のp値を統計的に有意とみなした。SPSS Windowsバージョン19.0(SPSS,Chicago,IL)を使用して統計分析を実施した。
【0110】
実施例1
PIK3CAホットスポット突然変異のための超高感度および高特異度の方法の開発およびバリデーション
本試験の実験フローチャートを図1に概説する。
【0111】
最初に、CTC中のPIK3CAホットスポット突然変異(エクソン9および20)のための超高感度および高特異度の方法を開発し、バリデートした。このアッセイは、密閉チューブフォーマットで実施し、アレル特異的プライミング、野生型増幅の競合プローブブロッキング、非対称PCR、およびプローブ融解分析の組合せに基づく[Markou A,et al.PIK3CA mutational status in circulating tumor cells can change during disease recurrence or progression in patients with breast cancer.Clin Cancer Res.2014 Nov 15;20(22):5823−34]。このアッセイ設計において、アレル特異的PCR感度および特異度は、非対称増幅およびプローブ融解分析により、非標識競合野生型特異的ブロッキングプローブについて向上した。60℃におけるこの非標識競合プローブの融解分析ピークは、両方のエクソン中のPIK3CA突然変異の存在を示し得た。非標識ブロッキングプローブおよびWTアレル特異的プライマーにより増幅されるWT PIK3CAエクソン9のDNAテンプレートの導関数融解曲線のピーク、ならびに非標識ブロッキングプローブおよび突然変異アレル特異的プライマーにより増幅される突然変異PIK3CAエクソン9のDNAテンプレートの融解曲線のピークは、両方の場合において約4℃異なる(結果は示さず)。突然変異アレルを標的化する全ての実験において、突然変異は、この非標識ブロッキングプローブおよび突然変異アレル特異的プライマーにより増幅される突然変異PIK3CA配列の導関数融解により検出される。したがって、突然変異は、このより低温の60℃におけるこのピークが存在する場合にのみ検出される。PCR産物に起因し、より高温において検出することができる他のピークは、WTの非特異的増幅が存在する場合、突然変異アレル特異的プライマーを使用することにより、突然変異体およびWTの両方について確認することができる。全てのプライマーおよびプローブは、PIK3CAのエクソン9に対して>95%の相同性を有する第22染色体上の偽遺伝子の増幅を回避するように留意してPIK3CAエクソン9および20のそれぞれについてデノボインシリコ設計した。
【0112】
プロトコル最適化。PIK3CA突然変異アッセイは、PCRアニーリング温度、Mg+2濃度、プライマーおよび非標識プローブ濃度、PCRサイクルの数、それぞれの非対称PCRステップの継続時間、非対称PCRについてのプライマー比および標的DNAの量、ならびに融解分析条件に関して、陽性および陰性対照として癌細胞系(MCF−7およびT47D)からのgDNA試料および健常ドナーから単離された野生型(WT)gDNAを使用する多数の実験において両方のエクソンについて広く最適化した(データ示さず)。
【0113】
CTC中のPIK3CA突然変異の検出のための低い検出限界を有する高特異度の方法を開発するため、最初にプロトコルおよび条件を最良の結果により最適化した。アレル特異的PCR増幅および検出は、非対称PCR、野生型ブロッキングプローブ、およびプローブ融解分析を使用することにより向上した。希少アレル濃縮は、アレル特異的プライマーと比較して過剰のブロッキングプローブおよび共通プライマーについて最適であった。突然変異アレル特異的プライマーの濃度が減少するにつれて特異度が増加する一方、PCR効率が減少することが観察された。特異度の増加は、野生型およびPIK3CA DNA間のΔCqにより反映された。PCR効率の減少は、PIK3CA DNAのCqの増加により証明された。PCR効率は、いずれかのプライマーの濃度の減少により影響を受けたが、より低濃度の突然変異アレル特異的プライマーのみが特異度を増加させた。より低いPCR効率を補うため、典型的には80サイクルを実施した。
【0114】
ブロッキングプローブによるアレル特異的濃縮は、アニーリング/伸長温度により影響を受ける。アニーリング/伸長温度が、マッチ野生型アレルおよびミスマッチ突然変異アレルについての野生型ブロッキングプローブの融解温度(Tm)の間である場合、特異度は最適である。アニーリング温度が突然変異アレルのTm以下である場合、プローブは、野生型および突然変異アレルの両方の増幅を抑制し、感度を制限する。アニーリング温度が野生型アレルのTm以上である場合、優先的なブロックおよびPCR効率が減少し、感度を制限する。
【0115】
実施例2
特異度試験。最初に、乳癌を有する患者について順守された全く同一の手法で26人の健常女性被験者から単離されたgDNAを分析することにより、開発された方法のアッセイ特異度を評価した。開発された方法は高度に特異的である。それというのも、それらの試料のいずれにおいても、両方のPIK3CAエクソン中の任意の突然変異を有する健常女性ドナーの例が存在しなかったためである。図2AおよびBは、開発されたPIK3CA突然変異アッセイの特異度を示し、エクソン9 1633G>Aホットスポット突然変異(A)およびエクソン20 3140A>Gホットスポット突然変異(B)を検出する非標識ブロッキングプローブの存在下でPCR後に得られた特徴的な導関数融解曲線を示す。ベースラインは、PCR陰性対照である。PIK3CA突然変異は、非標識ブロッキングプローブおよび突然変異アレル特異的プライマーにより増幅される突然変異PIK3CA配列の導関数融解により検出される。突然変異は、60℃におけるこのピークが存在する場合にのみ検出される。より高温における他のピークはPCR産物に起因し、WTの非特異的増幅が存在する場合、突然変異アレル特異的プライマーを使用することにより、突然変異体およびWTの両方について確認することができる。
【0116】
図2a、エクソン9において確認することができるとおり、健常ドナーのgDNAの1つ(N18)は、増幅不応性突然変異系(amplication−refractory mutation system)(ARMS)PCR特異的プライマーにより増幅され、77.5℃におけるピークを与えたが、60.0℃においては与えなかった。これは、PIK3CAホットスポット突然変異特異的プライマーを使用することによっても、極めて高濃度において存在する極めて少量の野生型配列が非特異的に増幅され得るという事実により説明することができた。これを回避するため、ブロッカーとして重要な役割を担う非標識プローブを使用した。それというのも、それは野生型特異的であり、突然変異特異的プライマーと同一の配列に結合するためである。N18の例において、このWT配列が非特異的に増幅され、これが77.5℃における融解曲線ピークが検出された理由である。しかしながら、これは、本発明者らが求めている特異的突然変異の存在を特異的に示す60.0℃における非標識プローブについての融解曲線において検出されるいかなるピークでもない。これらの結果は、本方法の100%の特異度を裏付ける。
【0117】
実施例3
感度試験。細胞系からの突然変異gDNAを、50%、25%、12.5%、2.5%、1.25%、0.5%、0.25%、0.125%、および0.05%の比においてWT gDNAと混合することにより、開発された方法の感度をさらに評価した(エクソン9 1633G>Aホットスポット突然変異については図2C参照、およびエクソン20 3140A>Gホットスポット突然変異については図2D参照)。希釈物に使用されるWT gDNA試料は、PCRバイアスを最小化するように突然変異gDNA量、質、および定量サイクル(Cq)をマッチさせるように選択した。融解曲線を作成し、細胞系希釈物の融解転移をWT試料のものから区別する能力を評価した。エクソン9については、0.05%のMCF−7細胞系(図2C)に対応する希釈物を明らかに区別することが可能であった一方、エクソン20については、それは0.05%の比のT47D細胞系希釈物(図2D)も区別し得た。融解曲線は高度に再現可能であった。
【0118】
両方のエクソンについて、PIK3CA突然変異は、非標識ブロッキングプローブおよび突然変異アレル特異的プライマーにより増幅される突然変異PIK3CA配列の導関数融解により検出される。突然変異は、60℃におけるこのピークが存在する場合にのみ検出される。より高温における他のピークは、PCR産物に起因し、WTの非特異的増幅が存在する場合、突然変異アレル特異的プライマーを使用することにより、突然変異体およびWTの両方について確認することができる。
【0119】
特に、CTCの分子特徴付けについての信頼できる情報を得るため、使用される突然変異検出系の感度、特異度、およびロバストネスは極端に重要である。PIK3CA突然変異のための高感度の方法が、HRMAに基づき開発されている[Vorkas PA,et al.PIK3CA hotspot mutation scanning by a novel and highly sensitive high−resolution small amplicon melting analysis method.J Mol Diagn 2010;12:697−704]。この方法は慣習的なサンガーシーケンシングよりもかなり高感度(1%)であるという事実にもかかわらず、このアッセイがCTC試料中で適用された場合、CTC中の突然変異の検出が不良であった。
【0120】
実施例4
臨床的に確認された転移乳癌を有する患者のEpCAM陽性CTCおよび一次組織(FFPE)中のPIK3CA突然変異の検出
訓練群として、臨床的に確認された転移を有する患者からの37の末梢血試料および15の一次乳腫瘍組織(FFPE)を、PIK3CA突然変異について分析した。PIK3CA突然変異は、EpCAM陽性CTC分画中でエクソン9について6人/37人の患者(16.2%)およびエクソン20について4人/37人の患者(10.8%)において検出された。合計して、PIK3CA突然変異は、転移性乳癌を有する10人/37人(27.0%)の患者において検出された。一次乳腫瘍組織において、PIK3CA突然変異は、エクソン9について9/15(60.0%)およびエクソン20について7/15(46.7%)において検出された。両方のホットスポット突然変異が同一のFFPE試料中で検出された6つの例が存在し;合計して、PIK3CA突然変異は10/15(66.7%)のFFPE試料中で検出された。
【0121】
実施例5
独立群。続いて、手術可能な乳癌を有する118人の患者および臨床的に確認された転移を有する57人の患者の独立群においてアッセイを評価した。乳癌を有するそれらの患者の76人については、一次腫瘍からのFFPEも利用可能であった。
【0122】
手術可能な乳癌患者のCTC中のPIK3CA突然変異の検出。
独立群において、一次癌が摘出された後、アジュバント化学療法が開始される前の手術可能な乳癌を有する118人の患者からのEpCAM陽性CTC分画を分析した。PIK3CA突然変異は、エクソン9 1633G>A(A)ホットスポット突然変異(図3A)について3人/118人(2.5%)、およびエクソン20 3140A>Gホットスポット突然変異(図3b)について21人/118人(17.8%)において検出された。両方のホットスポット突然変異がCTC試料中で検出された1つの例が存在した。合計して、PIK3CA突然変異は、24人/118人(20.3%)の手術可能な乳癌患者において検出された。ベースラインはPCR陰性対照である。
【0123】
臨床的に確認された転移を有する乳癌患者のCTC中のPIK3CA突然変異の検出。
独立群において、転移性乳癌を有する57人の患者からのEpCAM陽性CTC分画を分析した。これらの57人の患者から、24人は骨転移を有し、3人は肝臓内転移を有し、2人は脳内転移を有し、9人は肺内転移を有し、3人は骨および肝臓の両方の転移を有し、6人は肺および骨の両方の転移を有し、2人は3つ以上の異なる部位内の転移を有した。PIK3CA突然変異は、EpCAM陽性CTC分画中でエクソン9 1633G>Aホットスポット突然変異について8人/57人(14.0%)(図3C)およびエクソン20 3140A>Gホットスポット突然変異について12人/57人(21.1%)において検出された(図3D)。合計して、PIK3CA突然変異は、この患者群において、20人/57人(35.1%)において検出された。図3Cおよび3Dにおける融解曲線中の60℃におけるピークは、エクソン9およびエクソン20突然変異の存在をそれぞれ示す。この状況で、ピークが60℃において検出されない場合、試料を試験された突然変異について野生型とみなす。ベースラインはPCR陰性対照である。
【0124】
対応する一次腫瘍中のPIK3CA突然変異の検出。
独立群において、CTCおよび対応する一次腫瘍中のPIK3CA突然変異状態を、乳癌を有する76人の患者(32人は臨床的に確認された転移を有し、44人は手術可能な乳癌を有する)において比較した。それというのも、それらの患者については、対応するFFPEも利用可能であったためである(表4)。
【0125】
【表4】
【0126】
エクソン9、1633QA。全ての患者に関して、エクソン1633G>Aホットスポット突然変異が、38/76(50%)の一次腫瘍試料および76のうち6つ(7.9%)の対応するEpCAM陽性CTC分画試料中で観察された。このPIK3CAホットスポット突然変異を一次腫瘍中で担持していた4人の患者について、同一の突然変異がCTC中でも検出された。34人の患者において、この突然変異は、一次腫瘍中で同定されたが、EpCAM陽性CTC分画中では同定されなかった一方、36人の患者は、一次腫瘍およびCTC中の両方でこの突然変異について陰性であると見出された。しかしながら、2つの例において、このホットスポット突然変異は、EpCAM陽性CTC分画中で同定されたが、対応する一次腫瘍中で同定されなかった。手術可能な乳癌を有する患者において、1633G>Aは、21/44(47.7%)のFFPEおよび1/44(2.3%)の対応するCTC試料中で観察され;このPIK3CAホットスポット突然変異を一次腫瘍中で担持する患者は、CTC中の同一の突然変異を有さなかった。21人の患者において、この突然変異は、一次腫瘍中で同定されたが、CTC中で同定されなかった一方、22人の患者は、一次腫瘍およびCTC中の両方でこの突然変異について陰性であると見出された。しかしながら、1つの例において、このホットスポット突然変異は、CTC分画中で同定されたが、対応する一次腫瘍中で同定されなかった。転移を有する患者において、1633G>Aは、17/32(53.1%)のFFPEおよび5/32(15.6%)の対応するCTC中で観察された。このPIK3CAホットスポット突然変異を一次腫瘍中で担持していた4人の患者について、同一の突然変異がCTC中でも検出された。13人の患者について、この突然変異は一次腫瘍中で同定されたが、CTC中で同定されなかった一方、14人の患者は、一次腫瘍およびCTC中の両方でこの突然変異について陰性であると見出された。しかしながら、1つの例において、このホットスポット突然変異は、CTC分画中で同定されたが、対応する一次腫瘍中で同定されなかった。
【0127】
エクソン20、3140A>G。全ての患者に関して、エクソン20 3140A>Gホットスポット突然変異は、13/76(17.1%)のFFPEおよび14/76(18.4%)の対応するCTC試料中で観察された。このPIK3CAホットスポット突然変異を一次腫瘍中で担持していた4人/13人の患者については、同一の突然変異がEpCAM陽性CTC分画中でも検出された。9人の患者において、この突然変異は一次腫瘍中で同定されたが、CTC中では同定されなかった一方、53人の患者は、一次腫瘍およびCTC中の両方でこの突然変異について陰性であると見出された。注目すべきことは、10人の患者において、このホットスポット突然変異がEpCAM陽性CTC分画中でのみ検出されたが、対応する一次腫瘍中では検出されなかったことである。手術可能な乳癌を有する患者の群において、3140A>Gは、5/44(11.4%)のFFPEおよび10/44(22.7%)の対応するCTC中で観察された。このPIK3CAホットスポット突然変異を一次腫瘍中で担持していた2人/5人の患者については、同一の突然変異がCTC中でも検出された。3人の患者において、この突然変異は一次腫瘍中で同定されたが、CTC中では同定されなかった一方、31人の患者は、一次腫瘍およびCTC中の両方でこの突然変異について陰性であると見出された。しかしながら、8人の患者において、このホットスポット突然変異はCTC中でのみ検出されたが、対応するFFPE中では検出されなかった。転移を有する患者の群において、3140A>Gは、8/32(25.0%)の一次腫瘍試料および4/32(12.5%)の対応するCTC中で観察された。このPIK3CAホットスポット突然変異を一次腫瘍中で担持していた2人/8人の患者については、同一の突然変異がCTC中でも検出された。6人の患者において、この突然変異は一次腫瘍中で同定されたが、CTC中では同定されなかった一方、22人の患者は、一次腫瘍およびCTC中の両方でこの突然変異について陰性であると見出された。しかしながら、2人の患者において、このホットスポット突然変異はCTC中でのみ検出されたが、対応する一次腫瘍中では検出されなかった。
【0128】
一次腫瘍および対応するCTC中の両方のこれらのPIK3CAホットスポット突然変異の存在間の一致は存在しなかった。それというのも、これは手術可能および転移が確認された乳癌患者について別個に、または全ての患者について一緒に統計的に評価されたためである(表4参照)。
【0129】
この知見はCTC中のPIK3CA突然変異状態が、乳癌を有する患者における疾患再発または進行の間に変化し得ることを示唆する。76人の患者の下位群におけるCTCおよび対応する一次腫瘍中のPIK3CA突然変異状態を比較した場合、同一の突然変異が少数の試料中で一次腫瘍およびCTC中の両方で存在することが観察された。ほとんどの患者において、突然変異は、一次腫瘍中で同定されたが、CTC中では同定されなかった一方、多くの患者は、一次腫瘍およびCTC中の両方でこの突然変異について陰性であった。しかしながら、ホットスポット突然変異がCTC中で同定されたが、対応する一次腫瘍中では同定されなかった12の例が存在し;2人の患者において、1633G>AがCTC中で観察されたが対応するFFPE中では観察されなかった一方、10人の患者において、3140A>GはCTC中で観察されたが、対応する一次腫瘍中では観察されなかった。CTCの不均一性を反映する同様の知見が報告されている。
【0130】
実施例6
CK−19 mRNA発現に関するCTC中のPIK3CA突然変異状態
独立群において、CTC中のPIK3CA突然変異状態がCK−19 mRNA発現と相関するか否かを、157人のそれらの患者(57人は臨床的転移を有し、100人は、初期乳癌を有する;表5)についてさらに評価した。末梢血中のCK−19 mRNA陽性細胞の検出は、手術可能および転移性乳癌における潜在性腫瘍細胞についての最も高感度なバイオマーカーである。
【0131】
【表5】
【0132】
手術可能な乳癌において、3/100の試料のみがPIK3CA突然変異およびCK−19 mRNA発現の両方で陽性であり、全てエクソン20におけるものであった。CK−19について陽性で、PIK3CA中の突然変異を担持しない33/100の試料が存在した一方、非常に注目すべきことは、PIK3CAホットスポット突然変異が、CK−19 mRNA発現について陰性である17人の患者のCTC中で同定されたことである。臨床的に確認された転移を有する患者において、11/57(19.3%)の試料が、PIK3CA突然変異およびCK−19発現の両方について陽性であり、エクソン9において6つ、エクソン20において5つであった。CK−19について陽性であり、それらのPIK3CA中のホットスポット突然変異を担持しない14/57(24.6%)の試料が存在した。非常に注目すべきことは、PIK3CAホットスポット突然変異が、CK−19mRNA発現について陰性である9人の患者のCTC中で同定されたことである。CTC中のPIK3CA突然変異について陽性と見出されたが、CK−19 mRNA発現について陰性であるこれらの26の試料(手術可能な乳癌を有する患者からの17、および臨床的に確認された転移を有する患者からの9つ)は、PIK3CA突然変異が検出されなかった場合、CTC陰性と特徴付けられていた。CTC中のこれらのホットスポットPIK3CA突然変異およびCK−19 mRNA発現の両方の存在に関する一致は存在しなかった(表2参照)。
【0133】
この試験の重要な観察は、CK−19 mRNA発現について陰性である有意な数の患者(手術可能な乳癌群における17人/118人および確認された転移群における9人/57人)が、CTC中のPIK3CAホットスポット突然変異を担持していたことであった。これらの患者は、PIK3CA突然変異が検出されなかった場合、CTC陰性と特徴付けられていた。CTCの分子特徴付けは、CTCが高度に不均一であることを実証している。これは、少なくとも部分的に、上皮間葉移行および間葉上皮移行に起因し得た。この状況で、全てのCK−19陽性CTCがPIK3CA突然変異陽性であることも、CK−19陰性である全ての本発明者らの試料がCTC中のPIK3CA突然変異を担持しないことも予測されない。CK−19リアルタイムPCRアッセイは極めて特異的で高感度であり、従来の研究においてその臨床的有意性が既に実証されている[Stathopoulou A,Vlachonikolis I,Mavroudis D,Perraki M,Kouroussis C,Apostolaki S,et al.Molecular detection of cytokeratin−19−positive cells in the peripheral blood of patients with operable breast cancer:evaluation of their prognostic significance.J Clin Oncol 2002;20:3404−12.]。しかしながら、CK−19陽性であっても再発しない多数の患者またはCK−19陰性であっても再発する多数の患者が常に存在し、同一のことは、FDA認可CellSearch(商標)システムを使用する場合でも示されており、1つのマーカーが万能でなく、本発明者らの試料中の悪性CTC集団の存在を確認するために十分でないことを明示する。
【0134】
実施例7
確認された転移を有する患者におけるCTC中のPIK3CA突然変異状態の臨床的有意性。
CTC中のPIK3CA突然変異状態および臨床的に確認された転移を有するこの比較的小さい患者群の臨床的アウトカム間の相関をさらに評価した。患者の術後生存率を使用することにより実施されたカプラン・マイヤー生存曲線分析は、CTC上のPIK3CAホットスポット突然変異を担持する患者(n=20)が、担持しない患者(n=37)よりも有意に短いOSを有することを実証した(P=0.047、ログランク検定;図4参照)。
【0135】
際立った知見は、CTC中のPIK3CA突然変異の存在が、転移患者におけるより悪い生存率を伴うことでもある。任意の癌のタイプにおいて、CTC中の遺伝子突然変異の存在が患者生存率と相関するのは、今回が最初である。PI3Kシグナリング経路中の活性化突然変異を有する癌を有する患者を、PI3K阻害剤を試験する第1相プロトコルにマッチさせることは、改善された応答率および生存率を有する[Tsimberidou AM,et al.Personalized medicine in a phase I clinical trials program:the MD Anderson Cancer Center initiative.Clin Cancer Res 2012;18:6373−83]。これに関して、近年、herceptinの投与がCK−19 mRNA陽性CTCの存在に基づくパイロットプロスペクティブ研究において示されたとおり、PIK3CA突然変異が専らCTC中に存在し得る一方、一次腫瘍中では不存在であり得るという本発明者らの知見は、患者に有益であり得る[Georgoulias V,et al.Trastuzumab decreases the incidence of clinical relapses in patients with early breast cancer presenting chemotherapy−resistant CK−19 mRNA−positive circulating tumor cells:results of a randomized phase II study.Ann Oncol 2012;23:1744−50]。腫瘍細胞中で高頻度で脱制御されるPI3K/AKTシグナリング経路中の突然変異が、乳癌の開始、進行、および臨床的応答において中心的な役割を有すると考えられる乳癌幹細胞中で近年同定されている[Donovan CA,et al.Correlation of breast cancer axillary lymph node metastases with stem cell mutations.JAMA Surg 2013;148:873−8]。
【0136】
実施例8
確認された転移を有する乳癌患者のctDNA中のPIK3CA突然変異の検出。
開発された方法を使用して確認された転移を有する乳癌患者の血漿から単離されたctDNA中のホットスポットPIK3CA突然変異を検出した。最初に、血漿から抽出された全てのctDNA試料をそれらのDNAの質について試験し;DNAの質を確認するため、ホットスポット突然変異について評価するために使用されるエクソン9についての全く同一のPIK3CA遺伝子領域中の野生型に特異的なプライマー。ctDNA試料中のPIK3CA遺伝子の突然変異状態を、既に記載のものと全く同じように開発された方法により検出した(図5)。PIK3CA突然変異は、ctDNA試料中でエクソン9について4/24(16%)(図5A、5B)およびエクソン20について6/24(25%)(図5C)において検出された。図5A、5Bおよび5Cの融解曲線における60℃におけるピークは、エクソン9およびエクソン20突然変異の存在をそれぞれ示す。この状況で、ピークが60℃において検出されない場合、試料を試験された突然変異について野生型とみなす。
【0137】
この試験において、このアッセイが癌患者の血漿から単離されたctDNA中のPIK3CA突然変異を検出し得ることが実証された。アッセイ感度は極端に低く(0.05%)、特異度は極めて高く;このアッセイは、多量の野生型アレルの存在下で極めて希少なPIK3CA突然変異アレルを検出し得る。全体として、24の試料のうち4つがエクソン9中の1633G>A突然変異について陽性であり、24のうち6つが血漿試料から単離されたctDNA中の3140A>G突然変異について陽性であった。循環腫瘍DNAは、腫瘍の突然変異状態をリアルタイムで決定するための極端に有効で、有利なバイオマーカー源であると考えられ;しかしながら、この例において、高感度のロバストで特異的な方法が必要とされる。ここで、証拠は、このアッセイが癌患者の血漿から単離されたctDNA中のPIK3CA突然変異の検出に有用なツールを提供することを提供する。
【0138】
配列表
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図6D
図7
【国際調査報告】