【実施例】
【0115】
(実施例1:グルココルチコイドの送達のためのPLGAナノ粒子の調製)
材料および方法
PLGAナノ粒子の調製
【0116】
蛍光マーカーとしてここで使用したAlexa Fluor555(AF555)カダベリンおよびAlexa Fluor647(AF647)カダベリン(Invitrogen、Carlsbad、CA)を、PLGA(MW3.2kDa、LA:GA=50:50)(SurModics Pharmaceuticals、Birmingham、AL)に化学的にコンジュゲートさせた。標識された、または標識されていないPLGAポリマーから構成されるナノ粒子は、溶媒拡散(またはナノ沈殿)法によって調製した。手短には20mgのポリマーを1mLのテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、700rpmで磁気撹拌下で40mlの超純水に滴下添加した。約1時間撹拌した後、溶液を30分間回転蒸発させて、残存するTHFを除去した。10,000gで25分間遠心分離することによって粒子を回収し、0.2mLの超純水に再懸濁した。PLURONICS(登録商標)F127コーティングされた粒子のために、ナノ沈殿の間に超純水を5% F127水溶液と置換した。F127(PLGA/F127)を用いてコーティングされたPLGAナノ粒子を、10,000gで25分間の遠心分離によって1% F127を用いて洗浄し、0.2mLの超純水に再懸濁した。ZETASIZER NANO(登録商標)ZS90(Malvern Instruments、Southborough、MA)を使用して、それぞれ動的光散乱およびレーザードップラー流量測定(laser Doppler anemometry)によって大きさおよびゼータ電位(表面電荷)を測定した。
【0117】
モデルナノ粒子の調製
大きさ100、200、500、1000nmの赤色蛍光COOH修飾PS粒子(Molecular Probes)および5μm(Bangs Laborites,Inc.)を、COOH−アミン反応によってメトキシ(MeO)−PEG−アミン(NH
2)(MW5kD;Creative PEGWorks)を用いて共有結合によって修飾した。PEG化PS粒子(PS−PEG)を徹底的に洗浄し、水に再懸濁し、使用の準備ができた状態で+4℃で保存した。表面電荷および流体力学直径に関してPS−PEG粒子を特徴付け、その物理化学的特徴を表3において報告した。
【0118】
DSPが負荷されたPLGAナノ粒子の調製
デキサメタゾン21−リン酸ナトリウム塩(DSP)(Sigma Aldrich、St.Louis、MO)を、修飾溶媒拡散法にしたがったF127コーティングを有するPLGAナノ粒子中にカプセル封入した。手短には、0.5mLの、10mgのDSPを含有する水溶液に1mLの0.5Mの酢酸亜鉛水溶液を添加することによって、DSP−亜鉛錯体を形成した。10,000gで5分間の遠心分離後、沈殿した錯体および50mgのPLGA(MW3.2kDa、LA:GA=50:50)を2.5mLのTHFに溶解し、続いて、20μLのトリエタノールアミン(TEOA、Sigma Aldrich、St.Louis、MO)を添加した。撹拌しながら、100mLの5% F127溶液中に混合物を滴下添加して、F127でコーティングした、DSPが負荷されたPLGAナノ粒子を形成した(DSP/PLGA/F127またはDSP−NP)。溶媒蒸発および回転蒸発によってTHFを完全に除去した後、ナノ粒子懸濁物に1mLの0.5Mエチレンジアミン四酢酸(EDTA、Sigma Aldrich、St.Louis、MO)水溶液(pH7.5)を添加して、亜鉛をキレート化し、カプセル封入されていないあらゆるDSP−亜鉛錯体を可溶化した。10,000gで25分間の遠心分離によってナノ粒子を回収し、1% F127を用いて2回洗浄し、0.2mLの超純水に再懸濁した。ナノ粒子の水力学的大きさおよび表面電荷を、上記のように特徴付けた。Hitachi H−7600透過型電子顕微鏡(株式会社 日立製作所、東京、日本)を使用して粒子形態学を可視化した。
【0119】
薬物負荷およびin vitro薬物放出研究
DSP/PLGA/F127ナノ粒子中のDSP含量を測定するために、およそ50μLのPLGAナノ粒子を凍結乾燥させ、秤量し、0.5mLのアセトニトリルに溶解した。その後、1mLの50mM EDTAを添加して、亜鉛をキレート化し、カプセル封入されたDSPを可溶化し、逆相HPLCによって溶液中のDSP濃度を測定した。均一濃度(isocratic)分離を、Pursuit 5 C18カラム(Varian Inc、Lake Forest、CA)および0.1%トリフルオロ酢酸(流量=1mL/分)を含有するアセトニトリル/水(35/65 v/v)からなる移動相を備えたShimadzu Prominence LCシステム(京都、日本)で実施した。カラム流出液を、241nmでUV検出によってモニタリングした。以下の方程式にしたがって、薬物負荷(LD)およびカプセル封入効率(EE)を算出した:
DL(%)=(ナノ粒子中のDSPの量/ナノ粒子の重量)×100
EE(%)=(実測された薬物負荷/理論上の薬物負荷)×100
【0120】
DSPのin vitro放出プロファイルを測定するために、400μLのナノ粒子懸濁物を、透析チューブセルロースメンブレン(MWカットオフ:10kDa、Sigma Aldrich、St.Louis、MO)中に密閉した。12mLの放出媒体(release media)(PBS、pH7.4)を含有する 50mLのコニカルチューブ中に、密閉された透析メンブレンを配置し、プラットフォームシェーカー(140rpm)上37℃でインキュベートした。所定の間隔で全放出媒体を回収し、12mLの新鮮PBSで置換した。回収された放出媒体中のDSP濃度を、上記のようにHPLCによって測定した。
【0121】
動物
8週齢の雄のSprague Dawley、LewisおよびBrown NorwayラットをHarlan(Indianapolis、IN)から購入した。in vivo安全性および保持研究にはSprague Dawleyラットを使用した。Lewisラットは、レセプター動物として使用し、Brown−Norwayラットは、ドナー動物として使用した。すべてのラットは、眼科学的研究における動物の使用に関して、視覚と眼科学に関する研究学会(Association for Research in Vision and Ophthalmology Resolution)にしたがってケアした。試験手順の前に動物に麻酔した。すべての実験プロトコールは、Johns Hopkins Animal Care and Use Committeeによって承認された。
【0122】
結膜下投与後のナノ粒子の保持
SC注射後のナノ粒子の保持を、Xenogen IVISスペクトル光学イメージングシステム(Caliper Life Sciences Inc.、Hopkinton、MA)での眼全体のイメージングによって調べた。ラットを、ケタミン(80mg/kg)およびキシラジン(8mg/kg)の混合物の筋肉内注射を用いて麻酔した。非分解性モデル粒子、赤色蛍光を有するPS−PEG NP(動的直径およそ100nm、200nm、500nm、1μmおよび5μm)を、26ゲージニードルを使用してSC注射(50μL)によってSprague Dawleyラットに注射した。眼瞼を、イメージングの間に45G開瞼器(Focus Ophthalmics、LLC、Ontario、CA)を用いて広げた。注射部位における総蛍光カウントを、550nmの励起波長および570nmの発光波長で記録した。イメージは、Living Imageソフトウェアによって分析し、0時間でナノ粒子をSC注射した眼と比較することによってナノ粒子の保持を定量化した。処置を施さなかったラットの眼をベースラインとして使用した。
【0123】
SC注射後の生分解性PLGA/F127ナノ粒子の保持は、上記と同一の方法で実施し、分析した。化学的にコンジュゲートされたAlexa Fluo 647(AF647)色素を有するPLGA/F127ナノ粒子を使用し、640nmの励起波長および680nmの発光波長を用いて眼全体をイメージングした。
【0124】
負荷されていないPLGAナノ粒子のin vivo安全性プロファイル
F127コーティングされた、およびコーティングされていない両方の空のPLGAナノ粒子を、眼あたり1mgの用量で SC注射によって生理食塩水(50μL)中で投与した(n=9)。対照眼は、生理食塩水を用いて処置した(n=9)。2日、7日および14日の時点で、動物を屠殺し、眼全体を結膜組織と一緒に、固定化およびH&Eを用いる染色後に組織学研究のために回収した。
【0125】
SC注射後のin vivoでの眼のDSPレベル
ラットにおいてSC注射後に眼のDSPレベルを検出するために、F127コーティングされたDSPが負荷されたPLGAナノ粒子(DSP−NP)の調製の間に、[3H]標識されたDSPをDSPでスパイクした(10μCi:1mg DSP)。ナノ粒子を、20μCi/mLで生理食塩水に懸濁した。20μCi/mLの遊離DSP溶液を、同一ブレンド比で調製した。40μL(眼あたり約0.8μCi)の同一製剤を、同一動物(Sprague Dawleyラット)の両眼に注射した。示された時間間隔、注射後2時間、1日、3日、5日および7日で、ラットをケタミン/キシラジン溶液の筋肉内注射によって麻酔した。尾静脈から2滴の血液を回収した後、動物を屠殺した。
【0126】
ラットから結膜組織とともに眼球を注意深く採取し、PBSを用いてすすぎ、Kimwipeティッシュによって乾燥させた。前眼房液(anterior chamber humor)、角膜、硝子体、網膜および残存する眼球組織を注意深く解剖し、回収した。角膜および網膜組織の両方を、PBSを用いてすすぎ、Kimwipeティッシュを用いて乾燥させた。すべてのサンプルを秤量し、2mLのSolvableを用い、50℃で終夜インキュベートすることによって溶解した。0.2mlのH
2O
2および20μLの0.5M EDTAを用いて血液サンプルを漂白した。10mlのUltimold goldシンチレーション媒体を添加し、その後、シンチレーションカウンターで放射能をカウントした。結果は、注射された用量のパーセンテージとして表し、データ点あたりの4個の眼(2匹の動物)の平均±sdである。血液中のDSPのレベルは、時点あたりの2匹の動物の平均とした。眼周囲組織の注射された用量の総パーセンテージおよび1mg(または1mL)の組織あたりの放射能を算出した。
【0127】
角膜移植術
ラットを用いて実施したすべての手順は、Johns Hopkins University Animal Care and Use Committeeによって承認された。Brown−Norwayドナーラットは、屠殺し、4.0mmトレフィンを用いて両眼の中心角膜ボタンを採取し、使用の準備ができた状態で生理学的溶液中で維持した。手術は、手術用顕微鏡下で角膜外科医(QP)によって実施した。角膜レシピエントLewisラットを、ケタミン(80mg/kg)およびキシラジン(8mg/kg)の混合物の筋肉内注射を用いて麻酔した。手術前に総瞳孔散大のためにLewisラットで0.5%トロピカミド点眼薬の反復点眼を使用した。穿刺術を実施し、その後、穿頭術(trephinization)を実施し、前眼房をヒアルロン酸で満たした。3.5mmトレフィンを用いてレセプターLewisラットから角膜ボタンを採取した。ドナー角膜ボタンを、8縫合点を用いてレセプター角膜に縫合した。
【0128】
全層角膜移植術(PK)後の手術後処置
全層角膜移植術の直後に、動物を無作為に5群に分けた:群1(4匹のラット)は、50μLの生理食塩水の結膜下注射を受け、群2(5匹のラット)は、50μlの空のNPのSC注射を受け、群3(5匹のラット)は、1mg/mLの濃度の50μLのDSP溶液のSC注射を受け、群4(6匹のラット)は、1mg DSP/mLの濃度の50μLのDSPが負荷されたナノ粒子(DSP−NP)のSC注射を受けた。すべての群の動物が、移植片の不全または研究のエンドポイント(9週間)まで、週に1回、同一処置を受けた。
【0129】
群1および群2について術後(PO)2週間で、群3についてPO4週でおよび群4についてPO9週で2人の眼科医(QPおよびLT)によって、細隙灯顕微鏡を用いて臨床観察を実施した。角膜移植片の検査のために3種のパラメータを評価した(角膜透明度、浮腫および新血管形成)。パラメータのスコアリングは、以下に示されている。
【0130】
眼内圧は、PO2日、術後1週間、2週間、4週間、6週間、8週間および9週間でモニタリングした。各眼について記録されたIOPは、成功裏の3つの測定値の平均である。終了時点で動物をCO
2によって屠殺し、PK術を施した眼を眼球摘出した。眼組織を、10%ホルマリンを用いて24時間固定し、その後、パラフィン中に包理した。切片(5μm)を視神経および角膜の方向に切り出し、H&Eを用いて染色した。
【0131】
統計分析
データの統計分析は、一元配置分散分析(ANOVA)と、それに続くチューキー検定によって実施した。差は、P<0.05のレベルで統計的に有意であると考えられた。
【0132】
結果
DSPが負荷されたPLGAナノ粒子の調製および特徴付け
疎水性デキサメタゾンをPLGAナノ粒子中にカプセル封入することは、デキサメタゾンおよびPLGAの不適合性のために困難である。水溶性プロドラッグ、デキサメタゾン21−リン酸二ナトリウム(DSP)は、in vivoで親薬物デキサメタゾンに変換され得、主に、眼組織を含めたすべての臓器中に存在するホスファターゼによって促進される。水溶性DSPは、PLURONICS(登録商標)F127の存在下でPLGAナノ粒子中に亜鉛とともに効率的に同時カプセル封入される。DSPが負荷されたPLGAナノ粒子(DSP−NP)の物理化学的特性は、表3に示されている。DSP−NPは、−5mVの表面電荷を示し、これは、高密度なPEGコーティングを示し、疎水性ナノ粒子上のPLURONICS F127の強力な結合によるものである。DSP−NPは、TEM観察によって確認される球状の形態であった。DSP−NPは、約72%のカプセル封入効率に相当する約12% w/wの高薬物負荷を示した。DSP−NPからのDSPの放出は、最大15日持続的であり、負荷されたDSPのほぼ80%が、最初の7日以内に放出された(
図1)。亜鉛が、PLGA上の末端カルボキシル基と薬物分子上のホスフェート基の間とのイオン橋の形成のために、カプセル封入効率を高め、PLGAナノ粒子からの水溶性グルココルチコイドの持続放出も促進すると考えられた。
【表1】
【0133】
SC投与後のナノ粒子の眼の保持
蛍光色素標識されたナノ粒子のSC注射を施した正常なラット眼の蛍光イメージは、ラットへのSC注射後の生体不活性PEGコーティング(PS−PEG)を有する非分解性ポリスチレン粒子の保持を示した。PS−PEG粒子の保持は、Xenogen IVISスペクトル光学イメージングによって定量化した。ライブイメージングを使用して、ラットにおけるSC投与後のナノ粒子の保持を定量化した。第1に、ナノ粒子の保持に対するサイズ効果を調べるために、非分解性PS−PEG粒子を適用した。100nm、200nm、500nm、1μm および5μmのサイズを有するPS−PEG粒子はすべて、高密度のPEGコーティングを示すほぼ中性の表面電荷を示した。PS−PEG粒子を、SC注射によってラットに投与し、ライブイメージングを用いて蛍光シグナルを定量化した。100nm、200nmおよび500nmのサイズを有するPS−PEG粒子はすべて、SC注射後最初の6時間の間に、蛍光シグナルのおよそ60%の減少を示した。後に、残りの2カ月の保持研究について一定レベルの蛍光が観察され、これは、100nmほどの小さい粒子についてSC注射後にこれらの非分解性粒子の一定の保持を示した。大きな粒子(1μmおよび5μm)については、全保持研究によって粒子のほぼ100%の保持が観察された(
図2)。しかし、26ゲージのニードルを通して大きな粒子を注射することはより困難であった。これらの粒子がPEG化され、注射前に十分に懸濁されても、ナノ粒子のある程度の沈降および凝集が観察された。
【0134】
AF−647で標識されたPLGA/F127 NPのSC注射後の種々の時点での代表的な蛍光イメージおよびラット眼の保持曲線を使用して、SC注射後の生分解性PLGA/F127ナノ粒子(186nm)の保持を算出した。蛍光色素を、PLGAに化学的にコンジュゲートさせ、その後、PLGA/F127ナノ粒子を調製した。蛍光シグナルは、PO30日後であっても検出された。全30日の保持研究の間にシグナルの段階的減少が観察された。蛍光シグナルの10%未満が、PO8日に保持されていた。
【0135】
SC注射後のPLGAナノ粒子の眼の安全性
生理食塩水、PLGA/F127およびコーティングされていないPLGAナノ粒子のSC注射を用いて処置されたラット角膜および結膜組織の代表的なイメージのPO2日、7日および14日でのサンプル角膜組織学は、PLGA/F127 NPおよびPLGA NPについてPO2日に注射領域に密接する結膜組織が、慢性炎症を有すること(グレード1)および慢性炎症が、PO7日およびPO14日で段階的に消失した(グレード0〜1)ことを示した。生理食塩水対照群について同様の炎症反応が観察された。生理食塩水注射は、PO2日に軽度の慢性炎症(グレード1)を示し、PO7日およびPO14日に回復した(グレード0〜1)。(Pathologist Dr.Charles Eberhartによって観察され、グレード付けされ、炎症の全グレードは、0〜3、炎症なし〜重度の炎症である)。
【0136】
空のナノ粒子担体のin vivo毒性を決定するために、健常なSprague DawleyラットにSC注射によって、生理食塩水に懸濁された、PLGA(PEGコーティングなし)、PLGA/F127(高密度のPEGコーティング)ナノ粒子を投与した。組織学的検査を適用して眼組織における炎症反応を決定した。生理食塩水対照群を含めたすべての注射群について、2日目の結膜組織において軽度の炎症のみが観察された。7日目および14日目に、F127コーティングを有するおよび有さないすべてのナノ粒子は、結膜、角膜および網膜を含めたすべての眼組織において炎症を示さなかった。生理食塩水対照と同様に、PLGA/F127ナノ粒子は、良好な安全性プロファイルを示し、2日目、7日目および14日目に、ラット眼へのSC注射後に極めて軽度の炎症を有する〜炎症なしであった。すべての群について、網膜、前眼房および角膜を含めたその他の眼組織において炎症なしが観察された。結果は、
図3に示されている。
【0137】
SC投与後のDSP−NPは、眼組織におけるDSPレベルを持続させた
DSP不含薬物またはDSPが負荷されたPLGA/F127ナノ粒子(DSP−NP)(両方とも、約0.08mgのDSPを含有する)のいずれかの単回SC注射後に、DSPの眼組織レベルを比較した。
図4A〜4Dは、ラットへの皮下投与後の遊離DSP溶液およびDSP−NPの薬物動態学(時間(日数)をわたってのDSP/ml)のグラフである。
図4Aは、注射部位であり;
図4Bは、眼房水中であり;
図4Cは、硝子体液中であり;
図4Dは、血液中である。
【0138】
PO2時間で結膜組織で、遊離DSP溶液の総用量のおよそ0.4%が保持され、PO1日でDSPはほとんど検出できなかった。比較すると、DSP−NP群は、PO2時間で結膜組織に保持された総用量のほぼ65%を示し、結膜組織での保持されたDSPレベルは、PO7日で5%に段階的に低下した。眼組織、眼房水、硝子体、網膜および角膜を分析することによって、眼組織のDSPレベルは、極めて迅速に減少し、DSP遊離薬物のSC注射のベースラインに達することがわかった。DSP−NPのSC注射は、眼房水および硝子体でのDSPの高レベルを最大PO7日に大幅に延長した。網膜および角膜のDSPレベルは、DSPおよびDSP−NP群の両方について極めて低かった。DSPレベルはまた、種々の時点で採取された血液サンプルにおいて測定された。DSP−NP群は、PO2時間からPO7日で一貫して低レベルのDSP(1mlあたり約50ngのDSP)を示した。比較すると、DSP群は、PO2時間で血液1mlあたり350ngほどの高いDSPを示し、次いで、ベースラインまで迅速に減少した。すべての組織において
3H−DSPの放射能を測定することによってDSPレベルを定量化した。いくつかのデータ点で値がないことは、レベルが検出可能ではないことを意味する。これは、
図5に示されている。
【0139】
SC投与後のDSP−NPは、角膜移植片拒絶を予防した
ナノ粒子のSC注射を施した移植された角膜の手術後細隙検査を実施した。生理食塩水のSC注射およびPLGA/F127(NP)のSC注射を施した群について、PO2週間ですべての移植片が拒絶された。DSP(D)のSC注射を施した群について、PO4週間ですべての移植片が拒絶され、DSP/PLGA/F127(DSP−NP)のSC注射を施した場合、PO9週間の研究終了時点でさえすべての移植片が澄明でとどまった(E)。
【0140】
角膜透明性、浮腫および新規血管に関して終了時点で、生理食塩水、NP、DSPおよびDSP−NPのSC注射を用いて処置された移植片を臨床的に評価した。結果は、
図6および7に示されている。DSP−NPについて、透明度および浮腫に関して
図6にバーが示されていないことは、移植片が完全に透明であり、浮腫を有さないことを意味する。SC注射後のPO2週での生理食塩水、PO2週での空のNP、PO4週での遊離DSPおよびPO9週でのDSP−NPの処置後の移植された角膜の組織学的イメージを実施した。外科的手順は、経験を積んだ眼科医によってすべて成功裏に実施され、手術合併症は起こらなかった。PKの直後に、動物を無作為に4群に分け、各群への処置を、生理食塩水、NP、DSPおよびDSP−NPのSC注射によって開始した。臨床観察で移植片をスコア化するために、角膜透明度、浮腫および新血管形成を含めた3種のパラメータを使用した。手術後(PO)2週で、生理食塩水対照およびNP対照群は、重度浮腫を示し、角膜移植片は、不透明であり、多量の新規血管が、縫合の周囲だけでなく、角膜移植片中にも形成された。しかし、DSPの毎週の注射を用いて処置された移植片は、有意に少ない浮腫(p<0.0001)および少ない新血管形成(p<0.001)を示した。DSP群における角膜移植片は、生理食塩水対照およびNP対照群と同程度に不透明であった。DSP−NP処置群は、角膜の透明度、浮腫および新血管形成に関して有意により良好な結果を示した。DSP−NP処置群について浮腫はなく、6匹のラットにおいてすべての角膜移植片は、全9週間の研究を通じて澄明であった。
【0141】
縫合の周囲に2、3の新血管が生じたが、DSP−NP群における新血管形成は、その他の3群すべてよりも有意に少なかった(p<0.05)。重度浮腫および角膜透明度で重度の不透明によって示される完全な角膜移植片の不全が観察された場合には、動物を屠殺した。
【0142】
生理食塩水対照、空のNP、遊離DSPおよびDSP−NPのSC注射を用いて処置された移植された角膜移植片の生存曲線は、
図7に示されている。9週間にわたる同一サンプルの眼内圧が、
図8に示されている。完全移植片拒絶は、生理食塩水対照およびNP対照群についてPO2週で起こった。DSP遊離薬物の毎週のSC注射によってわずかな改善が達成され、角膜移植片の生存率は、PO2週およびPO3週でそれぞれ100%および80%であった。しかし、DSP群のすべての角膜は、PO4週では依然として拒絶された。DSP−NP処置群について有意により高い生存率が観察され、研究の最後(PO9週)に100%の生存率であった。PO9週で、DSP−NP群の角膜移植片は、すべて澄明、透明で、角膜の拒絶エピソードのなんの手がかりもなかった。
【0143】
終了点(生理食塩水およびNP群についてはPO2週、DSP群についてはPO4週およびDSP−NP群についてはPO9週)で獲得された角膜組織の組織学的検査は、生理食塩水、NPおよびDSP群の角膜組織は、すべて腫大しており、正常な健常角膜よりも厚かったことを示した。3群すべてについて角膜組織において好中球およびマクロファージが観察された。3種の対照群すべての移植片の明らかな内皮細胞死が観察され、角膜移植片の上皮層は、3種の対照群すべてでその完全性を失った。比較すると、DSP−NP処置群の角膜は、無傷の上皮層、間質および内皮層を有する完全角膜構造を示し、角膜組織の腫大は存在しなかった。最も重要なことに、DSP−NP処置角膜において炎症性細胞は見られず、移植された角膜が、研究全体の間にSC注射によって、全機能を有して、DSP−NP処置後に生存したことを示し、移植片は、正常として機能し始めた。
【0144】
同一群について14日にわたる角膜新血管形成は、
図9Aおよび9Bに示されている。
【0145】
結果の要約
長期間にわたり免疫抑制剤を提供し得る持続放出プラットフォームは、臨床適用に都合がよく、患者コンプライアンスを改善し、副作用を低減する。ナノ粒子は、薬物の放出を持続させ得、硝子体内注射、局所投与および結膜下注射を含めた種々の経路によって治療剤を眼に送達するために広く使用されている。結膜下ナノ粒子は、治療剤を、適用に応じて数日間から数カ月間放出を持続させると示された。放出速度は、異なるポリマーの選択または製剤化における変化によって修飾され得る。角膜拒絶を予防するためのグルココルチコイドの持続放出のための、高密度PEGコーティングを有する生分解性ナノ粒子プラットフォームが開発された。F127などの特定のPLURONICS(登録商標)は、PLGAナノ粒子上に容易に吸着されて、高密度PEGコーティングを形成し得、これが粒子を生体不活性にする。眼は極めて感受性の臓器であり、投与された眼科学的製剤によって刺激、炎症反応が誘導され得、これは、患者の不快感を引き起こし、さらには重篤な眼障害をもたらし得る。したがって、免疫抑制剤の送達を持続させるための安全なプラットフォームおよび経路は有利であり得る。
【0146】
PLGA/F127の薬物送達プラットフォームは、両方とも、FDAによって一般的に安全と認識される(GRAS)材料として分類され、眼科学的製剤を含め、種々の医薬製剤における長い使用歴を有するPLGAおよびF127を含む。しかし、ナノ粒子の眼科使用に関する安全性問題は、依然として大きな懸念事項のままである。現在の研究では、PLGA/F127群の炎症反応は、すべての調べた時点(PO2日、7日および14日)を通じて生理食塩水対照群のSC注射に匹敵した。健常なラットは、SC注射後最初の2日の間に、SC注射後の軽度の眼の炎症を誘発したが、これは、7日内に減少する。炎症を低下するためのナノ粒子上へのF127からの高密度コーティングの効果が、BALB/Cマウス肺への吸引およびCF−1マウスへの膣投与で報告されている。F127を用いてコーティングされたおよびコーティングされていないPLGAナノ粒子のSC投与では、肺および膣管における研究とは異なり重度炎症は観察されなかった。SC投与の眼周囲結膜組織(主に、筋組織および結合組織から構成される)は、肺気道および膣管に関与する上皮と同程度に感受性ではない場合がある。異なるコーティングを有するPLGAが他の眼部分に適用される場合には、安全性特性は変わり得る。F127コーティングは、SC投与用のPLGAナノ粒子により多くの安全性の利益を加えない場合もあるが、F127の使用は、コーティングされていないPLGA NPと比較して、DSP−NPの収量を大いに増強する。ナノ粒子収集の際にF127コーティングを有さないPLGA NPについて大きな凝集が起こった。
【0147】
非分解性モデルPS−PEGナノ粒子は、SC注射後に最大2カ月間保持され得る。100nm、200nmおよび500nmのPS−PEGは、SC注射後、最初の6時間で40〜60%の低下を示し、これは注射後の漏出に起因し得る。50μLの容量の単回注射は、ラット結膜下腔には多すぎる可能性がある。ナノ粒子上の親水性PEGコーティングは、組織との接着がないために注射部位を通る粒子の漏出またはトランスロケーションをさらに助け得る。200nmおよび2μmの大きさを有する非PEG化疎水性PS粒子(カルボキシレート修飾)は、20〜30μLの容量でのSC注射後に結膜下組織において永久に保持されることが報告されている。より小さい注射容量および疎水性粒子の性質は、ナノ粒子のより少ない漏出または漏出がないことをもたらし得る。大きな粒子(1μmおよび5μm)について極めて同様の結果が観察され、眼の保持の極めてわずかな減少がモニタリングされた。大きな粒子は沈降が容易であり、それらは、注射された水溶液が漏出した場合に結膜組織内で遮断され得、表面特性はその保持には多すぎて変化しない。生分解性PLGAナノ粒子は、SC注射後最初の6時間で同様の傾向を示し、用量のほぼ40%が減少したが、蛍光シグナルは、シグナルが完全に完全に消滅するまで15日間減少し続け、これは非分解性の200nmのPS−PEGナノ粒子とは異なっていた。蛍光シグナルの段階的減少は、ポリマーの分解およびまた化学的にコンジュゲートされた蛍光色素の放出に起因し得る。注射条件の最適化を通して、治療薬の持続放出のために、適した量のナノ粒子/マイクロ粒子がSC腔中に成功裏に投与され得る。
【0148】
DSPが、前眼房に、さらに硝子体に長期間効率的に送達されることを確認するために、健常ラットにおいてトリチウム標識されたDSPを有するDSP−NPを用いて眼の薬物動態研究を実施した。遊離DSPを対照として使用した。Weijtensおよび共同研究者は、SC注射は、眼球周囲注射または経口用量のいずれかと比較して、患者の眼の前眼部および後眼部の両方にDSPを送達する最も有効な方法であることを見いだした。これまでの報告は、DSPのSC注射が、PO2〜3時間でピーク硝子体デキサメタゾン濃度をもたらすことを示した。現在の研究では、ラット眼における眼房水および硝子体のDSPのピーク濃度は、遊離DSPおよびDSP−NPの両方について注射の2時間後に観察された。極めて明確な傾向が、この研究に基づいて正確なTmaxは明らかではないが、高濃度のDSPが、注射後最初の2時間内に極めて迅速に達成されたことを示した。DSPの結膜下注射は、点眼薬と比較して前眼房および硝子体中に残存するDSPをもたらす。点眼薬を用いる頻繁な投薬を用いた場合、DSPの硝子体中への透過は、無視できるものであり、前眼房におけるDSP濃度は、SC注射よりもかなり低い。しかし、DSP遊離薬物のSC投与は、6時間未満の前眼房における有効なDSP濃度しか提供し得ない。前眼房および硝子体におけるDSPレベルは、SC注射後PO1日でほぼベースラインに大きく低下した。DSP−NPのSC注射後PO1日での前眼房および硝子体両方におけるDSPの濃度は、それぞれ5157±3952ng/mLおよび1286±851ng/mLであった。前眼房および硝子体両方における高濃度のDSPは、SC投与後PO7日でDSP−NPについて依然として検出可能であったが、DSPのSC投与のレベルは、検出可能ではなかった。
【0149】
血行性経路、経強膜経路および経角膜経路は、SC注射後の前眼房およびさらには硝子体へのDSPの透過に寄与し得る。一部は、最初の6時間の間のSC注射後のナノ粒子の漏出の可能性によるものであり得る。親水性DSPの水溶液は、注射部位から同様に漏出し得、これは、注射されたDSPの保持時間を低減するが、SC注射後最初の数時間での涙液膜でのDSPレベルを増大し、これは、眼への経角膜経路の薬物送達を増強し得る。SC注射は、血管に対する薬物の曝露領域を増大し、これは、薬物の血液循環への全身性取り込み(systemic update)を増強した。DSPのSC注射の血液DSPレベルは、前角膜表面での漏出した高DSP濃度と一緒に、PO2時間で極めて高く、これは、DSP−NP注射よりも8倍超高かった。DSP−NPは、SC注射後に遊離DSP溶液よりも良好な保持を示し、DSP−NPからDSP薬物は持続的に放出された。
【0150】
要約すると、SC注射後のDSP−NPについて、眼内組織においてだけでなく血液中でも一定レベルのDSPが達成されている(DSP−NPのSC注射については、一貫して低レベルの血液DSPレベル)。高い血中濃度を避けることは、ステロイドの全身性副作用の機会を低減するのに役立ちうる。
【0151】
注射された空のPLGA/F127ナノ粒子の約20%が、PO7日で結膜組織中に保持され、ナノ粒子からの蛍光レベルの段階的低減は、ナノ粒子の分解およびナノ粒子中のPLGAからの蛍光色素の切断に起因し得る。100%から60%への第1の大きな低下は、主に注射されたナノ粒子の漏出に起因し得るが、この低下は、眼組織における所望の一定の高レベルのDSPには影響を及ぼさなかった。注意深い投与および注射容量の低減によって、SC注射からのナノ粒子の漏出は、最小化され得る。角膜、眼房水、硝子体および網膜の解剖後の眼球外組織での同様のDSPレベルの段階的低下も観察された。これは結膜組織中のDSP−NPの保持後のナノ粒子からのDSPの持続放出に起因し得る。
【0152】
DSPは、眼房水および涙液膜からの物理的に吸収されるDSPではなく、経角膜DSPによって表されるように、においてのみ検出した。角膜は、上皮、間質および内皮層を含む堅固な組織である。適した低分子量および親水性を有する薬物のみが、角膜を透過できる。DSPは、経角膜透過に適していない。したがって、涙液膜でのDSP濃度が極めて高い場合に、最初のほんの数時間でのみ、角膜組織内で低レベルのDSPを検出できる。経角膜透過以外の経路が、SC注射後の眼内組織におけるDSPの高レベルに寄与し得る。
【0153】
DSPの網膜への透過は無視できる。グルココルチコイドが、ほとんどのサイトカインの発現および作用を有効に阻害し得ることは周知であり、またT細胞アポトーシスを誘導するとわかっている。通常のPK後に角膜拒絶を予防するために、長期間のグルココルチコイド点眼薬が必要である。グルココルチコイド点眼薬の長期間の使用は、安全性の問題を生じさせ得、また患者コンプライアンスの課題であり得る。本明細書において記載される研究は、週に1回の、SC注射用のDSP−NP製剤が、角膜同種移植片拒絶の有効な予防を達成するのに有効であることを示す。DSP−NPのSC注射を用いる局所処置について観察された高い有効性が、AC液において見られた高レベルのDSPと一致していた。対照、DSPおよびPLGA/F127 NP群と比較すると、DSP−NP処置群1は、組織学的研究において炎症性細胞を欠いていた。炎症性細胞は、IL−2、TNF−a、VEGFを含めた種々のサイトカインを産生し得る。IL−2、TNF−aは、主要組織適合性複合体II抗原発現を増大し、マクロファージおよびTリンパ球を活性化して、より多くのサイトカイン放出につながり、免疫拒絶を引き起こし得る。SC注射後のDSP−NPからの高レベルのDSPの持続放出は、対照群と比較して、炎症の大きな阻害および角膜への新規血管成長の遅延に寄与した。角膜の無血管性は、角膜移植でその免疫特権を有する状態を維持するために重大であり、新血管形成は、角膜拒絶の駆動力であると考えられた。DSPのSC注射は、角膜同種移植片の新血管形成の阻害で幾分かの効果を有していたが、週に1回の頻度でのDSPのSC注射からのDSPレベルは、新規血管の成長を完全に抑制するには十分ではない。デキサメタゾンは、より高い抗炎症性効力を示すが(プレドニゾンと比較して7:1)、SC注射後の高DSPレベルのより短い保持が、その治療効力を依然として大きく損なった。
【0154】
眼内圧増大は、DSP−NPのSC注射について全9週間の研究の間観察されなかった。カプセル封入されたDSPの大部分、約80%は、in vitro放出研究において最初の1週間で放出され、注射後1週間で残存するDSPは、およそ5%に低下した。したがって、何らかの副作用が観察されるまたはIOPが増大する場合には、DSPは、DSP−NPのさらなるSC投与をなくすことによって容易に停止され得る。他のデポーデバイスと比較すると、薬物送達デバイスを除去するためにさらなる手術が必要ではない。1週間間隔は、新血管形成を低減し、移植片角膜を澄明に維持するのに有効であった。これを臨床上実現可能な治療選択肢にするためには、この間隔を例えば1カ月に延長する必要があり得る。
【0155】
水溶性グルココルチコイドであるリン酸デキサメタゾンナトリウムが負荷された生分解性PLGA/F127ナノ粒子(DSP−NP)を成功裏に構築し、DSP−NPは、最大7日間持続的にDSPを放出し得る。結膜組織でのナノ粒子の長期の保持は、ラットでのSC注射によって達成され、眼組織で一定に高いDSPレベルが測定された。DSP−NPのSC注射は、全9週間の研究によって角膜同種移植片拒絶を有効に予防したが、遊離DSPを用いる対照群は、ほんの4週間で移植片の不全をもたらした。この戦略は、投与頻度を低減し、グルココルチコイドの全身性副作用の可能性を回避し、これは、患者コンプライアンスを改善する可能性があり得る。
【0156】
(実施例2:DSP−NPを用いる新血管形成の予防)
in vitroおよびその後のラットにおけるSC注射の両方で、コルチコステロイドであるリン酸デキサメタゾンナトリウム(DSP)の持続放出を提供し得る生分解性ナノ粒子製剤は、ラットにおいて角膜同種移植片拒絶を予防することを実証し、また角膜新血管形成の有効な阻害を提供することを示した。
【0157】
材料および方法
材料
ポリ(D,L−乳酸−co−グリコール酸;50:50、Mw約3.4kDa、酸末端型)(PLGA)は、Lakeshore Biomaterials (Evonik、Birmingham、AL)から購入した。リン酸デキサメタゾンナトリウム塩(DSP)は、MP Biomedicals(Santa Ana、CA)から購入した。[
3H]標識されたDSPは、American Radiolabeled Chemicals(St Louis、MO)から購入した。Pluronic F127(ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド−ポリエチレンオキシドトリブロックコポリマー、またはPEO−PPO−PEO)、トリエタノールアミン(TEOA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)溶液(0.5M)、酢酸亜鉛二水和物およびすべての他の有機溶媒は、Sigma−Aldrich(St.Louis、MO)から購入した。Alexa Fluor 647(AF647)カダベリンは、Invitrogen(Carlsbad、CA)から購入した。
【0158】
蛍光標識されたDSP−NPの調製
蛍光マーカーとしてのAlexa Fluor 647(AF647)カダベリンを、Xuら、J. Control. Reiease 第170巻(2013年)279〜286頁によって記載された方法を使用してPLGAに化学的にコンジュゲートした。溶媒拡散(またはナノ沈殿)法によってAF647−PLGAから構成されるナノ粒子を調製した。手短には、10mgのDSPを含有する0.5mLの水溶液に、1mLの0.5M酢酸亜鉛水溶液を添加することによって、DSP−亜鉛錯体を形成した。10,000gで5分間遠心分離した後、沈殿した錯体および50mgのPLGA(1:3w/wのAF647−PLGA:PLGA)を1.25mLのTHFに懸濁し、溶解し、続いて、20μLのTEOAを添加した。撹拌しながら、混合物を100mLの5% F127水溶液中に滴下添加して、DSPが負荷されたPLGAナノ粒子(DSP−NP)を形成した。溶媒蒸発によってTHFを完全に除去した後、ナノ粒子懸濁物に1mLの0.5M EDTA水溶液(pH7.5)を添加して、過剰の亜鉛をキレート化し、カプセル封入されていないあらゆるDSP−亜鉛錯体を可溶化した。8,000gで25分間の遠心分離によって、蛍光標識されたDSP−NPを回収し、5% F127を用いて洗浄し、0.2mLの超純水に再懸濁した。蛍光標識を有さないDSP−NPは、PLGAのみを使用して同様の方法で調製した。Zetasizer Nano ZS90(Malvern Instruments、Southborough、MA)を使用して、動的光散乱およびレーザードップラー流量測定によって、粒径およびζ電位を決定した。サンプルは10mMの、pH7.2のNaCl溶液に希釈した。
【0159】
結膜下投与後のDSP−NPの保持
Xenogen IVISスペクトル光学イメージングシステム(Caliper Life Sciences Inc.、Hopkinton、MA)を用いて、眼全体をイメージングすることによってSC投与後のDSP−NPの保持を調べた。ラットを、ケタミン(80mg/kg)およびキシラジン(8mg/kg)の混合物の筋肉内注射によって麻酔した。AF647で蛍光標識されたDSP−NPを、27ゲージニードルを使用するSC投与(50μL)によってSprague Dawleyラットに注射した。注射手順は、S81手術用眼科用顕微鏡(Zeiss、ドイツ)下で実施した。イメージングの間は、眼瞼を45G開瞼器(Focus Ophthalmics,LLC、Ontario、カナダ)を用いて後退させた。注射部位での総蛍光カウントを640/680nmで記録した。イメージは、Living Image3.0ソフトウェア(Caliper Lifesciences,Inc.)を使用して解析し、ナノ粒子の保持は、粒子の注射の直後の同一眼の蛍光カウントと比較することによって定量化した。粒子注射を施していないラットの眼をベースラインとして使用した。
【0160】
in vivoでの眼のDSPレベル
実施例1は、SC注射後1週間以内のin vivoでの眼のDSPレベルを記載する。同じ方法を使用して、POD14でのラットにおけるSC投与後の眼のDSPレベルを検出した。[
3H]標識されたDSPを標識されていないDSPとブレンドし(10μCi:1mg DSP)、DSP−NPの調製において使用した。同一製剤の50μL(眼あたり約0.8μCi)を、SC注射によって同一動物(Sprague Dawleyラット)の両眼に投与した。POD14で、麻酔下のラットを、尾静脈から2滴の血液を採取した後、屠殺した。眼房水、硝子体および注射部位を含有する残りの眼組織を注意深く解剖し、回収した。すべてのサンプルを秤量し、次いで、2mLのSolvable(Perkin Elmer、Waltham、MA)を用い、50℃で終夜インキュベートすることによって溶解した。0.2mLのH
2O
2および20μLの0.5M EDTAを用いて血液サンプルを漂白した。10ミリリットルのUltima goldシンチレーション媒体(Perkin Elmer、Waltham、MA)を添加し、その後、シンチレーションカウンター(Perkin Elmer、Waltham、MA)において放射能をカウントした。結果は、注射された用量のパーセンテージとして表し、データ点あたりの4個の眼の平均±標準偏差(SD)である。血液中のDSPのレベルは、時点あたりの2匹の動物の平均とした。注射部位の注射された用量の総パーセンテージおよび1mgの組織または1mLの血液あたりの放射能を算出した。
【0161】
動物
すべての実験プロトコールは、Johns Hopkins Animal Care and Use Committeeによって承認された。6〜8週齢の雄のSprague Dawleyラット(200〜250gの体重)を、Harlan(Indianapolis、IN)から購入した。すべてのラットを、眼科学的研究における動物の使用に関して、視覚と眼科学に関する研究学会(Association for Research in Vision and Ophthalmology(ARVO)resolution)にしたがってケアし、処置した。動物は、試験手順の間、ケタミン(80mg/kg)およびキシラジン(8mg/kg)の混合物の筋肉内注射を用いて麻酔した。局所麻酔は、眼で0.5%プロパラカイン点眼薬の点眼を用いて達成した。
【0162】
縫合による角膜NVモデル
角膜中において縫合糸を配置することによって角膜NVモデルを誘導した。手短には、ラットを、ケタミン(80mg/kg)およびキシラジン(8mg/kg)の混合物の筋肉内注射を用いて麻酔した。それぞれ、手術前に総瞳孔散大および局所麻酔のために、0.5%トロピカミド点眼薬の反復点眼および0.5%プロパラカインを使用した。角膜NVは、手術用顕微鏡下で10−0ナイロン(Alcon Laboratories,Inc、Fort Worth、TX)を用いて上部角膜中に2つの縫合糸の縫合部(stitch)を置くことによって誘導した。縫合部と縁との間の距離は、およそ2mmであり、2つの縫合部間には1mmの距離がある。縫合糸を配置した後、動物に、a)6mgのDSP/mLの濃度の50μLのDSP−NP、b)50μLのDSP溶液(6mgのDSP/mL)およびc)生理食塩水対照の結膜下注射を用いて直ちに投与した。エリスロマイシン抗生物質軟膏を角膜に塗布して、角膜の炎症および角膜の乾燥を予防した。
【0163】
角膜NV定量化
角膜NVは、デジタルカメラおよび細隙灯顕微鏡(SL120;Carl Zeiss AG、Oberkochen、ドイツ)の両方によって観察した。ラットを、ケタミン(80mg/kg)およびキシラジン(8mg/kg)の混合物の筋肉内注射を用いて麻酔した。イメージングの前に、0.5%トロピカミド点眼薬の反復点眼を使用して、瞳孔を十分に散大した。12×倍率で細隙灯写真を撮った。角膜の細隙灯写真を使用し、Adobe Photoshop CS5(Adobe Corp.、San Jose、CA、米国)を使用して角膜新血管形成を定量化した。血管形成された領域の縁に沿って弧を描き、血管形成された領域のピクセルを測定した。血管形成された領域のピクセル/1mm
2領域のピクセルを使用して、角膜NV領域を算出した。血管形成された領域を6つの部分に分け、弧の5つの交点で血管の先端と縁との間の距離を、血管長として測定し、各角膜の最終新規血管長として平均血管長を算出した。すべてのパラメータは、処置割り当てについて盲検にされた調査者によって測定された。
【0164】
眼内圧測定
非侵襲性眼内圧(IOP)測定は、Icare(登録商標)Tonolab(Helsinki、フィンランド)を使用して手術の後、毎週実施した。各眼について記録されたIOPは、3つの連続測定値の平均±平均の標準誤差(SEM)とした。
【0165】
角膜組織病理学研究
術後7日目および14日目、すべての動物を屠殺し、縫合手順を受けた眼を眼球摘出した。10%ホルマリンを用いて24時間、眼組織を固定化し、その後、パラフィン中に包埋した。前後軸配向(antero−posterior orientation)(角膜から視神経に)を有する横断面(5μm厚)を切断し、H&Eを用いて染色した。
【0166】
リアルタイム定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)
角膜における、VEGF、MMP−2、MMP−9、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、TNF−アルファを含めたいくつかの血管新生サイトカインのmRNA発現レベルを、RT−PCRを使用して測定した。それぞれ、術後7および14日目に処置された眼から角膜を解剖し、一緒にプールした(n=3)。TRIzol(登録商標)試薬(Invitrogen、Grand Island、NY、米国)を製造業者の指示にしたがって用いて総リボ核酸(RNA)を単離した。次いで、RNAを、High Capacity cDNA逆転写キット(4368814番、Applied Biosystems、Foster City、CA、米国)を、製造業者の指示にしたがって使用して相補的DNAに転写させた。RT−PCRを、Fast SYBR(登録商標)Green Master Mix(Applied Biosystems、Foster City、CA)を用い、7100 RealTime PCRシステム(Applied Biosystems、Foster City、CA)を使用して実施した。使用したプライマーは、表2に列挙されている。すべての発現レベルは、GAPDHに対して正規化し、互いに比較した。結果を、3回の反復の平均±平均の標準誤差(SEM)として示した。
【表2】
【0167】
統計解析
収集したすべてのデータは、t検定および多重比較検定(一元配置分散分析、Bonferroni検定)を使用して群の間で比較した。差は、P<0.05のレベルで統計的に有意であると考えた。
【0168】
結果
in vitroおよびin vivoでのDSP−NPの特徴付け
水溶性コルチコステロイドであるリン酸デキサメタゾンナトリウム(DSP)は、亜鉛キレート剤を使用してPLGAナノ粒子(DSP−NP)中に成功裏にカプセル封入した。結膜下投与後の生分解性DSP−NPの保持を定量化するために、AF−647色素をPLGAにコンジュゲートすることによってPLGAを蛍光標識し、その後、DSP−NPを調製した。AF−647のPLGAへのコンジュゲーションは、8%薬物負荷およびおよそ200nmの粒径を有するDSP−NPの生理化学的特性に影響を及ぼした(表3)。AF−647で標識したDSP−NPのSC投与後、生存動物イメージングを使用して、眼における蛍光シグナルを3週間の保持研究にわたって定量化した(
図3)。最初の2日間に、元のシグナルの20%への蛍光シグナルの迅速な低下が観察された。
【表3】
VEGF、MMP−2、MMP−9、bFGFおよびTNF−αのレベルは、
図10A(7日目の)および10B(14日目の)に示されている。眼内圧は、
図11に示されている。
【0169】
(実施例3:ブドウ膜炎の予防)
ブドウ膜炎は、失明の危険がある(sight−threatening)炎症性眼疾患である。コルチコステロイドは、ブドウ膜炎の最も有効な処置である。しかし、中間部および後部ブドウ膜炎は、硝子体および網膜に影響を及ぼし、これは、局所ステロイドを用いて処置することが困難である。結膜下に注射された水溶性ステロイド溶液は、極めて迅速に排除され、治療レベルを長期間維持するには反復注射の必要がある。リン酸デキサメタゾンナトリウム(DSP)が負荷されたナノ粒子(NP)は、高薬物負荷および長い薬物放出を提供する。これらを、ラット汎ブドウ膜炎モデルにおいて有効性について試験した。
【0170】
方法:
DSPを含有する生分解性ポリ(乳酸−co−グリコール酸)(PLGA)ナノ粒子を、修飾溶媒拡散法を使用して調製した。エンドトキシン(endotoxicin)誘発性ブドウ膜炎(EIU)モデルは、6週齢のLewisラットへのリポ多糖(liposaccharide)(LPS)のIP注射を使用する24時間試験を開始した。DSPが負荷されたナノ粒子の、LPSによって免疫化されたラットにおいて炎症を低減する能力を、臨床評価、網膜における炎症性サイトカインのmRNA発現およびタンパク質レベルならびに組織病理学によって試験した。
【0171】
結果:
ナノ粒子は、200nmの平均直径、8重量%の高い薬物負荷および制御された薬物放出プロファイルを15日間にわたって示した。
図12は、DSP−NPのsink条件下でのin vitroでの15日にわたる持続した薬物放出のグラフである。
【0172】
これらのDSPが負荷されたナノ粒子は、ラット眼への結膜下投与後に持続した眼用薬物レベルを提供した。
図13Aおよび13Bは、ラットにおけるDSP−NPのSC投与後少なくとも7日間の持続した高い眼用薬物レベルのグラフであり、前眼房(
図13A)および硝子体(
図13B)の両方において高い薬物レベルを示す。
【0173】
プラセボ粒子、生理食塩水または遊離薬物溶液の対照処置群との比較は、ブドウ膜炎ラットモデルのDSPが負荷されたNP処置が、有意により低下した炎症スコア、mRNA発現および炎症性サイトカインタンパク質レベルを示すことを示した。
図14は、LPSのIP注射の3時間後および24時間後にイメージングされ、スコア化された前眼部の炎症スコアのグラフであり、DSP−NP予防群は、対照群よりも有意に少ない炎症を有することを示す。
図15は、24時間免疫化後のEIUモデルの3群における、網膜におけるIL−1b、IL−6およびTNFのmRNA発現のグラフであり、プラセボ−NPおよびPBS群と比較してDSP−NP群において有意に低下した発現を示す。
【0174】
結論:
リン酸デキサメタゾンナトリウムが負荷されたPLGAナノ粒子は、コルチコステロイドの持続放出を提供し、ラットにおいてブドウ膜炎と関連している炎症を有効に減少させる。ブドウ膜炎は、再発することが多いので、この処置は、投与頻度を低減し、コルチコステロイドの全身性副作用の可能性を回避し、患者コンプライアンスを改善するはずであり、有望な臨床適用を有する。
【0175】
(実施例4:ラットにおいて角膜同種移植片拒絶および緑内障を処置するためのコルチコステロイドナノ粒子の毎月の結膜下投与)
材料および方法
実施例1に記載されるように、DSPのカプセル封入のためにCOOH基を有するポリ乳酸を使用してナノ粒子を調製した。
【0176】
毎月の結膜下注射を使用して角膜新血管形成の予防のために、実施例2に記載されたようにラットにナノ粒子を投与した。
【0177】
ナノ粒子はまた、緑内障のモデルにも投与した。
【0178】
結果
ナノ粒子は、338±11nmの直径、0.09±0.038のPDI、−3±1のζ−電位(mV)および9.4±0.8のDL%を有する。
【0179】
時間をわたってDSPレベルを示す薬物動態研究の結果が、
図16A〜16Dに示されている。
図16A〜16Dは、ラットへのDSP−PLA2COOHナノ粒子の結膜下注射の薬物動態(時間(日数)をわたってのng DSP/ml)のグラフである。
図16A、眼房水;
図16B、硝子体;
図16C、血液;および
図16D、注射部位対照。
【0180】
図17A〜17Eは、(17A〜17C)DSP−PLA2COOHナノ粒子処置群および(17D〜17F)生理食塩水対照群についての全12週間のフォローアップの間の時間(日数)をわたっての移植片の臨床観察のグラフである。矢印は、処置注射時点を示す。
図17A、17Dは、透明度スコア;
図17B、17Eは、浮腫スコア、17C、17Fは、新血管形成である。
【0181】
図18は、生理食塩水対照群およびDSP−PLA2COOHナノ粒子処置群両方についての生存曲線である(時間(日数)をわたっての生存パーセント)。
【0182】
図19Aおよび19Bは、対照(19B)と比較した、毎月間隔でDSP−PLA2COOHナノ粒子を用いて処置された動物(19A)についての、時間(日数)をわたっての眼内圧のグラフである。
【0183】
結果は、DSP−PLA2COOHナノ粒子を使用する、移植片拒絶の予防ならびに緑内障の処置両方のための毎月注射を用いて、同等の結果が得られることを実証する。