特表2017-524712(P2017-524712A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2017-524712角膜同種移植片拒絶および新血管形成を予防するためのグルココルチコイドを負荷したナノ粒子
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-524712(P2017-524712A)
(43)【公表日】2017年8月31日
(54)【発明の名称】角膜同種移植片拒絶および新血管形成を予防するためのグルココルチコイドを負荷したナノ粒子
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/661 20060101AFI20170804BHJP
   A61K 9/51 20060101ALI20170804BHJP
   A61K 31/573 20060101ALI20170804BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20170804BHJP
   A61K 9/50 20060101ALI20170804BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20170804BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20170804BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20170804BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20170804BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20170804BHJP
【FI】
   A61K31/661
   A61K9/51
   A61K31/573
   A61K47/34
   A61K9/50
   A61P29/00
   A61P37/06
   A61P9/00
   A61P27/02
   C12N15/00 AZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】45
(21)【出願番号】特願2017-507390(P2017-507390)
(86)(22)【出願日】2015年8月3日
(85)【翻訳文提出日】2017年4月5日
(86)【国際出願番号】US2015043478
(87)【国際公開番号】WO2016025215
(87)【国際公開日】20160218
(31)【優先権主張番号】62/139,561
(32)【優先日】2015年3月27日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/037,000
(32)【優先日】2014年8月13日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】398076227
【氏名又は名称】ザ・ジョンズ・ホプキンス・ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ヘインズ, ジャスティン スコット
(72)【発明者】
【氏名】パン, チン
(72)【発明者】
【氏名】シュー, チングオ
(72)【発明者】
【氏名】ボイラン, ニコラス ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】スターク, ウォルター ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ワン, ビン
(72)【発明者】
【氏名】ルオ, リシア
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA61
4C076AA64
4C076AA65
4C076AA67
4C076AA94
4C076AA95
4C076BB24
4C076CC04
4C076CC10
4C076EE24
4C076EE24A
4C076FF31
4C076FF32
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA10
4C086DA34
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA38
4C086MA58
4C086MA66
4C086NA12
4C086NA13
4C086ZA33
4C086ZA36
4C086ZB09
4C086ZB11
(57)【要約】
PEGまたはPLURONIC(登録商標)F127などの親水性ポリマーを用いて高密度にコーティングされている、生分解性ポリ(乳酸−co−グリコール酸)(PLGA)などのマトリックス中に、リン酸デキサメタゾンナトリウム(DSP)などのグルココルチコイドをカプセル封入している粒子は、in vitroで最大7日間のDSPの持続放出を示す。これらのナノ粒子は、角膜移植片拒絶または角膜新血管形成を予防するために使用され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性ポリマーで高密度にコーティングされ、かつナノ粒子を形成するポリマーと、ホスフェート基またはカルボキシル基と金属イオンのキレート化によって錯体形成しているグルココルチコイド、前記ポリマーの末端のカルボキシ末端基と錯体形成しているグルココルチコイド、および前記グルココルチコイドの水溶性塩からなる群より選択されるグルココルチコイドをカプセル封入している生分解性ポリマー粒子であって、前記粒子は、in vitroで最大7日間のグルココルチコイドの持続放出を提供し、結膜下(SC)注射によって投与され得、かつ眼の結膜組織中に2週間保持される、生分解性ポリマー粒子。
【請求項2】
前記グルココルチコイドが、リン酸デキサメタゾンナトリウム(DSP)である、請求項1に記載の粒子。
【請求項3】
前記分解性ポリマーが、ポリヒドロキシ酸、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリ酸無水物およびそのカルボキシル基末端型ポリマーからなる群より選択される、請求項1に記載の粒子。
【請求項4】
100から最大1ミクロンの間の平均直径を有するナノ粒子を含む、請求項1に記載の粒子。
【請求項5】
PEG、ポリオキシエチレン−ポリエチレンオキシドブロックコポリマーまたはそれらの組み合わせで高密度にコーティングされている、ポリ(乳酸−co−グリコール酸)(PLGA)を含む、請求項1に記載の粒子。
【請求項6】
前記グルココルチコイドが、前記ナノ粒子を形成する前記ポリマーと、ホスフェート基またはカルボキシル基と金属イオンのキレート化によって錯体形成している、請求項1に記載の粒子。
【請求項7】
前記グルココルチコイドが、エステルまたは他の加水分解性部分を介して前記ポリマーの末端のカルボキシ末端基と錯体形成している、請求項1に記載の粒子。
【請求項8】
前記グルココルチコイドが、水溶性塩に誘導体化され、次いで、前記ポリマーナノ粒子中に組み込まれる、請求項1に記載の粒子。
【請求項9】
眼へ投与するための薬学的に受容可能な賦形剤中の請求項1に記載の粒子。
【請求項10】
炎症、移植片拒絶または新血管形成を予防するための方法であって、有効量の請求項1から9のいずれか一項に記載の粒子を、それを必要とする部位に投与することを含む、方法。
【請求項11】
前記粒子が、前部、中央もしくは後部硝子体注射、結膜下注射、前房内注射、耳側輪部を介する前眼房への注射、基質内注射、脈絡膜下腔への注射、角膜内注射、網膜下注射または眼内注射によって眼に局所投与される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記粒子が、血管形成を予防または減少させるために、硝子体内注射によって投与される、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記粒子が、結膜下(SC)注射によって投与され、結膜組織中に保持される、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記粒子が、新血管形成を予防または減少させるために投与される、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記粒子が、移植片拒絶を予防するために投与される、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記粒子が、1週間に1回、2週間に1回、4週間に1回、月に1回、2カ月に1回または3カ月に1回以下の頻度で投与される、請求項10から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記粒子が、直径1ミクロン未満のナノ粒子である、請求項10から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記粒子が、直径最大100ミクロンのマイクロ粒子である、請求項10から16のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
配列表への参照
「JHU_C12604_PCT_ST25.txt」との名称のテキストファイルとして2015年8月3日に提出された配列表(2015年7月31日に作成され、2,762バイトのサイズである)は、参考として本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、眼への有効量の1種または複数種のグルココルチコイドの送達のためのポリマー徐放性製剤、ならびに疾患の処置および予防のための、特に、移植片拒絶の処置または予防のためのその使用の方法に関する。
【背景技術】
【0003】
角膜は、眼の屈折面および保護障壁として働く、無血管性の透明な結合組織である。角膜新血管形成(NV)は、血管新生および血管新生抑制因子間のバランスが崩れることによって引き起こされる。感染、炎症、外傷および変性障害などの病状は、縁から通常は、無血管性角膜への新血管の浸潤を誘導し得る。角膜NVは、脂質滲出、持続性炎症および角膜瘢痕を引き起こし、最終的に、角膜の透明度の喪失および視力の低下につながり得る。角膜NVは、角膜移植術において角膜移植失敗の1つのハイリスク因子と見なされた。
【0004】
角膜新血管形成の処置として、アルゴンレーザー光凝固、光ダイナミック療法、ジアテルミーおよび焼灼、非ステロイド系抗炎症薬、抗血管内皮増殖因子(「VEGF」)剤、メタロマトリックスプロテアーゼ(「MMP」)阻害剤およびコルチコステロイドが挙げられる。角膜新血管形成処置の頼みの綱は、依然として、局所コルチコステロイドである。コルチコステロイドは、眼を含む種々の免疫疾患および炎症性疾患を処置するために使用される強力な抗炎症薬である。コルチコステロイドは、強力な抗血管新生機能を有すると示されており、種々のコルチコステロイドは、眼の新血管形成を処置するために広く使用されている。ステロイドは炎症を低減し、また血管新生抑制特性を示し、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の上方制御を遮断するので、患者において血管新生加齢黄斑変性症および糖尿病性網膜症を処置するために硝子体内コルチコステロイドまたはステロイド移植物が適用されてきた(Augustinら、Current therapies、Clin. Ophthalmol.第3巻(2009年)175〜182頁;Paiら、Saudi J. Ophthalmol.第24巻(2010年)143〜149頁)。角膜NVの抗血管新生効果は、種々の動物モデルにおいて、また診療において確認された。焼灼誘導性角膜新血管形成は、局所デキサメタゾンによって有効に阻害された(Proiaら Exp. Eye. Res.第57巻(1993年)693〜698頁)。IL−1ベータ誘導性角膜血管新生は、角膜新血管形成を阻害するデキサメタゾンの有効性のために、NF−kBシグナル伝達の遮断によって部分的に阻害されると考えられた。
【0005】
局所コルチコステロイド点眼薬は、最も広く使用され、患者にとって好都合である。しかし、コルチコステロイドを含めた局所適用された薬物の吸収および保持は、まばたき、流涙、涙液交換およびドレナージによる眼表面からの迅速なクリアランスのため極めて不十分である。さらに、無傷の角膜構造は、薬物分子の浸透および透過を損なう。したがって、点眼薬は、極めて低い眼のバイオアベイラビリティを示し、通常、適用された用量の5%未満しか角膜を通って透過して、眼内組織に到達しない。したがって、眼内薬物レベルを維持し、治療効果を達成するには、点眼薬の頻繁な点眼が必要である。患者コンプライアンスおよび眼表面に対する毒性を含めた他の可能性ある問題を生じさせ得る。前眼房における最大4時間の高い薬物レベルは、リン酸デキサメタゾンナトリウムの結膜下注射によって達成され得る。眼用薬物送達を改善するためにナノテクノロジーが適用されてきた(Vandervoort、Nanomedicine 第2巻(2007年)11〜21頁;Reimondez−Troitinoら、Eu. J. Pharm. Biopharm、2015年3月6日)。ナノテクノロジーはまた、角膜NVの処置のために使用された(Gonzalezら、J. Ocul. Pharmacol. Ther. 第29巻(2013年)124〜134頁)。ナノテクノロジーは、標的化の利点を提供し、眼障壁を克服し、眼のバイオアベイラビリティ、放出の制御、副作用の低減などを改善し得る。
【0006】
角膜の移植は、固体組織移植の最も古く、最も一般的な形態であり、角膜不全を処置するために広く使用されている。米国では、毎年、角膜移植術の約36,000症例が実施されている。無血管性および非炎症性「低リスク」角膜ベッドでの2年の移植生着率は、最大90%であり得るが、生着率は、以前の移植片拒絶を有するか、または新血管形成または炎症を示し得る「ハイリスク」角膜ベッドでは、50%にまで低くなり得る。角膜移植失敗は、移植に適した角膜組織の制限のためにアイバンクの負担を大幅に増大し得る。
【0007】
免疫学的拒絶は、ヒト角膜の移植失敗の主な原因の1つである。「通常リスク」無血管性および非炎症性ベッドでの初年度拒絶率は、20%近くであり、「ハイリスク」血管新生、炎症レシピエントベッドの拒絶率は、50%にまで高くなり得る。免疫抑制剤を用いる処置は、角膜移植後の角膜の移植生着率を改善するための通常の戦略である。グルココルチコイドは、臨床において最も広く使用されている免疫抑制剤であり、その有効性は、広く受け入れられている。
【0008】
グルココルチコイドは、全身にまたは局所点眼によって投与され得る。しかし、長期の全身ステロイドは、白内障、緑内障、グルコース異常、成長遅延、日和見感染症および骨粗鬆症などの重度の副作用を引き起こし得る。迅速な前角膜クリアランスおよび角膜障壁は、局所点眼による点眼薬の有効性を大きく損ない得る。したがって、許容される結果を達成するにはステロイドの頻繁な局所適用が必要であり、眼内圧の上昇および白内障のさらなる確立されたリスクを伴い得る。
【0009】
免疫学的角膜の拒絶は、移植失敗の主な原因となる。グルココルチコイド、代謝拮抗物質(すなわち、ミコフェノール酸モフェチル(mycophelonate mofetil))、T細胞阻害剤(すなわち、シクロスポリンA、タクロリムス、FK506)を用いる免疫抑制療法が、全身または点眼薬のいずれかによって、角膜移植を受けた患者に適用されてきた。通常、点眼薬は、眼が、薬物に容易に到達できる器官であり、免疫抑制剤の全身投与と関連する全身性副作用を低減するので、数週間から数カ月の範囲の長期の術後の全身投与にわたって好ましい。しかし、点眼薬は、依然として、前眼球(pre−ocular)表面からの迅速なクリアランスおよび前眼房におけるより低い薬物濃度、短時間の治療ウィンドウおよび頻繁な投与などの問題を抱えている。
【0010】
グルココルチコイドは、「ローリスク」および「ハイリスク」角膜移植の両方で角膜移植片拒絶の制御で広く使用されてきた。局所グルココルチコイドは、角膜移植片拒絶の制御のための「代表的な基準」のままであるが、白内障、眼内圧の増大、創傷離開ならびに細菌および真菌感染などの副作用のリスクを伴う。リン酸デキサメタゾンナトリウム(DSP)溶液の結膜下(SC)注射は、前眼房で高レベルのステロイドDSPを送達するのに、点眼薬と比較してより有効であると示されている。24時間後でさえ、前側眼房水(anterior humor)中のDSPレベルは依然として検出可能であり、SC投与からの貯蔵効果に起因して眼組織において長期間薬物保持した。ステロイドの結膜下注射は、局所投与および全身投与に対して多数の利点を提供するが、眼組織における薬物は、依然として、短すぎて単回投与では良好な治療効果を達成しない。
【0011】
眼の慢性疾患を処置するために、グルココルチコイドを眼に送達するための長時間作用する方法が必要である。送達の延長を提供する製剤は、多数のグルココルチコイドの投与と関連する毒性の可能性を最小化する。さらに、頻繁な注射の必要性を低減することは、眼内炎のリスクを低減し、頻繁な通院、患者およびその家族にとっての多大な苦難の負担を低減することとなる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Vandervoort、Nanomedicine(2007年)第2巻、11〜21頁
【非特許文献2】Gonzalezら、J.Ocul.Pharmacol.Ther.(2013年)第29巻、124〜134頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、有効性の改善されたグルココルチコイドの製剤を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
グルココルチコイドは、角膜拒絶の制御で最も広く使用される免疫抑制剤である。迅速な眼のクリアランスのために、グルココルチコイド点眼薬の頻繁な局所点眼が必要である。それが、不十分な患者コンプライアンスおよび重度の副作用に関する問題を引き起こし得る。in vitroで最大7日間のグルココルチコイドの持続性放出を提供する、親水性ポリマーで高密度にコーティングされ、ナノ粒子を形成するポリマーと、ホスフェート基またはカルボキシル基と金属イオンのキレート化によって錯体形成しているグルココルチコイド、ポリマーの末端のカルボキシ末端基と錯体形成しているグルココルチコイド(glurocorticoid)などのグルココルチコイドおよびグルココルチコイドの水溶性塩をカプセル封入(encapsulate)している生分解性ポリマー粒子が開発され、これは、結膜下(SC)注射によって投与され得、眼の結膜組織中に2週間保持されることが発見された。実施例は、in vitroで最大7日のDSPの持続放出を示す、リン酸デキサメタゾンナトリウム(DSP)などのグルココルチコイドを、PEGまたはPLURONIC(登録商標)F127などの親水性ポリマーで高密度にコーティングされている生分解性ポリ(乳酸−co−グリコール酸)(PLGA)などのマトリックス中にカプセル封入しているナノ粒子の利点を実証する。DSPが負荷されたPLGAナノ粒子(DSP−NP)は、結膜下(SC)注射によって容易に投与され得、最大2週間の長期間結膜組織中に保持される。SC注射後の遊離DSP溶液は、通常、最初の2時間以内に排除され、24時間後には眼組織中に検出可能なDSPはほとんどない。比較では、DSP−NPは、7日の研究期間にわたって、前眼房および硝子体を含めた眼組織において持続されたレベルのDSPを提供し得る。好ましい実施形態では、グルココルチコイドは、ナノ粒子中のグルココルチコイドおよび生分解性ポリマー中のホスフェート基またはカルボキシル基と金属イオンのキレート化によって錯体形成される。複数のカルボキシル基を含有するポリマーを使用し、薬物負荷を大幅に増大し、放出速度を減速するとわかっているDSPが負荷されたミクロスフェア(水中油型エマルジョン中の固体の方法(solid−in−oil−in−water emulsion method))を調製することで、高い薬物負荷、遅い放出などが得られる。一実施形態では、粒子は、最大100ミクロンの直径を有するマイクロ粒子である。別の実施形態では、粒子は、ナノ粒子である。
【0015】
実施例によって実証されるように、ラット角膜同種移植片拒絶モデルに毎週SC注射されたDSP−NP製剤は、生理食塩水対照、空の粒子および遊離DSP溶液と比較して有意に大きな有効性を示した。生理食塩水または空のナノ粒子を用いて処置された場合には、ほとんどの移植片は2週間以内に拒絶された。DSP処置された群の場合には、移植片は術後4週間後にすべて拒絶された。DSP−NPを用いて処置された場合には、すべての角膜移植片は澄明なままであり、9週間の研究期間全体を通じて拒絶されなかった。これらの結果は、グルココルチコイドが持続放出されるナノ粒子が、角膜拒絶のためのSC投与、DSP−PLA2COOHナノ粒子の毎月の注射によって角膜同種移植片拒絶を有効に予防し得ることを実証する。
【0016】
実施例によって実証されるように、コルチコステロイドであるリン酸デキサメタゾンナトリウム(DSP)の持続放出を提供するこの生分解性ナノ粒子製剤は、角膜新血管形成、ブドウ膜炎の有効な阻害を提供し得、緑内障の処置に役立ち得る。粒子は、手術の時点で、また、その後、定期的に眼に注射され得る。角膜新血管形成の予防に好ましい実施形態では、粒子は、結膜下に注射される。ブドウ膜炎(汎ブドウ膜炎または中間部/後部ブドウ膜炎)の処置に好ましい実施形態では、粒子は、眼周囲注射で注射され、硝子体中の高い薬物レベルを可能にする。DSP−NP結膜下注射は、網膜炎症性サイトカインレベル測定によってLPS誘導性ブドウ膜炎を予防し得る。中間部および後部ブドウ膜炎は、局所点眼薬を用いて処置されることが困難であり、あまり侵襲性ではない眼周囲注射(結膜下注射を含む)が、より侵襲性の硝子体内注射に対して有利である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、時間(日数)をわたって累積放出(%)をプロットするDSP/PLGAナノ粒子のin vitro薬物放出プロファイルのグラフである。
【0018】
図2図2は、ラットへの皮下投与後の蛍光のZenogen IVISスペクトル光学イメージングによって定量された、時間(日数)をわたってのラットへの結膜下(「SC」)注射後の、PS−PEGコーティングを有する非分解性ポリスチレン粒子(100nm、200nm、500nm、1ミクロン、5ミクロン)の保持パーセントのグラフである。
【0019】
図3図3は、ラットにSC注射されたPLGA/F127ナノ粒子の時間(日数)をわたっての眼における保持パーセントのグラフである。この値は、ポリマー鎖からの色素の切断によって影響を受け得る。
【0020】
図4A図4A〜4Dは、ラットへの皮下投与後の遊離DSP溶液およびDSP−NPの薬物動態のグラフである(時間(日数)をわたってのDSP/ml)。図4Aは、注射部位で;図4Bは、眼房水中;図4Cは、硝子体液中;および図4Dは、血液中である。、p<0.05;**、p<0.01;***、p<0.001。
図4B図4A〜4Dは、ラットへの皮下投与後の遊離DSP溶液およびDSP−NPの薬物動態のグラフである(時間(日数)をわたってのDSP/ml)。図4Aは、注射部位で;図4Bは、眼房水中;図4Cは、硝子体液中;および図4Dは、血液中である。、p<0.05;**、p<0.01;***、p<0.001。
図4C図4A〜4Dは、ラットへの皮下投与後の遊離DSP溶液およびDSP−NPの薬物動態のグラフである(時間(日数)をわたってのDSP/ml)。図4Aは、注射部位で;図4Bは、眼房水中;図4Cは、硝子体液中;および図4Dは、血液中である。、p<0.05;**、p<0.01;***、p<0.001。
図4D図4A〜4Dは、ラットへの皮下投与後の遊離DSP溶液およびDSP−NPの薬物動態のグラフである(時間(日数)をわたってのDSP/ml)。図4Aは、注射部位で;図4Bは、眼房水中;図4Cは、硝子体液中;および図4Dは、血液中である。、p<0.05;**、p<0.01;***、p<0.001。
【0021】
図5図5は、すべての組織においてH−DSPの放射能を測定することによって定量された、眼球外組織(網膜、角膜、硝子体および眼房水の除去後の眼組織)における、単独でまたはNP中にカプセル封入されて注射された保持されたDSP用量のグラフである。いくつかのデータ点で値がないことは、レベルが検出可能ではないことを意味する。
【0022】
図6図6は、角膜透明度、浮腫および新規血管に関して終了時点での生理食塩水、NP、DSPまたはDSP−NPのSC注射を用いて処置された移植片の臨床評価の棒グラフである。DSP−NPについて透明度および浮腫でバーが示されないことは、移植片が完全に透明であり、浮腫がないことを意味する。
【0023】
図7図7は、生理食塩水対照、空のNP、遊離DSPまたはDSP−NPのSC注射を用いて処置された移植された角膜移植片の生存曲線を示す図である。
【0024】
図8図8は、時間(日数または週数)をわたっての眼内圧(IOP)のグラフである。IOPは、角膜移植片を移植され、続いて、生理食塩水、空のNP、遊離DSPまたはDSP−NPを用いて処置された眼で測定された。正常な眼を対照として使用した。
【0025】
図9図9A〜9Bは、生理食塩水、DSPおよびDSP−NPのSC注射を用いる処置後のNV領域(図9A)および血管の長さ(図9B)についての角膜新血管形成の定量的解析のグラフである。
【0026】
図10図10Aおよび10Bは、DSP−NP、遊離DSP、生理食塩水および健常について、RT−PCRによって測定された、(図10A)PO7日および(図10B)PO14日での角膜新血管形成と関連するサイトカインレベルのグラフである。
【0027】
図11図11は、生理食塩水、遊離DSPおよびDSP−NPのSC注射の処置後のIOP(mmHg)のグラフである。
【0028】
図12図12は、200±8nmの大きさ、8重量%薬物負荷を示したDSP−NPのsink条件下でのin vitroでの15日にわたる持続性薬物放出のグラフである。
【0029】
図13図13Aおよび13Bは、前眼房(図13A)および硝子体(図13B)の両方において高い薬物レベルを示す、ラットにおけるDSP−NPのSC投与後の少なくとも7日間の持続性高眼用薬物レベルのグラフである。
【0030】
図14図14は、LPSのIP注射後3時間および24時間でイメージングおよびスコア化された前眼部の炎症スコアのグラフである。DSP−NP予防群は、対照群よりも有意に少ない炎症を有することを示す。
【0031】
図15図15は、24時間の免疫化のEIUモデルの3群における網膜におけるIL−1b、IL−6およびTNFのmRNA発現のグラフである。プラセボ−NPおよびPBS群と比較してDSP−NP群において有意に低下した発現を示す。
【0032】
図16A図16A〜16Dは、ラットへのDSP−PLA2COOHナノ粒子の結膜下注射の薬物動態(時間(日数)をわたってのng DSP/ml)グラフである。図16A、眼房水;図16B、硝子体;図16C、血液;および図16D、注射部位対照。
図16B図16A〜16Dは、ラットへのDSP−PLA2COOHナノ粒子の結膜下注射の薬物動態(時間(日数)をわたってのng DSP/ml)グラフである。図16A、眼房水;図16B、硝子体;図16C、血液;および図16D、注射部位対照。
図16C図16A〜16Dは、ラットへのDSP−PLA2COOHナノ粒子の結膜下注射の薬物動態(時間(日数)をわたってのng DSP/ml)グラフである。図16A、眼房水;図16B、硝子体;図16C、血液;および図16D、注射部位対照。
図16D図16A〜16Dは、ラットへのDSP−PLA2COOHナノ粒子の結膜下注射の薬物動態(時間(日数)をわたってのng DSP/ml)グラフである。図16A、眼房水;図16B、硝子体;図16C、血液;および図16D、注射部位対照。
【0033】
図17A図17A〜17Eは、(17A〜17C)DSP−PLA2COOHナノ粒子処置群および(17D〜17F)生理食塩水対照群の全12週間のフォローアップの間の時間(日数)をわたっての移植片の臨床観察のグラフである。矢印は、処置注射時点を示す。図17A、17Dは、透明度スコアであり、図17B、17Eは、浮腫スコアであり、17C、17Fは、新血管形成である。
図17B図17A〜17Eは、(17A〜17C)DSP−PLA2COOHナノ粒子処置群および(17D〜17F)生理食塩水対照群の全12週間のフォローアップの間の時間(日数)をわたっての移植片の臨床観察のグラフである。矢印は、処置注射時点を示す。図17A、17Dは、透明度スコアであり、図17B、17Eは、浮腫スコアであり、17C、17Fは、新血管形成である。
図17C図17A〜17Eは、(17A〜17C)DSP−PLA2COOHナノ粒子処置群および(17D〜17F)生理食塩水対照群の全12週間のフォローアップの間の時間(日数)をわたっての移植片の臨床観察のグラフである。矢印は、処置注射時点を示す。図17A、17Dは、透明度スコアであり、図17B、17Eは、浮腫スコアであり、17C、17Fは、新血管形成である。
図17D図17A〜17Eは、(17A〜17C)DSP−PLA2COOHナノ粒子処置群および(17D〜17F)生理食塩水対照群の全12週間のフォローアップの間の時間(日数)をわたっての移植片の臨床観察のグラフである。矢印は、処置注射時点を示す。図17A、17Dは、透明度スコアであり、図17B、17Eは、浮腫スコアであり、17C、17Fは、新血管形成である。
図17E図17A〜17Eは、(17A〜17C)DSP−PLA2COOHナノ粒子処置群および(17D〜17F)生理食塩水対照群の全12週間のフォローアップの間の時間(日数)をわたっての移植片の臨床観察のグラフである。矢印は、処置注射時点を示す。図17A、17Dは、透明度スコアであり、図17B、17Eは、浮腫スコアであり、17C、17Fは、新血管形成である。
図17F図17A〜17Eは、(17A〜17C)DSP−PLA2COOHナノ粒子処置群および(17D〜17F)生理食塩水対照群の全12週間のフォローアップの間の時間(日数)をわたっての移植片の臨床観察のグラフである。矢印は、処置注射時点を示す。図17A、17Dは、透明度スコアであり、図17B、17Eは、浮腫スコアであり、17C、17Fは、新血管形成である。
【0034】
図18図18は、生理食塩水対照群およびDSP−PLA2COOHナノ粒子処置群両方の生存曲線(時間(日数)をわたっての生存パーセント)を示す図である。
【0035】
図19図19Aおよび19Bは、対照(19B)と比較した、毎月の間隔でDSP−PLA2COOHナノ粒子を用いて処置された動物の(19A)、時間(日数)をわたっての眼内圧のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
I.定義
本明細書において「活性剤」とは、身体において局所的におよび/または全身に作用する生理学的にまたは薬理学的に活性な物質を指す。活性剤は、疾患または障害の処置(例えば、治療剤)、予防(例えば、予防剤)または診断(例えば、診断剤)のために患者に投与される物質である。「眼用薬物」または「眼用活性剤」とは、本明細書において、眼の疾患または障害の1種または複数種の症状を軽減し、その発症を遅延し、もしくは予防するために患者に投与される薬剤または眼をイメージングする、もしくは他の方法で評価するのに有用な診断剤を指す。
【0037】
「有効な量」または「治療上有効な量」とは、本明細書において、特に、眼の疾患または障害の1種または複数種の症状を軽減し、その発症を遅延し、もしくは予防するのに有効なポリマーナノ粒子の量を指す。加齢黄斑変性症の場合には、ポリマーナノ粒子の有効な量は、患者において視力喪失を遅延、低減または予防する。
【0038】
「生体適合性」および「生物学的に適合する」とは、本明細書において、全般的に、任意の代謝産物またはその分解生成物とともに、全般的にレシピエントにとって非毒性であり、レシピエントに任意の有意な有害作用を引き起こさない材料を指す。一般的に言えば、生体適合性材料は、患者に投与された場合に有意な炎症性応答または免疫応答を誘発しない材料である。
【0039】
「生分解性ポリマー」とは、本明細書において、全般的に、生理学的条件下で酵素作用および/または加水分解によって分解するか、または侵食され、被験体によって代謝、排除または排出されることが可能であるより小さい単位または化学種になるポリマーを指す。分解時間は、ポリマー組成、多孔度、粒子寸法などの形態学および環境の関数である。
【0040】
「親水性の」とは、本明細書において、水に対して親和性を有するという特性を指す。例えば、親水性ポリマー(または親水性ポリマーセグメント)は、主に水溶液に可溶性である、および/または水を吸収する傾向を有するポリマー(またはポリマーセグメント)である。一般に、ポリマーが親水性であるほど、ポリマーが水に溶解し、水と混合するか、または水によって湿潤化される傾向が大きい。
【0041】
「疎水性の」とは、本明細書において、水に対する親和性を欠く、またはさらに水をはじく特性を指す。例えば、ポリマー(またはポリマーセグメント)が疎水性であるほど、ポリマー(またはポリマーセグメント)が水に溶解されない、水と混合されない、または水によって湿潤化されない傾向が大きい。
【0042】
親水性および疎水性は、それだけには限らないがポリマーまたはポリマーセグメントの群内の親水性/疎水性の範囲など、相対的に語られ得る。2種またはそれ超のポリマーが論じられている一部の実施形態では、用語「疎水性ポリマー」は、別のより親水性のポリマーと比較した場合のポリマーの相対的疎水性に基づいて定義され得る。
【0043】
「ナノ粒子」とは、本明細書において、全般的に、平均直径、約10nmから約1ミクロン未満、好ましくは、100nm〜約1ミクロンなどの直径を有する粒子を指す。粒子は、任意の形状を有し得る。球状の形状を有するナノ粒子は、全般的に「ナノスフェア」と呼ばれる。
【0044】
「マイクロ粒子」とは、本明細書において、全般的に、平均直径、約1ミクロン〜約100ミクロン、好ましくは、約1ミクロン〜約50ミクロン、より好ましくは、約1〜約30ミクロンなどの直径を有する粒子を指す。マイクロ粒子は、任意の形状を有し得る。球状の形状を有するマイクロ粒子は、全般的に、「ミクロスフェア」と呼ばれる。
【0045】
「分子量」とは、本明細書において、全般的に、特に断りのない限り、バルクのポリマーの相対的平均鎖長を指す。実際には、分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)またはキャピラリービスコメトリーを含めた種々の方法を使用して推定され、特徴付けられ得る。GPC分子量は、数平均分子量(Mn)とは対照的に重量平均分子量(Mw)として報告される。キャピラリービスコメトリーは、濃度、温度および溶媒条件の特定のセットを使用して希釈ポリマー溶液から決定される固有の粘度として分子量の推定値を提供する。
【0046】
「平均粒径」とは、本明細書において、全般的に粒子の集団中の粒子の統計的平均粒径(直径)を指す。本質的に球状の粒子の直径は、物理的または流体力学直径を指し得る。非球状の粒子の直径は、好ましくは、流体力学直径を指す。本明細書において、非球状粒子の直径は、粒子の表面上の2点間の最大直線距離を指し得る。平均粒径は、動的光散乱などの当技術分野で公知の方法を使用して測定され得る。
【0047】
「単分散」および「均一なサイズ分布」は、本明細書において交換可能に使用され、粒子のすべてが同一またはほぼ同一の大きさであるナノ粒子またはマイクロ粒子の集団を説明する。本明細書において、単分散分布とは、分布の90%またはそれ超が、中央値粒径の15%内、より好ましくは、中央値粒径の10%内、最も好ましくは、中央値粒径の5%内にある粒子分布を指す。
【0048】
「薬学的に受容可能な」とは、本明細書において、合理的な利益/リスク比に見合った、過度の毒性、刺激、アレルギー反応もしくはその他の問題または合併症を伴わずにヒトおよび動物の組織と接触して使用するのに適した正当な医学的判断の範囲内にある化合物、担体、賦形剤、組成物および/または剤形を指す。
【0049】
「分岐点」とは、本明細書において、複数の親水性ポリマーセグメントを疎水性ポリマーセグメントの一方の末端と、または複数の疎水性ポリマーセグメントを親水性セグメントの一方の末端と接続するように働くポリマーナノ粒子の部分を指す。
【0050】
「グルココルチコイド」とは、本明細書において、HIF−1のレベルをおよび/またはそのプロモーター領域中に低酸素応答エレメントを含有する遺伝子の転写を刺激する能力を低減させる薬物を指す。
【0051】
本明細書において一般的に使用される「移植物」とは、移植の部位で長期間にわたって1種または複数種のグルココルチコイドを放出することによって治療的利益を提供するように、好ましくは、身体の特定の領域に注射または外科的移植によって、移植されるように構築されるか、大きさにされるか、または他の方法で構成されるポリマーデバイスまたはエレメントを指す。例えば、眼内移植物は、好ましくは、注射または外科的移植によって、眼の中に置かれるように、および1種または複数種のグルココルチコイドを長期間にわたって放出することによって1種または複数種の眼の疾患または障害を処置するために、構築されるか、大きさにされるか、または他の方法で構成されるポリマーデバイスまたはエレメントである。眼内移植物は、一般に、眼の生理学的条件と生体適合性であり、有害な副作用を引き起こさない。一般に、眼内移植物は、眼の視力を乱すことなく眼の中に置かれ得る。
【0052】
本明細書において定義される値の範囲は、範囲内のすべての値ならびに範囲内のすべての部分範囲を含む。例えば、範囲が0〜10の整数として定義される場合には、範囲は、範囲内のすべての整数および範囲内のありとあらゆる部分範囲、例えば、1〜10、1〜6、2〜8、3〜7、3〜9などを包含する。
【0053】
II.ポリマー−グルココルチコイド(Glucoglucocorticoid)粒子
一部の実施形態では、1種または複数種のグルココルチコイドは、眼への送達のためにポリマーマトリックス中に分散されるか、またはカプセル封入される。ポリマーマトリックスは、非生分解性または生分解性ポリマーから形成され得る;しかし、ポリマーマトリックスは、好ましくは、生分解性である。ポリマーマトリックスは、眼への送達のために移植物、マイクロ粒子、ナノ粒子またはそれらの組み合わせに形成され得る。投与すると、1種または複数種のグルココルチコイドが、ポリマーマトリックスの分解、ポリマーマトリックスからの1種もしくは複数種の阻害剤の拡散のいずれか、またはそれらの組み合わせの際に長期間にわたって放出される。ポリマーナノ粒子を用いることによって、より制御された薬物負荷および薬物放出プロファイルを有する粒子が形成され得る。
【0054】
一部の実施形態では、徐放性製剤は、1種または複数種のポリマーナノ粒子から形成された粒子を含有する。ポリマーナノ粒子は、1種または複数種のグルココルチコイドを含有するブロックコポリマーである。通常、ブロックコポリマーは、グルココルチコイド、1種または複数種の疎水性ポリマーセグメントおよび1種または複数種の親水性ポリマーセグメントを含有する。特定の場合には、1種または複数種の親水性ポリマーセグメントは、分岐点によって1種または複数種の疎水性ポリマーセグメントと結合している。ポリマーナノ粒子を用いることによって、より制御された薬物負荷および薬物放出プロファイルを有する粒子が形成され得る。さらに、コンジュゲートの溶解度は、可溶性薬物濃度、したがって、毒性を最小にするように制御され得る。
【0055】
ポリマーナノ粒子は、好ましくは、ホスフェート基またはカルボキシル基、最も好ましくは、エステルまたは他の加水分解性部分を含有するポリマーなどの生分解性ポリマーの末端のカルボキシ末端基と金属イオンのキレート化によって錯体形成している1種または複数種のグルココルチコイドを含有する。グルココルチコイドは、水溶性塩に誘導体化され、次いで、ポリマーナノ粒子中に組み込まれ得る。
【0056】
A.グルココルチコイド
グルココルチコイドは、副腎皮質によって産生され、炭水化物、タンパク質および脂肪代謝に関与し、抗炎症剤として使用される、ヒドロコルチゾンなどの抗炎症性ステロイド様化合物の群である。以下は、相対効力の順の一般的なグルココルチコイドの一覧である。入手可能なグルココルチコイドは、種々の効力を有し、例えば、1mgのデキサメタゾンは、25mgのヒドロコルチゾンと同程度に有効である。以下の表は、主な製品の相対効力を示す:
【化1】
【0057】
アクロメタゾン(aclometasone)、ブデソニド、クロベタゾール、クロベタゾン、デソニド、フルオシノロン、フルオコルトロンフルニソリド、フルチカゾン、メチルプレドニゾロン、モメタゾン、パラメタゾン、リメキソロンおよびチキソコルトールを含め、多数のその他のグルココルチコイドがある。移植片拒絶が絡むほとんどの状況は、デキサメタゾンまたはベタメタゾンなどのより強力な化合物を利用する。
【0058】
水溶性グルココルチコイド塩は、商業的に得ることもでき、または従来化学を使用して合成することもできる。好ましい塩として、リン酸デキサメタゾンナトリウムおよびリン酸ヒドロコルチゾンナトリウムなどのリン酸塩ならびにコハク酸ヒドロコルチゾンナトリウムおよびコハク酸メチルプレドニゾロンナトリウムなどのカルボン酸塩が挙げられる。
【0059】
B.ナノ粒子を形成するポリマー
ポリマーナノ粒子は、1種または複数種のポリマー、ホモポリマーまたはコポリマーを含有し得る。好ましい実施形態では、ポリマーは、生分解性ポリマーである。疎水性ポリマーが生分解性である場合には、ポリマー分解プロファイルは、in vivoでの活性剤の放出速度に影響を及ぼすように選択され得る。例えば、ポリマーは、7日から2年、より好ましくは、7日から56週間、より好ましくは、4週間から56週間、最も好ましくは、8週間から28週間の期間にわたって分解するように選択され得る。
【0060】
適した疎水性ポリマーの例として、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)およびポリ(乳酸−co−グリコール酸)などのポリヒドロキシ酸;ポリ3−ヒドロキシブチレートまたはポリ4−ヒドロキシブチレートなどのポリヒドロキシアルカノエート;ポリカプロラクトン;ポリ(オルトエステル);ポリ酸無水物;ポリ(ホスファゼン);ポリ(ヒドロキシアルカノエート);ポリ(ラクチド−co−カプロラクトン);チロシンポリカーボネートなどのポリカーボネート;ポリアミド(合成および天然ポリアミドを含む)、ポリペプチドおよびポリ(アミノ酸);ポリエステルアミド;ポリエステル;ポリ(ジオキサノン);ポリ(アルキレンアルキレート);疎水性ポリエーテル;ポリウレタン;ポリエーテルエステル;ポリアセタール;ポリシアノアクリレート;ポリアクリレート;ポリメチルメタクリレート;ポリシロキサン;ポリ(オキシエチレン)/ポリ(オキシプロピレン)コポリマー;ポリケタール;ポリホスフェート;ポリヒドロキシバレレート;ポリアルキレノキサレート;ポリアルキレンスクシネート;ポリ(マレイン酸)、ならびにそのコポリマーが挙げられる。
【0061】
好ましい実施形態では、ポリマーは、ポリ乳酸、ポリグリコール酸などのポリヒドロキシエステルまたはそれらのコポリマーである。グリコール酸対乳酸の比は、分解の速度を制御するために最適化され得る。
【0062】
ポリマーは、ポリ酸無水物であり得る。ポリ酸無水物は、脂肪族ポリ酸無水物、不飽和ポリ酸無水物または芳香族ポリ酸無水物であり得る。代表的なポリ酸無水物として、ポリアジピン酸無水物、ポリフマル酸無水物、ポリセバシン酸無水物、ポリマレイン酸無水物、ポリリンゴ酸無水物、ポリフタル酸無水物、ポリイソフタル酸無水物、ポリアスパラギン酸無水物、ポリテレフタル酸無水物、ポリイソフタル酸無水物、ポリカルボキシフェノキシプロパン無水物、ポリカルボキシフェノキシヘキサン無水物ならびに種々のモル比でのこれらのポリ酸無水物とその他のポリ酸無水物とのコポリマーのコポリマーが挙げられる。その他の適したポリ酸無水物は、米国特許第4,757,128号、同第4,857,311号、同第4,888,176号および同第4,789,724号に開示されている。ポリ酸無水物はまた、ポリ酸無水物ブロックを含有するコポリマーであり得る。ある特定の実施形態では、ポリマーは、ポリセバシン酸無水物である。ある特定の実施形態では、ポリマーは、ポリ(1,6−ビス(p−カルボキシフェノキシ)ヘキサン−co−セバシン酸)(ポリ(CPH−SA)である。ある特定の実施形態では、ポリマーは、ポリ(1,3−ビス(p−カルボキシフェノキシ)プロパン−co−セバシン酸)(ポリ(CPP−SA)である。
【0063】
疎水性ポリマーの分子量は、特定の適用にとって最適な薬物放出速度などの特性を有する粒子を形成するポリマーナノ粒子を調製するために変更され得る。ポリマーは、約150Da〜1MDaの分子量を有し得る。ある特定の実施形態では、ポリマーは、約1kDaから約100kDaの間、より好ましくは、約1kDaから約50kDaの間、最も好ましくは、約1kDaから約25kDaの間の分子量を有する。
【0064】
C.親水性ポリマー
ナノ粒子は、親水性ポリマーでコーティングされる。これらは、親水性で、生体適合性で(すなわち、顕著な炎症性応答または免疫応答を誘導しない)、非毒性のポリマーまたはコポリマーでなくてはならない。適したポリマーの例として、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ(プロピレングリコール)(PPG)などのポリ(アルキレングリコール)ならびにエチレングリコールおよびプロピレングリコールのコポリマー、ポリ(オキシエチル化ポリオール)、ポリ(オレフィンアルコール)、ポリ(ビニルアルコール)およびコポリマー、ターポリマーおよびそれらの混合物を挙げることができる。
【0065】
好ましい実施形態では、1種または複数種の親水性ポリマーセグメントは、ポリ(アルキレングリコール)鎖を含有する。ポリ(アルキレングリコール)鎖は、8から500反復単位の間、より好ましくは、40から500反復単位の間を含有し得る。適したポリ(アルキレングリコール)として、ポリエチレングリコール)、ポリプロピレン1,2−グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)、ポリプロピレン1,3−グリコールおよびそれらのコポリマーが挙げられる。ある特定の実施形態では、1種または複数種の親水性ポリマーセグメントは、PEG鎖である。このような場合には、PEG鎖は、米国特許第5,932,462号に記載されるものなど、直鎖である場合も、分岐鎖である場合もある。ある特定の実施形態では、PEG鎖は、直鎖である。
【0066】
1種または複数種の親水性ポリマーセグメントの各々は、約300Da〜1MDaの分子量を独立に有し得る。親水性ポリマーセグメントは、上記の分子量のいずれかの間の範囲の分子量を有し得る。ある特定の実施形態では、1種または複数種の親水性ポリマーセグメントの各々は、約1kDaから約20kDaの間、より好ましくは、約1kDaから約15kDaの間、最も好ましくは、約1kDaから約10kDaの間の分子量を有する。好ましい実施形態では、1種または複数種の親水性ポリマーセグメントの各々は、約5kDaの分子量を有する。
【0067】
すべての親水性ポリマーが有効であるわけではない。実施例によって実証されるように、好ましいポリマーとして、BASFによって販売されるPLURONIC(登録商標)F127がある。PLURONICS(登録商標)は、2つのポリエチレンオキシド(「PEO」)ブロックと接続している1つのポリプロピレンオキシド(「PPO」)ブロックから構成されるトリブロックコポリマーである。PEOブロックは、大部分は親水性であるので水性媒体中に十分に溶解するが、PPOブロックは、周囲温度で大部分は疎水性であるので溶解しない。
【0068】
III.ポリマーナノ粒子の合成
ポリマーナノ粒子は、当技術分野で公知の合成法を使用して調製され得る。ポリマーナノ粒子を調製するための代表的な方法論は、以下に論じられる。所与のポリマーナノ粒子を合成するための適当な経路は、ポリマーナノ粒子の構造、コンジュゲートを作り上げるポリマーの正体、活性剤の正体ならびに官能基の適合性と関連するので全体としての化合物の構造、保護基戦略および不安定な結合の存在などのいくつかの因子を考慮して決定され得る。
【0069】
1種または複数種のグルココルチコイドの制御された送達のためのポリマー移植物(例えば、ロッド、ディスク、ウェハーなど)、マイクロ粒子およびナノ粒子が提供され、マトリックス中に分散されるか、またはカプセル封入される。一部の実施形態では、粒子または移植物は、ポリマーマトリックス中に分散されるか、またはカプセル封入された1種または複数種のグルココルチコイドを含有する。
【0070】
粒子は、2種またはそれ超の異なるポリマーナノ粒子の混合物として提供され得る。例えば、粒子は、異なるグルココルチコイドを含有する2種またはそれ超のポリマーナノ粒子から形成され得る。その他の場合には、粒子は、グルココルチコイドの放出速度を変更するために、同一グルココルチコイドを含有する2種またはそれ超のポリマーナノ粒子から形成される。
【0071】
10nmから1000ミクロンの間の平均粒径を有する粒子は、本明細書において記載される組成物において有用である。好ましい実施形態では、粒子は、10nmから100ミクロンの間、より好ましくは、約100nmから約50ミクロンの間、より好ましくは、約200nmから約50ミクロンの間の平均粒径を有する。ある特定の実施形態では、粒子は、500から700nmの間の直径を有するナノ粒子である。粒子は、任意の形状を有し得るが、一般的には、球状の形状である。
【0072】
一部の実施形態では、1種または複数種のポリマーナノ粒子から形成される粒子の集団は、粒子の単分散集団である。他の実施形態では、1種または複数種のポリマーナノ粒子から形成される粒子の集団は、粒子の多分散集団である。1種または複数種のポリマーナノ粒子から形成される粒子の集団が粒子の多分散集団であるいくつかの場合には、粒径分布の50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%または95%超が、中央値粒径の10%内にある。
【0073】
好ましくは、1種または複数種のポリマーナノ粒子から形成される粒子は、その表面に、相当な量のPEGなどの親水性ポリマーを含有する。
【0074】
マイクロ粒子およびナノ粒子は、当技術分野で公知のポリマーマイクロ粒子またはナノ粒子を形成する任意の適した方法を使用して形成され得る。粒子形成に用いられる方法は、ポリマーナノ粒子またはポリマーマトリックス中に存在するポリマーの特徴ならびに所望の粒径およびサイズ分布を含めた種々の因子に依存する。いくつかのグルココルチコイドが、特定の溶媒の存在下で、特定の温度範囲において、および/または特定のpH範囲において不安定であるので、粒子中に組み込まれているグルココルチコイドの種類も、因子であり得る。
【0075】
粒子の単分散集団が望ましい状況では、粒子は、ナノ粒子の単分散集団を製造する方法を使用して形成され得る。あるいは、多分散ナノ粒子分布を製造する方法が使用され得、粒子は、所望の平均粒径および粒径分布を有する粒子の集団を提供するように、粒子形成後のふるい分けなどの当技術分野で公知の方法を使用して分離され得る。
【0076】
マイクロ粒子およびナノ粒子を調製するための一般的な技術として、それだけには限らないが、溶媒蒸発、ホットメルト粒子形成、溶媒除去、噴霧乾燥、相反転、コアセルベーションおよび低温注型が挙げられる。粒子形成の適した方法は、手短に以下に記載される。pH改変剤、崩壊剤、保存料および抗酸化剤を含めた薬学的に受容可能な賦形剤は、任意選択で、粒子形成の際に粒子中に組み込まれ得る。
【0077】
ポリマーナノ粒子は、好ましくは、ホスフェート基またはカルボキシル基、最も好ましくは、実施例に記載されるような、エステルまたは他の加水分解性部分を含有するポリマーなどの生分解性ポリマーの末端のカルボキシ末端基と金属イオンのキレート化によって錯体形成している1種または複数種のグルココルチコイドを含有する。グルココルチコイドは、水溶性塩に誘導体化され、次いで、ポリマーナノ粒子中に組み込まれ得る。
【0078】
眼内移植物は、球状または非球状の形状であり得る。球状形状の移植物については、移植物は、ニードルを用いる投与のためには約5μmから約2mmの間または約10μmから約1mmの間の最大寸法(例えば、直径)、外科的移植による投与のためには、1mm超または3mmもしくは最大10mmなどの2mm超を有し得る。移植物が非球状である場合には、移植物は、最大寸法を有し得、または最小寸法は、ニードルを用いる投与のためには約5μmから約2mm、または約10μmから約1mmの間、外科的移植による投与のためには1mm超または3mmもしくは最大10mmなどの2mm超であり得る。
【0079】
ヒトにおける硝子体眼房は、例えば、1〜10mmの長さを有する変動する幾何の相対的に大きな移植物を収容できる。移植物は、約2mm×0.75mm直径の寸法の円柱状ペレット(例えば、ロッド)であり得る。移植物は、約7mm〜約10mmの長さおよび約0.75mm〜約1.5mmの直径を有する円柱状ペレットであり得る。ある特定の実施形態では、移植物は、約0.5mmの直径、約6mmの長さおよびおよそ1mgの重量を有する押出フィラメントの形態である。一部の実施形態では、寸法は、ニードルによる眼内注射用にすでに認可された移植物であるか、またはそれと同様である:460ミクロンの直径および6mmの長さならびに370ミクロンの直径および3.5mmの長さ。
【0080】
眼内移植物はまた、硝子体中へなど、眼中への移植物の挿入および移植物のその後の適応の両方を容易にするために、少なくとも幾分か可撓性であるように設計され得る。移植物の総重量は、通常、約250〜5000μg、より好ましくは、約500〜1000μgである。ある特定の実施形態では、眼内移植物は、約500μg、750μgまたは1000μgの質量を有する。
【0081】
移植物は、当技術分野で公知の任意の適した技術を使用して製造され得る。移植物を調製するための適した技術の例として、溶媒蒸発法、相分離法、界面法、成形法、射出成形法、押出法、共押出(coextrusion)法、カーバープレス(carver press)法、打ち抜き法、熱圧縮およびそれらの組み合わせが挙げられる。移植物を製造するための適した方法は、移植物中に存在するポリマー/ポリマーセグメントの特性、移植物中に存在する1種または複数種のグルココルチコイドの特性ならびに移植物の所望の形状および大きさを含めた多数の因子を考慮して選択され得る。移植物を調製するための適した方法は、例えば、米国特許第4,997,652号および米国特許出願公開US2010/0124565に記載されている。
【0082】
特定の場合には、移植物製造の間の溶媒の必要性を避けるために、押出法が使用され得る。押出法を使用する場合には、ポリマー/ポリマーセグメントおよびグルココルチコイドは、製造するために必要な温度、通常、少なくとも約85℃で安定であるように選択される。しかし、ポリマー成分および1種または複数種のグルココルチコイドの性質に応じて、押出法は、約25℃〜約150℃、より好ましくは、約65℃〜約130℃の温度を用い得る。移植物は、移植物の表面のすべてまたは一部を覆うコーティングを提供するために共押し出しされ得る。
【0083】
IV.医薬製剤
医薬製剤は、1種または複数種の薬学的に受容可能な賦形剤と組み合わせて1種または複数種のポリマーナノ粒子を含有する。代表的賦形剤として、溶媒、希釈剤、pH改変剤、保存料、抗酸化剤、懸濁剤、湿潤剤、粘度調整剤、張度剤(tonicity agent)、安定化剤およびそれらの組み合わせが挙げられる。適した薬学的に受容可能な賦形剤は、好ましくは、一般的に安全と認識される(GRAS)材料から選択され、望ましくない生物学的副作用または不要な相互作用を引き起こさずに個体に投与され得る。
【0084】
A.さらなる活性剤
ポリマー粒子中に存在する1種または複数種のグルココルチコイドに加えて、製剤は、1種または複数種のさらなる治療剤、診断剤および/または予防剤を含有し得る。活性剤は、小分子活性剤または酵素もしくはタンパク質、ポリペプチドもしくは核酸などの生体分子であり得る。適した小分子活性剤として、有機および有機金属化合物が挙げられる。いくつかの場合には、小分子活性剤は、約2000g/mol未満、より好ましくは、約1500g/mol未満、最も好ましくは、約1200g/mol未満の分子量を有する。小分子活性剤は、親水性、疎水性または両親媒性の化合物であり得る。
【0085】
一部の場合では、1種または複数種のさらなる活性剤は、1種または複数種のポリマーナノ粒子から形成される粒子中にカプセル封入され得るか、分散され得るか、またはその他の方法で会合され得る。ある特定の実施形態では、1種または複数種のさらなる活性剤は、薬学的に受容可能な担体中に溶解または懸濁され得る。
【0086】
眼の疾患の処置のための医薬組成物の場合には、製剤は、1種または複数種の眼用薬物を含有し得る。特定の実施形態では、眼用薬物は、後眼部の疾患または障害を処置、予防または診断するために使用される薬物である。眼用薬物の限定されない例として、抗緑内障剤(anti−glaucoma agent)、抗血管新生剤、抗感染剤、抗炎症剤、増殖因子、免疫抑制剤、抗アレルギー剤およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0087】
代表的な抗緑内障剤として、プロスタグランジン類似体(トラボプロスト、ビマトプロストおよびラタノプロストなど)、ベータ−アドレナリン(andrenergic)受容体アンタゴニスト(チモロール、ベタキソロール、レボベタキソロール(levobetaxolol)およびカルテオロールなど)、アルファ−2アドレナリン受容体アゴニスト(ブリモニジンおよびアプラクロニジンなど)、炭酸脱水酵素阻害剤(ブリンゾラミド、アセタゾラミン(acetazolamine)およびドルゾラミドなど)、縮瞳薬(すなわち、副交感神経刺激薬、ピロカルピンおよびエコチオパートなど)、セロトニン作動薬、ムスカリン作動薬、ドーパミン作動性アゴニスト、およびアドレナリン作動性アゴニスト(アプラクロニジンおよびブリモニジンなど)が挙げられる。
【0088】
代表的な抗血管新生剤として、それだけには限らないが、ベバシズマブ(AVASTIN(登録商標))およびrhuFAb V2(ラニビズマブ、LUCENTIS(登録商標))などの血管内皮細胞増殖因子(VEGF)に対する抗体ならびにアフリベルセプト(EYLEA(登録商標))を含めた他の抗VEGF化合物;MACUGEN(登録商標)(ペガプタニムナトリウム(pegaptanim sodium)、抗VEGFアプタマーまたはEYE001)(Eyetech Pharmaceuticals);色素上皮由来因子(PEDF);セレコキシブ(CELEBREX(登録商標))およびロフェコキシブ(VIOXX(登録商標))などのCOX−2阻害剤;インターフェロンアルファ;インターロイキン−12(IL−12);サリドマイド(THALOMID(登録商標))およびレナリドミド(REVLIMID(登録商標))などのその誘導体;スクアラミン;エンドスタチン;アンギオスタチン;ANGIOZYME(登録商標)(Sirna Therapeutics)などのリボザイム阻害剤;NEOVASTAT(登録商標)(AE−941)(Aeterna Laboratories、Quebec City、Canada)などの多機能血管新生抑制剤;スニチニブ(SUTENT(登録商標))などの受容体チロシンキナーゼ(RTK)阻害剤;ソラフェニブ(Nexavar(登録商標))およびエルロチニブ(Tarceva(登録商標))などのチロシンキナーゼ阻害剤;パニツムマブ(VECTIBIX(登録商標))およびセツキシマブ(ERBITUX(登録商標))などの上皮増殖因子受容体に対する抗体、ならびに他の当技術分野で公知の抗血管新生剤が挙げられる。
【0089】
抗感染剤として、抗ウイルス剤、抗菌剤、抗寄生生物剤および抗真菌剤が挙げられる。代表的な抗ウイルス剤として、ガンシクロビルおよびアシクロビルが挙げられる。代表的な抗生物質剤として、ストレプトマイシン、アミカシン、ゲンタマイシンおよびトブラマイシンなどのアミノグリコシド、ゲルダナマイシンおよびハービマイシンなどのアンサマイシン、カルバセフェム、カルバペネム、セファロスポリン、バンコマイシン、テイコプラニンおよびテラバンシンなどのグリコペプチド、リンコサミド、ダプトマイシンなどのリポペプチド、アジスロマイシン、クラリスロマイシン、ジリスロマイシンおよびエリスロマイシンなどのマクロライド、モノバクタム、ニトロフラン、ペニシリン、バシトラシン、コリスチンおよびポリミキシンBなどのポリペプチド、キノロン、スルホンアミドおよびテトラサイクリンが挙げられる。
【0090】
一部の場合では、活性剤は、オロパタジンおよびエピナスチンなどの抗アレルギー剤である。
【0091】
抗炎症剤は、非ステロイド系およびステロイド系抗炎症剤の両方を含む。適したステロイド系活性剤として、グルココルチコイド、プロゲスチン、ミネラルコルチコイドおよびグルココルチコイドが挙げられる。
【0092】
眼用薬物は、その中性形態で、または薬学的に受容可能な塩の形態で存在し得る。一部の場合では、安定性の増強または望ましい溶解度または溶解プロファイルなどの塩の有利な物理的特性のうち1種または複数種のために、活性剤の塩を含有する製剤を調製するのに望ましいものであり得る。
【0093】
一般に、薬学的に受容可能な塩は、水中または有機溶媒中または2種の混合物中で、活性剤の遊離酸または塩基の形態を、化学量論的量の適当な塩基または酸と反応させることによって調製され得、一般に、エーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノールまたはアセトニトリルのような非水性媒体が好ましい。薬学的に受容可能な塩として、無機酸、有機酸、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩に由来する活性剤の塩、ならびに薬物の、適した有機リガンド(例えば、第四級アンモニウム塩)との反応によって形成される塩が挙げられる。適した塩の一覧が、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences、第20版、Lippincott Williams & Wilkins、Baltimore、MD、2000年、704頁に見いだされる。薬学的に受容可能な塩の形態で投与されることもある眼用薬物の例として、マレイン酸チモロール、酒石酸ブリモニジンおよびナトリウムジクロフェナクが挙げられる。
【0094】
一部の場合では、活性剤は、眼をイメージングするか、その他の方法で評価する診断剤である。例示的診断剤として、常磁性分子、蛍光化合物、磁性分子および放射性核種、X線イメージング剤および造影剤が挙げられる。
【0095】
ある特定の実施形態では、医薬組成物は、1種または複数種の局所麻酔剤を含有する。代表的な局所麻酔剤として、テトラカイン、リドカイン、アメトカイン(amethocaine)、プロパラカイン、リグノカインおよびブピバカインが挙げられる。一部の場合では、局所麻酔剤の分散を促進および改善するために、製剤にヒアルロニダーゼ酵素などの1種または複数種のさらなる薬剤も添加される。
【0096】
B.眼投与のための製剤
ポリマーナノ粒子は、好ましくは、眼への注射のための懸濁物として製剤化される。眼投与用医薬製剤は、好ましくは、1種または複数種のポリマーナノ粒子から形成される粒子の滅菌水性懸濁物の形態である。受容可能な溶媒として、例えば、水、リンガー溶液、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)および等張性塩化ナトリウム溶液が挙げられる。製剤はまた、1,3−ブタンジオールなどの非毒性の非経口的に受容可能な希釈剤または溶媒中の滅菌溶液、懸濁物またはエマルジョンであり得る。
【0097】
いくつかの場合には、製剤は、液体形態中に分配またはパッケージングされる。あるいは、眼投与用製剤は、例えば、適した液体製剤の凍結乾燥によって得られる固体としてパッケージングされ得る。固体は、投与の前に適当な担体または希釈剤を用いて再構成され得る。
【0098】
眼投与用溶液、懸濁物またはエマルジョンは、眼投与に適したpHを維持するのに必要な有効量のバッファーを用いて緩衝され得る。適したバッファーは、当業者に周知であり、有用なバッファーのいくつかの例として、酢酸塩、ホウ酸塩、炭酸塩、クエン酸塩およびリン酸塩バッファーがある。
【0099】
眼投与用の溶液、懸濁物またはエマルジョンはまた、製剤の等張性範囲を調整するために1種または複数種の張度剤も含有し得る。適した張度剤は、当技術分野で周知であり、いくつかの例として、グリセリン、マンニトール、ソルビトール、塩化ナトリウムおよび他の電解質が挙げられる。
【0100】
眼投与用の溶液、懸濁物またはエマルジョンはまた、眼用調製物の細菌汚染を予防するために1種または複数種の保存料を含有し得る。適した保存料は、当技術分野で公知であり、ポリヘキサメチレンビグアニジン(PHMB)、塩化ベンザルコニウム(BAK)、安定化されたオキシクロロ複合体(別名Purite(登録商標)としても知られる)、酢酸フェニル水銀、クロロブタノール、ソルビン酸、クロルヘキシジン、ベンジルアルコール、パラベン、チメロサールおよびそれらの混合物が挙げられる。
【0101】
眼投与用の溶液、懸濁物またはエマルジョンはまた、分散剤、湿潤剤および懸濁剤などの当業者において公知の1種または複数種の賦形剤を含有し得る。
【0102】
V.使用方法
1種または複数種のグルココルチコイドの送達のための徐放性投与製剤は、急性黄斑変性症などの血管形成、角膜移植片拒絶などの炎症または網膜炎と関連している患者において疾患または障害を処置するために使用され得る。投与すると、1種または複数種のグルココルチコイドは、治療的利益をもたらすのに十分に高いが、細胞毒性を避けるように十分に低い濃度で長期間にわたって放出される。
【0103】
1つの好ましい実施形態では、医薬組成物は、眼の新血管形成と関連している患者において疾患または障害を処置または予防するために投与される。
【0104】
別の好ましい実施形態では、製剤は、角膜移植片拒絶を処置または予防するために、結膜下(SC)注射によって投与され、結膜組織中に保持される。
【0105】
眼に投与される場合には、粒子は、低用量の1種または複数種のグルコステロイドおよび/または他の活性剤を長期間にわたって、好ましくは、3、7、10、15、21、25、30または45日よりも長く放出する。ポリマーナノ粒子の構造またはポリマーマトリックスの構成、粒子形態学および投与される粒子の投与量は、暗所視ERG b−波振幅の低減および/または網膜変性などの副作用を最小にしながら、眼に治療上有効な量の1種または複数種の活性剤を長期間にわたって投与するように調整され得る。
【0106】
製剤は、硝子体内注射(例えば、前部、中央または後部硝子体注射)、結膜下注射、前房内注射、耳側輪部(temporal limbus)を介する前眼房への注射、基質内注射、脈絡膜下腔への注射、角膜内注射、網膜下注射および眼内注射によって眼に局所投与され得る。好ましい実施形態では、医薬組成物は、硝子体内注射によって投与される。
【0107】
移植物は、当技術分野で公知の移植のための適した方法を使用して眼に投与され得る。ある特定の実施形態では、移植物は、22−ゲージニードルなどのニードルを使用して硝子体内に注射される。移植物を硝子体内に配置することは、移植物の大きさ、移植物の形状および処置されるべき疾患または障害を考慮して変更され得る。
【0108】
好ましい実施形態では、ナノ粒子は、硝子体内注射(例えば、前部、中央または後部硝子体注射)、結膜下注射、前房内注射、耳側輪部を介する前眼房への注射、基質内注射、脈絡膜下腔への注射、角膜内注射、網膜下注射および眼内注射によって眼に局所投与される。
【0109】
好ましい実施形態では、ナノ粒子は、新血管形成、移植片拒絶またはブドウ膜炎などの炎症を予防または減少させるのに有効な量で投与される。
【0110】
好ましい実施形態では、ナノ粒子は、1週間に1回、2週間に1回、4週間に1回、月に1回、2カ月に1回または3カ月に1回以下の頻度で投与される。
【0111】
一部の実施形態では、本明細書において記載される医薬組成物および/または移植物は、1種または複数種のさらなる活性剤と同時投与される。「同時投与」とは、本明細書において、1種または複数種のグルココルチコイドの徐放性製剤と、同一剤形内の1種または複数種のさらなる活性剤との投与ならびに同時にまたは本質的に同時の異なる剤形を使用する投与を指す。「本質的に同時」とは、本明細書において、一般に、10分以内、好ましくは、5分以内、より好ましくは、2分以内、最も好ましくは、1分以内を意味する。
【0112】
一部の実施形態では、本明細書において記載される医薬組成物および/または移植物は、眼の血管新生疾患または障害のための1種または複数種のさらなる処置と同時投与される。一部の実施形態では、本明細書において記載される医薬組成物および/または移植物は、ベバシズマブ(AVASTIN(登録商標))、ラニビズマブ、LUCENTIS(登録商標)またはアフリベルセプト(EYLEA(登録商標))のような1種または複数種の抗血管新生剤と同時投与される。
【0113】
好ましくは、粒子は、炎症を予防または低減するために有効量の1種または複数種のグルココルチコイドを長期間にわたって放出する。好ましい実施形態では、粒子は、有効量の1種または複数種のグルココルチコイドを少なくとも2週間の期間にわたって、より好ましくは、少なくとも4週間の期間にわたって、より好ましくは、少なくとも6〜8週間の期間にわたって放出する。一部の実施形態では、粒子は、有効量の1種または複数種のグルココルチコイドを3カ月またはそれ超の期間にわたって放出する。
【0114】
本発明は、以下の限定されない実施例の参照によってさらに理解される。
【実施例】
【0115】
(実施例1:グルココルチコイドの送達のためのPLGAナノ粒子の調製)
材料および方法
PLGAナノ粒子の調製
【0116】
蛍光マーカーとしてここで使用したAlexa Fluor555(AF555)カダベリンおよびAlexa Fluor647(AF647)カダベリン(Invitrogen、Carlsbad、CA)を、PLGA(MW3.2kDa、LA:GA=50:50)(SurModics Pharmaceuticals、Birmingham、AL)に化学的にコンジュゲートさせた。標識された、または標識されていないPLGAポリマーから構成されるナノ粒子は、溶媒拡散(またはナノ沈殿)法によって調製した。手短には20mgのポリマーを1mLのテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、700rpmで磁気撹拌下で40mlの超純水に滴下添加した。約1時間撹拌した後、溶液を30分間回転蒸発させて、残存するTHFを除去した。10,000gで25分間遠心分離することによって粒子を回収し、0.2mLの超純水に再懸濁した。PLURONICS(登録商標)F127コーティングされた粒子のために、ナノ沈殿の間に超純水を5% F127水溶液と置換した。F127(PLGA/F127)を用いてコーティングされたPLGAナノ粒子を、10,000gで25分間の遠心分離によって1% F127を用いて洗浄し、0.2mLの超純水に再懸濁した。ZETASIZER NANO(登録商標)ZS90(Malvern Instruments、Southborough、MA)を使用して、それぞれ動的光散乱およびレーザードップラー流量測定(laser Doppler anemometry)によって大きさおよびゼータ電位(表面電荷)を測定した。
【0117】
モデルナノ粒子の調製
大きさ100、200、500、1000nmの赤色蛍光COOH修飾PS粒子(Molecular Probes)および5μm(Bangs Laborites,Inc.)を、COOH−アミン反応によってメトキシ(MeO)−PEG−アミン(NH)(MW5kD;Creative PEGWorks)を用いて共有結合によって修飾した。PEG化PS粒子(PS−PEG)を徹底的に洗浄し、水に再懸濁し、使用の準備ができた状態で+4℃で保存した。表面電荷および流体力学直径に関してPS−PEG粒子を特徴付け、その物理化学的特徴を表3において報告した。
【0118】
DSPが負荷されたPLGAナノ粒子の調製
デキサメタゾン21−リン酸ナトリウム塩(DSP)(Sigma Aldrich、St.Louis、MO)を、修飾溶媒拡散法にしたがったF127コーティングを有するPLGAナノ粒子中にカプセル封入した。手短には、0.5mLの、10mgのDSPを含有する水溶液に1mLの0.5Mの酢酸亜鉛水溶液を添加することによって、DSP−亜鉛錯体を形成した。10,000gで5分間の遠心分離後、沈殿した錯体および50mgのPLGA(MW3.2kDa、LA:GA=50:50)を2.5mLのTHFに溶解し、続いて、20μLのトリエタノールアミン(TEOA、Sigma Aldrich、St.Louis、MO)を添加した。撹拌しながら、100mLの5% F127溶液中に混合物を滴下添加して、F127でコーティングした、DSPが負荷されたPLGAナノ粒子を形成した(DSP/PLGA/F127またはDSP−NP)。溶媒蒸発および回転蒸発によってTHFを完全に除去した後、ナノ粒子懸濁物に1mLの0.5Mエチレンジアミン四酢酸(EDTA、Sigma Aldrich、St.Louis、MO)水溶液(pH7.5)を添加して、亜鉛をキレート化し、カプセル封入されていないあらゆるDSP−亜鉛錯体を可溶化した。10,000gで25分間の遠心分離によってナノ粒子を回収し、1% F127を用いて2回洗浄し、0.2mLの超純水に再懸濁した。ナノ粒子の水力学的大きさおよび表面電荷を、上記のように特徴付けた。Hitachi H−7600透過型電子顕微鏡(株式会社 日立製作所、東京、日本)を使用して粒子形態学を可視化した。
【0119】
薬物負荷およびin vitro薬物放出研究
DSP/PLGA/F127ナノ粒子中のDSP含量を測定するために、およそ50μLのPLGAナノ粒子を凍結乾燥させ、秤量し、0.5mLのアセトニトリルに溶解した。その後、1mLの50mM EDTAを添加して、亜鉛をキレート化し、カプセル封入されたDSPを可溶化し、逆相HPLCによって溶液中のDSP濃度を測定した。均一濃度(isocratic)分離を、Pursuit 5 C18カラム(Varian Inc、Lake Forest、CA)および0.1%トリフルオロ酢酸(流量=1mL/分)を含有するアセトニトリル/水(35/65 v/v)からなる移動相を備えたShimadzu Prominence LCシステム(京都、日本)で実施した。カラム流出液を、241nmでUV検出によってモニタリングした。以下の方程式にしたがって、薬物負荷(LD)およびカプセル封入効率(EE)を算出した:
DL(%)=(ナノ粒子中のDSPの量/ナノ粒子の重量)×100
EE(%)=(実測された薬物負荷/理論上の薬物負荷)×100
【0120】
DSPのin vitro放出プロファイルを測定するために、400μLのナノ粒子懸濁物を、透析チューブセルロースメンブレン(MWカットオフ:10kDa、Sigma Aldrich、St.Louis、MO)中に密閉した。12mLの放出媒体(release media)(PBS、pH7.4)を含有する 50mLのコニカルチューブ中に、密閉された透析メンブレンを配置し、プラットフォームシェーカー(140rpm)上37℃でインキュベートした。所定の間隔で全放出媒体を回収し、12mLの新鮮PBSで置換した。回収された放出媒体中のDSP濃度を、上記のようにHPLCによって測定した。
【0121】
動物
8週齢の雄のSprague Dawley、LewisおよびBrown NorwayラットをHarlan(Indianapolis、IN)から購入した。in vivo安全性および保持研究にはSprague Dawleyラットを使用した。Lewisラットは、レセプター動物として使用し、Brown−Norwayラットは、ドナー動物として使用した。すべてのラットは、眼科学的研究における動物の使用に関して、視覚と眼科学に関する研究学会(Association for Research in Vision and Ophthalmology Resolution)にしたがってケアした。試験手順の前に動物に麻酔した。すべての実験プロトコールは、Johns Hopkins Animal Care and Use Committeeによって承認された。
【0122】
結膜下投与後のナノ粒子の保持
SC注射後のナノ粒子の保持を、Xenogen IVISスペクトル光学イメージングシステム(Caliper Life Sciences Inc.、Hopkinton、MA)での眼全体のイメージングによって調べた。ラットを、ケタミン(80mg/kg)およびキシラジン(8mg/kg)の混合物の筋肉内注射を用いて麻酔した。非分解性モデル粒子、赤色蛍光を有するPS−PEG NP(動的直径およそ100nm、200nm、500nm、1μmおよび5μm)を、26ゲージニードルを使用してSC注射(50μL)によってSprague Dawleyラットに注射した。眼瞼を、イメージングの間に45G開瞼器(Focus Ophthalmics、LLC、Ontario、CA)を用いて広げた。注射部位における総蛍光カウントを、550nmの励起波長および570nmの発光波長で記録した。イメージは、Living Imageソフトウェアによって分析し、0時間でナノ粒子をSC注射した眼と比較することによってナノ粒子の保持を定量化した。処置を施さなかったラットの眼をベースラインとして使用した。
【0123】
SC注射後の生分解性PLGA/F127ナノ粒子の保持は、上記と同一の方法で実施し、分析した。化学的にコンジュゲートされたAlexa Fluo 647(AF647)色素を有するPLGA/F127ナノ粒子を使用し、640nmの励起波長および680nmの発光波長を用いて眼全体をイメージングした。
【0124】
負荷されていないPLGAナノ粒子のin vivo安全性プロファイル
F127コーティングされた、およびコーティングされていない両方の空のPLGAナノ粒子を、眼あたり1mgの用量で SC注射によって生理食塩水(50μL)中で投与した(n=9)。対照眼は、生理食塩水を用いて処置した(n=9)。2日、7日および14日の時点で、動物を屠殺し、眼全体を結膜組織と一緒に、固定化およびH&Eを用いる染色後に組織学研究のために回収した。
【0125】
SC注射後のin vivoでの眼のDSPレベル
ラットにおいてSC注射後に眼のDSPレベルを検出するために、F127コーティングされたDSPが負荷されたPLGAナノ粒子(DSP−NP)の調製の間に、[3H]標識されたDSPをDSPでスパイクした(10μCi:1mg DSP)。ナノ粒子を、20μCi/mLで生理食塩水に懸濁した。20μCi/mLの遊離DSP溶液を、同一ブレンド比で調製した。40μL(眼あたり約0.8μCi)の同一製剤を、同一動物(Sprague Dawleyラット)の両眼に注射した。示された時間間隔、注射後2時間、1日、3日、5日および7日で、ラットをケタミン/キシラジン溶液の筋肉内注射によって麻酔した。尾静脈から2滴の血液を回収した後、動物を屠殺した。
【0126】
ラットから結膜組織とともに眼球を注意深く採取し、PBSを用いてすすぎ、Kimwipeティッシュによって乾燥させた。前眼房液(anterior chamber humor)、角膜、硝子体、網膜および残存する眼球組織を注意深く解剖し、回収した。角膜および網膜組織の両方を、PBSを用いてすすぎ、Kimwipeティッシュを用いて乾燥させた。すべてのサンプルを秤量し、2mLのSolvableを用い、50℃で終夜インキュベートすることによって溶解した。0.2mlのHおよび20μLの0.5M EDTAを用いて血液サンプルを漂白した。10mlのUltimold goldシンチレーション媒体を添加し、その後、シンチレーションカウンターで放射能をカウントした。結果は、注射された用量のパーセンテージとして表し、データ点あたりの4個の眼(2匹の動物)の平均±sdである。血液中のDSPのレベルは、時点あたりの2匹の動物の平均とした。眼周囲組織の注射された用量の総パーセンテージおよび1mg(または1mL)の組織あたりの放射能を算出した。
【0127】
角膜移植術
ラットを用いて実施したすべての手順は、Johns Hopkins University Animal Care and Use Committeeによって承認された。Brown−Norwayドナーラットは、屠殺し、4.0mmトレフィンを用いて両眼の中心角膜ボタンを採取し、使用の準備ができた状態で生理学的溶液中で維持した。手術は、手術用顕微鏡下で角膜外科医(QP)によって実施した。角膜レシピエントLewisラットを、ケタミン(80mg/kg)およびキシラジン(8mg/kg)の混合物の筋肉内注射を用いて麻酔した。手術前に総瞳孔散大のためにLewisラットで0.5%トロピカミド点眼薬の反復点眼を使用した。穿刺術を実施し、その後、穿頭術(trephinization)を実施し、前眼房をヒアルロン酸で満たした。3.5mmトレフィンを用いてレセプターLewisラットから角膜ボタンを採取した。ドナー角膜ボタンを、8縫合点を用いてレセプター角膜に縫合した。
【0128】
全層角膜移植術(PK)後の手術後処置
全層角膜移植術の直後に、動物を無作為に5群に分けた:群1(4匹のラット)は、50μLの生理食塩水の結膜下注射を受け、群2(5匹のラット)は、50μlの空のNPのSC注射を受け、群3(5匹のラット)は、1mg/mLの濃度の50μLのDSP溶液のSC注射を受け、群4(6匹のラット)は、1mg DSP/mLの濃度の50μLのDSPが負荷されたナノ粒子(DSP−NP)のSC注射を受けた。すべての群の動物が、移植片の不全または研究のエンドポイント(9週間)まで、週に1回、同一処置を受けた。
【0129】
群1および群2について術後(PO)2週間で、群3についてPO4週でおよび群4についてPO9週で2人の眼科医(QPおよびLT)によって、細隙灯顕微鏡を用いて臨床観察を実施した。角膜移植片の検査のために3種のパラメータを評価した(角膜透明度、浮腫および新血管形成)。パラメータのスコアリングは、以下に示されている。
【0130】
眼内圧は、PO2日、術後1週間、2週間、4週間、6週間、8週間および9週間でモニタリングした。各眼について記録されたIOPは、成功裏の3つの測定値の平均である。終了時点で動物をCOによって屠殺し、PK術を施した眼を眼球摘出した。眼組織を、10%ホルマリンを用いて24時間固定し、その後、パラフィン中に包理した。切片(5μm)を視神経および角膜の方向に切り出し、H&Eを用いて染色した。
【0131】
統計分析
データの統計分析は、一元配置分散分析(ANOVA)と、それに続くチューキー検定によって実施した。差は、P<0.05のレベルで統計的に有意であると考えられた。
【0132】
結果
DSPが負荷されたPLGAナノ粒子の調製および特徴付け
疎水性デキサメタゾンをPLGAナノ粒子中にカプセル封入することは、デキサメタゾンおよびPLGAの不適合性のために困難である。水溶性プロドラッグ、デキサメタゾン21−リン酸二ナトリウム(DSP)は、in vivoで親薬物デキサメタゾンに変換され得、主に、眼組織を含めたすべての臓器中に存在するホスファターゼによって促進される。水溶性DSPは、PLURONICS(登録商標)F127の存在下でPLGAナノ粒子中に亜鉛とともに効率的に同時カプセル封入される。DSPが負荷されたPLGAナノ粒子(DSP−NP)の物理化学的特性は、表3に示されている。DSP−NPは、−5mVの表面電荷を示し、これは、高密度なPEGコーティングを示し、疎水性ナノ粒子上のPLURONICS F127の強力な結合によるものである。DSP−NPは、TEM観察によって確認される球状の形態であった。DSP−NPは、約72%のカプセル封入効率に相当する約12% w/wの高薬物負荷を示した。DSP−NPからのDSPの放出は、最大15日持続的であり、負荷されたDSPのほぼ80%が、最初の7日以内に放出された(図1)。亜鉛が、PLGA上の末端カルボキシル基と薬物分子上のホスフェート基の間とのイオン橋の形成のために、カプセル封入効率を高め、PLGAナノ粒子からの水溶性グルココルチコイドの持続放出も促進すると考えられた。
【表1】
【0133】
SC投与後のナノ粒子の眼の保持
蛍光色素標識されたナノ粒子のSC注射を施した正常なラット眼の蛍光イメージは、ラットへのSC注射後の生体不活性PEGコーティング(PS−PEG)を有する非分解性ポリスチレン粒子の保持を示した。PS−PEG粒子の保持は、Xenogen IVISスペクトル光学イメージングによって定量化した。ライブイメージングを使用して、ラットにおけるSC投与後のナノ粒子の保持を定量化した。第1に、ナノ粒子の保持に対するサイズ効果を調べるために、非分解性PS−PEG粒子を適用した。100nm、200nm、500nm、1μm および5μmのサイズを有するPS−PEG粒子はすべて、高密度のPEGコーティングを示すほぼ中性の表面電荷を示した。PS−PEG粒子を、SC注射によってラットに投与し、ライブイメージングを用いて蛍光シグナルを定量化した。100nm、200nmおよび500nmのサイズを有するPS−PEG粒子はすべて、SC注射後最初の6時間の間に、蛍光シグナルのおよそ60%の減少を示した。後に、残りの2カ月の保持研究について一定レベルの蛍光が観察され、これは、100nmほどの小さい粒子についてSC注射後にこれらの非分解性粒子の一定の保持を示した。大きな粒子(1μmおよび5μm)については、全保持研究によって粒子のほぼ100%の保持が観察された(図2)。しかし、26ゲージのニードルを通して大きな粒子を注射することはより困難であった。これらの粒子がPEG化され、注射前に十分に懸濁されても、ナノ粒子のある程度の沈降および凝集が観察された。
【0134】
AF−647で標識されたPLGA/F127 NPのSC注射後の種々の時点での代表的な蛍光イメージおよびラット眼の保持曲線を使用して、SC注射後の生分解性PLGA/F127ナノ粒子(186nm)の保持を算出した。蛍光色素を、PLGAに化学的にコンジュゲートさせ、その後、PLGA/F127ナノ粒子を調製した。蛍光シグナルは、PO30日後であっても検出された。全30日の保持研究の間にシグナルの段階的減少が観察された。蛍光シグナルの10%未満が、PO8日に保持されていた。
【0135】
SC注射後のPLGAナノ粒子の眼の安全性
生理食塩水、PLGA/F127およびコーティングされていないPLGAナノ粒子のSC注射を用いて処置されたラット角膜および結膜組織の代表的なイメージのPO2日、7日および14日でのサンプル角膜組織学は、PLGA/F127 NPおよびPLGA NPについてPO2日に注射領域に密接する結膜組織が、慢性炎症を有すること(グレード1)および慢性炎症が、PO7日およびPO14日で段階的に消失した(グレード0〜1)ことを示した。生理食塩水対照群について同様の炎症反応が観察された。生理食塩水注射は、PO2日に軽度の慢性炎症(グレード1)を示し、PO7日およびPO14日に回復した(グレード0〜1)。(Pathologist Dr.Charles Eberhartによって観察され、グレード付けされ、炎症の全グレードは、0〜3、炎症なし〜重度の炎症である)。
【0136】
空のナノ粒子担体のin vivo毒性を決定するために、健常なSprague DawleyラットにSC注射によって、生理食塩水に懸濁された、PLGA(PEGコーティングなし)、PLGA/F127(高密度のPEGコーティング)ナノ粒子を投与した。組織学的検査を適用して眼組織における炎症反応を決定した。生理食塩水対照群を含めたすべての注射群について、2日目の結膜組織において軽度の炎症のみが観察された。7日目および14日目に、F127コーティングを有するおよび有さないすべてのナノ粒子は、結膜、角膜および網膜を含めたすべての眼組織において炎症を示さなかった。生理食塩水対照と同様に、PLGA/F127ナノ粒子は、良好な安全性プロファイルを示し、2日目、7日目および14日目に、ラット眼へのSC注射後に極めて軽度の炎症を有する〜炎症なしであった。すべての群について、網膜、前眼房および角膜を含めたその他の眼組織において炎症なしが観察された。結果は、図3に示されている。
【0137】
SC投与後のDSP−NPは、眼組織におけるDSPレベルを持続させた
DSP不含薬物またはDSPが負荷されたPLGA/F127ナノ粒子(DSP−NP)(両方とも、約0.08mgのDSPを含有する)のいずれかの単回SC注射後に、DSPの眼組織レベルを比較した。図4A〜4Dは、ラットへの皮下投与後の遊離DSP溶液およびDSP−NPの薬物動態学(時間(日数)をわたってのDSP/ml)のグラフである。図4Aは、注射部位であり;図4Bは、眼房水中であり;図4Cは、硝子体液中であり;図4Dは、血液中である。
【0138】
PO2時間で結膜組織で、遊離DSP溶液の総用量のおよそ0.4%が保持され、PO1日でDSPはほとんど検出できなかった。比較すると、DSP−NP群は、PO2時間で結膜組織に保持された総用量のほぼ65%を示し、結膜組織での保持されたDSPレベルは、PO7日で5%に段階的に低下した。眼組織、眼房水、硝子体、網膜および角膜を分析することによって、眼組織のDSPレベルは、極めて迅速に減少し、DSP遊離薬物のSC注射のベースラインに達することがわかった。DSP−NPのSC注射は、眼房水および硝子体でのDSPの高レベルを最大PO7日に大幅に延長した。網膜および角膜のDSPレベルは、DSPおよびDSP−NP群の両方について極めて低かった。DSPレベルはまた、種々の時点で採取された血液サンプルにおいて測定された。DSP−NP群は、PO2時間からPO7日で一貫して低レベルのDSP(1mlあたり約50ngのDSP)を示した。比較すると、DSP群は、PO2時間で血液1mlあたり350ngほどの高いDSPを示し、次いで、ベースラインまで迅速に減少した。すべての組織においてH−DSPの放射能を測定することによってDSPレベルを定量化した。いくつかのデータ点で値がないことは、レベルが検出可能ではないことを意味する。これは、図5に示されている。
【0139】
SC投与後のDSP−NPは、角膜移植片拒絶を予防した
ナノ粒子のSC注射を施した移植された角膜の手術後細隙検査を実施した。生理食塩水のSC注射およびPLGA/F127(NP)のSC注射を施した群について、PO2週間ですべての移植片が拒絶された。DSP(D)のSC注射を施した群について、PO4週間ですべての移植片が拒絶され、DSP/PLGA/F127(DSP−NP)のSC注射を施した場合、PO9週間の研究終了時点でさえすべての移植片が澄明でとどまった(E)。
【0140】
角膜透明性、浮腫および新規血管に関して終了時点で、生理食塩水、NP、DSPおよびDSP−NPのSC注射を用いて処置された移植片を臨床的に評価した。結果は、図6および7に示されている。DSP−NPについて、透明度および浮腫に関して図6にバーが示されていないことは、移植片が完全に透明であり、浮腫を有さないことを意味する。SC注射後のPO2週での生理食塩水、PO2週での空のNP、PO4週での遊離DSPおよびPO9週でのDSP−NPの処置後の移植された角膜の組織学的イメージを実施した。外科的手順は、経験を積んだ眼科医によってすべて成功裏に実施され、手術合併症は起こらなかった。PKの直後に、動物を無作為に4群に分け、各群への処置を、生理食塩水、NP、DSPおよびDSP−NPのSC注射によって開始した。臨床観察で移植片をスコア化するために、角膜透明度、浮腫および新血管形成を含めた3種のパラメータを使用した。手術後(PO)2週で、生理食塩水対照およびNP対照群は、重度浮腫を示し、角膜移植片は、不透明であり、多量の新規血管が、縫合の周囲だけでなく、角膜移植片中にも形成された。しかし、DSPの毎週の注射を用いて処置された移植片は、有意に少ない浮腫(p<0.0001)および少ない新血管形成(p<0.001)を示した。DSP群における角膜移植片は、生理食塩水対照およびNP対照群と同程度に不透明であった。DSP−NP処置群は、角膜の透明度、浮腫および新血管形成に関して有意により良好な結果を示した。DSP−NP処置群について浮腫はなく、6匹のラットにおいてすべての角膜移植片は、全9週間の研究を通じて澄明であった。
【0141】
縫合の周囲に2、3の新血管が生じたが、DSP−NP群における新血管形成は、その他の3群すべてよりも有意に少なかった(p<0.05)。重度浮腫および角膜透明度で重度の不透明によって示される完全な角膜移植片の不全が観察された場合には、動物を屠殺した。
【0142】
生理食塩水対照、空のNP、遊離DSPおよびDSP−NPのSC注射を用いて処置された移植された角膜移植片の生存曲線は、図7に示されている。9週間にわたる同一サンプルの眼内圧が、図8に示されている。完全移植片拒絶は、生理食塩水対照およびNP対照群についてPO2週で起こった。DSP遊離薬物の毎週のSC注射によってわずかな改善が達成され、角膜移植片の生存率は、PO2週およびPO3週でそれぞれ100%および80%であった。しかし、DSP群のすべての角膜は、PO4週では依然として拒絶された。DSP−NP処置群について有意により高い生存率が観察され、研究の最後(PO9週)に100%の生存率であった。PO9週で、DSP−NP群の角膜移植片は、すべて澄明、透明で、角膜の拒絶エピソードのなんの手がかりもなかった。
【0143】
終了点(生理食塩水およびNP群についてはPO2週、DSP群についてはPO4週およびDSP−NP群についてはPO9週)で獲得された角膜組織の組織学的検査は、生理食塩水、NPおよびDSP群の角膜組織は、すべて腫大しており、正常な健常角膜よりも厚かったことを示した。3群すべてについて角膜組織において好中球およびマクロファージが観察された。3種の対照群すべての移植片の明らかな内皮細胞死が観察され、角膜移植片の上皮層は、3種の対照群すべてでその完全性を失った。比較すると、DSP−NP処置群の角膜は、無傷の上皮層、間質および内皮層を有する完全角膜構造を示し、角膜組織の腫大は存在しなかった。最も重要なことに、DSP−NP処置角膜において炎症性細胞は見られず、移植された角膜が、研究全体の間にSC注射によって、全機能を有して、DSP−NP処置後に生存したことを示し、移植片は、正常として機能し始めた。
【0144】
同一群について14日にわたる角膜新血管形成は、図9Aおよび9Bに示されている。
【0145】
結果の要約
長期間にわたり免疫抑制剤を提供し得る持続放出プラットフォームは、臨床適用に都合がよく、患者コンプライアンスを改善し、副作用を低減する。ナノ粒子は、薬物の放出を持続させ得、硝子体内注射、局所投与および結膜下注射を含めた種々の経路によって治療剤を眼に送達するために広く使用されている。結膜下ナノ粒子は、治療剤を、適用に応じて数日間から数カ月間放出を持続させると示された。放出速度は、異なるポリマーの選択または製剤化における変化によって修飾され得る。角膜拒絶を予防するためのグルココルチコイドの持続放出のための、高密度PEGコーティングを有する生分解性ナノ粒子プラットフォームが開発された。F127などの特定のPLURONICS(登録商標)は、PLGAナノ粒子上に容易に吸着されて、高密度PEGコーティングを形成し得、これが粒子を生体不活性にする。眼は極めて感受性の臓器であり、投与された眼科学的製剤によって刺激、炎症反応が誘導され得、これは、患者の不快感を引き起こし、さらには重篤な眼障害をもたらし得る。したがって、免疫抑制剤の送達を持続させるための安全なプラットフォームおよび経路は有利であり得る。
【0146】
PLGA/F127の薬物送達プラットフォームは、両方とも、FDAによって一般的に安全と認識される(GRAS)材料として分類され、眼科学的製剤を含め、種々の医薬製剤における長い使用歴を有するPLGAおよびF127を含む。しかし、ナノ粒子の眼科使用に関する安全性問題は、依然として大きな懸念事項のままである。現在の研究では、PLGA/F127群の炎症反応は、すべての調べた時点(PO2日、7日および14日)を通じて生理食塩水対照群のSC注射に匹敵した。健常なラットは、SC注射後最初の2日の間に、SC注射後の軽度の眼の炎症を誘発したが、これは、7日内に減少する。炎症を低下するためのナノ粒子上へのF127からの高密度コーティングの効果が、BALB/Cマウス肺への吸引およびCF−1マウスへの膣投与で報告されている。F127を用いてコーティングされたおよびコーティングされていないPLGAナノ粒子のSC投与では、肺および膣管における研究とは異なり重度炎症は観察されなかった。SC投与の眼周囲結膜組織(主に、筋組織および結合組織から構成される)は、肺気道および膣管に関与する上皮と同程度に感受性ではない場合がある。異なるコーティングを有するPLGAが他の眼部分に適用される場合には、安全性特性は変わり得る。F127コーティングは、SC投与用のPLGAナノ粒子により多くの安全性の利益を加えない場合もあるが、F127の使用は、コーティングされていないPLGA NPと比較して、DSP−NPの収量を大いに増強する。ナノ粒子収集の際にF127コーティングを有さないPLGA NPについて大きな凝集が起こった。
【0147】
非分解性モデルPS−PEGナノ粒子は、SC注射後に最大2カ月間保持され得る。100nm、200nmおよび500nmのPS−PEGは、SC注射後、最初の6時間で40〜60%の低下を示し、これは注射後の漏出に起因し得る。50μLの容量の単回注射は、ラット結膜下腔には多すぎる可能性がある。ナノ粒子上の親水性PEGコーティングは、組織との接着がないために注射部位を通る粒子の漏出またはトランスロケーションをさらに助け得る。200nmおよび2μmの大きさを有する非PEG化疎水性PS粒子(カルボキシレート修飾)は、20〜30μLの容量でのSC注射後に結膜下組織において永久に保持されることが報告されている。より小さい注射容量および疎水性粒子の性質は、ナノ粒子のより少ない漏出または漏出がないことをもたらし得る。大きな粒子(1μmおよび5μm)について極めて同様の結果が観察され、眼の保持の極めてわずかな減少がモニタリングされた。大きな粒子は沈降が容易であり、それらは、注射された水溶液が漏出した場合に結膜組織内で遮断され得、表面特性はその保持には多すぎて変化しない。生分解性PLGAナノ粒子は、SC注射後最初の6時間で同様の傾向を示し、用量のほぼ40%が減少したが、蛍光シグナルは、シグナルが完全に完全に消滅するまで15日間減少し続け、これは非分解性の200nmのPS−PEGナノ粒子とは異なっていた。蛍光シグナルの段階的減少は、ポリマーの分解およびまた化学的にコンジュゲートされた蛍光色素の放出に起因し得る。注射条件の最適化を通して、治療薬の持続放出のために、適した量のナノ粒子/マイクロ粒子がSC腔中に成功裏に投与され得る。
【0148】
DSPが、前眼房に、さらに硝子体に長期間効率的に送達されることを確認するために、健常ラットにおいてトリチウム標識されたDSPを有するDSP−NPを用いて眼の薬物動態研究を実施した。遊離DSPを対照として使用した。Weijtensおよび共同研究者は、SC注射は、眼球周囲注射または経口用量のいずれかと比較して、患者の眼の前眼部および後眼部の両方にDSPを送達する最も有効な方法であることを見いだした。これまでの報告は、DSPのSC注射が、PO2〜3時間でピーク硝子体デキサメタゾン濃度をもたらすことを示した。現在の研究では、ラット眼における眼房水および硝子体のDSPのピーク濃度は、遊離DSPおよびDSP−NPの両方について注射の2時間後に観察された。極めて明確な傾向が、この研究に基づいて正確なTmaxは明らかではないが、高濃度のDSPが、注射後最初の2時間内に極めて迅速に達成されたことを示した。DSPの結膜下注射は、点眼薬と比較して前眼房および硝子体中に残存するDSPをもたらす。点眼薬を用いる頻繁な投薬を用いた場合、DSPの硝子体中への透過は、無視できるものであり、前眼房におけるDSP濃度は、SC注射よりもかなり低い。しかし、DSP遊離薬物のSC投与は、6時間未満の前眼房における有効なDSP濃度しか提供し得ない。前眼房および硝子体におけるDSPレベルは、SC注射後PO1日でほぼベースラインに大きく低下した。DSP−NPのSC注射後PO1日での前眼房および硝子体両方におけるDSPの濃度は、それぞれ5157±3952ng/mLおよび1286±851ng/mLであった。前眼房および硝子体両方における高濃度のDSPは、SC投与後PO7日でDSP−NPについて依然として検出可能であったが、DSPのSC投与のレベルは、検出可能ではなかった。
【0149】
血行性経路、経強膜経路および経角膜経路は、SC注射後の前眼房およびさらには硝子体へのDSPの透過に寄与し得る。一部は、最初の6時間の間のSC注射後のナノ粒子の漏出の可能性によるものであり得る。親水性DSPの水溶液は、注射部位から同様に漏出し得、これは、注射されたDSPの保持時間を低減するが、SC注射後最初の数時間での涙液膜でのDSPレベルを増大し、これは、眼への経角膜経路の薬物送達を増強し得る。SC注射は、血管に対する薬物の曝露領域を増大し、これは、薬物の血液循環への全身性取り込み(systemic update)を増強した。DSPのSC注射の血液DSPレベルは、前角膜表面での漏出した高DSP濃度と一緒に、PO2時間で極めて高く、これは、DSP−NP注射よりも8倍超高かった。DSP−NPは、SC注射後に遊離DSP溶液よりも良好な保持を示し、DSP−NPからDSP薬物は持続的に放出された。
【0150】
要約すると、SC注射後のDSP−NPについて、眼内組織においてだけでなく血液中でも一定レベルのDSPが達成されている(DSP−NPのSC注射については、一貫して低レベルの血液DSPレベル)。高い血中濃度を避けることは、ステロイドの全身性副作用の機会を低減するのに役立ちうる。
【0151】
注射された空のPLGA/F127ナノ粒子の約20%が、PO7日で結膜組織中に保持され、ナノ粒子からの蛍光レベルの段階的低減は、ナノ粒子の分解およびナノ粒子中のPLGAからの蛍光色素の切断に起因し得る。100%から60%への第1の大きな低下は、主に注射されたナノ粒子の漏出に起因し得るが、この低下は、眼組織における所望の一定の高レベルのDSPには影響を及ぼさなかった。注意深い投与および注射容量の低減によって、SC注射からのナノ粒子の漏出は、最小化され得る。角膜、眼房水、硝子体および網膜の解剖後の眼球外組織での同様のDSPレベルの段階的低下も観察された。これは結膜組織中のDSP−NPの保持後のナノ粒子からのDSPの持続放出に起因し得る。
【0152】
DSPは、眼房水および涙液膜からの物理的に吸収されるDSPではなく、経角膜DSPによって表されるように、においてのみ検出した。角膜は、上皮、間質および内皮層を含む堅固な組織である。適した低分子量および親水性を有する薬物のみが、角膜を透過できる。DSPは、経角膜透過に適していない。したがって、涙液膜でのDSP濃度が極めて高い場合に、最初のほんの数時間でのみ、角膜組織内で低レベルのDSPを検出できる。経角膜透過以外の経路が、SC注射後の眼内組織におけるDSPの高レベルに寄与し得る。
【0153】
DSPの網膜への透過は無視できる。グルココルチコイドが、ほとんどのサイトカインの発現および作用を有効に阻害し得ることは周知であり、またT細胞アポトーシスを誘導するとわかっている。通常のPK後に角膜拒絶を予防するために、長期間のグルココルチコイド点眼薬が必要である。グルココルチコイド点眼薬の長期間の使用は、安全性の問題を生じさせ得、また患者コンプライアンスの課題であり得る。本明細書において記載される研究は、週に1回の、SC注射用のDSP−NP製剤が、角膜同種移植片拒絶の有効な予防を達成するのに有効であることを示す。DSP−NPのSC注射を用いる局所処置について観察された高い有効性が、AC液において見られた高レベルのDSPと一致していた。対照、DSPおよびPLGA/F127 NP群と比較すると、DSP−NP処置群1は、組織学的研究において炎症性細胞を欠いていた。炎症性細胞は、IL−2、TNF−a、VEGFを含めた種々のサイトカインを産生し得る。IL−2、TNF−aは、主要組織適合性複合体II抗原発現を増大し、マクロファージおよびTリンパ球を活性化して、より多くのサイトカイン放出につながり、免疫拒絶を引き起こし得る。SC注射後のDSP−NPからの高レベルのDSPの持続放出は、対照群と比較して、炎症の大きな阻害および角膜への新規血管成長の遅延に寄与した。角膜の無血管性は、角膜移植でその免疫特権を有する状態を維持するために重大であり、新血管形成は、角膜拒絶の駆動力であると考えられた。DSPのSC注射は、角膜同種移植片の新血管形成の阻害で幾分かの効果を有していたが、週に1回の頻度でのDSPのSC注射からのDSPレベルは、新規血管の成長を完全に抑制するには十分ではない。デキサメタゾンは、より高い抗炎症性効力を示すが(プレドニゾンと比較して7:1)、SC注射後の高DSPレベルのより短い保持が、その治療効力を依然として大きく損なった。
【0154】
眼内圧増大は、DSP−NPのSC注射について全9週間の研究の間観察されなかった。カプセル封入されたDSPの大部分、約80%は、in vitro放出研究において最初の1週間で放出され、注射後1週間で残存するDSPは、およそ5%に低下した。したがって、何らかの副作用が観察されるまたはIOPが増大する場合には、DSPは、DSP−NPのさらなるSC投与をなくすことによって容易に停止され得る。他のデポーデバイスと比較すると、薬物送達デバイスを除去するためにさらなる手術が必要ではない。1週間間隔は、新血管形成を低減し、移植片角膜を澄明に維持するのに有効であった。これを臨床上実現可能な治療選択肢にするためには、この間隔を例えば1カ月に延長する必要があり得る。
【0155】
水溶性グルココルチコイドであるリン酸デキサメタゾンナトリウムが負荷された生分解性PLGA/F127ナノ粒子(DSP−NP)を成功裏に構築し、DSP−NPは、最大7日間持続的にDSPを放出し得る。結膜組織でのナノ粒子の長期の保持は、ラットでのSC注射によって達成され、眼組織で一定に高いDSPレベルが測定された。DSP−NPのSC注射は、全9週間の研究によって角膜同種移植片拒絶を有効に予防したが、遊離DSPを用いる対照群は、ほんの4週間で移植片の不全をもたらした。この戦略は、投与頻度を低減し、グルココルチコイドの全身性副作用の可能性を回避し、これは、患者コンプライアンスを改善する可能性があり得る。
【0156】
(実施例2:DSP−NPを用いる新血管形成の予防)
in vitroおよびその後のラットにおけるSC注射の両方で、コルチコステロイドであるリン酸デキサメタゾンナトリウム(DSP)の持続放出を提供し得る生分解性ナノ粒子製剤は、ラットにおいて角膜同種移植片拒絶を予防することを実証し、また角膜新血管形成の有効な阻害を提供することを示した。
【0157】
材料および方法
材料
ポリ(D,L−乳酸−co−グリコール酸;50:50、Mw約3.4kDa、酸末端型)(PLGA)は、Lakeshore Biomaterials (Evonik、Birmingham、AL)から購入した。リン酸デキサメタゾンナトリウム塩(DSP)は、MP Biomedicals(Santa Ana、CA)から購入した。[H]標識されたDSPは、American Radiolabeled Chemicals(St Louis、MO)から購入した。Pluronic F127(ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド−ポリエチレンオキシドトリブロックコポリマー、またはPEO−PPO−PEO)、トリエタノールアミン(TEOA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)溶液(0.5M)、酢酸亜鉛二水和物およびすべての他の有機溶媒は、Sigma−Aldrich(St.Louis、MO)から購入した。Alexa Fluor 647(AF647)カダベリンは、Invitrogen(Carlsbad、CA)から購入した。
【0158】
蛍光標識されたDSP−NPの調製
蛍光マーカーとしてのAlexa Fluor 647(AF647)カダベリンを、Xuら、J. Control. Reiease 第170巻(2013年)279〜286頁によって記載された方法を使用してPLGAに化学的にコンジュゲートした。溶媒拡散(またはナノ沈殿)法によってAF647−PLGAから構成されるナノ粒子を調製した。手短には、10mgのDSPを含有する0.5mLの水溶液に、1mLの0.5M酢酸亜鉛水溶液を添加することによって、DSP−亜鉛錯体を形成した。10,000gで5分間遠心分離した後、沈殿した錯体および50mgのPLGA(1:3w/wのAF647−PLGA:PLGA)を1.25mLのTHFに懸濁し、溶解し、続いて、20μLのTEOAを添加した。撹拌しながら、混合物を100mLの5% F127水溶液中に滴下添加して、DSPが負荷されたPLGAナノ粒子(DSP−NP)を形成した。溶媒蒸発によってTHFを完全に除去した後、ナノ粒子懸濁物に1mLの0.5M EDTA水溶液(pH7.5)を添加して、過剰の亜鉛をキレート化し、カプセル封入されていないあらゆるDSP−亜鉛錯体を可溶化した。8,000gで25分間の遠心分離によって、蛍光標識されたDSP−NPを回収し、5% F127を用いて洗浄し、0.2mLの超純水に再懸濁した。蛍光標識を有さないDSP−NPは、PLGAのみを使用して同様の方法で調製した。Zetasizer Nano ZS90(Malvern Instruments、Southborough、MA)を使用して、動的光散乱およびレーザードップラー流量測定によって、粒径およびζ電位を決定した。サンプルは10mMの、pH7.2のNaCl溶液に希釈した。
【0159】
結膜下投与後のDSP−NPの保持
Xenogen IVISスペクトル光学イメージングシステム(Caliper Life Sciences Inc.、Hopkinton、MA)を用いて、眼全体をイメージングすることによってSC投与後のDSP−NPの保持を調べた。ラットを、ケタミン(80mg/kg)およびキシラジン(8mg/kg)の混合物の筋肉内注射によって麻酔した。AF647で蛍光標識されたDSP−NPを、27ゲージニードルを使用するSC投与(50μL)によってSprague Dawleyラットに注射した。注射手順は、S81手術用眼科用顕微鏡(Zeiss、ドイツ)下で実施した。イメージングの間は、眼瞼を45G開瞼器(Focus Ophthalmics,LLC、Ontario、カナダ)を用いて後退させた。注射部位での総蛍光カウントを640/680nmで記録した。イメージは、Living Image3.0ソフトウェア(Caliper Lifesciences,Inc.)を使用して解析し、ナノ粒子の保持は、粒子の注射の直後の同一眼の蛍光カウントと比較することによって定量化した。粒子注射を施していないラットの眼をベースラインとして使用した。
【0160】
in vivoでの眼のDSPレベル
実施例1は、SC注射後1週間以内のin vivoでの眼のDSPレベルを記載する。同じ方法を使用して、POD14でのラットにおけるSC投与後の眼のDSPレベルを検出した。[H]標識されたDSPを標識されていないDSPとブレンドし(10μCi:1mg DSP)、DSP−NPの調製において使用した。同一製剤の50μL(眼あたり約0.8μCi)を、SC注射によって同一動物(Sprague Dawleyラット)の両眼に投与した。POD14で、麻酔下のラットを、尾静脈から2滴の血液を採取した後、屠殺した。眼房水、硝子体および注射部位を含有する残りの眼組織を注意深く解剖し、回収した。すべてのサンプルを秤量し、次いで、2mLのSolvable(Perkin Elmer、Waltham、MA)を用い、50℃で終夜インキュベートすることによって溶解した。0.2mLのHおよび20μLの0.5M EDTAを用いて血液サンプルを漂白した。10ミリリットルのUltima goldシンチレーション媒体(Perkin Elmer、Waltham、MA)を添加し、その後、シンチレーションカウンター(Perkin Elmer、Waltham、MA)において放射能をカウントした。結果は、注射された用量のパーセンテージとして表し、データ点あたりの4個の眼の平均±標準偏差(SD)である。血液中のDSPのレベルは、時点あたりの2匹の動物の平均とした。注射部位の注射された用量の総パーセンテージおよび1mgの組織または1mLの血液あたりの放射能を算出した。
【0161】
動物
すべての実験プロトコールは、Johns Hopkins Animal Care and Use Committeeによって承認された。6〜8週齢の雄のSprague Dawleyラット(200〜250gの体重)を、Harlan(Indianapolis、IN)から購入した。すべてのラットを、眼科学的研究における動物の使用に関して、視覚と眼科学に関する研究学会(Association for Research in Vision and Ophthalmology(ARVO)resolution)にしたがってケアし、処置した。動物は、試験手順の間、ケタミン(80mg/kg)およびキシラジン(8mg/kg)の混合物の筋肉内注射を用いて麻酔した。局所麻酔は、眼で0.5%プロパラカイン点眼薬の点眼を用いて達成した。
【0162】
縫合による角膜NVモデル
角膜中において縫合糸を配置することによって角膜NVモデルを誘導した。手短には、ラットを、ケタミン(80mg/kg)およびキシラジン(8mg/kg)の混合物の筋肉内注射を用いて麻酔した。それぞれ、手術前に総瞳孔散大および局所麻酔のために、0.5%トロピカミド点眼薬の反復点眼および0.5%プロパラカインを使用した。角膜NVは、手術用顕微鏡下で10−0ナイロン(Alcon Laboratories,Inc、Fort Worth、TX)を用いて上部角膜中に2つの縫合糸の縫合部(stitch)を置くことによって誘導した。縫合部と縁との間の距離は、およそ2mmであり、2つの縫合部間には1mmの距離がある。縫合糸を配置した後、動物に、a)6mgのDSP/mLの濃度の50μLのDSP−NP、b)50μLのDSP溶液(6mgのDSP/mL)およびc)生理食塩水対照の結膜下注射を用いて直ちに投与した。エリスロマイシン抗生物質軟膏を角膜に塗布して、角膜の炎症および角膜の乾燥を予防した。
【0163】
角膜NV定量化
角膜NVは、デジタルカメラおよび細隙灯顕微鏡(SL120;Carl Zeiss AG、Oberkochen、ドイツ)の両方によって観察した。ラットを、ケタミン(80mg/kg)およびキシラジン(8mg/kg)の混合物の筋肉内注射を用いて麻酔した。イメージングの前に、0.5%トロピカミド点眼薬の反復点眼を使用して、瞳孔を十分に散大した。12×倍率で細隙灯写真を撮った。角膜の細隙灯写真を使用し、Adobe Photoshop CS5(Adobe Corp.、San Jose、CA、米国)を使用して角膜新血管形成を定量化した。血管形成された領域の縁に沿って弧を描き、血管形成された領域のピクセルを測定した。血管形成された領域のピクセル/1mm領域のピクセルを使用して、角膜NV領域を算出した。血管形成された領域を6つの部分に分け、弧の5つの交点で血管の先端と縁との間の距離を、血管長として測定し、各角膜の最終新規血管長として平均血管長を算出した。すべてのパラメータは、処置割り当てについて盲検にされた調査者によって測定された。
【0164】
眼内圧測定
非侵襲性眼内圧(IOP)測定は、Icare(登録商標)Tonolab(Helsinki、フィンランド)を使用して手術の後、毎週実施した。各眼について記録されたIOPは、3つの連続測定値の平均±平均の標準誤差(SEM)とした。
【0165】
角膜組織病理学研究
術後7日目および14日目、すべての動物を屠殺し、縫合手順を受けた眼を眼球摘出した。10%ホルマリンを用いて24時間、眼組織を固定化し、その後、パラフィン中に包埋した。前後軸配向(antero−posterior orientation)(角膜から視神経に)を有する横断面(5μm厚)を切断し、H&Eを用いて染色した。
【0166】
リアルタイム定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)
角膜における、VEGF、MMP−2、MMP−9、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、TNF−アルファを含めたいくつかの血管新生サイトカインのmRNA発現レベルを、RT−PCRを使用して測定した。それぞれ、術後7および14日目に処置された眼から角膜を解剖し、一緒にプールした(n=3)。TRIzol(登録商標)試薬(Invitrogen、Grand Island、NY、米国)を製造業者の指示にしたがって用いて総リボ核酸(RNA)を単離した。次いで、RNAを、High Capacity cDNA逆転写キット(4368814番、Applied Biosystems、Foster City、CA、米国)を、製造業者の指示にしたがって使用して相補的DNAに転写させた。RT−PCRを、Fast SYBR(登録商標)Green Master Mix(Applied Biosystems、Foster City、CA)を用い、7100 RealTime PCRシステム(Applied Biosystems、Foster City、CA)を使用して実施した。使用したプライマーは、表2に列挙されている。すべての発現レベルは、GAPDHに対して正規化し、互いに比較した。結果を、3回の反復の平均±平均の標準誤差(SEM)として示した。
【表2】
【0167】
統計解析
収集したすべてのデータは、t検定および多重比較検定(一元配置分散分析、Bonferroni検定)を使用して群の間で比較した。差は、P<0.05のレベルで統計的に有意であると考えた。
【0168】
結果
in vitroおよびin vivoでのDSP−NPの特徴付け
水溶性コルチコステロイドであるリン酸デキサメタゾンナトリウム(DSP)は、亜鉛キレート剤を使用してPLGAナノ粒子(DSP−NP)中に成功裏にカプセル封入した。結膜下投与後の生分解性DSP−NPの保持を定量化するために、AF−647色素をPLGAにコンジュゲートすることによってPLGAを蛍光標識し、その後、DSP−NPを調製した。AF−647のPLGAへのコンジュゲーションは、8%薬物負荷およびおよそ200nmの粒径を有するDSP−NPの生理化学的特性に影響を及ぼした(表3)。AF−647で標識したDSP−NPのSC投与後、生存動物イメージングを使用して、眼における蛍光シグナルを3週間の保持研究にわたって定量化した(図3)。最初の2日間に、元のシグナルの20%への蛍光シグナルの迅速な低下が観察された。
【表3】
VEGF、MMP−2、MMP−9、bFGFおよびTNF−αのレベルは、図10A(7日目の)および10B(14日目の)に示されている。眼内圧は、図11に示されている。
【0169】
(実施例3:ブドウ膜炎の予防)
ブドウ膜炎は、失明の危険がある(sight−threatening)炎症性眼疾患である。コルチコステロイドは、ブドウ膜炎の最も有効な処置である。しかし、中間部および後部ブドウ膜炎は、硝子体および網膜に影響を及ぼし、これは、局所ステロイドを用いて処置することが困難である。結膜下に注射された水溶性ステロイド溶液は、極めて迅速に排除され、治療レベルを長期間維持するには反復注射の必要がある。リン酸デキサメタゾンナトリウム(DSP)が負荷されたナノ粒子(NP)は、高薬物負荷および長い薬物放出を提供する。これらを、ラット汎ブドウ膜炎モデルにおいて有効性について試験した。
【0170】
方法:
DSPを含有する生分解性ポリ(乳酸−co−グリコール酸)(PLGA)ナノ粒子を、修飾溶媒拡散法を使用して調製した。エンドトキシン(endotoxicin)誘発性ブドウ膜炎(EIU)モデルは、6週齢のLewisラットへのリポ多糖(liposaccharide)(LPS)のIP注射を使用する24時間試験を開始した。DSPが負荷されたナノ粒子の、LPSによって免疫化されたラットにおいて炎症を低減する能力を、臨床評価、網膜における炎症性サイトカインのmRNA発現およびタンパク質レベルならびに組織病理学によって試験した。
【0171】
結果:
ナノ粒子は、200nmの平均直径、8重量%の高い薬物負荷および制御された薬物放出プロファイルを15日間にわたって示した。図12は、DSP−NPのsink条件下でのin vitroでの15日にわたる持続した薬物放出のグラフである。
【0172】
これらのDSPが負荷されたナノ粒子は、ラット眼への結膜下投与後に持続した眼用薬物レベルを提供した。図13Aおよび13Bは、ラットにおけるDSP−NPのSC投与後少なくとも7日間の持続した高い眼用薬物レベルのグラフであり、前眼房(図13A)および硝子体(図13B)の両方において高い薬物レベルを示す。
【0173】
プラセボ粒子、生理食塩水または遊離薬物溶液の対照処置群との比較は、ブドウ膜炎ラットモデルのDSPが負荷されたNP処置が、有意により低下した炎症スコア、mRNA発現および炎症性サイトカインタンパク質レベルを示すことを示した。図14は、LPSのIP注射の3時間後および24時間後にイメージングされ、スコア化された前眼部の炎症スコアのグラフであり、DSP−NP予防群は、対照群よりも有意に少ない炎症を有することを示す。図15は、24時間免疫化後のEIUモデルの3群における、網膜におけるIL−1b、IL−6およびTNFのmRNA発現のグラフであり、プラセボ−NPおよびPBS群と比較してDSP−NP群において有意に低下した発現を示す。
【0174】
結論:
リン酸デキサメタゾンナトリウムが負荷されたPLGAナノ粒子は、コルチコステロイドの持続放出を提供し、ラットにおいてブドウ膜炎と関連している炎症を有効に減少させる。ブドウ膜炎は、再発することが多いので、この処置は、投与頻度を低減し、コルチコステロイドの全身性副作用の可能性を回避し、患者コンプライアンスを改善するはずであり、有望な臨床適用を有する。
【0175】
(実施例4:ラットにおいて角膜同種移植片拒絶および緑内障を処置するためのコルチコステロイドナノ粒子の毎月の結膜下投与)
材料および方法
実施例1に記載されるように、DSPのカプセル封入のためにCOOH基を有するポリ乳酸を使用してナノ粒子を調製した。
【0176】
毎月の結膜下注射を使用して角膜新血管形成の予防のために、実施例2に記載されたようにラットにナノ粒子を投与した。
【0177】
ナノ粒子はまた、緑内障のモデルにも投与した。
【0178】
結果
ナノ粒子は、338±11nmの直径、0.09±0.038のPDI、−3±1のζ−電位(mV)および9.4±0.8のDL%を有する。
【0179】
時間をわたってDSPレベルを示す薬物動態研究の結果が、図16A〜16Dに示されている。図16A〜16Dは、ラットへのDSP−PLA2COOHナノ粒子の結膜下注射の薬物動態(時間(日数)をわたってのng DSP/ml)のグラフである。図16A、眼房水;図16B、硝子体;図16C、血液;および図16D、注射部位対照。
【0180】
図17A〜17Eは、(17A〜17C)DSP−PLA2COOHナノ粒子処置群および(17D〜17F)生理食塩水対照群についての全12週間のフォローアップの間の時間(日数)をわたっての移植片の臨床観察のグラフである。矢印は、処置注射時点を示す。図17A、17Dは、透明度スコア;図17B、17Eは、浮腫スコア、17C、17Fは、新血管形成である。
【0181】
図18は、生理食塩水対照群およびDSP−PLA2COOHナノ粒子処置群両方についての生存曲線である(時間(日数)をわたっての生存パーセント)。
【0182】
図19Aおよび19Bは、対照(19B)と比較した、毎月間隔でDSP−PLA2COOHナノ粒子を用いて処置された動物(19A)についての、時間(日数)をわたっての眼内圧のグラフである。
【0183】
結果は、DSP−PLA2COOHナノ粒子を使用する、移植片拒絶の予防ならびに緑内障の処置両方のための毎月注射を用いて、同等の結果が得られることを実証する。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16A
図16B
図16C
図16D
図17A
図17B
図17C
図17D
図17E
図17F
図18
図19
【配列表】
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【国際調査報告】