(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-525090(P2017-525090A)
(43)【公表日】2017年8月31日
(54)【発明の名称】充電式バッテリー用のリチウム遷移金属酸化物カソード材料の前駆体
(51)【国際特許分類】
H01M 4/505 20100101AFI20170804BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20170804BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20170804BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M4/525
C01G53/00 A
【審査請求】有
【予備審査請求】有
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-572574(P2016-572574)
(86)(22)【出願日】2015年5月29日
(85)【翻訳文提出日】2017年2月8日
(86)【国際出願番号】IB2015054062
(87)【国際公開番号】WO2015189737
(87)【国際公開日】20151217
(31)【優先権主張番号】14172071.4
(32)【優先日】2014年6月12日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】15155172.8
(32)【優先日】2015年2月16日
(33)【優先権主張国】EP
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】502270497
【氏名又は名称】ユミコア
(71)【出願人】
【識別番号】514261074
【氏名又は名称】ユミコア コリア リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】特許業務法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジュウ,リヤーン
(72)【発明者】
【氏名】デ パルマ,ランディ
(72)【発明者】
【氏名】アン,ヒョ スン
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AC06
4G048AD03
5H050AA07
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA08
(57)【要約】
リチウムイオンバッテリー中の正極活物質として使用可能なリチウム遷移金属(M)−酸化物粉末を製造するための微粒子前駆体化合物において、(M)はNi
xMn
yCo
zA
vであり、Aはドーパントであり、0.33≦x≦0.60、0.20≦y≦0.33、及び0.20≦z≦0.33、v≦0.05、かつx+y+z+v=1であり、前駆体は、m
2/gで表す比表面積PBET、g/cm
3で表すタップ密度PTD、μmで表す中央粒径PD50を有し、(I)である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンバッテリー中の正極活物質として使用可能なリチウム遷移金属(M)−酸化物粉末を製造するための微粒子前駆体化合物であって、(M)がNi
xMn
yCo
zA
vであり、Aがドーパントであり、0.33≦x≦0.60、0.20≦y≦0.33、及び0.20≦z≦0.33、v≦0.05、かつx+y+z+v=1であり、前記前駆体が、m
2/gで表す比表面積PBET、g/cm
3で表すタップ密度PTD、μmで表す中央粒径PD50を有し、
【化1】
PBET/PTD*PD50≧0.021/(0.1566*x)−0.0466である、前駆体化合物。
【請求項2】
【請求項3】
v=0であり、化合物がPTD<2g/cm3を有する、請求項1又は2に記載の前駆体化合物。
【請求項4】
0.33≦x≦0.35、2.5≦PD50≦3.5、0.90≦PTD<1.30かつ20<PBET<40である、請求項1又は2に記載の前駆体化合物。
【請求項5】
0.35<x≦0.45、2.5≦PD50≦3.5、1.30<PTD<1.45かつ12<PBET<20である、請求項1又は2に記載の前駆体化合物。
【請求項6】
0.45<x≦0.55、5.0≦PD50≦9.0、1.25<PTD<1.45かつ15<PBET<25である、請求項1又は2に記載の前駆体化合物。
【請求項7】
前駆体が水酸化物M−OH又はオキシ水酸化物M−OOH化合物である、請求項1又は2に記載の前駆体化合物。
【請求項8】
リチウムイオンバッテリー中の正極活物質として使用可能なリチウム遷移金属(M)−酸化物粉末の製造における、請求項1又は2に記載の前駆体化合物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオンバッテリー中の正極活物質として使用可能なリチウム遷移金属(M)−酸化物粉末を製造するための微粒子前駆体化合物に関する。より具体的には、前駆体は、数式によって前駆体のNi含有率に関連付けられる、タップ密度、比表面積及び中央粒径などの物理的特性を有する水酸化物又はオキシ水酸化物化合物でよい。
【背景技術】
【0002】
充電式リチウム及びリチウムイオンバッテリーは、エネルギー密度が高いため、携帯電話、ラップトップ型コンピュータ、デジタルカメラ及びビデオカメラなどの様々な携帯用電子機器に使用することができる。市販のリチウムイオンバッテリーは、典型的には、グラファイトベースのアノード及びLiCoO
2ベースのカソード材料からなる。しかし、LiCoO
2ベースのカソード材料は高価であり、典型的には約150mAh/gの比較的低い容量を有する。
【0003】
LiCoO
2ベースのカソード材料の代替物として、LNMCO型カソード材料が挙げられる。LNMCOは、リチウム−ニッケル−マンガン−コバルト−酸化物を意味する。組成は、LiMO
2又はLi
1+x’M
1−x’O
2であり、式中、M=Ni
xCo
yMn
zA
mである(より一般的には「NMC」と呼ばれ、Aは1つ又は複数のドーパントである)。LNMCOは、LiCoO
2と同様の層状結晶構造を有する(空間群r−3m)。LNMCOカソードの利点は、純粋なCoに対して組成Mの原材料価格が非常に安いことである。Niの添加は、放電容量を増加させるが、Ni含有率の増加と共に熱安定性が低減することにより制限される。この問題を補うために、Mnを構造安定化元素として添加するが、同時に幾らかの容量が失われる。典型的なカソード材料には、式Li
1+x(Ni
0.51Mn
0.29Co
0.20)
1−xO
2(たとえば、x=0.00〜0.03、NMC532と呼ぶ)、Li
1+x(Ni
0.38Mn
0.29Co
0.33)
1−xO
2(たとえば、x=0.08〜0.10、NMC433と呼ぶ)、Li
1+x(Ni
0.6Mn
0.2Co
0.2)
1−xO
2(x=0.02〜0.04、NMC622と呼ぶ)又はLi
1+x(Ni
0.35Mn
0.32Co
0.33)
1−xO
2(たとえばx=0.06〜0.08、NMC111と呼ぶ)を有する組成が挙げられる。標的リチウム含有複合酸化物は、一般に、前駆体物質(最終カソード材料が有するものと同じ金属組成を有する)としてニッケル−コバルト−マンガン複合体(オキシ)水酸化物をリチウム化合物と混合し、焼成することによって合成され、セル特性は、ニッケル、コバルト及びマンガンの一部を他の金属元素によって置換することによって改善することができる。その他の金属元素として、Al、Mg、Zr、Ti、Sn及びFeが例示される。好適な置換量は、ニッケル、コバルト及びマンガン原子の総量の0.1〜10%である。
【0004】
一般に、複雑な組成のカソード材料の製造のためには、混合遷移金属水酸化物などの特別な前駆体が使用される。その理由は、高性能Li−M−O
2が、よく混合された遷移金属カチオンを必要とするからである。「過焼結」(リチウム前駆体、典型的にはLi
2CO
3又はLiOHと一緒に長時間の高温焼結)することなく、このことを達成するためには、カソード前駆体は、遷移金属を、混合遷移金属水酸化物、炭酸塩などで提供されるようによく混合された形(原子レベルで)で含有する必要がある。混合水酸化物又は炭酸塩は、典型的には、沈殿反応によって調製される。混合水酸化物(たとえば、pH制御下でのM−SO
4の流れによるNaOHの流れの沈殿)又は混合炭酸塩(たとえば、M−SO
4の流れによるNa
2CO
3の流れの沈殿)の沈殿によって、好適なモルホロジーの前駆体の達成が可能となる。
【0005】
たとえば、米国特許第7,384,706号によれば、ニッケル−コバルト−マンガン複合水酸化物を沈殿させることによって形成される、ニッケル−コバルト−マンガン複合オキシ水酸化物粒子が提供される。沈殿のために、ニッケル−コバルト−マンガン塩の水溶液、アルカリ金属水酸化物水溶液及びアンモニウムイオン供与体を、連続的又は断続的に、30から70℃の間の温度で、反応系に供給し、pHを10から13の間の範囲内の実質的に一定の値で維持し、複合水酸化物に対してオキシダント作用をもたらす。得られる前駆体は、典型的には、3〜15μmの中央粒径D50、2g/cm
3超の圧縮密度、及び4〜30m
2/gの比表面積(BET値)を有する。この特許、また高密度コバルト−マンガン共沈ニッケル水酸化物を供給することを目的とする米国特許第7,585,435号から、遷移金属(オキシ)水酸化物前駆体を製造するプロセスが比較的多機能であり、沈殿プロセスを微調整することによって、比表面積(BET)、タップ密度及び粒径分布などの物理的特性についての特定値を与えることができることが理解できる。
【0006】
二次リチウムセルを特徴付けるために、放電容量以外で最も重要なパラメータの1つは、サイクリング中における容量の劣化に関与する不可逆容量である。リチウム過剰層状遷移金属酸化物Li
1+xM
1−xO
2は、第1の充電プロセスの終わりに層状酸化物のホスト構造体からの酸素及びリチウム損失に関連する大幅な不可逆容量の損失を有することが多い。不可逆容量損失は、絶縁材(たとえば、Al
2O
3又はMgO)でコーティングすることによってかなり低減することができるが、ナノ構造リチウム層状酸化物と関連する高表面積は、電極と電解質との間の副反応を誘発するような高表面反応性を有し得る。これは、活物質の不安定化及びパッシベーション妨害の増加をもたらし得る。したがって、電解質の安全性は大きな関心事であり、副反応をなくし、不可逆容量Q
irrを低減する方法を見出す必要がある。Lu及びDahnによる「Layered Li[Ni
xCo
1−2xMn
x]O
2 Cathode Materials for Lithium−Ion Batteries」,Electrochemical and Solid−State Letters,4(12)A200−A203(2001)に記載されているように、40mA/gの電流で2.5から4.4Vの間でサイクリングさせると、x=1/4及び3/8の場合、12%の不可逆容量損失はかなり許容される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第7,384,706号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「Layered Li[NixCo1−2xMnx]O2 Cathode Materials for Lithium−Ion Batteries」,Electrochemical and Solid−State Letters,4(12)A200−A203(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
米国特許第8,268,198号などの特許において、前駆体化合物の化学組成(すなわち、硫酸塩含有率)とリチウム遷移金属酸化物カソード材料の不可逆容量との間の関係が確立されている。前駆体の物理的特性と、材料のNi含有率も考慮に入れたリチウム遷移金属酸化物カソード材料の不可逆容量との間の直接的な関係は、依然として解明されていない。
【0010】
本発明は、安価なプロセスによって作製される、二次バッテリー中でのサイクリング時の不可逆容量Q
irrが低減される、中度から高度のNi含有率を有する正極用のリチウム遷移金属カソード材料の改善された前駆体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の態様によれば、本発明は、リチウムイオンバッテリー中の正極活物質として使用可能なリチウム遷移金属(M)−酸化物粉末を製造するための微粒子前駆体化合物であって、(M)がNi
xMn
yCo
zA
vであり、Aがドーパントであり、0.33≦x≦0.60、0.20≦y≦0.33、及び0.20≦z≦0.33、v≦0.05、かつx+y+z+v=1であり、前駆体が、m
2/gで表す比表面積PBET、g/cm
3で表すタップ密度PTD、μmで表す中央粒径PD50を有し、
【化1】
である、微粒子前駆体化合物を提供することができる。一実施形態において、
【化2】
である。前駆体のNi含有率xは、リチウム遷移金属(M)−酸化物粉末のNi含有率と同一である。タップ又はタップ密度は、ASTM B527に準拠して測定される。前駆体化合物は、v=0、0.33≦x≦0.60、0.20≦y≦0.33、及び0.20≦z≦0.33、かつx+y+z=1である組成を有し得る。前駆体化合物は、Ni含有率に応じて、異なる実施形態において、以下の特徴を有し得る。
【0012】
0.33≦x≦0.35、2.5≦PD50≦3.5、0.90≦PTD<1.30及び20<PBET<40、
0.35<x≦0.45、2.5≦PD50≦3.5、1.30<PTD<1.45及び12<PBET<20、又は
0.45<x≦0.55、5.0≦PD50≦9.0、1.25<PTD<1.45及び15<PBET<25。
【0013】
一実施形態において、タップ密度PTDは2g/cm
3未満である。0.5g/cm
3未満のタップ密度は示されない。PBET値が通常、3から40m
2/gの間であり、PTD値が0.5から3g/cm
3の間であり、PD50値が2から20μmである事実を踏まえて、PBET/(PTD*PD50)の上限を計算することができる。本発明の異なる実施形態において、Aは、Al、Ga、B、Ti、Mg、W、Zr、Cr及びVからなる群の元素のうちの1つ又は複数である。ドープ剤とも呼ばれるドーパントは、物質の電気的性質又は光学的性質を変更するために物質中に(非常に低い濃度で)入れられる微量不純物元素である。
【0014】
前駆体は、水酸化物M−OH又はオキシ水酸化物M−OOH化合物でよい。これらは、水酸化物化合物に対する沈殿溶液中のNMC塩の濃度、滞留時間、沈殿温度などのパラメータを選択することによって、従来技術に記載の沈殿プロセスにより得ることができるが、この目的は本発明の範囲外である。(オキシ)水酸化物前駆体は、最終リチウム遷移金属酸化物粉末を得るためには、焼結中にリチウム前駆体と反応しなければならないので、一般にリチウムを含まない。
【0015】
本発明による更なる製品実施形態は、前述の様々な製品実施形態がカバーする特徴を組み合わせることによって提供され得ることが明らかである。
【0016】
第2の態様によれば、本発明は、リチウムイオンバッテリー中の正極活物質として使用可能なリチウム遷移金属(M)−酸化物粉末の製造において、上記の前駆体化合物の使用
を提供することができる。
【0017】
第3、第4及び第5の態様によれば、本発明は、本発明による前駆体化合物から作製されるリチウム金属酸化物粉末、リチウム金属酸化物粉末を含むカソード材料、及びカソード材料を含むバッテリーを提供することができる。リチウム金属酸化物粉末は、空気中、800℃超の温度で、少なくとも2時間、本発明による前駆体化合物とLi
2CO
3などのリチウム前駆体とを同時焼成することによって得ることができる。
【0018】
米国特許第7,585,435号において、高密度コバルト−マンガン共沈水酸化ニッケル(Ni
(1−x−y)Co
xMn
y)(OH)
2が開示されており、式中、1/10≦x≦1/3及び1/20≦y≦1/3であり、前述の粒子は、1.5g/cc以上のタップ密度、8〜20m
2/gのBET及び5〜20μmの範囲の平均粒径を有することをここで言及すべきである。しかし、タップ密度は、200回タッピングすることによって決定される。ASTM B527によれば、タップした粉末の容量が減少しなくなるまで、タップ数100〜300回/minのタップ頻度を適用すべきである。米国特許第7,585,435号におけるタップ密度測定の正確度を測定するために、x=y=0.2の共沈ニッケル−マンガン−コバルト(オキシ)水酸化物に対して実験を実施して、測定したタップ密度に対するタップ数を試験した。結果を表1に示す。
【表1】
【0019】
実験は、本発明における材料のタイプで、少なくともタップ数1000回の後に一定のタップ密度に達することを示す。これは、米国特許第7,585,435号に示されたデータが不正確であることになる。
【0020】
米国特許第7,585,435号における教示は、高温で安定した高稼働率を示し、サイクル劣化が少ない、コバルト及びマンガンの含有率が高い高密度水酸化ニッケルを作り出すために、平均粒径が少なくとも5μmの粉末に対して1.5g/cc以上(上記の実験を考慮すると、本発明で用いる測定規準ASTM B527により約2g/cc以上であるべきである)のタップ密度を有する必要があるというものである。したがって米国特許第7,585,435号は、実施例が示すように、大きな平均粒径(5μm超)及び2g/cc以上の高タップ密度(ASTM B527によって測定される)を有する粒子を生成することが望ましい。
【0021】
米国特許第2010−310869号としても公開されているDE10−2007−049108では、式Ni
aM
bO
x(OH)
y(式中、Mは、Co並びにFe、Zn、Al、Sr、Mg若しくはCa及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの元素を表すか、又はMは、Co、Mn及びFeを表し、0.6≦a<1.0、0<b≦0.4、0<x≦0.60かつ1.4≦y<2である)の粉末化合物を開示し、この粉末化合物は、ASTM B822に準拠して測定したところ、5μm未満の粒径分布d
50値を有し、ASTM B527に準拠して測定したタップ密度と粒径分布d
50値の比は少なくとも0.4g/cm
3μmである。d
50が4.99μmの粒子のタップ密度は少なくとも2g/cm
3であり、たとえばd
50が4μmの粒子では、タップ密度は低くなり得、少なくとも1.6g/cm
3になる。
【0022】
DE10−2007−049108における教示は、二次バッテリーにおける同時高体
積出力密度で高レベルの体積エネルギー密度を得ることを可能にするために、少なくとも60mol%のNiを有する高密度水酸化ニッケルカソード前駆体粉末が、5μm未満の平均粒径及び2g/cm
3超のタップ密度を有する必要があるというものである。表2は、タップ密度が少なくとも2.17g/cm
3の例を挙げている。この教示は米国特許第7,585,435号の教示と矛盾することになるが、その理由は、Ni含有率がちょうど60mol%の重なる範囲のみにおいて、平均粒径が、米国特許第7,585,435号では5μm以上になり、DE10−2007−049108では5μm未満になるからである。米国特許第7,585,435号でもDE10−2007−049108でも示唆してないが、本発明では、前駆体のNi含有率に更に依存するBET、タップ密度及びd
50間の関係が、二次バッテリー中で低減された不可逆容量を得ることを可能にすることを示唆している。この関係において、前駆体粉末の所定のBETで、平均粒径が増大すると、タップ密度は低減すべきであり、またその逆の場合も同様であるが、これに対して、引用される従来技術では、平均粒径が増大すると、タップ密度も必然的に高くなる。したがって、Ni含有率、BET及びd
50との組合せが本発明によるものである場合、2g/cc未満にもなる低タップ密度を有する前駆体から開始して非常に効率的なカソード粉末を得ることが可能である。
【0023】
本発明において、標準2325型コインセル中で、4.3〜3.0V/Liの金属窓の範囲でサイクリングする場合、本発明による前駆体化合物で作製したカソード材料では、10%未満又は8%未満の不可逆容量の上限が実現される。
【0024】
前駆体のNi含有率が、最終リチウム金属酸化物カソード粉末のNi含有率と同一であるため、上式(1)及び(2)で双方のNi含有率を交換してもよい。
【0025】
実験データの概要
a)PBET前駆体比表面積
比表面積は、Micromeritics Tristar 3000を使用するブルナウアー−エメット−テラー(BET)法によって測定する。先ず2gの前駆体粉末試料を120℃のオーブン中で2時間乾燥した後、N
2パージする。次いで、吸着種を除去するために、前駆体を120℃の真空下で1時間脱気した後、測定する。前駆体は比較的高温で酸化することがあり、亀裂又はナノサイズの孔を生じ得、非現実的に高いBETを招く可能性があるため、前駆体BET測定に高い乾燥温度は推奨しない。
【0026】
b)PTD前駆体タップ密度
本発明における前駆体のタップ密度(PTD)測定は、前駆体試料(ほぼ60〜120g近傍の質量Wを有する)を入れた目盛付きメスシリンダー(100mL)を機械的にタッピングすることにより行われる。初期の粉末体積を観察した後、更なる体積(Vはcm
3単位)又は質量(W)変化が観察されないように、ASTM B527標準試験法に準拠してメスシリンダーを5000回機械的にタッピングする。PTDをPTD=W/Vとして計算する。PTD測定をERWEKA(登録商標)装置で行う。
【0027】
c)PD50前駆体粒径
前駆体化合物の中央粒径(PD50)は、好ましくはレーザー粒径分布測定法により得られる。本記述において、レーザー粒径分布は、粉末を水性媒体中に分散させた後、Hydro2000MU湿式分散アクセサリを備えたMalvern Mastersizer2000を使用して測定する。水性媒体中の粉末の分散を改善するために、12の超音波変位に十分な、典型的には1分の超音波照射及び撹拌を適用し、適当な界面活性剤を投入する。
【0028】
d)カソード材料調製
本発明において、コインセル中の電気化学的挙動を評価するために、従来の高温焼結を利用することによって、本発明による前駆体化合物からカソード材料を調製した。Henschel Mixer(登録商標)を使用して、30分間、Li
2CO
3(Chemetall)又はLiOH(SQM)を、特定のLi:Mモル比で前駆体化合物と乾式混合する。パイロット規模の機器を使用して、大気下で10時間、特定の温度で混合物を反応させる。Li:Mモルブレンド比及び焼結温度は標準であるが、Ni含有率が異なる前駆体では異なり、これは個々の実施例において指定されている。焼成後、焼結ケーキを粉砕し、分類し、ふるい分けて、対応する前駆体と同様の平均粒径D50を有する非凝集粉末を得る。
【0029】
e)コインセルにおける電気化学的性質の評価
電極を以下の通りに調製する。約27.27wt%のカソード活物質、1.52wt%のポリフッ化ビニリデンポリマー(KFポリマーL #9305、Kureha America,Inc.)、1.52wt%の導電性カーボンブラック(Super P(登録商標)、Erachem Comilog,Inc.)及び69.70wt%のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)(Sigma−Aldrich製)を高速ホモジナイザーによって完全に混合させる。次いでテープキャスト法により、スラリーをアルミホイルに対して薄層(典型的には100マイクロメートルの厚さ)として塗る。NMP溶剤を120℃で3時間蒸発させた後、キャストフィルムを、40マイクロメートルの空隙を有する2つの一定スピニングロールに通して処理する。計測直径14mmの円形ダイカッターを使用して、フィルムから電極を打ち抜く。次いで電極を90℃で終夜乾燥する。続いて電極を秤量して充填する活物質を決定する。典型的には、電極は、90wt%の活物質を含有し、活物質充填量は約17mg(約11mg/cm
2)である。次いで電極を、アルゴンを満たしたグローブボックスに入れ、2325型コインセル本体内に組み立てる。アノードは、500マイクロメートルの厚さのリチウム箔(起源:Hosen)であり、セパレータはTonen 20MMS微孔ポリエチレンフィルムである。コインセルを、体積比が1:2の炭酸エチレン及び炭酸ジメチルの混合物(供給元:Techno Semichem Co.)に溶かしたLiPF
6の1M溶液で充填する。
【0030】
各セルは、4.3〜3.0V/Li金属窓範囲の異なる率でToscat−3100コンピュータ制御の定電流サイクリングステーション(Toyo製)を使用して、25℃でサイクリングさせた。初充電容量CQ1及び放電容量DQ1は、定電流モード(CC)で測定される。不可逆容量Q
irrは、次式で%で表される。Q
irr=(CQ1−DQ1)/CQ1×100(%)
本発明を次の実施例において更に例示する。
【0031】
実施例1〜6:
これらの実施例は、表2に示すように、異なる粒径、異なるBET及び異なるタップ密度を有するNMC111前駆体化合物を含有する。各前駆体化合物を、1.10のLi:Mモル比でLi
2CO
3とブレンドし、パイロット規模の機器を使用して930℃で10時間焼成する。次いで焼結ケーキを粉砕し、分類して、対応する前駆体と同様の平均粒径D50を有する非凝集粉末を得る。実施例1〜3の前駆体化合物は、
【化3】
(x=0.35)より大きいPBET/(PTD*PD50)を有し、これらの前駆体化合物から作製されるカソード材料は8%未満のQ
irrを示し、これは非常に良好である。対照的に、実施例5及び6の前駆体化合物は、
【化4】
より小さいが、
【化5】
より大きいPBET/(PTD*PD50)を有する。カソード材料のQirrは、8%から10%の間である。結論:
【化6】
であるNMC111前駆体化合物が望ましく、より好ましくは
【化7】
である。
【0032】
実施例7〜13:
これらの実施例は、表3に示すように、異なる粒径、異なるBET及び異なるタップ密度を有するNMC433前駆体化合物を含有する。各前駆体化合物を、1.08のLi:Mモル比でLi
2CO
3とブレンドし、パイロット規模の機器を使用して910℃で10時間焼成する。次いで焼結ケーキを粉砕し、分類して、対応する前駆体と同様の平均粒径D50を有する非凝集粉末を得る。実施例7及び8の前駆体化合物は、
【化8】
(x=0.38)より大きいPBET/(PTD*PD50)を有し、これらの前駆体から作製されるカソード材料は8%未満のQ
irrを示す。実施例12及び13の前駆体化合物は、
【化9】
より小さいPBET/PTD*PD50を有し、その対応するカソード材料は10%超のQirrを有する。実施例9〜11の前駆体化合物は、
【化10】
との間のPBET/(PTD*PD50)の値を有する。これらのQirrはすべて、8%から10%の間である。したがって、
【化11】
であるNMC433前駆体が望ましく、より好ましくは
【化12】
である。
【0033】
実施例14〜17:
これらの実施例は、表4に示すように、異なる粒径、異なるBET及び異なるタップ密度を有するNMC532前駆体化合物を含有する。各前駆体化合物を、1.02のLi:Mモル比でLi
2CO
3とブレンドし、パイロット規模の機器を使用して920℃で10時間焼成する。次いで焼結ケーキを粉砕し、分類して、対応する前駆体と同様の平均粒径D50を有する非凝集粉末を得る。表4に示すように、実施例14の前駆体のPBET/(PTD*PD50)値は、
【化13】
(x=0.51)より大きく、8%未満のそのカソード材料のQirrに対応する。実施例16及び17の前駆体のPBET/(PTD*PD50)値は、10%超のそのカソード材料のQirrに対応する
【化14】
より小さい。実施例15は、
【化15】
との間のPBET/(PTD*PD50)値及び8%と10%との間のQirrを有する。したがって、
【化16】
であるNMC532前駆体が望ましく、より好ましくは
【化17】
である。
【0034】
実施例18、19:
これらの2つの実施例は、本発明がNMC622にも適用することを実証する。前駆体化合物を、1.02〜1.04のLi:Mブレンド比でLiOHとよく混合する(表4を
参照)。混合物を、パイロット規模の機器を使用して880℃の温度で10時間反応させる。次いで焼結ケーキを粉砕し、分類して、対応する前駆体と同様の平均粒径D50を有する非凝集粉末を得る。実施例18は、
【化18】
との間のPBET/(PTD*PD50)値及び8%と10%との間のQirrを示す。実施例19は、
【化19】
より小さいPBET/(PTD*PD50)値及び10%超のQirrを示す。どちらも我々の式によく該当する。
【0035】
本発明において使用するすべての前駆体化合物は、Umicoreの大量生産金属水酸化物又はオキシ水酸化物である。上記の実施例で見られるように、低Ni%のNMC111及びNMC433前駆体は、一定のPD50で広範囲のPBET、PTDを有するが、高Ni%のNMC532、とりわけNMC622前駆体は、多少狭い範囲のPBET及びPTDを有する。低NiのNMCよりも高NiのNMCでは、高PBET又は低PTDの前駆体を有することはより困難にみえる。また、通常、Ni含有率が高いほど、低Qirrを実現することが困難である。したがって、
【化20】
を満たすNMC622前駆体化合物が望ましく、より好ましくは
【化21】
である。
【0036】
実施例20、21:
一般に、とりわけドープする量が少ないとき、ドーパントは必ずしもカソード材料のQirrに強力な衝撃性を持たなくてよい。これらの2つの実施例は、本発明が1mol%ジルコニウムをドープしたNMC111及びNMC433にも適用することを実証する。前駆体化合物をナノサイズのZrO
2(Evonik、Germany)と10分間よく混合し、次いで1.08又は1.10のLi:Mブレンド比でLi
2CO
3と混合する(表5を参照)。ZrO
2は正方かつ単斜相であり、12nmの平均一次粒径及び60±15m粒子m
2/gのBETを有する。混合物を、パイロット規模の機器を使用して910又は930℃の温度で10時間反応させる。次いで焼結ケーキを粉砕し、分類して、対応する前駆体と同様の平均粒径D50を有する非凝集粉末を得る。どちらのNMC前駆体も
【化22】
を満たし、カソードのQirrは8%未満である。したがって、ドーパントを有するカソード材料の場合、
【化23】
である前駆体が望ましく、より好ましくは
【化24】
である。
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【手続補正書】
【提出日】2016年2月26日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンバッテリー中の正極活物質として使用可能なリチウム遷移金属(M)−酸化物粉末を製造するための微粒子前駆体化合物であって、(M)がNixMnyCozAvであり、Aがドーパントであり、0.33≦x≦0.60、0.20≦y≦0.33、かつ0.20≦z≦0.33、v≦0.05、かつx+y+z+v=1であり、前記前駆体が、m2/gで表す比表面積PBET、g/cm3で表すタップ密度PTD、μmで表す中央粒径PD50を有し、
【化1】
であり、
0.33≦x≦0.35の場合、中央粒径PD50、タップ密度PTD、及び比表面積PBETは、2.5≦PD50≦3.5、0.90≦PTD<1.30及び20<PBET<40であるか、又は
0.35<x≦0.45の場合、PD50、PDT、及びPBETは、2.5≦PD50≦3.5、1.30<PTD<1.45及び12<PBET<20であるか、又は
0.45<x≦0.55の場合、PD50、PDT、及びPBETは、5.0≦PD50≦9.0、1.25<PTD<1.45、及び15<PBET<25である、前駆体化合物。
【請求項2】
【請求項3】
v=0であり、化合物がPTD<2g/cm3を有する、請求項1又は2に記載の前駆体化合物。
【請求項4】
前駆体が水酸化物M−OH又はオキシ水酸化物M−OOH化合物である、請求項1又は2に記載の前駆体化合物。
【請求項5】
リチウムイオンバッテリー中の正極活物質として使用可能なリチウム遷移金属(M)−酸化物粉末の製造における、請求項1又は2に記載の前駆体化合物の使用。
【国際調査報告】