(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
複合材料は、ゲルと、該ゲル中に配置された少なくとも1つのナノ構造体とを含むものであり得る。軟組織欠損を治癒させるための方法は、複合材料を軟組織欠損に適用することを含むものであり得、該複合材料が、ゲルと、該ゲル中に配置されたナノ構造体とを含むものである。軟組織欠損の治癒における使用のための複合材料の製造方法は、ゲルを準備すること、およびナノ繊維を該ゲル中に配置することを含むものであり得る。
ヒドロゲル材料に共有結合された約100nm〜約8000nmの平均直径を有する高分子繊維を含むものである構造骨格複合体であって、該ヒドロゲル材料に対する該繊維の比が成分の質量ベースで約1:10〜約10:1、または濃度ベースで約1〜50mg/mLである構造骨格複合体。
高分子繊維が、ポリ(乳酸グリコール酸共重合体)、ポリ乳酸および/またはポリカプロラクトン、またはその組合せを含む合成高分子材料を含むものである、請求項1に記載の構造骨格複合体。
高分子繊維が、シルク、コラーゲンおよびキトサン、またはその組合せからなる群より選択される生物学的高分子材料を含むものである、請求項1に記載の構造骨格複合体。
ヒドロゲル材料が、ポリ(エチレングリコール)、コラーゲン、デキストラン、エラスチン、アルギネート、フィブリン、アルギネート、ヒアルロン酸、ポリ(ビニルアルコール)、もしくはその誘導体、またはその組合せを含むものであるヒドロゲル材料を含むものである、請求項1に記載の構造骨格複合体。
ヒドロゲル材料が、前記ポリカプロラクトン繊維の外側表面の少なくとも一部分を実質的に覆っているヒアルロン酸を含むものである、請求項1に記載の構造骨格複合体。
被験体に投与された場合、組織の形状の保持がもたらされるのに有効な量の請求項1に記載の構造骨格複合体または請求項25に記載の埋入可能マテリアルを備えている、外科処置を受けている被験体において組織の形状を保持するための医療用デバイス。
複数の細孔がもたらされるように配向された高分子繊維を含むものである無細胞3次元構造骨格を準備する工程、ここで、該高分子繊維の少なくとも一部分は他のポリカプロラクトン繊維に架橋されている;ヒドロゲル材料を含む組成物を該高分子繊維上に配置して複合体を形成する工程;および該複合体を反応させるか、または安定化させて安定化された埋入物を形成し、それにより該埋入物を調製する工程を含む、組織または軟骨の修復のための埋入物の調製方法。
複数の細孔がもたらされるように配向された高分子繊維を含むものである無細胞3次元構造骨格を準備する工程;ヒドロゲル材料を含む組成物を該高分子繊維上に配置して複合体を形成する工程;および該複合体を反応させるか、または安定化させて安定化された埋入物を形成する工程、ここで、該高分子繊維の少なくとも一部分は該ヒドロゲル材料に架橋されている、を含む、組織または軟骨の修復のための埋入物の調製方法。
複数の細孔がもたらされるように配向された高分子繊維を含むものである無細胞3次元構造骨格を準備する工程;ヒドロゲル材料を含む組成物を該高分子繊維上に配置して複合体を形成する工程;および該複合体を反応させるか、または安定化させて安定化された埋入物を形成する工程、ここで、該高分子繊維の少なくとも一部分は該ヒドロゲル材料に架橋されている、を含む、組織または軟骨の修復のための埋入物の調製方法。
外傷または外科的介入に起因する組織欠損の解消方法であって、該組織を含む組織を膨張させることを含み、該組織を膨張させることが、有効量の請求項1に記載の構造骨格複合体を該組織に埋入し、それによりこれを膨張させることを含む方法。
加齢関連の疾患、障害または病状に起因する組織欠損を低減または逆転させるための方法であって、該組織を含む組織を膨張させることを含み、該組織を膨張させることが、有効量の請求項1に記載の構造骨格複合体を該組織に埋入し、それによりこれを膨張させることを含む方法。
【図面の簡単な説明】
【0047】
一例として示し、本発明を記載の具体的な実施形態だけに限定することを意図するものではない以下の詳細説明は、添付の図面と併せると最良に理解され得よう。
【0048】
【
図1A】
図1Aは、ゲル内に配置されたナノ構造体、特に、ナノ構造体とゲルの官能基との共有結合を示す、本開示による複合材の一実施形態の構造を示す(is illustrates)。
【0049】
【0050】
【0051】
【
図1D】
図1Dは、ECMとの超微細構造上の類似性を示す、脱水させた
図1に示す複合材の走査型電子顕微鏡検査(SEM)画像を示す。
【0052】
【
図2A】
図2Aは、同じ架橋密度のヒドロゲルと比べて改善された弾性率を示す、HAヒドロゲル単独に対してプロットした、
図1の複合材の一実施形態の応力−歪み曲線を示す。
【0053】
【
図2B】
図2Bは、
図2Aの複合材の実施形態が通常のヒドロゲルと比べて同様のロバスト性の機械的完全性を保持していることを示す疲労試験を示す。
【0054】
【
図3-1】
図3Aおよび
図3Bは、ナノ繊維−HAヒドロゲル複合材内で4日間培養したASCの蛍光オーバーレイ(
図3A)および位相差画像(
図3B)を示す。
【0055】
【
図3-2】
図3Cおよび
図3Dは、通常のHAヒドロゲル内で4日間培養したASCの蛍光オーバーレイ(
図3C)および位相差画像(
図3D)を示す。
【0056】
【
図4】
図4Aおよび
図4Bは、スフェロイドから、整列した650nmナノ繊維に沿って遊走しているASCを造影した蛍光画像およびオーバーレイ(
図4A)および位相差画像(
図4B)を示す。
【0057】
【
図5A】
図5Aは、ラット鼠径部脂肪体下のインサイチュでのナノ繊維−ヒドロゲル複合材の外観を示す写真である。
【0058】
【
図5B】
図5Bは、埋入後2週間目に収集した複合材の周囲の組織の切片のH&E染色画像を示す。
【0059】
【
図5C】
図5Cは、4週間目に複合材−組織界面から採取した組織切片の細胞浸潤を示すH&E染色画像を示す。
【0060】
【
図6-1】
図6Aは、ポリカプロラクトン(PCL)繊維−HAヒドロゲル複合材の合成スキームを示す。
【0061】
【
図6-2】
図6Bは、PCL繊維とHA鎖網目間に界面結合を有する複合材構造の模式図を示す。
【0062】
図6Cは、同じ寸法を有する調製したばかりの円柱状繊維−HAヒドロゲル複合材(左)とHAヒドロゲル(右)の全体的外観を示す光学画像を示す(スケールバー=5mm)。
【0063】
図6Dは、凍結乾燥および再水和後の同じ一組のサンプルの光学画像を示す。
【0064】
図6Eは、HAヒドロゲルの断面のSEM画像を示す(スケールバー=40μm)。
【0065】
図6Fは、PCL繊維−HAヒドロゲル複合材の断面のSEM画像を示す(スケールバー=100μm)。
【0066】
図6Gは、脱細胞処理した天然脂肪組織の断面のSEM画像を示す(スケールバー=10μm)。
【0067】
【
図7】
図7Aは、HAヒドロゲルの強化性圧縮弾性率に対する繊維直径および界面結合の効果を示す。HAヒドロゲルおよび複合材は4.5mg/mlのHAを元にして調製した。応力の値は50%歪みで測定した。*p<0.05(スチューデントのt検定)。
【0068】
図7Bは、PEGヒドロゲルの強化性圧縮弾性率に対する繊維直径および界面結合の効果を示す。PEGヒドロゲルおよび複合材は30mg/mlのPEGSHと20mg/mlのPEGDAを元にして調製し、繊維−PEGヒドロゲル複合材の合成には1.0μmのPCL繊維を使用した。応力の値は50%歪みで測定した。*p<0.05(スチューデントのt検定)。
【0069】
【
図8】
図8Aは、HAヒドロゲルの強化性剪断貯蔵弾性率に対する界面結合の密度および繊維直径の効果を示す。*p<0.05(スチューデントのt検定)。
【0070】
図8Bは、PEGヒドロゲルの強化性剪断貯蔵弾性率に対する界面結合の密度および繊維直径の効果を示す。剪断貯蔵弾性率の値は1Hzの周波数で測定した。*p<0.05(スチューデントのt検定)。
【0071】
図8Cは、HAヒドロゲルの強化性剪断貯蔵弾性率に対する界面結合の密度および繊維直径の効果を示す。剪断貯蔵弾性率の値は1Hzの周波数で測定した。*p<0.05(スチューデントのt検定)。
【0072】
図8Dは、HAヒドロゲルの強化性剪断貯蔵弾性率に対する界面結合の密度および繊維直径の効果を示す。剪断貯蔵弾性率の値は1Hzの周波数で測定した。*p<0.05(スチューデントのt検定)。
【0073】
【
図9】
図9Aは、HAヒドロゲルの剪断貯蔵弾性率に対する繊維負荷量の効果を示す。HAヒドロゲルおよび複合材は10mg/mlのHAを用いて合成した。剪断貯蔵弾性率は1Hzの周波数で測定する。青色矢印は、SH基対(DA+MAL)基のモル比が1対2である両方の複合材の条件を示す。*p<0.05(スチューデントのt検定)。
【0074】
図9Bは、HAヒドロゲルの剪断貯蔵弾性率に対する繊維負荷量の効果を示す。HAヒドロゲルおよび複合材は4.5mg/mlのHAを用いて合成した。剪断貯蔵弾性率は1Hzの周波数で測定する。青色矢印は、(DA+MAL)基に対するSH基のモル比が1対2である両方の複合材の条件を示す。*p<0.05(スチューデントのt検定)。
【0075】
【
図10】
図10Aは、異なる周波数での繊維−HAヒドロゲル複合材の機械的強度を示す。HAヒドロゲルおよび複合材の剪断貯蔵弾性率は異なる周波数の剪断負荷に対して測定する。
【0076】
図10Bは、異なる再水和での繊維−HAヒドロゲル複合材の機械的強度を示す。再水和前および再水和後の複合材の圧縮応力の比較(歪み=40%)。
【0077】
図10Cは、異なる負荷サイクルでの繊維−HAヒドロゲル複合材の機械的強度を示す。HAヒドロゲルおよび対応する複合材の圧縮応力を負荷サイクルに対して測定する(歪み=25%)。
【0078】
【
図11】
図11Aは、HAヒドロゲル内における27日目のヒト脂肪由来幹細胞(hASC)の遊走能を示す。1.9kPa前後の同様の圧縮弾性率を示すHAヒドロゲル対照とこの2種類の複合材を選択した。hASCのF−アクチンと核を、それぞれAlexa Fluor(登録商標)568ファロイジン(赤)とDAPI(青)で染色した。ナノ繊維をAlexa Fluor(登録商標)647(白)で標示した。スケールバー=100μm。
【0079】
図11Bは、ナノ繊維−HAヒドロゲル複合材内における27日目のヒト脂肪由来幹細胞(hASC)の遊走能を示す。1.9kPa前後の同様の圧縮弾性率を示すHAヒドロゲル対照とこの2種類の複合材を選択した。hASCのF−アクチンと核を、それぞれAlexa Fluor(登録商標)568ファロイジン(赤)とDAPI(青)で染色した。ナノ繊維をAlexa Fluor(登録商標)647(白)で標示した。スケールバー=100μm。
【0080】
図11Cは、RGD−ナノ繊維−HAヒドロゲル複合材内における27日目のヒト脂肪由来幹細胞(hASC)の遊走能を示す。1.9kPa前後の同様の圧縮弾性率を示すHAヒドロゲル対照とこの2種類の複合材を選択した。hASCのF−アクチンと核を、それぞれAlexa Fluor(登録商標)568ファロイジン(赤)とDAPI(青)で染色した。ナノ繊維をAlexa Fluor(登録商標)647(白)で標示した。スケールバー=100μm。
【0081】
図11Dは、RGD−ナノ繊維−HAヒドロゲル複合材内における27日目のヒト脂肪由来幹細胞(hASC)の遊走能を示す。1.9kPa前後の同様の圧縮弾性率を示すHAヒドロゲル対照とこの2種類の複合材を選択した。(d)と(e)における黄色の矢印は、繊維または繊維集合体に接着している細胞を示す。hASCのF−アクチンと核を、それぞれAlexa Fluor(登録商標)568ファロイジン(赤)とDAPI(青)で染色した。ナノ繊維をAlexa Fluor(登録商標)647(白)で標示した。スケールバー=20μm。
【0082】
図11Eは、ナノ繊維−HAヒドロゲル複合材内における27日目のヒト脂肪由来幹細胞(hASC)の遊走能を示す。1.9kPa前後の同様の圧縮弾性率を示すHAヒドロゲル対照とこの2種類の複合材を選択した。(d)と(e)における黄色の矢印は、繊維または繊維集合体に接着している細胞を示す。hASCのF−アクチンと核を、それぞれAlexa Fluor(登録商標)568ファロイジン(赤)とDAPI(青)で染色した。ナノ繊維をAlexa Fluor(登録商標)647(白)で標示した。スケールバー=20μm。
【0083】
図11Fは、ヒト脂肪由来幹細胞(hASC)の遊走能を示す。PCL繊維とHA鎖網目間に界面結合を有する複合材構造内におけるhASCスフェロイドの模式図を示す。
【0084】
【
図12-1】
図12Aは、埋入した繊維−HAヒドロゲル複合材およびHAヒドロゲルによって媒介された30日目の組織再生を示す。鼠径部脂肪体下に埋入前(インセット)および埋入後の複合材の巨視的画像(スケールバー=2mm)を示す。白色星印は、埋入したマトリックスを示す。
【0085】
図12Bは、埋入した繊維−HAヒドロゲル複合材およびHAヒドロゲルによって媒介された30日目の組織再生を示す。鼠径部脂肪体下に埋入前(インセット)および埋入後のHAヒドロゲルの巨視的画像(スケールバー=2mm)を示す。白色星印は、埋入したマトリックスを示す。
【0086】
図12Cは、埋入した繊維−HAヒドロゲル複合材およびHAヒドロゲルによって媒介された30日目の組織再生を示す。(i)天然脂肪組織、(ii)疑似手術後に治癒した組織、(iii,v)繊維−HAヒドロゲル埋入組織、および(iv,vi)HAヒドロゲル埋入組織の14日目および30日目のH&E染色画像およびマッソントリクローム染色画像を示す。画像において、H=HAヒドロゲル,C=繊維−HAヒドロゲル複合材,B=褐色脂肪組織,黄色の矢印=血管。スケールバー=200μm。
【0087】
【
図12-2】
図12Dは、埋入した繊維−HAヒドロゲル複合材およびHAヒドロゲルによって媒介された30日目の組織再生を示す。(i)天然脂肪組織、(ii)疑似手術後に治癒した組織、(iii,v)繊維−HAヒドロゲル埋入組織、および(iv,vi)HAヒドロゲル埋入組織の14日目および30日目のH&E染色画像およびマッソントリクローム染色画像を示す。マッソントリクローム染色による青色染色は、検査した組織内のすべてのコラーゲンを示す。画像において、H=HAヒドロゲル,C=繊維−HAヒドロゲル複合材,B=褐色脂肪組織,黄色の矢印=血管。スケールバー=200μm。
【0088】
【
図13】
図13Aは、MALを有する表面改質繊維のPAAグラフト法による調製の模式的説明図を示す。
【0089】
図13Bは、3および10%(v/v)のアクリル酸を用いたPAAグラフト後の繊維上のカルボキシル基の平均密度を示す(*p<0.05,n=6)。
【0090】
【
図14】
図14は、4.5mg/mlのHA−SHを用いて調製した、DAに対するSHのモル比が種々のHAヒドロゲルの剪断貯蔵弾性率を示す。
【0091】
【
図15】
図15Aは、種々の量の繊維で調製した繊維−HAヒドロゲル複合材の剪断貯蔵弾性率を示す。繊維の平均直径は686nmである。繊維上のMAL表面密度は100nmol/mgであり、複合材は、4.5mg/mlのHA−SHおよび5mg/mlのPEGDAを用いて調製した。青色矢印は、SH基対(DA+MAL)基のモル比が1対2であることを示す。*p<0.05(n=3)。
【0092】
図15Bは、種々の量の負荷繊維を有する繊維−PEGヒドロゲル複合材の剪断貯蔵弾性率を示す。*p<0.05(n=3)。
【0093】
【
図16】
図16は、断面のSEM画像に基づいて推定したHAヒドロゲルおよびナノ繊維−HAヒドロゲル複合材の平均孔径を示す(*p<0.05)。
【0094】
【
図17】
図17Aは、繊維−HAヒドロゲル複合材中への14日目の細胞浸潤および組織内殖を示す。切片化組織をH&Eにより、すべてのコラーゲン(青)について染色した。標示:C=繊維−HAヒドロゲル複合材,黄色の矢印=血管。スケールバー=50μm。
【0095】
図17Bは、繊維−HAヒドロゲル複合材中への14日目の細胞浸潤および組織内殖を示す。切片化組織をマッソントリクロームにより、すべてのコラーゲン(青)について染色した。標示:C=繊維−HAヒドロゲル複合材,黄色の矢印=血管。スケールバー=50μm。
【0096】
図17Cは、繊維−HAヒドロゲル複合材中への30日目の細胞浸潤および組織内殖を示す。切片化組織をH&Eにより、すべてのコラーゲン(青)について染色した。標示:C=繊維−HAヒドロゲル複合材,黄色の矢印=血管。スケールバー=50μm。
【0097】
図17Dは、繊維−HAヒドロゲル複合材中への30日目の細胞浸潤および組織内殖を示す。切片化組織をマッソントリクロームにより、すべてのコラーゲン(青)について染色した。標示:C=繊維−HAヒドロゲル複合材,黄色の矢印=血管。スケールバー=50μm。
【0098】
【
図18】
図18は、脱細胞処理した脂肪組織(上側パネル)および繊維−HAヒドロゲル複合材(下側パネル)の断面のSEM画像を示す。
【0099】
【
図19】
図19Aは、HAヒドロゲル(G’=24.85μ 2.92Pa)内における4日目のhASCの遊走能を示す。HAヒドロゲルは、2.5mg/mlのHA−SHおよび5.0mg/mlのPEGDAを用いて製作した。スケールバー=100μm。
【0100】
図19Bは、1.0μm繊維−HAヒドロゲル複合材(G’=32.29μ 2.16Pa)内における4日目のhASCの遊走能を示す。複合材は、2.5mg/mlのHA、5.0mg/mlのPEGDAおよび10mg/mlの繊維を用いて製作した。スケールバー=100μm。
【0101】
図19Cは、286nm繊維−HAヒドロゲル複合材(G’ 39.56μ 1.26Pa)内における4日目のhASCの遊走能を示す。複合材は、2.5mg/mlのHA、5.0mg/mlのPEGDAおよび10mg/mlの繊維を用いて製作した。スケールバー=100μm。
【0102】
【
図20】
図20Aは注入用配合物を示す。繊維−ヒドロゲル複合材は注入用の用途のために配合することができる。
【0103】
図20Bは、注入用複合材が注入直後、安定であることを示す。
【0104】
図20Cは、注入用複合材が水中に非分散性のままであり、形状と容積が保持されることを示す。
【0105】
図20Dは、広範な細胞リモデリングおよび脂肪細胞形成を示す、注入用繊維−HAヒドロゲル複合材中への30日目の細胞浸潤および組織内殖を示す。切片化組織をH&Eによって染色した。標示:c=繊維−HAヒドロゲル複合材。
【発明を実施するための形態】
【0106】
本発明は、軟組織の再構築のための方法における使用のためのヒドロゲルとナノ構造体とを含むものである複合材料に関する。また、本発明は、軟組織の傷害を、ヒドロゲルと該ヒドロゲル中に配置されたナノ構造体とを含む組成物を用いて修復または再構築するための方法に関する。また、他の態様における本発明は、軟組織の再構築における使用のための組成物であって、ヒドロゲルと該ヒドロゲル中に配置されたナノ構造体とを含むものである組成物の製作方法に関する。
【0107】
以下は、当業者が本発明を実施するのを補助するために示した本発明の詳細説明である。当業者により、本明細書に記載の実施形態において本発明の趣旨または範囲を逸脱することなく修正および変形がなされ得る。特に定義していない限り、本明細書で用いる科学技術用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者に一般的に理解されているものと同じ意味を有する。本発明の説明において本明細書で用いている専門用語は、具体的な実施形態の説明のためのものにすぎず、本発明を限定することを意図するものではない。本明細書で言及した刊行物、特許出願、特許、図および他の参考文献はすべて、引用によりその全体が明示的に組み込まれる。
【0108】
本明細書に記載のものと同様または同等の任意の方法および材料もまた、本発明の実施または試験において使用され得るが、好ましい方法および材料を次に説明する。本明細書で言及した刊行物はすべて、該刊行物の引用に関連する方法および/または材料を開示および記載するために、引用により本明細書に組み込まれる。
【0109】
特に定義していない限り、本明細書で用いる科学技術用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者に一般的に理解されているものと同じ意味を有する。以下の参考文献(その全開示内容は引用により本明細書に組み込まれる)は、当業者に、本発明で用いている用語(本明細書において特に定義していない限り)の多くの一般的な定義を示すものである:Singleton et al.,Dictionary of Microbiology and Molecular Biology(第2版 1994);The Cambridge Dictionary of Science and Technology(Walker編,1988);The Glossary of Genetics,第5版,R.Rieger et al.(編),Springer Verlag(1991);およびHale & Marham,the Harper Collins Dictionary of Biology(1991)。一般的に、本明細書に記載の、または本明細書に内在する分子生物学的方法の手順などは、当該技術分野で使用されている一般的な方法である。かかる標準的な手法は、例えば、Sambrook et al.,(2000,Molecular Cloning−−A Laboratory Manual,第3版,Cold Spring Harbor Laboratories);およびAusubel et al.,(1994,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,New−York)などの参照マニュアルにおいて知得され得る。
【0110】
以下の用語は、特に指定のない限り、以下の該用語に帰属する意味を有するものであり得る。しかしながら、当業者に知られているか、または理解されている他の意味もまた考えられ得、本発明の範囲に含まれることを理解されたい。本明細書で言及した刊行物、特許出願、特許および他の参考文献はすべて、引用によりその全体が組み込まれる。矛盾する場合は、本明細書(定義を含む)に支配される。また、材料、方法および実施例は例示にすぎず、限定を意図するものではない。
【0111】
定義
本明細書で用いる場合、「構造骨格複合体」は、2つの成分:高分子繊維とヒドロゲル材料の任意の共有結合体を包含している。構造骨格複合体は、高分子繊維とヒドロゲル材料を、成分間の相互作用によって化学的、生化学的、生物物理学的、物理学的または生理学的有益性がもたらされることを意味する「機能性網目」の状態で含有している。また、機能性網目に、さらなる成分、例えば、細胞、生物学的物質(例えば、ポリペプチド、核酸、脂質、炭水化物)、治療用化合物、合成分子などを含めてもよい。一部の特定の実施形態では、該構造骨格複合体は、ヒト被験体に存在している標的組織に埋入された場合、組織成長および細胞浸潤を促進させるものである。
【0112】
本明細書で用いる場合、用語「ヒドロゲル」は、「ゲル」の一類型であり、共有結合性架橋または非共有結合性架橋によって一体に保持された巨大分子(例えば、親水性ポリマー、疎水性ポリマー、そのブレンド)の3次元網目からなり、相当な量の水分(例えば、非水分子1単位あたり50%、60% 70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または99%より多く)を吸収して弾性ゲルを形成し得る水膨潤性の高分子マトリックスをいう。任意の適切な合成または天然のポリマー材料の高分子マトリックスが形成され得る。本明細書で用いる場合、用語「ゲル」は、液状媒体の容積にまたがり、表面張力効果によって捕えられた(ensnare)固形の3次元網目をいう。この内部網目構造は、物理的結合(物理的ゲル)により生じるものであってもよく、化学結合(化学的ゲル)により生じるものであってもよいとともに、クリスタリットまたはエクステンダー液中でインタクトなままである他の接合部であってもよい。事実上、任意の流体、例えば、水(ヒドロゲル)、油および空気(エーロゲル)がエクステンダーとして使用され得る。重量および容積の両方で、ゲルは組成の大部分が流体であり、したがって、その構成液状物のものと同様の密度を示す。ヒドロゲルは、水が液状媒体として使用されるゲルの一類型である。
【0113】
「疎水性」ポリマーおよび「親水性」ポリマーの定義は、100%の相対湿度でポリマーによって吸収される水蒸気の量に基づく。この分類によれば、疎水性ポリマーは100%の相対湿度(「rh」)で1%までしか水を吸収しないものであるが、適度に親水性のポリマーは1〜10%の水を吸収するものであり、親水性ポリマーは10%より多くの水を吸収し得るものであり、吸湿性ポリマーは20%より多くの水を吸収するものである。「水膨潤性」ポリマーは、水性媒体中に浸漬させると自重の少なくとも50%より多くの量の水を吸収するものである。
【0114】
用語「架橋されている」とは、本明細書において、組成物が、共有結合によってもたらされるものであれ非共有結合によってもたらされるものであれ、分子内および/または分子間架橋を含んでいることをいい、該架橋は直接的であってもよく、橋かけ剤を含むものであってもよい。「非共有」結合には水素結合と静電(イオン)結合の両方が包含される。
【0115】
用語「ポリマー」には線状および分岐型のポリマー構造が包含され、また、架橋ポリマーならびにコポリマー(これは架橋型であっても、そうでなくてもよい)、したがって例えば、ブロックコポリマー、交互コポリマー、ランダムコポリマーなどが包含される。本明細書において「オリゴマー」という化合物は、約1000Daより小さい、好ましくは約800Daより小さい分子量を有するポリマーである。ポリマーおよびオリゴマーは、天然に存在するものであってもよく、合成供給源から得られるものであってもよい。
【0116】
軟組織の再構築
腫瘍根絶、外傷、加齢または先天性奇形による破滅的な軟組織喪失により、毎年、何百万人もの人が苦しめられている。組織、例えば皮膚、脂肪および筋肉の喪失は、大きな機能的および美容的障害をもたらし、これは、慣用的な手段で処置することが困難である。一例として、米国では毎年、300,000例を超える部分乳房切除術が行われており、乳房の軟組織の喪失により乳房の醜い傷跡となる。軟組織回復のための既存の選択肢は大きな欠点を有する。自家組織皮弁は、長時間外科処置での身体の別の部分からの軟組織の移動を必要とし、これはドナー部位を欠陥状態にする{LoTempio 2010.Plastic and Reconstructive Surgery,126(2),393−401;Patel 2012.Annals of Plastic Surgery,69(2),139−144}。補綴埋入物は、異物に応答して線維形成および被包化をもたらしがちである{Calobrace 2014 Plastic and Reconstructive Surgery,134(1 Suppl),6S−11;Tsoi 2014.Plastic and Reconstructive Surgery,133(2),234−249}。脂肪吸引で収集した脂肪細胞の配置を伴う脂肪移植は、小容積に限定され、移植片の不充分な生着率によって妨げられている{Kakagia 2014 Surgical Innovation,21(3),327−336;Largo 2014 British Journal of Plastic Surgery,67(4),437−448}。最後に、注入用ヒドロゲル軟組織フィラーを使用することができるが、このようなものは小さい欠損部だけに適しており、もたらされる容積の回復は一時的である{Young 2011.Acta Biomaterialia,7(3),1040−1049;Varma 2014 Acta Biomaterialia,10(12),4996−5004}。再構築部位の軟組織(脂肪組織など)を再生させるためのテンプレートとしてヒドロゲル構造骨格を使用することに着目した新しい世代の組織工学的解決策が提案されている。
【0117】
軟組織の再構築に対する現行の組織工学的アプローチ
脂肪由来幹細胞(ASC)は、軟組織欠損部周囲の創面環境において確認されている{Salibian 2013 Archives of plastic surgery 40.6:666−675}。この細胞は、適切なマトリックス微小環境により支持された場合、脂肪などの軟組織に分化し得る。したがって、修復部位を機能性材料で充填するストラテジーは、内在性ASCを用いて新しい組織を再生できる可能性を有する。ヒドロゲルは、軟組織のものと同様のその3次元(3D)の性質と弾性特性のため、組織欠損の再生のための構造骨格マトリックスとして広く研究されている。天然脂肪組織のものと同様の弾性率(約2kPa)を有する{Alkhouli 2013 American Journal of Physiology.Endocrinology and Metabolism,305(12),E1427−35;Sommer 2013 Acta biomaterialia 9.11(2013):9036−9048}とともに、周囲組織による物理的応力に対してその容積および形状が維持されるヒドロゲル構造骨格を作製するために種々の方法が使用されている。これには高い架橋密度と小さな平均孔径が必要とされる{Ryu 2011 Biomacromolecules 12.7(2011):2653−2659;Khetan 2013 Nature Materials,12(5),458−465;Li 2014 Journal of Neurotrauma,31(16),1431−1438}が、低細胞浸潤および再生不良となる。ヒドロゲル構造骨格が細胞浸潤を促進させる能力は成功裡の軟組織回復の鍵である。血管浸潤がないことは、大容量の脂肪の移植および他の組織工学的試行の不成功の一因である。軟組織欠損の失われた容積を充填することができるとともに早期血管新生およびASC分化を促進させて軟組織を再生させる現在利用可能な材料はない。
【0118】
ヒドロゲルマトリックス
過去、数年間で、LiおよびWenにより、ラミニン由来ループペプチド(CCRR
IKVAVWLC,10μM)とコンジュゲートさせた、幹細胞移植のための最適化された孔径および弾性率(10〜100Pa)を有するヒアルロン酸(HA)ヒドロゲルが開発されている。彼らにより、このヒドロゲルが、ロバストな神経幹細胞(NSC)の遊走および分化細胞からの神経突起の出現を支持することが示されている{Li 2014 Journal of Neurotrauma,31(16),1431−1438}。外傷性脳傷害のラット制御式皮質傷害(CCI)モデルにおいて、このヒドロゲルは、CCI傷害後3日目に注入した場合、有意な脈管構造網目形成を促進させ、埋入後、4週間〜6ヵ月間で病変部位(>10mm)が充填された。この改善された新脈管形成は、このヒドロゲルが、組織が分泌する増殖因子、特に血管内皮増殖因子(VEGF)を保持および提示する能力によるものであった。また、文献の報告により、3〜10個の二糖単位の小さいHA分解断片は、内皮細胞の増殖、遊走、細管形成および新脈管形成の強力な調節因子であることが明らかになった{Slevin 2002 Journal of Biological Chemistry,277(43),41046−41059}。最近の研究で、CCI傷害後の脳病変部位にヒト胎児組織由来NSCスフェロイドを生成させるためのこのHAヒドロゲルの有効性が試験された。このHAヒドロゲルは移植後、構造骨格マトリックス内部にロバストな血管形成をもたらした。再生血管は病変内に成長し、埋入したマトリックス中に浸透して神経前駆細胞の生着と成長を支持した。このような研究が脂肪組織再生のためのものでなくても、このような結果により、宿主の血管内殖の促進におけるこの最適化されたHAヒドロゲル組成物の特殊な能力が確認された。より重要なことには、ヒドロゲルマトリックスは、ヒドロゲルマトリックス内部でのロバストな細胞遊走が可能であるのに充分に多孔質である。しかしながら、このHAヒドロゲルをそのまま軟組織の再構築のために使用することは実現可能でない。それは、その機械的特性が、埋入部位の完全性が維持されるのに充分に高くない(周囲の脂肪組織は10倍超高い弾性率を有する)ためである。弾性率を改善するために架橋密度を上げると細胞の浸潤および遊走のための透過性が不充分になる。バルクヒドロゲルの平均孔径を有意に低減させることなく機械的特性を高めるための新しいストラテジーが必要とされている。加工組織細胞外マトリックス、例えば、脂肪組織に由来する、および/または脂肪組織から誘導可能な細胞外マトリックスを含む、および/または該細胞外マトリックスから単離したヒドロゲル材料を提供する。
【0119】
構造骨格複合体。
本明細書において、ヒト被験体の組織内に組み込まれる医療用デバイス用途に適した構造骨格複合体を提供し、該複合体はヒト被験体に、例えば注入または埋入によって投与される。構造骨格複合体は、一般的には約10nm〜約10,000nm、例えば約100nm〜約8000nm、または約150nm〜約5,000nm、または約100、150、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、900、1,000、1,500、2,000、2,500、3,000、3,500、4,000、4,500、5,000、5,500、6,000、6,500、7,000、7,500もしくは8,000の平均直径を有する高分子繊維を含有している。本明細書に示しているように、ヒドロゲル材料に対する高分子繊維の比は、当該技術分野で知られた任意の手段によって(my)求めることができる。例えば、ヒドロゲル材料に対する高分子繊維の比は、成分の質量ベースで約1:100〜約100:1、例えば約1:50〜約50:1、または1:10〜約10:1、例えば1:5〜約5:1、例えば約1:3〜約3:1である。また、ヒドロゲル材料に対する高分子繊維の比は濃度ベースで、例えば、単位容量のヒドロゲル材料あたりの高分子繊維の所与の重量でも示される。例えば、該濃度は約1〜50mg/mLである。ヒドロゲル材料は一般的にポリマー繊維上に、例えば、ポリマー繊維の外側表面(または組成および形状に応じて1つの外側表面)に結合しているように配置される。構造骨格複合体は、一般的には一様な固形物質ではない。そうではなく、構造骨格複合体は、該構造骨格複合体の表面上または表面内に存在している複数の細孔を含むものである。細孔の存在、サイズ、分布、頻度および他のパラメータは構造骨格複合体の創製中に調整することができる。孔径は約1ミクロン未満から100ミクロンまで、例えば、1、2、3、4 5、10、15、20、30、40、50、60 70、80、90または100ミクロンであり得、そのサイズは、例えば、細孔の少なくとも40%、例えば50%、60%、70%、80%、90%、95%または95%より多くが所望のサイズであるか、または所望のサイズ範囲内であるように狭く個別調整され得る。
【0120】
本発明の構造骨格複合体はヒト被験体の組織内への組込みに適しており、したがって、一般的には「生体適合性」(生物学的系(例えば、ヒト被験体においてみられるもの)と、該系内に、および/または該系による病態生理学的応答が誘導されることなく相互作用し得ることを意味する)である。一部の実施形態では、該構造骨格複合体を、組織内に永続的に保持させるために提供する。あるいはまた、該構造骨格複合体をヒト被験体内に一時的に保持し、実質的に生分解性のものとして提供する。好ましくは、高分子繊維は生体適合性生分解性ポリエステルを含有するものである。好ましい一実施形態では、高分子繊維はポリカプロラクトンを含有するものである。
【0121】
本明細書に示しているように、ポリマー繊維とヒドロゲルを含むものである該複合体の相互作用の好ましい一形態は、一般的に、該ポリマー繊維と該ヒドロゲル材料との間に結合が導入されるのに有効な量、例えば、該ポリカプロラクトン繊維とヒアルロン酸との間に架橋が誘導されるのに有効な量で存在している架橋性部分を含む。
【0122】
軟組織回復のための構造骨格の設計
複合材のコンセプトは、材料強化機構として広く使用されている。例えば、ヒドロキシアパタイト粒子をヒドロゲルに添加すると剛性を高めることができ{Wu 2008 Materials Chemistry and Physics 107.2(2008):364−369}、細長い粒子では複合材の引張弾性率はさらにいっそう高くなる{Yusong 2007 Journal of Materials Science,42(13),5129−5134}。エレクトロスピニングナノ繊維メッシュは、そのトポグラフィー上での天然ECMとの類似性のため、組織工学的基材として広く使用されている。特に重要なことに、脂肪組織の脱細胞処理ECMは高度に線維性で多孔質の性質である(
図6G){Young 2011.Acta Biomaterialia,7(3),1040−1049}。いくつかの最近の研究で、断片化したポリ(ラクチド)(PLA)またはキトサンの繊維をポリエチレングリコール(PEG)、ポリアクリルアミドまたはアルギネートヒドロゲルに導入することにより、この線維性成分を再現することが試みられている{Coburn 2011 Smart Structures and Systems,7(3),213;#37;Zhou 2011 Colloids and Surfaces B:Biointerfaces,84(1),155−162;Shin 2015 Journal of Materials Chemistry}。断片化繊維は、ヒドロゲル前駆物質溶液と混合すると、ゲル化プロセス中にヒドロゲルに組み込まれ、3D構造物が創製される。このような繊維包埋ヒドロゲルは、対応するヒドロゲルと比べて改善された機械的特性が示されている。しかしながら、インビボでの宿主細胞浸潤の試験は報告されていない。また、このようなヒドロゲルは非分解性であり、脂肪細胞の接着および分化のための接着性リガンドが必要とされる。
【0123】
ナノ繊維−ヒドロゲル複合材の設計
ヒドロゲル相内に高い多孔度を維持したまま繊維強化効果を得るため、他の構造骨格と比べて卓越した特性をもたらすエレクトロスピニング繊維−ヒドロゲル複合材を提供する。既報のようにナノ繊維とヒドロゲルマトリックスをブレンドすること{Coburn 2011 Smart Structures and Systems,7(3),213}に加えて、本発明では、繊維表面とヒドロゲルの架橋網目との間に界面結合を導入する(
図6)。かかる複合材設計は、固形の繊維成分によるより強固な機械的強化が可能になるだけでなく、ヒドロゲル相のバルクの機械的特性および平均孔径/多孔度を独立して微調整することも可能になり、最適な細胞浸潤特性と構造的完全性の両方が可能になる。繊維はASCおよび内皮前駆細胞のための好ましい細胞接着基材として使用され得、したがって、細胞遊走およびASC分化を支持するためのガイドとしての機能を果たすことがさらに想定される。
【0124】
技術革新
一部の特定の態様において、技術革新の鍵は、ナノ繊維表面とヒドロゲルの網目との間に界面結合を有するナノ繊維−ヒドロゲル複合材設計である(
図6A)。この工学的複合材は、ヒドロゲル相の平均孔径を有意に低減させることなくヒドロゲルの機械的特性が劇的に改善される可能性を有する。界面結合の導入により、2つの成分を単に物理的にブレンドするのと比べて卓越した機械的強度効果がもたらされ得る。本研究は、ブレンドとは対照的にエレクトロスピニングポリカプロラクトン(PCL)繊維−HAヒドロゲル複合材で達成され得る範囲の機械的特性(圧縮弾性率および剪断弾性率)を計画するものである。第2の技術革新は、かかるナノ繊維−ヒドロゲル複合材が軟組織欠損を回復させることの実証である。事前の特性評価では、該複合材が脂肪組織と構造的特徴を共有していることが示された(
図6){Christman,2012 米国特許出願公開第20120264190号;Young 2011.Acta Biomaterialia,7(3),1040−1049}。この複合材により軟組織再生に重要な構造的完全性と機械的特性がもたらされるという仮説をたてた。また、本研究により、ヒドロゲルと比べて該複合材の多用途性および効率が実証された。
【0125】
本プロジェクトの成功裡の完成により、欠けている軟組織容積の回復のための、特に、血管網目の確立、組織修復部位の完全性の維持、細胞の遊走と組織化の促進、および宿主細胞の動員がすべて持続的な組織の回復に極めて重要な大きな欠損のためのオフザシェルフ(off−the−shelf)の解決策がもたらされる。この複合材設計に使用される材料成分、すなわち、HAヒドロゲルおよび生分解性ポリエステル繊維に関する広範な臨床的追跡記録により、組織適合性に関するこの事前のデータと合わせて、卓越した組織適合性および臨床応用のための規制当局の許可へのまっすぐな道が示唆された。
【0126】
特長:
一部の実施形態では、本発明により、ヒドロゲル成分中においてナノ繊維とポリマー網目との間に界面結合を提供する。これは「真の」複合材の形成に重要である。かかる繊維とヒドロゲルをブレンドすることでは同じ度合の機械的増強は得られないことが実証された。また、ナノ繊維−ヒドロゲルブレンドの使用に関する先の報告も存在する。換言すると、重要なことには、この界面結合によって新規な本研究が従来技術と識別される。さらに、界面結合には、本文書に示したような共有結合、ならびに二次結合、例えば、水素結合および静電荷相互作用が包含され得る。
【0127】
また、これは、等方性強化を示す、すなわち該複合材が、任意の幾何構造の欠損容積に置き換わるのに必要な全方向においてより強固になることを示す当該技術分野における最初の研究である。ナノ繊維マットまたは少数の整列したフィラメントを有する設計は本来、異方性である。本設計は、等方性材料および異方性材料の両方を構成することができるものである。
【0128】
本明細書に提示した本研究において、少なくとも一部の特定の態様では、複合材の形成に使用する成分を、細胞遊走および宿主組織の内殖に充分な孔径および多孔度を有するヒドロゲル網目と、50nm〜10μmの範囲の直径を有するポリマー繊維を疎密に含むナノ繊維とに規定している。
【0129】
ゲル/ヒドロゲル成分
本発明のヒドロゲル複合材は、任意の型の適切なヒドロゲル成分を含むものであり得る。本発明では、任意の適切なゲル成分、例えば、当該技術分野で知られた任意の適切なヒドロゲル成分を含むものであるナノ構造体/ゲル複合材を想定している。任意の適切な合成または天然の材料のゲルおよび/またはヒドロゲルが形成され得る。
【0130】
例えば、ゲルおよび/またはヒドロゲルのポリマー成分は、セルロースエステル、例えば、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートブチレート(CAB)、セルロースプロピオネート(CP)、セルロースブチレート(CB)、セルロースプロピオネートブチレート(CPB)、セルロースジアセテート(CDA)、セルローストリアセテート(CTA)などを含むものであり得る。このようなセルロースエステルは、米国特許第1,698,049号、同第1,683,347号、同第1,880,808号、同第1,880,560号、同第1,984,147号、同第2,129,052号、および同第3,617,201号に記載されており、当該技術分野で知られた手法を用いて調製され得るか、または市販品で得られ得る。本明細書において好適な市販のセルロースエステルとしては、CA 320、CA 398、CAB 381、CAB 551、CAB 553、CAP 482、CAP 504(すべて、Eastman Chemical Company(Kingsport,Tenn.)から入手可能)が挙げられる。かかるセルロースエステルは、典型的には、約10,000〜約75,000の数平均分子量を有するものである。
【0131】
セルロースエステルは、セルロースモノマー単位とセルロースエステルモノマー単位の混合物を含むものである(and comprise);例えば、市販のセルロースアセテートブチレートは、セルロースアセテートモノマー単位ならびにセルロースブチレートモノマー単位および非エステル化セルロース単位を含むものである。
【0132】
また、本発明のゲル/ヒドロゲルは、他の水膨潤性のポリマー、例えばアクリレートポリマーで構成されたものであってもよく、アクリレートポリマーは一般的に、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルおよび/または他のビニルモノマーから形成されるものである。好適なアクリレートポリマーは、上記のRohm Pharma(Germany)の商標名「Eudragit」で入手可能なコポリマーである。EudragitシリーズE、L、S、RL、RSおよびNEコポリマーは、有機溶媒中に可溶化されたものとして、水性分散体の状態で、または乾燥粉末として入手可能である。好ましいアクリレートポリマーは、メタクリル酸とメタクリル酸メチルのコポリマー、例えば、Eudragit LおよびEudragit Sシリーズのポリマーである。特に好ましいかかるコポリマーはEudragit L−30D−55とEudragit L−100−55である(後者のコポリマーは、Eudragit L−30D−55の噴霧乾燥形態であり、水で再構成することができる)。Eudragit L−30D−55およびEudragit L−100−55コポリマーの分子量はおよそ135,000Daであり、エステル基に対する遊離カルボキシル基の比はおよそ1:1である。このコポリマーは一般的に、5.5より下のpHを有する水性液に不溶性である。別の特に適切なメタクリル酸−メタクリル酸メチルコポリマーはEudragit S−100であり、これは、Eudragit L−30D−55とは、エステル基に対する遊離カルボキシル基の比がおよそ1:2であるという点で異なる。Eudragit S−100は5.5より下のpHで不溶性であるが、Eudragit L−30D−55とは異なり、5.5〜7.0の範囲のpHを有する水性液中に難溶性である。このコポリマーはpH7.0以上で可溶性である。また、Eudragit L−100も使用され得、これは、6.0より下のpHで不溶性である限りにおいてEudragit L−30D−55とEudragit S−100の間のpH依存性の溶解性プロフィールを有する。当業者には、Eudragit L−30D−55、L−100−55、L−100およびS−100は、同様のpH依存性の溶解性特徴を有する他の許容され得るポリマーで置き換えられ得ることが認識されよう。
【0133】
本明細書に記載の任意のゲル/ヒドロゲル組成物は、活性薬剤が含有され、それにより、身体表面(例えば、組織修復部位)に活性薬剤が伝達される関係において適用した場合に活性薬剤送達系としての機能を果たすように改質してもよい。本発明の本発明のヒドロゲル組成物に「負荷」された活性薬剤の放出は典型的には、膨潤制御型拡散機構による水分の吸収と該薬剤の脱離の両方を伴う。活性薬剤含有ヒドロゲル組成物は、一例として、経皮薬物送達系、創傷ドレッシング材、経表面医薬配合物、埋入型薬物送達系、経口投薬形態などに使用され得る。
【0134】
本発明のヒドロゲル組成物に組み込まれ、全身(例えば、経皮、経口または薬物の全身投与に適した他の投薬形態で)送達され得る好適な活性薬剤としては、限定されないが:興奮剤;鎮痛剤;麻酔剤;抗関節炎剤;呼吸器用の薬物、例えば、抗喘息剤;抗がん剤、例えば、抗新生物薬;抗コリン作用薬;抗痙攣薬;抗鬱薬;抗糖尿病剤;下痢止め薬;駆虫薬;抗ヒスタミン薬;抗高脂血症剤;抗高血圧剤;抗感染剤、例えば、抗生物質および抗ウイルス剤;抗炎症性剤;抗片頭痛調製物;制吐剤;抗パーキンソニズム薬;止痒薬;抗精神病薬;解熱薬;鎮痙薬;抗結核剤;抗潰瘍剤;抗ウイルス剤;抗不安薬;食欲抑制薬;注意欠陥障害(ADD)および注意欠陥多動障害(ADHD)薬;心血管用調製物、例えば、カルシウムチャネル遮断薬、抗狭心症剤、中枢神経系(CNS)用の薬剤、β−遮断薬および抗不整脈剤;中枢神経系刺激薬;咳および風邪用の調製物、例えば、鬱血除去薬;利尿薬;遺伝物質;薬草療法薬;ホルモン溶解薬;催眠薬;低血糖剤;免疫抑制剤;ロイコトリエン阻害薬;分裂阻害薬;筋弛緩薬;麻薬拮抗薬;ニコチン;栄養剤、例えば、ビタミン類、必須のアミノ酸および脂肪酸;眼科系薬物、例えば、抗緑内障剤;副交感神経遮断薬;ペプチド薬物;精神刺激薬;鎮静薬;ステロイド薬、例えば、プロゲストゲン、エストロゲン、コルチコステロイド、アンドロゲンおよび同化剤;禁煙剤;交感神経興奮薬;精神安定薬;ならびに血管拡張薬(例えば、冠状全般、末梢および脳のための)が挙げられる。本発明の接着性組成物とともに有用な具体的な活性薬剤としては、限定されないが、アナバシン、カプサイシン、硝酸(dinitrate)イソソルビド、アミノスチグミン、ニトログリセリン、ベラパミル、プロプラノロール、シラボリン、フォリドン(foridone)、クロニジン、シチシン、フェナゼパム、ニフェジピン、フルアシジン(fluacizin)およびサルブタモールが挙げられる。
【0135】
経表面薬物投与および/または薬用クッション(例えば、薬用フットパッド)のためには、適切な活性薬剤としては、一例として、以下のものが挙げられる。
【0136】
静菌剤および殺菌剤:好適な静菌剤および殺菌剤としては、一例として:ハロゲン化合物、例えば、ヨウ素、ポビドンヨード(iodopovidone)複合体(すなわち、PVPとヨウ素の複合体(「ポビジン(povidine)」とも称され、Purdue Frederickの商標名Betadineで入手可能である))、ヨウ化物塩、クロラミン、クロロヘキシジン、および次亜鉛素酸ナトリウム;銀および銀含有化合物、例えば、スルファジアジン、アセチルタンニン酸プロテイン銀、硝酸銀、酢酸銀、乳酸銀、硫酸銀および塩化銀;有機スズ化合物、例えば、安息香酸トリ−n−ブチルスズ;亜鉛および亜鉛塩;酸化剤、例えば、過酸化水素および過マンガンカリウム;アリール水銀化合物、例えば、ホウ酸フェニル水銀またはメルブロミン;アルキル水銀化合物、例えば、チメロサール(thiomersal);フェノール、例えば、チモール、o−フェニルフェノール、2−ベンジル−4−クロロフェノール、ヘキサクロロフェンおよびヘキシルレゾルシノール;ならびに有機窒素化合物、例えば、8−ヒドロキシキノリン、クロルキナルドール、クリオキノール、エタクリジン、ヘキセチジン、クロルヘキシジン(chlorhexedine)およびアンバゾン(ambazone)が挙げられる。
【0137】
抗生剤:好適な抗生剤としては、限定されないが、リンコマイシン系の抗生物質(最初にstreptomyces lincolnensisから収集された抗生剤の一類型をいう)、テトラサイクリン系の抗生物質(最初にstreptomyces aureofaciensから収集された抗生剤の一類型をいう)、およびイオウベースの抗生物質、すなわちスルホンアミドが挙げられる。リンコマイシン系の例示的な抗生物質としては、リンコマイシン、クリンダマイシン、例えば米国特許第3,475,407号、同第3,509,127号、同第3,544,551号および同第3,513,155号に記載の関連化合物、ならびにその薬理学的に許容され得る塩およびエステルが挙げられる。テトラサイクリン系の例示的な抗生物質としては、テトラサイクリン自体、クロルテトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、テトラサイクリン、デメクロサイクリン、ロリテトラサイクリン、メタサイクリンおよびドキシサイクリンならびにその薬学的に許容され得る塩およびエステル、特に酸付加塩(塩酸塩など)が挙げられる。例示的なイオウベースの抗生物質としては、限定されないが、スルホンアミド スルファセタミド、スルファベンズアミド、スルファジアジン、スルファドキシン、スルファメラジン、スルファメタジン、スルファメチゾール、スルファメトキサゾール、ならびにその薬理学的に許容され得る塩およびエステル、例えば、スルファセタミドナトリウムが挙げられる。
【0138】
鎮痛剤:好適な鎮痛剤は、局所麻酔薬、例えば限定されないが、アセトアミドオイゲノール、酢酸アルファドロン、アルファキサロン、アムカイン(amuカイン)、アモラノン、アミロカイン、ベノキシネート、ベトキシカイン、ビフェナミン、ブピバカイン、ブレタミン(burethamine)、ブタカイン、ブタベン(butaben)、ブタニリカイン、ブタリタール(buthalital)、ブトキシカイン、カルチカイン、2−クロロプロカイン、シンコカイン、コカエチレン、コカイン、シクロメチカイン、ジブカイン、ジメチソキン、ジメトカイン、ジペラドン(diperadon)、ジクロニン、エクゴニジン、エクゴニン、アミノ安息香酸エチル、塩化エチル、エチドカイン、エトキサドロール(etoxadrol)、β−オイカイン、オイプロシン(euprocin)、フェナルコミン、フォモカイン(fomocaine)、ヘキソバルビタール、ヘキシルカイン、ヒドロキシジオン、ヒドロキシプロカイン、ヒドロキシテトラカイン、p−アミノ安息香酸イソブチル、ケンタミン(kentamine)、メシル酸ロイシノカイン、レボキサドロール(levoxadrol)、リドカイン、メピバカイン、メプリルカイン、メタブトキシカイン、メトヘキシタール、塩化メチル、ミダゾラム、ミルテカイン、ネパイン、オクタカイン、オルトカイン、オキセサゼイン、パレトキシカイン、フェナカイン、フェンシクリジン、フェノール、ピペロカイン、ピリドカイン、ポリドカノール、プラモキシン、プリロカイン、プロカイン、プロパニジド、プロパノカイン、プロパラカイン、プロピポカイン、プロポフォール、プロポキシカイン、プソイドコカイン、ピロカイン、リソカイン、サリチルアルコール、テトラカイン、チアルバルビタール、チミラール(thimylal)、チオブタバルビタール、チオペンタール、トリカイン、トリメカイン、ゾラミン、およびその組合せである。テトラカイン、リドカインおよびプリロカインは本明細書において言及している鎮痛剤である。
【0139】
本発明のヒドロゲル組成物を薬物送達系として用いて送達され得る他の経表面薬剤としては、以下のもの:抗真菌剤、例えば、ウンデシレン酸、トルナフテート、ミコナゾール、グリセオフルビン、ケトコナゾール、シクロピロックス、クロトリマゾールおよびクロロキシレノール;角質溶解剤、例えば、サリチル酸、乳酸および尿素;起壊死性薬(vessicant)、例えば、カンタリジン;抗座瘡剤、例えば、有機過酸化物(例えば、過酸化ベンゾイル)、レチノイド(例えば、レチノイン酸、アダパレン、およびタザロテン)、スルホンアミド(例えば、スルファセタミドナトリウム)、レゾルシノール、コルチコステロイド(例えば、トリアムシノロン)、α−ヒドロキシ酸(例えば、乳酸およびグリコール酸)、α−ケト酸(例えば、グリオキシル酸)、ならびに具体的に座瘡の処置に指示される抗菌剤、例えば、アゼライン酸、クリンダマイシン、エリスロマイシン、メクロサイクリン、ミノサイクリン、ナジフロキサシン、セファレキシン、ドキシサイクリン、およびオフロキサシン;美白剤および漂白剤、例えば、ヒドロキノン、コウジ酸、グリコール酸および他のα−ヒドロキシ酸、アルトカルピン、および一部の特定の有機過酸化物;疣を処置するための薬剤、例えば、サリチル酸、イミキモド、ジニトロクロロベンゼン、スクアリン酸ジブチル、ポドフィリン、ポドフィロトキシン、カンタリジン、トリクロロ酢酸、ブレオマイシン、シドホビル、アデホビル、およびそのアナログ;ならびに抗炎症剤、例えば、コルチコステロイドおよび非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)(ここで、NSAIDとしては、ケトプロフェン、フルルビプロフェン、イブプロフェン、ナプロキセン、フェノプロフェン、ベノキサプロフェン、インドプロフェン、ピルプロフェン、カルプロフェン、オキサプロジン、プラノプロフェン、スプロフェン、アルミノプロフェン、ブチブフェン、フェンブフェン、およびチアプロフェン酸が挙げられる)が挙げられる。
【0140】
創傷ドレッシング材のためには、好適な活性薬剤は創傷の処置に有用なものであり、限定されないが、静菌性化合物および殺菌性化合物、抗生剤、鎮痛剤、血管拡張薬、組織治癒促進剤、アミノ酸、タンパク質、タンパク質分解性酵素、サイトカインならびにポリペプチド増殖因子が挙げられる。
【0141】
一部の活性薬剤の経表面投与および経皮投与のため、および創傷ドレッシング材において、皮膚内または皮膚経由での該薬剤の浸透速度を向上させるためにヒドロゲル組成物に浸透向上剤を組み込むことが必要または望ましい場合があり得る。好適な向上剤としては、例えば、以下のもの:スルホキシド、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)およびデシルメチルスルホキシド;エーテル、例えば、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(Transcutolとして市販品として入手可能)およびジエチレングリコールモノメチルエーテル;界面活性剤、例えば、ラウリン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、塩化ベンザルコニウム、ポロキサマー(231、182、184)、Tween(20、40、60、80)およびレシチン(米国特許第4,783,450号);1−置換アザシクロヘプタン−2−オン、特に、1−n−ドデシルシクラザ−シクロヘプタン−2−オン(Nelson Research & Development Co.,Irvine,Calif.の商標Azoneで入手可能;米国特許第3,989,816号、同第4,316,893号、同第4,405,616号および同第4,557,934号参照);アルコール、例えば、エタノール、プロパノール、オクタノール、デカノール、ベンジルアルコールなど;脂肪酸、例えば、ラウリン酸、オレイン酸および吉草酸;脂肪酸エステル、例えば、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、プロピオン酸メチル、およびオレイン酸エチル;ポリオールおよびそのエステル、例えば、プロピレングリコール、エチレングリコール、グリセロール、ブタンジオール、ポリエチレングリコール、およびポリエチレングリコールモノラウレート(PEGML;例えば、米国特許第4,568,343号参照);アミドおよび他の含窒素化合物、例えば、尿素、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジメチルホルムアミド(DMF)、2−ピロリドン、1−メチル−2−ピロリドン、エタノールアミン、ジエタノールアミンおよびトリエタノールアミン;テルペン;アルカノン;ならびに有機酸、特に、サリチル酸およびサリチレート、クエン酸およびコハク酸が挙げられる。また、2種類以上の向上剤の混合物を使用してもよい。
【0142】
他の一部の特定の実施形態において、ゲル(例えば、ヒドロゲル成分)およびナノ構造体を含むものである本発明の複合材組成物はまた、任意選択のさらなる添加剤成分も含むものであってもよい。かかる成分は当該技術分野で知られており、例えば、フィラー、保存料、pH調節剤、柔軟剤、増粘剤、顔料、色素、屈折性粒子、安定剤、強化剤、粘着防止剤、医薬用薬剤(例えば、抗生物質、新脈管形成促進薬、抗真菌剤、免疫抑制剤、抗体など)、および浸透向上剤が挙げられ得る。このような添加剤およびその量は、ヒドロゲル組成物の所望の化学的および物理的特性に有意に支障を来さないような様式で選択される。
【0143】
吸収剤フィラーは、該接着体が皮膚または他の身体表面上に存在する場合の水和の度合を制御するために好都合に組み込まれ得る。かかるフィラーとしては、微晶質セルロース、タルク、ラクトース、カオリン、マンニトール、コロイド状シリカ、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、疎水性デンプン、硫酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸カルシウム二水和物、網目紙および不織紙ならびに木綿材料が挙げられ得る。他の適切なフィラーは、不活性な、すなわち実質的に非吸着性であり、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン ポリエーテルアミドコポリマー、ポリエステルおよびポリエステルコポリマー、ナイロンならびにレーヨンが挙げられる。
【0144】
また、該組成物に1種類以上の保存料を含めてもよい。保存料としては、一例として、p−クロロ−m−クレゾール、フェニルエチルアルコール、フェノキシエチルアルコール、クロロブタノール、4−ヒドロキシ安息香酸メチルエステル、4−ヒドロキシ安息香酸プロピルエステル、塩化ベンザルコニウム、セチルピリジニウムクロリド、クロロヘキシジンジアセテートまたはグルコネート、エタノール、およびプロピレングリコールが挙げられる。
【0145】
また、該組成物にpH調節化合物を含めてもよい。pH調節剤として有用な化合物としては、限定されないが、グリセロールバッファー、クエン酸バッファー、ホウ酸バッファー、リン酸バッファーが挙げられるか、あるいは、また、ヒドロゲル組成物のpHが個体の身体表面のものと同等であることが確実になるようにクエン酸−リン酸バッファーを含めてもよい。
【0146】
また、該組成物に適切な柔軟剤を含めてもよい。好適な柔軟剤としては、クエン酸エステル、例えば、クエン酸トリエチルまたはアセチルクエン酸トリエチル、酒石酸エステル、例えば、酒石酸ジブチル、グリセロールエステル、例えば、グリセロールジアセテートおよびグリセロールトリアセテート;フタル酸エステル、例えば、フタル酸ジブチルおよびフタル酸ジエチル;および/または親水性界面活性剤、好ましくは、親水性の非イオン界面活性剤、例えば、糖類の脂肪酸部分エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪族アルコールエーテル、およびポリエチレングリコールソルビタン−脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0147】
また、該組成物に増粘剤を含めてもよい。本明細書における好ましい増粘剤は、天然に存在する化合物またはその誘導体であり、一例として:コラーゲン;ガラクトマンナン;デンプン;デンプン誘導体および加水分解物;セルロース誘導体、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、およびヒドロキシプロピルメチルセルロース;コロイド状ケイ酸;ならびに糖類、例えば、ラクトース、サッカロース、フルクトースおよびグルコースが挙げられる。また、合成増粘剤、例えば、ポリビニルアルコール、ビニルピロリドン−酢酸ビニル−コポリマー、ポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコールも使用され得る。
【0148】
一部の特定の実施形態では、ヒドロゲルとナノ構造体を含むものである本発明のヒドロゲル複合材はさらに、新脈管形成を促進させる成分を含むものである。臨床的に重要な軟組織再生を達成するための本発明以前の課題は、再生された組織が好ましくは再血管形成すべきということである。したがって、軟組織再生を促進させる任意の材料は好ましくはまた、新脈管形成を促すものもあるのがよい。これを達成するための方法の1つは、新脈管形成および組織形成を促進させる増殖因子を富化および保持するための増殖因子結合部位としての機能を果たし得るヘパリン含有ヒドロゲル成分の使用によるものである。
【0149】
種々の他の実施形態において、本発明の複合材料は、ヒドロゲル材料として(as they)ヒアルロン酸(HA)をベースにしたものであり得る。HAは、ヒドロゲル成分を構成する二糖反復単位を有する非硫酸系の線状多糖である。また、HAは、ヒト組織の細胞外マトリックスの非免疫原性天然成分であり、美容処置および再建処置において皮膚用フィラーとして広く使用されている。
【0150】
HAの分解は天然のヒアルロニダーゼによって助長され、ヒアルロニダーゼの発現は組織損傷領域および炎症領域で高くなっている。重要なことに、研究により、3〜10個の二糖単位のHAの分解小断片が内皮細胞の増殖、遊走、細管形成および新脈管形成の強力な調節因子であることが示されている。HAのこのような生物学的機能は、RasおよびPKCを伴う経路においてCD44によって媒介されると考えられている。抗CD44抗体を用いたCD44/HA相互作用のブロックにより、インビトロでヒト微小血管の内皮細胞の増殖および遊走が低減された。HAヒドロゲルは、細胞送達のための有望なマトリックスとしてさまざまな細胞傷害モデルおよび組織傷害モデルにおいて研究されている。このようなヒドロゲルは、細胞のための保護的および支持性構造骨格としての機能を果たし得、また、瘢痕形成性を低減させ得る。したがって、HAは、細胞浸潤を促進させること、および新脈管形成を促進させることによって組織再生の向上に極めて重要な役割を有すると考えられる。
【0151】
第1に、該材料は、3次元の完全性および天然脂肪組織のものと同様の粘稠度を有する。これにより、欠けている軟組織容積のオフザシェルフの回復に適したものとなる。第2に、該材料は好ましくは、脂肪細胞および内皮前駆細胞の遊走のための基材としての機能を果たし得る複数の柔軟性ナノ繊維とともに堆積され得る。第3に、該材料は、このような前駆細胞が、構造骨格の周囲に線維性被膜を形成するのではなく構造骨格内に速やかに浸潤して一体化することを可能にするのに充分な多孔度を有する。第4に、HAヒドロゲル成分は、圧縮性および容積膨張をもたらすとともに、重要な血管形成のきっかけももたらす。第5に、ナノ繊維およびヒドロゲル成分は生分解性であり、再生される軟組織と置き換えられることが可能になる。第6に、すべての成分材料は、数多くのFDA承認デバイスにおいて高い安全性の追跡記録を有し、臨床応用に対する規制当局のハードルが下がる可能性がある。
【0152】
また、本発明のゲル/ヒドロゲル/ナノ構造体複合材に、組織修復剤、例えば、いくつかの成長因子、例えば、上皮成長因子(EDF)、PDGFおよび神経成長因子(NGF)を含めてもよい。例えば、該組成物はEGFを含むものであり得る。上皮成長因子(EGF)は、実験用マウスの皮膚の創傷が、マウスが傷をなめることを許容した場合の方が速やかに治癒しているようであるという観察の後に見出された。これは、単純に、唾液中の一部の殺菌性因子(リゾチームなど)のためだけではなかった。特定の成長因子(現在は、EGFとして知られている)が一因であることが示された。EGFはウロガストロンと同一であり、血管形成特性を有する。トランスホーミング増殖因子−α(TGF−α)は非常に同様しており、同じ受容体に結合し、上皮細胞の再生(上皮化)の刺激においてさらにより有効である。
【0153】
したがって、EGF/TGFを含むものである本発明のヒドロゲルは、創傷治癒の加速および火傷、ケロイドの傷跡形成の低減(特に火傷に対して)、皮膚生着用ドレッシング材、ならびに慢性下肢潰瘍の処置において好都合に使用され得る。
【0154】
本発明において有用な組織修復剤としては、いくつかの成長因子、例えば、上皮成長因子(EDF)、PDGFおよび神経成長因子(NGF)が挙げられる。一般的に、成長促進ホルモンは1種類から4種類の組織に影響を及ぼす。かかるタンパク質から開発された製剤品の多くは1種類またはもう1種類の創傷修復を目的としたものであるが、他の適応症もある。最も重要な組織成長因子のいくつかを以下にさらに記載する。
【0155】
また、本発明のゲル/ナノ構造体組成物に、本発明の組織修復方法および他の用途に有用であり得る1種類以上の増殖因子を含めてもよい。
【0156】
例えば、本発明は、本発明の組成物にPDGFを含めることを想定している。血小板由来増殖因子(PDGF)は、ほぼすべても間葉由来細胞、すなわち、血液、筋肉、骨、軟骨および結合組織の細胞のマイトジェンである。これは、AAもしくはBBホモ二量体として、またはABヘテロ二量体として存在する二量体型の糖タンパク質である。多くの増殖因子と同様、PDGFは、現在、大ファミリーの因子の一構成員であると考えられている。PDGFに加えて、このファミリーには、ヒト血管内皮細胞および線維芽細胞によって分泌されるPDGF様因子であるホモ二量体型因子の血管内皮増殖因子(VEGF)および胎盤増殖因子(PIGF)、VEGF/PIGFヘテロ二量体、および結合組織成長因子(CTGF)が含まれる。NGF、TGF−βおよび糖タンパク質ホルモン(ヒト絨毛性ゴナドトロピンホルモン(hCG)など)とともに、PDGFは現在、システインノット増殖因子スーパーファミリーの一構成員として分類される。このような因子はすべて、本発明のヒドロゲルと一緒に使用され得る。
【0157】
PDGFは血小板によって産生され、血液凝固の過程で放出される。これは、この細胞に由来する増殖因子の1つにすぎない。PDGFは、線維芽細胞および白血球を傷害部位に誘引するとともに、置換結合組織(主に、線維芽細胞および平滑筋細胞)の成長を刺激する。これは、種々の細胞(例えば、コラーゲンを生成するもの)の細胞分裂を刺激し、そのため新脈管形成を促す。また、これは、有糸分裂誘発、血管収縮、走化性、酵素活性およびカルシウム動員も刺激する。
【0158】
血小板由来増殖因子は、本発明の組成物を用いた一部の特定の処置の際に骨および軟組織再生を回復させるため、ならびに慢性および急性創傷の治癒過程を加速するために使用され得る。したがって、本発明のヒドロゲル/ナノ構造体組成物は好都合には、血小板由来増殖因子カクテルを含むものであり得る。
【0159】
本発明のヒドロゲル/ナノ構造体組成物は、例えば、PDGF遺伝子の局所送達のための遺伝子療法に使用され得る。PDGFをコードしているプラスミドDNAをヒドロゲルマトリックス中に組み込むと、肉芽組織線維芽細胞(これは、創傷周囲のバイアブル組織において発生し、プラスミド遺伝子の導入および発現の標的としての機能を果たす)がマトリックス中で増殖および遊走する。
【0160】
また、本発明のヒドロゲル/ナノ構造体組成物に、新脈管形成を促進させるためのVEGFを含めてもよい。血管内皮増殖因子(VEGF−血管透過性因子としても知られている)は、別の血管増殖因子であり、多機能性の血管形成性サイトカインである。これは、内皮細胞の増殖を微小血管レベルで刺激して該細胞が遊走すること、および一般的な発現の改変を引き起こすことによって間接的および直接的の両方で新脈管形成(血管成長)に寄与する。また、VEGFは、この(theses)内皮細胞の透過性を亢進させ、該細胞が血漿タンパク質を血管腔外部に放出することを引き起こし、これにより該領域内に変化を引き起こして新脈管形成に寄与する。
【0161】
また、本発明の組成物にFGFを含めてもよい。線維芽細胞増殖因子(FGF)は、実は、ヘパリン結合増殖因子ファミリーに属する少なくとも19 14 18kDのペプチドのファミリーであり、培養した線維芽細胞および血管内皮細胞に対して分裂促進性である。また、これは、インビボで血管形成性であり、この血管形成性はTNFによって増強される。FGFはEGFと同様の様式で使用され得る。bFGF(FGF−2としても知られる)はヒト巨核球形成の制御に関与しており、FGFは内皮細胞形成の刺激および結合組織修復の補助に有効であることが示されている。
【0162】
また、ヒドロゲル/ナノ構造体組成物は、創傷治癒および上皮細胞の破壊を伴う他の障害における使用のためのケラチノサイト成長因子(KGF)(FGF−7としても知られる)を含むものであってもよい。
【0163】
トランスホーミング増殖因子(TGF)は、種々の細胞株を形質転換させる能力を有し、例えば、培養状態で限定的な世代数より多く増殖する能力、単層ではなく多層層での増殖、および異常な核型の獲得を付与し得るものである。TGFファミリーには少なくとも5つの構成員が存在し、最も広く研究されている2つはTGF−αとTGF−βである。前者は、線維芽細胞および内皮細胞に対して分裂促進性であり、血管形成性であり、骨吸収を促進させる。また、該組成物にTGFを含めてもよい。TGF−βは、細胞制御の一般的な媒介因子、細胞成長の強力な阻害因子であり、多くの細胞型の増殖を阻害する。TGF−βは、他のペプチド増殖因子の分裂促進効果に対して拮抗作用をもたらし得、また、多くの腫瘍細胞株の増殖も阻害し得る。また、TGF−βは血管形成効果も有し、線維芽細胞におけるコラーゲン形成を促進させる。本発明のヒドロゲルの適応症としては、慢性皮膚潰瘍、例えば、糖尿病患者の神経栄養性足部潰瘍が挙げられる。他の分野としては、創傷治癒、骨修復および免疫抑制性疾患が挙げられる。
【0164】
本発明のヒドロゲル/ナノ構造体組成物は、例えば、適切な細胞を担持するために使用され得る。有効性を最大限にするため、細胞は該ゲル中に創傷または他の適切な領域に適用する直前に組み込まれ得る。好適な細胞としては、自己由来の線維芽細胞およびケラチノサイト(これらは主に真皮および表皮の形成を担う)が挙げられる。各々が一方の細胞型を含む別々のゲルを連続的に、または一緒に適用してもよく、1種類のゲルに両方の細胞型を含めてもよいが、これは一般的にはあまり好ましくない。
【0165】
本発明のヒドロゲル/ナノ構造体組成物は有益にはコラーゲンを含むものであり得る。コラーゲンは、この形態では、有用な構造的機能を果たす可能性は低いが、例えば、主として、タンパク質分解活性が望ましくないほど高い場合の犠牲的タンパク質としての機能を果たし、それにより健常組織の柔軟化の抑制を補助する。
【0166】
また、ヒドロゲル/ナノ構造体組成物に一部の特定の酵素を含めてもよい。酵素は、急性および慢性どちらの創傷のデブリードマンにも使用される。デブリードマンは、創傷からのバイアブルでない組織および異物の除去であり、創傷修復過程において天然に起こる事象である。炎症相の間、好中球およびマクロファージが「使用済」血小板、細胞デブリおよび無血管損傷組織を消化して創傷領域から除去する。しかしながら、相当な量の損傷組織が蓄積されると、この自然過程は破滅的になって不充分になる。その結果、壊死組織の蓄積が創傷に対して相当な食細胞の需要を生み出し、創傷治癒を遅らせる。そのため、壊死組織のデブリードマンは経表面療法の具体的な目的の1つであり、最適な創傷マネージメントの重要な要素である。
【0167】
例えば、酵素は、経表面適用のための本発明のヒドロゲル中に、選択的なデブリードマン法をもたらすために組み込まれ得る。好適な酵素は、種々の供給源、例えば、オキアミ、甲殻類、パパイア、牛乳および細菌に由来するものであり得る。適切な市販の酵素としては、コラーゲナーゼ、パパイン/尿素、およびフィブリノリジンとデオキシリボヌクレアーゼの組合せが挙げられる。
【0168】
本発明における使用のための酵素は一般的に、2つの様式:かさぶた成分(例えば、フィブリン、細菌、白血球、細胞デブリ、漿液性浸出液、DNA)の直接消化;または無血管組織を下部の創面環境に固定するコラーゲン「アンカー」の溶解のうちの1つによって作用する。
【0169】
所望により、一般的には抗菌効果および臭いのコントロールをもたらすために、本発明のヒドロゲルにデーキン液を含めてもよい。デブリードマン用薬剤として、デーキン液は、その細胞毒性の特性のため非選択的である。デーキン液はタンパク質を変性させ、創傷からより除去され易くする。また、かさぶたを剥がれ易くすることも、他の方法によるデブリードマンを助長する。目的がデブリードマンである場合、デーキン液を含めたヒドロゲルを1日2回交換するのがよい。創傷周囲の皮膚の保護は一般的に、例えば、軟膏、液状皮膚保護剤のフィルムドレッシング材、または固形皮膚保護剤のオブラートを用いて施すのがよい。
【0170】
本発明のゲルは、任意の適切な方法によって、例えば、シリンジもしくは蛇腹パック(bellows pack)(単回用量送達系)または反復用量システム、例えば、加圧送達系もしくは「バッグインザカン(bag in the can)」型システム(例えば、WO98/32675で公開されたもの)による送達によって送達され得る。蛇腹パックの一例は、公開UK意匠登録番号2082665に示されている。
【0171】
そのため、本発明は、本発明によるゲルを含む創傷の処置のための単回用量送達系にもまた拡張される。また、本発明は、本発明によるゲルを含むものである加圧送達系、および圧力を解放するとスプレー剤を形成し得るエーロゾル容器内で加圧した本発明によるヒドロゲルにも拡張される。かかる送達手段の使用により、該ゲルを患者において、他の方法では直接適用によって到達することが困難な領域、例えば、患者が横になっているときの患者の背部に送達すること可能になる。
【0172】
一部の特定の実施形態では、本発明のヒドロゲル組成物を、生物医学的電極および他の電気療法の状況における使用のために、すなわち、電極または他の電気伝導性の部材を身体表面に付着させるために電気伝導性にすることが好都合な場合があり得る。例えば、該ヒドロゲル組成物は、経皮的神経刺激電極、電気外科的戻り電極またはEKG電極を患者の皮膚または粘膜組織に付着させるために使用され得る。このような用途は、導電性の種を含有するようにするための該ヒドロゲル組成物の改質を伴う。好適な導電性の種は、イオン伝導性の電解質、特に、皮膚または他の身体表面への適用のために使用される導電性接着剤の製造に通常使用されるものであり、イオン化性の無機塩、有機化合物または両者の組合せが挙げられる。イオン伝導性の電解質の例としては、限定されないが、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、モノエタノールアミン酢酸塩、ジエタノールアミン酢酸塩、乳酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、酢酸ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸カルシウム、塩化リチウム、過塩素酸リチウム、クエン酸ナトリウムおよび塩化カリウム、ならびに酸化還元対、例えば、第二鉄塩と第一鉄塩(例えば、硫酸塩とグルコン酸塩)の混合物が挙げられる。好ましい塩は塩化カリウム、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウムおよび酢酸マグネシウムであり、塩化カリウムがEKG用途に最も好ましい。事実上、任意の量の電解質を本発明の接着性組成物中に存在させ得るが、電解質(存在させる場合)は該ヒドロゲル組成物の約0.1〜約15wt.%の範囲の濃度で存在させることが好ましい。生物医学的電極を製作するためのNielsen et al.に対する米国特許第5,846,558号に記載の手順が本発明のヒドロゲル組成物での使用のために適合され得、製造の詳細に関する該特許の開示内容は引用により組み込まれる。他の適切な製作手順も同様に使用され得、当業者には認識されよう。
【0173】
架橋
一部の特定の用途では、特に、高い粘着凝集強度が所望される場合、本発明のゲル/ヒドロゲルのポリマーを共有結合性架橋させるのがよい。本開示では、架橋がゲル/ヒドロゲル成分のポリマー間に所望され得ることを想定しているが、架橋は、本発明の複合材料のゲル/ヒドロゲルのポリマーとナノ構造体成分間にも所望されることを想定している。本発明では、ポリマー同士を互いに架橋させるための任意の適切な手段、および本発明のゲル/ヒドロゲルのポリマーをナノ構造体成分と架橋させるための任意の適切な手段を想定している。ゲル/ヒドロゲルのポリマーは他のポリマーまたはナノ構造体に、分子内結合もしくは分子間結合または共有結合のいずれかによって共有結合性架橋され得る。前者の場合、ポリマー同士を互いに、またはポリマーとナノ構造体を連結する共有結合はないが、後者の場合は、ポリマー同士を互いに、またはポリマーとナノ構造体を結合する共有結合性架橋が存在する。架橋は任意の適切な手段を用いて、例えば、熱、放射線または化学的硬化(架橋)剤を用いて形成され得る。架橋度は、圧縮下でのコールドフローが解消されるか、または少なくとも最小限となるのに充分であるのがよい。また、架橋は、架橋プロセスに使用される「橋かけ剤」である第3の分子の使用も包含している。
【0174】
熱架橋では、フリーラジカル重合開始剤が使用され、これは、ビニル重合に慣用的に使用される任意の既知のフリーラジカル生成性開始剤であり得る。好ましい開始剤は有機過酸化物およびアゾ化合物であり、一般的に、該重合性材料の約0.01wt.%〜15wt.%、好ましくは0.05wt.%〜10wt.%、より好ましくは約0.1wt.%〜約5%、最も好ましくは約0.5wt.%〜約4wt.%の量で使用される。好適な有機過酸化物としては、過酸化ジアルキル、例えば、過酸化t−ブチルおよび2,2ビス(t−ブチルペルオキシ)プロパン、過酸化ジアシル、例えば、過酸化ベンゾイルおよび過酸化アセチル、パーエステル、例えば、過安息香酸t−ブチルおよびパー−2−エチルヘキサン酸t−ブチル、ペルジカーボネート、例えば、ペルオキシ二炭酸ジセチルおよびペルオキシ二炭酸ジシクロヘキシル、ケトンペルオキシド、例えば、シクロヘキサノンペルオキシドおよびメチルエチルケトンペルオキシド、ならびにヒドロペルオキシド、例えば、クメンヒドロペルオキシドおよびtert−ブチルヒドロペルオキシドが挙げられる。好適なアゾ化合物としては、アゾビス(イソブチロニトリル)およびアゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)が挙げられる。熱架橋のための温度は実際の成分に依存し、当業者によって容易に推測され得るが、典型的には約80C〜約200Cの範囲である。
【0175】
また、架橋は、放射線を用いて、典型的には光開始剤の存在下で行われ得る。放射線は、紫外線、α放射線、β放射線、γ放射線、電子ビームおよびx線であり得るが、紫外線が好ましい。有用な光増感剤は「水素抽出」型の三重項増感剤であり、ベンゾフェノンおよび置換ベンゾフェノンならびにアセトフェノン、例えば、ベンジルジメチルケタール、4−アクリルオキシベンゾフェノン(ABP)、1−ヒドロキシ−シクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジエトキシアセトフェノンおよび2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセト−フェノン、置換α−ケトール、例えば、2−メチル−2−ヒドロキシプロピオフェノン、ベンゾインエーテル、例えば、ベンゾインメチルエーテルおよびベンゾインイソプロピルエーテル、置換ベンゾインエーテル、例えば、アニソインメチルエーテル、芳香族スルホニルクロリド、例えば、2−ナフタレンスルホニルクロリド、光活性オキシム、例えば、1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−(O−エトキシ−カルボニル)−オキシム、チオキサントン、例えば、アルキル−およびハロゲン置換チオキサントン(thioxanthonse)、例えば、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4 ジメチルチオキサノン(thioxanone)、2,4ジクロロチオキサノン、および2,4−ジエチルチオキサノン、ならびにアシルホスフィンオキシドが挙げられる。200〜800nm、好ましくは200〜500nmの波長を有する放射線が本明細書における使用に好ましく、ほとんどの場合、架橋の誘導には低強度の紫外光で充分である。しかしながら、水素抽出型の光増感剤を伴う場合、充分な架橋を行うためには高強度のUV曝露が必要な場合があり得る。かかる曝露は、水銀ランププロセッサー、例えば、PPG、Fusion、Xenonなどから入手可能なものによってもたらされ得る。また、架橋は、γ放射線または電子ビームを照射することによっても誘導され得る。適切な照射パラメータ、すなわち、架橋を行うために使用される放射線の型および線量は当業者に自明であろう。
【0176】
好適な化学的硬化剤(化学的架橋「促進剤」とも称される)としては、限定されないが、ポリマーカプタン、例えば、2,2−ジメルカプトジエチルエーテル、ジペンタエリスリトールヘキサ(3−メルカプトプロピオネート)、エチレンビス(3−メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラ(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラチオグリコレート、ポリエチレングリコールジメルカプトアセテート、ポリエチレングリコールジ(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールエタントリ(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールエタントリチオグリコレート、トリメチロールプロパントリ(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリチオグリコレート、ジチオエタン、ジ−またはトリチオプロパンおよび1,6−ヘキサンジチーオルが挙げられる。架橋促進剤は、未架橋の親水性ポリマーに、その共有結合性架橋を促進させるために添加されるか、または未架橋の親水性ポリマーと相補的オリゴマーのブレンドに、この2つの成分間の架橋をもたらすために添加される。
【0177】
また、該ポリマーおよび/またはナノ構造体を相補的オリゴマーとの混合前に架橋させてもよい。かかる場合、該ポリマーのモノマー型前駆体を多官能性コモノマーと混合して共重合させることにより、該ポリマーを架橋形態に合成することが好ましい場合があり得る。モノマー型前駆体および対応する高分子生成物の例は以下のとおり:ポリ(N−ビニルアミド)生成物ではN−ビニルアミド前駆体;ポリ(N−アルキルアクリルアミド)生成物ではN−アルキルアクリルアミド;ポリアクリル酸生成物ではアクリル酸;ポリメタクリル酸生成物ではメタクリル酸;ポリ(アクリロニトリル)生成物ではアクリロニトリル;およびポリ(ビニルピロリドン)(PVP)生成物ではN−ビニルピロリドン(NVP)である。重合は、バルク、懸濁、溶液または乳化状で行われ得る。溶液重合が好ましく、極性有機溶媒、例えば、酢酸エチルおよび低級アルカノール(例えば、エタノール、イソプロピルアルコールなど)が特に好ましい。親水性ビニルポリマーの調製のためには、合成は典型的には、上記のフリーラジカル開始剤の存在下でのフリーラジカル重合法によって行われる。多官能性コモノマーとしては、例えば、ビスアクリルアミド、ジオール、例えば、ブタンジオールおよびヘキサンジオールのアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル(1,6−ヘキサンジオールジアクリレートが好ましい)、他のアクリレート、例えば、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、および1,2−エチレングリコールジアクリレート、および1,12−ドデカンジオールジアクリレートが挙げられる。他の有用な多官能性架橋性モノマーとしては、オリゴマー型およびポリマー型の多機能性(メタ)アクリレート、例えば、ポリ(エチレンオキシド)ジアクリレートまたはポリ(エチレンオキシド)ジメタクリレート;ポリビニル系架橋剤、例えば、置換および非置換のジビニルベンゼン;ならびに二官能性ウレタンアクリレート、例えば、EBECRYL 270およびEBECRYL 230(それぞれ、重量平均分子量1500および重量平均分子量5000のアクリレート含有ウレタン、−どちらもSmyrna,Ga.のUCBから入手可能)、ならびにその組合せが挙げられる。化学的架橋剤を使用する場合、使用量は、好ましくは、親水性ポリマーに対する架橋剤の重量比が約1:100〜1:5の範囲となるような量である。高架橋密度を得るため、所望により、化学的架橋を放射線硬化と併用する。
【0178】
ナノ構造
本発明のナノ構造体成分は任意の適切な形態、例えば、繊維、フィラメント、メッシュ切片、分岐型フィラメントもしくは網目、シート、または成形粒子であり得る。また、ナノ構造体は、本発明のナノ構造体とヒドロゲルのポリマー間の共有結合性架橋または非共有結合性架橋を助長する任意の適切な化学官能基を含むものであってもよい。方法、手法および材料は、ナノ構造体の作製および官能基化の技術分野でよく知られている。
【0179】
一部の特定の実施形態では、本発明のナノ構造体を作製するために微細加工法が使用される。種々の実施形態において、本開示のデバイスは、任意の適切な微細加工手法を用いてアセンブルおよび/または製造され得る。かかる方法および手法は当該技術分野で広く知られている。
【0180】
本明細書に開示のナノ構造体の作製に使用され得る微細加工法としては、リソグラフィー;エッチング手法、例えば、レーザー、プラズマエッチング、フォトリソグラフィー、もしくは化学的エッチング、例えば、湿式化学的、乾式、およびフォトレジスト除去;もしくは固体自由形状手法によるもの、例えば、スリーディー(three−dimensional)プリンティング(3DP)、ステレオリソグラフィー(SLA)、選択的レーザー焼結(SLS)、弾道粒子(ballistic particle)製造(BPM)および熱溶解積層法(FDM);マイクロマシニングによるもの;シリコン熱酸化;電気メッキおよび無電界メッキ;拡散法、例えば、ホウ素、リン、ヒ素およびアンチモン拡散;イオン注入;膜堆積、例えば、蒸着(evaporation)(フィラメント、電子ビーム、フラッシュ、ならびにシャドウおよびステップカバレージ)、スパッタリング、化学気相蒸着(deposition)(CVD)、エピタキシー(気相、液相および分子線)、電気メッキ、スクリーン印刷、ラミネーションまたはその組合せによるものが挙げられる。Jaeger,Introduction to Microelectronic Fabrication(Addison−Wesley Publishing Co.,Reading Mass.1988);Runyan,et al.,Semiconductor Integrated Circuit Processing Technology(Addison−Wesley Publishing Co.,Reading Mass.1990);Proceedings of the IEEE Micro Electro Mechanical Systems Conference 1987−1998;Rai−Choudhury編,Handbook of Microlithography,Micromachining & Microfabrication(SPIE Optical Engineering Press,Bellingham,Wash.1997)を参照のこと。成形型として使用される材料の選択によって、分岐構造が形成されるためにどのように表面を構成されるかが決定される。
【0181】
例えば、当該技術分野の水準の製作法である微小電気機械システム(MEMS)(フォトリソグラフィー法および半導体業界から誘導した方法を使用する)を使用してもよい。ごく最近開発された方法としては、「ソフトリソグラフィー」(Whitesides et al,Angew chem.Int編,37;550−575,(1998))およびマイクロ流路テクトニクス(microfluidic tectonics)(米国特許第6,488,872号,Beebe et al.,Nature;404:588−59(2000))が挙げられる。ポリマーマイクロデバイス製作の概説および他の論考としては、Madou,M.J.Fundamentals of Microfabrication:The Science of Miniaturization;第2版;CRC Press:Boca Raton,1997;Becker,H.,and Locascio,L.E.「Polymer microfluidic devices.」Talanta,56(2):267−287,2002;Quake,S.R.,and Scherer,A.「From micro− to nanofabrication with soft materials.」Science,290(5496):1536−1540,2000;およびWhitesides,G.M.,and Stroock,A.D.「Flexible methods for microfluidics.」Physics Today,54(6):42−48,2001が挙げられ、これらの各々は引用により本明細書に組み込まれる。
【0182】
また、本発明のナノ構造体は、静電紡糸(エレクトロスピニングとも称される)によっても製作され得る。繊維が形成され得る液状物および/または溶液のエレクトロスピニング手法はよく知られており、いくつかの特許、例えば、米国特許第4,043,331号および同第5,522,879号などに報告されている。エレクトロスピニング法は一般的に、液状物を電界に導入し、それにより該液状物から繊維が作製されるようにすることを伴うものである。このような繊維は、一般的に、誘引的電位の導体へと延伸されて収集される。液状物から繊維に転換中に、繊維は硬化および/または乾燥する。この硬化および/または乾燥は、該液状物を冷却すること(すなわち、該液状物が通常、室温で固形である場合);溶媒の蒸発、例えば、脱水(物理学的誘導性硬化);または硬化機構(化学的誘導性硬化)によって引き起こされ得る。
【0183】
静電紡糸法は典型的には、例えば米国特許第4,043,331号に開示されているように、マットまたは他の不織材を創製するための繊維の使用に関するものであった。直径が50nm〜5マイクロメートルの範囲のナノ繊維が不織ナノ繊維メッシュまたは整列ナノ繊維メッシュにエレクトロスピニングされ得る。その小さい繊維直径のため、エレクトロスピニング紡織物は内在的に非常に高い表面積および小孔径を有する。このような特性により、エレクトロスピニングファブリックは、いくつかの用途、例えば:メンブレン、組織用構造骨格、および他の生物医学的用途の有望な候補となっている。
【0184】
静電紡糸繊維は、非常に細い直径を有するものが作製され得る。エレクトロスピニング繊維の直径、粘稠度および一様性に影響を及ぼすパラメータとしては、繊維形成性配合物中の高分子材料と橋かけ剤の濃度(負荷量)、印加電圧、およびニードルとコレクター間の間隔が挙げられる。本発明の一実施形態によれば、ナノ繊維は、約1nm〜約100μmの範囲の直径を有するものである。他の実施形態では、ナノ繊維は、約1nm〜約1000nmの範囲の直径を有するものである。さらに、ナノ繊維は、少なくとも約10〜ほぼ少なくとも100の範囲のアスペクト比を有するものであってもよい。繊維の非常に小さい直径のため、この繊維は、単位質量あたり高い表面積を有するものであることは認識されよう。この高い表面積対質量比により、繊維形成性の溶液または液状物が、液状または溶媒和された繊維形成性材料から固形のナノ繊維にほんの一瞬で変換されることが可能になる。
【0185】
本発明のナノ繊維/ナノ構造体を形成するための使用される高分子材料は、架橋剤と適合性である任意の繊維形成性材料から選択され得る。意図される用途に応じて、繊維形成性高分子材料は親水性、疎水性または両親媒性であり得る。さらに、繊維形成性高分子材料は熱応答性高分子材料であってもよい。
【0186】
合成または天然の生分解性または非生分解性のポリマーが本発明のナノ繊維/ナノ構造体を構成し得る。「合成ポリマー」は、合成的に調製され、天然に存在しないモノマー単位を含むものであるポリマーをいう。例えば、合成ポリマーは、アクリレート単位またはアクリルアミド単位などの非天然のモノマー単位を含むものであり得る。合成ポリマーは典型的には、従来の重合反応、例えば、付加重合、縮合重合またはフリーラジカル重合によって形成される。また、合成ポリマーは、天然のモノマー単位、例えば、天然のペプチド、ヌクレオチドおよび糖のモノマー単位を非天然のモノマー単位(例えば、合成のペプチド、ヌクレオチドおよび糖誘導体)との組合せで有するものを含むものであってもよい。このような型の合成ポリマーは標準的な合成手法によって、例えば、固相合成、または許容される場合は組換え手法によって作製され得る。
【0187】
「天然ポリマー」は、天然、組換え手法または合成のいずれかで調製され、高分子主鎖が天然に存在するモノマー単位からなるポリマーをいう。一部の場合では、天然ポリマーは、該天然ポリマーの化学的および/または物理的特性を変更するために修飾、加工、誘導体化またはその他の方法で処理され得る。このような場合、用語「天然ポリマー」は、天然ポリマーに対する変更を反映するために修飾される(例えば、「誘導体化天然ポリマー」または「脱グリコシル化天然ポリマー」)。
【0188】
ナノ繊維材料は、例えば、付加重合体材料と縮合重合体材料の両方、例えば、ポリオレフィン、ポリアセタール、ポリアミド、ポリエステル、セルロースのエーテルおよびエステル、ポリアルキレンスルフィド、ポリアリーレンオキシド、ポリスルホン、修飾ポリスルホンポリマーならびにその混合物を含むものであり得る。このような一般分類に含まれる例示的な材料としては、ポリエチレン、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリ(ラクテート)、ポリ(グリコレート)、ポリプロピレン、ポリ(塩化ビニル)、ポリメチルメタクリレート(および他のアクリル樹脂)、ポリスチレン、ならびにそのコポリマー(例えば、ABA型ブロックコポリマー)、ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリ(塩化ビニリデン)、種々の加水分解度(87%〜99.5%)のポリビニルアルコール(架橋形態および非架橋形態)が挙げられる。例示的な付加重合体はガラス状となる傾向がある(室温より高いTg)。これは、ポリ塩化ビニルおよびポリメチルメタクリレート、ポリスチレンポリマー組成物、またはアロイもしくは低結晶化度のポリフッ化ビニリデンおよびポリビニルアルコール材料の場合である。
【0189】
本発明の一部の実施形態では、ナノ繊維/ナノ構造体材料はポリアミド縮合重合体である。より具体的な実施形態では、ポリアミド縮合重合体はナイロンポリマーである。用語「ナイロン」は、すべての長鎖合成ポリアミドの総称である。別のナイロンは、少量の水の存在下でのεカプロラクタムの重縮合によって作製されたものであり得る。この反応により、線状ポリアミドであるナイロン−6が形成される(ε−アミノカプロン酸としても知られる環状ラクタムから作製される)。さらに、ナイロンコポリマーもまた想定される。コポリマーは、種々のジアミン化合物、種々の二酸化合物および種々の環状ラクタム構造を合わせて反応混合物にし、次いで、ポリアミド構造中にモノマー材料がランダムに位置するナイロンを形成することにより作製され得る。例えば、ナイロン6,6−6,10材料は、ヘキサメチレンジアミンおよび二酸のC6とC10のブレンドから製造されるナイロンである。ナイロン6−6,6−6,10は、εアミノカプロン酸、ヘキサメチレンジアミンおよび二酸のC6とC10のブレンドの材料の共重合によって製造されるナイロンである。
【0190】
また、ブロックコポリマーもナノ繊維材料として使用され得る。ナノ繊維の調製のための組成物の調製において、溶媒系は、どちらのブロックも該溶媒に可溶性であるように選択され得る。一例は、塩化メチレン溶媒中のABA(スチレン−EP−スチレン)ポリマーまたはAB(スチレン−EP)ポリマーである。かかるブロックコポリマーの例は、クレイトン型のABおよびABAブロックポリマー、例えば、スチレン/ブタジエンおよびスチレン/水素化ブタジエン(エチレンプロピレン)、ペバックス型のε−カプロラクタム/エチレンオキシドならびにシンパテックス型のポリエステル/エチレンオキシドおよびエチレンオキシドとイソシアネートのポリウレタンである。
【0191】
付加重合体、例えば、ポリフッ化ビニリデン、シンジオタクチックポリスチレン、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンのコポリマー、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、非晶質付加重合体、例えば、ポリ(アクリロニトリル)ならびにそのアクリル酸およびメタクリレートとのコポリマー、ポリスチレン、ポリ(塩化ビニル)およびその種々のコポリマー、ポリ(メタクリル酸メチル)およびその種々のコポリマーは、低圧および低温で可溶性であるため、比較的容易に湿式(solution)紡糸され得る。ポリエチレンおよびポリプロピレンのような高度に結晶性のポリマーは一般的に、湿式紡糸する場合、高温高圧溶媒が必要とされる。
【0192】
また、ナノ繊維はポリマー混合物、アロイ形式または架橋型の化学結合構造体の状態の2種類以上の高分子材料を含むものである高分子組成物からも形成され得る。2種類の関連するポリマー材料をブレンドすると有益な特性を有するナノ繊維が得られ得る。例えば、高分子量ポリ塩化ビニルが低分子量ポリ塩化ビニルとブレンドされ得る。同様に、高分子量ナイロン材料が低分子量ナイロン材料とブレンドされ得る。さらに、異なる種の一般的な高分子種をブレンドしてもよい。例えば、高分子量スチレン材料が低分子量の耐衝撃性ポリスチレンとブレンドされ得る。ナイロン−6材料は、ナイロンコポリマー、例えば、ナイロン−6;6,6;6,10コポリマーとブレンドされ得る。さらに、低加水分解度を有するポリビニルアルコール、例えば87%加水分解ポリビニルアルコールが、98〜99.9%およびそれ以上の加水分解度を有する完全または超加水分解ポリビニルアルコールとブレンドされ得る。混合物の状態のこのような材料はすべて、適切な架橋機構を用いて架橋され得る。ナイロンは、アミド結合の窒素原子と反応性である架橋剤を用いて架橋され得る。ポリビニルアルコール材料は、ヒドロキシ反応性材料、例えば、モノアルデヒド、例えば、ホルムアルデヒド、尿素、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂およびその類似体、ホウ酸および他の無機化合物、ジアルデヒド、二酸、ウレタン、エポキシド、ならびに他の既知の架橋剤を用いて架橋され得る。架橋試薬は反応してポリマー鎖間に共有結合を形成し、分子量、薬品抵抗性、全体的な強度および機械的分解に対する抵抗性を実質的に改善するものである。
【0193】
生分解性ポリマーも、本発明のナノ構造体の調製に使用され得る。生分解性材料として研究されている類型の合成ポリマーの例としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリオルトエステル、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリイミノカーボネート、脂肪族カーボネート、ポリホスファゼン、ポリ無水物、およびそのコポリマーが挙げられる。例えば、埋入可能な医療用デバイスと関連して使用され得る生分解性材料の具体例としては、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリジオキサノン、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)、ポリ(グリコリド−コ−ポリジオキサノン)、ポリ無水物、ポリ(グリコリド−コ−トリメチレンカーボネート)、およびポリ(グリコリド−コ−カプロラクトン)が挙げられる。また、これらのポリマーと他の生分解性ポリマーとのブレンドも使用され得る。
【0194】
一部の実施形態では、ナノ繊維は非生分解性ポリマーである。非生分解性とは、ポリマーが一般的に、非酵素的、加水分解的または酵素的に分解され得ないものであることをいう。例えば、非生分解性ポリマーは、プロテアーゼによって引き起こされ得る分解に対して抵抗性のものである。非生分解性ポリマーには、天然または合成いずれのポリマーも包含され得る。
【0195】
ナノ繊維を形成する組成物中に架橋剤を含めることにより、ナノ繊維が広範な支持表面と適合性となることが可能になる。架橋剤は単独で使用してもよく、所望の表面特性をもたらす他の材料との組合せで使用してもよい。
【0196】
好適な架橋剤としては、モノマー型(小分子材料)、またはエネルギー源、例えば、放射線、電気エネルギーもしくは熱エネルギーに供された場合に他の材料と共有結合を形成し得る少なくとも2つの潜在反応性活性化性基を有する高分子材料のいずれかのものが挙げられる。一般に、潜在反応性活性化性基は、適用した特定の外部エネルギーまたは刺激に応答して活性種を生成させ、その結果、隣接する化学構造体との共有結合をもたらす化学的存在体である。潜在反応性基は、保存条件下ではその共有結合を保持しているが、外部エネルギー源によって活性化されると他の分子と共有結合を形成する基である。一部の実施形態では、潜在反応性基は、活性種、例えばフリーラジカルを形成するものである。このようなフリーラジカルとしては、ニトレン、カービンまたは外的に負荷された電気エネルギー、電気化学的エネルギーもしくは熱エネルギーを吸収して励起状態のケトンが挙げられ得る。既知または市販の潜在反応性基の種々の例が米国特許第4,973,493号;同第5,258,041号;同第5,563,056号;同第5,637,460号;または同第6,278,018号に報告されている。
【0197】
例えば、トリクロロメチルトリアジンをベースにした市販の多機能性光クロスリンカー(Aldrich Chemicals、Produits Chimiques Auxiliaires et de Syntheses(Longjumeau,France)、新中村化学工業、緑化学(Midori Chemicals Co.,Ltd.)またはPanchim S.A.(France)のいずれかから入手可能)が使用され得る。8種類の化合物として、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−1,3,5トリアジン、2−(メチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン、2−(4−メトキシナフチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン、2−(4−エトキシナフチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン、4−(4−カルボキシルフェニル)−2,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン、2−(4−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン、2−(1−エテン−2−2’−フリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジンおよび2−(4−メトキシスチリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジンが挙げられる。
【0198】
使用方法および例示的な実施形態
本発明のゲル/ヒドロゲル/ナノ構造体組成物は、数多くの組織修復の状況、ならびに他の用途、例えば、カテーテルおよび他の外科用デバイスおよび埋入物上にコーティングを施す際において好都合に使用され得る。また、本発明のゲル/ヒドロゲル/ナノ構造体組成物は、本明細書に記載の活性薬剤、例えば、抗生物質、増殖因子および免疫抑制剤を送達するためにも使用され得る。
【0199】
一部の特定の実施形態では、本発明により、複合材料を軟組織欠損に適用することを含み、該複合材料が、ゲルと、該ゲル中に配置されたナノ構造体とを含むものである、軟組織欠損を治癒させるための方法を提供する。
【0200】
本明細書に記載のヒドロゲル/ナノ構造体組成物の好都合な特性としては:1)容易な特性評価および品質管理をもたらす;2)存在している組織マトリックスと一体化する;3)新たに形成されたマトリックスに直接組み込まれる;4)細胞および生物活性因子を直接内包する;5)生体適合性を維持する;6)生体内吸収をコントロールする;7)ナノ構造体の大きな構造的硬直性のため、複雑な解剖学的形状に容易に成型される;ならびに8)天然組織(例えば、関節軟骨)の機械的特性を示す能力が挙げられることは認識されよう。
【0201】
用途の一例において、本発明のヒドロゲル/ナノ構造体複合材組成物は、軟骨組織を修復するために使用され得る。軟骨修復のための現行の生物学的ベースの外科処置としては、自己由来の軟骨細胞の移植、ドリリング、削摩(abrasion)軟骨形成術、マイクロフラクチャー、およびモザイクプラスティ(arthroplasty)が挙げられる。これらの処置ではすべて、病巣の関節軟骨の損傷部のみが処置され、例えば、重度の変形性関節症および関節リウマチでみられる関節表面に露出した軟骨は処置されない。また、これらの処置では、軟骨欠損部を充填するために患者から収集された軟骨組織プラグまたは拡大培養軟骨細胞のいずれかが使用される。このような組織または軟骨細胞は、存在している軟骨マトリックスと一体化され、正常な軟骨の生体機械的特性を有する完全にデノボ材料、例えば、新たに合成されるヒアリン軟骨が合成されることにより、欠損部が充填されることが予測される。しかしながら、かかる処置はすべて、真のヒアリン軟骨ではなく修復性組織(線維軟骨)の形成を促進させ、さらに、関節に変形性関節症の素因を与えることが考えられる線維軟骨に対する機械的損傷を伴う。さらに、修復材料としての内在性軟骨の利用可能性はかなり限定的であり、その採取は患者自身に対してリスクおよび罹病性を提示する。前述の論考から明らかなように、得られる本明細書に開示のヒドロゲル/ナノ構造体組成物は、軟骨変性性疾患に苦しんでいる患者における将来有望な新しい治療法のための実用的な材料を提示する。
【0202】
本明細書に記載のように、本発明のヒドロゲル/ナノ構造体組成物は、任意の数の合成組織の移植または増大ならびに他の臨床用途に適した広くさまざまな特性を有するように調製され得る。既に記載のように、本発明の材料は、傷害または疾患のいずれかの結果、生じた軟骨欠損を修復するために使用され得る。そのように修復され得る傷害による欠損は、スポーツ関連または事故関連のものであり得、軟骨表面層のみを伴うものであり得るか、または下部の軟骨下骨を含むものであり得る。本明細書に記載の組成物を用いて修復され得る疾患による欠損としては、変形性関節症および関節リウマチに起因するものが挙げられる。傷害によるものであれ疾患によるものであれ、かかる欠損は、成熟軟骨または成長板軟骨のいずれかにおけるものであり得る。合成成長板軟骨のためのヒドロゲル用配合物には、成長中のバイオマテリアルの制御された生体内吸収を可能にするために非置換構造骨格材料を含めることが必要とされ得る。
【0203】
本明細書に記載のヒドロゲル/ナノ構造体組成物が有用であり得る別の分野は、頭頸部の軟骨性組織ならびに軟組織の修復、再構築または増大である。軟組織増大および頭頸部再構築のためのバイオマテリアルの利用可能性は、依然として、形成外科手術および再建手術の分野の根本的な課題である。適切な生物学的適合性および寿命を有する材料の開発に対して相当な研究および投資が行われている。この研究の結果は、将来有望ではなかった。免疫適格動物に入れた場合、現在提案されている材料の構造的完全性は、骨組みが吸収されるため、損なわれることが示されている。さらに、慣用的な合成材料は優れた寿命をもたらすが、一定の不可避の落とし穴を提示する。例えば、シリコンは、安全性および長期的な免疫関連の影響の問題を含んでいる。合成ポリマーPTFE(ゴアテックス)およびシラスティックは、もたらされる組織反応性は低いが組織との一体化がもたらされず、長期的な異物感染および突出のリスクを表し得る。本出願に記載の材料は、頭頸部の軟組織欠損の増大または修復のための合成軟組織構造骨格材料を調製するために有用である。特に、非炎症性であり、非免疫原性であり、適切な度合の粘弾性(本明細書の記載参照)を有するように調製され得るヒドロゲル/ナノ構造体組成物が有効な埋入可能構造骨格材料として使用され得よう。
【0204】
また、本発明のヒドロゲル/ナノ構造体組成物は、例えば軟骨用埋入物を調製するための、多くの場合、外傷または先天性異常に副次的な軟骨性欠損または骨性欠損を修復するための頭頸部の再建処置において使用される新規な生体適合性でバイオコンプライアント(biocompliant)な材料として使用され得る。耳に対する具体的な用途としては耳形成術および耳介再構築が挙げられ、これらは、多くの場合、外傷、新生物(すなわち、扁平上皮癌、基底細胞癌および黒色腫)ならびに先天性の欠損、例えば小耳症による軟骨性欠損を修復するために行われる。鼻に対する具体的な用途としては、鼻および鼻中隔の美容整形処置および再建処置が挙げられる。ハンプ部(dorsal hump)増大、鼻尖、シールドおよびスプレッダー移植片が多くの場合で美容整形的鼻形成術に使用される。外傷、新生物、自己免疫疾患(例えば、ウェゲナー多発血管炎性肉芽腫症)または先天性の欠損後の鼻の再構築には、修復のための軟骨が必要とされる。マネージメントのための中隔穿孔は困難であり、多くの場合、処置は不成功である。軟骨移植片は、このような用途に理想的となり得よう。それは、多くの場合、自己由来またはドナーの軟骨が入手できないためである。喉に対する具体的な用途としては、喉頭気管再構築が挙げられ、これは、小児において通常、肋軟骨の収集を必要とし、この収集は罹病性を伴わずにはなされない。耳介軟骨および中隔軟骨は多くの場合、この用途には不充分である。本明細書の開示のヒドロゲルから調製される合成軟骨性材料は、ヒドロゲル合成のパラメータ、例えば、試薬濃度、置換および架橋速度の微調整に基づいて、前述の各用途に適合するように合成され得る。喉頭気管再構築は通常、声門下または気管の狭窄による気道狭窄に対して行われる。病因は外傷性(すなわち、挿管による外傷、もしくは気管切開術)または特発性であり得る。他の可能性としては、数多くの頭蓋および顔面用途に加えて顎および頬増大および下眼瞼の眼瞼外反修復における使用が挙げられる。このような用途は、関節軟骨の厳格な機械的特性を有する軟骨が必要でない場合もあり得ることに注意されたい。また、細胞集団または生物活性剤を含めることも望ましい場合があり得る。
【0205】
また、本明細書に記載のヒドロゲル/ナノ構造体組成物は、通常、過度に積極的な外科的切除後、感染および痂皮形成をもたらす鼻道内の液の慢性貯留を予防するための鼻腔の修復および狭小化のために使用され得る。別の将来有望な用途は、例えば、外科処置(例えば、心血管手術)中の挿管による喉頭気管傷害の結果としての小児および成人両方の喉頭気管再構築におけるものである。また、本明細書に記載のヒドロゲル/ナノ構造体組成物は、首のがん切除後の頸動脈を保護するための輪状リング置換体を提供するために使用され得る−本発明の組成物は、頸動脈と皮膚の間に、皮膚バリアの喪失からの頸動脈の保護バリアとして配置され得る。切除された神経の神経細胞再増殖中の保護コーティングとして−多くの場合、線維性組織は、神経細胞の再増殖よりも速く形成され、その最終的な形成が妨げられる。本発明のヒドロゲル/ナノ構造体組成物の予備成型チューブ内に神経末端を配置すると、再増殖部位での線維性組織の形成が排除される可能性がある。
【0206】
また、本発明のヒドロゲル/ナノ構造体組成物は、任意の内部器官または外部器官の軟組織欠損の修復のためにも使用され得る。例えば、本発明の材料は、数多くの頭蓋および顔面用途に加えて顎および頬増大および下眼瞼の眼瞼外反修復における使用のために使用され得る。頭頸部以外の部位の美容整形目的および再建目的では、例えば、豊胸のための乳房用埋入物としての使用、例えば、乳房または首のリンパ節除去(すなわち、がんのため)後にできた空隙を充填し、リンパ管を封止して切除部位内への制御不能な排液(これは、感染および他の合併症をもたらし得る)を和らげるための創傷用シーラントとしての使用。
【0207】
上記の使用に加えて、本明細書に記載のヒドロゲル/ナノ構造体組成物は、他の組織工学的用途において、人工形態の軟骨の合成について上記のものと同様のストラテジーおよび方法論を用いて、合成の整形外科用組織、例えば限定されないが、骨、腱、靭帯、半月板および椎間板を作製するために使用され得る。また、該ヒドロゲル/ナノ構造体組成物は、人工形態の軟骨の合成について上記のものと同様のストラテジーおよび方法論を用いて、合成の非整形外科用組織、例えば限定されないが、声帯、ガラス体、心臓の弁、肝臓、膵臓および腎臓を作製するためにも使用され得る。
【0208】
本明細書に開示のヒドロゲル/ナノ構造体組成物が使用され得る別の分野は、腹部または胃腸の器官の傷跡の組織または狭窄の形成を処置または予防することが必要である場合の胃腸における用途である。既に種々の臨床段階およびFDA承認段階であるいくつかの製剤品が存在しており、これらは一般的に「ヒドロゲル」と称され、瘢痕形成および/または狭窄形成の処置および予防において有用であるように設計または意図されたものである。本発明の材料は、他の既知のヒドロゲルよりも、本明細書に開示のものは、ヒドロゲル材料に対して支持、形状および強度をもたらし得るナノ構造体を含むものであり得るという点で卓越している。本明細書に開示のヒドロゲル/ナノ構造体組成物は、既に既知のヒドロゲルが使用されるものまたは使用が意図されるものと同様の用途、例えば、以下:胃腸管の狭窄または瘢痕形成の処置のために使用され得る。該処置は、予想される狭窄部位での瘢痕形成を予防するための該ヒドロゲル材料の注入、または狭窄GI管を拡張するための治療後の存在する狭窄部位での狭窄の再発を予防するための該ヒドロゲル材料の注入を伴うものである。
【0209】
また、本発明の材料は、食道狭窄の処置ためにも使用され得る。食道狭窄は、胃食道逆流疾患(GERD)の一般的な合併症である。GERDは、酸、胆汁および他の有害な胃内容物が食道に逆流して食道の内層細胞を傷つけることによって引き起こされる。GERD患者のおよそ7〜23%に食道狭窄または食道の線維性瘢痕形成が起こる。また、食道瘢痕形成は、バレット食道を処置するために使用されるアブレーション治療によっても引き起こされ得る。かかるアブレーション治療の主な合併症は、アブレーションによる傷害が食道壁に深く広がりすぎて、食道の傷跡または狭窄がもたらされることである。食道狭窄により正常な嚥下が妨げられ、患者の罹病性の大きな原因となる。本明細書に記載の材料は、GERD、バレット食道および食道アブレーション治療に起因する食道狭窄を処置または予防するために使用され得る。
【0210】
また、本発明の複合材料はクローン病の処置にも使用され得る。クローン病は、腸管腔を閉塞させるか、または狭くする狭窄または傷跡を引き起こし、正常な腸の機能を妨げる。本発明の材料は、かかる狭窄を処置または予防するために有用であり得る。
【0211】
また、該複合材料は、原発性硬化性胆管炎(PSC)を処置するための方法においても使用され得る。PSCは、肝臓の胆管の稀な疾患である。胆管は、肝臓内で分岐網目を形成しており、肝臓から2つの大きな分岐路を通って出て行き、この2つの大きな分岐路は、肝臓および胆嚢から十二指腸内に胆汁を排液する共通の胆管で合流する。胆管は直径が非常に狭く、通常、最も大きな遠位部分で2mmまでしかないが、毎日、肝臓から十二指腸内に何リットルもの胆汁を正常に排液しなければならない。このような管が詰まった場合は、黄疸として知られる重篤な病状がもらされることになり得、これにより、多くの毒素および特にヘモグロビン分解産物が体内に蓄積される。PSCは、肝臓内の胆管および肝臓と小腸を連結する上記の肝外胆管における瘢痕形成性または構造形成性(structuring)の疾患である。PSCの胆管狭窄は、本発明のヒドロゲル/ナノ構造体組成物により処置または予防され得る。
【0212】
また、本発明の複合材料は、慢性膵炎を処置するためにも使用され得る。慢性膵炎は、膵管の傷跡または狭窄による合併症が起こり得る膵臓の慢性の炎症性疾患である。このような狭窄により、膵液(これは、通常、膵臓から管系または排液路を通って小腸内に出て行かなければならない)の排液が遮られる。膵液には、多くの消化酵素および正常な消化と栄養分の吸収に重要な他の元素が含まれている。慢性膵炎による膵管の閉塞または狭窄により、膵臓が自己消化されて、生命を脅かす腹部感染およびまたは膿瘍が形成される重度の合併症がもたらされることになり得る。慢性膵炎の膵臓狭窄は、本発明のヒドロゲルにより処置または予防され得る。
【0213】
また、本発明に記載の組成物は、胆石誘導性の胆管および膵管の狭窄の処置にも使用され得る。胆石は、非常に一般的な障害であり、その主な合併症は胆管および膵管の狭窄の形成であり、これは該ヒドロゲルによって処置または予防され得る。虚血性腸疾患のため。腸は、血液供給が障害された場合、傷跡または狭窄が形成され易い。血流障害は虚血と称され、多くの病態、例えば、心血管疾患、アテローム性動脈硬化、高血圧、血液量減少症、腎疾患または肝疾患誘導性低アルブミン血症、血管炎、薬物誘導性疾患、および多くの他のものによって引き起こされ得る。このような病因のすべての末期の結果は、腸を閉塞させてその正常な機能を妨げる腸狭窄をもたらし得る。本発明のヒドロゲル/ナノ構造体複合材は、虚血性腸狭窄を処置または予防するために使用され得る。
【0214】
また、本発明の組成物は、放射線誘導性腸狭窄の処置にも使用され得る。がんの放射線療法は数多くの罹病性と関連しており、中でも重要なのは腸狭窄形成である。本発明のヒドロゲル複合材は、放射線誘導性腸狭窄を処置または予防するために使用され得る。
【0215】
合成組織の作製または天然組織の修復に加えて、本明細書に開示のヒドロゲル/ナノ構造体複合材はまた、手術もしくはその他の方法でインビボ埋入のために使用される非生物学的構造物もしくはデバイス(例えば、外科用器具)またはセラミック製もしくは金属製のプロテーゼにコーティングを施すためにも使用され得る。かかるコーティングにより、非生物学的デバイス材料と生体組織間にバリアがもたらされ得よう。非生物学的デバイスに対するバリアとしてのヒドロゲルの役割としては、限定されないが:1)非生物学的デバイスの表面上の、デバイス表面上のタンパク質汚れもしくは血栓症をもたらし得る巨大分子および/または細胞の吸収の抑制;2)無毒性、非炎症性、非免疫原性、生物学的に適合性の表面を、別の様式では生物学的に適合性でない材料で作製されたデバイスに付与すること;3)デバイス機能との適合性、例えば、グルコースセンサーに対するグルコースの拡散、圧力センサーのための機械力の伝達、または血管移植片もしくはステントの内皮化;4)デバイス機能の増強、例えば、MEMSベースの人工ネフロンに存在するサイズバリアに対する電荷バリアをもたらすこと;5)水性の生理学的に適合性の環境内に捕捉されたバイアブル細胞集団の非生物学的デバイス内への組込み;ならびに6)血管新生、上皮化または内皮化を促すように設計された薬物または生物活性因子、例えば増殖因子、抗ウイルス剤、抗生物質または接着分子のデバイスへの含有が挙げられる。
【0216】
前述のことに基づき、本発明のヒドロゲル/ナノ構造体複合材は、さまざまな埋入可能デバイス、例えば、糖尿病のマネージメントのための埋入可能グルコースセンサーに非アレルギー性コーティングを施すために使用され得る。また、該ヒドロゲル/ナノ構造体複合材は:MEMSベースの人工ネフロンの開発のための電荷バリア;内蔵型腎臓細胞、例えば有足細胞がMEMSベースの人工ネフロン設計内に組み込まれ得る水性の生理学的に適合性の環境;ならびにさまざまな目的、例えば限定されないが薬物送達、機械的感知のため、およびバイオ検出システムとして設計された埋入可能MEMSデバイスのためのコーティングをもたらすために使用され得る。
【0217】
また、本開示のヒドロゲル/ナノ構造体複合材、特にヒアルロナンベースのヒドロゲルをシリコンベースのデバイスに、例えば、まず、シリコン表面へのチラミンの第1級アミンの共有結合によりヒドロキシフェニルコート表面ケミストリーを得ることによって共有結合させてもよい。これは、遊離アミンで修飾されたDNAをシリコン表面に結合させるために使用されるものと同じケミストリーを使用するものであり得る。次いで、HAベースのヒドロゲルをヒドロキシフェニルコート表面に、上記の好ましい架橋様式で使用されるものと同じペルオキシダーゼ駆動性ケミストリーによって共有結合させる。
【0218】
また、該ヒドロゲル/ナノ構造体複合材は、非生物学的心血管デバイス、例えば、カテーテル、ステントおよび血管移植片のコーティングにも使用され得る。このようなものには、生物学的不適合性のため慣用的には使用されない材質で作製されているが現在使用されているデバイスよりも卓越した設計特徴を有するデバイスも包含され得よう。該ヒドロゲル内に、該ヒドロゲルの、したがって埋入したデバイスの内皮化または上皮化を促進させるための生物活性因子を組み込んでもよい。
【0219】
本発明のヒドロゲル/ナノ構造体複合材の具体的な例および使用を本明細書において説明したが、かかる具体的な使用は限定を意図するものではない。本発明のヒドロゲル/ナノ構造体複合材は、既知のヒドロゲルに一般的に使用される任意の用途に使用され得、特に、身体の任意の箇所の軟組織の修復および/または再生に有用である。
【0220】
次に、図面に言及する。図面において、同様の参照番号は、主題の開示の同様の構造的特色または態様を特定するものである。説明および例示の目的のため、限定されないが、本開示による生分解性複合材の一実施形態の説明図を
図1Aに示し、一般的に、参照文字100と表示している。本明細書に記載の系および方法は、軟組織欠損の治癒を増強させるために使用され得る。
【0221】
一般的に
図1A〜1Dを参照されたい。生分解性複合材100は、ナノ繊維101で強化されたゲル103を含むものであり得、これは、ゲル103とナノ繊維101の両方の利点を兼ね備えている。ゲル103は、任意の適切な材料、例えば限定されないがヒドロゲルを含むものであり得る。ナノ繊維101は、任意の適切なナノ材料、例えばポリカプロラクトン(PCL)または任意の他の適切な材料で作製されたものであり得、任意の適切な形状および/またはサイズのものであり得る。複合材100は、高い多孔度を含むものである(例えば、細胞の接着および遊走を媒介するため)とともに、充分な機械的特性維持している(例えば、完全性および組織の支持を維持するため)。
【0222】
少なくとも一部の実施形態では、ナノ繊維101は、1つ以上のポリマー鎖を形成しているヒドロゲル103に共有結合されている。ヒドロゲル103とナノ繊維101との共有結合により、単独で使用された構成成分材料または単純なブレンドとしての構成成分材料よりも卓越した一群の理想的な特性を兼ね備えて有する材料がもたらされ得る。
【0223】
図2Aは、同じ架橋密度のヒドロゲルと比べて改善された弾性率を示す、HAヒドロゲル単独に対してプロットした、
図1の複合材の一実施形態の応力−歪み曲線を示す。図示のように、試験複合材100(4.5mg/mlのHA,10mg/mlのPEG−DA,6.75mg/mlのPCL繊維)の弾性率は750Paであり、同じ密度のヒドロゲル単独は320Paであった。
図2Bは、
図1に示す複合材が通常のヒドロゲルと比べて同様のロバスト性の機械的完全性を保持していることを示す疲労試験を示す。
【0224】
図3A〜3Bを参照されたい。複合材100は、脂肪組織由来幹細胞(ASC)の遊走を支持することが示された。脂肪吸引の吸引物由来のGFP標識ASCを培養してスフェロイドにし、次いで、複合材またはヒドロゲル内に播種した。
【0225】
図3Aおよび3Bは、ナノ繊維−HAヒドロゲル複合材内で4日間培養したASCの蛍光およびオーバーレイ(
図3A)(位相差画像(
図3B)との)を示す。細胞は外方に遊走し、長い突起および軌跡が延在している。対照的に、
図3Cおよび3Dに示すHAヒドロゲル単独内で培養したASCは有意な細胞遊走を示さなかった。
【0226】
図4Aおよび4Bは、ナノ繊維101の存在に対する強い遊走応答を示す、スフェロイドから、整列した650nmナノ繊維101に沿って遊走しているASCを造影した蛍光画像およびオーバーレイ(
図4A)(位相差画像(
図4B)との)を示す。
【0227】
実施例1:ナノ繊維−ヒドロゲル複合材の調製。
ナノ繊維を、PCL(ポリカプロラクトン,Sigma Aldrichの80k)のエレクトロスピニングによって作製した。ナノ繊維を紡糸してランダムメッシュにした。紡糸パラメータは90%/1%w/wのDCM−DMF中PCLの10%wt溶液とし、ターゲットメタルプレートから15cmの27ゲージブラントニードルに0.6ml/時の流速で通した。ニードル電圧を+10kVにし、ターゲットプレートを−3kVの電圧で負バイアスにした。1ラウンドあたり1mLの溶液を紡糸した。
【0228】
次いで、繊維を多工程プロセスによって官能基化させる。簡単には、繊維をプラズマ処理して繊維表面上に反応性基を有するようにし、これに、UV重合開始によってアクリル酸を結合させる。次いで、このアクリレート基をEDCおよびジアジミン(diazimine)と反応させて第1級アミンを形成する。次いで、このアミンをSMCCと反応させるとマレイミド基が結合され得、この基がヒドロゲルのチオール基と容易に反応し得る。
【0229】
官能基化繊維メッシュを60mg以下の切片にカットした。60mgサンプルをエタノール中に浸漬させ、次いで、一部に液体窒素を充填しておいたセラミック乳鉢に添加する。繊維サンプルは非常に剛直になる。サンプルを硬直性が維持されるのに充分な冷却状態に維持しながら、はさみで繊維シートを約5mm×5mm切片にカットする。全シートをカットしたら、乳鉢を一部に液体窒素が充填された状態に維持しながら繊維を乳鉢と乳棒で約20分間摩砕する。次いで、繊維スラリーをエタノールに注入する。繊維もつれの抑制を補助するために約1mgの界面活性剤をスラリーに添加する。懸濁液を300Gで分間遠心分離し、上清みを廃棄する。繊維を一晩乾燥させる。次いで、繊維を第2の遠心管に、厳密な濃度の繊維が懸濁され得るように計り入れる。次いで、繊維をエタノール中に浸漬させて滅菌し、遠心分離し、上清みを廃棄し、バイオハザード対策用キャビネット内で一晩乾燥させる。次いで、繊維を脱イオン水中に所望の濃度まで(通常、15mg/mL)再懸濁させる。
【0230】
ヒドロゲル複合材を形成するため、1mLの繊維−懸濁液を用いてバイアル1本のGlycosilヒアルロン酸を再水和させ、15mg/mLの繊維と10mg/mLのヒアルロン酸の溶液を得る。900μLのこの溶液に100μLの10%PEG−DAストック溶液を添加し、13.6mg/mLの繊維、9mg/mLのヒアルロン酸および10mg/mLのPEG−DAの終濃度にする。これは最初のインビボ実施例の配合物であるが、構成成分の濃度を変えることにより他の配合物も作製している。
【0231】
得られた複合材は、繊維なしのヒドロゲルが透明であるのに対して、色が乳白色であった(
図1C)。複合材のゲルは、その形状を維持しており、良好な取扱い性を有していたが、ヒドロゲル単独群は裂け易かった。ヒドロゲル中の繊維は分散しており、長さが数十〜数百ミクロンの範囲であった(
図1B)。凍結乾燥させたサンプル複合材を割った断面のSEM画像は、繊維とヒドロゲル成分間の密接な結合ならびに高い分散繊維密度を示す(
図1D)。
【0232】
材料および方法
材料
チオール基含有ヒアルロン酸(HA)はESI BIO(Alameda,CA)から購入した。ポリ(エチレングリコール)ジアクリレートはLaysan Bio,Inc(Arab,AL)から購入した。以下のもの;ポリ(e−カプロラクトン)、エチルアミノ−マレイミド、アクリル酸、トルイジンブルーO、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、システイン、ウシ血清アルブミン(BSA)、酢酸およびTriton(商標)X−100はSigmaから入手した。ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、ウシ胎仔血清(FBS)、ペニシリン/ストレプトマイシン、Alexa Fluor(登録商標)568 Phalloidinおよび4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)はInvitrogen Life Technologiesから購入した。エチル(ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)はAnaSpec,Inc.(Fremont,CA)から入手した。他の化学薬品および試薬はすべて、分析等級であった。
【0233】
方法
レオロジー実験のためのPCLナノ繊維のエレクトロスピニング:
2つの異なる直径のPCL繊維を製作するため、11.0および8.5%(w/v)のPCL溶液を、それぞれ、ジクロロメタンとジメチルホルムアミド(9:1,v/v)の混合物中、およびクロロホルムとメタノール(3:1,v/v)の混合物中で調製した。均一な各PCL溶液を27Gの金属製ニードルでシリンジに負荷した。次いで、エレクトロスピニングを、以下のパラメータ;1.0ml/時の供給速度、金属製ニードルに対して15kVの印加正電圧、およびニードル端とアース間の間隔は12cmで行った。繊維の形態構造は電界放射走査型電子顕微鏡(FESEM,JEOL 6700F)を用いて観察し、繊維の直径はFESEM画像で、ImageJソフトウェア(US National Institutes of Health,Bethesda,MD)を用いて測定した。
【0234】
インビボ複合材のエレクトロスピニング:
紡糸条件:ジクロロメタンとジメチルホルムアミド(9:1,w/w)の溶媒混合物中16%w/vのPCL(95%の45.000MnのPCL,5%の80,000MnのPCL,ともにSigma製)。繊維を5.25ml/時の速度で、アース付きホイール(1000rpmで紡糸)面から10cm離した27ゲージのブラントニードルから紡糸した。印加電圧は15kVとし、エレクトロスピニングポンプを、85mmの移動距離を前後に一定軌道で140回、2mm/秒で通過させた(約4時間)。次いで、官能基化のため、繊維シートを14cm直径の個々のシートにカットした。
【0235】
MALを有する表面官能基化繊維の調製:
繊維上にMALを有するように表面官能基化するため、文献[Interface Focus 2011,1,725−733](少し修正を加えた)に従ってポリ(アクリル酸)(PAA)をグラフトすることにより、繊維表面にカルボキシル基を誘導した。簡単には、繊維を280mmHg下、酸素雰囲気で室温にて10分間プラズマ処理し、繊維表面上にフリーラジカルを誘導した。次いで、70mgの繊維を含む10mlの3または10%(v/v)のアクリル酸溶液(0.5mM NaIO3中)を、繊維表面上へのPAAの光重合(PAA−繊維)のためにUV(36mW/cm
2,DYMAX Light Curing Systems 5000 Flood,Torrington,CT)に90秒間曝露した。PAA−繊維を室温で20分間インキュベーションした後、PAA−繊維を20mlの脱イオン水で3回洗浄し、未反応アクリル酸を除去した。PAA−繊維を完全に風乾させた後、PAA−繊維上のカルボキシル基の密度をトルイジンブルーO(TBO)アッセイにより、TBOが繊維上のカルボキシル基と1:1のモル比で相互作用すると仮定して測定した[J Biomed Mater Res 2003,67,1093−1104]。簡単には、PAA−繊維(1×1cm
2)を、20μlの50%(v/v)エタノール中に浸漬させた後に1mlの0.5mM TBO溶液(0.1mMのNaOH(pH10)中)中に完全に浸漬させ、穏やかに振盪しながら室温で5時間反応させた。0.1mM NaOH(pH10)で洗浄した後、PAA−繊維の表面上に吸着したTBOを、1mlの50%(v/v)酢酸を用いて、激しく振盪しながら室温で1時間脱離させた。次いで、上清みの光学密度を633nmで、マイクロプレートリーダー(BioTeck Synergy2,Winooski,VT)を用いて測定した。TBO含有50%(v/v)酢酸を標準として使用した。
【0236】
PAA−繊維を、低温ミル(Freezer/Mill 6770,SPEX SamplePrep,Metuchen,NJ)を以下のパラメータ;1分間のミリングおよび3分間の液体窒素中での冷却を10サイクルで用いて摩砕し、繊維断片を調製した。PAA−繊維断片を50ml容円錐管内に収集した後、PAA−繊維断片をイソプロピルアルコール(acohol)と蒸留水(1:1,v/v)の10mlの混合物中に完全に分散させ、繊維表面上をアミノエチル−MALで修飾した。簡単には、PAA−繊維をNHSとEDCに添加し、繊維上のPAAのカルボキシル基を活性化させた。カルボキシル基対NHSおよびEDCのモル比は、それぞれ1対4および4とした。活性化は、穏やかに振盪しながら室温で行った。1時間後、アミノエチル−MALをカルボキシル基活性化繊維に、カルボキシル基対アミノエチル−MALのモル比を1対2で添加した。次いで、反応を、穏やかに振盪しながら室温で12時間行った。蒸留水で3回洗浄した後、MALを有する表面官能基化繊維を凍結乾燥させた。ここで、繊維上のMALの密度は、繊維表面上のすべてのカルボキシル基がMALによって完全に置換されることを前提とした。
【0237】
繊維−HAヒドロゲル複合材の調製:
繊維−HAヒドロゲル複合材を調製するため、チオール基含有HAおよびPEGDAをPBS(pH7.4)に、それぞれ12.5mg/mLおよび100mg/mLの所望の濃度まで完全に溶解させた。25mg/mLの所望の濃度を有するMAL−繊維をPBS(pH7.4)中に完全に分散させた。次いで、ナノ繊維、HA、PEG−DAおよびPBSの懸濁液を連続的に添加し、配合物の所望の終濃度にする。この複合材前駆物質溶液を均一に混合した後、レオロジー試験のため、100μLの複合材前駆物質溶液を成形型(φ=8mm)に注入し、37℃で2時間インキュベートしてゲル化させた。圧縮試験のため、200μLの前駆物質溶液を円柱状のテフロン製成形型(φ=6.35mm,h=6.35mm)に添加し、上記とおりにインキュベートする。繊維−HAヒドロゲル複合材およびHAヒドロゲルの断面の形態構造をFESEMを用いて観察するため、複合材およびHAヒドロゲルを連続エタノール洗浄(50%、70%、80%、90%、100%および100%エタノールで各々10分間)によって脱水させた後、臨界点乾燥(Samdri−795,Tousimis,Rockvillle,MD)または化学的乾燥(HDMS)のいずれかを行った。サンプルを液体窒素中で凍結破断させて内部の細孔構造を露出させた。構造を10nmの白金層でスパッタ被覆し(Hummer 6.2 Sputter System,Anatech UDA,Hayward,CA)、次いで電界放射SEM(JEOL 6700F,日本,東京)でイメージングした。
【0238】
インビボ動物試験用の複合材の調製のため、チオール基含有HAをPBS中で12.5mg/mLまで再構成した。PEG−DAをPBS中に100mg/mLまで溶解させた。MAL−繊維を滅菌PBS中に25mg/mLまで再懸濁させた。繊維をまずHA溶液と合わせて10分間反応させた後、PEG−DAと合わせて所望の終濃度を得た。次いで、この懸濁液を即座に円柱状のテフロン製成形型(McMaster−Carr,Robbinsville,NJ)内にピペッティングし、300μLを、インビボサンプル用に11.125mmの直径および3mmの高さの円柱状成形型にピペッティングした。次いで、ゲルを37℃のインキュベータ内に入れ、一晩ゲル化させた。
【0239】
HAのチオール基と繊維上のMAL間の界面結合の効果を確認するため、繊維上のMALを、システインを用いてクエンチし、クエンチ型繊維−HAヒドロゲル複合材を調製した。簡単には、1mgの繊維を1mlのシステイン溶液(PBS(pH8.0)中)中に分散させ、次いで、MAL対システインのモル比を1対2にした。穏やかに振盪しながら室温で12時間、MALをクエンチした後、MALクエンチ型繊維を1mlの蒸留水で5回洗浄し、未反応システインを除去して凍結乾燥させた。
【0240】
繊維−HAヒドロゲル複合材の機械的特性:
圧縮試験。ヒドロゲル前駆物質懸濁液を円柱状のテフロン製成形型(McMaster−Carr,Robbinsville,NJ)内にピペッティングし、200μLを圧縮試験用に6.35mmの直径および6.35mmの高さの円柱状成形型内にピペッティングした。次いで、ゲルを37℃のインキュベータ内に入れ、一晩ゲル化させた。このゲルを成形型から取り出し、すぐに、2つの平行なプレート間の一軸(unconfined uniaxial)圧縮により、Endura TECメカニカル試験装置ELF 3200 Series,BOSE ElectroForce,Eden Prairie,MN)を用いて試験した。サンプルを50%歪みまで圧縮し、弾性率を、応力−歪み曲線の10%歪みから20%歪みまでの線形部分の傾きから求めた。サンプルを3回ずつ試験し、1群あたり3つのサンプルを試験して平均圧縮弾性率を測定した。再水和させた繊維−HAヒドロゲル複合材の圧縮弾性率を測定するため、複合材を凍結乾燥させ、1mlのPBS(pH7.4)で37℃にて24時間、再水和させた。疲労試験では、圧縮サンプルを0.1Hzで0%歪みから25%歪みまでのサイクルを繰り返した。
【0241】
レオロジー試験。種々の繊維−HA複合材の剪断貯蔵弾性率(G’)を、パラレルプレート(φ=8mm)を有する振動型レオメータ(ARES−G2 Rheometer,TA Instruments,New Castle,DE)を用いて測定した。振動数スイープを使用し、1Hzから10HzまでのG’の変動を10%の定歪みでモニタリングした。
【0242】
繊維−HAヒドロゲル複合材中でのhASCの遊走:
ヒト脂肪由来幹細胞(hASC)を、10%のFBS、1%のペニシリン/ストレプトマイシンおよび1ng/mlのbFGFを含有している高グルコースDMEM中で培養した。培養培地を最適な増殖のため週に3回交換した。hASCスフェロイドを調製するため、50μlのhASC溶液(5.6×10
5細胞/ml)をキャスティングマイクロ成形アガロースゲル(MicroTissues(登録商標)3D Petri Dish(登録商標)マイクロ成形スフェロイド,96穴)に注入してhASCスフェロイドを調製し、穏やかに振盪しながら37℃で24時間インキュベートした。
【0243】
HAおよびPEGDAをPBS(pH7.4)中に、HAは4.5および2.5mg/ml、ならびにPEGDAは5.0mg/mlの終濃度で完全に溶解させた。20μlの50%(v/v)エタノールで事前に湿らせた繊維をPEGDA中に10.0mg/mlの終濃度で完全に分散させ、次いでHAを、繊維とPEGDAの混合物中に添加した。30μlの複合材前駆物質溶液を96ウェル組織培養プレートの各ウェルに注入し、hASCスフェロイドが組織培養プレートの表面上に達することを回避するために37℃で1時間インキュベートして架橋させた。次いで、50μlの複合材前駆物質溶液を3〜5個のhASCスフェロイドとともに各ウェルに注入した。37℃で1時間架橋させた後、200μlの新鮮培地を各ウェル内に添加し、2〜3日毎に培地を交換した。複合材内部のhASCスフェロイドからの遊走細胞を観察するため、hASCのF−アクチンと核を、それぞれAlexa Flour(登録商標)568 PhalloidinおよびDAPIで染色した。簡単には、4日間の培養後、hASCスフェロイドを有する複合材を100μlの4%(v/v)パラホルムアミドで室温にて一晩固定した。次いで、PBS(pH7.4)で3回洗浄後、複合材を100μlの1%(w/v)BSA(PBS中)とともに4℃で一晩インキュベートして非特異的染色を抑止し、PBSで3回洗浄した。続いて、複合材を100μlの0.1%(v/v)Triton−X 100(PBS中)とともに室温で1時間インキュベートした。PBSで3回洗浄した後、100μlの160nM Alexa Fluor(登録商標)568 Phalloidinを各複合材に添加し、室温で4時間インキュベートした。次いで、上清みを除去した後、複合材を100μlの0.5μg/mlのDAPIとともに室温で1時間インキュベートした。PBSで3回洗浄した後、遊走hASCを、共焦点レーザー顕微鏡(CLSM,Carl Zeiss LSM780,Germany)を用いて、Alexa Fluor(登録商標)568 Phalloidinについては励起561nmおよび発光570〜600nmで、およびDAPIについては励起405nmおよび発光385〜420nmで観察した。
【0244】
繊維−ヒドロゲル複合材のインビボでの性能:
チオール基含有HAをPBS中で12.5mg/mLまで再構成した。PEG−DAをPBS中に100mg/mLまで溶解させた。MAL−繊維を滅菌PBS中で25mg/mLまで再懸濁させた。繊維をまずHA溶液と合わせて10分間反応させた後、PEG−DAと合わせて所望の終濃度を得た。次いで、この懸濁液を即座に円柱状のテフロン製成形型(McMaster−Carr,Robbinsville,NJ)内にピペッティングし、300μLを、11.125mmの直径および3mmの高さの円柱状成形型にピペッティングした。次いで、ゲルを37℃のインキュベータ内に入れ、一晩ゲル化させた。脂肪組織の2kPaの剛性にマッチするような2つの配合物を選択した。HA−単独配合物は10mg/mLのPEG−DAおよび9mg/mLのHA−SHであり、HA−繊維複合材配合物は5mg/mLのPEG−DA、5mg/mLのHA−SHおよび12.5mg/mLの分散ナノ繊維であった。
【0245】
複合材ナノ材料構造骨格の生体適合性を試験するため、これをSprague−Dawleyラットの鼠径部脂肪体下に埋入し、さまざまな時間長で観察した。揮発性麻酔薬投与下で、1cmの切開を鼠径ひだのすぐ近位の両側に行った。皮下組織の鈍的切開後、鼠径部脂肪体を露出させた。これを、電気焼灼術を用いて細部まで止血しながら、注意深く栄養血管を保存しながら持ち上げた。構造骨格を動物の右側の脂肪体下に埋入した。左側には埋入物を入れず、疑似手術対照として供した。両側を標準的重層様式で閉鎖した。動物を7、14、30および90日間観察した。収集時点では、動物を致死させ、構造骨格を有する鼠径部脂肪体および有しない鼠径部脂肪体を露出させ、4%PFA中で固定した。被検物を埋め込み、標準的なヘマトキシリンとエオシンでの染色のために切片化した。
【0246】
統計解析
結果はすべて、平均値と標準偏差で表示している。1対の群間の統計学的有意差は、SigmaPlot 12.0ソフトウェア(SPSS)を用いた一元配置ANOVAを実施することによって判定した;p<0.05の値を統計学的に有意とみなした。
【0247】
本明細書に開示した複合材100の実施形態の任意の他の適切な作製方法が本明細書において想定される。
【0248】
実施例2:ナノ繊維−ヒドロゲル複合材の圧縮試験。
圧縮試験のため、繊維−ヒドロゲルサンプルを、8.5mmの直径および約4mmの高さの円筒体として形成し、成形型内で37℃にて一晩硬化させた。Bose EnduraTEC ELF 3200(Eden Prairie,MN)を用いた圧縮試験によって弾性率を求めた。サンプルに対して2つのパラレルプレート間で一軸圧縮を行い、50%歪みまで圧縮した。弾性率は、最初の線形領域の傾きを測定することにより求めた。同じヒドロゲル配合物を有し、繊維ありおよびなしの2つのサンプル群を試験した。ヒドロゲルのみサンプルは、4.5mg/mLのチオール基含有ヒアルロン酸(Gylcosan Glycosil)および10mg/mLのPEG−DA(ポリエチル−グリコールジアクリレート,分子量3350)を用いて形成した。繊維−ヒドロゲル複合材群は、同じヒドロゲル濃度を有するが、さらに、6.75mg/mLのPCLナノ繊維(チオール基含有ヒアルロン酸と容易に反応し得るマレイミド基で官能基化された表面を有する)を有するものにした。
【0249】
代表的な応力−歪み図は
図2Aにおいて確認され得る。ヒドロゲルのみ群は320Paの弾性率を有していたが、繊維−ヒドロゲル複合材は、より高い750Paの弾性率を有していた。繊維−ヒドロゲル複合材の高い剛性は、どの歪み値でも応力値が高いことで確認され得る。官能基化ナノ繊維の存在により材料の強度と剛性が大きく増大した。したがって、複合材構造全体は、標的組織にマッチした剛性を有するものであり得るが、ヒドロゲル成分は、ナノ繊維の有益性なしで同じ剛性を得るために必要であり得る密度よりも低い架橋密度を有するものであり得る。これにより、所与の埋入物の剛性で、より良好な細胞応答がもたらされるはずである。
【0250】
次いで、サンプル群を、0.1Hzで25%歪みまでの反復圧縮(20サイクル)によって試験した。代表的な図は
図2Bにおいて確認され得る。これは、ヒドロゲルと複合材が反復圧縮に耐え得るものであること、および複合材は持続的に無繊維群よりも剛性であることを示す。
【0251】
実施例3:細胞−材料間の相互作用.
複合材ヒドロゲルに対する細胞応答について試験するため、脂肪由来幹細胞(ASC)の遊走可能能を、繊維ありおよびなしのヒドロゲルのさまざまな配合物で試験した。
【0252】
ASCを、GFPを発現するようにトランスフェクトし、次いで、この細胞を、Microtissues成形によって作製したアルギネート成形型内に一晩播種することによりスフェロイド集合体に形成した。細胞は、細胞運動がよりよく評価されるようにスフェロイドとして播種した。これは、スフェロイドが、遊走している細胞を容易に測定することができる独立した点源だからである。スフェロイドをヒドロゲル中に混合した後、96ウェルプレート内にピペッティングし、硬化させた。次いで、細胞を次の数日間にわたってイメージングし、その遊走を観察した。細胞は、ヒアルロン酸およびPEG−DAの濃度が下がるにつれて、それぞれのその孔径の増大のため、進行的にさらに遊走することができた。同じヒドロゲル密度(4.5mg/mLのヒアルロン酸および2.5mg/mLのPEG−DA)では、細胞は、分散ナノ繊維を有するサンプル(12mg/mL,
図3Aおよび3B)において、なしのサンプル(
図3Cおよび3Dに示す)よりも良好に遊走することができた。これは、官能基化ナノ繊維の存在が、ナノ繊維の機械的特性を改善しただけでなく、細胞遊走の改善を補助し得ることを示す。
【0253】
ASCがナノ繊維の存在に強く影響を受けたことを明白に実証するため、ASCスフェロイドを、ヒドロゲルなしの整列したナノ繊維のシート上で培養した。96時間後、細胞(
図3Cおよび3Dにおいて緑色)は、スフェロイドから整列したナノ繊維の同じ軸に沿って明白に遊走した(
図3Dに示す)。
【0254】
実施例4:ナノ繊維−ヒドロゲル複合材の組織適合性。
複合材ナノ材料構造骨格の生体適合性を試験するため、これをSprague−Dawleyラットの鼠径部脂肪体下に埋入し、さまざまな時間長で観察した。揮発性麻酔薬投与下で、1cmの切開を鼠径ひだのすぐ近位の両側に行った。
【0255】
図5Aは、ラット鼠径部脂肪体下のインサイチュでのナノ繊維−ヒドロゲル複合材の外観を示す写真である。
図5Bは、埋入後2週間目に収集した複合材の周囲の組織の切片のH&E染色画像を示す。エオシン好性の濃いピンクに染色された間葉細胞の葉状部は、ナノ材料(薄いピンクに染色)中に遊走しているようにを示されている。
【0256】
図5Cは、4週間目に複合材−組織界面から採取した組織切片の細胞浸潤を示すH&E染色画像を示す。埋入部位の周囲の間葉組織はエオシンで濃いピンクに染色されている。ナノ材料は薄いピンクに見える。浸潤しているピンク色の間葉細胞が界面に、ならびに推定脂肪細胞が明白な丸い小腔で確認され得る。
【0257】
皮下組織の鈍的切開後、鼠径部脂肪体を露出させた。これを、電気焼灼術を用いて細部まで止血しながら、注意深く栄養血管を保存しながら持ち上げた。構造骨格を動物の右側の脂肪体下に埋入した。左側には埋入物を入れず、疑似手術対照として供した。両側を標準的重層様式で閉鎖した。動物を2、4および6週間観察した。収集時点では、動物を致死させ、構造骨格を有する鼠径部脂肪体および有しない鼠径部脂肪体を露出させ、4%PFA中で固定した。被検物を埋め込み、標準的なヘマトキシリンとエオシンでの染色のために切片化した。早い時間点(2週間)では、創面環境からの間葉細胞が該材料に浸潤していることがわかり、該材料は天然の細胞内殖を可能にするのに充分な多孔度を有することが示唆された(
図5Bにおける濃いピンクの染色)。
【0258】
重要なことに、細胞内殖は、外来性増殖因子の非存在下であっても行われた。単に該材料を囲んでいるのではなく該材料に浸潤している細胞の存在により、この複合材ナノ材料は、現在使用されている他のアロプラスト材料と区別される。後者の材料は線維性被膜によって囲まれ、したがって、軟組織の再構築にはあまり望ましくない。後の時点(4週間)では、細胞内殖はさらにより明らかであり、生成途中の脂肪細胞分化を表すものであり得る小胞領域がみられる(
図5Cにおける濃いピンクの染色および明白な円)。
【0259】
実施例5:繊維−HAヒドロゲル複合材の設計
該繊維は、天然の細胞外マトリックスに多くの場合でみられ得る線維性構造物を形成し、細胞遊走を補助し、ヒドロゲルの初期の低い機械的特性を強化し得るものである。ヒドロゲルと繊維間に界面結合を導入することにより(
図6A,
図6B)、該複合材は、平均孔径および多孔度の低下(これは細胞遊走を有意に障害し得る)なく強度が上がる(
図6)。また、機械的特性は、ヒドロゲルと繊維表面間の界面結合の密度を制御することにより微調整され得ることが予測された。ここでは、表面官能基化繊維を、チオール基含有ヒアルロン酸(HA−SH)との界面結合を導入するためにマレイミド(MAL)を用いて調製した(
図6)。エレクトロスピニングしたポリ(ε−カプロラクトン)(PCL)繊維の表面をO
2プラズマで処理し、この表面上にフリーラジカルを誘導した後、ポリ(アクリル酸)(PAA)をグラフトした。カルボキシル基をカップリング試薬NHSとEDCによって活性化させ、次いでN−(2−アミノエチル)マレイミドを、活性化されたカルボキシル基と反応させた(
図13)。続いて、MAL−官能基化繊維を、HA−SHとPEGDAで構成されたヒドロゲル前駆物質溶液に導入し、繊維−ヒドロゲル複合材を製作した。HAのチオール基は、繊維上のMAL基およびPEGリンカーのDA基の両方と反応させることによってゲルを形成するために使用した。興味深いことに、繊維−ヒドロゲル複合材の断面は、同様の架橋密度を有するHAヒドロゲルの断面と比べて高い多孔度を有する線維性の3D構造を示した(
図6)。得られた複合材は、複合材の幅と高さの両方で全体にナノ繊維の一様な分布を示し、等方性強化が可能であった。また、再水和繊維−HAヒドロゲル複合材は、凍結乾燥後に99.34%の容積回復を示したが、HAヒドロゲルで示された容積回復は70.17%であった(
図6D)。
【0260】
実施例6:繊維−HAヒドロゲル複合材の圧縮弾性率
まず、複合材が、反応性基がモルベースで等しい場合に最大剛性(剪断下)を有することを確認した。HA上のチオール基は、ナノ繊維上のMAL基またはPEG−DA上のアクリレート基のいずれかと反応し得る。そのため、SH対(DA+MAL)のモル比がおよそ1対1である場合、ゲルは最適な剪断貯蔵弾性率を示した。したがって、その後のすべての試験で、この比を維持した。ゲルに対して一軸圧縮試験を行い、HAヒドロゲルおよび繊維−HAヒドロゲル複合材の弾性率を評価した(
図7)。官能基化ナノ繊維の強化効果は、50%までの歪み時の圧縮応力で確認され得る(
図7A)。圧縮応力は、1.0μm繊維群ではヒドロゲルのみ群よりも3.1倍大きく、機械的強化効果が示された。286nm繊維群は、さらにより顕著な強化効果を示し、圧縮応力は50%歪みで4.2倍大きかった。興味深いことに、286nm繊維の剛性化効果は、ゲル化前にマレイミド基をクエンチした場合、ヒドロゲルと比べてわずか1.3倍までに大きく低減され、繊維とヒドロゲルとの界面結合が官能基化繊維の強化効果に極めて重要であることが確認される。さらに、複合材を形成する前に286nm繊維を官能基化しなかった場合、強化効果は消失し、ヒドロゲル単独よりもかろうじて剛性である複合材がもたらされた。複合材に高濃度のHAとPEG−DAを配合することによって、より剛性のゲルを配合した場合に同じ強化効果がみられ得る(
図7)。また、この界面結合は複合材ゲルの剛性化において用量応答を示す。これは、進行的により多くのマレイミド基をナノ繊維表面に添加すると進行的により剛性の材料がもたらされ、界面結合の重要性がより明示的になるためである。また、複合材を、脱水および再水和の前後での機械的特性の変化についても試験した。2つの異なるマレイミド密度の官能基化ナノ繊維を有するゲルおよび有しないゲルについて、圧縮下でメカニカル試験を行った。次いでゲルを凍結乾燥させ、次いで完全に再水和させ、再度圧縮について試験した。サンプルはすべて、再水和後、その剛性を維持しており、該複合材が凍結乾燥品として臨床使用に適したものであり得ることを示す。HA−単独ゲルは、一見、その剛性を維持していたが、繊維含有群とは異なり、脱水−再水和過程で、ゲル自体が有意に圧密化された。また、複合材のゲルを疲労効果について試験するための負荷サイクルに供し、代表的な図を
図10に示す。25%歪みまでの反復負荷下で、複合材のゲルは経時的にその剛性を維持し、一貫してヒドロゲル単独よりも剛性であった。
【0261】
実施例7:繊維−HAヒドロゲル複合材の剪断貯蔵弾性率
高い圧縮弾性率に加えて、繊維−HAヒドロゲル複合材はHAヒドロゲル単独よりも有意に高い剪断貯蔵弾性率を示した(
図8A)。286nm繊維を有する複合材の剪断貯蔵弾性率は、686nm繊維を有する複合材のものよりも高かった(
図8C)。また、複合材の剪断貯蔵弾性率は、圧縮試験下の弾性率と同様、286nm繊維上のマレイミドの表面密度を上げることにより高くなることも確認された(
図8D)。表面上に62nmol/mgのMALを有する繊維を導入することにより、複合材は、HAヒドロゲル単独のものと比べて1.3倍の剪断貯蔵弾性率の増大を示した。さらに、繊維上に147nmol/mgのMALを有する複合材の剪断貯蔵弾性率は、62nmol/mgのMAL群の弾性率と比べて1.8倍高くなり、対応する繊維上のMAL表面密度の2.4倍の増大に対して明白な用量応答が示された。ゲル化の前に繊維上のMAL基をクエンチした場合、剪断貯蔵弾性率は、圧縮試験でみられたものと同様、非クエンチ繊維のものと比べて相応に低下した。さらに、周波数を10Hzに上げた場合、複合材の剪断貯蔵弾性率は維持されたが、HAヒドロゲル単独およびクエンチ繊維を有する複合材はどちらも、10Hzでは1Hzよりも剪断貯蔵弾性率の減少が示された。複合材の剪断貯蔵弾性率は、繊維の表面積(直径)に関係なく繊維上のMAL表面密度の上昇に伴って大きくなり、先に観察された剛性に対する繊維直径の効果がマレイミド密度の関数であるかもしれないことが示された(
図8D)。MAL表面密度と剪断貯蔵弾性率の相関から線形回帰を得た(R2=0.93)。さらに、複合材の剪断貯蔵弾性率がヒドロゲル成分に対する官能基化繊維の重量比の増大に伴って大きくなったため、複合材は繊維負荷量に対して用量応答を示した(
図9)。
【0262】
実施例8:インビトロでの繊維−HAヒドロゲル複合材中の細胞遊走
繊維−HAヒドロゲル複合材は、(i)大孔径を有する複合材の高い多孔度により、同じ機械的特性を有する場合に細胞遊走のための空間性がもたらされる、および(ii)複合材内のECM模倣線維性構造物により、固有に細胞遊走をガイドすることが可能であるため、HAヒドロゲルと比べて細胞遊走を増強させるという仮説をたてた。したがって、本仮説を実証するため、モデル細胞としてヒト脂肪由来幹細胞(hASC)のスフェロイドを播種し、HAヒドロゲルおよび複合材内部の模倣組織塊、次いで、hASCスフェロイドを27日間培養した(
図11)。ASCは、これが脂肪組織に存在するため、および新脈管形成と脂肪細胞形成の両方における重要性のため選択した。複合材はHAヒドロゲルと同様のヤング率1.9kPaを有するが、複合材の孔径はHAヒドロゲルのものより2.08倍大きい(
図16)。したがって、hASCが複合材内部を3次元的に遊走することが明白に観察され(
図11B〜11E)、これは、より大きな細孔が細胞の遊走に適応され得たとともに、hASCが、HAヒドロゲル中でなんら細胞遊走なしでもそのスフェロイド形状を維持していたためであった(
図11A)。特に、細胞遊走は、複合材の繊維を細胞接着ペプチドRGDで改質した場合に一段と増強された(
図11C)。しかしながら、インビボの状況では、局所環境からの複合材中への因子の拡散によってさらなる接着のきっかけがもたらされ、この差は小さくなるはずである。一部の場合では、一部の繊維が、PCL繊維間の疎水性相互作用のため、ゲル化中にわずかに集合体を形成し、細胞集団が、複合材内部の繊維集合体に優先的に接着することが観察された(
図11Dおよび11E)。さらに、同じHAおよびPEG−DA濃度では(
図19)、複合材は無繊維群と比べて増強された細胞遊走を示し、ナノ繊維自体が、多孔度に関係なく固有に細胞遊走のガイドを補助し得ることが示された。
【0263】
実施例9:組織応答および宿主組織浸潤
このような複合材埋入物の治療的潜在能を調べるため、複合材埋入物を、ラット脂肪体モデルにおいてインビボで試験した。埋入物群の配合物は、複合材のゲルおよび標的脂肪組織と同じ2kPaの初期剛性が得られるように配合した。したがって、HA−ゲル単独埋入物の配合物は、繊維−複合材群の剛性とマッチさせるため、チオール基含有HAおよびPEG−DAの両方を、より高い濃度で有するものであった。この高濃度にもかかわらず、HA−単独埋入物は試験過程において、その形状および容積を維持することができなかった。4週間後の肉眼観察下で、HA−単独埋入物は伸びており、容積が有意に小さくなっていた。その肉眼での外観および組織学的浸潤欠如を考慮すると、HA−単独の系は、細胞浸潤を促し、所定の形状を維持できるように最適化することができない。しかしながら、繊維−ゲル複合材埋入物は、インビボで90日後、肉眼観察下で、その元の形状を充分に維持していた。しかしながら、注目すべきことに、組織学的観察では、複合材は、埋入物と天然組織の境界を調べることが困難になるほど全体に浸潤されていた。
【0264】
マイクロサージャリー手法を用いて鼠径部脂肪体を露出させ、持ち上げて、事前に成形した複合材をその下部に入れたLewisラットの軟組織欠損モデルが開発されている。このはっきり定義されたモデルは、Aim 3の仮説のすべての要素およびR21試験に適した規模に対処するために理想的である。これは、かかる複合材が大きな欠損を回復させる能力を直接的に実証するものではないが、概念実証を確立し、複合材設計の必須のあらゆる官能部が確認され、より臨床的に重要なモデルにおいて大きな欠損の回復を試験するための大型動物モデルの基礎を築くものである。
【0265】
パイロット試験において、同様の弾性率のPCLナノ繊維−HAヒドロゲル複合材およびHAヒドロゲルを、8〜12週齢の雄のLewisラットの鼠径部脂肪体下に埋入した(n=3/時間点)。HAヒドロゲル群および複合材群はどちらも、移植後、14日目および30日目に良好な組織適合性を示した(
図12,POD 14,POD 30において同様の観察結果.POD=術後日数)。POD 30の組織検査では、疑似手術群と比べて高いレベルの炎症応答は示されなかった。H&Eおよびマッソントリクローム染色により、天然の脂肪による隔壁形成および複合材中への細胞浸潤、周囲部における毛細管形成、および天然脂肪の腺細胞部分ならびに脂肪細胞部分の再生が示された(
図12)。他方で、HAヒドロゲル対照には細胞浸潤はなく、薄い線維質組織シートの形成および異物応答がみられた。このHAヒドロゲルは、充分な機械的特性を確保するために2kPaを有するように調製した。この結果により、細胞浸潤のための構造骨格の多孔度の重要性が強調される。
【0266】
早い時間点(2週間)では、創面環境からの間葉細胞が該材料に浸潤していることがわかり、該材料は天然の細胞内殖を可能にするのに充分な多孔度を有することが示唆された(
図12における濃いピンクの染色)。重要なことに、細胞内殖は、外来性増殖因子の非存在下であっても行われた。単に該材料を囲んでいるのではなく該材料に浸潤している細胞の存在により、この複合材ナノ材料は、現在使用されている他のアロプラスト材料と区別される。後者の材料は線維性被膜によって囲まれ、したがって、軟組織の再構築にはあまり望ましくない。後の時点(4週間)では、細胞内殖はさらにより明らかであり、生成途中の脂肪細胞分化を表すものであり得る小胞領域がみられる。
【0267】
実施例10:ヘパリン含有配合物
また、ヒアルロン酸にコンジュゲートさせたヘパリンを有する複合材配合物も調製した。この配合物を、上記のプリフォーム構造骨格と同一にインビボで試験した。組織を7日目、14日目、30日目および90日目に収集した(n=3)。多くの重要な増殖因子、例えば、bFGF、PDGFおよびVEGFはヘパリン結合ドメインを有する。コンジュゲート型ヘパリンは2つの目的を果たし得る;第1に、これは、注入部位に存在する内在性増殖因子の多くに結合し、再生している組織の局所レザーバおよび誘引のきっかけとしての機能を果たし得る。第2に、ヘパリン含有複合材は、再生をより良好に増強するための増殖因子を有する構造骨格を事前に負荷するために使用され得る。ヘパリン含有構造骨格は、7日目と14日目では、ヘパリン無含有複合材構造骨格と比べて増強された新脈管形成を示したが、30日目と90日目では同様の結果であった。
【0268】
実施例11:注入用配合物
また、ヒドロゲル−ナノ繊維複合材を注入用変形型にも配合した。インビボで使用したプリフォーム複合材で使用した200μLの同じ組成物(5mg/mLのチオール基含有HA,5mg/mLのPEG−DA,12.5mg/mLの繊維)を混合し、シリンジ内で8〜10分間、部分硬化させた。この時点では、複合材は、外科用ニードルから注入できる粘性で流動性の液状物である(
図20)。注入したら、複合材は、逆さにしたとき、その形状を維持し、水中に浸漬させたとき、非分散性、形状維持性および非/低膨潤性である。注入用複合材の生体適合性について試験するため、次いで、懸濁液をラットの鼠径部脂肪体内に21ゲージのニードルから注入する。次いで、組織を7日目、14日目、30日目および90日目に収集し(n=3)、先の実施例と同一に解析した。複合材は、30日目において広範な細胞リモデリングを示したとともに用量を維持しており、線維質被包化は引き起こされていなかった。複合材料中で発生している初期段階の脂肪細胞が明白に確認され得る。
【0269】
実施例12:実施例5〜11の考察
ヒドロゲルは、細胞遊走を助長させるその3D水和環境および高い多孔度のため、組織欠損の再生のためのフィラー材として広く研究されている。しかしながら、ヒドロゲルは、容積の大きい欠損の置換は不充分であることが示されている。これは、ヒドロゲルが体液ならびに内部応力および外部応力によって容易に分解され、崩壊し得るため、組織再生の全期間中において、ヒドロゲルの比較的弱い機械的特性が、その容積を維持するのに不充分であるためである。ヒドロゲルの機械的特性を改善するため、当該技術分野における主なストラテジーは(i)ヒドロゲル前駆物質の濃度を上げる、(ii)ヒドロゲル内部の架橋網目の密度を上げる、および(iii)例えば、ヒドロキシアパタイト粒子を埋め込むこと、または繊維シートをラミネートすることによって強化材料を導入することであった[Mater Chem Physics,2008,107,364−369,Biomaterials 2006,27,505−518,Acta Biomaterialia 2010,6,1992−2002]。残念ながら、このような非常に高強度化ストラテジーは内因的に、得られるヒドロゲルの平均孔径および多孔度を低下させ、細胞がこのようなヒドロゲル中に遊走し得ることを妨げるものであった。したがって、依然として高い多孔度は保持され得るが速やかな細胞浸潤を可能にする新しい機構によってヒドロゲルの強度を上げることが模索された。ヒドロゲル相の大部分がインタクトなまま、多孔度を含み、ヒドロゲル複合材全体の強度を上げることができる官能基化ナノ繊維を導入することにより、複合材料を設計した。得られた繊維−ヒドロゲル複合材は、鍵となる2つの成分のため、これまでの軟組織複合材を改善するものである。第1に、等方的に強度を上げるため、ナノ繊維を高い負荷レベルでヒドロゲル中に一様に分散させる必要があった。組織工学分野では、一般的に、エレクトロスピニングナノ繊維が繊維の平坦なシートまたはマットとして使用されていた。そのため、これは典型的には、このマットにヒドロゲル前駆物質溶液を含浸させることによって複合材に作製される。
【0270】
これは、ヒドロゲル全体へのナノ繊維の分散を大きく制約し、複合材の幾何構造を2Dシートまたはチューブに制限する。このような幾何構造は、特定の用途、例えば、神経修復または創傷ドレッシング材には有用であるが、容積の大きい欠損の修復には不充分な選択肢である。繊維シートを低温ミリングすることにより、平均繊維長さを、水溶液中で懸濁状態で保持することが可能であるのに充分に短い長さまで縮小することが可能になった。したがって、次いで、サンプルはヒドロゲル前駆物質溶液中に容易にピペッティングされ、ゲル化前のヒドロゲル容積全体へのナノ繊維断片の一様な分散体が創製された。次いで、溶液は、ほとんどのエレクトロスピニングナノ繊維メッシュの制限された平面的な幾何構造とは異なり、注入用配合物として直接使用され得るか、または任意の自由裁量の幾何構造の構造骨格ゲルを作製するために成形型に添加され得る。また、ヒドロゲル中の分散繊維の複合材構造は、細胞外マトリックスの線維性構造物を再現しており(
図6G)、複合材中での細胞遊走を補助し得る接着部位をもたらす。
【0271】
第2に、単にナノ繊維をヒドロゲル中に分散させるだけでは、強力な複合材を形成するには不充分である。本データにより、ナノ繊維自体を含めるだけでは、複合材の弾性率の改善は非常にわずかしか得られず、改善は界面結合を導入した場合にのみ起こることが示された。界面結合は、ヒドロゲルと繊維成分間の強力な結合の形成なしでは、水およびヒドロゲル成分が、負荷量をより剛性の材料に移行せずには繊維成分の前方を横切ることができないであろうから必要である。さらに、かかる異なる材料間の界面は、複合材において剥離および破断をもたらし得る。さらに、PCLの初期の疎水性により、繊維が優先的に一体に凝集し、懸濁液から分離する凝塊を形成するため、水溶液中に分散させることが困難になる。プラズマ処理およびカルボン酸基とアミン基でのその後の官能基化により、繊維の親水性が大きく増大し、分散が可能になる。この機械的特性の劇的な増大は、繊維表面上のマレイミド基とヒアルロン酸分子上のチオール基間に界面結合が存在する場合にのみ起こった。この共有結合強度の結合は、圧縮または引っ張り時に負荷量をより効率的に繊維に移行させ、より剛性でより強力な材料をもたらす。さらに、複合材は、マレイミド密度の増大とともに弾性率が大きくなる強い傾向を示し、強度を上げる機構ならびに強化の微調整性における重要性が強調される。
【0272】
本研究において、繊維−ヒドロゲル複合材の機械的特性を、種々の因子、例えば、繊維の全表面積、繊維表面上の官能性マレイミド基の密度、およびヒドロゲル中に負荷される繊維の量によって微調整することが可能であることが確認された。第1に、小さい直径の繊維を有する複合材は、大きな直径の繊維を有する複合材のものよりも高い圧縮弾性率および剪断貯蔵弾性率を示した(
図7Aおよび
図8C)。同様に、文献において、グルタルアルデヒドを用いてプラズマ活性化させた単独の超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)繊維(約25μm)は、ポリ(ビニルアルコール)ヒドロゲルにおいて60束のUHMWPE繊維と比べておよそ2.36倍の界面剪断強度の増大を示した[Acta Biomaterialia 2014,10,3581−3589]。したがって、繊維直径を縮小し、したがって繊維の比表面積を増大させることは、複合材の機械的特性の改善に有効であり得ることが考えられ得る。しかしながら、各繊維群が有した繊維上のMAL表面密度の差はわずかであり(およそ10〜15nmol/mg)、そのため、繊維単独の表面積の効果は決定的には判定され得ない。したがって、第2に、同じ直径の繊維を有するが繊維上のMAL表面密度が種々である複合材を製作した(
図8)。複合材の圧縮弾性率および剪断貯蔵弾性率は、繊維上のMAL表面密度の増大とともに大きくなった。界面結合なしの複合材は、PAA工程(繊維上にカルボキシル基)を行ったがさらなるMALコンジュゲーション工程なしによって改質した繊維を使用することにより、わずかな圧縮弾性率の増強しか示されない(
図7)ことが確認された。界面結合の重要性は、ゲル化の前に繊維上のMAL基をシステインでクエンチすることによってさらに確認された。システインはマレイミド基とコンジュゲートし、繊維とヒドロゲル間の界面結合を妨げる。これにより、本発明者らは、繊維を界面結合群と同一に別の方法で加工したため、まさに、界面結合の効果を取り上げることになる。興味深いことに、MALクエンチ型繊維を有する複合材の機械的特性は劇的に低下し(
図7Aおよび
図8B)、MALクエンチ型繊維群は、HAの濃度を10mg/mlにした場合、HAヒドロゲル単独のものより低い圧縮弾性率示した(
図7)。先の試験でみられる場合のように、MALクエンチ型繊維によって、繊維とヒドロゲルの界面で容易に剥離が起こることにより複合材全体が弱くなったということが考えられ得る[Acta Biomaterialia 2014,10,3581−3589]。また、官能基なしの繊維は、1種類の成分で構成されているかまたはゲル化中に異物が全くない純粋なヒドロゲルと比べてゲル化を抑止する異物として作用し得る[JMC B 2015,DOI:10.1039/C3TB21830A,Journal of Biomedical Materials Research Part A 2010,95(2),564−573]。さらに、種々のMAL表面密度を有する複合材により、剪断貯蔵弾性率と界面結合の密度間の有意な相関が確認された(
図8C)。この試験は、ヒドロゲルの機械的特性が界面結合によって強化され、微調整されるという強力な証拠を示す。第3に、複合材の剪断貯蔵弾性率は、ヒドロゲルに対する繊維の重量比の増大に伴って大きくなった(
図9)。それにより、重量比は、繊維−ヒドロゲル複合材の機械的特性を微調整するために使用され得る別の可変量であることが確認された。しかしながら、ここでは、繊維負荷量の増大とともに、剪断貯蔵弾性率の増大が平坦になり始め、0.6よる上の重量比ではわずかに減少すらすることが確認された。この飽和効果の可能性の1つは、複合材の界面結合の密度が、どの程度、MALを有する過剰の繊維が大量画分のHAのチオール基と反応し、ゲル化のためのPEGDAの反応が妨げられたかによって低減されたことであり得る。HAヒドロゲルの最も高い剪断貯蔵弾性率がHA−SHとPEGDAの各官能基が等モル量で得られたこと、ならびにHA−SHまたはDAのいずれかが過剰量で剪断貯蔵弾性率が低下することを考慮すると(
図14A)、繊維上の過剰のMALは、繊維の量が増えると複合材内部のSH−DA間結合を破壊するのかもしれない。
【0273】
一般的に、埋入されたバイオマテリアルは、組織欠損の再生中、数多くの内部応力および外部応力に耐えるものでなければならない。応力は重度でなく連続的ではないが、かかる応力を模倣するため、反復条件下および高周波数(10Hz)下で応力抵抗性試験を行った(
図10および
図8)。HAヒドロゲルおよび繊維−HAヒドロゲル複合材はどちらも、反復圧縮歪み中、なんら損傷または機械的強度の低下なく、耐えた。注目すべきことに、界面結合を有する複合材は、10Hzの周波数で、その剪断貯蔵弾性率を保持していたが、HAヒドロゲルおよび界面結合なしの複合材の剪断貯蔵弾性率は10Hzでは低下した。この傾向は、分散繊維との界面結合が複合材の機械的特性の強化に極めて重要であることを示す。また、繊維−HA複合材は、凍結乾燥およびその後の再水和に供された後、その寸法およびヤング率を維持していたが、HA−単独ゲルは同じプロセス下で実質的に収縮した(
図6Cおよび
図10)。脱水および再水和後のこの形状、容量および剛性の維持は、複合材の凍結乾燥形態が得られることにより市販品の滅菌および保存がより容易になり得るため、本技術の臨床応用に重要な特長である。
【0274】
軟組織の再構築のための、理想的な埋入型構造骨格は、欠損空隙をすぐに充填し得るが、また、身体の自身の細胞が増殖して構造骨格になるための基材としての機能も果たし、増殖して適正な組織表現型に分化し、最終的に正常な健常組織を有する人工構造骨格に置き換わり得るものであり得る。したがって、適切な細胞がヒドロゲル中または複合材構造骨格中内で遊走できるであろうことは決定的に重要である。適切な細胞型が構造骨格内で遊走する潜在能を調べるため、hASCスフェロイドをHAヒドロゲルおよび繊維−HAヒドロゲル複合材の内部に播種し、その細胞遊走を評価した。HAヒドロゲル単独の内部では、HAヒドロゲルが柔らかすぎて細胞遊走のための牽引力を提供できなかったため、hASCは遊走できなかった(
図11A)[Biomaterials 2015,42,134−143]。興味深いことに、複合材の剪断貯蔵弾性率はHAヒドロゲルのものと同様であったが、hASCは、複合材内部で、スフェロイドから離れて有意に遊走することができた(
図11)。仮説の1つは、複合材内部の繊維が、脂肪組織の天然ECMのフィブリル成分と同様に、細胞遊走をガイドする接着部位をもたらしているのかもしれないということである。以前に、整列した繊維およびランダム繊維は、種々の細胞型における細胞の接着、増殖、分化および遊走のための極めて重要な因子となり得ることが示された[Biomaterials 2005,26,2537−2547/2006,27,6043−6051/2009,30,556−564/2010,31,9031−9039,Acta Biomaterialia 2013,9,7727−7736]。特に、細胞は、その細胞骨格が下部の線維に沿って整列し、続いているため、繊維をガイドマトリックスとして認識することが観察された[Biomaterials 2006,30,6043−6051/2009,30,556−564]。しかしながら、1000nmまたは286nmのいずれのナノ繊維を有する複合材内でもロバストに遊走したため、複合材内部の繊維の直径は遊走細胞に影響しなかった(
図19)。
【0275】
ベンチトップ試験およびインビトロ培養細胞でみられた多孔度および細胞遊走の効果は、複合材のインビボ試験中での顕著な差に変わった。脂肪を模倣するように配合した2kPaの剛性の繊維なしのヒドロゲルが有する多孔度は、細胞浸潤には低すぎた。細胞応答は、ヒドロゲルを厚いコラーゲン層で囲まれるというものであり、異物応答に典型的な浸潤またはリモデリングはなかった。しかしながら、ナノ繊維−ヒドロゲル複合材は、細胞内殖、血管新生および細胞リモデリングが助長されるのに充分な多孔度を有しており、異物応答はなかった。これにより、身体における容積の大きい欠損部が、最終的には身体の自身の組織になるもので永続的に充填されるという見込みがもたらされる。この結果は、宿主組織とのより堅固な界面を形成し得る注入用配合物でさらにより顕著であり、ロバストな脂肪形成の徴候を示した。
【0276】
結論:
ヒドロゲル中の官能基化ナノ繊維の分散により、この2つの成分の強度を兼ね備えた複合材構造が形成される。ナノ繊維とヒドロゲル成分間の界面結合は、組織および細胞の内殖を助長する高い多孔度と孔径を維持したまま強力な複合材を作製するのに極めて重要である。得られる複合材の特性は、繊維直径、繊維負荷量レベル、マレイミド密度レベルおよびヒドロゲル成分の負荷量レベルを変更することにより容易に微調整され得る。これにより、目標の全体的剛性で低架橋および高い多孔度にし、細胞浸潤およびその後の組織リモデリングを高めることが可能になる。また、繊維自体も、天然のECMにみられるものと同様の接着部位をもたらすことにより細胞遊走を直接改善し得る。得られる複合材埋入物は、天然脂肪組織の剛性とマッチしているが細胞浸潤およびリモデリングのための透過性は保持するように微調整され得る。この新規な複合材は、任意の自由裁量の形状の容積の大きい欠損部がすぐに充填されるのに充分に強力である。そのため、この複合材埋入物は、身体の自身の細胞が複合材内に浸潤し、血管を形成し、脂肪細胞のような細胞に分化することに対して許容性の構造骨格としての機能を果たす。構造骨格は、組織リモデリング中、初期の欠損空隙が正常な健常組織で完全に置き換わるまでゆっくり分解する。この複合材構造は、再建手術および美容手術の将来性のための大きな将来性を有する。
【0277】
均等物
本明細書に記載の詳細な実施例および実施形態は、一例として例示の目的で示したものにすぎず、なんら本発明を限定するものとみなされるものでないことは理解されよう。これに鑑みて種々の修正または変更が当業者に示唆され、本出願の趣旨および範囲に含まれ、添付の特許請求の範囲に含まれているとみなす。例えば、成分の相対量は、所望の効果が最適化されるように変更してもよく、さらなる成分を添加してもよく、および/または記載の成分の1つ以上を同様の成分で置き換えてもよい。本発明の系、方法およびプロセス工程に関連するさらなる好都合な特長および官能部は、添付の特許請求の範囲から明らかであろう。さらに、当業者には、常套的な範囲内の実験手法を用いて、本明細書に記載の発明の具体的な実施形態の多くの均等物が認識されるか、または確認することができよう。かかる均等物は、以下の特許請求の範囲に包含されていることを意図する。