特表2017-528495(P2017-528495A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2017-528495フェニルグリシンメチルエステルの塩
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-528495(P2017-528495A)
(43)【公表日】2017年9月28日
(54)【発明の名称】フェニルグリシンメチルエステルの塩
(51)【国際特許分類】
   C07C 229/36 20060101AFI20170901BHJP
   C07C 227/18 20060101ALI20170901BHJP
【FI】
   C07C229/36CSP
   C07C227/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-515829(P2017-515829)
(86)(22)【出願日】2015年9月17日
(85)【翻訳文提出日】2017年4月18日
(86)【国際出願番号】EP2015071324
(87)【国際公開番号】WO2016046055
(87)【国際公開日】20160331
(31)【優先権主張番号】14185735.9
(32)【優先日】2014年9月22日
(33)【優先権主張国】EP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】517091816
【氏名又は名称】デーエスエム シノケム ファーマシューティカルズ ネーデルランド ベースローテン フェンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】DSM SINOCHEM PHARMACEUTICALS NETHERLANDS B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100144048
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 智弘
(74)【代理人】
【識別番号】100107629
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 敏夫
(74)【代理人】
【識別番号】100189186
【弁理士】
【氏名又は名称】大石 敏弘
(74)【代理人】
【識別番号】100186679
【弁理士】
【氏名又は名称】矢田 歩
(74)【代理人】
【識別番号】100204755
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 浩司
(72)【発明者】
【氏名】ドエス,ファン デル,トーマス
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA02
4H006AA03
4H006AB84
4H006AC52
4H006AD15
4H006BB15
4H006BC31
4H006BC51
4H006BE03
(57)【要約】
本発明は、D−フェニルグリシンメチルエステルのヘミ硫酸塩、当該塩の調製方法、並びに抗生物質及びD−フェニルグリシンメチルエステル遊離塩基の酵素的合成における当該塩の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
D−フェニルグリシンメチルエステルのヘミ硫酸塩。
【請求項2】
6.1±0.2°2θ、12.1±0.2°2θ、18.8±0.2°2θ及び24.1±0.2°2θのピークを含む粉末XRD回折パターンを有する、請求項1に記載のヘミ硫酸塩。
【請求項3】
7.9±0.2°2θ、14.4±0.2°2θ、15.6±0.2°2θ、16.7±0.2°2θ、19.5±0.2°2θ及び25.6±0.2°2θのピークをさらに含む、請求項2に記載のヘミ硫酸塩。
【請求項4】
(a)D−フェニルグリシンメチルエステルの有機溶媒中の溶液を硫酸と接触させる工程;及び
(b)工程(a)で得られた混合物からD−フェニルグリシンメチルエステルのヘミ硫酸塩を単離する工程
を含む、D−フェニルグリシンメチルエステルのヘミ硫酸塩の調製方法であって、
工程(a)において、硫酸のモル量が、D−フェニルグリシンメチルエステルのモル量に対して0.4〜0.6であることを特徴とする方法。
【請求項5】
工程(a)の後に水層を分離し、工程(b)を前記水層で行う、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
工程(a)で得られた前記水層が結晶化に付される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記結晶化が、工程(a)で得られた前記水層の温度を低下させることによって行われる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記結晶化が−5〜15℃の温度で行われる、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
工程(b)の前記単離の後に残る水層を、請求項4に記載の方法の工程(a)の混合物に加える、請求項5〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記有機溶媒の水に対する溶解度が0%(w/w)〜25%(w/w)であり、前記有機溶媒の極性指数が1〜5である、請求項4〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記極性指数が2〜3である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記溶媒が、酢酸ブチル、ジエチルエーテル、酢酸エチル、メチルイソブチルケトン及びメチルtert−ブチルエーテルからなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
アンピシリン、セファクロール又はセファレキシンの調製における、D−フェニルグリシンメチルエステルのヘミ硫酸塩の使用であって、
ペニシリンアシラーゼの存在下、前記D−フェニルグリシンメチルエステルのヘミ硫酸塩をそれぞれ6−アミノペニシラン酸、7−アミノ−3−クロロ−3−セフェム−4−カルボキシレート又は7−アミノデアセトキシセファロスポラン酸と接触させる工程を含む使用。
【請求項14】
D−フェニルグリシンメチルエステル遊離塩基の調製における、D−フェニルグリシンメチルエステルのヘミ硫酸塩の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、D−フェニルグリシンメチルエステルのヘミ硫酸塩、当該塩の調製方法、及び抗生物質の酵素的合成における当該塩の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
アミノβ−ラクタムの母核を側鎖の酸誘導体、例えばアミド又はエステルでアシル化することによる半合成β−ラクタム抗生物質の酵素的製造は、広く特許文献:例えばDE2163792、DE2621618、EP339751、EP473008、US3816253、WO92/01061、WO93/12250、WO96/02663、WO96/05318、WO96/23796、WO97/04086、WO98/56946、WO99/20786、WO2005/00367、WO2006/069984及びWO2008/110527に記載されている。当技術分野で用いられる酵素は、ほとんどの場合、大腸菌(Escherichia coli)から得られるペニシリンアシラーゼであり、様々な種類の水不溶性材料で固定化(例えば、WO97/04086)されている。
【0003】
生体触媒は高い感受性を有するために、酵素的方法は通常、汚染物質の存在に関して厳しい要件を有する。不必要な不純物が、しばしば酵素の適切な機能を妨害する。この理由から、アミノβ−ラクタムの母核を側鎖の酸誘導体、例えばアミド又はエステルでアシル化することによる半合成β−ラクタム抗生物質の酵素的製造においても、出発原料は可能な限り最高の純度であることが好ましい。これは、通常、出発原料を単離することによって、好ましくは結晶化によって達成される。例えば、アモキシシリン、セファドロキシル及びセフプロジル等の抗生物質の側鎖であるD−4−ヒドロキシフェニルグリシンについては、アミド又はエステル等の活性化誘導体の結晶化を容易に為すことができる。しかし、アンピシリン、セファクロール及びセファレキシン等の抗生物質の側鎖であるD−フェニルグリシンについては、これが大きな問題である。現在までに、アンピシリン、セファクロール及びセファレキシンの酵素的製造における最も好ましい出発原料の1つである結晶性D−フェニルグリシンメチルエステルの単離に関する報告はない。しかし、WO2008/110527に記載されているように、微量のD−フェニルグリシンが存在すると酵素カップリング反応の収率が大きく悪影響を受けるため、高度に精製されたD−フェニルグリシンメチルエステルが必要である。これは、酵素カップリング反応条件下で遊離の側鎖の溶解度が低いために、酵素カップリング反応における遊離の側鎖の濃度に上限があるという事実に起因する。この上限は、遊離の側鎖が結晶化せず又は沈殿しないという要件で決定される。なぜなら、沈殿物が酵素カップリング反応のプロセシングに悪影響を及ぼすからである。さらに、半合成β−ラクタム化合物の下流プロセシングの最終工程で、混入するD−フェニルグリシンを、例えば半合成β−ラクタム化合物の最終結晶化工程の母液を用いて除去しなければならない。D−フェニルグリシン濃度がより高くなれば、D−フェニルグリシンを除去するためにより多くの母液が必要とされ、これによって、今度は半合成β−ラクタム化合物の損失がより大きくなる。側鎖エステルを固体形態で単離する単位操作は、半合成抗生物質の製造プロセスを複雑にし、その原価に著しく寄与する。従って、D−フェニルグリシンメチルエステル中の不必要なD−フェニルグリシンの量はできるだけ少なくすべきである。
【0004】
これを達成するために、D−フェニルグリシンメチルエステルを塩の形態で単離することができる。アルキルスルホン酸塩又はアリールスルホン酸塩及び塩酸塩等のいくつかの塩が報告されており、これらの単離プロセスによって不必要な微量のD−フェニルグリシンを除去することができる。しかし、これらの塩は、新たな有機不純物の塩を導入する等の一定の欠点を有する。塩酸塩は、大体において、精製されたD−フェニルグリシンメチルエステルの誘導体の単離のための魅力的な候補である。しかし、残念なことに、ペニシリンアシラーゼは、塩酸塩の存在によって悪影響を受ける種類の酵素であり、従って、酵素的合成におけるD−フェニルグリシンメチルエステルの塩酸塩の使用は、解決するために設定された当初の問題よりも大きい付加的な問題を伴う。この理由のために、単離することができ、十分な純度であり、D−フェニルグリシンメチルエステルの塩酸塩に関連する問題を有していないD−フェニルグリシンメチルエステルの誘導体が依然として必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、単離することができ、十分な純度であり、アンピシリン、セファクロール及びセファレキシンをもたらす酵素プロセスにおいて副反応を阻害することなく用いることができるD−フェニルグリシンメチルエステルの誘導体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
用語「核」は、半合成β−ラクタムのβ−ラクタム部分として本明細書で定義され、例えば6−アミノペニシラン酸(6−APA)、7−アミノデアセトキシ−セファロスポラン酸(7−ADCA)、7−アミノセファロスポラン酸(7−ACA)又は7−アミノ−3−クロロ−3−セフェム−4−カルボキシレート(7−ACCA)等の任意のペネム又はセフェムであってもよい。
【0007】
用語「側鎖」は、半合成β-ラクタム化合物において、本明細書で定義された核の6−アミノ又は7−アミノの位置に結合される部分として、すなわちアンピシリン、セファクロール及びセファレキシンの中のD−フェニルグリシンとして本明細書で定義される。
【0008】
用語「遊離の側鎖」は、側鎖の誘導化されていない形態、すなわちD−フェニルグリシンである。
【0009】
用語「側鎖エステル」は、遊離の側鎖のエステルの形態であり、遊離の側鎖のカルボキシル基が、アルコールとエステル化され、例えばD−フェニルグリシンメチルエステルにエステル化される。側鎖エステルは、遊離塩基の形態で、又は塩の形態で、例えば硫酸塩の形態であってもよい。
【0010】
用語「D−フェニルグリシンメチルエステルのヘミ硫酸塩」(略称:(PGMH)SO)は、式:C1824SOを有する式(1)の化合物を指す。
【0011】
【化1】
【0012】
第1の態様では、本発明は、D−フェニルグリシンメチルエステルのヘミ硫酸塩((PGMH)SO)を単離された形態で提供する。好ましくは、(PGMH)SOは結晶である。1つの実施態様では、結晶性(PGMH)SOは、図1に示す粉末XRD回折パターンを有する。好ましくは、粉末XRD回折パターンは、6.1±0.2°2θ、12.1±0.2°2θ、18.8±0.2°2θ及び24.1±0.2°2θのピークを示す。より好ましくは、粉末XRD回折パターンは、7.9±0.2°2θ、14.4±0.2°2θ、15.6±0.2°2θ、16.7±0.2°2θ、19.5±0.2°2θ及び25.6±0.2°2θの追加のピークを示す。
【0013】
本発明の(PGMH)SOは有利に、安定な固体である。D−フェニルグリシンメチルエステルの唯一の他の公知の安定な無機酸塩は、塩酸塩である。しかし、この塩酸塩は、酵素の性能への悪影響、及び副生成物としての腐食性の塩酸塩の放出等のいくつかの欠点を有する。塩酸塩の生成は、工業用反応容器に有害な影響を及ぼすことが知られており、本発明の(PGMH)SOの使用に伴って生成される硫酸塩ではこの現象は起こらない。驚くべきことに、アンピシリン、セファクロール又はセファレキシン等の半合成D−フェニルグリシン含有β-ラクタム化合物の酵素的合成に本発明の(PGMH)SOを適用することで、US8541199に提唱されたD−フェニルグリシンメチルエステルの硫酸塩の溶液を使用した場合と比較して、優れた結果がもたらされた。1つの実施態様では、本発明の(PGMH)SOを用いて、より高い収率で、より高い変換率で、及び不必要なD−フェニルグリシンの生成をより低く抑えて、7−ADCAから酵素的に抗生物質セファレキシンを調製することができる。
【0014】
第2の態様において、本発明は、
(a)D−フェニルグリシンメチルエステルの有機溶媒中の溶液を硫酸と接触させる工程;及び
(b)工程(a)で得られた混合物からD−フェニルグリシンメチルエステルのヘミ硫酸塩を単離する工程
を含む、(PGMH)SOの調製方法を提供する。
【0015】
好ましくは、硫酸の量は、硫酸のモル量が、(PGMH)SOのモル量に対して0.4〜0.6であるように選択される。好ましい実施態様で、(PGMH)SOは、工程(a)で水層を分離し、そこから(PGMH)SOを結晶化させることで単離される。結晶化は、当業者に公知の方法に従って、例えば温度を低下させることによって実施することができる。好ましい結晶化温度は、−5〜15℃、より好ましくは0〜10℃であることが判明した。
【0016】
1つの実施態様では、上記方法の工程(b)の単離の後に残る水層をリサイクルすることによって全体の収率を改善することができることが見出された。従って、水性母液は、上記の方法の次のサイクルで、工程(a)の混合物に添加される。好ましくは、リサイクルは、工程(a)の混合物に添加される前に水性母液の一部が廃棄されるようにして実施される。好適な少量の一部は、1〜50体積%、好ましくは2〜25体積%、より好ましくは3〜15体積%である。層分離の結果、このリサイクルは、不純物を蓄積せずに行うことができることが判明した。
【0017】
第2の態様の方法は、様々な有機溶媒を用いて行うことができる。好ましい溶媒は、0%(w/w)〜25%(w/w)の水への溶解度を有し、1〜5の極性指数(polarity index)を有する溶媒であることが見出された。好ましくは、極性指数は2〜3であり、この範囲は一般に最良の結果をもたらす。好ましい溶媒は、酢酸ブチル、ジエチルエーテル、酢酸エチル、メチルイソブチルケトン及びメチルtert−ブチルエーテルである。
【0018】
第3の態様では、本発明は、アンピシリン、セファクロール又はセファレキシンの調製における(PGMH)SOの使用であって、ペニシリンアシラーゼ、好ましくは固定化ペニシリンアシラーゼの存在下、(PGMH)SOをそれぞれ6−アミノペニシラン酸(6−APA)、7−アミノ−3−クロロ−3−セフェム−4−カルボキシレート(7−ACCA)又は7−アミノデアセトキシセファロスポラン酸(7−ADCA)と接触させる工程を含む使用を提供する。この酵素反応は、当技術分野で知られた、先に引用した任意の方法に従って行うことができる。例えば、アンピシリンの合成は、EP339751又はWO98/56946に記載されているようにして行うことができる。同様に、セファレキシンの合成は、WO96/23796に記載されているようにして行うことができる。セファクロールの合成は、WO2006/069984に記載されているようにして行うことができる。
【0019】
酵素カップリングの後、半合成β−ラクタム抗生物質は、公知の方法を用いて回収することができる。例えば、酵素反応容器から、上向きに攪拌しながら底部の篩を通して内容物を排出してもよい。その後、得られた半合成β−ラクタム系抗生物質の懸濁液をガラスフィルターで濾過してもよい。
【0020】
酵素カップリング反応後に存在する少量の遊離の側鎖のために、最終の半合成β−ラクタム抗生物質の結晶化を、高いβ−ラクタム抗生物質の濃度で行うことができ、その結果、高収率がもたらされる。
【0021】
別の実施態様において、本発明の第3の態様は、D−フェニルグリシンメチルエステル遊離塩基の調製におけるD−フェニルグリシンメチルエステルのヘミ硫酸塩の使用を提供する。この使用は、D−フェニルグリシンメチルエステルのメチル硫酸塩についてのWO2008/110527に概説された手順に従って順調に達成することができる。WO2008/110527に記載されているD−フェニルグリシンメチルエステル遊離塩基の調製と比較して、本発明のD−フェニルグリシンメチルエステルのヘミ硫酸塩の使用は、D−フェニルグリシンメチルエステル遊離塩基の母液の損失が減少するため、この点で優れた結果を与えることが見出された。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】D−フェニルグリシンメチルエステルのヘミ硫酸塩のXRDスペクトルである。X軸:2θ値(°)。Y軸:強度(cps)。以下の明確なピークを識別することができる。
【表1】
【発明を実施するための形態】
【0023】
一般
粉末X線回折分析
内部ナイフ(バックグラウンド散乱を最小にするため)及び空洞(直径2cm)を備えた密閉サンプルホルダーに試料を載せた。試料調製中の粉塵生成を最小限に抑えるために、粉砕することなくヒュームフード内で充填を行った。Bruker社の粉末X線回折装置D2 Phaserで試料を分析した。この粉末X線回折装置は、1°の開き角度、0.1mmの受光スリット、及びニッケルフィルターを有するLynxEye検出器を使用する。回折角2θは2°〜60°の範囲であり、ステップ幅(2θ内)は約0.008°であり、カウント時間は4秒/ステップである。測定中、(良好な統計のために)試料を15rpmで回転させ、データはバックグラウンドをほぼ取り除いたものである。
【0024】
HPLC分析
カラム:HPLCカラムCrownpak CR(−)(ダイセル社),長さ150mm,直径4mm,粒子の直径5μm。
溶離液:HClO,pH=2.0の溶液。1.43gのHClO(70%,1.43g)を秤量し、これをクロマトグラフィー用の水で1000mLに希釈し、溶液のpHを確認した。
クロマトグラフィー条件:
・溶離液:HClO,pH=2
・アイソクラティックな条件
・流量:1.0mL/分
・注入量:20μL
・波長:220nm
・カラムの温度:室温、20〜25℃
・クロマトグラムの時間:30分間
・保持時間(約):
L−フェニルグリシン:2.7分
D−フェニルグリシン:8.7分
L−フェニルグリシンメチルエステル:9.3分
D−フェニルグリシンメチルエステル:21.0分
【0025】
D−フェニルグリシンメチルエステルの水溶液の調製
(参照、WO2008/110527。同じ生成物は、US8541199の実施例8と同様の手順で異なる量を用いても得られ、実施例4で用いられた。)
D−フェニルグリシン(PG;135g)をメタノール(252mL)に懸濁し、濃硫酸(98%,107g)を加えた。混合物を約73℃で2時間、還流させ、真空ポンプを用いて減圧下で濃縮した。圧力を大気圧から20mbarに減圧し、同時に反応混合物の温度を40℃から80℃に上昇させた。メタノール(126mL,100g)を加え、混合物を約81℃で1時間、還流させ、前記と同様に濃縮した。この操作(メタノールの添加、還流及び濃縮)をさらに4回繰り返した。最後に、メタノール(126mL)を加え、溶液をさらに1時間還流させ、室温に冷却した。アンモニア(15mL)を35分間でpH2.3〜2.4までで一定速度で滴下した。水(75mL)を加え、メタノールを50℃以下の温度で減圧下、留去した。最終のD−フェニルグリシンメチルエステル(PGM)溶液のpHは2.0であり、変換率は99.0%であった。
【実施例】
【0026】
実施例1
(PGMH)SOの種の調製
一般セクションの記載のようにして得られたD−フェニルグリシンメチルエステルの水溶液(1800g)を、8M NaOHの添加によってpHを9.2に維持しながら、5〜10℃でメチルtert−ブチルエーテル(900mL)及び水(25mL)の混合物に加えた。層を分離した。水層をメチルtert−ブチルエーテル(600mL)で抽出した。両方の有機層を合わせ、48%(w/w)のHSOの添加によってpHを4.2に維持しながら、水(5mL)に添加した。層を分離した。粘稠で油状の水層(混濁)を得た。混合物の一部を、真空(2mbar)下、20℃で、重量がもはや減少しなくなるまで蒸発させた。粘稠な油状物が得られた。20℃で数日間、貯蔵している間に、結晶が油中に生成した。これらの結晶の一部は、残りの水層に播種(その間、3℃で保存)するために用いた。3℃で非常に遅い結晶化が観察された。結晶の懸濁液を濾過した。結晶をHPLCで分析した。その結果、結晶がD−フェニルグリシンで汚染されていることが判明した。濾液中で、室温で一晩放置すると再び結晶が生成した。これらの結晶を単離し、その後の実験で種として用いた。
【0027】
実施例2
(PGMH)SOの調製
一般セクションの記載のようにして得られたD−フェニルグリシンメチルエステルの水溶液(1800g)を、8M NaOHの添加によってpHを9.2に維持しながら、5〜10℃でメチルtert−ブチルエーテル(900mL)及び水(25mL)の混合物に加えた。層を分離した。水層をメチルtert−ブチルエーテル(600mL)で抽出した。両方の有機層を合わせた。有機層がD−フェニルグリシンメチルエステル350.4gを含有することをHPLCで測定した。48%(w/w)のHSOの添加によってpHを4.2に維持しながら、水(5mL)に添加した。48%(w/w)のHSOの消費量は201.7gであった。D−フェニルグリシンメチルエステル(350.4g,2.1モル)と、添加したHSO(201.7×0.48=96.8g,1.0モル)のモル比は2:1であった。層を分離した。粘稠で油状の水層(混濁)を得た。実施例1の記載のようにして得られた種を水層に添加した。大規模な結晶化が開始し、1分未満で混合物は白色結晶の固体ケーキとなった。結晶のウェットケーキを真空中、20℃で乾燥させた。結晶中のD−フェニルグリシンメチルエステルのアッセイ(assay)は73%(w/w)であり、D−フェニルグリシンメチルエステルのヘミ硫酸塩中のD−フェニルグリシンメチルエステルの理論的アッセイ(assay)は、100×2×165.2/(2×165.2+98)=77%である。
【0028】
実施例3
温度の関数としての水中の(PGMH)SOの溶解度
実施例2に記載の(PGMH)SOの調製において、(PGMH)SOが過飽和である間に、pH=4.2で有機層が分離される。有機層を水層から分離する前にある時点で、結晶化が始まることがある。有機溶媒の存在下での(PGMH)SOの結晶化を回避するプロセス、及び有機層の分離後の制御された結晶化を設計するために、温度の関数としての(PGMH)SOの溶解度を調べた。実施例2の記載のようにして得られたD−フェニルグリシンメチルエステルのヘミ硫酸塩(1g)を水(2g)と20℃で混合し、固体物質を溶解させた。追加のD−フェニルグリシンメチルエステルのヘミ硫酸塩(1g)を加え、混合物を20℃で25分間撹拌した。全ての固体は溶解しなかった。約0.5mLの一定分量の上清を濾過し、濾液中のD−フェニルグリシンメチルエステルのヘミ硫酸塩の濃度をHPLCで測定した。残りの混合物を3℃で撹拌した。水(2mL)を加えて混合した。追加のD−フェニルグリシンメチルエステルのヘミ硫酸塩(0.5g)を加え、混合物を30分間撹拌した。全ての固体は溶解しなかった。約0.5mLの一定分量の上清を濾過し、濾液中のD−フェニルグリシンメチルエステルのヘミ硫酸塩の濃度をHPLCで測定した。HPLC分析の結果を表1に示す。
【0029】
【表2】
【0030】
20℃の溶解度は、D−フェニルグリシンメチルエステルを有機溶媒及びHSO水溶液の中に20℃でpH4.2で混合した後の層分離を可能にしなければならない。続く水層を3℃に冷却することで、混合物1kgあたり478−268=約210gのD−フェニルグリシンメチルエステルのヘミ硫酸塩が結晶化する。結晶の懸濁液からD−フェニルグリシンメチルエステルのヘミ硫酸塩を3℃で単離した後、水/HSO/母液を用いてD−フェニルグリシンメチルエステルを有機溶媒中に抽出するために母液を再利用することができる。
【0031】
実施例4
(PGMH)SOとPGM溶液を用いたセファレキシンの調製
7−アミノデアセトキシセファロスポラン酸(7−ADCA,55.4g)を水(237mL)に懸濁し、温度を20℃に制御した。混合物をアンモニア水溶液(25%)の添加によってpHを7.0に維持しながら、5分間撹拌した。固定化酵素(US8541199に記載の変異体1を18.7g含む)を水(25mL)と共に加えた。次に、固体の(PGMH)SO(61.5g)を200分間、一定速度で添加し、全ての(PGMH)SOを添加した時、アンモニア水溶液(25%)又は硫酸水溶液(30%)を添加してpHを7.0に維持した。230分の後、硫酸水溶液(30%)の添加によってpHを5.8に調整した。反応の過程で、試料を採取し、HPLCで分析した。その結果を表2に示す。
【0032】
【表3】
【0033】
比較のために、固体の(PGMH)SOに代えてPGM溶液(US8541199の実施例8で得られたもの;100.7g;アッセイPGM:44%)を用いて上記のセファレキシンの調製方法を繰り返した。さらに、7−ADCAの最初の懸濁液中の水量は、237mLではなく187mLであった。反応の過程で、試料を採取し、HPLCで分析した。その結果を表3に示す。
【0034】
【表4】
【0035】
表2及び表3を検証することで、最大のセファレキシンの生成、最大の変換率及び全体のS/Hの比の観点で、固体の(PGMH)SOの使用は、PGM溶液の使用よりも有意により良好な結果を与えたことが明らかになった。
図1
【国際調査報告】