(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-528591(P2017-528591A)
(43)【公表日】2017年9月28日
(54)【発明の名称】部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 3/16 20060101AFI20170901BHJP
B22F 1/00 20060101ALI20170901BHJP
B22F 3/10 20060101ALI20170901BHJP
B22F 3/105 20060101ALI20170901BHJP
B22F 1/02 20060101ALI20170901BHJP
C22C 27/04 20060101ALI20170901BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20170901BHJP
B33Y 70/00 20150101ALI20170901BHJP
C22C 27/00 20060101ALN20170901BHJP
C22C 27/06 20060101ALN20170901BHJP
C22C 27/02 20060101ALN20170901BHJP
【FI】
B22F3/16
B22F1/00 A
B22F3/10 101
B22F3/105
B22F1/00 C
B22F1/02 A
C22C27/04 101
C22C27/04 102
B33Y10/00
B33Y70/00
C22C27/00
C22C27/06
C22C27/02 102Z
C22C27/02 103
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-500365(P2017-500365)
(86)(22)【出願日】2015年6月30日
(85)【翻訳文提出日】2017年3月3日
(86)【国際出願番号】AT2015000093
(87)【国際公開番号】WO2016004448
(87)【国際公開日】20160114
(31)【優先権主張番号】GM277/2014
(32)【優先日】2014年7月9日
(33)【優先権主張国】AT
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】517000737
【氏名又は名称】プランゼー エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 巖
(74)【代理人】
【識別番号】100133167
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 浩
(72)【発明者】
【氏名】ケストラー、ハインリッヒ
(72)【発明者】
【氏名】ライヒトフリート、ゲルハルト
(72)【発明者】
【氏名】オサリヴァン、ミハエル
(72)【発明者】
【氏名】ターベルニッヒ、ベルンハルト
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA19
4K018AA21
4K018AA40
4K018BA04
4K018BA09
4K018BA14
4K018BA20
4K018BB01
4K018BB03
4K018BB04
4K018BC09
4K018BC11
4K018BC21
4K018CA44
4K018DA18
4K018EA51
4K018EA60
4K018KA63
(57)【要約】
本発明は、高融点金属又は50原子%を超える高融点金属含有量を有する高融点金属合金から成る部品を製造するための方法に関する。本方法は、粒子で形成された粉末の供給及びレーザービーム又は電子ビームの作用下でのこの粉末の硬化という工程を含み、ここで、前記粉末のレーザー光学測定による粒径d
50が10μmより大きく、BET法により測定された平均比表面積が0.08m
2/gより大きい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高融点金属又は50原子%を超える高融点金属含有量を有する高融点金属合金から成る部品を製造するための方法であって、粒子で形成された粉末の供給及びレーザービーム又は電子ビームの作用下でのこの粉末の硬化という工程を含む方法において、前記粉末のレーザー光学測定による粒径d50が10μmより大きく、BET法により測定された平均比表面積が0.08m2/gより大きいことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記粒子の表面が少なくとも部分的に空孔を有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記粒子が少なくとも部分的に球形であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記粉末が二峰性又は多峰性の粒径分布を有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記粉末が一次粒子で形成された集合体形状及び/又は凝集体形状の粉末粒子を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記粉末がNi、Co、Fe及びPdからなる群からの少なくとも1つの元素を0.005〜5原子%含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記粉末が少なくとも部分的に複合粉末として存在することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記粉末が少なくとも部分的に被覆された粉末として存在することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記粒子が、表面近傍領域において少なくとも部分的に、中心部近傍領域よりも低い融点を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記融点差(K)が、中心部近傍領域の融点(K)×0.04〜0.7であることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記粉末製造方法が造粒工程を含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記造粒工程の後に、500℃より高い温度で、還元工程が続くことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記粉末製造方法が被覆工程を含むことを特徴とする、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記粉末が、80原子%を超える量のMo及びWからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素を、含有することを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記BET比表面積が0.1m2/gより大きく、好適には0.13m2/gより大きいことを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記粉末が層状に敷きつめられることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記粉末の前記硬化が電子ビームの作用下で行われ、これにより、層状に敷きつめられた粉末の粒子が、第一工程において固相焼結により少なくとも部分的に焼結ネックを形成し、引き続く工程において少なくとも部分的に溶融されることを特徴とする請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記第一工程がデフォーカスされた電子ビームにより行なわれることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記粉末の前記硬化が、少なくとも部分的に、レーザービーム作用下での固相焼結又は液相焼結により行なわれることを特徴とする請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高融点金属又は50原子%を超える高融点金属含有量を有する高融点金属合金から成る部品を製造するための方法であって、粒子から成る粉末の供給及びレーザービーム又は電子ビームの作用下におけるこの粉末の硬化という工程を含む方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタル3D設計データに基づき、粉末を層状に敷きつめ、その粉末の硬化によって部品を造形する方法は、付加製造法と呼ばれている。同義に用いられる概念が、例えば、創造的製造、3Dプリント又はデジタルフォトニクス製造である。付加製造法は、とりわけ下記の利点を特徴とする:
・部品設計に対する高い自由度
・工具が不要
・高い資源利用効率
【0003】
機能的なデザインを有する部品の実現の他に、例えば、傾斜機能材料、ハイブリッド複合材料、最適化された微細構造を有する材料又はバイオニクス素材のような、新素材の開発にも大きなポテンシャルがある。
【0004】
金属粉末を出発原料とする場合には、そのために例えば、選択的レーザー焼結(SLS:Selective Laser Sintering)、選択的レーザー溶融(SLM:Selective Laser Melting)、レーザーメタルデポジション(LMD:Laser Metal Deposition)、電子ビーム溶融(EBM:Electron Beam Melting)又はパウダーベッドならびにインクジェットヘッド3Dプリントが適している。選択的レーザー焼結/選択的レーザー溶融の場合には、一般的には、20〜100μmの厚さの粉末層が敷きつめられる。レーザー出力は、今日では一般的には、200〜1,000Wであるが、将来的にはより高出力のレーザーも使用可能となるであろう。レーザービームが、例えばアルゴン又は窒素といった保護ガス雰囲気下で、例えば7m/s以下の速度で、粉末層をスキャンする。そのエネルギー作用下で、粉末層が硬化される。通常は、これに伴って圧縮も起こる。レーザービームの焦点直径は、一般的には、20〜200μmの範囲であるが、1,000μmまで可能なケースもある。造形速度は、一般的には、5〜15cm
3/hである。
この方法により、表面品質Rzが一般的には、20〜100μmの範囲であって、かつ、精度が一般的には、50〜100μmの範囲の部品が実現可能となる。造形速度を向上させるために、端部領域を小さい焦点直径、例えば約200μm、で造形することができ、これによって、良好な表面品質及び精度を得ることができる。中心領域では、より大きい焦点直径、例えば1,000μm、で粉末層が硬化/圧縮し、これによって、高い造形速度を得ることができる。
LMDの場合には、粉末は、SLS/SLMの場合のようには層状に敷きつめられず、直接レーザービームの領域に導入される。このように作製された溶融ビーズは、一般的には、0.3〜3mmの幅を有する。
【0005】
電子ビーム溶融の場合には、一般的には、約50〜100μmの範囲の厚さを有する粉末層が敷きつめられる。今日入手可能な電子ビーム溶融装置の一般的な出力は3〜4kWである。電子ビームが粉末層に作用する際にはチャージアップが生じるため、電子ビーム溶融の場合、1回目の操作時に、粉末粒子同士の間を又はその前に被着されて既に硬化した粉末層と粉末粒子との間を、或いは粉末の第1層の場合には、粉末粒子と基板との間を、導電的に接続することが必要である。これは、例えば、デフォーカスさせた電子ビームにより行なうことができ、これが固相焼結プロセスにより粉末粒子を相互に結合する。電子ビーム溶融によれば、8,000m/sまでの極めて高いスキャン速度及びより厚い粉末層が可能なため、造形速度も、選択的レーザー焼結又は選択的レーザー溶融の場合より、明らかに高い。例えば、Ti
6Al
4Vの場合の造形速度は、55〜80cm
3/hである。電子ビームの焦点直径は、一般的には、0.1〜1mmの範囲で変化させることができ、更に、この小さい焦点直径により、一般的には、130〜200μmの精度及び100μmより大きい表面粗さRzを、改善することができる。
【0006】
粉末を基にした付加製造法が更に広範に利用され得るためには、表面粗さ及び精度の改善の他に、以下の更なる技術的課題を解決する必要がある。
−造形速度の更なる向上
−作製可能な肉厚の低減(現在の限界は約100μm)
−プロセス定数の向上
−原料の選択肢拡大
−部品サイズの向上(現在の限界は630×500×400mm
3)
−内部応力/歪みの低減
【0007】
これらの課題/特性は、硬化/圧縮プロセスに著しく影響される。同プロセスは更に粉末の物理的特性と強い相関がある。
【0008】
硬化/圧縮プロセスは、固相焼結、液相焼結又は溶融/固化により行なうことができる。固相焼結の場合には、硬化/圧縮が、一般的に、固相線温度の70%の温度から、固相線温度より僅かに低い温度の範囲において生じる。この場合、推進力は表面エネルギーの減少であり、最重要の移送メカニズムは拡散である。更に、この拡散は、表面(表面拡散)において、粒界(粒界拡散)において又は粒子体積(体積拡散又は格子拡散)において起こり得る。2つの粒子が接触する領域では、その内接円半径は小さく、他方、粒子表面の領域ではその半径は比較的大きい。空隙密度は、この半径に依存し、半径減少に伴って増大するため、2つの粒子の接触面領域からより大きい半径を有する領域への空隙拡散が起こる。即ち、より大きい半径を有する領域から粒子間の接触面への原子拡散が起こる。この場合、接触面領域において、いわゆる焼結ネックが粒子間に形成される。液相焼結の場合には、固相の他に、少なくとも一時的に液相も出現する。
【0009】
溶融法による硬化/圧縮の場合には、均一な固化収縮が生じることが重要である。このために、粉末原料が均一に加熱されると好適であり、このことは更に、粉末層における十分に高い熱伝導性を必要とする。更に圧縮の為には、そこに生成する液相が、残存する固体粒子を良好に濡らすことが重要である。これは、一方では粉末原料の密度に依存する毛管力の影響を受け、他方では表面化学的な作用の影響を受ける。このために、マランゴニ対流、凝集(Verklumpungen)又は蒸発は回避すべきである。
【0010】
今日では、高融点金属の付加製造法による硬化/圧縮は、未だ工業的な規模では行われていない。本発明において、高融点金属には、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン及びレニウムの金属が含まれる。これらの材料について付加製造法が未だ汎用されるに至っていないのは、入手可能な粉末が、この製造法にとっては条件付きでしか適さないものであることとも関係している。現在使用されている粉末を用いて得られる材料特性/プロセス特性は、この製造法を広範に利用するには不十分である。
【0011】
各粉末層において、均一かつ十分な高密度が保証されるためには、この粉末は、特に、優れた充填特性を有していなければならない。粉末層の低い又は不均一な密度によって、不均一な収縮又はより大きい空孔又は空孔クラスターが生じる。固相焼結プロセスでは、付与されるエネルギー作用時間が短いため、粒子間距離が短く、かつ、焼結性が高い場合にのみ、硬化/圧縮が達成される。例えば、その粉末を電子ビーム溶融プロセスにより凝固させる場合には、十分な硬化/圧縮が必要であるが、それは、この場合、既述したように、1回目の操作(予熱)において粉末層の粒子を相互に十分に結合させ、これによって、2回目の操作(溶融プロセス)において、電子ビームにより導入された電荷担体を、その前に形成された層を介して、あるいは、基板を介して、移送できるようにしなければならない為である。1回目の操作時に、これらの粒子が十分に高い程度で相互に結合されない場合には、チャージアップが生じ又は更に粉末粒子の反発及び敷きつめられた粉末層の破壊が起こる。
【0012】
選択的レーザー焼結及び選択的レーザー溶融の場合にも、敷きつめられた粉末層が均一かつ高密度であることは好適である。特にレーザー焼結の場合には、固相における高い焼結性が有利に作用する。レーザー溶融及び液相を有するレーザー焼結の場合には、生成する溶融物の表面張力が低いと好適である。固相で十分に高い硬化/圧縮が達成可能な場合又は達成すべき密度への要求が低い場合には、SLSをSLMより優先すべきである。なぜならば、SLSによれば、部品のより良好な表面品質及びより高い精度が達成可能となるからである。これにより、例えば、後工程の加工プロセスの低減又は完全な省略が可能となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】German,R.:“Introduction to Powder Metallurgy Science”,MPIF,Princeton(1984),32
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、本発明の課題は、以下の諸特性の少なくとも1つを備えた高融点金属から成る部品の製造を可能にする方法を提供することにある:
−高い表面品質
−高精度
−薄い肉厚
−高密度及び、例えば、空孔/空孔クラスターのような、欠陥の密度が低いこと
−高い静的及び動的強度
−高い延性
−微細粒子組織
−小さい内部応力
【0015】
更に、この方法は高い造形速度を可能にするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この課題は、独立請求項により解決される。具体的な実施形態は従属請求項に記載されている。
【0017】
本発明の方法によって、高融点金属又は50原子%を超える高融点金属含有量を有する高融点金属合金から成る部品の製造が可能になる。既述したように、高融点金属という概念には、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン及びレニウムを基にした金属が含まれる。本発明による高融点金属合金の高融点金属含有率は、50原子%を超え、好適には70原子%を超え又は80原子%を超える。高融点金属含有率は、特に好適には、90原子%を超え、95原子%を超え又は99原子%である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明によれば粒子で形成された、レーザー光学測定された粒径d
50が10μmより大きい粉末が使用される。ここでd
50値は、レーザー回折法により測定される。測定結果は分布曲線として表示される。この場合、d
50値は、平均粒径を表す。d
50とは、粒子の50体積%が表示値よりも小さいことを意味する。
【0019】
更に、この粉末は、BET法による平均比表面積が0.08m
2/gより大きい。この場合、BET測定は、規格(ISO9277:1995、測定範囲:0.01〜300m
2/g、装置:Gemini II 2370、ベークアウト温度:130℃、ベークアウト時間:2時間、吸着剤:窒素、5点決法による体積評価)に基づいて行なわれる。BET表面積は、好適には、0.1m
2/gより大きく又は0.13m
2/gより大きい。特に好適には、BET表面積は、0.15m
2/gより大きく、0.2m
2/gより大きく又は0.25m
2/gより大きい。
【0020】
この粉末は、レーザービーム又は電子ビームの作用により、硬化及び/又は凝固する。このために、好適には、この粉末は層状に敷きつめられる。
【0021】
本方法は以下の利点を特徴とする:
−電子ビーム溶融における改善されたプロセス特性:
電子ビーム溶融において、1回目の操作時(予熱プロセス)に、例えばデフォーカスさせた電子ビームを用いて、固相焼結により十分な焼結ネック形成が達成される。これによって、高いエネルギー密度の場合(2回目の操作/溶融プロセス)の不都合なチャージアップが回避される。
−このようにして作製された部品の高い表面品質:
本発明による粉末によって、高い充填密度(小さい粒子間距離)が得られる。更に、この粉末は極めて高い焼結性を有する。これにより、極めて均一な圧縮/硬化プロセスが可能になる。部品密度に対する要求がさほど高くない場合には、完全溶融の必要はない。
−高精度:
硬化/圧縮プロセスを固相焼結又は液相焼結(固相領域及び液相領域における焼結)により行なうことができるため、溶融/固化による硬化/圧縮よりも小さい許容誤差を保持することができる。
−薄い肉厚:
硬化/圧縮プロセスを固相焼結又は液相焼結により行なうことができるため、溶融/固化による硬化/圧縮よりも薄い肉厚を得ることができる。なぜならば、粉末層の硬化すべきでない隣接領域への溶融物の浸透が、阻止又は低減されるからである。
−高密度及び、例えば、空孔/空孔クラスターのような、欠陥の密度が低いこと:
均一な充填特性及び高い焼結性が、大きい空孔及び空孔クラスターの数を低減する。
−小さい内部応力:
内部応力は固化/冷却プロセスにより引き起こされるため、液相比率の減少は有利に作用する。
−微細粒子組織:
同一の密度が、より少ないエネルギーの導入によって達成可能なため、より微細な粒子組織を達成することができる。
−高い静的及び動的強度:
前述した諸特性、例えば、高密度、微細粒子組織及び低い欠陥密度、は、静的強度及び動的強度の両方に有利に作用する。
−高い延性:
前述した諸特性は、延性に対しても有利に作用する。
【0022】
更に、本発明による方法によって、造形速度も向上する。このことは、特に電子ビーム溶融に大いに当てはまるが、それは、この場合に不都合なチャージアップ現象が完全に回避されるからである。
【0023】
好適には、これらの粒子は少なくとも部分的に、表面に向けて開かれた空孔を有する。このことにより、表面拡散による、隣接する粒子間の焼結ネック形成が改善される。更に、これらの粒子が少なくとも部分的に球形であると、有利である。このことにより、多孔性表面と組み合わせた場合でも、粉末層において均一で高い充填密度の達成が保証される。
【0024】
更に、コーティング物質が二峰性又は多峰性の粒径分布を有すると好適である。二峰性分布は、2つの極大値を有する頻度分布である。多峰性分布は少なくとも3つの極大値を有する。二峰性又は多峰性分布は、粉末層の充填率を向上させると同時に、固相焼結プロセスによる硬化/圧縮に対しても有利に作用する。二峰性又は多峰性の粒径分布は、電子ビーム溶融の場合に極めて有利であることが判明した。
【0025】
更に、この粉末が、一次粒子により形成される、集合体(Agglomerat)形状及び/又は凝集体(Aggregat)形状の粒子を含有すると好適である。この場合、これらの粒子は、少なくとも部分的に凝集体として、少なくとも部分的に集合体として又は少なくとも部分的に凝集体及び集合体からなる混合物として、存在することができる。ここで凝集体とは、粉末冶金学における一次粒子のクラスターであり、これらの一次粒子は強い結合力で相互に結合している。他方、集合体の場合には、一次粒子のクラスターが弱い結合力で相互に結合している(例えば、非特許文献1を参照)。本発明の文脈においては、通常の超音波解凝集では分解されないクラスターを凝集体と呼び、他方、集合体は、少なくとも部分的に、一次粒子に分解可能である。この場合、超音波解凝集は20kHz、600Wで実施される。好適には、粉末は凝集体として存在している。凝集体を構成している一次粒子間の結合は、好適には、他の要素が関与しない材料結合(冶金的結合、metallurgical bonding)である。特に好適には、粒子全数の50%超、特に70%超、特に好適には90%超が凝集体又は集合体として存在している。この場合の評価は、次のように行なわれる。5つの試料が採取され、走査型電子顕微鏡を用いて検査される。視野内に20〜50個の粒子が含まれる倍率で、凝集体又は集合体として存在している粒子の合計が簡単に求められる。次に、凝集体又は集合体として存在している粒子の数を、検査された粒子の総数と相関させ、5つの試料から平均値が求められる。集合体又は凝集体の形状は、球形と極めて大きい表面積との組合せを可能にするものであり、これが更に充填密度及び固相焼結プロセスに対して有利に作用する。
【0026】
更に、この粉末が、Ni、Co、Fe及びPdから成る群からの少なくとも1つの元素を0.005〜5原子%含有すると好適であることが判明した。これらの合金元素により、エネルギー作用時間が極めて短い場合であっても、表面拡散の他に粒界拡散プロセスも引き起こされ、このことが、電子ビーム溶融における粒子接触に対しても、また、選択的レーザー焼結における圧縮プロセスに対しても、有利に作用することが判明した。これらの元素が溶融液状相の表面張力を低減させるため、SLMの場合でもEBMの場合でも、極めて平滑な表面を得ることができる。
【0027】
更に別の好適な実施形態では、この粉末が少なくとも部分的に複合粉末として存在している。複合粉末とは、より具体的には、2つ以上の相成分から成る粉末を意味するが、この場合、これらの相成分は、好適には、極めて小さく、かつ、均一に分布している。ここで、複合粉末は、少なくとも部分的に被覆された形状で存在する粉末であると好ましい。この場合、この層は、極めて薄い(例えば、50nm〜5μm)形態とすることができる。この層が、中心部近傍領域における粒子よりも低い融点を有する金属、合金又は化合物を含有する場合に、特に有利であることが判明した。この場合、融点の差(K)が、中心部近傍領域の融点(K)×0.04〜0.7であると好適である。特に好適な範囲は、融点(K)×0.04〜0.5及び融点(K)×0.04〜0.3である。これにより、硬化/圧縮プロセスに対して固相焼結プロセスのみが寄与するのではなく、液相焼結により圧縮させることができる。この場合、液相は、好適には、粒子の被覆から形成される。更に、この液相は有利に作用して、幾つかの領域において残存する粒子を溶かしはじめることができる。このためには、被覆材料の蒸気圧が十分に低いと好適である。この被覆が、多孔性であると特に好適である。これにより、固相焼結プロセスを、固相線温度の低下によっても、また、表面積の増大によっても、加速することができる。更に、この被覆から形成される相が、粒子を被覆なしで使用する場合よりも低い表面張力を有すると、好適である。
【0028】
簡単な方法により、多孔性のコーティングを流動床法によって堆積させることができる。流動床(流体床ともいう)において、搬送媒体(好適には気体)によって、まだ被覆されていない粉末が撹拌される。ある特定の流速にて、粉末層が流動床へと変化する。流動床被覆の場合には、次に、例えば液体及びバインダーと共に、好適には極めて細かい形状の被覆材料を含有するスラリーを、ノズルを介して反応空間内に噴射して、粒子上に堆積させることができる。液体及びバインダーは、次に、通常の方法によって、例えば加熱により、除去することができる。
【0029】
しかしながら、本発明に必要なこの粉末は、例えば簡単な方法で、金属粉末の前駆体、例えば酸化物、の造粒及びそれに続く還元により作製することもまた可能である。特に好適な造粒法としては、例えば噴霧造粒法がある。造粒に続く還元ステップは、好適には500℃より高く、特に好適には800℃より高い温度で行なわれる。
【0030】
既述したように、本発明に必要なこの粉末は、好適な方法で、電子ビームの作用による圧縮/硬化のために使用される。このために、この粉末は層状に敷きつめられて、1回目のステップ(予熱プロセス)において、例えばデフォーカスさせた電子ビームを用いて固相焼結プロセスにより硬化/圧縮され、その結果、少なくとも部分的に焼結ネックが生成して、その次の溶融プロセスにおいて不都合なチャージアップ現象を回避することができる。
しかしながら、本発明に必要なこの粉末は、レーザービームの作用による圧縮にも好適であって、硬化/圧縮が固相焼結又は液相焼結により行なわれる場合には特に好適である。
【0032】
例1
MoO
3微粒子粉末が撹拌容器に入れられ、一定量の水と混合されて、スラリーが生成された。このスラリーが噴霧造粒装置において処理され顆粒が形成された。この顆粒は、2段階ステップ(還元温度は600℃及び1,050℃)でMo金属粉末へと還元された。こうして作製されたMo金属粉末は、90μmでふるい分級された。これらの粉末粒子は、球形に形成されており、表面に向けて開いた空孔を有していた。本明細書で与えられた定義によれば、これらの粒子は、集合体/凝集体の形状で存在していた。本明細書による方法で求められたd
50値は21μm、BET比表面積は0.15m
2/gであった。こうして作製された粉末が、選択的電子ビーム溶融に使用された。そのプロセスは本明細書に記載されている。予熱が、デフォーカスさせた電子ビームを用いて、溶融には至らない条件下で行なわれた。これに続くフォーカスさせた電子ビームによるスキャンステップによって、これら粒子は完全に溶融されたが、不都合なチャージアップは現われなかった。
【0033】
例2
25μm及び5μmでふるい分級された球形のタングステン粉末が、0.1質量%のNi微粒子粉末と混合された。この混合物のd
50値は10μmより大きく、BET比表面積は0.08m
2/gより大きかった。こうして作製された粉末混合物を用いて、小さいD×t値(D:拡散係数、t:時間)における固相での焼結性を判断し、それによって、デフォーカスさせた電子ビームによる予熱において又はレーザービームによる硬化/圧縮(レーザー焼結)において、粒子間で十分な接触が得られているかを評価できるようにするために、極めて短いプロセス時間での焼結実験が行なわれた(3分間で1,200℃まで加熱)。比較のために、球形で、ふるい分級が5〜25μmの純タングステン粉末(BET比表面積:0.08m
2/g未満)が3分間で1,200℃まで加熱された。純タングステンの場合には未だ焼結ネック形成が観察されなかったのに対して、本発明によるW−Ni混合物では既に粒子間の焼結ネックが現れた。
【0034】
例3
WO
3粉末が撹拌容器に入れられ、一定量の水と混合されて、スラリーが生成された。このスラリーが噴霧造粒装置で処理され顆粒が生成された。この顆粒は、1段階ステップにてW金属粉末へと還元された(還元温度は1,000℃)。こうして作製されたW金属粉末は、90μmでふるい分級された。これらの粉末粒子は、球形に形成されており、表面に向けて開いた空孔を有していた。本明細書で与えられた定義によれば、これらの粒子は集合体/凝集体の形状で存在していた。本明細書による方法で求められたd
50値は17μm、BET比表面積は0.18m
2/gであった。これらの粉末粒子上に厚さ約1μmのNi層が被着された。例2と同様に、急速加熱による小さいD×t値での固相焼結性が調査された。この被覆により、焼結ネックを1,000℃で形成することができた。
【国際調査報告】