(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-531449(P2017-531449A)
(43)【公表日】2017年10月26日
(54)【発明の名称】抗菌薬感受性試験を自動で分析及び判定する方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/04 20060101AFI20170929BHJP
C12Q 1/18 20060101ALI20170929BHJP
【FI】
C12Q1/04
C12Q1/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2017-537024(P2017-537024)
(86)(22)【出願日】2015年10月5日
(85)【翻訳文提出日】2017年6月2日
(86)【国際出願番号】FR2015052667
(87)【国際公開番号】WO2016055724
(87)【国際公開日】20160414
(31)【優先権主張番号】1459559
(32)【優先日】2014年10月6日
(33)【優先権主張国】FR
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】514291509
【氏名又は名称】フォンダション メディテラネ アンフェクション
(71)【出願人】
【識別番号】513109429
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ デクス−マルセイユ
(71)【出願人】
【識別番号】509005683
【氏名又は名称】アシスタンス ピュブリク オピトー ドゥ マルセイユ
【氏名又は名称原語表記】ASSISTANCE PUBLIQUE HOPITAUX DE MARSEILLE
(71)【出願人】
【識別番号】501089863
【氏名又は名称】サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェサイアンティフィク(セエヌエールエス)
(71)【出願人】
【識別番号】500248467
【氏名又は名称】アンスティテュ ナシオナル ドゥ ラ サントゥ エ ドゥ ラ ルシェルシェ メディカル(イーエヌエスエーエールエム)
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロラン, ジャン−マルク
(72)【発明者】
【氏名】ラウール, ディディエ
(72)【発明者】
【氏名】ル パージュ, ステファニー
(72)【発明者】
【氏名】ビュフェ, シルヴァン
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA06
4B063QQ06
4B063QQ61
4B063QR41
4B063QR75
4B063QS07
4B063QS36
4B063QS39
4B063QX01
(57)【要約】
【課題】アンチバイオグラムを自動で分析及び判定する方法の提供。
【解決手段】本発明は、所定の表現型に対して同種及び同表現型である複数の細菌の写真群が利用可能な場合、EUCAST又はCA−SFM判定データを用いて判断することなく、標準アンチバイオグラムの写真群を用いて写真を比較することにより、抗生物質に対する細菌耐性の表現型を認識できる、アンチバイオグラム画像を判定する方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析用微生物試料、好ましくは細菌のアンチバイオグラムを自動的に分析及び判定する方法であって、
該方法は、少なくとも1種の抗菌性化合物、好ましくは複数の抗菌性化合物、好ましくは抗生物質化合物に対する耐性又は感受性の表現型を決定し、該表現型は、複数の異なる標準微生物種中の各標準微生物種に対する複数の異なる標準表現型から選択されるものであり、
(a)好ましくは前記標準微生物種の一種に属する分析用微生物試料のアンチバイオグラムを所定の方法論で固体培地に作製する工程であって、該方法論が、
・前記固体培地に播種された前記微生物試料(好ましくは細菌試料)微生物(好ましくは細菌)の所定の濃度(CFU/mL)、
・それぞれ所定の抗菌性化合物1種(又は複数種)を所定の濃度で含有している基質であって、n個の基質それぞれについて異なる1種以上の所定の抗菌性化合物を拡散させることができる、前記固体培地に配置された基質の所定の個数n(nは複数)、所定の配列及び形状、好ましくはペレット状、及び、
・前記固体培地に播種した前記微生物試料を培養する所定の条件及び期間、好ましくは35℃〜37℃で18時間〜24時間、を含む工程、
(b)好ましくはスキャナ及びカメラを備えた写真画像キャプチャ装置を用いて、前記工程(a)で得られたアンチバイオグラムの写真画像を入手する工程、及び
(c)画像認識ソフトを使用して、前記工程(b)で得られた写真画像と、標準アンチバイオグラムの標準画像で構築されたデータベース内にある前記標準画像とを比較することで、前記分析用微生物試料、好ましくは細菌の表現型を決定する工程であって、前記データベースは、少なくともp個(pは複数)の異なる標準画像を含んでおり、該標準画像は、各標準微生物種の各標準表現型に対する、同じ微生物の異なるp個の株のアンチバイオグラム画像である工程、
を含む方法。
【請求項2】
前記工程(c)において、前記標準アンチバイオグラムは、全て前記分析用アンチバイオグラムと同じ方法論で作製され、前記標準画像及び分析用画像は、同じ写真画像キャプチャ装置を用いて、同じ条件下、特に同じ距離、同じ明るさ、同じ背景及び同じ解像度で撮影されたものであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記基質はn個(nは複数、n=5〜20、好ましくはn=6〜16)使用し、前記データベースは少なくともp個(pは複数)の異なる標準画像を含んでおり、該標準画像は、同じ微生物のp個の異なる株のアンチバイオグラム画像であって、pは5以上であり、好ましくは10以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程(c)において、前記画像認識ソフトは、基質、好ましくは抗生物質ペレットの周囲の阻止帯に相当する円の輪郭形状、並びに好ましくは抗生物質ペレットに記載された抗生物質コードの文字及び用量の数字を比較するために使用されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
分析用画像と標準画像との最小許容類似率(以下、類似率閾値という)を決定し、
前記認識ソフトが、分析用細菌試料のアンチバイオグラム画像と、前記標準細菌種の前記標準表現型に対応する標準画像との類似率が最小許容類似率閾値以上であると評価し、好ましくは該最小許容類似率閾値が少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%である場合、前記分析用試料の細菌は前記標準細菌の前記標準表現型を示していると判定することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
各標準細菌種の各標準表現型に対するp個の異なる株の異なるアンチバイオグラム標準画像間における最小類似率閾値(以下、標準類似率閾値という)、好ましくは各標準細菌種の各標準表現型に対する標準画像のうち最も異なる2画像間の最低類似率に相当する標準類似率閾値を決定し、
前記認識ソフトが、分析用細菌試料のアンチバイオグラム画像と、前記標準細菌種の前記標準表現型に対応する標準画像との類似率が標準類似率閾値以上であると評価した場合、前記分析用試料の細菌は前記標準細菌の前記標準表現型を示していると判定することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記標準表現型は、所定の抗生物質又は抗生物質の組み合わせに対する耐性又は感受性を有する分類であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記標準表現型は、複数の抗生物質及び/又は抗生物質の組み合わせに対する耐性又は感受性を有する分類であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記標準表現型は、2種の抗生物質間の相乗表現型を含み、前記2種の抗生物質は、別々に摂取した場合は標準細菌が耐性を有する一方、組み合わせて摂取した場合は標準細菌が感受性を有するような2種の抗生物質に相当することを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記標準細菌種は、少なくとも大腸菌(Escherichia coli)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)、クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)、エンテロバクター・クロアカエ(Enterobacter cloacae)、エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)及び表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)から選択されることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記アンチバイオグラムは、それぞれ以下の略号を有する抗生物質:
アモキシシリン(AMX);アモキシシリン−クラブラン酸(AMC);ゲンタマイシン(GEN);トリメトプリム−スルファメトキサゾール(コトリモキサゾール)(SXT);チカルシリン(TIC);チカルシリン−クラブラン酸(TCC);ピペラシリン−タゾバクタム(TZP);セフタジジム(CAZ);イミペネム(IMP);コリスチン(COL又はCL);セフォキシチン(FOX);バンコマイシン(VAN又はVA);テイコプラニン(TEC);クリンダマイシン(CLI又はDA);セフトリアキソン(CRO);セフェピム(FEP);リンコマイシン(L又はLIN);ニトロフラントイン(FUR又はNT);シプロフロキサシン(CIP);オフロキサシン(OFX);セフォタキシム(CTX);アミカシン(AK又はAN);トブラマイシン(TOB又はTM);セフォキシチン(FOX);アズトレオナム(ATM);エルタペネム(ERT);ホスホマイシン(FF又はFOS);ドキシサイクリン(DOI);カナマイシン(K);リンコマイシン(L又はLIN);リネゾリド(LNZ);ナリジクス酸(NA);ノルフロキサシン(NOR);メトロニダゾール(MET);メロペネム(MEM);プリスチナマイシン(PT);ペニシリンG(P);リファンピシン(RA);チゲサイクリン(TGC);テリスロマイシン(TEL);エリスロマイシン(E);及びオキサシリン(OX又はOXA)
を含むペレットを用いて形成されることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記標準表現型は、耐性を有する分類であるか、少なくとも以下の表現型:
表現型「野生型」、
表現型「低レベルペニシリナーゼ」、
「阻害剤耐性ペニシリナーゼ」といわれる表現型、
表現型「高レベルペニシリナーゼ」、
表現型「広域スペクトルβ−ラクタマーゼ(BSBL)」、
表現型「高レベルセファロスポリナーゼ」、
表現型「カルバペネマーゼ」、
表現型「イミペネム選択透過性」、
表現型「メチシリン耐性」、
表現型「フルオロキノロン類耐性」、
表現型「アミノグリコシド類耐性」、
表現型「マクロライド類耐性」、
表現型「コトリモキサゾール耐性」、
表現型「リファンピシン耐性」及び
「非定型」として知られる表現型
から選択されることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
分析した前記アンチバイオグラム及び/又は前記データベースは、下記群(a1)〜(a6):
(a1)AMX、AMC、TCC、CRO、FEP及びIMP,
(a2)AMX、AMC、TZP、CRO、FEP及びIMP,
(a3)AMC、TZP、CRO、FEP、IMP及びCOL,
(a4)AMX、GEN、LIN、FUR、VAN及びTEC,
(a5)TIC、TCC、TZP、FEP、CAZ及びIMP、並びに
(a6)FOX、CLI、SXT、GEN、VAN及びTEC
から選択された抗生物質化合物6種の濃度に対して耐性(I、R)又は感受性(S)に相当する標準細菌種の標準表現型を含み、
好ましくは、各群について、上記した順番で円状に配置されていることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項14】
分析した前記アンチバイオグラム及び/又は前記データベースは、下記群(b1)及び(b2):
(b1)CIP、OFX、TIC、COL、IMP、CTX、TCC、AK、SXT、AMC、CRO、TOB、AMX、ATM、FOX及びGEN、並びに
(b2)SXT、DA、FOX、OXA、PT、GEN、CIP、RA、TEC、VAN、LNZ、TOB、E、DO及びNT
から選択された抗生物質化合物16種に対して耐性(I/R)又は感受性(S)に相当する標準細菌種の標準表現型を含み、
好ましくは、各群について、これらのペレットは右側の第1行から上記の順番で、4化合物の4行が列状に配列された格子状に配置されていることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記工程(a)において、前記標準アンチバイオグラム及び前記分析用細菌試料のアンチバイオグラムは、ミューラー・ヒントン寒天型の固体培地で所定の方法論を用いて作製され、前記方法論は、
円状又は格子状に配置した、抗生物質濃度が10〜300μgであるディスク状のペレットをn個(n=6〜16)、
濁度がマクファーランド範囲の標準液番号で0.5となる沈殿懸濁液に相当する、前記固体培地に播種した分析用試料又は標準試料の所定の細菌濃度(CFU/mL)、及び、
所定の培養条件及び時間が37℃で18〜24時間であることを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学微生物学の分野において、抗菌剤に対する微生物の感受性試験を自動で読み取り、判定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、主に細菌学の分野において、「アンチバイオグラム」と呼ばれる、抗生物質に対する細菌の感受性試験に適用できる。他の分野でも、例えば、アンチファンゴグラム(antifungograms)と呼ばれる、抗真菌剤に対する真菌類の感受性に関する菌学的試験等の感染症研究に適用できる。
【0003】
本明細書中、「アンチバイオグラム」とは、抗生物質化合物に対する細菌の試験と、抗真菌性化合物に対する真菌類の試験とを総称したものである。
【0004】
アンチバイオグラムは、細菌の増殖がどの程度阻害されるかを評価することで、一種以上の仮定の又は公知の抗生物質に対する細菌株の感受性を試験するための実験手法である。その原理は、1種以上の抗生物質の存在下に細菌の培地を設置し、培養細菌の成長及び生存結果を観察するというものである。これを実施するためには、例えば、固体培地へ播種した細菌株の上に、抗生物質を含ませた複数枚のペレットを配置できる。そして、抗生物質がペレットから拡散することでペレット周辺に濃度勾配を形成し、細菌が抗生物質に対して感受性を有する場合は、ペレット周辺に裸眼で確認できる暗い輪状の増殖阻止帯が形成される。株又は細菌は、ディスク状の抗生物質ペレットを囲む阻止帯を構成する円の直径により、感受性、中間又は耐性という三種類に判定できる。
【0005】
これらのペレット及び抗生物質の各用量は、欧州抗菌薬感受性試験法検討委員会(EUCAST、www.eucast.org.)(非特許文献1及び2)並びに/又は仏国微生物学会アンチバイオグラム委員会(Comite de l’Antibiogramme de la Societe Francaise de Microbiologie(CA−SFM)、www.sfm−microbiologie.org)のエキスパートシステムが推奨するものに従って標準化できる。抗生物質ペレットは、既知濃度の抗生物質を含有し且つこれを拡散することができる基質材料(抗生物質の種類により、1〜500マイクログラム(μg)の抗生物質を含浸させたブロッティングペーパー等)で形成されており、i2a社(モンペリエ、フランス)、BD(ベクトン・ディッキンソン)社(米国)、バイオ・ラッド社(ハーキュリーズ、米国)、ビオメリュー社(マーシー・レトワール、フランス)といった業者から販売されている。
【0006】
寒天の固体相でアンチバイオグラムを実施するのに使用される各種抗生物質ペレットの上面には、1〜3文字のコードで標準化された略号を用いて抗生物質の名称が記載されている。
【0007】
結果は、輪(微生物株の増殖が阻害された領域)の直径を測定するだけで実質的には読み取れる。阻止円直径が大きいほど、試験した抗生物質に対する細菌の感受性が大きいことを意味し、その逆も同様である。ペレットの用量は、試験した細菌に対する当該抗生物質の最小阻止濃度(MIC)に比例した円直径が得られるように決定する。
【0008】
阻止円直径は、定規を用いて手動で、又は自動で直径を読み取れる読み取り機を用いて、ミリメートル単位で測定する。自動読み取り機は、カメラを備えたスキャナ、及び、抗生物質ペレットとこれらのディスク周辺に位置する阻止帯の検出器とを有する。
【0009】
寒天培地に拡散させることで得られたアンチバイオグラムは、EUCAST及び/又はCA−SFMのエキスパートシステムによる推奨に従って判定する。
【0010】
判定用としては、細菌及び抗生物質に応じた各種の表及びグラフが存在している。そこには高低それぞれの臨界濃度と、ペレットに含まれる抗生物質の所定濃度に対する阻止帯の大小それぞれの臨界直径とが記載されている。各抗生物質は、各細菌に対し以下を示す
・低臨界濃度より低い(大臨界直径より大きい)場合、細菌は抗生物質に対して感受性を有すると考えられる(「S」で表す)。
・高臨界濃度より高い(小臨界直径より小さい)場合、細菌は抗生物質に対して耐性を有すると考えられる(「R」で表す)。
・これら二つの濃度間である場合、細菌は中間とする(「I」で表す)。
【0011】
従って、各細菌は、各抗生物質に対してS、I又はRで特徴付けられる。通常、ある細菌がある抗生物質ファミリーに耐性を有するかどうかを知るためには、当該ファミリー内の一物質を試験してその特徴を把握すれば十分であると考えられている。そのため阻止円直径を測定すれば、抗生物質の薬効クラスを判定できる。だが、各種の抗生物質に対する耐性又は感受性の観点から見ると、抗生物質のある一ファミリーだけでは、細菌の表現型を完全には把握できない。そのため、アンチバイオグラムにおいては、異なるクラス又はファミリー又はサブファミリーの抗生物質を含む複数のペレットを配置し、各種の抗生物質ファミリー又はサブファミリーに対する耐性又は感受性表現型を得ることで、複数の抗生物質を試験している。
【0012】
アンチバイオグラムによれば、医者が適切な抗生物質又は抗生物質の組み合わせを選択して患者を効果的に治療できる。
【0013】
従って、ある細菌株の表現型を完全に把握するためには、異なる薬効クラス又はファミリー又はサブファミリーに属しており且つ最もよく見られる耐性メカニズムが知られている異なる抗生物質を試験する必要がある。以下の各ファミリー又はサブファミリーの主要な抗生物質(コードを丸カッコ内に示す)を以下に示す。
(1)β−ラクタムファミリー
(1.1)ペニシリンサブファミリー
(1.1.1)ペニシリンG群:ペニシリンG(P)
(1.1.2)ペニシリンM:オキサシリン(OX又はOXA)
(1.1.3)ペニシリンA群又はアミノペニシリン:アモキシシリン(AMX)及びアンピシリン(AM)
(1.1.4)超広域スペクトル抗菌活性を有するペニシリン
・β−ラクタマーゼ阻害剤:アモキシシリン+クラブラン酸(AMC)の組み合わせ
・カルボキシペニシリン:チカルシリン(TIC)、チカルシリン+クラブラン酸(TCC)の組み合わせ
・ウレイドペニシリン:ピペラシリン+タゾバクタム(TZP)の組み合わせ
(1.2)セファロスポリンサブファミリー
(1.2.1)第1世代セファロスポリン:セファロチン(CF)
(1.2.2)第2世代セファロスポリン:(セファマイシン系)セフォキシチン(FOX)、セフロキシム(CXM)
(1.2.3)第3世代セファロスポリン:セフトリアキソン(CRO)、セフォタキシム(CTX)、セフタジジム(CAZ)
(1.2.4)第4世代広域スペクトルセファロスポリン:セフェピム(FEP)、セフピロム(CPO)
(1.3)モノバクタムサブファミリー:アズトレオナム(ATM)
(1.4)カルバペネムサブファミリー:イミペネム(IMP又はIPM)及びエルタペネム(ERT)
(2)キノロンファミリー
(2.1)第1世代キノロン:ナリジクス酸(NA),
(2.2)第2世代フルオロキノロン系キノロン:シプロフロキサシン(CIP)、オフロキサシン(OFX)、ペフロキサシン(PEF)、レボフロキサシン(LVX)、モキシフロキサシン(MXF)、ノルフロキサシン(NOR)
(3)アミノグリコシドファミリー:ゲンタマイシン(GEN又はGM)、アミカシン(AK又はAN)、トブラマイシン(TOB又はTM)、カナマイシン(K)
(4)リファマイシンファミリー:リファンピシン(RA)
(5)グリコペプチドファミリー:バンコマイシン(VA又はVAN)及びテイコプラニン(TEC)
(6)スルファミド及びジアミノピリミジンファミリー:トリメトプリム+スルファメトキサゾールの組み合わせ=コトリモキサゾール(SXT)
(7)マクロライドファミリー:エリスロマイシン(E)、テリスロマイシン(TEL)
(8)リンコサミドファミリー:リンコマイシン(LIN)及びクリンダマイシン(CLI又はDA)
(9)シナジスチン(synergistine)又はストレプトグラミンファミリー:プリスチナマイシン(PT)
(10)テトラサイクリンファミリー:ドキシサイクリン(DO又はTE)
(11)環状ポリペプチド又はポリミキシンファミリー:コリスチン(COL又はCS)
(12)フランファミリー:ニトロフラン−フラン(FT)、ニトロフラントイン(FUR又はNT)
(13)フェニコールファミリー:クロラムフェニコール(C)
(14)フシジンファミリー:フシジン酸(FA)
(15)ホスホン系抗生物質ファミリー:ホスホマイシン(FF又はFOS)
(16)オキサゾリドンファミリー:リネゾリド(LNZ)
(17)環状リポペプチドファミリー:チゲサイクリン(TGC)
【0014】
上述したCA−SFM又はEUCAST等の公的機関が発行した、異なる細菌の臨界直径(所定濃度の抗生物質又は抗生物質の組み合わせを含むペレットの臨界濃度に相当)を特定している表又はグラフを用いて結果を判定する工程は、冗長且つ複雑であり、重大な制約をもたらす手順であった。
【0015】
当該技術の現状(非特許文献3〜8)に鑑み、アンチバイオグラムの分析を自動化する各種の方法が知られている。そのような方法としては、基質(ペレット等)内の抗生物質周辺にある拡散ディスクを含む領域の画像を、拡散領域の直径を算出するソフトを用いて入手し、テンプレートを用いた標準方法(米国臨床検査標準委員会(NCCLS)による方法)で得られた標準直径と比較する方法が挙げられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】T.Winstanley,P.Courvalin(2011),「Expert systems in clinical microbiology」,Clin.Microbiol.Rev.,Vol.24,pp.515−556,24/3/515[pii],10.1128/CMR.00061−101
【非特許文献2】R.Leclercq,R.Canton,D.F.Brown,C.G.Giske,P.Heisig,A.P.MacGowan,J.W.Mouton,P.Nordmann,A.C.Rodloff,G.M.Rossolini,C.J.Soussy,M.Steinbakk,T.G.Winstanley及びG.Kahlmeter(2013),「EUCAST Expert rules in antimicrobial susceptibility testing」,Clin.Microbiologie Infect.,19:141−160,10.1111/j.1469−0691.2011.03703.x
【非特許文献3】Journal of Clinical Microbiology,1998,pages 302−304,Volume 36,No.1,Kent Korgenski et al.
【非特許文献4】Journal of Clinical Microbiology,April 2000,pages 1688−1693,Volume 38,No.4
【非特許文献5】Clinical Microbiology and Infection,Volume 10,No.5,2004,Kolbert et al.
【非特許文献6】Journal of Clinical Microbiology,April 2005,pages 1846−1850,Volume 43,No.4,Bert et al.
【非特許文献7】Journal of Microbiological Methods,2008,Volume 75,pages 177−181
【非特許文献8】International Journal of Antimicrobial Agents,45(215)61−65,Lepage et al.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、より簡便に実施でき且つ信頼性が高い方法であって、CA−SFM又はEUCASTにより指定された基準を用いて、ペレットを囲む阻止帯の円の直径を一つずつ読み取って判定する必要のない方法を提供することを目的とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、各アンチバイオグラム画像はある表現型に特有のものであり、標準アンチバイオグラムの写真画像群を用いて写真を比較することで、EUCAST又はCA−SFMの判定データに従って判定することなく、抗生物質に対する細菌の耐性表現型を確認できることが分かった。また、ある表現型について、同じ種及び同じ表現型であるいくつかの細菌の写真群を利用できる場合、同じ表現型を表す異なる写真のアンチバイオグラム2枚の全体像間で直径又は形状が異なっていても適用できる。
【課題を解決するための手段】
【0019】
これを実施するため、本発明は、具体的には、分析用微生物試料、好ましくは細菌のアンチバイオグラムを自動的に分析及び判定する方法であって、
該方法は、少なくとも1種の抗菌性化合物、好ましくは複数の抗菌性化合物、好ましくは抗生物質化合物に対する耐性又は感受性の表現型を決定し、該表現型は、複数の異なる標準微生物種中の各標準微生物種に対する複数の異なる標準表現型から選択されるものであり、
(a)好ましくは上記標準微生物種の一種に属する分析用微生物試料のアンチバイオグラムを所定の方法論で固体培地に作製する工程であって、該方法論が、
・前記固体培地に播種された前記微生物試料(好ましくは細菌試料)微生物(好ましくは細菌)の所定の濃度(1ミリリットルあたりコロニー形成単位(CFU/mL))、
・それぞれ所定の抗菌性化合物1種(又は複数種)を所定の濃度で含有している基質であって、n個の基質それぞれについて異なる1種以上の所定の抗菌性化合物を拡散させることができる、前記固体培地に配置された基質の所定の個数n(nは複数)、所定の配列及び形状、好ましくはペレット状、及び、
・上記固体培地に播種した上記微生物試料を培養する所定の条件及び期間、好ましくは35℃〜37℃で18時間〜24時間、を含む工程、
(b)好ましくはスキャナ及びカメラを備えた写真画像キャプチャ装置を用いて、上記工程(a)で得られたアンチバイオグラムの写真画像を入手する工程、及び
(c)画像認識ソフトを使用して、上記工程(b)で得られた写真画像と、標準アンチバイオグラムの標準画像で構築されたデータベース内にある上記標準画像とを比較することで、上記分析用微生物試料、好ましくは細菌の表現型を決定する工程であって、上記データベースは、少なくともp個(pは複数、好ましくは5以上、より好ましくは10以上)の異なる標準画像を含んでおり、該標準画像は、各標準微生物種の各標準表現型に対する、同じ微生物の異なるp個の株のアンチバイオグラム画像である工程、
を含む方法を提供する。
【0020】
上記標準アンチバイオグラムは、全て上記分析用アンチバイオグラムと同じ方法論で作製されることが好ましい。
【0021】
上記標準画像及び分析用画像は、同じ写真画像キャプチャ装置を用いて、同じ条件下、特に同じ距離、同じ明るさ、同じ背景(好ましくは平坦で黒色の背景)及び同じ解像度で撮影されたものであることが好ましい。
【0022】
以下のことが理解できる。
・標準アンチバイオグラムは、各種標準表現型について少なくとも一部が異なる抗生物質化合物及び/又は抗生物質化合物濃度を有するペレットを含むことを除き、ペレットの数、配置及び形状、並びに細菌濃度及びインキュベート条件の点で、分析用アンチバイオグラムと同じ上記の方法論を用いて用意する。
・上記データベースにおける各標準細菌種の異なる標準株の標準表現型は、抗生物質ペレットを囲む増殖阻止円の直径を測定し、上記ペレット内の抗生物質濃度に対する低臨界濃度及び高臨界濃度に相当する臨界直径値を表すグラフを用いて、分析した試料細菌を以下の通り分類するという通常の標準方法により、手動で決定される。
・ペレットを囲む阻止円の直径が低臨界濃度に相当する直径より大きい場合、上記ペレットに含まれる抗生物質又は抗生物質の組み合わせに対して感受性を有する。
・ペレットを囲む阻止円の直径が高臨界濃度に相当する直径より小さい場合、上記ペレットに含まれる抗生物質又は抗生物質の組み合わせに対して耐性を有する。
・ペレットを囲む阻止円の直径が低臨界濃度と高臨界濃度とに相当する臨界直径値の間である場合、上記ペレットに含まれる抗生物質又は抗生物質の組み合わせに対して中間である。
・工程(b)で得られた写真画像を上記標準画像と比較し、工程(b)で得られた写真画像が上記標準細菌種の標準表現型に相当する上記標準画像と一致する場合又は少なくとも十分に類似している場合、分析用細菌試料の表現型は上記標準細菌種の標準表現型であると決定できる。最小類似率は、同じ標準細菌種の同じ表現型に相当する複数の標準画像を用いて実験により決定できる。
【0023】
本発明の方法では、従来のアンチバイオグラム判定方法において手動で実施していたように各円の直径を算出することなく、画像を即座に包括的に認識する。本発明者らは、当該抗生物質に関して同じ表現型に属していても阻止円の直径はある範囲内で変化し得るにもかかわらず、同じ表現型に対する複数の標準画像と組み合わせて複数の領域又は円を分析することにより、アンチバイオグラムを正確に判定できることを見出した。
【0024】
本発明に係る方法の他の利点としては、並べて配置した、株に対して通常は抵抗性がある二つの異なるペレットに含まれる2種の抗生物質間で相乗型と呼ばれる表現型を自動で検出及び検討できる点が挙げられる。相乗効果は、寒天法において、寒天上に拡散する抗生物質によって発生する。これは、2種の抗生物質間の距離が十分に小いと(グラム陰性細菌の場合、2〜2.5センチメートル(cm))、寒天の同じ部分に拡散するためであり、その特定の場所における2種の抗生物質の組み合わせによって、必要に応じて、新たな阻止帯(相乗帯)の出現を可視化することができる。
【0025】
相乗効果が見られる場合、一般には2種の抗生物質間で別の阻止帯が現れるため、2種の当該抗生物質間の相乗効果のメカニズムを可視化できる。ディスクAとディスクBとが相乗効果を示す場合、ディスクA周辺の直径が拡大してディスクBへと進行することがある。この場合、ペレットA及びB周辺の二円間において阻止帯が「シャンパンコルク」形と呼ばれる略楕円形となる。将来的には、新たな相乗効果が発見されるかもしれない。新規なものである場合、本発明の方法では、相乗画像は非類似であるとして検出される。
【0026】
上記工程(c)において、上記画像認識ソフトは、基質の周囲の阻止帯に相当する円の輪郭形状、並びに好ましくは抗生物質ペレットに記載された抗生物質コードの文字及び用量の数字を比較するために使用されることが好ましく、上記ソフトは、上記ペレットが配列される順番を認識することがより好ましい。
【0027】
このようなソフトは、葉の外形の画像を分析してその植物種を認識するのに使用されている。また、後述するXnViewという無料の画像認識ソフトも知られており、このソフトによれば、測定する特性の変化、すなわち、相乗帯として重複し得る部分の両側の各円の各直径を考慮するので、本発明に特に好適である。
【0028】
より具体的には、分析用画像と標準画像との最小許容類似率(以下、類似率閾値という)を決定し、
上記認識ソフトが、分析用細菌試料のアンチバイオグラム画像と、上記標準細菌種の上記標準表現型に対応する標準画像との類似率が最小許容類似率閾値以上であると評価し、好ましくは該最小許容類似率閾値が少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%である場合、上記分析用試料の細菌は上記標準細菌の上記標準表現型を示していると判定する。
【0029】
上記認識ソフトによれば、分析用画像と標準画像との間の最小許容類似率(以下、類似率閾値という)を決定できる。
【0030】
一実施形態において、全ての標準表現型に適用できる共通の類似率閾値を決定できる。
【0031】
別の実施形態において、各標準細菌種の各標準表現型に対するp個の異なる株の異なるアンチバイオグラム標準画像間における最小許容類似率(以下、標準類似率閾値という)、好ましくは各標準細菌種の各標準表現型に対する標準画像のうち最も異なる2画像間の最低類似率に相当する標準類似率閾値を決定し、
上記認識ソフトが、分析用細菌試料のアンチバイオグラム画像と、上記標準細菌種の上記標準表現型に対応する標準画像との類似率が標準類似率閾値以上であると評価した場合、上記分析用試料の細菌は上記標準細菌の上記標準表現型を示していると判定する。
【0032】
変更実施形態において、上記標準表現型は、所定の抗生物質又は抗生物質の組み合わせに対する耐性又は感受性を有する分類である。
【0033】
この変更実施形態において、上記アンチバイオグラムはEtestであってもよく、上記ソフトは、単一の抗生物質の濃度勾配を含む帯に示された最小阻止濃度(MIC)を読み取ることができる。なお、MICは、帯を囲む楕円の最も狭い端部における値である。従って、本発明の方法によれば、操作者が裸眼でMICを読み取る場合に多く発生する誤差を避けることができる。
【0034】
別の変更実施形態において、上記標準表現型は、好ましくはペレット状の基質において、複数の抗生物質及び/又は抗生物質の組み合わせに対する耐性又は感受性を有する分類である。
【0035】
上記標準表現型は、2種の抗生物質間の相乗表現型を含み、上記2種の抗生物質は、別々に摂取した場合は標準細菌が耐性を有する一方、組み合わせて摂取した場合は標準細菌が感受性を有するような2種の抗生物質に相当することが好ましい。このような相乗現象は、標準細菌が耐性を有する2種の抗生物質に相当する2つのペレット間の空間に阻止帯が現れることにより認識できる。
【0036】
より具体的には、上記標準細菌種は、より一般的な細菌、すなわちヒト疾患で最もよく見られる原因菌の約80%を占める細菌であって、少なくとも大腸菌(Escherichia coli)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)、クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)、エンテロバクター・クロアカエ(Enterobacter cloacae)、エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)及び表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)を含む細菌から選択される。
【0037】
より具体的には、アンチバイオグラムは、それぞれ以下の略号を有する以下の抗生物質:
アモキシシリン(AMX);アモキシシリン−クラブラン酸(AMC);ゲンタマイシン(GEN);トリメトプリム−スルファメトキサゾール(コトリモキサゾール)(SXT);チカルシリン(TIC);チカルシリン−クラブラン酸(TCC);ピペラシリン−タゾバクタム(TZP);セフタジジム(CAZ);イミペネム(IMP);コリスチン(COL又はCL);セフォキシチン(FOX);バンコマイシン(VAN又はVA);テイコプラニン(TEC);クリンダマイシン(CLI又はDA);セフトリアキソン(CRO);セフェピム(FEP);リンコマイシン(L又はLIN);ニトロフラントイン(FUR又はNT);シプロフロキサシン(CIP);オフロキサシン(OFX);セフォタキシム(CTX);アミカシン(AK又はAN);トブラマイシン(TOB又はTM);セフォキシチン(FOX);アズトレオナム(ATM);エルタペネム(ERT);ホスホマイシン(FF又はFOS);ドキシサイクリン(DOI);カナマイシン(K);リンコマイシン(L又はLIN);リネゾリド(LNZ);ナリジクス酸(NA);ノルフロキサシン(NOR);メトロニダゾール(MET);メロペネム(MEM);プリスチナマイシン(PT);ペニシリンG(P);リファンピシン(RA);チゲサイクリン(TGC);テリスロマイシン(TEL);エリスロマイシン(E);及びオキサシリン(OX又はOXA)
を含むペレットを用いて形成される。
【0038】
更により具体的には、本発明者らは、ヒト疾患の原因となる細菌であって、特に尿において検出可能であり上述の抗生物質で治療できる細菌を試験するのにより適切な標準表現型を決定した。これらの標準表現型は、耐性を有する分類であるか、少なくとも以下の表現型:
・「野生型」と呼ばれる表現型:抗生物質に対する獲得耐性を有していない細菌(但し、自然耐性を有し得る);
・「低レベルペニシリナーゼ」と呼ばれる表現型:低濃度(8mg/L未満)のペニシリンファミリー抗生物質で細菌増殖を阻害できる、ペニシリナーゼ産生細菌;
・「阻害剤耐性ペニシリナーゼ」と呼ばれる表現型:この酵素を不活化できると考えられる全てのペニシリナーゼ阻害剤に対して耐性を有する、ペニシリナーゼ産生細菌;
・「高レベルペニシリナーゼ」と呼ばれる表現型:高濃度(8mg/L超)のペニシリンファミリー抗生物質で細菌増殖を阻害できる、ペニシリナーゼ産生細菌;
・「広域スペクトルβ−ラクタマーゼ(BSBL)」と呼ばれる表現型:β−ラクタマーゼ産生細菌;
・「高レベルセファロスポリナーゼ」と呼ばれる表現型:高濃度(2mg/L超)のセファロスポリンファミリー抗生物質で細菌増殖を阻害できる、セファロスポリナーゼ産生細菌;
・「カルバペネマーゼ」と呼ばれる表現型:カルバペネマーゼ産生細菌;
・「イミペネム選択透過性」と呼ばれる表現型:イミペネムに対して中間の感受性を有する細菌;
・「メチシリン耐性」(ペニシリンM群に対する以前の名称で、現在はペニシリンM群サブファミリーに属するペニシリンであるオキサシリンに置き換えられている):β−ラクタム系に対する親和性を有していない新規な標的を獲得したメチシリン耐性(=オキサシリン耐性)細菌(ペニシリン結合タンパク2a);
・「フルオロキノロン類耐性」と呼ばれる表現型:フルオロキノロンファミリー抗生物質化合物の存在下ではその増殖が阻害されない細菌;
・「アミノグリコシド類耐性」と呼ばれる表現型:アミノグリコシドファミリー抗生物質化合物の存在下ではその増殖が阻害されない細菌;
・「マクロライド類耐性」と呼ばれる表現型:マクロライドファミリー抗生物質化合物の存在下ではその増殖が阻害されない細菌;
・「コトリモキサゾール耐性」と呼ばれる表現型:コトリモキサゾールの存在下ではその増殖が阻害されない細菌;
・「リファンピシン耐性」と呼ばれる表現型:リファンピシンの存在下ではその増殖が阻害されない細菌;及び
・「非定型」と呼ばれる表現型:未知又は決定できない表現型
から選択される少なくとも一つである。
【0039】
ペニシリナーゼは、ペニシリンを破壊(加水分解)し、細菌に対して不活化できる酵素である。
【0040】
セファロスポリナーゼは、セファロスポリン類を破壊(加水分解)し、細菌に対して不活化できる酵素である。
【0041】
カルバペネマーゼは、カルバペネム類を破壊(加水分解)し、細菌に対して不活化できる酵素である。
【0042】
β−ラクタマーゼは、ペニシリン類、セファロスポリン類及びモノバクタム類(アズトレオナム)を加水分解する一方、カルバペネム類及びセファマイシン類(セフォキシチン等)は加水分解しない酵素である。
【0043】
更により具体的には、分析した上記アンチバイオグラム及び/又は上記データベースは、下記群(a1)〜(a6):
(a1)AMX、AMC、TCC、CRO、FEP及びIMP,
(a2)AMX、AMC、TZP、CRO、FEP及びIMP,
(a3)AMC、TZP、CRO、FEP、IMP及びCOL,
(a4)AMX、GEN、LIN、FUR、VAN及びTEC,
(a5)TIC、TCC、TZP、FEP、CAZ及びIMP、並びに
(a6)FOX、CLI、SXT、GEN、VAN及びTEC
から選択された抗生物質化合物6種の濃度に対して耐性(I、R)又は感受性(S)に相当する標準細菌種の標準表現型を含み、
好ましくは、各群について、上記した順番で円状に配置されている。
【0044】
より具体的には、これらの(a1)群〜(a6)群は、上述の細菌について以下の表現型:
・表現型「野生型」、
・表現型「低レベルペニシリナーゼ」、
・表現型「阻害剤耐性ペニシリナーゼ」、
・表現型「高レベルペニシリナーゼ」、
・表現型「広域スペクトルβ−ラクタマーゼ(BSBL)」、
・表現型「高レベルセファロスポリナーゼ」、
・表現型「カルバペネマーゼ」、
・表現型「イミペネム選択透過性」、
・「メチシリン耐性」
・表現型「非定型」
に関連する。
【0045】
更により具体的には、分析した上記アンチバイオグラム及び/又は上記データベースは、下記群(b1)及び(b2):
(b1)CIP、OFX、TIC、COL、IMP、CTX、TCC、AK、SXT、AMC、CRO、TOB、AMX、ATM、FOX及びGEN、並びに
(b2)SXT、DA、FOX、OXA、PT、GEN、CIP、RA、TEC、VAN、LNZ、FF、TOB、E、DO及びNT
から選択された抗生物質化合物16種に対して耐性(I/R)又は感受性(S)に相当する標準細菌種の標準表現型を含み、
好ましくは、各群について、これらのペレットは右側の第1行から上記の順番で、4化合物の4行が列状に配列された格子状に配置されている。
【0046】
より具体的には、これらの(b1)群及び(b2)群は、上述の細菌について以下の表現型:
・表現型「野生型」、
・「高レベルペニシリナーゼ」+「フルオロキノロン類耐性」+「コトリモキサゾール耐性」+「アミノグリコシド類耐性」を組み合わせた表現型
・「セファロスポリナーゼ」+「フルオロキノロン類耐性」+「コトリモキサゾール耐性」+「アミノグリコシド類耐性」を組み合わせた表現型
・「セファロスポリナーゼ」+「コトリモキサゾール耐性」+「アミノグリコシド耐性」を組み合わせた表現型
・「メチシリン耐性」+「フルオロキノロン類耐性」+「リファンピシン耐性」+「マクロライド類耐性」+「アミノグリコシド類耐性」を組み合わせた表現型
に関連する。
【0047】
より具体的には、上記した16種のペレットに対するこれらの標準表現型は、敗血症等のいわゆる深部感染症に有用である。
【0048】
更により具体的には、上記工程(a)において、上記標準アンチバイオグラム及び上記分析用細菌試料のアンチバイオグラムは、ミューラー・ヒントン寒天型の固体培地で所定の方法論を用いて作製され、上記方法論は、
・円状又は格子状に配置した、抗生物質濃度が10〜300μgであるディスク状のペレットをn個(n=6〜16)、
・濁度がマクファーランド範囲の標準液番号で0.5となる沈殿懸濁液に相当する、上記固体培地に播種した分析用試料又は標準試料の所定の細菌濃度(CFU/mL)、及び、
・所定の培養条件及び時間が37℃で好ましくは18〜24時間である。
【0049】
更により具体的には、上記ペレットは、6個が培地上で円形に配置されているか、角皿に、好ましくは16個の正方形を含む規則的な格子状に配置されている。
【0050】
本発明に係る他の特徴及び利点は、以下の説明を読み、添付の図面を参照することで更に理解できるが、本発明はこれらに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1】
図1A及び1Bは、アンチバイオグラムにおける全体像の輪郭を認識する原理を表し、
図1Aは、
図1Bの画像における一連の阻止帯1〜6の全体的な輪郭を表す。
【
図2-1】
図2A〜2Cは、本発明の方法によって87%〜100%の類似率で同じ表現型に属すると認識されたBSBL表現型E.coli株のアンチバイオグラム写真である。
【
図2-2】
図2D及び2Eは、本発明の方法によって75%の類似率で同じ表現型に属すると認識されたセファロスポリナーゼ表現型E.coli株のアンチバイオグラム写真である。
【
図3】
図3A及び3Bは、本発明の方法によって類似率80%と認識された高レベルペニシリナーゼ産生Escherichia coli株の2枚のアンチバイオグラム写真である。
【
図4】
図4A及び4Bは、本発明の方法によって同じ表現型には属さないと認識された表現型のアンチバイオグラム写真であり、
図4Aは、全ての抗生物質に対して感受性を有するE.coli株を表し、
図4Bは、全ての抗生物質に対して耐性を有するE.coli株を表す。
【
図5】
図5は、二つのペレット(AMC及びCRO)間でBSBL表現型E.coli株に対して形成されたシャンパンコルク形(A)の相乗帯の画像である。
【
図6】
図6A及び6Bは、本発明の方法によって類似率88%と認識された同じセファロスポリナーゼ表現型K.pneumoniaeの二つの株に対して正方形に配置されたアンチバイオグラム写真である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
最近の専門部会では、より一般的な細菌種に対する数十種類の抗生物質のSIR判定が記載された100頁ほどのパンフレットが推奨されている。ある抗生物質クラスについて、生物学者であれば、ここで推奨されている一種以上の抗生物質を試験することを決定できる。実務上は、判定に重要であり且つ最終的に臨床家にとって有用な抗生物質は数種類のみである。臨床家は、例えば、患者を治療するのにペニシリンを使用するのが望ましい場合は、リスト内の分子を1種類のみ使用すると思われるためである。以下の例において、本発明者らは、ヒト疾患で最も一般的な10種の細菌の表現型を決定するのに、代表的な6種類の抗生物質を決定した。
【0053】
(1)アンチバイオグラムの作成
アンチバイオグラムは、以下の標準的な方法論を用いて作成した。
【0054】
(1.1)細菌試料の調製
試験管内滅菌水に溶かしたコロニーをから、分光光度計で正確に測定した溶液の濁度がマクファーランド範囲における0.5標準液の濁度に相当するようにして細菌懸濁液を直接作製することで、接種材料を調製した。接種材料が濃縮されているほど阻止帯の直径が小さくなり、その逆も同様であるため、上記細菌懸濁液の濃度は標準化されている。
【0055】
上記接種材料は、Escherichia coli、Klebsiella pneumoniae、Proteus mirabilis、Klebsiella oxytoca、Enterobacter cloacae、Enterobacter aerogenes、Enterococcus faecalis、Pseudomonas aeruginosa、Staphylococcus aureus及びStaphylococcus epidermidisについて、濃度が約108CFU/mL相当である。これら10種の細菌は、ヒト疾患において最も頻繁に見られるものである。
【0056】
(1.2)上記細菌試料を、直径90mmのペトリ皿又は一辺が120mmの角皿内にある固体培地に播種した。培地は、アンチバイオグラム(EUCAST)に特異的なミューラー・ヒントン寒天で構成した。理想的には、懸濁液の調製から15分以内に使用するべきである。
【0057】
播種は、過剰量の細菌懸濁液をミューラー・ヒントン寒天に添加してあふれさせることにより、寒天培地上で拡散させる方法で実施した。均質化後、皿へ過剰に接種されないように余分な液体を除去した。細菌の侵入を促す水分を少しも残さないように、寒天表面が乾燥するまで待つ必要がある。
【0058】
寒天に接種してから15分以内に、抗生物質ペレットのディスクを配置しなければならない。抗生物質含有ディスクは、自動ディスペンサーを用いて、接種された乾燥寒天の表面上にしっかりと配置した。阻止帯の重複の点から、また、抗生物質間で干渉が起こらないように、1皿あたりのディスク配置数を制限した。阻止円の直径は、測定可能であることが重要である。その後、アンチバイオグラムを37℃で18〜24時間(h)インキュベートした。
【0059】
上記抗生物質ペレットは、直径6mmの高品質吸収紙製であり、抗生物質の種類によって約1〜300マイクログラム(μg)濃度の抗生物質を含んでいた。
【0060】
以下の実施例では、i2a社(モンペリエ、フランス)、BD社(ベクトン・ディッキンソン、米国)、バイオ・ラッド社(ハーキュリーズ、米国)、ビオメリュー社(マーシー・レトワール、フランス)等の業者から販売されている、以下のコード及び用量:
AMX(アモキシシリン)25μg;AMC(アモキシシリン−クラブラン酸)20μg−10μg;GM(ゲンタマイシン)15μg;SXT(トリメトプリム−スルファメトキサゾール)1.25/23.75μg;TIC(チカルシリン)75μg;TCC(チカルシリン−クラブラン酸)75/10μg;TZP(ピペラシリン−タゾバクタム)75/10μg;CAZ(セフタジジム)30μg;IMP又はIPM(イミペネム)10μg;COL(コリスチン)50μg;FOX(セフォキシチン)30μg;VAN(バンコマイシン)30μg;TEC(テイコプラニン)30μg;CLI又はDA(クリンダマイシン)2μg;CRO(セフトリアキソン)30μg;CIP(シプロフロキサシン)5μg;OFX(オフロキサシン)5μg;CTX(セフォタキシム)5μg;AN又はAK(アミカシン)30μg;TM(トブラマイシン)10μg;FOX(セフォキシチン)30μg;ATM(アズトレオナム)30μg;ERT(エルタペネム)10μg;FF(ホスホマイシン)200μg;DO(ドキシサイクリン)30μg;K(カナマイシン)1000μg;L(リンコマイシン)15μg;LNZ(リネゾリド)10μg;AN(ナリジクス酸)30μg;NOR(ノルフロキサシン)10μg;PT(プリスチナマイシン)15μg;RA(リファンピシン)5μg;及びE(エリスロマイシン)15μgを有する抗生物質を含有している標準ディスクを使用した。
【0061】
より正確にいうと、上記寒天は以下の通り作製した。
・寒天に、懸濁液1ミリリットル(mL)を播種した。散布機を用いて、中心から端部へ表面全体に播種した。
・3〜5分乾燥させた。
・抗生物質ディスクを(端部から一定の最小距離で)皿の底に置いた。ペレット数と同じ数だけ皿を分画して(90mm皿に円形で最大6個、あるいは120mm皿に最大16個)、すなわち、等間隔で、丸皿の場合は2.5cm間隔で円形に、角皿の場合は3cm間隔の格子状に、配置した。
・37℃で18時間〜24時間インキュベートした。
【0062】
(2)アンチバイオグラムの読み取り及び判定
インキュベート期間後、抗生物質ディスクの周囲に円が現れる。これらの領域は細菌増殖に対する阻止円直径に相当する。寒天上に存在する各抗生物質について、抗生物質の濃度勾配により、上述のように増殖が阻害される領域が存在する。黒背景で写真を撮影するため阻止円は暗く見え、細菌が増殖していない領域でコントラストが最大となる。
【0063】
標準細菌の標準表現型の標準画像データベースを構成するのに好適な標準アンチバイオグラム群を作成するために、円の直径を手動で測定し、以下の表A等の表及びグラフを用いて判定した。
【0064】
(2.1)Escherichia coliを例とした場合、例えば、各種のカルバペネム類(イミペネム等)に対する感受性を見出すことが望ましい。また、以下の表には、EUCAST[1]及びCA−SFMの推奨が記載されている。
表A
【0066】
抗生物質の用量が10μgの場合、臨界直径(mm)は16mm未満且つ22mm以上となる。これは、直径が22mm以上である場合、株はイミペネムに対して感受性を有しており、直径が16mm以上22mm未満の場合、株は当該抗生物質に対して中間の感受性を有しており、直径が16mm未満の場合、株はイミペネムに対して耐性を有していることを意味する。
【0067】
(2.2)従って、以下の表Bに示した206個の標準細菌試料及び抗生物質濾紙(6種の異なる抗生物質を含む濾紙6個)を使用し、以下の表C1に示した標準表現型を有する標準細菌試料群を作製した。
表B
【0069】
表C1は、試験した標準細菌種の、抗生物質に対する耐性又は感受性に相当する種々の標準表現型を示す。
・表現型及び抗生物質コードは上述したものである。
・S:上記ペレットに含有される抗生物質又は抗生物質の組み合わせに対して感受性を有し、ペレットを囲む阻止円の直径は、低臨界濃度に相当する直径より大きい。
・R:上記ペレットに含有される抗生物質又は抗生物質の組み合わせに対して耐性を有し、ペレットを囲む阻止円の直径は、高臨界濃度に相当する直径より小さい。
・I:上記ペレットに含有される抗生物質又は抗生物質の組み合わせに対して中間であり、ペレットを囲む阻止円の直径は、低臨界濃度と高臨界濃度とに相当する臨界直径の間である。
【0070】
上記データベースは、表C1に示した抗生物質化合物6種の濃度に対する耐性(I、R)又は感受性(S)に相当する標準細菌種の標準表現型を含んでいる。
表C1
【0072】
表C1のペレットは、表中左側の列から右側の列へ、円形に時計回りとなるように、アンチバイオグラム上に順次配列した。
【0073】
BSBL表現型は、(表中、全てのBSBL細菌に対して)セフトリアキソンとクラブラン酸、すなわちCROとTCC又はAMCとの相乗表現型を含んでいる。
【0074】
(2.3)本発明者らは、上記ソフトが、より多くの抗生物質を有する角皿に作成したアンチバイオグラムをも認識できることを確認した。本発明者らは、以下に示すペレット16個のアンチバイオグラムを25個作成した。
AMX 25μg;AMC 20μg−10μg;GM又はGEN 15μg;SXT 1.25μg/23.75μg;TIC 75μg;TCC 75μg/10μg;IMP又はIPM 10μg;COL 50μg;CRO 30μg;CIP 5μg;OFX 5μg:CTX 5μg;AN又はAK 30μg;TOB 10μg;FOX 30μg;ATM 30μg;CLI又はDA 2μg、30μg、30μg;VA又はVAN 30μg;FF 200μg;E 15μg;NT又はFUR 300μg;PT 15μg;TEC 30μg;LNZ 10μg
【0075】
上記データベースは、以下の表C2に示した16種の抗生物質に対する耐性(I/R)又は感受性(S)に相当する以下の標準表現型又は標準細菌種を含む。なお、各群について、上記ペレットは、右側の第1行から下記の順番で、4化合物の4行が、列状に配列された格子状に配置した。
表C2
【0077】
16個のペレットを用いた上記標準表現型は、より具体的には、敗血症等のいわゆる「深部」感染症に有用である。
【0078】
(3)標準画像群、及びアンチバイオグラム写真画像の比較による本発明に係る判定
【0079】
(3.1)Scan(登録商標)1200Interscienceスキャナ(参照番号:437 000、INTERSCIENCE社、フランス)を備えた画像キャプチャ装置で写真を撮影した。
【0080】
撮影対象の皿を内部に配置した高解像度スキャナを用いて、標準化した方法で画像を撮影した。写真の明るさ、高さ、及びピクセルで表した画質は常に同じとした。各写真は以下の条件で撮影した。
・平坦な黒背景
・同じ照明/同じ明るさ(ソフトにより自動調整)、6組の白色光セットを黒背景の下及び/又は上に配置
・同じ画像キャプチャ装置(Scan(登録商標)1200Interscience、参照番号:437 000)
・同じ距離:10cm
・同じ目盛:1.5〜3
【0081】
これにより、解像度が少なくとも1280×960ピクセルの写真を得た。
【0082】
(3.2)本発明者らは、まず、抗生物質の数を少ない値(例えば、最も一般的な細菌に対して皿一枚で抗生物質6種)に限定して、その数を標準化しようとした。そのため、自動化できるように、多数の試料に対する本方法の再現性及び繰り返し精度を試験した。そのために、あらゆる結果の写真を撮影し、画像のデータ群を構築した。これら多数の写真をそれぞれ比較し、各表現型の写真が、別々のものでありながら相互に認識可能と思われることを偶然発見した。すなわち、アンチバイオグラムの阻止円直径を直接測定することなく、またEUCAST判定データを用いてそれらを判定する必要なしに、アンチバイオグラムの一般画像に基づいて、細菌の表現型を認識でき得ることを発見した。
【0083】
そして、本発明者らは、自動画像認識ソフトを用いてこの認識を確認しようとした。そのために、オンラインでダウンロード可能な画像認識ソフトXnView(http://www.XnView.com/fr/、Gougelet Pierre−Emmanuel、10 rue Rene de Chateaubriand、La Neuvilette 51100、ランス、フランス)を使用した。このソフトによれば、画像群のディレクトリを生成し、ソフトがインストールされたコンピュータ上で、類似した画像を的を絞って(de maniere ciblee)(異なるディレクトリ内で)、又はコンピュータの全てのストレージ内を検索できる。従って、上記ソフトは、当該検索に関係のない画像で「妨害」されることがない。
【0084】
また、上記ソフトによれば、ある写真と、比較した画像群内の写真との類似率が得られる。各写真はスキャンした葉に相当する。葉は、白背景に緑の葉(des feuilles vertes)を得るために、また葉を容易に区分けするために、スキャナでスキャンした。その後、画像の色をグレースケールに変換した。画像の二値輪郭を逐次解析によりトレースした。ピクセルが見つかった場合、ソフトはその点に最も近い境界を検索し、輪郭のみを識別する。画像の最も長い境界線のみを考慮し、2つの対象間の他の境界線及び穴はノイズとみなされる。
【0085】
図1A及び1Bに示す通り、ある表現型と別の表現型とでは阻止円の直径のみが異なっており、それによってアンチバイオグラム全体像の輪郭も変化するため、このソフトはアンチバイオグラム写真を認識するのに好適であることが分かった。従って、上記ソフトによれば、各種の阻止円直径を間接的に認識でき、アンチバイオグラム画像全体を比較することで、その表現型を判定できる。
【0086】
上記画像認識ソフトは、分析用アンチバイオグラム写真を、標準アンチバイオグラムから作成した画像群の標準画像と比較する。実務上は、類似率(類似度)が少なくとも70%である株の写真を認識することができ、もし存在していれば、試験試料に相当する標準表現型が得られる。ある画像について、上記ソフトにより、標準画像に対する類似率が少なくとも70%であると認識された場合、その細菌は標準画像と同じ表現型を有することを意味しており、従って、上記ソフトはその表現型を提供することになる。
【0087】
植物が有する葉の写真等の画像を認識して植物種を推定するために開発された他のソフト(P.Novotny,T.Suk(2013),Leaf recognition of woody species in central Europe,J.Clin.Microbiol.)でも、前もって構築しておいた既存データ群内で見つかる写真と比較してアンチバイオグラム写真を認識できる。より具体的には、このソフトによれば、葉を用いて、ある種の葉の写真を複数枚含む葉のデータ群を参照することで、木種を認識できる。これは、輪郭の内外にある要素は一切考慮に入れず、葉の輪郭のみを比較して実施できる。また、輪郭形状の類似性に基づいて木種が決定される。
【0088】
確認中に、表現型だけでなく推奨される治療法も自動で提示されるので、臨床家は全てのデータを入手できる。
【0089】
従って、例えばE.coliの場合、本発明者らは、E.coliから臨床的に単離した42株のアンチバイオグラム写真から写真ディレクトリを作成することから始めた。これら42枚の写真から、各表現型に対して数枚を選択した。各写真には、その表現型に従って新たな名称を与え、その標準表現型と類似した他の表現型を認識できるかどうかソフトに要求し、また、どの程度の類似率から、ソフトが表現型の認識を間違え始めるかを確認した。
【0090】
類似率を5%刻みで少しずつ減少させたところ、異なるアンチバイオグラムであるが同じ表現型の写真をソフトが間違いなく認識できる最小類似率は70%であることが分かった。
【0091】
図2A〜
図2Cは、画像認識ソフトXnViewが、BSBL表現型E.coli細菌の正しい表現型を以下の類似率で提示できることを示す。
・
図2A及び
図2Bの画像間で100%。
・
図2A及び
図2Cの画像間で87%。
図2D及び2Eは、画像認識ソフトXnViewが、セファロスポリナーゼ表現型E.coli細菌の正しい表現型を以下の類似率で提示できることを示す。
・
図2D及び
図2Eの画像について74%。
・
図2A及び
図2Dの画像間で65%。BSBLに対してAMXとTCCとの間で相乗帯が存在している(
図2A〜
図2C)一方、セファロスポリナーゼ表現型に対してはAMXとTCCとの間で相乗帯は存在していないので、これらは本質的に異なる。
【0092】
図3A及び3Bは、上記ソフトが、様々な表現型のE.coli試料42個の写真42枚で構成されたデータベースから、E.coli細菌について同じ「高レベルペニシリナーゼ」表現型を示すアンチバイオグラム写真を80%の類似率で認識できることを示す。
【0093】
図4A及び4Bは、2つのEscherichia coli株のアンチバイオグラム写真である。
図4Aの株(野生型株)は試験した全ての抗生物質に対して感受性を有しており、
図4Bの株は全ての抗生物質に対して耐性を有している。
【0094】
図5は、2種の抗生物質間における相乗メカニズムを示す相乗効果画像により、非常に具体的な耐性メカニズムを判定できることを示す。
【0095】
図5中、広域スペクトルβ−ラクタマーゼ(BSBL)抗生物質に対する耐性メカニズムを有するE.coli細菌は、特定の2種の抗生物質セフトリアキソン(β−ラクタムファミリーの第3世代セファロスポリン)とアモキシシリン+クラブラン酸の組み合わせ(アモキシシリンはアミノペニシリン+β−ラクタム阻害剤)との間で相乗効果を示している。このような相乗効果は、並べて配置した、株に対して通常は耐性である抗生物質の二つのペレット間で「シャンパンコルク」形の小さい阻止帯が現れるため、寒天上で直接観察できる。アンチバイオグラムの全体像を認識することで、2種の抗生物質間におけるこのような相乗メカニズムを識別できる。
【0096】
本発明者らは、上記ソフトにより、角皿で作成した、多数の抗生物質を含むアンチバイオグラムを認識できることを確認した。本発明者らは、それぞれ上記した各種の表現型を有する16ペレットのアンチバイオグラムを25個作成した。
【0097】
図6A及び6Bは、上記ソフトが、各表現型を示すK.pneumoniae試料9個の写真9枚で構成されたデータベースから、K.pneumoniae細菌について同じ表現型(「セファロスポリナーゼ+アミノグリコシド類耐性及びコトリモキサゾール耐性」)を示すアンチバイオグラム写真を88%の類似率で認識できることを示す。
【0098】
上記ソフトは、ある写真について、少なくとも70%の類似率で、同じ表現型を有する同じ標準細菌の写真として認識できる。
【0099】
この程度の類似率であれば、ディスク上に記載された色、抗生物質コードの文字及び濃度用量の数字と、円画像の輪郭とを確実に認識できる。寒天に播種された抗生物質は、それぞれ識別用の2文字又は3文字のコード(その名称の略号に相当する)を有しており、それによって、寒天上の抗生物質が正しい抗生物質であることを確認できる。また、抗生物質の用量も記載されている。例えば、イミペネムディスク上には「IPM 10μg」というコードが確認できるが、これは10μg用量のイミペネムディスクに相当する。最後に、上記ソフトは、円状又は正方形状のペレット配置が正しいことを認識する。
【0100】
画像の輪郭と形状とは、二つの異なるものである。画像の形状は画像の全体的な形状を表す一方、本明細書中における画像の輪郭とは、
図1A及び1Bに示す通り、画像の単一部分、例えば阻止帯の輪郭のみを意味する。
【0101】
同じ表現型でも直径が異なる場合があることを考慮すると(上記を参照。例えば、16〜22mmの範囲であればI、16超であればR、22mm超であればSとする場合。)、たとえ直径が少し異なる場合であっても、データベース内の同じ表現型に対する標準画像の数が多いほど、判定を変更することなくその表現型の認識度は良好となる。
【0102】
公知画像のデータ群に基づき、上記ソフトは、データ群内の画像の量に関係なく最も類似した画像を同時に高速で検索できる。また、上記ソフトは、分析レポート及び各種の推奨される治療方法(専門部会の推奨に基づくコメント等)と共に、完全な判定を自動で生成できる。
【0103】
上記ソフトの使用には、以下の工程:
(a)分析用アンチバイオグラム写真を含むファイルを選択する工程;
(b)ツールメニューから「類似のファイルを検索」を選択して、画像認識を開始する工程;
(c)分析用画像と比較するための標準画像群を含むファイルを選択する工程;及び
(d)類似率(例えば類似率73%)を特定する工程
が含まれる。
【0104】
比較は以下のようにして実施した。すなわち、各画像ペアについて類似率を算出し、この値が最小許容値である73%より大きければ、このペアは類似していて二つの画像は同じ標準表現型に属すると考えられる。
【0105】
標準画像群は、ヒトで頻繁に見られる全ての細菌、すなわち約200種の細菌、あるいは全ての細菌(ヒトにおいて少なくとも一度は単離された約2000種)にまで拡張してもよい。
【0106】
標準画像を追加すると、所定の表現型に対する判定が向上し、類似率閾値も上昇する。
【国際調査報告】