特表2017-532589(P2017-532589A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-532589(P2017-532589A)
(43)【公表日】2017年11月2日
(54)【発明の名称】光ダイオード
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/12 20060101AFI20171006BHJP
   G02B 6/122 20060101ALI20171006BHJP
   G02B 6/126 20060101ALI20171006BHJP
   B82Y 20/00 20110101ALI20171006BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20171006BHJP
【FI】
   G02B6/12 351
   G02B6/122
   G02B6/126
   G02B6/12 371
   B82Y20/00
   B82Y40/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2017-509045(P2017-509045)
(86)(22)【出願日】2015年8月18日
(85)【翻訳文提出日】2017年4月12日
(86)【国際出願番号】AT2015000111
(87)【国際公開番号】WO2016025970
(87)【国際公開日】20160225
(31)【優先権主張番号】A50573/2014
(32)【優先日】2014年8月18日
(33)【優先権主張国】AT
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】517047651
【氏名又は名称】テヒニッシュ・ウニベルズィテート・ウイーン
【氏名又は名称原語表記】Technische Universitat Wien
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100189913
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜飼 健
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(72)【発明者】
【氏名】フォルツ、ユールゲン
(72)【発明者】
【氏名】シュニーバイス、フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】サイリン、クレメント
(72)【発明者】
【氏名】ローシェンボイテル、アルノ
【テーマコード(参考)】
2H147
【Fターム(参考)】
2H147AB01
2H147AB21
2H147AC01
2H147AC07
2H147AC12
2H147BA15
2H147CA18
2H147CD02
2H147DA09
2H147EA10D
2H147EA12A
2H147EA13A
2H147EA14B
2H147EA14C
2H147EA25B
2H147EA36A
(57)【要約】
本発明は真空波長λを有する光を透過させる光導波路、好ましくは光モードを含む光ダイオード(1)に関し、前記光導波路は第一屈折率(n)を有する導波路コア(2、3、14)を含み、前記導波路コア(2、3、14)は少なくとも第二光媒体により取り囲まれており、前記第二光媒体は少なくとも第二屈折率(n)を有し、ここにおいてn>nであり、前記導波路コア(2、3、14)は少なくとも部分的に最少横寸法(7)を有し、前記最少横寸法(7)は導波路コア(2、3、14)内の光伝搬方向(5)に垂直である横断面の最少寸法(6)であって、前記横断面の最少寸法は≧λ/(5*n)≦20*λ/nであり、前記光ダイオード(1)は更に近接場に配置された少なくとも1つの吸収要素(10、11、15、16)を含み、前記近接場は導波路コア(2、3、14)内の前記真空波長λを有する光の電磁界からなり、導波路コア(2、3、14)外の5*λの法線距離(12)まで伸び、前記法線距離(12)は、光境界面を構成する前記導波路コア(2、3、14)の表面(8)から前記表面(8)と垂直の方向に沿って測られている。本発明では、前記真空波長λを有する光について、前記少なくとも1つの吸収要素(10、11、15、16)の左円偏光(σ)と右円偏光(σ+)に対する吸収作用度が著しく異なる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空波長λを有する光を透過させる光導波路、好ましくは光モードを含む光ダイオード(1)であって、前記光導波路は第一屈折率nを有する導波路コア(2、3、14)を含み、前記導波路コア(2、3、14)は少なくとも第二光媒体により取り囲まれており、前記第二光媒体は少なくとも第二屈折率nを有し、ここにおいてn>nであり、前記導波路コア(2、3、14)は少なくとも部分的に最少横寸法(7)を有し、前記最少横寸法(7)は前記導波路コア(2、3、14)中の光伝搬方向(5)に垂直である横断面の最少寸法(6)であり、前記横断面の最少寸法はλ/(5*n)以上、20*λ/n以下であり、光ダイオード(1)は更に近接場に配置された少なくとも1つの吸収要素(10、11、15、16)を含み、前記近接場が前記導波路コア(2、3、14)中の前記真空波長λを有する光の電磁界からなり、前記導波路コア(2、3、14)外の5*λの法線距離(12)まで及び、前記法線距離(12)は、光境界面を構成する前記導波路コア(2、3、14)の表面(8)から前記表面(8)と垂直の方向に沿って測られている、光ダイオード(1)であって、前記少なくとも1つの吸収要素(10、11、15、16)が前記真空波長λを有する左円偏光(σ)と右円偏光(σ+)に対して異なる吸収作用度を有することを特徴とする、光ダイオード(1)。
【請求項2】
前記吸収要素(10、11、15、16)が複数配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の光ダイオード(1)。
【請求項3】
前記導波路コア(2、3、14)が基板(9)上に配置されていることを特徴とする、請求項1〜2の何れか一項に記載の光ダイオード(1)。
【請求項4】
前記導波路コア(2)が少なくとも部分的に基板(9)に沈んでいることを特徴とする、請求項3に記載の光ダイオード(1)。
【請求項5】
前記少なくとも1つの吸収要素として少なくとも1つの、好ましくは単一電荷の量子ドット(10)が配置されていることを特徴とする、請求項1〜4の何れか一項に記載の光ダイオード(1)。
【請求項6】
前記少なくとも1つの量子ドット(10)が前記導波路コア(2)外に配置されていることを特徴とする、請求項5に記載の光ダイオード(1)。
【請求項7】
前記量子ドット(10)が複数配置され、前記量子ドット(10)が前記伝搬方向(5)と平行に配置されていることを特徴とする、請求項6に記載の光ダイオード(1)。
【請求項8】
前記量子ドット(10)が、異なる波長を有する左円偏光(σ)と右円偏光(σ+)に対して異なる吸収作用度を有する量子ドット(10)を含むことを特徴とする、請求項2に従属する請求項5〜7の何れか一項に記載の光ダイオード(1)。
【請求項9】
異なる吸収作用度が発生し、かつ結果として得られる波長間隔の幅が>1nm、好ましくは≧10nm、特に望ましくは≧30nmであることを特徴とする、請求項8に記載の光ダイオード(1)。
【請求項10】
前記導波路コア(3)中に前記吸収要素として外来原子(11)が配置されていることを特徴とする、請求項2〜9の何れか一項に記載の光ダイオード(1)。
【請求項11】
前記導波路コア(3)が半導体物質からなり、前記外来原子(11)が前記半導体物質のためのドーパント原子であることを特徴とする、請求項10に記載の光ダイオード(1)。
【請求項12】
前記光導波路(3)がケイ素からなることを特徴とする、請求項11に記載の光ダイオード(1)。
【請求項13】
前記外来原子(11)がホウ素原子であることを特徴とする、請求項12に記載の光ダイオード(1)。
【請求項14】
前記少なくとも1つの吸収要素(10、11)による前記真空波長λを有する左円偏光(σ)に対する吸収作用度と前記少なくとも1つの吸収要素(10、11)による前記真空波長λを有する右円偏光(σ+)に対する吸収作用度の間の差を増強するために、前記少なくとも1つの吸収要素(10、11)の場所において少なくとも1つの磁場の生成手段が配置されていることを特徴とする、請求項1〜13の何れか一項に記載の光ダイオード(1)。
【請求項15】
前記複数の吸収要素(10、11)の異なる部分が異なる強度を有する磁場に当たるように、前記少なくとも1つの磁場が構成されていることを特徴とする、請求項2に従属する請求項14に記載の光ダイオード(1)。
【請求項16】
前記少なくとも1つの磁場を生成するために、電気を流す少なくとも1つの導電体が配置されていることを特徴とする、請求項14又は15に記載の光ダイオード(1)。
【請求項17】
前記少なくとも1つの導電体が少なくとも部分的に基板(9)内及び/又はその上に配置されていることを特徴とする、請求項3に従属する請求項16に記載の光ダイオード(1)。
【請求項18】
前記少なくとも1つの磁場を生成するために、少なくとも1つの永久磁石が配置されていることを特徴とする、請求項14〜17の何れか一項に記載の光ダイオード(1)。
【請求項19】
前記少なくとも1つの永久磁石が少なくとも部分的に基板(9)内及び/又はその上に配置されていることを特徴とする、請求項3に従属する請求項18に記載の光ダイオード(1)。
【請求項20】
前記少なくとも1つの磁場がいわゆる「仮想磁場」であって、この仮想磁場を生成するために、真空波長λ’を有する光が光導波路を通じ、ここにおいてλ’は≠λであり、前記少なくとも1つの吸収要素(10,11)が更なる近接場に配置されており、この更なる近接場が前記導波路コア(2、3、14)中の真空波長λ’を有する光の電磁界からなり、前記導波路コア(2、3、14)外の5*λ’の法線距離(12)まで及ぶことを特徴とする、請求項14〜19の何れか一項に記載の光ダイオード(1)。
【請求項21】
前記少なくとも1つの磁場が、前記少なくとも1つの吸収要素(10、11)の位置にて変化可能で、かつ好ましくは少なくとも一時的に少なくとも1T、望ましくは少なくとも3T、特に望ましくは少なくとも5Tであることを特徴とする、請求項14〜20の何れか一項に記載の光ダイオード(1)。
【請求項22】
前記少なくとも1つの吸収要素(10、11)により左円偏光(σ)と右円偏光(σ+)が異なる強度で吸収される波長λの値を変えるために、前記少なくとも1つの吸収要素(10、11)の位置にて少なくとも1つの電場の生成手段が配置されていることを特徴とする、請求項1〜21の何れか一項に記載の光ダイオード(1)。
【請求項23】
前記少なくとも1つの電場が少なくとも1つの吸収要素の位置(10、11)にて変化可能であることを特徴とする、請求項22に記載の光ダイオード(1)。
【請求項24】
少なくとも1つのプラズモン・ナノ構造(16)が吸収要素として配置されており、このプラズモン・ナノ構造(16)の最大寸法が光導波路を通じる光が有する前記真空波長λより小さいことを特徴とする、請求項1〜23の何れか一項に記載の光ダイオード(1)。
【請求項25】
前記少なくとも1つのプラズモン・ナノ構造(16)が金属、好ましくは金から製造されていることを特徴とする、請求項24に記載の光ダイオード(1)。
【請求項26】
前記少なくとも1つのプラズモン・ナノ構造(16)が少なくとも部分的にらせん状であることを特徴とする、請求項24又は26に記載の光ダイオード(1)。
【請求項27】
前記真空波長λを有する光に対して所定の前記伝搬方向(5)で実質的に透明に構成されており、かつ、前記伝搬方向(5)と反対の方向で前記真空波長λを有する光の光学的性能に対して少なくとも50%、特に少なくとも75%、望ましくは少なくとも90%、特に望ましくは少なくとも99%を吸収するように構成されていることを特徴とする、請求項1〜26の何れか一項に記載の光ダイオード(1)。
【請求項28】
請求項1〜27の何れか一項に記載の光ダイオード(1)を含む集積光回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真空波長λを有する光を透過させる光導波路、好ましくは光モードを含む光ダイオードに関し、当該光導波路は第一屈折率nを有する導波路コアを含み、当該導波路コアは少なくとも第二光媒体により取り囲まれており、当該第二光媒体は少なくとも第二屈折率nを有し、ここにおいてn>nであり、当該導波路コアは少なくとも部分的に最少横寸法を有し、当該最少横寸法は導波路コア中の光伝搬方向に垂直である横断面の最少寸法であり、当該横断面の最少寸法はλ/(5*n)以上、20*λ/n以下であり、光ダイオードは更に近接場に配置された少なくとも1つの吸収要素を含み、当該近接場が導波路コア中の真空波長λを有する光の電磁界からなり、導波路コア外の5*λの法線距離まで及び、当該法線距離は、光境界面を構成する導波路コアの表面からこの表面と垂直の方向に沿って測られている。
【背景技術】
【0002】
チップに組み込まれた導波路構造や光ファイバー等の光導波路内における光信号の伝播に関しては、望ましくない信号反射が頻繁に発生してしまう。このため、信号が当初の伝搬方向と反対方向に伝播し、信号源に干渉したり及び/又は干渉信号としてノイズを発生したりする恐れがある。その上、この無制御に反射された信号は各種光要素を脅かす。この光により特に干渉されるのは信号源として頻繁に採用されるレーザー及びレーザーダイオードであって、波長変動及び/又は性能変動を伴う不安定な運用に繋がり、最悪の場合はレーザーの破壊に繋がる。従って、多くの光学的用途のために、光を単一方向に伝播し、常に発生する反射を除去し、望ましい方向に逆らって伝播させない要素を実現することが必要である。この要素は「光ダイオード」、時には「方向性光導波路」、又は「光絶縁装置」と呼ばれている。
【0003】
光ダイオードを実施するために、いわゆる「ファラデー絶縁装置」を採用することが従来技術から既知である。このシステムでは、強力な磁場を配置することによって透過される偏光を逆転し、つまりファラデー効果を利用する。この偏光は、偏光フィルターと共に反射された信号を吸収したり進路を曲げたりするために利用可能である。
【0004】
しかし、実用的用途の場合、このシステムにはいくつか不利点がある。それは、磁場が必要となるため、複数のファラデー絶縁装置が相互に干渉し、及び/又は付近にある要素に干渉するだけでなく、特に集積しにくさが挙げられる。ファイバー集積の解決策は幾つかが既知であるものの、長さがいまだに数センチほどである。集積光回路(特にチップ)に対して集積し、又は小型化された光ダイオードは知られていない。
【0005】
それに加えて、ファラデー絶縁装置に基づいた解決策は強度の波長依存性又は非常に狭い帯域幅を示している。つまり、所定の波長と僅かに異なる波長を有する光の望ましくない反射はもはや確実に除去することができない。
【0006】
最後に、ファラデー絶縁装置に基づいた解決策はコストが高い。
【0007】
導波路と導波路上に配置された磁気層を含む光絶縁装置はDE2333272A1に公開されている。ここにおいて、磁気層は導波路の面と平行、かつ導波路内の光の伝送方向と垂直に磁化されている。光の磁場と磁気層の間の相互作用のため、横方向強度分布の磁気層内への、伝播方向に依存する侵入深度が発生する。その結果、磁気層の光吸収作用が伝播方向によって変化する。
【発明の概要】
【0008】
前述を鑑みると、本発明の課題は、前述の不利点を回避する光ダイオードを提供することである。特に、本発明の課題はチップに集積可能又は小型化可能な、光ファイバー及び/又は集積導波路と直接に組み合わせ可能な解決策を製造することである。
【0009】
本発明の核心は、1つの方向に伝播し真空波長λを有する光に対して透明であるものの、その反対方向に伝播し真空波長λを有する光に対して吸収作用が高く、好ましくは調節可能である光ダイオードを、いわゆる光の「スピン軌道結合」(以下に「SOKL」と呼ぶ)の効果を利用することによって実現することである。この効果は科学文献に十分に裏付けされている(例えばKonstantin Y. Bliokhら、「Spin−Orbit interactions of light in isotropic media」、「The Angular Momentum of Light」に記載(編集:David L. Andrews及びMohamed Babiker、Cambridge University Press、2012;オンラインISBN:9780511795213)、又はKonstantin Y. Bliokhら、「Extraordinary Momentum and spin in evanescent waves」、Nature Communications 5、商品番号:3300、doi:10.1038/ncomms4300(2014)を参照)。
【0010】
SOKLは、光伝播の際に空間的に非常に限定されている光導波路内に発生するため、SOKLに基づいた解決策は必ず集積(特にチップに配置された光伝導路の集積)に最適な小型になる。スピン軌道結合光には、局所円偏光状態(つまり光子スピン)と、光の伝搬方向(軌道回転インパルス)及び/又は光照射野におけるビーム断面の位置との間に相互関係がある。これに関し、光子スピンは、前述の空間的に非常に限定される光導波路を含む本発明の光ダイオードでは、導波路内の光伝搬方向と常に垂直に配向している。詳しくいえば、電界(又は磁界)ベクトルが局所円偏光に応じて回転する面の法線ベクトルは、導波路内の光伝搬方向と常に垂直に配向している。
【0011】
光は導波路内で第一屈折率nを有する導波路コア又は光媒体によって透過される。導波路コアは少なくとも1つの第二光媒体によって取り囲まれており、又はその光境界面で導波路コアのカバーになる少なくとも1つの第二光媒体に隣接している。導波路を通じる光は、導波路コアの範囲に空間的に限定されず、(エバネセント波として)少なくとも1つの第二光媒体内へ進出する。少なくとも1つの第二光媒体は、少なくとも1つの第二屈折率nを有し、ここにおいてx>nである。差異が明確なほど、SOKL効果が明確である。つまり、本発明の光ダイオードは基本的に特定の材料に限定されていない。また特に、本発明の光ダイオードは光導波路又は導波路コア用の周知の材料(例えばSi、GaAs、ガラス/石英ガラス、又はSiO)によって実現することができる。
【0012】
SOKL効果のため、光照射野は、例えば数箇所において右円偏光であって、光が反対方向に伝播する場合は同場所において左円偏光状態が発生する。この効果は、その短い横方向寸法のため案内している光をかなり横方向に縮める光導波路又は導波路コアの近接場で、見られる。ここで「横方向に」とは、光導波路内の光伝搬方向と交差して伸びることを意味する。SOKL効果の最良結果は、導波路コアの寸法を、導波路コアの最少横寸法がλ/(5*n)以上、20*λ/n以下であるように設定することによって得られる。その下限では、導波路又は導波路コアの光透過率が十分に高く保たれる。その上限では、SOKL効果が十分に強度で集光性能が良好に保たれるゆえに、透過される光の照射野が近接場内の吸収要素と良好に結合する。横方向寸法がより大きい導波路コアの場合、透過される光モードの横方向拡張がより大きいため、その結合はかなり弱い。なお、20*λ/nの閾値のため、単一の光モード又は基本モードの他にも導波路を通じることがあるにも関わらず、本発明による光ダイオードの一般的な機能性の妨げにはならない。言い換えれば、本発明の光ダイオードは基本的にマルチモード状態で作動することができる。
【0013】
光導波路の横断面の具体的な形態はどのように構成しても良く、例えば角(特に直角)又は丸(特に円又は楕円)形状であっても良い。
【0014】
「近接場内」とは、導波路コアにおいて、光学的により濃い媒質(導波路コア)を光学的により薄い媒質(少なくとも1つの第二媒質)から(横方向に)分離する光境界面を構成する表面の範囲内を意味する。詳しくいえば、本発明において「近接場」とは、導波路コア中及び導波路コア外における真空波長λを有する光に対して、5*λの法線距離までの光の電磁界を意味し、当該法線距離は、導波路コアの表面から、かつ、導波路コアの表面と垂直の方向に沿って測られている。
【0015】
続いて、偏光依存性の吸収要素を近接場内に位置した場合、各吸収要素の位置における光が左円偏光か右円偏光かは、導波路内の運動方向次第である。順方向の吸収作用と逆方向の吸収作用が相違し、光ダイオードが得られる。この「近接場」では、導波路コア中も、所定法線距離までの導波路コア外も、真空波長λを有する光度が十分に高く確保され、後者における光がエバネセント波として存在し、その光度が法線距離と共に指数関数的に減少する。その結果、真空波長λを有する光と吸収要素の間の結合が十分に強く確保される。従って、各吸収要素の位置における偏光によって、導波路を通過した真空波長λを有する総光量の光学的性能を、その吸収体特性の値に減少する吸収作用が発生する。ここで「光学的性能」とは、横断面より上から伝播する光の照射野における光度の積分を意味する。特定の場所に配置された吸収要素と光照射野の相互作用又は結合には、その場所の光照射野における光度等が決定的である。
【0016】
吸収要素の種類を選択し、その数を変化させることによって、総吸収作用度及び光ダイオードの帯域幅(つまり、ダイオードの機能性が確保される波長間隔)を設定することができる。吸収要素の位置に関しては、吸収要素が有利に導波路内に伝播している光又は光モードがなるべく完全に円偏光された範囲内に配置するように位置される。
【0017】
なお、局所円偏光の発生を以下により詳しく説明する。横方向に偏光されたモードは通常導波路内で搬送される。光ダイオードの導波路コアの横寸法が短いため、光は通常偏光の垂直要素と縦要素を有するハイブリッド偏光状態で導波路又は導波路コア中で透過される。本発明の光ダイオードの機能には準直線偏光状態の光照射野が関連し、この準直線偏光状態は、一般的な光ファイバー網で通常に使用される直線偏光された光が横方向に短い導波路コアを有する光導波路を透過する場合に、自動的に発生する。従って、本発明の光ダイオードは準直線偏光された真空波長λを有する光の透過に適したように構成されている導波路を含む。
【0018】
「準直線偏光」とは、基本的に伝搬方向に垂直である主要偏光面があって、その主要偏光面において電場のベクトルの二つの要素が横方向に振動することを意味する。また、電場の横要素ではない縦要素があるが、それが各垂直要素に対して90°位相がずれているため、光境界面の範囲内に円偏光が発生する。主要偏光面の縦要素が最大であるため、最適な吸収作用のためには、各吸収要素をなるべく主要偏光面に配置しなければならない。
【0019】
従って、本発明によると、真空波長λを有する光を透過させる光導波路、好ましくは光モードを含む光ダイオードに関し、当該光導波路は第一屈折率nを有する導波路コアを含み、当該導波路コアは少なくとも第二光媒体により取り囲まれており、当該第二光媒体は少なくとも第二屈折率nを有し、ここにおいてn>nである光ダイオードにおいて、当該導波路コアが少なくとも部分的に最少横寸法を有し、当該最少横寸法が導波路コア中の光伝搬方向に垂直である横断面の最少寸法であり、当該横断面の最少寸法がλ/(5*n)以上、20*λ/n以下であり、光ダイオードは更に近接場に配置された少なくとも1つの吸収要素を含み、当該近接場が導波路コア中の真空波長λを有する光の電磁界からなり、導波路コア外の5*λの法線距離まで及び、当該法線距離は、光境界面を構成する導波路コアの表面からこの表面と垂直の方向に沿って測られており、左円偏光の場合と右円偏光の場合、当該真空波長λを有する光のための少なくとも1つの吸収要素は吸収作用強度について相違する。
【0020】
従って、前述のような構成の装置は光ダイオードとして採用することが可能である。なお、本発明の「近接場」の定義による少なくとも1つの吸収要素は必ず光導波路外に配置する必要はなく、光導波路内に配置しても良い。
【0021】
「真空波長λを有する光」とは、通常、光が導波路コア中及び/又は少なくとも1つの吸収要素にて、導波路コアの屈折率の大きさ又は少なくとも1つの吸収要素が含まれている少なくとも1つの第二光媒体の大きさに応じて、λと異なるより短い波長λを有することを意味する。
【0022】
通常、単一の吸収要素は光又は導波路内の光モードの光学的性能を少ししか弱くすることができず、吸収作用が不完全である。それゆえに、複数の吸収要素を配置することによって吸収作用度を全ダイオードに渡って変化させることができる。吸収作用度の変化は、単一の吸収要素の吸収作用度に応じて、全ダイオードに渡って段階的(単一の吸収要素による吸収作用が比較的強い場合)からほぼ継続的(単一の吸収要素による吸収作用が非常に弱い場合)に発生し得る。それに応じて、本発明の光ダイオードによる好ましい実施形態では、複数の吸収要素が配置されている。
【0023】
前述の光導波路の横寸法のため、本発明の光ダイオードは、チップ上の集積光回路の一部として、特にナノ光学又はナノフォトニクスの分野における用途に最適である。特にこの集積光回路の構造に関して、光導波路コアは基板(例えばフォトニックSi−チップ又はSiO−基板)上に光伝導路として構成可能である。この光伝導路は、一般的なリソグラフィー法及び周知の材料(例えばガラス、石英ガラス、Si、GaAs等)を使用して製造することができる。それに応じて、本発明の光ダイオードによる好ましい実施形態では、光導波路は基板上に配置されている。
【0024】
前述の如く、導波路コア及び基板の屈折率の差異はSOKL効果に、つまり光ダイオードの性能に影響を与えている。それを真空波長λを有する光の特定の組み合わせ、及び特定の種類の1つの吸収要素の場合について説明するために、導波路コア及び基板のための材料を以下にまとめる。Aは前方に走る(つまり光ダイオードが順方向に作動される)モードに対する吸収要素の吸収作用係数を示す。Aは後方に走る(つまり光ダイオードが反対方向又は制限方向に作動される)モードに対する吸収要素の吸収作用係数を示す。「吸収作用係数」は一般的に、進入する光の照射野における光学的性能に対する吸収要素により分散又は吸収される光の光学的性能の割合で定義されている。この吸収作用度の割合(つまりA/A)は、吸収要素の数及びその吸収要素と光又は光モードの具体的な結合に関係なく計算することができる。その割合結果は以下の通りである:
a) n/n=1.53/1.45(SiO/SiOだが、異なってドープされている):A/A=3.8
b) n/n=1.45(ガラス/空気):A/A=39
c) n/n=3/1.45(Si/SiO):A/A=227
d) n/n=3.5/1.45(GaAs/SiO):A/A=452
e) n/n=1.45/1.38(SiO/フッ化マグネシウム):A/A=3.5
f) n/n=1.45/1.34(SiO/サイトップ(Cytop)):A/A=5
【0025】
一般的なリソグラフィー製造法は通常フォトレジストの光照射工程に次ぐエッチング工程を含む。このように、基板にも少なくとも部分的に沈んだ導波路構造又は導波路コアを形成することができる。これにより、一方では、導波路コアと基板間の屈折率差異は導波路コアの広範囲に渡って利用可能となり、他方では、導波路コアを望ましい深さまで沈ませることによって吸収要素を導波路コアの高さ方向に対し望ましい高さに配置可能となり、当該高さ方向が基板表面に対して垂直である。そのために、当該吸収要素は基板上で導波路コアに隣接して配置するだけで良い。そのため、本発明の光ダイオードによる好ましい実施形態では、導波路コアが少なくとも部分的に基板に沈んでいる。「部分的」は、導波路コアの高さ方向にも導波路コアの縦方向又は導波路コア中の光伝搬方向にも関し得る。
【0026】
吸収要素として異なる手段が考えられる。例えば吸収要素として、いわゆる「量子ドット」を例えば分子線エピタキシーによって近接場に配置しても良い。この量子ドットは公知である(例えば、InAs/GaAs−量子ドットを対象にする研究を解説するJan Dreiserら、「Optical investigations of quantum dot spin dynamics as a function of external electric and magnetic fields」、Physical Review B77、075317(2008)を参照)。単一電荷の量子ドットが右円偏光と左円偏光に対して異なる共鳴周波数を有するため、単一電荷の量子ドットが吸収要素として特に適している。従って、例えば特定の波長の左円偏光がその量子ドットにより共鳴吸収される場合、同様の量子ドットは通常同様の波長の右円偏光を共鳴吸収しない。
【0027】
導波路内又は導波路コア中を通じる偏光が近接場内の一場所において光の伝播方向に依るため、吸収要素としてこの量子ドットを採用する際に方向依存性吸収作用が発生する。つまり光ダイオードが生成される。従って、本発明の光ダイオードによる好ましい実施形態では、少なくとも1つの吸収要素として少なくとも1つの、好ましくは単一電荷の量子ドットを配置する。
【0028】
光ダイオードの簡単な製造を実現するために、本発明の光ダイオードによる好ましい実施形態では、当該少なくとも1つの量子ドットを導波路コア外に配置する。
【0029】
光ダイオードの吸収作用度を完全に設定又は決定するために、本発明の光ダイオードによる好ましい実施形態では、複数の量子ドットを配置し、量子ドットが伝搬方向と平行に配置されている。
【0030】
光ダイオードの帯域幅を広げるために、本発明の光ダイオードによる好ましい実施形態では、当該複数の量子ドットを含み、この量子ドットは、異なる波長を有する左円偏光と右円偏光に対して異なる吸収作用度を有する。その点で異なる量子ドット、又はそれに応じて異なる共鳴周波数を有する量子ドットは、例えばその化学構造及び/又は幾何学的図形及び/又は作用する機械的張力を精密に変化させることによって生成することかできる。また、以下に詳しく説明するように、局所の電場及び/又は磁場を生成することによって選択量子ドット又は量子ドットの選択集団の共鳴周波数を精密に変化させることが可能である。
【0031】
とりわけ、本発明の光ダイオードによる特に好ましい実施形態では、異なる吸収作用度が発生し、かつ結果として得られる波長間隔の幅が1nmより大きく、好ましくは10nm以上、特に望ましくは30nm以上の幅を有する。各間隔又はダイオードの帯域幅は、その特定用途に適応させることが可能であるが、狭い帯域幅、例えば凡そ0.5nm、又はかなり広い帯域幅、例えば凡そ50nmも同様に実現することが可能である。
【0032】
それに加えて又はその代わりに、吸収要素としては、特定波長の左円偏光及び右円偏光を異なる強度で共鳴吸収する外来原子を採用しても良い。この外来原子を導波路コア中に集積させることによって、この吸収要素がとりあえず近接場に存在することを自動的に確保する。従って、本発明の光ダイオードによる好ましい実施形態では、外来原子が吸収要素として導波路コア中に存在する。通常、これらは導波路コア中で原子不純場所を生成する。
【0033】
半導体物質からなる導波路コアの製造方法が特に簡単である。その際、ドーパント原子を外来原子として採用しても良い。その結果、原則として製造の際に異なるドープ半導体の従来製造方法が採用可能である。従って、本発明の光ダイオードによる特に好ましい実施形態では、導波路コアが半導体物質からなり、外来原子が半導体物質のためのドーパント原子である。
【0034】
とりわけ、導波路コアの半導体物質はケイ素であっても良い。その際、外来原子が好ましくはホウ素原子であっても良い。
【0035】
前記例の量子ドット及び外来原子における右円偏光と左円偏光の間の吸収作用度に対する差は、その吸収要素の異なる電子エネルギー準位の励磁に基づいている。前述の如く、その吸収要素では、吸収要素を磁場に当てることによって右円偏光と左円偏光の間の吸収作用度に対する差を変化させることが可能である。それは従来技術から既知である。磁場に当てられる原子の例として、Solomon Zwerdlingら、「Zeeman Effect of Impurity Levels in Silicon」、Physical Review 118、975(1960)が挙げられる。磁場の量子ドットの例として、既に挙げられたJan Dreiserら、「Optical investigations of quantum dot spin dynamics as a function of external electric and magnetic fields 」、Physical Review B77、075317(2008)が挙げられる。従って、本発明の光ダイオードによる好ましい実施形態では、少なくとも1つの吸収要素による真空波長λを有する左円偏光に対する吸収作用度と少なくとも1つの吸収要素による真空波長λを有する右円偏光に対する吸収作用度の間の差を増強するために、少なくとも1つの吸収要素の場所において少なくとも1つの磁場の生成手段が配置されている。
【0036】
偏光依存性の異なる吸収作用度の変化は、基本的に印加磁場が、各左円偏光及び右円偏光に対する共鳴吸収作用のための共鳴周波数の分割を増大することに由来する。このように、異なる磁場を印加することによって光ダイオードの帯域幅を大きくすることができる。従って、本発明の光ダイオードによる好ましい実施形態では、当該複数の吸収要素の異なる部分が異なる強度を有する磁場に当たるように、当該少なくとも1つの磁場が構成されている。それは、単に吸収要素を磁場生成手段から異なる距離で配置することで実現可能である。その代りに、空間的に分布し異なる磁場強度を発生する手段を配置しても良い。
【0037】
その少なくとも1つの磁場は、例えば電気を使用することによって簡単に発生することができる。従って、本発明の光ダイオードによる好ましい実施形態では、少なくとも1つの磁場を生成するために電気を運搬する少なくとも1つの導電体を配置する。
【0038】
当該少なくとも1つの導電体は、特に基板上及び/又は基板内に簡単かつ周知な方法で集積することができる。例えば、異なる基板上又は基板内で銅線を製造することが既知である。また、基板内の配置は部分的に実行せざるを得なく、その結果、当該少なくとも1つの導電体の単なる一部が基板内に配置され、その他の一部が基板上に配置される。また、当該少なくとも1つの導電体は、導波路コアと同様に、基板に部分的にしか沈められない。従って、本発明の光ダイオードによる特に好ましい実施形態では、当該少なくとも1つの導電体が少なくとも部分的に基板上及び/又は基板内に配置されている。
【0039】
実質的に周知であり、少なくとも1つの磁場に対する生成の代わりに又はそれに加えて採用し得る更なる手段は永久磁石である。従って、本発明の光ダイオードによる好ましい実施形態では、当該少なくとも1つの磁場を生成するために少なくとも1つの永久磁石が配置される。
【0040】
導電体と同様に、当該少なくとも1つの永久磁石を基板上及び/又は基板内に配置することが可能である。基板内の配置は部分的に実行せざるを得なく、その結果、当該少なくとも1つの永久磁石の単なる一部が基板内に配置され、その他の一部が基板上に配置される。また、当該少なくとも1つの永久磁石は、導波路コアと同様に、基板に部分的にしか沈められない。従って、本発明の光ダイオードによる特に好ましい実施形態では、当該少なくとも1つの永久磁石が少なくとも部分的に基板上及び/又は基板内に配置される。
【0041】
吸収要素として特に外来原子を採用する場合に(ただし、例えば吸収要素として量子ドットの場合も同様に)、いわゆる「仮想磁場」を利用することが可能であって、この仮想磁場は基本的に従来技術から既知である(例えばClaude Cohen−Tannoudji及びJacques Dupont−Roc、「Experimental Study of Zeeman Light Shifts in Weak Magnetic Fields」、Physical Review A5、968(1972)を参照)。ここで、非共鳴光線だと典型的な磁場の効果とまったく同様にエネルギー準位が推移し得る。非共鳴光線の強度又は光度及びその偏光状態を選択することによって、仮想磁場の強度を変化させ、又は選択することができる。従って、光ダイオードの導波路は、真空波長λを有する望ましい光を透過するためだけではなくて、仮想磁場生成のための非共鳴光を透過するためにも使用することができるという見事な解決策がもたらされる。その非共鳴光は真空波長λ’を有し、ここにおいてλ’はλではない。基本的に、当該吸収要素が、導波路コア中の真空波長λを有する光の電磁界からなり導波路コア外の5*λの法線距離まで及ぶ近接場に存在することを確保するだけで十分である。なお、当然その後、例えば干渉フィルターによって、非共鳴光は再びろ過して取り除くことが可能である。また、仮想磁場又は仮想磁場を生成するための非共鳴光は、前述の少なくとも1つの磁場の生成手段の代わりに又はそれに加えて採用しても良い。そのため、本発明の光ダイオードによる好ましい実施形態では、当該少なくとも1つの磁場がいわゆる「仮想磁場」であって、この仮想磁場を生成するために、真空波長λ’を有する光が光導波路を通じ、ここにおいてλ’は≠λであり、少なくとも1つの吸収要素が更なる近接場に配置されており、この更なる近接場が導波路コア中の真空波長λ’を有する光の電磁界からなり、導波路コア外の5*λ’の法線距離まで及ぶ。
【0042】
用途によって当該少なくとも1つの磁場の異なる強度を実現することができる。これはとりわけ動的に実現することができる。つまり、光ダイオードの透過方向と制限方向の異なる透過および光ダイオードの帯域幅は動的に変化させることが可能である。それに応じて、本発明の光ダイオードによる好ましい実施形態では、当該少なくとも1つの磁場が少なくとも1つの吸収要素の位置にて変化可能であって、好ましくは少なくとも一時的に少なくとも1T、望ましくは少なくとも3T、特に望ましくは少なくとも5Tである。当然それと同様に、用途によって少なくとも一時的に著しくより弱い磁場強度(例えば0.1T以上、0.5T以下)、又は著しくより強い磁場強度(例えば少なくとも7T又は少なくとも10T)を当該少なくとも1つの吸収要素の位置に生成しても良い。
【0043】
一定磁場の場合、強い磁場強度は周知の永久磁石を使用することによって、例えばNdFeB磁石に基づいて、簡単に生成することができるが、各吸収要素と永久磁石の間の距離は相応に小さく確保すべきである。時間的に変化する磁場の場合、少なくとも1つの導電体における相応に強い電流によって少なくとも短期間に強い磁場が得られる。この際にも、当該少なくとも1つの導電体と各吸収要素の間の距離は決定的な役割を果たす。
【0044】
強い仮想磁場も生成可能であることを以下の一般例を参照しながら説明する。透過された880nmの真空波長λ’及び1mWの光学的性能を有する準直線偏光の光照射野は、原子の場所にて、直径が500nmの光ファイバーから100nm離れた真空中のセシウム原子に対して凡そ2mTの仮想磁場を生成する。1Wの光学的性能に対して、仮想磁場は、計算すると、凡そ2Tである。また、真空波長λ’を有する光の光度を変化させることによって仮想磁場の強度を動的に設定することができる。
【0045】
続いて、前述の例による吸収要素としての量子ドット及び外来原子において、それらの作用点を周知のシュタルク効果によって変化させることが可能である(例えばF. Bassaniら、「Electronic impurity levels in semiconductors」、第8.2章、Reports on Progress in Physics 37、1099(1974)又はE. Anastassakis、「Stark Effect on Impurity Levels in Diamond」、Physical Review 186、760(1969)を参照)。言い換えれば、電場を印加することによって、特定偏光がどの波長λで吸収されるべきか(つまり、この波長λを有する異なる円偏光に対する異なる吸収作用度)が設定可能である。また、このように、異なる電場を複数の吸収要素の異なる部分に印加することによって、光ダイオードの帯域幅が設定可能である。それに応じて、本発明の光ダイオードによる好ましい実施形態では、当該少なくとも1つの吸収要素により左円偏光と右円偏光が異なる強度で吸収される波長λの値を変えるために、少なくとも1つの吸収要素の位置にて少なくとも1つの電場の生成手段が配置されている。
【0046】
電場の適切な生成手段は、定電圧又は可変電圧が印加される、好ましくは金属からなる周知の電極である。基板が採用された場合、電極は基板上及び/又は基板内に配置されても良い。この電極の製造は周知の方法で実行しても良いが、これに関連して異なる基板上に銅線を製造する周知の方法が参照される。
【0047】
電場を変化させることによって、光ダイオードがどの真空波長λを有する光で最適に作用するかが動的に設定できる。同様に、光ダイオードの帯域幅が動的に変化可能である。それに応じて、本発明の光ダイオードによる特に好ましい実施形態では、当該少なくとも1つの電場が少なくとも1つの吸収要素の位置に変化可能である。
【0048】
本発明の光ダイオードに適切な吸収要素の更なる解決策は、基本的に従来技術から既知であるプラズモン・ナノ構造である(例えば、Mark I. Stockman、「Nanoplasmonics:past,present,and glimpse into future」、Optics Express 19、22029(2011)、又はPaolo Biagioniら、「Nanoantennas for visible and infrared radiation」、Reports on Progress in Physics 75、024402(2012)、又はJustyna K. Ganseiら、「Gold Helix Optic Metamaterial as Broadband Circular Polarizer」、Science 325、1513(2009)、又はDo−Hoon Kwonら、「Optical planar chiral metamaterial designs for strong circular dichroism and polarization rotation」、Optics Express 16、11802(2008)を参照)。それは、寸法を有する導電性ナノ構造であって、その寸法は、各プラズモン・ナノ構造の全ての寸法が、導波路を通じる光が有する真空波長λより著しく小さくなるように選択すべきである。このプラズモン・ナノ構造は、前述の吸収要素の代わりに又はそれに加えて吸収要素として採用しても良い。それに応じて、本発明の光ダイオードによる好ましい実施形態では、少なくとも1つのプラズモン・ナノ構造が吸収要素として配置され、その寸法が光導波路を通じる光が有する真空波長λより小さい。
【0049】
このプラズモン・ナノ構造は、特に基板上に、周知の方法、例えばリソグラフィー法を使用することによって製造することができる。望ましくは、このプラズモン・ナノ構造は金属からなる。それに応じて、本発明の光ダイオードによる好ましい実施形態では、金属からなる当該少なくとも1つのプラズモン・ナノ構造が、望ましくは金からなる。
【0050】
左円偏光と右円偏光の間の吸収作用度の差をプラズモン・ナノ構造によって大きくするために、本発明の光ダイオードによる好ましい実施形態では、当該少なくとも1つのプラズモン・ナノ構造が少なくとも部分的にらせん状である。らせん構造又はらせんの回転方向によってどの偏光を好ましく吸収するかを決定する。らせん構造がプラズモン・ナノ構造の場所の円偏光と一致した場合、その吸収作用度はらせん構造と対向する円偏光についての吸収作用度より強い。
【0051】
前述からすると、光ダイオードの吸収作用又はその透過は各用途に適合させることが可能である。それに応じて、本発明の光ダイオードによる好ましい実施形態では、光ダイオードが真空波長λを有する光に対して所定伝搬方向で実質的に透明に構成されており、かつ、伝搬方向と反対の方向で真空波長λを有する光の光学的性能に対して少なくとも50%、特に少なくとも75%、望ましくは少なくとも90%、特に望ましくは少なくとも99%を吸収するように構成されている。ここで「実質的に透明」は、光が物理的導波路又は導波路コア中を通じることによる不可避の光学的性能の損失を除き透過することを意味する。
【0052】
前述の如く、本発明の光ダイオードは集積光回路の集積に最適である。従って、本発明の光ダイオードを含む集積光回路が構成される。
【0053】
なお、本発明を以下の実施例を参照して詳しく説明する。以下の図面は、発明思想を例として説明するものであるが、決して発明思想を限定したり最終定義したりするものではない。全図面は、明確性のために原寸によるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0054】
図1a】は、基板上に配置された導波路中の伝搬方向に沿う光伝播におけるSOKL原理を明示する図、
図1b】は、図1aに対応するが、その光伝搬方向が逆である図、
図2a】は、本発明の光ダイオードであり、光が伝搬方向に伝播する光ダイオードの原理図、
図2b】は、図2aに対応するが、その光伝搬方向が逆である図、
図3】は、吸収要素として量子ドットが採用された本発明の光ダイオードの概略不等角投影図、
図4】は、吸収要素として外来原子が採用された本発明の光ダイオードの概略不等角投影図、
図5】は、導電体経路を更に含んだ図4による光ダイオードの断面図、
図6】は、吸収要素としてプラズモン・ナノ構造が採用された本発明の光ダイオードの概略不等角投影図、
図7】は、図6のプラズモン・ナノ構造を上方からみた詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
図1aは、基板9上に配置された導波路コア14中の伝搬方向5に沿う光伝播におけるSOKL原理を明示する図である。光は準直線偏光であって、主要偏光要素17は、本例の紙面にて伝搬方向5と垂直に配置されている。導波路コア14は、屈折率nを有する。導波路コア14は、片側から基板9、他の側から空気13に取り囲まれ、ここにおいて基板9と空気13の屈折率がnより小さい。透過される光は空気13と基板9に侵入し、エバネセント波として各場所に存在する。当該各エバネセント波の光度は導波路コア14の表面8との距離に応じて指数関数的に減少し、ここにおいて、表面8は導波路コア14と基板9/空気13の間の光境界面を形成する。
【0056】
導波路コア14の小さい横寸法が原因となってSOKL効果が発生し、このSOKL効果は、近接場に起こる局所円偏光として出現する。この円偏光は光伝搬方向5に依るものである。図1aのように、伝搬方向5は左から右へ延びている。そのため、空気13に伝播されるエバネセント波は、例えば表面8付近において偏光σがほぼ左円である。導波路コア14の反対側では、基板9に伝播されるエバネセント波は、表面8付近において、偏光σ+が方向転換し、つまり例のようにほぼ右円である。
【0057】
伝搬方向5を逆にした場合、SOKL効果によって発生させられた局所円偏光も方向転換する。これは図1bに図示されており、図1bには図1aに対して逆伝搬方向5が図示されている。それに応じて、空気13に伝播されるエバネセント波は、表面8付近において偏光σ+がほぼ右円であって、導波路コア14の反対側で基板9に伝播されるエバネセント波は、表面8付近において偏光σがほぼ左円である。
【0058】
なお、図2aには、本発明の光ダイオードが示されている。その構造は、表面8付近にあって空気13と対面している導波路コア14の側に実質的に右円偏光のみを吸収する吸収要素15が配置されている点のみで、図1a、1bに示された構造と相違している。図2aにおいて選択され、図1aに示された伝搬方向5と一致する伝搬方向5のため、偏光σは、吸収要素15が配置された近接場の範囲内で局所的にほぼ左円である。そのため、吸収作用が発生せずに、光の吸収要素15を通過した後の光学的性能は、吸収要素15を通過する前の光学的性能と実質的に同じである。その状況は、伝搬方向5に向く二つの実質的に同じサイズの矢印によって図示されている。
【0059】
図2bの光ダイオードは図2aの光ダイオードと構造が同じであるが、ここでは伝搬方向5が逆である。従って、吸収要素15の位置には逆偏光が発生しており、つまり吸収要素15が配置された近接場の範囲内では偏光σ+がほぼ右円である。そのため吸収作用が発生し、各吸収要素15が導波路又は光ダイオード1を通じる光の光学的性能全体をある程度まで減少させる。総計で、ダイオード1を通じる光に関して、吸収要素15を通過した後の光学的性能が吸収要素15を通過する前の光学的性能より少ない。この状況は、伝搬方向5に向く矢印のサイズの割合によって図示されている。
【0060】
図3には、例えばSiOからなる基板9に沈んだGaAs導波路コア2を含む具体的な実施形態が示されている。導波路コア2は、縦方向4と垂直及び直角な、高さ方向20と導波路コア2の幅方向21に沿って伸びる横断面6を有する。高さ方向20は、前記の例では基板表面と垂直に伸びている。高さ方向20に沿って横断面6の寸法が最少であって、この最少寸法は導波路コア2の最少横寸法7を定義する。導波路コア2を通じる光の主要偏光要素17は幅方向21と平行に伸びている。赤外領域の真空波長λを有し光ダイオード1を透過される光の場合、幅方向21に伸びる横断面6の寸法は例えば凡そ100nmであって良い。
【0061】
量子ドット10が吸収要素として構成されており、この量子ドット10は、特定波長λを有する左円偏光と右円偏光に対する吸収作用度が相違する。量子ドット10は、導波路コア2に隣接し縦軸4に沿って基板9上に配置されている。量子ドット10は、導波路コア2を通じ真空波長λを有する光の近接場に配置されている。そのために、表面8と各量子ドット10の間の法線距離12を5*λより小さく設定する。
【0062】
導波路コア2が基板9に沈んでいるため、量子ドット10は高さ方向20において導波路コア2の半分ほどの高さに配置されている。このように、量子ドット10を近接場に最適に結合することができる。導波路コア2中の光が図示の伝搬方向5に伝播しているか反対方向に伝播しているかに応じて、量子ドット10の場所には対向する円偏光が発生する。それに応じて、光に対する量子ドット10の吸収作用度が伝搬方向5に応じて相違する。例えば導波路コア2が凡そ100nm、量子ドット10と表面8の間の法線距離12が凡そ50nm、及び光が有する真空波長λが920nmの場合、量子ドット10の吸収作用度は凡そ15%である。
【0063】
吸収要素又は量子ドット10の数を変化させることによって、光ダイオード1の吸収作用度を制限方向に変化させることが可能である。また、異なる量子ドット10を選択することによって、異なる量子ドット10は異なる波長nλで左円偏光及び右円偏光に関して異なる吸収作用度を有するため、光ダイオード1の帯域幅10を変化させられ得る。
【0064】
図4には本発明の光ダイオード1の更なる実施形態が示されている。ここでは、導波路コア2中の外来原子を吸収要素として採用する。この例にはSi導波路コア3が示されており、外来原子としてはドーパント原子11(例えばホウ素原子)が使用される。これらは表面8の範囲内において導波路コア3の片面に配置されている。それに応じて、導波路コア3を基板9(例えばSiO基板)に沈ませる重要性は高くない。従って、導波路コア3は基板9上のみに配置されている。
【0065】
導波路コア3を通じる光の主要偏光要素17は高さ方向20と平行に伸びている。それに応じて、ドーパント原子11は導波路コア3の、縦軸4及び幅方向21に広げられている表面8の付近に配置されている。
【0066】
それとは関係なく、導波路コア3の最少横寸法7は高さ方向20に沿った横断面6の寸法により定義されている。
【0067】
導波路コア3中に配置されているため、ドーパント原子11は近接場に存在する。導波路コア3中の光が図示の伝搬方向5かその反対方向に伝播されるかに依って、ドーパント原子11の場所に対向する円偏光が発生する。それに応じて、光に対するドーパント原子11の吸収作用度は伝搬方向5に依って相違する。
【0068】
吸収要素又はドーパント原子11の数を変化させることによって、光ダイオードの吸収作用度1を制限方向に変化させることが可能である。
【0069】
例として、吸収帯域幅が1nmで光の真空波長λが920nmの場合、単一のホウ素原子の吸収作用が0.0003%であると仮定しても良い。従って、この例では、制限方向の吸収作用が99%の場合、凡そ1.5x10個のホウ素原子が必要である。100nmの縁の長さを有する表面8の一部に対し、5nmの平均間隔でホウ素原子を分配した場合、長さ1.5mmの導波路コア3が必要である。しかし、現実的にホウ素原子の三次元分布を前提とするなら、例えばホウ素原子を導波路コア3中において表面8付近に10個の原子層で積層した場合、この長さは10倍減少される。従って、後者の場合、ドーパント原子11は、導波路コア3の150μmの長さに沿って配置するだけで良い。
【0070】
真空波長λが異なる光の場合、光ダイオード1を動的に調整及び/又は光ダイオードの帯域幅1を変化させるために、量子ドット10及び/又は外来原子は、磁場及び/又は電場に当てられることが可能である。図5には、それが図4の実施例を参照して説明されている。ここで、導波路コア3の下の基板9中に導電体経路18が配置されている。電気を導電体経路18に流すことによって、ドーパント原子11の場所に磁場が発生する。それは電流を変化させることによって動的に設定することができる。
【0071】
導電体経路18とドーパント原子11の間の短い距離19のため、中程度の電流量でもドーパント原子の場所に強磁場を生成することができる。前述の実施例では、距離19は例えば凡そ1μmであっても良い。しかし、距離19が短過ぎる場合、導電体経路18の屈折率が通常導波路コア3より著しく大きいため、導波路中の光透過に悪影響を与えることが考えられる。従って、距離19は好ましくは少なくとも≧200nm、特に望ましくは≧300nmである。
【0072】
当然、導電体経路18の代わりに又はそれに加えて、それとまったく同様に永久磁石を基板9中、又はその上に配置しても良い。かくして、一定磁場のみを生成することが可能である。
【0073】
最後に、図6には本発明のダイオード1による更なる実施形態が示されている。この実施形態の構造は図3の実施形態の構造と同様である。そのため、ここでは実質的に図3の説明を参照する。図3と違って、図6には量子ドット10ではなくてプラズモン・ナノ構造16が吸収要素として配置されている。このプラズモン・ナノ構造16は、金属、好ましくは金からなり、その最大寸法が導波路コア3を通じる光が有する真空波長λより著しく小さい。例えば、可視の光に対しては、30nmの直径、及び5nmの高さ又は厚さを有するプラズモン・ナノ構造16が考えられる。
【0074】
図7はプラズモン・ナノ構造16の拡大した上面図である。図7から明らかのように、プラズモン・ナノ構造16は部分的にらせん状に成形されている。具体的には、図示のプラズモン・ナノ構造16は、お互いが嵌まり合うような二つのらせんの形態である。図7では、そのらせん構造は正であって、つまり図7では、らせんの回転方向は正である。この幾何学的配置は、左円偏光に対するプラズモン・ナノ構造16の吸収作用を相応に増強する。
【符号の説明】
【0075】
1 光ダイオード
2 GaAs導波路コア
3 Si導波路コア
4 導波路の縦軸
5 伝搬方向
6 導波路断面
7 導波路コアの最少横寸法
8 導波路表面
9 基板
10 量子ドット
11 ドーパント原子
12 表面と量子ドット間の法線距離
13 空気
14 導波路コア
15 σ+吸収体
16 プラズモン・ナノ構造
17 導波路コアを通じる光の主要偏光要素
18 導電体経路
19 導電体経路とドーパント原子間の距離
20 導波路コアの高さ方向
21 導波路コアの幅方向
σ 左円偏光
σ+ 右円偏光
図1a
図1b
図2a
図2b
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】