(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-533162(P2017-533162A)
(43)【公表日】2017年11月9日
(54)【発明の名称】多重ステップ熱還元プロセスにより、調整可能な性質を持つグラフェンを生成するための方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/192 20170101AFI20171013BHJP
【FI】
C01B32/192
【審査請求】有
【予備審査請求】有
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-514699(P2017-514699)
(86)(22)【出願日】2015年9月17日
(85)【翻訳文提出日】2017年3月15日
(86)【国際出願番号】EP2015071367
(87)【国際公開番号】WO2016042099
(87)【国際公開日】20160324
(31)【優先権主張番号】14382352.4
(32)【優先日】2014年9月18日
(33)【優先権主張国】EP
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】510301493
【氏名又は名称】レプソル,ソシエダッド アノニマ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100193493
【弁理士】
【氏名又は名称】藤原 健史
(72)【発明者】
【氏名】パエス ドゥエニャス アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア サン ルイス ヘスス
(72)【発明者】
【氏名】アルヴァレス ロドリゲス パトリシア
(72)【発明者】
【氏名】グランダ マルコス
(72)【発明者】
【氏名】ブランコ ロドリゲス クララ
(72)【発明者】
【氏名】サンタマリア ラミレス リカルド
(72)【発明者】
【氏名】ブランコ パトリシア
(72)【発明者】
【氏名】フェルナンデス ラウラ
(72)【発明者】
【氏名】メネンデス ロペス ローサ マリア
(72)【発明者】
【氏名】カジェ ゴメス フェルナンド
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB07
4G146AC07B
4G146AC08B
4G146AC22A
4G146AC22B
4G146BA02
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4G146BC02
4G146BC07
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4G146BC32A
4G146BC32B
4G146BC33A
4G146BC33B
4G146BC34A
4G146BC35A
4G146BC36A
4G146BC37A
4G146BC37B
4G146CB11
4G146CB13
(57)【要約】
本発明は、a)剥離をもたらすのに十分な700℃までの温度で、酸化黒鉛を、不活性雰囲気中でフラッシュ熱処理するステップと、b)先のステップで得られた材料を、90℃よりも低く冷却するステップと、c)先のステップから得られた材料を、不活性雰囲気中で、ステップa)の温度よりも高い温度で加熱するステップであり、加熱速度が1〜15℃/分の間である、ステップとを含む、グラフェンを調製するための方法に言及する。本発明は、優れた物理化学的性質を示す、そのように得られたグラフェンも対象とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 剥離をもたらすのに十分な700℃までの温度で、酸化黒鉛を、不活性雰囲気中でフラッシュ熱処理するステップと、
b) 先のステップで得られた材料を、90℃よりも低く冷却するステップと、
c) 先のステップから得られた材料を、不活性雰囲気中で、ステップa)の温度よりも高い温度で加熱するステップであり、加熱速度が1〜15℃/分の間である、ステップと
を含む、グラフェンを調製するための方法。
【請求項2】
加熱速度が、2〜10℃/分の間である、請求項1に記載のグラフェンを調製するための方法。
【請求項3】
材料が、ステップb)では40℃よりも低い温度で冷却される、請求項1または2に記載のグラフェンを調製するための方法。
【請求項4】
a) 剥離をもたらすのに十分な90℃から700℃までの間を含む温度で、酸化黒鉛を、不活性雰囲気中でフラッシュ熱処理するステップと、
b) 先のステップで得られた材料を、40℃よりも低く冷却するステップと、
c) 先のステップで得られた材料を、不活性雰囲気中、700℃よりも高くかつ3000℃までの酸化グラフェン還元温度で、2〜10℃/分の間の加熱速度で加熱するステップと
を含む、請求項1、2、または3に記載のグラフェンを調製するための方法。
【請求項5】
フラッシュ熱処理が、90℃よりも高い温度で実施される、請求項1から4までのいずれか1項に記載のグラフェンを調製するための方法。
【請求項6】
フラッシュ熱処理が、300〜600℃の間の温度で実施される、請求項5に記載のグラフェンを調製するための方法。
【請求項7】
ステップb)の冷却が、周囲温度にまで降下して実施される、請求項2から6までのいずれか1項に記載のグラフェンを調製するための方法。
【請求項8】
ステップc)が、800℃〜2,800℃の間を含む温度で実施される、請求項1から7までのいずれか1項に記載のグラフェンを調製するための方法。
【請求項9】
ステップc)が、400℃〜1200℃の間を含む温度で実施される、請求項1から7までのいずれか1項に記載のグラフェンを調製するための方法。
【請求項10】
酸化黒鉛が、酸化によって黒鉛から調製される、請求項1から9までのいずれか1項に記載のグラフェンを調製するための方法。
【請求項11】
黒鉛が、黒鉛化によってコークスから得られる、請求項10に記載のグラフェンを調製するための方法。
【請求項12】
反応器の容積/グラフェンの質量が、20〜100cm3/gである、請求項1から11までのいずれか1項に記載のグラフェンを調製するための方法。
【請求項13】
請求項1から12までのいずれかに定義された方法によって得ることが可能なグラフェン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフェンを調製する工業的方法の分野に関し、詳細には、酸化黒鉛(graphite oxide)の熱剥離(exfoliation)/還元によって、制御された特性を持つグラフェンを調製するための新しい多重ステッププロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェン、およびグラフェンをベースにした材料は、それらの魅力ある性質および潜在的な用途に起因して、かなりの関心を引き付けている(Park S, Ruoff, RS. Nat Nanotechnol 2009; 4: 217-24)。酸化グラフェンを得るための酸化黒鉛の剥離とその後の還元プロセスは、グラフェンを得る簡単な方法を提供する(Marcano DC, Kosynkin DV, Berlin JM, Sinitskii A, Sun Z, Slesarev A, et al. ACS Nano 2010; 4: 4806-14;およびGao X, Jang J, Nagase S. J Phys Chem C 2010; 114: 832-42)。この方法には、容易に規模を拡大できるという利点があり、親黒鉛の特性(Botas C, Alvarez P, Blanco C, Santamaria R, Granda M, Ares P, et al. Carbon 2012; 50: 275-82)ならびに酸化および還元の両方の実験条件(Stankovich S, Dikin DA, Piner RD, Kohlhaas KA, Kleinhammes A, Jia Y, et al. Carbon 2007; 45: 1558-65)に応じて調整可能な量の酸素を含むグラフェン材料を、生成する能力もある。しかし比表面積などの他の重要な性質は、調整することができない。酸化グラフェンを還元するための、いくつかのプロセスが考えられてきた。これらには、:i)ヒドラジンが最も一般的である、種々の試薬との化学的還元(Menendez, R. et al.. RSC Adv., 2012,2, 9643-9650);ii)種々の雰囲気(アルゴン、真空、水素、水素/アルゴン)中で、マイクロ波で支援しまたは行うことができる熱還元(Kaniyoor, A, Baby TT, Arockiadoss T, Rajalakshmi N, Ramaprabhu S., J Phys Chem C 2011; 115: 17660-9);iii)電気化学的還元(Sundaram RS, Gomez-Navarro C, Balasubramanian K, Burghard M, Kern K., Adv Mater 2008; 20: 3050-3)、およびiv)化学的還元/熱アニーリング、又は熱還元/水素化などの、種々の方法の組合せが含まれる。
【0003】
熱還元の場合、プロセスは、酸化グラフェンの熱分解であることを考慮すべきであり、結合酸素は、炭素の酸化生成物であるCOおよびCO
2の形で遊離し、残りの炭素は還元される。酸化黒鉛の熱剥離/還元は、グラフェン材料を調製するための化学的還元の興味深い代替案であり、その理由は:i)酸化黒鉛を剥離して酸化グラフェンを生成し、それを熱還元してグラフェンにすることが、全て1つのステップで行われることによる、その単純さ;ii)環境に優しくない化学物質の使用が回避されることによる、その持続可能性;およびiii)その規模拡大性にある。しかし、酸化黒鉛の熱膨張によってグラフェン単一シートを調製することができる効率と、グラフェンシートの品質とは、黒鉛の酸化の程度と熱処理の条件とに依存する。要件の1つは、熱処理段階中に十分な圧力を蓄積することである(McAllister MJ, Li JL, Adamson DH, Schniepp HC, Abdala AA, Liu J, et al., Chem Mater 2007; 19: 4396-404)。
【0004】
酸化黒鉛の熱処理をもたらすためのいくつかの方法が、文献に記載されている。それらのほとんどは、処理の主な目的である、得られるグラフェンの還元の程度を制御することに焦点を当てている。しかし、ある特定の用途では、ある還元の程度(本質的な性質)を得る要件だけではなく、所望の温度にまで還元されたこの特定のグラフェンに関する他の性質を制御することにも焦点を当てている。これは、表面積、エネルギー貯蔵デバイス(例えば、バッテリー、キャパシター)などの用途における本質的な性質、または溶解度特性であって、触媒用途のために増強しなければならないものにも言えることである。
【0005】
文献に記載された処理のほとんどは、所望の温度までの、単一ステップでのグラフェン試料の熱による加熱に焦点を当てている。これらの例のほとんどは、単段処理の最終温度を修正することによって、得られるグラフェンの還元の程度を制御できることも示唆している(分析さえしている)。しかしこの文書は、他の重要な性質(例えば、BET表面積または加工性の問題)について何も述べていない。これは、単一ステップで400℃の温度に急速加熱(ホットプレート上)する場合にも言えることであるが、これは薄片酸化黒鉛から単官能化グラフェンシートを大量に得るのに使用されてきたものであり、加工性の問題を示していた(Potts, J, et al. Composites science and technology 74 (2013) 166-172)。Menendez, R. et al.は、Carbon 52 (2013) 476-485において、シートの歪みを最小限に抑える目的で、低速の加熱速度(heating rate)5℃/分を使用した、127℃、300℃、400℃、600℃、700℃、800℃、および1000℃の温度での酸化物黒鉛の熱剥離/還元について記述している。筆者らは、30℃/分の高速の加熱速度が、より皺の寄ったシートを生成し、剥離はより低下したことも観察した。一般論として、低BET表面が、この方法では報告された。さらなる例は、封止管内での1050℃までの熱フラッシュ加熱であり(McAllister, M.J. et al., chem. Mater. 2007, 19, 4396-4404)、高いBET表面積を持つグラフェンが得られる。しかし溶解度の問題に関する言及は、なされていない。
【0006】
いずれにせよ、単一ステップの使用は、得られるグラフェンの性質の調整は不可能であり;最終温度に固定されると、固定された性質(C/O比、BET表面積、加工性の問題)がもたらされ、それらを個別に制御する可能性もない。
制御された特性を持つグラフェンの調製を試みる際、Zhang et al.(Zhang Y et al. Carbon 54, 2013, 143-148)は、高速加熱上昇(加熱速度 100℃/分)を使用した700℃での低熱温度剥離の初期段階と、その後に続く第2の熱処理であって、還元された酸化グラフェンシートが1500℃および40MPaの一軸圧力で真空中5分間アニールされる、第2の熱処理とからなる逐次熱処理を利用する。得られたグラフェンは、少量の残留酸素を示す(Dピークは、Ramanスペクトルにおいて検出されなかった)。このグラフェンは、ある特定の量の酸素化官能基の存在が有益でありさらにより大きい表面積の還元試料および適切な加工性(ある特定の溶媒中の懸濁特性)も要件である、バッテリーおよび他のデバイスには不適切である。
【0007】
米国特許出願公開第2011/0157772号は、その構造内にスペーサーを含めることによって修飾されたグラフェンを調製するためのプロセスを対象とする。この文献は、黒鉛状材料(繊維)を予熱炉内で600℃の温度で30秒間加熱し、その後、1,100℃で20分間加熱するプロセスを開示する。
Angela D. Lueking et al.は、Carbon, 2005(vol. 109), pages 12710-12717において、酸化黒鉛を700℃で2分間急速加熱し、次いで1,000℃で36時間加熱するステップを含むプロセスを開示する。
Zhang Chen et alは、Carbon, 2013(vol. 62), pages 11-24において、とりわけ低温の高真空中で酸化黒鉛を剥離するプロセスについて論じている。
したがって、代替の改善されたグラフェン系材料を提供することが求められている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らはついに、新しい合成プロセスとして、制御された手法で、熱により還元されたグラフェンを調製することが可能であることを意外にも見出した。得られたグラフェンは、制御された残留酸素化官能基部分(処理中に選択された最終温度の直接的な結果)だけではなく、その体積にも関連する制御された表面積も提示する。
さらになお、本発明のプロセスによって得られたグラフェンは、溶媒中に分散させるのに驚くほど高い能力を示し、したがって優れた加工性を有する。
【0009】
数ある性質の中でも、得られたグラフェンは、温度による炭素構造の非常に良好な再構成も示し、バッテリーのような多様な用途に非常に適切なものになる。
したがって一態様では、本発明は、下記のステップ:
a) 剥離をもたらすのに十分な700℃までの温度で、酸化黒鉛を、不活性雰囲気中でフラッシュ熱処理するステップと;
b) 先のステップで得られた材料を、90℃よりも低く冷却するステップと;
c) 先のステップから得られた材料を、不活性雰囲気中で、ステップa)の温度よりも高い温度で加熱するステップであり、加熱速度が1〜15℃/分の間である、ステップと
を含む、グラフェンを調製するための新しい多重ステッププロセスに関する。
別の態様では、本発明は、この多重ステッププロセスによって得られたグラフェンに関する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の多重ステップ熱プロセス(MS)および単一ステッププロセス(SS)によって得られた、種々のグラフェン試料の画像である。
図1aは、MS−GO−C−300/100(例1)の外観を、SS−GO−C−1000試料(例2)の外観と比較する。
図1bは、MS−GO−P−460/700(例3)の外観を、SS−GO−P−700試料(例4)の外観および擬似(pseudo)MS−GO−P−460ランプ/700(例5)の外観と比較する。
図1cは、MS−GO−P−300/700(例6)の外観を、MS−GO−P−400/700(例7)の外観と比較する。
図1dは、MS−GO−S−300/1000(例8)の外観を、SS−GO−S−1000試料(例9)の外観と比較する。
【
図2】本発明の多重ステップ熱プロセス(MS)および単一ステッププロセス(SS)によって得られた、種々のグラフェン試料の、DMSOに懸濁した懸濁液の画像である。
図2aは、t=0でのSS−GO−C−1000(左のバイアル)およびMS−GO−C−300/1000(右のバイアル)をDMSOに懸濁した懸濁液と、5分後(t=5)の同じ懸濁液を示す。例1および2も参照されたい。
図2bは、MS−GO−P−460/700のDMSO懸濁液(例3)を、SS−GO−P−700試料のDMSO懸濁液(例4)および擬似MS−GO−P−460ランプ/700のDMSO懸濁液(例5)と比較する。
図1cは、MS−GO−P−300/700の懸濁液(例6)を、MS−GO−P−400/700のDMSO懸濁液(例7)と比較する。
図1dは、MS−GO−S−300/1000のDMSO懸濁液(例8)を、SS−GO−S−1000試料のDMSO懸濁液(例9)と比較する。
【
図3】MS−GO−C−300/1000およびSS−GO−C−1000の、窒素吸着等温線である。例1および2も参照されたい。
【
図4】酸化黒鉛のフラッシュ熱処理のステップa)を実施するための、本発明の反応器の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の全体を通して、グラフェンを、命名法によりY−GO−X−Tとし、ここで、YはSS(単一ステップ)またはMS(多重ステップ)のいずれかであり、GOは酸化黒鉛を示す。Xは、黒鉛の由来を示し、Sは「合成(synthetic)」を示し、Cは「商用(commercial)」を示し、CCは「燃焼コークス(combustion coke)」を示し、Pは「石油コークス(petroleum coke)」を示す。Tは、グラフェンが得られる温度を示す。単一ステップのグラフェン(SS)では、1つの温度のみ示され、多重ステッププロセス(MS)では、第1の加熱温度に対応して第1の温度が示され、その後、「/」および第2の加熱温度が続く。
【0012】
特定の実施形態によれば、グラフェンを調製するためのプロセスは、ステップa)とb)との間に冷却ステップa’)をさらに含む。別の特定の実施形態では、本発明のグラフェンを調製するためのプロセスは:
a) 剥離をもたらすのに十分な90℃から700℃までの間を含む温度、および不活性雰囲気中で、酸化黒鉛をフラッシュ熱処理するステップと;
b) 先のステップで得られた材料を、40℃よりも低い温度に冷却するステップと;
c) 先のステップで得られた材料を、不活性雰囲気中で、700℃よりも高くかつ3000℃まで、2〜10℃/分の間の加熱速度で加熱するステップと
を含む。
【0013】
酸化グラフェンを冷却するステップb)は、先のステップa)で到達した温度よりも低い温度で実施される。冷却温度は、常に90℃未満で変化してもよい。典型的には、冷却は、周囲温度まで下がって行うことができる。本発明において、周囲温度は、典型的には40℃よりも低い温度、例えば10℃〜30℃の間を指す。
本発明全体を通しての「フラッシュ熱処理」という用語は、試料が、示される温度に予熱された系と接触するようになる処理と理解される。例えば、炉内で処理した場合、本発明によるフラッシュ熱処理は、示された温度に炉内容積全体を加熱し、次いでそのような温度に突然曝されるように試料を導入することを含む。
【0014】
特定の実施形態によれば、フラッシュ熱処理は、90℃よりも高い温度、好ましくは120℃よりも高い温度で実施される。剥離は、通常、温度に対して直線的には生じず、典型的には、酸化黒鉛の分解によって形成された気体が突然放出されて材料のほとんどが剥離する、臨界温度(「爆発温度」)がある。異なる酸化黒鉛は、当業者によって決定することができる異なる爆発温度を有する。フラッシュ熱処理の温度が、爆発温度の場合よりも高くなるにつれ、より高いBET値を有するグラフェンが通常は得られる。したがって本発明のプロセスは、随意に、高いBET値および低還元のグラフェンと共に低BET値および高還元のグラフェンをもたらすことができ、それと同時にその分散体の優れた安定性および加工性が得られる。別の特定の実施形態では、フラッシュ熱処理は、300℃よりも高い温度、より詳細には450℃よりも高い温度で実施される。特定の実施形態では、フラッシュ熱処理は460℃で実施される。さらに特定の実施形態では、ステップa)の温度は100〜700℃の間、特に300〜600℃の間に設定される。さらに特定の実施形態では、ステップa)の温度は100〜250℃の間に設定される。
【0015】
特定の実施形態によれば、フラッシュ熱処理は、
図4に示されるもののような、とりわけ設計された反応器で行うことができる。この反応器は、本発明のさらなる態様を構成する、本発明のプロセスを実施するためのデバイスの一部である。以下に説明されるように、本発明のステップa)を行うことがとりわけ適している。さらなる態様では、本発明は、酸化黒鉛のフラッシュ熱処理を実施するためにとりわけ設計された反応器を含むデバイスに関する。特定の実施形態による反応器を
図4に表すが、反応器は、入口(1)と、入口弁(8)と、炉(3)および放出弁(4)を含む予熱容積(2)と、加熱手段(5)と、気体入口(6)と、ならびに気体出口(7)とを含む。
この反応器は、本発明のプロセスのステップa)を実施可能にし、半連続モードで酸化黒鉛を剥離して酸化グラフェンにする。
ある実施形態によれば、前記反応器は、酸化黒鉛を添加するのに適切な入口(1)を含み、前記入口(1)は、入口弁(8)によって、放出弁(4)に接続された炉(3)を含む予熱容積(2)から離間しており、
前記加熱された容積(2)は、気体入口(6)および気体出口(7)に接続され、かつ加熱手段(5)に接触しており、前記放出弁(4)は放出手段(9)[図示せず]に接続され、剥離した材料が回収されて、冷却されてもよい。反応器は、望ましくない火災を回避するために、不活性雰囲気中にある。
【0016】
酸化グラフェンは、反応器の入口(1)に導入され、入口弁(8)を通して予熱容積(2)に到達し、そこでフラッシュ熱剥離を行う。本発明者らは、適切な剥離を実現するために、酸化黒鉛が最高700℃の温度に突然供されるよう、予熱領域に酸化黒鉛を導入することが重要であることを認めた。反応器に導入された酸化グラフェンの質量(g)と、予熱容積(2)の体積(cm
3)との間の関係も、有利に制御することができる。予熱容積(2)は、炉(3)内で、従来の手段によって予熱される。前記加熱手段の性質は、重要なものではなく、典型的には電気加熱システムを含む。剥離後、酸化グラフェンを、放出弁(4)を通して放出し、ステップb)およびc)に供することができる状態にする。反応器内の滞留時間は、適用される温度に応じて、典型的には約2〜約10分の間であり、特に約5分である。
【0017】
特定の実施形態によれば、ステップc)は、800℃〜2,800℃の間、より詳細には900℃〜2500℃の間、さらにより詳細には1000℃〜2000℃の間を含む温度で実施される。さらなる実施形態では、ステップc)の温度は、400℃〜1200℃の間、より詳細には450℃〜1050℃の間、より詳細には500℃〜1000℃の間、さらにより詳細には600℃〜1000℃の間を含む温度で実施される。このステップは、1〜15℃/分の間、より詳細には2〜10℃/分の間で変わる、例えば3℃/分、4℃/分、5℃/分、6℃/分、または7℃/分の加熱速度で、黒鉛炉内で実施することができる。
本発明のプロセスは、N
2、Ne、Arなどの任意の不活性ガスを導入することによって実現され得る不活性雰囲気中で、実施される。特定の実施形態では、ステップa)は、流速が50〜300mL/分の間のN
2雰囲気中で実施され、ステップc)は、流速が2〜4L/分の間のAr雰囲気中で実施される。
【0018】
特定の実施形態によれば、予熱容積と添加された酸化黒鉛との比は、20〜100cm
3/gの間を含む。そのような特定の範囲は、酸化黒鉛の最適な剥離が保証されるよう十分な空間の予熱容積の内側に酸化黒鉛の塊をもたらし、得られる酸化グラフェンが過剰に粘着するリスクを最小限に抑える。
原則として、任意の酸化黒鉛は、本発明のプロセスにおける出発材料として使用することができる。好ましい実施形態によれば、酸化黒鉛は、酸化によって黒鉛から調製される。酸化は、Hummer法(Hummers WS, Offeman RE. Preparation of graphitic oxide. Journal of the American Chemical Society 1958; 80: 1339-40)または修正されたHummer法のような、当技術分野で周知の方法のいずれかによって実施することができる。Brodie法(Brodie BC. Sur le poids atomique du graphite. Annales de chimie et de physique 1860; 59: 466-72)、Staudenmaier法(L.Staudenmaier, Ber. Dtsch. Chem. Ges., 1898, 31, 1481)、異なる反応物(H
2O
2など)による黒鉛の穏やかな酸化(米国特許出願公開第20090028777号)などの、他の方法によって調製することもできる。好ましい実施形態では、酸化黒鉛は、例に示されるように、Hummer法または任意の修正されたHummer法によって調製される。
【0019】
また黒鉛は、天然または合成の黒鉛とすることができる。特定の実施形態では、出発材料として使用される黒鉛は、商用黒鉛、石油化学黒鉛、または半合成黒鉛である。合成黒鉛は、例えば、コークス、ピッチ、または重合した芳香族化合物などの、炭素化学、石油化学、または合成の黒鉛化可能な炭素質前駆体の、黒鉛化によって得ることができる。好ましい実施形態によれば、黒鉛は、黒鉛化によってコークスから得られる。
本発明のグラフェンは、下記のような種々の方法によって特徴付けられている:
【0020】
元素分析:
試料の炭素、水素、硫黄、および窒素含量は、LECO−CHNS−932マイクロアナライザーで決定した。酸素含量は、マイクロアナライザーに連結されたLECO−VTF−900炉を使用して直接得た。近似分析を、ASTM D3174−04標準試験法に従って実施した。分析の全ては、粉砕し篩にかけて<0.2mmにした試料1mgを使用して行った。結果は、4回の測定からの値の平均として引用した。全ての場合において、標準偏差は絶対値の<0.5%であることがわかった。結果は、使用される酸化黒鉛のタイプ、黒鉛のタイプ、酸化黒鉛を調製するための反応条件、および熱処理温度などの事実に応じて、ある特定の範囲内で変化する。
【0021】
表面BET:種々の試料の質感(textural)特性を、77Kで、N
2吸着を使用して分析した。これらの分析は、ASAP 2020 Micromeriticsの設備で行った。測定は、ASTM標準D−6556に従って、修正を加えて実施した:実験前に、試料を350℃で10時間、真空中(10
-3Paよりも低い圧力)で脱気し、各実験では100mg程度の試料を使用した。見掛けの表面積を、BET方程式を使用してN
2吸着等温線から決定した。本発明のプロセスによって得られたグラフェンの、増大した表面積は、少なくとも100m
2/g、好ましくは200m
2/g、より好ましくは300m
2/g、さらにより好ましくは400m
2/g、および最も好ましくは500m
2/gと決定された。
溶媒中のグラフェンの分散体の安定性:種々のグラフェンの分散体の安定性は、グラフェン10mgをDMSO 10mLに、室温および1atmで分散させることによって評価した。超音波中に15分間導入した後、懸濁液を室温で放置し、沈殿物の存在を定性的に評価した。対応するグラフェンは、5分後に目に見える沈殿が観察されない場合、安定な分散体を形成すると見なした。
【0022】
得られた試料の体積:ある特定の量のグラフェンで占有された体積を比較する目的で、得られたグラフェン22.5gで占有された体積のデジタル画像を、
図1に示す。
本発明のグラフェンは、数ある特性の中でも、初期フラッシュ熱分解ステップの温度の主な要因として、制御された表面積を提示し、一方で、望まれる還元を得るのに必要な最終温度にまで上昇させる後続のステップは、表面積を増大させるが実質的にではない。表面積の制御の結果として、試料を占有する体積またはある特定の溶媒中に試料を分散させる可能性のようなパラメーターも、確立される。これらのパラメーター(およびそれらの制御)は、バッテリーのような多様な用途で極めて重要である。
さらになお、本発明のプロセスによって得ることが可能なグラフェンは、溶媒中で非常に安定した分散体を形成することができ、したがって、文献に記載された他のグラフェンに比べて改善された加工性を提供する。このことは、改善された性質を材料に与えるために、グラフェンのペーストを調製するのにかつポリマーなどの他の成分と均質な混合物を形成するのに非常に重要な特徴であり、現在非常に関心が持たれている技術領域である。
例えばそのような加工性は、エネルギーを貯蔵することになっている(例えば、バッテリー、スーパーコンデンサー)、改善されかつより均質な材料を調製するために、スピネルおよび他の充填剤を持つ改善された混合物を提供することができる。下記の例は、非限定的であり、本発明の様々な態様の単なる代表例である。
【実施例】
【0023】
本発明は、下記の例から、より詳細には、本明細書で開発された多重ステップ手順の好ましい(しかし非限定的な)実施形態によって生成された試料の特徴付け(例1、3、6、7、および8)と、最高で同じ最終温度での熱処理によってしかし現況技術に記述されかつ本明細書で再現された標準的な手順を用いて同じ組の試料の特徴付けをもたらしたもの(例2、4、5、および9)とを比較することによって、より良く理解されよう。
【0024】
(例1)(本発明による):300℃での第1のフラッシュ熱処理および1000℃での第2の熱処理を用いた、商用黒鉛からのグラフェンの調製(MS−GO−C−300/1000)
MS−GO−300/1000は、以下に記述される修正されたHummer法を使用して商用黒鉛から調製された酸化黒鉛(GO−C)を、出発材料として使用することによって調製した。
酸化黒鉛の調製
この方法は、追加の量のNaNO
3およびKMnO
4と共に、Hummer試薬を利用する。濃H
2SO
4(360mL)を、黒鉛(7.5g)およびNaNO
3(7.5g)の混合物に添加し、混合物を、氷浴を用いて0℃まで冷却した。KMnO
4(45g)を、反応温度が20℃よりも低く保たれるように少量ずつゆっくりと添加した。溶液を35℃まで加熱し、3時間撹拌し、その時点で3%H
2O
2(1.5L)をゆっくり添加して、顕著な発熱効果を98℃まで引き起こした。反応混合物を30分間撹拌し、最後に、混合物を遠心分離し(3700rpmで30分間)、上澄みをデカントして取り除いた。次いで残された固体材料を、水600mLで洗浄し、再び遠心分離し、このプロセスを、pHが中性になるまで繰り返した。
【0025】
MS−GO−C−300/1000の調製
フラッシュ熱処理の第1のステップでは、N
2の雰囲気中(100mL/分)で予め300℃に加熱した容積25cm
3の炉内に、GO−C 0.3gを導入した。次いで試料を室温まで冷却した。熱処理の第2のステップでは、先に得られた試料を炉内に導入し、Ar雰囲気中(3L/分)で、5℃/分の加熱速度で700℃まで、最高1000℃まで加熱し、試料をこの温度で1時間保持した。そのように得られた試料を、MS−GO−C−300/1000と標識した。
MS−GO−C−300/1000の特徴付け
得られた試料は、綿毛のような外観を示す(
図1a右)。MS−GO−C−300/1000のDMSO懸濁液は、5分後に均質で安定である(
図2、両方の写真で右の試料)。この試料に関して計算したSBET表面積は、約430m
2/gであった(表1)。元素分析によって計算したC/O比は130であり(表1)、1000℃で熱処理した試料の十分範囲内にあるが、SBETは非常に高くかつ分散体中で優れた安定性を持つ。
【0026】
(例2)(比較):加熱速度が5℃/分の、1000℃での単一ステップ熱処理による、商用黒鉛からのグラフェンの調製(SS−GO−C−1000)
SS−GO−C−1000の調製
SS−GO−C−1000は、例1で調製された酸化黒鉛(GO−C)を、出発材料として使用することによって調製した。GOを炉内で熱処理し、Ar(3L/分)の雰囲気中で、5℃/分の加熱速度で1000℃まで加熱し、試料をこの温度で1時間保持した。試料にSS−GO−C−1000と標識した。
【0027】
SS−GO−C−1000の特徴付け
SS−GO−C−1000は、MS−GO−C−300/1000(
図1a、左の試料)とは完全に異なる外観を示す。画像は、各試料22.5mgが占有する容積を示し、容積は、多重ステップMS−GO−C−300/1000による場合よりも単一ステップで得られた試料の場合に非常に低い。
試料のDMSO懸濁液は、MS−GO−C−300/1000ほど均質ではなく、5分後であっても沈殿する(両方の写真で、
図2の左の試料)。SS−GO−C−1000に関して計算されたSBET表面積は、約100m
2/gであり(表1)、MS−GO−C−300/1000で得られた場合よりも非常に小さい。
【0028】
元素分析によって計算されるC/O比は69であり(表1)、1000℃で熱処理した試料に関して予測される範囲内にある。この値は、多重ステップにより得られた試料の場合よりも少し大きい。
上記結果は、同じ最終温度までの多重ステップの手順によって、修正された特性を持つ還元されたグラフェンが得られるという仮説の妥当性を実証する。特に、より安定な懸濁液が得られ、試料は、増強したSBET表面積を示す。試料の還元は、多重ステップ手順の場合に少し多いが、予測される範囲内である。
【0029】
(例3)(本発明による):460℃での第1のフラッシュ熱処理および700℃での第2の熱処理による石油化学黒鉛からのグラフェンの調製(MS−GO−P−460/700)
MS−GO−P−460/700の調製
MS−GO−P−460/700は、それ自体は石油コークスの2800℃での黒鉛化により得られた黒鉛を、例1に記述したHummer法を使用して酸化することによって、調製された酸化黒鉛(GO−C)を、出発材料として使用した調製した。フラッシュ熱処理の第1のステップでは、GO−P 0.3gを、N
2の雰囲気中(100mL/分)、予め460℃に加熱した容積25cm
3の炉に導入した。次いで試料を室温に冷却した。熱処理の第2のステップでは、先に得られた試料を炉に導入し、Arの雰囲気中で(3L/分)、加熱速度5℃/分で700℃まで加熱し、試料をこの温度で1時間保持した。そのように得られた試料を、MS−GO−P−460/700と標識した。
MS−GO−P−460/700の特徴付け
得られた試料は、綿毛のような外観を示す(
図1b右)。MS−GO−P−460/700のDMSO懸濁液は、5分後に均質で安定である(
図2b右)。この試料に関して計算したSBET表面積は、約530m
2/gであった(表1)。C/O比は16.3であり(表1)、700℃で熱処理した試料の範囲内にあるが、SBETは非常に高くかつ分散体中で優れた安定性を持つ。
【0030】
(例4)(比較):加熱速度5℃/分を用いた700℃での単一ステップ熱処理による、石油化学黒鉛からのグラフェンの調製(SS−GO−P−700)
SS−GO−P−700の調製
SS−GO−P−700は、例3で調製した酸化黒鉛(GO−P)を、出発材料として使用することによって調製した。GO−Pを炉内で熱処理し、5℃/分の加熱速度で、Arの雰囲気中(3L/分)で700℃まで加熱し、試料をこの温度で1時間保持した。試料をSS−GO−P−700と標識した。
【0031】
SS−GO−P−700の特徴付け
SS−GO−P−700(
図1b、中央)は、MS−GO−C−460/700とは完全に異なる外観を示す。画像は、各試料22.5mgが占有する容積を示し、容積は、多重ステップMS−GO−C−460/700による場合よりも単一ステップで得られた試料(SS−GO−P−700)の場合に視覚的に非常に低い。試料のDMSO懸濁液は、MS−GO−P−460/700ほど均質ではなく、5分後であっても沈殿する(
図2b、中央)。SS−GO−P−700に関して計算されたSBET表面積は、約210m
2/gであり、MS−GO−P−460−700(530m
2/g)に関して得られたものよりも非常に小さい。C/O比は15であり(表1)、MS−GO−C−460/700として700℃で熱処理された試料の範囲内である。
例3および4に示した結果から、本発明のプロセスは、より安定な懸濁液を形成しかつより大きいSBET表面積を有する、還元されたグラフェンをもたらすことがわかる。
本発明者らは、得られるSBET表面積が制御されるように、初期熱処理の初期温度をある特定の点に修正できることも実証する。
【0032】
(例5):(比較):上昇率5℃/分で460℃までの第1の熱処理と、300℃への冷却と、上昇率5℃/分で700℃までの第2の熱処理とによる、石油化学黒鉛からのグラフェンの調製(擬似MS−GO−P−460ランプ/700):
擬似MS−GO−P−460ランプ/700の調製
擬似MS−GO−P−460ランプ/700は、例3で調製された酸化黒鉛(GO−P)を、出発材料として使用することによって調製した。GO−Pを炉内で熱処理し、Ar雰囲気中(3L/分)で、加熱速度5℃/分で460℃まで加熱した。次いで試料を室温まで冷却した。熱処理の第2のステップでは、先に得られた試料を炉内に導入し、N
2雰囲気中(3L/分)で、加熱速度5℃/分で700℃まで加熱し、試料をこの温度で1時間保持した。
【0033】
擬似MS−GO−P−460ランプ/700の特徴付け
擬似MS−GO−P−460ランプ/700(
図1b、左)は、MS−GO−C−460/700とは完全に異なりかつSS−GO−P−700の場合に類似した外観を示す。画像は、各試料22.5mgが占有する容積を示し、容積は、多重ステップMS−GO−C−460/700による場合よりも非常に低い。DMSO中の試料の懸濁液安定性も、SS−GO−P−700(
図2b左)の場合に類似しており、同様にそのC/O比(15、表1)および計算されたSBET表面積は約200m
2/gであり(表1)、MS−GO−C−460/700に関して得られた(530m
2/g)よりも非常に少ない。
したがって、初期フラッシュ熱分解ステップ)を含む本発明の多重ステップの手順は、改善された特性を持つグラフェンをもたらすことがわかる。
【0034】
(例6)(本発明による):300℃での第1のフラッシュ熱処理および700℃での第2の熱処理を用いた、石油化学黒鉛からのグラフェンの調製(MS−GO−P−300/700)
MS−GO−P−300/700の調製
MS−GO−P−300/700は、例3で調製された酸化黒鉛(GO−P)を、出発材料として使用することによって調製した。フラッシュ熱処理の第1のステップでは、GO−P 0.3gを、N
2雰囲気中(100mL/分)、予め300℃に加熱された25cm
3の容積を有する炉内に導入した。次いで試料を室温まで冷却した。熱処理の第2のステップでは、先に得られた試料を炉内に導入し、Ar雰囲気中(3L/分)、加熱速度5℃/分で700℃まで加熱し、試料をこの温度で1時間保持した。そのように得られた試料は、MS−GO−P−300/700と標識した。
【0035】
MS−GO−P−300/700の特徴付け
得られた試料は、綿毛のような外観を示す(
図1c右)。MS−GO−P−300/700のDMSO懸濁液は、5分後に均質で安定であるが、MS−GO−P−460/700(例3)(
図2c右)ほどではない。この試料に関して計算されたSBET表面積は、約270m
2/gであった(表1)。この値は、MS−GO−P−460/700の場合よりも低い。しかしC/O比は13であり(表1)、MS−GO−P460/700の範囲にある。やはり本発明によるプロセスは、改善されたSBET、制御された酸素含量、および優れた分散体の安定性および加工性を持つグラフェンをもたらす。
(例7)(本発明による):400℃での第1のフラッシュ熱処理および700℃での第2の熱処理による、石油化学黒鉛からのグラフェンの調製(MS−GO−P−400/700)
MS−GO−P−400/700の調製
MS−GO−P−400/700は、例3で調製された酸化黒鉛(GO−P)を、出発材料として使用することによって調製した。フラッシュ熱処理の第1のステップでは、GO−P 0.3gを、N
2雰囲気中(100mL/分)、予め400℃に加熱された25cm
3の容積を有する炉内に導入した。次いで試料を室温まで冷却した。熱処理の第2のステップでは、先に得られた試料を炉内に導入し、Ar雰囲気中(3L/分)、加熱速度5℃/分で700℃まで加熱し、試料をこの温度で1時間保持した。そのように得られた試料を、MS−GO−P−400/700と標識した。
【0036】
MS−GO−P−400/700の特徴付け
得られた試料は、綿毛のような外観を示す(
図1c左)。MS−GO−P−400/700のDMSO懸濁液は、5分後に均質で安定であり、MS−GO−P−460/700(例3)(
図2c左)に類似している。この試料に関して計算されたSBET表面積は、約450m
2/gであった(表1)。この値は、MS−GO−P−460/700の場合(実験3)よりも低い。しかしC/O比は15であり(表1)、MS−GO−P460/700の範囲にある。実験3、6、および7を比較して、本発明者らは、最終表面積に対する初期フラッシュ熱分解ステップの寄与が極めて重要であり、一方で第2のステップは、この表面積を制御すると共に所望の還元の程度を実現する必要があることを確認する。本発明によるプロセスは、やはり、改善されたSBET、制御された酸素含量、および優れた分散体の安定性および加工性を持つグラフェンをもたらす。
【0037】
(例8)(本発明による):300℃での第1のフラッシュ熱処理および1000℃での第2の熱処理による、合成黒鉛からのグラフェンの調製(MS−GO−S−300/1000)
MS−GO−S−300/1000の調製
MS−GO−S−300/1000は、例1に記述したHummer法を使用して、合成黒鉛から調製された酸化黒鉛(GO−S)を、出発材料として使用することによって調製した。フラッシュ熱処理の第1のステップでは、GO−S 0.3gを、N
2雰囲気中(100mL/分)、予め300℃に加熱された25cm
3の容積を有する炉内に導入した。次いで試料を室温まで冷却した。熱処理の第2のステップでは、先に得られた試料を炉内に導入し、Ar雰囲気中(3L/分)、加熱速度5℃/分で1000℃まで加熱し、試料をこの温度で1時間保持した。そのように得られた試料を、MS−GO−S−300/1000と標識した。
【0038】
MS−GO−S−300/1000の特徴付け
得られた試料は、綿毛のような外観を示す(
図1d右)。MS−GO−S−300/1000のDMSO懸濁液は、5分後に均質で安定である(
図2d右)。この試料に関して計算されたC/O比は163であり(表1)、この温度で加熱された他の試料に類似している。この試料に関して計算されたSBET表面積は、約530m
2/gであった(表1)。
【0039】
(例9)(比較):加熱速度5℃/分を用いた1000℃での単一ステップ熱処理による、合成黒鉛からのグラフェンの調製(SS−GO−S−1000)
SS−GO−S−1000の調製
SS−GO−S−1000は、例8で調製した酸化黒鉛(GO−S)を、出発材料として使用することにより調製した。GO−Sを炉内で熱処理し、Ar雰囲気中(3L/分)、加熱速度5℃/分で1000℃に加熱し、試料をこの温度で1時間保持した。試料をSS−GO−S−1000と標識した。
SS−GO−S−1000の特徴付け
SS−GO−S−1000(
図1d左)は、MS−GO−S−300/1000とは完全に異なる外観を示す。画像は、各試料22.5mgが占有する容積を示し、容積は、多重ステップMS−GO−S−300/1000による単一ステップで得られた試料の場合よりも非常に大きい。この試料に関するC/O比は159である(表1)。SS−GO−S−10000に関して計算されたSBET表面積は、約270m
2/g、表1、であり、MS−GO−S−300/1000に関して得られた(530m
2/g、表1)よりも非常に少ない。試料SS−GO−S−1000のDMSO懸濁液は、MS−GO−S−300/1000ほど均質ではなく、5分後であっても沈殿する(
図2d左)。
【0040】
(例10)(本発明による):400℃での第1のフラッシュ熱処理および1000℃での第2の熱処理を用いた、合成黒鉛からのグラフェンの調製(MS−GO−S−400/1000)
MS−GO−S−400/1000の調製
MS−GO−S−400/1000は、例1に記述したHummer法を使用して、合成黒鉛から調製された酸化黒鉛(GO−S)を、出発材料として使用することによって調製した。フラッシュ熱処理の第1のステップでは、GO−S 0.3gを、N
2雰囲気中(100mL/分)、予め400℃に加熱された25cm
3の容積を有する炉内に導入した。次いで試料を室温まで冷却した。熱処理の第2のステップでは、先に得られた試料を炉内に導入し、Ar雰囲気中(3L/分)、加熱速度5℃/分で1000℃まで加熱し、試料をこの温度で1時間保持した。そのように得られた試料を、MS−GO−S−400/1000と標識した。
【0041】
MS−GO−S−400/1000の特徴付け
得られた試料は、綿毛のような外観を示す。MS−GO−S−400/1000のDMSO懸濁液は、5分後に均質で安定である。この試料に関して計算されたC/O比は129であり(表1)、この温度で加熱された他の試料に類似している。この試料に関して計算されたSBET表面積は、約355m
2/gであった(表1)。
【0042】
【表1】
【手続補正書】
【提出日】2017年6月7日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 剥離をもたらすのに十分な700℃までの温度で、酸化黒鉛を、不活性雰囲気中でフラッシュ熱処理するステップと、
b) 先のステップで得られた材料を、90℃よりも低く冷却するステップと、
c) 先のステップから得られた材料を、不活性雰囲気中で、ステップa)の温度よりも高い温度で加熱するステップであり、加熱速度が1〜15℃/分の間である、ステップと
を含む、グラフェンを調製するための方法。
【請求項2】
加熱速度が、2〜10℃/分の間である、請求項1に記載のグラフェンを調製するための方法。
【請求項3】
材料が、ステップb)では40℃よりも低い温度で冷却される、請求項1または2に記載のグラフェンを調製するための方法。
【請求項4】
a) 剥離をもたらすのに十分な90℃から700℃までの間に含まれる温度で、酸化黒鉛を、不活性雰囲気中でフラッシュ熱処理するステップと、
b) 先のステップで得られた材料を、40℃よりも低く冷却するステップと、
c) 先のステップで得られた材料を、不活性雰囲気中、700℃よりも高くかつ3000℃までの酸化グラフェン還元温度で、2〜10℃/分の間の加熱速度で加熱するステップと
を含む、請求項1、2、または3に記載のグラフェンを調製するための方法。
【請求項5】
フラッシュ熱処理が、90℃よりも高い温度で実施される、請求項1から4までのいずれか1項に記載のグラフェンを調製するための方法。
【請求項6】
フラッシュ熱処理が、300〜600℃の間の温度で実施される、請求項5に記載のグラフェンを調製するための方法。
【請求項7】
ステップb)の冷却が、周囲温度にまで降下して実施される、請求項2から6までのいずれか1項に記載のグラフェンを調製するための方法。
【請求項8】
ステップc)が、800℃〜2,800℃の間に含まれる温度で実施される、請求項1から7までのいずれか1項に記載のグラフェンを調製するための方法。
【請求項9】
ステップc)が、400℃〜1200℃の間に含まれる温度で実施される、請求項1から7までのいずれか1項に記載のグラフェンを調製するための方法。
【請求項10】
酸化黒鉛が、酸化によって黒鉛から調製される、請求項1から9までのいずれか1項に記載のグラフェンを調製するための方法。
【請求項11】
黒鉛が、黒鉛化によってコークスから得られる、請求項10に記載のグラフェンを調製するための方法。
【請求項12】
反応器の容積/グラフェンの質量が、20〜100cm3/gである、請求項1から11までのいずれか1項に記載のグラフェンを調製するための方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0042
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0042】
【表1】
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕a) 剥離をもたらすのに十分な700℃までの温度で、酸化黒鉛を、不活性雰囲気中でフラッシュ熱処理するステップと、
b) 先のステップで得られた材料を、90℃よりも低く冷却するステップと、
c) 先のステップから得られた材料を、不活性雰囲気中で、ステップa)の温度よりも高い温度で加熱するステップであり、加熱速度が1〜15℃/分の間である、ステップと
を含む、グラフェンを調製するための方法。
〔2〕加熱速度が、2〜10℃/分の間である、前記〔1〕に記載のグラフェンを調製するための方法。
〔3〕材料が、ステップb)では40℃よりも低い温度で冷却される、前記〔1〕または〔2〕に記載のグラフェンを調製するための方法。
〔4〕a) 剥離をもたらすのに十分な90℃から700℃までの間を含む温度で、酸化黒鉛を、不活性雰囲気中でフラッシュ熱処理するステップと、
b) 先のステップで得られた材料を、40℃よりも低く冷却するステップと、
c) 先のステップで得られた材料を、不活性雰囲気中、700℃よりも高くかつ3000℃までの酸化グラフェン還元温度で、2〜10℃/分の間の加熱速度で加熱するステップと
を含む、前記〔1〕、〔2〕、または〔3〕に記載のグラフェンを調製するための方法。
〔5〕フラッシュ熱処理が、90℃よりも高い温度で実施される、前記〔1〕から〔4〕までのいずれか1項に記載のグラフェンを調製するための方法。
〔6〕フラッシュ熱処理が、300〜600℃の間の温度で実施される、前記〔5〕に記載のグラフェンを調製するための方法。
〔7〕ステップb)の冷却が、周囲温度にまで降下して実施される、前記〔2〕から〔6〕までのいずれか1項に記載のグラフェンを調製するための方法。
〔8〕ステップc)が、800℃〜2,800℃の間を含む温度で実施される、前記〔1〕から〔7〕までのいずれか1項に記載のグラフェンを調製するための方法。
〔9〕ステップc)が、400℃〜1200℃の間を含む温度で実施される、前記〔1〕から〔7〕までのいずれか1項に記載のグラフェンを調製するための方法。
〔10〕酸化黒鉛が、酸化によって黒鉛から調製される、前記〔1〕から〔9〕までのいずれか1項に記載のグラフェンを調製するための方法。
〔11〕黒鉛が、黒鉛化によってコークスから得られる、前記〔10〕に記載のグラフェンを調製するための方法。
〔12〕反応器の容積/グラフェンの質量が、20〜100cm3/gである、前記〔1〕から〔11〕までのいずれか1項に記載のグラフェンを調製するための方法。
〔13〕前記〔1〕から〔12〕までのいずれかに定義された方法によって得ることが可能なグラフェン。
【国際調査報告】