特表2017-533172(P2017-533172A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2017-533172単結晶ガリウム含有窒化物の製造方法及びこの方法により製造された単結晶ガリウム含有窒化物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-533172(P2017-533172A)
(43)【公表日】2017年11月9日
(54)【発明の名称】単結晶ガリウム含有窒化物の製造方法及びこの方法により製造された単結晶ガリウム含有窒化物
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/38 20060101AFI20171013BHJP
   C30B 7/10 20060101ALI20171013BHJP
【FI】
   C30B29/38 D
   C30B7/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-533998(P2017-533998)
(86)(22)【出願日】2015年9月9日
(85)【翻訳文提出日】2017年5月2日
(86)【国際出願番号】EP2015070633
(87)【国際公開番号】WO2016038099
(87)【国際公開日】20160317
(31)【優先権主張番号】P.409465
(32)【優先日】2014年9月11日
(33)【優先権主張国】PL
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】517087897
【氏名又は名称】アンモノ ソエテ・アノニム ダブリュ ユパドロスキ リキダシネ
【氏名又は名称原語表記】AMMONO S.A. W UPADLOSCI LIKWIDACYJNEJ
(74)【代理人】
【識別番号】100163991
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 慎司
(72)【発明者】
【氏名】クシャルスキー,ロベルト
(72)【発明者】
【氏名】ザヤック,マルチン
(72)【発明者】
【氏名】フィズクゾラ,ドロタ
(72)【発明者】
【氏名】コロルクズク,ヴェロニカ
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AB01
4G077AB06
4G077BE15
4G077CB03
4G077EB01
4G077EG15
4G077EJ09
(57)【要約】
本発明の主題は、超臨界アンモニア溶媒環境下において、I族元素(IUPAC、1989)を含む鉱化剤を添加して、ガリウムを含有する原料物質からガリウム含有窒化物の単結晶を製造する方法において、オートクレーブ中、2つの温度ゾーン、すなわち、前記原料物質を有する、より低温の溶解ゾーン、及び、少なくとも1つのシードを有し、前記溶解ゾーンより下に位置する、より高温の結晶化ゾーンが作られ、前記原料物質の溶解プロセス、及び、少なくとも1つのシード上でのガリウム含有窒化物の結晶化が行われる方法であって、少なくとも2つのさらなる構成要素、すなわち、c)アンモニアに対するモル比が0.0001〜0.2である酸素ゲッター、d)アンモニアに対するモル比が0.1以下であるアクセプタドーパントがプロセス環境に導入され、前記アクセプタドーパントは、マンガン、鉄、バナジウム、炭素、又はそれらの組合せを含んでいることを特徴とする方法である。本発明はまた、この方法により製造された単結晶ガリウム含有窒化物を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超臨界アンモニア溶媒環境下において、I族元素(IUPAC、1989)を含む鉱化剤を添加して、ガリウムを含有する原料物質からガリウム含有窒化物の単結晶を製造する方法において、
オートクレーブ中、2つの温度ゾーン、すなわち、前記原料物質を有する、より低温の溶解ゾーン、及び、少なくとも1つのシードを有し、前記溶解ゾーンより下に位置する、より高温の結晶化ゾーンが作られ、
前記原料物質の溶解プロセス、及び、少なくとも1つのシード上でのガリウム含有窒化物の結晶化が行われる方法であって、
少なくとも2つのさらなる構成要素、すなわち
a)アンモニアに対するモル比が0.0001〜0.2である酸素ゲッター
b)アンモニアに対するモル比が0.1以下であるアクセプタドーパント
がプロセス環境に導入され、
前記アクセプタドーパントは、マンガン、鉄、バナジウム、炭素、又はそれらの組合せを含んでいることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記アクセプタドーパントが、アンモニアに対するモル比が0.000001〜0.001、より好ましくは0.000005〜0.0005、最も好ましくは0.00001〜0.0001であるマンガンを含んでいることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アクセプタドーパントが、アンモニアに対するモル比が0.000001〜0.01、より好ましくは0.00005〜0.005、最も好ましくは0.0001〜0.001である鉄を含んでいることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記アクセプタドーパントが、アンモニアに対するモル比が0.000001〜0.1、より好ましくは0.0005〜0.05、最も好ましくは0.001〜0.01であるバナジウムを含んでいることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記アクセプタドーパントが、アンモニアに対するモル比が0.000001〜0.1、より好ましくは0.00005〜0.05、最も好ましくは0.0001〜0.01である炭素を含んでいることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記酸素ゲッターが、カルシウム又は希土類元素、より好ましくはガドリニウム、イットリウム、若しくはそれらの組合せを含んでいることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記酸素ゲッター及びアクセプタドーパントが、元素形態、すなわち金属、又は、化合物、より好ましくはアジド、アミド、イミド、アミドイミド及びヒドリドを含む群から選択される化合物として導入される方法であって、各成分が別々に又は組み合わされて導入され、組み合わされて導入される場合には、元素と化合物との混合物、金属間化合物又は合金が使用されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記酸素ゲッター及び/又はアクセプタドーパントが、鉱化剤と共にプロセス環境に導入されることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記鉱化剤が、アンモニアに対するモル比が0.005〜0.5であるナトリウム又はカリウムを含有することを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の方法、
【請求項10】
化学量論組成の窒化ガリウム(GaN)を製造することを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
600cmより大きい容量、より好ましくは9000cmより大きい容量を有するオートクレーブで行われることを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1種のI族元素(IUPAC、1989)を少なくとも0.1ppm含有し、
1×1019cm−3以下、より好ましくは5×1018cm−3以下、最も好ましくは1×1018cm−3以下の濃度で酸素を含有し、
抵抗率が1×10Ωcmより大きい、より好ましくは1×10Ωcmより大きい、最も好ましくは1×1010Ωcmより大きい高抵抗(半絶縁性)材料であることを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載の方法により製造された単結晶ガリウム含有窒化物。
【請求項13】
マンガン、鉄、バナジウム又は炭素から選択されるアクセプタを、総濃度1×1021cm−3以下、より好ましくは1×1020cm−3以下、最も好ましくは1×1019cm−3以下で含有し、前記アクセプタの総濃度に対する酸素濃度の比が1.2以上であることを特徴とする、請求項12に記載の窒化物。
【請求項14】
化学量論組成の窒化ガリウム(GaN)であることを特徴とする、請求項12又は13に記載の窒化物。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、超臨界アンモニア溶媒環境下において、I族元素(IUPAC、1989)を含む鉱化剤を添加して、ガリウムを含有する原料物質からガリウム含有窒化物の単結晶を製造する方法において、オートクレーブ中、2つの温度ゾーン、すなわち、前記原料物質を有する、より低温の溶解ゾーン、及び、少なくとも1つのシードを有し、前記溶解ゾーンより下に位置する、より高温の結晶化ゾーンが作られ、前記原料物質の溶解プロセス、及び、少なくとも1つのシード上でのガリウム含有窒化物の結晶化が行われる方法である。本発明はまた、この方法により製造された単結晶ガリウム含有窒化物を含む。
【背景技術】
【0002】
国際特許公報WO02/101120A2号によると、バルク単結晶ガリウム含有窒化物の製造方法、特に、窒化ガリウム(GaN)を、鉱化剤を含む超臨界アンモニア溶液中で再結晶化することにより製造する方法が知られている。文献WO02/101120A2には、プロセスにおいて使用される反応器(高圧オートクレーブ)の構成について、適切な原料物質、シード、鉱化剤、並びに、温度及び圧力プロセスの過程とともに、詳細かつ包括的に記載されている。WO02/101120A2に開示されているキー情報は、これらの条件下で窒化ガリウムが負の溶解温度係数を有するという事実である。これは、温度が上昇するにつれて溶解度が低下することを意味する。その結果、オートクレーブ内では、原料物質がシードよりも高い位置に配置され、再結晶化段階では、前記シードゾーンの温度は、前記原料物質を含むゾーンの温度よりも高く設定される。このようにプロセスが進行した結果、原料物質が溶解し、シード上の単結晶GaNが成長する。WO02/101120A2は、II族金属(IUPAC、1989)、すなわちアルカリ土類金属、特にカルシウムを、鉱化剤の添加物として又は鉱化剤として使用することについて言及していない。Mg及びZnは、可能なドーパントとして列挙される。得られた単結晶窒化物の電気的性質は記載されていない。
【0003】
ポーランド特許出願P−357706には、アルカリ金属及びアルカリ土類金属(例えば、カルシウム及びマグネシウムが挙げられる)の形態で、アルカリ度類金属がアルカリ金属に対して1:500〜1:5のモル比で使用される、複合鉱化剤が開示されている。当該出願は材料混合の可能性に言及しているが、特定のドーパントの量を規定するものではない。得られた単結晶窒化物の電気的性質は記載されていない
【0004】
次に、ポーランド特許出願PL357700には、アルカリ金属及びアクセプタドーパント(例えば、マグネシウム、亜鉛及びカドミウムが列挙される)の形態の複合鉱化剤が開示されている。アルカリ金属又はアンモニアに対するアクセプタドーパントの一般量は与えられていない。実施例では、主鉱化剤、すなわちカリウムに対し0.05のモル比で使用される、マグネシウムの形態のドーパントが開示されている。当該出願は、鉱化剤として、アルカリ金属と組み合わせてカルシウムを使用することを明示的に言及していない。得られた単結晶窒化物の電気的性質は記載されていない。
【0005】
国際特許公報WO2004/053206A1には、アルカリ金属及び、アルカリ土類金属、好ましくはカルシウム又はマグネシウムの複合鉱化剤、並びに、アルカリ金属及び、マグネシウム、亜鉛又はカドミウムのようなアクセプタドーパントの複合鉱化剤を使用する可能性が再び開示されている。しかしながら、アルカリ金属、カルシウム及びアクセプタドーパントを同時に使用することは開示されていない。得られた単結晶窒化物の電気的性質は記載されていない。
【0006】
国際特許公報WO2005/122232A1には、0.05gのZn又は0.02gのMgを、原料物質の金属ガリウムへの添加物として使用することが開示されている。これは、プロセス条件下で、Zn又はMgの、240gすなわち約14モルの量で用いられるアンモニアに対するモル比が10−5オーダーであることを意味する。このようにして、WO2005/122232A1によると、約10Ωcmの抵抗率を有する、補償された(半絶縁性の)材料が得られる。当該公報には、鉱化剤への添加物としてカルシウム(又は他の酸素ゲッター)を使用することが開示されていない。得られる結晶中の酸素含有量の問題は考慮されていない。
【0007】
最後に、欧州公開公報EP2267197A1では、窒化ガリウムの電気的特性を制御するため、及び、特に、補償された(半絶縁性)材料を得るため、アルカリ金属の形態の鉱化剤と同時に、アンモニアに対し少なくとも0.0001、より好ましくは少なくとも0.001のモル比のアクセプタドーパント、特にマグネシウム、亜鉛又はマンガンを使用することが記載される。亜鉛又はマグネシウムを使用する場合、プロセスの直後にP型物質が得られる。これは、追加の熱処理(アニーリング)によってのみ、半絶縁材料となる。マンガンを使用する場合、プロセスの直後に半絶縁性材料が得られる。この出願では、カルシウム(又は他の酸素ゲッター)を鉱化剤の添加物として使用することは開示していない。得られる結晶中の酸素含有量の問題は議論されていない。
【0008】
現在のところ公開されていないポーランド特許出願PL404149では、ガリウム窒化物を得る方法において、上述した特許出願の開示に従った、アンモニアに対するモル比が1:200〜1:2であるアルカリ金属(グループIの金属、IUPAC 1989)の形態の鉱化剤と共に、少なくとも2つのさらなる構成要素、すなわち
a)アンモニアに対する総モル比が0.0001〜0.2である、カルシウム、希土類元素、又はその組み合わせの形態の酸素ゲッター、及び
b)アンモニアに対する総モル比が0.001以下である、マグネシウム、亜鉛、カドミウム、ベリリウム、又はその組み合わせの形態のアクセプタドーパント
がプロセス環境に導入されるべきことが示唆される。
【0009】
具体的には、出願PL404149には、超臨界アンモニア溶媒環境下において、I族元素(IUPAC、1989)を含む鉱化剤を添加して、ガリウムを含有する原料物質からガリウム含有窒化物の単結晶を製造する方法において、オートクレーブ中、2つの温度ゾーン、すなわち、前記原料物質を有する、より低温の溶解ゾーン、及び、少なくとも1つのシードを有し、前記溶解ゾーンより下に位置する、より高温の結晶化ゾーンが作られ、前記原料物質の溶解プロセス、及び、少なくとも1つのシード上でのガリウム含有窒化物の結晶化が行われる方法であって、少なくとも2つのさらなる構成要素、すなわち
a)アンモニアに対するモル比が0.0001〜0.2である酸素ゲッター
b)アンモニアに対するモル比が0.001以下であるアクセプタドーパント
がプロセス環境に導入されることを特徴とする方法が開示される。
【0010】
出願PL404149の酸素ゲッターとしては、カルシウム又は希土類元素、好ましくはガドリニウム、イットリウム又はそれらの組合せが開示され、アクセプタドーパントとしては、マグネシウム、亜鉛、カドミウム、ベリリウム、又はそれらの組合せが開示されている。
【0011】
上記のゲッター及びアクセプタドーパントを使用せず先に得られたGaN単結晶は、酸素濃度(意図せず成長環境に導入されるもの)が2×1019cm−3であることを特徴としている。(F.Tuomisto,J.−M.Maki,M.Zajac,Vacancy defects in bulk ammonothermal GaN crystals,J.Crystal Growth,312,2620(2010))。結晶格子中に存在する酸素は、2×1019cm−3オーダー又はやや低い、同様の濃度の自由電子を与えるドナーとして作用し(Tuomisto et al.)、これによって前述の材料がn型導電性材料となる。次に、アクセプタドーパントのみの導入によって、酸素濃度は変化しないが、導電性をp型に変化させ、適当な熱処理の後、1011Ωcmオーダーの抵抗率を有する半絶縁性材料を得ることができる(公開公報EP2267197A1)。同時に、Mgアクセプタは、その中に約4×1019cm−までの濃度で存在する(公開公報EP2267197A1 Fig.2)。p型導電性を有する材料については、Mg濃度の操作によって、抵抗率及び自由孔の密度を制御することができる。モル比がMg:NH=0.0001の場合、孔の密度は約1×1018cm−3、抵抗率は9×10Ωであり、モル比がMg:NH=0.00025の場合、それぞれ5×1018cm−3及び8Ωであり、モル比がMg:NH=0.001の場合、それぞれ1×1019cm−3及び1.7Ωとなる(公開公報EP2267197A1実施例1〜4)。
【0012】
出願PL404149の開示によれば、カルシウム又は希土類元素(又はそれらの組合せ)、及びアクセプタドーパント(又は複数のアクセプタドーパント)を同時に使用することで、2つの現象の非常に有利な組み合わせが得られることが判明した。一つには、得られた結晶から酸素を効率的に除去することができる。具体的には、カルシウムの量を操作することで、結晶中の酸素濃度が約1019cm−3〜約1018cm−3の範囲で連続的に変化する。希土類元素の場合、反応環境中でのその広範囲の含有率において、約1018cm−3及びそれ以下の低酸素濃度の単結晶が得られる。他方では、得られる単結晶で非常に有効的に取り入れられたアクセプタドーパントは、意図しないドナー(酸素)を補償し、結晶の電気的特性を制御できる。酸素ゲッターとアクセプタドーパントをプロセス環境へ同時に導入することによって、また、それらの組成(相対的比率)及びタイプを操作することによって、所望の電気的パラメータ(p型、n型、(補償された)半絶縁性材料)のGaN単結晶であって、比較的純度の高い、すなわち酸素及びアクセプタの濃度がEP2267197A1より低いものが得られる。特に、上述の特許出願にあるように、類似した電気的特性を有するGaN単結晶を得るためには、アクセプタドーパントは、EP2267197A1よりも1〜2オーダー低いモル比(対アンモニア)で使用される。特定の場合には、10Ωcmを超える非常に高い電気的抵抗率を有する、アクセプタによって完全に補償された材料が得られる。
【0013】
さらなる研究の過程で、予想外にも、特定の慎重に選ばれた元素、すなわち、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、バナジウム(V)又は炭素(C)を、アクセプタドーパントとして適量使用することが特に有益であることが判明した。これによって、非常に低い酸素濃度と同時に、より高い所望のパラメータ、すなわち、特に電気抵抗率では1010Ωcmを超える材料が得られる。これらのドーパントは、アクセプタ中心が深く、キャリアを効果的に捕捉してトラップし、得られるGaN結晶の抵抗率は高くなる。出願PL404149には、可能なアクセプタドーパントとしてマンガン、鉄、バナジウム又は炭素は開示されておらず、このように高い電気抵抗率を有するガリウム含有窒化物も開示されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、本発明の目的は、酸素含有量が低減され、電気的特性が改善された単結晶ガリウム含有窒化物の製造方法を提供することである。本発明の別の主題は、このような窒化物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によると、超臨界アンモニア溶媒環境下において、I族元素(IUPAC、1989)を含む鉱化剤を添加して、ガリウムを含有する原料物質からガリウム含有窒化物の単結晶を製造する方法において、オートクレーブ中、2つの温度ゾーン、すなわち、前記原料物質を有する、より低温の溶解ゾーン、及び、少なくとも1つのシードを有し、前記溶解ゾーンより下に位置する、より高温の結晶化ゾーンが作られ、前記原料物質の溶解プロセス、及び、少なくとも1つのシード上でのガリウム含有窒化物の結晶化が行われる方法であって、少なくとも2つのさらなる構成要素、すなわち
a)アンモニアに対するモル比が0.0001〜0.2である酸素ゲッター
b)アンモニアに対するモル比が0.1以下であるアクセプタドーパント
がプロセス環境に導入され、前記アクセプタドーパントは、マンガン、鉄、バナジウム、炭素、又はそれらの組合せを含んでいることを特徴とする方法。
【0016】
好ましくは、前記アクセプタドーパントは、アンモニアに対するモル比が0.000001〜0.001、より好ましくは0.000005〜0.0005、最も好ましくは0.00001〜0.0001であるマンガンである。
【0017】
あるいは、好ましくは、前記アクセプタドーパントは、アンモニアに対するモル比が0.000001〜0.01、より好ましくは0.00005〜0.005、最も好ましくは0.0001〜0.001である鉄である。
【0018】
あるいは、好ましくは、前記アクセプタドーパントは、アンモニアに対するモル比が0.000001〜0.1、より好ましくは0.0005〜0.05、最も好ましくは0.001〜0.01であるバナジウムである。
【0019】
あるいは、好ましくは、前記アクセプタドーパントは、アンモニアに対するモル比が0.000001〜0.1、より好ましくは0.00005〜0.05、最も好ましくは0.0001〜0.01である炭素である。
【0020】
好ましくは、前記酸素ゲッターは、カルシウム又は希土類元素、より好ましくはガドリニウム、イットリウム、若しくはそれらの組合せである。
【0021】
好ましくは、前記酸素ゲッター及びアクセプタドーパントは、元素形態、すなわち金属、又は、化合物、より好ましくはアジド、アミド、イミド、アミドイミド及びヒドリドを含む群から選択される化合物として導入され、各成分が別々に又は組み合わされて導入され、組み合わされて導入される場合には、元素と化合物との混合物、金属間化合物又は合金が使用される。
【0022】
好ましくは、前記酸素ゲッター及び/又はアクセプタドーパントは、鉱化剤と共にプロセス環境に導入される。
【0023】
本発明における上記の各成分は、元素形態(金属)でプロセス環境に導入されてもよく、例えば、アジド、アミド、イミド、アミドイミド及びヒドリド等のような様々な化合物であってもよい。これらの原料は、別々に又は組み合わされてプロセス環境に導入されてもよいが、後者の場合、元素や化合物の混合物を使用してもよく、金属間化合物及び合金を使用してもよい。必須ではないが、好ましくは、これらの成分は、鉱化剤と共にプロセス環境に導入され、換言すれば、複合鉱化剤が使用され、これは、アルカリ金属に加えて、前記酸素ゲッター及びアクセプタドーパントをも含有する。
【0024】
好ましくは、前記鉱化剤は、アンモニアに対するモル比が0.005〜0.5であるナトリウム又はカリウムを含有する。
【0025】
特に好ましくは、本発明において、化学量論組成の窒化ガリウム(GaN)が製造される。
【0026】
好ましくは、本発明の方法において、前記プロセスは、600cmより大きい容量、より好ましくは9000cmより大きい容量を有するオートクレーブで行われる。
【0027】
本発明はまた、少なくとも1種のI族元素(IUPAC、1989)を少なくとも0.1ppm含有し、1×1019cm−3以下、より好ましくは5×1018cm−3以下、最も好ましくは1×1018cm−3以下の濃度で酸素を含有するものであって、抵抗率が1×10Ωcmより大きい、より好ましくは1×10Ωcmより大きい、最も好ましくは1×1010Ωcmより大きい高抵抗(半絶縁性)材料であることを特徴とする、前記の方法により製造された単結晶ガリウム含有窒化物を含む。
【0028】
好ましくは、本発明によると、前記窒化物は、マンガン、鉄、バナジウム又は炭素から選択されるアクセプタを、総濃度1×1021cm−3以下、より好ましくは1×1020cm−3以下、最も好ましくは1×1019cm−3以下で含有し、前記アクセプタの総濃度に対する酸素濃度の比が1.2以上である。
【0029】
好ましくは、本発明によると、前記窒化物は、化学量論組成の窒化ガリウム(GaN)である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
ガリウム含有窒化物は、少なくともガリウム原子と窒素原子をその構造内に有する化学化合物である。したがって、少なくとも、二成分化合物のGaN、三成分化合物のAlGaN、InGaN、及び、四成分化合物のAlInGaNであり、好ましくは、ドープされたものより高レベルの実質量でガリウムを含有する。化合物の構造中のガリウムに対する他の元素の組成は、結晶化技術のアンモニウムアルカリの性質を妨げない範囲で変化させることができる。
【0031】
ガリウムを含む原料物質は、ガリウム含有窒化物又はその前駆体である。原料物質としては、金属ガリウム、フラックス法、HNP法、HVPE法で得られたGaN、又は超臨界アンモニア溶媒中での反応によって金属ガリウムから得られた多結晶GaNを用いることができる。
【0032】
鉱化剤は、超臨界アンモニア溶媒に、1種以上のアルカリ金属イオンを提供する物質であって、原料物質(及びガリウム含有窒化物)の溶解を助ける。
【0033】
超臨界アンモニア溶媒は、少なくともアンモニアからなる超臨界溶媒であって、1種以上のアルカリ金属イオンを含有し、ガリウム含有窒化物の溶解を助ける。超臨界アンモニア溶媒はまた、アンモニアの誘導体及び/又はそれらの混合物、特にヒドラジンを含有してもよい。
【実施例】
【0034】
実施例1:半絶縁性GaN(Ca:NH=0.005;Mn:NH=0.00015;Na:NH=0.08)の製造
【0035】
原料物質、すなわちCa2.7g(68mmol)及びMn112mg(2.05mmol)を含有する多結晶GaN113.8g(約1.3mol)を、容量600cmの高圧オートクレーブの溶解ゾーンに配置した。4N純度の金属ナトリウム25.1g(約1.1mol)もオートクレーブに供給した。
【0036】
18枚の単結晶窒化ガリウムプレートをシードとして用いた。当該プレートは、HVPE法又は超臨界アンモニア含有溶液からの晶出によって得られ、c軸に垂直に配向した単結晶で、それぞれ、約25mm(1.5インチ)径、約1000μm厚である。シードは、オートクレーブの結晶化ゾーンに配置した。
【0037】
次に、オートクレーブにアンモニア(5N)を230g(約13.6モル)充填し、オートクレーブを閉じ、加熱器セット中に配置した。
【0038】
溶解ゾーンを(約0.5℃/分の速度で)450℃まで加熱した。この時、結晶化ゾーンは加熱しなかった。溶解ゾーンが所定の温度である450℃に達した後(すなわち、プロセスの開始から約15時間後)、結晶化ゾーン中の温度は約170℃であった。この温度分布を、オートクレーブ内で4日間維持した。この時点で、原料物質、すなわち多結晶GaNは、部分的に溶液に供給されていた。次に、結晶化ゾーン内の温度を(約0.1℃/分の速度で)550℃まで加熱した。この時、溶解ゾーンの温度は変化なく維持された。オートクレーブ内の圧力は、約410MPaであった。このような温度分布により、オートクレーブのゾーン間で対流が生じ、その結果、溶解ゾーン(上部)から結晶化ゾーン(下部)への化学輸送が起こり、そこでシード上に堆積した。温度分布(すなわち、溶解ゾーンで450℃、結晶化ゾーンで550℃)は、そこから56日間(プロセス終了まで)維持された。
【0039】
プロセスの結果として、原料物質(すなわち多結晶GaN)が溶解ゾーンで部分的に溶解し、単結晶窒化ガリウムがシード上で(全てのシード上で)約1.75mm(単結晶のc軸方向で測定)に成長した。このプロセスによって、3×10Ωcmの抵抗率を有する高抵抗(半絶縁)材料が生成した。二次質量イオン分析法により測定された酸素濃度は2.5×1018cm−3であり、Mn濃度は2×1020cm−3であった。
【0040】
実施例2:ドープされたGaNの製造(Gd:NH=0.001;Mn:NH=0.000015;K:NH=0.04)
【0041】
原料物質、すなわちGd31.76g(0.2mol)及びMn166g(3mmol)を含有する金属Ga1.4kg(約20.2mol)を、容量9300cmの高圧オートクレーブの溶解ゾーンに配置した。4N純度の金属カリウム316g(約8.1mol)もオートクレーブに供給した。
【0042】
120枚の単結晶窒化ガリウムプレートをシードとして用いた。当該プレートは、HVPE法又は超臨界アンモニア含有溶液からの晶出によって得られ、c軸に垂直に配向した単結晶で、それぞれ、約25mm(1.5インチ)径、約1000μm厚である。シードは、オートクレーブの結晶化ゾーンに配置した。
【0043】
次に、オートクレーブにアンモニア(5N)を3.44kg(約202モル)充填し、オートクレーブを閉じ、加熱器セット中に配置した。
【0044】
溶解ゾーンを(約0.5℃/分の速度で)450℃まで加熱した。この時、結晶化ゾーンは加熱しなかった。溶解ゾーンが所定の温度である450℃に達した後(すなわち、プロセスの開始から約15時間後)、結晶化ゾーン中の温度は約170℃であった。この温度分布を、オートクレーブ内で4日間維持した。この時点で、ガリウムは、部分的に溶液に供給され、未溶解のガリウムは、完全に多結晶GaNへと反応した。次に、結晶化ゾーン内の温度を(約0.1℃/分の速度で)550℃まで加熱した。この時、溶解ゾーンの温度は変化なく維持された。オートクレーブ内の圧力は、約410MPaであった。このような温度分布により、オートクレーブのゾーン間で対流が生じ、その結果、溶解ゾーン(上部)から結晶化ゾーン(下部)への化学輸送が起こり、そこでシード上に堆積した。温度分布(すなわち、溶解ゾーンで450℃、結晶化ゾーンで550℃)は、そこから56日間(プロセス終了まで)維持された。
【0045】
プロセスの結果として、厚さ約1.8mm(単結晶のc軸方向で測定)のGaN層が(全てのシード上で)得られた。このプロセスによって、3×1012Ωcmの抵抗率を有する高抵抗(半絶縁)材料が生成した。二次質量イオン分析法により測定された酸素濃度は1.8×1018cm−3であり、Mn濃度は8×1018cm−3であった。
【0046】
実施例3:ドープされたGaNの製造(Y:NH=0.002;Mn:NH=0.00005;Na:NH=0.06)
【0047】
容量600cmのオートクレーブを使用し、原料物質固体として金属Ga94.8g(1.36mol)、Y2.4g(約0.27mol)、Mn37mg(0.68mmol)、Na18.8g(0.82mol)を使用した以外は、実施例2と同様の手順で行った。
【0048】
プロセスの結果、厚さ約1.6mm(単結晶のc軸方向で測定)のGaN層が(全てのシード上で)得られた。5×1011Ωcmの抵抗率を有する高抵抗(半絶縁)材料が製造された。二次質量イオン分析法により測定された酸素濃度は2.1×1018cm−3であり、Mn濃度は4×1019cm−3であった。
【0049】
実施例4:ドープされたGaNの製造(Ca:NH=0.01;Fe:NH=0.004;K:NH=0.04)
【0050】
次の物質を原料物質固体として使用した以外は、実施例1と同様の手順で行った。多結晶GaN113.8g(1.36mol)、Ca5.4g(約137mmol)、Fe3.06g(54.7mmol)、K21.4g(0.55mol)。
【0051】
プロセスの結果、厚さ約1.6mm(単結晶のc軸方向で測定)のGaN層が(全てのシード上で)得られた。6×10Ωcmの抵抗率を有する高抵抗(半絶縁)材料が製造された。二次質量イオン分析法により測定された酸素濃度は1.8×1018cm−3であり、Fe濃度は8×1018cm−3であった。
【0052】
実施例5:ドープされたGaNの製造(Gd:NH=0.001;Fe:NH=0.0005;Na:NH=0.1)
【0053】
次の物質を原料物質固体として使用した以外は、実施例1と同様の手順で行った。多結晶GaN113.8g(1.36mol)、Gd2.15g(約13.4mmol)、Fe0.38g(6.8mmol)、Na31.4g(1.4mol)。
【0054】
プロセスの結果、厚さ約1.6mm(単結晶のc軸方向で測定)のGaN層が(全てのシード上で)得られた。7×1010Ωcmの抵抗率を有する高抵抗(半絶縁)材料が製造された。二次質量イオン分析法により測定された酸素濃度は7×1017cm−3であり、Fe濃度は2×1018cm−3であった。
【0055】
実施例6:ドープされたGaNの製造(Y:NH=0.004;V:NH=0.08;K:NH=0.1)
【0056】
容量600cmのオートクレーブを使用し、原料物質固体として金属Ga94.8g(1.36mol)、Y4.9g(約54.7mmol)、V55.8mg(1.1mol)、K53.4g(1.3mol)を使用した以外は、実施例2と同様の手順で行った。
【0057】
プロセスの結果、厚さ約1.6mm(単結晶のc軸方向で測定)のGaN層が(全てのシード上で)得られた。5×10Ωcmの抵抗率を有する高抵抗(半絶縁)材料が製造された。二次質量イオン分析法により測定された酸素濃度は1.7×1018cm−3であり、V濃度は5×1018cm−3であった。
【0058】
実施例7:ドープされたGaNの製造(Ca:NH=0.01;V:NH=0.0075;Na:NH=0.06)
【0059】
次の物質を原料物質固体として使用した以外は、実施例1と同様の手順で行った。多結晶GaN113.8g(1.36mol)、Ca5.4g(約137mmol)、V5.2g(102mmol)、Na18.9g(0.82mol)。
【0060】
プロセスの結果、厚さ約1.6mm(単結晶のc軸方向で測定)のGaN層が(全てのシード上で)得られた。2×1010Ωcmの抵抗率を有する高抵抗(半絶縁)材料が製造された。二次質量イオン分析法により測定された酸素濃度は1.5×1018cm−3であり、V濃度は1×1018cm−3であった。
【0061】
実施例8:ドープされたGaNの製造(Gd:NH=0.002;C:NH=0.003;Na:NH=0.08)
【0062】
次の物質を原料物質固体として使用した以外は、実施例1と同様の手順で行った。多結晶GaN113.8g(1.36mol)、Gd4.3g(約27.3mmol)、C0.5g(41mmol)、Na25.1g(1.1mol)。
【0063】
プロセスの結果、厚さ約1.6mm(単結晶のc軸方向で測定)のGaN層が(全てのシード上で)得られた。4×10Ωcmの抵抗率を有する高抵抗(半絶縁)材料が製造された。二次質量イオン分析法により測定された酸素濃度は1.3×1018cm−3であり、C濃度は3×1019cm−3であった。
【0064】
実施例9:ドープされたGaNの製造(Ca:NH=0.005;C:NH=0.0004;K:NH=0.1)
【0065】
容量600cmのオートクレーブを使用し、原料物質固体として金属Ga94.8g(1.36mol)、Ca2.7g(約68mmol)、C65mg(5.5mmol)、K53.4g(1.3mol)を使用した以外は、実施例2と同様の手順で行った。
【0066】
プロセスの結果、厚さ約1.6mm(単結晶のc軸方向で測定)のGaN層が(全てのシード上で)得られた。3×1011Ωcmの抵抗率を有する高抵抗(半絶縁)材料が製造された。二次質量イオン分析法により測定された酸素濃度は2×1018cm−3であり、C濃度は9×1018cm−3であった。

【国際調査報告】