特表2017-533260(P2017-533260A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2017-5332601つ以上の抗生物質を阻害することができるハイブリッドタンパク質分子およびそれを含有する医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-533260(P2017-533260A)
(43)【公表日】2017年11月9日
(54)【発明の名称】1つ以上の抗生物質を阻害することができるハイブリッドタンパク質分子およびそれを含有する医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20171013BHJP
   C12N 9/78 20060101ALI20171013BHJP
   C12N 9/14 20060101ALI20171013BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20171013BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20171013BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20171013BHJP
   A61P 1/12 20060101ALI20171013BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20171013BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20171013BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20171013BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20171013BHJP
   C12N 15/00 20060101ALN20171013BHJP
【FI】
   C07K19/00
   C12N9/78
   C12N9/14
   C12P21/02 C
   A61P1/00
   A61P31/04
   A61P1/12
   A61P43/00 121
   A61K45/00
   A61K38/00
   C12N15/00 A
   C12N15/00ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】85
(21)【出願番号】特願2017-540322(P2017-540322)
(86)(22)【出願日】2015年10月13日
(85)【翻訳文提出日】2017年4月14日
(86)【国際出願番号】FR2015052756
(87)【国際公開番号】WO2016059341
(87)【国際公開日】20160421
(31)【優先権主張番号】1459935
(32)【優先日】2014年10月16日
(33)【優先権主張国】FR
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】517134755
【氏名又は名称】アズールレックス エスアーエス
【氏名又は名称原語表記】AZURRX SAS
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】デュプレ、ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】シュー、マテュー
(72)【発明者】
【氏名】ヤイス、フィリップ
【テーマコード(参考)】
4B050
4B064
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4B050CC08
4B050DD02
4B050LL01
4B064AG01
4B064CA19
4B064CC24
4C084AA02
4C084AA07
4C084AA19
4C084BA01
4C084BA22
4C084CA53
4C084DC01
4C084DC22
4C084NA14
4C084ZA66
4C084ZB35
4C084ZC75
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA41
4H045CA11
4H045DA89
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、1つ以上の抗生物質の活性を阻害することができる2つ以上のタンパク質を含むハイブリッドタンパク質分子に関し、それらのタンパク質は、各々、異なる生化学的特性を有し、互いに結合している。そのハイブリッドタンパク性分子は、抗生物質によって引き起こされる重篤な下痢などの抗生物質の腸内副作用、および非経口抗生物質療法に続く院内感染を減少させるために、1つ以上の抗生物質の活性を阻害する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の抗生物質の活性を阻害する2つの酵素を含むハイブリッドタンパク質分子であって、前記酵素の一方はβ−ラクタマーゼであり、前記酵素の他方は、β−ラクタマーゼ、アミノグリコシドを阻害する酵素、フルオロキノロンを阻害する酵素、マクロライドを阻害する酵素、テトラサイクリンを阻害する酵素、またはリンコサミドを阻害する酵素のうちから選択される酵素であり、前記酵素は互いに結合されている、ハイブリッドタンパク質分子。
【請求項2】
互いに連結された2つのβ−ラクタマーゼを備えることを特徴とする、請求項1に記載のハイブリッドタンパク質分子。
【請求項3】
アミノグリコシドを阻害する前記酵素は、ホスホトランスフェラーゼ、ヌクレオチジルトランスフェラーゼ、またはアセチルトランスフェラーゼであることを特徴とする、請求項1に記載のハイブリッドタンパク質分子。
【請求項4】
フルオロキノロンを阻害する前記酵素は、アミノグリコシドN−アセチルトランスフェラーゼであることを特徴とする、請求項1に記載のハイブリッドタンパク質分子。
【請求項5】
マクロライドを阻害する前記酵素は、エリスロマイシンエステラーゼまたはエリスロマイシンホスホトランスフェラーゼであることを特徴とする、請求項1に記載のハイブリッドタンパク質分子。
【請求項6】
テトラサイクリンを阻害する前記酵素は、NADPH依存性テトラサイクリンオキシドレダクターゼであることを特徴とする、請求項1に記載のハイブリッドタンパク質分子。
【請求項7】
リンコサミドを阻害する前記酵素は、リンコマイシンヌクレオチジルトランスフェラーゼであることを特徴とする、請求項1に記載のハイブリッドタンパク質分子。
【請求項8】
前記酵素の少なくとも一方の配列が、配列番号1と40%以上の配列相同性を有することを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか一項に記載のハイブリッドタンパク質分子。
【請求項9】
前記酵素の少なくとも一方の配列が、配列番号2と40%以上の配列相同性を有することを特徴とする、請求項1乃至8のいずれか一項に記載のハイブリッドタンパク質分子。
【請求項10】
前記酵素の少なくとも一方の配列が、配列番号3と40%以上の配列相同性を有することを特徴とする、請求項1乃至9のいずれか一項に記載のハイブリッドタンパク質分子。
【請求項11】
前記酵素の少なくとも一方の配列が、配列番号4と40%以上の配列相同性を有することを特徴とする、請求項1乃至10のいずれか一項に記載のハイブリッドタンパク質分子。
【請求項12】
前記酵素の少なくとも一方の配列が、配列番号5と40%以上の配列相同性を有することを特徴とする、請求項1乃至11のいずれか一項に記載のハイブリッドタンパク質分子。
【請求項13】
前記酵素の少なくとも一方の配列が、配列番号6と40%以上の配列相同性を有することを特徴とする、請求項1乃至12のいずれか一項に記載のハイブリッドタンパク質分子。
【請求項14】
前記酵素の少なくとも一方の配列が、配列番号7と40%以上の配列相同性を有することを特徴とする、請求項1乃至13のいずれか一項に記載のハイブリッドタンパク質分子。
【請求項15】
前記酵素が、一本鎖タンパク質に融合されていることを特徴とする、請求項1乃至14のいずれか一項に記載のハイブリッドタンパク質分子。
【請求項16】
前記酵素が、架橋による共有結合により互いに連結されていることを特徴とする、請求項1乃至14のいずれか一項に記載のハイブリッドタンパク質分子。
【請求項17】
腸内細菌叢の変化の予防において使用するための、請求項1乃至16のいずれか一項に記載のハイブリッドタンパク質分子を含む、ヒトまたは獣医学的な使用のための医薬組成物。
【請求項18】
院内感染の予防において使用するための、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
抗生物質の投与に伴う下痢の予防において使用するための、請求項17または18に記載の医薬組成物。
【請求項20】
経口投与用の剤形であることを特徴とする、請求項17乃至19のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項21】
1つ以上の胃保護剤を含むことを特徴とする、請求項17乃至20のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項22】
生きた非ヒト組換え生物において、請求項1乃至16のいずれか一項に記載のハイブリッドタンパク質分子を製造するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胃腸管細菌叢における抗生物質の作用および耐性細菌株の選択に続く抗生物質の副作用の予防に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓は、非常に多くの非経口投与される抗生物質を、活性形態で、非修飾の活性形態で、または活性代謝物として胆汁に排出し得る。これらの抗生物質は回腸に再吸収されることにより門脈を介して肝臓に戻り、最終的には排泄され得る。この循環は腸肝循環と言われる。
【0003】
消化管において非修飾の活性形態でまたは活性代謝物として排泄される場合、これらの抗生物質は、腸および結腸の正常な微生物叢を形成する細菌集団に対して選択圧を与えることがある。このような微生物の選択は、抗生物質によって誘発される急性下痢の発生、ならびに耐性細菌株の選択および拡散という2つの主な結果をもたらす。
【0004】
抗生物質によって引き起こされる急性下痢の発症は、一般に、非経口の広域抗生物質で観察される。頻度および重症度は、治療期間、使用される抗生物質の活性スペクトルおよび投薬量を含む様々な要因によって決定される(非特許文献1)。抗生物質によって誘発される急性下痢は、それによって、アモキシシリンによる抗生物質療法を受けている全患者の約5〜10%、アモキシシリン−クラブラン酸混合では10〜25%、ならびに第三世代のセファロスポリン、フルオロキノロン、アジスロマイシン、クラリスロマイシン、エリスロマイシンおよびテトラサイクリンでは2〜5%で観察されている(非特許文献2;非特許文献3、非特許文献4;非特許文献5)。
【0005】
抗生物質によって引き起こされる急性下痢の症例の大部分は良性であるが、すべての症例のうち10〜20%において重篤な大腸炎を伴うことがある。ほとんどの場合、この大腸炎は、ほとんどの抗生物質に耐性を持つ胞子形成性のグラム陽性嫌気性細菌であるクロストリジウム・ディフィシレ(Clostridium difficile)の選択に続いている(非特許文献6;非特許文献7)。この細菌の病原性は、毒素Aと毒素Bとの両方の生成に関連する。これらの毒素は、粘膜固有層における好中球の動員を伴う強烈な炎症反応、および最も重篤な形態では偽膜性大腸炎(結腸直腸粘膜の外観からそのように称される)を誘発する(非特許文献8)。偽膜性大腸炎による死亡率は、特に小児および高齢者において高い。これらの大腸炎は、2010年に米国において7200人以上の死亡原因となった(非特許文献9)。クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)、クロストリジウム・パーフリンジェンス(Clostridium perfringens)A型、スタフィロコッカス・アウレウス(Straphylococcus aureus)およびカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)など他の病原体は、抗生物質によって誘発される様々な重症度の急性下痢の原因となり得る(非特許文献10;非特許文献11)。
【0006】
抗生物質が腸の微生物叢に与える選択圧もまた、環境中の耐性細菌の蔓延に寄与する。これらの微生物によって引き起こされる病院中の感染の大部分は、院内感染としても知られ、集中治療室および手術室中で特に一般的であり深刻である。特に、それらには、カテーテル感染、尿路感染、肺疾患および術後感染が含まれる。それらは、主に、グラム陰性腸内細菌、コアグラーゼ陽性または陰性ブドウ球菌、腸球菌およびカンジダ・アルビカンスによって引き起こされる(非特許文献12)。
【0007】
院内感染は重大な死因であり、大きな健康問題である。抗生物質治療の広範な使用に続く耐性細菌の出現は、これらの院内感染の治療を複雑にし、社会に相当なコストを突き付ける。欧州においては、院内感染は、毎年およそ25,000人の死亡の直接的原因であり、年間15億ユーロを超える医療費と生産性の損失が推測される(非特許文献13)。米国においては、毎年、約170万人の院内感染が、直接的または間接的に、約99,000人の死亡原因となっている(非特許文献14)。
【0008】
抗生物質、特にテトラサイクリンは、家畜および愛玩動物の治療で獣医学において広く使用されている。さらに、これらの抗生物質の使用は、家畜の成長および体重増加を助けるために米国において許可されている。当然ながら、この集中的な使用は、環境中の耐性細菌の拡散に関与する(非特許文献15;非特許文献16、非特許文献17)。
【0009】
β−ラクタム
β−ラクタムは、グラム陽性およびグラム陰性細菌の細胞壁の必須成分であるペプチドグリカンの形成に関与するトランスペプチダーゼおよびトランスグリコシラーゼを阻害する(非特許文献18)。それらには、β−ラクタム環、ならびにそれらの薬物動態特性および抗菌スペクトルの有効性を改変する可変側鎖(例えば、第一、第二、第三および第四世代のセファロスポリン)がある(非特許文献19)。このクラスは、ペニシリン、セファロスポリン、カルバペネムおよびモノバクタムを含む。
【0010】
β−ラクタム系抗生物質は、最も一般的に処方されている抗菌剤である。それらは、様々なタイプの感染(例えば、耳、呼吸器および胃腸感染)のために臨床的に広く使用されている。いくつかの投与経路が使用され得るが、通常、病院で治療される重度の敗血症に対しては非経口経路が好ましい。それらは、アモキシシリン/クラブラン酸と、非定型肺炎の場合のマクロライドとの組合せなど、重篤な感染のための他のクラスの抗生物質と頻繁に組み合わせられる。
【0011】
β−ラクタム抗生物質の集中的使用は、細菌耐性の出現を助けてきた。主なメカニズムは、β−ラクタマーゼの獲得であり、これはβ−ラクタムコアを加水分解することができる酵素である。現在まで、配列相同性(基質および阻害剤)に従いファミリーに分類され得る数百または数千もの異なるβ−ラクタマーゼが存在する。これらの酵素は、一般的に、それらの選択的な基質に従って分類される(ペニシリナーゼ、セファロスポリナーゼ、イミペネマーゼなど)。さらに、β−ラクタマーゼは、阻害剤に対して耐性を持つようになる、または最新のβ−ラクタムに対してそれらの作用スペクトルを広げるように進化している(非特許文献19;非特許文献20)。これらの阻害剤(クラブラン酸、スルバクタムなど)は、一般的に、β−ラクタムと同時に投与され、細菌性β−ラクタマーゼと不可逆的に結合する。
【0012】
アンブラー(Ambler)の分類は、これらのβ−ラクタマーゼ酵素の巨大な多様性を示す。それらは、それらのヌクレオチド配列に従って、4つのファミリー(A、B、CおよびD)に分類される(非特許文献21)。グループA、CおよびDは触媒性セリンを有し、一方、グループBは亜鉛依存性メタロ−β−ラクタマーゼを含む。
【0013】
クラスAのβ−ラクタマーゼは、TEM型酵素(非特許文献22)、ペニシリン耐性の祖先酵素、およびアミノペニシリン(例えば、アンピシリン、アモキシシリン、バカンピシリン)を含むいくつかのサブファミリーを含む。TEM−36は、IR−TEMであり、すなわち、クラブラン酸耐性のβ−ラクタマーゼである(非特許文献23;非特許文献24;非特許文献25);TEM−36すなわちIRT−7の識別子はラエイクリニック(Lahey Clinic)のサイト(http://www.lahey.org/
Studies/temtable.asp)上にある。クラブラン酸は、古典的β−ラクタマーゼ(TEM−1)を獲得した細菌に対して抗生物質スペクトルを広げるために、アモキシシリンと共に臨床的に使用される。選択圧の下で、TEMは、現在よく特徴付けられているいくつかのアミノ酸を突然変異させることによって、阻害剤に対して徐々に耐性を持つようになる(非特許文献25)。
【0014】
クラスAのβ−ラクタマーゼの中で、本発明者らは、セフォタキシマーゼを見出しており、これは、TEMから進化して第三世代のセファロスポリンにスペクトルを広げた酵素である(非特許文献26)。例えば、酵素CTX−M16(タンパク質のGenbank識別子:AAK32961)は、他のペニシリンと比較した場合、セフォタキシムを選択的に加水分解する(非特許文献27)。
【0015】
遺伝子blaZによってコードされるPC1酵素(タンパク質のUniProtKB/Swiss−Prot識別子:P00807)は、クラスAのβ−ラクタマーゼ触媒血清である(非特許文献28;非特許文献29;非特許文献30;非特許文献31)。コアグラーゼ陽性の黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)およびメチRバチルス・スブチリス(Bacillus subtilis)によって生成されるこの酵素は、メチシリンのβ−ラクタム環を加水分解する(非特許文献32)。
【0016】
アミノグリコシド
アミノグリコシドは、アミノシドとも呼ばれ、グリコシド架橋によって中央のアミノシクリトールコアに連結されたアミノ糖である。この中心コアの構造は、3つのグループ:ストレプトマイシン類(ストレプトマイシン)、デスオキシストレプタミン類(desoxystreptamins)(カナマイシン、アミカシン、ゲンタマイシン)、およびフォーチミシン類(ダクタマイシン(Dactamicin))を区別するために使用される。
【0017】
アミノグリコシドの理論上の抗生物質スペクトルは非常に広く、好気性のグラム陰性細菌(桿菌、球菌および球桿菌)、陽性または陰性のコアグラーゼブドウ球菌およびグラム陽性桿菌を含む。さらに、ストレプトマイシンはヒト型結核菌(Mycobacterium tuberculosis)に対して活性があり、アミカシンは非定型マイコバクテリア(マイコバクテリウム・アビウム・イントラセルラーレ(Mycobacterium avium intracellulare)など)およびノカルディア・アステロイデス(Nocardia asteroides)に対して活性がある。アミノグリコシドは、β−ラクタムおよびバンコマイシンの相乗活性を有する。
【0018】
アミノグリコシドは、消化管にほとんどまたは全く吸収されないので、通常、非経口投与される。それらは、主に、そのままの形態で、主として糸球体濾過によって尿中に排出され(投与された投薬量の85〜90%が24時間以内に排出される)、腸肝循環を伴わずに胆汁中にはより少ない程度で排出される(抗生物質に準じて投与された投薬量の約0.5〜2%)(非特許文献33)。このアミノグリコシドの胃排出は、耐性細菌の選択をもたらし、クロストリジウム・ディフィシレによる偽膜性大腸炎のわずかに増加したリスクにさらす(非特許文献7)。
【0019】
アミノグリコシドの殺菌効果は、多数の病原体に対して速やかである。アミノグリコシドは、原核生物の30Sリボソームサブユニットに固定され、細菌翻訳の正確さを変える(非特許文献34)。ほとんどのアミノグリコシドは、解読部位(A部位)において、30SリボソームサブユニットのRNA成分である16SリボソームRNAと結合する。
【0020】
細菌は、同じ細胞内に共存し得る3つの主なメカニズムによって、アミノグリコシドに
対する耐性を発現し得る(非特許文献35)。第一の染色体メカニズムは、メチル化を介して、そのリボソーム標的である16SリボソームRNAに対するアミノグリコシドの親和性の低下をもたらす(非特許文献36)。第二のメカニズムは、膜透過性の改変による細胞透過性不全(非特許文献37)、または活性メカニズムによる細胞の外へのアミノグリコシド流出(非特許文献1)に基づく。最後に、酵素不活性化は、最も頻繁に観察されるメカニズムである。これらの酵素をコードする遺伝子は、プラスミドおよび/またはトランスポゾンによって担持される。それによって、その耐性は移動可能であり、多くの場合、病院で蔓延する。これらの酵素は、様々な化学基を有するアミノグリコシドの不可逆的結合を触媒し、3つのクラスに分類される(非特許文献38;非特許文献35)。ホスホトランスフェラーゼ(APH)はATPまたはGTPのリン酸基の転移反応を触媒し、ヌクレオチジルトランスフェラーゼ(ANT)はアデニル基の転移を可能にして基質としてATPを使用し、アセチルトランスフェラーゼ(AAC)は基質としてアセチル−CoAを用いてアセチル基を転移する。各々の酵素クラスは、アミノグリコシドの置換基に従って異なるサブクラスを有する。同じ酵素は、同一の分子部位を有するいくつかのアミノグリコシドを不活性化することができる。
【0021】
AAC(6’)−Ib−cr(タンパク質のGenbank識別子:ABC17627.1)は、腸内細菌によって天然に生成されるN−アセチルトランスフェラーゼファミリー由来の酵素である。これは、6’位にある−NH基のアセチル化を触媒し、この酵素にサブクラスAAC(6’)における他の酵素と同一の耐性プロファイルを与える(非特許文献39)。AAC(6’)ファミリーにある他の酵素と同様に、AAC(6’)Ib−crは、アミカシンと、ゲンタマイシンのC1aおよびC2エナンチオマーとを含む広範なアミノグリコシドに対して活性があるが、ゲンタマイシンのC1エナンチオマーに対しては非常に低い活性を有する(非特許文献39)。AAC(6’)−Ib−crは、おそらくTrp102ArgおよびAsp179Tyr残基の突然変異による酵素AAC(6’)−Ibの進化によるものである。これは、フルオロキノロンであるシプロフロキサシンに対する酵素活性の獲得をもたらし、その活性はノルフロキサシンおよびペフロキサシンについて相当低い。
【0022】
フルオロキノロン
フルオロキノロン(例えば、ノルフロキサシン、オフロキサシン、シプロフロキサシンおよびペフロキサシン)は、化学修飾、特にフッ素原子の付加によって、キノロンに由来する合成殺菌性抗生物質の大きなクラスを形成する。
【0023】
フルオロキノロンは、抗生物質ごとに異なる広域スペクトルの抗生物質である。フルオロキノロンのスペクトルは、グラム陰性桿菌(サルモネラ属種(Salmonella spp.)、エシェリキア属種(Escherichia spp.)、シゲラ属種(Shigella spp.)、プロテウス属種(Proteus spp.)、エンテロバクター属種(Enterobacter spp.)、ピロリ菌(Helicobacter pylori))、グラム陽性球菌(陽性および陰性コアグラーゼブドウ球菌、連鎖球菌、腸球菌)、グラム陰性球菌(淋菌、髄膜炎菌)およびグラム陽性桿菌を含む。
【0024】
フルオロキノロンの組織分布は、脳脊髄液、前立腺、骨および胆汁においてさえも優れている。それにより、フルオロキノロンは、組織感染(髄膜炎、肺炎、骨および関節感染、上部尿路の感染、または前立腺感染など)の場合に広く使用されている。しかしながら、フルオロキノロンの血清レベルは、しばしば低く、ある種の細菌のMIC(最小発育阻止濃度)よりも低く、細菌耐性の出現に有利である。
【0025】
フルオロキノロンの排出は、使用される製品に依存する。ペフロキサシンについては、主に肝臓であるが、オフロキサシンおよび他のフルオロキノロンについては、主に腎臓で
ある。それらの胆管および消化器系の排出は、クロストリジウム・ディフィシレによる、特に、とりわけ有毒な菌株BI/NAP1/027による偽膜性大腸炎のリスクの主な原因となる(非特許文献40;非特許文献41;非特許文献42)。
【0026】
フルオロキノロンは、DNAジャイレースと細菌トポイソメラーゼIIおよびIVとを標的とする。それらは、これらの酵素と細菌DNAとの間で不可逆的な複合体を形成し、DNA複製を阻止し、その細菌の死を引き起こす。
【0027】
4つのキノロン耐性メカニズムが特徴付けられている(非特許文献44):(i)抗生物質の細胞内濃度の低下を引き起こす、流出ポンプの活性の増加(非特許文献43)、(ii)DNAジャイレースまたはトポイソメラーゼIVに結合するタンパク質の生成、それらの保護ならびにフルオロキノロンの固定化(非特許文献44)、(iii)これらの標的に対するフルオロキノロンの親和性の減少による高レベル耐性の原因となるDNAジャイレースまたはトポイソメラーゼIVの修飾(非特許文献44)、(iv)最後に、シプロフロキサシン、ならびにより少ない程度でノルフロキサシンおよびペフロキサシンの修飾を異化することができるアミノグリコシドN−アセチルトランスフェラーゼであるAAC(6’)Ib−crの生成(タンパク質のGenbank識別子:ABC17627.1)(非特許文献39)。
【0028】
頻度が急速に増加するこれらの耐性のメカニズムは、コアグラーゼ陽性黄色ブドウ球菌、β−溶血性連鎖球菌および腸球菌を含む多数の細菌種において同定されている(非特許文献44)。
【0029】
マクロライド
マクロライドは、比較的限られた数の典型(例えば、エリスロマイシン、スピラマイシン、ジョサマイシン、クラリスロマイシン、ロキシスロマイシン、アジスロマイシンおよびテリトロマイシン)を有する天然および半合成の抗生物質の均質なファミリーである。
【0030】
マクロライドの活性スペクトルは比較的広く、好気性グラム陽性球菌(連鎖球菌、肺炎球菌、腸球菌および黄色ブドウ球菌)および嫌気性グラム陰性球菌と、グラム陰性球菌と、ピロリ菌などのグラム陰性桿菌と、レジオネラ・ニューモフィリア(Legionella pneumophilia)、マイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae)およびマイコプラズマ・ウレアリチカム(Mycoplasma urealyticum)、クラミジア・ニューモニエ(Clamydiae pneumoniae)ならびにクラミジア・トラコマチス(Clamydiae trachomatis)などの厳密な細胞内複製を伴う様々な細菌とを含む。しかしながら、腸内細菌は、それらの外側細胞膜がマクロライドなどの疎水性分子の通過を妨げるので、マクロライドに対して本質的に耐性を持つ。
【0031】
マクロライドは、脳脊髄液、脳および尿を除いて、体内に広く分布される。排出は、主に胆汁の排出であり、シトクロムP450による代謝後である。マクロライドの投与は、クロストリジウム・ディフィシレの選択に続く偽膜性大腸炎のリスク増加と関連している(非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4;非特許文献5)。
【0032】
マクロライドは、サイトPで原核生物リボソームの50Sサブユニットと可逆的に結合する阻害剤である。それにより、サイトPからサイトAへのペプチジル−tRNA複合体(トランスファーRNA)の転移および解離を阻止し、それによりペプチド鎖伸長を妨げる(非特許文献45)。
【0033】
マクロライドに対する3つの耐性メカニズムが知られている(非特許文献46;非特許
文献47):(i)50SリボソームRNAを形成している細菌の23SリボソームRNAのメチル化または突然変異による標的の変化。この耐性メカニズムは、最も頻繁に遭遇するものであり、マクロライド、リンコサミドおよびストレプトグラミンBである(非特許文献48)。(ii)細胞内濃度の低下をもたらす、抗生物質を細胞外に漏出する細胞ポンプによる生成、(iii)リボソームに対するマクロライドの親和性が大きく低下するような、マクロライドを修飾する酵素(エステラーゼエリスロマイシンおよびホスホトランスフェラーゼエリスロマイシン)による不活性化。このタイプの耐性はまた、移動性遺伝要素によって伝達される。
【0034】
エリスロマイシンエステラーゼ酵素は、マクロラクトンコアの加水分解によってマクロライドを不活性化する。これらの酵素の大部分は、ereA(非特許文献49)およびereB(非特許文献50)の2つのサブクラスに属する。酵素ereB(UniProtKB/Swiss−Prot識別子:P05789.1)は非常に広域なスペクトルを有する(エリスロマイシン、クラリスロマイシン、ロキシスロマイシンおよびアジスロマイシン)が、テリトロマイシンは加水分解に耐性を持つ(非特許文献51)。
【0035】
テトラサイクリン
サイクリンまたはテトラサイクリンは、テトラサイクリン(例えば、クロロテトラサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン)に由来する殺菌性抗生物質のファミリーである。これらの分子は、4つの縮合環を有するという特徴を有し、したがってその名称を有する。
【0036】
テトラサイクリンの活性スペクトルは、多数の好気性および嫌気性のグラム陽性細菌およびグラム陰性細菌に及ぶ。テトラサイクリンは、マイコプラズマ属種(Mycoplasma spp.)、クラミジア属種(Chlamydia spp.)、リケッチア(Rickettsies)トレポネーマ(treponeme)、およびいくつかの原虫(バベシア・ディバージエンス(Babesia divergens)、バベシア・ミクロチ(Babesia microti)、タイレリア・パルバ(Theileria
parva))などの非在来型病原菌に対しても活性がある。マイコバクテリア、および腸内細菌科のプロテウス、およびシュードモナスは、天然で耐性を持つ。
【0037】
大部分のテトラサイクリンは、クロロテトラサイクリンを除いて、活性形態で糸球体濾過によって除去される。また、テトラサイクリンは、腸肝循環を伴う胆汁中に排出される。テトラサイクリンの使用はまた、クロストリジウム・ディフィシレの選択に続く偽膜性大腸炎のリスクの増加と関連している(非特許文献2;非特許文献3、非特許文献4;非特許文献5)。
【0038】
サイクリンファミリー由来の抗生物質は、リボソーム30SサブユニットのサイトAのアミノアシル−tRNAの固定化を阻害し、それにより翻訳を阻害する(非特許文献52)。少なくとも3つの耐性のメカニズムが同定されている:(i)テトラサイクリンの細胞内濃度の低下を誘導する、流出タンパク質の発現、(ii)テトラサイクリンの結合を妨げる、分子標的の酵素修飾、(iii)NADPH依存性テトラサイクリンオキシドレダクターゼであるTetX(タンパク質のGenBank識別子:AAA27471.1)(非特許文献53)による不活性化。この酵素は、すべてのテトラサイクリンに対して細菌耐性を誘導する。
【0039】
リンコサミド
リンコサミド(リンコマイシンおよびその半合成誘導体クリンダマイシン)は、その化学構造はマクロライドと異なるものの類似の作用様式を有する静菌性抗生物質であり、スペクトグラミン(spectogramin)BとともにMLS(マクロライド、リンコ
サミドおよびストレプトグラミン)と呼ばれる単一ファミリーにグループ化されている。
【0040】
リンコサミドの作用スペクトルは、グラム陽性細菌の大部分(例えば、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)、コリネバクテリウム・ジフテリア(Corynebacterium diphtheria)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)、MSSAおよびMRSA、B型ブドウ球菌、分類できないブドウ球菌、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumonia)、化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes))をカバーするが、大便連鎖球菌(Streptococcus faecalis)などのいくつかの例外があり、かつ、非常に多数の嫌気性細菌をカバーするが(例えば、アクチノミセス、バクテロイデス、フソバクテリウム、プロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes))、クロストリジウム・ディフィシレの注目すべき例外がある。ほとんどのグラム陰性細菌は、ほんのわずかな例外(例えば、百日咳菌(Bordetella pertussis)、カンピロバクター、クラミジア、ヘリコバクターおよびレジオネラ)を除いて耐性を持つ。
【0041】
リンコサミドは、主に、腎臓によって排出され、腸肝循環を伴う胆汁中にはより少ない程度で排出される。胃腸管からのそれらの排出およびそれらの抗菌活性は、クロストリジウム・ディフィシレ選択による高頻度の偽膜性大腸炎の主な原因となる。
【0042】
マクロライドと同様に、リンコサミドは、サイトAおよびサイトPにおいて、50Sリボソームサブユニットと可逆的に結合することによって細菌翻訳を阻害する(非特許文献54)。リンコサミドを用いて獲得された3つの耐性メカニズムが知られている(非特許文献46):(i)50SリボソームRNAを構成している細菌の23SリボソームRNAのメチル化または突然変異による標的の変化。この耐性メカニズムは、最も頻繁に遭遇するものであり、マクロライド、リンコサミドおよびBストレプトグラミンに共通する(非特許文献48)、(ii)細胞内濃度の低下を引き起こす、細胞外へ抗生物質を流出させるポンプの細菌による発現、(iii)リンコサミドの分子標的に対する親和性を減少させるリンコサミドの酵素不活性化。
【0043】
リンコサミドを不活性化することができる酵素は、ブドウ球菌におけるリンコマイシンヌクレオチジルトランスフェラーゼIne(A)またはlin(A)、エンテロコッカス・フェシウムにおけるInu(B)またはlin(B)、および嫌気性生物におけるlinB様のファミリーに属する(非特許文献55;非特許文献56)。例えば、酵素Inu(B)(タンパク質のUniProtKB/TrEMBLication:Q9WVY4)は、リンコマイシンおよびクリンダマイシンの3位のヒドロキシル基に対するアデニル残基の転移を触媒する(非特許文献56)。
【0044】
これらの抗生物質の副作用への対抗
先行技術は、腸において以前に報告された有害反応を低減することを目的とする、抗生物質の阻害剤に精通している。これらの阻害剤は、本質的にβ−ラクタムを標的とし、主に、腸管内におけるそれらの拡散のために経口投与されるβ−ラクタマーゼからなる。
【0045】
特許文献1は、医療用途、医療処置および医薬製剤に関する。本発明は、非経口的に投与されるβ−ラクタムの作用を標的とすることができ、β−ラクタマーゼなどの酵素を、抗生物質と別にまたは同時に、経口的に投与することにより、消化管における抗生物質の一部の不活性化に起因した有害反応を減少させることができる。これは抗生物質の分解をもたらす。
【0046】
特許文献2は、β−ラクタムとβ−ラクタマーゼ阻害剤とを組み合わせた抗生物質治療
に伴う腸における副作用を減少させるために、同様の方法で、クラスAのβ−ラクタマーゼ、より具体的にはP1A酵素を使用している。
【0047】
P1Aのβ−ラクタマーゼの有効性は、臨床前および臨床的に評価された。この酵素は、アミノペニシリン(例えば、アモキシシリン)およびウレイドペニシリン(例えば、ピペラシリン)を加水分解するが、β−ラクタム阻害剤に感受性がある。アンピシリンの非経口投与と同時の、イヌにおける経口投与は、用量依存的に、これらの動物の空腸内腔において検出されたアンピシリンの量を減少させた。さらに、P1Aのβ−ラクタマーゼの存在は循環中に検出されず、アンピシリンの血清濃度は有意に改変されなかった(非特許文献57;非特許文献58)。ピペラシリンの非経口投与を受けたマウスにおけるこの酵素の経口投与は、糞便において、この抗生物質に対する耐性微生物(VRE−エンテロコッカス・フェシウム、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)およびカンジダ・グラブラタ(Candida glabrata))の数を非常に有意に減少させた(非特許文献59;非特許文献60)。
【0048】
最後に、P1Aのβ−ラクタマーゼの経口投与が、アンピシリンの静脈内投与後に健常者においてアンピシリン耐性の腸内細菌科の分離菌の数を減少させるとともに、他のクラスの抗生物質に耐性を持つ、特にテトラサイクリンに耐性を持つ腸内細菌科の分離菌の数を減少させたことが、臨床試験によって実証された(非特許文献61)。
【0049】
β−ラクタマーゼの他のクラスに属する組換えβ−ラクタマーゼ酵素も開発されている。特許文献3は、カルバペネムを受けている患者において腸における副作用を減少させるためのメタロ−β−ラクタマーゼ変異体およびその合成を記載している。
【0050】
先行技術は、腸におけるこれらの酵素の送達を標的とするための剤形も含む。特許文献4は、エリスロマイシンエステラーゼなどのマクロライドを阻害することができる酵素の、結腸に限定された送達のための経口投与用の多粒子剤形を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0051】
【特許文献1】欧州特許第0671942号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第2086570号明細書
【特許文献3】欧州特許第2038411号明細書
【特許文献4】仏国特許第2843303号明細書
【非特許文献】
【0052】
【非特許文献1】アイルズ(Aires)、ケーラー(Kohler)ら、1999年
【非特許文献2】ギルバート(Gilbert)、1994年
【非特許文献3】バートレット(Bartlett)、1996年
【非特許文献4】ホゲナウアー(Hogenauer)、ハンマー(Hammer)ら、1998年
【非特許文献5】ウィストロム(Wistrom)、ノルビー(Norrby)ら、2001年
【非特許文献6】ガーディング(Gerding)、1989年
【非特許文献7】アナンド(Anand)、バシェイ(Bashey)ら、1994年
【非特許文献8】ケリー(Kelly)、ポトウラキス(Pothoulakis)ら、1994年
【非特許文献9】シェリー(Sherry)、マーフィー(Murphy)ら、2012年
【非特許文献10】スパークス(Sparks)、カーマン(Carman)ら、2001年
【非特許文献11】ゴルキューイシツ(Gorkiewicz)、2009年
【非特許文献12】リチャーズ(Richards)、エドワーズ(Edwards)ら、2000年
【非特許文献13】ECDC/EMEA合同作業部会(Joint Working Group)、2009年
【非特許文献14】クレベンス(Klevens)、エドワーズ(Edwards)ら、2007年
【非特許文献15】米国医学研究所(Institute of Medicine)、1998年
【非特許文献16】食品動物における薬物使用に関する委員会(Committee on Drug Use in Food Animals)、1999年
【非特許文献17】ジョージタウン大学食品栄養政策センター(Georgetown University Center for Food and Nutrition Policy)、1999年
【非特許文献18】ウォルシュ(Walsh)、2000年
【非特許文献19】ターナー(Turner)、2005年
【非特許文献20】ドローズ(Drawz)およびボノモ(Bonomo)、2010年
【非特許文献21】アンブラー(Ambler)、1980年
【非特許文献22】ブッシュ(Bush)およびヤコビ(Jacoby)、1997年
【非特許文献23】ゾウ(Zhou)、ボードン(Bordon)ら、1994年
【非特許文献24】ヘンケル(Henquell)、チャナル(Chanal)ら、1995年
【非特許文献25】チャイビ(Chaibi)、シロット(Sirot)ら、1999年
【非特許文献26】サルバーダ(Salverda)、デ ヴィッサー(De Visser)ら、2010年
【非特許文献27】ボンネット(Bonnet)、デュトーア(Dutour)ら、2010年
【非特許文献28】アンブラー(Ambler)、1975年
【非特許文献29】ノット−ハンジカール(Knott−Hunziker)、ウェーリー(Waley)ら、1979年
【非特許文献30】ケマル(Kemal)およびノオウレス(Knowles)、1981年
【非特許文献31】ハーツバーグ(Hertzberg)およびモルト(Moult)、1987年
【非特許文献32】ノビック(Novick)、1963年
【非特許文献33】レロイ(Leroy)、ハンバート(Humbert)ら、1978年
【非特許文献34】ポエルスガード(Poehlsgaard)およびドートワイト(Douthwaite)、2005年
【非特許文献35】ラミレツ(Ramirez)およびトルマスキー(Tolmasky)、2010年
【非特許文献36】ドイ(Doi)およびアラカワ(Arakawa)、2007年
【非特許文献37】ハンコック(Hancock)、1981年
【非特許文献38】ショー(Shaw)、ラザー(Rather)ら、1993年
【非特許文献39】ロビクセク(Robicsek)、ストラヒルヴェビッツ(Strahilevitz)ら、2006年
【非特許文献40】ヴァーダカス(Vardakas)、コンスタンテリア(Konstantelias)ら、2012年
【非特許文献41】デスパンデ(Deshpande)、パスプレチ(Pasupuleti)ら、2013年
【非特許文献42】スリミングス(Slimings)およびリレイ(Riley)、2013年
【非特許文献43】モリタ(Morita)、コダマ(Kodama)ら、1998年
【非特許文献44】ロビクセク(Robicsek)、ヤコビ(Jacoby)ら、2006年
【非特許文献45】テンソン(Tenson)、ロフマール(Lovmar)ら、2003年
【非特許文献46】ロバーツ(Roberts)、ストクリッフェ(Sutcliffe)ら、1999年
【非特許文献47】ロバーツ(Roberts)、2008年
【非特許文献48】ワイズブルム(Weisblum)、1995年
【非特許文献49】オウニッシ(Ounissi)およびコールバリン(Courvalin)、1985年
【非特許文献50】アーサー(Arthur)、オートシェアー(Autissier)ら、1986年
【非特許文献51】モラー(Morar)、ペンジェリー(Pengelly)ら、2012年
【非特許文献52】チョプラ(Chopra)およびロバーツ(Roberts)、2001年
【非特許文献53】スペール(Speer)、ベドズキー(Bedzyk)ら、1991年
【非特許文献54】ツー(Tu)、ブラハ(Blaha)ら、2005年
【非特許文献55】レクレアク(Leclercq)、ブリソン−ノエル(Brisson−Noel)ら、1987年
【非特許文献56】ボズドガン(Bozdogan)、ベレゾウガ(Berrezouga)ら、1999年
【非特許文献57】ハーモイネン(Harmoinen)、ヴァーリ(Vaali)ら、2003年
【非特許文献58】ハーモイネン(Harmoinen)、メンツラ(Mentula)ら、2004年
【非特許文献59】スチーフェル(Stiefel)、パルツ(Pultz)ら、2003年
【非特許文献60】メンツラ(Mentula)、ハーモイネン(Harmoinen)ら、2004年
【非特許文献61】ターカネン(Tarkkanen)、ヘイノネン(Heinonen)ら、2009年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0053】
従来技術の解決策は、1種類の抗生物質だけを標的とする酵素である、β−ラクタムを分解するβ−ラクタマーゼ、またはマクロライドを阻害するエリスロマイシンエステラーゼを使用している。
【0054】
複数の異なる抗生物質が、一般的に、病院の患者に使用され、同じ患者に組み合わされることさえある。単一のクラスの抗生物質の阻害は、耐性細菌株の出現に対して控えめなまたは最低限の影響を及ぼすだけである。
【0055】
例として、グラム陰性桿菌による重篤な感染は、第三世代のセファロスポリンとアミノグリコシドとの組合せを用いて治療されることが多いが、一方、非定型肺炎は、アモキシシリン−クラブラン酸とマクロライドまたはテトラサイクリンとの組合せを用いて容易に治療される。
【0056】
先行技術に記載されている抗生物質阻害剤は、単一のクラスの抗生物質に向けられているため、異なるクラスの抗生物質が同時に使用される環境、特に病院における耐性細菌株の出現の予防に有効ではない。
【課題を解決するための手段】
【0057】
本発明は、その最も広く受け入れられているという意味において、1つ以上の抗生物質の活性を阻害することができる2つ以上のタンパク質を含むハイブリッドタンパク質分子を提供することによって、従来技術の欠点を克服することを提案する。各々のタンパク質は、異なる生化学的性質を有し、該タンパク質は関連している。一実施形態において、1つ以上の抗生物質の活性を阻害することができる上記タンパク質は、共有結合で互いに連結されている。
【0058】
本発明によるハイブリッドタンパク質分子は、1つ以上の抗生物質の活性を阻害して、抗生物質の腸内副作用、例えば、抗生物質によって引き起こされる急性下痢と、非経口による抗生物質の投与に続く院内感染とを減少させる。
【0059】
本発明は、従来技術における解決策と比較して、より広い作用スペクトルを有することが理解される。
好ましくは、本発明のハイブリッドタンパク質分子は、経口投与される。本発明によるハイブリッドタンパク質分子は、多数のクラスの抗生物質、特に臨床診療において最も一般的に使用される組合せを阻害することができるタンパク質を含み得る。したがって、単一のハイブリッドタンパク質分子の投与がいくつかの抗生物質を標的とすることができ、それによって処方される製品の数を減少させる。
【0060】
ハイブリッドタンパク質分子とは、2つ以上のポリペプチド鎖の人工的な組み合わせによって形成されるハイブリッドタンパク質を意味する。
抗生物質活性の阻害とは、考慮される抗生物質の生物学的活性の低下または抑制をもたらす全てのプロセスを意味する。これは、限定されないが、特異的な方法で(例えば、モノクローナル抗体を用いて、もしくはモノクローナル抗体の断片を用いて)もしくは非特異的な方法で(例えば、吸着によって)別の分子に抗生物質が結合すること、化学基の酵素的付加もしくは非酵素的付加によって抗生物質を修飾すること、または抗生物質もしくは非抗生物質メカニズムによって抗生物質を加水分解することを含む。
【0061】
有利には、タンパク質の少なくとも一方は、1つ以上の抗生物質の活性を阻害することができる酵素である。
別の実施形態において、各々のタンパク質は、1つ以上の抗生物質の活性を選択的に阻害することができる酵素である。
【0062】
有利には、各タンパク質は、複数の異なる抗生物質の活性を選択的に阻害する。
本発明の別の実施形態において、ハイブリッドタンパク質分子は1つ以上の抗生物質の活性を阻害することができる2つ以上のタンパク質を含み、各々の酵素は異なる生化学的
特性を有し、該酵素は互いに共有結合される。
【0063】
各々の酵素は、2つの異なる抗生物質を選択的に分解することが理解される。
本発明は、予期せぬことに、上記で定義されたハイブリッドタンパク質分子が、それらを形成するタンパク質のそれぞれの機能的活性を合わせており、高い選択圧を受ける病院環境におけるそれらの作用スペクトルの拡大と有効性の増強とをもたらすことを実証する。
【0064】
1つ以上の抗生物質を不活性化するいくつかのタイプのタンパク質がハイブリッドタンパク質分子を形成するために使用されてもよく、モノクローナル抗体の断片(例えば、一価もしくは二価のScFv)、加水分解酵素、または他のタイプの修飾を触媒する酵素を含む。
【0065】
有利には、本発明によるハイブリッドタンパク質分子は、抗生物質、好ましくはβ−ラクタム、アミノグリコシド、フルオロキノロン、マクロライド、テトラサイクリンおよび/またはリンコサミドから選択される抗生物質の活性を阻害することができる1つ以上のタンパク質からなる。好ましくは、ハイブリッドタンパク質分子中の各々のタンパク質は、異なる抗生物質の活性を阻害する。一実施形態において、ハイブリッドタンパク質分子は、同じクラスに属する抗生物質の活性を阻害することができる2つのタンパク質を含む。
【0066】
有利には、ハイブリッドタンパク質中の構成タンパク質の少なくとも一方の配列は、配列番号1〜配列番号7と40%以上のタンパク質配列相同性を有する。この配列相同性は、標準的な計算パラメーターを用いたCLUSTALW2またはCLUSTALOMEGAソフトウェアの使用により決定される(トンプソン(Thompson)、ヒギンス(Higgins)ら、1994年;ラーキン(Larkin)、ブラックシールド(Blackshields)ら、2007年)。好ましくは、この配列相同性は、配列番号1〜配列番号7と50%以上、さらにより好ましくは60%以上である。
【0067】
ハイブリッドタンパク質分子の構成タンパク質または酵素は、0個、1個またはいくつかのグリコシル化を含んでもよい。
一実施形態において、タンパク質または酵素は、単一のモノカテナリータンパク質へと合わせられる。
【0068】
好ましい実施形態において、ハイブリッドタンパク質分子は、1つ以上の抗生物質の活性を阻害する2つの酵素を含み、該酵素の1つはβ−ラクタマーゼであり、該酵素の1つは、β−ラクタマーゼ、アミノグリコシドを阻害する酵素、フルオロキノロンを阻害する酵素、マクロライドを阻害する酵素、テトラサイクリンを阻害する酵素、またはリンコサミドを阻害する酵素のうちから選ばれる酵素であり、これらの酵素は互いに結合している。
【0069】
ハイブリッドタンパク質は以下を含んでもよいことが理解される:
− 互いに結合している2つのβ−ラクタマーゼ酵素;または
− 相互接続された、β−ラクタマーゼのうちから選択される酵素およびアミノグリコシドを阻害する酵素であって、アミノグリコシドを阻害する該酵素はホスホトランスフェラーゼ、ヌクレオチジルトランスフェラーゼ、もしくはアセチルトランスフェラーゼである;または
− 相互接続された、β−ラクタマーゼから選択される酵素およびフルオロキノロンを阻害する酵素であって、フルオロキノロンを阻害する該酵素はアミノグリコシドN−アセチルトランスフェラーゼである;または
− 相互接続された、β−ラクタマーゼのうちから選択される酵素およびマクロライドを阻害する酵素であって、マクロライドを阻害する該酵素はエリスロマイシンエステラーゼもしくはエリスロマイシンホスホトランスフェラーゼである;または
− 相互接続された、β−ラクタマーゼのうちから選択される酵素およびテトラサイクリンを阻害する酵素であって、テトラサイクリンを阻害する該酵素はNADPH依存性テトラサイクリンオキシドレダクターゼである;または
− 相互接続された、β−ラクタマーゼのうちから選択される酵素およびリンコサミドを阻害する酵素であって、リンコサミドを阻害する該酵素はリンコマイシンヌクレオチジルトランスフェラーゼである。
【0070】
本発明者らは、予想外におよび驚くべきことに、標的抗生物質に対するそのハイブリッドタンパク質分子の効力が、単独で摂取された、それを含む酵素と同等であることを見出した。
【0071】
これらのハイブリッドタンパク質はまた、複数のタンパク質構成成分のそれぞれのリーディングフレームの直接的な融合によって、あるいは1つ以上のアミノ酸からなるアダプターをコードするヌクレオチド配列によって得られた単一のリーディングフレームの翻訳から生じる単一のタンパク質鎖として人工的に得ることができる。不活性であり特異的な生物学的作用を有さないことが知られたこうしたアダプターは、フレキシブル、セミリジッド、またはリジッドであり得る(チェン(Chen)、ザロ(Zaro)ら、2013年)。
【0072】
別の実施形態によれば、タンパク質または酵素は、共有結合または架橋によって互いに連結される。
これらのハイブリッドタンパク質はまた、化学薬剤(チェン(Chen)、ニールセン(Nielsen)ら、2013年)、酵素触媒(パグイリガン(Paguirigan)およびビーベ(Beebe)、2007年)、紫外光への曝露(ファンシー(Fancy)およびコダデック(Kodadek)、1999年)、または共有結合の形成をもたらす任意の他の方法を用いた架橋によって人工的に得ることができる。あるいは、このようなハイブリッドタンパク質は、例えば(ストレプト)アビジン/ビオチン複合体などの高親和性リガンドによって非共有結合的に1つ以上のタンパク質のサブユニットを集合させることにより得ることができる(シュルツ(Schultz)、リン(Lin)ら、2000年;リン(Lin)、パーゲル(Pagel)ら、2006年;パーゲル(Pagel)、リン(Lin)ら、2006年)。
【0073】
別の実施形態によれば、本発明は、腸内細菌叢の変化の予防に使用するための本発明によるハイブリッドタンパク質分子を含む、ヒトまたは獣医学的使用のための医薬組成物を提供する。
【0074】
有利には、本発明は、院内感染の予防に使用するための医薬組成物を提供する。
有利には、本発明は、抗生物質の投与に伴う下痢の予防に使用するための医薬組成物を提供する。
【0075】
好ましい実施形態によれば、本発明によるハイブリッドタンパク質分子を含む医薬組成物は、経口投与のための剤形である。
本発明は、環境中の耐性細菌の蔓延を予防し、多剤耐性微生物によって引き起こされる院内感染のリスクおよび/または重症度を低下させ、ならびに抗生物質によって引き起こされる下痢の頻度および重症度を減少させるべく、正常な腸内細菌叢の変化を予防するためのハイブリッドタンパク質分子を含む医薬組成物を提供することが理解される。
【0076】
有利には、その医薬組成物は、小児科を含むヒトにおいて投与するためのものである。本発明による医薬組成物は、1つ以上の抗生物質の投与前に、同時にまたは後に、好ましくは経口で投与され得ることが理解される。
【0077】
別の実施形態において、医薬組成物は、愛玩動物および抗生物質を受けている家畜による抗生物質に対する細菌耐性の蔓延の予防における獣医学的使用のためのものである。
本発明による医薬組成物はまた、アジュバント、賦形剤、安定化剤、塩、添加剤、結合剤、潤滑剤、コーティング剤、着色剤、香味剤、または当業者に公知である任意の他の慣習的に使用される薬剤などの医薬として許容される任意の物質を含む。
【0078】
本発明による医薬組成物は、ゲル、シロップ、カプセル、錠剤、懸濁液またはエマルジョンの形態に制限されない、固体または液体の形態であり得る。
1つの変形によれば、医薬組成物は、1つ以上の胃保護剤を含む。
【0079】
胃保護剤とは、腸、好ましくは十二指腸および空腸におけるハイブリッドタンパク質分子の遅延放出のための胃液に耐性を持つ薬剤を意味する。胃保護剤はまた、コーティング剤、例えば、限定されないが、デスポリメタアクリレート(例えば、オイドラギット(Eudragit)(登録商標))、セルロース系ポリマー(セルロースエーテル、例えばデュオドセル(Duodcell)(登録商標)、セルロースエステル)、ポリ酢酸ビニルコポリマー(例えば、オパンドライ(Opandry)(登録商標))、または当業者に公知であるコーティングもしくは封入もしくはプロセスのための任意の他の薬剤であってもよい。
【0080】
別の態様によれば、本発明は、生きた非ヒト組換え生物におけるハイブリッドタンパク質分子を生成するための方法を含む。
生きた組換え生物とは、ハイブリッドタンパク質分子を生成するように遺伝子操作され得る任意の細胞を意味する。
【0081】
限定するものではないが、遺伝子改変され得る細胞という用語は、任意の原核細胞(例えば、大腸菌(Escherichia coli))、酵母(例えば、サッカロマイセス・セレヴィシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、クルイベロミセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia
lipolytica))、バキュロウイルスに感染したまたは感染していない昆虫細胞、哺乳動物細胞(例えば、CHO、CHO−K1、HEK293、HEK293T)を意味する。
【0082】
説明
本発明は、以下の非限定的な実施例の記載に照らして、よりよく理解される。
【図面の簡単な説明】
【0083】
図1】IR−TEMのファミリー(アンバー(Amber)クラスA)に属する異なるβ−ラクタマーゼのタンパク質配列アラインメントを示す図。このアライメントは、デフォルト設定を使用してhttps://www.ebi.ac.uk/Tools/msa/clustalw2サイトのCLUSTALW2ソフトウェアを用いて行われた。図1は、いくつかの配列のアラインメントにより、IR−TEM酵素が>90%のタンパク質同一性を示すことを示す。これらの酵素は、比較的よく保存されていて、80〜99%のタンパク質配列同一性を共有しており、また、十分に特徴付けられている(ボンネット(Bonnet)、2004年)。
図2】CTX−Mセフォタキシマーゼのファミリー(アンバー(Amber)クラスA)に属する異なるβ−ラクタマーゼのタンパク質配列アラインメントを示す図。このアライメントは、ソフトウェアのデフォルト設定を使用してhttps://www.ebi.ac.uk/Tools/msa/clustalw2サイトで行われた。
図3】本ハイブリッドタンパク質を生成するために使用されるPCR技術の例を提供する図。2つのタンパク質は、最初に、リンカーを構成する共通の配列(それぞれ3’末端および5’末端)を用いて別々に増幅される。次に、2つの断片は、相補的DNA配列(リンカーの配列)のレベルにハイブリダイズされ、全体は外部プライマーを用いて再増幅される。
図4】ピキア・パストリス(Pichia pastoris)においてTEM−36(配列番号1)、CTXM−16(配列番号2)、TEM36−GGGGGG−CTXM16(配列番号8)、CTXM16−GGGGGG−TEM36(配列番号9)およびTEM36−G(EAAAK)2−CTXM16(配列番号10)タンパク質を発現させるために使用されたすべての構築物を記載する図。ベクターpJexpress915へのクローニングは、必要に応じて、CTXM16をコードするDNA配列の内部のNotI部位を保存するために中程度の消化を用いて、XhoI/NotI中で行われた。
図5】TEM−36(配列番号1)、CTXM−16(配列番号2)、TEM36−GGGGGG−CTXM16(配列番号8)、CTXM16−GGGGGG−TEM36(配列番号9)およびTEM36−G(EAAAK)2−CTXM16(配列番号10)タンパクをコードするXhoI/NotIにクローニングされたDNA断片であって、pJexpress915−SEQ−FおよびpJexpress915−SEQ−Rプライマー、ならびに以下のプログラム(95℃で30秒間−25サイクル[95℃で30秒間−53℃で45秒間−72℃で1分間]−72℃で5分間−4℃)を用いたPCRによって得られたDNA断片を示す図。
図6】ピキア・パストリス(Pichia pastoris)における発現および精製によって得られ、EndoHfによる脱グリコシル化処理を受けた後の、12%SDS−PAGEゲル上のハイブリッドタンパク質ならびにそれらの構成酵素TEM−36(配列番号1)およびCTMX−16(配列番号2)を示す図。
図7】大腸菌(Escherichia coli)におけるTEM−36(配列番号1)、CTXM−16(配列番号2)タンパク質およびハイブリッドタンパク質TEM36−GGGGG−CTXM16、CTXM−16−GGGGG−TEM36を発現するために使用されたすべての構築物を記載する図。pET−26b(+)ベクターへのクローニングは、NdeI/HindIIIにより行われた。
図8】TEM−36(配列番号1)、CTXM−16(配列番号2)、TEM36−GGGGG−CTXM16、CTXM16−GGGGG−TEM36をコードするpET−26(+)のNdeI/HindIIIにクローニングされたDNA断片であって、T7−FおよびT7−Rプライマーならびに以下のプログラム(95℃で30秒間−25サイクル[95℃で30秒間−55℃で45秒間−72℃で1分間]−72℃で5分間−4℃)を用いたPCRによって得られたDNA断片を示す図。
図9】大腸菌(E.coli)における発現およびペリプラズム画分から精製により得られた、12%SDS−PAGEゲル上のハイブリッドタンパク質(TEM36−G−CTXM16およびCTXM16−G−TEM36)ならびにそれらの構成酵素TEM−36(配列番号1)およびCTXM−16(配列番号2)を示す図。
図10】融合体AAC−H6−CTXM16(配列番号18)の構築において得られた、AAC−6’−Ib−cr(配列番号4)、CTXM−16(配列番号2)、およびAAC−H6−CTXM16をコードするDNA断片を示す図。
図11】AAC−6’−Ib−crとハイブリッドタンパク質については大腸菌(E.coli)において、およびCTXM−16についてはP.パストリス(P.pastoris)において発現および精製後に得られた、12%SDS−PAGEゲル上のハイブリッドタンパク質AAC−H−CTXM16ならびにその構成酵素AAC−6’−Ib−cr(配列番号4)およびCTXM−16(配列番号2)を示す図。
図12】融合体EreB−H6−CTXM16(配列番号20)の構築において得られた、EreB(配列番号5)、TEM36(配列番号1)およびEreB−H6−TEM36をコードするDNA断片を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0084】
配列表の説明
以下のテーブル1は、配列表を要約し、各々の配列番号(テーブル中のID番号)、配列の種類、その名称、その起源、その発現生物およびそのサイズをマッピングする。
【0085】

【表1】
【0086】
実施例1:フレキシブルリンカーによるTEM−36とCTX−M16との融合体からなるハイブリッドタンパク質分子
本発明の第一の実施形態は、フレキシブルポリグリシンリンカー(この実施例においては6つのグリシン残基)を介した、IR−TEM(配列番号1;(非特許文献25))とセフォタキシマーゼ(配列番号2;(ボンネット(Bonnet)、デュトーア(Dutour)ら、2001年))との融合体を記載し、セフトリアキソンだけでなく、クラブラン酸の存在下でアモキシシリンさえも加水分解することができるハイブリッドタンパク質(配列番号8)を生じさせることを記載する。
【0087】
タンパク質TEM−36(配列番号1)およびCTX−M16(配列番号2)をコードするヌクレオチド配列は、ピキア・パストリスの発現ベクターにおける遺伝子合成により商業的に得られた(https://www.dna20.com/services/gene−synthesis?gclid=CPnQIp3c9r0CFaoewwodnREAlg)。発現ベクターに挿入されたTEM−36のヌクレオチド配列は、配列番号11に対応し、発現ベクターに挿入されたCTX−M16のヌクレオチド配列は、配列番号12に対応する。次に、これらの配列は、高忠実度DNAポリメラーゼ(Pfu、プロメガ社(Promega))、ならびにテーブル2に示される部分的に相補的なプライマーおよびタンパク質リンカー構築物(この実施例においてはGGGGGG)を用いたPCR(95℃で30秒間−25サイクル[95℃で30秒間−TM℃で45秒間−72℃で1分間]−72℃で5分間−4℃)によって増幅された。TEM−36は、一対のTEM36−FプライマーおよびTEM36−6G−Rプライマーを用いて増幅され、TMは57℃であった。CTXM16は、一対の6G−CTXM16−FプライマーおよびCTXM16−Rプライマーを用いて増幅され、TMは57℃であった。リンカーGGGGGGの構成配列は、テーブル2において太字で示され、下線が付されている。
【0088】
【表2】
【0089】
それにより得られた2つのPCR断片は、55℃のTMでハイブリダイズされ、高忠実度DNAポリメラーゼ(Pfu、プロメガ社)を用いて、プライマーを含まないPCR(95℃で30秒間−55℃で45秒間−72℃で2分15秒間)の5サイクル中で補完された。ハイブリッドタンパク質をコードする完全な配列は、外側のプライマー(TEM36−F+CTXM16−R)の添加後に再増幅された。こうしたPCRによる融合体の具体例は、図3に概略的に示されている。
【0090】
それにより生成されたTEM36−GGGGGG−CTXM16融合体は、pJexpress915ベクター(発現ピキア・パストリス)中に制限酵素XhoIおよびNotIを用いてクローニングされた(図4)。ハイブリッド構築物の配列は両方向で確認され、記載された融合体に対応する。図5は、プライマーpJexpress915−SEQ−FおよびpJexpress915−SEQ−Rを用いて得られたPCR断片をまとめたものである。
【0091】
TEM−36、CTX−M16および融合体TEM36−GGGGGG−CTXM16を発現するベクターpJexpress915は、塩低減LB培地(酵母エキス5g/l;トリプトン10g/l;NaCl 5g/l、pH=7.5)で25μg/mlのゼオシン(Zeocine)(インビトロジェン社(Invitrogen))選択圧を維持することによって大腸菌DH10B中で増幅された。ピキア・パストリスを形質転換するために、SwaI酵素を用いて線状にされた2μgのベクターは、1500Vでのショックにより60μlのコンピテント細胞にエレクトロポレーションされた。形質転換細胞は、1mlの1M冷ソルビトールに採取され、100〜400μg/mlのゼオシンおよびニトロセフィン(20μg/ml)を含有するYPD−寒天培地(酵母エキス10g/l
;ペプトン20g/l;デキストロース20g/l;寒天15g/1−リン酸塩10mM、pH=6.8)上への(200μlについての)播種の前に、30℃で2時間培養された。
【0092】
ピキア・パストリスにおけるベクターpJexpress915からの発現は目的のタンパク質の分泌をもたらし、それは培養培地中に見出される。ニトロセフィンを含有するYPD−寒天プレート上で、分泌されたβ−ラクタマーゼは、コロニーの周囲に発現レベルを表す赤色の加水分解ハロー(λ=486nm)を誘発する。48時間のインキュベーション後、各構築物について最良の発現を有する形質転換体は、5mlのYPDおよび100μg/mlのゼオシンを含有するステリリン(Sterilin)チューブに接種され、48時間、30℃で増殖され、200rpmで撹拌された。
【0093】
次に、予備培養物は、抗生物質の選択圧を伴わない新鮮なYPD培地400ml(バッフル付き三角フラスコあたり200ml)に、600nmで0.2の初期光学濃度で接種される。この培養物は、100rpmで撹拌しながら30℃で48時間放置される。4℃で15分間、10,000×gで遠心分離した後、この培養培地(上清)は、ベンズアミジン(最終濃度1mM)の存在下、4℃で保存される。次に、この培養培地のタンパク質は、10kDaメンブレン(ヴィヴァフロー(Vivaflow)10モジュール、ザルトリウス社(Sartorius))を介したタンジェンシャル濾過により40mlの容量まで10倍に濃縮され、次に、10kDaメンブレン(セントリコン(Centricon)、ミリポア社(Millipore))上で限外濾過により10mlに濃縮される。その10mlは、サイズ排除クロマトグラフィーカラム(TEM−36およびCTX−M16タンパク質についてはスーパーデックス(Superdex)G75、融解についてはスーパーデックスG200;26×60カラム、ジーイーヘルスケア社(GE Healthcare))に注入され、10mMリン酸ナトリウム緩衝液pH=7.0に1ml画分で、流速1ml/分にて溶出された。
【0094】
ニトロセフィン(VWR)に対する最も高い活性と最高純度(SDS−PAGE)とを有する画分は合わせられ、約0.1〜0.5mg/mlに濃縮される。試料のタンパク質含量は、BCA(ピアス社(Pierce))、280nmでの吸光度、およびSDS−PAGEゲル上での検証によって測定される。図6は結果を示す。
【0095】
N−グリコシル化部位を有するCTX−M16および融合体について、グリコシル化は、製造者の推奨(非変性条件下で37℃にて一晩)に従って、EndoHf酵素(ニューイングランドバイオラボ社(New England Biolabs))を用いて糖を切断することによって確認される。生成および精製されたタンパク質は、トリプシン消化およびMALDI−TOF質量分析によって確認される。
【0096】
図6に示されるように、TEM−36タンパク質はグリコシル化されておらず、CTX−M16タンパク質および異なる融合体とは対照的に、そのサイズは28kDaの予想されたサイズと適合する。SDS−PAGEゲル上におけるCTX−M16タンパク質および異なる融合体の見かけの分子量は、より高い(CTX−M16および融合体のそれぞれについて、45kDa対28kDaおよび>66kDa対56kDa)。EndoHfを用いた切断は、予想される分子量(CTX−M16と各融合体について、28kDaと56kDa)のタンパク質を与え、それにより、これらのタンパク質がグリコシル化されていることを確認する。
【0097】
精製タンパク質は、異なるβ−ラクタム(アモキシシリン(アポロサイエンティフィック(Apollo Scientific))、オーグメンチン(Augmentin)(登録商標)(グラクソ・スミスクライン社(GlaxoSmithKline))およ
びセフトリアキソン(ロセフィン(Rocephine)(登録商標)、ロシュ社(Roche)))について試験された。アッセイは、37℃、pH=7.0で25mlの反応容積において、pH−STAT(チトリノ(Titrino)2.5、メトローム社(Metrohm))で実施される。基質は、0.3mMのTris緩衝液、150mMのNaCl中、4g/lで調製される。β−ラクタム核の酵素加水分解は酸を放出し、pHの低下を誘発する。このアッセイの原理は、pH=7.0を維持するように、0.1N水酸化ナトリウムの添加によって酸性化を相殺することである。これらの条件において、1単位は、1分間に添加される1μmolの水酸化ナトリウムに対応し、すなわち、1分間に加水分解される1μmolのβ−ラクタムに対応する。下記のテーブル3は、3つの基質に対して各々のタンパク質について測定された比活性を列挙する(平均6回の反復)。
【0098】
【表3】
【0099】
これらの結果は、TEM−36とCTX−M16との融合体が、β−ラクタマーゼ阻害剤の存在下でさえアミノペニシリンと、第三世代のセファロスポリンとの両方に対して活性を有するハイブリッドタンパク質を生成することを示す。両方の活性が文献(リポール(Ripoll)、バクエロ(Baquero)ら、2011年)においてアンタゴニストとして記載されて以来、これらの2つの基質に対してこのような高い触媒定数を有する天然酵素は知られていない。
【0100】
実施例2:フレキシブルリンカーによるCTX−M16とTEM−36との融合体からなるハイブリッドタンパク質分子
本発明の第二の実施形態は、フレキシブルポリグリシンリンカー(この実施例においては6つのグリシン残基)を介した、セフォタキシマーゼ(配列番号2;(ボンネット(Bonnet)、デュトーア(Dutour)ら、2001年))とIR−TEM(配列番号1;(非特許文献25))との融合体を記載し、セフトリアキソンだけではなく、クラブラン酸の存在下でさえもアモキシシリンを加水分解することができるハイブリッドタンパク質(配列番号9)を生じさせることを記載する。
【0101】
この実施形態は、配列CTXM16およびTEM−36を増幅するために使用されるPCRプライマーを除き、実施例1に記載されているものと同一である。
CTXM−16は、一対のプライマーCTXM16−FとCTXM16−6G−Rとを用いて増幅され、TMは58℃であった。TEM−36は、一対のプライマー6G−TEM36−FとTEM36−Rとを用いて増幅され、TMは58℃であった。リンカーGGGGGGの構成配列は、テーブル4において太字で示され、下線が付されている。
【0102】
【表4】
【0103】
それにより得られた2つのPCR断片は、55℃のTMでハイブリダイズされ、高忠実度DNAポリメラーゼ(Pfu、プロメガ社)を用いて、プライマーを含まないPCR(95℃で30秒間−55℃で45秒間−72℃で2分15秒間)の5サイクル中に補完された。ハイブリッドタンパク質をコードする完全な配列は、外側のプライマー(CTXM16−F+TEM−36−R)の添加後に再増幅された。
【0104】
ハイブリッドタンパク質CTXM16−GGGGGG−TEM36の発現および精製に使用した条件は、実施例1に記載したものと厳密に同一であった。それにより得られたハイブリッドタンパク質はまた、図6に示されるようにグリコシル化されて、クラブラン酸の存在下で持続するペニシリナーゼ活性とセフォタキシマーゼ活性とを兼ね備える。
【0105】
実施例1の場合と同様に、天然のタンパク質は、アモキシシリン/クラブラン酸とセフトリアキソンとの両基質に対して、テーブル5に記載される比活性を示さない。
【0106】
【表5】
【0107】
実施例3:リジッドリンカーによるTEM−36とCTX−M16との融合体からなるハイブリッドタンパク質分子
本発明の第三の実施形態は、リジッドタンパク質リンカー(この実施例においてはモチーフG(EAAAK))を介した、IR−TEM(配列番号1;(非特許文献25))とセフォタキシマーゼ(配列番号2;(ボンネット(Bonnet)、デュトーア(Dutour)ら、2001年))との融合体を記載し、セフトリアキソンだけでなく、クラブラン酸の存在下でさえもアモキシシリンを加水分解することができるハイブリッドタンパク質(配列番号10)を生じさせることを記載する。
【0108】
この実施形態は、配列CTXM16およびTEM−36を増幅するために使用されるPCRプライマーを除き、実施例1に記載されているものと同一である。TEM−36は、一対のプライマーTEM36−FとTEM36−G(EAAAK)とを用いて増幅され、TMは58℃であった。CTXM16は、一対のプライマーCTXM16−G(EAAAK)−FとCTXM16−Rとを用いて増幅され、TMは58℃であった。リンカー
G(EAAAK)の構成配列は、テーブル6において太字で示され、下線が付されている。
【0109】
【表6】
【0110】
それにより得られた2つのPCR断片は、55℃のTMでハイブリダイズされ、高忠実度DNAポリメラーゼ(Pfu、プロメガ社)を用いて、プライマーを含まないPCR(95℃で30秒間−55℃で45秒間−72℃で2分15秒間)の5サイクル中で補完された。ハイブリッドタンパク質をコードする完全な配列は、外側のプライマー(TEM36−F+CTXM16−R)の添加後に再増幅された。
【0111】
ハイブリッドタンパク質TEM36−G(EAAAK)−TEM36の発現および精製に使用した条件は、実施例1に記載したものと厳密に同一であった。それにより得られたハイブリッドタンパク質はまたグリコシル化されて(図6)、クラブラン酸の存在下で持続するペニシリナーゼ活性とセフォタキシマーゼ活性とを兼ね備える。
【0112】
【表7】
【0113】
実施例1および2と同様に、天然のタンパク質は、アモキシシリン/クラブラン酸とセフトリアキソンとの両基質に対して、テーブル7に記載される比活性を示さない。
実施例4:フレキシブルリンカーによるTEM−36とCTX−M16と(およびその反対)の融合体からなる非グリコシル化ハイブリッドタンパク質分子
TEM−36(配列番号1)およびCTXM16(配列番号2)のコード配列は、大腸菌(E.coli)用のペリプラズム発現ベクターにおける遺伝子合成によって商業的に得られた(https://www.dna20.com/services/gene−synthesis?qclid=CPnQlp3c9r0CFaoewwodnREAlg)。そのヌクレオチド配列は、開始メチオニンでのNdeI制限部位と終止コドン後のHindIII制限部位とを有するペリプラズム標的ペプチド(MSIQHFRVALIPFFAAFCLPVFA)をコードするリーディングフレームと一致させて得られた。次に、遺伝子断片NdeI/HindIIIは、pET−26b(+)ベクター(インビトロジェン社)にサブクローニングされた。
【0114】
図3に示されるように、本発明者らは、オーバーラップPCRによって2つのハイブリッドタンパク質分子を作製した。TEM−36およびCTX−M16のヌクレオチド配列は、高忠実度DNAポリメラーゼ(Pfu、プロメガ社)と、リンカータンパク質(この実施例においてはGGGGGG)を構成する部分的に相補的なプライマーとを用いたPCR(95℃で30秒間−25サイクル[95℃で30秒間−TM℃で45秒間−72℃で1分間]−72℃で5分間−4℃)によって増幅された。TEM−36は、プライマー対のT7−FおよびTEM36−G6−R−co、またはプライマー対のTEM36−G6−F−coおよびT7−Rのいずれかを用いて、55℃のTMで増幅された。CTXM16は、プライマー対のCTXM16−G6−F−coおよびT7−R、またはプライマー対のCTXM16−G6−R−coおよびT7−Fを用いて、55℃のTMで増幅された。リンカーGGGGGGの構成配列は、テーブル8において太字で示され、下線が付されている。
【0115】
【表8】
【0116】
それにより得られた2つのPCR断片(TEM36−G6+G6−CTXM16およびCTXM16−G6+G6−TEM36)は、55℃のTMでハイブリダイズされ、高忠実度DNAポリメラーゼ(Pfu、プロメガ社)を用いて、プライマーを含まないPCR(95℃で30秒間−53℃で45秒間−72℃で2分15秒間)の5サイクル中で補完された。ハイブリッドタンパク質をコードする完全な配列は、外側のプライマー(T7−F+T7−R)の添加後、55℃のTMで操作して再増幅された。
【0117】
それにより生成された融合体TEM36−GGGGGG−CTXM16およびCTX−M16−GGGGGG−TEM36は、pET26b+ベクター(大腸菌における発現)に、NdeI制限酵素およびHindIII制限酵素を用いてクローニングされた(図7)。
【0118】
ハイブリッド構築物の配列は、2方向で確認され、その2つのハイブリッドタンパク質分子のリンカーは、実際には5つのグリシンのみからなることが明らかになった。より好ましい核酸再編成は、おそらくPCRハイブリダイゼーションの時点で起こった。図8は、プライマーT7−FおよびT7−Rを用いて得られたPCR断片を要約する。
【0119】
TEM−36(配列番号1)、CTX−M16(配列番号2)、ならびに融合体TEM36−G−CTXM16およびCTXM16−G−TEM36を発現するpET−26b(+)発現ベクターは、LB培地(酵母エキス5g/l;トリプトン10g/l;NaCl 10g/l、pH=7)で50μg/mlのカナマイシン(ユーロメデックス(Euromedex))選択圧を維持することによって大腸菌DH10B中で増殖された。この発現ベクターを用いて、発現菌株BL21(DE3)pLysSは、熱ショックにより形質転換された。形質転換された細胞は、50μg/mlのカナマイシンを含有するLB寒天培地(酵母エキス5g/l;トリプトン10g/l;NaCl 10g/l;寒
天15g/l、pH=7)上に播種された。
【0120】
大腸菌におけるpET−26b(+)ベクターからの発現は、目的のタンパク質が機能性を有する細菌のペリプラズム区画内に該タンパク質を向かわせる。実施例4に記載されたように作製された融合体は、2つの相補的な方法:(i)部分的に精製されたタンパク質を生化学的に特徴付けることによって、および(ii)発現菌株上で、様々のβ−ラクタム(アモキシシリン、オーグメンチン(登録商標)およびロセフィン(登録商標))の最小発育阻止濃度(MIC)を比較することによって、評価された。
【0121】
大腸菌におけるハイブリッドタンパク質分子およびそれらの成分の精製:
形質転換された細菌は、100mlのLB+50μg/mlのカナマイシン中、37℃にて、飽和するまで200rpmで撹拌しながら増殖される。次に、予備培養物は、1LのLB培地+50μg/mlのカナマイシン中に1/40で接種される。OD600nmが0.6の値に達したとき(約2時間)、タンパク質生成は、0.5mM最終濃度のIPTGを添加することによって誘導され、200rpmで撹拌しながら16時間、20℃で継続する。細胞は、5,000×gで15分間、4℃にて遠心分離され、その沈殿物は、即座に浸透圧緩衝液に採取され、外膜を破壊し、ペリプラズマを回収する。細胞は、OD600nmの120単位について、1mlの緩衝液(リン酸塩100mM、スクロース500mM、EDTA 1mM、pH=7.0)を用いて採取され、ボルテックスホモジナイゼーションをしながら数分間インキュベートされる((シュレーゲル(Schlegel)、ルジャス(Rujas)ら、2013年)から採用されたプロトコル)。12,000×gで20分間、4℃にて遠心分離した後、ペリプラズムタンパク質を含有する上清は、容量が10mlを超えなくなるまで、アミコンウルトラ(Amicon Ultra)(15ml、10kDa、ミリポア社)上で濃縮される。タンパク質の全量は、排除クロマトグラフィーカラム(スーパーデックスG75、ジーイーヘルスケア社)に注入され、タンパク質は、1ml画分あたりリン酸緩衝液(リン酸塩10mM、NaCl 100mM、pH=7.0)中に1ml/分の流速で溶出される。ニトロセフィン(VWR)に対する最も高い活性と最高純度(SDS−PAGE)とを有する画分は合わせられ、約0.1〜0.5mg/mlに濃縮される。試料のタンパク質含量は、280nmでの吸光度とSDS−PAGEゲル上での検証とによって測定される。図9は、生化学的に特徴付ける前に得られた、部分的に精製されたタンパク質を示す。
【0122】
精製タンパク質の酵素活性は、上記の実施例に記載された異なるβ−ラクタム(アモキシシリン(アポロサイエンティフィック)、オーグメンチン(登録商標)(グラクソ・スミスクライン社)およびセフトリアキソン(ロセフィン(登録商標)、ロシュ社))について測定され、その結果は、以下のテーブル9に集められる。
【0123】
【表9】
【0124】
実施例1〜3と同様に、天然のタンパク質は、アモキシシリンとセフトリアキソンとの両基質に対して、テーブル9に記載される比活性を示さない。
ハイブリッドタンパク質分子を発現する大腸菌株の種々のβ−ラクタムに対する耐性:
形質転換された細菌(TEM36、CTXM16、または融合体TEM36−G5−CTXM16およびCTXM16−G5−TEM36を発現する)または空の菌株(BL21(DE3)pLysS)は、5mlのLB+50μg/mlのカナマイシンの培地中に、必要に応じて37℃にて、飽和するまで200rpmで撹拌しながら置かれる。次に、予備培養物は、5mlのLB+50μg/mlカナマイシン培地中に1/40で接種され、OD600が0.6の値に達したとき(約2時間)、タンパク質の生成は、最終1mM
IPTGを添加することによって誘導され、200rpmで撹拌しながら1.5時間、37℃で継続する。
【0125】
細胞は、10cfu/mlで標準化され、カスケードで10、10、10、10cfu/mlに希釈され、各懸濁液の5μlは、濃度増加させた抗生物質(アモキシシリン0、2、4、8、16、32、64、128、256、512、1024μg/ml;オーグメンチン(登録商標)0、1、2、4、8、16、32、64、128、256、512μg/ml、およびロセフィン(登録商標)0、0.5、1、2、4、8、16、32、64、128、256、512μg/ml)を含有するLB−寒天プレート上に堆積される。
【0126】
それらのディッシュは、37℃で一晩インキュベートされ、その結果は翌日に記録された。MICは、最も高い接種菌が増殖しない、抗生物質の最低濃度に対応する。
そのデータは以下のテーブル10に示されている。
【0127】
【表10】
【0128】
実施例4に記載されているハイブリッドタンパク質分子を発現する大腸菌細胞は、アミノペニシリン(クラブラン酸などの阻害剤を含むまたは含まない)とセフトリアキソンなどの第三世代のセファロスポリンとに対する多剤耐性表現型を示す。これまでに、このような表現型を有する天然細菌株は文献には記載されていない。
【0129】
実施例5:ポリヒスチジンリンカーによる融合体CTX−M16とAAC−6’−Ib−crとからなるハイブリッドタンパク質分子
CTX−M16(配列番号2)およびAAC−6’−Ib−crタンパク質(以下、AACと称する)(配列番号4)をコードするヌクレオチド配列は、それぞれ、大腸菌用の発現ベクターであるpJexpress411(KanR)およびpJ404(AmpR)において、遺伝子合成により商業的に得られた。ベクターpJexpress411に
挿入されたCTX−M16の核酸配列は配列番号16に対応し、ベクターpJ404に挿入されたAACの核酸配列は配列番号12に対応する。次に、これらの配列は、高忠実度DNAポリメラーゼ(Pfu、プロメガ社)と、テーブル11に示されているタンパク質リンカー(この実施例ではHHHHHH)を構成する部分的に相補的なプライマーとを用いたPCR(95℃で30秒間−25サイクル[95℃で30秒間−TM℃で45秒間−72℃で1分間]−72℃で5分間−4℃)によって増幅された。CTX−M16は、プライマー対の6H−CTX−FおよびT7Rを用いて増幅され、TMは62℃であった。ACCは、プライマー対のAAC−F_coliおよびAAC−6H−Rを用いて増幅され、TMは50℃であった。リンカーHHHHHHの構成配列は、テーブル11において太字で示され、下線が付されている。
【0130】
【表11】
【0131】
それにより得られた2つのPCR断片は、62℃のTMでハイブリダイズされ、高忠実度DNAポリメラーゼ(Pfu、プロメガ社)を用いて、プライマーを含まないPCR(95℃で30秒間−62℃で45秒間−72℃で2分15秒間)の5サイクル中で補完された。ハイブリッドタンパク質をコードする完全な配列は、外側のプライマー(AAC−F_coli+T7R)の添加後に再増幅された。PCRによる融合体のこの実施形態は、図3に概略的に示されている。AAC、CTXM16および融合体AAC−6H−CTXM16をコードする挿入物は、1%アガロースゲル上にロードされ、それぞれのサイズを示した(図10)。
【0132】
それにより生成された融合体AAC−6H−CTXM16は、図7に示されている原理に従って、pET26b+ベクター(大腸菌発現)に、NdeIおよびHindIII制限酵素を用いてクローニングされた。
【0133】
ハイブリッド構築物の配列は、両方向で確認され、記載された融合体に対応する。
AACを発現するpJ404−AAC発現ベクター、および融合体AAC−H6−CTXM16を発現するpET−AAC−6H−CTXM16は、LB培地(酵母エキス5g/l;トリプトン10g/l;NaCl 10g/l、pH=7.5)で100μg/mlのアンピシリン(ユーロメデックス)および50μg/mlのカナマイシン(ユーロメデックス)の選択圧を維持することによって、大腸菌BL21(DE3)pLysS中で形質転換された。大腸菌におけるベクターpJ404からのAACおよびAAC−6H−CTX融合体の発現は、目的のタンパク質の封入体をもたらす。
【0134】
各々のタンパク質について、1LのLBは、飽和した予備培養物から1/40で播種され、次に、OD(600nm)が約0.4〜0.6になるまで、200rpmで撹拌しながら37℃で増殖される。この培養物は、0.5mM最終濃度のIPTGを添加することによって、4時間、37℃、200rpmで誘導される。生産終了時に、細胞は遠心分離され、その沈殿物は、溶解緩衝液(10mM Tris−HCl、150mM NaCl、1mM EDTA、0.1%Triton X100、pH=8.0および0.25m
g/mlリゾチーム)中に40ml/Lの培養液で採取され、次に、−80℃で凍結された。それらの細胞は解凍され、MgSO(20mM)およびDNAse(10μg/ml)の存在下で45分間、周囲温度で溶解される。その溶解物は遠心分離(30分間、12,000×gで、4℃にて)され、目的のタンパク質(AACおよびAAC−6H−CTXM16)の封入体を含有する沈殿物は、緩衝液A(10mMリン酸塩、150mM NaCl、10mMイミダゾール、8M尿素、pH=8.0)中に採取される。タンパク質は、ニッケルアフィニティークロマトグラフィーにより精製され、緩衝液B(10mMリン酸塩、150mM NaCl、500mMイミダゾール、8M尿素、pH=8.0)の勾配を用いて溶離される。
【0135】
目的のタンパク質を含有する画分は混合され、1mM DTTの存在下で1時間、4℃でインキュベートされ、次に、10mMリン酸緩衝液、150mM NaCl、pH=8中で3連続の透析により復元される。それらのタンパク質は遠心分離により清澄化され、次に、10kDaメンブレン(セントリコン、ミリポア社)を通した限外濾過によって、10mlを超えない容量まで濃縮される。それらのタンパク質は、サイズ排除クロマトグラフィーカラム(スーパーデックスG200;カラム26×60、ジーイーヘルスケア社)に注入され、1ml/分の流速で、1ml画分で10mMリン酸緩衝液、150mM NaCl、pH=8.0中に溶出される。
【0136】
ニトロセフィン(VWR)に対する最も高い活性と最高純度(SDS−PAGE)とを有する画分は合わせられ、約0.5mg/mlに濃縮される。試料のタンパク質含量は、BCA(ピアス社)、280nmでの吸光度、およびSDS−PAGEゲル上での検証によって測定される。図11は、得られた精製タンパク質の結果を示す。
【0137】
精製タンパク質は、異なる抗生物質:β−ラクタムについてはセフトリアキソン(ロセフィン(登録商標)、ロシュ社)、およびアミノグリコシドについてはカナマイシンについて試験された。セフトリアキソンのアッセイは、37℃、pH=7.0で25mlの反応容積においてpH−STAT(チトリノ2.5、メトローム社)で行われた。基質は、0.3mM Tris緩衝液、150mM NaCl中に、4g/lで調製される。β−ラクタム核の酵素加水分解は酸を放出し、pHの低下をもたらす。このアッセイの原理は、pH=7.0を維持するように、0.1N水酸化ナトリウムの添加によって酸性化を相殺することである。これらの条件において、1単位は、1分間に添加される1μmolの水酸化ナトリウムに対応し、すなわち、1分間に加水分解される1μmolのβ−ラクタムに対応する。
【0138】
アセチルトランスフェラーゼの活性は、アセチル基ドナーとしてのアセチル−CoA(シグマアルドリッチ(Sigma−Aldrich))と、アクセプターとしてのカナマイシンと、酵素反応中に放出されるCoEnzymeA還元(−SH)分子を滴定するためのエルマン(Elleman)試薬(DTNB、シグマアルドリッチ)とを用いた間接的比色アッセイによって測定される[Ref]。その反応は、最終容積200μl中の増加させた量の精製酵素と、濃度が500μMのカナマイシン、500μMのアセチルCoAおよび250μMのDTNBとともにマイクロ滴定プレート上で行われる。これらの実験条件において、イオンTNBは、412nmで吸収し、ε(λ=412nm)は見かけ19000M−1.ウェル−1(200μlで満たされる96ウェルプレートのウェル)であり、1単位は、37℃で1分あたりに放出される1ナノモルのTNBに対応する。
【0139】
以下のテーブル12は、3つの基質(6回の実験の平均、すなわちn=6)に対する各々のタンパク質について測定された比活性を要約する。
【0140】
【表12】
【0141】
これらの結果は、AAC−6’−Ib−crとCTX−M16との融合体が、第三世代のセファロスポリンを加水分解することができ、かつアセチル化によってアミノグリコシドを不活性化することができるハイブリッドタンパク質を生成することを示す。これら2つのクラスにおいて抗生物質を不活性化することができる天然酵素は知られていない。
【0142】
実施例6:ポリヒスチジンタグタイプのリンカーによるEreBとTEM36との融合体からなる非グリコシル化ハイブリッドタンパク質分子
TEM−36(配列番号1)およびEreB(配列番号5)をコードする配列は、大腸菌用の発現ベクターにおける遺伝子合成によって商業的に得られた。次に、遺伝子断片NdeI/HindIIIは、pET−26b(+)ベクター(インビトロジェン社)にサブクローニングされた。
【0143】
図3に記載されている原理に従って、本発明者らは、オーバーラップPCRによってハイブリッドタンパク質分子EreB−H6−TEM36を生成した。TEM−36およびEreBのヌクレオチド配列は、高忠実度DNAポリメラーゼ(Pfu、プロメガ社)と、タンパク質リンカー(この実施例においてはヒスチジンタグ6)を構成する部分的に相補的なプライマーとを用いたPCR(95℃で30秒間−25サイクル[95℃で30秒間−TM℃で45秒間−72℃で1分間]−72℃で5分間−4℃)によって増幅された。TEM−36は、プライマー対のEreB6HTEM36_coli_FおよびT7_Rを用いて、65℃のTMで増幅された。EreBは、プライマー対のEreB_coli_FおよびEreB6HTEM36_Rを用いて、65℃のTMで増幅された。HHHHHHリンカーの構成配列は、テーブル13において太字で示され、下線が付されている。
【0144】
【表13】
【0145】
それにより得られたPCR断片は、55℃のTMでハイブリダイズされ、高忠実度DNAポリメラーゼ(Pfu、プロメガ社)を用いて、プライマーを含まないPCR(95℃で30秒間−55℃で45秒間−72℃で2分15秒間)の5サイクル中で補完された。ハイブリッドタンパク質をコードする完全な配列は、外側のプライマー(EreB_co
li_F+T7−R)の添加後、55℃のTMで操作して再増幅された。
【0146】
それにより生成されたEreB−H6−TEM−36融合体は、pET26b+ベクター(大腸菌において発現)にNdeIおよびHindIII酵素制限を用いてクローニングされた(図7)。
【0147】
ハイブリッド構築物の配列は、両方向で確認された。図12は、pET−TEM36、EreBおよびEreB−H6−TEM36シリーズにおいてT7−FおよびT7−Rプライマーを用いて得られたPCR断片を要約する。
【0148】
TEM−36(配列番号1)、EreB(配列番号2)および融合体EreB−H6−TEM36を発現するpET−26b(+)発現ベクターは、LB培地(酵母エキス5g/l;トリプトン10g/l;NaCl 10g/l、pH=7)で50μg/mlのカナマイシン(ユーロメデックス)選択圧を維持しながら、大腸菌DH10B中で増殖された。それらの発現ベクターを用いて、発現菌株BL21(DE3)pLysSは、熱ショックにより形質転換された。形質転換された細胞は、50μg/mlのカナマイシンを含有するLB寒天培地(酵母エキス5g/l;トリプトン10g/l;NaCl 10g/l;寒天15g/l、pH=7)上に播種された。
【0149】
大腸菌における目的のタンパク質(TEM36、EreBおよび融合体EreB−H6−TEM36)の機能性は、異なるβ−ラクタム(アモキシシリンおよびオーグメンチン(登録商標))ならびにマクロライド(エリスロマイシン)型の抗生物質に対する発現菌株の耐性を測定することによって評価された。
【0150】
形質転換された細菌(TEM36、EreB、またはEreB−H6−TEM36を発現する)または空の菌株(BL21(DE3)pLysS)は、5mlのLB+50μg/mlのカナマイシンの培地中に、必要に応じて37℃にて、飽和するまで200rpmで撹拌しながら置かれる。次に、予備培養物は、5mlのLB+50μg/mlカナマイシン培地中に1/40で接種され、OD600nmが0.6の値に達したとき(約2時間)、タンパク質の生成は、1mMの最終濃度のIPTGを添加することによって誘導され、200rpmで撹拌しながら1.5時間、37℃で継続される。
【0151】
細胞は、10cfu/mlで標準化され、カスケードで10、10、10、10cfu/mlに希釈され、各懸濁液の5μlは、濃度増加させた抗生物質(アモキシシリン0、2、4、8、16、32、64、128、256、512、1024、2048μg/ml;オーグメンチン(登録商標)0、2、4、8、16、32、64、128、256、512、1024μg/ml、およびエリスロマイシン0、2、4、8、16、32、64、128、256、512、1024μg/ml)を含有するLB−寒天ディッシュ上に堆積される。
【0152】
それらのディッシュは、37℃で一晩インキュベートされ、その結果は翌日に記録される。MICは、最も高い接種菌がもはや増殖しない、最低濃度の抗生物質に対応する。
そのデータは以下のテーブル14に示されている。
【0153】
【表14】
【0154】
実施例6に記載されているハイブリッドタンパク質分子を発現する大腸菌細胞は、アミノペニシリン(クラブラン酸などの阻害剤を含むまたは含まない)とエリスロマイシンなどのマクロライドとに対する多剤耐性表現型を示す。これまでに、単一のタンパク質の発現に起因するこのような表現型を有する天然細菌株は文献には記載されていない。
【0155】
参照文献
【0156】

【表15】
【0157】
配列表
【0158】

【表16】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【配列表】
2017533260000001.app
【国際調査報告】