特表2017-533787(P2017-533787A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2017-533787バルーンカテーテルシステム及びこのシステムを使用する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-533787(P2017-533787A)
(43)【公表日】2017年11月16日
(54)【発明の名称】バルーンカテーテルシステム及びこのシステムを使用する方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/10 20130101AFI20171020BHJP
【FI】
   A61M25/10 510
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2017-526522(P2017-526522)
(86)(22)【出願日】2015年11月13日
(85)【翻訳文提出日】2017年7月14日
(86)【国際出願番号】IB2015058802
(87)【国際公開番号】WO2016079649
(87)【国際公開日】20160526
(31)【優先権主張番号】62/080,831
(32)【優先日】2014年11月17日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】512237246
【氏名又は名称】クアトロ・ヴァスキュラー・ピーティーイー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】エイタン・コンスタンティーノ
(72)【発明者】
【氏名】タヌム・フェルド
(72)【発明者】
【氏名】ゲイリー・ビンヤミン
(72)【発明者】
【氏名】ジェイソン・デロス・サントス
(72)【発明者】
【氏名】ナディア・マトフ
(72)【発明者】
【氏名】ギレルモ・ピヴァ
【テーマコード(参考)】
4C167
【Fターム(参考)】
4C167AA06
4C167BB02
4C167BB06
4C167BB28
4C167CC09
4C167GG03
4C167GG04
4C167GG05
4C167GG06
4C167GG07
4C167GG08
4C167GG09
(57)【要約】
狭窄した血管を拡張するためのシステムが提供される。 このシステムは、カテーテルシャフト上に備え付けられたバルーンを含み、このバルーンは、第1の材料と、バルーンの表面に取り付けられた、又はその壁内に一体化されたグリッドを形成する繊維と、から構成されている。 繊維は、バルーンが所定の圧力を超えて膨張したときに、バルーン領域が繊維によって形成されたグリッドから突出するように、第1の材料よりも小さい弾性を有する第2の材料から成る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
狭窄した血管を拡張するためのシステムであって、
(a)カテーテルシャフトに備え付けられたバルーンであって、第1の材料から成るバルーン、及び
(b)前記バルーンの表面に取り付けられた、又は前記バルーンの壁内に一体化された、グリッドを形成する複数の繊維であって、前記バルーンが所定の圧力を超えて膨張したときに、複数のバルーン領域が、前記複数の繊維によって形成された前記グリッドから突出するように、前記第1の材料よりも小さい弾性を有する第2の材料から成る、複数の繊維を備えるシステム。
【請求項2】
前記バルーンが第1のポリマーから成り、前記複数の繊維が第2のポリマーから成ることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記複数の繊維のそれぞれの厚さは、10〜750ミクロンの範囲から選択されることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
複数の繊維のそれぞれの厚さは、その長さに沿って変化することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記グリッドは、1〜25mmの範囲から選択された面積を有する複数のセルを形成することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記グリッドは、接着剤を介して前記バルーンの表面に取り付けられることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記グリッドは溶着を介して前記バルーンの表面に取り付けられることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記複数の繊維のそれぞれの引張弾性係数は、1〜150GPaの範囲から選択され、前記バルーンの引張り弾性係数は、0.0002〜0.0100GPaの範囲から選択されることを特徴とする請求項2に記載のシステム。
【請求項9】
前記セルは、三角形状及びダイヤモンド形状のセルを含むことを特徴とする請求項2に記載のシステム。
【請求項10】
前記セルのリード角度は30〜180度の範囲から選択されることを特徴とする請求項2に記載のシステム。
【請求項11】
前記複数の繊維のそれぞれの線形質量密度は1〜100デニールであることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
前記複数の繊維のそれぞれの線形質量密度は50デニールであることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
前記グリッドパターンは、前記バルーンの周りにらせん状に時計回り方向に巻き付けられたN本の繊維と、前記バルーンの周りにらせん状に反時計回りに巻き付けられたN本の繊維と、から形成されていることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項14】
Nが4〜16の範囲から選択されることを特徴とする請求項12に記載のシステム。
【請求項15】
Nが4であることを特徴とする請求項12に記載のシステム。
【請求項16】
前記所定の圧力が少なくとも2気圧であることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項17】
前記複数の分離されたバルーン領域は、前記表面から少なくとも0.1mm突出していることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項18】
前記グリッドは、前記バルーンと、材料の層と、の間に挟まれていることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項19】
前記複数の繊維のそれぞれがモノフィラメント繊維であることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項20】
前記複数の繊維のそれぞれがマルチフィラメント繊維であることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項21】
前記複数の繊維のそれぞれが、ポリプロピレン、PLLA、PEEK、ケブラー、及び/又は超高分子量ポリエチレンから成ることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項22】
前記バルーン及び/又は前記複数の繊維が、薬物含有製剤でコーティングされていることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項23】
前記薬物が抗増殖薬であることを特徴とする請求項21に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、2014年11月17日に出願された米国仮出願第61/080,831号の優先権の利益を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、バルーンカテーテルシステム及び生物学上の血管を治療するための方法に関し、より詳細には、バルーンの壁に取り付けられた、又はバルーンの壁内に一体化された繊維のグリッドを含む血管形成用バルーンカテーテルに関する。繊維は、バルーン材料よりも弾力性が小さく、そのため、バルーンが所定の圧力を超えて膨張するときに、複数のバルーン領域が繊維によって形成されたグリッドから突出する。
【背景技術】
【0003】
経皮経管的血管形成(PTA)は、バルーンカテーテルが動脈を通じて挿入され、管腔狭窄の領域に案内される手順である。バルーンは膨張して、動脈の壁にプラーク物質(典型的には脂肪とカルシウム)を押し付けて血管管腔を開き、血流を改善する。
【0004】
血管形成用バルーンは膨張したときには、典型的には円筒形であるとともに、異なる血管サイズに適合するように異なる長さ及び直径を有する。バルーンは、プラークの抵抗を克服し管腔の拡張を達成するために、通常は8〜20気圧の高圧で膨張させられる。
【0005】
標準的なバルーン(単純なバルーンとも呼ばれる)は、血管中における病変の拡大に対して最も一般的に使用される技術(血管形成術)であるが、標準的なバルーンにはいくつかの欠点がある。
【0006】
動脈の狭窄領域の直径及び組成は一般的に一様ではないので、血管中の標準的なバルーンの膨張は、不均一な(軸方向及び半径方向の)拡張をもたらす。病変組成の変異性(病変は硬質プラーク物質と軟質プラーク物質との混合物から構成される場合がある)は、病変に沿った拡大に対する抵抗性における変異性、及び血管の最も抵抗性の低い領域におけるバルーンの過拡張をもたらす。結果として、標準的なバルーンは、病変のより抵抗性の少ない領域に過度の力を加え、それによって血管壁に損傷を与える(例えば切開)場合があるにもかかわらず、その有効な拡張を可能にするために抵抗性プラーク領域に十分な力をかけることがない。
【0007】
血管壁への損傷は、不良な長期的な臨床結果に関連し、治療領域における再狭窄を加速又は誘発する場合がある。さらに、流れを制限する切開のような主な切開は、手順をさらに複雑にするステント留置を必要とする。
【0008】
バルーンの表面上に配置されたカッティング(cutting)要素又はスコアリング(scoring)要素(刃/ワイヤ)を介して、抵抗性を有するプラーク領域への力を増すことによって、標準的なバルーンカテーテルの前述の制限を解決しようとする試み(例えば、特許文献1及び特許文献2)は、幾らか成功はしたが、不均一なバルーンの拡張に起因する問題を適切には解決しなかった。さらに、カッティング及びスコアリングバルーンは、血管壁の損傷を避けるようには設計されていないが、代わりに、制御された予測可能な切開を誘導することによって、血管壁への損傷を制御するように設計されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/0143287号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/0085025号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2014/0066960号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2006/0271093号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2005/0271844号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、抵抗性の低いプラーク領域において血管壁に損傷を与えることなく、抵抗性を有するプラーク領域を効果的に開くことができる高圧血管形成用バルーンカテーテルに対する必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の一態様によれば、狭窄した血管を拡張させるためのシステムであって、(a)カテーテルシャフトに備え付けられたバルーンであって、第1の材料から成るバルーンと、(b)バルーンの表面に取り付けられた、又はバルーンの壁内に一体化されたグリッドを形成する複数の繊維であって、これら複数の繊維が、第1の材料よりも小さい弾性を有する第2の材料から成り、それによってバルーンが所定の圧力を超えて膨張したときに複数のバルーン領域が複数の繊維によって形成されたグリッドから突出する、複数の繊維と、を備えるシステムが提供される。
【0012】
以下に記載する本開示のさらなる特徴によれば、バルーンは第1のポリマーから成り、複数の繊維は第2のポリマーから成る。
【0013】
記載された実施形態における、またさらなる特徴によれば、複数の繊維のそれぞれの厚さは、10〜750ミクロンの範囲から選択される。
【0014】
記載された実施形態における、またさらなる特徴によれば、複数の繊維のそれぞれの厚さは、その長さに沿って変化する。
【0015】
記載された実施形態における、またさらなる特徴によれば、グリッドは1〜25mmの範囲から選択された面積を有する複数のセルを形成する。
【0016】
記載された実施形態における、またさらなる特徴によれば、グリッドは接着剤を介してバルーンの表面に貼り付けられる。
【0017】
記載された実施形態における、またさらなる特徴によれば、グリッドは溶着によってバルーンの表面に取り付けられる。
【0018】
記載された実施形態における、またさらなる特徴によれば、複数の繊維のそれぞれの引張弾性係数は、1〜150GPaの範囲から選択され、バルーンの引張り弾性率は0.0002〜0.0100GPaの範囲から選択される。
【0019】
記載された実施形態における、またさらなる特徴によれば、セルは三角形状又はダイヤモンド形状のセル、又はその両方の形状のセルを含む。
【0020】
記載された実施形態における、またさらなる特徴によれば、セルのリード角度は30〜180度の範囲から選択される。
【0021】
記載された実施形態における、またさらなる特徴によれば、複数の繊維のそれぞれの線形質量密度は1〜100デニールである。
【0022】
記載された実施形態における、またさらなる特徴によれば、複数の繊維のそれぞれの線形質量密度は50デニールである。
【0023】
記載された実施形態における、またさらなる特徴によれば、グリッドパターンは、前記バルーンの周りにらせん状に時計回り方向に巻き付けられたN本の繊維と、前記バルーンの周りにらせん状に反時計回りに巻き付けられたN本の繊維と、から形成されている。バルーンは、任意にL本の縦方向繊維を含むことができ、Lは2以上とすることができる。
【0024】
記載された実施形態における、またさらなる特徴によれば、Nは4〜16の範囲から選択される。
【0025】
記載された実施形態における、またさらなる特徴によれば、Nは4である。
【0026】
記載された実施形態における、またさらなる特徴によれば、所定の圧力は少なくとも2気圧である。
【0027】
記載された実施形態における、またさらなる特徴によれば、複数の分離されたバルーン領域は、バルーンが作動圧力(例えば、5〜25ATM)まで膨張したときに、表面から少なくとも0.1mm突出する。
【0028】
記載された実施形態における、またさらなる特徴によれば、グリッドは、バルーンと材料の層との間に挟まれている。
【0029】
記載された実施形態における、またさらなる特徴によれば、複数の繊維のそれぞれはモノフィラメント繊維である。
【0030】
記載された実施形態における、またさらなる特徴によれば、複数の繊維のそれぞれはマルチフィラメント繊維である。
【0031】
記載された実施形態における、またさらなる特徴によれば、複数の繊維のそれぞれは、ポリプロピレン、PLLA、PEEK、アラミド(Kevlar(登録商標))、ポリエステル繊維(Dacron(登録商標))、芳香族ポリエステル(Vectran(登録商標))、脂肪族ポリアミド(ナイロン)及び/又は超高分子量ポリエチレンを含む。
【0032】
記載された実施形態における、またさらなる特徴によれば、バルーン及び/又は複数の繊維は薬物含有製剤でコーティングされる。
【0033】
記載された実施形態における、またさらなる特徴によれば、薬物は抗増殖薬である。
【0034】
本開示は、血管壁を損傷することなく、狭窄した血管を開くために使用することができるバルーンカテーテルシステムを提供することにより、現在知られている構成の欠点にうまく対処する。
【0035】
別様に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本開示が属する業界の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されているのと類似又は同じ方法及び材料を本開示の実施又は試験に使用することができるが、適切な方法及び材料が以下に記載される。紛争の場合には、特許明細書が定義を含めて支配する。さらに、材料、方法、及び実施例は例示的なものに過ぎず、限定することを意図するものではない。
【0036】
本明細書の開示は、添付の図面を参照して、例示のみの方法によって本明細書に記載される。ここで図面を詳細に具体的に参照すると、示された詳細は、例示の方法による、本開示の実施形態の実例の説明の目的のためだけのものであり、それが本開示の原理及び概念的側面の最も有用で容易に理解される説明であると信じられているものを提供するために提示されていることが強調される。これに関しては、本開示の根本的な理解のために必要とされるよりも、開示の構造的詳細をより詳細に示す試みはなされておらず、明細書の記載は、図面を参照することによって、本開示のいくつかの形態を実際にどのように具現化することができるかが当業者には明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明のバルーンを含むカテーテルの側面図、及びカテーテルのバルーン部分の拡大図である。
図2】四角形状の開口部を有するグリッドを含む、膨張したバルーンの等角図である。
図3a図2のバルーンの側面図である
図3b】収縮したバルーン、又は所定の閾値まで膨張したバルーンのバルーン表面及び編組を示す図である。
図3c】所定の閾値を超えて膨張したバルーンのバルーン表面及び編み部材を示す図である。
図4】ダイヤモンド形状の開口部を有するグリッドを含む膨張したバルーンの側面図である。
図5】本開示の教示に従って構成されたバルーンのプロトタイプの繊維間の重要な角度及び距離を示す画像である。
図6a】バルーンの先細端部を示す、10PPIで編組された、6×40mmのバルーンの写真である。
図6b】バルーンの先細端部を示す、6PPIで編組された、6×40mmのバルーンの写真である。
図6c】バルーンの中央部を示す、10PPIで編組された、6×40mmのバルーンの写真である。
図6d】バルーンの中央部を示す、6PPIで編組された、6×40mmのバルーンの写真である。
図7a】バルーンの先細端部を示す、6PPIで編組された、5×40mmのバルーンの写真である。
図7b】バルーンの先細端部を示す、10PPIで編組された、5×40mmのバルーンの写真である。
図7c】バルーンの中央部を示す、6PPIで編組された、5×40mmのバルーンの写真である。
図7d】バルーンの中央部を示す、10PPIで編組された、5×40mmのバルーンの写真である。
図8】ダイヤモンドパターンで編組されたバルーンを示す図である。
図9図8のバルーンの近接撮影像である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本開示はバルーンカテーテルシステムに関するものであり、このバルーンカテーテルシステムは、高い膨張圧力下にあってさえも血管壁に均一な圧力を適用することができ、それによって治療される血管の全ての部分に均一な拡張力を適用しつつ、動脈のような身体血管の狭窄した領域を拡張するために使用することができる。
【0039】
本開示の原理及び動作は、図面及び以下の説明を参照することにより、よりよく理解することができる。
【0040】
本開示の少なくとも1つの実施形態を詳細に説明する前に、本開示は、その適用が以下の説明に記載される詳細又は実施例によって例示される詳細に限定されないことを理解されたい。開示は、他の実施形態に可能であるか、又は様々な方法で実施又は実行することが可能である。また、本明細書で使用される表現及び用語は、説明のためのものであり、限定と見なされるべきではないことを理解されたい。
【0041】
先に出願された特許出願(2013年8月21日に出願された特許文献3、その全体の開示は参照により本明細書に組み込まれる)において、開示は、バルーン上に配置される拡張可能な拘束構造を有する血管形成バルーンカテーテルを記載する。拡張可能な拘束構造は、バルーンには取り付けられていないが、それによってバルーンの膨張を抑制し、かつ分離されたバルーン領域が膨張中に拘束構造から突出するのを可能にするように拡張される。これは、膨張したときにバルーンが血管壁に均一な力を加え、切開及び他の損傷の可能性を低下させることを確実にする。
【0042】
実験は、特許文献3のバルーンカテーテルが、狭窄した領域を拡張し、血管壁の損傷を最小にするのに非常に有効であることを示したが、このバルーンカテーテルは、金属の拘束構造の故に、かなり大きなパッキング直径及び蛇行性血管を通じた、制限された柔軟性及び操作性を有する。
【0043】
これらの制限を克服するために、本発明者らは、特許文献3の利点を高い膨張圧力下で提供することが可能であり、製造が容易であり、かつ蛇行性血管を通じて高度に操作可能であるとともに、効率的にパッキングすることができるバルーンカテーテルを考案した。以下にさらに説明するように、そのような利点は、バルーン壁に取り付けられるか又はバルーン壁に一体化され、バルーンの膨張時にバルーン表面の形状を変えて、枕状の突起を形成するように構成された繊維のグリッドによって提供される。
【0044】
一体化された、又は取り付けられた繊維のグリッドを有するバルーンは、当該技術分野において知られている(例えば、特許文献4又は特許文献5)。しかし、そのような繊維のグリッドは、バルーンの過膨張を防ぎ、高い膨張圧力下でのバルーンの完全性を増すために使用されており、膨張したバルーンの形状を修正して、グリッドを通じた枕状のバルーンの突出部を形成するために使用されているのではない
【0045】
したがって、本開示の1つの特徴によれば、狭窄した血管を拡張するためのシステムが提供される。本明細書で使用されているように、血管という用語は、体内の任意の中空導管を参照し、体液を導く動脈及び静脈などの血管、リンパ管、消化管(例えば、腸)の血管(GI tract vessel)、線分泌管(ducts)、及び任意の身体通路を含む。以下にさらに説明するように、本システムの1つの好ましい使用は、末梢(例えば脚)動脈のような動脈の血管形成にある。
【0046】
本システムは、カテーテルシャフト上に備え付けられた、第1の材料(例えば、第1のポリマー)から成るバルーンと、このバルーンの表面に取り付けられた、又はバルーンの壁内に一体化された、グリッド状のパターンを形成する複数の繊維と、を含む。繊維は、好ましくは第1の材料よりも強く、伸びにくい第2の材料(例えば第2のポリマー)から成る。
【0047】
このように、所定の閾値圧力(例えば、3気圧以上)を超えるバルーンの膨張は、バルーン材料を繊維よりも引き伸ばし、繊維が拘束又は固定されているバルーン表面に沿ったチャネル及びバルーン材料が拘束又は固定されていない部分間のバルーンの突出部を形成する。繊維のグリッドは、膨張の全体に亘って(軸方向及び半径方向に)バルーンの均一性を維持して、突出部(本明細書では枕とも参照される)を血管壁及びプラーク物質に均一に接触させ、したがって治療される血管領域に沿って均一な力の分配を確保し、プラーク領域全体を効果的に拡張しつつ血管の損傷を最小化することを可能にする。さらに、グリッドの繊維によって形成されたチャネルは、バルーンが膨張したときに血管壁から凹んでいるので、応力緩和領域を提供し、さらに損傷の可能性を低減する。
【0048】
突出部の形成及び突出部の高さ領域及び形状の制御を可能にするために、バルーン及び繊維の材料、繊維の強度及び直径、及びそれにより形成されるグリッドの形状を注意深く選択しなければならない。
【0049】
バルーン材料は、望ましい伸展性(コンプライアンス:本明細書では弾力性又は引張り弾性係数として定義される)及び破裂に対する抵抗性(強度)に基づいて選択される。繊維は強度と弾力性とに基づいて選択される。
【0050】
カテーテルシャフトは、望ましい手順における使用に適した任意の構成とすることができる。例えば、血管形成手順においては、カテーテルは、ワイヤ全体に亘る(over−the−wire)送達又は急速交換送達(rapid exchange delivery)用に構成することができ、その近位端におけるワイヤ挿入、膨張、及びその種の処置のための適切なコネクタを含むことができる。カテーテルシャフトは、末梢血管、冠状動脈、又は脳血管の血管形成に好適な任意の長さ及び直径にすることができる。バルーンの好適な長さ(L)及び直径(D)は、冠状動脈用途に対しては約4〜40mmL、1.25〜5mmDの範囲、及び末梢血管用途に対しては約20〜300mmL、2〜12(又はそれ以上)mmDの範囲とすることができる。
【0051】
バルーンは、ポリアミド、ペバックス、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート又は同様の材料から、約5〜300mmの長さ及び約2〜12(又はそれ以上)mmの直径の範囲から選択された寸法で製造された、コンプライアント又は半コンプライアントのバルーンとすることができる。バルーンは、円筒形状又は当技術分野で知られている他の任意の形状とすることができる。例えば血管形成において使用されるときには、バルーンは、長さ5〜300mm、直径2〜12mmの、テーパのついた端部を有する略円筒形状とすることができ、テーパ部分は通常、バルーンの直径と同様であるか又はわずかに短い。バルーン材料の弾力性は、0.0002〜0.0100GPaとすることができる。
【0052】
グリッドは、そのような目的に適した任意の材料から織られた又は編組された(同じ又は異なるフィラメントから成る)単一フィラメント繊維又はマルチフィラメント繊維から形成することができる。繊維は、(バルーン上の)繊維長全体に亘って均一又は可変の厚さで、半径方向におけるような10−750ミクロンの厚さとすることができる。例えば、繊維は、バルーンのテーパ部分又は脚部において厚く、作業長さにおいては薄くすることができる。
【0053】
繊維は、種々のポリマー(例えば、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエチレン等)又は金属(例えばニチノール又はコバルトクロム合金等)又はそれらの複合体、他の適切な材料から作製することができる。特定の好ましい例として、超高分子量ポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン、及びポリエチレンテレフタレートが挙げられる。繊維に対して現在好ましい材料は超高分子量ポリエチレンである。
【0054】
マルチフィラメント繊維は、通常は繊維の線形質量密度に対する測定単位であるデニール単位で測定される。繊維の線形質量密度は、10〜100デニール、好ましくは50デニールとすることができる。
【0055】
繊維の弾力性は、0.1〜500GPaの範囲、好ましくは100GPaとすることができる。
【0056】
繊維の編組密度もまた重要であり、1インチ当たりのピック(picks per inch:PPI)、すなわち、バルーンの長さの1インチあたりの繊維の交差の数によって決定され、高いPPIは高い破裂圧と相関する。本システムのグリッドを製造するために使用されるPPIは、好ましくは2〜20、より好ましくは6〜14の範囲内にある。
【0057】
いくつかのアプローチを、本システムを製作するために使用することができる。本システムは、バルーンが0.3〜20気圧(好ましくは0.3〜8気圧、より好ましくは0.3〜2気圧)の圧力下で膨張又は半膨張した形態にある間に組み立てられる。使用される膨張圧力はバルーン材料の伸張の程度を設定し、このバルーン材料の伸張の程度はバルーンの拘束されたセグメントの外径と、完全に膨張したバルーンの分離されたバルーン領域の最大突出高さと、を決定する。
【0058】
バルーンが膨張していない(又は閾値以下の圧力までしか膨張していない)ときには、繊維の編組はバルーンの表面から突出する(図3b)か、又はバルーン壁が(バルーン壁材料の2つの層の間に挟まれたときに)繊維の編組を越えて半径方向外側に延在しないように、バルーンの表面とともに形成される。閾値圧力を超える圧力まで膨張すると、分離されたバルーン領域は、編組繊維の表面と分離されたバルーン領域の最外面との間の距離として規定される高さまで編組開口部から突出する(矢印、図3c)。そのような高さは、公称膨張作動圧力において、少なくとも約0.1mmであり、いくつかの実施では、少なくとも約0.1又は0.2又はそれ以上とすることができる。一般に、高さは約0.01〜1mm又は0.1〜0.5mmの範囲内である。
【0059】
(過膨張の状態の3mmを超える直径に達することができる)3mmのバルーンでは、繊維のアセンブリは、直径約3mmまで膨張したバルーン上で行われる。アセンブリされたバルーンが血管内で膨張すると、分離されたバルーン領域の突出部がこの直径で生じ、膨張するにしたがって徐々にその高さを増加させる。3.5mmの直径では、バルーン表面から突出する分離されたバルーン領域の高さは、3.5mmから増加し始め、膨張とともにその高さが徐々に増加し、典型的には増加した高さは約0.01〜0.5mmまで増加する。
【0060】
繊維は、好ましくはバルーン表面にそれぞれの繊維の全長に沿って取り付けられる。取付けは、繊維に適用された接着剤を使用するか、又はバルーン表面に適用された2つの接着剤層、ベース及びカバー接着剤層間に繊維を挟むことによって達成される。これら層は、浸漬、噴霧、又は当該技術分野で知られている他の任意の方法によって適用することができる。バルーン壁のベース層は、繊維の不動化を可能にするが下層のバルーン基材の柔軟性を保持する、任意の柔軟性接着剤層とすることができ、一方でカバー層はグリッドをさらに不動化し、グリッドを血管壁及びプラークから保護するとともに血管壁の把持(vascular wall‐gripping)を強化する。
【0061】
滑らかなカバー層は、本発明のバルーンカテーテルがステント内再狭窄の拡張に利用される場合に特に有利である。本バルーンのカバー層は、「ステントジェイリング」、すなわち、例えばカッティング/スコアリングバルーンの支柱がステントの支柱内に閉じ込められる現象を防止する。
【0062】
バルーン表面への繊維の取り付け又は部分的な取り付けは、膨張中の全体を通じてバルーン上の繊維の位置を維持し、それによって分離されたバルーン領域の形状及びサイズを維持するために望ましい場合がある。繊維が自由に動くと、バルーンの突出部の均一性を維持することができず、したがって均一な血管の拡張が可能でなくなる。また、特定のグリッド形状への繊維の固定も、フリーなワイヤはその意図された位置からより容易に滑る傾向があり、これもまた突出部の不均一性をもたらすバルーンテーパー上において、非常に重要である。
【0063】
繊維は、PPIによって規定されたリード角度でバルーンの作業長さに亘って編組される。この角度は30〜180度の範囲で変化させることができる。一実施形態では、(チャネル間に突出している)それぞれの分離されたバルーン領域は、互いに対して約90°の角度で交差する4つの繊維によって取り囲まれている。リード角度はすべての繊維に対して一定かつ等しいので、繊維間に形成された、分離されたバルーン領域は正方形/長方形となる。この構成では、繊維はバルーンの圧力上昇によって繊維上に加えられる張力に抵抗するように配置される。
【0064】
上述の例では、繊維は長さ方向及び半径方向に編組されているが、本発明のグリッドは、バルーンの作業長さ及びテーパに亘る繊維のらせん編組によって形成することもできる。
【0065】
任意の最上層を、ベース層とカバー層との間への繊維のグリッドの挟み込みに続いて、バルーンに適用することができる。この最上層はバルーンの粘着性を低下させ、曲がりくねった解剖学的構造を追跡し、血管部位内で膨張するバルーンの能力を向上させる。最上層は、パリレン又は当業界で一般的に知られている他の材料で構成することができる。
【0066】
代替的に、ファイバグリッドのベース層とカバー層との間への挟み込みに続いて、バルーンをコーティング材でコーティングすることができる。このコーティング材は、親水性材料又は疎水性材料とすることができる。コーティング材は、バルーンの粘着性を低下させ、曲がりくねった解剖学的構造を追跡し、血管部位内で膨張するバルーンの能力を向上させる。最上層は、シリコーン、ポリウレタン、ポリビニルピロリドン、ヒアルロン酸、又は当該技術分野において一般的に知られている他の材料で構成することができる。
【0067】
アセンブリされたときに、バルーンは、当技術分野で知られている規則的な折り畳み技術で折り畳むことができる。バルーンは、プリーツが、単純なバルーンに行われるようにバルーン軸の周りに巻き付けられた状態で、2〜8プリーツに折り畳むことができる。繊維はそのような折りたたみを可能にするのに十分柔らかい。
【0068】
以下、製造プロセスの1つの特定の実施形態について説明される。
(i)バルーンが、好ましくは0.3〜2ATMへ膨張される。
(ii)ポリウレタン接着剤が噴霧、浸漬又は塗装を介してバルーンのベース層に適用される。
(iii)接着剤ベース層が硬化され、繊維がバルーン表面上に編組される。可変ピッチプロセスが、脚部、テーパ部、及び作業長さに亘って、作業長さ6〜14以上のPPI範囲で使用される。
(iv)ポリウレタン接着剤のカバー層が編組されたグリッド上に適用されて、繊維を適所に固定し、繊維とプラーク物質との間の相互作用を最小にするような連続的繊維コーティングを確保する。

(v)粘着性カバー層が硬化され、任意の外層がバルーンに適用されて、粘着性を最小化し、血管部位への送達を向上させる。
【0069】
図1図4は、本明細書ではシステム10と参照される本バルーンシステムの一実施形態を示す。システム10は、血管形成の手順に使用するように構成されている。
【0070】
システム10はカテーテルシャフト12を含み、このカテーテルシャフト12は、ポリマー押出材から製造され、シャフト12の長さに延びる長手方向管腔を含む。第1の管腔はガイドワイヤを収容することができ、第2の管腔は、シャフト12の遠位部分14上に備え付けられたバルーン20のための膨張導管として機能する。シャフト12の近位部分16は、第2及び第1の内腔(それぞれ)に連通する専用のポート22及び24を有するコネクタ18を含む。
【0071】
冠状動脈用途に対しては、(図2に示すように膨張したときに)バルーン20は、直径1.25〜5.0mm及び長さ4〜40mmとすることができる。抹消用途の場合、バルーン20は、直径2〜12mm、長さ5〜300mmとすることができる。より長いバルーンは、その長さに沿って(半径方向に)テーパする場合がある。バルーン20の壁の厚さは1〜250μmで変化することができる(材質や特性に応じて可変である)。バルーンの壁の厚さは、均一又は可変とすることができる。
【0072】
バルーン20は、当技術分野で周知の方法(例えば、接着又は溶接)を使用して、シャフト12の遠位部分14に取り付けられる。グリッド30は、上述したように、バルーン20の壁32上に一体化されるか、又は接着される。グリッド30は、作業長さ(WL)、脚部(LG)及びテーパ部分(TP)を含むバルーン20の長さに亘って編組された/編まれた2つ以上の繊維34(図2に示す5本の半径方向繊維35及び4本の軸方向繊維37)から形成される。
【0073】
図2に示すように、バルーン20が公称圧力(例えば、6〜20気圧)まで膨張すると、グリッド30は、分離されたバルーン領域36をファイバ34間に形成された開口部38を通じて突出させ、バルーン表面にチャネル40を形成する。バルーン及び繊維の材料、グリッド形状及び密度などを含むバルーン20及びグリッド30の構造におけるいくつかの変数に応じて、分離されたバルーン領域36はバルーン表面から0.01〜0.5mm突出することができる。グリッド30は、多数の軸方向繊維部分と交差する多数の周方向繊維部分を含むことができる。一般に、約3〜約20本の周方向繊維部分、例えば約4〜約10本の周方向繊維部分、及び約3〜約10本の軸方向繊維部分、例えば約3〜約5本の軸方向繊維部分があってもよい。いくつかの実施形態では、約10〜約20個の分離されたバルーン領域、例えば約12〜約18個のバルーン領域又は約14〜約16個のバルーン領域があってもよい。
【0074】
本明細書で言及されるように、分離されたバルーン領域36は血管中のプラークに接触し、それに均一な力を加え、一方でチャネル40(プラークから窪んでいる)は、応力緩和領域として機能する。
【0075】
バルーン20の周囲には、バルーン20の長さ及び直径に応じて4〜72本の繊維を配置することができる。繊維34は、それによって形成されるグリッドが略同じ面積及び形状の開口部38を含む限り、任意のパターンで設置することができる。例えば、繊維34は、長手方向(軸方向)及び半径方向に設置されて、(図2図3に示すように)正方形又は長方形の開口部38を形成することができ、又は繊維34は時計回り及び反時計回りにらせん状に巻かれて、らせん状に巻かれた繊維34から形成されたグリッド30を図示する図4に示されるように、ダイヤモンド形状の開口部38を形成することができる。これらの2つの方法の組み合わせもまた、バルーンの伸びを制限し、三角形状の開口部38(図5)を形成するための軸方向繊維を提供することによって使用することができる。
【0076】
ファイバ34の数は、グリッドを形成する編組の密度及び(分離されたバルーン領域36を形成する)開口部38の数及び面積に相関する。
【0077】
図6a〜図6dに示す本開示の一実施形態では、長さ40mm及び直径6.0mmのバルーン20は、8本の繊維34、4本の縦方向繊維34、及び4本の半径方向に巻き付けられた繊維34から形成された編組されたグリッド30を含む。この編組パターンは、膨張した際に、三角形状及び六角形状の分離されたバルーン領域3を形成する。
【0078】
図8図9に示す本開示の別の一実施形態では、バルーン20は、らせん状(H)+縦方向(L)の繊維34(H繊維の数はL繊維の数より大きい)を、L繊維が長手方向にバルーンの周りに配置され、H/2繊維34が時計回りにらせん状に巻かれ、H/2繊維34が反時計回りにらせん状に巻かれた状態で含むことができる。これは、分離されたバルーン領域36が、それを通じてバルーン20の周囲に突出する三角形状及び六角形状の開口部38を形成するグリッド30をもたらす。
【0079】
分離されたバルーン領域36の総数は、バルーンの長さに依存する。図3aの例では、分離されたバルーン領域36は、3×π/4=2.35mmの対角長さを有する正方形によって規定される。結果として、2.35mm毎のバルーン20の長さに、2×4=8の分離されたバルーン領域36が含まれる。したがって、3×20mmのバルーンは、8×20/2.35=68の分離されたバルーン領域36を含む。
【0080】
グリッド30は、好ましくは、バルーン20(図2)の作業長さ(WL)、脚部(LG)及びテーパ部(TP)に亘って可変のピッチ(ファイバ34の角度)を有する。そのような変化は、その長さに亘ってバルーン20の直径の変化(例えば、テーパが作動長より少なく膨張する)に対応することができるか、又はバルーン領域の局所的コンプライアンスを変更することができる(例えば、テーパ領域をそれほど順応しないようにする)。
【0081】
システム10は、以下のように血管形成に使用することができる。システム10は、周知の血管形成手法を使用して、ガイドワイヤ(図示せず)に亘って狭窄した領域に案内され得る。いったん定位置に置かれると、バルーン20は、それがチャネル40を形成する点まで膨張させられることができ、分離されたバルーン領域36が形成されて、分離されたバルーン領域36及びチャネル40における応力緩和領域においてプラークに外向きの半径方向の力を加える。一旦、領域が十分に拡張すると、バルーン20は収縮し、システム10は身体から取り除かれる。
【0082】
このように、本開示は、血管壁を不均一な拡張から保護するとともに、高度に石灰化した拡張耐性プラーク領域のような、抵抗性である特定の病変領域に局所的な高い圧力を提供することを可能にするバルーンシステムを提供する。
【0083】
システム10のバルーン20及び/又はグリッド30は、潤滑性を高めるために親水性又は疎水性のコーティング剤でコーティングすることができ、又は、例えば当該分野で周知の方法を使用してシロリムス又はパクリタキセルなどの抗増殖薬を含む薬物組成物でコーティングすることができる。
【0084】
本明細書で使用される用語「約」は、10%を参照する。
【0085】
本開示の追加の目的、利点、及び新規な特徴は、以下の実施例を検討することにより当業者には明らかになるだろうが、これらは限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0086】
以下の実施例が参照されるが、これらの実施例は上述の説明と共に本開示を非限定的な態様で説明する。
【0087】
[編組されたバルーンのベンチテスト]
いくつかのプロトタイプのバルーンを、本開示の教示に従って構成し、下記のように試験した。
【0088】
簡単に説明すると、ブロー成形によってナイロンバルーンを製造し、バルーンを0.3気圧まで予膨張させた。バルーンをポリウレタン接着剤にディップコートし、超高分子量ポリエチレンマルチフィラメント繊維をバルーン表面上にダイヤモンドパターンで編組した。次いで、バルーンをポリウレタン接着剤の第2の層に浸漬被覆し、続いてパリレン中に浸漬被覆した。図8及び図9は、ダイヤモンド状の編組パターンを有するバルーンのプロトタイプを示す。バルーンを乾燥させ、折り畳んで折り畳まれた直径を測定した。
【0089】
5つのタイプのバルーン、すなわち2つのPPI密度6、10での6mm(膨張した直径)×40mm(膨張した長さ)のバルーン(図6a〜6d)、及び3つのPPI密度6、10、14での5mm×40mmのバルーン(図7図7d、PPI14は図示せず)が構成された。
【0090】
それぞれのバルーンタイプについて以下のパラメータを試験した。
(i)コンプライアンス‐圧力の関数としてのバルーンの直径;
(ii)破裂圧力‐バルーン材料が機能しなくなる圧力の測定;
(iii)疲労‐バルーン材料が機能しなくなる前に繰り返された膨張・収縮サイクル数の測定;及び
(iv)プロフィール‐折り畳まれたバルーンの直径の測定。
【0091】
以下の表1は、試験された5つのバルーンによる結果をまとめたものである。
【0092】
【表1】
【0093】
明確性のために、別々の実施形態の文脈に記載された本開示の所定の特徴は、単一の実施形態に組み合わせて提供されてもよいことが理解される。逆に、簡潔性のために、単一の実施形態の文脈で説明した本開示の様々な特徴は、別々に又は任意の適切なサブコンビネーションで提供することもできる。
【0094】
本開示は、その特定の実施形態と関連して記載されているが、当業者には多くの代替、変更、及び変形が明らかである。したがって、添付の特許請求の範囲の精神及び広範な範囲内にあるそのような代替物、改変物及び変形物の全てを包含することが意図されている。本明細書で言及したすべての刊行物、特許及び特許出願は、各個々の刊行物、特許又は特許出願が参照により本明細書に具体的にかつ個別に示されているのと同程度に、その全体が本明細書に参考として援用される。また、本出願における任意の参考文献の引用又は認定は、そのような参照が本開示の先行技術として利用可能であることを認めるものと解釈されてはならない。
【符号の説明】
【0095】
10 システム
12 カテーテルシャフト
20 バルーン
30 グリッド
34 繊維
36 バルーン領域
図1
図2
図3a
図3b
図3c
図4
図5
図6a-6d】
図7a-7d】
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2017年7月19日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
狭窄した血管を拡張するためのシステムであって、
(a)カテーテルシャフトに備え付けられたバルーンであって、第1の材料から成るバルーンと、
(b)前記バルーンの表面に取り付けられた、又は前記バルーンの壁内に一体化されたグリッドを形成する複数の繊維であって、前記バルーンが所定の圧力を超えて膨張したときに、複数のバルーン領域が、前記複数の繊維によって形成された前記グリッドから突出するように、前記第1の材料よりも小さい弾性を有する第2の材料から成る、複数の繊維と、
を備えるシステム。
【請求項2】
前記バルーンが第1のポリマーから成り、前記複数の繊維が第2のポリマーから成ることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
複数の繊維のそれぞれの厚さは、その長さに沿って変化することを特徴とする請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項4】
前記グリッドは、前記バルーンと、材料の層と、の間に位置することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
前記グリッドは、接着剤を介して前記バルーンの表面に取り付けられることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記グリッドは溶着を介して前記バルーンの表面に取り付けられることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
前記複数の繊維のそれぞれの厚さは、10〜750ミクロンの範囲から選択されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
前記所定の圧力が少なくとも2気圧であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
前記複数の繊維のそれぞれが、ポリプロピレン、PLLA、PEEK、ケブラー、及び/又は超高分子量ポリエチレンから成ることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項10】
前記バルーン及び/又は前記複数の繊維が、薬物含有製剤でコーティングされていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項11】
前記薬物が抗増殖薬であることを特徴とする請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記グリッドパターンは、前記バルーンの周りにらせん状に時計回り方向に巻き付けられたN本の繊維と、前記バルーンの周りにらせん状に反時計回りに巻き付けられたN本の繊維と、から形成されていることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項13】
前記Nが4〜16の範囲から選択されることを特徴とする請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記Nが4であることを特徴とする請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記グリッドは複数のセルを形成し、前記セルのそれぞれは1〜25mmの範囲から選択された面積を有することを特徴とする請求項1〜14のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項16】
前記グリッドは、三角形状及びダイヤモンド形状の複数のセルを形成することを特徴とする請求項1〜14のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項17】
前記セルのリード角度は30〜180度の範囲から選択されることを特徴とする請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
前記複数の繊維のそれぞれの線形質量密度は1〜100デニールであることを特徴とする請求項1〜17のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項19】
前記複数の繊維のそれぞれの線形質量密度は50デニールであることを特徴とする請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
前記複数のバルーン領域は、前記表面から少なくとも0.1mm突出していることを特徴とする請求項1〜19のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項21】
前記複数の繊維のそれぞれの引張弾性係数は、1〜150GPaの範囲から選択され、前記バルーンの引張り弾性係数は0.0002〜0.0100GPaの範囲から選択されることを特徴とする請求項1〜20のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項22】
前記複数の繊維のそれぞれがモノフィラメント繊維であることを特徴とする請求項1〜21のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項23】
前記複数の繊維のそれぞれがマルチフィラメント繊維であることを特徴とする請求項1〜21のいずれか一項に記載のシステム。
【国際調査報告】