(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-534067(P2017-534067A)
(43)【公表日】2017年11月16日
(54)【発明の名称】検査装置および検査装置を使用する方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/327 20060101AFI20171020BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20171020BHJP
【FI】
G01N27/327 353F
G01N27/416 338
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】43
(21)【出願番号】特願2017-544054(P2017-544054)
(86)(22)【出願日】2015年11月5日
(85)【翻訳文提出日】2017年6月30日
(86)【国際出願番号】GB2015053356
(87)【国際公開番号】WO2016071698
(87)【国際公開日】20160512
(31)【優先権主張番号】1419799.0
(32)【優先日】2014年11月6日
(33)【優先権主張国】GB
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】517159208
【氏名又は名称】インサイド バイオメトリクス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【弁理士】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(72)【発明者】
【氏名】ロジャーズ ジェームズ イアン
(72)【発明者】
【氏名】リーチ クリストファー フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】カルドーシ マルコ ファビオ
(57)【要約】
流体試料中の分析物の量を測定する検査装置であって、基板を備え、この基板がその上に、分析物と反応して、試料中の分析物の存在または量を示す信号を生成するように調合された第1の分析物試薬であり、時間ベースの第1の応答特性を有する第1の分析物試薬と、分析物と反応して、試料中の分析物の存在または量を示す信号を生成するように調合された第2の分析物試薬であり、時間ベースの第2の応答特性を有する第2の分析物試薬とを有する検査装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体試料中の分析物の量を測定する検査装置であって、基板を備え、前記基板がその上に、
前記分析物と反応して、前記試料中の分析物の存在または量を示す信号を生成するように調合された第1の分析物試薬であり、時間ベースの第1の応答特性を有する第1の分析物試薬と、
前記分析物と反応して、前記試料中の分析物の存在または量を示す信号を生成するように調合された第2の分析物試薬であり、時間ベースの第2の応答特性を有する第2の分析物試薬と
を有する検査装置。
【請求項2】
前記時間ベースの第1の応答特性および前記時間ベースの第2の応答特性がそれぞれ、異なる第1の拡散応答特性および/または溶解応答特性、ならびに第2の拡散応答特性および/または溶解応答特性を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記第2の分析物試薬と比較して、前記第1の分析物試薬の方が迅速に前記試料に溶解しかつ/または前記試料中に拡散する、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記第1および第2の分析物試薬が、フィルム形成成分および非フィルム形成成分を含み、前記第1の分析物試薬のフィルム形成成分に対する非フィルム形成成分の割合の方が、前記第2の分析物試薬中のフィルム形成成分に対する非フィルム形成成分の割合と比較して相対的に大きい、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
2つの電極を備える電気化学的検査測定装置であり、一方の前記電極が前記第1の分析物試薬を含み、もう一方の前記電極が前記第2の分析物試薬を含む、請求項1から4までのいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
2つの電極を備える電気化学的検査測定装置であり、前記2つの電極のうちの第1の電極が前記第1の分析物試薬を含み、前記2つの電極のうちの第2の電極が、前記第1の分析物試薬と前記第2の分析物試薬の両方を含む、請求項1から4までのいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
前記第1の分析物試薬が、前記第1および第2の電極に第1の層として塗布され、前記第2の分析物試薬が、前記第2の電極に第2の層として塗布された、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記基板がベース基板材料層を備え、前記ベース基板材料層はその上に導電性電極層を有していてもよい、請求項5から7までのいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
前記分析物がグルコースであり、かつ/または前記試料が血液である、請求項1から8までのいずれか1項に記載の装置。
【請求項10】
流体試料中の分析物の量を測定する検査装置を製作する方法であって、第1の分析物試薬および第2の分析物試薬を基板に塗布することを含み、前記第1の分析物試薬が、時間ベースの第1の応答特性を有し、前記分析物と反応して、前記試料中の分析物の存在または量を示す信号を生成するように調合されており、前記第2の分析物試薬が、時間ベースの第2の応答特性を有し、前記分析物と反応して、試料中の分析物の存在または量を示す信号を生成するように調合されている方法。
【請求項11】
請求項5から8までのいずれか1項に記載の検査装置を使用する方法であって、
前記第1の電極および前記第2の電極を分極させること、
前記検査装置に前記流体試料を塗布すること、
前記第1の電極において1つまたは複数の第1の電流を測定すること、
前記第2の電極において1つまたは複数の第2の電流を測定すること、ならびに
前記1つまたは複数の第1の電流および前記1つまたは複数の第2の電流を使用して、補正された電流測定値を決定すること
を含む方法。
【請求項12】
前記補正された電流測定値に基づいて、前記流体試料中の分析物の量を決定することをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記1つまたは複数の第1の電流が、第1の期間にわたって測定される、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
前記1つまたは複数の第2の電流が、第2の期間および第3の期間にわたって測定される、請求項11から13までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記第1の期間が、前記第1の分析物試薬と前記分析物との間の反応が実質的な定常状態にあるときに始まる、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
前記第1の期間が、前記流体試料中で前記第1の分析物試薬が実質的に完全に解離または溶解したときに始まる、請求項13から15までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記第2の期間が、前記第2の分析物試薬と前記分析物との間の反応が実質的な非定常状態にあるときに始まる、請求項14から16までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記第2の期間が、前記流体試料中で前記第2の分析物試薬が解離または溶解し始めたときに始まる、請求項14から17までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記第3の期間が、前記流体試料中での前記第2の分析物試薬の溶解または解離が実質的な定常状態にあるときに始まる、請求項14から18までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記第3の期間が、前記流体試料中での前記第2の分析物試薬の溶解または解離が完了していないときに始まる、請求項14から19までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記1つまたは複数の第1の電流および前記1つまたは複数の第2の電流を使用して、前記補正された電流測定値を決定することが、
前記1つまたは複数の第1の電流を平均することによって第1の電流平均値を決定すること、
前記第2の期間にわたって測定された前記1つまたは複数の第2の電流の和と前記第3の期間にわたって測定された前記1つまたは複数の第2の電流の和との差を算出することによって、第2の電流平均値を決定すること、および
前記第1の電流平均値と前記第2の電流平均値の平均を算出すること
を含む、請求項11から20までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
それぞれが請求項5から8までのいずれか1項に記載の検査装置である多数のそれぞれの検査装置について、請求項21に記載の方法を実行し、それによって一組の第2の電流平均値を得ること、および
前記一組の第2の電流平均値の線形回帰分析に基づいて、それぞれの第2の電流平均値を調整すること
をさらに含む、請求項21に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査装置および検査装置を使用する方法に関する。特定の実施形態では、この検査装置が、個人の体液試料中の分析物の濃度を決定する目的に体液モニタとともに使用される電気化学的検査ストリップである。
【背景技術】
【0002】
医療装置業界で使用されている診断装置などの診断装置の分野、特に、血液試料または他の体液試料を分析する目的に使用されている診断装置の分野では、そのユーザが、ある種の化学物質、物質または分析物のレベル、例えば自分の血流中に存在するある種の化学物質、物質または分析物のレベルなどのバイオメトリクスをモニタリングする必要があることがしばしばある。例えば、特に糖尿病患者は、自分がインスリンを必要としているかどうかを判定するために、自分の血液中のグルコースの濃度を定期的にモニタリングしなければならない。血糖レベルをモニタリングする個人のニーズに効果的に応えるため、高血糖または低血糖の発生をより正確に予期し、必要に応じて予防的処置をとるために、個人が、自分の血流中のグルコースの濃度を自律的に決定することを可能にする診断装置および診断キットが長年にわたって開発されている。このような診断装置の存在は、健康管理システム全般にあまり大きな負荷をかけない。これは、医療専門家の存在下でインスリンを投与する必要なしに、患者が自宅でインスリンを投与することができるためである。
【0003】
通常、患者は、指または代替部位から血液の小滴を抽出するために、穿刺装置を使用して指に穿刺を行う。次いで、しばしばストリップである電気化学的検査装置を診断計に挿入し、試料を検査ストリップに塗布する。試料は、毛管作用により、装置の測定チャンバを横切って流れ、1つもしくは複数の電極または同種の導電性要素と接触する。この電極または導電性要素は、血液試料中の特定の分析物または他の特定の化学物質(例えばグルコース)と相互作用するセンシングケミストリでコーティングされている。反応の大きさは、血液試料中の分析物の濃度に依存する。診断計は、試薬と分析物との反応によって生成された電流を検出することができ、その結果をユーザに表示することができる。
【0004】
通常、このような電気化学的検査装置は、作用電極および対/参照電極を有する。このような電気化学的検査装置は、2つ以上の作用電極を有することがある。EP2056107は、同じ分析物を測定する2つの作用電極を有する検査ストリップを開示している。これによって、分析物を2回測定することができ、それにより、それらの2つの測定値を比較することができ、そのため、それぞれの測定値を、もう一方の測定値を確かめるための値として使用することができる。これにより、それらの2つの測定値が有意に異なる場合に、ストリップに対する充填が不十分であることまたは製造欠陥が存在することを検出することができる。米国特許出願公開第2007/0131549号は、2つの作用電極を有する検査ストリップであって、一方の作用電極が、グルコースオキシダーゼを使用してグルコースを測定し、もう一方の作用電極が、グルコースデヒドロゲナーゼを使用してグルコースを測定する検査ストリップを開示している。これらの2つの電極は、線形範囲の全体にわたってグルコースに応答する。試料の酸素分圧が低い場合、グルコースオキシダーゼベースの電極はより高い応答を与えるが、グルコースデヒドロゲナーゼベースの電極は正確な結果を与える。この状況では、グルコースデヒドロゲナーゼベースの電極からの読みの方が好ましい。通常ならば誤った高い読みをグルコースに対して与えるであろうマルトースまたはラクトースを試料が含む場合、グルコースデヒドロゲナーゼベースの電極はより高い応答を与えるが、グルコースオキシダーゼベースの電極は正確な結果を与える。この状況では、グルコースオキシダーゼベースの電極からの読みの方が好ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この背景によれば、より正確な測定値を検査装置から導き出すことができるような態様の、改良された電気化学的検査ストリップなどの改良された検査装置、および検査装置を使用する改良された方法が依然として求められている。特に、試料中の分析物の量をより正確に決定するため、検査装置が流体試料と反応したときに検査装置によって生成される電流をより正確に測定することが依然として求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様において、本発明は、流体試料中の分析物の量を測定する検査装置であって、基板を備える検査装置を提供する。この基板は、その上に、分析物と反応して、試料中の分析物の存在または量を示す信号を生成するように調合された第1の分析物試薬を有する。第1の分析物試薬は、時間ベースの第1の応答特性を有す。この基板はさらに、その上に、分析物と反応して、試料中の分析物の存在または量を示す信号を生成するように調合された第2の分析物試薬を有する。第2の分析物試薬は、時間ベースの第2の応答特性を有す。
例えば、第1の分析物試薬および第2の分析物試薬は、試料と接触したときに異なる態様で溶媒和し(solvate)、それによって、分析物に応じた、異なる電流対時間特性を有する信号を生成する。比較的に速やかに溶媒和する試薬は、製造変動(manufacturing variation)の影響の排除に関してはより精確だが、試料系統誤差を生じやすい。検査する試料が血液である場合には、試料系統誤差がヘマトクリットであることがある。一方、比較的にゆっくりと溶媒和する試薬は、製造変動の影響の排除に関してはそれほど精確ではないが、試料系統誤差を生じにくい。例えば、速やかに溶媒和する試薬は、全検査時間(例えば電極において電流が測定されている期間)の約10%以内に平衡に達するが、よりゆっくりと溶媒和する試薬は、全検査時間のおよそ>20%でも完全には平衡に達しないであろう。全検査時間は通常5〜15秒程度だが、他の検査時間を使用することもできる。それぞれの電極の時間ベースの応答特性は、試薬パッドが異なる物理的段階を経ているときの、信号を生成する基礎をなす化学反応が進んでいる間に、測定中の1つまたは複数の時間点において信号の読み、例えば電流の読みをとることによって、好ましくは検査中の多数の時間点から読みをとることによって、確立することができる。
【0007】
本発明の目的上、1つまたは複数の時間ベースの読みを単純にそのままとって、時間ベースの応答特性を構成することができる。あるいは、補間された時間ベースの一連の多数の読みをとって、時間ベースの応答特性を構成してもよい。あるいは、適当な式に回帰させた多数の時間ベースの読みから導き出された適当なパラメータ当てはめをとって。時間ベースの応答特性を構成してもよい。あるいは、時間ベースの多数の読みからの回帰によって非パラメータ当てはめを導き出し、それをとって、時間ベースの応答特性を構成してもよい。さらに、上に挙げた代替手法の数学的変換(例えば加算、乗算、差、積分、微分、対数または指数)をとって、時間ベースの応答特性を構成してもよい。
【0008】
両方の電極における、信号を生成する基礎をなす化学的および電気化学的な反応および過程はよく理解されており、それらは表面上同様であることがあり、一方で、センサパッドが経験するさまざまな物理的な段階は、試料との複雑な相互作用を経るため、適切な調合物を用いると、2つの分析物試薬の時間ベースの応答信号特性間の観察される相対的な違いを使用して、系統誤差を適当なアルゴリズムにより解明、補正し、同時に精度を最大にすることができることが見出されている。一実施形態では、対応するそれぞれの分析物試薬組成物が時間ベースの異なる応答特性を有する信号を生成するように、それら組成物が、異なる拡散挙動特性、溶媒和挙動特性および/または溶解挙動特性を有するように設計される。
通常、試薬パッドは最初に「溶媒和」段階を経る。この段階の間は、支配的な過程が、試料溶液中の溶媒(例えば水または血漿)が試薬パッドに浸入することを含み、基礎をなす化学反応は概ね試薬パッド内に限定される。続いて、試薬パッドが膨潤し、溶解段階に達する。この段階では、支配的な過程が、試薬パッドからの溶質材料がバルク試料層中へ広がる過程となる(本明細書では溶解が、パッドの溶質成分がバルク試料に入り込む過程と定義される)。溶解が進んでいる間は、パッドドメインとバルクドメインの両方で反応が起こる。そして最終的に平衡段階に達する。この段階では、概ね完全な溶解が達成され、パッドドメインおよびバルクドメインは安定する。それらのドメインが本質的に均一となることもある。基礎をなす化学反応は続くが、それらの反応は、安定平衡に達している試薬パッドとバルク試料層の間の成分の物理的相互交換の影響をほぼ受けない。続いて、応答信号は、拡散が制限された根底にある反応性種の反応速度論だけによって制御される。
【0009】
意味を分かりやすくするため、上では、これらの3つの段階を、逐次的に起こる別個のステップとして説明した。しかしながら、それらの段階は、実際にはある程度、部分的に重なっており、それらの段階間には遷移段階があり、それらの遷移段階もそれぞれ要素および特性を有する。さらに、試薬パッドの異なる亜成分は、試薬パッドの全体としての挙動が、試薬パッドの個々の亜成分の挙動の帰結となるような態様で、それらの段階を異なる速度で通過する。したがって、当業者には、試薬パッド内の亜成分の調合を変更することが、これらの段階を経る所与の試薬パッドの時間ベースの進捗を設計および制御する適当な手段に見える。
さらに、所与の検査の特定の継続時間内の所与の個々の試薬パッド調合物および組成物に関して、これらの段階のうちの1つの段階が、検査過程の全体を通じて、残りの段階が事実上存在しないような程度に、優勢であることがある。あるいは、所与の検査の特定の継続時間内の個々のパッド調合物および組成物に関して、これらの段階のうちの1つの段階が、その段階だけが事実上存在しないような程度に、最小限にしか存在しないこともある。
【0010】
速やかに溶媒和する系の場合には、上述の平衡段階が、全検査時間の約10〜25%という短い間に、例えば0.5〜2.5秒程度で、優勢になり始めることがあり、溶媒和段階が事実上存在しないことがある。この場合、時間ベースの応答特性の最も有用な部分は、約2〜3秒過ぎ部分、好ましくは約3〜5秒過ぎの部分、最も好ましくは約5秒過ぎの部分である。これは、この部分が、測定結果を最適な精度で導き出すことを可能にするためであり、最適な精度で導き出すことができるのは、応答信号が、この領域内の反応性種の拡散が制限された根底にある反応速度論によって制御され、センサ製造中に生成された一貫性のなさ(inconsistencies)は最大限に平衡に達するためである。
【0011】
使用されるアルゴリズム内には、2〜3秒よりも前、好ましくは3〜4秒よりも前、最も好ましくは5秒よりも前に含まれるある有用な情報が依然として存在する。これは、たとえ、これらの時間点に存在するこのような調合物内の試料補正情報が、限られた雑音の多いものだとしても、よりゆっくりと溶媒和する系からのより強い補正信号とアルゴリズムに基づいて結合されたときには、有益な補正および交差確認が得られる可能性が依然としてあるためである。しかしながら、最終的な測定値を導き出すとき、この領域からの時間ベースの応答特性の重みは一般に、約2〜3秒過ぎ、より好ましくは約3〜5秒過ぎ、最も好ましくは約5秒過ぎからの時間ベースの応答特性と比較して低くされるであろう。
【0012】
よりゆっくりと溶媒和する系の場合、全検査時間の少なくとも約20%の間、例えば>1.5〜3秒程度の間、上述の溶媒和段階および溶解段階が優勢であることがあり、全検査時間の少なくとも約40%まで、例えば3秒〜5秒程度まで、より好ましくは5秒後まで、または全検査時間を過ぎても、完全平衡段階に達しないことがある。この場合、時間ベースの応答特性の最も有用な部分は、約0.5〜1秒過ぎの部分、好ましくは約1秒〜5秒の間の部分である。これは、この部分が、精度と試料誤差(例えば)ヘマトクリット関連情報との間の最適なトレードオフで、測定結果を導き出すことを可能にするためであり、このトレードオフが最適になるのは、応答信号が、パッド成分と試料成分との間の変化する相互作用によって実施され、時間ベースの応答変化が、(溶媒和中の)妨害試料成分への最小限の露出の結果として生成され、(溶媒和中の)妨害試料成分への漸進的に増大する露出に起因する微分的最大変化が、時間ベースの応答特性のこの部分で最も豊富であるためである。
【0013】
ゆっくりと溶媒和する系からの時間ベースの応答特性の2番目に有用な部分は、検査の終わりに最も近い部分、好ましくは約5秒過ぎの部分、より好ましくは約7秒〜10秒の部分である。この時点で、溶解は、その電極組成物の検査内において到達しうる平衡点に最も近く、それは、その調合物に対して最も精確であるが、同じ分析物にさらされた隣接する速やかに溶媒和する電極系から観察される挙動に対するその相対的類似性も最大にされる。これによって、結合によって測定信号を最大にし、同時に、同じ検査ストリップ内の多数の電極によって同じ試料から同時に生成された適当な時間ベースの応答特性の重み付きの結合を使用した微分的比較によって誤差信号を最小にするアルゴリズムを生成することができる。それら多数の電極は、同じ試料から異なる時間ベースの応答特性を生成するように意図的に設計および/または調合されている。
【0014】
時間ベースの応答に影響を与えうる他の応答特性には、試薬パッドの高さ、試薬パッドの微細構造、試験チャンバ内への試料の移動時間、パッドの空隙率、測定中の流体の流体力学的属性、共溶解力効果(co−solvency effect)、pHの影響および緩衝レベル、試薬パッドの表面エネルギー、試薬パッドのガス放出、試薬パッドの相対的面積、試薬パッド間の厚さの変動、酵素パッド内の酵素阻害剤、試薬パッド内の電気化学的添加剤、ならびに試薬パッド内の電気化学的触媒および/または阻害剤などがある。応答の電流対時間特性に影響を与える可能性がある他の時間ベースの応答特性も、本開示の範囲内で企図される。
【0015】
この検査装置を、2つの作用電極を備え、一方の作用電極が第1の分析物試薬を含み、もう一方の作用電極が第2の分析物試薬を含む電気化学的検査測定装置とすることができる。対応するそれぞれの試薬は、有意に異なる拡散応答特性、溶媒和応答特性および/または溶解応答特性を有するように設計および調合された層として電極上に形成することができる。
この検査装置を、2つの作用電極を備える電気化学的検査測定装置とすることができる。それらの2つの電極のうちの第1の電極は、第1の分析物試薬を含むことができる。それらの2つの電極のうちの第2の電極は、第1の分析物試薬と第2の分析物試薬の両方を含むことができる。対応するそれぞれの試薬は、電極上に層として形成することができる。例えば、第1の分析物試薬は、第1の電極と第2の電極の両方に層として塗布することができる。第2の分析物試薬は、第2の電極に第2の層として塗布することができる。
さらに、この検査装置は対電極を備えることができる。
【0016】
第1の作用電極は、比較的に迅速に溶解、溶媒和および/または拡散交換し、試料との間で平衡に達する第1の分析物試薬を含むことができる。このような試薬は、検査ストリップの製造中に生じた欠陥および偏差から概ね独立した読み、したがって異なる検査ストリップ間の結果の一貫性のなさの低減を示す読みを迅速に生成する。この電極は、電気化学的検査測定ストリップ内の精度誤差および電気化学的検査測定ストリップ間の精度誤差最小化するのに有効である。しかしながら、それによってこの電極の応答は必然的に、分析物を含む試料の溶媒和属性、拡散属性および溶解力(solvency)属性の系統的な差および変動に起因する不正確さの影響を受けやすい。このような不正確さを生み出すこのような系統的な試料差の非限定的な例は、試料が血液である状況において、赤血球沈殿容積(ヘマトクリット)が個々の被検者内および個々の被検者間で変動することなどである。
【0017】
第2の作用電極は、試料との間で第1の試薬分析物よりも漸進的に平衡に達する第2の分析物試薬を含むことができる。この試薬中の成分は一般に、バルク試料との間でより緩やかに平衡に達する。その結果、この試薬は、製造変動およびそれに付随する不正確さの影響をより受けやすい。しかしながら、この試薬は、拡散を試薬内に限定するより大きな程度を維持し、試薬へのバルク試料成分の浸入およびバルク試料中への試薬成分の分散がより緩やかである。その結果として、この電極は、少なくとも最初のうちは、バルク試料の拡散属性の結果として生じた系統的な差の影響、例えば試料が血液である状況における赤血球沈殿容積の変動に起因する系統的な差の影響をはるかに受けにくい。
【0018】
第1および第2の分析物試薬は、酵素およびメディエータを含むことができる。分析物がグルコースであるときには、酵素を、グルコースオキシダーゼまたはグルコースデヒドロゲナーゼ、メディエータを、ヘキサシアノ鉄(III)カリウムとすることができる。グルコースおよび他の分析物を検出するのに適した他の酵素およびメディエータは当業者に知られている。例えば、メディエータは、ヘキサアミンRu(III)塩化物塩およびその誘導体、フェロセン/フェロセニウム(ferrocinium)メディエータ(水溶性ポリマーフェロセン(ferrocence)メディエータおよび水溶性フェロセン塩を含む)、フェノチアジンメディエータならびにキノンメディエータ、例えばテトラチアフルバレン、ジイミン、チオニンオキソメタラート、ポリメタロフタロシアニン、ピロロキノリンキノン、フルオレノンおよびキノイド酸化還元色素、例えばインダミン、フェナジンおよびフェノキサジンの中から選択することができる。
いくつかの実施形態では、第1および/または第2の試薬が、酵素およびメディエータのうちの一方を含む。例えば、いくつかの実施形態では、第1の試薬が、酵素とメディエータの両方を含み、第2の試薬が、メディエータは含むが、酵素を含まない。
【0019】
これらの成分に加えて、これらの試薬は、フィルム形成成分および非フィルム形成成分を含むことができる。それらの成分の相対的な割合を調整することによって、分析物の存在または量を示す信号を選択された期間内に提供するように、対応するそれぞれの分析物試薬を調整することができる。例えば、フィルム形成成分と比較して非フィルム形成成分の割合の方が大きいと、迅速に溶解し、比較的に短い期間の後に信号を生成させる試薬を提供することができる。反対に、非フィルム形成成分と比較してフィルム形成成分の割合の方が大きいと、よりゆっくりと溶解し、比較的に長い期間の後に信号を生成させる試薬を提供することができる。さまざまな期間のうちに溶解する試薬を調製することは、当業者の領域に属する。他の条件が全て等しい条件で溶媒和属性に対する効果を同じにするためには、高い密度(または比重)を有するフィルム形成成分は、より低い密度(または比重)を有する等価の成分よりも高いレベルで存在する必要がある。同様に、他の条件が全て等しい条件で溶媒和属性に対する効果を同じにするためには、高い密度または比重を有する非フィルム形成成分は、より低い密度(または比重)を有する等価の非フィルム形成成分よりも高いレベルで存在する必要がある。
さらに、他の条件が全て等しい条件で溶媒和属性に対する効果を同じにするためには、ゆっくりと溶解する傾向を元から有するフィルム形成成分を、より急速に溶解する傾向を元から有するフィルム形成成分よりも低いレベルで含めることができる。また、他の条件が全て等しい条件で溶媒和属性に対する効果を同じにするためには、よりゆっくりと溶解する傾向または全く溶解しない傾向を元から有する非フィルム形成成分を、急速に溶解する傾向を元から有する非フィルム形成要素よりも高いレベルで含める必要がある。
【0020】
上記のことにもかかわらず、フィルム形成要素と非フィルム形成要素の両方が迅速に溶解し、フィルム形成成分の比重が約1であり、非フィルム形成成分の比重が約1.8である場合、速やかに溶解する試薬調合物は一般に、乾燥状態にあるときに、1:1.1未満、より好ましくは1:2未満、最も好ましくは約1:3以下のフィルム形成成分と非フィルム形成成分の比率を含むであろう。ゆっくり溶解する試薬調合物は一般に、乾燥状態にあるときに、1:1以上、より好ましくは3:2以上のフィルム形成成分と非フィルム形成成分の比率を含むであろう。
【0021】
フィルム形成成分は、溶液から表面にキャスティングされ、次いで乾燥されたときに固体/空気界面における表面積を事実上最小化し、それに対応してその界面における自由表面エネルギーを最小化する層を形成する傾向を示し、平らで一様なフィルム層を形成する傾向を生み出す任意の材料を含む。このような1つの材料の例は、ヒドロキシエチルセルロース(hydroxyethycelulose)(HEC)であるが、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレンオキシド(PEO)、プルラン、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アクリラート、水溶性ポリエステルおよびポリオール、デキストラン、キサンタンガム(xantham gum)など、適当な代替材料として機能するであろう他の親水性のフィルム形成ポリマーが存在することも明白である。フィルム形成成分は以下の属性を有することが好ましい:水溶性、所望の濃度における粘性(これはコーティング性能に関する)、および分析物試薬の他の成分との両立性。高分子量/高粘度グレードのポリマーをより低いレベルで利用すると、同様の濡れ試薬挙動を維持しつつ、存在するフィルム形成成分の全体量を他の成分と比較して減らすことができる。反対に、低粘度/低分子量の類似体をより高いレベルで利用すると、分析物試薬に対する適当なコーティング粘度を維持しつつ、フィルム形成成分と他の成分との比率を増大させることができる。したがって、当業者には、同様の印刷適性挙動を維持しつつ、フィルム形成成分のレベルを他の成分と比較して調整する戦略は、分析物試薬層の溶媒和属性を望ましい範囲内に制御する手段として明白である。同様に、分析物試薬の溶媒和属性に影響を及ぼす手段として、より大きな溶解度またはより小さな溶解度を有するさまざまなポリマーを使用することもできる。
【0022】
非フィルム形成成分は、フィルム形成を中断させる結晶化材料を含む。結晶形成過程は、例えば、結晶成長のドメインが、フィルム表面で広がり、フィルム表面から突き出て、固体/空気界面の表面積を、その最小面積を大きく超えて増大させるような態様で、結果として生じる固体空気界面における表面エネルギーの最小化よりも熱力学的に優勢となりうる。熱力学的に駆動された同様の成分の会合によって、このような結晶ドメインと(他の成分を含む)隣接ドメインとの間の組成差が自発的に生じうる。迅速に溶媒和する結晶化材料の例は、リン酸カリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硝酸塩、アンモニウム塩などの無機塩、スクロース、シトラート、エタンスルホン酸塩、例えばPIPES、HEPES、MESなどの有機材料、または迅速に溶媒和する他の結晶性材料を含む。電気化学的メディエータも、非フィルム形成成分の働きをすることがある。
【0023】
非フィルム形成傾向に対する試薬層の相対的なフィルム形成傾向を妨害する代替手段、例えば、それぞれとの限定された両立性を示すポリマー組合せの組込み、または乾燥過程およびフィルム形成過程中に試薬層亜成分の両立性を乱す揮発性非溶媒(例えばオクタノール)を使用することもできる。
【0024】
第1および第2の分析物試薬は界面活性剤を含むことができる。界面活性剤は通常、基板への分析物試薬の塗布を容易にするために使用される。界面活性剤の選択および界面活性剤を使用するレベルの選択も、フィルムの濡れ性およびフィルムへの試料成分の浸入に影響を与えうる。さまざまな界面活性剤および/または界面活性剤の組合せを使用して、試料が試薬に浸入する速度を速めたりまたは遅くしたりすることは、分析物試薬の溶媒和属性にも影響を与える実行可能な戦略として認識される可能性がある。当業者は適当な界面活性剤を選択することができる。適当な界面活性剤の例には、Tergitol NP−9、Triton(商標) X100;Borchi Gol(商標) LA200、1375、LA6;Brij(商標) 35;Pluronic(商標) P103;Tergitol(商標) NP−7などが含まれる。
【0025】
本発明の装置の基板は、例えばポリマー(PET)または板紙もしくはコーテッドペーパーとすることができるベース基板材料層を備えることができる。このベース基板材料層は、例えば導電性の炭素−黒鉛層をスクリーン印刷することによって、Au、Pd、Ptまたは当業者に知られている他の適当な電極導体を使用した金属層付着手段によってその上に付着させた、パターン形成された導電性電極層を有することができる。
上で述べたとおり、分析物をグルコースとすることができる。あるいは、分析物を、コレステロール、ケトン、乳酸、遊離脂肪酸、アルコール(エタノール)およびグルセロールの中から選択することもできる。試料は血液とすることができる。血液に関する特定の問題は、血液中の分析物のレベルの測定に対してヘマトクリットが有する影響である。赤血球沈殿容積は試料間で変動し、この変動は、分析物試薬と接触する分析物の能力に影響を及ぼしうる。第1の分析物試薬と第2の分析物試薬とを存在させることは、分析物の検出および測定に対するヘマトクリットの影響を軽減することを目指したものである。あるいは、試料を、尿、間質液、血漿、血清、唾液または脳脊髄液とすることもできる。他の流体試料を使用することもできる。
【0026】
第2の態様において、本発明は、流体試料中の分析物の量を測定する検査装置を製作する方法を提供する。この方法は、第1の分析物試薬および第2の分析物試薬を基板に塗布することを含む。第1の分析物試薬は、時間ベースの第1の応答特性を有し、分析物と反応して、試料中の分析物の存在または量を示す信号を生成するように調合されている。第2の分析物試薬は、時間ベースの第2の応答特性を有し、分析物と反応して、試料中の分析物の存在または量を示す信号を生成するように調合されている。
第3の態様において、本発明は、2つの作用電極を備え、一方の作用電極が第1の分析物試薬を含み、もう一方の作用電極が第2の分析物試薬を含む検査装置を使用する方法を提供する。この方法は、第1の作用電極および第2の作用電極を、対/参照電極に対して分極させることを含む。例えば、第1の(作用)電極と対/参照電極の間、および第2の(作用)電極と対/参照電極の間に電位差を与える。この方法はさらに、検査装置に流体試料を塗布すること、第1の作用電極において1つまたは複数の第1の電流を測定すること、第2の作用電極において1つまたは複数の第2の電流を測定すること、ならびに前記1つまたは複数の第1の電流および前記1つまたは複数の第2の電流を使用して、補正された電流測定値を決定することを含む。
この方法はさらに、補正された電流測定値に基づいて、流体試料中の分析物の量を決定することを含むことができる。第1の作用電極において生成された一組の電流を、第2の作用電極において生成された一組の電流とともに使用することによって、より代表的な全体の電流測定値を決定することができ、その電流測定値を使用して、試料中の分析物の量をより正確に決定することができる。
【0027】
前記1つまたは複数の第1の電流は、第1の期間にわたって測定することができる。前記1つまたは複数の第2の電流は、第2の期間および第3の期間にわたって測定することができる。いくつかの実施形態では、第1の期間が、第2の期間および/または第3の期間と部分的に重なっている。前記1つまたは複数の第1および第2の電流は、検査期間の全体にわたって測定することができ、検査期間は、第1、第2および第3の期間の全体を含むことができる。
【0028】
第1の期間は、第1の分析物試薬と分析物との間の反応が実質的な定常状態にあるときに始まってもよい。第1の期間は、流体試料中で第1の分析物試薬が実質的に完全に解離または溶解したときに始まってもよい。
第1の期間は、第1の分析物試薬に関する精度が最大になる十分の長さとなるように選択することができ、この間隔は、平均値がランダム雑音の影響を受けにくくなるような間隔とすることができる。理想的には、第1の分析物試薬が完全に解離した後の時間点が適当である。第1の分析物試薬が速やかに溶解し、解離し、平衡に達するほど、第1の期間は早く始まることができる。第1の期間の終わりに、第1の分析物試薬の溶解は概ね完了しているべきである。
【0029】
第2の期間は、第2の分析物試薬と分析物との間の反応が実質的な非定常状態にあるときに始まってもよい。第2の期間は、流体試料中で第2の分析物試薬が解離または溶解し始めたときに始まってもよい。
第2の期間は、ヘマトクリットの生の影響を最小化するために、取得可能なヘマトクリット情報の量を最大にし、同時に、得られる有用な情報を混乱させるほどに不精確さ(imprecision)が高い領域を回避しようとするように選択することができる。ごく初期の時間点は、雑音が多い傾向があり、一般に、系の他のパラメータ(例えば充填速度)の影響を受ける。したがって、よりゆっくりと溶解するケミストリを使用することにより、(第1の分析物試薬の場合のような)比較的に速やかに溶解するケミストリを用いて可能な時間点よりも後の時間点において、溶解過程の「初期の」段階から、合理的な精度で情報を得ることができる。
したがって、第2の期間は、第2の分析物試薬が、分析物感応性の応答を与える程度には十分に溶媒和しているが、マトリックス妨害は最小化されているときに始まってもよい。これは、溶媒和が依然として比較的に初期の段階にあるためである。第2の期間が始まるのがあまりに早い場合には、測定反応がまだ十分な勢いを確立していないため、補正の効果が、雑音で失われる可能性がある。一方で、第2の期間が始まるのがあまりに遅い場合には、系が既に平衡に達している可能性があり、第3の期間中に測定された電流測定値によって補正情報が混乱する可能性があり、ヘマトクリット補正情報が失われる可能性がある。
【0030】
第2の分析物試薬の溶解速度が十分に遅い場合には、たとえ第1の期間の始まりが、より大きな程度の溶解を表すとしても、第2の期間が、第1の期間が開始した後に始まってもよい。これは、第1の期間が、溶解が一般により迅速に起こる比較的に速やかに溶解する分析物試薬に関するものであるためである。
第3の期間は、流体試料中での第2の分析物試薬の溶解または解離が実質的な定常状態にあるときに始まってもよい。第3の期間は、流体試料中での第2の分析物試薬の溶解または解離が完了していないときに始まってもよい。
第3の期間は一般に、第2の分析物試薬の溶解は完了していないが、系は平衡に達しており、十分な程度のヘマトクリット感応性が存在するときに始まる。狙いは、第2の期間中に測定される電流と第3の期間中に測定される電流との間の信号差を最大にし、同時に(精度と引き換えにで)比較的に初期の時間点で変動係数があまりに高い領域を回避するように、第2および第3の期間を選択することである。
【0031】
第1、第2および第3の期間は、経験的に最適化することができるが、一般に、最適値は第1の分析物試薬と第2の分析物試薬の相対的な溶解速度の影響を大きく受け、第1の分析物試薬と第2の分析物試薬の相対的な溶解速度によって制御される。ヘマトクリットおよび精度と分析にかかる時間とはトレードオフの関係にある。言い換えると、できるだけ急速に分析を実行したい希望と必要な精度とはバランスがとれているべきである。
まとめると、第1の期間は、第1の分析物試薬が完全に溶解したとき、したがって系が平衡に達したときに始まってもよい。第2の期間は、第2の分析物試薬が溶解し始めたが、系はまだ平衡に達していないとき、しかしながら適切な信号および精度にアクセスすることができるときに始まってもよい。第3の期間は、第2の分析物試薬の溶解は平衡に達したときに始まってもよい。第2の分析物試薬の溶解が完了している必要は必ずしもない。それぞれの期間の持続時間は適宜に選択することができ、例えば、所望の平均算出および平滑化を達成するように適宜に選択することができる。
【0032】
前記1つまたは複数の第1の電流および前記1つまたは複数の第2の電流を使用して、補正された電流測定値を決定することは、前記1つまたは複数の第1の電流を平均することによって第1の電流平均値を決定すること、第2の期間にわたって測定された前記1つまたは複数の第2の電流の和と第3の期間にわたって測定された前記1つまたは複数の第2の電流の和との差を算出することによって、第2の電流平均値を決定すること、ならびに第1の電流平均値と第2の電流平均値の平均を算出することを含むことができる。これを、多数のそれぞれの検査装置に対して実行してもよく、それによって一組の第2の電流平均値を得てもよい。それぞれの第2の電流平均値を、前記一組の第2の電流平均値の線形回帰分析に基づいて調整してもよい。
【0033】
第1の分析物試薬および第2の分析物試薬を同じ試料にさらすことによって、測定の正確さが向上したシステムを生み出すことが可能である。第1の分析物試薬と第2の分析物試薬との間の時間ベースの応答特性の意図的に考えられた差を、1つまたは複数のアルゴリズムに基づく手法を使用して利用して、優れた分析物測定システムを生み出すことができる。例えば、第2の分析物試薬の応答を効果的に使用して、第1の電極の応答をアルゴリズムに基づいて補正し(または第1の分析物試薬の応答を効果的に使用して、第2の電極の応答をアルゴリズムに基づいて補正し)、それによって、結合系から導き出すことができる精度および正確さを最大にすることが可能である。
【0034】
任意選択で、信号間の差を使用して、それによって測定値補正を実施することができる予測される誤差項を生成することができる。例えば、第1の分析物試薬を使用して、第2の分析物試薬からの予期される応答を予測する(または第2の分析物試薬を使用して、第1の分析物試薬からの予期される応答を予測する)ことができ、次いで、第1の分析物試薬からの実際の応答に基づく、第2の分析物試薬からの実際の応答の、第2の分析物試薬からの予想される応答からの偏差のある尺度を、誤差予測項として使用することができる。次いで、この予測される誤差項を使用して、システムの予想される挙動に基づく補正された応答を、誤差項の大きさおよび観察される信号応答に基づいて生成することができる。
任意選択で、系統誤差が小さいと予測される領域(信頼領域)内では、第1の(精確な)分析物試薬とともに使用する補正レベルを最小化し、それによって、系統誤差が小さいと予測される場合には、系統誤差が大きいと予測される領域内における正確さを犠牲にすることなく精度を強化することができるような態様で、第1の分析物試薬における補正レベルを調整することができる。一方、系統誤差が大きいと予想される(すなわち非信頼領域の)場合には、測定精度をある程度犠牲にし、バルク試料との間で迅速に平衡に達するセンサで生じる精度の利点を系統誤差が上回ると考えられる領域内の臨床的正確さを優先して、補正を最大にすることができる。
【0035】
一実施形態では、以下のステップが使用される:
− 1つまたは複数の所与の時刻(t1)に第2の分析物試薬からの応答読みを測定するステップ、
− その1つまたは複数の応答読みを使用して、1つまたは複数の所与の時刻(t2)における第1の分析物試薬からの予想される結果を予測するステップ、
− この1つまたは複数の所与の時刻(t2)における第1の分析物試薬の分析物結果に対する精確な実際の読みを測定するステップ、
− 予測される第1の分析物試薬応答と実際の第1の分析物試薬応答との差を使用して、バルク試料拡散挙動の差に起因する偏差を、いくつかの公称値から推定するステップ、
− 試料拡散挙動のこのような変化を受けたときのセンサの既知の挙動に基づく、この公称値からのバルク試料拡散挙動の予想される偏差に従って、第1の分析物試薬応答を補正するステップ、
− 任意選択で、第1の分析物試薬および/または第2の分析物試薬からの観察された応答に基づく重み付けであって、補正された応答が下式に従って算出されるような態様の重み付けを適用するステップ、
補正されたe1=wfun×実際のe1+(1−wfun)×予測されるe1
上式で、e1は、第1の分析物試薬、
e2は、第2の分析物試薬
wfunは、e1応答および/またはe2応答の関数、
− 補正されたe1を使用して、較正された応答値を、実際の分析物濃度に対する履歴的に導き出された回帰によって導き出すステップ。
【0036】
代替例では、異なる時間点における両方(またはそれ以上)の分析物試薬からの信号を結合することができ、単独で使用されたいずれかの(または任意の)分析物試薬から導き出される推定値よりも優れた分析物測定に対する最尤推定値(MLE)に達することを可能にするように、結合信号からアルゴリズムを生成することができる。主成分分析および段階的線形回帰などの方法論を利用した回帰分析によって、例示的なMLEアルゴリズムを導き出すことができる。これらの方法論については後により詳細に説明する。
【0037】
次に、本発明の特定の実施形態を、添付図面に関して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本発明の一実施形態に基づく電気化学的検査ストリップの作用部分の断面を示す略図である。
【
図2】試料と接触する前および接触した後の、本発明の一実施形態に基づく電気化学的検査ストリップの作用部分の断面を示す略図である。
【
図3】測定中に作用電極表面に隣接した試薬パッドの外部および内部で起こる拡散過程の概略的なモデルを示す図である。
【
図4】測定の異なる段階中に起こる事象のカスケードを示す図である。
【
図5a】迅速な溶媒和およびほぼ完全な溶解を経た比較的に薄い試薬パッド組成物から観察される時間ベースの特性応答の形状を示す図である。
【
図5b】試薬層が漸進的な溶媒和および不完全な溶解を経た状況において、試薬パッドの厚さを変化させて観察される時間ベースの応答の形状の変化を示す図である。
【
図5c】時間ベースの応答に対する拡散率(diffusivity)変更の影響を示す図である。
【
図5d】溶解、溶媒和、拡散および分配(partitoining)属性を測定内の時間の経過とともに変化させたさまざまな分析物条件および試料条件下での、系の複雑な動力学から生じうる時間ベースの複数の特性応答を示す図である。
【
図6a】適当なアルゴリズムによって分析物の濃度を測定する目的にその大きさを容易に使用することができる応答を生み出すために、同じ試薬調合物を含む同一の電極を、さまざまな濃度の分析物にさらしたときに観察された、時間ベースの特性応答の例を示す図である。
【
図6b】時間ベースの特性応答を混乱させるヘマトクリット変化の効果に起因する系統的な不正確さの影響を通常受けやすい測定値を有する信号応答を生み出すために、同じ試薬調合物を含む同一の電極を、分析物濃度は同じだが試料ヘマトクリットは異なる多数の試料にさらしたときに観察された、時間ベースの応答の例を示す図である。
【
図7】本発明の検査ストリップとともに使用するPCA(主成分分析)ベースの測定アルゴリズムの生成に含まれる処理ステップを示す図である。
【
図8】本発明の一実施形態から導き出され、その実施形態とともに使用されるアルゴリズムで使用される検査時間において、結果から主成分スコアを生成するのに使用した係数行列を示す図である。
【
図9】本発明の別の実施形態から導き出され、その実施形態とともに使用されるアルゴリズムで使用される検査時間において、結果から主成分スコアを生成するのに使用した係数行列を示す図である。
【
図10a】本発明の一実施形態に従って生成された較正された測定結果の3次元プロットであって、検査された試料のヘマトクリットレベルおよび参照グルコース濃度に対してプロットされた3次元プロットを示す図である。
【
図10b】本発明の一実施形態に基づくグルコース測定性能を示すために、
図10aを回転させた図である。
【
図10c】ヘマトクリットの変化を横切る本発明の一実施形態に基づく測定の非感応性を示すために、
図10aを回転させた図である。
【
図10d】ヘマトクリットとグルコースのさまざまな組合せで検査された660個々の検査ストリップのさまざまなグルコースレベルにおける、ヘマトクリットに対するバイアスプロット、およびそれぞれの検査レベルにおいて参照値の15%以内の正確さを達成する検査ストリップの百分率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明は、電気化学的装置を識別、検証および認証する改良された方法を提供することを追求する。以下で、本発明のさまざまな実施形態を説明するが、本発明は、それらの実施形態だけに限定されない。それらの実施形態の変形実施形態も、本発明の範囲に十分に含まれる可能性がある。本発明の範囲は、添付された特許請求項によってのみ限定される。
【0040】
図1を参照する。本発明に基づく電気化学的検査の作用部分は、多数の機能層から構築されており、この作用部分は、例えばポリマー(PET)または板紙もしくはコーテッドペーパーとすることができるベース基板材料層100を備える。この層の上に、例えば、導電性の炭素−黒鉛層をスクリーン印刷することによって、Au、Pd、Ptまたは当業者に知られている他の適当な電極導体を使用した金属層付着手段によって、パターン形成された導電性電極層200が付着している。導電層200を覆う誘電体層300を、示されているように含めることができる。誘電体層300によって、導電層200の電気化学的に活性なエリアをより精確に画定することができる。導電性電極層200の上方に、任意選択の誘電体層300と部分的に重なる試薬層400が配されている。
追加の試薬層が存在してもよい。検査装置のそれぞれの電極に1種または数種の試薬を塗布することができる。例えば、第1の試薬を含む第1の試薬層を、検査装置の第1の作用電極および検査装置の第2の作用電極に塗布することができる。第2の試薬を含む第2の試薬層を、検査装置の第1の作用電極と第2の作用電極のうちの一方の作用電極に塗布することができ、それによって、作用電極の1つに第1の試薬と第2の試薬の両方が提供されることを保証することができる。
【0041】
任意選択で、必要な場合には、(i)所望の層厚、(ii)導電率、(iii)物理的完全性、(iv)層の均一性、(v)空隙率、(vi)表面積、(vii)表面エネルギー、またはさまざまな機能層を通したこのような属性の所望の漸次的変化などの必要な属性を最適に確立する必要性に応じて、個々のそれぞれの機能層を、個々の複数の層から構築し、かつ/または複数の段階もしくは複数の処理ステップで構築してもよいことを当業者は理解するであろう。
【0042】
このように組み立てられた作用電極部分は、試料空隙内、例えば試料毛細管容積500内に置かれ、完成した作用電気化学的測定検査ストリップの構成部分を形成する。作用電極部分は、試薬層にじかに接する試料容積500が、使用中に試料液体で満たされるような態様で配される。試料容積500内のこの試料液体は、試薬層の成分が、試薬層400に浸入した試料流体のバルクおよび要素中に溶解および拡散することによって、試薬層400との間で成分を交換し、最終的に、導電層200の表面で、試薬層と試料流体の両方からの成分が電気化学的に反応する。
【0043】
図2は、時刻t
1に液体試料が試料空隙500に導入されたときに試薬パッド400に何が起こるのかを概念的に示す。試料中の溶媒および溶質が試薬パッドに浸入する。試薬パッド内の成分が溶解および拡散する。これは、試薬パッドを膨潤させる効果を有する。この効果は、試薬パッドの拡散率にも影響を及ぼす。試薬パッドが膨潤し、成分がバルク中に拡散すると、時刻t
2に向かうにつれて、製造工程中に生じた一貫性のなさが平衡に達する。
時間の経過に伴うパッド属性のこのような変化の重要性の理解のためには、電極応答が実際にどのように導き出されるのか、およびこの応答に影響を与えるのに試薬パッドのどの属性が決定的な役割を果たすのかを示すモデルを使用することが有用である。そのようなモデルが
図3に概略的に示されている。
この作用電極応答は、バルク試料中の分析物の反応に由来する還元された(または代替例では酸化された)種が導電層200に向かって拡散し、導電層200で、それらの種が電気化学的に酸化され(または代替例では電気化学的に還元され)、それによって系から除かれる、拡散が制御された過程から導き出される。バルクから導電層200に向かう種のこの流束が、作用電極で測定される応答信号を最終的に制御する。
【0044】
還元された(または代替例では酸化された)このような種にとって、導電層200は事実上、無限に反応が起こる場所であるため、この境界における還元された(または代替例では酸化された)種の濃度は、名目上ゼロに維持される。それによって、この界面とバルク層との間には濃度勾配(dc/dx)が絶えず生み出され、この濃度勾配に沿った酸化された種の正味の流束は、フィックの法則(Fick’s law)に従う。この系が実際に、2つの別個の流束ドメインからなることは
図1から明らかであり、それらの流束ドメインは、バルク試料および試薬パッド層である。これらのドメインはともに異なる属性を有する。電極信号を生成する拡散流束に関する臨界属性(critical property)は以下のとおりである。
1.そのドメインと電極シンクの表面との間の距離(x)。この距離が、濃度勾配(dc/dx)を制御し、任意の時間点において、拡散流束は、この勾配に沿って駆動される。
2.拡散率(D) − その特定の層内の直線距離を分子が進む相対速度。この速度が、所与の濃度勾配に沿って観察される相対的な流束を調節する。
3.分配(p) − ドメインが膜として作用し、それによって、そのドメインが、所与の物理的属性、例えば物理的サイズ、溶媒和した体積/分子量、電荷/極性を有する物質による浸入を排除する、相対的な程度。
【0045】
これらの2つの別個のドメイン(バルクおよび試薬パッド)内において、測定プロセス中の異なる時刻にこれらの属性が有する相対値は、基本的に、それらから導き出される応答信号に影響を与える。
パッドの一部の成分は、拡散種が移動するのを妨げる障害物の働きをすると考えられるため、他の条件が全て等しい場合に、パッド内における拡散率は、バルク中における拡散率よりも低いと考えられること、パッド距離(x)は小さく有限だが、バルク境界は比較的に大きく、半無限であることもあること、および、パッドは、試料中から来たいくつかの種を選択的に分配することがあり、一方、バルク層は、試料中からの種は分配しないが、試薬パッドから拡散したいくつかの種を選択的に分配する働きをすることがあることが通常、予想される。
【0046】
上述の静的パラメータを含むこの単純な2ドメインモデルは既に、電極の時間ベースの実際の特性応答挙動の予測に関して分析上の複雑な課題を提示しているが、それにもかかわらずこのような系が示す応答挙動の有用でかつ非常に説得力のある予測を実施することができる計算モデルを構築することができ、そのようなモデルは既に構築されている。特に、このような計算モデルは、生成された信号応答が、系の物理的属性とどのように相関し、系の物理的属性によってどのような影響を受けるのかについての改善された理解を推進するため、有用な予測がなされることを可能にするため、および、同時に、作用電極の物理的設計とアルゴリズムの選択の両方に影響を与えるために、非常に役立っていることは注目に値する。このアルゴリズムは、本明細書に記載されているようにして、応答信号を、製造変動に起因する誤差と試料組成物中に生じた固有の差に起因する系統誤差の両方の誤差に関して同時に補正されていることによる正確さの向上から利益を得る結果に変換する目的に使用されるアルゴリズムである。このような計算モデルは、本明細書に記載された影響および効果を定性的に検証し、それによって実行中の手法の固有の有用性を示すために使用されているが、実際の系は、この2ドメインモデルよりもさらに複雑であることに留意すべきである。これは、実際の系では、信号応答を生じさせる上記モデルで説明した臨界属性が、測定の進行中に、試薬パッドが以前にも増してバルク試料と相互作用するときに、およびバルク試料が以前にも増して試薬パッドと相互作用するときに、それ自体が変化しやすいことによる。
【0047】
試薬パッドとバルク試料との間のこのような相互作用の時間の経過に伴う予想されるカスケードが、
図4に概略的に示されている。試薬層は、最初に溶媒和して、緻密な層から膨潤し溶媒和した拡散層となり、その後に完全な溶解を受けて、試料バルク中にほぼ完全に分散し、試料バルクとの間で平衡に達する。これらの段階を通した進捗の違いは、異なる条件下での予測される時間ベースの特性応答の変化につながる。これらの遷移の速度および程度を、電極の設計および試薬組成物の調合により制御することによって、結果として生じる時間ベースの特性応答を、測定および補正目的に最適に使用することができる。
試薬パッド溶媒和の最初の段階(t1)では、試薬パッドが概ね無傷である。試薬パッドの拡散率は比較的に低い。いくつかの状況では試薬パッドの分配が大きい。これは、パッドとバルクとの間の組成の違いが最大であり、そのため、空隙率、溶解力などの違いが強調されるためである。その結果、反応のこの段階では妨害物質の浸入が制限されることがあり、試料が血液である場合には、パッド層からの細胞成分、例えば赤血球の排除が最大である。その結果、この過程のこの段階の間は、例えば異なる血液試料ヘマトクリット値に対する生の信号の感応性が最小になる。
【0048】
この時点で、この系が平衡に達する可能性はほとんどなく、そのため、製造工程における変動の結果として生じる試薬パッド内の変動および物理的欠陥の影響も同様に強調される。この時点における試薬パッドの有効厚さは、低から中程度であり、最も変動しやすい。流束は概ね、パッド層に入ってから、またはパッド層の近くから制御される。
時間が進み(t2)、パッドとバルクの間でより多くの材料交換が起こると、試薬パッドは膨潤する。最初に、試薬パッドの厚さが増大するにつれて試薬パッドの拡散率が増大する。試薬パッドの分配能力は低下する。しかしながら、製造工程によって試薬パッド内に生じた一貫性のなさおよび欠陥が平衡に達する機会が生じ、センサ間の信号一貫性および精度の向上が観察される。電極の近くで反応物が消費されると、濃度勾配dc/dxはより緩くなり、流束は、試薬パッド属性とバルク層属性の両者間のバランスによって制御される。
【0049】
時間がさらに進むと、試薬パッドは、ほぼ完全に崩壊した段階に達する可能性がある。この時点で、パッドは事実上、バルク試料との平衡に達している。試薬パッドはもはや、有意義の分配層としては機能しない。センサは事実上、電極に隣接した単一のバルク層からなり(x→0)、拡散率は、ほぼ完全にバルク試料属性によって制御され、試薬パッド属性の影響はごくわずかになる。この時点で、応答に対する試薬パッド内の製造変動の影響は最小になっており、センサ間の最適な信号一貫性および精度が観察される。
しかしながら、この段階では、これに対応して、試料自体の内部で生じた系統的な差に起因する不正確さが最大になる。この系統的な差は例えば、妨害物質の存在、またはそれによって応答信号が導き出される拡散過程に影響を及ぼす細胞成分の存在に起因する。
【0050】
これらの過程の理解を通じて、センサがいつどのようにしてこれらの段階を経るのかに関して、センサをどのくらい適切に設計するべきかということと、これらの段階に対応する異なる時間点おける応答信号内でどんな測定情報および補正情報が取得可能になるのか、およびこの情報がどのくらい適切に利用されるのかということとの間のトレードオフが明白になる。
具体的には、(分析物検査分析時間内において)迅速に平衡に達し、t3の完全崩壊段階に向かって急速に移行するセンサパッドを調合および設計すると、精度は最大になり、製造変動に起因する不精確さ誤差は小さくなる。しかしながら、このようなシステムは、分析物を含むバルク試料の拡散属性および溶解力属性の変動に起因する試料間の系統的な不正確さの影響を過度に受ける傾向がある。例えば、試料が血液である場合、差は、赤血球沈殿容積の変動によって生じる。
反対に、(分析物検査分析時間内において)段階t1およびt2をゆっくりと通過するセンサパッドを調合および設計すると、分析物を含むバルク試料の拡散属性および溶解力属性の変動に起因する影響、例えば、試料が血液である場合に赤血球沈殿容積の変動に起因する差が、ある時間点において小さくなり、同時に、これらの異なる時間点において取得可能な情報が潜在的に最も多くなる。この情報によって、このような影響をアルゴリズムに基づいて補正することができる。しかしながら、このような調合物では、平衡に達する十分な機会がなかった試薬パッドの製造変動に起因する不精確さが増大する。
拡散率および平衡時間に影響を与えるさまざまなパッド厚さおよび組成を有するように設計されたシステムによる予想される例示的な信号応答が
図5a〜5dに示されている。
【0051】
本発明の装置は、上記の理解を利用する。上で説明した遷移に関して異なる両極端の条件で動作するように意図的に構成された第1および第2の分析物試薬を含む装置を提供すると、それを用いて測定値を抽出する全体として取得可能な情報の量と質の両方が最大になる。この装置は、適当なアルゴリズムによってより正確な測定を可能にし、それによって、分析物を含むバルク試料の拡散属性および溶解力属性の変動(例えば試料が血液である状況における赤血球沈殿容積の変動に起因する差)に起因する誤差が測定に生じる程度が小さくなり、同時に、平衡に達する十分な機会がなかった分析物試薬の製造変動に起因する不精確さ誤差が生じる程度も小さくなる。
【0052】
以下の非限定的な例示的な実施例において本発明をさらに説明する。しかしながら、不正確さを補正することができる洞察および情報を導き出すためにこのような差動電極およびアルゴリズム手法をそのように使用するのかについての重要な例として、赤血球(すなわちヘマトクリット)の相対的排除の変化に起因する信号差が挙げられているが、例えば直接の電気化学的妨害などの他の妨害効果も、時間の経過に伴って反応するように試薬パッドがどのように構成および設計されているのかに応じたこのような微分的分配を受けることも明白であり、したがって、本発明は、このような追加の他の誤差補正戦略にも容易に役立つことに留意すべきである。
【実施例1】
【0053】
分析物測定作用電極用の酵素インク調合物であって、迅速に溶解し、拡散交換し、バルク試料との間で平衡に達する酵素インク調合物を以下のように調合した。この酵素インク調合物を「インクA」と呼ぶ。
pH7.4に調整した0.1モル/Lリン酸カリウム緩衝水溶液100mlを調製した。ヒドロキシエチルセルロース(Hydroxyethyl Cellulose grade 250MBR、Ashland Chemicals Ltd)3gを加え、これを溶解して粘性のペーストとした。
【0054】
これに以下のものを加えた。
ヒュームドシリカ(HDK K40 grade、Wacker GmbH)1.5g
Tergitol NP/9界面活性剤(Sigma)0.5g(密度=1.055g/mL)
表面張力=32(ダイン/cm、1%活性、25℃)
ドレーブス濡れ=0.06(濃質量%、25℃でドレーブス濡れ時間20秒)
0.05質量%、25℃で21秒)
グルコースデヒドロゲナーゼFADH酵素(Sekisui Diagnostics)2.0g
ヘキサシアノ鉄(III)カリウム(Fisher Scientific)15.0g
これらの成分を混合して均質なペーストとした。
【0055】
基板上に導電性炭素インクをスクリーン印刷して、画定されたパターンを形成し、任意選択で、その上に誘電体層を、画定された作用電極エリア、対電極エリアおよび電気接点を露出させるように塗布することによって、電気化学的検査ストリップを製造した。検査ストリップの作用電極エリアの1つおよび対電極エリア上に、上記のインクAの2つの層をスクリーン印刷し、乾燥させ、その直後に、実施例1で説明した積層ステップを実施した。これらの電極エリアをインクAでコーティングした後、適当なスペーサ層および親水性トップ層をストリップ上に積層することによって、試料充填開口および空気流出開口が試料空隙と有効に流体接触するような態様の画定された試料空隙容積を、電極エリア上に形成した。
【0056】
続いて、インクAが、後述するインクBおよびインクCと比較して以下の臨界属性を有することは、当業者には明白であろう。
・溶媒(水)に対する不揮発性成分の割合が相対的に小さく、その結果、乾燥させると、相対的に薄く、したがって使用時に迅速に再溶媒和することができる層が形成される。
・ポリマーフィルム形成要素および結合剤の量と比べたときの迅速に溶解する溶解度の大きい無機種(ヘキサシアノ鉄(III)カリウム)の割合が相対的に大きい。このことは、使用時のバルク試料との迅速な溶媒和および平衡、ならびに試薬層の相対的に迅速な崩壊を促進する。
・溶解度の大きい無機成分ヘキサシアノ鉄(III)カリウムの投入量が、残りの成分と比較して大きいことが、インク乾燥時のフィルム内における純粋なヘキサシアノ鉄(III)カリウムのドメインの結晶成長を促進し、これがフィルムの異質性につながり、試薬パッド層内に、例外的に迅速に溶解し速やかに拡散する比較的に大きなドメインを生み出す。この結晶化はさらに、乾燥後の層内に非常に大きな表面積を生み出し、この大きな表面積が、使用時の試薬パッド層の迅速な溶解をさらに助長する。
・フィルム形成材料およびポリマー(HECおよび界面活性剤)に対する、非フィルム形成要素(不溶性のシリカおよび可溶性のヘキサシアノ鉄(III)カリウム)のレベルが相対的に高いことにより、試薬パッド内に、(連続した平らで緻密なフィルムとは対照的な)より多孔性の開いた膜状構造体が形成され、このような膜状構造体は、この組成物からなる試薬パッドおよび類似の組成物からなる試薬パッドの迅速な溶解および比較的に高い拡散率を促進するのに役立つ。
【0057】
全体として、このような調合物および属性選択の最終的な結果は、バルク試料の亜成分を微分的に分配する傾向をほとんど持たないかまたは限定的にしか持たない、迅速に溶解する高拡散率の試薬パッドである。
上記の特定の調合物A中において、ヘキサシアノ鉄(III)カリウムが、酵素と電極の間の酸化還元反応で電子を運ぶ電気化学的メディエータの役割を果たしていることは、当業者には明白であろう。ヘキサシアノ鉄(III)カリウムは、調合物中の他の原料成分、特にフィルム形成要素と比較して大きなその割合で、迅速に溶媒和する比較的に大きな結晶ドメインを生成しており、このような大きな結晶ドメインは、通常ならば起こるであろう連続したフィルムの形成を中断させ、このように形成された試薬層の使用時における迅速な溶媒和および最終的な崩壊を助けることも当業者には明白であろう。これらの2つの機能は、この特定の実施例では単一の材料の選択により偶然に都合よく同時に得られた別個の設計要素と考えることができる。両方の機能を同時に果たす単一の材料によってではなく、別個の原料成分の組合せによって、電気化学的メディエータの所望の役割および連続したフィルムの形成を中断させる所望の役割を達成する、原料成分の代替の組合せを考えることもできる。そのような組合せは全て、拡張によって本明細書に組み込まれる。
【実施例2】
【0058】
分析物測定作用電極用の酵素インク調合物であって、より漸進的に溶解し、拡散交換し、バルク試料との間で平衡に達する酵素インク調合物を以下のように調合した。この酵素インク調合物を「インクB」と呼ぶ。
pH7.4に調整した0.1モル/Lリン酸カリウム緩衝水溶液100mlを調製した。ヒドロキシエチルセルロース(Hydroxyethyl Cellulose grade 250LR、Ashland Chemicals Ltd)15gを加え、これを、2時間にわたって穏やかに撹拌しながら溶解して粘性のペーストとした。
これに以下のものを加えた。
ヒュームドシリカ(HDK K40 grade、Wacker GmbH)1.5g
Tergitol NP/9界面活性剤(Sigma)0.5g
グルコースデヒドロゲナーゼFADH酵素(Sekisui Diagnostics)2.0g
ヘキサシアノ鉄(III)カリウム(Fisher Scientific)15.0g
これらの成分を混合して均質なペーストとした。
実施例1で説明した検査ストリップの作用電極エリアの1つの上に、上記のインクBの2つの層をスクリーン印刷し、乾燥させた。
【実施例3】
【0059】
分析物測定作用電極用の酵素インク調合物であって、よりいっそう漸進的に溶解し、拡散交換し、バルク試料との間で平衡に達する酵素インク調合物を以下のように調合した。この酵素インク調合物を「インクC」と呼ぶ。
pH7.4に調整した0.1モル/Lリン酸カリウム緩衝水溶液100mlを調製した。ヒドロキシエチルセルロース(Hydroxyethyl Cellulose grade 250LR、Ashland Chemicals Ltd)20gを加え、これを、2時間にわたって穏やかに撹拌しながら溶解して粘性のペーストとした。
これに以下のものを加えた。
ヒュームドシリカ(HDK K40 grade、Wacker GmbH)1.5g
Tergitol NP/9界面活性剤(Sigma)0.5g
グルコースデヒドロゲナーゼFADH酵素(Sekisui Diagnostics)2.0g
ヘキサシアノ鉄(III)カリウム(Fisher Scientific)5.0g
これらの成分を混合して均質なペーストとした。
実施例1で説明した検査ストリップの作用電極エリアの1つの上に、上記のインクCの2つの層をスクリーン印刷し、乾燥させた。
【0060】
後述するインクCが、上記のインクAと比較して以下の臨界属性を有することは、当業者には明白であろう。
・溶媒(水)に対する不揮発成分の割合が相対的に大きく、その結果、乾燥させると、相対的に厚く、したがって使用時にあまり迅速には再溶媒和しない層が形成される。
・ポリマーフィルム形成要素、結合剤および界面活性剤の量と比べたときの迅速に溶解する溶解度の大きい無機種(ヘキサシアノ鉄(III)カリウム)の割合が相対的に小さい。このことは、使用時のバルク試料とのよりゆっくりとした溶媒和および平衡を促進し、使用時に試薬パッド層が崩壊する傾向をより小さくする。
・溶解度の大きい無機成分ヘキサシアノ鉄(III)カリウムの投入量が、残りの成分と比較して相対的に小さいことが、インク乾燥時のフィルム内における純粋なヘキサシアノ鉄(III)カリウムのドメインの結晶成長を阻害し、このことが、試薬パッド層内の例外的に迅速に溶解し速やかに拡散する大きなドメインを相対的に少なくする。さらに、このような結晶化が相対的に少ないことは、乾燥後の層内に、より小さな表面積を有するより均質なフィルムを形成し、このようなフィルムは、使用時の試薬パッド層のよりゆっくりとした溶解を助長する。
・フィルム形成ポリマー(HEC)と比較して、非フィルム形成要素(シリカおよびヘキサシアノ鉄(III)カリウム)のレベルが相対的に低いことにより、試薬パッド内に、より緻密な閉じた膜状構造体が形成され、このような膜状構造体は、この組成物からなる試薬パッドおよび類似の組成物からなる試薬パッドの溶解および拡散率を制限するのに役立ち、この膜状構造体内でいくつかの試料亜成分が選択的に分配される傾向を増大させる。
全体として、このような調合物および属性選択の最終的な結果は、バルク試料の亜成分を試薬パッド内へ微分的に分配するある初期の傾向を少なくとも当初は有する、漸進的に溶解するより低拡散率の試薬パッドである。
【実施例4】
【0061】
作用電極の1つおよび対電極がインクAを含む試薬層でコーティングされ、追加の隣接する作用電極がインクBでコーティングされた検査ストリップを、実施例1で説明した工程を使用して作製した。
【実施例5】
【0062】
作用電極の1つおよび対電極がインクAを含む試薬層でコーティングされ、追加の隣接する作用電極がインクCでコーティングされた検査ストリップを、実施例1で説明した工程を使用して作製した。
【実施例6】
【0063】
全血中のグルコースを測定する使い捨ての電気化学的検査ストリップを、インクAだけを使用し、実施例2で説明した工程に従って作製した。
次いで、3つの追加の中間レベルを含む約50mg/dL〜約550mg/dLの間のさまざまな濃度のβ−D−グルコース分析物を含み、赤血球沈殿容積(ヘマトクリット)が、追加の3つの中間ヘマトクリットレベルを含め20%v/v〜60%v/vの間にある多数の全血試料を使用して、それらのストリップを試験した。
ストリップ上の作用電極と対電極の間に300mVの印加電位を加え、その後に試料を導入し、その結果生じた電流を約10秒にわたって測定した。
【0064】
生成された電流信号応答プロファイルの選択例が
図6aおよび6bに示されている。
図6aは、適当なアルゴリズムによって分析物の濃度を測定する目的にその大きさを容易に使用することができる応答を生み出すために、同じ試薬調合物を含むほぼ同一の多数の電極を、さまざまな濃度の分析物を含む同様の試料にさらしたときに観察された、時間ベースの応答特性の例を示す。この点に関しては、参照によって本明細書に組み込まれているISO15197を参照されたい。センサ応答信号は、関心の分析物の濃度の影響だけでなく、分析物を含むバルク試料容積の拡散属性および溶解力属性の系統的な差および変動の影響も受けることが明らかである。そのような拡散属性および溶解力属性の一例が、赤血球沈殿容積または「ヘマトクリット」である。
【実施例7】
【0065】
作用電極の1つ(作用電極1、以後we1と略記する)および対電極が、実施例2のインクAを含む試薬層でコーティングされ、追加の隣接する作用電極(作用電極2、以後we2と略記する)が、実施例4のインクBでコーティングされた使い捨ての電気化学的検査ストリップを、実施例1で説明した工程を使用して作製した。次いで、それらの電極を、上記実施例6で説明した方式と等価の方式で試験した。ただし、電極はともに対電極に対して全く同じに分極させ、その結果生じたそれぞれの電極を流れる電流応答を測定した。
【0066】
結合電極出力のための測定アルゴリズム
他の実施形態では、新たなアルゴリズムを使用して、両方の電極からの両方の信号応答の結合に基づく強化された測定を実施した。意図的に設計された異なる分析物試薬の異なる時間ベースの応答特性を利用することによって、測定される最終的な応答の精度とヘマトクリット非感応性との間の強化されたバランスを達成することができる。この強化されたバランスは、単独で使用された電極システムを用いても、または時間ベースの異なる応答特性が存在しない場合でも不可能であったであろう。
この実施形態では、第1および第2の電極を対/参照電極に対して分極させる。第1の作用電極において、1つまたは複数の第1の電流i
we1を、第1の期間[t
k;t
k+n]にわたって測定し、第2の作用電極において、1つまたは複数の第2の電流i
we2を、第2の期間[t
a;t
b]および第3の期間[t
c;t
d]にわたって測定する。この1つまたは複数の第1の電流および1つまたは複数の第2の電流を使用して、補正された電流測定を、以下のアルゴリズムに従って決定する。
時刻kと時刻k+nの間の第1の作用電極上の第1の電流の平均値を下式に従って決定する。
【0067】
【数1】
t
aとt
bの間の第2の作用電極上の第2の電流の和Q
1を下式に従って決定する。
【数2】
t
cとt
dの間の第2の作用電極上の第2の電流の和Q
2を下式に従って決定する。
【数3】
下式に従ってQ
Δを決定する。
Q
Δ=Q
1−Q
2
(Q
Δ)に基づく第1の作用電極上の予測される電流を下式に従って決定する。
I
1(predicted)=β
0+β
1Q
Δ
第1の作用電極における実際の電流の偏差を下式に従って決定する。
I
Δ=I
1(actual)−I
1(predicted)
この偏差が下しきい値よりも小さいかどうかを見るために、この偏差を調べる。
|I
Δ|<l
a
【0068】
この偏差が上しきい値よりも大きい場合には、エラーを報告することができる。
|I
Δ|>l
a →エラーを報告する
そうでない場合には、下式が成り立つ。
l
a≦|I
Δ|≦l
a
補正された電流は、実際の電流および予測される電流の平均である。
【数4】
導き出されるヘマトクリット予測は、この偏差および予測される電流に基づく。
H
predicted=β
2+β
3I
1(predicted)+β
4I
Δ
導き出されるヘマトクリット偏差を下式に従って決定する。
H
Δ=42−H
predicted
補正された電流は、このヘマトクリット偏差から導き出される。
【0069】
【数5】
以下のような重み付け関数を用いる。
I
1(actual)<I
nomina1
【数6】
I
1(actual)≧I
nomina1
w
f=1
この例では以下の係数を使用した。
【0070】
【表1】
【0071】
下式に従って、I
corrを試料濃度の推定値に変換する。
c=p
1I
corr+p
2
p
1およびp
2は較正係数であり、これらは、適当な方法(例えば線形最小自乗回帰)を使用したデータ回帰によって経験的に容易に導き出すことができ、後続の等価の検査ケースに測定目的で予測的に適用することができる。この実施形態では、p
1が192、p
2が−27である。上に示したアルゴリズム係数値は、特定の電極設計および使用された印加電位の関数であり、適当な方法を使用したデータ回帰(例えば一例として線形最小自乗回帰)によって経験的に到達することもできることも明白であろう。
【0072】
係数β
0およびβ
1は、線形回帰によって最も容易に経験的に決定される。システム設計および調合が固定されているときには、任意の一組の時間点について、(理論的には)公称ヘマトクリットにおけるQ
ΔとI
1actualとの間の関係も固定される(雑音/誤差は考えない)。したがって、さまざまなグルコース濃度を用いて固定された公称ヘマトクリットでストリップを試験し、それらについてI
1actualおよびQ
Δを測定すると、これらを関係付ける係数が解明される。続いて、β
0およびβ
1を使用して、I
1pred値を導き出すことができる。ヘマトクリットが公称値である場合、I
1predはI
1actualに近いはずである。ヘマトクリットが公称値から外れている場合、I
Δは非ゼロあり、この微分設計によって見出されたヘマトクリット情報に反する。
当業者には知られていることだが、関係Q
Δ/I
1actualを見出すことができる他の手段(例えばデータマイニング、ヒューリスティック推定など)もある。しかしながら、この関係は、所与の設計に対して事実上固定されるため、適当な任意の回帰手段または発見手段を使用することができる。
【0073】
下の表は、この実施例で観察された不精確さの大きさを定量化し、インクA電極だけによる測定された応答、インクB電極だけによる測定された応答、および両方の電極のアルゴリズムに基づく結合による測定された応答を比較したものである。この不精確さの大きさは、そのレベルにおける参照測定値読みの百分率として算出されたときの多数の繰返し測定値から算出した標準偏差として表現されている。5つのそれぞれのヘマトクリットレベルにおける精度測定値が、別々の全てのヘマトクリットレベルを包含した全体の標準偏差とともに示されている。
この表はさらに、試料ヘマトクリットの変化から生じ、試料ヘマトクリットの変化に起因する系統誤差であって、ヘマトクリットの1パーセントごとの変化に直接に帰せられる測定された応答の変化百分率として表現された系統誤差を、3つのそれぞれのケースについて示している。負の値は、ヘマトクリットの増大とともに応答が低下することを示し、正の値は、ヘマトクリットの増大とともに応答が増大することを示す。
【0074】
【表2】
この表から、この結合系は、単独で使用されたインクAベースの測定と比較されたときに、低減されたヘマトクリット感応性を示し、さらに、単独で使用されたときのインクBベースの測定と比較されたときに、向上した精度を与えることが容易に分かる。
【実施例8】
【0075】
作用電極の1つ(作用電極1、以後we1と略記する)および対電極が、実施例2のインクAを含む試薬層でコーティングされ、追加の隣接する作用電極(作用電極2、以後we2と略記する)が、実施例4のインクCでコーティングされた使い捨ての電気化学的検査ストリップを、実施例1で説明した工程を使用して作製した。
両方の電極からの両方の信号応答の結合に基づく強化された測定、具体的には、それぞれのインクの異なる時間ベースの応答特性を利用した、強化された測定を実施する、実施例7で説明したタイプのアルゴリズムを使用して、測定された応答を、実施例7に記載されたとおりに生成した。
この例では、使用する式は上記のとおりとし、利用するアルゴリズム係数は下表のとおりとした。
【0076】
【表3】
【0077】
下の表は、インクA電極だけ(we
1)による測定された応答、インクC電極だけ(we
2)による測定された応答および両方の電極のアルゴリズムに基づく結合による測定された応答の比較から観察された不精確さの大きさを定量化したものであり、上記実施例6で説明した、それぞれの場合の試料ヘマトクリットの変化に帰せられる系統誤差も示されている。
【0078】
【表4】
【実施例9】
【0079】
作用電極の1つ(作用電極1、以後we1と略記する)および対電極が、実施例2のインクAを含む試薬層でコーティングされ、追加の隣接する作用電極(作用電極2、以後we2と略記する)が、実施例4のインクCでコーティングされた使い捨ての電気化学的検査ストリップを、実施例1で説明した工程を使用して作製した。
【0080】
アルゴリズム展開手順
他の実施形態では、多数の時間点において測定された両方の電極からの結合された応答を使用する別のアルゴリズムを使用した。
このようなアルゴリズムを取得し、続いて使用することができるプロセスの概要が
図7に概略的に示されている。
この特定の例では、インクC(we
2)については1秒、2秒、3秒、4秒、5秒、6秒、7秒および8秒において、インクA(we
1)については1秒、2秒、3秒、4秒、5秒、6秒、7秒および8秒において、アンペアで表された電流測定値を測定して、測定ごとに合計16個の信号入力を生成した。それらの入力をここに挙げた順序で提示し、1から16までの番号をつけた。
このアルゴリズムは、主成分分析(PCA)の方法論を使用して、これらの16個の全ての入力間で変動を直交させ、その変動を使用して、強化された予測能力を有するモデルを生成した。
【0081】
この例では、最初に、それぞれの応答から公称平均および公称標準偏差を減ずることによって、生の入力を「zスコア」に変換した。使用した値は、測定値をとる分析物濃度およびヘマトクリットの完全な範囲を横切って予想した、それぞれの時間点に対するそれぞれの電極からの全ての読みの平均および標準偏差である。
次いで、その結果得られた16個の入力を、回帰による計算によって導き出された係数行列を使用した行列乗算を使用してそれらの主成分スコアに変換した。
この例でzスコア変換に使用した公称平均および公称標準偏差の実際の値、およびこの例では16個の生の入力をそれらの主成分に変換するのに使用した係数行列が、
図8に示されている。
上記の係数行列を用いたzスコアのこの行列乗算によって得られた結果として生じる16個のそれぞれの主成分に、対応する名称x1、x2、x3...x16を割り当てた。取得し、最終的な応答を予測するのに使用したモデル項が、それらの係数値とともに、以下に示されている(x1は、モデル項x1に関連づけられた係数、x1:x2は、x1とx2の間の相互作用に対する係数、すなわちそれらの積の係数である)。
【0082】
【表5】
【0083】
このアルゴリズムを、(20%〜60%の範囲の)5つのヘマトクリットおよび(50〜500mg/dLの範囲の)5つのグルコースレベルを有する試料を用いた、記載した検査ストリップからの測定データに適用したときに、結果として得られた応答が
図Xに示されている。
【0084】
下表を参照すると、この結合系は、単独で使用された両方のインクAおよびインクCベースの測定と比較されたときに、低減されたヘマトクリット感応性を示し、さらに、単独で使用されたときのインクCベースの測定と比較されたときに、向上した精度を与えることが容易に分かる。
【0085】
【表6】
【実施例10】
【0086】
作用電極の1つ(作用電極1、以後we1と略記する)および対電極が、実施例2のインクAを含む試薬層でコーティングされ、追加の隣接する作用電極(作用電極2、以後we2と略記する)が、実施例4のインクCでコーティングされた使い捨ての電気化学的検査ストリップを、実施例1で説明した工程を使用して作製した。
この例では、異なる電気化学的検査手順を使用した。この手順では、+300mVの電位を8秒間印加し、続いて、逆方向の電気化学反応をある期間、駆動して増幅された追加の電流信号を生じさせるために、−300mVの電位を2秒間印加した。その一例を下に示す。
実施例9で説明したものと同様のタイプのPCAアルゴリズムを、上述の計算回帰によって展開した。
この例では、下表に示した、2つの電極入力からの21個の時間点を使用した。
【0087】
【表7】
以下のパラメータを使用してzスコア値を算出した。
【0088】
【表8】
変換行列を使用して主成分を導き出した。これが
図9に示されている。
それぞれのPCA項をモデルに入力した。x1はPCA1を表し、x2はPCA2を表示す。以下同様である。最終的なグルコース結果を生成するのに使用したモデル係数は以下のとおりである。
【表9】
【0089】
図10a〜10dに示された結果は、血液試料から分析物応答を予測するために、このアルゴリズムを検査ストリップ出力信号に適用したときに得られたものである。血液試料のグルコース濃度およびヘマトクリットレベルは、下に示された参照範囲に合うように操作した。
この電極設計およびアルゴリズム組合せの結果は、ヘマトクリット変化の妨害効果に対して非感応な精確な測定であることが、下表から分かる。
【0090】
【表10】
【産業上の利用可能性】
【0091】
適切な変更を加えることによって、上述の実施形態の任意の特徴を、別の実施形態の特徴と組み合わせることができる。また、好ましい実施形態に関して本発明を説明したが、本発明はこれらの実施形態だけに限定されないこと、ならびに、当業者は、本発明の範囲から逸脱することなく、これらの実施形態の変更、修正および改変を実施することができることを理解すべきである。例えば、主に計器を有する電気化学装置を認証する文脈で本発明を説明したが、本発明は、他の分野、例えばヘルスアンドフィットネス、食品、飲料、生物安全用途、環境試料モニタリングなどでも等しく有効に使用することができる。本明細書に記載された例は、(イヌおよびウマを含む)動物/獣医学およびフィットネスの文脈で等しく使用することができる。
【0092】
さらに、主に電気化学的検査ストリップと一緒に使用する文脈で本発明を説明したが、本発明を、(間質液などの)流体試料をユーザから能動的に取得し、試料と電気化学的に反応させるウェアラブル装置などの他の電気化学装置に拡張することもできる。そのような装置の例は、グルコース濃度を管理する目的で糖尿病のユーザによって使用される連続(または半連続)グルコースモニタリング装置である。
【国際調査報告】