(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-534527(P2017-534527A)
(43)【公表日】2017年11月24日
(54)【発明の名称】モーターバイク用タイヤのためのカーカス補強材
(51)【国際特許分類】
B60C 9/09 20060101AFI20171027BHJP
B60C 9/08 20060101ALI20171027BHJP
【FI】
B60C9/09
B60C9/08 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-526625(P2017-526625)
(86)(22)【出願日】2015年9月29日
(85)【翻訳文提出日】2017年5月17日
(86)【国際出願番号】EP2015072337
(87)【国際公開番号】WO2016078809
(87)【国際公開日】20160526
(31)【優先権主張番号】1461105
(32)【優先日】2014年11月18日
(33)【優先権主張国】FR
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】514326694
【氏名又は名称】コンパニー ゼネラール デ エタブリッスマン ミシュラン
(71)【出願人】
【識別番号】508032479
【氏名又は名称】ミシュラン ルシェルシュ エ テクニーク ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100128428
【弁理士】
【氏名又は名称】田巻 文孝
(72)【発明者】
【氏名】ヴィルパート ベンジャミン
(72)【発明者】
【氏名】キュラ アレクサンドラ
(72)【発明者】
【氏名】ローラン クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ブシェ ロマン
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131AA33
3D131AA35
3D131BB06
3D131BC14
3D131BC15
3D131DA04
3D131DA09
3D131HA57
(57)【要約】
モーターバイク用のタイヤ(1)であって、補強体が円周方向(XX′)と5°以下の角度(B)をなす少なくとも1つの層(51)を含むクラウン補強材(5)と、補強体が円周方向と65°を超える角度(A1,A2)をなす少なくとも2つの層(61,62)を含むカーカス補強材(6)とを有する、タイヤ。第1のカーカス層(61)の補強体は、75°以下の角度(A1)をなし、第2のカーカス層(62)の補強体は、80°を超えかつ90°以下の角度(A2)をなし、角度(A1,A2)相互の差は、10°を超えかつ20°以下であり、角度(A1,A2)は、同一の方向に差し向けられている。本発明は、モーターバイクの高速直進安定性と高いキャンバ角を持つ曲線におけるモーターバイクの安定性の良好な妥協点を見出そうとするものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モーターバイク型自動二輪車用のタイヤ(1)であって、
‐2つのサイドウォール(3)によって2つのビード(4)に連結されたトレッド(2)を有し、各ビード(4)は、円周方向金属補強要素またはビードワイヤ(7)を有し、
‐前記トレッド(2)の半径方向内側に位置した状態で延びていて少なくとも1つのクラウン層(51)を含むクラウン補強材(5)を有し、前記少なくとも1つのクラウン層(51)は、前記タイヤの円周方向(XX′)と多くとも5°に等しい角度(B)をなす相互に平行な補強体を有し、
‐前記クラウン補強材(5)の半径方向内側に位置した状態で前記ビード(4)まで延びていて少なくとも2つのカーカス層(61,62)を含むカーカス補強材(6)を有し、前記少なくとも2つのカーカス層(61,62)の各々は、前記タイヤの前記円周方向(XX′)と少なくとも65°に等しい角度(A1,A2)をなす相互に平行な補強体を有する、タイヤにおいて、
第1のカーカス層(61)の前記補強体は、前記円周方向(XX′)と多くとも75°に等しい角度(A1)をなし、第2のカーカス層(62)の前記補強体は、前記円周方向(XX′)と少なくとも80°に等しくかつ多くとも90°に等しい角度(A2)をなし、前記第1および前記第2のカーカス層(61,62)の前記それぞれの補強体の前記角度(A1,A2)相互の差は、少なくとも10°に等しくかつ多くとも20°に等しく、前記第1および前記第2のカーカス層(61,62)の前記それぞれの補強体の前記角度(A1,A2)は、同一の方向に差し向けられている、タイヤ(1)。
【請求項2】
前記カーカス補強材(6)は、2つのカーカス層(61,62)で構成されている、請求項1記載のタイヤ(1)。
【請求項3】
前記第1のカーカス層(61)は、各ビード(4)の前記ビードワイヤ(7)周りに巻き上げられたカーカス層である、請求項1または2記載のタイヤ(1)。
【請求項4】
前記第1のカーカス層(61)は、前記第2のカーカス層(62)の半径方向内側に位置している、請求項1〜3のうちいずれか一に記載のタイヤ(1)。
【請求項5】
各ビード(4)は、円周方向金属補強要素またはビードワイヤ(7)を有し、前記第2のカーカス層(62)は、各ビード(4)の前記ビードワイヤ(7)の周りに巻き上げられていないカーカス層である、請求項1〜4のうちいずれか一に記載のタイヤ(1)。
【請求項6】
前記第1および前記第2のカーカス層(61,62)の前記それぞれの補強体は、繊維材料で作られている、請求項1〜5のうちいずれか一に記載のタイヤ(1)。
【請求項7】
前記第1および前記第2のカーカス層(61,62)の前記それぞれの補強体は、同種の繊維材料で作られている、請求項1〜6のうちいずれか一に記載のタイヤ(1)。
【請求項8】
前記第1および前記第2のカーカス層(61,62)の前記それぞれの補強体は、ポリエステルで作られている、請求項1〜7のうちいずれか一に記載のタイヤ(1)。
【請求項9】
前記クラウン補強材(5)は、単一のクラウン層(51)で構成されている、請求項1〜8のうちいずれか一に記載のタイヤ(1)。
【請求項10】
前記少なくとも1つのクラウン層(51)の前記補強体は、繊維材料、好ましくは芳香族ポリアミドで作られている、請求項1〜9のうちいずれか一に記載のタイヤ(1)。
【請求項11】
前記少なくとも2つのカーカス層(61,62)の各々は、前記トレッド(2)の中央を通りかつ前記タイヤの回転軸線(YY′)に垂直な赤道面(XZ)の各側で対称に延びるクラウン部分を有し、一方において2つの連続して位置するカーカス層(61,62)のクラウン部分のそれぞれの前記補強体相互間および他方において半径方向最も外側のカーカス層(62)のクラウン部分の補強体と半径方向最も内側のクラウン層(51)の補強体との間のそれぞれの平均半径方向距離(d1,d2)は、多くとも0.3mmに等しく、好ましくは多くとも0.1mmに等しい、請求項1〜10のうちいずれか一に記載のタイヤ(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車、例えばモータサイクルまたはモーターバイクに取り付けられるようになったラジアルタイヤに関する。
【0002】
本発明がかかる用途に限定されることはないが、本発明をモーターバイクのリヤ、特に競技部門のモーターバイクのリヤに取り付けられるようになったラジアルタイヤに関して説明する。
【背景技術】
【0003】
以下において、従前通り、円周方向、軸方向、および半径方向は、それぞれ、タイヤの回転方向におけるタイヤのトレッド表面(踏み面とも呼ばれる)に接する方向(接線方向)、タイヤの回転軸線に平行な方向、およびタイヤの回転軸線に垂直な方向を意味している。「半径方向内側または半径方向外側」という表現は、それぞれ、「タイヤの回転軸線の近くにまたはタイヤの回転軸線から遠ざかって」位置することを意味している。「軸方向内側または軸方向外側」という表現は、それぞれ、「タイヤの赤道面の近くにまたはタイヤの赤道面から遠ざかって」位置することを意味しており、タイヤの赤道面は、タイヤのトレッド表面の中間を通りかつタイヤの回転軸線に垂直な平面である。以下において言及する円周方向に対する角度は、その向きではなく絶対値で表される。
【0004】
一般に、タイヤは、トレッド表面を介して路面に接触するようになっていてかつ2つのサイドウォールによって2つのビードに連結されたトレッドを有し、2つのビードは、タイヤとタイヤが取り付けられているリムとの間の機械的連結部となっている。
【0005】
ラジアルタイヤはまた、トレッドの半径方向内側に位置したクラウン補強材および通常、クラウン補強材の半径方向内側に位置したカーカス補強材を含む補強材を有する。
【0006】
モーターバイク用のラジアルタイヤのクラウン補強材は、一般に、エラストマー系のポリマー材料で被覆された補強体で構成される少なくとも1つのクラウン層を有する。補強体は、通常、繊維材料、例えばアラミドで作られるが、均等例として金属で作られる場合がある。当業者は、競技用モーターバイクの場合、タイヤがモーターバイクのリヤに取り付けられるようになっているかフロントに取り付けられるようになっているかに応じて当業者により種々のクラウン補強材アーキテクチャを提案した。リヤ取り付けの場合、クラウン補強材は、通常、円周方向補強体を有する円周方向クラウン層で構成され、このことは、補強体が円周方向と多くとも5°に等しい実質的にゼロの角度をなすことを意味している。この円周方向クラウン層は、一般に、少なくとも1つのエラストマー被覆補強要素のストリップを螺旋巻きすることによって得られる。フロント取り付けの場合、クラウン補強材は、円周方向クラウン層または場合によっては2つのワーキングクラウン層を更に有し、これら2つのワーキングクラウンプライは、各層内で互いに実質的に平行でありかつ1つの層と次の層との間でクロス掛け関係をなし、円周方向と一般に15°〜35°の角度をなす補強体を有する。
【0007】
モーターバイク用のラジアルタイヤのカーカス補強材は、一般的に言って、通常、繊維材料で作られかつエラストマー系のポリマー材料で被覆された補強体で構成されている少なくとも1つのカーカス層を有する。カーカス層は、巻き上げ部(折り返し部ともいう)を備えている場合があり、これを備えていない場合もある。
【0008】
カーカス層は、これが2つのビードを互いに連結する主要部を有するとともに各ビード内において自由端を備えた巻き上げ部を形成するようタイヤの内側からビードワイヤ周りにタイヤの外側に向かって巻かれる場合に巻き上げ部を有すると呼ばれる。ビードワイヤは、通常金属で作られかつ一般にエラストマーまたは繊維材料で被覆された円周方向補強要素である。巻き上げ部のあるカーカス層の場合、各ビード内の巻き上げ部は、巻き上げカーカス層をビードワイヤに繋留しまたは固定する。巻き上げカーカス層と接触状態にあるビードワイヤの部分は、特にインフレーション時、巻き上げカーカス層内の引張り荷重の結合によって反作用に寄与する。引張り荷重に対する反作用へのこの寄与の度合いは、ビードワイヤの捩り剛性および折り返し部の幾何学的形状で決まる。ビードワイヤが高い捩り剛性を有する場合、インフレーション時における引張り荷重は、本質的にビードワイヤの反作用を受け、巻き上げ部は、二次的な寄与を果たす。ビードワイヤが低い捩り剛性を有する場合、引張り荷重は、ビードワイヤとの結合と、巻き上げ部とこれに隣接して位置する材料との間の剪断の両方の反作用を受け、それにより十分に長い巻き上げ部が必要になり、このことは、巻き上げ部の端がビードワイヤの半径方向最も内側の箇所から見て十分に半径方向遠くに位置することを意味する。巻き上げ部は、その端とビードワイヤの半径方向最も内側の箇所との間の半径方向距離が欧州タイヤ・リム技術機構(European Tyre and Rim Technical Organisation)、すなわちETRTO規格により定められているタイヤの設計断面高さの少なくとも0.3倍に等しい場合に長いと呼ばれる。
【0009】
カーカス層は、ビードワイヤ周りに巻かれることがなく、2つのビードを互いに連結している主要部分でのみ構成されている場合には巻き上げ部を備えていない。巻き上げ部のないカーカス層の場合、上述の非巻き上げカーカス層の2つの端部分の各々は、少なくとも1つの巻き上げカーカス層の巻き上げ部か少なくとも1つの巻き上げカーカス層の主要部分かのいずれかと結合される場合がある。結合部は、巻き上げ部のないカーカス層と巻き上げ部のあるカーカス層とのオーバーラップ領域を意味し、かかるオーバーラップ領域により、剪断によって引張り荷重に反作用することができる。
【0010】
巻き上げ部のあるなしにかかわらずカーカス層の主要部中の補強体は、互いに実質的に平行でありかつ円周方向と65°〜90°の角度をなす。
【0011】
国際公開第2011/107543号パンフレットに記載されているモーターバイクのリヤへの取り付けを可能にするラジアルタイヤの公知のアーキテクチャは、2つのカーカス層で構成されたカーカス補強材を有し、このカーカス補強材は、円周方向クラウン層で構成されたクラウン補強材の半径方向内側に位置している。2つのカーカス層の各々のそれぞれの補強体は、円周方向と互いに逆の符号の70°〜85°の角度をなしている。かかるアーキテクチャは、特にサイドウォール内において一方のカーカス層と他方のカーカス層との間における補強体のクロス掛け関係に起因して生じる三角形構造形成効果の故に、曲線経路におけるモーターバイクの十分な安定性を保証し、この曲線経路において、リヤタイヤの赤道面と路面に垂直でありかつ曲線経路に接する平面との間のリヤタイヤのキャンバ角が通常少なくとも30°に等しい。しかしながら、かかるアーキテクチャは、曲線経路における安定性(カーブ安定性)と直線における安定性(直進安定性)との最適な妥協点を見出すことができないという欠点を有する。この性能上の妥協点は、実際には、通常、特に競技用途向けのモーターバイクの分野においては重要であり、かかるモーターバイクの使用は、乾いた路面上でのグリップが必要であることおよび経路の少なくとも50%が曲線であるサーキット上での使用によって特徴付けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2011/107543号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明者は、モーターバイクの高速直進安定性と高いキャンバ角での曲線経路におけるモーターバイクの安定性の良好な妥協点を見出すことができるようにするモーターバイクのリヤに取り付けられるラジアルタイヤのためのカーカス補強材を設計するという目的に取り組んだ。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的は、本発明によれば、モーターバイク型自動二輪車用のタイヤであって、
‐2つのサイドウォールによって2つのビードに連結されたトレッドを有し、各ビードは、円周方向金属補強要素またはビードワイヤを有し、
‐トレッドの半径方向内側に位置した状態で延びていて少なくとも1つのクラウン層を含むクラウン補強材を有し、少なくとも1つのクラウン層は、タイヤの円周方向と多くとも5°に等しい角度をなす相互に平行な補強体を有し、
‐クラウン補強材の半径方向内側に位置した状態でビードまで延びていて少なくとも2つのカーカス層を含むカーカス補強材を有し、少なくとも2つのカーカス層の各々は、タイヤの円周方向と少なくとも65°に等しい角度をなす相互に平行な補強体を有し、
‐第1のカーカス層の補強体は、円周方向と多くとも75°に等しい角度をなし、
‐第2のカーカス層の補強体は、円周方向と少なくとも80°に等しくかつ多くとも90°に等しい角度をなし、
‐第1および第2のカーカス層のそれぞれの補強体の角度相互の差は、少なくとも10°に等しくかつ多くとも20°に等しく、
‐第1および第2のカーカス層のそれぞれの補強体の角度(A1,A2)は、同一の方向に差し向けられていることを特徴とするタイヤによって達成された。
【0015】
クラウン補強材は、トレッドの半径方向内側に位置した状態で延びており、このクラウン補強材は、タイヤの円周方向と多くとも5°に等しい角度をなす相互に平行な補強体から成る少なくとも1つのクラウン層を有する。このことは、このクラウン層の補強体がタイヤの円周方向に対して実質的に平行であり、すなわち実質的に円周方向であることを意味している。この角度範囲は、クラウン層の2つの軸方向端相互間に位置するクラウン層の任意の箇所で測定された角度に関する。さらに、この角度は、関心のある当該クラウン層上の箇所に従って様々な場合がある。
【0016】
カーカス補強材は、クラウン補強材の半径方向内側に位置した状態でビード中に延び、このカーカス補強材は、少なくとも2つのカーカス層を有し、これらカーカス層のそれぞれの相互に平行な補強体は、タイヤの円周方向と少なくとも65°に等しい角度をなしている。この角度範囲は、このカーカス層の2つの端相互間に位置する各カーカス層上の任意の箇所で測定された角度に関する。さらに、この角度は、当該カーカス層上の箇所に従って様々な場合がある。
【0017】
本発明によれば、第1のカーカス層の補強体は、円周方向と多くとも75°に等しい角度をなし、これに対し、第2のカーカス層の補強体は、円周方向と少なくとも80°に等しくかつ多くとも90°に等しい角度をなす。換言すると、第1のカーカス層の補強体は、円周方向と、実質的に半径方向である第2のカーカス層の補強体よりも小さい角度をなし、それによりカーカス補強材の三角形構造形成が得られる。加うるに、第1および第2のカーカス層のそれぞれの補強体の角度相互の差は、少なくとも10°に等しくかつせいぜい20°に等しく、このことは、三角形構造形成が効果的であるようにするためには有意義であることが必要であることを意味している。最後に、第1および第2のカーカス層のそれぞれの補強体の角度(A1,A2)は、同一方向に差し向けられ、すなわちタイヤの円周方向と軸方向によって定められる配向平面内では符号が同一である。
【0018】
クラウン部分内とサイドウォール部分内の両方におけるカーカス補強材のかかる三角形構造形成により、高い横剛性および高いコーナリング剛性を同時に有することが可能である。
【0019】
横剛性は、1mmに等しい横変位、すなわち軸方向に平行な変位がタイヤに加えられたときにタイヤによって生じる横力である。主としてサイドウォール部分内のカーカス補強材の三角形構造形成具合で決まる横剛性が高ければ高いほど、モーターバイクの直進安定性がそれだけ一層高い。
【0020】
コーナリング剛性は、1°のコーナリング角度がタイヤに適用された場合にタイヤによって生じる横力またはドリフトスラストであり、このコーナリング角度は、タイヤの赤道面と路面との交線である直線と経路に接する直線とのなす角度である。本質的にクラウン部分内のカーカス補強材の三角形構造形成具合で決まるコーナリング剛性が高ければ高いほど、曲線またはカーブでのモーターバイクの安定性がそれだけ一層高い。
【0021】
好ましい一実施形態によれば、カーカス補強材は、2つのカーカス層で構成され、それによりカーカスバイプライ(bi-ply)が構成される。これは、タイヤの質量およびその製造費を最小限に抑えるために通常用いられるカーカス層の数である。
【0022】
有利には、第1のカーカス層は、各ビードのビードワイヤ周りに巻き上げられたまたは上に折り返されたカーカス層である。換言すると、補強体が円周方向と多くとも75°に等しい最も小さな角度をなす第1のカーカス層は、2本のビードを互いに連結するとともに各ビード内でタイヤの内側からタイヤの外側に向かってビードワイヤ周りに巻かれて自由端部を有する巻き上げ部を形成する主要部分を有する巻き上げカーカス層である。タイヤの構成要素を布設する際に巻き上げカーカスプライを布設する方法は、タイヤ製造分野においてありふれた方法である。
【0023】
また、有利には、第1のカーカス層は、第2のカーカス層の半径方向内側に位置している。補強体が円周方向と少なくとも65°に等しくかつ多くとも75°に等しい最も小さな角度をなすカーカス層は、かくして、補強体が円周方向と少なくとも80°に等しくかつ多くとも90°に等しい最も大きな角度をなすカーカス層の半径方向内側に位置する。好ましくは、第1のカーカス層は、巻き上げカーカス層でもある。
【0024】
第2のカーカス層は、各ビードのビードワイヤ周りに巻き上げ部のないカーカス層である。カーカス層が2つのカーカス層だけから成り、第1のカーカス層が巻き上げられて第2のカーカス層の半径方向内側に位置する特定の場合、第2のカーカス層の端部分は、巻き上げ状態の第1のカーカス層の主要部と接触状態にあるか巻き上げ状態の第1のカーカス層の巻き上げ部と接触状態にあるかのいずれかである。巻き上げ第1のカーカス層の巻き上げ部とのオーバーラップの場合、第2のカーカス層の端部分は、巻き上げ部の軸方向外側に位置するか、あるいは好ましくは、この巻き上げ部の軸方向内側に位置するかのいずれかである。
【0025】
第1および第2のカーカス層のそれぞれの補強体は、通常、繊維材料で作られる。繊維材料は、ポリエステルまたはナイロンである。これら材料は、通常、これらの性能とこれらの製造費の間に魅力的な妥協点が見出せるのでモーターバイク用タイヤの分野で一般的に用いられている。弾性モジュラスおよび破断強度の面で一層良好な性能を持つ繊維材料であるアラミドを高性能タイヤ、例えば競走用モーターバイクのためのタイヤに用いることができる。
【0026】
好ましくは、第1および第2のカーカス層のそれぞれの補強体は、カーカス層の補強体の構成材料を標準化し、したがって製造費を最小限に抑えるために同種の繊維材料で作られる。
【0027】
繊維材料の好ましい変形形態によれば、第1および第2のカーカス層のそれぞれの補強体は、ポリエステルで作られ、それにより良好な性能/費用上の妥協点が得られる。
【0028】
有利には、クラウン補強材は、単一のクラウン層で構成される。その結果、この単一クラウン層は、相互に平行でありかつタイヤの円周方向と多くとも5°に等しい角度をなす補強体を有する。円周方向補強体を備えたクラウン層がモーターバイクのリヤに取り付けられるようになったタイヤに一般的に用いられ、その目的は、このタイヤの円周方向剛性を高め、かくしてこのタイヤが過度の変形を受けることなく高速走行を達成することができるようにすることにある。
【0029】
好ましくは、少なくとも1つのクラウン層の補強体は、繊維材料、好ましくは芳香族ポリアミドで作られる。具体的に説明すると、芳香族ポリアミド、例えばアラミドで作られた補強体の高い弾性モジュラスは、タイヤの円周方向剛性を高めることに寄与し、この剛性は、クラウン層の補強体が実質的に円周方向に差し向けられているとすれば、すでに高い。
【0030】
最後に、少なくとも2つのカーカス層の各々がトレッドの中央を通りかつタイヤの回転軸線に垂直な赤道面の各側で対称に延びるクラウン部分を有する場合、一方において2つの連続して位置するカーカス層のクラウン部分のそれぞれの補強体相互間および他方において半径方向最も外側のカーカス層のクラウン部分の補強体と半径方向最も内側のクラウン層の補強体との間のそれぞれの平均半径方向距離は、多くとも0.3mmに等しく、好ましくは多くとも0.1mmに等しいことが有利である。2つの連続して位置する層のそれぞれの補強体相互間のそれぞれの平均半径方向距離という表現は、半径方向で見て互いに接触状態にある2つの層のクラウン部分のそれぞれ一部をなす2つの補強体相互間で測定された距離である。これら層相互間の機械的結合を特徴づけるこの最大距離は、タイヤの剛性を決める。
【0031】
本発明のそれ以上の細部およびそれ以上の有利な特徴は、
図1および
図2を参照して与えられる本発明の説明から以下において明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】先行技術の基準タイヤの子午面断面半分の図である。
【
図2】本発明の好ましい実施形態としてのタイヤのクラウンの上から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1および
図2を理解しやすくするため、
図1および
図2は、縮尺通りには描かれていない。
【0034】
図1は、軸方向YY′および半径方向ZZ′によって定められた子午面YZで見たモーターバイク形の自動二輪車用のタイヤ1の子午面断面の半分を示しており、タイヤ1は、2つのサイドウォール3によって2つのビード4に連結されたトレッド2を有し、各ビード4は、円周方向金属補強要素またはビードワイヤ7を有する。タイヤ1は、トレッド2の半径方向内側に位置した状態で延びるとともに単一のクラウン層51を含むクラウン補強材5を有し、クラウン層51は、タイヤの円周方向XX′と多くとも5°に等しい角度Bをなす相互に平行な補強体を有する。さらに、タイヤ1は、クラウン補強材5の半径方向内側に位置した状態でビード4中まで延びていて2つのカーカス層(61,62)で構成されたカーカス補強材6を有し、2つのカーカス層(61,62)の各々は、タイヤの円周方向XX′と少なくとも65°に等しい角度(A1,A2)をなす相互に平行な補強体を有する。半径方向内側層61は、ビードワイヤ7の周りに巻き上げられたカーカス層であり、これに対し、符号62の半径方向外側層は、折り返されておらずまたは巻き上げられていないカーカス層である。巻き上げられていないカーカス62の自由端部分は、巻き上げカーカス層61の巻き上げ部の軸方向内側に位置しまたはこれと接触状態にある。
【0035】
図2は、本発明のタイヤのクラウン部分の上から見た図である。具体的に説明すると、これは、内側から外側に半径方向に重ね合わされた層、すなわち半径方向内側の第1のカーカス層61、半径方向外側の第2のカーカス層62およびクラウン層51のそれぞれの角度を示す断面で見た図である。本発明によれば、第1のカーカス層61の補強体は、円周方向XX′と多くとも75°に等しい角度A1をなす。第2のカーカス層62の補強体は、円周方向XX′と少なくとも80°に等しくかつ多くとも90°に等しい角度A2をなす。第1および第2のカーカス層(61,62)のそれぞれの補強体の角度(A1,A2)相互の差は、少なくとも10°に等しくかつ多くとも20°に等しい。第1および第2のカーカス層(61,62)のそれぞれの補強体の角度(A1,A2)は、同一方向に差し向けられている。クラウン層51は、円周方向XX′と多くとも5°に等しい角度Bをなす相互に平行な補強体を有する。
【0036】
本発明を特に200/55ZR17サイズについて研究した。この特定の場合、半径方向内側の巻き上げ状態の第1のカーカス層の補強体の角度A1は、75°に等しく、巻き上げ部のない半径方向外側の第2のカーカス層の補強体の角度A2は、90°に等しく、単一のクラウン層の補強体の角度Bは、0°に等しい。このアーキテクチャを、補強体が−80°に等しい角度A1をなす半径方向内側の巻き上げ状態の第1のカーカス層と、補強体が+80°に等しい角度A2をなし、第1のカーカス層の補強体とX字形のクロス掛け関係をなす巻き上げ部のない半径方向外側の第2のカーカス層と補強体が円周方向に向けられているクラウン層とを有する技術の現状のタイヤのアーキテクチャと比較した。
【0037】
この研究にあたり、2つのカーカス層の補強体は、ポリエステルで作られ、クラウン層の補強体は、アラミドで作られている。加うるに、一方において2つの連続して位置するカーカス層のクラウン部分のそれぞれの補強体相互間および他方において半径方向最も外側のカーカス層のクラウン部分の補強体とクラウン層の補強体との間のそれぞれの平均半径方向距離は、本発明のタイヤについては0.1mmに等しく、先行技術の基準タイヤについては0.3mmに等しい。
【0038】
直線および曲線における安定性の主観的な試験において2本のタイヤをモーターバイクに取り付けた状態で試験した。得られた結果は、以下の表1に記載されている。
【0039】
本発明は、上述の実施例の説明に限定されるものと解釈されてはならず、特に、3つ以上のカーカス層を含むカーカス補強材および2つ以上のクラウン層を含むクラウン補強材を有する場合のあるタイヤに及ぶ。さらに、巻き上げ部がありしかも/あるいは巻き上げ部のないカーカス層の組み合わせの全てが想定できる。最後に、クラウン層の補強体は、繊維材料には限定されず、金属で作られてもよい。
【国際調査報告】