(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
本発明は、以下のような療法もしくは処置を必要とするヒト対象における肺動脈性肺高血圧症(PAH)の治療および予防のための方法および組成物に関するものであり、その方法はラパマイシンまたはそのプロドラッグもしくは誘導体を含む組成物を、好ましくは吸入により対象に肺投与することを含む。
以下のような療法もしくは処置を必要とするヒト対象における肺動脈性肺高血圧症(PAH)の治療および予防のための方法に使用するための、ある量のラパマイシン組成物のマイクロ粒子、キャリヤーの粒子、および1種類以上の任意選択的な賦形剤を含む、肺送達のための乾燥粉末の形態の医薬エアゾール組成物であって、その配合物が療法量のラパマイシン組成物を肺へ送達するのに有効である前記組成物。
配合物中のラパマイシン組成物の量が、5から500マイクログラムまで、10から250マイクログラムまで、15から150マイクログラムまで、または20から100マイクログラムまでである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
エアゾール配合物中のラパマイシン組成物の量が、組成物の総重量を基準として約0.1%から20%(w/w)まで、または約0.25%から2%(w/w)までである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
肺におけるラパマイシン組成物の療法量が、投与後12または24時間目に約1ng/gから約1マイクログラム(ug)/gまでである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
エアゾール配合物中のラパマイシン組成物の療法量が、対象において5ng/ml未満、2ng/ml未満、1ng/ml未満、0.5ng/ml未満、または0.25ng/ml未満の血中トラフレベルを生じる量である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
キャリヤーが、アラビノース、グルコース、フルクトース、リボース、マンノース、スクロース、トレハロース、ラクトース、マルトース、デンプン、デキストラン、マンニトール、リジン、ロイシン、イソロイシン、ジパルミチルホスファチジルコリン、レシチン、ポリ乳酸、ポリ(乳酸−co−グルタミン酸)、およびキシリトール、または以上のいずれかの混合物からなる群から選択される、請求項1〜10のいずれか1項に記載の組成物。
キャリヤーの粒子が、1から200ミクロンまで、30から100ミクロンまでの範囲、または10ミクロン未満の直径を有する、請求項1〜11のいずれか1項に記載の組成物。
キャリヤーが、2種類の異なるキャリヤーである第1キャリヤーおよび第2キャリヤーのブレンドを含むかまたはそれからなる、請求項1〜12のいずれか1項に記載の組成物。
第1キャリヤーが約30〜100ミクロンの範囲の直径を有する粒子からなり、第2キャリヤーが10ミクロン未満の直径を有する粒子からなる、請求項13または14に記載の組成物。
任意選択的な賦形剤または賦形剤類が、大型キャリヤー粒子に対する賦形剤の重量割合0.01から0.5%までの範囲でキャリヤー粒子上にコートされている、請求項19〜21のいずれか1項に記載の組成物。
ラパマイシン組成物の療法量が、対象、好ましくはヒト対象において肺動脈性肺高血圧症(PAH)を処置するのに有効な量である、請求項1〜22のいずれか1項に記載の組成物。
ラパマイシン組成物の療法量が、肺に送達される呼吸可能量5から500マイクログラムまでを達成するのに有効な量である、請求項1〜25のいずれか1項に記載の組成物。
組成物が、1〜12か月間または1〜36か月間の貯蔵後に、20%を超える細粒分(FPF)を有し、対応する細粒量(FPD)は5マイクログラムから2ミリグラムまでの範囲、好ましくは0.5ミリグラム未満である、請求項1〜27のいずれか1項に記載の組成物。
組成物が、努力肺活量(FVC)および1秒量(FEV1)により測定した対象の肺機能を改善するのに有効な量の薬物を送達する、請求項1〜32のいずれか1項に記載の組成物。
ラパマイシン組成物の水性懸濁液を調製し、そのラパマイシン組成物懸濁液にマイクロフルイダイゼーションを施し、得られた粒子を噴霧乾燥して乾燥粉末を形成する工程を含む湿式磨砕法により医薬エアゾール配合物が製造された、請求項1〜35のいずれか1項に記載の組成物。
請求項1〜36のいずれか1項に記載の組成物を含み、ラパマイシン組成物の量が約5〜2500マイクログラム、20〜500マイクログラム、または50〜150マイクログラムである、単位剤形。
カプセルが、ゼラチン、プラスチック、ポリマーまたはセルロース系のカプセルであり、あるいはホイル/ホイルまたはホイル/プラスチック ブリスターの形態である、請求項38〜42のいずれか1項に記載の単位剤形。
請求項1〜36のいずれか1項に記載の組成物、または請求項38〜43のいずれか1項に記載の単位剤形、および使用のための指示を含む、医薬パッケージまたはキット。
デバイスが、Plastiape(登録商標) RS01 Model 7、Plastiape(登録商標) RS00 Model 8、XCaps(登録商標)、Handihaler(登録商標)、Flowcaps(登録商標)、TwinCaps(登録商標)、およびAerolizer(登録商標)から選択される、請求項45または46に記載の乾燥粉末送達デバイス。
以下のような処置を必要とするヒト対象におけるPAHの治療および予防のための方法であって、請求項1〜36のいずれか1項に記載の組成物を対象に投与することを含み、その組成物が療法量のラパマイシン組成物を肺へ送達するのに有効である、前記方法。
請求項1〜36のいずれか1項に記載の組成物を用いる療法計画または併用療法において、さらに少なくとも1種類の追加薬剤を投与することを含む、請求項48〜50のいずれか1項に記載の方法。
【背景技術】
【0003】
[03] 肺高血圧症(pulmonary hypertension)(PH)は、肺動脈、肺静脈または肺毛細血管(合わせて肺血管系として知られる)における血圧上昇であり、胸痛、めまい、失神、疲労、足のむくみ、運動中のふらつき(light-headedness)、活動中の息切れ、および/または脱力感をもたらす。PHの症状は他のより一般的な心臓および肺の問題の症状と類似する。それらの障害には、喘息、肺炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、左心不全および/または冠動脈疾患が含まれ、それらはしばしばPHの診断を困難にする。PHの初因は分かっていない。肺に連結している血管および肺内の血管の血管収縮または絞窄(tightening)がPHにおいてみられる。最小血管の壁が肥厚し、もはや血液と肺の間で酸素および二酸化炭素を正常に伝達できない。これは心臓が肺を通して血液をポンプ輸送するのを困難にする。経時的に、線維化として知られるプロセスで罹患血管はより硬くかつ厚くなる。これは肺内の血圧をさらに上昇させ、血行に障害を及ぼし、心臓の作業負荷を増大させ、右心室を肥厚させる。心臓が肺を通して血液をポンプ輸送する能力は低下し、結果的に患者に心不全および死亡が生じる。海面レベルに住む者の正常な肺動脈圧は、安静時に8〜20mmHgの平均値をもつ。安静時に平均肺動脈圧が25mmHgを超える場合、PHが存在する。
【0004】
[04] 世界保健機構(WHO)はPHを種々のグループに分類した:たとえば、WHOグループ1−肺動脈性肺高血圧症(pulmonary arterial hypertension)(PAH)(たとえば、特発性、遺伝性(BMPR2、ALK1、エンドグリン、不明)、薬物−および毒物誘発性のもの;結合組織病、HIV感染症、門脈肺高血圧、先天性心疾患、住血吸虫症または慢性溶血性貧血(鎌状赤血球性貧血を含む)と関連するPH;新生児遷延性肺高血圧症(persistent pulmonary hypertension of the new born))、WHOグループI’−肺静脈閉塞性疾患(Pulmonary veno-occlusive disease)(PVOD)および/または肺毛細血管腫症(pulmonary capillary hemangiomatosis)(PCH)、WHOグループII−左心性心疾患に伴う肺高血圧症(たとえば、収縮不全または拡張不全、弁膜疾患)、WHOグループIII−肺疾患および/または低酸素血症に伴うPH(たとえば、慢性閉塞性肺疾患、間質性肺疾患、拘束性と閉塞性の混合型を伴う他の肺疾患、睡眠呼吸障害(sleep-disordered breathing)、肺胞低換気障害(alveolar hypoventilation disorder)、高所における慢性曝露、発育障害)、WHOグループIV−慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromboembolic pulmonary hypertension)(CTEPH)、ならびに/あるいはWHOグループV−不明な多因子メカニズムに伴うPH(たとえば、血液疾患:骨髄増殖性疾患、脾摘出;全身性疾患:サルコイドーシス、肺ランゲルハンス細胞組織球症(pulmonary Langerhans cell histiocytosis)、リンパ脈管筋腫症(lymphangioleiomyomatosis)、神経線維腫症、血管炎;代謝障害:糖原病、ゴーシェ病(Gaucher disease)、甲状腺疾患;その他:腫瘍塞栓、線維性縦隔炎、透析に際しての慢性腎不全)。
【0005】
[05] 肺高血圧症(PH)は治癒しない。治療は、症状を軽減し、疾患の進行速度を低下させるにすぎない。PHに対する医療がかなり進歩したにもかかわらず、長期死亡率は依然として高く、それはほとんどが心不全その他の心血管疾患の結果である。
【0006】
[06] あるタイプのPHは、その基礎にある肺疾患が分かっていれば治療できる。原因不明のPHに罹患している者に使用できる現在の治療選択肢は、血管系の狭窄をもたらす細胞機能異常をターゲットとする。プロスタサイクリン(prostacyclin)、プロスタノイド(prostanoid)類、ホスホジエステラーゼ−5阻害薬、エンドセリン受容体アンタゴニスト、および他の血管拡張薬などの療法薬は、主に肺血管を拡張させることにより作動する。たとえば、皮膚に外科的に埋め込まれたカテーテルにより静脈内投与されるプロスタサイクリンは、クオリティ・オブ・ライフを改善し、生存率を高め、肺移植の緊急度を低減する。血管拡張薬、たとえばカルシウムチャネル遮断薬、酸化窒素、およびプロスタサイクリンは、強皮症、慢性肝疾患、およびHIV感染症に関連するPHに対してしばしば有用である。それに対し、これらの薬物は基礎にある肺疾患が原因であるPHを伴う者に有効であることは証明されていない。PAH利尿薬として、ジゴキシン(dixogin)および酸素療法がしばしば処方される。残念ながら、多くの患者がこれらの療法に対して応答性に乏しく、あるいは経時的にそれらに対して応答しなくなる。よって、残る唯一の選択肢は、PHを治療するための単肺および/または両肺の移植、あるいは心−肺移植である。使用できる療法は血管リモデリングに対する二次的効果をもつという若干の証拠があるが、現在、PHにおける異常な細胞増殖をターゲットとする療法はない。
【0007】
[07] PHの分子メカニズムは分かっていないが、内皮機能不全の結果として内皮由来の血管拡張物質、たとえば酸化窒素およびプロスタサイクリンの合成が低減すると考えられている。肺動脈平滑筋細胞(pulmonary artery smooth muscle cell)(PA−SMC)の過形成は、肺血管の構造リモデリングおよび閉塞をもたらすすべての形態のPHの病理学的特徴である。肺血管リモデリングは、PA−SMC、内皮細胞および肺外膜線維芽細胞を含めた、血管壁を形成している細胞の異常増殖およびアポトーシス抵抗性によるものである。セリン/トレオニンキナーゼAktおよび哺乳類ラパマイシンターゲット(mammalian target of rapamycin)(mTOR)を伴う細胞内シグナル伝達経路は細胞増殖および癌において重要であることが知られており、PHにおける血管平滑筋細胞の増殖にも関与している可能性がある。PA−SMCにおいて、AktおよびmTORシグナル伝達は多数の増殖因子、ならびに物理的刺激、たとえば剪断応力および低酸素によって活性化される可能性がある。よって、Akt−mTORシグナル伝達経路はPA−SMCに対して作用する種々の物理的および生物学的刺激によって共有されており、PHを誘導する可能性がある。
【0008】
[08] ラパマイシンはストレプトマイセス・ハイグロスコピクス(Streptomyces hygroscopicus)により産生される大環状トリエン系抗生物質である(たとえば、U.S. Pat. No. 3,929,992を参照)。ラパマイシンはmTORの阻害薬である。ラパマイシンの免疫抑制および抗炎症特性は、最初は移植分野および自己免疫疾患の処置におけるそれの使用を指示した。たとえば、それはアルブミンのアレルギー性攻撃に応答した体液性(IgE様)抗体の形成を阻止し、ネズミT細胞活性化を阻害し、組織不適合げっ歯類において移植臓器の生存時間を延長することが示された。自己免疫疾患のげっ歯類モデルにおいて、それは全身性エリテマトーデス、コラーゲン誘導型関節炎、自己免疫性I型糖尿病、自己免疫性心筋炎、実験的アレルギー性脳脊髄炎、移植片対宿主疾患、および自己免疫性網膜ぶどう膜炎に関連する免疫仲介事象を抑制する。
【0009】
[09] ラパマイシンはそれの一般薬物名によりシロリムスとも呼ばれる(たとえば、ANDA #201578参照,Dr.Reddys Labs Ltd.による,2013年5月28日承認)。シロリムスはFDAにより承認され、米国で臓器拒絶の予防および腎移植用として商品名RAPAMUNEでWyeth(Pfizer)により市販されている。それは経口液剤(1mg/ml)または錠剤(多数の濃度)の形態である。Wyeth(Pfizer)はまた、誘導体を商品名TORISEL(テムシロリムス(temsirolimus))で進行性腎細胞癌の処置用として市販しており、それは静脈内投与される。テムシロリムスはシロリムスの水溶性プロドラッグである。Johnson & Johnsonの1部門であるCordisは、シロリムス溶出型冠動脈ステントを商品名CYPHERで市販している。これに関して、シロリムスの抗増殖効果はバルーン血管形成術後の冠動脈における再狭窄を阻止する。US 2010/0305150, Berg et al. (Novartis)には、神経皮膚障害、たとえば結節性硬化症(tuberous sclerosis)を含めたTSCにより仲介されるものおよび神経線維腫症1型(neurofibromatosis type-1)(NF−1)により仲介されるものを治療および予防するためのラパマイシン誘導体が記載されている。ラパマイシンおよびそれの誘導体は、さらにNishimura, T. et al. (2001) Am. J. Respir. Crit. Care Med. 163:498-502、ならびにU.S. Pat. No. 6,384,046およびUS 6,258,823に記載されている。
【0010】
[10] ラパマイシンの臨床用に承認された概念での使用には幾つか有害作用が知られており、それには肺毒性(RAPAMUNEのラベルには、それが肺移植患者には適用されないと警告してある)、癌リスク増大、および糖尿病様症状が含まれる。ラパマイシンは肺毒性の発生と関連し、それは通常は間質性肺炎の形態であるが、肺胞蛋白症も記載がある。たとえば、Nocera et al., Sirolimus Therapy in Liver Transplant Patients: An Initial Experience at a Single Center, Transplantation Proceedings (2008), 40(6), 1950-1952; Perez et al., Interstitial Pneumonitis Associated With Sirolimus in Liver Transplantation: A Case Report, Transplantation Proceedings (2007), 39(10), 3498-3499; Hashemi-Sadraei et al., Sirolimus-associated diffuse alveolar hemorrhage in a renal transplant recipient on long-term anticoagulation, Clinical Nephrology (2007), 68(4), 238-244; Pedroso et al., Pulmonary alveolar proteinosis - a rare pulmonary toxicity of sirolimus, Transplant International (2007), 20(3), 291-296を参照。ラパマイシン誘発による肺毒性の原因は分かっていない。PHの処置におけるラパマイシン使用についての主な関心事はそれの肺毒性である。
【0011】
[11] 重篤な呼吸器有害事象も、抗癌療法として長期投与下で1ナノグラム/mLを超える範囲の循環血中濃度を生じるシロリムス使用と関連づけられている。たとえば、シロリムスのプロドラッグであるテムシロリムスの肺毒性は、“間質性肺疾患は腎癌患者におけるテムシロリムス処置の稀な副作用である”と明記した2009年のレポートに記載された。Aparicio et al., Clinical & Translational Oncology (2009), 11(8), 499-510; Vahid et al., Pulmonary complications of novel antineoplastic agents for solid tumors, Chest (2008) 133:528-538。さらに、2012年のメタ解析は、テムシロリムスまたはエベロリムス(everolimus)を投与された癌患者の10%がクオリティ・オブ・ライフの悪化を伴なう軽度の毒性、およびある症例では療法の中断を経験する可能性があると結論した。参照:Iacovelli et al., Incidence and risk of pulmonary toxicity in patients treated with mTOR inhibitors for malignancy. A meta-analysis of published trials, Acta oncologica (2012), 51(7), 873-879。さらに、ラットにおいてテムシロリムスについて実施された安全性薬理試験(参照:Pharm/Tox section of temsirolimus NDA)は、呼吸数減少ならびに肺胞マクロファージ浸潤および肺の炎症を示した(参照:Pharmacology Review for temsirolimus NDA 22088,US FDAウェブサイトから入手できる)。これらの有害作用は、全身投与の結果として循環血体積中の薬物濃度が比較的高い条件下でみられた。
【0012】
[12] ラパマイシンは、肺に対する毒性の可能性にもかかわらずPHのための有望な処置として種々の動物モデルにおいて試験された(Ghofrani et al J. Am. Coll. Cardiol. 54(1):S108-S118 (2009); Paddenberg et al BioMed Central 8 (15): 1-12 (2007))。US Patent Application 2014/0271871およびWO2008/137148 (まとめて“Abraxis出願”)には、ラパマイシンのナノ粒子、およびキャリヤータンパク質、たとえばアルブミンを投与することによりPHを治療、安定化、阻止および/または遅延するための方法が記載されている。これらのラパマイシンナノ粒子の種々の投与様式が、吸入を含めて全般的に記載されている。しかし、肺へ直接送達するためのラパマイシンのエアゾール配合物は、前記に引用した報文により例示されるようにラパマイシンの周知の肺毒性からみて成功の可能性がきわめて少ないとみなされたであろう。実際に、Abraxis出願に記載された予想臨床試験計画には静脈内投与が含まれるにすぎない。Abraxis出願には、ラパマイシンの肺毒性と関連する問題が克服されたことを当業者に示すデータがない。2013年に公開されたLehrerによる米国特許出願は、“[ラ]パマイシン(シロリムス)は、十分な記載のあるそれの肺毒性である間質性肺炎のため、安全に吸入することができない”という見解を反映している。参照:US 20130004436, Chhajed et al. (2006) 73:367-374を引用。Lehrer特許出願は、肺癌およびリンパ脈管筋腫症を治療および阻止するための組成物および方法に関する。それ以前の幾つかの刊行物、たとえばU.S. Patent No. 5,080,899,Sturm et al. (1991年2月出願)およびUS Patent No. 5,635,161 (1995年6月出願)は、吸入による送達のためのラパマイシンの一般的記載を若干含むが、そのような一般的記載はいかなる証拠によっても支持されておらず、またラパマイシン誘発による肺毒性の発生が多数報告される前になされたものである;肺毒性は、前記で考察したレポートによって証明されるように、ラパマイシンが移植状況における免疫抑制薬として、また抗癌状況における細胞増殖阻害薬として、より広範に適用された後に現われた。
【0013】
[13] WO 2011/163600には、ラパマイシンと同様にマクロライド系ラクトンであるタクロリムス(tacrolimus)のエアゾール配合物が記載されている。しかし、タクロリムスはシロリムスとは別の化学物質であり、タクロリムスの分子ターゲットはカルシニューリン(calcineurin)であってmTORではなく、ラパマイシンと異なりタクロリムスは肺毒性を示さず、実際に肺移植後の拒絶を阻止するために適用されている。
【0014】
[14] ラパマイシン誘発による肺毒性の可能性が広範に認識されていたことからみて、ラパマイシンを含む肺送達用の医薬組成物はヒトにおいて実行可能な療法選択肢であるとはみなされていなかった。
【0015】
[15] 薬物を吸入により肺へ送達するのは、下記を含めた多様な状態を処置するための重要な手段である:一般的局所状態、たとえば嚢胞性線維症、肺炎、気管支喘息および慢性閉塞性肺疾患;ある種の全身性状態:ホルモン置換、疼痛管理、免疫不全、赤血球増生、糖尿病、肺癌などを含む。Yi et al. J. Aerosol Med. Pulm. Drug Deliv. 23:181-7 (2010)による総説を参照。吸入により肺癌を処置するために適用される薬剤には、シスプラチン(cisplatin)、カルボプラチン(carboplatin)、タキサン(taxane)類およびアントラサイクリン(anthracycline)類が含まれる。たとえば、U.S. Pat. No. 6,419,900; 6,419,901; 6,451,784; 6,793,912; ならびにU.S. Patent Application Publication No. US 2003/0059375 および US 2004/0039047を参照。さらに、吸入により投与されるドキソルビシン(doxorubicin)およびテモゾロミド(temozolomide)が肺転移の処置に示唆されている。たとえば、U.S. Pat. No. 7,288,243およびU.S. Patent Application Publication No. 2008/0008662を参照。
【発明を実施するための形態】
【0049】
[58] 本発明は、以下のような処置を必要とするヒト対象におけるPAHの治療および予防のための方法および組成物を提供する。1態様において、以下のような処置を必要とするヒト対象はPAHを伴うと診断されたヒトである。1態様において、本方法は、適切なキャリヤー中のラパマイシン、および所望により1種類以上の添加剤を含む組成物を、対象に吸入により投与することを含む。用語“ラパマイシン”は、本発明の開示内容全体を通して、ラパマイシン自体(シロリムスとも呼ばれる)ならびにそのプロドラッグ(たとえば、テムシロリムス)および誘導体を表わすために総称として用いられる。ラパマイシンの誘導体には、構造的にラパマイシンに類似する化合物、同じ化合物クラスの化合物、ラパマイシンアナログである化合物、またはラパマイシンもしくはその誘導体の医薬的に許容できる塩類である化合物が含まれる。ラパマイシン、それのプロドラッグ、および誘導体のさらなる記載および例を後記セクションに提示する。
【0050】
[59] 本明細書に記載する組成物は“エアゾール配合物”と呼ばれ、ラパマイシン組成物(それは前記のようにラパマイシン自体、好ましくはシロリムスとして記載する非晶質形態のもの、またはそのプロドラッグもしくは誘導体を表わす)を含有する呼吸可能な粒子または液滴を発生するのに適したエアゾール化可能な組成物を記述するものとする。1態様において、ラパマイシン組成物はシロリムス、エベロリムスおよびテムシロリムスから選択される。1態様において、ラパマイシン組成物はシロリムスである。本明細書に記載するエアゾール配合物は、ラパマイシン組成物、キャリヤー、および所望により1種類以上の添加剤を含むことができる。エアゾール配合物は、後記の“吸入用組成物”と題するセクションに詳細に記載するように、1種類以上の医薬的に許容できる噴射剤およびキャリヤーの水溶液、乾燥粉末、または混合物の形態であってもよい。
【0051】
[60] 本発明はまた、以下のような処置を必要とするヒト対象におけるPAHの治療および予防のための方法であって、本発明のエアゾール配合物を対象に肺投与する工程を含む方法を提供する。1態様において、組成物の投与量は、対象において低い血中レベルまたは血中トラフレベルを維持しながら、肺組織ではラパマイシン組成物の療法レベルを達成するのに十分なものである。たとえば、ラパマイシン組成物の療法レベルは約1ng/g、約5ng/g、約10ng/g、約15ng/g、約20ng/g、約25ng/g、約50ng/gであってもよく、血中トラフレベルは0.01から0.15ng/mlまで、0.075から0.350ng/mlまで、0.150から0.750ng/mlまで、0.750から1.5ng/mlまで、または1.5から5ng/mlまでである。1態様において、投与量は、肺において約5ng/gから50ng/gまで、または約5ng/gから20ng/gまでのラパマイシン組成物の療法レベルを達成するのに十分であり、ラパマイシン組成物の血中トラフレベルが5ng/ml未満、2ng/ml未満、1ng/ml未満、または0.5ng/ml未満である量である。
【0052】
[61] 好ましくは、前記の療法レベルは本明細書に記載するエアゾール配合物を1日1回投与することにより達成される。1態様において、ラパマイシン組成物の総日用量は、5から100マイクログラムまで、20から250マイクログラムまで、50から500マイクログラムまで(0.05から0.5ミリグラムまで)、250から1000マイクログラムまで(0.25から1ミリグラムまで)、または500から2000マイクログラムまで(0.5から2ミリグラムまで)の範囲である。1態様において、総日用量は500マイクログラム未満、100マイクログラム未満、50マイクログラム未満、20マイクログラム未満、または10マイクログラム未満である。1態様において、総日用量は500マイクログラム未満、250マイクログラム未満、100マイクログラム未満、50マイクログラム未満、または10マイクログラム未満である。1態様において、対象に投与する総日用量は、1日当たり0.5mg未満または0.25mg未満である。肺への送達および投薬のさらなる観点を、併用療法を含めて、後記の“肺への投与および投薬”と題するセクションに記載する。
【0053】
[62] 1態様において、本発明の方法は、ラパマイシンを肺経路により1種類以上の追加薬剤と組み合わせて投与することを含む。1態様において、1種類以上の追加薬剤は、プロスタノイド、ホスホジエステラーゼ阻害薬、またはエンドセリンアンタゴニストから選択される。1態様において、プロスタノイドはプロスタグランジン、トロンボキサン、およびプロスタサイクリンからなる群から選択される。1種類以上の追加薬剤はラパマイシンと同一または異なる投与経路により投与することができる。たとえば、その薬剤を吸入、鼻内、経口または静脈内により投与することができる。
【0054】
[63] 本発明の方法および組成物は、以下のような処置を必要とする対象、好ましくはヒト対象において、PAHを処置するために有効である。本明細書中で用いる本発明組成物の有効量は、下記のために十分な量を表わす:PAHの1以上の症状の重症度または発症に関して、あるいはPAHの発現または進行に関して、PAHまたはPAHの1以上の症状の進行、重症度および/または持続時間を低減または改善する、PAHの進展を阻止する、PAHを退縮させる、PAHに関連する1以上の症状の発現または発症を阻止する、あるいは他の療法(たとえば、予防薬または治療薬)の予防効果または治療効果(単数または複数)を増強または改善する。特定の態様において、PHの処置に関して、療法有効量は、下記の療法(たとえば療法薬)量を表わす:血管細胞の増殖を阻害または低減する、平滑筋細胞増殖を阻害または低減する、あるいは肺内血管の肥厚を低減する、あるいはFVCまたはFEV1を改善する、あるいは放射線検査により検出できる胸水の量を低減する。好ましい態様において、療法(たとえば療法薬)の療法有効量は、血管細胞の増殖または肺内血管の肥厚を、対照(たとえば、リン酸緩衝化生理食塩水(“PBS”))と対比して少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%低減する。よって、本発明の方法に関して、用語“治療する(treat)”、“治療(treatment)”、および“治療すること(treating)”は、PAHまたはPAH関連の1以上の症状の重症度、持続時間または進行を低減することを表わす。特定の態様において、これらの用語は、平滑筋細胞の増殖阻害もしくは増殖低減、肺内血管の肥厚、肺血管リモデリングの発現もしくは進行、または心血管疾患、たとえば心不全もしくは右室壁肥厚の発現もしくは進行(心エコー図または心電図により検出できる)の阻害もしくは低減を表わすことができる。
【0055】
[64] 本発明方法の1態様において、組成物は努力肺活量(FVC)および1秒量(FEV1)により測定した対象の肺機能を改善するのに有効な量で投与される。他の態様において、組成物は、心エコー検査を用いて右室−右房内圧勾配および/または右室および左室のサイズの改善をモニターするのに有効な量で投与される。
【0056】
[65] ある態様において、本方法は本発明の組成物を主療法として肺投与することを含む。他の態様において、本発明の組成物の投与は補助療法である。いずれの場合も、本発明の方法は、疾患または障害の処置のために本発明の組成物を1以上の追加療法と組み合わせて投与することを考慮する。用語“療法(単数または複数)”は、疾患もしくは障害またはその1以上の症状を阻止、治療、管理または改善するのに使用できるいずれかの方法、プロトコルおよび/または薬剤を表わす。
【0057】
[66] 1以上の追加療法は、本発明の組成物を投与する前(たとえば、5分前、15分前、30分前、45分前、1時間前、2時間前、4時間前、6時間前、12時間前、24時間前、48時間前、72時間前、96時間前、1週間前、2週間前、3週間前、4週間前、5週間前、6週間前、8週間前、または12週間前)、それと同時、またはその後(たとえば、5分後、15分後、30分後、45分後、1時間後、2時間後、4時間後、6時間後、12時間後、24時間後、48時間後、72時間後、96時間後、1週間後、2週間後、3週間後、4週間後、5週間後、6週間後、8週間後、または12週間後)に投与することができる。
【0058】
[67] ある態様において、追加療法薬は本発明の組成物と共投与するために肺投与用剤形中に配合される。他の態様において、追加療法薬はラパマイシンを含有する剤形とは別に、ラパマイシンと同一または異なる投与経路により投与される。本発明の方法は、ラパマイシンを含む剤形の投与と同時、投与前、または投与後に投与するための1種類以上の追加療法薬の組合わせをも考慮する。
【0059】
[68] ある態様において、本発明方法は、PAHを伴なう対象においてPAHを管理するのに有効である。これに関して、用語“管理する(manage)”、“管理すること(managing)”、および“管理(management)”は、治癒をもたらさない療法から対象が得る有益な効果を表わす。1態様において、PAHは、本発明方法に従ったラパマイシンによる処置中にそれの進行が遅延または停止すれば、対象において管理されている。他の態様において、PAHは、PAHに関連する1以上の症状が改善または安定化すれば(すなわち、その症状が処置コース中に悪化しなければ)、対象において管理されている。
【0060】
[69] ある態様において、本発明において提供される組成物は肺動脈における異常な細胞増殖を阻害および/または低減する。ある態様において、異常な細胞増殖は平滑筋細胞および内皮細胞の異常な細胞増殖である。ある態様において、本発明において提供される組成物は肺動脈における血管新生を阻害および/または低減する。ある態様において、肺動脈における血管新生はマトリックスメタロプロテイナーゼ産生の抑制により阻害および/または低減される。ある態様において、本発明において提供される組成物は肺動脈における炎症を阻害および/または低減する。ある態様において、炎症は好中球およびT細胞の機能に作用することにより阻害および/または低減される。
【0061】
[70] ある態様において、組成物は下記のために十分な量である:基礎AKT活性を増大させる、AKTリン酸化を増大させる、PI3キナーゼ活性を増大させる、AKT活性化(たとえば、外因性IGF−1により誘導される活性化)の長さを増大させる、IRS−1のセリンリン酸化を阻害する、IRS−1分解を阻害する、CXCR4の細胞内局在化を阻害するかまたは変化させる、VEGF分泌を阻害する、サイクリンD2の発現を低減する、サバイビン(survivin)の発現を低減する、IL−6誘導による多発性骨髄腫細胞成長を阻害する、細胞増殖を阻害する、アポトーシスを増大させる、細胞周期停止を増大させる、ポリ(ADPリボース)ポリメラーゼの開裂を増大させる、カスパーゼ−8/カスパーゼ−9の開裂を増大させる、ホスファチジルイノシトール 3キナーゼ/AKT/mTORおよび/またはサイクリンD1/網膜芽細胞腫経路におけるシグナル伝達を変化させるかまたは阻害する、血管新生を阻害する、ならびに/あるいは破骨細胞形成を阻害する。
【0062】
[71] 1態様において、下記のうち1以上を改善するために有効な量でラパマイシンを投与する:心肺運動負荷試験(cardiopulmonary excercise testing)、連続侵襲型血行動態試験(serial invasive hemodynamic testing)、機能的残気量(functional residual capacity)、血清VEGF−D、クオリティ・オブ・ライフおよび機能の実施度(functional performance)、6分間歩行距離、ならびに一酸化炭素肺拡散能力。1態様において、肺経路で送達されたラパマイシンは肺において肺血管の肥厚を制限するのに有効な血中ラパマイシンレベルに達する。1態様において、投与された量のラパマイシンの効力は上記のいずれか1以上により測定される。
【0063】
[72] 1態様において、本発明の方法は、PAHについて現在使用できる療法に対して“不応答性(non-responsive)”または“治療抵抗性(refractory)”である対象に向けられる。これに関して、用語“不応答性”または“治療抵抗性”は、療法に対する対象の応答がPAHに関連する1以上の症状を軽減するのに臨床的に適切ではないものを表わす。用語“対象(subject)”と“患者(patient)”は、本発明の開示において互換性をもって用いられる。これらの用語は、動物、好ましくは哺乳動物を表わし、これには非霊長類(たとえば、ウシ、ブタ、ウマ、ネコ、イヌ、ラット、およびマウス)および霊長類(たとえば、チンパンジー、サル、たとえばカニクイザル(cynomolgous monkey)、およびヒト)、より好ましくはヒトが含まれる。好ましい態様において、対象はヒトである。
【0064】
[73] 用語“阻止する(prevent)”、“阻止すること(preventing)”および“阻止(prevention)”は、本発明方法に従って同定した1種類以上の化合物の投与、またはそのような化合物と疾患または障害のための既知の療法との組合わせの投与から生じる、PAHまたは障害の1以上の症状の再発、発現、進行または発症の阻止を表わす。
【0065】
[74] 好ましくは、本発明の方法による組成物を1以上の追加療法と組み合わせて投与することにより、疾患または障害を伴なう対象において相乗的応答が得られる。これに関して、用語“相乗的”は、組合わせの有効性がいずれかの単一療法のみの効果の相加効果より有効であることを表わす。1態様において、本発明によるラパマイシン併用療法の相乗効果によって、組合わせのうちの少なくとも1つの療法を、その組合わせ以外でのそれの投与量および/または頻度と比較してより低い投与量で使用することおよび/またはより低い頻度で投与することが可能になる。他の態様において、相乗効果はその組合わせ中のいずれかの療法の単独使用に関連する有害または目的外の副作用が回避または低減されることに現われる。
【0066】
[75] 本発明の医薬組成物に関して、“キャリヤー”は、たとえば送達のためにラパマイシンに配合する液体または固体材料、たとえば溶媒、希釈剤、安定剤、佐剤、賦形剤、助剤、噴射剤またはビヒクルを表わす。本発明の組成物中に使用するための医薬的に許容できるキャリヤーの例には、限定ではなく、乾燥粉末キャリヤー、たとえばラクトース、マンノース、アミノ酸、シクロデキストリン、ジパルミチルホスファチジルコリン、炭化水素およびフルオロカーボン噴射剤、圧縮ガス、無菌液体、水、緩衝塩類、エタノール、ポリオール(たとえば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、油類、界面活性剤、懸濁化剤、炭水化物(たとえば、グルコース、ラクトース、スクロースまたはデキストラン)、抗酸化剤(たとえば、アスコルビン酸またはグルタチオン)、キレート化剤、低分子量タンパク質、またはその適切な混合物が含まれる。好ましくは、ラパマイシンの乾燥粉末エアゾール配合物に関して、キャリヤーが存在する場合にはそれは糖類および糖アルコールからなる群から選択される。1態様において、キャリヤーが存在する場合にはそれはラクトースである。
【0067】
[76] 用語“医薬的に許容できる”は、動物、より具体的にはヒトに使用するものとして連邦政府または州政府の規制当局が承認したこと、または米国薬局方、および他の一般的に認識されている薬局方、たとえば欧州薬局方に掲載されていることを示す。水に貧溶性または水に不溶性である薬物を可溶化するための1方法は、薬物の塩を形成すること、あるいはそれ自体がより可溶性であるプロドラッグ、またはプロドラッグの水溶性塩を形成するために使用できるプロドラッグを製造することである。塩類および医薬的に許容できる塩形態を形成するための方法は当技術分野で既知であり、限定ではなく、目的とする薬物またはプロドラッグ中に存在する可能性のある酸性基または塩基性基の塩類が含まれる。塩基性である化合物は種々の無機酸および有機酸との多様な塩類を形成できる。そのような塩基性化合物の医薬的に許容できる酸付加塩を調製するために使用できる酸は、無毒性の酸付加塩、すなわち薬理学的に許容できるアニオンを含む塩類を形成するものである;塩には下記のものが含まれるが、それらに限定されない:硫酸、クエン酸、マレイン酸、酢酸、シュウ酸、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩、硫酸水素塩、リン酸塩、酸性リン酸塩、イソニコチン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、サリチル酸塩、クエン酸塩、酸性クエン酸塩、酒石酸塩、オレイン酸塩、タンニン酸塩、パントテン酸塩、酒石酸水素塩、アスコルビン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、ゲンチシン酸塩、フマル酸塩、グルコン酸塩、グルカロネート(glucaronate)、サッカリン酸塩、ギ酸塩、安息香酸塩、グルタミン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、およびパモ酸塩(すなわち、1,1’−メチレン−ビス−(2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸塩))。酸性である化合物は、種々の薬理学的に許容できるカチオンとの塩基塩を形成できる。そのような塩類の例には、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩、特にカルシウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、リチウム塩、亜鉛塩、カリウム塩、および鉄塩が含まれる。
【0068】
[77] 1態様において、本発明の方法および組成物はラパマイシンの水溶性プロドラッグまたは誘導体、好ましくはテムシロリムスまたは関連化合物を使用する。1態様において、本発明の方法および組成物はラパマイシン(シロリムス)を使用する。
【0069】
ラパマイシン
[78] ラパマイシンはストレプトマイセス・ハイグロスコピクスにより産生される大環状ラクトンである。それの化学(IUPAC)名は(3S,6R,7E,9R,10R,12R,14S,15E,17E,19E,21S,23S,26R,27R,34aS)−9,10,12,13,14,21,22,23,24,25,26,27,32,33,34,34a−ヘキサデカヒドロ−9,27−ジヒドロキシ−3−[(1R)−2−[(1S,3R,4R)−4−ヒドロキシ−3−メトキシシクロヘキシル]−1−メチルエチル]−10,21−ジメトキシ−6,8,12,14,20,26−ヘキサメチル−23,27−エポキシ−3H−ピリド[2,1−c][1,4]オキサアザシクロヘントリアコンチン−1,5,11,28,29(4H,6H,31H)−ペントンである。
【0070】
[79] それの分子式はC
51H
79NO
13であり、それの分子量は914.172g/molである。それの構造を下記に示す。ラパマイシンの異性体、たとえばU.S. Patent No. 7,384,953に示される構造をもつ異性体Bおよび異性体Cが知られている。一般に、ラパマイシンはB異性体とC異性体の混合物である。溶液中で、ラパマイシン異性体BとCは相互変換し、平衡状態に達する。ラパマイシンの構造をB異性体の形態で描くのが文献において慣例であり、それは下記に示す形態である。
【0072】
[80] ラパマイシンは白色ないし灰白色の粉末であり、わずか2.6μg/mlのきわめて低い溶解度をもち、水に不溶性であるとみなされる。それはベンジルアルコール、クロロホルム、アセトンおよびアセトニトリルには易溶性である。ラパマイシンの水不溶性は、それの配合に特別な技術的問題を提起する。経口剤形としてのそれの配合に関して、それは固体分散液の形の経口液剤(WO 97/03654)およびナノサイズ(400nm未満)粒子を含有する錠剤(US 5,989,591)として製造されてきた。しかし、これらの操作は有効物質の溶解性、したがってそれの生物学的利用能の、実質的変動をもたらす。他の配合方法は結晶質粉末を利用する。当技術分野で認識されている方法によれば、低溶解性薬物の結晶質形態からそれの非晶質形態への転移はそれの溶解性を著しく高める可能性がある。これはラパマイシンにも当てはまるが、非晶質形態は化学的にきわめて不安定である。非晶質ラパマイシン(シロリムス)を含む医薬剤形はWO 06/039237およびWO 06/094507に記載されている(シロリムスおよびモノステアリン酸グリセリルを含む49.25%濃度の改良放出配合物)。ラパマイシンの改良された安定な経口剤形がUS 8,053,444に記載されている。この剤形は、シロリムスの放出速度に有害な影響を及ぼすことなくそれの安定性を高めるために、脂肪酸エステルおよびポリマー(たとえば、ポリビニルピロリドン(PVP)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)またはヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC))を組成物中に用いている。US 8,053,444によれば、10% w/wを超える脂肪酸エステル濃度は配合物からのシロリムスの放出速度を抑え、それにより胃腸管からの吸収が不十分になる可能性があるので、避けるべきである。脂肪酸エステル(グリセロールエステル)の好ましい濃度は1%〜5%または5%〜9%である。1態様において、本発明のエアゾールラパマイシン組成物は脂肪酸エステルをポリマーとの組合わせでは含有しない。1態様において、本発明のエアゾールラパマイシン組成物は、組成物の10重量%を超える、または12重量%を超える濃度の脂肪酸エステルを含有する。
【0073】
[81] 本発明の組成物および方法に使用するのに適したラパマイシンおよびその誘導体(アナログを含む)ならびにプロドラッグにはラパマイシン(シロリムス)およびそのプロドラッグまたは誘導体が含まれ、それらはmTOR細胞シグナル伝達経路の阻害薬であり、好ましくはmTOR自体の阻害薬である。1態様において、ラパマイシンの誘導体またはプロドラッグは、下記のものからなる群から選択されるmTOR阻害薬である:エベロリムス(everolimus)(Affinitor;RAD001)、テムシロリムス(CCI−779)、リダホロリムス(ridaforolimus)(以前はデホロリムス(deforolimus)として知られていた;AP23573)、ウミロリムス(umirolimus)(Biolimus A9)、ゾタロリムス(zotarolimus)(ABT−578)、ノボリムス(novolimus)、ミオリムス(myolimus)、AP23841、KU−0063794、INK−128、EX2044、EX3855、EX7518、AZD08055およびOSI027。さらなる誘導体が当業者に知られており、たとえばシロリムスのシクロヘキシル環上のヒドロキシル基が−OR
1により置換されたO−置換誘導体が含まれる;ここで、R
1は所望により置換されたアルキル、アシルアミノアルキルまたはアミノアルキルである。
【0074】
[82] 1態様において、本発明のエアゾール配合物および方法に使用するための化合物は、アナログであるエベロリムス、テムシロリムス、リダホロリムス、ウミロリムスおよびゾタロリムスからなる群から選択されるラパマイシン誘導体(アナログ)である。ラパマイシンアナログであるエベロリムス、テムシロリムス、リダホロリムス、ウミロリムスおよびゾタロリムスの化学構造を下記に示す。
【0077】
[83] 1態様において、本発明のエアゾール配合物および方法に使用するための化合物は、KU−0063794、AZD8055、INK128およびOSI−027からなる群から選択されるmTOR阻害薬である。mTOR阻害薬 KU−0063794、AZD8055、INK128およびOSI−027の化学構造を下記に示す。
【0079】
[84] 本発明の方法および組成物に使用するために特に好ましいものは、シロリムス、テムシロリムスおよびエベロリムスである。1態様において、本発明のエアゾール配合物および方法に使用するための化合物は、シロリムス、テムシロリムスおよびエベロリムスからなる群から選択される。1態様において、化合物はシロリムスまたはエベロリムスである。
【0080】
吸入用組成物
[85] 本発明は、ラパマイシンまたはそのプロドラッグもしくは誘導体を含む、水溶液、乾燥粉末、または1種類以上の医薬的に許容できる噴射剤およびキャリヤーの混合物の形態の、吸入による投与に適合させた医薬組成物を提供する。1態様において、ラパマイシンは医薬的に許容できるコンパウンド、材料またはマトリックスに封入される。1態様において、ラパマイシンはリポソーム配合物または非リポソーム配合物に封入される。
【0081】
[86] 本発明の組成物は、ヒト対象においてエアゾールの吸入により肺に薬物送達するのに適した、ラパマイシンのエアゾール化可能な配合物である。用語“エアゾール”は、これに関して、分散相が固体粒子または液体粒子から構成され、分散媒体が気体である、コロイド系を表わすために用いられる。1態様において、気体は空気であり、配合物はネブライザーによる投与に適した溶液配合物、またはドライパウダーインヘラーデバイスによる投与に適した乾燥粉末配合物である。一般に、吸入可能な粒子または液滴は0.10〜10ミクロンの範囲の平均直径をもつであろう。粒子または液滴のサイズは、肺自体(すなわち、この場合は肺がターゲット組織である)または全身(この場合は、全身投与のための代替経路として肺が利用される)のいずれかへのターゲティッド送達を最大にするように選択される。サイズは、好ましくは、肺自体が療法ターゲットである場合は約0.5〜5ミクロンの範囲であり、あるいは肺を介した全身送達については3ミクロン未満であろう。サイズは、当技術分野で既知の、たとえば米国薬局方、905および601章に記載された方法に従って測定される。たとえば、それは空気力学的質量中央直径(Mass Median Aerodynamic Diameter)(MMAD)として測定される。1態様において、本明細書に記載する組成物を構成する粒子の平均直径(averageまたはmean diameter)はMMADとして測定される。
【0082】
[87] 1態様において、エアゾールの分散相は液体粒子または液滴から構成される。これに関して、用語“液体粒子(liquid particle)”と“液滴(droplet)”は互換性をもって用いられる。この態様において、本発明の配合物は溶液配合物である。1態様において、エアゾールの分散相は固体粒子から構成される。この態様において、本発明の配合物は乾燥粉末配合物である。このサイズの微細粒子は、当技術分野で既知の方法により、たとえば機械的摩砕(ミリング)、臨界未満または超臨界状態の溶液からの沈殿、噴霧乾燥、凍結乾燥(freeze-dryingまたはlyophilization)により製造できる。
【0083】
[88] 一般に、吸入された粒子は2つのメカニズムのうちの1つにより沈着する:衝突(impaction)、これは通常はより大きな粒子について優勢である;および沈降(sedimentation)、これは通常はより小さな粒子について優勢である。衝突は、粒子が空気流に従わずに生体表面にぶつかるほど吸入粒子の運動量(momentum)が十分に大きい場合に起きる。これに対し、沈降は、吸入された空気流と共に移動してきたきわめて小さな粒子が空気流内でのランダム拡散の結果として生体表面に衝突した際に、主に深部肺において起きる。本発明のエアゾール配合物は、目的とする療法効果を達成するために、好ましくは衝突(上気道に)または沈降(肺胞に)のいずれかによるそれらの沈着を最大にするように適合される。
【0084】
[89] 送達デバイス、たとえばネブライザー、pMDIまたはDPIデバイスから患者へ送達される薬物の量は、送達量(delivered dose)と呼ばれる。それはインビトロで模擬吸入法において送達デバイスから放出される薬物量を決定することにより推定できる。これは、当技術分野で既知の方法、たとえば米国および欧州薬局方、たとえばUSPの601章および905章に述べられたものに従って測定した放出量(emitted dose)(ED)と呼ばれる。したがって、“放出量”は送達量と同等であるとみなされる。
【0085】
[90] 送達デバイスから患者の肺へ送達される薬物の量は、呼吸可能量(respirable dose)と呼ばれる。それはインビトロでカスケードインパクター(cascade impactor)、たとえば次世代インパクター(Next Generation Impactor)(NGI)を用い、当技術分野で既知の方法、たとえば米国および欧州薬局方、たとえばUSPの601章および905章に述べられたものに従って測定した細粒量(FPD)を決定することにより推定できる。
【0086】
[91] 送達デバイスから微細な吸入可能な(inharable)粒子状で放出される薬物の量は、配合物の細粒分(fine particle fraction)(FPF)と呼ばれる。FPFは、送達量中の潜在的に呼吸可能な(respirable)薬物の画分である。よって、FPFはED(放出量または送達量)に対するFPDの割合である。配合物のこれらの特性は当技術分野で既知の方法、たとえば米国および欧州薬局方、たとえばUSPの601章およびPharm Europaのモノグラフ2.9.18に述べられたものに従って測定される。
【0087】
[92] 1態様において、本発明のエアゾール化可能なラパマイシン配合物は、長期貯蔵後、たとえば貯蔵の1〜12か月後または1〜36か月後ですら、対応するFPDが10マイクログラムから2ミリグラムまでの範囲、好ましくは0.5ミリグラム未満で、20%を超えるFPFをもつ。1態様において、患者へ送達される量、送達量(DD)または放出量(ED)は、25マイクログラムから2.5ミリグラムまでの範囲、好ましくは0.5ミリグラム未満である。
【0088】
[93] ある態様において、ラパマイシンは医薬的に許容できるコンパウンド、材料またはマトリックスに封入される。1態様において、ラパマイシンはリポソーム配合物または非リポソーム配合物に封入される。
【0089】
水溶液組成物
[94] 1態様において、本発明のエアゾール化可能な組成物は、ジェット、振動メッシュ、および静止メッシュ、またはオリフィス−ネブライザーを含めたネブライザーによる肺送達に適合させた、ラパマイシンの水溶液配合物である。よって、溶液配合物は前記のように約0.1ミクロンから10ミクロンまでの呼吸可能な範囲の直径のエアゾール液滴形成を可能にするように適合される。1態様において、組成物は、水、エタノールおよび低分子量ポリオールに溶解され、所望により界面活性剤を含む、ラパマイシン(シロリムス)またはそのプロドラッグもしくは誘導体からなる霧化可能な(nebulizable)水溶液配合物である。1態様において、水溶液配合物は20mPa−s未満、10mPa−s未満、または5mPa−s未満の粘度、および少なくとも45ダイン/cm、好ましくは60ダイン/cmを超える表面張力をもつ。好ましくは、配合物は5mPa−s未満の粘度および45ダイン/cmを超える表面張力をもつ。1態様において、組成物は20mPa−s未満の粘度、10mPa−s未満の粘度、または5mPa−s未満の粘度、および少なくとも45ダイン/cm、好ましくは60ダイン/cmを超える表面張力をもつ。
【0090】
[95] 1態様において、水溶液配合物は、ラパマイシン、水、エタノール、ならびにグリセロールおよびプロピレングリコールから選択される低分子量ポリオールからなる。1態様において、水溶液配合物はラパマイシン、水、ならびにグリセロールおよびプロピレングリコールから選択される低分子量ポリオールからなり、エタノールは任意選択的である。配合物は所望により非イオン界面活性剤、好ましくはPEG 100、またはポリソルベート、好ましくはポリソルベート80(“PS80”)、リン脂質、好ましくは天然リン脂質、たとえばレシチン、好ましくは水素化ダイズレシチン、および抗酸化剤または安定剤、好ましくはEDTA二ナトリウムを含有することもできる。1態様において、非イオン界面活性剤は、ポリエチレングリコール(PEG) PEG 100、PEG 1000、およびポリソルベート80(Tween(商標) 80、ソルビタンモノオエート、またはポリオキシエチレンソルビタンオレエートとも呼ばれる)、ならびにその混合物からなる群から選択される。
【0091】
[96] 水溶液中のラパマイシンの量は、溶液の総重量を基準として約0.001%から0.01%(重量)(% wtまたは% w/w)までである。1態様において、ラパマイシンは溶液中に約0.01mg/ml〜約0.1mg/mlの濃度で存在する。1態様において、ラパマイシンの量は、溶液の総重量を基準として0.001%から0.01% w/wまでである。
【0092】
[97] 1態様において、溶液中のラパマイシンの濃度は約0.01から.1mg/mlまでであり、低分子量ポリオールの量は5から35% w/wまでであり、エタノールの量は5〜20% w/wの量で存在し、非イオン界面活性剤の量は1から200百万分率(ppm)w/wまでである。好ましくは、非イオン界面活性剤の量は100ppm(w/w)未満である。任意選択的な抗酸化剤/安定剤の量はゼロから0.01% w/w未満までである。
【0093】
[98] 1態様において、本発明の水溶液配合物はポリエチレングリコール、レシチン、EDTA、ブロックコポリマー、およびシクロデキストリンからなる群から選択される1種類以上の添加剤または賦形剤を含有
しない。
【0094】
[99] 水溶液配合物は、ラパマイシンが完全に溶解した単相水溶液である。配合物中の主な補助溶媒は、エタノール、ならびにグリセロールおよびプロピレングリコールから選択される低分子量ポリオールである。ラパマイシンは懸濁状態またはエマルジョン状ではなく、その溶液はコロイド溶液または分散液と記述することもできない。本発明の水溶液配合物はミセルまたはリポソームのようなコロイド構造をもたない。リン脂質が存在するとしても、その量は、リポソームを形成するかまたはラパマイシンを沈殿させるには少なすぎる。また、リン脂質と非イオン界面活性剤を合わせた量は、表面張力を改変するには少なすぎる。その結果、リン脂質も非イオン界面活性剤も伝統的な意味での界面活性剤として作用するのに十分な量では存在しない。これに関して、界面活性剤という用語は、溶液の表面張力または溶液中の液体といずれかの固体薬物粒子の間の界面張力を低下させる作用をする物質を表わし、したがって界面活性剤はディタージェント、湿潤剤、乳化剤、または分散剤として作用する。これに対し、本発明の溶液配合物中の非イオン界面活性剤は、最終製品がパッケージされているポリエチレン容器への薬物の吸着をブロックする作用をし、それによって容器への吸着による薬物力価の損失を防止する。
【0095】
[100] したがって、1態様において、水溶液配合物はラパマイシンが完全に溶解した単相水溶液であり、この溶液はミセルまたはリポソームを含まず、この溶液はエマルジョン、分散液または懸濁液ではない。
【0096】
[101] 1態様において、溶液配合物は無菌である。1態様において、溶液配合物は0.2ミクロンフィルターにより無菌濾過される。1態様において、溶液配合物は熱により、たとえば高圧蒸気滅菌法により、または放射線照射により、滅菌されることはない。
【0097】
[102] 1態様において、本発明は無菌水溶液配合物を充填した1以上の容器またはバイアル(これらの用語は互換性をもって用いられる)を収容したパッケージを提供する。好ましくは、容器は単位量容器である。1態様において、容器はポリマーバイアル、好ましくはポリエチレンバイアルである。1態様において、本発明の無菌水溶液配合物を充填した容器またはバイアルは、吹込み成形によりバイアルを成形し、その直後にバイアルに無菌濾過した本発明配合物を無菌条件下で充填し、続いてバイアルをそれの充填直後にヒートシールする工程を含むプロセスにより製造される。
【0098】
[103] 1態様において、本発明の水性エアゾール配合物は下記のものを含むかまたはそれらからなる:
ラパマイシン(またはそのプロドラッグもしくは誘導体) 約0.001%から0.01% w/wまで;
プロピレングリコール 約5%から35% w/wまで;
エタノール 約5%から20% w/wまで;
ポリソルベート80 約1ppmから200ppm w/wまで;
レシチン 約1ppmから100ppm w/wまで;および
水;
ここで、水の量は0.01〜0.1ミリグラム/ミリリットルのラパマイシン濃度に達するのに十分なものである。所望により、安定性増強剤、たとえばEDTA二ナトリウムを、0.01% wt/wt未満のレベルで添加することができる。
【0099】
[104] 水性系および他の非加圧液体系について、配合物をエアゾール化するために多様なネブライザー(小容積ネブライザーを含む)を入手できる。コンプレッサー駆動式ネブライザーはジェット手法を採用し、圧縮空気を用いて液体エアゾールを発生させる。そのようなデバイスは、たとえば下記から市販されている:Healthdyne Technologies,Inc.;Invacare,Inc.;Mountain Medical Equipment,Inc.;Pari Respiratory,Inc.;Mada Medical,Inc.;Puritan−Bennet;Schuco,Inc.,DeVilbiss Health Care,Inc.;およびHospitak,Inc.。超音波ネブライザーは呼吸可能な液滴を発生させるのに圧電結晶の振動の形の機械的エネルギーに依存し、たとえばOmron Healthcare,Inc.およびDeVilbiss Health Care,Inc.から市販されている。
【0100】
[105] 1態様において、本発明の水性エアゾール配合物はAerogen、Pari、PhilipsまたはOmronから入手できる振動式ネブライザーにより送達される。1態様において、本発明の水性エアゾール配合物は、振動メッシュネブライザー、たとえばAeroneb(登録商標) Go(Aerogen,Philips Respironicsにより販売)、I−Neb(登録商標)(Philips)、もしくはE−Flow(登録商標)(Pari)、または同様なネブライザーで使用するのに適した容器にパッケージされる。1態様において、本発明の水性エアゾール配合物は、オリフィスネブライザー、たとえばRespimat(登録商標)(Boeringher−Ingelheimから)により送達される。
【0101】
[106] よって、1態様において本発明は、ヒト対象への吸入による投与に適した霧化可能な水溶液の形態の医薬組成物を提供し、その水溶液は、ラパマイシンまたはそのプロドラッグもしくは誘導体、好ましくはシロリムス、エベロリムスおよびテムシロリムスから選択されるもの、水、エタノール、ならびに低分子量ポリオールからなる。1態様において、低分子量ポリオールはグリセロールもしくはプロピレングリコール、またはその混合物である。1態様において、組成物はさらに、PEG 100、PEG 1000およびポリソルベート80、ならびにその混合物からなる群から選択される非イオン界面活性剤を含む。1態様において、配合物中の非イオン界面活性剤の量は、配合物の重量を基準として1から200ppm w/wまで、好ましくは100ppm w/w未満である。1態様において、組成物はさらにリン脂質、抗酸化剤または化学的安定剤を含む。1態様において、配合物中の抗酸化剤または化学的安定剤の量は、配合物の重量を基準として0.01% w/w未満である。1態様において、抗酸化剤または化学的安定剤はEDTAである。1態様において、配合物中のラパマイシンの量は、配合物の重量を基準として0.001から0.01% w/wまでである。
【0102】
[107] 1態様において、組成物は、ポリエチレングリコール、レシチン、EDTA、ブロックコポリマーおよびシクロデキストリンからなる群から選択される1種類以上の添加剤または賦形剤を含有しない。
【0103】
[108] 1態様において、組成物はミセルおよびリポソームから選択されるコロイド構造をもたない。
[109] 1態様において、組成物は、ジェットネブライザー、振動メッシュネブライザー、静止メッシュネブライザーおよびオリフィスネブライザーのうちのいずれか1つによる投与に適切である。
【0104】
[110] 1態様において、組成物は20mPa−s未満、好ましくは10mPa−s未満、最も好ましくは5mPa−s未満の粘度、および少なくとも45ダイン/cm、好ましくは少なくとも50ダイン/cmの表面張力をもつ。
【0105】
[111] 本発明はまた、霧化可能な水溶液の形態の本発明の医薬組成物の調製方法であって、0.2ミクロン以下のポアサイズをもつフィルターにより溶液を無菌濾過し、無菌濾液を採集容器に無菌条件下で採集することを含む方法を提供する。1態様において、調製方法はさらに、無菌濾液を容器クロージャー内へ無菌条件下で移すことを含む。1態様において、容器クロージャーは単位量ポリエチレンバイアルである。1態様において、バイアルは無菌濾液をバイアルへ移す直前に吹込み成形により製造される。1態様において、本方法はさらに、無菌濾液をバイアルに移した直後にバイアルをヒートシールする工程を含む。
【0106】
乾燥粉末組成物
[112] 1態様において、本発明のエアゾール化可能な組成物は、ラパマイシンまたはそのプロドラッグもしくは誘導体の微細な粒子を療法薬(“薬物”とも呼ぶ)として含む乾燥粉末であり、それらの粒子は0.1から10ミクロンまでの直径、および約0.5〜4.5ミクロン、約1〜4ミクロン、約1〜3.5ミクロン、約1.5〜3.5ミクロン、または約2〜3ミクロンの平均直径をもつ。この乾燥粉末配合物はドライパウダーインヘラー(dry powder inhaler)(DPI)デバイスまたは加圧メータードーズインヘラー(pressurized metered dose inhaler)(pMDI)のいずれかに使用するのに適切である。乾燥粉末中のラパマイシンの量は、粉末の総重量を基準として約0.5から20%(w/w)までである。1態様において、ラパマイシンの量は約1%または2%(w/w)である。
【0107】
[113] 1態様において、微細なラパマイシンは後記のように湿式磨砕またはジェットミリングにより約0.5〜4.5ミクロン、約1〜4ミクロン、または約2〜3ミクロンの範囲の直径を生じるように製造され、これらのラパマイシン粒子をラクトースキャリヤー粒子に、薬物/キャリヤーの割合0.5〜2% w/wの範囲、好ましい割合1%でブレンドする。
【0108】
[114] 1態様において、脆いマトリックス中へ薬物粒子を軽く押し込み、それを送達デバイス(ドライパウダーインヘラー)に収容する。作動させると、送達デバイスは一部の薬物粒子をマトリックスから擦り取り(abrade)、それらを吸気に分散させて薬物粒子を気道へ送達する。あるいは、薬物粒子は送達デバイス(ドライパウダーインヘラー)のリザーバー内に収容されたさらさらした粉末であってもよい。リザーバーはデバイス内の一体チャンバーであってもよく、あるいは作動前にデバイスに挿入されるカプセル、ブリスター、または同様なプリフォームしたリザーバーであってもよい。作動させると、デバイスは一部の薬物粒子をリザーバーから分散させ、それらを吸気に分散させて薬物粒子を気道へ送達する。
【0109】
[115] 1態様において、乾燥粉末組成物は、薬物粒子、ならびにアラビノース、グルコース、フルクトース、リボース、マンノース、スクロース、トレハロース、ラクトース、マルトース、デンプン、デキストラン、マンニトール、ロイシン、リジン、イソロイシン、ジパルミチルホスファチジルコリン、レシチン、ポリ乳酸、ポリ(乳酸−co−グルタミン酸)、およびキシリトール、または以上のいずれかの混合物からなる群から選択されるキャリヤーからなる。1態様において、キャリヤーはラクトース、特に1水和物の形態のものである。1態様において、乾燥粉末組成物は2種類以上のキャリヤーのブレンドを含む。
【0110】
[116] 1態様において、乾燥粉末組成物は、薬物、および少なくとも2種類の異なるキャリヤーのブレンドを含む。1態様において、キャリヤーに対する薬物の割合は約0.5から20%(w/w)までの範囲である。1態様において、薬物粒子は0.1から10ミクロンまでの範囲の直径をもち、約1〜4、1〜3.5、または1.5〜3.5、または2〜3ミクロンの平均直径をもつ。キャリヤー粒子は2から200ミクロンまでの範囲の直径をもつことができる。
【0111】
[117] 1態様において、組成物はブリスターパックまたはDPIデバイスのリザーバーに収容される。1態様において、乾燥粉末組成物は、DPIデバイスに使用するのに適したゼラチン、デンプン、セルロースもしくはポリマー製のカプセル、またはホイル/ホイルもしくはホイル/プラスチックブリスター内に予め装填される。それぞれのカプセルまたはブリスターは1から100ミリグラムまでの乾燥粉末組成物を内包することができる。カプセルまたはブリスターをドライパウダーインヘラー(DPI)デバイス、たとえばAerolizer(登録商標)、Plastiape(登録商標) RS01 Model 7、およびPlastiape(登録商標) RS00 Model 8、XCaps(登録商標)、FlowCaps(登録商標)、Arcus(登録商標)、Diskhaler(登録商標)またはMicrodose(登録商標)に挿入することができる。DPIデバイスを作動させると、カプセルまたはブリスターが破壊されて粉末が吸気に分散し、薬物が気道へ送達される。
【0112】
[118] 1態様において、乾燥粉末組成物は、Accuhaler(登録商標)、Conix(商標)、Rotahaler(登録商標)、TwinCaps(登録商標)、XCaps(登録商標)、FlowCaps(登録商標)、Turbuhaler(登録商標)、NextHaler(登録商標)、CycloHaler(登録商標)、Revolizer(商標)、Diskhaler(登録商標)、Diskus(登録商標)、Spinhaler、Handihaler(登録商標)、Microdose Inhaler、GyroHaler(登録商標)、OmniHaler(登録商標)、Clickhaler(登録商標)、Duohaler(登録商標)(Vectura)、およびARCUS(登録商標)インヘラー(Civitas Therapeutics)から選択されるドライパウダーインヘラー(DPI)デバイスに収容される。1態様において、本発明は本明細書に記載する乾燥粉末組成物を収容したDPIデバイスを提供する。1態様において、デバイスは、XCaps、FlowCaps、Handihaler、TwinCaps、Aerolizer(登録商標)、Plastiape(登録商標) RS01 Model 7、およびPlastiape(登録商標) RS00 Model 8からなる群から選択される。1態様において、組成物を収容するデバイスはGyroHaler(登録商標)、OmniHaler(登録商標)、Clickhaler(登録商標)、Duohaler(登録商標)、およびARCUS(登録商標) インヘラーからなる群から選択される。
【0113】
[119] キャリヤー粒子は、深部肺にキャリヤー材料が沈着するのを避けるために、好ましくは比較的大きいサイズのものである(5ミクロンより大きい)。1態様において、キャリヤー粒子は1から200ミクロンまで、30から100ミクロンまでの範囲、または10ミクロン未満の直径をもつ。1態様において、キャリヤー粒子は2種類のキャリヤー、一方は約30〜100ミクロンの粒子、他方は10ミクロン未満の粒子のブレンドである。2種類の異なるキャリヤーの比は3:97から97:3までの範囲である。1態様において、乾燥粉末組成物はキャリヤーに対して0.5〜20%(w/w)の割合の薬物からなり、薬物粒子は0.1から10ミクロンまでの直径および3.5ミクロン未満の平均直径をもつ。1態様において、キャリヤー材料は結晶性キャリヤー材料である。好ましくは、結晶性キャリヤー材料は少なくとも90%、好ましくは95%以上が結晶性のものであり、その際、室温で相対湿度80%以下の条件下においてキャリヤーは水を全く吸収しないかまたは実質的に吸収しない。そのような結晶性キャリヤーの例は、ラクトース1水和物およびグルコース1水和物である。キャリヤーの量は、粉末の乾燥重量で配合物の1から99.0%までまたはそれ以上、好ましくは5〜99%、10〜99%、20〜99%、30〜99%、40〜99%、または50〜99%である。
【0114】
[120] 1態様において、乾燥粉末組成物は送達デバイス(ドライパウダーインヘラー)のリザーバー内に収容される。リザーバーはデバイス内の一体チャンバーであってもよく、あるいは作動前にデバイスに挿入されるカプセル、ブリスター、または同様な予備成形リザーバーであってもよい。作動させると、デバイスは一部の薬物粒子をリザーバーから分散させ、それらを吸気に分散させて薬物粒子を気道へ送達する。
【0115】
[121] 1態様において、薬物は微粉末として医薬的に許容できるキャリヤーと共に存在する。これに関して、用語“微細(fine)”は、前記で考察したように吸入可能な範囲の粒子サイズを表わす。好ましくは、薬物は粒子が10ミクロン以下の範囲の平均直径をもつように微細化される。1態様において、本明細書に記載する乾燥粉末組成物中のラパマイシン(またはそのプロドラッグもしくは誘導体)粒子の平均直径(MMADまたはDv50)は、0.5から10ミクロンまで、0.5から6ミクロンまで、1から5ミクロンまで、1から4ミクロンまで、1から3ミクロンまで、または2から3ミクロンまでである。MMADまたはDv50値は、その集団の体積の50%がそのサイズ未満にある粒子サイズである。
【0116】
[122] 1態様において、ラパマイシンの乾燥粉末配合物はさらに、下記の添加剤から選択される1種類以上の添加剤を含む。1態様において、その1種類以上の添加剤はステアリン酸マグネシウムを含むかまたはそれからなる。この態様の1観点において、ステアリン酸マグネシウムは乾燥重量で粉末の0.001〜10%の量、好ましくは0.01から5%まで、または0.01から2%までの量で存在する。他の態様において、添加剤は、乾燥重量で粉末の0.1%〜1%、好ましくは0.2%〜0.6%の量のリン脂質、たとえばレシチン(それはホスファチジルコリンの混合物である)を含むかまたはそれからなる。この態様の1観点において、添加剤は、キャリヤーをラパマイシン粒子とブレンドする工程の前またはその工程と同時にキャリヤー材料上にコートされる。これは、目的レベルのコートされたキャリヤー材料を得るために、たとえばキャリヤーを添加剤でコートする高エネルギー混合工程、または長時間の低エネルギー混合、あるいは低エネルギー混合と高エネルギー混合の組合わせを用いて達成できる。乾燥粉末を混合してブレンドを調製するための低エネルギーデバイスは当技術分野で既知であり、たとえばV−ブレンダー、ダブルコーンブレンダー、スラントコーンブレンダー、キューブブレンダー、ビンブレンダー、水平または垂直ドラムブレンダー、スタティック連続ブレンダー(static continuous blender)、ダイナミック連続ブレンダー(dynamic continuous blender)が含まれる。他のより高エネルギーのデバイスには、当業者に既知の高剪断ミキサーが含まれる。
【0117】
[123] ある態様において、乾燥粉末はカプセルに内包される。1態様において、カプセルはゼラチンカプセル、プラスチックカプセル、またはセルロースカプセルであり、あるいはホイル/ホイルまたはホイル/プラスチックブリスターの形態である。それぞれの場合、カプセルまたはブリスターはDPIデバイスに使用するのに適切であり、好ましくは各カプセル内の粉末の総重量を1mgから100mgまでにする量のキャリヤーと合わせた投与単位のものである。あるいは、乾燥粉末をマルチドーズDPIデバイスのリザーバーに収容することができる。
【0118】
[124] ラパマイシンの粒子サイズは、常法により、たとえばエアジェットミル、ボールミルもしくはバイブレーターミル内での磨砕により、湿式磨砕、ミクロ沈殿、噴霧乾燥、凍結乾燥、または臨界未満もしくは超臨界溶液からの再結晶により、目的とするマイクロ粒子レベルにまで低減できる。これに関してジェットミリングまたは磨砕は、機械的手段による乾燥薬物粒子の微細化を表わす。微細化法は、薬物の溶液、スラリーまたは懸濁液の調製を必要としない。代わりに、薬物粒子のサイズを機械的に低減する。微細化に使われるエネルギーが比較的高いため、特定の態様においてはラパマイシンと共に微細化する混合物にキャリヤー材料を含有させることが望ましい。これに関して、キャリヤー材料は、さもなければラパマイシンの構造に有害な影響を及ぼす可能性がある微細化エネルギーをある程度吸収する。1態様において、1から4、または2から3ミクロンまでのサイズ範囲のラパマイシン粒子がジェットミリング法により製造される。
【0119】
[125] US2013/0203717に記載される湿式磨砕は、懸濁液またはスラリー中の薬物粒子のサイズを低減するために高剪断の使用を伴なう。湿式磨砕には、薬物粒子のみ、またはミリング媒体と呼ばれる追加粒子を含有させることができる。1態様において、湿式磨砕法を用いてラパマイシンの粒子サイズを目的レベルにまで低減でき、それには湿式ミリング、具体的には高圧でのキャビテーションによるものが含まれ、その際、ラパマイシンをそれが不溶性である水または他の溶媒に懸濁し、次いでその後、懸濁液を噴霧乾燥してラパマイシンを乾燥粉末として得る。1態様において、ラパマイシンの懸濁液を調製し、その懸濁液にマイクロフルイダイゼーションを施し、得られた粒子を噴霧乾燥して乾燥粉末を形成することを含む湿式磨砕法により、1から4、または2から3ミクロンまでのサイズ範囲のラパマイシン粒子が製造される。ラパマイシンをプロピルアルコールまたはブチルアルコール、水、および酢酸エチルからなる群から選択される非溶媒(anti-solvent)に懸濁することができる。1態様において、懸濁液は水性懸濁液である。
【0120】
[126] 噴霧乾燥は一般に、薬物の溶液、スラリーまたは懸濁液を調製し、その溶液、スラリーまたは懸濁液を霧化して粒子を形成し、次いで溶液、スラリーまたは懸濁液の媒体を蒸発させて粒子を形成することを伴なう。溶液、スラリーまたは懸濁液は、臨界未満もしくは超臨界条件下で調製できる。蒸発工程は、その中へ霧化が行なわれる雰囲気の温度を高めることにより、もしくは圧力を低下させることにより、または両方の組合わせにより達成できる。1態様において、ラパマイシンを含む粉末配合物は、ラパマイシンの水性分散液を噴霧乾燥させて、前記のように肺送達に適したサイズをもつラパマイシンの凝集粒子からなる乾燥粉末を形成することにより調製される。凝集粒子サイズは、深部肺または上部呼吸器部位(たとえば、上気管支領域または鼻粘膜)のいずれかをターゲティングするように調整(増大または低減)できる。これは、たとえば噴霧乾燥分散液中のラパマイシンの濃度を高めることにより、または噴霧乾燥器により発生する液滴のサイズを増大させることにより達成できる。
【0121】
[127] あるいは、乾燥粉末は薬物の水性溶液、分散液もしくはエマルジョンの凍結乾燥(freeze-drying, lyophilization)により、または噴霧乾燥と凍結乾燥の組合わせにより調製できる。
【0122】
[128] 1態様において、ラパマイシンおよび1種類以上の任意選択的添加剤の水性分散液はさらに、溶解した希釈剤、たとえばラクトースまたはマンニトールを含み、したがって分散液を凍結乾燥すると呼吸可能な希釈剤粒子が形成され、それらはそれぞれ少なくとも1個の包み込まれた薬物粒子および存在するならば添加剤粒子を含有する。
【0123】
[129] 1態様において、乾燥粉末配合物はラパマイシンおよび1種類以上の任意選択的添加剤の水性分散液を凍結乾燥することにより調製される。1態様において、粉末はラパマイシンおよび添加剤(存在するならば)の凝集物を含有し、その際、凝集物は前記のように呼吸可能なサイズ範囲内にある。
【0124】
[130] 1態様において、乾燥粉末はラパマイシンを装填したリポソームを含む。薬物装填リポソームは当技術分野で既知の方法により、たとえばタクロリムスについてM. Chougale, et al. Int. J. Nanomedicine 2:625-688 (2007)に記載された手法を用いて調製できる。簡単に述べると、ラパマイシン、水素化ホスファチジルコリン(HSPC)およびコレステロールをメタノールとクロロホルムの混合物に溶解し、次いでたとえば回転蒸発器(Rotaevaporator)で乾燥薄膜形成を行なう。これらのリポソームを水和し、そのリポソーム分散液をサイズ低減のために高圧ホモジナイザーに通す。得られたペレットをベシクルサイズおよび薬物捕獲率について分析し、目的のラパマイシン量に等しいペレットを次いで適切な媒体に分散させ、噴霧乾燥して、吸入のための目的サイズの粒子を得る。噴霧乾燥粉末を投与のためのカプセル、キャニスターまたはブリスターパックに充填することができる。
【0125】
[131] 1態様において、乾燥粉末粒子は超臨界または臨界未満状態の溶液からの沈殿により調製できる。
[132] 乾燥粉末組成物を、適切なドライパウダーインヘラーデバイスに、またはそのようなデバイスに使用するためのカプセルもしくはブリスターに内包させることができる。そのようなデバイスの例は前記に示され、下記のものを含む:Accuhaler(登録商標)、Aerolizer(登録商標)、Plastiape(登録商標) RS01 Model 7、Plastiape(登録商標) RS00 Model 8、Conix(商標)、Rotahaler(登録商標)、TwinCaps(登録商標)、XCaps(登録商標)、FlowCaps(登録商標)、Turbuhaler(登録商標)、NextHaler(登録商標)、CycloHaler(登録商標)、Revolizer(商標)、Diskhaler(登録商標)、Diskus(登録商標)、Spinhaler、Handihaler(登録商標)、Microdose Inhaler、GyroHaler(登録商標)、OmniHaler(登録商標)、Clickhaler(登録商標)、もしくはDuohaler(登録商標)(Vectura)、または呼吸作動式(breath-actuated)ARCUS(登録商標)インヘラー(Civitas Therapeutics)。1態様において、本発明は本明細書に記載する乾燥粉末組成物を収容したDPIデバイスを提供する。1態様において、デバイスはXCaps、FlowCaps、Handihaler、TwinCaps、Aerolizer(登録商標)、Plastiape(登録商標) RS01 Model 7、およびPlastiape(登録商標) RS00 Model 8からなる群から選択される。
【0126】
噴射剤ベースの配合物
[133] 本発明の他の態様において、ラパマイシンは噴射剤ベースの配合物中に配合され、それを本明細書中で“pMDI配合物”と総称することもできる。pMDI配合物は、たとえば加圧メータードーズインヘラー(pMDI)などのデバイスによる送達に適切である。1態様において、組成物はラパマイシン、噴射剤、および植物油または医薬的に許容できる植物油誘導体を含む。噴射剤は、好ましくは1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFA134a)および1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(HFA227)またはその混合物から選択される。1態様において、植物油はオリーブ油、サフラワー油およびダイズ油から選択される。ラパマイシンは噴射剤中に溶解または懸濁していてもよい。これに関して、“懸濁している”とは、ラパマイシンが噴射剤中に分散した粒子状で存在する場合を表わす。1態様において、ラパマイシンは微細化され、噴射剤中に懸濁した状態で存在する。1態様において、配合物はさらに湿潤剤または補助溶媒、たとえばエタノールを含む。1態様において、配合物はさらにポリヒドロキシアルコール、たとえばプロピレングリコールを含む。
【0127】
[134] 適切な噴射剤は当技術分野で既知であり、たとえばハロゲン置換炭化水素、たとえばフッ素置換されたメタン、エタン、プロパン、ブタン、シクロプロパンまたはシクロブタン、特に1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFA134a)および1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(HFA227)、またはその混合物を含む。
【0128】
[135] 1態様において、配合物は微細なラパマイシン、エタノール、適切な噴射剤、たとえばHFA 134a、HFA 227、または適切な噴射剤の混合物、および所望により1種類以上の界面活性剤を含む。1態様において、配合物はさらに滑沢剤を含む。
【0129】
[136] 1態様において、配合物はラパマイシン、噴射剤および植物油を含む。1観点において、配合物は添加剤または界面活性剤を含まない。たとえば、配合物はエタノール、ポリヒドロキシアルコール(たとえば、プロピレングリコール)または界面活性剤(たとえば、トリオレイン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタンまたはオレイン酸)を含まない。
【0130】
[137] 1態様において、噴射剤ベースの配合物は、圧縮空気、二酸化炭素、窒素、あるいはn−プロパン、n−ブタン、イソブタンもしくはその混合物、または1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFA134a)および1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(HFA227)もしくはその混合物からなる群から選択される液化噴射剤を含み、極性補助溶媒、たとえばアルコール類を含むかまたは含まない。組成物は溶液または懸濁液であってもよい。懸濁液について、薬物粒子は0.1から10ミクロンまでの直径をもち、平均直径は3.5ミクロン未満である。
【0131】
[138] 噴射剤ベースの配合物は、当技術分野で既知の方法により、たとえば粗いラパマイシンおよび任意選択的な添加剤を、液体噴射剤中において周囲圧力または高圧の条件下で湿式ミリングすることにより調製される。ある態様において、添加剤は界面活性剤であり、それは凝集(ケーキングまたは結晶化)を阻止し、均一な投薬を容易にし、かつ(または、あるいは)好ましい細粒分(FPF)を供給するのに役立つ。1観点において、界面活性剤はトリオレイン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタンまたはオレイン酸から選択される。あるいは、薬物粒子を含有する乾燥粉末は、前記のように薬物粒子の水性分散液を噴霧乾燥または凍結乾燥し、得られた粉末を一般的な加圧メータードーズインヘラー(pMDI)に用いるのに適した噴射剤に分散させることにより調製される。1態様において、吸入デバイスはRespimat(商標)である。
【0132】
[139] 1態様において、本発明の噴射剤ベースのエアゾールラパマイシン配合物は、ラパマイシンの粒子サイズの生長または結晶形態の変化に対して長期間にわたって安定である。
【0133】
無菌単位剤形の製造方法
[140] 1態様において、本発明の組成物は無菌組成物である。1態様において、無菌組成物は無菌単位剤形である。1態様において、無菌単位剤形はネブライザーデバイスに使用するのに適したカプセルである。
【0134】
[141] 1態様において、最終組成物をそれの容器クロージャー内で、熱、たとえば高圧蒸気滅菌法により、または放射線照射により滅菌する。1態様において、組成物の成分部分をまず、液体成分のための無菌濾過および固体または液体のための放射線照射または高圧蒸気滅菌法を含めた適切な方法により滅菌する;この方法はさらに、気密容器内にパッケージングすることにより無菌成分の無菌性を保持すること、成分を適切な割合で混合容器内において混和し、得られた製品を容器クロージャー内に充填することを含み、これらはすべて無菌スイートで実施される。この方法は経費がかかり、かつ難しい無菌的な取扱い法が必要であるという欠点をもつ。したがって、それは主に、滅菌のためにサブミクロンフィルターを通すことができない粒子懸濁液またはコロイド分散液、リポソーム配合物、またはエマルジョンを処理するために用いられる。最後に、1態様において、最終組成物をサブミクロンフィルター、好ましくは0.2ミクロンフィルターにより無菌濾過する。1態様において、本発明の組成物は濾過滅菌プロセスにより滅菌された単相水溶液である。これに対し、エマルジョンおよびリポソーム配合物は一般に濾過滅菌プロセスの高剪断条件下で必ずしも十分に安定ではないので、この方法には好ましくない。
【0135】
[142] 1態様において、本発明の組成物は、容器−クロージャー、たとえばポリマー製、好ましくはポリエチレン製のバイアル、またはガラスバイアルに充填された、単相水溶液である。バイアルがポリマーバイアルである場合は、薬物および/または配合物賦形剤ならびに容器に不安定性が生じる可能性が高いので、また望ましくない不純物の生成のため、高圧蒸気滅菌および放射線照射は適切ではない。1態様において、本発明の組成物は、熱(高圧蒸気滅菌法)または放射線照射を含まず、代わりに濾過滅菌プロセスを含む方法により滅菌される。好ましくは、この態様によれば、0.2ミクロン以下のポアサイズをもつフィルターを通した濾過によりラパマイシンの単相水溶液を滅菌する。1態様において、無菌濾液を無菌スイート内にある採集容器に採集する。1態様において、無菌スイート内で無菌濾液を採集容器から容器クロージャー内へ移す。好ましくは、容器クロージャーはポリマーバイアル、好ましくは単位量バイアル、最も好ましくはポリエチレン製の単位量バイアルである。1態様において、ポリマーバイアルはそれに充填する直前に吹込み成形により形成され、次いで充填直後にヒートシールされる。この手法を“フォーム・フィル・シール(form-fill-seal)”または“ブロー・フィル(blow-fill)”と呼ぶこともできる。この手法は、ラパマイシンの単相水溶液である本発明組成物に関して特に有利である;この方法は熱または放射線照射(これらは両方とも薬物自体、配合物賦形剤または容器クロージャーのいずれかを破壊する可能性がある)を必要としないからである。
【0136】
肺への投与および投薬
[143] 本発明は、ラパマイシンを吸入により気道に、好ましくは肺に投与することによって、ヒト対象においてPAHを治療および予防するための組成物および方法を提供する。肺送達は、好ましくは口および咽喉を経由して肺内へエアゾールを吸入することにより達成されるが、鼻を経由したエアゾール吸入によっても達成できる。よって、1態様において、エアゾールは鼻腔内送達される。他の態様において、エアゾールは経口送達される。
【0137】
[144] 本発明の組成物および方法は、療法有効量のラパマイシンの肺へのターゲティッド送達を有利に提供し、一方では同時に血中および全身利用されるラパマイシンの量をきわめて低いレベルまたは検出できないレベルにまで低下させる。1態様において、単回量の本明細書に記載する乾燥粉末組成物中のラパマイシンの量は、約5から500マイクログラムまで、または約100から300マイクログラムまで、または約50から250マイクログラムまでである。全身曝露を最小限に抑えながら低用量ラパマイシンを肺へ直接にターゲティッド送達することは、経口剤形と比較して改善された療法指数を提供する。
【0138】
[145] 1態様において、本発明に従った吸入によるラパマイシンの投与は、ラパマイシンの療法指数を増大させる。これに関して、ヒト対象に適用するものとしての療法指数は、集団の50%において療法効果を生じる用量(ED
50)と毒性を生じる用量(TD
50)を比較する比である。この比をTD
50/ED
50として示す。1態様において、本発明に従った吸入によるラパマイシンの投与は、経口投与したラパマイシンに関連する1以上の毒性を低減し、それによりラパマイシンの療法指数を増大させる。
【0139】
[146] 本発明は、溶液および粉末の形態のエアゾール化可能な配合物を含む。したがって、ラパマイシンは本発明方法に従って水性エアゾール、乾燥粉末エアゾール、または噴射剤ベースのエアゾールの形態で投与できる。
【0140】
[147] 1態様において、ラパマイシンの投与量は、対象において0.01から0.15ng/mlまで、0.075から0.350ng/mlまで、0.150から0.750ng/mlまで、0.750から1.5ng/mlまで、または1.5から5ng/mlまでの血中トラフレベルを生じる。1態様において、ラパマイシンの投与量は、対象において5ng/ml未満、2ng/ml未満、1ng/ml未満、または0.5ng/ml未満の血中トラフレベルを生じる。
【0141】
[148] 1態様において、ラパマイシンの投与量は、肺組織において1ng/gから1ug/gまで、好ましくは約5ng/gから100ng/gまで、約5ng/gから約20ng/gまで、または約5ng/gから約30ng/gまでの範囲のラパマイシン濃度を生じるのに十分なものである。
【0142】
[149] 1態様において、ラパマイシンの投与量は5から100マイクログラムまで、20から100マイクログラムまで、20から250マイクログラムまで、50から500マイクログラムまで(0.05から0.5ミリグラムまで)、250から1000マイクログラムまで(0.25から1ミリグラムまで)、または500から2000マイクログラムまで(0.5から2ミリグラムまで)である。1態様において、ラパマイシンの投与量は500マイクログラム未満、100マイクログラム未満、50マイクログラム未満、20マイクログラム未満、または10マイクログラム未満である。好ましくは、ラパマイシンの投与量は0.5ミリグラム未満または0.25ミリグラム未満である。
【0143】
[150] 1態様において、ラパマイシンを1日1回投与する。
[151] 1態様において、ラパマイシンの総日用量は5から100マイクログラムまで、20から250マイクログラムまで、50から500マイクログラムまで(0.05から0.5ミリグラムまで)、250から1000マイクログラムまで(0.5から1ミリグラムまで)、または500から2000マイクログラムまで(0.5から2ミリグラムまで)である。1態様において、ラパマイシンの総日用量は500マイクログラム未満、100マイクログラム未満、50マイクログラム未満、20マイクログラム未満、または10マイクログラム未満である。1態様において、対象に投与するラパマイシンの総日用量は1日当たり0.5ミリグラム未満または0.25ミリグラム未満である。
【0144】
[152] 1態様において、本発明の組成物を1日1回、対象に投与する。1態様において、本発明の組成物を1日2回または3回投与する。好ましくは、組成物を1日1回もしくは2回、または1日1回より少なく投与する。
【0145】
[153] 1態様において、本発明の方法は、ラパマイシンを肺経路で、プロスタノイド、ホスホジエステラーゼ阻害薬、またはエンドセリンアンタゴニストから選択される1種類以上の追加療法薬と組み合わせて投与することを含む。1態様において、プロスタノイドはプロスタグランジン、トロンボキサン、およびプロスタサイクリンからなる群から選択される。1種類以上の追加薬剤はラパマイシンと同一または異なる投与経路により投与することができる。たとえば、その薬剤を吸入、鼻内、経口または静脈内により投与することができる。
【0146】
[154] 1態様において、本発明の方法はラパマイシンを肺経路で1以上の追加療法と組み合わせて投与することを含む。1態様において、1以上の追加療法は酸素療法、血管拡張療法、ホルモン療法、心血管療法、抗増殖療法、自己免疫療法、抗炎症療法、および抗エストロゲン療法から選択される。
【0147】
[155] ある態様において、本方法は本発明組成物を主療法として肺投与することを含む。他の態様において、本発明組成物の投与は補助療法である。いずれの場合も、本発明の方法は、疾患または障害の処置のために本発明組成物を1以上の追加療法と組み合わせて投与することを考慮する。用語“療法(単数)”および“療法(複数)”は、疾患もしくは障害またはその1以上の症状の防止、治療、管理または改善に使用できるいずれかの方法、プロトコルおよび/または薬剤を表わす。ある態様において、療法は酸素療法、血管拡張療法、ホルモン療法、心血管療法、抗増殖療法、自己免疫療法、抗炎症療法、および抗エストロゲン療法から選択される。
【0148】
[156] 好ましくは、ラパマイシンまたはそのプロドラッグもしくは誘導体を含む医薬組成物を本発明の方法に従って1以上の追加療法と組み合わせて投与することにより、PAHを伴う対象において相乗的応答が得られる。これに関して、用語“相乗的”は、組合わせの有効性がいずれかの単一療法のみの効果の相加効果より有効であることを表わす。1態様において、本発明によるラパマイシン併用療法の相乗効果によって、組合わせのうちの少なくとも1つの療法を、その組合わせ以外でのそれの投与量および/または頻度と比較して、より低い投与量で使用すること、および/またはより低い頻度で投与することが可能になる。他の態様において、相乗効果はその組合わせ中のいずれかの療法の単独使用に関連する有害または目的外の副作用が回避または低減されることに現われる。
【0149】
ネブライザー送達
[157] 1態様において、ラパマイシンをネブライゼーションに適した水溶液として配合し、ネブライザーにより送達する。水性系および他の非加圧液体系について、配合物をエアゾール化するための多様なネブライザー(小容量ネブライザーを含む)を入手できる。コンプレッサー駆動式ネブライザーは液体エアゾールを発生させるためにジェット技術を採用し、圧縮空気を使用する。そのようなデバイスは、たとえばHealthdyne Technologies,Inc.;Invacare,Inc.;Mountain Medical Equipment,Inc.;Pari Respiratory,Inc.;Mada Medical,Inc.;Puritan−Bennet;Schuco,Inc.,DeVilbiss Health Care,Inc.;およびHospitak,Inc.から市販されている。超音波ネブライザーは、呼吸可能な液滴を発生させるために圧電結晶の振動の形の機械的エネルギーに依存しており、たとえばOmron Healthcare,Inc.およびDeVilbiss Health Care,Inc.から市販されている。ネブライザーは、たとえば一般的な空気式(pneumatic)ネブライザー、たとえばエアジェットネブライザー、または超音波ネブライザーであってもよく、それらはたとえば1から50mlまで、一般に1から10mlまでの溶液配合物を収容できる。
【0150】
[158] 1態様において、本発明の水溶液配合物を、振動メッシュまたは固定メッシュを含むネブライザーで投与するために適合させる。たとえば、AERx(登録商標)(Aradigm)、RESPIMAT(登録商標)(Boehringer Ingelheim)、I−Neb(登録商標)(Philips)、またはMicroAire(登録商標)(Omron)などのデバイス;それらにおいて、薬剤溶液はピストンもしくは空気圧で、または圧電結晶で、オリフィスまたはメッシュを通して押し出される。あるいは振動メッシュネブライザー、たとえばE−Flow(登録商標)(Pari)またはAeroneb(登録商標) Go(Aerogen)により溶液を押し出すことができる。これらのデバイスによって、一般的なネブライザーよりはるかに小さなネブライズ体積、たとえば10〜100ul、およびより高い送達効率が可能である。
【0151】
乾燥粉末送達
[159] 1態様において、本発明の乾燥粉末組成物は非噴射剤ベースのドライパウダーインヘラー(DPI)デバイスにより送達される。1態様において、粉末は、DPIデバイスに使用するのに適したゼラチンもしくはプラスチックのカプセル、またはブリスターに内包される。1態様において、粉末は単位剤形で、カプセル当たり粉末5mgから100mgまでの投与単位で供給される。他の態様において、乾燥粉末はマルチドーズ乾燥粉末吸入デバイスのリザーバー内に収容される。1態様において、インヘラーデバイスは、計量された用量、たとえば10〜100μl、たとえば25〜50μlの組成物を送達するように適合させたバルブを備えたエアゾールバイアル、すなわちメータードーズインヘラーとして知られるデバイスを含む。
【0152】
[160] 1態様において、DPIデバイスは、ブリスターベースのデバイス、たとえばGyroHaler(登録商標)またはOmniHaler(登録商標)(両方ともVecturaから)、リザーバーベースのデバイス、たとえばClickhaler(登録商標)またはDuohaler(登録商標)(Vectura)、およびARCUS(登録商標)インヘラー(Civitas Therapeutics)である。1態様において、DPIデバイスはPulmatrix(商標)ならびにHovione TwincapsおよびXCaps(商標)から選択される。1態様において、デバイスはXCaps、Plastiape(登録商標) RS01 Model 7、およびPlastiape(登録商標) RS00 Model 8からなる群から選択される。
【0153】
[161] 1態様において、DPIデバイスはAccuhaler(登録商標)、Aerolizer(登録商標)、Plastiape(登録商標) RS01 Model 7、Plastiape(登録商標) RS00 Model 8、Conix(商標)、Rotahaler(登録商標)、TwinCaps(登録商標)、XCaps(登録商標)、FlowCaps(登録商標)、Turbuhaler(登録商標)、NextHaler(登録商標)、CycloHaler(登録商標)、Revolizer(商標)、Diskhaler(登録商標)、Diskus(登録商標)、Spinhaler、Handihaler(登録商標)、Microdose Inhaler、GyroHaler(登録商標)、OmniHaler(登録商標)、Clickhaler(登録商標)、もしくはDuohaler(登録商標)(Vectura)、または呼吸作動式ARCUS(登録商標)インヘラー(Civitas Therapeutics)からなる群から選択される。
【0154】
[162] 1態様において、DPIデバイスはArcus(商標)、Aspirair(商標)、Axahaler(商標)、Breezhaler(商標)、Clickhaler(商標)、Conix Dry(商標)、Cricket(商標)、Dreamboat(商標)、Genuair(商標)、Gemini(商標)、Inspiromatic(商標)、iSPERSE(商標)、MicroDose(商標)、Next DPI(商標)、Prohaler(商標)、Pulmojet(商標)、Pulvinal(商標)、Solis(商標)、Taifun(商標)、Taper Dry(商標)、Trivai(商標)、Novolizer(商標)、Podhaler(商標)、Skyehaler(商標)、Spiromax(商標)、Twincaps/Flowcaps(商標)、およびTurbuhaler(商標)からなる群から選択される。1態様において、DPIデバイスは、投与単位の乾燥粉末を内包したカプセルもしくはブリスターから、またはたとえば1作動当たり5〜25mgの乾燥粉末を送達するように適合させたマルチドーズ乾燥粉末吸入デバイスから、乾燥粉末を送達するように適合される。
【0155】
pMDI送達
[163] 他の態様において、ラパマイシンは噴射剤ベースの配合物に関して前記に述べた適切な噴射剤を収容した加圧された容器またはディスペンサーからエアゾール化粒子の形態で送達される。1態様において、インヘラーは噴射剤駆動式インヘラー、たとえばpMDIデバイスであり、それは各作動に際して計量された用量のラパマイシンを放出する。典型的なpMDIデバイスは、薬物を収容したキャニスター、薬物計量バルブ、およびマウスピースを含む。この態様の1観点において、ラパマイシンは噴射剤中の懸濁液として配合される。この態様に関して、ラパマイシンを微粉末状にし、液化した噴射剤または噴射剤ブレンドにそれを懸濁する。この懸濁液を次いで密閉キャニスター内に、噴射剤を液状に保持するのに十分な圧力下で貯蔵する。他の態様において、ラパマイシンは溶液として配合される。この態様に関して、液化した噴射剤または噴射剤ブレンドにラパマイシンを溶解する。1態様において、配合物はさらに、配合物の撹拌後に再現性のあるラパマイシン投与を可能にするのに十分な時間、配合物を沈降、クリーミングまたはフロキュレーションに対して安定化するのに適した量の安定剤を含む。安定剤はエアゾール配合物の総重量100万部を基準として約10重量部〜約5000重量部の過剰量で存在してもよい。1態様において、液体キャリヤーは1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン、またはその混合物である。他の態様において、液体キャリヤーは炭化水素(たとえば、n−ブタン、プロパン、イソペンタン、またはその混合物)である。組成物はさらに補助溶媒(たとえば、エタノール、または他の適切な補助溶媒)を含むことができる。
【0156】
[164] 本発明方法の1態様において、ラパマイシンを含むエアゾール配合物はさらに追加薬物を含む。この態様の1観点において、追加薬物はコルチコステロイド、エストロゲン受容体アンタゴニスト、抗コリン作動薬、ベータ−アゴニスト、非ステロイド系抗炎症薬、マクロライド系抗生物質、気管支拡張薬、ロイコトリエン受容体阻害薬、ムスカリンアンタゴニスト、硫酸クロモリン(cromolyn sulfate)、およびその組合わせからなる群から選択される。
【0157】
添加剤
[165] 本発明のエアゾール組成物は、1種類以上の添加剤を、配合物中に存在するいずれかのキャリヤーまたは希釈剤(たとえば、ラクトースまたはマンニトール)のほかに含有することができる。1態様において、1種類以上の添加剤は1種類以上の界面活性剤を含むかまたはそれからなる。界面活性剤は一般に1以上の長い脂肪族鎖、たとえば脂肪酸をもち、それによりそれらは細胞の脂質構造体中へ直接挿入されて薬物の透過および吸収を増強することができる。界面活性剤の相対的な親水性および疎水性を特徴づけるために一般に用いられる経験的パラメーターは、親水性−親油性バランス(“HLB”価)である。低いHLB価をもつ界面活性剤ほどより疎水性であって油中でより大きな溶解度をもち、一方で高いHLB価をもつ界面活性剤ほどより親水性であって水溶液中でより大きな溶解度をもつ。よって、親水性界面活性剤は一般に約10より大きいHLB価をもつ化合物であると考えられ、疎水性界面活性剤は一般に約10未満のHLB価をもつものである。しかし、多くの界面活性剤についてHLB価はHLB価を決定するために選択する経験的方法に応じて約8HLB単位も異なる可能性があるので、これらのHLB価は目安にすぎない。
【0158】
[166] 本発明のエアゾール組成物中に用いる界面活性剤には、ポリエチレングリコール(PEG)−脂肪酸、ならびにPEG−脂肪酸モノおよびジエステル、PEGグリセロールエステル、アルコール−油エステル交換生成物、ポリグリセリル脂肪酸、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステロールおよびステロール誘導体、ポリエチレングリコールソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコールアルキルエーテル、糖およびそれの誘導体、ポリエチレングリコールアルキルフェノール、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン(POE−POP)ブロックコポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、イオン性界面活性剤、脂溶性ビタミンおよびそれらの塩類、水溶性ビタミンおよびそれらの両親媒性誘導体、アミノ酸およびそれらの塩類、ならびに有機酸およびそれらのエステルおよび無水物が含まれる。これらのそれぞれをより詳細に以下に記載する。
【0159】
PEG脂肪酸エステル
[167] ポリエチレングリコール(PEG)自体は界面活性剤として機能しないが、多様なPEG−脂肪酸エステルが有用な界面活性剤特性をもつ。PEG−脂肪酸モノエステルのうち、ラウリン酸、オレイン酸およびステアリン酸のエステルが本発明の態様において最も有用である。好ましい親水性界面活性剤には、PEG−8ラウレート、PEG−8オレエート、PEG−8ステアレート、PEG−9オレエート、PEG−10ラウレート、PEG−10オレエート、PEG−12ラウレート、PEG−12オレエート、PEG−15オレエート、PEG−20ラウレートおよびPEG−20オレエートが含まれる。HLB価は4〜20の範囲である。
【0160】
[168] ポリエチレングリコール脂肪酸ジエステルも、本発明の態様の組成物中に界面活性剤として用いるのに適切である。最も好ましい親水性界面活性剤にはPEG−20ジラウレート、PEG−20ジオレエート、PEG−20ジステアレート、PEG−32ジラウレートおよびPEG−32ジオレエートが含まれる。HLB価は5〜15の範囲である。
【0161】
[169] 一般に、界面活性剤の混合物も本発明の態様に有用であり、それには2種類以上の市販の界面活性剤の混合物および界面活性剤と他の添加剤または添加剤類の混合物が含まれる。幾つかのPEG−脂肪酸エステルが混合物またはモノ−およびジエステルとして市販されている。
【0162】
ポリエチレングリコールグリセロール脂肪酸エステル
[170] 好ましい親水性界面活性剤は、PEG−20グリセリルラウレート、PEG−30グリセリルラウレート、PEG−40グリセリルラウレート、PEG−20グリセリルオレエート、およびPEG−30グリセリルオレエートである。
【0163】
アルコール−油エステル交換生成物
[171] 疎水度または親水度が異なる多数の界面活性剤を、アルコール類またはポリアルコールと多様な天然油および/または水素化油との反応により製造できる。最も一般的には、使用する油はヒマシ油もしくは水素化ヒマシ油、または食用植物油、たとえばトウモロコシ油、オリーブ油、ラッカセイ油、パーム核油、杏仁油、もしくはアーモンド油である。好ましいアルコール類には、グリセロール、プロピレングリコール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ソルビトール、およびペンタエリトリトールが含まれる。これらのアルコール−油エステル交換界面活性剤のうち、好ましい親水性界面活性剤はPEG−35 ヒマシ油(Incrocas−35)、PEG−40 水素化ヒマシ油(Cremophor RH 40)、PEG−25 トリオレエート(TAGAT.RTM.TO)、PEG−60 トウモロコシグリセリド(Crovol M70)、PEG−60 アーモンド油(Crovol A70)、PEG−40 パーム核油(Crovol PK70)、PEG−50 ヒマシ油(Emalex C−50)、PEG−50 水素化ヒマシ油(Emalex HC−50)、PEG−8 カプリル酸/カプリン酸グリセリド(Labrasol)、およびPEG−6 カプリル酸/カプリン酸グリセリド(Softigen 767)である。このクラスの好ましい疎水性界面活性剤には、PEG−5 水素化ヒマシ油、PEG−7 水素化ヒマシ油、PEG−9 水素化ヒマシ油、PEG−6 トウモロコシ油(Labrafil.RTM. M 2125 CS)、PEG−6 アーモンド油(Labrafil.RTM. M 1966 CS)、PEG−6 杏仁油(Labrafil.RTM. M 1944 CS)、PEG−6 オリーブ油(Labrafil.RTM. M 1980 CS)、PEG−6 ラッカセイ油(Labrafil.RTM. M 1969 CS)、PEG−6 水素化パーム核油(Labrafil.RTM. M 2130 BS)、PEG−6 パーム核油(Labrafil.RTM. M 2130 CS)、PEG−6 トリオレイン(Labrafil.RTM.b M 2735 CS)、PEG−8 トウモロコシ油(Labrafil.RTM. WL 2609 BS)、PEG−20 トウモロコシグリセリド(Crovol M40)、およびPEG−20 アーモンドグリセリド(Crovol A40)が含まれる。
【0164】
ポリグリセリル脂肪酸
[172] 脂肪酸のポリグリセロールエステルも、本発明の態様に用いるのに適した界面活性剤である。ポリグリセリル脂肪酸エステルのうち、好ましい疎水性界面活性剤にはポリグリセリルオレエート(Plurol Oleique)、ポリグリセリル−2 ジオレエート(Nikkol DGDO)、ポリグリセリル−10 トリオレエート、ポリグリセリルステアレート、ポリグリセリルラウレート、ポリグリセリルミリステート、ポリグリセリルパルミテート、およびポリグリセリルリノレエートが含まれる。好ましい親水性界面活性剤には、ポリグリセリル−10 ラウレート(Nikkol Decaglyn 1−L)、ポリグリセリル−10 オレエート(Nikkol Decaglyn 1−0)、およびポリグリセリル−10 モノ、ジオレエート(Caprol.RTM.PEG 860)、ポリグリセリル−10 ステアレート、ポリグリセリル−10 ラウレート、ポリグリセリル−10 ミリステート、ポリグリセリル−10 パルミテート、ポリグリセリル−10 リノレエート、ポリグリセリル−6 ステアレート、ポリグリセリル−6 ラウレート、ポリグリセリル−6 ミリステート、ポリグリセリル−6 パルミテート、およびポリグリセリル−6 リノレエートが含まれる。ポリグリセリルポリリシノレエート(Polymuls)も好ましい界面活性剤である。
【0165】
プロピレングリコール脂肪酸エステル
[173] プロピレングリコールと脂肪酸のエステルは、本発明の態様に用いるのに適した界面活性剤である。この界面活性剤クラスにおいて、好ましい疎水性界面活性剤にはプロピレングリコールモノラウレート(Lauroglycol FCC)、プロピレングリコールリシノレエート(Propymuls)、プロピレングリコールモノオレエート(Myverol P−06)、プロピレングリコールジカプリレート/ジカプレート(Captex.RTM.200)、およびプロピレングリコールジオクタノエート(Captex.RTM.800)が含まれる。
【0166】
ステロールおよびステロール誘導体
[174] ステロールおよびステロール誘導体は、本発明の態様に用いるのに適した界面活性剤である。好ましい誘導体にはポリエチレングリコール誘導体が含まれる。このクラスの好ましい界面活性剤はPEG−24 コレステロールエーテル(Solulan C−24)である。
【0167】
ポリエチレングリコールソルビタン脂肪酸エステル
[175] 多様なPEG−ソルビタン脂肪酸エステルを入手でき、それらは本発明の態様において界面活性剤として用いるのに適切である。PEG−ソルビタン脂肪酸エステルのうち、好ましい界面活性剤には、PEG−20 ソルビタンモノラウレート(Tween−20)、PEG−20 ソルビタンモノパルミテート(Tween−40)、PEG−20 ソルビタンモノステアレート(Tween−60)、およびPEG−20 ソルビタンモノオレエート(Tween−80)が含まれる。
【0168】
ポリエチレングリコールアルキルエーテル
[176] ポリエチレングリコールとアルキルアルコールのエーテルは、本発明の態様に用いるのに適した界面活性剤である。好ましいエーテルには、PEG−3 オレイルエーテル(Volpo 3)およびPEG−4 ラウリルエーテル(Brij 30)が含まれる。
【0169】
糖およびそれの誘導体
[177] 糖誘導体は、本発明の態様に用いるのに適した界面活性剤である。このクラスの好ましい界面活性剤には、スクロースモノパルミテート、スクロースモノラウレート、デカノイル−N−メチルグルカミド、n−デシル−β−D−グルコピラノシド、n−デシル−β−D−マルトピラノシド、n−ドデシル−β−D−グルコピラノシド、n−ドデシル−β−D−マルトシド、ヘプタノイル−N−メチルグルカミド、n−ヘプチル−β−D−グルコピラノシド、n−ヘプチル−β−D−チオグルコシド、n−ヘキシル−β−D−グルコピラノシド、ノナノイル−N−メチルグルカミド、n−ノニル−β−D−グルコピラノシド、オクタノイル−N−メチルグルカミド、n−オクチル−β−D−グルコピラノシド、およびオクチル−β−D−チオグルコピラノシドが含まれる。
【0170】
ポリエチレングリコールアルキルフェノール
[178] 幾つかのPEG−アルキルフェノール系界面活性剤、たとえばPEG−10−100 ノニルフェノールおよびPEG−15−100 オクチルフェノールエーテル、チロキサポール(Tyloxapol)、オクトキシノール、ノノキシノールを入手でき、それらは本発明の態様に用いるのに適切である。
【0171】
ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン(POE−POP)ブロックコポリマー
[179] POE−POP ブロックコポリマーは特異なクラスのポリマー系界面活性剤である。親水性POE部分と疎水性POP部分を明確に定められた比率および位置で含むこれらの界面活性剤の特異な構造は、本発明の態様に用いるのに適した広範な界面活性剤を提供する。これらの界面活性剤は種々の商品名で入手でき、それにはSynperonic PEシリーズ(ICI);Pluronic.RTM.シリーズ(BASF)、Emkalyx、Lutrol(BASF)、Supronic、Monolan、Pluracare、およびPlurodacが含まれる。これらのポリマーの一般名は“ポロキサマー(poloxamer)”(CAS 9003−11−6)である。これらのポリマーは次式をもつ:HO(C
2H
4O)
a(C
3H
6O)
b(C
2H
4O)
aH;ここで“a”および“b”はそれぞれポリオキシエチレン単位およびポリオキシプロピレン単位の数を表わす。
【0172】
[180] このクラスの好ましい親水性界面活性剤には、ポロキサマー108、188、217、238、288、338、および407が含まれる。このクラスの好ましい疎水性界面活性剤には、ポロキサマー124、182、183、212、331、および335が含まれる。
【0173】
ソルビタン脂肪酸エステル
[181] 脂肪酸のソルビタンエステルは本発明の態様に用いるのに適した界面活性剤である。これらのエステルのうち、好ましい疎水性界面活性剤にはモノラウリン酸ソルビタン(Arlacel 20)、モノパルミチン酸ソルビタン(Span−40)、モノオレイン酸ソルビタン(Span−80)、モノステアリン酸ソルビタンが含まれる。
【0174】
[182] モノパルミチン酸ソルビタン、すなわちビタミンCの両親媒性誘導体(ビタミンC活性をもつ)は、可溶化系において2つの重要な機能を果たすことができる。第1に、それは微細環境を調節できる有効な極性基を備えている。これらの極性基は、入手できる最も水溶性の大きい有機固体化合物のひとつであるビタミンC自体(アスコルビン酸)を形成するものと同一の基である:アスコルビン酸は水に約30wt/wt%まで溶解できる(たとえば塩化ナトリウムの溶解度にきわめて近い)。第2に、pHが上昇すると、それによりパルミチン酸アスコルビルの一部はより可溶性の塩、たとえばパルミチン酸アスコルビルナトリウムに変換される。
【0175】
イオン性界面活性剤
[183] カチオン性、アニオン性および双性イオン性界面活性剤を含めたイオン性界面活性剤は、本発明の態様に用いるのに適した親水性界面活性剤である。好ましいイオン性界面活性剤には、第四級アンモニウム塩、脂肪酸塩および胆汁酸塩が含まれる。具体的には、好ましいイオン性界面活性剤には、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、セチルピリジニウムクロリド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ドデシル硫酸ナトリウム、ジアルキルメチルベンジルアンモニウムクロリド、エドロホニウムクロリド(edrophonium chloride)、ドミフェンブロミド(domiphen bromide)、スルホコハク酸ナトリウムのジアルキルエステル、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム、コール酸ナトリウム、およびタウロコール酸ナトリウムが含まれる。これらの第四級アンモニウム塩は好ましい添加剤である。それらは有機溶媒(たとえば、エタノール、アセトンおよびトルエン)と水の両方に溶解できる。これは、調製およびコーティングプロセスを簡素化し、かつ良好な接着性をもつので、医療用デバイスのコーティングに特に有用である。水不溶性薬物は一般に有機溶媒に溶解される。
【0176】
脂溶性ビタミンおよびその塩類
[184] ビタミンA、D、EおよびKは、それらの種々の形態およびプロビタミン形態のものが脂溶性ビタミンとみなされ、これらのほか多数の他のビタミンおよびビタミン源または近縁物質も脂溶性であり、極性基および比較的高いオクタノール−水 分配係数をもつ。明らかに、全般的クラスのそのような化合物が安全な使用歴および高いベネフィット対リスク比をもち、それによりそれらは本発明の態様における添加剤として有用となる。
【0177】
[185] 以下の脂溶性ビタミン誘導体および/または供給源の例も添加剤として有用である:アルファ−トコフェロール、ベータ−トコフェロール、ガンマ−トコフェロール、デルタ−トコフェロール、酢酸トコフェロール、エルゴステロール、1−アルファ−ヒドロキシコレカルシフェロール、ビタミンD2、ビタミンD3、アルファ−カロテン、ベータ−カロテン、ガンマ−カロテン、ビタミンA、フルスルチアミン(fursultiamine)、メチロールリボフラビン、オクトチアミン(octotiamine)、プロスルチアミン(prosultiamine)、リボフラビン、ビンチアモール(vintiamol)、ジヒドロビタミンK1、ジ酢酸メナジオール、ジ酪酸メナジオール、二硫酸メナジオール、メナジオール、ビタミンK1、ビタミンK1オキシド,ビタミンK2、およびビタミンK−S(II)。葉酸もこのタイプのものであり、それは生理的pHでは水溶性であるが、それを遊離酸形態で配合することができる。本発明の態様に有用な脂溶性ビタミンの他の誘導体は、親水性分子との周知の化学反応によって容易に得ることができる。
【0178】
水溶性ビタミンおよびそれらの両親媒性誘導体
[186] ビタミンB、C、U、パントテン酸、葉酸、およびあるメナジオン関連ビタミン/プロビタミンは、それらの多様な形態の多くが水溶性ビタミンとみなされる。これらを疎水性部分または多価イオンとコンジュゲートまたは錯体形成させて、比較的高いオクタノール−水 分配係数および極性基をもつ両親媒性形態にすることもできる。この場合も、そのような化合物は低い毒性および高いベネフィットリスク比のものである可能性があり、これによりそれらは本発明の態様における添加剤として有用となる。これらの塩類も本発明の態様における添加剤として使用できる。水溶性ビタミンおよび誘導体の例には、限定ではなく、アセチアミン(acetiamine)、ベンホチアミン(benfotiamine)、パントテン酸、セトチアミン(cetotiamine)、シクロチアミン(cyclotiamine)、デクスパンテノール(dexpanthenol)、ナイアシンアミド、ニコチン酸、ピリドキサール 5−リン酸、アスコルビン酸ニコチンアミド、リボフラビン、リン酸リボフラビン、チアミン、葉酸、二リン酸メナジオール、メナジオン亜硫酸水素ナトリウム、メナドキシム(menadoxime)、ビタミンB12、ビタミンK5、ビタミンK6、ビタミンK6、およびビタミンUが含まれる。同様に、前記に述べたように、葉酸は塩として、生理的pHを含む広範なpH範囲にわたって水溶性である。
【0179】
[187] アミノ基または他の塩基性基が存在する化合物は、疎水性基を含む酸、たとえば脂肪酸(特に、ラウリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、または2−エチルヘキサン酸)、低溶解性アミノ酸、安息香酸、サリチル酸、または酸性脂溶性ビタミン(たとえば、リボフラビン)との単純な酸−塩基反応によって容易に修飾できる。そのような酸をビタミン上の他の基、たとえばヒドロキシル基と反応させてエステル結合などの結合を形成することにより、他の化合物を得ることができる。酸性基を含む水溶性ビタミンの誘導体は、疎水性基を含む反応体、たとえばステアリルアミンまたはリボフラビンとの反応で生成させることができ、本発明の態様に有用な化合物が作製される。ビタミンCへのパルミテート鎖の結合によりパルミチン酸アスコルビルが得られる。
【0180】
アミノ酸およびそれらの塩類
[188] アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、シスチン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、プロリン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、およびそれらの誘導体は、本発明の態様に有用な他の添加剤である。
【0181】
[189] あるアミノ酸は、それらの双性イオン性形態および/または一価もしくは多価イオンとの塩形態において、極性基、比較的高いオクタノール−水 分配係数をもち、本発明の態様に有用である。本発明の開示に関して、“低溶解性アミノ酸”は、緩衝化されていない水中において約4%(40mg/ml)未満の溶解度をもつアミノ酸を意味するものとする。これらには、シスチン、チロシン、トリプトファン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸、およびメチオニンが含まれる。
【0182】
有機酸ならびにそれらのエステルおよび無水物
[190] 例は、酢酸および無水物、安息香酸および無水物、アセチルサリチル酸、ジフルニサル(diflunisal)、サリチル酸2−ヒドロキシエチル、ジエチレントリアミン五酢酸二無水物、エチレンジアミン四酢酸二無水物、マレイン酸および無水物、コハク酸および無水物、ジグリコール酸無水物、グルタル酸無水物、アスコルビン酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、シュウ酸、アスパラギン酸、ニコチン酸、2−ピロリドン−5−カルボン酸、ならびに2−ピロリドンである。
【0183】
[191] これらのエステルおよび酸無水物は、有機溶媒、たとえばエタノール、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチルに可溶性である。水不溶性薬物は、これらのエステルおよび酸無水物を含む有機溶媒に溶解すると医療用デバイスに容易にコートすることができ、次いで高pH条件下で加水分解することができる。加水分解された酸無水物またはエステルは水溶性の酸またはアルコール類であり、薬物をデバイスから離して効果的に血管壁内へ運ぶことができる。
【実施例】
【0184】
[192] 本発明を以下の実施例にさらに記載する;それらは特許請求の範囲に記載する本発明の範囲を限定しない。
実施例1:水性エアゾール配合物
ラパマイシンの代表的な水性配合物を、下記の成分を用いて調製した。
【0185】
【表A】
【0186】
[193]
ブレンディング法:1000mlのこはく色メスフラスコ内で、250のプロピレングリコールと250のエタノールを均一になるまでブレンドする。次いでその後、まず100mgのラパマイシン、次いで20mgのポリソルベート80を、プロピレングリコールおよびエタノールの溶液に順次溶解する。水を添加して体積を1000mlにし、均一になってすべてのラパマイシンが溶解するまで撹拌または音波処理する。管理した温度で遮光下に保存する。
【0187】
実施例2:乾燥粉末配合物
[194] バッチ06RP68.HQ00008および06RP68.HQ00009。これら2配合物は、それぞれ微細な薬物(ラパマイシン)粒子のブレンドをラクトースキャリヤー粒子の表面に分散させたものである。各バッチの最終組成物は、それぞれ約2.60ミクロンおよび3.00ミクロンの平均直径をもつ薬物粒子を1%(w/w)含む。適切なサイズ範囲をもつ薬物粒子は、下記のように湿式磨砕(06RP68.HQ00008)またはジェットミリング(06RP68.HQ00009)により製造される。この例は1%(w/w)のラパマイシンを用いたが、0.5〜20%の範囲が実施可能である。キャリヤー粒子は2種類のキャリヤーのブレンドからなる:Respitose(登録商標) SV003、すなわち95.5%(w/w)で存在し、約30〜100ミクロン(同等な球体の直径)の粒子サイズをもつもの、およびRespitose(登録商標) LH300(Lactohale 300)、すなわち5.5%(w/w)で存在し、10ミクロン(同等な球体の直径)未満の粒子サイズをもつもの。ブレンディング後に、ブレンドをアッセイして均質性および1%の薬物含量を確認した。
【0188】
[195] 薬物粒子の凝集を減らし、薬物粒子のエアゾール化を補助するために、他の数種類の賦形剤を所望により含有させる。任意選択的な賦形剤には、リン脂質、たとえばジパルミチルホスファチジルコリン(DPPC)およびレシチン、ならびに脂肪酸金属塩、たとえばステアリン酸マグネシウムが含まれる。これらをキャリヤー粒子上に、大型キャリヤー粒子に対する賦形剤の重量割合0.01から0.5%までの範囲でコートすることができる。
【0189】
[196]
カプセル充填:バッチ06RP68.HQ00008およびバッチ06RP68.HQ00009からの粉末ブレンド20ミリグラムをサイズ#3 HPMCカプセルに装填して、医薬製品を製造した。これらのブレンドについて、5から35ミリグラムまでの薬物を#3サイズのカプセルに装填し、Plastiape(登録商標) RS01 Model 7またはPlastiape(登録商標) RS00 Model 8デバイスにおいて毎分60から100リットルまでの範囲の流速で作動させた際、装填したブレンドの95%より多量をカプセルから放出することができた。
【0190】
実施例3:C57BL6マウスに口腔咽頭吸引法(OPA)および経口胃管投与により投与した後の肺および血液中のラパマイシンの測定
[197] この試験は、きわめて高い目標量1mg/kgのラパマイシンを胃管投与および口腔咽頭吸引法(OPA)により投与した後の雄C57BL/6マウスにおいてラパマイシンの濃度を評価するために実施された。タンデム質量分析検出を伴なう液体クロマトグラフィー(LC−MS/MS)を用いた、マウスの血液中および肺ホモジェネート中のラパマイシンの分析方法を開発した。三重濃度を用いるラパマイシンの検量曲線を、マウス血液中において1ng/mL〜2000ng/mL、マウス肺ホモジェネート中において2ng/mL〜20,000ng/mLの間で分析した。正確度、精度および直線性は予想範囲内であった。
【0191】
[198] パイロット試験において、マウス当たり50μLの口腔咽頭吸引法による肺へのビヒクル送達の効率を、エバンスブルー色素の投与により評価した。肺のみに青色色素が存在するのが目視確認され、胃に青色色素が存在しないことは用いた方法で胃への送達が避けられたことを立証した。
【0192】
[199] ラパマイシンを雄C57BL/6マウス(N=6)に1.0mg/kgの用量で胃管により経口投与またはOPA投与した。経口用量は医薬用経口液体配合物Rapamune Oral(登録商標)(Pfizer)を用いて配合された。OPA用ラパマイシンは、被検品を適宜な体積のエタノールに溶解し、次いで適宜な体積の水を添加して、1mgラパマイシン/mLの濃度の10%エタノール溶液を調製することにより調製された。ラパマイシンを6匹の雄C57BL/6マウスの2グループにイソフルラン麻酔下でOPAにより投与した。追加グループの6匹のマウスにビヒクルのみ(水中の10%エタノール)を投与した。投与後1時間目に、経口およびOPAラパマイシン投与した6匹のマウスのグループを安楽死させ、心臓穿刺により血液を採取し、肺を摘出した。ラパマイシンまたはビヒクルのみをOPAにより投与した、残りの各グループのマウスを、さらに3日間観察した。72時間目の剖検で、心臓穿刺により血液を採取し、肺を摘出した。投与後72時間目に、ラパマイシン処理またはビヒクル処理したマウスに有害作用はみられなかった。
【0193】
[200] 採集した血液および肺ホモジェネートにおいてラパマイシンの濃度をLC−MS/MSにより決定した。ラパマイシンのOPA後、1時間目に、ラパマイシンの濃度は肺組織(3794±1259ng/g 組織)の方が血液中(641±220ng/ml)より約6倍高かった。類似量のラパマイシンを経口投与した後、1時間目の肺および血液のラパマイシン濃度はそれぞれ71±43ng/gおよび23±16ng/mLであった。OPA後の肺ホモジェネート中の濃度は、同じ高用量(1mg/kg)のラパマイシンを経口投与した後に測定したものより53倍高かった。このデータは、より低い用量のラパマイシン(組織を飽和しない用量レベル)を肺へ送達すると、経口投与により達成できるラパマイシンレベルを肺において生じ、ただし血液中のラパマイシンは経口投与で起きるより有意に少ないであろうということを示唆する。
【0194】
材料および方法
[201] 被検体:シロリムス(Rapamune,ラパマイシン) MW 914.172,C
51N
79NO
12,CAS番号:53123−88−9。供給業者(経口胃管投与用):Rapamune Oral(登録商標)(Pfizer)経口投与用,ロットNo.:MWGT,有効期限:07/16。供給業者(OPA用):ラパマイシン(シロリムス)固体,LC Laboratories,マサチュセッツ州ウーバン,ロットNo.:ASW−127,有効期限:12/2023。
【0195】
[202] 動物:雄C57BL/6マウス,おおよそ8週齢,Charles River Laboratories,Incから,ノースカロライナ州ローリー。動物にCertified Purina Rodent Chow #5002を与え、水道水を自由に摂取させた。各バッチの餌の栄養素レベルおよび可能性のある混入物の分析を供給業者が実施し、試験ディレクターが検査し、試験記録に残した。餌をおおよそ60〜70°Fに保存し、使用期間はミリング日から6か月を超えなかった。マウスを(ケージ当たり1匹)、水ボトルを受けるステンレススチールバーリッドを備えたポリカーボネートケージに収容した。ケージサイズはマウス用におおよそ11.5”×7.5”×5”高さ(床スペース70平方インチ)である。床敷(contact bedding)はSani−Chips硬材チップ(P.J.Murphy Forest Products Co.;ニュージャージー州モントビル)であった。マウスを試験に用いる前5日間、隔離した。動物を隔離から開放する前に獣医または資格をもつ被指定者が検査した。RTI動物室の温度および相対湿度は、自動システム(Siebe/Barber−Colman Network 8000 System,Revision 4.4.1 for Signal(登録商標)ソフトウェア付き[Siebe Environmental Controls(SEC)/Barber−Colman Company;イリノイ州ラヴズ・パーク])を用いて継続的にモニター、管理および記録された。目標環境範囲は、温度については64〜79°F(18℃〜26℃)、相対湿度30〜70%、1日につき12時間の明サイクルであった。存命期の終わりに二酸化炭素への過剰曝露によりマウスを安楽死させた。
【0196】
[203] 試験用化学薬品の調製:エバンスブルーを無菌蒸留水中に0.5% w/vで調製した。Rapamune Oral(登録商標)を供給されたままで経口投薬用として投与した。ラパマイシン(固体)をエタノールに溶解し、無菌蒸留水で希釈して10%エタノール中0.5mg/mLの最終濃度を得た。
【0197】
[204] 投薬:各動物を投薬前に秤量して投与量を決定した。単回胃管用量を、先端ボール付き(ball-tipped)20−Gステンレススチール胃管投与針(Popper & Sons Inc.,ニューヨーク州ニュー・ハイド・パーク)を備えた100−μLガラス注射器(Hamilton,ネバダ州リノ)を用いて投与した。各動物に投与した量は、充填注射器の重さから空の注射器の重さを差し引いて決定された。投薬時間を記録した。動物への投薬は適宜な時点で血液を採集できるように間隔をおいた。各グループに投与した配合物量を以下に示す。
【0198】
[205] 口腔咽頭吸引グループの動物には、単回量のラパマイシン(50μL)を各マウスにイソフルラン麻酔下で先端ボール付き20−Gステンレススチール胃管投与針(Popper & Sons Inc.,ニューヨーク州ニュー・ハイド・パーク)を備えた100μLガラス注射器(Hamilton,ネバダ州リノ)を用いて投与した。マウスを投薬前に秤量し、投与したラパマイシンの重量を記録した。各マウスをイソフルランで麻酔し、口を開いた状態で拘束した。鉗子で舌を口の片側へ保持し、投与量を徐々に口腔の遠位部内へ注入した。確実に吸入させるために、2呼吸の間、鼻孔を指で覆った(Rao et al., 2003)。
【0199】
【表1】
【0200】
[206] 血液および肺の試料の採集:試験終了時(投薬の1または72時間後)、マウスをCO
2曝露により麻酔し、抗凝固剤としてEDTA二カリウムを用いて心臓穿刺により血液を採集した。肺組織を摘出し、右肺と左肺に分割した。左肺を分析に用い、右肺をさらなる分析用に液体窒素中で急速凍結して−70℃に保存した。
【0201】
[207] ラパマイシンについてのLC−MS/MSによる試料分析:肺および血液中のラパマイシンの分析のためのLC−MS/MS法を、公開されたWu et al. (2012)の方法に基づいて作成した。血液および肺ホモジェネートの体積を公開された方法から実質的に減らした。トリアムシノロン(triamcinolone)を内部標準として用いた。
【0202】
[208] 秤量した肺試料をホモジナイザー内において2.8−mmボールベアリングを用いて組織+脱イオン水(1:3 w/v)でSPEX SamplePrep 2010 Geno/Grinderでホモジナイズすることにより、肺ホモジェネートを調製した。
【0203】
[209] 各標準品が交互のストック標準品からのものになるように標準品の濃度を調整した。それぞれ三重に作成した6点検量曲線を被検体定量に用いた。重み付きまたは重みなしの単純線形回帰モデルを曲線あてはめに用いた。決定した濃度範囲は血液では1〜2000ng/mL、肺ホモジェネートでは2〜2000ng/mLであった。
【0204】
[210] 下記の方法性能パラメーターを許容できるとみなした;濃度−応答関係について≧0.98の決定係数(coefficient of determination)r
2;公称値の≦±15%(LOQを超える濃度について)または≦±20%(LOQにおける濃度について)の正確度。r
2はすべての分析において0.999より大きかった。
【0205】
[211] 30μLのマトリックス、30μLのスパイキング溶液(ブランクおよび試料についてメタノール)、10μLの内部標準品溶液(MeOH中)および90μLのMeOHをミクロ遠心チューブにピペットで入れ、短時間ボルテックス撹拌し、次いで10,000RPM、約4℃で6分間遠心した。アリコート(90μL)の上清をLCバイアルインサートへ移し、次いでLC−MS/MSにより分析した(表2)。
【0206】
【表2】
【0207】
[212] データの収集およびレポーティング:Debra(商標)システム バージョン5.5.10.72(Lablogic Systems Ltd.,英国シェフィールド)で試験データを収集し、レポートした。これには、動物の体重、投与量、投与時間、および試料採集時間に関するデータが含まれる。投与量および試料採集時間の計算をDebra(商標)システムでレポートした。
【0208】
結果
[213] ラパマイシン分析:ラパマイシンの分析を、血液および肺ホモジェネートの試料体積30μLに設定した。クロマトグラム例を血液中および肺中のラパマイシンおよび内部標準について示す(
図1および2)。試験試料の調製前に、方法の性能を確認するために肺および血液について三重測定検量曲線を作成した。検量範囲は血液については1.0〜2000ng/mL、肺ホモジェネートについては1〜20,000ng/mLであった。3体積の水中でホモジナイズした肺組織1gを用いて肺ホモジェネートを調製して、1:4ホモジェネートを得た。血液、肺ホモジェネート、および溶媒について、検量曲線を
図3および4に示す。
【0209】
[214] 口腔咽頭吸引法:ラパマイシンを口腔咽頭吸引法により投与する前に、OPAによりその用量が肺へ送達されたことを確認するためにエバンスブルーの投与を用いた。マウスをイソフルランで麻酔し、ブラントニードルを備えた注射器を用いてエバンスブルーをOPAにより投与した。OPA直後にマウスを安楽死させ、肺および胃を目視検査して、エバンスブルー色素が肺へ送達され、胃へは送達されなかったことを確認した。4匹のマウスに首尾よくエバンスブルーが投与されて、色素はすべて肺に存在し、胃には存在しないことが明らかであった。
【0210】
[215] ラパマイシン投与:投与された投与溶液の重量は、投与溶液を装填した注射器を投与前に秤量し、そして投与後に秤量することにより決定された。投与された投与溶液の重量を用いて、投与されたラパマイシンの量を計算した。投与時点を0と記録した。グループ2および3の動物を、投与後1時間目に安楽死させた。グループ4および5の動物を投与後72時間観察した。いずれのグループにも有意の臨床徴候はみられなかった。
【0211】
[216] 血液中および肺中のラパマイシン分析:採集したすべての試料においてマウスの血液中および左肺ホモジェネート中のラパマイシンを分析した(
図6および7)。各動物からの右肺試料を可能性のあるさらなる分析のために残しておいた。試料の概要データを
表3に示す。
【0212】
【表3】
【0213】
[217] すべての試料セットについて、標準品セット、重複測定試料1、標準品セット、重複測定試料2、標準品セットの順で三重測定検量曲線を分析した。ラパマイシンのOPA後、1時間目に、ラパマイシンの濃度は肺組織(3794±1259ng/g 組織)の方が血液中(641±220ng/ml)より約6倍高かった。類似量のラパマイシンを経口投与した後、1時間目の肺および血液のラパマイシン濃度はそれぞれ71±43ng/gおよび23±16ng/mLであった。OPA後の肺ホモジェネート中の濃度は、同じ高用量(1mg/kg)のラパマイシンを経口投与した後に測定したものより53倍高かった。
【0214】
考察
[218] この試験は、市販の経口配合物中における胃管投与により、および10%水性エタノール中に調製した懸濁液としての口腔咽頭投与(OPA)によりラパマイシンを投与した後の、血液中および肺組織中のラパマイシンの濃度を調べた。ラパマイシン処理またはビヒクル処理したマウスに、OPAによる投薬の72時間後まで有害作用はみられなかった。ラパマイシンの投与前に、分析法を開発し、OPAにより肺内へ色素が投与されることを確認した。OPA後の肺におけるラパマイシンの濃度は血液中より6倍高かった。OPA後72時間目に、ラパマイシンは血液中では定量限界未満であったが、肺では検出可能であった。この試験は、ラパマイシンが肺投与後に全身に存在すること、および肺への送達後の初期および後期の時点で肺組織濃度が血液中の濃度を大幅に上回ることを示した。
【0215】
[219] これらの結果はさらに、肺へ直接送達されたラパマイシンは血液中と比較して肺組織において予想外に高い局所薬物濃度を達成することを立証する。この結果は、ラパマイシンの薬理について知られていることからは全く予想されなかった;それによれば、ラパマイシンは身体組織全体に均一に分布し、それの高い親油性のため肺からは急速に消失するはずであることが知られているので、肺組織と血液中の薬物濃度がほぼ等しいと予測される。したがって、これらの結果は、肺へのラパマイシンの直接投与は療法効果を得るのに十分なほど高い送達量を達成できるはずであり、一方で同時に、ほとんど検出できないほどの全身存在量を達成でき、それにより経口投与に関連する薬物への全身曝露による毒性が排除されることを指摘する。以前の研究からみて肺自体に対する毒性も関心事であるが、ここでの結果はさらに予想外に、比較的高い量のラパマイシンが肺組織に対して急性毒性をもたなかったことを指摘する。
【0216】
実施例4:ラパマイシンはTSC2変異細胞の生存性を阻害し、S6リン酸化を阻害する
[220] 血管筋脂肪腫(AML)由来のTSC2欠損TRI−AML101細胞系に対するラパマイシンの抗増殖活性を試験した。TRI−AML101細胞系は、Dr.Elizabeth Henske(Fox Chase Cancer Center,ペンシルベニア州フィラデルフィア)により提供されたTSC2欠損初代ヒトAMLから誘導された。この腫瘍細胞を2工程プロセスにより不死化した。最初に、細胞にHPV16 E6およびE7オープンリーディングフレームならびにネオマイシン耐性カセットをコードする両栄養性レトロウイルスLXSN16E6E7を感染させた。細胞を増殖させ、ネオマイシン選択した。個々のクローンを単離し、凍結した。次に、ハイグロマイシン耐性カセットを含むヒトテロメラーゼ遺伝子(hTERT)(pLXSN hTERT−hygプラスミド)をトランスフェクションし、安定系統をハイグロマイシン選択により選択した。
ラパマイシンの活性を、TRI−AML101細胞において細胞生存性の10ポイント用量応答分析を実施することにより試験した。96ウェルプレートのウェル当たり、50μLの増殖培地(DMEM,10%のFBS、および1%のペニシリン/ストレプトマイシン)中2000個の細胞を播種した。細胞を播種した後、24時間目に、さらにラパマイシン(0.0005〜5000nM,10倍希釈液,0.1%の最終DMSO濃度)またはDMSOのみを含有する増殖培地50μLを細胞に添加した。化合物添加後72時間目に、相対細胞生存性をCellTiter−Glo(登録商標)発光アッセイ(Promega)により決定し、ビヒクル(DMSO)処理対照細胞に対比したパーセントとして表示した。ラパマイシンは0.05nMという低い濃度で生存性を阻害した(
図7,下)。リン酸化S6のレベルをウェスタンブロットにより測定することによって、mTOR経路の阻害も立証された。AML細胞を20nMのラパマイシンと共に24時間インキュベートした。次いでウェスタンブロット分析を実施し、ラパマイシンが効果的にS6リン酸化を阻害することが立証された(
図7,上)。
【0217】
実施例5:ラパマイシンの経口およびOPA投与後のマウス肺におけるS6リン酸化
[221] 前記で考察したように、経口投与およびOPA後の肺および血液中におけるラパマイシンの組織分布を示す本発明者らの実験は、肺へのラパマイシンの直接投与は療法効果を得るのに十分に高い送達量を達成できるはずであり、一方で同時にきわめて低い全身薬物曝露が達成され、それにより同時に療法効果が改善されかつラパマイシンの経口投与に関連する毒性の多くが排除されることを立証した。この方法を確証するために、マウス肺組織におけるリン酸化されたS6タンパク質の存在をmTOR活性のバイオマーカーとして利用した。用いたマウス系統(C57bl/6)において、マウスの気道および肺胞上皮の細胞は構成性活性(リン酸化された,“p”)S6タンパク質をもつ。S6タンパク質は一般に、mTORC1の下流にあるS6Kによりリン酸化され、たとえば上皮成長因子(EGF)、AKT、ERKおよびRSKなどの成長因子の下流で活性化される。mTORC1は、脂質、タンパク質の生合成およびオルガネラなどの同化プロセスを刺激し、オートファジーなどの異化プロセスを抑制することにより、細胞の成長および増殖を促進する。mTORC1経路は、タンパク質および脂質の合成ならびにオートファジーなどの広範なプロセスを調節するために、成長因子、酸素、アミノ酸およびエネルギー状態を含めた細胞内および細胞外シグナルを感知および統合する。mTORC1はラパマイシンに対して著しく感受性である。
【0218】
[222] この試験では、前記のようにビヒクル(n=6)、またはOPA(n=6)もしくは経口胃管投与(n=6)により投与された1mg/kgのラパマイシンで処理したC57bl/6マウスから、投薬後の2時点、すなわち1時間目および72時間目に肺組織を採取した。前記で考察したように、OPA後1時間目に、ラパマイシンは血液中に641ng/ml、肺に3794ng/g(組織)で検出され、72時間目にもなお肺には12.5ng/gで検出でき、一方、血液中にはその時点で検出できなかった。ところが、経口(胃管)投与後には、1時間目にラパマイシンは血液中に23ng/ml、肺に71ng/g(組織)で検出され、72時間目には肺または血液のいずれにも検出できなかった。
図8Aのデータにより示すように、1時間目にはリン酸化されたS6(pS6)のレベルはOPAと経口投与の両方のラパマイシンによって実質的に低下し、72時間目にはOPAについては抑制されたままであった。これらのマウスは構成性活性mTORシグナル伝達をもつので、pS6はビヒクル対照において最高であった。これらのデータは、肺において約70ng/gの薬物を達成するのに十分なラパマイシンの送達量がpS6タンパク質により測定した肺組織におけるmTORシグナル伝達を実質的に無効にすること、および12.5ng/gという低いレベルでmTORシグナル伝達が抑制状態を維持することを示す。これらの結果は、吸入ラパマイシンは経口投与ラパマイシンよりはるかに低い用量で送達でき、同時に高い療法効果およびきわめて低い毒性を達成することを立証することにより、少なくとも一部は異常に高いmTOR経路活性を特徴とする疾患および障害の処置のために吸入ラパマイシンを利用する本発明者らの方法を確証する。
【0219】
実施例6:吸入ラパマイシンは肺組織におけるS6リン酸化を阻害する
[223] 正常Sprague−Dawleyラットに0.354mg/kgのラパマイシン(LAM−001)目標量に達するように吸入により投薬し(N=36)、6匹のサブグループの動物を下記の時点でと殺した:試験1日目の(1)投与前、(2)投与途中、(3)投与直後、(4)投与後2時間目、(5)投与後4時間目、および(6)投与後12時間目。Charles Riverがと殺動物それぞれについてそれらのサブグループ時点でのラパマイシンの肺濃度を決定し、各グループについての平均ラパマイシン濃度を組織のグラム数当たりのナノグラム数(ng/g)で次表にレポートする。
【0220】
【表4】
【0221】
[224] 各動物からの肺試料を採集し、急速凍結した。個々の凍結肺試料を、プロテアーゼおよびホスファターゼの阻害剤を含む1×RIPA緩衝液中でホモジナイズした(Qiagen TissueLyser LT,製造業者のプロトコルに従った)。肺ホモジェネートを、mTOR下流ターゲットであるホスホ−S6リボソームタンパク質(Ser240/244)(Cell Signaling Technology抗体,クローンD68F8)のウェスタンブロット分析により、総S6タンパク質S6リボソームタンパク質(Cell Signaling Technology抗体,クローン5G10)レベルと比較して分析した。それぞれの肺試料についてウェスタンブロットイメージをNIH imageJ v1.48により分析して、それぞれの抗体反応性/強度を求め、総S6に対するS6リン酸化(S6−P)の強度比を得た。時点グループ(X軸)により編成した試料についてのS6−P/総S6比(y軸)を、one grouping variable scatter plot vertical graph(GraphPad,バージョン4.0)上にプロットし、グループ内のすべての試料を中実黒点(●)により表わし、平均を各グループ内の黒点間の水平線により示す(
図8B)。
【0222】
実施例7:吸入ラパマイシンは肺組織への予想外の生体分布を示す
[225] ラパマイシンは高用量の経口またはIV投与後に肺に集まることが文献に報告されている(Yanez, J. et. al., Pharmacometrics and Delivery of Novel Nanoformulated PEG-b-poly(ε-caprolactone) Micelles of Rapamycin, Cancer Chemotherapy and Pharmacology, 61 (1), 133-144 2007)。単回量の10.0ミリグラム/キログラム(mg/kg)をSprague−Dawley(SD)ラットに投与した後、組織区画全体に分布する時間(24時間)をおいた後の肺におけるラパマイシンの量は721ナノグラム/グラム(ng/g)、すなわち血液中の濃度のおおよそ19倍であったと研究は報告している(
表5)。
【0223】
【表5】
【0224】
[226] それ以前のNapoliによる別個の研究(Napoli, K., et. al., Distribution of Sirolimus in Rat Tissue, Clinical Biochemistry, 30(2):135-142, 1997)において、ある範囲の用量のラパマイシンがSDラットに経口および静脈内(IV)投与経路により1日1回投与された。14日間のIV投与後、肺組織におけるラパマイシン濃度は用量に比例して200から900ng/gまでの範囲、すなわち血液中の濃度よりおおよそ23〜44倍高かった。しかし、経口投与については、肺−対−血液のラパマイシン濃度比はほぼ同じであったけれども、同用量についてはるかに低いレベルのラパマイシンが肺に蓄積した(
表6)。
【0225】
【表6】
【0226】
[227] 本発明者らが吸入による投与後のラパマイシンの生体分布を調べた際、肺−対−血液比は類似するけれども、Napoli および Yanez に基づいて予測したよりはるかに多量にラパマイシンが肺に蓄積することを本発明者らは見出した。最初の試験で、ラパマイシンをSDラットに吸入により2種類の用量(1)1.0mg/kg/日および(2)0.0360mg/kg/日で1日投与した。組織区画に分布させるために12時間おいた後、高用量についての肺におけるラパマイシントラフ濃度は約14,800ng/gであり、肺におけるラパマイシン濃度は血液中におけるよりおおよそ23倍高かった(
表7)。低用量については、肺における濃度は血液中におけるより24倍高かった(
表7)。
表8は、先の実験で用いたものと同じ2種類の用量、すなわち1.0mg/kg/日および(2)0.0360mg/kg/日で1日1回、5日間、反復投与した後のトラフ肺濃度、最大およびトラフ血中濃度を示す。
【0227】
【表7】
【0228】
【表8】
【0229】
[228] この最初の試験の結果は、吸入による肺へのラパマイシンの送達は、別経路、たとえば先の Yanez および Napoli に従った経口または静脈内によって達成できるより顕著に高い薬物濃度を肺組織において生じたことを指摘する。さらに、吸入による送達に伴なう肺における高いラパマイシン量は、Yanez および Napoli から予測されたものに基づくより予想外に高かった。静脈内および肺の投与経路は両方とも高いラパマイシン生物学的利用能をもつので、吸入された1mg/kgの用量は Napoli の0.4mg/kg/日 IV用量により観察されたものの約2.5倍の肺濃度に達すると予測されたであろう。そうではなく、吸入によって投与した場合は肺におけるラパマイシンのレベルはおおよそ17倍高かった(
表7,吸入による1mg/kg/日が肺において薬物14,831ng/gを生じたのを、
表6(Napoli),0.40mg/kg/日のIVが肺において868ng/gを生じたのと対比されたい;14,831/868=17)。同様に、Yanez により静脈内投与された10mg/kgは1mg/kgの吸入用量により達成されるものより10倍高い肺濃度に達すると予測されたであろう。そうではなく、その静脈内用量は吸入用量よりおおよそ20倍
低かった(
表7,吸入による1mg/kg/日が肺において薬物14,831ng/gを生じたのを、
表5(Yanez),10mg/kg/日のIVが肺において721ng/gを生じたのと対比されたい;14,831/721=21)。これは、おそらく肺における代謝活性が低いこと、および肺組織区画から全身循環中へのラパマイシンの受動または能動輸送が遅いことによるものであろう。厳密なメカニズムに関係なく、これらの結果は、肺へのラパマイシン送達が持続的に高い局所濃度をもたらし、一方で循環濃度は低い状態に維持されることを指摘する。
【0230】
[229] この最初の試験の結果を追加のラット試験およびイヌ試験において反復および拡張した。これらの後続試験は、正常なSprague−Dawley(SD)ラットおよびビーグル犬に吸入により投与した、乳糖とブレンドした1%(w/w)ラパマイシンの乾燥粉末エアゾール配合物の反復投与毒性および毒性動態を調べるように構成された。第1試験で、標準的な円筒状フロースルー型の鼻限定吸入チャンバーを用いて乾燥粉末配合物をSDラットに投与した。連続5日間、動物に被検品を毎日300分間施して、0.354mg/kgのラパマイシン目標量を達成した。この試験のために2組の動物を用いて毒性動態測定を行なった。第1組の動物に試験1日目に300分間投薬し、下記の時点でと殺した6匹のサブグループの動物から血液試料(N=36)および肺試料(N=36)を採取した:(1)投与前、(2)投与途中、(3)投与直後、(4)投与後2時間目、(5)投与後4時間目、および(6)投与後12時間目。第2組の動物に連続5日間、300分間投薬し、試験5日目に、下記の時点でと殺した6匹のサブグループの動物から血液試料(N=36)および肺試料(N=36)を採取した:(1)投与前、(2)投与途中、(3)投与直後、(4)投与後2時間目、(5)投与後4時間目、および(6)投与後12時間目。全血試料における最大ラパマイシン濃度(ng/ml)および肺組織試料における最大ラパマイシン濃度(ng/g)、ならびに投薬後12時間目のラパマイシン濃度。
【0231】
[230] SDラットおよびビーグル犬に28日間投与した乾燥粉末配合物の反復投与毒性および毒性動態を評価するために、第2の反復曝露試験を実施した。
[231] ラット試験には、前記に従って標準的な円筒状フロースルー型の鼻限定吸入チャンバーを用いた。連続28日間、動物を毎日300分間、被検品に曝露して、それぞれ0.167、4.75および9.50mg/kgのラパマイシン目標量を達成した。3種類の投薬グループそれぞれについて、1組の動物(N=36)に連続28日間、毎日300分間投薬した。試験1および28目に、6匹のサブグループの動物から下記の時点で血液試料を採取した:(1)投与前、(2)投与途中、(3)投与直後、(4)投与後2時間目、(5)投与後4時間目、(6)投与後12時間目、および(7)投与後24時間目。
【0232】
[232] イヌ試験には、セントラルプレナム(central plenum)およびデリバリーアームからなるポジティブフローデリバリーシステム(positive flow delivery system)(PFDS)を用いた。セントラルプレナムは、導入チューブと排出チューブが付いた口腔鼻腔曝露マスク付きの5つのデリバリーアームが取り付けられた別個の口を備えたモジュール型デザインのものであった。そのマスクをイヌの鼻鏡部(muzzle)上に、鼻がマスクの内側にあって空気の出入りが可能になるようにフィットさせた。曝露に際して、動物にハーネスを装着し、拘束プラットホーム上に配置した。イヌの横方向移動を制限するために、ハーネスをプラットホームの2本のサイドポールに結び付けた。動物が寝返りをうつのを阻止するために、ハーネスの前部をプラットホーム前方のフックにゆるく取り付けた。イヌを被検品に毎日60分間曝露して、それぞれ0.020および0.053mg/kgのラパマイシン目標量を達成した。それぞれの投薬グループについて、1組の動物(N=6)に毎日60分間、連続28日間、投薬した。試験の1および28日目に、6匹のサブグループの動物から下記の時点で血液試料を採取した:(1)投与前、(2)投与後(T=0)、(3)投与後1時間目、(4)投与後4時間目、(5)投与後8時間目、(6)投与後12時間目、および(7)投与後24時間目。29日目に、イヌをと殺し、ラパマイシン含量の分析のためにそれらの肺組織の一部を摘出し、細切した。
【0233】
[233] 全血中のラパマイシンの最大濃度(ng/ml)およびラパマイシンのトラフ濃度を、ヒトの投薬への外挿と共に以下に提示する。この表には、28日間の反復投与後のイヌの肺におけるラパマイシンのトラフレベル(ng/g)も含まれる。
【0234】
【表9】
【0235】
* ラット 28日間、1日1回、反復投与試験7300225 − 血液データは28日目の平均である;
** イヌ 28日間、1日1回、反復投与試験7300227 − 血液および肺のデータは28日目の平均である;
** 血液および肺の推定値は7300225および7300227の試験結果から外挿したものである。
【0236】
[234] 注目すべきことに、ここに提示する結果に基づけば、ヒトにおいて肺におけるラパマイシン約5ng/gの範囲の療法有効量を、吸入による肺への約100マイクログラム未満の投与によって達成できるであろう。これに対し、匹敵する肺濃度を Yanez に従った経口送達によって達成するには4〜16ミリグラムが必要であろう。匹敵する肺濃度を Napoli に従ったIV送達によって達成するには60〜600マイクログラムが必要であろう。
【0237】
[235] さらに、ここに提示する結果に基づけば、ラパマイシンを吸入により送達する場合、肺における約5ng/gの療法範囲を、肺−対−血液分配比13:1で達成できるであろう。これは、ラパマイシンが肺組織において療法範囲内にある一方で、血液中には最大濃度650〜1500ピコグラム/mlのラパマイシンが循環しているにすぎないことを意味する。ラパマイシンに対するこの低い全身曝露は、経口またはIV投与に必要なより高いレベルの投薬から生じる、これよりはるかに高いラパマイシン全身曝露に関連する毒性および有害な薬物事象を低減すると予想される。
【0238】
[236] まとめると、ここに記載する結果は、吸入による肺へのラパマイシン投与が、低い薬物全身曝露と合わせて肺における約5ng/gの範囲の療法有効量を達成するために低いラパマイシン要求量を有利に提供し、その結果、ラパマイシンについて顕著に改善された療法指数が得られることを立証する。
【0239】
実施例8:吸入可能な組成物を得るためのラパマイシンのサイズ低減
[237] 湿式磨砕またはジェットミリング法のいずれかを用いて、ラパマイシンの粒子サイズを2.0μm<Dv50<3.0μmの目標範囲に低減した。ジェットミリングには、実験室規模のMCOneユニット(Jetpharmaから)を下記の操作条件で用いた:ベンチュリ(venturi)圧力2〜4バール、ミリング圧力3〜5バール、供給速度90g/時。湿式磨砕のために、精製水を用いて供給材料懸濁液を調製した。マイクロフルイディクス高圧ホモジナイザー(microfluidics high pressure homogenizer)をサイズ低減工程に用い、得られた懸濁液を噴霧乾燥した。湿式磨砕法の詳細を以下に述べる。
【0240】
[238] 湿式磨砕法のサイズ低減工程に用いた高圧ホモジナイザーは、補助加工モジュール(200ミクロン)を備えたパイロット規模のマイクロフルイディクス高圧ホモジナイザーであり、100ミクロンのインタラクションチャンバーを用いた。このユニットを約455バール(増圧器モジュール液圧は約30バール)で作動させた。マイクロフルイダイゼーションの後、液体を噴霧乾燥により除去して乾燥粉末を製造した。実験室規模の噴霧乾燥器SD45(BUECHI,モデルB−290 Advanced)に2つの流体ノズル(キャップおよび直径は、それぞれ1.4および0.7mm)を取り付けた。直列の2つのサイクロン(第1は標準Buchiサイクロン、第2は高性能Buchiサイクロン)を用いて乾燥製品を採集した。この噴霧乾燥ユニットを窒素で、シングルパスモードにおいて、すなわち乾燥用窒素の再循環なしに操作した。窒素を吹きつけるアスピレーターをそれの処理能力の100%に設定した(最大処理能力における流速はおおよそ40kg/時である)。霧化用窒素の流速をロータメーターにおける数値40±5mmに調整した。生成物懸濁液を供給する前に、噴霧乾燥器を精製水で安定化し、その間、流速を6ml/分(蠕動ポンプにおいて20%)に調整した。目標とする出口温度(45℃)に達するように入口温度を調整した。温度が安定化した後、噴霧乾燥器の供給材料を精製水から生成物懸濁液に切り換え(安定化に際して用いたものと同じ流速を維持しながら)、目標とする出口温度に達するように入口温度を再び調整した。原料懸濁液が終了した時点で、供給ラインをすすいで制御下での運転停止を行なうために、供給材料を再び精製水に切り換えた。両サイクロン下の採集フラスコ内の乾燥製品を秤量し、高圧ホモジナイザーに供給した懸濁液中の総固体に対する乾燥製品の質量パーセントとして収率を計算した。
【0241】
[239] 粒度分布をレーザー回折により分析した。固相特性分析(多形および純度について)を高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)、X線粉末回折(XRPD)、および示差走査熱量測定(mDSC)により実施した。含水率をカール−フィッシャー法により決定した。
【0242】
[240] ジェットミリングにより、下記の
表10に示すように1.5ミクロンのDv10、2.7ミクロンのDV50、および4.9ミクロンのDv90をもつ単分散粒度分布の結晶性ラパマイシン粉末が製造された。
【0243】
[241] 湿式磨砕により、1.0ミクロンのDv10、2.4ミクロンのDV50、および5.0ミクロンのDv90をもつ単分散粒度分布の結晶性ラパマイシン粉末が製造された(
表11)。
【0244】
[242] 両方法とも目標範囲内のラパマイシン粒子を製造し、いずれの方法もラパマイシンの多形または純度に対する影響を示さなかった。下記の表はジェットミリングおよび湿式磨砕法についてのインプロセスコントロールデータを示す。これらのデータは、両方法ともAPI純度または多形に影響を及ぼすことなく目標範囲内のAPI粒子サイズを生成できたことを示す。
【0245】
【表10】
【0246】
【表11】
【0247】
実施例9:乾燥粉末組成物のエアゾール性能試験
[243] 前記実施例で製造したカプセルを下記の表に示すデバイスに挿入して作動させた。バッチ06RP68.HQ00008およびバッチ06RP68.HQ00009からのブレンドを収容したデバイス/カプセルから送達されるエアゾール性能を、USPの905および601章に記載される方法に従って次世代インパクター(NGI)を用いて特性分析した。エアゾールを毎分60および100リットル(LPM)の流速で試験した。細粒量(FPD)および細粒分(FPF)を下記の表に示す。空気力学的質量中央直径(MMAD)および幾何標準偏差(geometric standard deviation)(GSD)をも示す。
【0248】
【表12】
【0249】
【表13】
【0250】
【表14】
【0251】
【表15】
【0252】
[244] これらのエアゾール性能データに基づけば、湿式磨砕した薬物粒子が好ましい。それらは、より高い細粒量、より高い細粒分を生じ、中心および末梢の両方の肺領域内への侵入を示しかつ口腔沈着がより少ないと思われる粒度分布を生じた。
【0253】
実施例10:ラパマイシンの薬物動態モデリング
[245] 前記に示した06RP68.HQ00008(湿式磨砕)+Plasitape RS01モデルのエアゾール性能、および実施例3の動物実験の結果に基づいて、ヒトの肺への吸入ラパマイシンの直接送達は同様に療法効果があるほど十分に高い持続的肺濃度をもたらし、ただし全身曝露は低く(低い血中濃度)、これにより全身曝露による副作用が効果的に最小限に抑えられると予想できる。
表11の配合物およびDPIインヘラーを用いて反復QD(1日1回)投薬した後のヒトの血液および肺における濃度を予測するために、2コンパートメント薬物動態モデルを開発した。薬物動態モデルについて、Rapamune(登録商標)(NDA 21−110、およびNDA 21−083)承認審査概要(summary basis for approval)からのヒトPKパラメーターを用いた:分布体積を780リットルと推定し、クリアランスは0.0003/分であり、排出半減期は42.3時間であった(ラパマイシン静脈内投薬と同等と推定)。肺からのラパマイシン吸収半減期を、肺吸収データを入手できる他の高親油性化合物、たとえばプロピオン酸フルチカゾン(fluticasone propionate)と同様におおよそ0.5時間と推定した。肺に沈着するラパマイシンの生物学的利用能をおおよそ100%と推定した。口腔咽頭沈着により、または粘膜毛様体クリアランス(mucociliary clearance)による上気道からの離脱により胃腸経路で吸収されたラパマイシンの生物学的利用能を、Rapamune(登録商標)承認審査概要にレポートされたように14%と推定した。
表11に示すように毎分60リットルの流速での一般的なヒト呼吸動作について、細粒量は57マイクログラムであり、細粒分は40%であった。
【0254】
[246] このモデルは、
図9に示すように11日後に平均定常状態濃度に達すると予測する。この図から、肺へ送達した1日1回、57マイクログラムの反復投与によりおおよそ50ピコグラム/mLのトラフ血中濃度、および200ピコグラム/ml未満の最大濃度が生じることが分かる;これは、McCormack et al. (2011), “Efficacy and safety of sirolimus in lymphangioleiomyomatosis”, N Engl J Med 364:1595-1606に報告された5〜15ng/mlの濃度より実質的に低い。肺組織質量は850グラムであり、肺における代謝はなく、肺吸収半減期は30分であると仮定して、肺へ送達された57マイクログラムのラパマイシンは、肺組織においてラパマイシンの局所肺濃度おおよそ60ng/グラムを伴なう療法レベルをもたらすであろう。
【0255】
実施例11:ラットおよびイヌにおける吸入毒性試験
[247] 下記の試験は吸入ラパマイシンが経口ラパマイシンより低毒性であることを示す。
ラットおよびイヌにおけるLAM−001(吸入ラパマイシン)を用いた28日間の反復投与、吸入、優良試験所基準(Good Laboratory Practice)(GLP)毒性試験において、毒性動態データ(表16を参照)は、ラパマイシン濃度がそれぞれ約6倍および63倍(28日目のC
maxに基づく)であり、MILES試験でヒトLAM患者の肺においてmTOR活性を阻害するのに十分であることが認められたヒトの全身有効血中濃度より高いことを立証した。最も感受性の高い種のうち、イヌは、NOAELでおおよそ16.7のトラフ肺(24時間)−対−血漿比を示した。
【0256】
【表16】
【0257】
[248] ラットは、ヒトにおいて考慮される療法用量のおおよそ60〜1700倍の1日1回吸入用量に耐容した。イヌは、ヒトにおいて考慮される療法用量の6倍のNOAELを達成した。
【0258】
[249] 鼻限定吸入によるラパマイシン投与は、呼吸機能の変化をもたらさなかった。28日間のラットおよびイヌ試験で樹立された到達量の呼吸NOAELは、それぞれ8.91mg/kg/日および0.0134mg/kg/日であった;これらは、MILES試験で認められた有効性に基づくヒトにおける経口吸入による推奨1日療法用量(recommended daily therapeutic dose)(RDD)よりおおよそ1713倍および6倍高い。これらのデータをMILES試験から収集された臨床データと合わせると、ラパマイシンを吸入により投与した患者において安全性に関して実質的有益性を達成できることが示される。
【0259】
[250] さらに、ラパマイシンを吸入により送達することによって、初回通過代謝(first pass metabolism)、経口吸収変動性、および肺−対−全身分布における潜在的変動性を避けることができる。医師は、ラパマイシンの全身曝露および毒性を最小限に抑えて患者が有効な肺投与を受けることができる用量をより効率的かつ厳密に決定できるであろう。ドライパウダーインヘラー内のカプセル数を変更することにより、ラパマイシンを公称有効用量で送達し、よって患者に経口RAPAMUNE(登録商標)では得られない個別化治療計画を施すことができるであろう。
【0260】
[251] 吸入ラパマイシンは、ターゲット組織(肺)への直接送達のため、また治療計画をカスタマイズできるため、経口ラパマイシン(たとえば、RAPAMUNE(登録商標))に優る実質的な臨床有益性を提供すると予想される。
【0261】
均等物
[252] 当業者はルーティン程度の実験を用いて本明細書に記載する本発明の特定の態様に対する多数の均等物を認識し、あるいは確認できるであろう。そのような均等物は以下の特許請求の範囲に包含されるものとする。
【0262】
[253] 本明細書に引用したすべての参考文献は、それぞれ個々の刊行物または特許もしくは特許出願が具体的かつ個別にそれの全体をあらゆる目的で援用すると指示されたと同様に、それらの全体があらゆる目的で本明細書に援用される。
【0263】
[254] 本発明は本明細書に記載する特定の態様により範囲が限定されることはない。実際に、以上の記載および添付の図面から、本明細書に記載したもののほかに本発明の多様な改変が当業者に明らかになるであろう。そのような改変は特許請求の範囲に包含されるものとする。