特表2017-534634(P2017-534634A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2017-534634体液貯留の予測因子を使用してCKDを処置する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-534634(P2017-534634A)
(43)【公表日】2017年11月24日
(54)【発明の名称】体液貯留の予測因子を使用してCKDを処置する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20171027BHJP
   A61K 45/06 20060101ALI20171027BHJP
   A61K 31/4025 20060101ALI20171027BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20171027BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20171027BHJP
   G01N 33/72 20060101ALI20171027BHJP
   A61P 9/12 20060101ALN20171027BHJP
【FI】
   A61K45/00
   A61K45/06
   A61K31/4025
   A61P13/12
   A61P43/00 121
   A61P43/00 111
   G01N33/72 A
   A61P9/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-523974(P2017-523974)
(86)(22)【出願日】2015年11月6日
(85)【翻訳文提出日】2017年6月28日
(86)【国際出願番号】US2015059456
(87)【国際公開番号】WO2016073846
(87)【国際公開日】20160512
(31)【優先権主張番号】62/077,108
(32)【優先日】2014年11月7日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】512212195
【氏名又は名称】アッヴィ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コーハン,ドナルド・ケイ
(72)【発明者】
【氏名】ラムベルス・ヘールスピンク,ヒッド・イェー
(72)【発明者】
【氏名】デ・ゼーウ,ディック
(72)【発明者】
【氏名】コール,ブライ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレス,デニス
【テーマコード(参考)】
2G045
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
2G045AA13
2G045AA16
2G045AA25
2G045CA26
2G045CB03
2G045DA31
2G045DA36
2G045DA38
2G045DA42
2G045DA48
2G045DA51
2G045GA05
2G045JA01
4C084AA17
4C084AA19
4C084AA20
4C084NA05
4C084NA06
4C084ZA421
4C084ZA811
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4C084ZC422
4C084ZC751
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC07
4C086GA02
4C086GA07
4C086GA16
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4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA06
4C086ZA42
4C086ZA81
4C086ZC42
4C086ZC75
(57)【要約】
本開示は、有害事象の危険性を最小化するための、体液貯留の予測因子を使用する慢性腎疾患および糖尿病性腎症を処置する方法に関する。開示されている方法は、エンドセリン受容体拮抗剤、特にアトラセンタンおよびこの医薬として許容される塩が関与する処置において特に有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンドセリン受容体拮抗剤(ETRA)を用いて慢性腎疾患を処置する方法であって、
慢性腎疾患に罹患した対象において、eGFR、血圧、HbA1cまたはHOMA生成物の1つ以上を測定すること、
上記測定値に基づいて、ETRAが対象に投与される場合の体液貯留の危険性を決定すること、および
危険性が許容される水準である場合、ETRAを対象に投与すること
を含む方法。
【請求項2】
ETRAが、選択的ET受容体拮抗剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
選択的ET受容体拮抗剤が、アトラセンタンまたは医薬として許容されるこの塩である、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
体液貯留の危険性を許容される水準に調整するために、対象に投与される治療を調整することをさらに含む、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
エンドセリン受容体拮抗剤(ETRA)を用いて糖尿病性腎症を処置する方法であって、
糖尿病性腎症に罹患した対象において、eGFR、血圧、HbA1cまたはHOMA生成物の1つ以上を測定すること、
上記測定値に基づいて、ETRAが対象に投与される場合の体液貯留の危険性を決定すること、および、
危険性が許容される水準である場合、ETRAを対象に投与すること
を含む方法。
【請求項6】
ETRAが、選択的ET受容体拮抗剤である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
選択的ET受容体拮抗剤が、アトラセンタンまたは医薬として許容されるこの塩である、請求項7に記載の方法。
【請求項8】
体液貯留の危険性を許容される水準に調整するために、対象に投与される治療を調整することをさらに含む、請求項5から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
エンドセリン受容体拮抗剤(ETRA)を用いて慢性腎疾患、糖尿病性腎症または両方を処置する方法であって、
慢性腎疾患、糖尿病性腎症または両方を処置する必要のある対象にRAS阻害剤を投与すること、
対象において、eGFR、血圧、HbA1cまたはHOMA生成物の1つ以上を測定すること、
上記測定値に基づいて、RAS阻害剤に加えてETRAが対象に投与される場合の体液貯留の危険性を決定すること、および
危険性が許容される水準である場合、ETRAを対象に投与すること
を含む方法。
【請求項10】
RAS阻害剤が、測定ステップに先立つ少なくとも4週間、対象に投与されている、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
対象が、測定ステップに先立つ少なくとも4週間、最大耐表示1日量(MTLDD)のRAS阻害剤を投与されている、請求項9または請求項10に記載の方法。
【請求項12】
危険性の水準が、eGFR、血圧、HbA1cまたはHOMA生成物の2つ以上に基づいて決定される、請求項9から11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
危険性の水準が、eGFR、HbA1cまたは両方に基づいて決定される、請求項9から12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
危険性が、対象へのETRAの2週間投与後の体液貯留の危険性である、請求項9から13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
体液貯留の危険性が、対象にETRAを2週間投与した後に対象が2kg以上の体重増加を有する危険性である、請求項9から14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
体液貯留の危険性が、対象にETRAを2週間投与した後に対象が1.3g/dl以上のヘモグロビンの低下を有する危険性である、請求項9から15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
ETRAが、選択的ET受容体拮抗剤である、請求項9から16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
選択的ET受容体拮抗剤が、アトラセンタンまたは医薬として許容されるこの塩である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
利尿剤を処方するステップ、または対象によって既に摂取されている利尿剤の用量を増加させるステップ、または対象によって摂取される利尿剤を変更するステップ、ならびに、測定ステップおよび処方される、増加させる、または変更される利尿剤に基づいて、対象にETRAを投与することの危険性を決定するステップをさらに含む、請求項9から18のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2014年11月7日に出願された米国仮出願第62/077,108号に対する優先権を主張し、その全体を参照により本明細書に組み込む。
【0002】
本開示は、一般に、体液貯留の予測因子に基づいて慢性腎疾患(CKD)を処置する方法に関する。さらに、本開示は、体液貯留の予測因子に基づいて糖尿病性腎症を処置する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
糖尿病患者の25%超は、ある程度のアルブミン尿を有し、これは、慢性腎疾患の進行につながる。現在、レニン−アンジオテンシン軸系(RAAS)を抑制し、腎疾患の進行を遅らせる薬剤が開発されているにもかかわらず、アルブミン尿を低下させ、疾患の進行をさらに遅らせる、未だに満たされていない重要な医学的必要性が残されている。アンジオテンシン変換酵素阻害剤(ACEi)またはアンジオテンシン受容体遮断剤(ARB)のようなRAAS阻害剤の有効量を投与された患者に関して、尿中アルブミン−クレアチニン比(UACR)の低下によって測定されるアルブミン尿の低下は、血清クレアチニンの倍増、末期腎疾患(ESRD)および死亡までの時間のような「困難な転帰」の腎臓の事象の発生率の低下と関連している。
【0004】
臨床試験は、エンドセリン受容体拮抗剤(ETRA)が、腎疾患を有する高血圧症患者の血圧を低下させることができることを示したが、ETRAならびにETおよびET受容体の一方または両方の拮抗剤は、体液貯留を引き起こすことが知られている。体液貯留は、以前に試験されたETRAと関連する一般的な副作用である。以前に試験された、いくつかのETRAによって浮腫が観察された割合により、アルブミン尿または他の疾患の状態のためのそれらの開発の中止がもたらされた。したがって、尿タンパク質の排泄を低下させ、一方で末梢性浮腫および体液貯留の発生率を制限する様式においてETRAを使用する場合、所望の腎保護と臨床的安全性との間のバランスが求められる。
【0005】
例えば、ETRAであるダルセンタンは、抵抗性高血圧症の処置のために試験された。世界中の複数の場所で行われた、Weberによる重要な二重盲検試験(Weber,M.ら、Lancet、374:1423−31(2009))は、利尿剤を含む、少なくとも3種の血圧低下剤がフルドーズで投与されている、収縮期血圧が140mmHgを超える379人を登録した。患者は、無作為化され、1日1回摂取するプラセボまたはダルセンタン(50mg、100mgまたは300mg)のいずれかの投与を受けた。試験のほぼ全ての患者は、RAAS阻害剤の形態の1つを投与されており、約4分の3がカルシウムチャネル遮断剤を投与されており、約3分の2がベータ遮断剤を投与されており、患者の99%はこれらの薬剤をフルドーズで投与されていた。加えて、ほぼ全ての患者は、なんらかの形態の利尿剤治療を受けており、利尿剤投与の患者の大多数(83%)は、1日あたり25mgの用量でヒドロクロロチアジドを投与されていた。
【0006】
14週間の処置後、ダルセンタンの追加は、プラセボ処置と比較して、診療所での収縮期および拡張期の座位血圧のそれぞれ約10mmHgおよび5mmHgの非用量依存的低下と関連していた。浮腫および/または体液貯留は、本試験におけるダルセンタン投与患者の27%、プラセボ投与患者の14%で報告された。ダルセンタン併用処置群の4人の患者(2%)のみが、体液貯留または末梢性浮腫のため、試験への参加を中止しなければならなかったが、ダルセンタンを摂取した5人の患者は心臓関連の重篤な有害事象を経験した(2人の患者に心筋梗塞、1人の患者に心房細動、2人の患者に偶発的なうっ血性心不全があった。)。1件の突然の死亡事象が、プラセボ群で起こった。
【0007】
同様の合併症が、糖尿病患者のタンパク尿を低下させるための、別のETRAであるアボセンタンの使用を調査する臨床試験で観察された。特に、顕性糖尿病性腎症の進行に対するアボセンタンの効果が、Mannら(Mann J.ら、J.Am.Soc.,Nephrolo.21:527−535(2010))によって、多施設の多国間二重盲検プラセボ対照臨床試験において試験された。この試験において、2型糖尿病の1392人の参加者は、無作為にアボセンタン(25または50mg)またはプラセボ投与に割り当てられた。全ての患者は、ACE阻害剤またはARB剤での処置を継続した。追跡期間中央値4カ月の後、アボセンタンによる過度の心血管事象は、試験の早期終了をもたらした。アボセンタンはUACRを有意に低下させたが(プラセボで9.7%のみと比較して、アボセンタン25mgで44%、アボセンタン50mgで49%の低下中央値)、アボセンタンで、有害事象による試験薬投与の中止が有意に増加した(プラセボでの1.5%のみと比較して、アボセンタン25mgで19.69%、アボセンタン50mgで18.2%)。アボセンタンについて試験のドロップアウトをもたらした有害事象は、主に、水分過負荷およびうっ血性心不全に関連した。プラセボで12人の死亡、アボセンタン25mgで21人の死亡、アボセンタン50mgで17人の死亡があった。
【0008】
ENABLEおよびREACH−1臨床試験において、ボセンタンの治療は、最初の4−8週間以内のうっ血性心不全(CHF)の早期の悪化と関連しており、これは体液貯留の結果であると考えられた。EARTHおよびHEAT−CHF臨床試験において、ダルセンタンは、高用量で投与された場合に、CHFを悪化させる傾向があった。
【0009】
1mg/hrを超える用量での静脈内へのテゾセンタンは、急性CHFの患者の尿量を低下させ、それによって臨床的有効性が制限された。
【0010】
アンブリセンタン(1−10mg/日)は浮腫を伴う(発生率25%)。
【0011】
高用量のシタクスセンタンは、有意に浮腫を引き起こし、一方、低用量(1日100または300mg)は浮腫を引き起こす傾向が低い。
【0012】
アトラセンタンは、前立腺癌の処置のために以前に試験された、非常に強力な選択的ETRAである。前臨床の結果の詳細な評価の後、アトラセンタンは、残存アルブミン尿の処置について評価された。重要な目的は、浮腫のような許容できない重大な副作用と、尿中アルブミン−クレアチニン比(UACR)に対する有効な効果をもたらし得る全身作用とのバランスをとることであった。その後、アトラセンタンは、糖尿病性腎症に伴う残存アルブミン尿の患者において試験された。
【0013】
1型糖尿病およびタンパク尿を有する、レニン−アンジオテンシン系(RAS)阻害剤を投与されていない11人の対象における、第2相二重盲検プラセボ対照クロスオーバー試験(本明細書において試験M96−499と称する)において、1日5mg(QD)のアトラセンタンは、尿中アルブミン排泄量の65%の低下をもたらした。平均動脈血圧(BP)も低下したが、BPの変化とアルブミン尿の低下との間には弱い相関性しか存在しなかった。アトラセンタン群において最も一般的に経験された、処置により発生した有害事象は、末梢性浮腫(64%)、肺浮腫(18%)、鼻炎(36%)および頭痛(18%)であり、一方、プラセボ群では、末梢性浮腫はなかったが、鼻炎(11%)および頭痛(56%)の報告があった。
【0014】
体液貯留および末梢性浮腫が腫瘍学プログラムおよび試験M96−499で観察されたように、2.5mg未満の用量が、浮腫の割合を制限して使用するために考慮された。その後の試験での用量は、体液貯留および浮腫を制限するための試みの間に、受容体結合データに基づいて推定された。
【0015】
第2a相二重盲検、無作為化プラセボ対照試験(本明細書においてM10−815と称する)において、RAS阻害剤が安定用量であった2型糖尿病およびアルブミン尿の対象は、8週間、0.25、0.75または1.75mgQDのアトラセンタンHClを投与された。この試験の結果は、0.75mgQD(42%低下、片側P=0.023)および1.75mgQD(35%低下、片側P=0.073)を摂取した対象について、ベースラインからの平均UACRの低下を示したが、多くの対象が、軽度から中等度の末梢性浮腫を経験し、プラセボの9%のみと比較して、0.75mgQDアトラセンタン用量群では18%、1.75mgQDアトラセンタン用量群では46%であった。0.25mgQDを投与された対象の14%のみが軽度から中等度の末梢性浮腫を経験したが、これらの対象は、プラセボを投与された対象(11%低下)と比較して、21%(P=0.291)の有意ではない平均UACRの低下を示した。加えて、心不全の素因を有する0.75mg群の1名の対象は、急性心不全の事象を患い、試験を中止された。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Weber,M.ら、Lancet、374:1423−31(2009)
【非特許文献2】Mann J.ら、J.Am.Soc.,Nephrolo.21:527−535(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
したがって、顕著な利益が、浮腫の危険性を低下させる様式でETRAを投与する方法によって提供される。
【課題を解決するための手段】
【0018】
(発明の要旨)
本明細書に開示する臨床的分析は、推定された糸球体濾過率(eGFR)、血圧、糖化ヘモグロビン(HbA1c)の濃度および恒常性モデル評価(HOMA生成物)が、ETRAの投与によって引き起こされる体液貯留の使用可能な予測因子であることを示す。
【0019】
本開示は、アトラセンタンまたは別の選択的ET受容体拮抗剤のようなETRAを用いる慢性腎疾患を処置する方法であって、慢性腎疾患に罹患した対象において、eGFR、血圧、HbA1cまたはHOMA生成物の1つ以上を測定すること、測定値に基づいて、ETRAが対象に投与される場合の体液貯留の危険性を決定すること、および危険性が許容される水準である場合、ETRAを対象に投与することによる方法を示す。
【0020】
さらに、本開示は、アトラセンタンまたは選択的ET受容体拮抗剤である別のETRAのようなETRAを用いて糖尿病性腎症を処置する方法であって、糖尿病性腎症に罹患した対象において、eGFR、血圧、HbA1cまたはHOMA生成物の1つ以上を測定すること、測定値に基づいて、ETRAが対象に投与される場合の体液貯留の危険性を決定すること、および危険性が許容される水準である場合、ETRAを対象に投与することによる方法を示す。
【0021】
本開示は、エンドセリン受容体拮抗剤(ETRA)を用いて慢性腎疾患、糖尿病性腎症または両方を処置する方法であって、慢性腎疾患、糖尿病性腎症または両方を処置する必要のある対象にRAS阻害剤を投与すること、対象において、eGFR、血圧、HbA1cまたはHOMA生成物の1つ以上を測定すること、測定値に基づいて、RAS阻害剤に加えてETRAが対象に投与される場合の体液貯留の危険性を決定すること、および危険性が許容される水準である場合、ETRAを対象に投与することを含む方法も示す。いくつかの実施形態において、RAS阻害剤は、測定ステップに先立つ少なくとも4週間、対象に投与されている、および/または、対象は、測定ステップに先立つ少なくとも4週間、最大耐表示1日量(MTLDD)のRAS阻害剤を投与されている。前述の方法は、測定ステップに基づいて、対象に既に投与される利尿剤の量または回数を調整するステップ、ならびに測定ステップおよび利尿剤調整ステップに基づいて、対象にETRAを投与することの危険性を決定するステップをさらに含むこともできる。
【0022】
前述の方法において、危険性は、対象へのETRAの2週間投与後の体液貯留の危険性である。いくつかの実施形態において、体液貯留の危険性は、対象にETRAを2週間投与した後に、対象が2kg以上の体重の増加を有する危険性であり、および/または、ETRAを対象に2週間投与した後に対象が1.3g/dl以上のヘモグロビンの低下を有する危険性である。
【0023】
前述の方法において、ETRAは、アトラセンタンまたは医薬として許容されるこの塩のような選択的ET受容体拮抗剤であってよい。
【0024】
許容される危険性は、対象の治療必要性に対する体液貯留の危険性を比較検討する臨床医によって決定され得る。危険性の水準は、入力として、eGFR、血圧、HbA1cおよび/またはHOMA生成物を使用して、体液貯留の危険性の水準を計算するアルゴリズムを使用するように、手動または自動で決定され得る。危険性の水準は、1つのパラメータまたはパラメータの組合せに基づいて決定され得る。例えば、危険性の水準は、eGFR、血圧、HbA1cもしくはHOMA生成物の2つ以上に基づいてまたはeGFR、HbA1cもしくは両方に基づいて決定され得る。
【0025】
いくつかの実施形態において、前述の方法は、対象から生物学的試料(例えば、尿または血液)を得ること、および生物学的試料を使用してパラメータ(例えば、eGFRまたはHbA1c)の1つを測定することをさらに含む。いくつかの実施形態において、測定値は、許容される体液貯留の危険性と相関する、eGFR、血圧、HbA1cまたはHOMA生成物の所定の値と比較される。所定の値は、許容される危険性の水準の値、許容できない危険性の水準の値または両方であってよい。
【0026】
いくつかの実施形態において、eGFR、血圧、HbA1cまたはHOMA生成物の測定値に基づいて、臨床医が体液貯留の危険性が許容できないと決定した場合、ETRA治療は投与されない。いくつかの実施形態において、体液貯留の危険性が比較的高い場合、例えば、利尿剤を処方すること、対象によって既に摂取される利尿剤の(量または回数のような)用量を増加させることまたは対象によって摂取される利尿剤を変更することによって、臨床医は、対象に投与される治療を調整して、許容できない体液貯留の危険性を許容される危険性とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】12週間のアトラセンタンまたはプラセボ投与を通した、UACR、体重、ヘモグロビンおよびヘマトクリットのベースラインからの変化を示す。
図2】対象がUACRの30%超の応答を示したか否かに基づく、体重、ヘモグロビンおよびヘマトクリットの変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本項目で使用される項目の表題および本明細書で開示される全体は、限定を意図するものではない。
【0029】
本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」および「the」は、そうでないことが、内容から明白である場合を除き、複数形も含む。本明細書の数値範囲の記述に関して、同一精度でその範囲内の各数値を明確に想定する。例えば、6−9の範囲に関して、6および9に加えて7および8の数値を想定し、6.0−7.0の範囲に関して、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9および7.0の数値を明確に想定する。
【0030】
本明細書で使用される場合、「約(about)」という用語は、「約(approximately)」という用語と同義的に使用される。説明的には、「約(about)」という用語の使用は、引用した値のわずかに外側の値、すなわち、プラスまたはマイナス10%を示す。したがって、このような用量は、「約(about)」および「約(approximately)」という用語を記載する特許請求の範囲に包含される。
【0031】
「投与する」、「投与すること」、「投与された」または「投与」という用語は、薬剤(例えば、アトラセンタンまたは医薬として許容されるこの塩)を、対象または患者に提供する任意の方法を示す。投与経路は、当業者に公知の任意の手段によって達成することができる。そのような手段としては、限定されないが、経口、頬側、静脈内、皮下、筋肉内、経皮、吸入などが挙げられる。
【0032】
「アトラセンタン」という用語は、以下に示す構造:
【0033】
【化1】
を有する、(2R,3R,4S)−4−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)−1−[2−(ジブチルアミノ)−2−オキソエチル]−2−(4−メトキシフェニル)ピロリジン−3−カルボン酸およびアトラセンタンのHCl塩のようなこの塩を示す。アトラセンタンを製造する方法は、例えば、米国特許第6,380,241号、第6,946,481号、第7,365,093号、第5,731,434号、第5,622,971号、第6,462,194号、第5,767,144号、第6,162,927号および第7,208,517号に記載されており、これらの内容を参照により本明細書に組み込む。アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤およびアンジオテンシン受容体遮断剤(ARB)を用いるETRAの治療レジメンは、米国特許第8,623,819号および第8,865,650号に開示されており、これらを参照により本明細書に組み込む。
【0034】
活性薬剤の「有効量」または「治療有効量」とは、活性薬剤の非毒性量であるが所望の効果を提供する十分な量を意味する。「有効」である活性薬剤の量は、個体の年齢および一般的な状態、単一または複数の特定の活性薬剤などに応じて、対象ごとに変わる。したがって、正確な「有効量」を特定することが常に可能というわけではない。しかしながら、任意の個体のケースにおける適切な「有効量」は、通例の実験方法を使用して当業者によって決定されてよい。
【0035】
「医薬として許容される賦形剤」または「医薬として許容される添加剤」の記述のような「医薬として許容される」とは、生物学的にまたは他の点で望ましくないものではない物質を意味し、すなわち、物質は、任意の望ましくない生物学的効果を引き起こすことなく、患者に投与される医薬組成物に組み込まれてよい。
【0036】
「対象」という用語は、動物を示す。1つの態様において、動物は、ヒトまたは非ヒトを含む哺乳動物である。患者および対象という用語は、本明細書において互換的に使用されてよい。
【0037】
「処置すること」および「処置」という用語は、症状の重症度および/または頻度の低下、症状および/または根底の原因の除去、症状および/またはこれらの根底の原因の発生の予防、ならびに損傷の改善または治療を示す。したがって、例えば、患者を「処置すること」は、感受性の個体における特定の障害または有害な生理学的事象の予防、ならびに障害もしくは疾患を阻害することまたは後退を引き起こすことによる、臨床的に症状のある個体の処置を含む。
【0038】
残存アルブミン尿の低下における、プラセボと比較した、アトラセンタンの有効性および安全性を評価するために、2つの第2b相、多施設、前向き、無作為化、二重盲検、プラセボ対照12週間試験を行った。アトラセンタンは、0.75mgQDおよび1.25mgQDの用量で試験された。試験の方法は同一であったが、場所は異なっていた(米国、カナダおよび台湾におけるNCT01356849;日本におけるNCT10424319)。さらなる臨床の詳細は、Kohan,DEら「Predictors of Atrasentan−Associated Fluid Retention and Change in Albuminuria in Patients with Diabetic Nephropathy」、Clin J Am Soc Nephrol、2015年9月、10:1568−1574に見出すことができ、これは、その全体を参照により本明細書に組み込む。
【0039】
体重の変化およびヘモグロビンの変化の観察は、体液貯留の変化に関する代替のマーカーとして使用してよい。
【0040】
人口統計的パラメータは、プラセボとアトラセンタン0.75mg/dおよび1.25mg/d治療群の間で類似していた(表1)。表中では以下の略称を使用する:BNP=B型ナトリウム利尿ペプチド;DBP=拡張期血圧;eGFR=推定糸球体濾過率;HbA1c=糖化ヘモグロビン;RAS=レニン−アンジオテンシン系;SBP=収縮期血圧;UACR=尿中アルブミン−クレアチニン比。表1は、de Zeeuw Dらから一部を複製されている。エンドセリン拮抗剤であるアトラセンタンは、2型糖尿病性腎症を有する患者における残存アルブミン尿を低下させる。J Am Soc Nephrol 25:1083−1093、2014は、その全体を参照により本明細書に組み込む。表1中の値は、特に断りのない限り、平均±標準偏差である。
【0041】
【表1】
【0042】
表2は、経時的な測定/計算パラメータの変化を示す。
【0043】
【表2】
【0044】
表2は、プラセボ群の約1kgの低下と比較して、2週間の処置後、体重が約1kg増加したことを示す。アトラセンタン処置群において、30日間の回復期間中に体重は1−2kg減少したが、プラセボ群では体重は変化しなかった。2週間の処置後、ヘモグロビン(Hb)は、両アトラセンタン群で約1g/dl低下し、これらの低下は、処置期間を通じて持続した。Hbは、処置の中止後30日目までに正常化し、アトラセンタンが関連するHbの低下は、血液希釈によって引き起こされたことを示唆している。アトラセンタンを投与された患者での体重の増加にもかかわらず、B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の有意な変化は観察されなかった。利尿剤の用量の変化は、試験中を通じて、処置群の間で同様であった(プラセボ、0.75mg/日および1.25mg/日の群で、それぞれ、4%、5%および8%)。
【0045】
表3は、2週間のアトラセンタン治療後の体重およびヘモグロビンの変化の、可能性のある独立したベースラインの予測因子のリストを示す。
【0046】
【表3】
【0047】
表3で使用した略称は、BP=血圧;eGFR=推定糸球体濾過率;HbA1c=糖化ヘモグロビン;HOMA=恒常性モデル評価を含む。以下の共変数は、初期の後ろ向き選択モデルに含まれた:処置の割り当て、年齢、性別、体重、Hb、eGFR、アルブミン尿、収縮期血圧(BP)、eGFR、log変換した恒常性代謝評価(HOMA)生成物、log変換したB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、チアジドおよびループ利尿剤使用。収縮期血圧およびアトラセンタンの用量は、体重およびヘモグロビンそれぞれの最終的なロジスティック回帰モデルには含めなかった。
【0048】
表3は、2週間のアトラセンタン処置後の体重増のベースラインの予測因子が、アトラセンタン用量0.75または1.25mg/日対プラセボ、より低いeGFR、より高い糖化ヘモグロビン(HbA1c)、より高い収縮期BPおよびより低いHOMA生成物を含むことを確認する。10mL/分でより低いベースラインのeGFRそれぞれに関して、体重は、0.2(0.1−0.3)kg高かった。より低いHbA1cの割合それぞれに関して、体重は、0.2(0.1−0.4)kg増加した。10mmHg低いベースラインの収縮期BPそれぞれに関して、体重は、0.1(0.0−0.3)kg高かった。体重増が2kg以上であることを予測する因子のロジスティック回帰分析(分布の上位四分位)は、体重増が2kg以上についてのオッズが、アトラセンタン0.75および1.25mg/日群のそれぞれについて、3.0(1.0−8.5)および6.6(2.3−18.6)倍高かったことを示す(図1、パネルA)。ロジスティック回帰における決定因子は、線形回帰モデルのものと同様であった。
【0049】
表3は、2週間のアトラセンタン処置後のHb変化のベースラインの予測因子が、アトラセンタン用量0.75または1.25mg/日対プラセボ、eGFR、Hbおよび体重を含んでいたことも開示する。Hbの低下が1.3g/dl以上であることを予測する因子のロジスティック回帰分析(アトラセンタン0.75および1.25mg/日群を組み合わせた分布の上位四分位)は、オッズが、アトラセンタン1.25mg/日対プラセボで、5.6(2.5−12.7)倍(0.75mg/日群での関連は有意ではない。)、ならびに10mL/分でより低いベースラインのeGFRそれぞれに関して0.6(0.2−0.9)倍、上昇することを示した。ベースラインの体重およびHbとの小さいが有意な関連も観察された。ベースラインのBNPは、体重またはHbの変化と関連しなかった。
【0050】
当該分析に基づき、アトラセンタンのようなETRAを対象に投与した場合の体液貯留の危険性は、eGFR、血圧、HbA1cまたはHOMA生成物の1つ以上を測定することに基づいて決定することができる。臨床医は、ETRAが処方または投与される前に、測定値を使用して、特定の対象について体液貯留の危険性が許容されるかどうかを決定することができる。
【0051】
表4は、2週間のプラセボまたはアトラセンタン処置後の、ヘモグロビンおよび体重の変化と尿中アルブミン−クレアチニン比の変化の間の相関を示す。
【0052】
【表4】
【0053】
アトラセンタンの用量およびeGFRは、2週目のヘモグロビン変化の予測因子であった。また、ベースラインのヘモグロビンおよび体重は、2週目のヘモグロビン変化を予測した。
【0054】
弱い相関が、2週目の体重およびヘモグロビンの変化とアルブミン尿の変化との間で観察された。R値は0.005から0.07の間の範囲であり、アルブミン尿の応答におけるわずか0.5%から7%の可変性が、体重の変化によって説明されることを示唆している。UACRと体重の変化の間で相関は認められなかった。また、相関は、プラセボまたはアトラセンタン0.75もしくは1.25mg/日を摂取した対象の2週目で、UACRと体重の変化の間で認められなかった。R値は、アルブミン尿の応答における4%から6.9%の可変性が、Hbの応答によって説明されたことを示す。
【0055】
アトラセンタンでの2週間の処置後、体重またはHbの変化をUACRの応答者(UACRが>30%低下)および非応答者(UACRが<30%低下)の間で比較した。いずれかのアトラセンタン用量を投与された対象における体重またはヘモグロビンの変化において、UACRの応答者および非応答者の間で差は認められなかった(図2を参照)。
【0056】
これらのデータをまとめると、2型糖尿病性腎症の患者において、アトラセンタンが誘発する体液貯留は、初期eGFR、血圧およびグルコース管理によって予測されることを示す。UACRの低下は、体液貯留の予測因子ではない。したがって、どのベースラインの測定値が体液貯留の予測因子であるかということは、驚くべきことであり、予測できるものではなかった。さらに、アトラセンタン処置で観察された体液貯留は、観察されたアルブミン尿の低下効果と有意には相関しない。
図1
図2
【国際調査報告】