(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-534766(P2017-534766A)
(43)【公表日】2017年11月24日
(54)【発明の名称】読取可能な熱溶射
(51)【国際特許分類】
C23C 4/08 20160101AFI20171027BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20171027BHJP
C22C 38/08 20060101ALI20171027BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20171027BHJP
【FI】
C23C4/08
C22C38/00 302Z
C22C38/08
C22C38/58
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】50
(21)【出願番号】特願2017-535607(P2017-535607)
(86)(22)【出願日】2015年9月18日
(85)【翻訳文提出日】2017年5月16日
(86)【国際出願番号】US2015051021
(87)【国際公開番号】WO2016044765
(87)【国際公開日】20160324
(31)【優先権主張番号】62/052,671
(32)【優先日】2014年9月19日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】517095766
【氏名又は名称】スコペルタ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】SCOPERTA, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チェニー,ジャスティン・リー
(72)【発明者】
【氏名】ラファ,カイル・ウォルター
【テーマコード(参考)】
4K031
【Fターム(参考)】
4K031AA01
4K031AA05
4K031AA08
4K031AB02
4K031BA01
4K031BA04
4K031CA02
4K031DA03
(57)【要約】
熱溶射されるよう構成された鉄ベースの皮膜の実施形態を開示する。鉄ベースの皮膜は、一般に非磁性であり得て、したがって、標準的な磁気測定器により皮膜に対して厚さ測定を実行することができる。さらに、鉄ベースの皮膜は、高い硬度、高い耐摩耗性および高い接着強度などの有利な特性を有し得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合金から形成されるFeベースの熱溶射皮膜であって、前記皮膜は、
1.4グラム以下のASTM G65B質量損失によって特徴付けられる高い耐摩耗性と、
少なくとも60重量%のFeを有する概してオーステナイトのマトリクスとを備え、
前記皮膜は、磁性を持たず、磁気厚さゲージにより読取可能である、熱溶射皮膜。
【請求項2】
前記皮膜または前記合金の組成は、
Feと、
約1重量%〜約6重量%のB+Cと、
約8重量%〜約16重量%のMn+Niと、
約0重量%〜約14重量%のAl+Siとを含む、請求項1に記載の熱溶射皮膜。
【請求項3】
前記皮膜または前記合金の組成は、
Feと、
約10重量%〜約18重量%のMnと、
約3重量%〜約6重量%のCrと、
約3重量%〜約6重量%のNbと、
約0重量%〜約6重量%のVと、
約2重量%〜約5重量%のCと、
約3重量%〜約6重量%のWと、
約0重量%〜約3重量%のNiと、
約0重量%〜約3重量%のAlと、
約0重量%〜約0.5重量%のTiとを含む、請求項1〜2のいずれか1項に記載の熱溶射皮膜。
【請求項4】
前記皮膜は、ASTM G65手順Bに従って測定したときに0.6gの摩耗損失を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱溶射皮膜。
【請求項5】
前記皮膜は、5,000psi以上の接着強度を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱溶射皮膜。
【請求項6】
前記皮膜は、600℃および30°の衝突角度で高温侵食試験において200mg未満の損失を示す、請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱溶射皮膜。
【請求項7】
前記皮膜の厚さは、0−1マイクロメータ測定値の20%以内で前記磁気厚さゲージによって読取ることができる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱溶射皮膜。
【請求項8】
前記皮膜の厚さは、磁気厚さゲージによって25%の測定値標準偏差の範囲内で測定することができる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の熱溶射皮膜。
【請求項9】
前記合金は粉末である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の熱溶射皮膜。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の熱溶射皮膜によって少なくとも部分的にコーティングされた発電機における構成要素。
【請求項11】
合金から形成される熱溶射皮膜であって、前記皮膜は、
鉄ベースのマトリクスと、
前記マトリクス内の少なくとも5重量%の元素溶質と、
1.4グラム以下のASTM G65B質量損失によって特徴付けられる高い耐摩耗性とを備え、
前記皮膜は、磁性を持たず、磁気厚さゲージにより読取可能であり、
前記合金は、950K以下でオーステナイトからフェライトへの熱力学的な安定した転移を有する、熱溶射皮膜。
【請求項12】
前記皮膜または前記合金の組成は、
Feと、
約1重量%〜約6重量%のB+Cと、
約8重量%〜約16重量%のMn+Niと、
約0重量%〜約14重量%のAl+Siとを含む、請求項11に記載の熱溶射皮膜。
【請求項13】
前記皮膜または前記合金の組成は、
Feと、
約10重量%〜約18重量%のMnと、
約3重量%〜約6重量%のCrと、
約3重量%〜約6重量%のNbと、
約0重量%〜約6重量%のVと、
約2重量%〜約5重量%のCと、
約3重量%〜約6重量%のWと、
約0重量%〜約3重量%のNiと、
約0重量%〜約3重量%のAlと、
約0重量%〜約0.5重量%のTiとを含む、請求項11〜12のいずれか1項に記載の熱溶射皮膜。
【請求項14】
前記マトリクスは、少なくとも10重量%の元素溶質を含む、請求項11〜13のいずれか1項に記載の熱溶射皮膜。
【請求項15】
前記マトリクスは、少なくとも15重量%の元素溶質を含む、請求項11〜14のいずれか1項に記載の熱溶射皮膜。
【請求項16】
前記合金は、900K以下でオーステナイトからフェライトへの熱力学的な安定した転移を示す、請求項11〜15のいずれか1項に記載の熱溶射皮膜。
【請求項17】
前記マトリクスは、体積で90%を超えるオーステナイトと、少なくとも1つの非磁性酸化物含有物とを有する、請求項11〜16のいずれか1項に記載の熱溶射皮膜。
【請求項18】
前記皮膜は、400ビッカー以上の微小硬度を有する、請求項11〜17のいずれか1項に記載の熱溶射皮膜。
【請求項19】
請求項11〜18のいずれか1項に記載の熱溶射皮膜によって少なくとも部分的にコーティングされた発電機における構成要素。
【請求項20】
基板に皮膜を熱的に適用するための方法であって、
鉄ベースの粉末合金を前記基板に熱溶射して、皮膜を形成するステップを備え、
前記皮膜は、磁性を持たず、磁気厚さゲージにより読取可能であり、
前記皮膜は、400ビッカー以上の微小硬度を有し、
前記皮膜は、1.4グラム以下のASTM G65B質量損失によって特徴付けられる高い耐摩耗性を有する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権出願の引用による援用
本願は、「読取可能な熱溶射(READABLE THERMAL SPRAY)」と題される、2014年9月19日に出願された米国仮出願番号第62/052,671号の利益を主張し、当該米国仮出願番号第62/052,671号は、全体が引用によって本明細書に援用される。
【0002】
背景
分野
本開示は、概して、磁気厚さ計を用いて皮膜厚さをモニタリングする能力を維持しながら、腐食および侵食環境で使用される基板に熱溶射することができる低磁性の鉄ベースの合金に関する。
【背景技術】
【0003】
関連技術の説明
ツインワイヤアーク溶射(twin wire arc spray:TWAS)、高速酸素溶射(high velocity oxygen spray:HVOF)、プラズマ溶射、燃焼溶射およびデトネーションガン溶射を含む皮膜の熱溶射に利用される技術は多数ある。これらの方法は全て類似しているが、TWASが最も単純な方法であると考えられる。
【0004】
ツインワイヤアーク溶射プロセスのための供給原料として、固体、金属またはフラックス入りの合金ワイヤが使用される。溶射ワイヤは、ガンに供給されると溶けて小粒子になる。例えば、2本のワイヤが溶射ガンに同時に供給され、当該ワイヤの各々には逆の電圧が印加される。電圧ギャップがガン内の接続点において2本のワイヤをアークし、ワイヤの先端を溶融させる。次いで、溶融界面の後方にガス流を供給して、結果として生じる液体金属液滴を基板に噴霧および溶射し、皮膜を形成する。特に、粒子は、基板の方に加速され、半溶融状態で衝突する。衝突時に、粒子は、基板または以前に平坦化した粒子の上部で平坦化して、機械的結合を形成する。平坦化した粒子のこれらの層も、粒子間の少量の孔および酸化物で構成される。粒子速度は、TWASでは100m/sにまで達し、プラズマおよびHVOFでは600m/sにまで達し得る。典型的な粒子温度は、1800〜3500℃であるが、熱溶射は肉盛りと比較して低い入熱を有する。なぜなら、入熱が高ければ、基板が脆化または寸法的反りをこうむる可能性があるからである。
【0005】
熱溶射皮膜は、厳しい腐食環境に対して多くのメリットを提供する。例えば、熱溶射皮膜は、部品の大部分が安価な材料から製造されるボイラおよび管の使用を可能にすることができる一方で、耐用年数を延ばすことができる、特別な耐腐食性材料による皮膜である。時間とともに、皮膜はゆっくりと腐食し、ボイラ全体を交換するのではなく皮膜の新たな層を設けることができ、これは、場合によっては、ボイラの寿命を無期限に延ばすことになる。
【0006】
一般にエルコメータ456などの塗装ゲージ厚さ測定装置を用いて行われる「読取可能な」熱溶射に対する業界の需要が依然としてある。しかし、全ての皮膜合金がこの技術に適しているわけではない。例えば、磁気厚さ計を用いて測定できる鉄ベースの熱溶射皮膜は、たとえあったとしても少ない。なぜなら、これらの従来の鉄ベースの皮膜は磁性を有しているからである。したがって、一般に磁性を持たないニッケルベースの皮膜が使用される。なぜなら、ニッケルベースの皮膜は、この技術を用いて読取可能であるからである。しかし、ニッケルベースの材料は、鉄ベースの材料よりも大幅に高価である。したがって、ニッケルベースの合金と比較して鉄ベースの合金はコストが比較的低く、性能メリットが見込まれるために、鉄ベースの読取可能な合金が必要である。
【0007】
さらに、磁気的に測定可能な現在使用されている皮膜は、非晶質微細構造を利用する。非晶質材料では、合金化元素によっても冷却速度によっても通常の金属合金における結晶構造の形成が妨げられる。さまざまな原子サイズの大量の合金化元素は、金属内でランダムな結合を生じさせる可能性があり、結晶粒の形成を妨げる可能性がある。冷却速度が十分に速い場合には、結晶構造の形成も妨げられる。
【0008】
また、溶射皮膜に現在使用されている合金では、600℃未満の低温では「読取可能な」ままである。動作可能温度がこれを上回ると、失透が起こり、非晶質構造がナノ結晶構造に変わり、読取可能性が失われる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
概要
いくつかの実施形態では、本開示は、低い透磁率を維持して、磁気厚さゲージを用いた測定を可能にしながら、ナノ結晶の形態で基板に熱溶射できる合金に関する。熱溶射皮膜合金は、10重量%〜18重量%のMnと、3重量%〜6重量%のCrと、3重量%〜6重量%のNbと、0重量%〜5重量%のVと、2重量%〜5重量%のCと、3重量%〜6重量%のWと、0重量%〜3重量%のNiと、0重量%〜3重量%のAlと、0重量%〜0.5重量%のTiと、残りはFeと製造上の不純物とを組成として含み得る。溶射されたままの状態の皮膜は、ASTM G65手順Aに従って測定したときに1.4gの摩耗損失を有する。皮膜は、機械的に結合された多くのオーステナイトまたは半オーステナイトスプラットで構成され得る。エルコメータ磁気厚さゲージを用いて測定される精度は、±0.001″である。
【0010】
合金から形成されるFeベースの熱溶射皮膜の実施形態が本明細書に開示されており、上記皮膜は、1.4グラム以下のASTM G65B質量損失によって特徴付けられる高い耐摩耗性と、少なくとも60重量%のFeを有する概してオーステナイトのマトリクスとを備え、上記皮膜は、磁性を持たず、磁気厚さゲージにより読取可能である。
【0011】
いくつかの実施形態では、上記皮膜または上記合金の組成は、Feと、約1重量%〜約6重量%のB+Cと、約8重量%〜約16重量%のMn+Niと、約0重量%〜約14重量%のAl+Siとを含み得る。いくつかの実施形態では、上記皮膜または上記合金の組成は、Feと、約10重量%〜約18重量%のMnと、約3重量%〜約6重量%のCrと、約3重量%〜約6重量%のNbと、約0重量%〜約6重量%のVと、約2重量%〜約5重量%のCと、約3重量%〜約6重量%のWと、約0重量%〜約3重量%のNiと、約0重量%〜約3重量%のAlと、約0重量%〜約0.5重量%のTiとを含み得る。
【0012】
いくつかの実施形態では、上記皮膜は、ASTM G65手順Bに従って測定したときに0.6gの摩耗損失を有し得る。いくつかの実施形態では、上記皮膜は、5,000psi以上の接着強度を有し得る。いくつかの実施形態では、上記皮膜は、600℃および30°の衝突角度で高温侵食試験において200mg未満の損失を示し得る。いくつかの実施形態では、上記皮膜の厚さは、0−1マイクロメータ測定値の20%以内で上記磁気厚さゲージによって読取ることができる。いくつかの実施形態では、上記皮膜の厚さは、磁気厚さゲージによって25%の測定値標準偏差の範囲内で測定することができる。いくつかの実施形態では、上記合金は粉末であり得る。
【0013】
本明細書に開示されている熱溶射皮膜によって少なくとも部分的にコーティングされた発電機における構成要素の実施形態も本明細書に開示されている。
【0014】
合金から形成される熱溶射皮膜の実施形態も本明細書に開示されており、上記皮膜は、鉄ベースのマトリクスと、上記マトリクス内の少なくとも5重量%の元素溶質と、1.4グラム以下のASTM G65B質量損失によって特徴付けられる高い耐摩耗性とを備え、上記皮膜は、磁性を持たず、磁気厚さゲージにより読取可能であり、上記合金は、950K以下でオーステナイトからフェライトへの熱力学的な安定した転移を有する。
【0015】
いくつかの実施形態では、上記皮膜または上記合金の組成は、Feと、約1重量%〜約6重量%のB+Cと、約8重量%〜約16重量%のMn+Niと、約0重量%〜約14重量%のAl+Siとを含み得る。
【0016】
いくつかの実施形態では、上記皮膜または上記合金の組成は、Feと、約10重量%〜約18重量%のMnと、約3重量%〜約6重量%のCrと、約3重量%〜約6重量%のNbと、約0重量%〜約6重量%のVと、約2重量%〜約5重量%のCと、約3重量%〜約6重量%のWと、約0重量%〜約3重量%のNiと、約0重量%〜約3重量%のAlと、約0重量%〜約0.5重量%のTiとを含み得る。
【0017】
いくつかの実施形態では、上記マトリクスは、少なくとも10重量%の元素溶質を含み得る。いくつかの実施形態では、上記マトリクスは、少なくとも15重量%の元素溶質を含み得る。いくつかの実施形態では、上記合金は、900K以下でオーステナイトからフェライトへの熱力学的な安定した転移を示し得る。いくつかの実施形態では、上記マトリクスは、体積で90%を超えるオーステナイトと、少なくとも1つの非磁性酸化物含有物とを有し得る。いくつかの実施形態では、上記皮膜は、400ビッカー以上の微小硬度を有し得る。本明細書に開示されている熱溶射皮膜によって少なくとも部分的にコーティングされた発電機における構成要素の実施形態がさらに本明細書に開示されている。
【0018】
基板に皮膜を熱的に適用するための方法の実施形態も本明細書に開示されており、上記方法は、鉄ベースの粉末合金を上記基板に熱溶射して、皮膜を形成するステップを備え、上記皮膜は、磁性を持たず、磁気厚さゲージにより読取可能であり、上記皮膜は、400ビッカー以上の微小硬度を有し、上記皮膜は、1.4グラム以下のASTM G65B質量損失によって特徴付けられる高い耐摩耗性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】熱溶射皮膜が受ける応力および当該応力がどのようにして剥離を生じさせるかの図である。
【
図2】合金X3についての熱力学的凝固モデルを示す。
【
図3】合金X3の微細構造を走査電子顕微鏡写真として示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
詳細な説明
本明細書に開示されている合金は、皮膜、特に磁気センサが読取可能なままでありながら有利な物理的特性を有する皮膜、の形成に使用することができる。いくつかの実施形態では、合金は、依然として磁気的に読取可能でありながら熱溶射皮膜で使用される鉄ベースの合金であってもよい。
【0021】
読取可能にするために、本開示に記載されている合金の実施形態は、オーステナイト(FCCガンマ相鉄)であってもよく、そのため、磁性を持たず、磁気厚さ測定と干渉しない。これにより、正確な厚さの皮膜が設けられることを保証するための破壊試験なしに、初期溶射中に多くのさまざまな位置を素早く測定することができる。また、使用中に厚さをモニタリングして皮膜の余寿命を判断することができる。
【0022】
また、開示されている合金の実施形態は、高温動作温度で使用することができ、当該動作温度は、合金が皮膜としてオーステナイトのままである温度(例えば、材料の融解温度)として定義することができる。いくつかの実施形態では、合金の実施形態の動作範囲は、0〜1300°(または約0〜約1300°)であってもよく、または一般に合金の0〜0.95*融解温度(または合金の約0〜約0.95*融解温度)であってもよい。
【0023】
さらに、開示されている合金の実施形態は、高い接着性を有し得る。接着性が低い場合、皮膜は、基板との熱膨張ミスマッチによる大きな温度変化にさらされると剥離する可能性がある(
図1参照)。また、接着性の値が高くなることにより、さらに厚い皮膜を堆積させることができ、皮膜の交換または修理が少なくなって耐用年数を長くすることができる。熱溶射皮膜は、堆積後は引っ張り状態のままになる。皮膜が厚くなるにつれて、この張力は増加し、皮膜の接着強度を超える可能性があり、基板から「剥離」する可能性がある。
【0024】
本明細書に開示されているような熱溶射は、多くの用途で使用することができるが、本開示の対象の1つの特定の用途は、石炭発電所で使用されるような工業用ボイラである。これらのボイラは、長期間にわたって高熱にさらされる。同時に、加熱プロセスによって放出された灰および他の燃焼副生成物がボイラの管および壁に堆積する。開示されている合金の実施形態は、工業用ボイラで有利に使用することができる。
【0025】
以下の用語が本明細書全体を通して使用され、当該用語は、別段の指示がない限り以下の意味を有する。
【0026】
スプラットとは、皮膜を備える個々の金属粒子を指す。熱溶射ガンから溶射された半溶融金属は、基板または以前に堆積された粒子に衝突し、平坦化して機械的結合を形成する。
【0027】
皮膜とは、耐腐食性および/または耐侵食性のために基板に溶射されたままの形態の金属である。皮膜は、層状の多くのスプラットで構成され、最小の孔隙率を有する層を形成する。
【0028】
接着性とは、熱溶射皮膜と基板との間の機械的結合を指す。
供給原料の化学的性質とは、ツインワイヤアーク溶射プロセス(または他の熱溶射プロセス)に送られる前のワイヤの化学的性質を指す。
【0029】
最終皮膜の化学的性質とは、ワイヤが溶融されて基板に溶射された後の皮膜の化学的性質を指す。
【0030】
本明細書に開示されているように、合金という用語は、本明細書に開示されている粉末を形成する化学組成、粉末自体、ならびに粉末の加熱および/または堆積によって形成される金属成分の組成を指し得る。
【0031】
合金組成
いくつかの実施形態では、合金は、特定の合金組成によって説明することができる。本開示における合金の化学的性質の実施形態を表1に示す。
【0033】
いくつかの実施形態では、合金は、以下に開示されている熱力学的基準を満たす組成範囲によって説明することができる。いくつかの実施形態では、合金は以下を含み得る:
Al:0〜10(または約0〜約10)
B:0〜3(または約0〜約3)
C:0〜6(または約0〜約6)
Mn:0〜16(または約0〜約16)
Ni:0〜16(または約0〜約16)
Si:0〜10(または約0〜約10)。
【0034】
いくつかの実施形態では、合金は、以下をさらに含み得る:
B+C:1〜6(または約1〜約6)
Mn+Ni:8〜16(または約8〜約16)
Al+Si:0〜14(または約0〜約14)。
【0035】
いくつかの実施形態では、当該合金組成において0重量%のNi(または約0重量%のNi)が使用されてもよい。いくつかの実施形態では、1〜2重量%のニッケルが使用されてもよい。いくつかの実施形態では、MnをNiと交換してもよい。
【0036】
いくつかの実施形態では、合金は、特定の組成比を有し得る。例えば、合金は、(Mn+Ni)/(Al+Si)=0.8〜8(または約0.8〜約8)を有してもよい。これは、以下で詳細に説明するように、「フェライト安定化脱酸化物質」に対する「オーステナイト形成物質」の比率である。しかし、全ての合金にAlおよびSiがあるとは限らないということが理解されるであろう。例えば、大量のMn+Ni(>10%)が使用される場合、Al+Siは使用できない。なぜなら、酸化が生じた後に最終皮膜には十分なMnおよびNiがある可能性があるからである。
【0037】
いくつかの実施形態では、合金は、インゴットの形態でも溶射されたままの形態でもオーステナイト(面心立方ガンマ相)または半オーステナイト微細構造を有し、重量%でMn:10〜18、Cr:3〜6、Nb:3〜6、V:0〜5、C:2〜5、W:3〜6、Ni:0〜3、Al:0〜3、Ti:0〜0.5、残りは製造上の不純物とともにFe(または、Mn:約10〜約18、Cr:約3〜約6、Nb:約3〜約6、V:約0〜約5、C:約2〜約5、W:約3〜約6、Ni:約0〜約3、Al:約0〜約3、Ti:約0〜約0.5、残りは製造上の不純物とともにFe)、の組成を有するものとして説明することができる。
【0038】
いくつかの実施形態では、合金は、重量%で、以下のもののうちのいずれかであってもよい:
TS4:Fe:残り、Mn:12、Cr:5、Nb:4、V:0.5、C:4、W:5、Ni:0、Al:2、Ti:0.2(または、Fe:残り、Mn:約12、Cr:約5、Nb:約4、V:約0.5、C:約4、W:約5、Ni:約0、Al:約2、Ti:約0.2)
TS3:Fe:残り、Mn:12、Cr:5、Nb:4、V:0.5、C:4、W:5、Ni:2、Al:1、Ti:0.2(または、Fe:残り、Mn:約12、Cr:約5、Nb:約4、V:約0.5、C:約4、W:約5、Ni:約2、Al:約1、Ti:約0.2)
TS2:Fe:残り、Mn:12、Cr:5、Nb:4、V:0.5、C:4、W:5、Ni:2、Al:0、Ti:0.2(または、Fe:残り、Mn:約12、Cr:約5、Nb:約4、V:約0.5、C:約4、W:約5、Ni:約2、Al:約0、Ti:約0.2)
TS1:Fe:残り、Mn:12、Cr:5、Nb:4、V:0.5、C:4、W:5、Ni:1、Al:0、Ti:0.2(または、Fe:残り、Mn:約12、Cr:約5、Nb:約4、V:約0.5、C:約4、W:約5、Ni:約1、Al:約0、Ti:約0.2)。
【0039】
さらに、以下に記載されている特定の熱力学的実施形態を実証するので微細構造および性能の実施形態を満たすものと考えられる合金を、「エラー!有効なブックマーク自己参照ではありません」に示す。
【0065】
開示されている合金は、上記の元素成分を合計100重量%まで組み込むことができる。いくつかの実施形態では、合金は、上に挙げた元素を含んでもよく、上に挙げた元素に限定されてもよく、または上に挙げた元素で本質的に構成されてもよい。いくつかの実施形態では、合金は、2%以下の不純物を含んでもよい。不純物とは、供給原料成分における含有物に起因して製造プロセスにおける導入を通じて合金に含まれ得る元素または組成物として理解することができる。
【0066】
さらに、上記の段落に記載されている全ての組成物において同定されるFe含有量は、上記のように組成物の残りであってもよく、または代替的に、組成物の残りは、Feおよび他の元素を含んでもよい。いくつかの実施形態では、残りは、Feで本質的に構成されてもよく、付随的な不純物を含んでもよい。いくつかの実施形態では、組成物は、少なくとも60重量%のFe(または少なくとも約60重量%のFe)を有してもよい。いくつかの実施形態では、組成物は、60〜80重量%のFe(または約60〜約80重量%のFe)を有してもよい。
【0067】
熱力学的基準
いくつかの実施形態では、合金は、熱力学的基準によって十分に説明することができる。開示されている全ての熱力学的基準を満たす合金は、本明細書に開示されている所望の微細構造特徴も性能特性も示す可能性が高い。
【0068】
いくつかの実施形態では、熱溶射プロセス、特にツインワイヤアーク溶射プロセス中の元素の酸化は、合金の組成に影響を及ぼす可能性があり、モデル化を不正確にする可能性がある。したがって、ツインワイヤアーク溶射プロセス中に合金の挙動を予測するために、指定の酸素添加によって合金をモデル化することができる。ツインワイヤアーク溶射プロセスの挙動を最良に予測するために合金モデルに8重量%の酸素を添加できることが、広範な実験を通じて明らかになった。これはさらに、以下で説明する実施例1で正当化されている。計算される合金内の元素間の相対比率が一定のままであるように酸素がモデルに添加される。
【0069】
モデルに対する酸素添加は、熱溶射プロセス中の特定の元素種の酸化を説明するために使用される。酸化反応は、合金内の全ての元素間で類似しているわけではなく、特定の元素が優先的に酸化するであろう。この酸化挙動は、熱溶射合金の理解および設計における重要な要素である。
【0070】
本明細書に記載されている酸化モデルは、供給原料合金を皮膜合金に変化させるプロセスを説明する。ツインワイヤアーク溶射プロセスでは、供給原料合金は、2本のワイヤの形態であり、特定の供給原料の化学的性質を含む。ツインワイヤアーク溶射プロセス中に、これら2本のワイヤは、上記のそれらの融解温度に加熱されて、空気中に溶射される。このステップ中に、供給原料合金は、環境内の酸素と反応する。この酸化反応の結果は、供給原料の化学的性質とは異なる皮膜の化学的性質の、基板への堆積である。
【0071】
8%のOが添加された合金X3についての熱力学的凝固モデルが
図2に示されている。この凝固図は、供給原料の化学的性質が溶融され、噴霧され、空気中の酸素と反応し、基板と接触し、最終的に室温に冷却されるプロセスをシミュレートしている。この熱力学図には多くの酸化物および二次相が存在するため、明確にするために、特定の相のみが示されている。
図2に示されるように、1900Kを上回る非常に高い温度では、合金は、Feベースの液体[101]および二酸化炭素ガス[102]で構成されている。炭素は酸化されることによって供給原料組成物から除去されるので、酸化の影響はすぐに分かる。1900Kでは、Cr、Mn、Al担持酸化物であるスピネル酸化物[103]が生じ始める。この酸化の影響も、やはり、供給原料の化学的性質からAl、CrおよびMnを除去し、皮膜の化学的性質および性能に影響を及ぼす。約1600Kでは、オーステナイトが生じる[104]。合金の組成によっては、オーステナイト相は、低温でフェライト[105]に変化し得る。
【0072】
それによって、
図2は、皮膜の化学的性質を供給原料の化学的性質から分離することに使用することができる。上記のように、
図2は、CO
2ガス中の炭素などの酸化物への特定の元素種の優先的酸化、ならびに、スピネルへのAl、MnおよびCrの優先的酸化を示す。これらの元素は、酸化されると、供給原料の化学的性質から除去されて、皮膜の化学的性質自体の微細構造に寄与しなくなる。
【0073】
皮膜の化学的性質は、皮膜の実際の性能を決定づける。いくつかの実施形態では、皮膜の化学的性質は、FCC−BCC転移温度(T
γ to α)および固溶体強化挙動の予測に使用される。供給原料の化学的性質がT
γ to αおよび固溶体強化挙動の予測に使用される場合、予測は不正確になるであろう。この不正確さは、Mnを合金に添加することによって実証することができる。Mnは、オーステナイトの形成を促進させることが知られている。しかし、Mnは、空気中で非常に急速に酸化することも知られている。したがって、Mnを含む供給原料合金は、熱溶射プロセス中にMnのうちの一部または全てを酸化させる。この例では、皮膜合金は、もはや本特許の熱力学的基準を満たさない。この影響については、さらなる例で具体的に示す。
【0074】
第1の熱力学的基準は、合金におけるFCC−BCC転移に関連する。この転移温度は、オーステナイト構造(FCC)からフェライト構造(BCC)への鋼マトリクスの転移を特徴付ける。本明細書では、FCC−BCC転移温度は、T
γ to αという記号によって略記される。T
γ to αは、マトリクス相の最終的なマトリクスの化学的性質の予測因子の役割を果たす。T
γ to αが比較的低い合金は、熱溶射皮膜の形態のオーステナイトマトリクスを保有して形成する可能性が高い。
【0075】
いくつかの実施形態では、T
γ to αは、950Kもしくは950K未満(または約950Kもしくは約950K未満)であってもよい。いくつかの実施形態では、T
γ to αは、900Kもしくは900K未満(または約900Kもしくは約900K未満)であってもよい。いくつかの実施形態では、T
γ to αは、850Kもしくは850K未満(または約850Kもしくは約850K未満)であってもよい。
【0076】
別の熱力学的実施形態は、マトリクス相の固溶体強化に関連する。固溶体強化は、非類似の元素が鉄マトリクスに添加されたときに起こる。合金の化学的性質に添加されるが二次相を形成しない元素が、固溶体強化に寄与する。この実施形態では、オーステナイトの固溶体強化が検討される。合金に添加される溶質元素の合計濃度が上昇するにつれて、固溶体強化効果も増加する。固溶体強化を生じさせることが知られているいくつかの元素としては、ホウ素、炭素、窒素、クロム、モリブデン、タングステン、ニッケルが挙げられる。また、カルシウム、チタン、マンガン、銅、亜鉛、イットリウム、ニオブおよびスズを含む広範囲にわたる元素が、オーステナイト鋼の固溶体強化に寄与し得る。いくつかの実施形態では、Feを除く全ての元素が固溶体強化性であると考えることができる。したがって、合金の実施形態は、10〜30重量%(または約10〜約30重量%)の合計溶質元素含有量を含み得る。いくつかの実施形態では、合金は、少なくとも5重量%(または少なくとも約5重量%)の元素溶質を最終マトリクスに含んでもよい。いくつかの実施形態では、合金は、少なくとも10重量%(または少なくとも約10重量%)の元素溶質を最終マトリクスに含んでもよい。いくつかの実施形態では、合金は、少なくとも15重量%(または少なくとも約15重量%)の元素溶質を最終マトリクスに含んでもよい。
【0077】
これらの熱力学的基準は、関連しており、本開示のもとで効果的な合金を設計するために同時に検討することができる。上記のように、Mnは、オーステナイト安定化物質であり、固溶体強化に寄与し得るが、急速に酸化する傾向もある。3つ以上の元素の複合合金系についてこれらの関連する基準をナビゲートするには、高度なコンピュータによる冶金学を使用する必要がある。別の例として、優先的に酸化して他の元素を酸化から保護するために、アルミニウムおよび/またはシリコンが供給原料合金に添加されてもよい。しかし、AlおよびSiは、フェライトを安定させる傾向があり、その結果、皮膜が読取可能でなくなる。ほとんど全ての合金化元素は、オーステナイトまたはフェライト安定化物質であり、何らかの形で固溶体強化に寄与し得て、他の合金化元素に対して強いまたは弱い酸化熱力学を有する。したがって、本開示の実施形態を満たすためには、合金化元素のタイプおよびそれらの相対比率を狭い組成範囲内で正確に制御しなければならない。
【0078】
微細構造基準
いくつかの実施形態では、合金は、微細構造特性によって十分に説明することができる。合金の微細構造特徴は、供給原料ワイヤの構造とは対照的に、溶射が完了した後の皮膜の形態に関連する。
【0079】
1つの微細構造基準は、皮膜におけるオーステナイトの存在である。オーステナイトは、鉄の非磁性形態であり、皮膜が磁性を持たず、さらに読取可能であるようにするためには、皮膜微細構造は、主にオーステナイトでなければならない。
【0080】
いくつかの実施形態では、オーステナイトは、皮膜の体積分率の50%(または約50%)以上を構成してもよい。いくつかの実施形態では、オーステナイトは、皮膜の体積分率の90%(または約90%)以上を構成してもよい。いくつかの実施形態では、オーステナイトは、皮膜の体積分率の99%(または約99%)以上を構成してもよい。いくつかの実施形態では、オーステナイトは、皮膜の体積分率の100%(または約100%)を構成してもよい。一般に、熱溶射皮膜は、さまざまな組成の多くのさまざまなスプラットで構成される。オーステナイト形成のための組成が最も少ないスプラットでさえ、オーステナイトを形成する組成を有し、そのため、平均的な皮膜の化学的性質が十分にオーステナイト形成領域に入ることを確実にすることによって、高いオーステナイトレベルを有することが達成できる。オーステナイトの形成は、全ての元素が協力して制御することができるため、多次元系である。
【0081】
別の微細構造基準は、皮膜の微小硬さである。合金の微小硬さは、固溶体強化に左右され、材料の耐摩耗性を増加させる。
【0082】
いくつかの実施形態では、合金皮膜の微小硬さは、400HV以上(または約400HV以上)であってもよい。いくつかの実施形態では、合金皮膜の微小硬さは、450HV以上(または約450HV以上)であってもよい。いくつかの実施形態では、合金皮膜の微小硬さは、500HV以上(または約500HV以上)であってもよい。
【0083】
X3の走査電子顕微鏡写真が
図3に示されている。この顕微鏡写真は、本開示の典型的な実施形態を表わし、それによって、Feベースのオーステナイトスプラット[201]および埋め込まれた酸化物[202]が構築されて皮膜構造を形成する。
【0084】
性能基準
いくつかの実施形態では、合金は、一組の性能特性によって十分に説明することができる。これらの性能特性は、熱溶射処理前の合金の供給原料とは対照的に、堆積後の合金皮膜に関連し得る。
【0085】
1つの性能基準は、皮膜の読取可能性に関連する。読取可能性は、エルコメータ456などの塗装厚さゲージを用いて皮膜厚さを測定できる特性であり、磁気的読取りを決定する。大半の鉄ベースの熱溶射皮膜は、皮膜内のフェライトまたはマルテンサイトの部分が相当であるために磁性を有している。本開示の実施形態は、磁性を持たず、そのため標準的な塗装厚さゲージ機器(例えば、乾燥フィルム厚さゲージまたは皮膜厚さゲージ)を用いて読取ることができる合金を開示する。
【0086】
具体的には、読取可能性は、皮膜上の類似の位置において、標準的な0−1マイクロメータ(厚さの「真の」測定値を提供する)およびエルコメータ456ゲージ(厚さの磁気測定値を提供する)によって、溶射された熱溶射クーポンを測定することによって測定することができる。両方の技術間で厚さ測定値が同等であれば、皮膜は読取可能である。厚さ測定値が同等でない場合、または磁気皮膜厚さ測定値に大幅な散乱がある場合には、皮膜は読取可能ではない。
【0087】
いくつかの実施形態では、磁気厚さ測定値は、マイクロメータ測定値の20%(または約20%)以内であってもよい。いくつかの実施形態では、磁気厚さ測定値は、マイクロメータ測定値の15%(または約15%)以内であってもよい。いくつかの実施形態では、磁気厚さ測定値は、マイクロメータ測定値の10%(または約10%)以内であってもよい。
【0088】
いくつかの実施形態では、熱溶射オペレータは、エルコメータを用いて一箇所を何度も測定することによって読取可能性を測定することができる。エルコメータは、測定読取値を常に登録するが、磁気皮膜は、測定読取値を大幅に変化させる。また、読取可能な皮膜は、各測定ごとに異なる測定読取値を示し得るが、これは、実際の物理的厚さを中心とした標準偏差であろう。いくつかの実施形態では、磁気厚さゲージは、25%(または約25%)の測定値標準偏差を有してもよい。いくつかの実施形態では、磁気厚さゲージは、20%(または約20%)の測定値標準偏差を有してもよい。いくつかの実施形態では、磁気厚さゲージは、15%(または約15%)の測定値標準偏差を有してもよい。
【0089】
別の性能特性は、材料の耐摩耗性である。本開示に関連する摩耗測定試験は2つあり、ASTM G65 手順BおよびASTM G76のもとでの高温侵食試験である。これらは両方とも、全体が引用によって本明細書に援用される。両方の技術は、熱溶射皮膜の共通の用途である発電装置におけるボイラ管の保護に関連する。
【0090】
いくつかの実施形態では、皮膜のASTM G65B質量損失は、0.75グラム以下(または約0.75グラム以下)であってもよい。いくつかの実施形態では、皮膜のASTM G65B質量損失は、0.6グラム以下(または約0.6グラム以下)であってもよい。いくつかの実施形態では、皮膜のASTM G65B質量損失は、0.5グラム以下(または約0.5グラム以下)であってもよい。
【0091】
いくつかの実施形態では、皮膜は、30°(または約30°)の衝突角度、600℃(または約600℃)の動作温度およびオタワ50/70ケイ砂を使用して、高温侵食試験下で質量損失を測定することができる。いくつかの実施形態では、合金は、高温侵食試験において400mg未満(または約400mg未満)を喪失する可能性がある。いくつかの実施形態では、合金は、高温侵食試験において300mg未満(または約300mg未満)を喪失する可能性がある。いくつかの実施形態では、合金は、高温侵食試験において200mg未満(または約200mg未満)を喪失する可能性がある。
【0092】
別の性能基準は、皮膜の接着性に関連する。熱溶射皮膜の接着性は、ASTM 4541またはASTM C633によって測定することができ、それらの各々の全体は、全文が引用によって援用される。稼働中または適用中に皮膜のスポーリングまたは他の早期破損を防止するために皮膜が高い接着性を有することが有利であろう。
【0093】
いくつかの実施形態では、接着強度は、5,000psi(または約5,000psi)以上であってもよい。いくつかの実施形態では、接着強度は、6,000psi(または約5,000psi)以上であってもよい。いくつかの実施形態では、接着強度は、7,000psi(または約7,000psi)以上であってもよい。これらの値は、ASTM 4541試験にもASTM C633試験にも当てはまる。
【0094】
実施例
以下の実施例は、例示的であり非限定的であるよう意図されている。
【実施例1】
【0095】
実施例1:
ツインワイヤアーク溶射プロセスによって生成される皮膜の供給原料の化学的性質と皮膜の化学的性質との間の差に対する酸化の影響を定量化するために、広範な実験を行った。この実験の目的は、本開示で見出される未来の合金のモデル化に使用される酸素含有量を決定することであった。この実施例では、以下の表3に供給原料の化学的性質に従って記載されているように、ツインワイヤアーク溶射プロセスによって3つの合金を溶射した。上記のX3合金に加えて、公知でありかつ読取可能でない熱溶射合金である合金E1〜E3を溶射した。
【0096】
【表27】
【0097】
表3に記載されている3つの合金は、ツインワイヤアーク溶射プロセスを受ける前のワイヤの供給原料の化学的性質を表わす。いずれの場合にも、合金は、同様の溶射パラメータ下でツインワイヤアーク溶射プロセスを受け、各合金に対応する別々の鋼クーポンに堆積された。各合金の皮膜の化学的性質は、走査電子顕微鏡においてエネルギー分散分光法によって測定された。各合金の皮膜の化学的性質の結果を表4に示す。明らかなように、供給原料の化学的性質は、結果として生じた皮膜の化学的性質と同等ではない。例えば、Mn含有量は、2重量%を上回るレベルで供給原料の化学的性質で使用されると大幅に減少する。
【0098】
【表28】
【0099】
最後に、表5に示されるように、溶射プロセス中に酸化される元素の供給原料の化学的性質と皮膜の化学的性質との間のパーセント差を表5に示す。示されているように、アルミニウム、マンガン、ニオブおよびシリコンは、酸化して、それに従って、皮膜微細構造および性能への寄与が低下しているかまたは無くなっている可能性がある。したがって、この酸化を理解して予測することが、高い性能を有する次世代の熱溶射皮膜合金の開発に有用である。
【0100】
【表29】
【0101】
入念な実験を通じて、ツインワイヤアーク溶射の供給原料の化学的性質のうちの熱力学的特性を評価する際に8重量%の酸素をモデルに添加できることが分かった。例えば、X3などの見込みのある供給原料の化学的性質は、[Fe
BALAl
1.8Cr
5.9Mn
8.2Nb
4.5Ti
0.34V
0.85W
5.3]
92O
8によってモデル化されるであろう。X3の場合、8重量%酸素モデルは、計算される皮膜の化学的性質と実験によって測定される皮膜の化学的性質との間の優れた相関関係を示す。計算結果と測定結果との間の比較を表6に示す。特に、オーステナイトの安定化および読取可能性性能基準にとって有利であろうMnは、非常にうまく予測される。
【0102】
【表30】
【実施例2】
【0103】
実施例2:
接着性能を定性化するために、以下の試験を行った。
【0104】
上記のX3合金もX4合金も試験した。試料を固定ジグの上に設置し、制御された皮膜厚さを構築できるように、溶射ガンを担持するロボットアームに試料をラスタさせた。皮膜角度の影響を定量化するために、溶射方向で90°、60°および45°の角度に試料を保持した。さらに、6″および9″のさまざまな溶射距離で試料を溶射した。この溶射試験の目的は、さまざまな妥当な溶射条件下でこれらの合金が効率的に基板に接着する可能性を測定することであった。基板は、3″×3″×1/4″鋼クーポンであり、最小の2.5ミルブラストプロファイルにグリットブラスト処理された。本明細書では「溶射パラメータ1」と称される以下の溶射パラメータで試料を溶射した。
【0105】
・TAFA 8830 Blue Air Cap
・60psi
・32V
・250アンペア
各合金を20ミル(0.020″)のターゲットに溶射した。合金および溶射角度に応じた接着結果を、合金X3については表7に示し、合金X4については表8に示す。これらの結果に基づいて、X3合金もX4合金も、ツインワイヤアーク溶射プロセスにおいて>5,000psi接着強度皮膜を堆積させる。
【0106】
【表31】
【実施例3】
【0107】
実施例3:
ツインワイヤアーク溶射製品としての有用性についてX3およびX4を定性化するために、堆積効率を測定した。堆積効率は、重量でどのぐらいの材料が溶射されるかで除算した、重量でどのぐらいの材料が基板に付着するかの程度である。十分に高い堆積効率、典型的には>60%(または>約60%)が使用するのに有利である。この実験では、合金X3およびX4を12″×12″回転鋼板に溶射した。溶射パターン全体が鋼板と交差するようにガンを固定して保持した。使用されるワイヤの重量および板に蓄積する皮膜の重量を各材料ごとに測定して、堆積効率を判断した。X3は、2回の測定で測定された堆積効率が64%および67%であった。X4は、3回の測定における堆積効率測定値が70%、71%および76%であった。
【実施例4】
【0108】
実施例4:
摩耗性能が必要である特定の用途における開示されている合金の有用性を定性化するために、皮膜に対していくつかの摩耗試験を実施した。比較測定のために、読取可能でない、公知の、耐摩耗性の、Feベースの皮膜E2も試験した。結果を表9に示す。示されているように、X3合金は、標準的な耐摩耗性材料の15%散乱の範囲内であった。このレベルの散乱は、試験自体の散乱によくみられ、両方の皮膜が当該分野において同様に機能すると予想されるであろう。したがって、X3合金は、E2合金と同様の耐摩耗性を有するが、読取可能でもあると言うことができる。
【0109】
【表32】
【実施例5】
【0110】
実施例5:
各合金の読取可能性を測定するために、入念な実験を実施した。鋼パネルの1/2が溶射され、パネルの残り半分が溶射されないままになるように、熱溶射皮膜試験片を生成した。このタイプの試料によって、0−1マイクロメータ測定技術とエルコメータとの間の単純な比較が可能になった。この実験では、0−1マイクロメータ測定は正確な読取りであり、比較の目的でエルコメータ読取りを行って、皮膜が読取可能であるか否かを判断する。読取り対象の皮膜を用いてエルコメータを校正することは、標準的手法であり、名目上15ミルの皮膜で実行された。次いで、マイクロメータおよび校正されたエルコメータを両方とも用いて、さまざまな厚さの5つの皮膜を測定した。「溶射パラメータ1」を用いて、6″溶射距離および90°溶射角度で、全ての試料を溶射した。読取可能性の測定結果を表10に示し、表10は、X3合金が実際に読取可能であることを当業者に対して実証している。読取可能性は、エルコメータ測定において散乱が比較的低いことまたは%不正確さが20%未満であることによって示されている。
【0111】
【表33】
【0112】
熱溶射を設計する方法
いくつかの実施形態では、合金は、さまざまな供給原料材料を混合することによって形成され得て、次いで炉または加熱炉内で溶融されてインゴットにされ得る。インゴットは、1回以上再溶融されて裏返しにされ得て、これは、インゴットの均一性を向上させることができる。
【0113】
生成された各インゴットは、その微細構造、硬度および透磁率を調べることによって評価された。インゴットは、磁性を持たず、1.01未満の透磁率を有するように設計された。各々の連続的なインゴットにおいて組成の漸進的変化が起こって、最終的な合金に至った。
【0114】
湿式砥粒切断機を用いて各合金を区画化し、光学顕微鏡法を用いてその断面を分析した。理想的な微細構造は、スプラット間に酸化物または孔をほとんど持たず、溶射された材料の高密度の皮膜のみを残す。大量の孔は、皮膜接着性を弱める可能性があり、腐食性の媒体が皮膜を貫通して基板を腐食させる経路も提供する可能性がある。本開示の一実施形態の微細構造を
図4に示す。
【0115】
合金におけるAlおよびNiの添加は、材料の「溶射性」を向上させる。
透磁率の測定は、セバンエンジニアリング(Severn Engineering)社から供給される低Mu透磁率試験機を用いて遂行された。公知の透磁率を有する参照基準を試験機に設置した。試験機は、当該参照基準と回動磁石とで構成される。当該磁石は、参照基準とは反対側の試験機の側面から延在している。磁石先端は、インゴットの表面と接触させられる。磁石がインゴットに引き付けられなければ、透磁率は、使用されている参照基準の透磁率未満である。
【0116】
溶射プロセスは、鋼基板をグリットブラスト処理して、いかなる油または汚れも落としながら、均一な表面も提供して皮膜上に適用することによって、開始する。皮膜は、32ボルト、200アンペア、5〜7″溶射距離、2〜3.5ミル/パス、85psi噴霧圧力の溶射条件で20ミルおよび60ミルの厚さの皮膜を溶射することによって堆積される。
【0117】
皮膜接着性は、エポキシを用いて10mm試験ドリーを基板に結合することによって試験される。ドリーは、ポジテストAT−A接着性試験機を用いて引っ張られて引っ張り状態にされる。最低3回の試験が各皮膜に対して実施され、結果は編集されて平均値にされる。また、皮膜破損のモードおよび皮膜が接着(皮膜が基板を完全に剥ぎ取る)モードであるか、接着(皮膜自体が基板を剥ぎ取ることなく破損する)モードであるか、接着破損も粘着破損もこうむる混合モードであるかも対象である。
【0118】
特性
20ミルの厚さを有する本開示からの合金でコーティングされた板は、10,000psiを超える平均皮膜接着性値を有していた。1つの合金の実施形態では、磁気厚さゲージによって測定された厚さは、±0.001″の精度を有し、第2の実施形態では、厚さ精度±0.00075は、優れた読取可能性を示し、磁気妨害が十分に低かった。
【0119】
インゴットの形態の1つの合金の実施形態の透磁率は、<1.01であると測定された。
【0120】
60ミルの厚さの本開示でコーティングされた板は、ASTM G65手順Bに従って、一実施形態では1.19gのアブレーシブ摩耗損失を有し、別の実施形態では1.13gのアブレーシブ摩耗損失を有していた。
【0121】
使用の用途およびプロセス:
本特許に記載されている合金の実施形態は、さまざまな用途および産業で使用することができる。使用の用途のいくつかの非限定的な例としては、以下が挙げられる。
【0122】
露天採掘用途としては、以下の構成要素および以下の構成要素のための皮膜が挙げられる。すなわち、スラリーパイプラインのための耐摩耗性スリーブおよび/または耐摩耗性硬化肉盛;ポンプハウジングもしくはインペラを含む泥水ポンプ構成要素または泥水ポンプ構成要素のための硬化肉盛;シュートブロックを含む鉱石供給シュート構成要素またはシュートブロックの硬化肉盛;回転式ブレーカスクリーン、バナナ型スクリーンおよび振動スクリーンを含むがそれらに限定されない分離スクリーン;自生粉砕ミルおよび半自生粉砕ミル用の裏張り;地面係合ツールおよび地面係合ツールのための硬化肉盛;ドリルビットおよびドリルビットインサート;バケットおよびダンプカー裏張り用の摩耗板;採掘シャベルのヒールブロックおよびヒールブロックのための硬化肉盛;グレーダブレードおよびグレーダブレードのための硬化肉盛;スタッカ・リクレーマ;選別粉砕機;採掘構成要素および他の通信構成要素のための一般的な摩耗パッケージである。
【0123】
上流石油およびガス用途としては、以下の構成要素および以下の構成要素のための皮膜が挙げられる。すなわち、ダウンホールケーシングおよびダウンホールケーシング;ハードバンディングを含むドリルパイプおよびドリルパイプのための皮膜;泥水管理構成要素;マッドモータ;フラッキングポンプスリーブ;フラッキングインペラ;フラッキングブレンダポンプ;ストップカラー;ドリルビットおよびドリルビット構成要素;スタビライザおよびセントラライザを含む傾斜堀り機器および傾斜堀り機器のための皮膜;噴出防止装置ならびに噴出防止装置およびシアーラムを含む噴出防止装置構成要素のための皮膜、産油国管状品および産油国管状品のための皮膜である。
【0124】
下流石油およびガス用途としては、以下の構成要素および以下の構成要素のための皮膜が挙げられる。すなわち、蒸気発生機器を含むプロセス容器およびプロセス容器のための皮膜;アミン容器;蒸留塔;サイクロン;接触分解器;一般的な精製配管;絶縁保護下の腐食;硫黄回収ユニット;対流フード;サワーストリッパライン;スクラバ;炭化水素ドラム;ならびに他の精製機器および容器である。
【0125】
パルプおよび紙用途としては、以下の構成要素および以下の構成要素のための皮膜が挙げられる。すなわち、ヤンキードライヤおよび他のドライヤを含む抄紙機で使用されるロール;カレンダロール;マシンロール;プレスロール;ダイジェスタ;パルプミキサ;パルパ;ポンプ;ボイラ;シュレッダ;ティッシュマシン;ロールおよびベール処理機;ドクターブレード;蒸発器;パルプミル;ヘッドボックス;ワイヤ部品;プレス部品;M.G.シリンダ;ポープリール;巻取り機;真空ポンプ;デフレーカ;ならびに他のパルプおよび紙機器である。
【0126】
発電用途としては、以下の構成要素および以下の構成要素のための皮膜が挙げられる。すなわち、ボイラ管;集塵器;火室;タービン;発電機;冷却塔;凝縮器;シュートおよびトラフ;オーガ;バグハウス;ダクト;IDファン;石炭配管;および他の発電構成要素である。
【0127】
農業用途としては、以下の構成要素および以下の構成要素のための皮膜が挙げられる。すなわち、シュート;ベースカッター刃;トラフ;一次ファンブレード;二次ファンブレード;オーガ;および他の農業用途である。
【0128】
建築用途としては、以下の構成要素および以下の構成要素のための皮膜が挙げられる。すなわち、セメントシュート;セメント配管;バグハウス;混合機器;および他の建築用途である。
【0129】
機械要素用途としては、以下の構成要素および以下の構成要素のための皮膜が挙げられる。すなわち、シャフトジャーナル;ペーパーロール;ギヤボックス;駆動ローラ;インペラ;一般的な埋め立ておよび寸法復元用途;ならびに他の機械要素用途である。
【0130】
鋼用途としては、以下の構成要素および以下の構成要素のための皮膜が挙げられる。すなわち、冷間圧延機;熱間圧延機;線材圧延機;亜鉛めっきライン;連続ピックリングライン;連続鋳造ロールおよび他の製鋼ロール;ならびに他の鋼用途である。
【0131】
本特許に記載されている合金は、さまざまな技術で効果的に製造および/または堆積させることができる。プロセスのいくつかの非限定的な例としては、以下が挙げられる。
【0132】
熱溶射プロセス:熱溶射プロセスとしては、ツインワイヤアーク溶射、高速アーク溶射、燃焼溶射などのワイヤ供給原料を用いるもの、ならびに、高速酸素燃料、高速空気溶射、プラズマ溶射、デトネーションガン溶射および冷間溶射などの粉末供給原料を使用するものが挙げられる。ワイヤ供給原料は、金属心線、単線またはフラックス入りワイヤの形態であってもよい。粉末供給原料は、単一の均一な合金または溶融されたときに所望の化学的性質をもたらす複数の合金粉末の組み合わせであってもよい。
【0133】
溶接プロセス:溶接プロセスとしては、金属不活性ガス(metal inert gas:MIG)溶接、タングステン不活性ガス(tungsten inert gas:TIG)溶接、アーク溶接、サブマージアーク溶接、オープンアーク溶接、バルク溶接、レーザクラッディングを含むがそれらに限定されないワイヤ供給原料を使用するもの、ならびに、レーザクラッディングおよびプラズマ移行アーク溶接を含むがそれらに限定されない粉末供給原料を使用するものが挙げられる。ワイヤ供給原料は、金属心線、単線またはフラックス入りワイヤの形態であってもよい。粉末供給原料は、単一の均一な合金または溶融されたときに所望の化学的性質をもたらす複数の合金粉末の組み合わせであってもよい。
【0134】
鋳造プロセス:鋳造プロセスとしては、砂型鋳造、永久鋳型鋳造、チル鋳造、インベストメント鋳造、ロストフォーム鋳造、ダイカスト、遠心鋳造、ガラス鋳造、スリップキャスティングを含むがそれらに限定されない鋳鉄の製造に特有のプロセス、および、連続鋳造プロセスを含む錬鋼製品の製造に特有のプロセスが挙げられる。
【0135】
後処理技術:後処理技術としては、圧延;鍛造;浸炭、窒化、炭窒化などの表面処理;熱処理が挙げられるが、それらに限定されるものではなく、熱処理としては、オーステナイト化、焼きならし、アニーリング、応力緩和、焼きもどし、エージング、焼き入れ、極低温処理、炎焼き入れ、高周波焼き入れ、示差焼き入れ、肌焼き、脱炭、機械加工、粉砕、冷間加工、加工硬化および溶接が挙げられるがそれらに限定されるものではない。
【0136】
上記の説明から、本発明の熱溶射製品および使用方法が開示されていることが理解される。いくつかの構成要素、技術および局面についてある程度詳細に説明してきたが、本開示の精神および範囲から逸脱することなく、本明細書に上記された特定の設計、構造および方法に対して多くの変更を加えることができることは明白である。
【0137】
別々の実現例の文脈で本開示に記載されている特定の特徴は、組み合わせても単一の実現例でも実現することができる。逆に、単一の実現例の文脈で記載されているさまざまな特徴は、複数の実現例で別々に、または任意の好適なサブコンビネーションで実現することができる。さらに、特定の組み合わせで作用するものとして特徴が上記され得るが、クレームされている組み合わせからの1つ以上の特徴は、場合によっては当該組み合わせから削除されてもよく、当該組み合わせは、任意のサブコンビネーションまたは任意のサブコンビネーションの変形例としてクレームされてもよい。
【0138】
さらに、方法は、特定の順序で図面に示され、または明細書に記載され得るが、このような方法は、望ましい結果を達成するために、示されている特定の順序でまたはシーケンシャルな順序で実行する必要はなく、それら全ての方法を実行する必要はない。示されていないまたは記載されていない他の方法が、例示的な方法およびプロセスに組み入れられてもよい。例えば、記載されている方法のうちのいずれかの前、後、同時または間に1つ以上のさらなる方法が実行されてもよい。さらに、当該方法は、他の実現例において配置し直されたり順序付けし直されたりしてもよい。また、上記の実現例におけるさまざまなシステム構成要素の分離は、全ての実現例でこのような分離が必要であるものとして理解されるべきではなく、記載されている構成要素およびシステムは、一般に単一の製品に統合されてもよく、または複数の製品にパッケージングされてもよいということが理解されるべきである。また、他の実現例は、本開示の範囲内である。
【0139】
「できる(can)」、「できた(could)」、「かもしれない(might)」または「してもよい(may)」などの条件語は、一般に、特に記載のない限り、または使用されている文脈で異なったように理解されない限り、特定の実施形態が特定の特徴、要素および/またはステップを含むまたは含まないことを伝えるよう意図されている。したがって、このような条件語は、一般に、特徴、要素および/またはステップが1つ以上の実施形態に必要であることを意味するよう意図されるものでは決してない。
【0140】
「X、YおよびZのうちの少なくとも1つ」という言い回しなどの接続語は、一般に、特に記載のない限り、項目、用語などがX、YまたはZのいずれかであり得ることを伝えるために使用されるものとして文脈により理解される。したがって、このような接続語は、一般に、特定の実施形態がXのうちの少なくとも1つ、Yのうちの少なくとも1つおよびZのうちの少なくとも1つの存在を必要とすることを意味するよう意図されるものではない。
【0141】
本明細書で使用される「およそ」、「約」、「概して」および「実質的に」という語などの、本明細書で使用される程度の語は、依然として所望の機能を果たすまたは所望の結果を達成する、記載されている値、量または特徴に近い値、量または特徴を表わす。例えば、「およそ」、「約」、「概して」および「実質的に」という語は、記載されている量の10%以下の範囲内、5%以下の範囲内、1%以下の範囲内、0.1%以下の範囲内、および0.01%以下の範囲内の量を指してもよい。記載されている量が0(例えば、なし、全く持たない)場合、上記の範囲は、値の特定の%以内ではなく具体的な範囲であり得る。例えば、記載されている量の10重量/体積%以下の範囲内、5重量/体積%以下の範囲内、1重量/体積%以下の範囲内、0.1重量/体積%以下の範囲内、および0.01重量/体積%以下の範囲内である。
【0142】
添付の図面に関連付けていくつかの実施形態について説明してきた。図面は、一定の縮尺で描かれているが、このような縮尺は限定的なものであるべきではない。なぜなら、示されているもの以外の寸法および割合も意図され、開示されている発明の範囲の範囲内であるからである。距離、角度などは、単に例示的なものであり、必ずしも示されている装置の実際の寸法およびレイアウトと厳密に関係があるわけではない。構成要素は、追加することができ、除去することができ、および/または、再配置することができる。さらに、任意の特定の特徴、局面、方法、特性、特徴、品質、属性、要素などの本明細書における開示は、さまざまな実施形態に関連付けて、本明細書に記載されている全ての他の実施形態において使用することができる。また、本明細書に記載されている任意の方法は、記載されているステップの実行に適した任意の装置を用いて実施できるということが認識されるであろう。
【0143】
いくつかの実施形態およびそれらの変形例について詳細に説明してきたが、他の変形例およびそれらの使用方法は、当業者に明らかであろう。したがって、本明細書における固有のおよび発明的な開示または特許請求の範囲から逸脱することなく、さまざまな適用例、変形例、材料および代替例が等価物で構成されてもよい、ということが理解されるべきである。
【国際調査報告】