(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-536430(P2017-536430A)
(43)【公表日】2017年12月7日
(54)【発明の名称】医療用組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 59/50 20060101AFI20171110BHJP
A61L 27/28 20060101ALI20171110BHJP
A61L 27/04 20060101ALI20171110BHJP
A61L 27/14 20060101ALI20171110BHJP
A61L 27/10 20060101ALI20171110BHJP
A61L 27/36 20060101ALI20171110BHJP
C09D 201/06 20060101ALI20171110BHJP
C09D 7/12 20060101ALI20171110BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20171110BHJP
C09D 5/14 20060101ALI20171110BHJP
【FI】
C08G59/50
A61L27/28
A61L27/04
A61L27/14
A61L27/10
A61L27/36 311
C09D201/06
C09D7/12
C09D5/00 Z
C09D5/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2017-513391(P2017-513391)
(86)(22)【出願日】2015年9月28日
(85)【翻訳文提出日】2017年4月20日
(86)【国際出願番号】NL2015050671
(87)【国際公開番号】WO2016048155
(87)【国際公開日】20160331
(31)【優先権主張番号】14186637.6
(32)【優先日】2014年9月26日
(33)【優先権主張国】EP
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】503220392
【氏名又は名称】ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ.
(71)【出願人】
【識別番号】517079043
【氏名又は名称】マーストリヒト ユニバーシティー
【氏名又は名称原語表記】MAASTRICHT UNIVERSITY
(71)【出願人】
【識別番号】517079054
【氏名又は名称】アカデミシュ ジーケンハウス マーストリヒト
【氏名又は名称原語表記】ACADEMISCH ZIEKENHUIS MAASTRICHT
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】ダーク, アントニウス ヨハネス
(72)【発明者】
【氏名】ルーンテンス, ジャコブス アントニウス
(72)【発明者】
【氏名】リジク, ルウェルリン
(72)【発明者】
【氏名】オデケルケン, ジム シー.イー.
(72)【発明者】
【氏名】ウェルティング, ティム ヨハネス マリア
【テーマコード(参考)】
4C081
4J036
4J038
【Fターム(参考)】
4C081AB04
4C081BB06
4C081CA291
4C081CD28
4C081CD35
4C081CF21
4C081CG01
4C081CG02
4J036AC08
4J036AC11
4J036DC03
4J036DC09
4J036FA02
4J036FA12
4J036JA01
4J036JA15
4J036KA01
4J038GA03
4J038GA07
4J038GA09
4J038HA066
4J038JA17
4J038JA25
4J038JB04
4J038KA06
4J038KA08
4J038NA05
4J038NA12
4J038PB01
4J038PC02
4J038PC03
4J038PC08
(57)【要約】
本発明は、組成物、前記組成物から作製されるコーティング、前記コーティングで被覆された基材を含むインプラント、前記コーティングを有するインプラントの作製方法、及び、インプラントの骨付着の改善方法に関する。本発明の組成物は、(A)2つ以上のエポキシ基を有する化合物;(B)1級アミン基及び2級アミン基から選択される1つ以上を有するアミン;並びに、(C)一般式(1)、(2)、(3)、及び(4)から選択される1種以上の化合物;を含有し、R
1は1級アミン基、2級アミン基、カルボキシル基、及び/又はチオール基を含む基であり、成分(A)中のエポキシ基の数と、成分(B)中の1級アミン基の数との合計は3以上である。
【化1】
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)2つ以上のエポキシ基を有する化合物、
(B)1級アミン基及び2級アミン基から選択される1つ以上を有するアミン、並びに、
(C)一般式(1)、(2)、(3)、及び(4)から選択される1種以上の化合物
【化1】
(式中、R
1は1級アミン基、2級アミン基、カルボキシル基、及び/又はチオール基を含む基である)、
を含有する組成物であって、成分(A)中のエポキシ基の数と、成分(B)中の1級アミン基の数との合計が3以上である組成物。
【請求項2】
R1が1級アミン基及び/又は2級アミン基を含む基である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
成分(C)が一般式(1)又は(3)から選択される化合物である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
成分(C)が一般式(1)の化合物である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
化合物(A)が、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,4−シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、4−ビニルシクロヘキサンジエポキシド、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAの水素化ジグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ポリ(エチレングリコール)ジグリシジルエーテル、及びポリ(プロピレングリコール)ジグリシジルエーテルからなる群から選択され、好ましくは、前記化合物(A)は、1,4−シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAの水素化ジグリシジルエーテル、及びグリセロールジグリシジルエーテルからなる群から選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記アミン(B)が、1,4−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン、3,3’−ジアミノ−N−メチルジプロピルアミン、4,7,10−トリオキサ−1,13−トリデカンジアミン、エチレンジアミン、イソホロンジアミン、及びN−(2−アミノエチル)−1,3−プロパンジアミンからなる群から選択される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記アミンがイソホロンジアミンである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記化合物(C)が一般式(5)
【化2】
(式中、
R
3はH又はOHであり、
R
4はH又はCOOHであり、
R
5はH又はCH
3である)
で表される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記化合物(C)が、N−メチルドーパミン、ドーパミン、エピネフリン、ノルエピネフリン、及びL−ジヒドロキシフェニルアラニンからなる群から選択される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記化合物(C)がドーパミンである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
全組成物中の全てのエポキシ基に対する全ての1級及び2級アミン基の当量比が0.95〜1.10の範囲である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
全組成物中の全てのエポキシ基に対する全ての1級及び2級アミン基の当量比が1.00〜1.08の範囲である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
好ましくは組成物全体の0.01〜10重量%で存在する(D)抗微生物剤を更に含有する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
前記抗微生物剤が銀ナノ粒子、イオン性銀、及び/又はビグアニドを含む、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記抗微生物剤が銀ナノ粒子、及び/又はイオン性銀を含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
好ましくは組成物全体の0.01〜10重量%で存在する(E)骨成長促進剤を更に含有する、請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項17】
前記骨成長促進剤が、FGF、TGF−β、IGF−II、PDGF、及びBMPからなる群から選択される1種以上である、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
溶媒(F)を更に含有し、前記溶媒が1種以上のアルコールを含む、請求項1〜17のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項19】
前記溶媒が、溶媒(F)を含めた前記組成物の40〜80重量%で存在する、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
前記組成物が、
− 組成物全体の10〜70重量%の化合物(A);
− 組成物全体の3〜30重量%のアミン(B);
− 組成物全体の1〜15重量%の化合物(C);
を含有する、請求項1〜19のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項21】
前記組成物が骨誘導性の組成物である、請求項1〜20のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項22】
前記組成物が骨伝導性の組成物である、請求項1〜21のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項23】
請求項1〜22のいずれか1項に記載の組成物から作製されるコーティング。
【請求項24】
前記コーティングが、1〜50μmの範囲、好ましくは3〜15μmの範囲などの2〜25μmの範囲の厚さを有する、請求項23に記載のコーティング。
【請求項25】
請求項23又は24に記載のコーティングで被覆された基材を含むインプラント。
【請求項26】
前記基材が金属基材、ポリマーを主体とする基材、及びセラミックを主体とする基材からなる群から選択される、請求項25に記載のインプラント。
【請求項27】
前記基材がステンレス鋼、チタン、及びアルミニウムからなる群から選択される金属基材である、請求項25又は26に記載のインプラント。
【請求項28】
− 請求項1〜22のいずれか1項に記載の組成物でインプラントの少なくとも一部を被覆すること、
− 前記組成物を硬化してコーティングを形成すること、及び
− 任意選択的に、前記コーティングをポストキュアすること
を含む、コーティングを有するインプラントの作製方法。
【請求項29】
前記ポストキュアが前記コーティングを滅菌処理することを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記ポストキュアがオートクレーブ処理を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
請求項1〜22のいずれか1項に記載の組成物で前記インプラントを被覆することを含む、インプラントへの骨付着の改善方法。
【請求項32】
請求項1〜22のいずれか1項に記載の組成物を含有する骨セメント。
【請求項33】
請求項1〜22のいずれか1項に記載の組成物から形成される物品。
【発明の詳細な説明】
【0001】
[技術分野]
本発明は、組成物、前記組成物から作製されるコーティング、前記コーティングを有する基材を含むインプラント、前記コーティングを有するインプラントの作製方法、及び、インプラントに対する骨付着の改善方法に関する。
【0002】
[背景技術]
哺乳類の体の骨折した、損傷を受けた、又は変性した骨格の骨を、例えば置換又は補完するための人工インプラントの使用は、医療業界においては一般的なことである。通常、人工インプラント器具は、ステンレス鋼、コバルト−クロム−モリブデン合金、タングステン、チタン、アルミニウム、コバルト−クロム−タングステン−ニッケル、及び同様の合金などの、生体適合性のある金属でできている。しかし、様々な合成プラスチックも研究され、また応用されている。ほとんどの場合、人工インプラント器具は、骨格構造の永久的な一部分になることが意図されている。
【0003】
ヒトの体内に物を埋め込む際、複数の問題が広く認識されている。これらの問題としては、感染、バイオフィルムの形成、及び骨組織へのインプラントの不適切な結合が挙げられる。不適切な結合の問題は、人工器官が大きな機能的負荷及びせん断応力を受ける場合に特に広く認められる。骨と強く結合しており、かつ大きなせん断応力負荷及び引張応力負荷に耐えることのできる人工器官を得ることのこの難しさは、様々な付着機構の発展をもたらした。これらの機構の多くでは、人工器官周囲の骨を適合可能に再形成し、新規に再形成された骨を最終的にインプラントの外表面と結合させることが試みられている。
【0004】
インプラントの外表面の特性を向上させる目的で、又は望ましい効果(抗微生物効果、防腐効果、又は向上した組織との結合効果等)を付与する目的で、下にあるインプラント材料を保護するためにインプラントを被覆することが一般的である。現在市販されている数多くのそのようなコーティングは無機物である。インプラント上でのいくらかの骨の成長をもたらし、それによってその付着性を向上させるための一般的な方法は、ヒドロキシアパタイトでインプラントを被覆することである。このような無機インプラントコーティングは一定の利点を有するものの、これらは脆い場合があり、又は塗布が困難な場合があり、又は不十分な抗微生物効果、防腐効果、若しくは組織結合効果しか示さない場合がある。
【0005】
国際公開第A−99/030672号パンフレットには、骨形成原細胞の良好な成長が意図された有機成分を含む、多層インプラントコーティングが記載されている。有機層は、エポキシ樹脂、「アセテチルアミン(acetethylamin)」(元のドイツ語原文)で変性されたエポキシ樹脂、クロム酸(又はクロム酸−硫酸)で変性されたエポキシ樹脂、グルタルジアルデヒド、ポリビニル酢酸、ポリアクリロニトリル、ポリヒドロキシブチレート、ポリアクリレート、ポリオキシメチレン、ポリスチレン、ポリメチレン、ポリエチレン、パラフィン、ポリメチルメタクリレート、アセチルセルロース、ニトロセルロース、及びポリビニルピロリドンであってもよい。外側の層は、上述の有機化合物、ヒドロキシアパタイト、タンパク質(特にはアルブミン、トリプシン、ペプシン、及びコラージュ)であってもよい。外側の層は、組織培養プラズマ処理で処理される。
【0006】
Geckelerら(Cellular Physiology and Biochemistry 2003,13(3),155−164)には、SAOS−2骨芽細胞に対する極めて高い生体適合性が、例えばエポキシ樹脂によって作られる疎水性表面により得られることが報告されている。エポキシ樹脂表面を化学修飾すると、細胞培養容器で得られる生存率を超える一層向上した生存率が得られると報告された。
【0007】
先行技術で公知のこれらの試みにもかかわらず、インプラントのコーティングを改良する更なる及び代替の手法が未だ求められている。
【0008】
[発明の概要]
本発明者らは、驚くべきことに、先行技術の特定の問題を、インプラントのコーティングのために使用できる特別に設計された組成物によって克服できることを見出した。この組成物は、有機置換基を有するインプラント上にコーティングを形成することができ、インプラント表面に容易に塗布することができ、そして向上した抗微生物効果、防腐効果、又は組織結合効果を付与することができる。
【0009】
したがって、本発明の第1の態様においては、本発明は、
(A)2つ以上のエポキシ基を有する化合物、
(B)1級アミン基及び2級アミン基から選択される1つ以上を有するアミン、並びに、
(C)一般式(1)、(2)、(3)、及び(4)から選択される1種以上の化合物
【化1】
(式中、R
1は1級アミン基、2級アミン基、カルボキシル基、及び/又はチオール基を含む基である)、
を含有する組成物であって、成分(A)中のエポキシ基の数と、成分(B)中の1級アミン基の数との合計が3以上である組成物に関する。
【0010】
別の態様においては、本発明は、本発明の組成物を含むコーティング組成物に関する。
【0011】
別の態様においては、本発明は、本発明の組成物から作製されるコーティングに関する。
【0012】
また別の態様においては、本発明は、本発明のコーティングを有する基材を含む、インプラントなどの医療器具に関する。
【0013】
また別の態様においては、本発明は、
− 本発明にかかる組成物でインプラントを被覆すること、
− 組成物を硬化してコーティングを形成すること、及び
− 任意選択的に、コーティングをポストキュアすること、
を含む、コーティングを有するインプラントの作製方法に関する。
【0014】
また別の態様においては、本発明は、本発明にかかる組成物で前記インプラントを被覆することを含む、インプラントへの骨付着の改善方法に関する。
【0015】
また別の態様においては、本発明は、本発明にかかる組成物を含有する骨セメントに関する。
【0016】
また別の態様においては、本発明は、本発明にかかる組成物から形成される物品に関する。
【0017】
また別の態様においては、本発明は、三次元印刷用の液体組成物、三次元物品の形成方法、及び三次元印刷により形成される三次元物品に関する。
【0018】
また別の態様においては、本発明は、成分(A)及び(B)から形成されるコーティング又は物品であって、成分(A)中のエポキシ基の数と、成分(B)中の1級アミン基の数との合計が3以上であり、そのため形成されたコーティング又は物品がその表面にエポキシ基を有するようなコーティング又は物品に関する。コーティング又は物品は、物品又はコーティングの形成後に成分(C)で処理され、それによって成分(C)の1級アミン基、2級アミン基、カルボキシル基、又はチオール基と、コーティング又は物品の表面上のフリーのエポキシ基とが反応する。
【0019】
本発明にかかる組成物によって、骨付着率が増加した、被覆されたインプラントが実現し得る。骨付着率が増加すると、生体内でのインプラントの結合が改善し、またインプラントと骨との間の付着が強化される。したがって、本発明の組成物は、インプラントの組織との一体化を達成することができる。これまで、そのような一体化は、インプラント(表面)材料(例えば研磨−ブラスト処理されたチタン)を選択的に選ぶことによってか、無機リン酸カルシウムコーティング(例えばヒドロキシアパタイト)の塗布によってのみ可能であった。ポリドーパミンコーティングは、ポリジメチルシロキサン−ポリカプロラクトン骨再生足場材料の骨結合性を更に増加させる可能性があるとして述べられている(Jimenez−Vergara et al.,Society for Biomaterials 2013,“Polydopamine−coated PDMS−PCL shape memory polymer foams for bone regeneration”,abstract ♯239。
【0020】
これら先行解決手段は、特定の種類の高分子インプラント材料には適さない場合があり、脆いか他の有用な機械的特性が不足している場合があり、また望ましくない塗布方法の使用が必要とされる場合がある。本発明の組成物は高分子インプラント材料、並びにセラミック及び金属表面を含む、数多くのインプラント基材に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】EpoCH1コーティングからのクロルヘキシジンの放出を示す。
【
図2】EpoCH2コーティングからのクロルヘキシジンの放出を示す。
【
図4】30mLのPBS中での積算Ag放出量を示す。
【
図6】10mLのPBS中での積算Ag放出量を示す。
【0022】
[発明を実施するための形態]
組成物全体のa重量%存在するとして表される、成分の全ての量は、全ての溶媒(F)を除いた組成物の総重量基準である。溶媒を含めた組成物のa重量%存在するとして表される、成分の全ての量は、溶媒(F)を含めた組成物の重量基準である。
【0023】
本発明の組成物は、2つ以上のエポキシ基を有する化合物(A)を含有する。本出願において使用される「2つ以上のエポキシ基を有する化合物」又は「エポキシ」という用語は、2つ以上のオキシラン基を有する任意の材料、モノマー、オリゴマー、ポリマー、又は樹脂を表すことが意図されている。
【0024】
エポキシ基は、飽和又は不飽和の、脂肪族、脂環式、複素環式、又は芳香族であってもよく、また必要に応じて、ハロゲン、硫黄、エステル基、ウレタン基、ヒドロキシ基、メルカプト基、アミノ基、エーテル基、酸又は酸無水物基、ケトン又はアルデヒド基等などの置換基で置換されていてもよい。エポキシは脂肪族又は脂環式のエポキシであることが好ましい。エポキシ樹脂は、好ましくはビスフェノールA部位を含まない。
【0025】
好ましくは、エポキシ(A)は、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,4−シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、4−ビニルシクロヘキセンジエポキシド、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAの水素化ジグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ポリ(エチレングリコール)ジグリシジルエーテル、及びポリ(プロピレングリコール)ジグリシジルエーテルからなる群から選択される。より好ましくは、エポキシは、1,4−シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAの水素化ジグリシジルエーテル、及びグリセロールジグリシジルエーテルからなる群から選択される。
【0026】
化合物(A)は、上述した例示化合物の任意の組み合わせも含んでいてもよい。
【0027】
典型的には、エポキシ樹脂(A)の量は、組成物全体の10〜80重量%、組成物全体の10〜70重量%、組成物全体の10〜60重量%、組成物全体の10〜50重量%、組成物全体の15〜50重量%、又は組成物全体の15〜40重量%などの、組成物全体の10〜90重量%であってもよい。
【0028】
本発明の組成物は、1級アミン基及び2級アミン基から選択される1つ以上を有するアミン(B)を更に含有する。本出願において使用される「1級アミン基及び2級アミン基から選択される1つ以上を有する」又は「アミン」という用語は、1つ以上の1級アミン基、又は1つ以上の2級アミン基、又は1つ以上の1級アミン基と1つ以上の2級アミン基との組み合わせ、のいずれかを有する有機化合物を表すことが意図されている。適切な例としては、一般式H
2N−R−NH
2(Rは任意選択的に置換されていてもよい直鎖又は環状のアルキレン、任意選択的に置換されていてもよいアリーレン、及び任意選択的に置換されていてもよい架橋又は結合したジ−又はポリアリールから選択することができる)で表すことができる化合物が挙げられる。
【0029】
アミン(B)は好ましくは脂肪族アミンである。1級及び/又は2級アミンの窒素原子とは別に、アミンは窒素及び酸素から選択される1つ以上のヘテロ原子を更に含んでいてもよい。例えば、アミン(B)は分子の中に3級アミンを更に有していてもよい。ある実施形態においては、アミンは1級及び/又は2級アミンの窒素原子以外のヘテロ原子を全く含まない。
【0030】
アミンは、1つ以上の1級アミン基を有していてもよい。ある実施形態においては、アミンは2つ以上の1級アミン基を有する。ある実施形態においては、アミンは2つの1級アミン基を有する。ある実施形態においては、アミンは1つの1級アミン基と1つの2級アミン基とを有する。ある実施形態においては、アミンは3つの1級アミン基を有する。
【0031】
好ましくは、アミンは、1,4−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン、3,3’−ジアミノ−N−メチルジプロピルアミン、4,7,10−トリオキサ−1,13−トリデカンジアミン、エチレンジアミン、イソホロンジアミン、スペルミジン、及びN−(2−アミノエチル)−1,3−プロパンジアミンからなる群から選択される。更に好ましくは、アミンはイソホロンジアミンである。
【0032】
ある実施形態においては、アミンは、ジアミンで官能化されたアミノ酸などの、アミンで官能化されたアミノ酸である。
【0033】
アミン(B)は、上述した例示化合物の任意の組み合わせも含んでいてもよい。
【0034】
アミンは、50〜250g/molの範囲などの50〜300g/molの範囲の分子量を有していてもよい。
【0035】
本発明の組成物におけるアミン(B)の量は、組成物全体の3〜20重量%、又は組成物全体の4〜15重量%などの、組成物全体の3〜50重量%、組成物全体の3〜40重量%、組成物全体の3〜30重量%とすることができる。
【0036】
本発明にかかる組成物において、成分(A)中のエポキシ基の数と、成分(B)中の1級アミン基の数との合計は3以上である。好適には、成分(A)中のエポキシ基の数と、成分(B)中の1級アミン基の数との合計は4以上である。ある実施形態においては、成分(A)中のエポキシ基の数と、成分(B)中の1級アミン基の数との合計は、4以上などの3以上である。ある実施形態においては、成分(A)中のエポキシ基の数と、成分(B)中の1級アミン基の数との合計は、6以下又は5以下などの10以下である。したがって、成分(A)中のエポキシ基の数と、成分(B)中の1級アミン基の数との合計は、例えば、4〜10の範囲、3〜6の範囲、4〜6の範囲、3〜5の範囲、又は4〜5の範囲とすることができる。
【0037】
成分(C)は、一般式(1)、(2)、(3)、又は(4)から選択される1種以上の化合物である
【化2】
(式中、R
1は1級アミン基、2級アミン基、カルボキシル基、及び/又はチオール基を含む基である)。R
1は、一般式(1)、(2)、(3)、又は(4)の芳香環と炭素原子が結合している基であって、1級アミン基、2級アミン基、カルボキシル基、及び/又はチオール基を含む基であってもよい。好ましくは、成分(C)は、一般式(1)又は(3)から選択される化合物である。好ましくは、成分(C)は、一般式(1)又は(3)から選択される化合物であり、R
1は1級及び/又は2級アミン基を有する基を含む。好ましくは、成分(C)は一般式(1)又は(3)から選択される化合物であり、R
1は一般式(1)又は(3)の芳香環と炭素原子が結合している基であって1級及び/又は2級アミン基を有する基を含む。好ましくは、成分(C)は一般式(1)の化合物である。好ましくは、成分(C)は一般式(1)の化合物であり、R
1は1級及び/又は2級アミン基を有する基を含む。好ましくは、成分(C)は一般式(1)の化合物であり、R
1は一般式(1)の芳香環と炭素原子が結合している基であって1級及び/又は2級アミン基を有する基を含む。
【0038】
ある好ましい実施形態においては、化合物(C)は、カテコール誘導体、グアイアコール誘導体、又はシリンゴール誘導体から選択される。ある特定の好ましい実施形態においては、化合物(C)はカテコール誘導体から選択される。ある実施形態においては、化合物(C)は一般式(5)で表される化合物である
【化3】
(式中、R
3はH又はOHであり、R
4はH又はCOOHであり、R
5はH又はCH
3である)。
【0039】
化合物(C)が式(3)で表されるある実施形態においては、各R
3、R
4、及びR
5はHである。化合物(C)が式(3)で表される別の実施形態においては、R
3はOHでありR
4及びR
5の両方がHである。化合物(C)が式(3)で表されるまた別の実施形態においては、R
3はOHでありR
4はHでありR
5はCH
3である。化合物(C)が式(3)で表されるまた別の実施形態においては、R
3及びR
5はHでありR
4はCOOHである。
【0040】
一般式(1)及び(5)で表されるカテコールアミンのいくつかの例を以下に示す。
【化4】
【0041】
一般式(1)及び/又は(5)で表されるカテコールアミンの好ましい例としては、エピネフリン、ノルエピネフリン、N−メチルドーパミン、ドーパミン、及びL−ジヒドロキシフェニルアラニン(L−DOPA)が挙げられる。一般式(3)で表される好ましいカテコールアミンはドーパミンである。
【0042】
ある実施形態においては、化合物(C)は、以下に一般式(15)として示されている2−(3’,4’−ジヒドロキシ−フェニル)−モルホリンである。
【化5】
【0043】
ある実施形態においては、化合物(C)は一般式(3)で表される化合物である。ある実施形態においては、化合物(C)は、以下に一般式(16)として示されている5−(2−アミノエチル)−1,2,3−ベンゼントリオールである。
【化6】
【0044】
化合物(C)は、上述した例示化合物の任意の組み合わせも含んでいてもよい。
【0045】
化合物(C)は、適切な塩の形態で組成物中に添加されてもよいし、組成物中に存在していてもよい。適切な塩の例は、ドーパミン塩酸塩である。
【0046】
本発明の組成物中の化合物(C)の量は、組成物全体の1〜20重量%、組成物全体の1〜15重量%、組成物全体の5〜25重量%、組成物全体の5〜20重量%、組成物全体の5〜15重量%、又は組成物全体の2〜10重量%などの、組成物全体の1〜25重量%とすることができる。
【0047】
ある実施形態においては、本発明の組成物は、アミン(B)を最初にエタノールなどの溶媒に溶解させることによって調製される。次に、成分(C)を添加して完全に溶解させる。最後に、エポキシ(A)を添加する。
【0048】
ある実施形態においては、本発明の組成物は、アミン(B)を最初にエタノールなどの第1の溶媒に溶解させることによって調製される。次に、化合物(C)を添加して完全に溶解させる。エポキシ(A)は、第1の溶媒と同じであっても異なっていてもよく第1の溶媒と混和する第2の溶媒に溶解させる。ある実施形態においては、2つの溶液は液体又はエアロゾルのいずれかとして混合され、その後基材に塗布される。ある実施形態においては、これらの2つの溶液は3次元印刷工程で噴射される。
【0049】
R
1がカルボキシル基を含む基である場合、組成物中のカルボキシル基の量は、組成物中の1級及び2級アミン基の量全体の好ましくは10mol%以下である。
【0050】
本出願において、全てのエポキシ基に対する全ての1級及び2級アミン基の当量比を計算するためには、2級アミン基とエポキシ基は1倍でカウントする一方で、1級アミン基は2倍にカウントする。例えば、10個の1級アミン基と、5個の2級アミン基と、10個のエポキシ基とを有する組成物は、(20+5)/10=2.5の当量比を有するであろう。ある実施形態においては、全組成物中の全てのエポキシ基に対する全ての1級及び2級アミン基の当量比(例えば全てのエポキシ基で割った全ての1級及び2級アミン基)は、0.95〜1.10の範囲、好ましくは1.00〜1.08の範囲である。ある実施形態においては、組成物中の全てのエポキシ基に対する全ての1級アミン基の当量比は、0.95〜1.10の範囲、好ましくは1.00〜1.08の範囲である。
【0051】
必須の成分(A)、(B)、及び(C)とは別に、本発明の組成物は追加的な任意選択的な成分も更に含有していてもよい。
【0052】
例えば、本発明の組成物は抗微生物剤(D)を更に含有していてもよい。抗微生物剤は、抗生物性、抗微生物性、防腐性、及び/又は抗真菌性の化合物である。好ましくは、抗微生物剤(D)は、抗微生物性の化合物及び/又は防腐性の化合物である。抗微生物剤は、本発明の組成物、又は組成物から形成されるコーティング若しくは物品に、抗微生物機能を付与することができる。有利なことには、本発明の組成物は、幅広い範囲の抗微生物剤を容易に使用することが可能である。
【0053】
本発明の組成物は、抗微生物剤(D)又は他の薬剤の局所送達が可能なように製剤されてもよい。
【0054】
本発明の組成物の中では、多くの様々な抗微生物剤を好適に使用することができる。抗微生物剤には、テトラサイクリン、ビグアニド(ビスビグアニドを含む)、銀ナノ粒子などの単体の銀、硝酸銀、酸化銀、銀塩、スルファジアジン銀、銀ゼオライト、トリクロサン、葉酸拮抗剤、アミノグリコシド、カルバペネム、セファロスポリン、フルオロキノリン、グリコペプチド、抗結核薬、マクロライド、モノバクタム、オキサゾリジノン、ペニシリン、スルホンアミド、及び/又はこれらの塩のうちの1種以上が含まれていてもよい。好ましい抗微生物剤は、銀ナノ粒子、金属銀、及び/又はイオン性銀である。
【0055】
抗微生物剤は、クロルヘキシジン、アレキシジン、メチルイソチアゾロン(2−メチルイソチアゾロン塩酸塩)、チモール(5−メチル−2 イソプロピルフェノール)、α−テルピネオール(α−α−4−トリメチル−3−シクロヘキシン−1−メタノール)、塩化セチルピリジニウム(1−ヘキサデシルピリジニウムクロリド)、及びクロロキシレノール(4−クロロ,3,5−ジメチルフェノール)のうちの1種以上を含んでいてもよい。
【0056】
好ましくは、本発明の組成物はクロルヘキシジンを含有する。クロルヘキシジンの定義に含まれるものは、クロルヘキシジンの薬学的に許容可能な塩である。クロルヘキシジングルコネート又はクロルヘキシジンアセテートなどのクロルヘキシジンは、グラム陽性菌(ブドウ球菌(Staphylococci)、エンテロコッカス属(Enterococcus species)等)、グラム陰性菌(大腸菌(Escherichia coli)及び緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)等)、及びカンジダ種(Candida species)を含む、広範な微生物に対する非常に速やかな殺菌作用を有するビグアニドである。クロルヘキシジンは、微生物の細胞膜の崩壊及び細胞内容物の析出を生じさせ、その効果は血液などの有機物質の存在によっては影響を受けない。クロルヘキシジンの重要な特性は、肌の上でのその長期にわたる持続性であり、これは血管カテーテル及び整形外科用器具に関連する感染などの、通常肌から微生物が移動することによって生じる、医療器具に関連する感染を低減するのに有益である。クロルヘキシジンは、通常pH8以上では組成物中で長期間安定ではない。クロルヘキシジンは、20年にわたり皮膚洗浄料として広く使用されており、また血管カテーテルを被覆するためにも使用されてきた。
【0057】
抗微生物剤は、単独で使用することもでき、また相乗効果を得るためにこれらの2種以上を組み合わせて使用することもできる。抗微生物剤の組み合わせのいくつかの例としては、クロルヘキシジンとメチルイソチアゾロンとα−テルピネオールの混合物;チモールとクロロキシレノール;チモールとメチルイソチアゾロン;クロルヘキシジンと塩化セチルピリジニウム;クロルヘキシジンとクロロキシレノール;又はクロルヘキシジンとメチルイソチアゾロンとチモール;が挙げられる。これらの組み合わせは、様々な種類の微生物に対する幅広い活性スペクトルを与える。しかし、抗微生物剤(D)の他の組み合わせも用いることができる。
【0058】
抗微生物剤は、組成物から物品又はコーティングを形成した後に物品又はコーティングに添加されてもよい。例えば、本発明の組成物から形成されたコーティング又は物品は、銀ナノ粒子、金属銀、及び/又はイオン性銀などの銀と、溶媒とを含有する混合物の中に浸漬されてもよい。
【0059】
本発明の組成物中の抗微生物剤(D)の量は、組成物全体の0〜8重量%又は組成物全体の0〜5重量%などの、組成物全体の0〜15重量%とすることができる。好適には、本発明の組成物における抗微生物剤(D)の量は、組成物全体の0.05〜8重量%又は組成物全体の0.1〜5重量%などの、組成物全体の0.05〜10重量%とすることができる。典型的には、使用される各抗微生物剤の量は、ブドウ球菌(Staphylococci)、グラム陽性菌、グラム陰性菌、及びカンジダ(Candida)などの細菌性及び真菌性の微生物の増殖を阻害するのに有効な濃度を形成するために十分な量である。
【0060】
本発明の組成物における別の任意選択的な成分は、骨成長促進剤(E)である。骨成長促進剤は、骨伝導剤及び/又は骨誘導剤を含んでいてもよい。
【0061】
骨誘導剤の好適な例としては、骨形成タンパク質(BMP1、BMP3、BMP4、及びBMP7などのBMP);脱灰骨基質、骨誘導性であるとして公知の様々な増殖因子(例えばトランスフォーミング増殖因子−α、増殖分化成長因子)、幹細胞、又は潜在的に造骨能を有するもの等が挙げられる。例えば、増殖因子は、血小板由来増殖因子(PDGF)、血小板由来血管新生因子(PDAF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、血小板由来上皮成長因子(PDEGF)、血小板第4因子(PF−4)、トランスフォーミング成長因子β(TGF−β)、酸性繊維芽細胞増殖因子(FGF−α)、塩基性繊維芽細胞増殖因子(FGF−β)トランスフォーミング成長因子(TGF−α)、インスリン様成長因子1及び2(IGF−1及びIGF−2)、Bトロンボグロブリン関連タンパク質(BTG)、トロンボスポンジン(TSP)、フィブロネクチン、ヴォン・ヴィレブランド(von Willebrand)因子(vWF)、フィブロペプチドA、フィブリノゲン、アルブミン、プラスミノーゲン活性化抑制因子1(PAI−1)、オステオネクチン、regulated upon activation normal T cell expressed and presumably secreted(RANTES)、gro−A、ビトロネクチン、フィブリンD−2量体、第V因子、アンチトロンビンIII、免疫グロブリン−G(IgG)、免疫グロブリン−M(IgM)、免疫グロブリン−A(IgA)、a2−マクログロブリン、アンギオジェニン、Fg−D、エラスターゼ、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、上皮成長因子(EGF)、繊維芽細胞増殖因子(FGF)、腫瘍壊死因子(TNF)、インターロイキン−1(IL−1)、ケラチノサイト増殖因子−2(KGF−2)、及びこれらの組み合わせ、からなる群から選択することができる。
【0062】
好ましい実施形態においては、本発明の組成物はFGF、TGF−β、IGF−2、PDGF、及びBMPからなる群から選択される1種以上の骨成長促進剤を含有する。
【0063】
骨成長促進剤(E)は、上述した例示化合物の任意の組み合わせも含んでいてもよい。
【0064】
本発明の組成物中の骨成長促進剤(E)の量は、組成物全体の0〜5重量%、組成物全体の0.1〜5重量%、又は組成物全体の0.2〜4重量%などの、組成物全体の0〜10重量%とすることができる。
【0065】
本発明の組成物は、抗微生物剤(D)、骨成長促進剤(E)、薬剤、タンパク質、酵素、栄養製品、又は同様の成分の局所送達が可能なように製剤されていてもよい。組成物は、充填剤、補強剤(例えば金属繊維、ポリエチレンなどの合成繊維)、セラミック、細胞外基質(ECM)、グリコサミノグリカン、及びポリマー微粒子などの他の添加剤も含有していてもよい。これらの添加剤のいずれかが、抗微生物剤(D)、骨成長促進剤(E)、薬剤、タンパク質、酵素、栄養製品、又は同様の成分のうちの1種以上の局所送達のための貯留物質として機能してもよい。
【0066】
本発明の組成物は、溶媒(F)を更に含有していてもよい。溶媒(F)は溶媒混合物であってもよい。好適な溶媒としては、メタノール、エタノール、及び当業者に公知の他の適切な溶媒が挙げられる。好ましくは、溶媒(F)は1種以上のアルコールを含む。好ましくは、溶媒はエタノールを含む。
【0067】
本発明の組成物中の溶媒(F)の量は、溶媒を含めた組成物の50〜75重量%などの、溶媒を含めた組成物の40〜85重量%とすることができる。三次元印刷用途の場合においては、溶媒(F)の量は、溶媒を含めた組成物の0〜60重量%又は溶媒を含めた組成物の0〜40重量%などのように少なくてもよい。
【0068】
要約すると、本発明の組成物は、
− 組成物全体の10〜80重量%、組成物全体の10〜70重量%、組成物全体の10〜60重量%、組成物全体の10〜50重量%、組成物全体の15〜50重量%、又は組成物全体の15〜40重量%などの、組成物全体の10〜90重量%の化合物(A);
− 組成物全体の3〜40重量%、組成物全体の3〜30重量%、組成物全体の3〜20重量%、又は組成物全体の4〜15重量%などの、組成物全体の3〜50重量%のアミン(B);
− 組成物全体の1〜20重量%、組成物全体の1〜15重量%、組成物全体の5〜25重量%、組成物全体の5〜20重量%、組成物全体の5〜15重量%、又は組成物全体の2〜10重量%などの、組成物全体の1〜25重量%の化合物(C);
− 組成物全体の0〜5重量%などの、組成物全体の0〜10重量%の抗微生物剤(D);
− 組成物全体の0〜5重量%などの、組成物全体の0〜10重量%の骨成長促進剤(E);及び
− 溶媒を含めた組成物の50〜75重量%などの、溶媒を含めた組成物の40〜85重量%の溶媒(F);
を適切に含有することができる。
【0069】
本発明の組成物は、好ましくは骨伝導性組成物及び/又は骨伝導性コーティング組成物であり、適切な骨成長促進剤(E)の添加によって骨伝導特性を備え得る。本出願で使用される「骨伝導性」という用語は、新たな骨の形成を促進する表面を与える物質又は材料の能力を表すことが意図されている。本出願で使用される「骨誘導性」という用語は、新たな骨の形成を刺激する潜在性を有する細胞機能を促進するための物質又は材料の能力を表すことが意図されている。本発明にかかる組成物は、単にそれぞれの成分を混合することによって調製することができる。組成物が抗微生物剤(D)及び溶媒(F)を含有する場合、抗微生物剤(D)及び溶媒(F)の溶液の中に組成物の他の成分を添加する前に、最初に溶媒の中に抗微生物剤を溶解させることが好ましい場合がある。
【0070】
本発明の組成物の粘度は、コーティングとしての組成物の塗布などの、物品又はコーティングを製造するための組成物の選択された使用方法のために、適切な粘度を有するように調節することができる。
【0071】
別の態様においては、本発明はコーティング組成物、及び本発明にかかるコーティング組成物から作製されるコーティングに関する。
【0072】
乾燥及び硬化後のコーティングは、例えば1〜50μm(マイクロメートル)の範囲、好ましくは3〜15μmの範囲などの2〜25μmの範囲の厚さを有していてもよい。ある実施形態においては、コーティングは1μm〜2mmの厚さを有する。
【0073】
本発明のコーティングは、基材を完全に被覆するコーティングであってもよいが、基材を不完全に被覆するコーティングであってもよい。後者の場合、基材表面の少なくとも一部は被覆されず露出する。ある実施形態においては、本発明のコーティングは基材上に選択的に形成される。例えば、コーティングは、基材上の縞模様などの、特定の形状又はパターンで形成される。コーティングは、望ましい水準の骨との結合が可能なように選択的に形成されてもよい。例えば、インプラントの再配置が予定される場合、遅い又は不完全な骨との結合となるように、コーティングを縞模様に形成してもよい。また、組成物が抗微生物剤(D)、成長促進剤(E)、薬剤、タンパク質、酵素、栄養製品、又は他の同様の成分を含有する場合、これらの成分のうちの1種以上は、組成物中に選択的に配置されている組成物の全体にわたって均一に分布していてもよい。
【0074】
本発明のコーティングは、基材上に直接形成されてもよいし、基材の多層コーティング中の1つの層とすることもできる。後者の場合、コーティングは好ましくは多層コーティングの最外層である。ある実施形態においては、基材上にプライマー層が塗布され、コーティングはプライマー層の上に形成される。あるいは、コーティングの基材への付着性を向上させるために、例えば5〜10%のNaOH水溶液中での基材の洗浄を用いてもよい。ある実施形態においては、基材はコーティングの形成前にプラズマ処理される。
【0075】
また別の態様においては、本発明は、本発明にかかるコーティングを有する基材を含む、インプラントなどの医療器具に関する。
【0076】
本出願において使用される「インプラント」という用語は、生体内での使用に適した外科的インプラントを表すことが意図されている。より詳しくは、インプラントは整形外科用、外傷用、若しくは歯科用のインプラント又は人工器官であってもよい。好適なインプラントの例としては、軟骨を置換若しくは増加させるものを含む全膝関節、全股関節、足首、肘、手首、及び肩のインプラント;脛骨、腓骨、大腿骨、とう骨、及び尺骨の骨折修復用及び外固定用などの長骨インプラント;固定器具及び癒合器具を含む脊髄インプラント;頭蓋骨固定器具を含む顎顔面インプラント;ポリマー、樹脂、金属、合金、プラスチック、及びこれらの組み合わせからなる人工骨置換物、整形外科用セメント及び接着剤;そのようなインプラント中で使用されるくぎ、ねじ、プレート、固定器具、ワイヤー、縫合糸、及びピン等、並びに当業者に公知であろう他の整形外科用インプラント構造体、が挙げられる。代わりに、あるいは追加的に、インプラントは骨を置換及び再生するために使用される足場とすることができる。
【0077】
典型的には、インプラントは、ポリマー、セラミック、金属、又はこれらの組み合わせのうちのいずれかである固体材料で作られる。
【0078】
本発明のコーティングで被覆されるインプラントの基材は、金属、セラミック、及びプラスチックを含む、インプラントを形成する任意の材料を含んでいてもよい。これらの材料の例としては、アモルファス及び/又は(部分)結晶性炭素;完全炭素材料;多孔質炭素;黒鉛;複合炭素材料;炭素繊維;リン酸カルシウム、ゼオライト、シリケート、酸化アルミニウム、アルミノシリケート;炭化ケイ素、及び窒化ケイ素などのセラミック;ラポナイトなどの粘土;金属炭化物;金属酸化物;金属窒化物、金属炭窒化物;金属酸炭化物;遷移金属(チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、レニウム、鉄、コバルト、及びニッケルなど)の金属酸窒化物及び金属炭窒酸化物;貴金属である金、銀、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、及び白金の金属及び金属合金;チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、レニウム、鉄、コバルト、ニッケル、及び銅の金属及び金属合金;鋼材、特にはステンレス鋼;ニチノールなどの形状記憶合金;ニッケル−チタン合金;ガラス;石;ガラス繊維;鉱物;天然骨又は合成骨物質;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウムなどのアルカリ土類金属炭酸塩を主成分とする人造骨、並びに上述の材料の任意の望ましい組み合わせが挙げられる。
【0079】
有利なことには、本発明は、金属基材を必要とすることなしに、プラスチック上への直接的な骨の付着を可能にすることができる。そのため、ある実施形態においては、基材はプラスチック基材である。したがって、基材は1種以上のポリマーを含んでいてもよい。ポリマーの好適な例としては、ポリアミド、ポリホスファゼン、ポリプロピルフマレート、ポリエーテル、ポリアセタール、ポリシアノアクリレート、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリ無水物、ポリオルトエステル、ポリヒドロキシ酸、ポリアクリレート、エチレンビニルアセテートポリマー、セルロースアセテート及び他のセルロース誘導体、ポリスチレン、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(フッ化ビニル)、ポリ(ビニルイミダゾール)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(エチレンテレフタレート)及びポリラクチドなどのポリエステル、ポリウレア、ポリメタクリレート、ポリエチレン及びポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリ(エチレンオキシド)、並びにクロロスルホン化ポリオレフィンが挙げられる。
【0080】
本発明のコーティングで被覆されるインプラントの基材は、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)基材であってもよい。より好ましくは、インプラントはUHMWPEインプラントである。基材は、セラミック、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、又はポリエーテルケトンケトン(PEKK)であってもよい。
【0081】
いくつかの実施形態においては、基材は2種以上の材料を含んでいてもよい(例えば複合材料からなっていてもよい)。
【0082】
また別の態様においては、本発明はコーティングを有するインプラントの作製方法であって、前記方法が、
− インプラントの少なくとも一部を本発明にかかる組成物で被覆すること、
− 組成物を硬化してコーティングを形成すること、及び
− 任意選択的に、好ましくは滅菌することによって、コーティングをポストキュアすること、
を含む、方法に関する。
【0083】
組成物は、スピンコーティング、ディップコーティング、スプレーコーティング等などの任意の従来のコーティング方法によって表面に塗布されてもよい。組成物がスプレーコーティングによって塗布される場合、組成物は通常50mPa・s未満の粘度を有するであろう。いくつかの実例においては、組成物は30mPa・s未満、更には10mPa・s未満の粘度を有するであろう。組成物の粘度は溶媒含量によって調節することができる。
【0084】
硬化工程は、典型的には60〜200℃の範囲、好ましくは70〜150℃の範囲、より好ましくは80〜120℃の範囲の温度での熱硬化によって行われる。ある実施形態においては、硬化は室温で行われる。熱硬化工程は、1〜5時間又は2〜4時間など、最大7時間継続することができる。
【0085】
任意選択的には、ポストキュア工程などの後処理が行われる。ある実施形態においては、ポストキュア工程は、コーティングされたインプラントを滅菌処理することによって行われる。このようなポストキュア工程は、コーティングの機械的安定性を大幅に向上させ得る。好適な滅菌方法としては、オートクレーブ処理、エチレンオキシド滅菌、活性窒素種(NO
2)滅菌、電子ビーム照射、プラズマガス滅菌、又はガンマ線照射が挙げられる。例えば、滅菌には、110〜140℃などの100〜150℃の温度と、0.5〜2barの超過圧力などの適切な圧力とを含むオートクレーブ処理が含まれてもよい。オートクレーブ処理は、10〜30分などの5〜40分間継続してもよい。好適には、オートクレーブ処理には飽和水蒸気雰囲気の使用が含まれる。好ましくは、ポストキュア工程はオートクレーブ処理によって行われる。
【0086】
また別の態様においては、本発明は、本発明にかかる組成物で前記インプラントを被覆することを含む、インプラント上への骨付着の改善方法に関する。
【0087】
また別の態様においては、本発明は、本発明にかかる組成物を含有する骨セメントに関する。ある実施形態においては、骨セメント用組成物は本発明にかかる組成物を含有する。ある実施形態においては、骨セメント用組成物は溶媒(F)を含む本発明にかかる組成物を含有する。ある実施形態においては、溶媒(F)はエタノールを含む。
【0088】
また別の態様においては、本発明は、本発明にかかる組成物から形成される物品に関する。本発明の複数の実施形態においては、組成物は物品の形状へと、好ましくは医療器具又はインプラントの形状へと硬化される。ある実施形態においては、組成物が金型の中に入れられ、組成物が硬化することで物品が形成され、それから物品は金型から取り出される。
【0089】
また別の態様においては、本発明は、三次元印刷用の液体組成物、三次元物品の形成方法、及び三次元印刷により形成される三次元物品に関する。
【0090】
ある実施形態においては、三次元物品の形成方法は、組成物の層を選択的に形成して硬化する工程と、組成物の層を選択的に形成して硬化する工程を複数回繰り返して三次元物品を得る工程とを含む。このように三次元物品を形成できる方法は、インクジェット印刷方法である。
【0091】
ある実施形態においては、三次元印刷用のインクジェットプリンターは複数の噴射口を含み、そのうちの少なくとも1つの噴射口はエポキシを含有しアミンを含有しない第1の液体組成物を含み、そして少なくとも1つの他の噴射口はアミンを含有しエポキシを含有しない第2の液体組成物を含む。いずれの噴射口も成分(C)を含んでいてもよい。三次元物品は、三次元物品の形状の部分に応じて第1の組成物と第2の組成物が選択的に噴射されることによって形成されてもよい。第1の組成物と第2の組成物とが混合されると、これらは固化又は硬化して三次元物品の形状の一部を形成する。
【0092】
ある実施形態においては、混合は、例えば2つの液滴を互いに向けて噴射することによってこれらが基材又は三次元物品の予め形成された一部分に到達する前に混ざるように、液滴が基材又は三次元物品の予め形成された一部分に到達より前の時間に行われる。ある実施形態においては、第1の液滴(第1の液体組成物又は第2の液体組成物由来)が、基材又は三次元物品の予め形成された一部分に最初に噴射され、その後に第2の液滴(第1の液滴中に存在しない液体組成物由来)が、基材又は三次元物品の予め形成された一部分の上に既にある第1の液滴の上に噴射される。
【0093】
ある実施形態においては、三次元物品の形成方法は、組成物の層を形成して選択的に硬化する工程と、組成物の層を形成して選択的に硬化する工程を複数回繰り返して三次元物品を得る工程とを含む。任意選択的には、三次元物品の形成方法は、組成物を十分に硬化させるための及び/又は三次元物品を更に成形するための後処理を更に含んでいてもよい。
【0094】
本明細書で引用される、刊行物、特許出願、及び特許を含む全ての参照文献は、それぞれの参照文献が参照により援用されることが個別にかつ具体的に指示されているのと同程度に、そして本明細書にその全体が記載されているのと同程度に、参照により本明細書に援用される。
【0095】
本明細書を記述する文脈における(特には以降の請求項の文脈における)用語「a」、及び「an」、及び「the」、並びに同様の指示語の使用は、本明細書において特段の指示がない限り、あるいは文脈から明確に否定されない限り、単数形と複数形の両方を包含するとして解釈すべきである。用語「含有する(comprising)」、「有する(having)」、及び「含む(including、及びcontaining)」は、特に断りのない限り、非限定的な用語(すなわち、「〜を含むが、それに限定されない」という意味)として解釈すべきである。本明細書における値の範囲の列挙は、特段の指示がない限り、範囲に含まれる各独立した値を個別に言及するための簡略化した方法としての役割が意図されているに過ぎず、各独立した値は本明細書に個別に列挙されているかのように本明細書に包含される。本明細書に記載の全ての方法は、本明細書において特段の指示がない限り、あるいは文脈から明確に否定されない限り、任意の適切な順序で行うことができる。本明細書で示されている、いずれか及び全ての実施例、又は例示的な言葉(例えば「など」)の使用は、本発明をより分かり易く説明することを意図しているに過ぎず、これは請求項に記載されていない限り、本発明の範囲を限定するものではない。明細書におけるいずれの言葉も、任意の請求項に記載されていない要素が本発明の実施に必須の要素であることを示すものとして解釈されるべきではない。
【0096】
本明細書には、本発明を行うために本発明者に知られている最良の形態を含む、本発明の好ましい実施形態が記載されている。前述の記載を読むことで、当業者はこれらの好ましい実施形態の変形形態を理解できるであろう。発明者らは必要に応じてこのような変形形態が当業者に用いられることを予期しており、本発明者らは本明細書に具体的に記載されている以外の方法で本発明が実施されることを想定している。したがって、本発明には、適用される法律によって許されているように、本明細書に添付の請求項で列挙されている主題の全ての変更及び均等物が含まれる。特定の任意選択的な特徴が本発明の実施形態として記載されているが、この記載は、特段の指示がない限り、あるいは物理的に不可能でない限り、これらの実施形態の全ての組み合わせを包含し、具体的に開示することが意図されている。
【0097】
明確化のため、及び簡潔な記載のため、特徴は同じ又は別個の実施形態の一部として本明細書に記載されているが、本発明の範囲には、記載されている特徴のうちの全て又はいくつかの組み合わせを有する実施形態が含まれ得ることが理解されるであろう。
【0098】
本発明を以降の実施例によって更に詳しく説明するが、これらはいかなる形でもその範囲を限定することを意図するものではない。
【0099】
[実施例]
[実施例1−骨との結合]
[コーティングの作製]
最初にエタノール(EtOH)にクロルヘキシジンジアセテート(Chex DiAc)を溶解させた後、Chex DiAcのEtOH溶液に他の成分を添加することによって、表1に記載されている組成物を調製した。組成物は塗布の直前に新たに調製した。コーティングは、医療用のチタン製ディスク(直径2cm、厚さ1mm)の上に形成した。このディスクは、エタノール中に浸漬して5分間超音波処理した後、アセトン中に浸漬して5分間超音波処理し、その後もう一度エタノール中に浸漬して5分間超音波処理することにより予め洗浄したものである。組成物をディスクの表面に塗布し、引き続き試料を1000rpmの回転速度で30秒間回転させた。空気中で乾燥後(0.5〜2時間)、試料を90℃で3時間、オーブンの中に置いた。
【0100】
【表1】
【0101】
チタン及びアルミニウムの基材上に、EpoCH1及びEpoCH2(表1)と名付けられた様々な種類のコーティングを作製した。コーティングは、乾燥条件下及び湿潤条件下で平均的な機械特性(摩耗試験において)及び良好な付着性を示した。
【0102】
[ウサギで評価したチタン棒上のEpoCH1コーティングの骨との結合]
実際の生体内試験の前に、8匹のウサギの生体外試験シリーズを行った。外科的手法の生体外評価は、動物死体実験で行った。2つの実行可能な手法、すなわち内側関節切開法及び経膝蓋法について評価した。
【0103】
内側関節切開法は、組織の損傷が増加する結果となり、内側側副靭帯及び十字靭帯を傷つける危険性が増加することが分かった。更に、関節切開法はより大きい切開も必要とする。経膝蓋法は、腱及び靭帯を少ししか傷付けない単純かつ迅速な手法であり、上述の全ての関節は閉じたままであるという結果になった。
【0104】
表1に記載されている組成物EpoCH1−0、EpoCH1−5、及びEpoCH1−10で被覆したチタンを、ウサギの脛骨に埋め込んだ。組成物はディップコーティングで塗布した。被覆されたチタン試料はその後オートクレーブ処理した。
【0105】
6週間後、動物を犠死させ、インプラント表面の骨付着を組織診断によって分析した。
【0106】
組織診断からは、EpoCH1−0で被覆されたチタンが、インプラント表面での骨付着に関して被覆されていないチタンよりも優れていたことが示された(埋め込み6週間後、それぞれ被覆されていないチタンが71.5%なのに対し、EpoCH1−0で被覆されたチタンが98.8%)。クロルヘキシジンが添加されたコーティングは、被覆されていないチタン表面と同等の性能である。これらのデータは、薬物送達系として機能する潜在的な能力を有する骨伝導性コーティングとしての未添加コーティングの可能性を示している。更に、これらのデータは、クロルヘキシジンの放出は被覆されていないチタンと比べて骨付着を妨げないが、述べられている量のクロルヘキシジンが添加されたコーティングは、クロルヘキシジンなしの同じコーティングと比較してそれほど性能がよくないことを示唆している。
【0107】
[実施例2−抗微生物剤の放出]
[クロルヘキシジンの放出]
クロルヘキシジン放出実験のために、上で述べたのと同じ手順に従って、ディップコーティングにより5×5cmのアルミニウムシート上にコーティングを塗布した。その後、1×5cmの小片をこれらの試料から切り出し、4mlのリン酸緩衝生理食塩水(pH=7.0)を用いて、100rpmで振とうしながら37℃で保温した。一定間隔で媒体を新しいリン酸緩衝生理食塩水に交換し、洗浄溶液中のクロルヘキシジン濃度をUV−VIS分光法によって決定した。λ=255nmでの吸収値を検量線によってクロルヘキシジンの質量濃度に変換し、これらの値を積算法で時間に対してプロットした。
【0108】
図1及び2は、EpoCH1コーティング及びEpoCH2コーティングからのクロルヘキシジンの放出を示している。放出曲線から、放出されるクロルヘキシジンの総量は組成物中のクロルヘキシジンの量を変えることによって調節できることが明らかに確認できる。更に、放出の速度は用いるエポキシ樹脂の種類によって調節することができ、より疎水性の樹脂(EpoCH2)ほど放出が遅い結果となる。放出動態の差異は、洗浄媒体が頻繁に交換されてより多くのデータ点が集められた場合に最も明白になった(
図1及び2の「24時間間隔」及び「短時間間隔」についての異なる曲線を参照のこと)。
【0109】
[銀の放出]
銀放出実験のために、約19.2℃で、50cm当たり約29秒の速度で、ディップコーティングによって5×5cmのステンレス鋼シート上にコーティングを塗布した。一端に沿って被覆されていない区画を少しだけ残して、50cm
2のシートのうちの45cm
2を被覆した。銀放出実験で使用されたコーティングの配合は表2に示されている。コーティングは90℃で3時間硬化させた。硬化後、EpoAg−noAC以外の全ての試料に対して、飽和蒸気中、120℃で45分間オートクレーブ処理を追加的に行った。EpoAg−noAC試料は、オートクレーブ処理の代わりに120℃のオーブン中に45分間入れた。
【0110】
オートクレーブ処理後、106.1gのエタノール中に0.066gのAgNO
3が入った溶液の中に全ての試料を1時間浸漬し、その後50℃で10分間乾燥させた。
【0111】
10ml又は30mlのリン酸緩衝生理食塩水(pH=7.0)を用いて、100rpmで振とうしながら試料を37℃で保温した。一定間隔で媒体を新しいリン酸緩衝生理食塩水に交換し、洗浄溶液中の銀濃度をICP−AESによって決定した。ICP−AESの結果は、検量曲線から検量線を作成して測定することによりAg濃度に変換し、これらの値(mgAg/L)を時間に対してプロットした。
【0112】
【表2】
【0113】
結果は
図3〜6に示されている。試料は、許容範囲の爆発的な銀の放出を示す。しかしながら、オートクレーブ処理した試料のより少ない銀の放出で示されるように、オートクレーブ処理によって少量の銀が取り除かれることが分かった。実施例1で示される骨結合特性から判断すると、銀の爆発的な放出が有用な抗微生物作用を与え、それから実質的に全ての銀が放出された後に、骨との結合が進行すると考えられる。
【0114】
[実施例3−機械的試験]
[コーティングの作製]
表3に示されている組成物は、最初にエタノール(EtOH)中に安定化イオン性銀ナノ粒子(Ag)を溶解させた後、別のエタノールに入った他の成分を添加することによって調製した。DMTA試験のために、90℃で3時間硬化することによって硬化フィルムは形成される。
【0115】
硬度試験及びナノインデンテーション試験のために、コーティング組成物を0.1mmの厚さの5×5cmステンレス鋼プレートの上で硬化させる。コーティング組成物の塗布の前に、6個の連続した工程(IPAで10分間、Milli−Q水及びHNO
3で10分間、Demi水で10分間、Milli−Q水で10分間、IPA/Milli−Q水の70/30混合物で10分間、及び80℃での10分間の乾燥)によって超音波浴中でプレートを洗浄する。コーティング組成物を90℃で3時間硬化し、その後、120℃で45分間、飽和蒸気環境中でオートクレーブ処理する。
【0116】
【表3】
【0117】
[DMTAによるE’及びT
g]
貯蔵弾性率(E’)及びガラス転移温度T
gは、DMTAにより次のように決定される。測定用の試料を硬化フィルムから打ち抜く。校正したHeidenhain厚さ計で厚さを測定する。典型的な試料サイズは、幅2mm、クランプ間の長さ25mmであり、厚さは1〜2mmで変動する。動的機械測定は、RSA−G2(Rheometrics Solids Analyser G2)と呼ばれるTA社の装置で、周波数1Hz、加熱速度5℃/分で−100℃〜250℃の温度領域にわたって、ASTM D5026に準拠して行う。ASTM D5026からの次の逸脱が許容される:許容される温度の逸脱±2℃(標準で±1℃)、許容される力の逸脱±2%(正常標準で±1%)、許容される周波数の逸脱±2%(標準で±1%)、及び加熱速度5℃/分(標準で1〜2℃/分)。T
gは、1Hzの周波数での損失弾性率E”がその最大値となる温度として決定される。
【0118】
示されている結果は3〜5個の試料の平均値である。結果は表4に示されている。E’はMPaで報告されている。T
gは℃で報告されている。
【0119】
【表4】
【0120】
オートクレーブ処理として示されている試料は、120℃で45分間、飽和蒸気環境中でオートクレーブ処理された。
【0121】
示されているように、オートクレーブ処理によるポストキュアによって、系の機械的特性が劇的に増加する。抗微生物剤として銀を添加すると、コーティングのE’に若干の悪影響が生じ、T
gの低下が生じる。
【0122】
[ナノインデンテーション及び硬度]
EpoAg1(オートクレーブ処理)コーティングに対してナノインデンテーション試験を行った。10mNの印加荷重で、62GPaのヤング率Eがコーティングの厚みの最大10%の貫入で測定される。重量基準で10倍の量の銀と、重量基準で1/10の量の銀での追加的な試験からは、ヤング率は銀の添加によっては大きな影響を受けないことが示唆される。ナノインデンテーションのデータは、驚くほど良好に基材に付着するコーティングを示し、そのためコーティングはインプラント又は他の医療器具のためのコーティングとしての使用に適切なものとなり得る。EpoAg1(オートクレーブ処理)コーティングの硬度も、Vickers硬度試験を用いて測定された。コーティングは許容可能な硬度を示し、これはインプラント又は他の医療器具のためのコーティングとしての使用に適切なものとなり得る。
【国際調査報告】