(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
本発明は、ピルビン酸:フェレドキシン酸化還元酵素(EC 1.2.7.1)、アセト乳酸合成酵素 (EC 2.2.1.6)、及びアセト乳酸脱炭酸酵素 (EC 4.1.1.5)のうちの1つ以上を発現するカルボキシドトロフィックな組み換えクロストリジウム属細菌を提供する。本発明はさらに、エタノール、ブタノール、イソプロパノール、イソブタノール、高級アルコール、ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、コハク酸塩、イソプレノイド、脂肪酸、バイオポリマー、及びそれらの混合物のうちの1つ以上を作製するために、COを含むガス状基質の存在下で、前記組み換え細菌を発酵させることにより発酵産物を作製する方法を提供する。
ピルビン酸:フェレドキシン酸化還元酵素(EC 1.2.7.1)、アセト乳酸合成酵素 (EC 2.2.1.6)、及びアセト乳酸脱炭酸酵素 (EC 4.1.1.5)からなる群から選択される1つ以上の酵素を備えた、カルボキシドトロフィックな組み換えクロストリジウム属細菌であって、各酵素は、過剰発現された内因性酵素、変異した内因性酵素、又は外因性酵素である、前記細菌。
前記酵素が、過剰発現された内因性のIlvB ORF2059アセト乳酸合成酵素、過剰発現された内因性のIlvB ORF2336アセト乳酸合成酵素、過剰発現された内因性のIlvNアセト乳酸合成酵素、又は過剰発現された内因性のAlsSアセト乳酸合成酵素である、請求項1に記載の細菌。
前記細菌が、クロストリジウム オートエタノゲナム、クロストリジウム リュングダリィ、又はクロストリジウム ラグスダレイから誘導される、請求項1に記載の細菌。
前記発酵産物が、エタノール、ブタノール、イソプロパノール、イソブタノール、高級アルコール、ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、コハク酸塩、イソプレノイド、脂肪酸、バイオポリマー、及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項17に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0008】
発酵経路は、生化学反応(経路反応)のカスケードであり、それによって、基質、好ましくはガス状の基質が発酵産物へと転換される。一般的に経路反応には、触媒を行う、又は経路反応速度を上昇させる酵素が含まれている。
【0009】
「フラックス(Flux)」とは、発酵経路の1つ以上の反応を経由した代謝物の流れを指す。個々の経路反応を経由するフラックスは、上限及び下限を有している。したがって、フラックスは、酵素活性に作用する条件及び因子を調節することにより変化させることができる。1つの経路反応を経由するフラックスを調節することにより、発酵経路の全体的なフラックスを変えることができる。フラックスは、当分野に公知の任意の方法に従い測定することができる。例としては、フラックスは、フラックス−バランス解析(FBA:flux−balance analysis)(Gianchandani, Systems Biol Medicine, 2: 372-382, 2010)を用いて測定することができる。また、経路を経由するフラックスは、代謝物及び産物のレベルにより測定されることもでき(メタボロミクス(metabolomics))((Patti, Nat Rev Molec Cell Biol, 13: 263-269, 2012)、及び/又はC13としての標識実験(フラクソミクス(fluxomics))により測定することもできる(Niittylae, Methods Mol Biol, 553: 355-372, 2009; Tang, Mass Spectrom Rev, 28:362-375, 2009)。
【0010】
発酵経路の効率は、経路を経由する反応フラックスを増大させることにより高めることができる。フラックスの増大により、以下のうちの1つ以上が生じる:発酵を行う微生物体の増殖速度の上昇。増殖速度の上昇及び/又は高い産物濃度での産物生成速度の上昇。発酵培養液中での発酵産物濃度の上昇。消費された基質量当たりの産生された発酵産物量の増加。発酵産物の産生速度の上昇又は発酵産物の産生レベルの上昇。好ましくは、効率の増大により、発酵産物産生速度の上昇が生じる。
【0011】
律速反応(ボトルネック)を特定する1つの方法は、基質から産物への発酵経路に関与するすべての反応の酵素活性を測定することである。これは、処理条件下で増殖する細胞中の反応の酵素活性を解析し、最も低い速度の反応を特定することにより行うことができる。次いで、これらを律速ではなくなるように調節し、システム全体のフラックスを増大させることができる。酵素活性は、例えばHuang, J Bacteriol, 194: 3689-3699, 2012に記載される方法などの当分野に公知の任意の方法により測定することができる。
【0012】
本発明者らは、発酵経路に関与する酵素の活性を解析し、いくつかの経路反応が、同じ経路の他の反応よりもかなり低い酵素活性を示していることを見出した。本明細書に記載される組み換え微生物体及び方法は、元の微生物体における産生率が、商業目的として実行可能な産生率ではない経路に対し、特に有用である。
【0013】
酵素活性の解析に適した発酵経路の例としては、Wood−Ljungdahl経路、エタノール、2,3−ブタンジオール、又は例えばアセチル−CoA及びピルビン酸などのそれらの前駆体を産生する発酵経路、発酵経路に必要とされ得る補因子のテトラヒドロ葉酸及びコバラミン(B
12)の生合成経路が挙げられる。Wood−Ljungdahl経路は、
図1及び
図2に記載される酵素により触媒される多くの反応から構成される。所望される発酵産物の生成をもたらすWood−Ljungdahl経路の後の工程も発酵経路の一部であるとみなされる。特定の実施形態において、発酵経路は、エタノール、ブタノール、イソプロパノール、イソブタノール、高級アルコール、ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、コハク酸塩、イソプレノイド、脂肪酸、バイオポリマー、及びそれらの混合物からなる群から選択される発酵産物の産生を生じさせる。
【0014】
本発明は、ピルビン酸:フェレドキシン酸化還元酵素(EC 1.2.7.1)、アセト乳酸合成酵素 (EC 2.2.1.6)、及びアセト乳酸脱炭酸酵素 (EC 4.1.1.5)からなる群から選択される1つ以上の酵素を備えた、カルボキシドトロフィックな組み換えクロストリジウム属細菌を提供するものであり、ここで各酵素は、過剰発現された内因性酵素、変異した内因性酵素、又は外因性酵素である。
【0015】
「元の微生物体」とは、本発明の組み換え微生物体を作製するために使用される微生物体である。元の微生物体は、自然界に存在するもの(すなわち、野生型の微生物体)、又は以前に改変されたもの(すなわち、組み換え微生物体)であってもよい。本発明の組み換え微生物体は、元の微生物体で発現されていた、もしくは発現されていなかった、又は過剰発現されていた、もしくは過剰発現されていなかった1つ以上の酵素を発現するよう改変されていても、または過剰発現するよう改変されていてもよく、又は1つ以上の補因子の可用性の上昇を示すよう改変されていてもよい。1つの実施形態において、元の生物体は、C.オートエタノゲナム、C.リュングダリィ、又はC.ラグスダレイであってもよい。特に好ましい実施形態では、元の生物体は、DSMZアクセッション番号DSM23693で寄託されているC.オートエタノゲナム LZ1561である。
【0016】
「組み換え微生物体」とは、元の微生物体と比較した際に、遺伝子改変を受けた微生物体である。遺伝子改変には、例えば核酸の挿入、欠失、又は置換が含まれる。
【0017】
一般的に、「〜から誘導される」という用語は、新たな組み換え微生物体を作製するために、異なる(すなわち、元の、又は野生型の)核酸、タンパク質、もしくは微生物体から改変された、又は適合されたそれぞれ核酸、タンパク質、又は微生物体を指す。
【0018】
元の微生物体の遺伝子改変法としては、例えば異種遺伝子発現、ゲノム挿入もしくは欠失、遺伝子発現の改変もしくは遺伝子の不活化、又は酵素工学法などの分子学的方法が挙げられる。かかる技術は、例えばSambrook, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 2001;Pleiss, Curr Opin Biotechnol, 22: 611-617, 2011; Park, Protein Engineering and Design, CRC Press, 2010に記載されている。発現構築物/ベクターは、例えば1つ以上のプロモーター又はリボソーム結合部位を含有してもよい。本明細書に記載される核酸及び構築物/ベクターはまた、例えばリボソーム結合部位及び/又は制限酵素部位に必要とされる標準的なリンカーヌクレオチドを含有してもよい。
【0019】
本発明の発現構築物/ベクターを含む核酸及び核酸構築物は、当分野に公知の任意の方法を用いて構築されてもよい。例えば、化学合成法又は組み換え法を用いてもよい。かかる技術は、例えば、Sambrook, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989に記載されている。本質的に、個々の遺伝子及び調節エレメントは、遺伝子を発現させ、所望のタンパク質を形成することができるよう、互いに動作可能に結合されていてもよい。当分野の当業者には適切なベクターが認識されるであろう。しかしながら、例示として、以下のベクターが適切である場合もある:pMTL80000ベクター、pIMP1、pJIR750、及び他のプラスミド。
【0020】
核酸は、当分野に公知の任意の方法を用いて微生物体に送達されてもよい。例えば、核酸は、裸の状態の核酸として微生物体に送達されてもよく、又は微生物体への形質転換プロセスを促進するために1つ以上の剤(例えばリポソーム)と共に組み立てられてもよい。核酸は、DNA、RNA、cDNA、又は適当である場合にはそれらの組み合わせであってもよい。ある実施形態では制限阻害剤が使用されてもよい(Murray, Microbiol Molec Biol Rev, 64: 412-434, 2000)。さらなるベクターとしては、プラスミド、ウイルス(バクテリオファージを含む)、コスミド、人工染色体が挙げられる。好ましい実施形態において、核酸は、プラスミドを用いて微生物体に送達される。例示のみを目的として、形質転換(transformation)(形質導入(transduction)又は形質移入(transfection)を含む)は、エレクトロポレーション法、超音波処理法、ポリエチレングリコール介在形質転換法、化学形質転換受容性(chemical competence)もしくは自然形質転換受容性(natural competence)、プロトプラスト形質転換、プロファージ導入、又は接合により達成されてもよい。適切な形質転換法は、例えばSambrook, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989に記載されている。
【0021】
C.リュングダリィ(Koepke, PNAS, 107:13087-13092, 2010; WO/2012/053905)、C.オートエタノゲナム(WO/2012/053905)、C.アセティクム(C.aceticum)(Schiel-Bengelsdorf, Synthetic Biol, 15: 2191-2198, 2012)、及びA.ウッディー(A.woodii)(Stratz, Appl Environ Microbiol, 60: 1033-1037, 1994)を含む、いくつかのカルボキシドトロフィックなアセトゲン(carboxydotrophic acetogens)に関し、エレクトロポレーション法の使用が報告されている。また、C.アセトブチリカム(C.acetobutylicum)(Mermelstein, Biotechnol, 10: 190-195, 1992)、及びC.セルロリチカム(C.cellulolyticum)(Jennert, Microbiol, 146: 3071-3080, 2000)を含むクロストリジウム菌にもエレクトロポレーション法の使用が報告されている。さらに、C.スカトロゲネス(C.scatologenes)(Parthasarathy, Development of a Genetic Modification System in Clostridium scatologenes ATCC 25775 for Generation of Mutants, Masters Project, Western Kentucky University, 2010)をを含むカルボキシドトロフィックなアセトゲンに関してはプロファージ導入も示されており、ならびにC.ディフィシル(C.difficile)(Herbert, FEMS Microbiol Lett, 229: 103-110, 2003)及びC.アセトブイリカム(C.acetobuylicum)(Williams, J Gen Microbiol, 136: 819-826, 1990)を含む多くのクロストリジウム菌に関しては接合も記載されている。類似方法も、カルボキシドトロフィックなアセトゲンに使用され得るであろう。
【0022】
本発明は、元の微生物体と比較し、発酵経路を経由するフラックスの増大を示すよう適合されたカルボキシドトロフィックな組み換えクロストリジウム属細菌を提供するものである。本発明の1つの特定の実施形態において、元の微生物体は、C.オートエタノゲナム(C.autoethanogenum)、C.リュングダリィ(C.ljungdahlii)、C.ラグスダレイ(C.ragsdalei)、C.カルボキシディボランス(C.carboxidivorans)、C.ドラケイ(C.drakei)、C.スカトロゲネス(C.scatologenes)、C.アセティクム(C.aceticum)、C.フォルミコアセティクム(C.formicoaceticum)、及びC.マグナム(C.magnum)を含むカルボキシドトロフィックなクロストリジウム菌の群から選択される。
【0023】
組み換え細菌は、C.オートエタノゲナム、C.リュングダリィ、C.ラグスダレイ、及び関連単離株の種を含むカルボキシドトロフィックなクロストリジウム菌のクラスターから誘導されてもよい。これらには、限定されないが、C.オートエタノゲナム JAI‐1T(DSM10061)(Abrini, Arch Microbiol, 161: 345-351, 1994)、C.オートエタノゲナム LBS1560(DSM19630) (WO2009/064200)、C.オートエタノゲナム LZ1561(DSM23693)、C.リュングダリィ PETCT(DSM13528=ATCC 55383 (Tanner, Int J Syst Bacteriol, 43: 232-236, 1993)、C.リュングダリィ ERI‐2(ATCC 55380) (米国特許第5,593,886号)、C.リュングダリィ C‐01(ATCC 55988) (米国特許第6,368,819号)、C.リュングダリィ O‐52(ATCC 55989)(米国特許第6,368,819号)、C.ラグスダレイ P11T(ATCC BAA‐622)(WO2008/028055)、例えば”C.コスカティ(C.coskatii)”(米国特許出願公開2011/0229947)などの関連単離株、又は例えばC.リュングダリィOTA‐1(Tirado‐Acevedo, Production of Bioethanol from Synthesis Gas Using Clostridium ljungdahlii, PhD thesis, North Carolina State University, 2010)などの変異株といった株が含まれる。これらの株はクロストリジウムのrRNAクラスターI内にサブクラスターを形成し、その16S rRNA遺伝子は99%を超える同一性であり、約30%の類似した低いGC含有量を有している。しかしながら、DNA−DNA再結合実験及びDNAフィンガープリント実験から、これらの株は異なる種に属していることが明らかとなっている(WO2008/028055)。このクラスターの株は、普遍的な特徴により定義されており、類似した遺伝子型及び表現型の両方を有しており、それらはすべて同じ様式のエネルギー転換と発酵代謝を共有している。このクラスターの株は、チトクロームを欠いており、Rnf複合体を介してエネルギーを保存している。
【0024】
上述のクラスターのすべての種が、類似した形態とサイズを有し(対数増殖細胞は0.5〜0.7x3〜5μmである)、中温性であり(最適な増殖温度は30〜37℃)、偏性嫌気性である(Abrini, Arch Microbiol, 161: 345-351, 1994; Tanner, Int J Syst Bacteriol, 43: 232-236, 1993;及びWO2008/028055)。さらに、それらはすべて、例えば同じpH範囲(pH4〜7.5であり、最適な初期pHは5.5〜6)、CO含有ガスで類似した増殖速度での強力な独立栄養生長、及びある条件下ではエタノール及び酢酸を主要な発酵最終産物として、ならびに少量の2,3−ブタンジオール及び乳酸を形成する類似した代謝プロファイルなどの、同一の主要系統発生学的特徴を共有している(Abrini, Arch Microbiol, 161: 345-351, 1994; Kopke, Curr Opin Biotechnol, 22: 320-325, 2011; Tanner, Int J Syst Bacteriol, 43: 232-236, 1993;及びWO2008/028055)。3つ全ての種で同様にインドール産生が観察された。しかしながら、様々な糖類(例えばラムノース、アラビノース)、酸(例えばグルコン酸、クエン酸)、アミノ酸(例えばアルギニン、ヒスチジン)又は他の基質(例えばベタイン、ブタノール)の基質利用においてこれらの種は違いがある。さらにこれらの種の一部はあるビタミン類(例えばチアミン、ビオチン)に対し栄養要求性であるが、他の種は異なっていたことが判明している。気体の取り込みに関与するWood−Ljungdahl経路遺伝子の組織化及び数は、核酸配列及びアミノ酸配列の差異があるにもかかわらず、すべての種で同じであることが判明している(Kopke, Curr Opin Biotechnol, 22: 320-325, 2011)。また、カルボン酸の、その対応するアルコールへの還元が、これら微生物体の広範囲で示されている(Perez, Biotechnol Bioeng, 110:1066-1077, 2012)。ゆえにこれらの特徴はC.オートエタノゲナム又はC.リュングダリィのような1つの生物体に特異的なものではなく、むしろカルボキシドトロフィックなエタノール合成クロストリジウム菌に一般的な特徴であり、その機序はこれらの株全体にわたり同様に機能していることが予測されるが、性能には差異があり得る。
【0025】
1つの実施形態において、元の微生物体は、C.オートエタノゲナム、C.リュングダリィ、又はC.ラグスダレイである。好ましくは、元の微生物体は、野生型のC.オートエタノゲナム、又はDSM10061もしくはDSM23693(C.オートエタノゲナム LZ1561)のDSMZアクセッション番号で寄託されているC.オートエタノゲナムである。1つの実施形態では、組み換え細菌は、C.オートエタノゲナム、C.リュングダリィ、又はC.ラグスダレイから誘導される。好ましくは、組み換え細菌は、野生型のC.オートエタノゲナム、又はDSM23693のDSMZアクセッション番号で寄託されているC.オートエタノゲナム(C.オートエタノゲナム LZ1561)から誘導される。
【0026】
本発明の酵素及び遺伝子は、過剰発現された内因性の酵素及び遺伝子、変異した内因性酵素及び遺伝子、又は外因性の酵素及び遺伝子であってもよい。
【0027】
「内因性」とは、野生型、又は本発明の組み換え細菌が誘導された元の細菌中に存在している核酸又はタンパク質を指す。1つの実施形態では、内因性遺伝子の発現は、例えば外因性プロモーターなどの外因性調節エレメントにより制御されてもよい。
【0028】
「外因性」とは、野生型、又は本発明の組み換え細菌が誘導された元の細菌中に存在していない核酸又はタンパク質を指す。1つの実施形態では、外因性の遺伝子又は酵素は、異種の株又は種から誘導されて、組み換え細菌中に導入又は発現されていてもよい。他の実施形態では、外因性の遺伝子又は酵素は、人工的に生成されていてもよく、又は組み換えにより生成されていてもよい。外因性の核酸は、細菌のゲノム中に統合されるよう適合されていてもよく、又は細菌中に染色体外の状態(例えばプラスミド内)で維持されるよう適合されていてもよい。
【0029】
「酵素活性」とは、広く酵素による活性を指し、反応を触媒する酵素の活性、酵素の量、又は酵素の可用性が挙げられるが、これらに限定されない。したがって、酵素活性の「増大」には、反応を触媒する酵素の活性の増大、酵素の量の増大、又は酵素の可用性の増大が含まれる。
【0030】
本発明の遺伝子及び酵素は、当分野に公知の任意の方法を用いて発現され、又は操作されてもよく、例えば、定方向進化、知識ベースの設計、ランダム突然変異生成法、遺伝子シャッフリング、コドン最適化、部位特異的ライブラリの利用、及び部位評価ライブラリの利用が挙げられる。
【0031】
「変異した」とは、野生型、又は本発明の組み換え細菌が誘導された元の細菌と比較し、本発明の組み換え細菌中の改変された核酸又はタンパク質を指す。1つの実施形態において、変異は、酵素をコードする遺伝子の欠失、挿入、又は置換であってもよい。他の実施形態では、変異は、酵素中の1つ以上のアミノ酸の欠失、挿入、又は置換であってもよい。
【0032】
「コドン最適化」とは、特定の株又は種において、核酸の翻訳を最適化又は改善するための、例えば遺伝子などの核酸の変異を指す。コドン最適化により、翻訳速度を上げることができ、又は翻訳の正確性をより高めることができる。好ましい実施形態において、本発明の酵素をコードする遺伝子は、クロストリジウム属、特にC.オートエタノゲナム、C.リュングダリィ、及び/又はC.ラグスダレイにおける発現に対してコドン最適化されている。さらに好ましい実施形態において、本発明の酵素をコードする遺伝子は、C.オートエタノゲナム LZ1561における発現に対してコドン最適化されている。
【0033】
「過剰発現した」とは、野生型、又は本発明の組み換え細菌が誘導された元の細菌と比較し、本発明の組み換え細菌の核酸又はタンパク質の発現におけるいずれか増大を指す。過剰発現は、遺伝子コピー数の改変、遺伝子転写速度の改変、遺伝子翻訳速度の改変、又は酵素分解速度の改変を含む、当分野に公知の任意の手段により達成されてもよい。
【0034】
「過剰発現された内因性酵素」とは、野生型、又は本発明の組み換え細菌が誘導された元の細菌と比較し、本発明の組み換え細菌において、より高いレベルで存在する内因性酵素を指す。同じく過剰発現された内因性酵素は、内因性遺伝子によりコードされていてもよく、該遺伝子は例えば強力な又は構成的プロモーターにより制御されるよう改変されていてもよい。同様に、「過剰発現された内因性遺伝子」とは、野生型、又は本発明の組み換え細菌が誘導された元の細菌と比較し、本発明の組み換え細菌において、より高率もしくはより高レベルで存在する又は転写される内因性遺伝子を指す。
【0035】
「変異した内因性酵素」とは、野生型、又は本発明の組み換え細菌が誘導された元の細菌と比較し、本発明の組み換え細菌中で変異した又は改変された内因性酵素を指す。同様に、「変異した内因性遺伝子」とは、野生型、又は本発明の組み換え細菌が誘導された元の細菌と比較し、本発明の組み換え細菌中で変異した又は改変された内因性遺伝子を指す。
【0036】
「外因性酵素」とは、野生型、又は本発明の組み換え細菌が誘導された元の細菌中に存在しない酵素を指す。同様に、「外因性遺伝子」とは、野生型、又は本発明の組み換え細菌が誘導された元の細菌中に存在しない遺伝子を指す。典型的には、外因性酵素又は遺伝子は、異種の株又は種から誘導され、及び組み換え細菌中に導入又は発現される。
【0037】
実質的に同じ機能を果たすということであれば、本明細書に具体的に例示される配列から変化した配列を有する変異型核酸又はタンパク質を使用して本発明が実施されてもよい。タンパク質又はペプチドをコードする核酸配列に関しては、コードされたタンパク質又はペプチドが、実質的に同じ機能を有することを意味する。プロモーター配列を示す核酸配列に関しては、その変異型配列は、類似した能力を有し、1つ以上の遺伝子の発現を促進する。かかる核酸又はタンパク質は、本明細書において「機能的に均等な変異体」と呼称される場合がある。例示を目的として、核酸の機能的に均等な変異体には、対立遺伝子多型、遺伝子の断片、変異(欠失、挿入、ヌクレオチド置換など)及び/又は多型などを含む遺伝子が含まれる。他の微生物体由来の同種遺伝子もまた、本明細書に具体的に例示される配列の機能的に均等な変異体の例と見なされる。これらには、例えばC.オートエタノゲナム、C.ベイジェリンキィ(C.beijerinckii)又はC.リュングダリィなどの種における同種の遺伝子が含まれ、その詳細は、例えばGenbank又はNCBIなどのウェブサイト上で公的に入手可能である。機能的に均等な変異体にはまた、特定の生物体へのコドン最適化の結果としてその配列が変化した核酸が含まれる。機能的に均等な変異体の核酸は、好ましくは、その特定の核酸と少なくともおよそ70%、およそ80%、およそ85%、およそ90%、およそ95%、およそ98%、又はそれ以上の核酸配列の同一性を有している。機能的に均等な変異体のタンパク質は、好ましくは、その特定のタンパク質と少なくともおよそ70%、およそ80%、およそ85%、およそ90%、およそ95%、およそ98%、又はそれ以上のアミノ酸の同一性を有している。かかる変異体にはタンパク質又はペプチドの断片が含まれ、この場合において該断片は、該タンパク質又はペプチドの切断型が含まれ、この場合において欠失は1〜5、1〜10、1〜15、1〜20、1〜25個のアミノ酸であってもよく、該ポリペプチドのいずれか末端で1残基〜25残基伸長していてもよく、及びこの場合において欠失はその領域内の任意の長さのものであってもよく、又は内側の位置であってもよい。核酸変異体又はタンパク質変異体の機能的な均等性は、当分野に公知の任意の方法を用いて評価されてもよい。しかしながら、例示を目的として、ある酵素の活性を検証するためのアッセイは、Huang, J Bacteriol, 194: 3689-3699, 2012に記載されている。
【0038】
活性な制限酵素系を有する特定の実施形態では、微生物体に核酸を導入する前に、核酸をメチル化する必要がある場合がある。
【0039】
一般的に、メチル化は、シャトル微生物体、好ましくは例えば大腸菌、枯草菌(B.subtilis)、L.ラクティス(L. lactis)などの制限酵素陰性のシャトル微生物体を用いて行われ、それらにより発現構築物/ベクターを構成する核酸配列のメチル化が容易となる。メチル化構築物/ベクターは、メチル基転移酵素をコードする核酸配列を含有する。発現構築物/ベクター及びメチル化構築物/ベクターがシャトル微生物へと導入されると、メチル化構築物/ベクター上に存在するメチル基転移酵素遺伝子が誘導される。誘導は、任意の適切なプロモーター系によるものであってもよいが、本発明の1つの特定の実施形態では、メチル化構築物/ベクターは、誘導可能なlacプロモーターを備えており、ラクトース又はそのアナログ、より好ましくはイソプロピル−β−D−チオ−ガラクトシド(IPTG)の添加により誘導される。他の適切なプロモーターとしては、ara、tet、又はT7系が挙げられる。さらなる実施形態では、メチル化構築物/ベクターのプロモーターは、構成的プロモーターである。
【0040】
特定の実施形態では、メチル化構築物/ベクターは、メチル化構築物/ベクター上に存在する任意の遺伝子がシャトル微生物体中で発現されるよう、シャトル微生物体の固有性に特異的な複製起源を有している。好ましくは、発現構築物/ベクターは、発現構築物/ベクター上に存在する任意の遺伝子が、目的の微生物体中で発現されるよう、目的の微生物体の固有性に特異的な複製起源を有している。
【0041】
メチル基転移酵素の発現により、発現構築物/ベクター上に存在する遺伝子のメチル化が生じる。次いで、当分野に公知の任意の方法に従い発現構築物/ベクターがシャトル微生物体から単離されてもよい。1つの実施形態において、構築物/ベクターの両方が同時に単離される。発現構築物/ベクターは、当分野に公知の任意の方法を用いて目的の微生物体へと導入されてもよい。発現構築物/ベクターはメチル化されているため、発現構築物/ベクター上に存在する核酸配列は、目的の微生物体へと組み込まれることができ、及び成功裏に発現されることができる。
【0042】
メチル基転移酵素遺伝子は、シャトル微生物体へと導入され、過剰発現されてもよい。したがって、1つの実施形態において、得られたメチル基転移酵素は、発現プラスミドをメチル化するために、公知の方法を用いて回収され、インビトロで使用されてもよい。次いで、発現構築物/ベクターは、発現を行うために目的の微生物体へと導入されてもよい。他の実施形態では、メチル基転移酵素遺伝子はシャトル微生物体のゲノムへと導入され、次いで、発現構築物/ベクターがシャトル微生物体へ導入され、シャトル微生物体から1つ以上の構築物/ベクターが単離され、次いで目的の微生物体へと発現構築物/ベクターが導入される。
【0043】
発現構築物/ベクター及びメチル化構築物/ベクターが組み合わされ、主題組成物を提供してもよい。かかる組成物は、制限バリアメカニズムを回避し、本発明の組み換え微生物体を産生するのに特に有用である。1つの特定の実施形態において、発現構築物/ベクター及び/又はメチル化構築物/ベクターは、プラスミドである。例えば、枯草菌ファージΦT1メチル基転移酵素、またはWO2012/053905に記載されているメチル基転移酵素を含む多くの適切なメチル基転移酵素を使用することができる。同様に、メチル基転移酵素遺伝子の発現が可能となるよう適合された数々の構築物/ベクターを用いて、メチル化構築物/ベクターを作製してもよい。
【0044】
例示を目的として、1つの実施形態では、本発明の組み換え微生物体は、(a)(i)本明細書に記載される核酸を備える発現構築物/ベクター、及び(ii)メチル基転移酵素遺伝子を備えるメチル化構築物/ベクター、のシャトル微生物体への導入、及び(b)メチル基転移酵素遺伝子の発現、シャトル微生物体からの1つ以上の構築物/ベクターの単離、及び目的の微生物体への1つ以上の構築物/ベクターの導入、を含む方法により作製されてもよい。1つの実施形態において、工程(b)のメチル基転移酵素遺伝子は、構成的に発現される。他の実施形態において、工程(b)のメチル基転移酵素遺伝子の発現は、誘導される。
【0045】
本発明の組み換え細菌は、ピルビン酸:フェレドキシン酸化還元酵素、アセト乳酸合成酵素、及びアセト乳酸脱炭酸酵素のうちの1つ以上を備える。
【0046】
ピルビン酸:フェレドキシン酸化還元酵素(PFOR又はPOR)(EC 1.2.7.1)は、1つの分子(還元体、又は電子供与体)から他の分子(酸化体、又は電子受容体)への電子の伝達を触媒する酸化還元酵素のファミリーに属する酵素である。具体的には、ピルビン酸:フェレドキシン酸化還元酵素は、ピルビン酸及びアセチル−CoAの相互変換:ピルビン酸+CoA+2酸化フェレドキシン⇔アセチル−CoA+CO
2+2還元フェレドキシン+2H
+を触媒する。ピルビン酸へのアセチルCoAの変換は、Wood−Ljungdahl経路の独立栄養性CO(2)固定を、還元型トリカルボン酸回路へとリンクさせており、当該回路は独立栄養性の嫌気性細菌において、すべての細胞性高分子の生合成のための段階である(Furdi, J Biol Chem, 15: 28494-28499, 2000)。ピルビン酸:フェレドキシン酸化還元酵素はまた、ピルビン酸:フェレドキシン2−酸化還元酵素(CoA−アセチル化)、ピルビン酸酸化還元酵素、ピルビン酸シンターゼ、ピルビン酸シンテターゼ、又はピルビン酸‐フェレドキシン酸化還元酵素として知られている場合がある。
【0047】
本発明のピルビン酸:フェレドキシン酸化還元酵素は、過剰発現された内因性酵素、変異した内因性酵素、又は外因性酵素であってもよい。同様に、本発明のピルビン酸:フェレドキシン酸化還元酵素は、過剰発現するよう操作された内因性のピルビン酸:フェレドキシン酸化還元酵素遺伝子によりコードされていてもよく、変異した内因性のピルビン酸:フェレドキシン酸化還元酵素遺伝子によりコードされていてもよく、又は外因性のピルビン酸:フェレドキシン酸化還元酵素遺伝子によりコードされていてもよい。好ましい実施形態において、ピルビン酸:フェレドキシン酸化還元酵素は、例えば過剰発現された内因性のC.オートエタノゲナム、C.リュングダリィ、又はC.ラグスダレイのピルビン酸:フェレドキシン酸化還元酵素などの過剰発現された内因性ピルビン酸:フェレドキシン酸化還元酵素である。ピルビン酸:フェレドキシン酸化還元酵素は多くの場合、酸素の存在下では不安定である。好ましい実施形態において、ピルビン酸:フェレドキシン酸化還元酵素は酸素安定性であり、又は少なくともある程度の酸素不感受性を示す。さらに好ましい実施形態において、ピルビン酸:フェレドキシン酸化還元酵素は、デスルホビブリオ・アフリカヌス(Desulfovibrio africanus)の外因性ピルビン酸:フェレドキシン酸化還元酵素であり、又はそれらから誘導された酵素である。D.アフリカヌスのピルビン酸:フェレドキシン酸化還元酵素の発現は、大腸菌において示されている(Pieulle, J Bacteriol, 179: 5684-5692, 1997)が、クロストリジウム属微生物体においては示されていない。
【0048】
アセト乳酸合成酵素(Als)(EC 2.2.1.6)は、例えばバリン、ロイシン及びイソロイシンなどの分枝鎖型アミノ酸の合成の第一工程を触媒する酵素である。特に、アセト乳酸合成酵素は、異化作用型及び同化作用型の両方を有するトランスケトラーゼであり、2つのピルビン酸分子の、アセト乳酸分子と二酸化炭素への変換:2CH
3COCOO
− ⇔ CH
3COCOHCH
3COO
−+CO
2を触媒する。アセト乳酸合成酵素は、アセトヒドロキシ酸合成酵素としても知られている。
【0049】
本発明のアセト乳酸合成酵素は、過剰発現された内因性酵素、変異した内因性酵素、又は外因性酵素であってもよい。同様に、本発明のアセト乳酸合成酵素は、過剰発現するよう操作された内因性アセト乳酸合成酵素遺伝子によりコードされていてもよく、変異した内因性アセト乳酸合成酵素遺伝子によりコードされていてもよく、又は外因性アセト乳酸合成酵素遺伝子によりコードされていてもよい。アセト乳酸合成酵素は、異化作用的であっても、又は同化作用的であってもよい。好ましい実施形態において、アセト乳酸合成酵素は、例えば過剰発現された内因性のC.オートエタノゲナム、C.リュングダリィ、又はC.ラグスダレイのアセト乳酸合成酵素などの過剰発現されたアセト乳酸合成酵素である。特に、アセト乳酸合成酵素は、過剰発現された内因性のIlvB、IlvB ORF2059、IlvB ORF2336、IlvC、IlvN、IlvBN、又はAlsSのアセト乳酸合成酵素であってもよい。好ましい実施形態において、アセト乳酸合成酵素は、例えば内因性のC.オートエタノゲナム、C.リュングダリィ、又はC.ラグスダレイのアセト乳酸合成酵素のいずれかから誘導された変異したアセト乳酸合成酵素などの、変異した内因性アセト乳酸合成酵素である。特に、変異した内因性アセト乳酸合成酵素は、フィードバック不感受性のIlvNアセト乳酸合成酵素であってもよい。好ましい実施形態において、アセト乳酸合成酵素は、例えば枯草菌アセト乳酸合成酵素、特にフィードバック不感受性の枯草菌AlsSアセト乳酸合成酵素などの外因性アセト乳酸合成酵素である。枯草菌AlsSの発現は、シネココッカス エロンガタス(Synechococcus elongatus)の1種、PCC 7942株に示されている(Oliver, Metabol Eng, 22: 76-82, 2014)が、クロストリジウム属微生物体では示されていない。
【0050】
アセト乳酸脱炭酸酵素 (EC 4.1.1.5)は、リアーゼファミリー、特にカルボキシ−リアーゼに属する酵素であり、炭素−炭素の結合を開裂させる。アセト乳酸脱炭酸酵素は、(S)−2−ヒドロキシ−2−メチル−3−オキソブタノエートの、(R)−2−アセトンとCO
2への反応:(S)−2−ヒドロキシ−2−メチル−3−オキソブタノエート⇔(R)−2−アセトン+CO
2を触媒する。また、アセト乳酸脱炭酸酵素は、アルファ−アセト乳酸脱炭酸酵素、又は(S)−2−ヒドロキシ−2−メチル−3−オキソブタノエートカルボキシ−リアーゼとしても知られている場合がある。
【0051】
本発明のアセト乳酸脱炭酸酵素は、過剰発現された内因性酵素、変異した内因性酵素、又は外因性酵素であってもよい。同様に、本発明のアセト乳酸脱炭酸酵素は、過剰発現するよう操作された内因性アセト乳酸脱炭酸酵素遺伝子によりコードされていてもよく、変異した内因性アセト乳酸脱炭酸酵素遺伝子によりコードされていてもよく、又は外因性アセト乳酸脱炭酸酵素遺伝子によりコードされていてもよい。好ましい実施形態において、アセト乳酸脱炭酸酵素は、例えば過剰発現された内因性のC.オートエタノゲナム、C.リュングダリィ、又はC.ラグスダレイのアセト乳酸脱炭酸酵素などの過剰発現されたアセト乳酸脱炭酸酵素である。過剰発現された内因性のアセト乳酸脱炭酸酵素は、BudAアセト乳酸脱炭酸酵素、又はAlsDアセト乳酸脱炭酸酵素であってもよい。好ましい実施形態において、アセト乳酸脱炭酸酵素は、例えばアエロモナス ハイドロフィラ(Aeromonas hydrophila)のアセト乳酸脱炭酸酵素、又はロイコノスティック ラクティス(Leuconostoc lactis)のアセト乳酸脱炭酸酵素などの外因性のアセト乳酸脱炭酸酵素である。枯草菌AlsDの発現は、シネココッカス エロンガタス(Synechococcus elongatus)の1種、PCC 7942株に示されている(Oliver, Metabol Eng, 22: 76-82, 2014)が、クロストリジウム属微生物体では示されていない。
【0052】
ピルビン酸:フェレドキシン酸化還元酵素、アセト乳酸合成酵素、及びアセト乳酸脱炭酸酵素は、以下の表中のアミノ酸のうちのいずれかを含有してもよく、又は以下の表中のアミノ酸のうちのいずれかから誘導されてもよい。同様に、ピルビン酸:フェレドキシン酸化還元酵素、アセト乳酸合成酵素、及びアセト乳酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子は、以下の表中の核酸配列のいずれかを含有してもよく、又は以下の表中の核酸配列のいずれかから誘導されてもよい。さらに、酵素又は遺伝子のうちのいずれかが、以下の表中の配列の変異体であってもよい。例えば、酵素又は遺伝子は、以下の表中の配列に対し、約80%、約90%、約95%、又は約99%の配列同一性を有していてもよい。
【0054】
本発明の組み換え細菌はまた、ピルビン酸:フェレドキシン酸化還元酵素、アセト乳酸合成酵素、及びアセト乳酸脱炭酸酵素のいずれか組み合わせを備えていてもよい。当該細菌は、ピルビン酸:フェレドキシン酸化還元酵素及びアセト乳酸合成酵素を備えるが、アセト乳酸脱炭酸酵素は備えていなくてもよい。当該細菌は、ピルビン酸:フェレドキシン酸化還元酵素及びアセト乳酸脱炭酸酵素は備えるが、アセト乳酸合成酵素は備えていなくてもよい。当該細菌は、アセト乳酸合成酵素及びアセト乳酸脱炭酸酵素は備えるが、ピルビン酸:フェレドキシン酸化還元酵素は備えていなくてもよい。最終的に、当該細菌は、ピルビン酸:フェレドキシン酸化還元酵素、アセト乳酸合成酵素、及びアセト乳酸脱炭酸酵素の各々を備えていてもよい。
【0055】
本発明の組み換え細菌はさらに、アルコール脱水素酵素 (EC 1.1.1.1)、アルデヒド脱水素酵素(アシル化)(EC 1.2.1.10)、ギ酸脱水素酵素(EC 1.2.1.2)、ホルミル−THFシンテターゼ(EC 6.3.2.17)、メチレン−THF脱水素酵素/ホルミル−THFシクロヒドロラーゼ(EC:6.3.4.3)、メチレン−THF還元酵素(EC 1.1,1.58)、CO脱水素酵素/アセチル−CoAシンターゼ(EC 2.3.1.169)、アルデヒドフェレドキシン酸化還元酵素(EC 1.2.7.5)、ホスホトランスアセチラーゼ(EC 2.3.1.8)、酢酸キナーゼ(EC 2.7.2.1)、CO脱水素酵素(EC 1.2.99.2)、ヒドロゲナーゼ(EC 1.12.7.2)、ピルビン酸:ギ酸リアーゼ(EC 2.3.1.54)、2,3−ブタンジオール脱水素酵素(EC 1.1.1.4)、1級:2級アルコール脱水素酵素(EC 1.1.1.1)、ギ酸脱水素酵素(EC 1.2.1.2)、ホルミル−THFシンテターゼ(EC 6.3.2.17)、メチレン−THFデヒドロゲナーゼ/ホルミル−THFシクロヒドロラーゼ(EC:6.3.4.3)、メチレン−THF還元酵素(EC 1.1,1.58)、CO脱水素酵素/アセチル−CoAシンターゼ(EC 2.3.1.169)、CO脱水素酵素(EC 1.2.99.2)、及びヒドロゲナーゼ(EC 1.12.7.2)のうちの1つ以上を発現していてもよく、又は発現するよう操作されていてもよく、又は過剰発現するよう操作されていてもよい。
【0056】
「酵素補因子」又はシンプルに「補因子」は、酵素に結合し、酵素の生物的機能を促進することによって触媒反応を補助する、非タンパク質性化合物である。補因子の非限定的な例としては、NAD+、NADP+、コバラミン、テトラヒドロ葉酸塩及びフェレドキシンが挙げられる。「ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド」(NADH)とは、NAD+(酸化型)、NADH+H+(還元型)、又はNAD+とNADH+H+の両方の酸化還元対のいずれかを指す。「ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸塩」(NADPH)とは、NADP+(酸化型)、NADPH+H+(還元型)、又はNADP+とNADPH+H+の両方の酸化還元対のいずれかを指す。補因子の全体的な可用性の上昇により、経路反応の速度を上げることができる。補因子の産生に影響を与え得る因子としては、補因子生合成遺伝子の発現が挙げられ、当該遺伝子は補因子の可用性増大を達成するために変更し得る。補因子の可用性増大を達成するために当分野の当業者に公知の他の因子を使用してもよい。補因子の可用性の欠落は、経路反応に対し、律速的な影響を有し得る。補因子の可用性の決定方法は当分野に公知である。
【0057】
本発明の組み換え細菌はさらに、補因子の生合成に関与する酵素を発現していてもよく、又は発現するよう操作されていてもよく、又は過剰発現するよう操作されていてもよい。特定の実施形態では、補因子は、テトラヒドロ葉酸を含有する。テトラヒドロ葉酸の生合成に関与する酵素を以下に詳述する。したがって、特定の実施形態では、組み換え微生物体は、GTPシクロヒドロラーゼI(EC3.5.4.16)、アルカリホスファターゼ(EC3.1.3.1)、ジヒドロネオプテリンアルドラーゼ(EC4.1.2.25)、2−アミノ−4−ヒドロキシ−6−ヒドロキシメチルジヒドロプテリジンジホスホキナーゼ(EC2.7.6.3)、ジヒドロプテロアートシンターゼ(2.5.1.15)、ジヒドロプテロアートシンターゼ(EC2.5.1.15)、ジヒドロ葉酸シンターゼ(EC6.3.2.12)、ホリルポリグルタミン酸シンターゼ(6.3.2.17)、ジヒドロ葉酸還元酵素(EC1.5.1.3)、チミジル酸シンターゼ(EC2.1.1.45)、ジヒドロモナプテリン還元酵素(EC1.5.1.-)の発現増大を示す。特定の実施形態では、補因子は、コバラミン(B
12)を含有する。コバラミンの生合成に関与する酵素を以下に詳述する。したがって、特定の実施形態において、組み換え微生物体は、5−アミノレブリン酸シンターゼ(EC 2.3.1.37)、5−アミノレブリン酸:プルビン酸アミノトランスフェラーゼ(EC 2.6.1.43)、アデノシルコビンアミドキナーゼ/アデノシルコビンアミド−リン酸塩グアニリルトランスフェラーゼ(EC 2.7.1.156 / 2.7.7.62)、アデノシルコビンアミド−GDPリバゾールトランスフェラーゼ(EC 2.7.8.26)、アデノシルコビンアミド−リン酸塩シンターゼ (EC 6.3.1.10)、アデノシルコビリン酸シンターゼ(EC 6.3.5.10)、アルファ−リバゾールホスファターゼ(EC 3.1.3.73)、コバラミン(I)(cob(I)alamin)アデノシルトランスフェラーゼ(EC 2.5.1.17)、コビリン酸(II)(cob(II)yrinic acid)a,c−ジアミド還元酵素(EC 1.16.8.1)、コバルト−プレコリン5Aヒドロラーゼ(EC 3.7.1.12)、コバルト−プレコリン−5B(C1)−メチルトランスフェラーゼ(EC 2.1.1.195)、コバルト−プレコリン−7(C15)メチルトランスフェラーゼ(EC 2.1.1.196)、コバルトキラターゼCobN(EC 6.6.1.2)、コビリン酸a,c−ジアミドシンターゼ (EC 6.3.5.9 / 6.3.5.11)、フェリチン(EC 1.16.3.1)、グルタミン酸−1−セミアルデヒド2,1−アミノムターゼ(EC 5.4.3.8)、グルタミル−tRNA還元酵素(EC 1.2.1.70)、グルタミル−tRNAシンテターゼ(EC 6.1.1.17)、ヒドロキシメチルビランシンターゼ(EC 2.5.1.61)、ニコチン酸‐ヌクレオチド−ジメチルベンジミダゾールホスホリボシルトランスフェラーゼ(EC 2.4.2.21)、酸素非依存性コプロポルフィリノーゲンIII酸化酵素(EC 1.3.99.22)、ポルフォビリノーゲンシンターゼ(EC 4.2.1.24)、プレコリン−2脱水素酵素/シロヒドロクロリンフェロケラターゼ(EC 1.3.1.76/4.99.1.4)、プレコリン−2/コバルト−因子−2 C20−メチルトランスフェラーゼ(EC 2.1.1.130 / 2.1.1.151)、プレコリン−3B C17シンターゼ(EC 1.14.13.83)、プレコリン−3B C17メチルトランスフェラーゼ(EC 2.1.1.131)、プレコリン−4 C11−メチルトランスフェラーゼ(EC 2.1.1.133)、プレコリン−6X還元酵素(EC 1.3.1.54)、プレコリン−6Y C5,15−メチルトランスフェラーゼ(EC 2.1.1.132)、プレコリン−8W脱炭酸酵素(EC 1.-.-.-)、プレコリン−8Xメチルムターゼ(EC 5.4.1.2)、シロヒドロクロリンコバルトキラターゼ(EC 4.99.1.3)、スレオニン−リン酸脱炭酸酵素(EC 4.1.1.81)、ウロポルフィリノーゲン脱炭酸酵素(EC 4.1.1.37)、ウロポルフィリノーゲンIIIメチルトランスフェラーゼ/シンターゼ(EC 2.1.1.107/ 4.2.1.75)の発現増大を示す。学説に拘束されることは望まないが、補因子の可用性の増大は、当該補因子の生合成経路に関与する酵素又は遺伝子の過剰発現を介して達成されると考えられている。その結果として、この補因子に依存している反応が、もはや律速ではなくなる。
【0058】
本発明はまた、COを含有する基質の発酵による1つ以上の産生物の作製方法を提供するものである。好ましくは、当該産生物は、エタノール、ブタノール、イソプロパノール、イソブタノール、高級アルコール、ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、コハク酸塩、イソプレノイド、脂肪酸、バイオポリマー、及びそれらの混合物のうちの1つ以上である。
【0059】
1つの実施形態において、COを含有する基質は、COを含有するガス状基質である。1つの実施形態では、基質は典型的には、例えば体積で約20%〜約100%のCO、体積で約20%〜70%のCO、体積で約30%〜60%のCO、又は体積で約40%〜55%のCOなど、大部分はCOが占めている。特定の実施形態において、基質は、体積で約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%のCO、約55%のCO、又は約60%のCOを含有する。
【0060】
基質は、何らかの水素を含有する必要がない一方で、本発明方法によると水素の存在は産生物生成に有害なものではない。特定の実施形態において、水素の存在により、アルコール産生の全体的な効率が改善される。例えば、特定の実施形態において、基質は、およそ2:1又は1:1又は1:2の比率のH
2:COを含有してもよい。1つの実施形態において、基質は、体積で約30%以下のH
2、体積で20%以下のH
2、体積で約15%以下のH
2、又は体積で約10%以下のH
2を含有してもよい。他の実施形態において、基質流は、例えば5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、又は1%未満のH
2などの、低濃度のH
2を含有する。さらなる実施形態において、基質流は、実質的に水素を含まない。基質はまた、例えば体積で約1%〜約80%のCO
2、又は体積で1%〜約30%のCO
2などのいくらかのCO
2を含有してもよい。1つの実施形態では、基質は、体積で約20%以下のCO
2を含有する。特定の実施形態では、基質は、体積で約15%以下のCO
2、体積で約10%以下のCO
2、体積で約5%以下のCO
2を含有するか、又は実質的にCO
2を含まない。
【0061】
本発明の実施形態は、「COを含有するガス状基質」の送達及び発酵という観点で記載されている。しかしながら、ガス状基質は、別の形態で提供されてもよい。例えば、COを含有するガス状基質は、液体に溶解して提供されてもよい。本質的に、液体は、一酸化炭素含有ガスで飽和されており、次いでその液体がバイオリアクターに添加される。これは標準的な技法を用いて行うことができる。例示として、微小気泡分散生成器(microbubble dispersion generator)(Hensirisak, Appl Biochem Biotechnol, 101: 211-227, 2002)を使用してもよい。さらなる例示として、CO含有ガス状基質は、固形支持体上に吸着されていてもよい。かかる代替法は、「COを含有する基質」などの用語に包含される。
【0062】
ガス状基質は、工業的過程の副産物として得られたCO含有排ガスであってもよく、又は例えば自動車の排ガスもしくはバイオマスガス化などの何らかの他の源から得たCO含有排ガスであってもよい。ある実施形態では、工業的過程は、例えば鉄鋼製造などの鉄金属製品の製造、非鉄金属製品の製造、石油精製プロセス、石炭ガス化、電力生産、カーボンブラック生産、アンモニア生産、メタノール生産、及びコークス製造からなる群から選択される。これらの実施形態において、CO含有ガスは、大気中に排出される前に任意の簡便な方法を用いて工業的過程から捕捉されてもよい。COは、合成ガス(一酸化炭素と水素を含有するガス)の成分であってもよい。工業的過程から生成されたCOは通常、燃焼されてCO
2を産生するため、本発明は特に、CO
2温室効果ガスの排出量低下、及びバイオ燃料の産生に有用である。また、ガス状CO含有基質の組成によっては、発酵へと導入する前に例えば塵粒子などの任意の望ましくない不純物を除去する処置を行うことが望ましい場合がある。例えば、ガス状基質は、公知の方法を用いてろ過又は洗浄されてもよい。
【0063】
典型的には、発酵はバイオリアクター内で行われる。「バイオリアクター」という用語は、例えば連続攪拌槽型反応器(CSTR:continuous stirred tank reactor)、固定細胞反応器(ICR:immobilized cell reactor)、トリクルベッド反応器(TBR:trickle bed reactor)、気泡塔(bubble column)、ガスリフト発酵槽(gas lift fermenter)、静的ミキサー(static mixer)、又はガス−液体接触に適した他のデバイスなどの1つ以上の菅及び/もしくは塔、又は配管からなる発酵デバイスを含む。一部の実施形態では、バイオリアクターは、第一の増殖リアクターと第二の発酵リアクターを備えていてもよい。したがって、基質をバイオリアクター又は発酵反応に添加すると言及したとき、適切である場合には、これらリアクターのいずれか、又は両方への添加を含むことを理解されたい。本明細書において用いられる場合、「発酵する」、「発酵プロセス」、「発酵反応」などの用語は、発酵プロセスの増殖期及び産生物生合成期の両方を包含する。
【0064】
ある実施形態において、本発明細菌の培養は、微生物を増殖させるために充分な栄養物質、ビタミン、及び/又はミネラルを含有する液体培養培地中で維持される。好ましくは、液体培養培地は、最小嫌気性微生物増殖培地である。適切な培地は当分野に公知であり、例えば米国特許第5,173,429号、米国特許第5,593,886号、及びWO2002/008438に記載されている。
【0065】
望ましくは、発酵は、発酵産物の生成が発生する適切な発酵条件下で行われなければならない。検討されるべき反応条件としては、圧力、温度、ガス流速、液体流速、培地のpH、培地の酸化還元電位、攪拌速度(もし連続攪拌槽型反応器を使用している場合)、接種レベル、液相中のCOが律速とならないことを確実にするための最大ガス基質濃度、及び産生物の阻害を回避するため最大産生物濃度が挙げられる。
【0066】
さらに、多くの場合、基質流のCO濃度(又はガス状基質中のCO分圧)を上昇させ、COが基質となる発酵反応の効率を上昇させることが望ましい。高い圧力下で操作することにより、気相から液相へのCO移動率が大幅に上昇し、その液相中でCOは発酵産物の炭素源として微生物に取り込まれる。これは同様に、バイオリアクターが大気圧よりも高い圧力に維持されたとき、保持期間(流入ガスの流速により分け与えられるバイオリアクター中の液体量として定義される)を短縮させることができることを意味している。最適な反応条件は、使用される本発明の特定の微生物体に部分的に依存している。しかしながら、一般的に、発酵は環境気圧よりも高い圧力で行われることが好ましい。また、所与のCO変換速度は部分的には基質の保持期間の関数であり、同様に望ましい保持期間の達成はバイオリアクターの必要容積を決定するため、加圧された系を利用することにより、必要とされるバイオリアクターの容積を大幅に減らすことができ、結果として、発酵装置の資本コストを大幅に減らすことができる。米国特許第5,593,886号に示される実施例によると、リアクターの容積は、リアクターの操作圧力の増加に線形比例して減らすことができる。すなわち、10気圧で操作されるバイオリアクターが必要とする容積は、1気圧で操作されるバイオリアクターのたった10分の1である。
【0067】
例示を目的として、高圧で、ガスからエタノールへの発酵を行うことの利益について記載する。例えば、WO2002/008438には、30psig及び75psigの圧力下で行われたガス−エタノール発酵によって、それぞれ、150g/l/日及び369g/l/日のエタノール産生を得られたことが記載されている。しかしながら、大気圧で、同様のメディア及び流入ガス組成を用いて行われた発酵の例では、1日当たり、及び1リットル当たり、10〜20分の1のエタノールが産生されることが判明した。
【0068】
また、COが限定的な条件下では培養によって産生物が消費される場合があるため、CO含有ガス状基質を導入する速度は、液相中のCO濃度が律速とならないことを確実にするために制御されていることが望ましい。
【0069】
発酵反応に供給されるために使用されるガス流の組成は、反応の効率及び/又はコストに大きな影響を与え得る。例えば、O
2は、嫌気性発酵プロセスの効率を低下させる場合がある。発酵前後の発酵プロセスの段階において、望ましくない、又は必要ではないガスの処理を行うことは、かかる段階での負荷を増大させ得る。例えば、バイオリアクターに入る前にガス流を圧縮する場合、発酵に必要ではないガスの圧縮のために、不要なエネルギーが使用される可能性がある。したがって、基質流、特に工業的源に由来する基質流に、望ましくない成分を除去し、所望の成分濃度を高めるための処理を行うことが望ましい。
【0070】
実施例
以下の実施例により本発明がさらに解説されるが、それらはもちろん、決して本発明の範囲を限定するものとはみなされるべきではない。
【実施例1】
【0071】
本実施例は、例えば、C.オートエタノゲナム、C.リュングダリィ、又はC.ラグスダレイなどのカルボキシドトロフィックな細菌の発酵経路の、エタノール及び2,3−ブタンジオール産生のボトルネックに関する解析を記載する。
【0072】
Wood−Ljungdahl経路、ならびにエタノール及び2,3−ブタンジオールへの発酵経路の酸化還元酵素の工程を解析し、それらの活性を測定した。酸化還元反応は、1つ以上の補因子と結合し、それらの還元又は酸化を測定することができることから、特に適していた。同様に、例えばメチルビオローゲン又はベンジルビオローゲンなどの合成酸化還元色素を本目的に使用することができる。これら経路中の酵素は、CO、CO
2、及びH
2ガスの取り込みと利用、ならびに産生物の生成を含む、独立栄養生長に関与している。
【0073】
解析された酵素、及びその活性を
図1に詳述する。すべてのアッセイは、対照として、メチルビオローゲン(MV)又はベンジルビオローゲン(BV)のいずれかの合成酸化還元酵素を使用して行った。次いで、補因子のフェレドキシン(Fd)、NADH、及びNADPH、又はそれらの組み合わせを検証した。酵素アッセイは、CO及び水素中で独立栄養的に増殖する発酵物からの粗抽出物を用いて行った。
【0074】
C.オートエタノゲナムを用いた発酵は、単独のエネルギー源及び炭素源としてCO含有製鋼ガスを使用し、37℃、1.5Lのバイオリアクター内で行った。発酵培地は、1リットル当たり、MgCl、CaCl
2(0.5mM)、KCl(2mM)、H
3PO
4(5mM)、Fe(100μM)、Ni、Zn(5μM)、Mn、B、W、Mo、及びSe(2μM)を含有した。培地をバイオリアクターへと移し、121℃で45分間、オートクレーブを行った。オートクレーブ後、培地にチアミン、パントテン酸(0.05mg)、及びビオチン(0.02mg)を補充し、3mMシステイン−HClを用いて還元した。嫌気的状況とするため、0.2μmフィルターを通してリアクターの菅に窒素を通気した。接種の前に、ガスをCO含有製鋼ガスへと交換し、リアクターへ継続的に供給した。供給されたガスの組成は、2% H
2、42% CO、20% CO
2、及び36% N
2であった。培養物のpHは5〜5.2に維持した。
【0075】
細胞を回収する時点で(3.9g細胞/発酵液体培地1lのバイオマス)、ガス消費量は、5モルCO/L
−1/日
−1及び10ミリモルH
2/L
−1/日
−1であり、以下の代謝物が産生された。酢酸が14g/L
−1/日
−1、及びエタノールが19.5g/L
−1/日
−1。培養物のpHは、K
2CO
3を用いてpH6に調節し、リアクターは氷槽で冷却した。およそ1.2Lの培養物を氷上で回収した。培養物は2本の1L遠心瓶へと分割し(この工程及び全てのその後の工程は、嫌気チャンバー内で行い、しっかりと無酸素状態にし、酵素の不活化を回避した)、細胞を10分間、5000rpmで沈殿させた。上清をデカントし、残った液体を除去した。各沈殿物を、およそ30mLの50mL KPO
4 pH7.0中に、10mM DTTと共に再懸濁した。再懸濁物を、前もって計量しておいた50mL Falcom管へと移し、15分間、最大スピード(5000g)で細胞を再懸濁させた。嫌気チャンバーから管を取り出し、解析を行う前に液体N
2上で急速凍結させた。
【0076】
嫌気条件下で連続リアクターから細胞を取り出した。細胞は、Frenchプレスを3回通すことにより破砕した。未破砕の細胞及び細胞残渣は、30分間、4℃、20,000xgで遠心を行うことにより除去した。上清を酵素アッセイに使用した。指定されている場合を除き、すべてのアッセイは、0.8mlの反応混合物と0.7mlのN
2又はH
2又はCO、1.2x10
5Paで満たし、ゴム栓で封をした1.5mlの嫌気キュベット中、37℃で行った。酵素は、以下に記載されるように、又はHuang, J Bacteriol, 194: 3689-3699, 2012に記載されるように解析した。酵素反応を開始させた後、NAD(P)
+又はNAD
+の還元は340nm(ε=6.2mM
−1 cm
−1)又は380nm(ε=1.2mM
−1 cm
−1)で、C.パストゥリアヌム(C.pasteurianum)フェレドキシン還元は430nm(ε
Δox−red≒13.1mM
−1 cm
−1)、メチルビオローゲン還元は578nm(ε=9.8mM
−1 cm
−1)、及びベンジルビオローゲン還元は578nm(ε=8.6mM
−1 cm
−1)で分光光度法によりモニターした。
【0077】
CO脱水素酵素は、100mM Tris/HCl(pH7.5)、2mM DTTならびに約30μMフェレドキシン及び/又は1mM NAD
+もしくは1mM NADP
+を含有するアッセイ混合物を用いて測定した。気相は100%COであった。
【0078】
ヒドロゲナーゼ活性は、100mM Tris/HCl(pH7.5)又は100mMリン酸カリウム、2mM DTT、ならびに25μMフェレドキシン及び/又は1mM NADP
+及び/もしくは10mMメチルビオローゲンのアッセイ混合物を用いて測定した。気相は100%H
2であった。
【0079】
H
2を用いたCO
2のギ酸への還元に対するギ酸−水素リアーゼ活性は、100mMリン酸カリウム、2mM DTT、及び30mM[
14C]K
2CO
3(24,000 dpm/μmol)を含有するアッセイ混合物を用いて測定した。気相は100%H
2であった。血清瓶を200rpmで継続的に振とうし、液相で気相をしっかりと平衡化させた。酵素との反応を開始した後、100μlの液体サンプルを1.5分毎に採取し、100μlの150mM酢酸を含有する1.5mlの安全シール微小管へと添加し、酸性化により反応を停止させた。次いで200μlの混合物を、10分間、40℃にて、Thermomixer中、1,400rpmで振とうさせながらインキュベートし、すべての
14CO
2を除去して、形成された
14C−ギ酸を残した。続いて、100μlの混合物を、5mlのQuicksaveAシンチレーション液(Zinsser Analytic社、フランクフルト、ドイツ)へと添加し、Beckman LS6500液体シンチレーションカウンター(Fullerton社、CA)にて、
14Cの放射能を解析した。
【0080】
ギ酸脱水素酵素測定は、100mM Tris/HCl(pH7.5)又は100mMリン酸カリウム、2mM DTT、20mMギ酸、ならびに指定された、25μMのフェレドキシン、1mM NADP
+、1mM NAD
+ 及び/又は10mMメチルビオローゲンを含有するアッセイ混合物を用いて行った。気相は100%N
2であった。
【0081】
メチレン−H
4F脱水素酵素は、100mM MOPS/KOH(pH6.5)、50mM 2−メルカプトエタノール、0.4mMテトラヒドロ葉酸、10mMホルムアルデヒド、及び0.5mM NADP
+又は0.5mM NAD
+を含有するアッセイ混合物を用いて測定した。気相は100%N
2であった。
【0082】
メチレン−H
4F還元酵素は、以下の条件下で解析した。アッセイ混合物は、100mM Tris/HCl(pH7.5)、20mMアスコルビン酸、10μM FAD、20mMベンジルビオローゲン及び1mMメチル−H4Fを含有していた。酵素反応を開始する前に、ベンジルビオローゲンは亜ジチオン酸ナトリウムを用いて0.3のΔA555にまで還元した。
【0083】
アルデヒド:フェレドキシン酸化還元酵素は、100mM Tris/HCl(pH7.5)、2mM DTT、1.1mMアセトアルデヒド、及び約25μMフェレドキシンを含有する混合物を使用して解析した。気相は100%N
2であった。
【0084】
CoAアセチル化アセトアルデヒド脱水素酵素は、100mM Tris/HCl(pH7.5)、2mM DTT、1.1mMアセトアルデヒド、1mMコエンザイムA、及び1mM NADP+又は1mM NAD+を含有する混合物を使用して測定した。気相は100%N
2であった。
【0085】
アルコール及びブタンジオール脱水素酵素は、100mMリン酸カリウム(pH6)、2mM DTT、それぞれ1.1mMアセトアルデヒド又はアセトイン、及び1mM NADPH又は1mM NADHを用いてアッセイにて測定した。気相は100%N
2であった。
【0086】
フェレドキシンは、Schonheit, FEBS Lett, 89: 219-222, 1978に記載されるように、C.パストゥリアヌムから精製した。
【0087】
カルボキシドトロフィックな細菌であるC.オートエタノゲナムの、エタノール及び2,3−ブタンジオールへの経路中のすべての酸化還元反応を解析し、メチレン−THF還元酵素を除き成功裏に検出された。この例外について、発明者らは、現在未知のカップリング部位を必要とするためと考えている(Kopke, PNAS USA, 107: 13087-13092, 2010; Poehlein, PLoS One, 7: e33439, 2012)。この酵素の活性は、他の生物体で従前にも検出することができなかった。
図1及び
図2に結果を提示する。このデータを用いて解析を行い、発酵プロセスの間に主として発生するこれら経路のボトルネックを決定した。
【実施例2】
【0088】
本実施例は、発酵経路を経由するフラックスの増大を示す。
【0089】
PCT/US2014/041188の実施例3に記載される一般的方法を用いて、ピルビン酸:フェレドキシン酸化還元酵素、アセト乳酸合成酵素、及び/又はアセト乳酸脱炭酸酵素の遺伝子を本発明の組み換えクロストリジウム微生物体へ導入してもよい。
【実施例3】
【0090】
本実施例は、2,3−ブタンジオール産生のボトルネックとして、ピルビン酸:フェレドキシン酸化還元酵素によるアセチルCoAのピルビン酸への変換を特定する。
【0091】
図2に示されるように、2,3−ブタンジオール産生のボトルネックは、ピルビン酸:フェレドキシン酸化還元酵素により触媒されるアセチルCoAからピルビン酸への反応である。他の測定されたすべての反応が少なくとも1.1U/mgの活性を示した一方で、この律速反応は、フェレドキシン存在下でたった0.11U/mg(10%)の酵素活性を示した。これは、この経路中の他のすべての反応よりも90%低いものである。このボトルネックをいくらかでも克服するため、及び発酵からの産生率を上昇させるため、内因性のピルビン酸:フェレドキシン酸化還元酵素を過剰発現させるか、又は外因性のピルビン酸:フェレドキシン酸化還元酵素を導入し、発現させてもよい。
【実施例4】
【0092】
本実施例は、ボトルネックを取り除くことによる、2,3−ブタンジオール産生経路を経由したフラックスの上昇を示す。
【0093】
図2において、アセチル−CoAのピルビン酸への変換を触媒する反応が、C.オートエタノゲナム、C.リュングダリィ、又はC.ラグスダレイにおける2,3−ブタンジオール生成の律速工程であることが特定されている。これは、C.オートエタノゲナムにおいて、ピルビン酸:フェレドキシン酸化還元酵素をコードする遺伝子を過剰発現させることにより克服することができる。
【0094】
この遺伝子はコドン最適化し、発現に関する問題を最小化させ、望ましくない統合事象を予防するために天然型遺伝子に対する相同性が低下するように設計した。pMTL83155へのサブクローニングを行うため、制限酵素切断部位であるXbaI(3’末端)及びNheI(5’末端)にこの遺伝子は隣接している。合成構築物とpMTL83155は、XbaI及びNheI(Fermentas社)を用いて消化し、T4 DNAリガーゼ(Fermentas社)を用いてPFOR遺伝子がpMTL83155へとライゲートされる。ライゲーションミックスを用いて、大腸菌TOP10(Invitrogen社、LifeTechnologies社)を形質転換し、所望のプラスミドを含有するコロニーを、プラスミドミニプレップ(Zymo Research社)及び制限酵素消化(Fermentas社)により特定する。所望のプラスミドをメチル化し、C.オートエタノゲナム中に形質転換する。形質転換に成功したものを、チアンフェニコール耐性、及びプライマーのrepHF及びCatRを用いたPCR解析を行い、プラスミドが存在する場合には1584塩基対の産物を得ることで特定する。
【0095】
所望のプラスミドを含有すると特定された形質転換体を、製鋼ガスの存在下でPETC−MES培地を含有する血清瓶中で増殖させ、代謝物産生をHPLC解析により測定し、プラスミドを持たない元の微生物体と比較する。粗抽出物中の形質転換株のピルビン酸:フェレドキシン酸化還元酵素の活性も測定し、元の株において観察されたボトルネックが軽減されていることを確認する。ピルビン酸:フェレドキシン酸化還元酵素の過剰発現は、細胞内の全体的な活性を増大させ、経路中のボトルネックを軽減し、ピルビン酸を経由するフラックスを増大させ、2,3−ブタンジオール産生を増加させる。
【実施例5】
【0096】
本実施例は、天然型異化作用型アセト乳酸合成酵素の過剰発現を介した、ピルビン酸から2−ヒドロキシ−2−メチル−3−ケト酪酸(アセト乳酸)へのフラックスの上昇を示す。
【0097】
C.オートエタノゲナムの天然型異化作用型アセト乳酸合成酵素遺伝子(alsS)を、pMTL83155(WO2013/185123)のNdeIとNheI部位へとクローニングし、ホスホトランスアセチラーゼ−酢酸キナーゼオペロンのプロモーター領域の制御化でalsSを過剰発現する過剰発現プラスミドを作製する。
【0098】
同様に、他の微生物体から異化作用型アセト乳酸合成酵素を用いて、他の微生物体から天然型同化作用型アセト乳酸合成酵素を用いて、又は他の微生物体から同化作用型アセト乳酸合成酵素を用いて、過剰発現プラスミドを生成することもできる。
【0099】
他の微生物体からの異化作用型アセト乳酸合成酵素、又は他の微生物体からの同化作用型アセト乳酸合成酵素のいずれかを使用して、ピルビン酸に対するより高いアフィニティと、より早い反応動態を有してもよい。他の微生物体からの同化作用型アセト乳酸合成酵素は、フィードバック阻害に対し不感受性であると特定されている酵素であってもよい。フィードバック阻害に対し不感受性の同化作用型アセト乳酸合成酵素変異体の小サブユニットが過剰発現されていてもよい。
【0100】
過剰発現プラスミドはC.オートエタノゲナムへと導入される。これにより、ピルビン酸からアセト乳酸へのフラックスが増大するよう適合されたC.オートエタノゲナム株が得られる。
【実施例6】
【0101】
本実施例は、ピルビン酸:フェレドキシン酸化還元酵素、アセト乳酸合成酵素、及び/又はアセト乳酸脱炭酸酵素の過剰発現に関する代謝工学的方法を記載する。
【0102】
2,3−ブタンジオール産生をブーストするために、2,3−ブタンジオールの前駆体分子であるピルビン酸のプールを増大させた。最初の標的は、アセチル−CoAのピルビン酸への変換を触媒するPFOR酵素をコードするPFOR遺伝子であった。C.オートエタノゲナムのゲノムには、2コピーのPFOR遺伝子が存在する。このPFOR遺伝子(CAETHG 0928)は構成的に高レベルで発現される一方で、他の遺伝子(CAETHG 3029)はバッチ培養での増殖の最後でのみ上方制御されることが知られている(Kopke, Appl Environ Microbiol, 77: 5467-5475, 2011)。したがって、高レベルで発現されるPFOR遺伝子を過剰発現に選択した。
【0103】
2つのピルビン酸分子を結合させてα−アセト乳酸を形成するアセト乳酸合成酵素は、C.オートエタノゲナム及び近縁の微生物体において、3つの異なる遺伝子によりコードされる3つの型が存在すると提唱されている(Kopke, PNAS USA, 107: 13087-13092, 2010; Kopke, Appl Environ Microbiol, 77: 5467-5475, 2011)。1つの型は異化作用型アセト乳酸合成酵素、及び2つの型は同化作用型アセト乳酸合成酵素である。alsS遺伝子(CAETHG 1740)は異化作用型アセト乳酸合成酵素をコードし、2,3−ブタンジオール生成に関与すると予測されている。2つの遺伝子、ilvBN(CAETHG 0406)及びilvH(CAETHG 0124)は、同化型アセト乳酸合成酵素をコードすると予測されており、それらは分枝鎖アミノ酸の生成に関与している可能性がある。
【0104】
α−アセト乳酸は、alsD遺伝子(CAETHG 2932)にコードされるアセト乳酸脱炭酸酵素の活性を介してアセトインへと脱炭酸される。他の微生物体では、alsD遺伝子の転写物レベル及びその酵素活性は、細胞中に存在する分枝鎖アミノ酸の濃度に制御されることが判明している。C.オートエタノゲナム中の分枝鎖アミノ酸が、alsD遺伝子転写及びその対応する酵素活性に関し何らかのフィードバック阻害を生じさせるか否かはまだ判明していない。
【0105】
2,3−ブタンジオール脱水素酵素(EC 1.1.1.4)の作用によるアセトインから2,3−ブタンジオールへの還元工程は律速工程ではない。これはC.オートエタノゲナムのバッチ培養及び連続培養において、アセトインの発酵培地への添加により示されている。バッチ培養において、最大で40g/Lのアセトインを添加し、24時間のインキュベーション後、2,3−ブタンジオールへ定量的に変換させた。実際に、推定2,3−ブタンジオール脱水素酵素遺伝子は、バッチ培養において増殖期と静止期の両方の間、構成的に発現されていることが判明している(Kopke, Appl Environ Microbiol, 77: 5467-5475, 2011)。さらに、C.オートエタノゲナムは、アセトイン及び他のケトン類を2,3−ブタンジオール及び他の二級アルコールへと還元する、NADPH依存性の一級−二級アルコール脱水素酵素を完全に含有していることが示されている(Kopke, Catalyst Rev, 27: 7-12, 2014)。
【0106】
3つの天然型遺伝子、PFOR、alsS、及びalsDは、個々に、及びalsS−alsDの組み合わせで、及び3つ全ての遺伝子の組み合わせで過剰発現されていた。これら遺伝子をC.オートエタノゲナムへと導入するため、これら遺伝子を、選択マーカーとして抗生物質耐性遺伝子を担持する組み換えプラスミドへとクローニングした。この理由のために、本実験のセットに対する対照株は、抗生物質耐性遺伝子を有しているが、活性な2,3−ブタンジオール遺伝子の挿入はいずれも有しておらず、そのため抗生物質ストレスに曝露することができ、過剰発現株の性能と比較することができるプラスミドを担持した。過剰発現の重要事項は、挿入遺伝子の発現を制御するプロモーターの選択である。本研究においては、クロストリジウム属において最も強力なプロモーターの1つであるということが知られているフェレドキシン遺伝子プロモーター(P
fdx)を選択した。さらに、ゲノム中の天然型遺伝子とプラスミド中に存在する遺伝子の間の相同組み換えを回避するため、付加された遺伝子のDNA配列は、DNA合成企業(GeneArt社)が占有する最適化プロセス(GeneOptimizer)に従い改変された。
【0107】
また、4つの異種遺伝子が標的とされた。デスルホビブリオ・アフリカヌスから単離されたPFOR遺伝子は、酸素の存在下で高度に安定的なPFOR酵素を産生することが示されており、これは商業的な嫌気性細菌発酵において有利である(Pieulle, J Bacteriol, 179: 5684-5692, 1997)。枯草菌から単離されたalsS遺伝子、ならびにロイコノスティック ラクティス及びアエロモナス ハイドロフィラから単離された2つの異種aslD遺伝子も検証された。枯草菌から単離されたalsS遺伝子を使用して、多くの異種宿主中において2,3−ブタンジオール経路が構築された(Ng, Microb Cell Factories, 11: 68, 2012; Oliver, PNAS, 110: 1249-1254, 2013)。アエロモナス ハイドロフィラから単離されたalsDは、近年の研究で他の微生物体から単離された数種の他の異種alsDの中で最も高い酵素活性を有していることが示されている(Oliver, PNAS, 110: 1249-1254, 2013)。これらの特性により、これら遺伝子は、遺伝子操作実験の理想的な候補となった。
【実施例7】
【0108】
本実施例は、ピルビン酸:フェレドキシン酸化還元酵素、アセト乳酸合成酵素、及び/又はアセト乳酸脱炭酸酵素を過剰発現する株のクローニング、接合、及び特徴解析を記載している。
【0109】
C.オートエタノゲナム株LZ1561(DSM23693)を本研究に使用した。2つの大腸菌ドナー株を、遺伝子操作のツールとして使用した。TOP10(Invitrogen社)の株をプラスミドのクローニングに使用し、CA434株をC.オートエタノゲナムとの接合に使用した。
【0110】
クロストリジウム属−大腸菌のシャトルプラスミドシリーズであるpMTL83159(4600塩基対)を、PFOR、alsS、及びalsD遺伝子の過剰発現に選択した(Heap, J Microbiol Meth, 78: 79-85, 2009)。プラスミドは、グラム陽性レプリコン、グラム陰性レプリコン、traJ遺伝子、抗生物質耐性遺伝子、lacZアルファコード配列内のマルチプルクローニングサイト、及びフェレドキシン遺伝子プロモーター(P
fdx)を含むよう設計された。グラム陽性レプリコン(repH遺伝子)は、C.ブチリカム(C.butylicum)pCB102プラスミドに由来する。大腸菌中でプラスミドのクローニングを行うため、グラム陰性レプリコンのColE1が、生成するプラスミドのコピー数の多さから選択された。traJ又は伝達遺伝子により、ドナーとレシピエント細胞間の遺伝物質の伝達が可能となる。選択マーカーはクロラムフェニコール/チアンフェニコール耐性をコードするcatP遺伝子であった。
【0111】
3つの遺伝子、PFOR、alsS、及びalsDはDNA合成企業(GeneArt社)により合成された。それらをpMTL83159へとクローニングするため、制限酵素認識配列とリボソーム結合部位配列のペアを各遺伝子配列に付加し、当該遺伝子と共に合成した。この遺伝子を担持するオリジナルのプラスミドは、最初に大腸菌TOP10株へと形質転換した。ZYPPY(商標)プラスミドミニプレップキット(ZymoResearch社)を使用してプラスミドを抽出した。オリジナルプラスミドからpMTL83159プラスミドへと標的遺伝子を移すために、両方のプラスミドを同じ制限酵素ペアで切断した。消化されたDNAは、0.6%アガロースゲル上で、1時間75ボルトで泳動したゲル電気泳動により分離した。プラスミドpMTL83159(ベクター)とDNA配列(挿入物)の各遺伝子をゲルから回収した後、T4 DNAリガーゼ(Invitrogen社)を使用して一緒にライゲートした。ライゲートされたプラスミドを、次いで大腸菌TOP10培養物へと形質転換した。抽出されたプラスミドが挿入物を含有していたことを確実に確認するために、1μLのプラスミドを適切な制限酵素で消化し、次いで消化されたプラスミドを0.8%アガロースゲル上で電気泳動により分離した。
【0112】
プラスミドを大腸菌CA434ドナー細胞へと形質転換し、次いでC.オートエタノゲナムと接合させた。C.オートエタノゲナム形質転換体中に標的プラスミドが存在していることを確認するために、血清瓶中の培養物から採取されたサンプルを使用してPCRを行った。
【0113】
遺伝子過剰発現と遺伝子破壊の株のすべての初期特徴解析は、1L−Schott瓶中で最初に行い、どの株が最も高濃度の2,3−ブタンジオールを産生しているかをスクリーニングした。次いで、これらの株をさらにCSTR継続培養にて検証し、それにより、発酵パラメーターの正確な制御が可能となり、代謝物及びバイオマスの選択性を算出することができた。
【0114】
過剰発現実験の目的は、2,3−ブタンジオール経路の3つの天然遺伝子を個々で、ならびに2つ及び3つの遺伝子の組み合わせで過剰発現させることであった。
【表2】
【0115】
Schott瓶実験において、OD、培地中の代謝物濃度、培地のpH、及び上部に出来た空間の圧力を、毎日のサンプルを解析することにより、8日間にわたってモニターした。さらなる増殖が見られなくなった時点で、又は著しい代謝活性が観察されなくなった時点で、すべての培養物のpHは3.8〜4に低下し、ガスのさらなる消費は測定されなかった。5つの株の、時間に対する増殖及び代謝物のプロファイルを表すグラフを
図5に示す。Schott瓶データが利用可能な5つ全ての株が、インキュベーションの最初の2日間の間で急速に増殖していた。その後、増殖速度は大幅に低下し、4日目に停止した。最大光学的密度値は、およそ0.75であった。バイオマスと同様、酢酸濃度はすべての培養物で最初の2日間に急速に上昇した。3日目〜4日目の間にプラスミド対照及びalsS過剰発現株はすべての代謝活性が停止したように見え、それ以上の代謝物濃度の変化は観察されなかった。他の3つの株は、実験の最後まで活性を示した。
【0116】
酢酸からエタノールへの変換(AOR活性)は、3つの株で増殖が低下した後でも観察された。酢酸の最も著しい低下は、alsD過剰発現株で観察され、結果として、この株により最も高いエタノール濃度、約7g/Lが得られた。alsD過剰発現株及びalsS-alsDの混合過剰発現株の2つの株は、他の株よりも多量の2,3−ブタンジオールを産生し、そのほとんどが活動的増殖期の間に産生された。その後、4日目からの静止期の間、8日目の実験終了まで、ゆっくりした速度で2,3−ブタンジオールを産生し続けた。PFOR過剰発現株は、プラスミド対照株よりも高い濃度で2,3−ブタンジオールを産生したその他の株である。最初の2つの株とは対照的に、PFOR過剰発現株は、静止期が開始する間に2,3−ブタンジオールのほとんどの産生を開始した。静止期の間の産生速度は、その他の2つの株の速度と類似していた。
【0117】
alsS遺伝子単独過剰発現は、2,3−ブタンジオールの量を増加させるようには思われなかった。これらの結果から、観察された2,3−ブタンジオールの増加は主にalsD遺伝子の過剰発現と関連していることが示唆される。alsS及びalsDの両方の遺伝子の過剰発現により、alsD遺伝子のみを単独で過剰発現させるよりも若干2,3−ブタンジオール濃度が高くなった。alsSの正の付加効果は、実用的であるだろう。PFOR遺伝子の過剰発現は、それ以上の増殖が観察されなくなった静止期の間の2,3−ブタンジオールの産生増加に寄与すると考えられた。これら正の結果のすべて、及びこれらの株に有害な作用は観察されなかったという事実から、3つすべての遺伝子を担持する過剰発現株を、CSTRにおける継続培養でさらに検証した。
【0118】
CO含有ガス状基質を用いた、微生物の全潜在能力を調査するため、3つすべての天然遺伝子を担持する過剰発現株とプラスミド対照株を、CSTRを基にした継続培養中でさらに特徴解析した。培地のpHは、発酵全期間で塩基(5M NH
4OH溶液)を添加して、酸の産生を相殺し、培地窒素値を補充することで制御した。基質は、攪拌発酵槽を通してCO含有ガスを通気することにより継続的に供給した。新たに流入するガス及び使用済みの流出ガスの気体組成は、ガスクロマトグラフィーにより1時間ごとにモニターした。流入ガスと流出ガスの間の気体組成の差異、流入ガスの流速、及び発酵物の液体量に基づき、サンプリング時点でのガス利用及び産生物合成速度を算出した。値はモル/L/日で表されている。
【0119】
OD及び代謝物濃度は1日に3回計測し、ならびに希釈率及び比増殖速度は毎日測定及び算出し、各代謝物の生産性を決定した。各代謝物の産生物選択性は、CO消費、CO
2産生、及び代謝物の生産性を用いて算出した。産生物選択性が体積的な生産性に依存しているかどうかを決定するために、4モル/L/日及び8モル/L/日のCO取り込み速度が確立された。4モル/L/日のCO取り込みでは、系の希釈率は1d
−1に維持され、比増殖速度は0.5d
−1に維持された。8モル/L/日のより多くのCO取り込み、及び対応するより高い代謝物産生速度では、培養物の希釈率も1.7d
−1にまで増加し、代謝物濃度を4モル/L/日実験と類似した範囲にまで低下させた。比増殖速度もまた0.75d
−1にまで上昇した。
【0120】
PFOR、alsS、及びalsDの混合過剰発現株ならびにプラスミド対照株の代謝物プロファイル及びガスプロファイルは、20日間の過程にわたり、4モル/L/日のCO取り込みでモニターした(
図6)。各株の接種用調製物は、一定間隔での血清瓶サブクローニングの数ラウンド中、よく増殖していたのだが、CSTR培養では、異常な、5日間のほぼ同一な長い遅滞期を示した。およそ5.5日目で、両方のCSTR培養が、通常の指数関数増殖を開始した(互いに数時間以内)。
【0121】
両培養の長い遅滞期、及び8日目〜10日目の過剰発現株の増殖パターンにおける変動にもかかわらず、両培養は、10日間、4モル/L/日の安定的なガス取り込みで維持された。希釈率は1d
−1、及び比増殖速度は0.5d
−1であり、発酵槽中の細菌量の95%が置き換わるのに約6日間かかった。この期間中、一定のガス取り込みが測定されたことから、最後の値を解析に使用した。最終的な結果から、過剰発現株は、プラスミド対照株と比較し、一貫してより高いレベルの2,3−ブタンジオールを産生したことが示された。
【0122】
過剰発現株の代謝プロファイル及びガスプロファイルは、11日間の過程にわたり、8モル/L/日のCO取り込みでモニターした(
図7)。培養物は、4モル/L/日のCO取り込み培養物から接種した。この培養では遅滞期は観察されず、対数増殖期の間、適切な個々のCO供給と希釈が適応され、最適な増殖条件下で培養が維持された。したがって、酢酸の安定的な産生は、インキュベーションの3日目の後に得られ、一方で他の代謝物は蓄積が継続された。CO取り込みの標的は、4モル/L/日から8モル/L/日で倍増した。
【0123】
産生阻害を避けるため、培養物の全体的な希釈率を1d
−1から1.7d
−1に増加させ、比増殖速度は比例的に増加させた。代謝物濃度はゆっくりと増加し、7日後に安定的な産生速度に達した。水素の取り込みとCOの取り込みの両方が、6日間、安定した様式で維持されたことから、過剰発現株の発酵は、長い期間、安定して操作することができる可能性を有していることが示唆される。
【0124】
液体産物のうち、エタノールが最も高率で産生され、次いで酢酸が産生された。個別のCO供給戦略は、長期間、発酵を安定に操作することが可能となる特定の比率の酢酸とエタノールを維持することを目的としている。LZ1561株及びプラスミド対照は、類似した2,3−ブタンジオールプロファイルとバイオマスプロファイルを示した。2,3−ブタンジオールとバイオマスの産生率の比は、これらの培養において1.26〜1.47であった。しかしながら、過剰発現株では、この比率は、4モル/L/日のCO取り込み培養では2.45、8モル/L/日のCO取り込み培養では2.24であった。
【表3】
【0125】
過剰発現株、対照株、及びLZ1561株に関する、2,3−ブタンジオール、バイオマス、エタノール、及び酢酸の産生物選択性を、4モル/L/日及び8モル/L/日で測定した。最適化発酵パラメーターを用いて、50%を超える炭素がエタノール発酵へと向けられた。データから、過剰発現株の2,3−ブタンジオール選択性は、LZ1561及びプラスミド対照培養の平均15%から、22.5%まで増加したことが示された。過剰発現株の2,3−ブタンジオール選択性の上昇は、異なるCO取り込み速度でも維持されていたように見えた。2,3−ブタンジオール選択性の増加は、4モル/L/日ではエタノール選択性の低下に起因し、又は8モル/L/日では酢酸選択性の低下に起因する。それらの選択性は個別のガス供給により容易に影響を受けてしまい、個別のガス供給も同様に実験パラメーター間の微小な差異により容易に影響をうけるため、エタノール及び酢酸の関与は正確に分けることはできない。例えば、特にpH、羽根車の位置、プローブの位置はすべてこれらの結果に影響を与えうる。
【実施例8】
【0126】
本実施例は、2,3−ブタンジオールへのフラックスを増大させるための外因性アセト乳酸脱炭酸酵素の発現を示す。
【0127】
A.ハイドロフィラ及びL.ラクティス由来のアセト乳酸脱炭酸酵素を、C.オートエタノゲナムでの発現用に選択されたコドンを用いて合成し(GeneArt社)、上述のようにpMTL83159へとクローニングした。得られたプラスミド、及び対照としてpMTL83159を、上述のようにC.オートエタノゲナム株LZ1561株へと形質転換した。
【0128】
酵母抽出物を含まないPETC−MES培地を40mL含有する1LのSchott瓶中で株を増殖させ、上部にできた空間を、炭素源及びエネルギー源として1.5バール(ゲージ)の合成製鋼ガス(50%CO、29%N
2、18%CO
2、及び3%H
2)と置き換えた。プラスミドを維持するために、15mgL
−1のチアンフェニコールを添加した。バイオマス及び代謝物の濃度は、培養増殖期を通じて記録した。
【0129】
いずれかの外因性アセト乳酸脱炭酸酵素の発現により、対照の空のプラスミドを保有する株と比較し、合成製鋼ガスで増殖する間の2,3−ブタンジオール産生は増大した。A.ハイドロフィラ及びL.ラクティス由来のalsD発現により、それぞれ2.3±0.08、及び1.6±0.16gL
−1の2,3−ブタンジオールが産生され、比較として空プラスミド対照株による産生は0.3±0.12g L
−1であった(
図8)。
【0130】
公表文献、特許出願及び特許含む、本明細書に引用されるすべての参照文献は、各文献が個々に及び具体的に参照に援用されると表示され、その全体が本明細書に明記されている場合と同程度に、参照により本明細書に援用される。本明細書におけるすべての先行技術に関する参照は、当該先行技術が、任意の国における努力傾注分野の普遍的な一般的知識の一部を形成するとの認識ではなく、及びそのように捉えられるべきではない。
【0131】
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【0132】
本発明の実施に関し、本発明者の知るベストモードを含む、本発明の好ましい実施形態を本明細書に記載する。それら好ましい実施形態の変化形は、上述の記載を読むことで、当分野の当業者には明らかであろう。本発明者らは、必要に応じてかかる変化形を当業者が実施することを期待し、本発明者らは、本発明が、本明細書で具体的に記載されるもの以外で実施されることを意図している。したがって、本発明は、適用される法律により許可される限り、本明細書に添付される請求項に列挙される主題のすべての改変及び均等を含む。さらに、すべての可能性のある変化形における上記の構成要素のすべての組み合わせが、別段の記載がない限り、又は文脈により明白に矛盾が生じない限り、本発明に包含される。