特表2017-537224(P2017-537224A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2017-537224低窒素で実質的に窒化物を含まないクロム並びにクロム及びニオブ含有ニッケル基合金を製造するための工程、並びに結果物であるクロム及びニッケル基合金
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-537224(P2017-537224A)
(43)【公表日】2017年12月14日
(54)【発明の名称】低窒素で実質的に窒化物を含まないクロム並びにクロム及びニオブ含有ニッケル基合金を製造するための工程、並びに結果物であるクロム及びニッケル基合金
(51)【国際特許分類】
   C22B 9/04 20060101AFI20171117BHJP
   C22B 5/04 20060101ALI20171117BHJP
   C22B 9/05 20060101ALI20171117BHJP
   F27D 11/06 20060101ALI20171117BHJP
【FI】
   C22B9/04
   C22B5/04
   C22B9/05
   F27D11/06 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-522511(P2017-522511)
(86)(22)【出願日】2015年10月5日
(85)【翻訳文提出日】2017年4月25日
(86)【国際出願番号】IB2015002636
(87)【国際公開番号】WO2016110740
(87)【国際公開日】20160714
(31)【優先権主張番号】14/533,843
(32)【優先日】2014年11月5日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】517007150
【氏名又は名称】コンパニア ブラジレイラ ヂ メタルジア イ ミネラサウン
【氏名又は名称原語表記】COMPANHIA BRASILEIRA DE METALURGIA E MINERACAO
(74)【代理人】
【識別番号】110001014
【氏名又は名称】特許業務法人東京アルパ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100094651
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 晃
(72)【発明者】
【氏名】セルニク,クレバー,エー.
【テーマコード(参考)】
4K001
4K063
【Fターム(参考)】
4K001AA19
4K001BA23
4K001EA02
4K001GA17
4K001HA03
4K063AA03
4K063AA12
4K063AA16
4K063BA03
4K063CA03
4K063FA32
(57)【要約】
低窒素で実質的に窒化物を含まないクロム又はクロム及びニオブ含有ニッケル基合金を製造するための工程において、溶融状態で多量の窒素を溶解しない元素又は化合物を真空誘導炉のなかの耐火るつぼに装入して、そのなかで該元素又は化合物を減圧下で溶融し、炭素に基づいた不均質な気泡核を生成する。前記工程において、また、気泡形成が停止したのち、窒素含有量が10ppm未満である低窒素クロム又は低窒素クロム含有母合金を前記溶融物に添加し、添加した該クロム又はクロム含有母合金を溶融して、前記溶融物全体に分布させ、得られた前記組み合わせ溶融物を、ある温度及び周囲圧力にして、出湯できるようにし、得られた前記溶融物を、直接又は間接に金属製鋳型に出湯して、減圧下で前記溶融物を凝固し冷却する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低窒素で実質的に窒化物を含まないクロム又はクロム及びニオブ含有ニッケル基合金を製造するための工程であって、
a)溶融状態で多量の窒素を溶解しない元素又は元素の化合物を真空誘導炉のなかの耐火るつぼに装入して、そのなかで該元素又は化合物を減圧下で溶融し、
b)制御されたやり方で、炭素に基づいた不均質な気泡核を生成し、それにより、前記溶融物から窒素及び酸素を実質的に除去し、
c)気泡形成が停止したのち、窒素含有量が10ppm未満である低窒素クロム又は低窒素クロム含有母合金を前記溶融物に添加し、前記クロム又はクロム含有合金は、
i)クロム化合物及び金属還元剤を含むテルミット混合物を、テルミット反応に耐え得る真空容器のなかに収容して、真空脱気し、初期圧力を1ミリバール未満にし、
ii)該容器のなかで、減圧下で、前記テルミット混合物に点火して、前記クロム化合物を還元し、
iii)減圧下で、前記反応生成物を凝固し、
iv)減圧下で、前記反応生成物を冷却して、ほぼ周囲温度にする
ことにより調製し、段階ii)〜iv)を1ミリバール未満の圧力下で行い、
d)添加した該クロム又はクロム含有母合金を溶融して、前記溶融物全体に分布させ、
e)得られた前記組み合わせ溶融物を、ある温度及び周囲圧力にして、出湯できるようにし、
f)得られた前記溶融物を、直接又は間接に金属製鋳型に出湯して、減圧下で前記溶融物を凝固し冷却する
ことを備える、工程。
【請求項2】
請求項1記載の工程において、
前記クロム又はクロム含有合金に対してあらかじめ行う前記工程で用いる前記還元剤は、アルミニウムである、工程。
【請求項3】
請求項1記載の工程において、
前記クロム又はクロム含有合金に対してあらかじめ行う前記工程で用いる前記テルミット混合物は、少なくとも一つのエネルギー・ブースターを、更に含む、工程。
【請求項4】
請求項1記載の工程において、
前記テルミット混合物は、ニッケル、鉄、コバルト、ホウ素、炭素、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ハフィニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、レニウム、銅、及びこれらの混合物からなる群から選択された元素を、これらの金属の形態で、又は金属熱還元可能なこれらの化合物として、更に含有する、工程。
【請求項5】
請求項1記載の工程において、
真空脱気後、点火前に、前記真空容器のなかの前記圧力を、非窒素気体の導入により約200ミリバールまで上げる、工程。
【請求項6】
請求項1の工程によって製造され、窒素を10ppm未満含有する、
低窒素で実質的に窒化物を含まないクロム並びにクロム及びニオブ含有ニッケル基合金。
【請求項7】
窒素を5ppm以下含有する、
請求項6記載の、低窒素で実質的に窒化物を含まないクロム並びにクロム及びニオブ含有ニッケル基合金。
【請求項8】
実質的に検出可能な窒素を含有しない、
請求項6記載の、低窒素で実質的に窒化物を含まないクロム並びにクロム及びニオブ含有ニッケル基合金。
【請求項9】
請求項1に記載の工程によって製造され、窒素を10ppm未満含有する、
合金718。
【請求項10】
請求項1に記載の工程によって製造され、窒素を5ppm未満含有する、
合金718。
【請求項11】
請求項1に記載の工程によって製造され、実質的に検出可能な窒素を含有しない、
合金718。
【請求項12】
ニッケル、鉄、コバルト、ホウ素、炭素、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、レニウム、銅、及びこれらの混合物からなる群から選択される一以上の元素を更に含有し、窒素含有量が10ppm未満であり、請求項4の工程により調製された、
クロム含有合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2014年11月5日に出願された米国特許出願第14/533,843号の利益を主張し、その内容は、参照により全体として本明細書に組み入れられる。
【0002】
発明の背景
1.発明の分野
本発明は、低窒素で実質的に窒化物を含まないクロム並びにクロム及びニオブ含有ニッケル基合金を製造するための工程、並びに結果物であるクロム及びニッケル基合金に関する。
【背景技術】
【0003】
2.関連技術の記載
航空機エンジンの回転金属部品の寿命は、典型的には疲労亀裂によって決まる。この過程において、亀裂は、金属内のある特定の核形成部位が起点となり、材料の特長及びその部品に加わる応力に関係する速さで伝播する。このことは、さらに、この部品が耐用年数の間に耐え得るサイクル数を限定する。
【0004】
超合金のために開発されたクリーンな溶融製造技術により、このような合金における酸化物含有物が実質的に除去され、今日では、疲労亀裂が、主に構造的特徴、例えば炭化物や窒化物などの一次析出物の結晶粒界又は塊から発生する程度にまで達している。
【0005】
航空機エンジンの回転部品の製造や、石油やガスの掘削、及び生産設備で使用される主要な合金の1つである合金718(合金718仕様書(AMS 5662及びAPI 6A 718)参照。これは、参照により本明細書に組み入れられる。)の凝固の間に形成される一次窒化物粒子が、純粋なTiN(窒化チタン)であること、及び、一次Nb−TiC(ニオブ−炭化チタン)の析出が、異質核形成によりTiN粒子の表面で生じ、それにより析出物の粒径が増加することが判明している。この粒径は、二つの手段によって減少させることができる。この手段とは、炭素含有量を可能な限り低下させること、又は、窒素含有量を低下させることのいずれかである。
【0006】
超合金、ステンレス鋼、及び他の特殊鋼の多くの工業用仕様書では、通常、使用温度における粒界滑りを防止するために、最低炭素含有量を規定している。その結果、粒径を組成的に減少させる唯一の実用的な方法は、可能な限り広範に材料中の窒素含有量を削減することである。この方法では、窒化物が最初に析出するため、窒素の除去は、炭素の除去よりも重要となる。
【0007】
しかし、窒化物の析出が抑制されると、炭素が窒化物粒子の周りで析出により消費されないので、バルク液体の炭素含有量も減少する場合がある。これは、凝固前面のデンドライト間の液体とバルク液体との間の最終的な密度差の改善につながるであろう。その結果として、偏析をより少なくすることができ、これにより、全ての特性及び使用において期待される性能基準を満たしつつも、産業における現行基準よりも大きいインゴットの製造が容易になる。
【0008】
更に、この種の材料の開発は、単結晶ニッケル基超合金の製造に大きな利点をもたらす。この技術に関する主たる課題の一つは、窒化チタン析出の悪影響を回避することである。この粒子は、追加的な凝固前面として機能するデンドライトのための不均一な核となるからである。これは、境界を形成し、これにより、鋳造物が均一な構造を有することを妨げるであろう。Solidification and Precipitation in IN718,A.Mitchell及びT.Wang,Superalloys 718.625.706、並びに、Various Derivations, Edited by E.A. Loria,TMS(The Minerals,Metals and Materials Society),2001における報告によれば、窒化物を含まない原料が得られるならば、従来の材料を用いた同じ部品の製造に使用される凝固速度に対して、凝固速度を2倍にできるであろう。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、凝固の間の窒化物の析出を実質的に排除することができる、合金の製造工程を提供する。この結果は、本発明の二段階溶融工程によって得られる。
【0010】
第一段階において、多量の窒素が溶解しない元素又はそのような元素の化合物若しくは合金(例えば、コバルト、ニッケル、鉄、モリブデン、タングステン、銅、レニウム、コバルトニッケル、鉄モリブデン、鉄コバルト、鉄タングステン、鉄ニッケルなど。)を真空誘導炉の中の耐火るつぼの中に装入し、その中で溶融させる。溶融が完了した後、これらの元素又は化合物によって溶融物に持ち込まれた残存窒素の大部分を除去するために、激しく、かつ制御された不均一な気泡核形成又は炭素沸騰が行われる。炭素沸騰は、固体金属中での炭化物の形成につながる恐れのある炭素ピックアップを最小限にするために、制御された方法で炭素を溶融物に添加することによって開始される。沸騰作用は、撹拌による溶融液の洗い流し又は擦り洗いを促し、その結果、窒素が気体/液体界面へ拡散し、窒素が気泡のなかへ吸収される。この気泡は、溶融物の表面まで上昇し、炉のなかで維持された減圧の下で除去される。炭素沸騰、及び窒素の除去におけるその効果を説明すると、合金718の一般的な組成物は、鉄、ニッケル及びモリブデンを含有する。これは、合わせて合金の約76重量%を通常構成し、合わせて装入物に窒素を約20ppmの与える。その結果、最終合金組成物に窒素を約15ppmを添加することになる。しかし、炭素沸騰法を用いることにより、窒素を15ppm削減して、最終合金組成物において窒素を約0〜約2ppmの範囲にすることができる。
【0011】
系における酸素が枯渇するにつれ、炭素沸騰は治まり最終的には完結する。炭素沸騰が完了した後、超合金、ステンレス鋼、及び他の特殊鋼の製造に必要な残りの元素又は化合物(例えば、クロムニオブ、チタン、アルミニウム原料など)を、溶融物に添加することができる。これらの元素又はその化合物(特に、クロム及びニオブ)に多量の窒素(一般に約150〜200ppm)が溶解していることを考慮すると、現在利用可能な原料は、低窒素クロム含有ニッケル基超合金を得るのに全く適さない。これは、一般的なニッケル基合金規格におけるクロム及びニオブの含有量の合計が約15%であり、特に合金718については通常約24%であるからである。そのため、クロム及びニオブを含む原料は、製造の間、雰囲気中に存在する窒素に金属相を汚染されないようなやり方で製造しなければならない。これは、ひとたび窒素が吸収されると、除去するのが非常に困難でありかつ高価だからである。低窒素で実質的に窒化物を含まないクロム又はクロム及びニオブ含有ニッケル基合金を得るという目標は、しかしながら、減圧下で行われる金属熱反応によって得られる低窒素母合金として、クロム及びニオブを添加することにより達成できる。ここでは、空気を排気系によって最初に除去し、混合物に点火して、材料の還元、凝固及び冷却を減圧下で行うことにより、窒素を10ppm未満含有するクロム−ニオブ母合金が得られる。
【0012】
電子ビーム溶融は、低窒素ニッケル基合金を製造するための周知の工程である。しかしながら、これは、最新式の真空誘導溶融炉と比べると、非常に高価でありかつ極めて遅い。これの生産効率は、少なくとも1桁大きい。例えば、電子ビーム溶融工程の生産効率は一時間当り約100キログラムである一方、真空誘導溶融炉の生産効率は一時間当り約3〜5メートルトンである。
【0013】
本発明によれば、低窒素で実質的に窒化物を含まないクロム並びにクロム及びニオブ含有ニッケル基合金を、真空誘導溶融法により、確実に製造できる。
【0014】
本発明の工程では、最初に、低窒素可溶性の元素又はそのような元素の化合物の真空誘導溶融炉へ装入し、その中で装入物を溶融する。装入物が完全に溶融したのち、炭素源を溶融物に導入して、激しい沸騰を生成し、その間に、液体金属のなかに溶解している窒素を、沸騰によって形成される酸化炭素(CO/CO)の気泡の中に吸収し、上昇する気泡によって達成される洗い流し又は擦り洗い作用により溶融物から取り出す。この工程の最初の手順は、低窒素含有中間製品、すなわち窒素を10ppm未満有する製品を得るために必要である。しかしながら、最初の手順自体は、実質的に窒化物を含まない製品を確実に得るためには不十分である。したがって、系中の酸素が枯渇し(窒素及び酸素の両方が気泡に吸収される)、沸騰作用が治まったのち、高窒素可溶性の材料(例えばクロム及びニオブ)を、溶融物に装入する。実質的に窒化物を含まない合金を得るため、クロムを含む原料及びニオブを含む原料を、母合金として、最初に製造する。これは、減圧下で全体として行われる工程において、これらの酸化物又は他の還元可能な化合物から還元することによる。この工程は、金属熱反応点火、凝固及び安全な取り扱いに十分な低い温度までの冷却を含み、すべてが減圧下で行われる。
【0015】
本発明は、また、合金718、625、925、600、720などのクロムを含有するニッケル基超合金を提供する。これは、減圧下で製造される低窒素金属クロム又はクロム含有母合金、及び、上述した炭素沸騰処理から得られる。クロムを含有する該ニッケル基超合金は、窒素含有量が10ppm未満である。本発明は、また、同じ工程によって製造され、窒素含有量が10ppm未満であるステンレス鋼を提供する。上述した2段階の手順を用いることにより、これらの材料を、実質的に窒化物を含まず、確実に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1で得られた断面試料の一部の倍率100倍の顕微鏡写真。
図2】実施例1で得られた断面試料の一部の倍率250倍の顕微鏡写真。
図3】実施例1で得られた断面試料の一部の倍率500倍の顕微鏡写真。
図4】実施例1で得られた断面試料の一部の倍率3000倍での顕微鏡写真。白色粒子は、炭化物(Nb,Ti)Cである。
図5】実施例1においてEDSを備えた走査型電子顕微鏡によって行われたスペクトル分析から得られたスペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態は、低窒素であり、実質的に窒化物を含まないニッケル基超合金及びステンレス鋼の製造工程を提供する。これは、窒素可溶性が低い元素又はその化合物を真空誘導溶融炉に装入して装入物をそのなかで溶融させ、装入物が完全に溶融したのち液体金属のなかで強い炭素沸騰作用を生じさせ、沸騰が治まったとき窒素可溶性が高い金属を添加することによる。窒素可溶性が高い該金属は、減圧下におけるこれらの酸化物又は他の還元可能な化合物の還元により、最初に製造される。これは、反応点火、金属熱還元、凝固及び安全な取り扱いに十分な低い温度までの冷却を含み、すべてが減圧下で行われる。
【0018】
最初に、窒素との親和性が低い元素又は化合物を、真空気密金属シェルで囲まれた誘導溶融炉耐火るつぼの中に装入する。シェルのカバーは、その基部の上に位置し、その間にある可撓性封止リングを圧縮するよう適合されている。シェルを、真空ポンプ系と連結されている排気口と接続する。これは、設備を閉じたらすぐに、その内部から大気を除去し始めることができる。圧力が0.1mbar未満になったとき、電源を入れて、装入物を減圧下で加熱し溶融する。
【0019】
装入物が溶融して溶融物の温度が約1400℃を超えたのち、炭素源(微粒子状でもよいし、棒、管、円筒などの形状でもよい)を、制御されたやり方で炉の装入システムを介して溶融装入物に導入する。炭素が溶融装入物と接触すると、溶融装入物のなかに溶解している酸素と、添加された炭素との間の反応が、結果として生じるであろう。炭素は、溶融液から溶解酸素がなくなることにより沸騰が治まるまで、徐々に、かつ、制御されたやり方で添加する。
【0020】
気泡形成及び放出の過程において、窒素及び酸素が気泡の中に取り込まれる。これらの気泡は、溶融液の表面まで上昇し、系のなかで減圧下で溶融物から除去される。温度は、できるだけ一定に保つ。これは、窒素脱離過程を妨げることにより、窒素除去に影響し得るからである。
【0021】
沸騰が止んだのち、残りの原料(すなわち、2014年11月5日に本明細書と同時に出願された同時係属中の米国出願第14/533,741号(この開示は、全体として本明細書に組み入れられる。)に記載された工程によって製造された低窒素クロム−ニオブ母合金)の装入を、直ちに開始する。この工程は、以下の段階を含む。(i)金属化合物及び金属還元粉末を含むテルミット混合物を、真空容器のなかに収容して、真空脱気する。(ii)減圧下(すなわち1バール未満)の容器のなかで、テルミット混合物に点火して、金属化合物を還元する。(iii)減圧下の該容器のなかで、凝固及び冷却を含む還元反応全体を行い、窒素含有量が10ppm未満である最終母合金を製造する。
【0022】
好ましくは、テルミット混合物は、以下を含む。
a)酸化クロム又はクロム酸など他のクロム化合物であって、還元でき、これにより、金属クロム及び低窒素クロム含有合金を製造できるもの。
b)少なくとも一つの還元剤(アルミニウム、ケイ素、マグネシウムなど)。好ましくは粉末状。
c)少なくとも一つのエネルギー・ブースター(例えばNaClO、KClO4、KClOなどの塩や、CaOなどの過酸化物など)。これは、良好な融解及び金属とスラグとの分離を確実にするのに十分な高い温度を溶融物のなかに提供する。
【0023】
この工程は、酸化クロム若しくはクロム酸など他のクロム化合物を金属熱還元して金属を製造し、又は、酸化クロム若しくは他のクロム化合物を、他の元素(ニッケル、鉄、コバルト、ホウ素、炭素、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、レニウム、銅、及びこれらの混合物であって、金属の形態であるもの、又は金属熱還元可能な化合物としてのもの)とともに還元することを、任意に含む。
【0024】
好ましくは、提案された混合物の還元剤は、アルミニウム、マグネシウム、ケイ素などであってもよい。好ましくは、アルミニウムを粉末状で用いる。
【0025】
テルミット反応は、混合物をセラミック製又は金属製真空容器(好ましくは、耐火性材料で裏打ちされたもの)に装入することにより行う。容器は、真空系に連結された真空気密の水冷チャンバー(好ましくは金属製チャンバー)の内部に置く。真空系は、系が好ましくは1ミリバール未満の圧力を達成するまで容器のなかの空気を除去する。
【0026】
減圧条件(好ましくは1ミリバール未満)を達成して、窒素含有雰囲気を確実に除去したのち、不活性ガス(例えば、アルゴン)又は酸素などの非窒素気体を用いて、系のなかの圧力を最大約200ミリバールの圧力まで上げ、これにより、テルミット反応の間に形成される副産物の除去を促進してもよい。テルミット混合物に点火すると、反応の間に形成される気体の放出に伴って圧力が上昇し、反応生成物が凝固して冷却するにつれて、反応の結果として形成された気体の体積が収縮し、圧力が減少するが、常に1バール未満である。このやり方において、還元工程は、積載重量に応じた時間(一般に数分)をかけて、減圧下で完了する。この工程により、窒素を10ppm未満含有する金属クロム又はクロム含有母合金が形成される。これが最も重要なのは、ひとたび窒素がクロム金属又はクロム含有合金のなかに存在すると、たとえはるかに高価な電子ビーム溶融工程などの技術に頼ったとしても、除去することが非常に難しいことが十分証明されているからである。
【0027】
上述した二段階の工程により得られた結果溶融物は、同じ減圧雰囲気下で、凝固し冷却して、安全な取り扱いができるのに十分な低い温度にされ、最終段階での窒素吸収を回避する。本発明の実施形態の低窒素含有量金属及び合金を達成するのに決定的であると考えられるのは、点火前から、点火、凝固、及び冷却の工程全体を、本明細書で記載したとおり、減圧下で行うことである。
【0028】
好ましくは、製造された金属又は母合金は、窒素を約5重量ppm未満含有する。最も好ましくは、製造された金属又は母合金は、窒素を約2重量ppm未満(最も好ましくは窒素を0ppm)含有する。
【0029】
母合金の装入を行ったら、温度及び圧力を望ましい出湯値に調整し、その後、必要又は望ましい場合、少量の気化しやすい任意の元素(例えば、マグネシウムなど)を添加してもよい。るつぼ中の結果溶融液合金を、その後、タンディッシュ又はロンダーのなかへ出湯して金属製鋳型まで運んでもよく、金属製鋳型のなかへ直接出湯してもよく、炉の構成次第である。
【0030】
その代わりとして、溶融液を炭素沸騰の終わりで出湯して、金属製鋳型のなかで凝固し冷却してもよい。その後、同じ種類の炉に再び装填して、前に出湯したときとほぼ同じ温度まで溶融し再加熱する。溶融液段階まで再加熱したら、下記のようなやり方で工程を実行してもよい。すなわち、残りの原料(すなわち低窒素クロムやクロム−ニオブ母合金)を溶融液に装入し、温度及び圧力を望ましい出湯値に調整し、望ましい場合、少量の任意の元素(通常は、気化しやすい元素)を添加し、そして、金属製鋳型のなかへ(直接又はタンディッシュ若しくはロンダーを介して)出湯する。いずれの場合も、鋳型に入れたら、減圧下(すなわち、1バール未満)で金属液体を凝固し、安全な取り扱いに十分な低い温度まで冷却する。
【0031】
実施例
以下の実施例を行うことにより、低窒素で実質的に窒化物を含まないクロム並びにクロム及びニオブ含有ニッケル基合金を得る際における本発明の実施形態の有効性が立証された。
【実施例1】
【0032】
低窒素可溶性元素(ニッケル38.70kg、鉄13.5kg、モリブデン2.30kg)からなる最初の装入物を、真空誘導溶融炉のなかに配置された酸化アルミニウム/酸化マグネシウム製るつぼの中に装填した。系のなかの圧力を排気して0.1ミリバール未満にし、電源を入れた。装入物が完全に溶融したのち、温度を1450℃まで上げた。純粋な黒鉛20グラムを、溶融金属に添加することにより、炭素沸騰を開始した。沸騰が治まったのち、溶融装入物の温度を1534℃まで上げ、鋳型のなかへ出湯して、そのなかで安全に取り扱えるまで凝固し冷却した。
【0033】
それとは別に、酸化クロム、アルミニウム粉末を、KCl0とともに、真空容器のなかで混合して、テルミット混合物を形成した。テルミット混合物を、系が1ミリバール未満の圧力を達成するまで真空脱気した。系のなかの圧力を、その後、アルゴンを導入することにより、200ミリバールまで上げた。テルミット混合物を、その後、点火して、得られる還元反応を数分間継続させて金属クロムを形成した。これを同じ減圧下で、結果混合物を安全に取り扱えるまで凝固し冷却した。得られたクロム金属は、窒素を10ppm未満含有していた。
【0034】
同様にして、酸化クロム、酸化ニオブ、アルミニウム粉末、及びKClOを真空容器の中で上と同様に混合してテルミット混合物を形成することにより、クロムニオブ母合金を調製した。減圧下で、テルミット混合物に点火し、凝固し冷却して、これにより、窒素を10ppm未満有するクロムニオブ合金を得た。
【0035】
その後、最初の装入物41.4kgを、真空誘導炉のなかの酸化アルミニウム/酸化マグネシウム製るつぼのなかへ装填した。系を、その後、0.1ミリバール未満の圧力になるまで排気し、電源を入れた。完全に溶融したのち、低窒素クロム9.8kg及び低窒素クロムニオブ合金4.8kg(上述のとおり製造したもの)を添加して溶融した。添加した低窒素材料が完全に溶融したのち、温度を1510℃まで上げ、チタン0.56kgを溶融物に添加した。その後、ニッケルマグネシウム合金(15%Mg)0.40kgを添加して溶融し、完全に溶融したのち、溶融物の温度を調整して出湯目標の1460℃にし、溶融塊をインゴット鋳型のなかへ出湯した。インゴットは、取り扱いが安全になるまで凝固し冷却した。その後、インゴットを真空アーク再溶融炉の中で再溶融し、均質化して、その後、鍛造して、3×3インチの棒にした。棒が安全に取り扱えるようになったのち、横断面試料を棒の底部から300mm取り出し、研磨して、エネルギー分散型分光計を備えた走査型電子顕微鏡(Zeiss社、LEO Gemini 1550型)のなかに置き、その結果、図5に示されるスペクトルが得られた。これが明確に立証しているように、この実施例にしたがって得られた超合金が実質的に窒化物を含まない(Nが1.1ppm(3試料の平均))。
【実施例2】
【0036】
実施例1で示したのと同じやり方で、ニッケル38.7kg、鉄13.5kg及びモリブデン2.30kgからなる最初の装入物を、真空誘導溶融炉のなかに配置された酸化アルミニウム/酸化マグネシウム製るつぼのなかへ装填した。系のなかの圧力を排気して0.1ミリバール未満の圧力にし、その後、電源を入れた。完全に溶融したのち、温度を1460℃まで上げた。純粋な黒鉛20グラムを溶融金属混合物に添加することにより、炭素沸騰を開始した。沸騰が治まったのち、溶融装入物の温度を1495℃まで上げ、鋳型の中に出湯して、そのなかで安全に取り扱えるまで凝固し冷却した。
【0037】
それとは別に、酸化クロム、アルミニウム粉末、及びKClOを真空容器のなかで、本明細書で述べたとおり混合し、テルミット混合物を形成した。テルミット混合物を、系が1ミリバール未満の圧力を達成するまで真空脱気した。その後、アルゴンの導入により、系圧力を100〜200ミリバールに上げた。テルミット混合物に点火し、得られる還元反応を数分間継続させて、金属クロムを形成した。これを、得られた金属が安全に取り扱えるようになるまで凝固し冷却した。得られたクロム金属は、窒素を10ppm未満含有していた。
【0038】
同様にして、酸化クロム、酸化ニオブ、アルミニウム粉末、及びKClOを真空容器のなかで、上述したとおり混合して、テルミット混合物を形成することにより、クロムニオブ母合金を調製した。テルミット混合物に減圧下で点火して、凝固し冷却して、これにより、窒素を10ppm未満有するクロムニオブ合金を得た。
【0039】
最初の装入物40.3kgを、ニッケル0.40kg及び鉄0.30kgとともに、真空誘導溶融炉のなかの酸化アルミニウム/酸化マグネシウム製るつぼのなかへ装填した。系を排気して圧力を0.1ミリバール未満にし、電源を入れた。完全に溶融したのち、低窒素クロム9.7kg及び低窒素クロムニオブ合金4.5kg(上述したとおり製造したもの)を溶融物に添加した。添加した低窒素材料が完全に溶融したのち、温度を1460℃まで上げ、チタン0.57kg及びアルミニウム0.10kgを溶融物に添加した。その後、ニッケルマグネシウム(15%mg)0.40kgを溶融物に添加し、すべての添加材料が完全に溶融したのち、溶融物の温度を調整して出湯目標の1460℃にし、溶融塊をインゴット鋳型へ出湯して、取り扱いが安全になるまで凝固し冷却した。その後、インゴットを真空アーク再溶融炉のなかで再溶融し、再加熱炉の中で均質化させ、その後、鍛造して3×3インチの棒にした。実施例1のように、試料を棒から取り出し、研磨して、実施例1で用いたのと同じエネルギー分散型分光計を備えた同じ走査型電子顕微鏡で分析した。試料は、窒素を0.8ppm(2試料の平均)含有していることが分かった。合金718における窒化チタンの固溶限は、5ppmであるから、この実施例で製造された超合金は、実質的に窒化物を含まないと結論づけられる。
【0040】
本発明の実施形態のパラメータの非常に多くの変形は、当業者に明白であり、またそれらの利益を更に享受しつつ用いることができる。したがって、本発明は、この明細書に記載された特定の実施形態に限定されないことを強調する。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】