(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-537332(P2017-537332A)
(43)【公表日】2017年12月14日
(54)【発明の名称】格納容器に内蔵の受動式除熱システム
(51)【国際特許分類】
G21C 9/004 20060101AFI20171117BHJP
G21C 15/18 20060101ALI20171117BHJP
【FI】
G21C9/00 A
G21C15/18 T
G21C15/18 R
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-549161(P2017-549161)
(86)(22)【出願日】2015年11月16日
(85)【翻訳文提出日】2017年8月4日
(86)【国際出願番号】RU2015000784
(87)【国際公開番号】WO2016089250
(87)【国際公開日】20160609
(31)【優先権主張番号】2014148910
(32)【優先日】2014年12月4日
(33)【優先権主張国】RU
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】517197118
【氏名又は名称】ジョイント・ストック・カンパニー サイエンティフィック リサーチ アンド デザイン インスティテュート フォー エナジー テクノロジーズ アトムプロエクト
(74)【代理人】
【識別番号】110001900
【氏名又は名称】特許業務法人 ナカジマ知的財産綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベズレプキン ウラジーミル ヴィクトロヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】セマーシコ セルゲイ エヴゲニエヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】イフコフ イゴール ミハイロヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】アレクセーエフ セルゲイ ボリソヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルダニツェ ティムラズ ゲオルギエヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】ペトロフ ユーリー ユリエヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】ソロドフニコフ アレクサンダー セルゲイヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】キリーロフ ユーリー ウラジーミロヴィッチ
【テーマコード(参考)】
2G002
【Fターム(参考)】
2G002AA04
2G002CA01
2G002CA03
(57)【要約】
【課題】加圧水型原子炉格納容器に内蔵された受動式除熱システム(C−PHRS)の除熱効率と循環路内の流動安定性とを高めて、システムの動作の信頼性を向上させる。
【解決手段】システムは冷却水の循環路を少なくとも1本有する。この循環路は、格納容器内に位置し、複数本の伝熱管で相互に接続されたヘッダーを有する熱交換器、この熱交換器に接続された上昇パイプラインと下降パイプライン、格納容器の外側で熱交換器よりも上に位置し、下降パイプラインに接続された冷却水供給タンク、および、上昇パイプラインに接続され、冷却水供給タンク内に位置し、冷却水の圧力によってはそのタンクに接続される蒸気用安全弁を備えている。ヘッダーは、L/D≦20(L:ヘッダーの長さ、D:ヘッダーの呼び径。)を条件として複数本の伝熱管との接続部分に分割されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加圧水型原子炉の格納容器に内蔵された受動式除熱システムであって、冷却水の循環路を少なくとも1本有し、
前記循環路は、
前記格納容器の内側に位置し、複数本の伝熱管により相互に接続された上側ヘッダーと下側ヘッダーとを有する熱交換器と、
前記熱交換器に接続された上昇パイプラインと下降パイプラインと、
前記格納容器の外側で前記熱交換器よりも上に位置し、前記下降パイプラインに接続された冷却水供給タンクと、
前記上昇パイプラインに接続され、前記冷却水供給タンクの中に位置し、冷却水の圧力によっては前記冷却水供給タンクにも接続される蒸気用安全弁と、
を備え、
前記上側ヘッダーと前記下側ヘッダーとは、L/D≦20(Lは各ヘッダーの長さであり、Dは各ヘッダーの呼び径である。)を条件として前記複数本の伝熱管との接続部分に分割されており、
前記上昇パイプラインは、上昇部分の最小の高さh
rsが次式を満たすように設計されている
ことを特徴とするシステム。
【数1】
ここで、ΔP
cresは前記循環路の全体における配管抵抗であり、h
heは前記熱交換器の高さであり、gは重力加速度であり、ρ
cwは下降パイプラインにおける水の密度であり、ρ
hwは上昇パイプラインのうち前記熱交換器の高さの範囲内に位置する部分における水の密度であり、ρ’は飽和水の密度であり、ρ”は飽和蒸気の密度であり、хは前記上昇部分における気液二相流の乾き度である。
【請求項2】
それぞれが冷却水の循環路を4本ずつ有する4本の流路を備えた請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記上昇パイプラインのうち、前記熱交換器の上側ヘッダーから前記蒸気用安全弁までの少なくとも一部が、水平方向に対して少なくとも10°の上り勾配を含むことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記上昇パイプラインは、上り勾配が水平方向に対して10°未満である部分も含み、当該部分の長さLsec1と径Dsec1とは、Lsec1/Dsec1≦10という条件を満たすことを特徴とする請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記下降パイプラインの少なくとも一部が、水平方向に対して少なくとも10°の下り勾配を含むことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記下降パイプラインは、下り勾配が水平方向に対して10°未満である部分も含み、当該部分の長さLsec2と径Dsec2とは、Lsec2/Dsec2≦10という条件を満たすことを特徴とする請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
各伝熱管の高さは、前記熱交換器の外表面に乱流対流が生じる条件である次式を満たすことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【数2】
ここで、R
aはレイリー数であり、gは重力加速度であり、lは構造の典型的な大きさ、すなわち伝熱管の高さであり、νは湿った空気の動粘性係数であり、ρ
wは前記熱交換器の配管の外壁に接する湿った空気の平均密度であり、ρ
cは前記格納容器における気液二相状態の水の平均密度であり、S
c=ν/D
difはシュミット数であり、D
difは水蒸気の拡散係数である。
【請求項8】
前記熱交換器が前記格納容器のドームの下に位置することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記熱交換器は、単一の垂直な伝熱管束を有する請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記熱交換器において隣接するいずれの2本の伝熱管も、間隔が等しく、且つ同一平面上に位置するという条件を満たすことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は広くは原子力エネルギー分野に関し、特に、加圧水型原子炉格納容器に内蔵された受動式除熱システム(C−PHRS)、すなわち循環路における冷却液(水)の自然循環によって原子炉格納容器を冷却するように設計されたシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景技術によれば、熱の自然循環に基づく原子炉格納容器の除熱システムには数多くの設計がある。
特許文献1に開示された、原子炉格納容器の内部の構造物から受動的に除熱するためのシステムは、格納容器の外側に位置する第1熱交換器と、格納容器の内側に位置する第2熱交換器とを有する。第1熱交換器と第2熱交換器とは、格納容器に冷却材を通すパイプと雰囲気へ開放された排気パイプとを用いて閉じられた流路に対し、冷却材の圧力に応じて接続される。このシステムはさらに、所定の高さまで水で満たされたタンクを有する。このタンクは格納容器の構造物に接続され、その格納容器の上壁付近に配置されている。このタンク内の水に第1熱交換器は漬けられており、このタンクの底に隣接する基板から、このタンクを2つの部屋に分割している上部までが垂直に伸びている。これら2つの部屋は水圧に応じて接続される。このタンクは、第1流路と第2流路とを形成するカバーを備えている。第1流路と第2流路とは、垂直に伸びている第1熱交換器が各流路に対応するように形成している領域を覆い、その対応する領域にのみ接続されている。第1流路と第2流路との一方が外気入口に接続されており、他方が排気パイプに接続されている。タンクが所定の水位まで満たされているとき、タンク内の水により上記2本の流路間の接続は遮断される。
【0003】
特許文献2に開示された格納容器除熱システムは、格納容器の下に設置された熱交換器を有する。この熱交換器の入口と出口とは格納容器を通して循環路に接続されている。この循環路は、沸点の低い冷却材用の閉路であり、発電機付きのタービン、格納容器の下に位置する蒸気発生器を含む電力装置、およびこの電力装置用の複数の安全システムを有する。これらの安全システムの一つは、流体圧ユニットと復水式蒸気タービンとを有する。熱交換器は格納容器のドームの下に設置され、C字形のフィン付き管(フィンチューブ)を複数本用いて接続された2層式円形管として設計されている。これらの管の端部は格納容器の壁と対向し、かつ流体圧ユニットを囲んでいる。これにより、電力装置の安全性が確保されている。
【0004】
本発明に最も類似した技術は、特許文献3に開示されているPHRSである。このシステムは冷却材の循環路を有する。この循環路は、格納容器の内側に位置する少なくとも一つの熱交換器と、格納容器の外側で且つ熱交換器よりも上に配置された冷却材供給タンクとを有する。これらの熱交換器とタンクとは入口パイプライン及び出口パイプラインによって相互に接続されている。このシステムはさらに蒸気だめも備えている。この蒸気だめは冷却材供給タンク内に設置され、冷却材の圧力に応じてこのタンクと接続され、且つ出口パイプラインと接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】ロシア特許第2125744号明細書
【特許文献2】ロシア特許第2302674号明細書
【特許文献3】ロシア実用新案第85029号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の装置はいずれも、システム内に水撃現象(ウォーターハンマー)が発生しうるという課題を有する。
本発明の目的は、原子炉格納容器から効率的に除熱するためのシステムを提供することである。本発明の技術的効果は、除熱効率及び循環路内の流動安定性を高めて(特にウォーターハンマーをなくして)、その結果、システムの動作の信頼性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の技術的効果は以下の実施形態により実現される。加圧水型原子炉の格納容器に内蔵された受動式除熱システムは、冷却水の循環路を少なくとも1本有し、前記循環路は、前記格納容器の内側に位置し、複数本の伝熱管により相互に接続された上側ヘッダーと下側ヘッダーとを有する熱交換器と、前記熱交換器に接続された上昇パイプラインと下降パイプラインと、前記格納容器の外側で前記熱交換器よりも上に位置し、前記下降パイプラインに接続された冷却水供給タンクと、前記上昇パイプラインに接続され、前記冷却水供給タンクの中に位置し、冷却水の圧力によっては前記冷却水供給タンクにも接続される蒸気用安全弁と、を備え、前記上側ヘッダーと前記下側ヘッダーとは、L/D≦20(Lは各ヘッダーの長さであり、Dは各ヘッダーの呼び径である。)を条件として前記複数本の伝熱管との接続部分に分割されており、前記上昇パイプラインは、上昇部分の最小の高さh
rsが次式を満たすように設計されている。
【数1】
【0008】
ここで、ΔP
cresは前記循環路の全体における配管抵抗であり、h
heは前記熱交換器の高さであり、gは重力加速度であり、ρ
cwは下降パイプラインにおける水の密度であり、ρ
hwは上昇パイプラインのうち前記熱交換器の高さの範囲内に位置する部分における水の密度であり、ρ’は飽和水の密度であり、ρ”は飽和蒸気の密度であり、хは前記上昇部分における気液二相流の乾き度である。
【0009】
上記の技術的効果はまた、以下に特定される本発明の実施形態の選択肢のいずれによっても実現される。
・前記システムは、それぞれが冷却水の循環路を4本ずつ有する4本の流路を備える。
・前記上昇パイプラインのうち、前記熱交換器の上側ヘッダーから前記蒸気用安全弁までの少なくとも一部が、水平方向に対して少なくとも10°の上り勾配を含む。
・前記上昇パイプラインは、上り勾配が水平方向に対して10°未満である部分も含み、当該部分の長さL
sec1と径D
sec1とは、L
sec1/D
sec1≦10という条件を満たす。
・前記下降パイプラインの少なくとも一部が、水平方向に対して少なくとも10°の下り勾配を含む。
・前記下降パイプラインは、下り勾配が水平方向に対して10°未満である部分も含み、当該部分の長さL
sec2と径D
sec2とは、L
sec2/D
sec2≦10という条件を満たす。
・各伝熱管の高さは、前記熱交換器の外表面に乱流対流が生じる条件である次式を満たす。
【数2】
【0010】
ここで、R
aはレイリー数であり、gは重力加速度であり、lは構造の典型的な大きさ、すなわち伝熱管の高さであり、νは湿った空気の動粘性係数であり、ρ
wは前記熱交換器の配管の外壁に接する湿った空気の平均密度であり、ρ
cは前記格納容器における気液二相状態の水の平均密度であり、S
c=ν/D
difはシュミット数であり、D
difは水蒸気の拡散係数である。
・前記熱交換器が前記格納容器のドームの下に位置する。
・前記熱交換器は、単一の垂直な伝熱管束を有する。
・前記熱交換器において隣接するいずれの2本の伝熱管も、間隔が等しく、且つ同一平面上に位置するという条件を満たす。
【0011】
本願の目的に則って、上昇部分とは、上昇パイプラインのうち、冷却材の流れが乾き度xの蒸気と水との混合流(気液二相流)を成す部分を意味する。この部分を「上昇」と呼ぶのは、この部分が循環路における自然循環の形成に大きく寄与し、その自然循環の流量を決定するからである。
【発明の効果】
【0012】
実験によれば、上記のシステムにおけるパラメーター間の関係は、ウォーターハンマー、すなわち冷却材の質量流量の変動を生じさせることなく、除熱効率を最大限に効率化する。これは、システムの最適な構成が選択されるからである。すなわち、熱交換器のヘッダーの長さと呼び径との間の関係、循環路の上昇部分の長さ、伝熱管の高さ、及び格納容器の内部における熱交換器の配置が最適化されルからである。
【0013】
熱交換器のヘッダーの長さと呼び径との間の関係が選択されることにより、複数本の伝熱管間で分配される冷却材の流れの不均等性が最小化し、すなわち、いわゆるヘッダー効果が抑制される。配管における流れの均等な分配は、熱交換器のエネルギー効率及び性能の向上にとって重要な条件の一つである。熱交換器のヘッダーの流路間における冷却材の分配を改善するのに用いられる手法の一つは、ヘッダーにおける媒体の流れの圧力損失を抑制することである。これは、製造工程能力及びその他の設計特性の範囲内でヘッダーを短くし、且つその呼び径を拡大することで実現される。ヘッダーがL/D≦20という条件を満たすことで、ヘッダーの長手方向に沿った圧力損失が最小化され、伝熱管間で分配される冷却材の流れの均等性が最も高い。一方、L/Dが20を超える場合、熱交換器の流路間における媒体分布の均等性が損なわれる結果、冷却材の質量流量が不安定化し、ひいては熱交換器の出力する熱量が低下する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】実験によって得られた、タンク内の気液二相流の圧力に対するC−PHRSの冷却回路の出力の依存性を示す。
【
図3】計算によって得られた、事故の処理時間に対する圧力と温度との依存性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のシステムは冷却水の循環路の組み合わせである。本発明の好ましい実施形態において、このシステムは4本の完全に独立した流路から成り、各流路が4本ずつ循環路を有する。
循環路(
図1参照。)は、格納容器の内側(そのドームの下)に位置して上側ヘッダー(2)と下側ヘッダー(3)とを含む熱交換器(1)を有する。上側ヘッダーと下側ヘッダーとは、単一の垂直な伝熱管束を形成している複数本の伝熱管(4)により相互に接続されている。熱交換器(1)には上昇パイプライン(5)と下降パイプライン(6)とが接続されている。下降パイプライン(6)に接続された冷却水供給タンク(緊急時除熱タンク(EHRT))(7)は、格納容器の外側で熱交換器よりも上に位置する。上昇パイプライン(5)に接続された蒸気用安全弁(8)は、冷却水供給タンク(7)の中に位置し、冷却水の圧力に応じてそのタンクと接続される。この蒸気用安全弁(8)は、上昇パイプライン(5)における凝縮が引き起こすウォーターハンマーと振動レベルの増加とを防止するように設計されている。これらの機能を蒸気用安全弁(8)に実現させる接続口がこの安全弁の上昇管に設けられている。
【0016】
熱交換器の上側ヘッダー(2)と下側ヘッダー(3)とは、L/D≦20(Lは各ヘッダーの長さであり、Dは各ヘッダーの呼び径である。)を条件として複数本の伝熱管との接続部分に分割されている。
上昇パイプラインの設計により、その上昇部分の最小高さh
rsが次式を満たす。
【0018】
ここで、ΔP
cresは循環路の全体における配管抵抗であり、h
heは熱交換器の高さであり、gは重力加速度であり、ρ
cwは下降パイプラインにおける水の密度であり、ρ
hwは上昇パイプラインのうち熱交換器の高さの範囲内に位置する部分における水の密度であり、ρ’は飽和水の密度であり、ρ”は飽和蒸気の密度であり、хは上昇部分における気液二相流の乾き度である。
【0019】
熱交換器は単一の垂直な伝熱管束を有する。好ましくは、隣接するいずれの2本の伝熱管も間隔が等しく、且つ同一平面上に位置する。
本発明の好ましい実施形態においては、伝熱管の高さは、熱交換器の外表面に乱流対流が生じる条件である次式を確実に満たす。
【0021】
ここで、R
aはレイリー数であり、gは重力加速度であり、lは構造の典型的な大きさ、すなわち伝熱管の高さであり、νは湿った空気の動粘性係数であり、ρ
wは熱交換器の配管の外壁に接する湿った空気の平均密度であり、ρ
cは格納容器における気液二相状態の水の平均密度であり、S
c=ν/D
difはシュミット数であり、D
difは水蒸気の拡散係数である。
【0022】
上昇パイプラインは熱交換器の上側ヘッダーから蒸気用安全弁までの間に、水平方向に対して少なくとも10°の上り勾配を含む。ただし、例外として、ある部分は傾斜角が10°未満である。その部分の長さL
sec1と径D
sec1とは次の条件を満たす:L
sec1/D
sec1≦10。
下降パイプラインは、水平方向に対して少なくとも10°の下り勾配を含む。ただし、例外として、ある部分は傾斜角が10°未満である。その部分の長さL
sec2と径D
sec2とは次の条件を満たす:L
sec2/D
sec2≦10。
【0023】
レニングラード第二原子力発電所に対して実施される本発明の特定の形態においては、各循環路の熱交換器(1)は、格納容器の内壁のうち49.3mよりも高い領域上にその周に沿って配置されている。各熱交換器は伝熱面積が75m
2である。伝熱管束の高さは5mであり、38×3mmの垂直管で構成されている。各流路の伝熱面積の合計は300m
2に達する。熱交換器のヘッダーの長さLは上側及び下側とも2,755mmである。上側ヘッダーは外径が219mm、内径が195mmであり、下部ヘッダーは外径が194mmであり、内径が174mmである。
【0024】
本発明のシステムの出力する熱量は次のように選択される。原子炉の設計基準を超える事故(炉心の深刻な損傷を伴うものを含む)の間でも、格納容器内の圧力が設計上の範囲内まで低下してそこに留まる。
隔離弁(9)、(10)は、熱交換器(1)に漏れが生じた場合にそれを隔離するように設計されたものであり、上昇パイプライン(5)と下降パイプライン(6)とのそれぞれに実装されている。隔離弁を緊急に閉止する場合にC−PHRSの循環路の過圧を防ぐ目的で、安全弁(図は示していない。)がタンク(7)の高さよりも下に流体を排出するように設置されている。これらの隔離弁および安全弁は、原子炉建屋の周囲(エンベロープ)の円環形状の区画内で+54.45mの高さに配置されている。
【0025】
本発明のシステムの動作は冷却材の自然循環に基づいたものであり、特別な起動操作は必要ない。熱交換器(1)の外表面で気液二相流から蒸気が凝縮することにより格納容器から熱エネルギーは除去される。その外表面から気液二相流は自然循環により冷却水供給タンク(7)へ運ばれる。熱は最終的には冷却水供給タンクから最終の放熱材(ヒートシンク)へ、そのタンク内の水の蒸発により除去される。冷却材は蒸気用安全弁(8)から冷却水供給タンク(7)へ供給され、冷却された後に冷却材(水)は下降パイプライン(6)を通って熱交換器(1)へ戻る。こうして、循環路を利用してタンク(7)内の水を蒸発させることにより、熱エネルギーは格納容器の内部空間から最終のヒートシンク、すなわち環境へ移される。
【0026】
このシステムの設計案の効率を実証する目的で、統計的に有意な回数の実験がいくつかの設定について行われた。これらの実験は、JSC“Afrikantov OKBM”の試験台に設置されたC−PHRSの冷却回路の原寸大模型を用いて行われた。この模型は、熱交換器と凝縮器との模型、格納容器の模型のタンク内に位置する使用可能なパイプライン、および冷却水供給タンク内に位置する使用可能な蒸気用安全弁を含んでいた。
【0027】
試験用冷却回路の除熱容量及びタンク内での蒸気媒体のパラメーターは、運転中のシステムにおける実際の原子炉事故時の状況に近似している。したがって、C−PHRS冷却回路の配置及びパラメーターが原寸大の冷却回路の設計と実質的に同等であるので、C−PHRS冷却回路の模型から得られた実験結果は典型的なものであり、運転中のC―PHRS冷却回路にも適用可能であろう。
【0028】
原寸大のC―PHRS冷却回路について行われた試験によれば、冷却水タンク内の冷却水の温度が最高値100°Сであり、且つ冷却回路1つあたりの熱容量が特定の設計値である場合、タンク内の圧力は設計限界値500kPを超えないであろう。
図2は、実験により得られた、タンク内の気液二相流の圧力に対するC―PHRS冷却回路の出力の依存性を示す。
【0029】
図3は、原子炉施設の1次系の減圧(大きな漏れ)及び安全システムの故障を伴う設計基準を超える事故の場合に、C−PHRSの機能が格納容器の内部に関するパラメーターにどのように影響するかを示す。線IはPHRSが作動していない時のパラメーターを示し、線IIはPHRSの作動時のパラメーターを示す。
C−PHRS冷却回路の原寸大模型を用いた試験は、この回路のパラメーターが除熱効率と循環路内の流動安定性との両方の点で設計どおりに達成されたことを示す。冷却回路の動作の全範囲(すなわち、初期状態から冷却水の沸騰までの発電動作)にわたって、タンク内のウォーターハンマーも、冷却回路の要素および構造の振動も、冷却回路の実施可能性に影響を与え得るほどのものは観察されなかった。
【0030】
それ故、本発明のシステムは長期にわたって、且つ格納容器の下に物質の塊及びエネルギーの放出を伴う設計基準を超える事故の全過程にわたって、作業員の介入なしに、格納容器にかかる圧力を設計上のレベルよりも低く保つことができる。
【国際調査報告】