特表2017-537481(P2017-537481A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2017-537481電流ブロック層を有する量子カスケードレーザ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-537481(P2017-537481A)
(43)【公表日】2017年12月14日
(54)【発明の名称】電流ブロック層を有する量子カスケードレーザ
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/343 20060101AFI20171117BHJP
   H01S 5/227 20060101ALI20171117BHJP
【FI】
   H01S5/343
   H01S5/227
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-548354(P2017-548354)
(86)(22)【出願日】2014年12月3日
(85)【翻訳文提出日】2017年7月31日
(86)【国際出願番号】IB2014002666
(87)【国際公開番号】WO2016087888
(87)【国際公開日】20160609
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】517196111
【氏名又は名称】アルプ レイザーズ ソシエテ アノニム
【氏名又は名称原語表記】Alpes Lasers S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】アルフレド ビスムト
(72)【発明者】
【氏名】ジェローム ファイスト
(72)【発明者】
【氏名】エミリオ ジーニ
(72)【発明者】
【氏名】ボリスラフ ヒンコフ
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AA26
5F173AA47
5F173AF03
5F173AF84
5F173AF92
5F173AF98
5F173AH03
5F173AR24
(57)【要約】
半導体量子カスケードレーザ(QCL)、特に約3〜50μmの波長で発光する中赤外線レーザは、しばしば、深くエッチングされた埋め込み型ヘテロ構造QCLとして設計される。埋め込み型ヘテロ構造の構成は、通常はInPより成る埋め込み層の熱伝導率が高く、低損失がデバイスの高出力および高性能を保証するので有利である。しかし、そのようなQCLが短波長用に設計され、短波長で動作する場合、このような動作に必要な高電界が、絶縁埋め込み層内に動作電流を部分的に追いたてるという重大な欠点が生じる。これにより、活性領域に注入される電流が減少し、熱損失が発生し、QCLの性能が低下する。本発明は、埋め込み層内に、効果的に設計された、例えばAlAs、InAlAs、InGaAs、InGaAsPまたはInGaSbの電流ブロッキングまたは量子バリアを提供することによって、この問題を解決する。この電流ブロッキングまたは量子バリアは、通常のInPまたは他の埋め込み層の間に挟まれている。これらは真性またはFeドープされている。これらの量子バリアは、説明した負の作用を大きくかつ制御可能に低減し、この結果、QCLは、短波長および/または高電界でも効果的に動作する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(15;25)と、活性領域(12;22)と、クラッド(11;21)と、前記活性領域(12;22)への電流注入を提供する少なくとも2つの電極(13,16;23,26)と、埋め込み型ヘテロ構造導波路(14a〜14c;24a,24b)と、を有する、特に中赤外線領域の波長で発光する半導体量子カスケードレーザであって、
前記ヘテロ構造導波路は、第1のIII−V族半導体化合物の少なくとも1つのバリア層(14c;24c)と、少なくとも1つの第2のIII−V族半導体化合物の複数の層(14a,14b;24a,24b)と、の積層体を含んでいる、
ことを特徴とする半導体量子カスケードレーザ。
【請求項2】
少なくとも1つの第2の半導体化合物の複数の埋め込み層(14a,14b;24a,24b)と交互に配置されている複数のバリア層(14c;24c)が設けられている、
請求項1記載の量子カスケードレーザ。
【請求項3】
前記バリア層(14c;24c)の少なくとも1つの層は、AlAs、InAlAs、InGaAs、InGaAsPまたはInGaSbのグループのうちの1つの化合物より成る、
請求項1または2記載の量子カスケードレーザ。
【請求項4】
前記埋め込み層の少なくとも1つの層(14a;24a)は、第1のIII−V族半導体化合物を含み、
前記埋め込み層の少なくとも1つの別の層(14b;24b)は、第2の、異なるIII−V族半導体化合物を含む、
請求項1から3までのいずれか1項記載の量子カスケードレーザ。
【請求項5】
前記埋め込み層(14a,14b;24a,24b)の前記第1の半導体化合物は、真性化合物、特にi:InPであり、
前記第2の化合物は、ドープされた化合物、特にFeドープされた化合物、とりわけFeドープされたInPである、
請求項4記載の量子カスケードレーザ。
【請求項6】
前記埋め込み層の少なくとも1つの層(24a)は、真性化合物、特にi:InPと、第2のドープされた化合物、特にFeドープされた化合物、とりわけFeドープされたInPと、の両方を含む、
請求項4記載の量子カスケードレーザ。
【請求項7】
前記埋め込み層(14a,14b;24a,24b)の前記第1の半導体化合物と前記第2の化合物との両方が、ドープされた化合物、特にFeドープされた化合物、とりわけFeドープされたInPである、
請求項4記載の量子カスケードレーザ。
【請求項8】
有利には6である第1の数のバリア層(14c;24c)と、有利には6である第2の数の埋め込み層(14a,14b;24a,24b)と、の埋め込み型ヘテロ構造導波路を含んでおり、前記バリア層は、前記埋め込み層と交互に積層されている、
請求項1から7までのいずれか1項記載の量子カスケードレーザ。
【請求項9】
各バリア層(14c;24c)は、5nm〜200nm、有利には約50nmの厚さであり、
前記埋め込み層は、約50nm〜約3μm、有利には600nmの厚さである、
請求項8記載の量子カスケードレーザ。
【請求項10】
以下の構造
【表1】
の埋め込み型ヘテロ構造導波路を含んでいる、
請求項1から9までのいずれか1項記載の量子カスケードレーザ。
【請求項11】
以下の構造
【表2】
の埋め込み型ヘテロ構造導波路を含んでいる、
請求項1から8までのいずれか1項記載の量子カスケードレーザ。
【請求項12】
以下の構造
【表3】
の埋め込み型ヘテロ構造導波路を含んでいる、
請求項1から8までのいずれか1項記載の量子カスケードレーザ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザ、特に量子カスケードレーザ(QCL)に関し、これは赤外線スペクトル領域、すなわち、1mm〜780nmの波長で、特に3〜50μmの中赤外線領域で発光する。
【背景技術】
【0002】
中赤外線スペクトル領域は、基本共鳴を示す多数の分子がこの領域にあるので、センシング用途にとって重要である。量子カスケードレーザ(QCL)は、より頻繁に使用されるようになってきており、このような用途に対する効率的なレーザ源である。例は、発明者Maulini、米国特許第7944959号明細書(US 7 944 959)および発明者Faist、米国特許出願公開第2003/0174751号明細書(US 2003/0 174 751)である。中赤外線スペクトルを生成するQCLレーザは、発明者Vurgaftman、米国特許第8290011号明細書(US 8 290 011)にも示されている。
【0003】
量子カスケードレーザ(QCL)用の導波路を形成するために使用される典型的な横方向ガイド構造は、深くエッチングされたリッジ導波路、浅くエッチングされたリッジ導波路または深く埋め込まれたヘテロ構造(BH)導波路である。高出力および高性能デバイスでは、InP埋め込み層のより高い熱伝導率を提供し、同時に低損失を保証するため、埋め込み型ヘテロ構造の構成が好まれる。発明者Beck、米国特許第6665325号明細書(US 6 665 325)は一例である。
【0004】
より具体的には、FeドープされたInPの場合の電流ブロッキングは、FeドープされたInPとnドープされたInPコンタクト層との間の界面に存在する拡散電位によって保証される。FeはInPの深いドナーレベルとして働くので、電子を捕らえるのにも能動的に役立ち、したがってリーク電流を防止する。拡散電位の大きさを、InP中のFeドーピングを調整することによってコントロールすることができる。残念ながら後者のパラメータは強く成長パラメータに結び付いており、拡散電位は通常、50〜100kV/cmに制限されている。したがって典型的には、高電界で動作するQCLの場合、電流は部分的に絶縁埋め込み層内へ追いたてられる。この効果は、レーザ活性領域に注入される実際の電流を減少させると同時に、熱を放散し、したがってレーザ性能を低下させる。
【0005】
さらに、埋め込み層の内部にFe不純物を導入すると、半導体禁制ギャップの内部に欠陥状態が生じることが周知である(P.B.Klein等著、Phys.Rev.B29,1947(1984):Time−dependent photoluminescence of InP:Fe)。このレベルは、特に3〜4μmのスペクトル領域において吸収を示し、この領域における埋め込み型ヘテロ構造レーザデバイスの製造を妨げる。
【0006】
しかし、このスペクトル領域は、このスペクトル領域内に多くの分子の基本共鳴が存在しているために、分光法およびセンシング用途にとって極めて重要である。本発明の目的の1つは、上述した限界を克服し、このスペクトル領域においても光学損失が低いBHレーザを実現する方法を考案することである。
【0007】
しかし、本発明がこの波長のQCLに限定されておらず、このスペクトル領域にわたるQCLに広く適用可能であり、例えば、多色エミッタを有するQCLであろうが、他のBHレーザであろうが、任意のBHレーザ設計に広く適用可能である、ということを理解されたい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
原則的に、本発明は、深くエッチングされた埋め込み型ヘテロ構造量子カスケードレーザ、すなわちBH QCLの新たな構造を開示する。これは、埋め込み層として、複数の異なる、潜在的にドープされた半導体層の構造に特定の量子バリアを含めることによって実現される。有用なバリア材料には、AlAsおよびInAlAs、InGaAs、InGaAsPおよびInGaSbが含まれる。
【0009】
特定の量子バリアを導入し、埋め込み層を構成する様々な層の数、厚さ、および/またはドーピングを変更することによって、埋め込み層の導電率を調整することができる。高い印加電界の場合には、これを特に低減することができる。
【0010】
本発明の概念は、埋め込み層の主たる構成要素であるドープされていない/真性のInPならびにFeドープされたInPに適用可能である。有利には、埋め込み層内にFe不純物が存在しないことによって、追加の損失を導入することで、レーザ性能に不利益を与えることなく、3〜4μmのスペクトル領域においても高性能BHレーザを製造することが可能になる。
【0011】
本発明の詳細およびさらなる利点は、添付の図面に示されている数個の例の後続の説明において明らかになるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1aは、従来技術の埋め込み型ヘテロ構造設計であり、図1bは、図1aの従来技術設計の概略的なバンド構造である。
図2図2aは、本発明の第1の実施形態であり、図2bは、図2aの実施形態の概略的なバンド構造である。
図3図3aは、本発明の第2の実施形態であり、図3bは、図3aの実施形態の概略的なバンド構造である。
図4】第3の実施形態の概略的なバンド構造である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の説明は、従来技術および本発明のいくつかの実施形態を示す添付図面を参照する。
【0014】
図1aおよび図1bは、従来技術の埋め込み型ヘテロ構造量子カスケードレーザ、BH QCLおよびこの従来技術の構造で使用されるn:InP−InP:Fe−AR接合の概略的なバンド構造を概略的に示す。ARは、通常のように活性領域を表す。
【0015】
典型的な従来技術の構造では、通常はAuより成る背面または裏面電極6を有する、通常はInPである基板5は、通常はInGaAs/AlInAsである、ブロック層または埋め込み層4、すなわちFeドープされたInPまたはFeドープされたInGaAsによって横方向で閉じ込められている活性領域(AR)2を、自身の頂上部に担持している。通常はAuでもある頂上電極3と、通常はInPおよび/またはInAlAsまたはInGaAsのような三元系から構成されるnドープされたクラッド1が、この構造を完成する。
【0016】
nドープされたクラッド1は導電体であるので、側方閉じ込め/ブロック層4内へのリーク電流を有する。埋め込み型ヘテロ構造デバイスのこの大きな問題は、通常、上述のようにInPブロック層内にFe不純物を用いることによって解決される。
【0017】
図1bに、この従来技術設計におけるn:InP−InP:Fe−AR接合の概略的なバンド構造を示す。上述したように、nドープされたInPクラッド1からInPブロック層4に移動する電荷キャリアの数は、後者にFeドーピングを導入することによって低減される。このようにして形成されたn:InP−InP:Fe接合は、n:ドープされたInPクラッド1から(複数の)InP:Feブロック層4へのキャリア漏れをブロックする。したがって、電流が閉じ込められ、複数のキャリアが活性領域(AR)2内に注入される。
【0018】
実際、FeはInP内に深いドナー状態を作り、半導体禁制ギャップの中央にフェルミ準位をピン止めする。nドープされたクラッドと(複数の)Feドープされたブロック層との間の界面における拡散電位は、電子をブロックするバリアとして作用する。残念なことに、この拡散電位は、InPに組み込むことができる最大のFeドーピングに依存し、したがって任意に増加させることはできない。エピタキシャル成長によって組み込むことができる最大のFeは、成長温度によって強く影響される。成長温度を上昇させると、Fe前駆体分子のクラッキングが改善されるため、Feドーピングレベルが高くなる。
【0019】
残念なことに、QCLの成長は、高Feドーピングを得るために必要な温度よりも格段に低い温度で行われ得る。したがって、特に著しくひずんだ構造の場合、活性層の質を劣化させることなく、埋め込み層を成長させる温度を任意に高めることができない。したがって、Feドーピングは、一般に、2〜8×10e16cm−3の値に制限され、この結果、ブロック電界は、50〜100kV/cmになる。これは、一般的に100kV/cmより小さい動作電界を伴う、中赤外線領域の比較的長い波長領域で放出するQCLにおいて電子をブロックするのには十分であるが、短波長QCL、特に動作電界が100kV/cmを超えることがある3〜5μmの領域で発光するレーザにとっては不十分であり、その結果、埋め込み層を通ってリーク電流が流れる。
【0020】
さらに、Feドープされた層の成長は、成長に使用される機械のいわゆる「バックグラウンドドーピング」によって強く影響される。このバックグラウンドドーピングは、成長中に意図せずに添加されたキャリアの数である。InPは例えば、「ドープされずに」成長した場合、わずかにnドープされる傾向を有することが知られている。バックグラウンドドーピングの量は、成長が行われる装置、すなわち成長チャンバの状態に依存する。エピタキシャル再成長の開始時に、漏れ経路が導入されるのを防止するために、追加の予防措置が講じられなければならない。これは、例えば、Journal of Applied Physics(vol.108,no.11,114502頁,2010年)において発表された、O.Ostinelli等著「Growth and characterization of iron−doped semi−insulating InP buffer layer for Al−free GaInP/GaInAs high electron mobility transistors」に記載されている。
【0021】
上述した問題を回避するために、本発明は、AlInAs/AlAs,InGaAs,InGaAsPまたはInGaSb等によって構成された、付加的な量子バリアを導入する。これは、電子のブロックを改善する。これらのバリアは、自身のドーピングとは無関係にキャリア輸送を阻止し、したがって、光学損失を増加させることなく導入可能である。
【0022】
このような量子バリアの数および厚さを変更することによって、埋め込み層内の導電率を調整および/または低減することができ、これは、このようなQCLを、印加された高電界に適したものにする。
【0023】
重要な利点は、このような量子バリアの成長がドーピングから完全に独立しており、したがって成長状態にそれ程敏感でない、ということである。上述したように、埋め込み層の内部のFeドーピングは、レベルFe3+およびFe2+の吸収線の存在のために、3〜5μmのスペクトル領域において損失を導入することがよく知られている。これは、C−H、O−HおよびN−H結合の基本共鳴の存在のために、重要な分光窓における、すなわち、多くの医学およびセンシング用途にとって重要な波長に対する重要な分光窓における高性能レーザの製造を妨げる。
【0024】
本発明により、埋め込み層内の電子をブロックする新たな技術が創出される。特に、「ブロック」量子バリアの数を、レーザの動作電界に従って、かつあらゆるFeドーピングとは無関係に、調整することができる。
【0025】
さらに、本発明による量子バリアの使用は、これがレーザにおける付加的な光学損失をもたらさない領域におけるコンダクタンスをさらに低減するためのFeドーピングの使用と完全に適合する。
【0026】
要約すると、本発明は、埋め込み型ヘテロ構造量子カスケードレーザを製造するための新たな方法を導入する。この方法は、成長状態、特に成長温度によって制限されず、かつこの方法は、所望の中赤外線スペクトル領域において低損失の光導波路を生成することができる。
【0027】
いくつかの実施形態の以下の説明は、特定の材料を例示し、これは、例えば、本発明を実施する際に使用されるべきInPおよびInAlAsであり、InPは真性のもの(i:InP)とドープされたもの、特にFeドープされたもの(InP:Fe)の両方を含む。InGaAs、AlAs、InAs、InGaAsP、InAlGaAs等の他の材料を、本発明の精神および要旨から逸脱することなく、上述した材料の代わりに使用することができる、ということが明らかである。
【0028】
本発明の3つの実施形態を以下に説明する。
【0029】
実施形態A
この実施形態は、3.3μmで発光する埋め込み型ヘテロ構造QCLである。
【0030】
図2aは、埋め込み型ヘテロ構造を閉じ込める2つのバリアより成る層状配列を有するQCLを示す。この構造は、本質的にドープされていないInPの層に埋め込まれた、InAlAsの6つの量子バリアより成る。このヘテロ構造は、本発明による低損失導波路および電子ブロックシーケンスを提供する。その詳細を以下に説明する。
【0031】
通常はAuより成る背面または裏面電極16を有する、ここではInPである基板15は、ヘテロ構造14a/14b/14cによって横方向に閉じ込められたInGaAs/InAlAsの活性領域12をその頂上部で担持する。このヘテロ構造は、異なる層の3つのグループを含む。各層14aは、真性またはドープされていないi:InPから成り、各層14bは半導体、ここではi:InPまたはInGaAsより成る。第3のグループは、AlInAsのバリア層14cである。これらは、黒一色の薄い層として、図2aに示されている。
【0032】
図2aには、通常はAuより成る頂上電極13と、InPのnドープされたクラッド11と、InAlAsまたはInGaAsのような三元系も示されている。バリア14a−cの傾斜した端部18は、エッチングされた領域の周りで起こるエピタキシャル再成長プロセスに起因する。これらは、エッチングされた表面に対して典型的に垂直な成長方向に依存する。
【0033】
ここに、図2aに示されている構造のいくつかの近似的な寸法を挙げる。活性領域AR12は、厚さ約3μm、幅3〜20μmである。バリアヘテロ構造は、活性領域AR12にクラッド11を加えたもののように、約6μmの厚さであり、通常は数μm、ここでは3μmの厚さである。
【0034】
バリア層のヘテロ構造については、以降で詳細に説明する。基板15は、約0.1〜0.5mmの厚さを有している。図2aに示す全体の構造の長さは約2mm、幅は0.5mmである。これらが単なる、近似的な寸法である、ということに留意されたい。これらは、有利な波長および/または装置の意図された用途に依存して変化する。図2aも、すべての図のように、縮尺通りではない。
【0035】
図2bは、図2aに示されているQCLの量子バリアシーケンスの概略的なバンド構造を示している。「i:InP」または「i−InP」は、真性InP、すなわちドープされていないInPを表している、ということに留意されたい。バリア層14cは、位置が変化可能な量子バリア17として機能し、これと並んで、図2aでは6である、このようなバリア14cの数は、光損失を増加させることなく電子輸送を減少させる。実施形態Aでは、図示のバリアを使用することによって、InP:Feを使用しなくてもキャリア漏れを防止することができる、ということを理解することが重要である。
【0036】
以下の表は、量子バリア14a−14cの厚さを含む物理的構造を開示する。これらの量子バリアを導入することにより、ヘテロ構造14a/14b/14cの電気伝導率は、上述したように光学損失を増加させることなく低減される。
【0037】
図1aに示されている従来技術の埋め込み層またはブロック層と、図2aに示されている本発明のブロック層との差は明らかである。ここでは、従来技術のブロック層は全体的に、FeドープされたInP、すなわちInP:Feから構成されているが、本発明による新たなブロック層は、真性/ドープされていないInPを含む複数の異なる層を含んでいる。
【0038】
以下の表は、図2aに示した閉じ込め層状ヘテロ構造の寸法を示す。これは、この実施形態Aに従った量子バリア14a−cを含む。表の下方と図2aとを参照し、「開始」はヘテロ構造の底を定義する、ということに留意されたい。なぜなら、この底は再成長が開始される場所だからである。これは、表に示されたシーケンスが図2aに示されている積層体において逆転されることを意味する。さらに、層14bが、真性InP、すなわち、表に示されているようなi:InPまたは上述したようなInAlAsから成っていてよい。したがって、層14aと14bとは、異なる材料から成っていてよい。最後に、上述したように、図2aは縮尺通りではなく、すなわち、表に示されたサンプルの寸法および関係は、図に反映されていない。バリア層が太字で示されている、ということに留意されたい。
【0039】
【表1】
【0040】
実施形態B
実施形態Bは、3.3μmで発光する別の埋め込み型ヘテロ構造QCLである。その全体の寸法は、実施形態Aの寸法と同様である。
【0041】
しかし、所与の数の量子バリアに対して導電性をさらに低下させるために、InP領域のFeドーピングが部分的に再導入される。しかし、活性領域から遠くにのみ再導入される。この場合、Feドーピングは、電子が注入され、光学モードが関係する活性領域ARの近くではないnドープされたコンタクトとの接合部の近くにのみ存在する。
【0042】
図3aは、本発明によるこの第2の実施形態を示す。この構造は、通常はAuより成る背面または裏面電極26を伴う、ここではInPである基板25と、通常はAuより成る頂上電極23と、InPおよび/または三元系より成るnドープされたクラッド21とを含む。ここでこの三元系は、例えば、InGaAs/InAlAsの活性領域22の頂上部にあるInAlAsまたはInGaAsである。
【0043】
実施形態Aのように、活性領域22は、3つの層グループ24a/24b/24cを有するバリアヘテロ構造によって両側で、横方向で閉じ込められ、このうちの6つの層24cはInAlAsより成るブロック層として用いられる。実施形態Aのように、InAlAsの6つの量子バリア24cが電子ブロックのために使用される。さらに、層24cの傾斜した端部28は、エッチングされた領域の周りで起こるエピタキシャル再成長プロセスに起因する。
【0044】
この実施形態Bは、電気コンタクト23に最も近い5つのInP層24aおよび24bがFe、InP:Feでドープされているという点で、実施形態Aと異なる。実施形態Aに対する別の相違は、示されている実施形態ではそれぞれ300nmの厚さである、FeドープされたInP、InP:Feの析出物と、真性InP、i:InPの析出物より成る二成分の埋め込み層24aである。
【0045】
択一的に、実施形態Bのすべての層24aおよび24bがFeドープされていてよく、すなわちInP:Feから成っていてよく、これにより、Feドープレベルが活性領域22の近傍で低減される。
【0046】
層24bが、実施形態A、図2aと同様に、InPの代わりにInGaAsから成っていてもよい。このようなInGaAs層は、各InP層に関連して上で説明したようにFeドープされているだろう。上述したように、埋め込み層24aおよび24bを閉じ込めるまたは分離する量子バリア24cは、ここでも実施形態Aの場合と同様に、ドープされていないInAlAsより成る。したがって、実施形態Aとの相違は、層24aおよび24bの上述したFeドーピングと、上述した少なくとも1つの二成分埋め込み層24aの提供とにある。
【0047】
図3bは、図3aに示されているQCLの量子バリアシーケンスの概略的なバンド構造を示している。この場合、量子バリア24cとFeドープ層24aおよび24bとの両方がキャリアをブロックするために用いられる。以下の表は、図3aに示された構造のサンプルの寸法を示している。
【0048】
【表2】
【0049】
実施形態C
この実施形態は、第3の埋め込み型ヘテロ構造QCLであり、電子漏れを低減するための高い動作電界を伴う、4.3μmの波長で発光する構造である。
【0050】
この実施形態の基本構造は、実施形態Aの構造と同一である。すなわち、閉じ込め層状バリアヘテロ構造は、InAlAsより成るバリアグループと、InPの第2のグループと、InPまたはInGaAs層の第3のグループとの3つの層のグループを含んでいる。前述の2つの実施形態との違いは、すべてのInPまたはInGaAs層がFeドープされている、ということである。したがって、量子バリアとFeドーピングとの両方が、キャリアをブロックするのに用いられ、これは高電界で動作するQCLにとって重要かつ重大であり得る。
【0051】
以下の表は、この第3の実施形態の構造および寸法を示す。
【0052】
【表3】
【0053】
図4は、本発明によるこの第3のQCLの実施形態の概略的なバンド構造を示す。上記の表に示された構造に対して択一的に、この場合には8つの量子バリアが電子ブロッキングに使用されてよい。
【0054】
本発明の機能および様々な実施形態の上記の詳細な説明は、当業者が本発明の精神および範囲から逸脱することなく、さらなる実装を考案することを可能にする。
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2015年12月7日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(15;25)と、活性領域(12;22)と、クラッド(11;21)と、前記活性領域(12;22)への電流注入を提供する少なくとも2つの電極(13,16;23,26)と、埋め込み型ヘテロ構造導波路(14a〜14c;24a,24b)と、を有する、特に中赤外線領域の波長で発光する半導体量子カスケードレーザであって、
前記ヘテロ構造導波路は、少なくとも1つの第2のIII−V族半導体化合物の複数の埋め込み層(14a,14b;24a,24b)と交互に配置されている第1のIII−V族半導体化合物の複数のバリア層(14c;24c)の積層体を含んでいる、
ことを特徴とする半導体量子カスケードレーザ。
【請求項2】
前記バリア層(14c;24c)の少なくとも1つの層は、AlAs、InAlAs、InGaAs、InGaAsPまたはInGaSbのグループのうちの1つの化合物より成る、
請求項1記載の量子カスケードレーザ。
【請求項3】
前記埋め込み層の少なくとも1つの層(14a;24a)は、第1のIII−V族半導体化合物を含み、
前記埋め込み層の少なくとも1つの別の層(14b;24b)は、第2の、異なるIII−V族半導体化合物を含む、
請求項1または2記載の量子カスケードレーザ。
【請求項4】
前記埋め込み層(14a,14b;24a,24b)の前記第1の半導体化合物は、真性化合物、特にi:InPであり、
前記第2の化合物は、ドープされた化合物、特にFeドープされた化合物、とりわけFeドープされたInPである、
請求項3記載の量子カスケードレーザ。
【請求項5】
前記埋め込み層の少なくとも1つの層(24a)は、真性化合物、特にi:InPと、第2のドープされた化合物、特にFeドープされた化合物、とりわけFeドープされたInPと、の両方を含む、
請求項3記載の量子カスケードレーザ。
【請求項6】
前記埋め込み層(14a,14b;24a,24b)の前記第1の半導体化合物と前記第2の化合物との両方が、ドープされた化合物、特にFeドープされた化合物、とりわけFeドープされたInPである、
請求項3記載の量子カスケードレーザ。
【請求項7】
有利には6である第1の数のバリア層(14c;24c)と、有利には6である第2の数の埋め込み層(14a,14b;24a,24b)と、の埋め込み型ヘテロ構造導波路を含んでおり、前記バリア層は、前記埋め込み層と交互に積層されている、
請求項1から6までのいずれか1項記載の量子カスケードレーザ。
【請求項8】
各バリア層(14c;24c)は、5nm〜200nm、有利には約50nmの厚さであり、
前記埋め込み層は、約50nm〜約3μm、有利には600nmの厚さである、
請求項7記載の量子カスケードレーザ。
【請求項9】
以下の構造
【表1】
の埋め込み型ヘテロ構造導波路を含んでいる、
請求項1から8までのいずれか1項記載の量子カスケードレーザ。
【請求項10】
以下の構造
【表2】
の埋め込み型ヘテロ構造導波路を含んでいる、
請求項1から8までのいずれか1項記載の量子カスケードレーザ。
【請求項11】
以下の構造
【表3】
の埋め込み型ヘテロ構造導波路を含んでいる、
請求項1から8までのいずれか1項記載の量子カスケードレーザ。
【国際調査報告】