(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
FSHの生理活性、黄体形成ホルモン(LH)の生理活性、および絨毛性ゴナドトロピン(CG)の生理活性を増強する卵胞刺激ホルモン(FSH)リガンドであって、抗FSH βサブユニット抗体のパラトープを含むことを特徴とする前記リガンド。
前記リガンドがFab、Fab’、F(ab’)2、Fv、dsFv、scFv、ディアボディ、トリアボディ、テトラボディおよびナノボディからなる群より選択されることを特徴とする、請求項1から3の何れか一項に記載のリガンド。
前記医薬品がメスの哺乳類動物において循環内在性プロゲステロンレベルを上昇させることを目的としているものである、請求項8に記載のリガンドまたは請求項10に記載の複合体。
メスの哺乳類動物において排卵または多排卵を誘導することを目的としている医薬組成物であって、請求項1から7の何れか一項に記載のリガンドおよび/または請求項9に記載の複合体および薬学的に許容可能な担体を含むことを特徴とする前記医薬組成物。
【実施例】
【0046】
実施例1:本発明のリガンドの獲得、およびそれらのリガンドの特徴解析
(1)マウス免疫ストラテジー
注射は全て腹膜内注射でマウス(Balb/c)に行われた。各免疫ストラテジーに5匹のマウスを使用した。
【0047】
CA5抗体およびCH10抗体向けのマウス免疫ストラテジー
完全フロイントアジュバントと共に100μgの精製ヒツジFSHを用いて最初の注射(0日目)を行った。その後、次の順序で数回のブースター注射を行った。
‐21日目および44日目:不完全フロイントアジュバントと100μgの精製ヒツジFSH、
‐134日目および204日目:不完全フロイントアジュバントと50μgのヒツジFSH βサブユニット、
‐217日目、218日目および219日目:アジュバント無しの30μgのヒツジFSH βサブユニット、
‐220日目:融合。
【0048】
(2)アイソタイピング
RD Biotechが販売するFastElysaアイソタイピングキット(参照番号RDB3255)を製造業者の推奨に従って使用してCA5抗体およびCH10抗体の
アイソタイピングを行った。
【0049】
CA5抗体はIgG2aクラスおよびκアイソタイプの免疫グロブリンである。得られた光学密度(OD)値はそれぞれ0.335および0.371であった。
【0050】
CH10抗体はIgMクラスおよびκアイソタイプの免疫グロブリンである。得られた光学密度(OD)値はそれぞれ0.2および0.124であった。
【0051】
(3)シーケンシング
CNCM I−4801ハイブリドーマおよびCNCM I−4802ハイブリドーマによってそれぞれ分泌されるCA5抗体およびCH10抗体の重鎖可変部分(VH)と軽鎖可変部分(VL)のヌクレオチド配列を以下のプロトコルに従ってそれらのメッセンジャーRNA(mRNA)から決定した。
【0052】
Nucleospin(登録商標)RNAキット(マッハライ・ナーゲル、ドイツ)を製造業者の推奨に従って使用して細胞からRNAを抽出した。260nmでの吸光度(A)を測定することによって精製RNAの濃度を推定し、A260nm/A280nm比によって、およびアガロースゲルでの電気泳動後に視覚的にそれらのRNAの品質を推定した。
【0053】
その後、製造業者の推奨に従ってM−MLV酵素(参照番号M1701、プロメガ、米国)を使用する逆転写反応によってoligo−dT
18を使用してそれらのmRNAの相補性DNAを合成した。
【0054】
次のプロトコルに従うポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって第2DNA鎖の合成を行った。次のもの、すなわち反応緩衝液(1×最終濃度)、200μMの各dNTP、300nMのフォワードプライマーとリバースプライマー、1.25UのGoTaqポリメラーゼ(参照番号M3175、プロメガ、米国)を4μlの逆転写反応に加えて50μlの最終体積にする。
【0055】
軽鎖の可変部分の増幅のために9種類の異なるプライマーペア(MKRev2から8+MKC5For)を使用し、重鎖の可変部分には3種類の異なるペア(CA5:VHRev1+VHFor、CH10:VHRev1+MμCFor)を使用した。
【0056】
【表7】
【0057】
【表8】
【0058】
【表9】
【0059】
【表10】
【0060】
使用したPCRプログラムは、95℃で2分間の初期変性に続く30サイクルの95℃で30秒間の変性、47℃で30秒間のハイブリダイゼーションと72℃で1分間の増幅、および最後に72℃で5分間の最終増幅から構成される。得られたPCR産物をQIAquick(登録商標)ゲル抽出キット(参照番号28704、Qiagen GmbH、ドイツ)で脱塩し、その後、細菌の形質転換に使用されるようにpGEMTイージー・ベクタープラスミド(参照番号A1360、プロメガ、米国)とライゲーションした。様々な細菌クローンから抽出されたプラスミドDNAをシークエンス解析に送った(マクロジェン・ヨーロッパ、オランダ)。
【0061】
その後、前記2種類の抗体のVHおよびVLの5’末端ヌクレオチド配列は、前記cDNAのリーダー配列内に特異的なアンカープライマー(Fwプライマー)を設計することを介して決定された。これらのプライマーは、それまでに得られたVL配列およびVH配列とIMGT/V−QUESTソフトウェアのデータベースとの間のアラインメントによる相同性の特定(Brochet et al., Nucl. Acids Res., 36: W503-508, 2008; Giudicelli et al., Cold Spring Harb Protoc., 2011(6): 695-715, 2011) [3、4]、およびIMGT/GENE−DBからの目的のリーダー配列の抽出 (Giudicelli et al., Nucl. Acids Res., 33: D256-261, 2005) [5]の後に設計された。リバース(Rev)プライマーは、前記抗体の各々のそれまでに決定されたVH配列とVL配列のそれぞれの中に設計された。5’部分を得るために使用されたプロトコルは前段落において記載されたプロトコルと同じである。
【0062】
MultAlinソフトウェア (Corpet, Nucl. Acids Res., 16(22): 10881-10890, 1988) [6]を使用して配列のアラインメントからコンセンサスヌクレオチド配列を推定した。IMGT/V−QUESTソフトウェアを使用してポリペプチド配列への書き換えとCDRのアノテーションを行った。結果が表11〜14に示されている。
【0063】
【表11】
【0064】
【表12】
【0065】
【表13】
【0066】
【表14】
【0067】
(4)scFvの構築、作製、および特徴解析
(a)scFv抗体断片の構築
CA5抗体およびCH10抗体に由来する一本鎖可変断片(scFv)の合成遺伝子がATG:バイオシンセティクスGmbH(ドイツ)によって合成された。
【0068】
タンパク質の機能性を確保するペプチド(Gly
4Ser)
3をコードする配列によって連結されており、且つ、scFvの精製を可能にするHis
6ペプチド(Hisタグペプチド)をコードする配列で終わる重鎖可変部分と軽鎖可変部分(CA5については配列番号1/配列番号3;CH10については配列番号5/配列番号7)の融合体から各配列を設計した。発現プラスミドへのそれらの挿入を可能にするため、それらの配列の両脇にPstIとSalIの制限酵素部位が付加された。所望によりHis
6ペプチドの除去を可能にする追加の配列をVLの3’末端とSalI部位との間に付加した。大腸菌での発現向けにコドンを最適化した。scFv合成遺伝子の構築を図によって表現したものが下に詳述されている。
【0069】
【化1】
【0070】
組換え抗体断片の遺伝子と読み枠に合わせて融合されると合成されたタンパク質の細菌ペリプラズムへの輸送を可能にするPelBシグナル配列をLacZ誘導性プロモーターの制御下で含むE.S.Wardら(Ward et al., Nature, 341: 544-546, 1989) [7]によるpSW1発現プラスミド(ATG:バイオシンセティクスGmbH、ドイツ)のPstIとXhoIの酵素部位の間に前記抗体断片を挿入した。ペリプラズムにおいてこのシグナル配列はペプチダーゼによって除去される。
【0071】
それらの構築物の品質のシーケンシングによる検証の後、コンピテントセルにした(Li et al., Afr. J. Biotechnol., 9(50): 8549-8554, 2010) [8]HB2151細菌(T53040、Interchim、フランス)をヒートショックにより形質転換するためにpSW1−CA5プラスミドとpSW1−CH10プラスミドを使用した。
【0072】
【表15】
【0073】
【表16】
【0074】
(b)組換え抗体断片の作製
細菌培養物
50μg/mlのアンピシリンを含む5mlの2×YT培地に前培養物を37℃で一晩にわたって調製した。翌日、500μlのこの前培養物を500mlの同じ培地に接種し、1.4のOD
600nmが得られるまで150RPM、37℃で培養した。0.1mMのIPTGを添加することでscFvの合成を150RPM、16℃で16時間にわったって誘導した。
【0075】
抽出
その培養培地を4500g、4℃で30分間にわたって遠心分離した。調製の後の部分は4℃で実施した。細菌のペリプラズムを抽出するため、沈殿物を10mlのTES(0.2Mトリス、pH8、0.5M EDTA、0.5Mショ糖)に再懸濁し、30分間にわたってインキュベートし、その後で4分の1に希釈された15mlのTESをそれに添加し、続いて30分間にわたってさらにインキュベートした。その細菌抽出物を10000gで30分間にわたって遠心分離した。上清をPBSに対して一晩にわたって透析した。その透析された上清をscFvの精製のためにすぐに処理するか、または使用するまで−20℃で貯蔵した。
【0076】
抗HisタグHRP抗体(参照番号R93125、ライフテクノロジーズ、フランス)を製造業者の使用推奨に従って使用するウエスタンブロッティングによりペリプラズム内にあるscFvの生産量を分析した。
【0077】
精製
前記ペリプラズムを5000g、4℃で20分間にわたって遠心分離した。その上清をHIS−Select(登録商標)ニッケルアフィニティーゲル(シグマ・アルドリッチ、ミズーリ州、米国)と共に4℃で1時間にわたって撹拌しながらインキュベートした。0に近いOD
280nmが得られるまで、0.3MのNaClを含むpH8の0.05Mリン酸ナトリウム緩衝液でそのゲルを洗浄し、その次にそのゲルに添加された20mMのイミダゾールを含む同じ緩衝液で洗浄した。その後で0.3MのNaClと250mMのイミダゾールを含むpH8の0.05Mリン酸ナトリウム緩衝液でscFvを溶出した。その溶離液をPBSに対して一晩にわたって透析した。その溶離液は−20℃で貯蔵されている。
【0078】
品質管理
その精製されたscFvを15%ポリアクリルアミドゲル上での電気泳動によってクマシーブルーによる染色後に分析し、且つ、Sephadex(商標)75 10/300
GLカラム(参照番号17−5174−01、GEヘルスケア、ドイツ)上での排除クロマトグラフィーによって分析した。
【0079】
(5)特異性
前記抗体およびそれらのscFvの特異性をELISA法により検討した。評価される各ホルモンはpH9.6の0.1M炭酸ナトリウム緩衝液中に10μg/mlの濃度で調製され、ELISAプレート上でウェル当たり100μlの割合で分配された。吸着時間は+4℃で18時間であった。洗浄を5回行った後に0.1%ツイーンおよび1%BSAを添加した100μlのPBSでウェルを37℃で45分間にわたって処理し、その後、各抗体またはscFvを100μl/ウェルの割合で分配し、37℃で1時間にわたってインキュベートした。評価される各ホルモンに対して、抗体については10〜250μg/mlの範囲、scFvについては10〜150または200μg/mlの範囲に応じた様々な濃度でそれらの抗体およびscFvを分配した。
【0080】
洗浄を5回行った後にペルオキシダーゼ(HRP)に結合した二次抗体を100μl/ウェルの割合で分配し、37℃で1時間にわたってインキュベートした。その二次抗体は検討するモノクローナル抗体のアイソタイプに応じて抗IgG1 HRP(参照番号115−035−205、ジャクソンイムノリサーチラボラトリーズ社)、抗IgG2a HRP(参照番号115−035−206、ジャクソンラボラトリーズ)または抗IgM HRP(参照番号115−035−075、ジャクソンラボラトリーズ)であった。scFvについては抗HisタグHRP(参照番号R93125、ライフテクノロジーズ、フランス)を使用した。洗浄を5回行った後に100μl/ウェルの割合で分配されたTMBによって酵素活性を発現させた。発現時間は反応速度に応じて外観温度において5分から30分までであった。その反応を1MのH
2SO
4(50μl/ウェル)によって停止させた後、ELISAプレート用の分光光度計を使用してその発色反応の強度(光学密度)を測定した。
【0081】
CA5抗体およびCH10抗体およびそれらのscFvについて、100%基準値であると見なされるヒツジFSH(oFSH)で得られた値について交差反応のパーセンテージを計算した。その交差反応のパーセンテージは前記抗体またはscFvの濃度範囲で得られた用量応答曲線を比較することにより従来通りに算出された。基準ホルモンで得られた曲線に基づき、
‐Aが最大光学密度の50%(ED50)を生じる濃度であるとする。別のホルモンで得られた曲線に基づき、
‐BがAを規定するために使用された光学密度値と同じ光学密度値に対応する濃度である
とする。
交差反応のパーセンテージはA割るBかける100、つまり[(A/B)×100]に等しい。
【0082】
CA5抗体およびそのscFvの特異性
表17はヒツジFSHのαサブユニットとβサブユニット(s.u.)およびヒトFSHのβサブユニットとのCA5抗体の交差反応のパーセンテージを示している。
【0083】
【表17】
【0084】
CA5抗体は非常にわずかにしかヒツジαサブユニットを認識しないが、ヒツジFSHのβサブユニットを強く(80%)認識し、その抗体は、強さがやや劣るが(50%)、ヒトFSHのβサブユニットとも交差反応する。その抗体の特異性は抗FSH βサブユニットである。
【0085】
表18はブタFSH(pFSH)および様々なヒトFSHとのCA5およびCA5 scFvの交差反応のパーセンテージを示している。
【0086】
【表18】
【0087】
CA5抗体はブタFSHおよびヒトFSHであるゴナールFの強い認識を示している。その抗体は他のヒトFSHとも61%と76%の間で大いに交差反応する。CA5抗体は二量体型の検査されたFSHをより良好に認識し、立体構造エピトープに対して特異的であることを示す傾向がある。
【0088】
CA5 scFvはpFSH(61%)を大いに認識し、それより弱くhFSH(フォスティモン)とhMG(メノピュール)を認識する。他の2種類のヒトFSHとの交差反応はあまりに弱い結合のために測定不可能(ND)である。したがって、CA5 scFvの結合はちょうど完全抗体の結合のように、おそらくはELISAプレートのプラスチックへの吸着の間に変化する、前記ホルモンの立体構造に依存しているように見える。
【0089】
CA5 scFvの特異性をブタLH(pLH)、ヒツジLH(oLH)、ウシLH(bLH)、eCG、およびhCGであるコルロンとEndo5000に関して評価した。結果が表19に示されている。
【0090】
【表19】
【0091】
CA5 scFvの結合は動物LHに関して高く、交差反応は35%と40%の間である。逆に、hCGであるコルロンの認識だけが弱い(10%)。吸着されている他の2種類のhCGに対するあまりに弱い結合のため、交差反応を定量することができなかった。CA5およびそのscFvのインビトロおよびインビボで得られたhCG活性に対する生物学的作用(実施例2および実施例3の結果を参照されたい)を考慮すると、立体構造エピトープに対して特異的であるという仮説がこれらの結果から補強される。
【0092】
この仮説は、変性条件または非変性条件の下に5%ポリアクリルアミドゲル上を移動したoFSHに対してCA5抗体をインキュベートすることによるウエスタンブロッティングより得られた結果によって補強される。β−oFSHバンドは非変性条件の下でのみ認識され、有意なシグナルを生じた。変性条件の下で移動したoFSHではシグナルが観察されなかった。
【0093】
検討した様々なFSH、LHおよびCGに対するscFvの解離定数Kdの推定値が、GraphPad Prism(GraphPadソフトウェア社、サンディエゴ、カリフォルニア州、米国、バージョン5)上で飽和結合モデル(「飽和結合実験モデル」、GraphPad PRISMソフトウェア)内の「1サイト特異的結合」機能を使用して計算された。得られた様々な値が表20および表21に示されている。
【0094】
【表20】
【0095】
【表21】
【0096】
このように推定された解離定数Kdの比較により、ヒツジおよびブタのFSHに対するCA5 scFvのより高い親和性がそれぞれ0.54μMおよび1.24μMという値によって示されている。組換えヒトFSHであるゴナールF(1.43μMのKd)を例外として、CA5 scFvは前記ヒトFSHに対して低めの親和性を示している(2.03〜2.67μMのKd)。oFSHおよびpFSHと対照的に、CA5 scFvは
ヒツジLHおよびブタLHに関して中程度の親和性(それぞれ1.95μMおよび2.47μMのKd)を示している。hCGおよびeCGに関して推定されたKd(3.14〜4.07μMのKd)はこれらのホルモンに対するCA5 scFvの低めの親和性を示している。
【0097】
CH10抗体およびそのscFvの特異性
表22はヒツジFSHのαサブユニットとβサブユニット(s.u.)およびヒトFSHのβサブユニットとのCH10抗体の交差反応のパーセンテージを示している。
【0098】
【表22】
【0099】
CH10抗体はヒツジFSHのβサブユニットを優先的に認識し(88%)、ヒトFSHのβサブユニットおよびヒツジのαサブユニットを2倍弱く認識する(40%および43%)。これらの結果によると、CH10の特異性は抗FSH βサブユニットであり、優先的には抗oFSH βサブユニットである。その抗体は、CA5抗体と異なり、有意ではあるが低めの程度でヒツジのαサブユニットを認識する。これらの結果の全てより、エピトープに主にβが含まれるがαも含まれるという仮説、例えばエピトープがそれらの2つのサブユニットの連結領域上にあるという仮説を導き出すことができる。
【0100】
表23はブタFSH(pFSH)および様々なヒトFSHで得られたCH10およびCH10 scFvの交差反応のパーセンテージを示している。
【0101】
【表23】
【0102】
CH10抗体およびそのscFvは動物FSHの強い認識を示しており、且つ、ヒトFSHについて30〜100%の範囲の交差反応を示している。
【0103】
CH10 scFvの特異性をブタLH(pLH)、ヒツジLH(oLH)、ウシLH(bLH)、eCG、およびhCGであるコルロンとEndo5000に関して評価した。結果が表24に示されている。
【0104】
【表24】
【0105】
動物LHに関するCH10 scFvの結合は高く、交差反応は52%と68%の間である。逆に、吸着されているhCGおよびeCGに対するあまりに弱い結合のため、交差反応を定量することができなかった。CH10およびそのscFvのインビトロおよびインビボで得られたhCGであるコルロンとEndo5000の活性に対する生物学的作用(実施例2および実施例3の結果を参照されたい)を考慮すると、立体構造エピトープに対して特異的であるという仮説がこれらの結果から補強される。
【0106】
検討した様々なFSH、LHおよびCGに対するCH10 scFvの解離定数Kdの推定値が、GraphPad Prism(GraphPadソフトウェア社、サンディエゴ、カリフォルニア州、米国、バージョン5)上で飽和結合モデル(「飽和結合実験モデル」、GraphPad PRISMソフトウェア)内の「1サイト特異的結合」機能を使用して計算された。得られた値が表25および表26に示されている。
【0107】
【表25】
【0108】
【表26】
【0109】
このように推定された解離定数Kdはヒツジとブタの両方のFSH(7.51μMおよび5.22μMのKd)ならびにヒトFSHであるゴナールFとフォスティモンおよびhMGメノピュール(それぞれ1.82μM、1.59μMおよび7.36μMのKd)に対するCH10 scFvの親和性を示している。hCGsおよびeCGに関して推定されたKd(1.47〜2.09μMのKd)はFSHと比較して良好なこれらのホルモンに対するCH10 scFvの親和性を示している。
【0110】
実施例2:FSHの生理活性に対する本発明のリガンドの増強作用のインビトロ測定
FSHの生理活性に対する本発明のリガンドの増強作用の証明が、FSH単独か、またはFSH/モノクローナル抗体(MAb)複合体のどちらかで刺激された様々な細胞種または細胞株を用いて得られた生物学的応答を比較することにより行われた。
【0111】
それらの事例の各々において、得られた用量応答曲線の比較により、複合体化されたFSHの生物活性に対する前記MAbのインビトロ増強作用を定量することが可能になった。Prismソフトウェア(GraphPadソフトウェア社、サンディエゴ、カリフォルニア州、米国、バージョン5)を使用してそれらの結果の統計分析を行った。
【0112】
(1)ウシ顆粒膜細胞の初代培養物について
最初にヒツジFSH(oFSH)の生理活性に対するCA5 MAbおよびCH10 MAbの増強作用の特徴がウシFSH受容体を内在的に発現するウシ顆粒膜細胞上で解析された。
【0113】
CA5抗体またはCH10抗体の最終濃度が0.1μg/mlであるハイブリドーマ上清を3ng/mlから25ng/mlまでの範囲のヒツジまたはヒトのFSHと37℃で30分間にわたってインキュベートした。
【0114】
Chopineauら(Mol. Cell Endocrinol., 92(2): 229-39, 1993)[8]およびWehbiら(Endocrinology, 151(6): 2788-2799, 2010)[9]に記載のプロトコルに従ってウシ卵巣に対する卵巣穿刺により2〜6mmまでの範囲の直径を有する卵胞からウシ顆粒膜細胞を採取した。McCoyの5A培地(Lonza、ベルギー、参照番号BE12−688F)に懸濁状態の0.5ml当たり80000細胞の割合で調製したウシ顆粒膜細胞を3ng/mlから25ng/mlまでの範囲のFSH単独か、または上のプロトコルに従ってモノクローナル抗体と予め複合体化されたものによって48μg/mlのIBMX(シグマ・アルドリッチ、フランス、参照番号I5879)の存在下で37℃において3時間にわたって撹拌しながら刺激した。測定された生物学的応答はcAMP分泌であった。
【0115】
遠心分離後、ELISAキット(バイオメディカルテクノロジーズ社、マサチューセッツ州、米国、BT−730)を使用して、産生したcAMPを培養上清中にアッセイした。
【0116】
結果が
図1に示されている。
【0117】
それらの結果はヒツジFSHの活性に対するCA5についての1.3倍の、およびCH10についての5.5倍のcAMP分泌の増強を示している。二元配置分散分析(二元配置ANOVA、GraphPad PRISMソフトウェア)による統計分析によってCA5についてのp<0.05(*)からCH10についてのp<0.01(**)およびp<0.001(***)までの範囲の有意な効果が示されている。
【0118】
(2)ヒトFSH受容体が安定的に形質移入されたHEK293細胞株について
様々な種のFSHに対する前記MAbの増強作用がヒトFSH受容体を安定的に発現するHEK293細胞上で測定された。この系により、37℃で1時間にわたるFSH単独か、またはFSH/MAb複合体による刺激の後のFSH受容体の活性化に続くcAMP産生を測定することが可能になった。
【0119】
このために60000個の細胞を96ウェルプレート(ベクトンディッキンソン、ニュージャージー州、米国、参照番号353072)のウェルに分配し、10%のFCS(Lonza、ベルギー、参照番号DE14−801F)、1%のペニシリン/ストレプトマイシン(シグマ・アルドリッチ、フランス、参照番号P−4333)および400μg/mlのG418(シグマ・アルドリッチ、フランス、参照番号A1720)を含む100μlのMEM培地(Ozyme、フランス、参照番号BE12−611F)の中において湿潤環境中、5%CO2、37℃で24時間にわたってそれらの細胞を培養した。MEM
培地中で2時間の休止の後、それらの細胞を37℃で1時間にわたって刺激した。培養上清を回収し、ELISAキット(バイオメディカルテクノロジーズ社、マサチューセッツ州、米国、BT−730)を使用してアッセイした。結果はエンドポイントにおけるcAMPの分泌量を表している。Prismソフトウェア(GraphPadソフトウェア社、サンディエゴ、カリフォルニア州、米国、バージョン5)を使用してそれらの結果を分析した。
【0120】
図2はヒトFSH受容体が安定的に形質移入されたHEK293細胞上でのヒツジFSH(oFSH)の生理活性に対するCA5モノクローナル抗体およびCH10モノクローナル抗体のインビトロでの増強作用を表している。このためにそれらの細胞を3ng/mlから32.5ng/mlまでの範囲のヒツジFSHか、またはそれらの細胞の刺激の前に前記モノクローナル抗体(0.1μg/mlの最終濃度)と37℃で30分間にわたって予めインキュベートされた同じレンジポイントのFSHのどちらかで刺激した。二元配置分散分析(二元配置ANOVA、GraphPad PRISMソフトウェア)により、FSH単独か、またはFSH/モノクローナル抗体複合体を用いて得られた用量応答曲線を比較することが可能になった。CA5抗体はoFSHの活性に対して160%から200%までの範囲の増強作用を示した。この作用は32.5ng/mlの濃度のoFSHに対して有意である(p<0.05)。CH10抗体は、3ng/mlの点の225%(p<0.01)から10ng/mlおよび33ng/mlの点のそれぞれ260%(p<0.001)までにわたり、検査した濃度の全てについてoFSHに対してより高い増強作用を及ぼしている。
【0121】
(3)ヒトFSH受容体とGlosensor(登録商標)システムが安定的に形質移入されたHEK293細胞株について
様々な種のFSHに対する前記MAbの増強作用が、ヒトFSH受容体およびGloSensor(商標)ベクター(プロメガ、フランス)を安定的に発現するHEK293細胞上でリアルタイムに測定された。この細胞系により、アゴニスト(FSHのみ、またはFSH/モノクローナル抗体複合体)でのFSH受容体の刺激の後のcAMP産生をリアルタイムでモニターすることが可能になった。GloSensor(商標)タンパク質へのcAMPの結合の後、GloSensor(商標)基質(プロメガ、フランス、参照番号E1291)が加水分解され、それによりPolarStar Optimaリーダー(BMG Labtech、ドイツ)によって測定され、且つ、RLU(相対発光単位)で表される発光が放射された。この安定株はフランス、37380、ヌジリー、ヴァル・ド・ロワールにあるINRA(フランス国立農学研究所)センターのシグナル伝達システムのバイオロジーおよびバイオインフォマティクスチームによって開発され、これらのアッセイのために利用可能とさせてもらった。
【0122】
このためにHEK293細胞を透明底白色96ウェルマイクロプレート(Dominique Dutscher、フランス、参照番号655903)のウェル当たり80000細胞の割合で、10%のFCS(Lonza、ベルギー、参照番号DE14−801F)、1%のペニシリン/ストレプトマイシン(シグマ・アルドリッチ、フランス、参照番号P−4333)、200μg/mlのハイグロマイシンB(ライフテクノロジーズ(商標)、フランス、参照番号10687010)および400μg/mlのG418(シグマ・アルドリッチ、フランス、参照番号A1720)を添加された100μlのMEM培地(Ozyme、フランス、参照番号BE12−611F)の中で一晩にわたって培養した。暗所での外界温度において2時間にわたる1%のBSA(PAA、フランス、参照番号K45012)が添加されており、且つ、4%のGloSensor(商標)基質を含む100μlのMEM培地の中での2時間の休止の後に細胞を含むそのプレートをPolarStar Optimaリーダーに配置し、基底レベルの発光を測定するために5分間にわたって最初の読取りを行った。その後、そのプレートをそのリーダーから取り出し
、表示されている濃度を得るために11μlのリガンド(FSHのみ、またはFSH/モノクローナル抗体複合体)をそのプレートに添加した。その後、放射される発光を約1時間30分にわたって測定した。
【0123】
Prismソフトウェア(GraphPad Prismソフトウェア社、サンディエゴ、カリフォルニア州、米国、バージョン5)を使用して、得られた結果を分析した。非線形関数「log(アゴニスト)対応答」を使用してFSH濃度の関数としての応答をプロットした。これによってFSH単独、および前記モノクローナル抗体と複合体化されたFSHのEC50を特徴解析し、且つ、比較することが可能になった。各例について、二本の曲線をそれらの全体にわたって比較することにより、FSH/増強抗体複合体の有意な効果を二元配置分散分析(二元配置ANOVA、GraphPad PRISMソフトウェア)によって評価した。
【0124】
CA5モノクローナル抗体
図3は、単独の、またはCA5抗体と複合体化されたヒツジFSHの0nM、0.1nM、0.3nM、1nMおよび3nMの濃度で得られた、時間(分)の関数として相対発光単位で表されるcAMP産生カイネティクス曲線を示している。FSHを含まない単独の前記抗体によって「刺激」された細胞は応答を示さず、発光シグナルが基底レベルに留まっていることが観察されている(曲線3A)。単独のCA5抗体はHEK293細胞が発現するヒトFSH受容体に対してアゴニスト作用もアンタゴニスト作用も及ぼしていない。逆に、oFSHと複合体化されたCA5モノクローナル抗体(6nMの最終濃度)は前記ホルモンの刺激活性を非常に大幅に、且つ、顕著に増強している。oFSHの0.1nMおよび0.3nMの濃度における最大細胞応答の350%および330%の増加(曲線BおよびC)、およびoFSHの1nMおよび3nMの濃度におけるそれぞれ230%および140%の増加(曲線DおよびE)がこのように観察されている。細胞応答の飽和およびこの事例では11000RLUでの発光シグナルの飽和のため、oFSHの濃度が高くなるほど(1nMおよび3nM)増強作用の大きさが小さくなる。GraphPad
Prismによって測定されたEC50値はoFSHについては2.36×10-
9Mであり、且つ、oFSH/CA5複合体については2.83×10
-10Mであり、前記FSHがCA5抗体と複合体化したときの1単位のLogEC50の増加(10
-8.6から10-
9.54まで)を反映している。oFSH/CA5と比較したoFSHのそれらの二本の曲線の間の差は検査されたoFSH用量の全てについて非常に有意である(p<0.001)。
【0125】
ブタFSHに対して測定されたCA5抗体の増強作用が
図4によって示されている。pFSHの0.03nMにおける最大応答の190%の増加が、前記pFSHがCA5抗体(6nMの最終濃度)と複合体化された時に観察されているが(曲線A)、この増加は有意ではない。その増強作用はpFSHの0.1nMの濃度において250%に達し(曲線B)、且つ、有意である(p<0.01)。CA5と複合体化した0.03nMのpFSHで得られた応答レベルは0.1nMのpFSH単独で得られた応答レベルと等しく(それぞれ500RLU対585RLU)、これは0.03nMのpFSH/CA5複合体によって3.3倍高い濃度(0.1nM;すなわち0.5Log)の単独のpFSHと同じ大きさの応答が誘導されることを意味する。
【0126】
最後にCA5の増強作用を組換えヒトFSH(ゴナールF、セローノ・ラボラトリー)の活性に対して検討した。
図5は、単独のまたはCA5抗体(6nM)と複合体化された0.03nM、0.1nM、0.2nM、0.3nMの濃度のFSHを用いる刺激の間に得られた、時間(分)の関数として相対発光単位で表されるcAMP産生カイネティクス曲線を示している。前記細胞系の飽和(最大10530RLU)のため、hFSHの0.03nMの濃度で235%の増強作用が観察され、0.1nMおよび0.2nMのhFS
Hで200%の増強作用が観察され、そして最も高い0.3nMのhFSHの濃度で170%の増強作用が観察された。GraphPad PrismによるEC50の計算によってhFSHについては5.86×10
-10Mの値、およびhFSH/CA5複合体については1.36×10
-10Mの値が示された。これは前記FSHがCA5抗体と複合体化したときの0.63のLogEC50の増加(10
-9.23から10
-9.86まで)を反映している。CA5 scFvの増強作用も0.01nMのhFSHの生理活性に対して検討した。36nMのscFv濃度で160%という有意な増加(p<0.01)が得られた(
図5)。この増加は二価のCA5完全抗体の増加と類似していた。この結果はその一価断片がCA5抗体と同じFSH活性増強特性を有していることを意味している。
【0127】
ヒトFSHの生理活性に対するCA5抗体の増強作用は有意ではあるが(p<001)、oFSHのEC50とoFSH/CA5複合体のEC50との間でLog単位の増加が得られたヒツジFSHの生理活性に対するものよりも依然として小さいままである。
【0128】
CH10モノクローナル抗体
CH10抗体の調節作用をヒツジFSH(oFSH)およびヒトFSH(hFSH)(ゴナールF、セローノ・ラボラトリー)に対して検討した。
【0129】
図6は0.01nM、0.03nM、および0.1nMの濃度で調製されたoFSHの生理活性に対するCH10抗体(10nM)の増強作用を示している。低い濃度(0.01nMおよび0.03nM)に対しては細胞応答の185%の増加がoFSH/CH10複合体で得られている(曲線AおよびB)。0.1nMのoFSH濃度ではその増加はoFSH/CH10複合体で312%である(曲線C)。これらの増加は非常に有意である(p<0.001)。
【0130】
CH10(1.3nM)の増強作用を0.1nMから3nMまでの濃度で調製されたヒトFSHに対して測定した(
図7AおよびB)。140%から150%までの範囲の中程度だが有意な(p<0.001)増加が観察された。GraphPad Prismによって測定されたEC50値はhFSHについては2.85×10
−10Mであり、且つ、hFSH/CH10複合体については3.17×10
−10Mであった(
図7C)。
【0131】
CH10の増強作用はヒツジの動物FSHに対してより特異的に発揮されている。ヒトFSHに対しては弱いCH10抗体の作用が観察された。
【0132】
実施例3:ラットモデルにおけるFSHおよびLH/CGの生理活性に対する本発明のリガンドの増強作用のインビボ測定
インビトロで特徴解析された後、各モノクローナル抗体の増強作用をFSHの生理活性に対するそれらの抗体の作用についてはメスのラットにおいて、およびそれらが同じく認識するLH/CGの生理活性に対するそれらの抗体の作用についてはオスのラットにおいてインビボで特徴解析した。
【0133】
FSH生理活性を測定するため、使用したプロトコルはSteelmanとPohley(Steelman SL, Pohley FM. Endocrinology, 53: 604-616. 1953) [12]によって記載された生物学的アッセイのプロトコルであった。LH生理活性を測定するため、使用したプロトコルはScobeyら(Scobey et al., Reprod. Biol. Endocr. 3: 61, 2005) [13]によって記載されたアッセイのプロトコルであった。
【0134】
ヒツジおよびヒトのFSHを使用してFSH活性に対するそれらの抗体の作用を評価した。LH活性に対するそれらの抗体の作用をhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)の2種
類の調製物に対して評価した。
【0135】
GraphPad Prismソフトウェア(GraphPadソフトウェア社、サンディエゴ、カリフォルニア州、米国、バージョン5)を使用して統計分析を行った。結果は5匹の動物からなるバッチに対して行われた実験に関連するものであったので、Dunn補正付きのノンパラメトリック一元分散分析(クラスカル・ウォリス検定)、またはノンパラメトリックt検定(マン・ホイットニー検定)を適用した。数回のバイオアッセイをまとめたことによって数が大きくなった(n>30)ものに関する結果についてはボンフェローニ補正付きのパラメトリック検定(対応のないスチューデントのt検定)を適用した。
【0136】
(1)メスのラットにおけるFSHの生理活性に対する抗体の増強作用
CA5抗体およびCH10抗体およびそれらのscFvの増強作用をヒツジFSHに対して検討し、且つ、ヒトの生殖において使用されているヒトFSHの様々な調製物であるゴナールFとピュレゴン(それぞれメルクセローノ・ラボラトリーとメルクシェリングプラウ・ラボラトリーに由来する組換えFSH)、およびフォスティモンとメノピュール(それぞれラボラトワール・ジェニエーブルとメルクシェリングプラウによって販売されている抽出型FSH)に対して検討した。
【0137】
SteelmanとPohleyのプロトコルに記載されているように、21日齢の未成熟なメスのラットが、一定量のhCG(3.5IU)を含み、ヒトFSH(ゴナールF、ピュレゴン、フォスティモン、メノピュール)については0.5〜1.5IUまでの範囲で、またはヒツジFSH(抽出型ホルモン)については0.5〜2μgまでの範囲で変えることができる量のFSHを添加された100μlのhCGとFSHの混合物からなる注射を連続3日間にわたって朝と晩に2回受けた。うなじに皮下注射を行った。各実験は最小でも4つのバッチから構成された。1つのバッチは生理食塩水(血清Φ)で処置され、1つのバッチは抗体またはscFv単独で処置され、1つのバッチはhCG+FSH混合物で処置され、1つのバッチは2μgの精製されたscFv抗体を添加したhCG+FSH混合物で処置された。
【0138】
ホルモン/抗体またはscFvの複合体を用いる処置の場合、区別なく注射の前にそのFSH+抗体混合物を37℃または外界温度で20分間にわたってプレインキュベートし、その後でhCGに添加した。そのhCGを前記複合体の保温時に区別なくFSHと混合することができる。
【0139】
4日目にそれらのメスのラットの体重を測定し、それらの卵巣を取り出し、解剖し、そしてそれらの重量を量った。結果が体重100グラム当たりのミリグラム単位の卵巣として表されている。卵巣重量の増加は注射した生理活性FSHの量に比例している。これにより、単独で、または抗体との複合体として注射された同量のホルモンの生理活性を定量し、比較することができる。
【0140】
単独で、または前記抗体もしくはscFvと複合体化されて注射されたFSHの生理活性の比較により、応答の差異を測定し、そうして前記抗体またはそのscFvの増強作用を定量することが可能になる。
【0141】
CA5抗体およびそのscFvの作用
図8AはヒツジFSHの生理活性に対するCA5抗体の作用の代表例を示している。各バッチは5匹のメスから構成された。単独で注射されたCA5抗体で処置されたバッチは生理食塩水を受領した対照バッチのメスと同じ平均卵巣重量を示した(それぞれ25.6mgと29.15mg)。従来のホルモン処理(3.5IUのhCG+0.5μgのoF
SH)を受けたバッチは対照バッチよりも有意に高い(p<0.05)85.7mgという平均卵巣重量を生じた。CA5抗体と予め複合体化されたヒツジFSHで処置されたバッチは198mgという平均重量を、すなわち従来のホルモン処理を受けたバッチと比較して非常に有意な(p<0.0001)FSH生理活性の231%の増加を示した。ヒツジFSHの活性に対するCA5のインビボ増強作用を数回の実験において分析した。それらの実験の結果の全てが表27に示されている。3回の実験について記録された前記ホルモン/CA5複合体を用いる刺激の後の平均卵巣重量の増加は非常に有意である(p<0.0001)。
【0142】
【表27】
【0143】
ヒトFSHに対するCA5の作用も、数を多くして数回の実験の中で分析した。それらの結果が下の表28に示されている。
【0144】
【表28】
【0145】
hFSH ゴナールF/CA5複合体で処置されたメスにおいて記録された平均卵巣重量の増加は173%であり、卵巣の平均重量が従来の処置を受けたメスにおける73.93mgから前記ホルモン/CA5複合体で処置されたメスにおける128.3mgへ推移している。この差は非常に有意である(p<0.0001、対応のないt検定)。
【0146】
最後に前記増強作用をヒトFSHの他の2種類の調製物(ピュレゴンおよびフォスティモン)について検討した。
図8Bに示されている結果が代表例である。153%という有意な増加がヒトFSHであるピュレゴンの活性(p<0.05)について記録され、142%という有意な増加がヒトFSHであるフォスティモンの活性について記録された(NS)。対照的に、ヒトFSHであるゴナールFの活性について記録された増加はこの実験では179%であった(p<0.05)。
【0147】
結論として、CA5抗体はヒツジFSHに対して大きな増強作用を及ぼし、様々な医薬調製物に由来するヒトFSHの活性に対しても大きい増強作用を及ぼす。
【0148】
CA5 scFvの効果を完全抗体と同じプロトコルの中で検討した。
図9Aは得られた結果を示している。ヒトFSHであるゴナールFの活性に対する同一の増強作用が前記完全抗体またはそのscFvで得られ、その作用は有意であった(p<0.05)。
【0149】
前記ホルモン/scFv混合物の注射の様々な方法を従来のプロトコル(皮下注射)と評価および比較した。したがって、前記ホルモン混合物の腹膜内注射を前記ホルモン混合物の腹膜内注射とそれに続き15分後に行った2つ目の時間遅延型のCA5 scFvの注射と比較することを目的としたバイオアッセイ(
図9A)を実施した。この事例では前記ホルモン/scFv複合体で処置されたメスにおいて146%の増加が得られ、平均卵巣重量が61mg(hCG+hFSH ゴナールFのバッチ)から89mg(scFvとその後のhCG+hFSH ゴナールFのバッチ)へ推移した。これらの結果は、CA5
scFvが前記ホルモンから独立して、且つ、時間をおいて単独で注射されてもそのscFvの増強作用をインビボで立ち上げることができることを示しているので重要である。前記ホルモン/scFv複合体は処置動物においてインビボで形成される可能性がある。
【0150】
CA5 scFvの増強作用をヒトFSHであるフォスティモンとピュレゴンの活性についても検討した(
図9B)。140%という有意な増加がFSHであるピュレゴンの活性について得られ(p<0.05)、126%という有意ではない増加がFSHであるフォスティモンの活性について得られた(NS)。
【0151】
CH10抗体およびそのscFvの作用
ヒツジFSHの活性に対するCH10のインビボ増強作用を数回の実験の間に分析した。それらの実験の結果の全てが
図10Aに示されている。hCG+oFSH混合物で処置されたメスのラットと前記ホルモン/CH10複合体で処置されたメスのラットとの間での応答についての3回の実験の比較から145%という有意な増加(p<0.01)が示されている。記録された平均卵巣重量は前記ホルモン/CH10複合体で処置されたメスのラット(n=13)において100gの体重当たり126.6±9.6mgであるのに対し、hCG+oFSH混合物で処置されたメス(n=12)では87.55±3.724mgであった。卵巣応答について単独のCH10抗体の効果は観察されなかった。
【0152】
ヒトFSHであるゴナールFに対するCH10の増強作用も、数を多くして数回の実験の中で分析した。結果が下の表29および
図10Bに示されている。
【0153】
【表29】
【0154】
卵巣の平均重量の170%の増加がゴナールF/CH10複合体で処置されたメスにおいて記録された。この差は非常に有意である(p<0.0001、対応のないt検定)。
【0155】
CH10の増強作用をヒトFSHであるピュレゴンとフォスティモンについても調べた(
図11A)。それぞれ145%および174%という有意な増加が得られた(p<0.05)。
図11Bは従来の皮下注射および時間遅延型の腹膜内注射によるhFSH ゴナールF/CH10 scFv複合体の効果を示している。160%という有意な増加(p<0.05)が従来の注射によって得られ、有意ではないが、150%の増加がCH10
scFvとhFSHの独立した腹膜内注射によって得られた。CH10 scFvを前記ホルモンと別々に注射するにしても、または前記ホルモンとプレインキュベートして注射するにしても、そのscFvの増強作用はこのようにインビボで立ち上げられ得る。
【0156】
ラットにおけるLH/CGの生理活性に対する抗体の増強作用
ヒツジLHは非常に高価であるため、これらの生物学的アッセイは、容易に入手でき、非常に純粋であり、且つ、安価な形態であるhCGを用いて実施された。前記抗体の作用を抽出型ヒトhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)の2種類の調製物、すなわち一方の生殖補助医療処置の背景でのヒトの生殖に使用されるENDO5000(シェリングプラウ・ラボラトリー)と他方の獣医学で使用されるコルロン(MSDラボラトリー)に対して検討した。
【0157】
Scobeyら[13]のプロトコルにしたがって、アンドロゲン依存的に発生する精嚢の重量増に関してLHまたはhCGの生理活性を定量した。その重量はhCGの活性と比例して変化し、したがってそれにより、単独で、または試験抗体と複合体化されて注射されたホルモンの生物活性を定量および比較することが可能になる。1.5IUのhCG、または37℃で20分間にわたってプレインキュベートされた1.5IUのhCGと2μgの抗体の混合物の100μlを4日間にわたって一日一回皮下注射した25日齢の若いラットを使用して前記プロトコルを実施した。5日目にそれらのラットの体重を測定し、その後で殺処理した。それらのラットの精嚢(SV)を取り出し、解剖し、そしてそれらの重量を量った。様々なバッチを用いて得られた結果を比較し、まとめるために精嚢重量が100gの体重当たりのmgとして表されている。各実験において、5匹のラットからなるバッチに対して前記条件の各々を検査した。同じ実験を数回繰り返した。
【0158】
hCGの2種類の調製物、すなわちコルロンおよびEndo5000に対するCA5の作用が
図12に示されている。ヒストグラムAは5匹のラットからなる6つのバッチに対して行われたバイオアッセイの代表例である。hCG単独で処置されたバッチと比較した精嚢重量の196%の増加を含む非常に有意な増強作用(p<0.0001、クラスタル・ウォリス検定)が、hCGコルロン/CA5複合体を用いて得られた。193%の重量増加を含む有意効果もhCGENDO5000/CA5複合体を用いて得られた(p<0.01)。CA5抗体単独で処置されたバッチは生理食塩水で処置された対照動物と比較して精嚢重量の変化を示しておらず、単独のその抗体は前記複合体と対照的に標的器官に対して効果を発揮しないことが観察されている。
【0159】
それらの2種類のhCGを用いたこのバイオアッセイを繰り返している間に得られた結果をまとめたものから前記ホルモン/CA5複合体の非常に有意な増強作用(p<0.0001、対応のないt検定)が確認される。すなわち、
‐それぞれ53匹および56匹という数の動物について、SVの平均重量はhCGであるコルロンで処置されたラットでは28.8mg/100gであり、且つ、前記複合体で処置されたラットでは46.7mg/100gであり(162%の増加)(
図12B)、
‐それぞれ26匹および30匹という数の動物について、SVの平均重量はhCGであるENDO5000で処置されたラットでは24.64mg/100gであり、且つ、前記複合体で処置されたラットでは48.13mg/100gであった(195%の増加)(
図12C)。
【0160】
CH10抗体は、hCGであるコルロンおよびhCGであるENDO5000に対してもラットにおいてインビボで有意な増強作用を示した。
【0161】
図13Aは5匹のラットからなる6つのバッチに対して行われたバイオアッセイの代表的な事例を示している。hCG単独で処置されたバッチと比較した精嚢重量の193%の増加を含む非常に有意な増強作用(p<0.0001、クラスタル・ウォリス検定)が、hCG コルロン/CH10複合体を用いて得られた。hCG ENDO5000/CH10複合体で処置されたバッチについても199%の重量増加を含む有意効果が得られた(p<0.0001)。CH10抗体単独で処置されたバッチは、生理食塩水で処置され
た対照動物と比較して精嚢重量の変化を示していないことが観察されている。したがって、前記ホルモンに複合体化していないCH10は標的器官に対して特異的作用を持たない。
【0162】
それらの2種類のhCGを用いたこのバイオアッセイを繰り返している間に得られた結果をまとめたものから前記ホルモン/CH10複合体の非常に有意な増強作用(p<0.0001、対応のないt検定)が確認される。すなわち、
‐それぞれ34匹および35匹という数の動物について、SVの平均重量は前記複合体で処置されたラットでは50.04mg/100gであったのに対し、hCGであるコルロンで処置されたラットでは29.6mg/100gであり(169%の増加)(
図13B)、
‐それぞれ13匹および15匹という数の動物について、SVの平均重量はhCGであるENDO5000で処置されたラットでは24.64mg/100gであり、且つ、前記複合体で処置されたラットでは51.39mg/100gであった(208%の増加)(
図13C)。
【0163】
実施例4:雌羊における内在性ゴナドトロピンの生理活性に対する本発明のリガンドの増強作用のインビボ測定
げっ歯類動物(小動物)においてCA5モノクローナル抗体およびCH10モノクローナル抗体の増強作用をインビボで実証し、特徴解析した後、多産でより大型の家畜、すなわち雌羊においてFSHの活性に対する各抗体の作用を研究することを目的とした。
【0164】
このため、処置される雌羊自身のホルモン(内在性ホルモン)に対する前記抗体の増強作用を評価することを目的として全て同じ年齢の思春期のイル・ド・フランス種の雌羊に対して試験を行った。特異性試験によりCA5抗体およびCH10抗体のヒツジFSHへの強い結合とヒツジLHへのより可変的な結合が示された。この目的のため、抗体だけの注射のみを含む処置がその処置の有効性を評価するために開発された。
【0165】
雌羊に設定されたそれらのプロトコルでは、したがって各抗体は単独で注射され、メスのラットでの試験で行われたように外因性のFSHとプレインキュベートされることがなかった。さらに、各抗体はそれ以前にどのような卵巣刺激も受けていない雌羊に、すなわち、ゴナドトロピンを用いる排卵刺激のためのホルモン処理をその抗体の注射の前に受けていない動物に注射された。
【0166】
抗FSH抗体であるCA5およびCH10の増強作用を発情期のちょうど真ん中(1月)または発情期の最後(3月末)に行われたプロトコルの間に評価した。それらのプロトコルは全て、プロゲストゲン(45mgの酢酸フルロゲストン(FGA);MSD)を染み込ませた膣内スポンジを14日間にわたって差し込むことにより排卵周期を予め同期させた雌羊に対して行われた。対照雌羊(生理食塩水バッチ)、ブタFSH処理で刺激された雌羊(FSHバッチ)、および抗体だけを用いて刺激された雌羊(抗体バッチ)において排卵応答(排卵回数)および高品質の1つ以上の機能的黄体の樹立(プロゲステロン分泌の程度)を比較することにより増強作用を分析した。
【0167】
各プロトコルではLHの排卵前のピークを検出し、その日付をつけるためにELISA法によって血漿中LHアッセイを行った。排卵応答を評価するため、膣内スポンジの撤去から8日後に黄体の数を計数し、且つ、それらの黄体の外観を観察するために麻酔下で腹腔鏡検査法により卵巣の内視鏡観察を行った。
【0168】
その黄体または黄体の機能性と品質を評価するため、前記スポンジの撤去後の1日目から21日目までの毎日の血液試料を使用して定量的プロゲステロンELISAアッセイを
行った。
【0169】
GraphPad Prismバージョン5.0ソフトウェア(GraphPad、サンディエゴ、カリフォルニア州、米国)を使用して全ての統計分析を行った。
【0170】
CA5抗体
CA5抗体(IgG)の増強作用を2つのプロトコル(プロトコル1および2)において発情期中および発情期の終わりに評価した。
【0171】
発情期の終わりに実施されるプロトコル1では、
‐「CA5抗体」バッチ(n=6)は前記スポンジの撤去の4日前に2mg、その撤去前に1mg、およびそのスポンジの撤去時に1mgの3回の精製CA5の筋肉内注射を受け、
‐「対照」バッチ(n=5)は前記スポンジの撤去の24時間前に生理食塩水の筋肉内注射を受け、
‐「FSH」バッチ(n=5)は前記スポンジの撤去の24時間前に100μgのブタFSH(pFSH)の筋肉内注射を受け、そのスポンジの撤去の12時間前に90μgの筋肉内注射を受けた。
【0172】
排卵応答の分析により下の表30に示されている結果が得られた。
【0173】
【表30】
【0174】
フィッシャーの正確検定によって統計分析を行った。
【0175】
対照バッチおよびFSHバッチと比較して、CA5バッチにおいて得られた結果は排卵応答に対するどんな有意な効果も示していない。測定されたパラメーターの中で傾向を示しているものは無い。
【0176】
前記3種類のバッチにおいて得られた黄体期におけるプロゲステロン分泌プロファイルが
図14に示されている。それぞれのバッチについて黄体の数に対してプロゲステロン濃度値(ng/ml)を正規化した。各曲線は時間tにおける各バッチのメスにおいて得られたプロゲステロン値の平均を表している。
【0177】
黄体当たりのプロゲステロン分泌の強度およびその分泌の成立の始まりに対するCA5抗体の有意な効果が観察された(
図14A)。実際に、FSHバッチおよび血清Φバッチの曲線と比較して、CA5曲線上には早くも4日目にプロゲステロン分泌の開始が観察さ
れ、それに続いて周期の最後まで黄体期を通して維持される分泌の著しい増加が観察されている。平均プロゲステロン値は10日目ではCA5バッチ、FSHバッチおよび血清Φバッチについてそれぞれ1.38ng/ml、0.92ng/ml、および0.52ng/mlであり、15日目では2.58ng/ml、1.7ng/mlおよび1.18ng/mlである。対応のあるノンパラメトリックt検定(ウィルコクソン検定)を用いてそれらの3本の曲線の比較を行った。そうすると、CA5バッチの曲線はFSHバッチの曲線よりも上にあり、且つ、有意に異なっており(p<0.01)、同様に対照バッチの曲線とも有意に異なっている(p<0.001)。FSHバッチの曲線は対照バッチの曲線よりも上にあり、且つ、有意に異なっている(p<0.001)。
【0178】
CA5刺激下にある雌羊における周期の最後までのこの著しく、且つ、一定のプロゲステロン分泌レベルの増加を定量するため、GraphPad Prismバージョン5.0ソフトウェアを用いて曲線下面積(AUC)を計算した。結果が
図14Bに示されており、それらの結果はCA5曲線のAUC(23.61任意単位)が血清Φ曲線のAUC(8単位)よりも大きい傾向にあるが、この差は有意ではないことを示している。同様に、FSH曲線のAUC(12単位)は対照曲線と有意に異なっていない。
【0179】
結論として、雌羊におけるCA5の注射はFSHを用いる従来の処置と同じ結果を排卵誘導に関して生じるが、より早期のプロゲステロン分泌の成立、およびより高い循環プロゲステロンレベルを有するより有効な機能的黄体の維持を可能にし、初期胚発生のより確かな成功および妊娠の維持(流産リスクの低下)を保証する。
【0180】
発情期中に実施されるプロトコル2では、
‐「CA5抗体」バッチ(n=7)は前記スポンジの撤去の24時間前に2mgのCA5の単回筋肉内注射を受け、
‐「対照」バッチ(n=9)は前記スポンジの撤去の24時間前に生理食塩水の筋肉内注射を受け、
‐「FSH」バッチ(n=11)は前記スポンジの撤去の24時間前に100μgのブタFSH(pFSH)の筋肉内注射を受け、そのスポンジの撤去の12時間前に90μgの筋肉内注射を受けた。
【0181】
排卵応答の分析により下の表31に示されている結果が得られた。フィッシャーの正確検定によって統計分析を行った。
【0182】
【表31】
【0183】
対照バッチおよびFSHバッチと比較して、CA5バッチにおいて得られた結果は単独で注射された前記抗体の排卵応答に対する非常に有意な効果を示している。実際に、血清ΦバッチおよびFSHバッチのそれぞれ44%および36%と比較して、2mgの抗体の注射を受けたメスの100%(7匹/7匹)が排卵した(p<0.0001、フィッシャーの正確検定)。バッチの総数についてメス当たり得られた黄体の数は同様に「CA5」バッチにおいてほぼ有意に大きく(p=0.06、マン・ホイットニーt検定)、それぞれ0.9個(FSH)および0.67個(血清Φ)であったのに対して1.5個の黄体であった。排卵したメス当たりの平均黄体数には前記3種類のバッチの間で有意差が無い。
【0184】
LHピークが現れる平均時間には前記3種類のバッチの間で有意差が無い。それでも、LHピークに到達する時間(およびしたがって排卵の時間)がFSHバッチおよび特に血清Φバッチと比較してわずかに変化する傾向がCA5バッチにおいて観察されている。
【0185】
排卵後の黄体期におけるプロゲステロン分泌プロファイルが
図15Aに示されている。それぞれのバッチについて黄体の数に対してプロゲステロン濃度値(ng/ml)を正規化した。その図の各曲線は各バッチのメスにおいて得られたプロゲステロン値の平均を表している。CA5抗体の顕著な効果がプロゲステロン分泌の強度に対して観察され、黄体当たりのプロゲステロン分泌の大幅な、且つ、非常に有意な増加がFSHバッチおよび血清Φバッチの曲線と比較して黄体期を通して観察された。平均値は10日目ではCA5バッチ、FSHバッチおよび血清Φバッチについてそれぞれ2.44ng/ml、1.3ng/mlおよび0.62ng/mlであり、15日目では2.88ng/ml、1.42ng/mlおよび1.18ng/mlである。対応のあるノンパラメトリックt検定(ウィルコクソン検定)によってそれらの3本の曲線の比較を行った。CA5バッチの曲線はFSHバッチの曲線よりも有意に上であり、且つ、有意に異なり(p<0.01)、同様に対照バッチの曲線よりも有意に上であり、且つ、有意に異なる(p<0.001)。FSHバッチの曲線は対照バッチの曲線と有意に異なる(p<0.001)。
【0186】
CA5刺激下にある雌羊における周期の黄体期を通して黄体当たりのプロゲステロン分泌レベルのこの顕著で、且つ、一定の増加を定量するため、GraphPad Prismバージョン5.0ソフトウェアを用いて曲線下面積(AUC)を計算した。結果が
図15Bに示されており、それらの結果はCA5曲線のAUC(24.20単位)が血清Φ曲線のAUC(8.1)よりも3倍有意に高い(p<0.05、ノンパラメトリックマン・ホイットニーt検定)ことを示している。逆に、FSH曲線のAUCは対照曲線と有意に異なっていない。
【0187】
結論として、2mgの単回筋肉内注射の形態でCA5抗体を使用することにより、非常に有意なことに、
(1)刺激を受けたメスの100%において排卵を誘導することができ、
(2)FSH処理後に観察される分泌よりもずっと多いプロゲステロン分泌、および早くも4日目という非常に速いプロゲステロン分泌の成立を有する、より良好な品質の黄体を発生させることができる
という、FSHを用いる従来の処置よりも良好な結果が生じた。FSH処理と比較して追加的なCA5のこの特性の影響力は非常に重要であることが強調されるべきである。これは、血漿中プロゲステロン濃度が胚発生、特にその初期において重要な因子であるからである。
【0188】
より早期のプロゲステロン分泌の成立、およびより高い循環プロゲステロンレベルを有するより有効な機能的黄体の維持は、初期胚発生のより確かな成功、および流産リスクが低下した妊娠の維持を保証するものである。
【0189】
それらの結果の全てより、雌羊にインビボで注射された前記増強抗体、特にCA5は動物の内在性性腺刺激ホルモンと複合体化することができ、且つ、動物自身のホルモンの生物活性を増強することができることが示されている。
【0190】
雌羊におけるCA5抗体の増強作用は従来のFSHホルモン処理より強い卵巣刺激を誘導することができる。排卵誘導は発情期において100%であり、且つ、全ての事例において循環プロゲステロン濃度の大幅な増加、200%から300%の増加が黄体期を通して維持される。この追加的作用はプロゲストゲン依存性胚発生不全率および流産のリスクの低下にとって重要である。
【0191】
実施例5:若雌牛における内在性ゴナドトロピンの生理活性に対する本発明のCA5リガンドの増強作用のインビボ測定
ラットおよび雌羊においてCA5モノクローナル抗体の増強作用を実証し、特徴解析した後、より大型の動物、すなわち若雌牛において内在性ゴナドトロピンの活性に対するその抗体の作用を研究することを目的とした。このため、前記抗体の効力を評価するためにその抗体単独の注射のみを含む処置をプリム・ホルスタイン種の若雌牛において開発した。これらの若雌牛はそれ以前にどのような卵巣刺激も受けておらず、それらの動物はゴナドトロピンを用いる排卵刺激のためのホルモン処理をその抗体の注射の前に受けていなかった。
【0192】
プロゲストゲン移植錠(3.3mgのノルゲストメット、Crestar(登録商標)、MSD)を7日間にわたって留置することによって排卵周期を前もって同期させた20〜22か月齢のプリム・ホルスタイン種の若雌牛に対してCA5抗体の増強作用の評価を目的とするプロトコルを実施した。その移植錠を留置した日にGnRH(0.004mgの酢酸ブセレリン、Crestar(登録商標)パック、MSD)の注射を行い、その後、その移植錠の撤去24時間前にプロスタグランジン(Prosolvin(登録商標)、Virbac)の注射を行った。
【0193】
それらの動物を2つのバッチに分けた。
‐ 2回の11mgの精製CA5抗体の筋肉内注射を受けた「CA5」バッチ(n=4):前記移植錠の留置から24時間後に1回目の注射が行われ、前記プロゲストゲン移植錠の撤去の24時間前に2回目の注射が行われた。
‐ 2回の生理食塩水の筋肉内注射を受けた「対照」バッチ(n=3):前記移植錠の留置から24時間後に1回目の注射が行われ、前記プロゲストゲン移植錠の撤去の24時間前に2回目の注射が行われた。
【0194】
対照若雌牛(生理食塩水バッチ)における排卵応答(排卵または無排卵)および良好な品質の機能的黄体の樹立(黄体のサイズおよびプロゲステロン分泌の程度)と前記抗体単独で処置された若雌牛(CA5バッチ)におけるそれらを比較することにより増強作用を分析した。
【0195】
排卵前LHピークを検出し、その日付をつけるため、且つ、エストラジオール分泌をモニターするためにELISA法によって血漿中LHおよびエストラジオールアッセイを行った。排卵応答および黄体のサイズを評価するため、卵巣超音波検査を毎日行った。最後に黄体の機能性および品質を評価するため、前記移植錠の留置日よりその移植錠の撤去から21日後までの毎日の血液試料に対して定量的プロゲステロンELISAアッセイを行った。
【0196】
若雌牛に人工授精を行い、人工授精から35日後に超音波検査により妊娠の診断を行っ
た。
【0197】
GraphPad Prismバージョン5.0ソフトウェア(GraphPad、サンディエゴ、カリフォルニア州、米国)を使用して全ての統計分析を行った。
【0198】
最初に循環エストラジオールレベルを測定することにより前記2種類のバッチの若雌牛において排卵応答を比較した。
図16Aに示されている結果は各バッチを代表する2匹の若雌牛におけるエストラジオール分泌プロファイルを示している。0日目に観察されたエストラジオールピークは処置動物において高く、0日目では対照において6.6pg/mlであるのに対して9.2pg/mlの濃度であり、1.5日目では対照において8.8pg/mlであるのに対して10.5pg/mlの濃度である(有意性無し)。各バッチの若雌牛の結果の平均が、前記移植錠が留置されたときに測定された基底エストラジオール濃度のパーセンテージとして表されている(
図16B)。エストラジオールピークの高さが対照バッチの若雌牛と比較してCA5抗体で処置されたバッチにおいて高い傾向にあるという同じ傾向が見られている。すなわち、前記移植錠の撤去時(0日目)に133±7%であるのに対して149±16%であり、前記移植錠の撤去から1.5日目に144±8%であるのに対して161±6%である(有意性無し)。3日目と8日目との間のエストラジオールレベルから、2つ目の卵胞波を反映する2つ目のより低い分泌ピークが両方のバッチにおいて示されている。CA5バッチではエストラジオール濃度の上昇は対照バッチにおけるものよりも早い傾向にあり、6日目にその濃度は対照において104±0.5%であるのに対してCA5で処置された若雌牛では113±3%である。
【0199】
前記2種類のバッチの若雌牛におけるエストラジオールピークの曲線下面積の分析(
図16C)によっても、有意ではないが、対照バッチ(97.5±18単位の面積)よりもCA5で処置されたバッチ(129.5±20単位の面積)において高いエストラジオールピークが得られる傾向が示されている。
【0200】
まとめると、それらの結果は、有意ではないが、より良好な質の卵胞期を反映し得るより良好なエストラジオール分泌がCA5抗体で処置された若雌牛にある傾向を示している。
【0201】
排卵前LHピークに関する結果が
図17に示されている。それらの結果はLHピークが現れる時間に関して何の差も示していない(
図17A)。すなわち、LHピークはCA5抗体で処置されたバッチにおいて前記移植錠の撤去から40.5時間±5.1時間に生じるのに対し、対照バッチでは44時間±8時間に生じている。LHピークの最大濃度はCA5抗体で処置された若雌牛では9.8±1.2ng/mlであるのに対して対照バッチでは4.8±1.8ng/mlのLHである(
図17B)。排卵前ピーク時の最大LH濃度は前記抗体で処置されたバッチにおいてより高い傾向にあるが、この傾向は有意ではない。排卵前LHピークの曲線下面積に関して同じ傾向が観察されており、その面積はCA5抗体で処置された若雌牛において98±4.8任意単位であるのに対して対照若雌牛では64.5±5.8任意単位である(
図17C)。しかしながら、CA5で処置された若雌牛においてLHピークがより高くなるこの傾向は有意ではない。
【0202】
排卵後の超音波検査分析により、前記2種類のバッチの全ての若雌牛に一回の排卵があったことが示された。
【0203】
その後、黄体の発生をモニターするために超音波検査により黄体のサイズを定期的に測定することによって黄体期の質を分析した。
図18Aに示されている結果は、CA5で処置された若雌牛のバッチは対照若雌牛のバッチのもの(22±1mmの直径)よりも大きい黄体(26±2mmの直径)を有する傾向があることを示している。それでもこの差は
有意ではない。
【0204】
黄体期を通した血漿中プロゲステロン濃度の測定が
図18Bに表されている。その測定は前記2種類のバッチの間の非常に有意な差を明らかにしている(p<0.001)。循環プロゲステロンレベルが前記移植錠の撤去時に測定された基底濃度のパーセンテージとして表されている。撤去から9日目ではそのレベルは対照バッチでは668±85%であるのに対して前記抗体で処置されたバッチでは1266±254%であり、すなわち対照バッチと比較して1.9倍の増加である。撤去から20日目ではそのレベルは対照バッチでは646±74%であるのに対して前記抗体で処置されたバッチでは1598±327%であり、すなわち対照バッチ.と比較して2.47倍の増加である。これらの結果は、より大きな直径を有する傾向があり、特に、より高いプロゲステロン分泌を有する傾向がある、CA5抗体で処置された若雌牛における黄体のより良好な品質を反映している。黄体期において黄体の機能的品質がより良好であることは胚の着床および胚の初期発生の成功に重要であることが強調されるべきである。黄体の機能的品質がより良好であることによって早期流産のリスクが減少する。
【0205】
人工受精から35日後に行われた妊娠の診断により、前記バッチの各々における全ての若雌牛が妊娠していることが示された。
【0206】
結論として、これらの結果は、有意ではないが、CA5抗体で処置された若雌牛が卵胞期の間により良好なエストロゲン応答を有し、且つ、および黄体期の間に有意に高いプロゲステロン分泌を有する傾向があることを示している。
【0207】
実施例6:メスのサルにおける内在性ゴナドトロピンの生理活性に対する本発明のCA5リガンドの増強作用のインビボ測定
ラット、雌羊および若雌牛においてCA5モノクローナル抗体のインビボ増強作用を実証し、特徴解析した後、そのモノクローナル抗体の増強作用をヒトに近い種、すなわちカニクイザル(Macaca fascicularis)において検討した。このため、ヒトFSHおよび処置されるサルの内在性ホルモンに対する前記抗体の増強作用を評価することを目的として少なくとも36か月齢の思春期のサルに対して試験を行った。
【0208】
このため、少なくとも36か月齢の4匹の思春期のサルに対して試験を行った。外因性のFSHの注射から20分間後か、または単独のどちらかでCA5抗体を注射した。月経期の1日目にそれらのサルが1.5mgの持続放出性GnRH調製(デカペプチル(登録商標)LP、3mg、IPSENファーマ)の筋肉内注射を受けた。15日後にそれらの4匹のメスのサルが次の異なる処置を受けた。
‐8日間にわたって25IUで処置された動物(「25IU×8」バッチ):25IUのヒトFSH(ゴナールF(登録商標)プレフィルドペン、メルクセローノ)の毎日の皮下注射が8日間にわたって行われた。
‐1日だけ25IUで処置された動物(「25IU×1」バッチ):25IUのヒトFSH(ゴナールF(登録商標)プレフィルドペン、メルクセローノ)の単回皮下注射が処置の1日目に行われた。
‐CA5+hFSHで処置された動物(「CA5+hFSH」バッチ):処置の1日目だけに25IUのヒトFSH(ゴナールF(登録商標)プレフィルドペン、メルクセローノ)の注射から20分後にCA5抗体(80μg)の単回皮下注射が行われた。
‐CA5単独で処置された動物(「CA5」バッチ):処置の1日目だけにCA5抗体単独(88.5μg)の単回皮下注射が行われ、外因性のホルモンの注射は無かった。
【0209】
処置によって誘導された卵胞の成長を比較することにより増強作用を分析した。このため、卵胞を計数し、且つ、それらの表面積(mm
2で表される)を測定するために経腹卵
巣超音波検査を48時間毎に行った。
【0210】
25IUのhFSHの注射から20分間後に行われたCA5抗体の注射(「CA5+hFSH」バッチ)によって得られた効果を25IUのhFSHの注射(「25IU×1」バッチ)の効果、および25IUのhFSHの8日間の毎日の注射(「25IU×8」バッチ)の効果と比較した。
図19Aに示されている結果は、25IUのhFSHの単回注射で処置されたメスのサルがFSH処置の開始から9日目において被刺激卵胞を示していない(曲線下面積がゼロ)ことを示している。逆に、処置の1日目に「CA5+hFSH」混合物で一度処置されたメスのサルは、hFSHの8回の注射を受けたメスのサル(「25IU×8」)において測定された11個の被刺激卵胞で35mm
2である卵胞総面積に等しい37mm
2の卵胞総面積を有する8個の成長中の卵胞を示した。したがって、CA5+25IU hFSH複合体の単回注射によって25IUのhFSHの8回の注射と同じ程度に効果的に卵巣が刺激された。この結果は卵胞を刺激することになるメスのサルにおけるCA5のインビボ増強作用を示している。実際には、FSHの半減期は1時間未満なので、CA5で観察された効果は注射されたhFSHに対する効果だけによるものとすることができず、前記メスのサルの内在性FSHに対する効果も反映している。
【0211】
次に単独で注射されたCA5抗体の注射(「CA5」)の効果を検討し、25IUのhFSHの注射(「25IU×1」)の効果、および25IUのhFSHの3日間の毎日の注射(「25IU×3」バッチ)の効果と比較した。単独で注射された前記抗体の刺激作用はその注射から3日後に最適に観察された。
図19Bに示されている結果は、抗体単独の単回注射を受けたメスのサル(「CA5」)が処置の3日目に32.6mm
2の面積である5個の成長中の卵胞を含む卵巣刺激を示していることを明らかにしている。対照的に、25IUのhFSHの3回の注射を受けたメスのサル(「25IU×3」)は面積が1.6mm
2であるちょうど1個の成長中の卵胞を含む非常に弱い刺激しか示さなかった。処置の3日目以降ではCA5単独によって誘導された卵巣刺激は維持されず、被刺激卵胞が消失した。卵巣に対する刺激作用を維持するためにはおそらく抗体の追加注射または1日目に注射される用量の調節が必要だっただろう。それでもこの結果は、単独で注射されたCA5抗体がメスのサルの内在性FSHと複合体化することができ、且つ、卵巣刺激の開始を誘導するほど充分に内在性FSHの生物活性を増強することができたことを示している。
【0212】
実施例7:本発明のCA5リガンドとCH10リガンドが認識するエピトープの予測、およびそれらのパラトープの予測
CA5抗体およびCH10抗体のそれぞれのエピトープが、天然型立体構造と非天然型立体構造を区別することを可能にするボロノイ図と様々なスコア関数進化的学習法による最適化を用いるタンパク質構造モデリングに基づくプロテインドッキングアルゴリズム(Bernauer et al., Bioinformatics 2007, 5:555, [14]; Bernauer et al., Bioinformatics 2008, 24:652, [15]; Bourquard et al., PLoS One 2011, 6:e18541, [16] および Bourquard et al., Sci. Reports 2015, 5:10760 [17])を用いて様々な種の性腺刺激ホルモンに対して決定された。
【0213】
各抗体をヒトFSH(hFSH)、ヒトLH(hLH)、ヒトCG(hCG)、ヒツジFSH(oFSH)およびヒツジLH(oLH)、ブタFSH(pFSH)およびブタLH(pLH)とドッキングした。hFSHおよびhCGの結晶構造がそれぞれ4MQWおよび1QFWとしてプロテインデータバンク(PDB)において入手可能である。ヒトFSH受容体の細胞外ドメインと複合体化されたヒトFSHの構造 (Fan and Hendrickson,
Nature 2005, 433:269) [18]が使用された。他のホルモン(hLH、oFSH、oLH、pFSHおよびpLH)については相同モデルを作製し、そしてドッキングのために使用した。
【0214】
(1)CA5リガンドのエピトープおよびパラトープ
CA5抗体の3D構造は入手できないのでCA5の一価VH断片と一価VL断片の配列を使用して検討を行った。このために可変部分の相同モデルを作製した。VHモデルとVLモデルを異なる構造から別々に作製し、VHモデリングを支援するものとして働いたその構造からそれらのモデルの相対的配向を決定した。相同モデルのために使用した構造であるCA5 VH用の3OKKとCA5 VL用の3MBXはプロテインデータバンク(PDB)において入手可能である。
【0215】
そのドッキングの結果が
図20に示されている。CA5リガンドは前記の7種類の標的ホルモンに同様にドッキングするようである。そのエピトープは検討されたゴナドトロピンの基本的にβサブユニット上に、且つ、2つの残基についてはαサブユニット上に断続的に局在する幾つかの領域によって規定されている。そのエピトープにはヒトFSH受容体のエクトドメインの10残基も含まれている。したがって、CA5リガンドのそのエピトープは非常に立体構造的である。すなわち、そのエピトープは前記ホルモンの幾つかの連続する領域と前記受容体の配列から構成され、それらの領域は前記ホルモンとその活性化型受容体の天然の立体構造において空間的に近傍にある。
【0216】
CA5リガンドとの接触面に含まれる前記ホルモンと前記受容体の様々な残基が
図20中の長方形によって囲まれている。hFSHのβサブユニット上の斜線部分によって表示されている5つの残基は主要な相互作用に関与し、且つ、抗体/抗原認識に主要な役割を有する。すなわち、これらの残基はhFSHのβサブユニット上の位置22のセリン(Ser22)、位置65のグリシン(Gly65)、位置66のシステイン(Cys66)、アルギニン97(Arg97)およびグリシン98(Gly98)である。Gly65残基およびCys66残基は他の全ての標的ホルモンの配列中に存在する。
【0217】
CA5リガンドはFSH βサブユニットのC末端の残基97〜100および残基102〜109も認識する。この領域はシートベルトを構成し、前記ホルモンのα/β二量体の結合の安定化に主要な役割を果たす。したがって、前記ホルモンへのCA5リガンドの結合によってそのシートベルトが確実に締められ、したがって、前記ホルモンの生理活性(二量体だけが活性を有する)にとって必須であるその二量体の安定性に寄与するようである。
【0218】
CA5抗体は基本的にhFSHのβサブユニットに対するものである。
【0219】
αサブユニットの2つの残基だけが前記接触面に含まれる。これらの残基は位置35アルギニン残基(Arg35)および位置56グルタミン酸残基(Glu56)であり、前記天然ホルモンにおいて空間的に近傍にある。それらの残基の役割はαサブユニットの周りに「シートベルト」を保持するためにβサブユニットのC末端を固定することである。これらの2つの残基は全ての標的ホルモンにおいて常に存在し、且つ、認識される。それらの残基は前記ホルモンの生理活性に非常に重要な役割を果たす。
【0220】
CA5抗体のエピトープの別の特徴は、CA5抗体によって認識される接触面にヒトFSH受容体のN末端領域のHis2−His3−Arg4−Ile5残基、His7残基、Leu14残基、Gln16−Glu17残基、Lys19残基およびArg35残基が含まれることである。
【0221】
【表32】
【0222】
表32はCA5リガンドのエピトープを構成する様々な領域とそのリガンドのパラトープを構成する様々な領域を示している。
【0223】
2本のVH鎖とVL鎖がそれらの3か所のCDRとそれらのフレームワークの幾つかの残基を介して前記ホルモンの認識に関与している。
【0224】
主要な相互作用に関与する前記5残基がVH鎖のCDR2のAsn53、VH鎖のCDR1の残基Asp31、Phe27およびThr28、ならびにVL鎖のCDR1の残基Ser33およびAsn34によって認識される。
【0225】
そのVL鎖だけがFSH受容体のエクトドメインの認識に関与し、特にその鎖のCDR1の残基Gln35およびLys36、その鎖のCDR2の残基Ser58およびフレームワーク3の幾つかの残基が関与する。
【0226】
結論として、CA5リガンドはhFSHのαサブユニットおよびβサブユニットおよびシートベルトを形成するそのサブユニットのC末端に関係し、且つ、FSH受容体のエクトドメインにも関係する立体構造エピトープを認識する。VL鎖は前記受容体のエクトドメインとの相互作用に関与する唯一のものである。2本のVH鎖とVL鎖は前記ホルモンのサブユニットとの相互作用に関与する。CA5リガンドの立体構造エピトープによってそのリガンドは一方で前記ホルモン二量体の結合を安定化することができ、他方で前記ホルモンのその受容体への結合を安定化することができる。これらの2つの機構は、前記ホルモンの受容体上でのそのホルモンのより良好な相互作用と、したがって、より良好な効力の獲得の実現に関して相補的であり、且つ、その実現の基礎である。したがって、それらの機構はゴナドトロピンに対するCA5リガンドの増強作用の機構的基礎を構成するようである。
【0227】
(2)CH10リガンドのエピトープおよびパラトープ
CH10抗体の3D構造は入手できないのでCH10の一価VH断片と一価VL断片の
配列を使用して検討を行った。このために可変部分の相同モデルを作製した。VHモデルとVLモデルを異なる構造から別々に作製し、VHモデリングを支援するものとして働いたその構造からそれらのモデルの相対的配向を決定した。相同モデルのために使用した構造であるCH10 VH用の4QNPとCH10 VL用の3D85はプロテインデータバンク(PDB)において入手可能である。
【0228】
そのドッキングの結果が
図21に示されている。CH10リガンドは前記の7種類の標的ホルモンに同様にドッキングするようである。そのエピトープはFSHのαサブユニットとβサブユニット上に断続的に局在する幾つかの領域によって規定されており、そのエピトープはヒトFSH受容体のN末端の8残基も含んでいる。したがって、CH10リガンドのそのエピトープは立体構造的である。すなわち、そのエピトープは前記ホルモンの幾つかの連続する領域とFSH受容体のN末端の配列から構成される。これらの領域の全てが前記ホルモンとその活性化型受容体の天然の立体構造において空間的に近傍にある。
【0229】
CH10リガンドとの接触面に含まれる前記ホルモンと前記受容体の様々な残基が
図21中の長方形によって囲まれている。αサブユニット上の斜線部分によって表示されている4つの残基(hFSH上のAsp6−Cys7−Pro8およびGlu56)とβサブユニット上の斜線部分によって表示されている2つの残基(hFSH上のSer2−Cys3)は主要な相互作用に関与し、且つ、抗体/抗原認識に主要な役割を有する。前記接触面に含まれる他の残基のうち、βサブユニットのC末端部分に局在する残基が前記ホルモンのα/β二量体の結合を安定化することが役割である「シートベルト」として知られる領域に含まれる。したがって、前記ホルモンへのCH10リガンドの結合によってそのシートベルトが確実に締められ、したがって、前記ホルモンの生理活性にとって必須であるその二量体の安定性に寄与するようである。さらに、CH10リガンドは、αサブユニット上に「シートベルト」を固定することに関与するαサブユニット上の残基Glu56の主要な認識を示す。
【0230】
CH10抗体のエピトープの別の特徴は、前記抗体によって認識される接触面にヒトFSH受容体のN末端領域のCys1−His2残基、His7−Cys8−Ser9残基、Lys14残基、Gln16残基およびArg35残基が含まれることである。
【0231】
【表33】
【0232】
表33はCH10リガンドのエピトープを構成する様々な領域およびそのリガンドのパラトープを構成する様々な領域を示している。
【0233】
VH鎖のフレームワーク3ならびにVL鎖のフレームワーク1およびフレームワーク2の幾つかの残基が関与するようにVH鎖のCDR2およびCDR3およびVL鎖のCDR1、CDR2およびCDR3が前記ホルモンの認識に関与する。
【0234】
主要な相互作用に関与するそれらの残基がVH鎖のCDR2の残基Thr60、フレームワーク3の残基Tyr61−Tyr62−Asp64−Lys67、ならびにVL鎖のCDR3の残基His92および残基Ser93によって認識される。
【0235】
そのVL鎖だけがその鎖のCDR1およびその鎖のフレームワーク1およびフレームワーク2を介して前記受容体のエクトドメイン上の相互作用に関与する。
【0236】
実施例8:本発明のCA5リガンドの様々な断片の構築、作製、および特性解析
ヒツジFSHおよびヒトFSH(ゴナールF(登録商標)、メルクセローノ)の生物活性を増強する能力を評価するためにCA5抗体の様々な断片を構築した。「CA5 VL」と呼ばれる軽可変鎖だけを含む断片、「CA5 VH」と呼ばれる重可変鎖だけを含む断片、および本発明の実施例1第4段落に記載されているCA5 scFvのVH−VL配列(配列番号19および配列番号20)と比較して逆のVL−VH順で構築された「リバースCA5 scFv」を作製した。
【0237】
(1)抗体断片の構築と作製
CA5抗体から得られたCA5 VL断片およびリバースCA5 scFv断片をコードする合成遺伝子がATG:バイオシンセティクスGmbH(ドイツ)によって合成された。リバースCA5 scFvはCA5 scFvのCA5 VL−リンカー−CA5
scFvのCA5 VHという融合体(配列番号19)から構成される。各合成遺伝子はpSW1プラスミド[7]の配列を融合することにより設計されており、HindIII部位とPelBタンパク質をコードする配列の末端との間に含まれ、そして合成予定の目的のタンパク質の配列(配列番号44および配列番号48)にはXhoI制限部位が横付けされる。それらの配列はpSW1プラスミドのHindIII部位とXhoI部位の間に挿入されている。大腸菌での発現向けにコドンを最適化した。
【0238】
pSW1−CA5 VH発現プラスミドは、pSW1リバースCA5 scFvプラスミドの次の酵素による消化から生じた断片のpSW1プラスミド[7]PstI−XhoI部位への挿入により得られた。
【0239】
それらの構築物の品質のシーケンシングによる検証の後、pSW1−CA5 VLプラスミド、pSW1−CA5 VHプラスミドおよびpSW1リバースCA5 scFvプラスミドを使用して、コンピテントセルになった[8]HB2151細菌(T53040、Interchim、フランス)をヒートショックにより形質転換した。
【0240】
【表34】
【0241】
【表35】
【0242】
【表36】
【0243】
本発明の実施例1において先に記載された方法に従って断片の作製を行った。
【0244】
(2)FSHの生理活性に対するCA5 VL断片、CA5 VH断片およびリバースCA5 scFv断片の作用のインビトロ測定
本発明の実施例2において先に記載されたプロトコルに従い、ヒトFSH受容体とGlosensor(登録商標)システムが安定的に形質移入されたHEK293細胞株を用いてヒツジおよびヒトFSHの生理活性に対する「CA5 VL」断片、「CA5 VH」断片および「リバースCA5 scFv」断片のインビトロ作用を検討した。単独の、または混合物としての「CA5 VL」断片および「CA5 VH」断片をそれぞれ40nMで検査した。リバースCA5 scFvをちょうど基準CA5 scFvのように80nMの濃度で検査した。ヒツジFSHおよびヒトFSH(ゴナールF(登録商標))を0.1nMで検査した。
【0245】
図22は、0.1nMのヒツジFSH(oFSH)が単独で、または様々なCA5断片と複合体化されて存在する中で得られた、時間(分)の関数として相対発光単位で表されるcAMP産生カイネティクス曲線を示している。4つの条件、すなわちoFSH+CA5 VL複合体(
図22A)、oFSH+CA5 VH複合体(
図22B)、oFSH+リバースCA5 scFv複合体(
図22C)、および最後に、40nMのCA5 VLと40nMのCA5 VHからなる等モルの混合物とoFSHの複合体(
図22D)をoFSH単独の条件と比較した。FSH単独によって誘導された応答と比較して2.1〜2.4倍だけ30mnの刺激に対する細胞応答を増加させる非常に有意な増強作用が全ての事例において得られることが観察されている(p<0.001)。これらの結果は、VH
断片およびVL断片単独で完全scFvと同様にoFSHの生理活性に対して増強作用を及ぼすことができることを示している。それらの結果より、本発明の実施例7のモデルに記載されている、その増強作用におけるそれらの2本の可変鎖の関与が立証されている。リバースCA5 scFv(VL−VH)と同様にCA5 VH+CA5 VL混合物は元のCA5 scFv(VH−VL)と同じ増強作用を及ぼす。
【0246】
同じ試験を単独の、または様々なCA5断片と複合体化した0.1nMの濃度のヒトFSH(ゴナールF(登録商標))に対して行った。4つの条件、すなわちhFSH+CA5 VL複合体(
図22E)、hFSH+CA5 VH複合体(
図22F)、hFSH+リバースCA5 scFv複合体(
図22G)および最後に、40nMのCA5 VLと40nMのCA5 VHからなる等モルの混合物とhFSHの複合体(
図22H)をhFSH単独の条件と比較した。
【0247】
hFSHと複合体化された40nMの濃度の「CA5 VL」断片は有意な増強作用を及ぼさず、逆に、「CA5 VH」断片は非常に有意なことに(p<0.001)hFSH単独による刺激と比較して、CA5 scFv(275%増)と匹敵するように、225%の最大細胞応答を増強することが観察されている(
図22Eおよび
図22F)。同様に、hFSHと複合体化されたリバースCA5 scFv「CA5 VL−VH」(
図22G)およびVH鎖+VL鎖の2本の鎖の混合物(
図22H)は、hFSHと複合体化されたCA5 scFvで得られる増加(250%と260%の間の増加)に近い、それぞれ225%および230%という細胞応答の有意な増加(p<0.001)を誘導している。これらの結果は、hFSHと複合体化されたCA5 VL+CA5 VH混合物が、ちょうど複合体化されたリバースCA5 scFvのように基準CA5 scFvによって誘導されたものに近い有意な増強作用を誘導することを示している。CA5 VLとは異なり、この検査ではVH断片だけがhFSHに対して有意な増強作用を及ぼす。
【0248】
(3)メスのラットにおけるFSHの生理活性に対するCA5 VL断片、CA5 VH断片およびリバースCA5 scFv断片の増強作用のインビボ測定
インビトロで特徴解析された後、hFSHの生理活性に対する様々なCA5断片の作用を特徴解析するためにそれらの断片の増強作用がメスのラットにおいてインビボで特徴解析された。
【0249】
FSH生理活性を測定するため、使用したプロトコルは本発明の実施例3に記載されたSteelmanとPohleyの生物学的アッセイ (Steelman SL, Pohley FM. Endocrinology, 53: 604-616. 1953) [12]のプロトコルであった。
【0250】
図23はhFSHの生理活性に対する様々な断片の作用を示している。各バッチは5匹のメスのラットから構成された。リバースCA5 scFvと複合体化されたhFSHで処置されたバッチはhFSHと複合体化されたCA5 scFvで処置されたバッチの平均卵巣重量(200mg)と同じく210mgの平均卵巣重量を生じ、それは言わば、ホルモン処置を単独で受けたバッチと比較した190%の増加であった(p<0.05)。hFSHと複合体化されたCA5 VL断片またはCA5 VH断片で処置されたバッチはそれぞれ240mgと230mgの平均卵巣重量を有し、それは言わば、ホルモン処置を単独で受けたバッチと比較したそれぞれ218%と209%の増加であった(それぞれp<0.001およびp<0.01)。
【0251】
これらの結果は、hFSHと複合体化されるscFvの構築の順序(VL−VH対VH−VL)がFSHの生理活性に対するそのscFvの増強特性に影響しないことを顕著に示している。これらの結果は、前記ホルモンと複合体化されたCA5 VH鎖またはCA5 VL鎖は前記ホルモンの生理活性を増強することもできることも非常に顕著に示して
いる。このことは、本発明の実施例7に記載されている相互作用モデルによって予測されるように、それらの2本の鎖のこの作用へのそれぞれの関与を反映している。
【0252】
参照文献のリスト
1- Patent EP 1518863
2- International application WO 2012/066519
3- Brochet et al., Nucl. Acids Res., 36: W503-508, 2008
4- Giudicelli et al., Cold Spring Harb Protoc., 2011(6): 695-715, 2011
5- Giudicelli et al., Nucl. Acids Res., 33: D256-261, 2005
6- Corpet, Nucl. Acids Res., 16(22): 10881-10890, 1988
7- Ward et al. Nature, 341: 544-546, 1989)
8- Li et al., Afr. J. Biotechnol., 9(50): 8549-8554, 2010
9- Chopineau et al., Mol. Cell Endocrinol., 92(2): 229-239, 1993
10- Wehbi et al., Endocrinology, 151(6): 2788-2799, 2010
11- Reverchon et al., Human Reprod., 27(6): 1790-1800, 2012
12- Steelman SL, Pohley FM., Endocrinology, 53: 604-616, 1953
13- Scobey et al, Reprod. Biol. Endocr. 3 :61, 2005
14- Bernauer et al., Bioinformatics, 5: 555, 2007
15- Bernauer et al., Bioinformatics, 24: 652, 2008
16- Bourquard et al., PLoS One, 6:e18541, 2011
17- Bourquard et al., Sci. Reports, 5:10760, 2015
18- Fan and Hendrickson, Nature, 433: 269, 2005.