特表2017-538042(P2017-538042A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-538042(P2017-538042A)
(43)【公表日】2017年12月21日
(54)【発明の名称】銅を含む金属合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 30/06 20060101AFI20171124BHJP
   C22F 1/16 20060101ALN20171124BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20171124BHJP
【FI】
   C22C30/06
   C22F1/16 Z
   C22F1/00 630A
   C22F1/00 630C
   C22F1/00 630D
   C22F1/00 630K
   C22F1/00 631A
   C22F1/00 640A
   C22F1/00 650B
   C22F1/00 660D
   C22F1/00 670
   C22F1/00 673
   C22F1/00 681
   C22F1/00 691B
   C22F1/00 691C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-542211(P2017-542211)
(86)(22)【出願日】2015年10月27日
(85)【翻訳文提出日】2017年6月5日
(86)【国際出願番号】AU2015050670
(87)【国際公開番号】WO2016065416
(87)【国際公開日】20160506
(31)【優先権主張番号】2014904315
(32)【優先日】2014年10月28日
(33)【優先権主張国】AU
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】517149597
【氏名又は名称】アドバンスド アロイ ホールディングス ピーティーワイ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ローズ,ケヴィン
(72)【発明者】
【氏名】フェリー,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】コンウェイ,パトリック
(72)【発明者】
【氏名】マッケンジー,ウォーレン
(72)【発明者】
【氏名】ベースマン,ロリ
(72)【発明者】
【氏名】クロスビー,コーディ
(72)【発明者】
【氏名】スリダー,アールティ
(57)【要約】
本発明は、銅を含む金属合金に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅 10〜50原子%
ニッケル 5〜50原子%
マンガン 5〜50原子%
亜鉛 0〜50原子%
アルミニウム 0〜40原子%
スズ 0〜40原子%
クロム 0〜2原子%
鉄 0〜2原子%
コバルト 0〜2原子%
鉛 0〜2原子%
ケイ素 0〜25原子%
からなる合金であって、
【数1】
(式中、cはi番目成分のモル百分率であり、Rは気体定数である)
に従って計算した場合、少なくとも1.1Rの混合エントロピー(ΔSmix)を有する、合金。
【請求項2】
アルミニウム 1〜30原子%
スズ 1〜30原子%
亜鉛 1〜50原子%
ケイ素 1〜25原子%
のうちのいずれか1種以上を含む、請求項1に記載の合金。
【請求項3】
銅 10〜50原子%
ニッケル 5〜50原子%
マンガン 5〜50原子%
クロム 0〜2原子%
鉄 0〜2原子%
コバルト 0〜2原子%
鉛 0〜2原子%、及び次のうちの1種:
亜鉛 1〜50原子%
アルミニウム 1〜40原子%
スズ 1〜40原子%、又は
ケイ素 1〜25原子%
からなり、
【数2】
(式中、cはi番目成分のモル百分率であり、Rは気体定数である)
に従って計算した場合、少なくとも1.1Rの混合エントロピー(ΔSmix)を有する、請求項1に記載の合金。
【請求項4】
銅と、ニッケル、マンガン、亜鉛、アルミニウム及びスズから選択される3種の合金化元素とからなる合金であって、
【数3】
(式中、cはi番目成分のモル百分率であり、Rは気体定数である)
に従って計算した場合、少なくとも1.1Rの混合エントロピー(ΔSmix)を有する、合金。
【請求項5】
銅と、ニッケル、マンガン、亜鉛、アルミニウム及びスズから選択される3種以上の合金化元素とを含む合金であって、
【数4】
(式中、cはi番目成分のモル百分率であり、Rは気体定数である)
に従って計算した場合、少なくとも1.1Rの混合エントロピー(ΔSmix)を有する、合金。
【請求項6】
クロム 0〜2原子%
鉄 0〜2原子%
コバルト 0〜2原子%
鉛 0〜2原子%
ケイ素 0〜25原子%
からなる群から選択される1種以上の合金化元素をさらに含む、請求項5に記載の合金。
【請求項7】
1.1R〜2.5Rの範囲のエントロピーを有する、請求項1から6のいずれか1項に記載の合金。
【請求項8】
1.3〜2.0Rの範囲のエントロピーを有する、請求項1から6のいずれか1項に記載の合金。
【請求項9】
銅、ニッケル及びマンガンが、実質的に等しい原子百分率で存在する、請求項1から8のいずれか1項に記載の合金。
【請求項10】
[Cu+Mn+Ni]60〜95原子%と共に残部のAlからなる、請求項1から9のいずれか1項に記載の合金。
【請求項11】
Cu、Mn、Ni及びAlからなり、154〜398の範囲の鋳放し硬度(HV)を有する、請求項1から10のいずれか1項に記載の合金。
【請求項12】
[Cu+Mn+Ni]75〜95原子%と共に残部のSiからなる、請求項1から9のいずれか1項に記載の合金。
【請求項13】
Cu、Mn、Ni及びSiからなり、187〜370の範囲の鋳放し硬度(HV)を有する、請求項1から9又は12のいずれか1項に記載の合金。
【請求項14】
[Cu+Mn+Ni]75〜95原子%と共に残部のSnからなる、請求項1から9のいずれか1項に記載の合金。
【請求項15】
Cu、Mn、Ni及びSnからなり、198〜487の範囲の鋳放し硬度(HV)を有する、請求項1から9又は14のいずれか1項に記載の合金。
【請求項16】
[Cu+Mn+Ni]50〜95原子%と共に残部のZnからなる、請求項1から9のいずれか1項に記載の合金。
【請求項17】
Cu、Mn、Ni及びZnからなり、102〜253の範囲の鋳放し硬度(HV)を有する、請求項1から9又は16のいずれか1項に記載の合金。
【請求項18】
[Cu+Mn+Ni]50〜95原子%と共に残部のAl及びZnからなる五元合金である、請求項1から9のいずれか1項に記載の合金。
【請求項19】
Cu、Mn、Ni、Al及びZnからなり、200〜303の範囲の鋳放し硬度(HV)を有する、請求項1から9又は18のいずれか1項に記載の合金。
【請求項20】
[Cu+Mn+Ni]75〜90原子%と共に残部のAl及びSnからなる五元合金である、請求項1から9のいずれか1項に記載の合金。
【請求項21】
[Cu+Mn+Ni]50〜<100原子%と共に残部のSn及びZnからなる五元合金である、請求項1から9のいずれか1項に記載の合金。
【請求項22】
Cu、Mn、Ni、Al、Zn、Snからなり、単相又は二相の黄銅を含む、請求項1から9のいずれか1項に記載の合金。
【請求項23】
140〜760MPaの範囲の圧縮降伏強度を有する、請求項1から22のいずれか1項に記載の合金。
【請求項24】
<2%〜80%の圧縮破壊における歪みを有する、請求項1から23のいずれか1項に記載の合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
銅を含む金属合金を開示する。この合金は、黄銅及び青銅合金の用途と類似の様々な用途を有する。
【背景技術】
【0002】
現今、典型的な黄銅及び青銅の現在の役割は、世界中で広範囲にわたっている。いくつかの例として、家の鍵(時にはクロムめっきされている)、それらをつける鍵輪、家庭用ドア蝶番、ドアノブ及びそれらのすべての内部施錠機構、浴室装備品(通常クロムめっき又は研磨されている黄銅)、衣服及びかばんのジッパー、電子機器接続ハードウェア、ギアモータ内のギア、自動車用及び個人用電子装置ベゼル、バッジ、軍需品、並びに高耐食性海事装備品が挙げられる。黄銅は、世界の硬貨の最大構成物質でさえある。
【0003】
すべての黄銅及び青銅は、さらなる装飾性又は耐食性を付与するために容易にクロム又はニッケルめっきすることができる。
【0004】
典型的な黄銅は、銅及び亜鉛から主としてなり、実用的な合金組成は、銅60〜80wt%及び亜鉛20〜40wt%の範囲にあり、可能な鉛及びアルミニウムの微量添加物(1〜5wt%)を含む。
【0005】
典型的な青銅は、通常、銅含有量が非常に高く、90〜95wt%の銅と共にスズ、アルミニウム、及び時には銀の少量添加物からなる。
【0006】
既存の範囲の用途において銅ベース合金から作製される構成部品のコストを下げることは有利であろう。或いは、銅ベース合金の機械的性質を向上させることによって、又は耐食性を向上させることによって、又は同様の若しくは向上させた機械的若しくは耐食性性質を備えた銅ベース合金を製造するコストを低減させることによって、既存の用途における銅ベース合金の耐用年数を延長するか、又は銅ベース合金を別の用途に適しているようにすることが有利であろう。
【0007】
ここの背景技術及び明細書全体にわたる上記の言及は、「典型的な」青銅及び黄銅合金に関する言及を含めて、技術が当業者の共通の一般的知識の一部を形成していることを承認するものではない。上記の言及はまた、合金の用途を限定するものではない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本出願人らは、典型的な青銅及び黄銅中の大量の銅をマンガン及びニッケルと置き換えることにより、機械的性質が向上した合金が生成されることを見出した。さらに、合金の性質を特定用途に適応させることができるように、銅、ニッケル、マンガン、亜鉛、アルミニウム及びスズの量を調整することができる。総合的に言うと、本出願人の知見に従う銅ベース合金は、典型的な黄銅及び青銅と比較して銅の量がより低く且つニッケル及びマンガンの量がより高いために「高エントロピー黄銅」(HEB)と称され、合金中に他の合金化元素のスズ、亜鉛、アルミニウム及び他の元素が一緒に含まれている。
【0009】
より詳細には、第1の態様において、
銅 10〜50原子%
ニッケル 5〜50原子%
マンガン 5〜50原子%
亜鉛 0〜50原子%
アルミニウム 0〜40原子%
スズ 0〜40原子%
クロム 0〜2原子%
鉄 0〜2原子%
コバルト 0〜2原子%
鉛 0〜2原子%
ケイ素 0〜25原子%
を含む、からなる、又はから本質的になる合金であって、
【0010】
【数1】
(式中、cはi番目成分のモル百分率であり、Rは気体定数である)
に従って計算した場合、少なくとも1.1Rの混合エントロピー(ΔSmix)を有する、合金を提供する。
【0011】
合金は、付随不純物を含有し得る。
【0012】
銅、ニッケル、マンガン、亜鉛、アルミニウム、及びスズによる合金化は、単相及び/又は二相微細構造(面心立方構造、面心立方及び体心立方、又は体心立方)の形成を可能にし、それによって、合金の強度、延性及び耐食性を制御することができる。これらの元素、特に、銅、ニッケル及びマンガンが典型的な黄銅及び青銅中に存在するよりも多い量で含まれると、合金のエントロピーが増大して、微細構造の安定性がより大きくなり、機械的、化学的及び物理的性質の増強の一因となる。典型的には、これらの新規な合金は、以下の利点の1個以上を有する:
・典型的な青銅及び黄銅合金と比較して、優れた機械的性能及び耐食性を示す
・典型的な青銅及び黄銅合金と比較して、材料コストがより低い
・典型的な青銅及び黄銅合金より軽い
・典型的な青銅及び黄銅合金と同様の方法で加工することができる
・必要に応じて、クロム又はニッケルめっきをすることができる。
【0013】
HEBは、合金の性質に特定の効果をもたらすように選択された量の鉄、コバルト、クロム、鉛及びケイ素を含むことができる。したがって、これらの合金化元素は、HEBを特定用途に適応させるもう一つの手段である。
【0014】
例えば、第1の態様による合金は、
アルミニウム 1〜30原子%
スズ 1〜30原子%
亜鉛 1〜50原子%
ケイ素 1〜25原子%
のうちのいずれか1種以上を含み得る。
【0015】
一実施形態では、第1の態様による合金は、
アルミニウム 1〜30原子%
スズ 1〜30原子%
亜鉛 1〜50原子%、又は
ケイ素 1〜25原子%
のうちの1種を含み得る。
【0016】
また、第2の態様においても、銅と、ニッケル、マンガン、亜鉛、アルミニウム及びスズから選択される3種以上の合金化元素とを含む、からなる、又はから本質的になる合金であって、式1に従って計算した場合、少なくとも1.1Rの混合エントロピー(ΔSmix)を有する、合金を提供する。
【0017】
合金は、付随不純物を含有し得る。
【0018】
第2の態様の合金は、
クロム 0〜2原子%
鉄 0〜2原子%
コバルト 0〜2原子%
鉛 0〜2原子%
ケイ素 0〜25原子%
を含む、又はからなる群から選択される1種以上の合金化元素を含み得る。
【0019】
第2の態様の実施形態において、銅と、ニッケル、マンガン、亜鉛、アルミニウム及びスズから選択される3種の合金化元素とを含む、からなる、又はから本質的になる合金であって、式1に従って計算した場合、少なくとも1.1Rの混合エントロピー(ΔSmix)を有する、合金を提供する。
【0020】
第2の態様の別の一実施形態において、
(i)銅と、ニッケル、マンガン、亜鉛、アルミニウム及びスズから選択される3種の合金化元素、並びに
(ii)クロム0〜2原子%、鉄0〜2原子%、コバルト0〜2原子%、及び鉛0〜2原子%、
を含む、からなる、又はから本質的になる合金であって、
式1に従って計算した場合、少なくとも1.1Rの混合エントロピー(ΔSmix)を有する、合金を提供する。
【0021】
第2の態様のさらなる一実施形態において、
(i)銅、ニッケル、及びマンガン、
(ii)亜鉛、アルミニウム及びスズから選択される1種の合金化元素、並びに
(iii)クロム0〜2原子%、鉄0〜2原子%、コバルト0〜2原子%、及び鉛0〜2原子%、
を含む、からなる、又はから本質的になる合金であって、
式1に従って計算した場合、少なくとも1.1Rの混合エントロピー(ΔSmix)を有する、合金を提供する。
【0022】
第2の態様のさらなる一実施形態において、
(i)銅、ニッケル、及びマンガン、
(ii)亜鉛、アルミニウム及びスズから選択される1種の合金化元素、
を含む、からなる、又はから本質的になる合金であって、
式1に従って計算した場合、少なくとも1.1Rの混合エントロピー(ΔSmix)を有する、合金を提供する。
【0023】
第2の態様のさらに別の一実施形態において、
(i)銅、ニッケル、及びマンガン、
(ii)亜鉛、アルミニウム及びスズから選択される1種以上の合金化元素、
を含む合金であって、
式1に従って計算した場合、少なくとも1.1Rの混合エントロピー(ΔSmix)を有する、合金を提供する。
【0024】
第2の態様の別の一実施形態において、銅と、ケイ素、ニッケル、マンガン、亜鉛、アルミニウム及びスズから選択される3種の合金化元素とを含む、からなる、又はから本質的になる合金であって、式1に従って計算した場合、少なくとも1.1Rの混合エントロピー(ΔSmix)を有する、合金を提供する。
【0025】
第2の態様のさらに別の一実施形態において、
(i)銅と、ケイ素、ニッケル、マンガン、亜鉛、アルミニウム及びスズから選択される3種の合金化元素、並びに
(ii)クロム0〜2原子%、鉄0〜2原子%、コバルト0〜2原子%、及び鉛0〜2原子%、
を含む、からなる、又はから本質的になる合金であって、
式1に従って計算した場合、少なくとも1.1Rの混合エントロピー(ΔSmix)を有する、合金を提供する。
【0026】
第2の態様のさらに別の一実施形態において、
(i)銅、ニッケル、及びマンガン、
(ii)ケイ素、亜鉛、アルミニウム及びスズから選択される1種の合金化元素、並びに
(iii)クロム0〜2原子%、鉄0〜2原子%、コバルト0〜2原子%、及び鉛0〜2原子%、
を含む、からなる、又はから本質的になる合金であって、
式1に従って計算した場合、少なくとも1.1Rの混合エントロピー(ΔSmix)を有する、合金を提供する。
【0027】
第2の態様のさらなる一実施形態において、
(i)銅、ニッケル、及びマンガン、
(ii)ケイ素、亜鉛、アルミニウム及びスズから選択される1種の合金化元素、
を含む、からなる、又はから本質的になる合金であって、
式1に従って計算した場合、少なくとも1.1Rの混合エントロピー(ΔSmix)を有する、合金を提供する。
【0028】
第3の態様において、
銅 10〜50原子%
ニッケル 5〜50原子%
マンガン 5〜50原子%
クロム 0〜2原子%
鉄 0〜2原子%
コバルト 0〜2原子%
鉛 0〜2原子%、及び次のうちの1種:
亜鉛 1〜50原子%
アルミニウム 1〜40原子%
スズ 1〜40原子%、又は
ケイ素 1〜25原子%
を含む、からなる、又はから本質的になる合金であって、
式1に従って計算した場合、少なくとも1.1Rの混合エントロピー(ΔSmix)を有する、合金を提供する。
【0029】
合金は、付随不純物を含有し得る。
【0030】
一実施形態において、第3の態様による合金は、
銅 10〜50原子%
ニッケル 5〜50原子%
マンガン 5〜50原子%
クロム 0〜2原子%
鉄 0〜2原子%
コバルト 0〜2原子%
鉛 0〜2原子%、及び次のうちの1種:
亜鉛 20〜35原子%
アルミニウム 5〜40原子%
スズ 5〜25原子%、又は
ケイ素 2.5〜15原子%
を含む、からなる、又はから本質的になり得、
式1に従って計算した場合、少なくとも1.1Rの混合エントロピー(ΔSmix)を有する。
【0031】
別の一実施形態において、第3の態様による合金は、
銅 10〜50原子%
ニッケル 5〜50原子%
マンガン 5〜50原子%、及び次のうちの1種:
亜鉛 1〜50原子%
アルミニウム 1〜40原子%
スズ 1〜40原子%、又は
ケイ素 1〜25原子%
を含む、からなる、又はから本質的になり得、
式1に従って計算した場合、少なくとも1.1Rの混合エントロピー(ΔSmix)を有する。
【0032】
さらに別の一実施形態において、第3の態様による合金は、
銅 10〜50原子%
ニッケル 5〜50原子%
マンガン 5〜50原子%、及び次のうちの1種:
亜鉛 20〜35原子%
アルミニウム 5〜40原子%
スズ 5〜25原子%、又は
ケイ素 2.5〜15原子%
を含む、からなる、又はから本質的になり得、
式1に従って計算した場合、少なくとも1.1Rの混合エントロピー(ΔSmix)を有する。
【0033】
第1、第2又は第3の態様の合金は、1.1R〜2.5Rの範囲のエントロピーを有し得る。或いは、合金は、1.3R〜2.0Rの範囲のエントロピーを有し得る。比較のために挙げると、式1を使用して計算した典型的な黄銅又は青銅のエントロピーは、約0.82R以下である。
【0034】
銅、ニッケル及びマンガンは、第1、第2又は第3の態様の合金において実質的に等しい原子百分率で存在し得る。
【0035】
第1、第2又は第3の態様の合金は、[Cu+Mn+Ni]50〜95原子%と共に残部のAlからなる又はから本質的になり得る。
【0036】
第1、第2又は第3の態様の合金は、[Cu+Mn+Ni]60〜95原子%と共に残部のAlからなる又はから本質的になり得る。
【0037】
第1、第2又は第3の態様の合金は、Cu、Mn、Ni及びAlからなる又はから本質的になり、154〜398の範囲の鋳放し硬度(HV)を有し得る。
【0038】
第1、第2又は第3の態様の合金は、[Cu+Mn+Ni]75〜95原子%と共に残部のSiからなる又はから本質的になり得る。
【0039】
第1、第2又は第3の態様の合金は、[Cu+Mn+Ni]85〜97.5原子%と共に残部のSiからなる又はから本質的になり得る。
【0040】
第1、第2又は第3の態様の合金は、Cu、Mn、Ni及びSiからなる又はから本質的になり、187〜370の範囲の鋳放し硬度(HV)を有し得る。
【0041】
第1、第2又は第3の態様の合金は、[Cu+Mn+Ni]60〜95原子%と共に残部のSnからなる又はから本質的になり得る。
【0042】
第1、第2又は第3の態様の合金は、[Cu+Mn+Ni]75〜95原子%と共に残部のSnからなる又はから本質的になり得る。
【0043】
第1、第2又は第3の態様の合金は、Cu、Mn、Ni及びSnからなる又はから本質的になり、198〜487の範囲の鋳放し硬度(HV)を有し得る。
【0044】
第1、第2又は第3の態様の合金は、[Cu+Mn+Ni]50〜95原子%と共に残部のZnからなる又はから本質的になり得る。
【0045】
第1、第2又は第3の態様の合金は、[Cu+Mn+Ni]65〜80原子%と共に残部のZnからなる又はから本質的になり得る。
【0046】
第1、第2又は第3の態様の合金は、Cu、Mn、Ni及びZnからなる又はから本質的になり、102〜253の範囲の鋳放し硬度(HV)を有し得る。
【0047】
第1、第2又は第3の態様の合金は、[Cu+Mn+Ni]50〜95原子%と共に残部のAl及びZnからなる又はから本質的になる五元合金であり得る。
【0048】
第1、第2又は第3の態様の合金は、Cu、Mn、Ni、Al及びZnからなる又はから本質的になり、200〜303の範囲の鋳放し硬度(HV)を有し得る。
【0049】
第1、第2又は第3の態様の代替合金は、[Cu+Mn+Ni]75〜90原子%と共に残部のAl及びSnからなる又はから本質的になる五元合金であり得る。
【0050】
第1、第2又は第3の態様の代替合金は、[Cu+Mn+Ni]50〜<100原子%と共に残部のSn及びZnからなる又はから本質的になる五元合金であり得る。
【0051】
第1、第2又は第3の態様のさらなる代替合金は、Cu、Mn、Ni、Al、Zn、Snからなる又はから本質的になる合金であり、単相又は二相の黄銅を含み得る。
【0052】
第1、第2又は第3の態様の合金は、140〜760MPaの範囲の圧縮降伏強度を有し得る。或いは、圧縮降伏強度は、290〜760MPaの範囲であり得る。さらなる代替では、圧縮降伏強度は、420〜760MPaの範囲であり得る。
【0053】
第1、第2又は第3の態様の合金は、<2%〜80%の圧縮破壊における歪みを有し得る。代替では、圧縮破壊における歪みは、<2%〜60%であり得る。さらなる代替では、圧縮破壊における歪みは、<2%〜40%であり得る。さらに別の代替では、圧縮破壊における歪みは、<2%〜<5%であり得る。
【0054】
さらなる一態様において、第1、第2又は第3の態様による合金の鋳物を提供する。鋳物は、熱処理され得る。
【0055】
本明細書の全体にわたって使用される用語「合金」は、鋳物に関する言及を含む。この用語はまた、上記で定義した第1、第2、又は第3の態様によって定義される組成物を有する他の金属製品をその範囲内に含む。
【0056】
本明細書に開示の合金が付随の不可避不純物を含有し得ることを当業者なら理解するであろう。
【発明を実施するための形態】
【0057】
典型的な黄銅及び青銅の性質と比較して望ましい性質を有するように、本出願人らが行った試験作業によりHEBを特定した。特に、HEBは、典型的な黄銅及び青銅中のかなりの部分の銅をマンガン及びニッケルと置き換えることにより、典型的な黄銅及び青銅の混合エントロピー(上記の式1によるΔSmix)と比較してかなり高い混合エントロピーを有する合金を生成することで望ましい性質が得られるという本出願人らによる認識に基づいている。
【0058】
一連の典型的な黄銅組成物及びそれらに関連する機械的性質を表1に列挙する。その中で、銅含有量は61原子%〜85原子%の範囲にあり、引張降伏強度は186MPa〜315MPaの範囲にある。しかし、引張降伏強度が銅含有量に対して直線的に変化していないことが認識されるであろう。これらの合金はすべて、式1に従って計算した場合、約0.82R以下の混合エントロピーを有する。
【0059】
【表1】
【0060】
【数2】
【0061】
本出願人らは、典型的な黄銅及び青銅中のかなりの量の銅をマンガン及びニッケル及び他の合金化元素と置き換えて、少なくとも1.1Rの、式1による混合エントロピーを有する合金を生成することによって、同等の又は向上した機械的、化学的及び物理的性質を有する合金を得ることができることを見出した。
【0062】
合金は、Cu10〜50原子%、Ni5〜50原子%、及びMn5〜50原子%を有し得る。合金は、合金の所望の性質に応じて、様々な量のZn(0〜50原子%)、Sn(0〜40原子%)、Fe(0〜2原子%)、Cr(0〜2原子%)、Pb(0〜2原子%)、Co(0〜2原子%)、及びSi(0〜25原子%)を場合により含む。しかし、合金が少なくとも1.1Rの式1による混合エントロピーを有するように、合金がCu、Mn及びNiと一緒に所定量の他の合金化元素を含み得ることを認識されるであろう。
【0063】
本出願人が特定した合金の例を調製し、試験して、それらの性質を測定した。例を以下に概説する。例はすべて以下の方法によって調製した。
【0064】
Tiゲッターされたアルゴン(99.999vol%)雰囲気においてBuhler MAM1アーク溶解装置を使用して、高純度元素Cu(99.95wt%)、Ni(99.95wt%)、及びMn(99.8wt%)から実質上等原子のCu、Mn、及びNiの三元母合金を調製した。均質の母合金が確実に得られるように、母合金のインゴットを5回回転溶融した。また、Mnの蒸発を回避するために、溶融過熱が確実に十分低くなるように注意した。
【0065】
窒化ホウ素被覆黒鉛るつぼ中で母合金を純粋なZn(99.99wt%)と組み合わせることによって、Znを含有する四元及び五元合金インゴットを誘導炉を使用して合金にした。Zn蒸発を最小限にし、さらに均質の合金溶融物を生じさせるために、これらの合金を700℃、900℃、及び1050℃において十分な保持時間で段階的に加熱して、Zn中の母合金の溶解を可能にした。この合金化方法では、一定のZn蒸発速度が測定された場合、この損失を補うために過剰なZnをこれらの合金に添加した。蒸発によるZn損失は20%未満であったが、Znを含む合金のための現在の製造法による工業規模製造では、製造中のZn損失が約20%になることが予想される。
【0066】
母合金に残部のAl(99.99wt%)又はSn(99.95wt%)を添加し、アーク溶融し、銅型に真空鋳造して3mm直径のロッドを生成することによって、Al又はSnを含有する四元合金を生成した。
【0067】
固体化後、合金試料を型から取り出し、室温に放冷した。次いで、それらを昇降式炉において循環アルゴン雰囲気下で850℃で18時間熱処理し、その後、水中で急冷した。
【0068】
[Cu,Ni,Mn]100〜xAlx合金系
以下の表2は、Cu、Ni、Mn、Al合金の6種の試料及びいくつかの基本性質を列挙している。
【0069】
【表2】
【0070】
試料は、アルミニウム含有量の増加と共に硬度が増加することを示している。しかし、5原子%の最低アルミニウム含有量の合金でさえ、表1に列挙した典型的な黄銅のどれよりも高い硬度を示した。さらに、強度はネーバル黄銅、並びにC26000、C23000、及びC35300合金と同程度であるが、延性は同程度の強度において大幅により高い。
【0071】
アルミニウムが20原子%超の場合、試料は、表1の黄銅よりかなり高い硬度を有したが、圧縮歪みはかなり小さかった。25原子%及びそれを超えるアルミニウムを含む試料は磁性を示した。
【0072】
10原子%及び20原子%のアルミニウムを含む試料は、式1によるエントロピーがそれぞれ1.314R及び1.379Rである。
【0073】
[Cu,Ni,Mn]100〜xSix合金系
以下の表3は、Cu、Ni、Mn、Si合金の4種の試料及びいくつかの基本性質を列挙している。
【0074】
【表3】
【0075】
アルミニウムを含む四元系のように、ケイ素を含む四元系は、表1に列挙した典型的な黄銅より高い硬度を有する。しかし、ケイ素が少量の場合でさえ微弱な磁性が存在する。
【0076】
[Cu,Ni,Mn]100〜xSnx合金系
以下の表4は、Cu、Ni、Mn、Sn合金の4種の試料及びいくつかの基本性質を列挙している。
【0077】
【表4】
【0078】
スズを含む四元合金系の結果は、表1に列挙した典型的な黄銅合金と比較してかなり高い硬度及び強度を示す。比較的少量のスズで、四元合金系は磁性を示す。
【0079】
少なくとも20原子%のスズを含む試料は、鋳放しにおいて400HVを超える硬度を有し、更に熱処理に良好に反応し、両方の試料の硬度が500HVをかなり超えて増加したという結果を示した。
【0080】
[Cu,Ni,Mn]100〜xZnx合金系
以下の表5は、Cu、Ni、Mn、Zn合金の4種の試料及びいくつかの基本性質を列挙している。
【0081】
【表5】
【0082】
亜鉛ベースの四元合金は磁性を示さず、亜鉛が35原子%未満の場合、合金は他の四元合金試料と比較して比較的低い硬度を示した。しかし、亜鉛が比較的低い(即ち、20原子%及び25原子%の亜鉛)試料は、比較的高い延性を示した。
【0083】
[Cu,Ni,Mn]100〜x[Al,Sn,Zn]x合金系
以下の表6は5種の試料を列挙しており、そのうちの1種はCu、Ni、Mn、Al、Snからなり、残りはCu、Ni、Mn、Al、Znからなる。
【0084】
【表6】
【0085】
すべての五元試料の硬度は、表1に列挙した典型的な黄銅の硬度よりかなり高い。表4及び5に開示したスズベース及び亜鉛ベースの四元合金の両方のように、スズを含む五元合金試料は磁性を示すが、亜鉛を含む五元合金は示さない。アルミニウムは合金に磁性を生じさせることができるが、五元合金中のアルミニウムは磁性を生じさせるには不十分である。
【0086】
エントロピーの点からこれらの合金の状況を述べると、[CuNiMn]80Al10Zn10からなる試料は、式1に従って計算した場合、1.518Rのエントロピーを有する。
【0087】
表2〜6に開示した合金はCu、Ni及びMnを実質的に等しい原子含有量で含む母合金をベースとしているが、本発明は等しい原子含有量のCu、Mn及びNiに限定されるものではない。所与の合金中のCu、Ni及びMnの相対量が、その合金の指定用途に必要な性質に応じて選択されるであろうことが企図される。以下の説明は、いくつかの用途、及びその用途にとって所望の性質を生じさせるためにどのように合金組成を調整し得るかに対処するものである。
【0088】
用途別の合金バリアント
上記の例は、所望の性質を生じさせるために合金組成を調整することによって有用に適用され得る可能性のあるHEBの全範囲の一部である。様々な用途の例及びどのように組成物を調整するかを以下に概説する。
【0089】
コスト低減合金
5年の市場価格に基づいて、kg基準では、ニッケルは銅より高価(約1.5倍の価格)であり、マンガンは本質的に銅の価格の1/3である。HEBが黄銅及び青銅中のかなりの量の銅をニッケル及びマンガンと置き換えることを伴うと考えると、原材料コストの節約が5〜10%、合金で使用されるニッケルがより少ない場合はそれを超える節約が予想される。例えば、Ni含有量がより低く且つMn含有量がより高い合金は、等比の合金(即ち、等しい原子含有量のCu、Ni及びMn)よりかなり安く製造され、同様の強度を示すが、より速く加工硬化する可能性があり、恐らく耐食性が低くなるであろう。
【0090】
耐食性
一方、Ni含有量がより高い合金は優れた耐食性を示すであろう。Alを含有した合金には、著しい耐食性があることが判明した。これらは、高耐食性が必須である状態-言うなれば、海事用途に適するであろう(典型的な黄銅は既に良好な耐食性を示すが、ニッケル含有量がより高いと、さらにより良好な耐食性を有するHEBがもたらされると予想される)。
【0091】
抗細菌性
これらの合金が従来の黄銅と同様の「抗微生物性」の性質を有するであろうことが予想される。銅はある範囲の環境において高い抗微生物性を示すことが既知であり-このため、ドアノブ及び海事用構成部品は通常黄銅である-微生物/フジツボは絶対にその上で成長しない。ニッケルも抗微生物性を示すことが既知であるが、銅よりわずかに毒性がある。本質的に、銅及びニッケル含有量がより高いことは、これらの抗微生物/防汚タイプの合金にとって好ましいことである。
【0092】
高成形性用途
通常の黄銅と同様に、Al、Sn及びZnの添加が少量の場合、これらの合金のみが、焼鈍された状態で柔軟且つ延性の「アルファ」相を含有している。より多くのAl、Sn又はZnが添加されると、これらの合金は、はるかに硬く且つより低延性の「ベータ」相を析出し始める。Al<4原子%又はSn<4原子%又はZn<30原子%である場合、ベータ相は存在せず、これらの合金は、強度はより低いが延性は高くなる。これらの合金は、金属を広範に延伸成形する、言うなれば、軍需品用黄銅(弾薬包のスピニング/成形)又は楽器又は管と同様の成形用途に最も適するであろう。
【0093】
高耐摩耗及び低摩擦用途
5<Al<20又は4<Sn<10又は30<Zn<40(原子%)である場合、これらの合金は、二相微細構造を示し、アルファ相のみの合金よりかなり強く且つ硬いが、それでも相当強靭である。これらの合金は、鍵、蝶番、歯車/歯、ジッパー、ドアラッチなどの高摩耗/低摩擦用途に最も適するであろう。Zn及びAlの添加がより高い場合、これらの合金はまた、わずかだが、より軽く(より低密度に)なり、通常の黄銅よりかなり安く製造される。
【0094】
軽量
HEB合金は、軽量化に関してだけチタン又はアルミニウム合金と比較した場合、必ずしも「軽量」とは見なされないであろう。しかし、それらは、ただ単にMn及びNi(ここでも有利)が存在するために典型的な黄銅(非常に重い)より常に「軽い」のである。HEBの密度は、通常、鋼と同程度である。
【0095】
しかし、ある比強度が機能に求められるがこの要件に基づいて寸法が変更できる物品では、材料をさらに節約することができる。特に、HEBは、同様の銅と亜鉛又は銅とアルミニウムの含有量を含む黄銅又は青銅の強度よりも10〜30%高い強度を示し、したがって、同じ製品強度を得るのに必要とされる材料はより少なくなる。その結果として、所与の用途に関して19〜47%の全材料コスト節約が現実的になる。
【0096】
低温破壊靭性
従来の鋼ボルトはbccであり、bcc微細構造は温度依存性延性-脆性遷移を示す。この理由から、鋼/bcc金属を低温に冷却すると、それらは荷重下で容易に粉砕されるか、又は亀裂が入る可能性がある。Al<4原子%又はSn<4原子%又はZn<30原子%である場合、これらの合金はfccであり、したがって、低温においてこの延性-脆性挙動を示さない。少量のbcc相でさえ、これらの合金は低温で延性を示すと予想される。
【0097】
無火花
鋼、ステンレス鋼、チタン及びマグネシウムはすべて、研磨材で研磨したときに火花を発する。これはいくつかの環境、特に揮発性/可燃性物質が存在する環境には適さない。通常の黄銅及び青銅と同様に、HEB合金は研磨時に火花を出さない。
【0098】
無マーキング/ステイニング(指紋)
HEB合金を磨くと、ステンレス鋼と同じように、ステイン又は指紋がついていないように見える(例えば、つや消し金属表面処理された冷蔵庫及び家電製品は鉄との反応により常時ステイニングを受ける傾向がかなり高い)。これは恐らく銅の酸化ポテンシャルに起因する(金属銅はより安定である)。Cu、Ni含有量がより高く且つAlを含有するHEB(例えば、[Cu,Mn,Ni]85〜99Al1〜15)は、ステンレス鋼と同じようにマーキングを受けにくい。
【0099】
磁性
これらの合金のうちのいくつかは、強力な強磁性を示す。これは、Mnが、磁気的に秩序化したbcc相においてAl、Sn又はSiと一緒に存在することに起因する。Al、Sn及びSi含有量が増加すると、磁性相の体積分率が増加し、合金の磁性強度も増加する。組成範囲は非常に特有である。四元合金に関して、範囲は次のとおりである:[Cu,Mn,Ni]70〜80Al20〜30、[Cu,Mn,Ni]70〜95Sn5〜30、[Cu,Mn,Ni]70〜97.5Si2.5〜30。この秩序化したbcc相に基づいて、Mn及び(Al又はSn)の最適量は25原子%であり、例えば、[Cu,Ni]50Mn25[Al又はSn]25である。Siの好適範囲は15〜25原子%であり、例えば、[Cu,Ni]50〜60Mn25Si15〜25である。これらの合金は非常に脆性があり、永久磁石の作成には従来の粉末圧密法が必要であろう。
【0100】
スズ含有合金は、最も高い磁性応答を示す。亜鉛四元合金は非磁性である。また、五元合金は磁性を示す。この組成範囲内のSn及びAlの任意の組合せ、例えば、[Cu,Mn,Ni]70〜95[Al,Sn]5〜30は、磁性を示す。Cu、Ni及びMnの、且つZn及びAlを含む五元合金は、微弱な磁性を示す。しかし、Cu、Ni及びMnの、且つZn及びSnを含む五元合金は、中程度の磁性を示す。これは合金中に強力な磁性挙動を誘起するSnに起因するが、Snは比較的少量、例えば5原子%超である。同じ理由で、Cu、Mn、Ni、Al、Zn及びSnの合金が秩序化したbcc相の存在により磁性を示すことが予想される。
【0101】
加工及び機械加工性
HEB合金は、従来の黄銅と同様の溶融及び鋳造特性、並びに同様の製造後作業/機械加工特性を有し、既存の加工技術を変更することなく現在の黄銅と同じように加工することができる。
【0102】
特に、少量のPbを添加すると、機械加工性が向上するであろう。Pbは通常の黄銅と混和せず、したがって、黄銅内に微細分散系を形成して、大量の黄銅の機械加工性を向上させることが理解されよう。HEB中にPbを同様に添加すると、同様の効果がもたらされるであろうことが予想される。
【0103】
これには、被覆を施す方法が含まれる。より具体的に言うと、多くの黄銅ベースの製品が、より固く、より耐食性の、又はより見た目のよい被覆、例えば、クロム、ニッケル、銀さらには金などでめっきされる。これらの新規な高エントロピー黄銅に関して、容易なめっきを可能にする電気化学的性質は従来の黄銅と変わりなく、したがって、これらの商業的処理は今も十分に適合する。
【0104】
リサイクル性
世界的規模の黄銅リサイクル産業が既に存在しており、黄銅の耐食性及び比較的低い融点のおかげで、これはリサイクル鋼よりも経済的に実行可能で効率的である。これらのHEB合金も例外ではなく、実際に、リサイクルされた従来の黄銅から確実にある程度製造され、それによって、リサイクルを繰り返すごとにコストをさらに削減することができる。
【0105】
添付の特許請求の範囲において、及び前述の説明において、文脈によって要求される場合以外、そうでなければ表現言語又は必然的な含意による以外は、単語「含む(comprise)」、及び「含む(comprises)」又は「含んでいる(comprising)」などの変形は、包括的な意味で使用されるものである。即ち、規定された特徴の存在を詳述するものであるが、本明細書に記載の装置及び方法の様々な実施形態におけるさらなる特徴の存在又は追加を除外するものではない。
【国際調査報告】