(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-538652(P2017-538652A)
(43)【公表日】2017年12月28日
(54)【発明の名称】リチウム金属リン酸塩の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 25/45 20060101AFI20171201BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20171201BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20171201BHJP
【FI】
C01B25/45 Z
H01M4/58
H01M4/36 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-530223(P2017-530223)
(86)(22)【出願日】2015年12月2日
(85)【翻訳文提出日】2017年7月20日
(86)【国際出願番号】FI2015050844
(87)【国際公開番号】WO2016087716
(87)【国際公開日】20160609
(31)【優先権主張番号】20146056
(32)【優先日】2014年12月2日
(33)【優先権主張国】FI
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】517193213
【氏名又は名称】ケリベル オイ
【氏名又は名称原語表記】KELIBER OY
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100179866
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】オッレ シレーン
(72)【発明者】
【氏名】ペッカ エイ タンスカネン
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CB12
5H050FA18
5H050GA02
5H050GA03
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5H050GA15
5H050GA27
5H050HA01
5H050HA10
5H050HA14
5H050HA15
(57)【要約】
本発明は、炭素被覆リチウム金属リン酸塩を、リチウムを含有する原料から製造する方法であって、重炭酸リチウムを含む溶液を工業プロセスの流れから準備する工程;溶液中の重炭酸リチウムを、金属イオン、リン酸イオンおよび炭素源と反応させる工程;固体を、重炭酸リチウムを含む溶液から固液分離により分離する工程;および固体を熱処理し、炭素被覆リチウム金属リン酸塩を提供する工程を含む方法に関する。本方法を連続的に実施し、特に電気化学工業用、例えばイオン正極化学物質用のリチウムイオン正極化学物質を製造することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素被覆リチウム金属リン酸塩の製造方法であって、
精製された重炭酸リチウムを含む溶液を準備する工程、
該溶液中の該重炭酸リチウムを、金属イオン、リン酸イオンおよび炭素源と反応させ、固体沈殿物を生成する工程;
該固体を該溶液から固液分離により分離する工程;および
該固体を熱処理し、炭素被覆リチウム金属リン酸塩を提供する工程
を含む、方法。
【請求項2】
工業用炭酸リチウム組成物を二酸化炭素と接触させて炭酸リチウムを重炭酸リチウムとして水相に溶解させ、任意に非溶解物質を分離することによって、該重炭酸リチウム溶液が工業用炭酸リチウム組成物の精製により得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該重炭酸リチウム溶液が、
リチウム鉱物を炭酸ナトリウム溶液で加圧溶解し、二酸化炭素を用いる分離と精製後に該重炭酸リチウム溶液を回収することにより、
リチウム鉱物を鉱酸で抽出して炭酸リチウム組成物を得て、これを二酸化炭素で処理し、重炭酸リチウム溶液を形成することにより、または
工業グレードの炭酸リチウム溶液を二酸化炭素で精製し、高純度の重炭酸リチウム溶液を形成することにより、得られる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
該重炭酸リチウムが、リシア輝石、葉長石、リシア雲母もしくはそれらの混合物、または天然リチウム含有塩水、特にリシア輝石から得られる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
該重炭酸リチウム溶液が、リシア輝石からのリチウム化学物質の生成から得られ、炭酸リチウムを水溶液中に二酸化炭素と共に溶解させ、方沸石を分離し、任意に残りのリチウム化合物を精製する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
該金属イオンが、金属リン酸塩、金属硫酸塩、金属酸化物、金属硝酸塩、金属亜硝酸塩、金属亜硫酸塩、金属ハロゲン化物、金属炭酸塩およびそれらの混合物からなる群より選択される化合物から得られる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
該金属イオンが、遷移金属イオン、好ましくは鉄イオンである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
該リン酸イオンが、金属リン酸塩、リン酸およびそれらの混合物からなる群より選択される化合物から得られる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
該炭素源が、グルコース、フルクトース、スクロース、マルトース、デキストロース、サッカロース、アスコルビン酸、パントテン酸、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カルシウム、アスコルビン酸カリウム、パルミチン酸アスコルビル、ステアリン酸アスコルビル、プテロイン酸、パラアミノ安息香酸、グルタミン酸、プテロイルグルタミン酸およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
該炭素源が、リチウム金属リン酸塩に炭素被覆、特に全て炭素の被覆を提供するのに十分な量で存在する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
該炭素源が、該金属イオンの10〜60重量%、好ましくは該金属イオンの20〜55重量%、好適には該金属イオンの25〜45重量%、特に該金属イオンの40重量%の量で存在する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
該反応が、水相中における温度で、130℃を超える温度、好ましくは140〜200℃で実施される、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
該反応が、5バールを超える圧力、好ましくは6〜20バールの範囲の圧力、特に約10バールの圧力で実施される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
該反応が、7を超えるpH、好ましくは14未満のpH、典型的には7.5〜12で実施される、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
該pHが、アンモニア、金属水酸化物、金属酸化物もしくはそれらの混合物の群から選択されるアルカリまたは塩基の添加により増加する、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
重炭酸リチウムを含む分離された溶液が、重炭酸リチウムを含有する精製された溶液を生成する濾過により精製され、炭酸リチウム結晶が、重炭酸リチウムを含有する該精製された溶液から結晶化により回収される、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
該リチウム遷移金属リン酸塩上の炭素被覆が反応中にカラメル化され、カラメル化炭素被覆を提供する、請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
該カラメル化炭素被覆が、400℃を超える、特に500℃を超える、好適には600℃を超える、最も好適には約650℃、典型的には1200℃以下の温度での熱処理の間に燃焼され、炭素被覆リチウム金属リン酸塩を提供する、請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか一項に記載の方法であって、
精製された重炭酸リチウムを含む溶液を準備する工程、
該溶液中の該重炭酸リチウムを、金属イオン、リン酸イオンおよび炭素源と反応させ、固体沈殿物を生成する工程、
該固体を重炭酸リチウムを含有する該溶液から固液分離により分離する工程、および任意に
該固体を熱処理し、炭素被覆リチウム金属リン酸塩を提供する工程、
の少なくとも1つ、好ましくは全てを、連続プロセスの形態で実施する、方法。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法であって、該重炭酸リチウム溶液が、
リチウム原料の抽出により、または工業グレードの炭酸リチウム溶液の精製により得られ、および
このようにして得られた重炭酸リチウム溶液が、任意に精製後に、炭素被覆リチウム金属リン酸塩の調製のためにそのまま使用される、方法。
【請求項21】
炭素被覆リチウム金属リン酸塩が、重炭酸リチウムの別のリチウム化合物への介在転換なしに、例えば沈殿により、リチウム原料から得られた重炭酸リチウムから調製される、請求項1〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
電池の正極材料として適した炭素被覆リチウム金属リン酸塩を製造するための、請求項1〜21のいずれか一項に記載の方法の使用。
【請求項23】
該リチウム金属リン酸塩正極が、少なくとも1つの電気化学セルを含む電池で使用され、前記電気化学セルは正極および負極を含む、請求項22に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム金属リン酸塩に関する。特に、本発明は、リン酸鉄リチウム(LiFePO
4)などのリチウム遷移金属リン酸塩を製造する方法に関する。本発明はまた、炭素被覆リチウム金属リン酸塩およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
電極材料としてのリン酸鉄リチウムの使用は、当該技術分野においてよく知られている。リチウムイオン電池の正極としての使用は、A. K. Padhi et al.により最初に提案され、後に二次リチウム電池の正極としての使用が、WO 02/099913において提案された。
【0003】
リチウム金属リン酸塩は、固相合成、エマルション乾燥、ゾル−ゲル処理、溶液共沈、気相堆積、電気化学合成、電子ビーム照射、マイクロ波処理、水熱合成、超音波熱分解、および噴霧熱分解などの多くの方法により、Zhang et alに議論されているように合成することができる。
【0004】
慣習的に、リチウムイオンの好ましい供給源は水酸化リチウムである。例えば、WO 2014/004386は、水酸化リチウムを、遷移金属イオン、リン酸イオン、炭酸塩、炭酸水素塩、ギ酸塩または酢酸塩の供給源を含む他の前駆物質と水および共溶媒中で混合し、リチウム遷移金属リン酸塩を形成する方法を開示している。
【0005】
リチウムイオンの多様な供給源を利用するプロセスも、当該技術分野において知られている。したがって、US 2013/0047423は、水酸化リチウム一水和物または炭酸リチウム、四水和鉄、およびリン酸二水素アンモニウムから出発するリン酸鉄リチウムの製造方法を教示している。同様に、US 2011/0200508は、リン酸鉄リチウムを製造するための精製水酸化リチウムの使用を開示する。
【0006】
CN 102496711は、炭酸リチウム溶液に二酸化炭素を供給し、得られた重炭酸リチウム溶液を、リン酸および硫酸第一鉄の混合溶液と反応させる方法を開示する。
【0007】
EP 2 612 839は、リチウムイオン源、2価遷移金属イオン源およびリン酸イオン源を極性溶媒の存在下で変換反応させ、リチウム金属リン酸塩を製造する方法を開示する。
【0008】
1990年代後半に、リチウム金属リン酸塩への炭素被覆の適用が、カソード材料としてのそれらの使用に有益な効果を有することが発見された。
【0009】
CN 1013982は、炭素で被覆されたリン酸鉄リチウムの製造方法を開示し、その方法では、鉄塩、金属化合物、クエン酸およびリン化合物を水中で混合し、反応させて沈殿物を得る。次いで、炭素源およびリチウムをその洗浄した沈殿物に添加し、反応させ、焼成し、炭素で被覆されたリン酸鉄リチウムを得る。
【0010】
同様の技術は、Journal of Power Sources, February 2008におけるLiangらによる論文に記載されている。
【0011】
炭素被覆に加えて、リチウム金属リン酸塩の種々の他の被覆が知られている。例えば、US 2009/028772は、リン酸鉄リチウムを酸化物炭素複合体で被覆する方法に関する。Luらは、水熱ルートにより調製された炭素被覆LiFePO
4ナノ粒子の電気化学的挙動に対するF−ドーピングの向上をElectrochimica Acta, July 2011における論文において開示する。
【0012】
炭素被覆リチウム金属リン酸塩を製造する既存の技術に関連する主な欠点は、そのプロセスを実施するのに必要な工程の多さである。天然資源からの前駆体の製造は、別のプロセスにおいて実施される。例えば、水酸化リチウム一水和物、水酸化リチウムまたは炭酸リチウムは、固体化学物質として予め製造されなければならない。これは、高い投資、エネルギー、および材料費につながる。
【0013】
したがって、既知プロセスの複雑さおよび非効率性は、それらを高価で望ましくないものにし、経済的に高価な炭素被覆リチウム金属リン酸塩生成物をもたらす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、炭素被覆リチウム金属リン酸塩の簡略化された製造方法を提供することである。
【0015】
特定の目的は、連続プロセスでの、リチウム原料の水溶液からの被覆リチウム金属リン酸塩の製造方法を提供することである。
【0016】
本発明のさらなる目的は、炭素被覆リチウム金属リン酸塩を提供することである。
【0017】
本発明のさらなる目的は、新規な炭素被覆リチウム金属リン酸塩およびその使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、リチウム金属リン酸塩を、水溶液中で直接重炭酸リチウムから製造するという概念に基づく。
【0019】
重炭酸リチウム溶液は、すでに工業的なリチウムプロセスに使用されている。例えば、リチウムが炭酸ナトリウム加圧浸出によりリシア輝石から浸出される場合、中間プロセスフローの分離および精製の間に適切な出発材料が生じる。
【0020】
重炭酸リチウム水溶液は、好ましくは高純度に精製される。リチウム化合物は、溶液中の金属イオン、リン酸イオンおよび炭素源と反応することにより、被覆リチウム金属リン酸塩に容易に変換することができる。沈殿物が形成され、これを回収して精製することができる。
【0021】
このようにして得られたリチウム金属リン酸塩は、カラメル化された形態で存在する炭素源により形成された被覆層を示す。次いで、そのような中間生成物をか焼し、カラメル化炭素源を炭素被覆に転換することができる。
【0022】
より具体的には、本発明による方法は、請求項1に記載の特徴を有する。
【0023】
本発明のリチウム金属炭酸塩の使用は、請求項22に記載の特徴を有する。
【発明の効果】
【0024】
本発明はいくつかの利点を提供する。本発明により、炭素被覆リチウム金属リン酸塩は、あるプロセス、例えば連続プロセスにおいて、リチウム金属出発材料(原料)から、リチウム材料を最初にLi
2CO
3もしくはLiOHまたは他のリチウム化合物に変換する必要なく、例えば沈殿により調製することができ、エネルギー、時間および材料の効率を高め、投資および運用費を削減することができる。
【0025】
得られたリチウム精製重炭酸塩溶液を、本発明のリチウム金属リン酸塩の製造のためと、また炭酸リチウムの製造のためとの両方に使用することができる。したがって、第1の期間中に炭酸リチウムを生成し、次いで第2の期間中にリチウム金属リン酸塩を生成し、任意に、第3の期間中にリチウム炭素とリチウム金属リン酸塩との両方を生成するように、本プロセスを運転することができる。そのような多目的運転は、貴重なリチウム原料の適切な利用を保証し、経済的に有利である。
【0026】
本発明のリチウム金属リン酸塩は、電気化学産業のいくつかの用途に使用することができる。一実施形態では、炭素被覆リチウム金属リン酸塩は、電池の正極材料として使用される。
【0027】
さらなる実施形態では、カラメル化炭素源により形成された層で被覆されたリチウム金属リン酸塩は、リチウム金属リン酸塩正極の調製に使用される。
【0028】
さらなる実施形態では、正極材料および/または正極は、少なくとも1つの電気化学セルを含む電池で使用され、前記電気化学セルは正極および負極を含む。
【0029】
さらなる実施形態では、本方法は、電池の正極材料として適した炭素被覆リチウム金属リン酸塩を製造するために使用される。
【0030】
さらなる実施形態では、リチウム金属リン酸塩正極は、少なくとも1つの電気化学セルを含む電池で使用され、前記電気化学セルは正極および負極を含む。
【0031】
本方法は、上述のように時間およびエネルギー効率を高めるだけでなく、材料効率も向上させる。未反応物質を、本方法でのさらなる使用のために再利用することができる。
【0032】
その他の特徴および利点は、以下の好ましい実施形態の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】炭酸ナトリウム浸出によりリチウム鉱物原料をリチウム化学物質へ精製するプロセスの実施形態の概要図である。
【
図2】本技術による、リチウム遷移金属リン酸塩を重炭酸リチウムから製造する実施形態の簡略化したプロセススキームである。
【
図3】実施例2の生成物のXRDスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本文脈において、用語「重炭酸塩」は、「炭酸水素塩」と同義として使用される。
【0035】
「カラメル化」は、炭素源に関して使用される場合、炭水化物材料が熱の影響下で反応して、その成分化合物が少なくとも部分的に分解し、場合によっては酸化して変性された炭素源を与える、炭水化物材料の中間処理状態を表す。そのようなカラメル化炭素源は、リチウム金属リン酸塩により形成された表面に強く結合する。カラメル化された層は、例えば熱分解により炭化され、炭素を形成する。
【0036】
本発明は、天然鉱物および他の天然資源からのリチウムの抽出プロセスの間に調製される、好ましくは当該抽出プロセスから直接得られる、または予め生成された炭酸リチウムの工業的精製プロセスから調製される、重炭酸リチウム溶液から出発する、炭素被覆リチウム金属リン酸塩の製造方法に関する。
【0037】
本方法は、通常、以下の工程を含む:
重炭酸リチウムを含む溶液を準備する工程、
その溶液中の重炭酸リチウムを、金属イオン、リン酸イオンおよび炭素源と反応させる工程、
固体を、重炭酸リチウムを含む、または含んでいた溶液から、固液分離により分離する工程、ならびに
その固体を熱処理し、被覆リチウム金属リン酸塩を提供する工程。
【0038】
次いでそのような被覆リチウム金属リン酸塩を直接熱処理して炭素被覆を生成させることができる。あるいは、炭素源の中間転換生成物の被覆を含むリチウム金属リン酸塩を最初に生成し、次いでそれを第2熱処理工程において炭素被覆に変換するために、熱処理を2工程で行うことができる。
【0039】
典型的には、天然鉱物および他の資源からのリチウムの抽出により得られるLiHCO
3溶液は、リチウム遷移金属リン酸塩LiMPO
4−Cを生成するために直接使用され、これは、例えば電池の電極(例えば、正極)としての使用に適している。したがって、好ましい実施形態では、リチウム原料(リチウム鉱物)の抽出または工業グレード炭酸リチウム溶液の精製により得られるLiHCO
3溶液からのリチウム遷移金属リン酸塩LiMPO
4−Cの製造は、固体材料、典型的には炭酸リチウムまたは水酸化リチウムを調製し、任意に精製し、そしてこの固体材料を再び溶解する別の工程を伴わない。
【0040】
好ましい実施形態によれば、重炭酸リチウム溶液は、炭酸リチウムを含む工業用組成物を二酸化炭素と接触させて炭酸リチウムを重炭酸リチウムの形態で水相に溶解させ、任意に非溶解物質を分離することによる、炭酸リチウムを含む工業用組成物の精製により得られる。
【0041】
したがって、いくつかの例を挙げると、重炭酸リチウム溶液は、
リチウム鉱物を炭酸ナトリウム、特に炭酸ナトリウム溶液の形態で加圧溶解し、続いてその母液を二酸化炭素で処理することにより、
リチウム鉱物を鉱酸で抽出して炭酸リチウム組成物を得て、これを二酸化炭素で処理し、重炭酸リチウム溶液を形成することにより、または
工業グレード炭酸リチウム溶液を二酸化炭素で精製し、高純度の重炭酸リチウム溶液を形成することにより、得られる。
【0042】
当然ながら、異なる供給源から得られた重炭酸リチウム溶液を組み合わせることも可能である。
【0043】
一実施形態では、炭素被覆リチウム金属リン酸塩は、重炭酸リチウムの別のリチウム化合物への介在転換なしに、リチウム鉱物または工業グレード炭酸リチウムなどのリチウム原料から得られた重炭酸リチウムから調製される。
【0044】
典型的には、重炭酸リチウムは、溶液中でその場で精製される。精製された重炭酸リチウムは、次いで、炭素被覆リチウム金属リン酸塩に変換される。
【0045】
本方法は、原料からのリチウムの抽出および重炭酸リチウム溶液の調製から、被覆リチウム金属リン酸塩の製造および回収までの1つの連続プロセスで実施することができる。
【0046】
一実施形態では、生成物の精製プロセスも連続的に実施される。
【0047】
本発明の方法の特徴は、濾過および精製された重炭酸リチウム溶液が、99.9%より高い、さらには99.99%より高い純度を有し得る炭酸リチウムの製造にも有用であるということである。
【0048】
したがって、この技術の一実施形態では、本プロセスは、同じ中間体重炭酸塩水溶液を利用して、リチウム遷移金属リン酸塩と炭酸リチウムとを同時に生成するために使用される。溶液の一部は、適切な金属および炭素源との反応によりリン酸塩を生成するために使用され、一方で別の部分は、結晶化および乾燥により炭酸リチウムを生成するために使用される。生成される2つの成分(リチウム遷移金属リン酸塩/炭酸リチウム)の重量比は、具体的な化合物の実際の商業的要求に応じて、1:100〜100:1の間で変化し得る。
【0049】
図1は、Li
2CO
3およびLiMPO
4を製造するプロセスの概要を示す。
【0050】
そのスキームから明らかなように、本プロセスは、組み合わせて、リチウム金属リン酸塩だけでなく、重要な副流として、方沸石および炭酸リチウムを生成する多くの工程(1〜5)を含む。
【0051】
図1において、参照番号1は、炭酸リチウムおよび重炭酸リチウムの調製のためのリチウムの抽出に適した原料を提供するために必要とされる様々な処理工程を総称する。
【0052】
本プロセスの出発材料、すなわちリチウム化合物の原料は、リシア輝石、葉長石、リシア雲母またはそれらの混合物などのリチウム含有鉱物であり得る。天然リチウム含有塩水も原料として使用することができる。リシア輝石は、比較的高いリチウム含有量と、浸出による処理の容易さとから好ましい。さらに、工業グレードの低純度の炭酸リチウムを得ることもできる。
【0053】
処理工程1は、典型的には、採掘および破砕、重量および磁気分離による濃縮、粉砕および浮選を含む。上記プロセスの間に、リチウム鉱物の結晶形態を変化させる任意の工程を含めることもできる。したがって、好ましい原料の1つは、単斜晶系のα−リシア輝石として天然に存在するリシア輝石である。さらなる処理のために、浸出前に、α形態を正方晶β−リシア輝石に変換する必要がある。これは、例えば、α−リシア輝石またはα−リシア輝石の濃縮物を、回転炉または流動床反応器中で、約1000〜1100℃の温度に適当な時間加熱することにより行うことができる。
【0054】
採掘、破砕、粉砕、および濃縮された原料は、次いでスラリーを生成するために水中でパルプ化2される。リチウム原料は、懸濁された固形物から浸出または抽出されて、リチウム炭酸塩などの適切なリチウム化合物を生成し、これは次いでさらなる処理に使用され得る。この場合、炭酸リチウムは重炭酸リチウムの製造に用いられるが、他のリチウム化合物の製造にも使用することができる。
【0055】
出発物質の浸出または抽出は、炭酸ナトリウムで、圧浸出により、または硫酸などの強い鉱酸を用いることにより行うことができる。さらなる処理に適した溶液は、抽出プロセスによっても得ることができる。
【0056】
浸出は、バッチプロセスとして、または好ましくは連続的に運転されるプロセスとして行うことができる。
【0057】
リシア輝石の場合、リチウムを含有するスラリーの浸出は、炭酸ナトリウムおよび高圧スチームの存在下、オートクレーブ中またはオートクレーブのカスケード中で行うことができる。浸出は、典型的には160〜250℃の温度で行われる。炭酸ナトリウムの存在およびプロセス条件は、炭酸リチウムの形成を引き起こす。この反応は、式Iで表すことができる:
2LiAl(SiO
3)
2+Na
2CO
3+H
2O → 2NaAl(SiO
3)
2・H
2O + Li
2CO
3 I
【0058】
NaAl(SiO
3)
2・H
2Oは、方沸石としても知られ、ゼオライト様の結晶材料である。それは濾過により分離され、回収することができる。方沸石は、例えばケミカルフィルター材料として使用することができる。
【0059】
炭酸リチウムは、好ましくは重炭酸リチウムへの変換の前に精製3される。一実施形態では、精製中、溶液中に混合された加圧CO
2ガスを用いて、リチウムを水に溶解したままにする。
【0060】
重炭酸リチウムは、炭酸リチウムから、式IIに従って炭酸塩を二酸化炭素と反応させることにより生成することができる。
Li
2CO
3 + CO
2+H
2O → 2LiHCO
3 II
【0061】
式IIによる炭酸リチウムの溶液の炭酸化は、好ましくは過剰量の二酸化炭素を用いて行われる。本発明の一実施形態によれば、炭酸リチウムを含む溶液の炭酸化は、周囲温度、典型的には5〜40℃の温度で行われる。本発明の一実施形態によれば、炭酸リチウムを含む溶液の炭酸化は大気圧下で行われる。
【0062】
様々なプロセスアプリケーションが可能である。したがって、炭酸リチウムの炭酸化は、炭酸リチウムを含む溶液の流れの方向に対して二酸化炭素を逆流させることによって行うことができる。
【0063】
上述のように、重炭酸リチウム溶液は、特にリシア輝石から生成された場合、高純度に精製することができるという魅力的な特徴を有する。
【0064】
したがって、炭酸化後、固体は、重炭酸リチウムを含む溶液から、任意の適切な固液分離法により分離される。分離方法の例には、濃縮、濾過およびそれらの組み合わせが含まれる。
【0065】
次いで、重炭酸リチウム溶液の精製は、典型的にはイオン交換で、例えば陽イオン交換樹脂を用いて継続される。好ましくは、カルシウム、マグネシウム、アルミニウムおよび鉄などの3価もしくは2価金属イオン、またはそれらの組み合わせが使用される。
【0066】
イオン交換段階による溶液精製に加えて、適切な精製プロセスには、樹脂に結合した不純物金属の再生が含まれる。これには、典型的には、樹脂を水で洗浄すること、酸性溶液で溶出すること、水で洗浄すること、および水酸化ナトリウム溶液などのアルカリ溶液で中和すること、ならびに水で洗浄することが含まれる。
【0067】
適切な方法は、WO 2010/103173に開示されており、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0068】
精製工程後、リチウム金属リン酸塩を製造するために、重炭酸リチウムを以下に開示するような反応工程に供することができる。しかしながら、高純度の炭酸リチウムを、その結晶化により回収することも可能である。重炭酸リチウム含有溶液は結晶化ユニット6で加熱され、反応IIIに従って炭酸リチウム沈殿物が形成される。
2LiHCO
3 + 熱 = Li
2CO
3 + CO
2+ H
2O III
【0069】
重炭酸リチウムはまた、LiHCO
3水溶液を形成するために加圧CO
2ガスを用いて水に溶解された、予め生成された固体Li
2CO
3化学物質から生じてもよい。精製重炭酸リチウム溶液からの結晶化による炭酸リチウムの製造は、WO 2013/140039Aに記載されており、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0070】
一実施形態では、重炭酸リチウムを含有する分離された溶液は、蒸留により精製される。重炭酸リチウムを含有する精製溶液が、このように得られる。炭酸リチウム結晶は、重炭酸リチウムを含有する精製溶液から結晶化により回収することができる。
【0071】
図2は、リチウム遷移金属リン酸塩を精製された重炭酸リチウム溶液から生成するための、本技術によるプロセスの簡略化されたフロースキームを示す。
【0072】
参照番号11は、リチウム反応物質の出発物質、すなわち、精製された重炭酸リチウム溶液を表す。参照番号12は、試薬、すなわち、遷移金属源、リン酸源および炭素源を表す。
【0073】
リチウム溶液11は、水、二酸化炭素およびリチウム源を含む。水溶液のリチウム源である炭酸水素リチウムは、"LiHCO
3(水)"と表されることもある。略語「水」は、重炭酸リチウムが、水溶液に溶解していることを表し、この水溶液は、少なくとも溶解した二酸化炭素ガスの残留物を含む。
【0074】
試薬混合物12は、1つ以上の遷移金属源、1つ以上のリン酸源および少なくとも1つの炭素源を含む。
【0075】
金属イオンは、金属リン酸塩、金属硫酸塩、金属酸化物、金属硝酸塩、金属亜硝酸塩、金属亜硫酸塩、金属ハロゲン化物、金属炭酸塩およびそれらの混合物からなる群より選択される化合物から得ることができる。
【0076】
さらなる実施形態では、金属イオンは遷移金属イオン、好ましくは鉄イオンである。
【0077】
遷移金属源は、典型的には硫酸鉄(FeSO
4)または硫酸マンガン(MnSO
4)またはその他の遷移金属硫酸塩(MSO
4、Mは遷移金属を表す)およびそれらの混合物である。
【0078】
リン酸源は、典型的には、金属リン酸塩、リン酸およびそれらの混合物からなる群より選択される化合物であり、リン酸(H
3PO
4)が特に好ましい。
【0079】
ミネラル源から様々な生物源に及ぶ様々な炭素源を、本方法で使用することができる。一実施形態では、炭素源は、グルコース、フルクトース、スクロース、マルトース、デキストロース、サッカロース、アスコルビン酸、パントテン酸、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カルシウム、アスコルビン酸カリウム、パルミチン酸アスコルビル、ステアリン酸アスコルビル、プテロイン酸、パラアミノ安息香酸、グルタミン酸、プテロイルグルタミン酸およびそれらの混合物からなる群より選択される。これらの炭素源は、安価で取り扱いが容易であり、本発明の方法に使用する前の前処理を必要としないという利点を有する。
【0080】
好ましい実施形態では、炭素源は、グルコース(C
6H
12O
6)、クエン酸(C
6H
8O
7)、およびアスコルビン酸(C
6H
8O
6)ならびにそれらの混合物から選択される。
【0081】
さらなる実施形態では、炭素源は、金属イオンの10〜60重量%、好ましくは金属イオンの20〜55重量%、好適には金属イオンの25〜45重量%、特に金属イオンの40重量%の量で存在する。
【0082】
重炭酸リチウム溶液を、工程13で試薬混合物と混合する。混合は、反応容器またはオートクレーブ14中で行うことができる。CO
2の過度のガス化を防止するため、試薬をリチウム溶液にゆっくりと加える。溶液のpHは、試薬の添加により約4.5に変化するであろう。
【0083】
反応は、典型的には7を超えるpH、好ましくは14未満のpHで実施される。
【0084】
一実施形態では、pHは、アンモニア、金属水酸化物、金属酸化物もしくはそれらの混合物の群から選択されるアルカリまたは塩基の添加により増加する。アンモニア(NH
3)の添加により、pHは約9に増加する。反応のpHを増加させると、反応速度を増加させるという追加の利点がもたらされる。
【0085】
アルカリまたは塩基の添加は、Li
3PO
4(OH)をターコイズ色の沈殿物として沈殿させる。
【0086】
反応物の添加中、リチウムがリン酸イオンと反応し始めてLi
3PO
4を形成するにつれて、二酸化炭素が溶液から放出される。
【0087】
Li
3PO
4(OH)の形成後、反応器を密閉および加圧し、二酸化炭素または窒素などの不活性ガスで過度の圧力をかけ、試薬の酸化を防止する。
【0088】
リチウム遷移金属リン酸塩LiMPO
4−Cを生成させる反応は、130℃を超える温度、好ましくは130〜220℃、例えば140〜200℃、例えば約170℃、および5バールを超える圧力、好ましくは6〜20バールの範囲の圧力、特に12〜16バールの圧力で行われる。反応時間は、典型的には3〜24時間、好ましくは3〜6時間である。
【0089】
反応の温度は使用される炭素源に関連し、温度の上昇は、炭素源のリチウム金属リン酸塩へのカラメル化を引き起こす。反応の温度は、反応圧力にも関連する。
【0090】
特定の実施形態では、炭素源物質をリチウム遷移金属リン酸塩LiMPO
4上の薄い被覆としてカラメル化するために、反応温度を160℃以上、最大約200℃までに設定する。
【0091】
リチウム金属リン酸塩(LIMPO
4)は、顆粒または粒子の形態で沈殿し、これはカラメル化炭素源物質により被覆されている。
【0092】
反応混合物を濾過15にかけ、浸出液16および固体リチウム遷移金属リン酸塩LiMPO
4−C19を得る。濾過は、典型的には50〜90℃、例えば80℃の高温で、保護N
2雰囲気下で行われる。
【0093】
このようにして得られたLiMPO
4は溶液から分離され、再利用することができる。
【0094】
カラメル化炭素源17で被覆されたリチウム遷移金属リン酸塩は、加熱炉18内で熱処理(例えば熱分解)され、炭素被覆リチウム金属リン酸塩をもたらす。熱処理の間、カラメル化炭素源は非晶質炭素に変換される。
【0095】
非晶質炭素被覆は、リチウム遷移金属リン酸塩物質の電子伝導性を増大させる。
【0096】
工程13、14、15ならびに任意に17および任意に18は、好ましくは、連続運転が可能な装置内で実施される。
【0097】
本方法により、高純度の炭素被覆リチウム金属リン酸塩を生成することができる。
【0098】
炭素被膜は、主としてまたは排他的に、反応混合物中に存在する炭素源により形成される。
【0099】
本発明の一実施形態は、カラメル化炭素源により形成された層で被覆されたリチウム金属リン酸塩を含む。カラメル化炭素は、リチウム金属リン酸塩の少なくとも1重量%、典型的には約1.5〜30重量%の量で存在する。
【0100】
カラメル化炭素被覆を有するリチウム金属リン酸塩は、当該技術分野において未知の新規中間体である。
【0101】
上述のように、カラメル化炭素は続いて炭化に供され、主に炭素(炭素源の炭化残渣)からなる層をもたらす。従って、一実施形態では、カラメル化炭素被覆は、好ましくは還元ガス雰囲気中で燃焼され、熱処理の間、温度は400℃を超え、特に500℃を超え、好適には600℃を超え、最も好適には約650℃であり、典型的には1200℃以下であり、炭素被覆リチウム金属リン酸塩をもたらす。
【0102】
炭素被覆リチウム金属リン酸塩は、典型的には最大10重量%、好ましくは5重量%以下、例えば約0.01〜2.5重量%の炭素含有量を有する。
【0103】
上記に基づいて、以下の実施形態が例証となる:
1.炭素被覆リチウム金属リン酸塩の製造方法であって、
精製された重炭酸リチウムを含む溶液を準備する工程、
溶液中の重炭酸リチウムを、金属イオン、リン酸イオンおよび炭素源と反応させ、固体沈殿物を生成する工程;
固体を、重炭酸リチウムを含む溶液から固液分離により分離する工程;および
固体を熱処理し、炭素被覆リチウム金属リン酸塩を提供する工程
を含む、方法。
【0104】
2.工業用炭酸リチウム組成物を二酸化炭素と接触させて炭酸リチウムを重炭酸リチウムとして水相に溶解させ、任意に非溶解物質を分離することによって、重炭酸リチウム溶液が工業用炭酸リチウム組成物の精製により得られる、実施形態1に記載の方法。
【0105】
3.重炭酸リチウム溶液が、
リチウム鉱物を炭酸ナトリウムで加圧溶解し、二酸化炭素を用いる分離と精製後に重炭酸リチウム溶液を回収することにより、
リチウム鉱物を鉱酸で抽出して炭酸リチウム組成物を得て、これを二酸化炭素で処理し、重炭酸リチウム溶液を形成することにより、または
工業グレード炭酸リチウム溶液を二酸化炭素で精製し、高純度の重炭酸リチウム溶液を形成することにより、得られる、実施形態1または2に記載の方法。
【0106】
4.重炭酸リチウムが、リシア輝石、葉長石、リシア雲母もしくはそれらの混合物、または天然リチウム含有塩水、特にリシア輝石から得られる、実施形態1〜3のいずれか1つに記載の方法。
【0107】
5.重炭酸リチウム溶液が、リシア輝石からのリチウム化学物質の生成から得られ、そこでは炭酸リチウムを水溶液中に二酸化炭素と共に溶解させ、方沸石を分離し、任意に残りのリチウム化合物を精製する、実施形態1〜4のいずれか1つに記載の方法。
【0108】
以下の非限定的な実施例は、本発明を説明する。
【実施例】
【0109】
(実施例1)
Li
2CO
3を、オートクレーブ中で加圧CO
2(10バール)下で水(約2g/70ml H
2O)に溶解し、LiHCO
3溶液を調製した。同時に、H
2O(25ml)を含む丸底フラスコに、窒素雰囲気下で、FeSO
4・7H
2O(12.38g)、H
3PO
4溶液(85%)(3.2ml)および炭素源/還元剤のグルコース(6g)およびアスコルビン酸(1g)を加えた。LiHCO
3溶液を、リチウムが化学量論的に約20%過剰になるまで、撹拌しながら丸底フラスコにピペットで入れた。アンモニアの水溶液(25%、25ml)および界面活性剤(IGEPAL(登録商標)CA−630)(0.1ml)を、丸底フラスコに加えた。形成されたスラリーをオートクレーブ反応器に注ぎ、CO
2中で170℃で3時間反応させた。内容物を冷却した。固体を吸引により溶液から分離し、40℃で真空乾燥した。固体を700℃で3時間窒素下で熱処理した。得られた粒子を直径40μmより小さいものに分け、LiFePO
4(94.2%)を得た。
【0110】
(実施例2)
5.00gのLi
2CO
3を、第1工程(工程1)において、75mlの蒸留水に、10バールのCO
2圧で2時間かけて溶解した。
【0111】
工程2では、12.40gのFeSO
4、0.20gのアスコルビン酸および1.00gのグルコースを50mlの蒸留水に溶解した(溶存酸素の濃度を低下させるために、試薬の添加の前にN
2をその水に約20分間吹き込んだ)。次いで、85%の濃度の3.2mlのH
3PO
4を添加した。
【0112】
工程3では、工程1の重炭酸リチウム溶液を工程2の鉄溶液に加え、オートクレーブを閉じた。酸素を放出させるために、オートクレーブに窒素を約5分間流し、その後オートクレーブを閉じ、加熱を開始した。オートクレーブを170℃に加熱し、21時間その温度に維持した。
【0113】
次に、オートクレーブを工程4において循環水を用いて室温まで冷却し、反応生成物を濾過し、蒸留水で洗浄した。生成物を、60℃の真空オーブンで1日乾燥させた。
【0114】
工程5では、乾燥生成物をCVDオーブン中で、Ar−H
2(5%)のガス雰囲気中、675℃の温度で4時間熱処理し、それによりフェロリン酸リチウム(LFP)の表面上にカラメル化したグルコースを元素炭素に還元した。
【0115】
調製した生成物の電気化学的試験を、Liのセミセルで行った。正極の組成は、85%の活性物質(LFP)、10%の導電性炭素、および5%の結合剤(PVDF)であった。
【0116】
正極の比放電容量は、異なる電流において、以下のとおりであった:
0.03C:140.6mAh/g
0.2C:128.5mAh/g
5C:87.6mAh/g
【0117】
上記から明らかなように、アンモニア(NH
3)は全く使用しなかった。
【0118】
図3は、その物質のXRDにより得られたデータを含む。分析は、Rigaku SmartLab X線回折計(Co−K−α線を使用)で行った。
【0119】
第2の試験では、工程1の重炭酸リチウム溶液と工程2の鉄溶液を工程3で混合した後、2mlのアンモニア水溶液(25%)を工程3で添加した。
【0120】
その後、LFPの比放電容量は、異なる電流において、以下のとおりであった:
0.03C:144.4mAh/g;
0.2C:118.8mAh/g;
5C:69.8mAh/g。
【0121】
(引用符号一覧)
1 採掘、破砕、粉砕および濃縮
2 結晶構造の変換
3 圧力浸出
4 CO
2処理
5 濾過および精製
6 結晶化および乾燥
11 リチウム溶液
12 試薬
13 混合
14 沈殿
15 濾過
16 濾液
17 リチウム金属リン酸塩
18 熱処理
19 炭素で被覆されたリチウム金属リン酸塩
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明は、化学工業、例えば、電気化学産業用のリチウムイオン正極化学物質の調製における、例えば、電気自動車、電池、および太陽、波または風から、潮汐エネルギーから、および水力発電所、または実際に発電所からのエネルギーを蓄えるための電池バンクなど、多様な用途において使用するためのリチウムイオン電池の製造用などの用途を見出す。
【0123】
引用リスト
特許文献
CN 102496711
US 2013047423
EP 2612839
CN 1013982
US 2009028772
WO 2014004386
WO 02/099913
US 2011200508
非特許文献
A. K. Padhi, K. S. Nanjundaswamy, and J. B. Goodenough, J. Electrochem. Soc., 144 (1996) 1188-1194.
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G. Liang, L. Wang, X. Ou, X Zhao, and S. Xu, Journal of Power Sources, 184 (2008), p. 538-542.
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【国際調査報告】