特表2017-539199(P2017-539199A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2017-539199圧電モータを制御するための方法および装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-539199(P2017-539199A)
(43)【公表日】2017年12月28日
(54)【発明の名称】圧電モータを制御するための方法および装置
(51)【国際特許分類】
   H02N 2/00 20060101AFI20171201BHJP
【FI】
   H02N2/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-548521(P2017-548521)
(86)(22)【出願日】2015年10月23日
(85)【翻訳文提出日】2017年7月25日
(86)【国際出願番号】EP2015074588
(87)【国際公開番号】WO2016091443
(87)【国際公開日】20160616
(31)【優先権主張番号】102014225154.0
(32)【優先日】2014年12月8日
(33)【優先権主張国】DE
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】505257752
【氏名又は名称】フィジック インストゥルメント(ピーアイ)ゲーエムベーハー アンド ツェーオー.カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スティーベル,クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ビシュネウスキー,アレクセイ
(72)【発明者】
【氏名】ビーネック,ディーター
(72)【発明者】
【氏名】シンスケ,クルト
【テーマコード(参考)】
5H681
【Fターム(参考)】
5H681BB02
5H681CC02
5H681CC06
5H681FF21
5H681FF24
5H681FF27
5H681FF33
(57)【要約】
本発明は、周期的制御電圧(U11、U12)を2つの駆動電極に印加することにより、これらの駆動電極によって圧電モータを作動させるための方法および装置に関する。本発明によって扱われる問題は、圧電モータの摩擦素子と摩擦素子によって駆動されるべき出力素子との間の摩擦接触の静止摩擦を減らすことによって、同時に出力素子を推進することなく、圧電モータの簡略化された閉ループ制御を実現することである。この問題は、本方法の第1のステップで位相シフトを有する周期的制御電圧(U11、U12)が駆動電極に印加され、本方法の第2のステップで、周期的制御電圧(U11、U12)の振幅比が第1のステップに対して変更されるという点で、解消される。本発明は、さらに、本発明に係る方法を自動的に実行するように構成された、対応する装置に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期的制御電圧を少なくとも2つの駆動電極(11、12)に印加することにより、前記駆動電極(11、12)によって圧電モータ(1)を制御するための方法であって、前記方法の第1のステップで、位相シフトを有する前記周期的制御電圧(U11、U12)が前記駆動電極(11,12)に印加され、前記方法の第2のステップで、前記周期的制御電圧(U11、U12)の振幅比が前記第1のステップに対して変更される方法であって、
前記方法の前記第1のステップで、前記圧電モータ(1)の摩擦素子(14)と前記摩擦素子(14)によって駆動されるべき出力素子(15)との間の摩擦接触の静止摩擦を同時に前記出力素子(15)の推進を発生させることなく減少させるように、前記周期的制御電圧(U11、U12)の位相シフトおよび/または振幅比は調節され、
前記方法の前記第2のステップで、前記第1のステップに関して、前記摩擦素子(14)の振動経路が前記第1のステップと比較して傾斜し、それによって前記出力素子(15)の推進が発生するように、前記周期的制御電圧(U11、U12)の位相シフトおよび/または振幅比は変更されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記方法の前記第1のステップで、前記圧電モータ(1)の前記摩擦素子(14)が励振されて、前記摩擦素子(14)によって駆動されるべき前記出力素子(15)の摩擦面(17)に対して実質的に接線方向にまたは厳密に接線方向に延在する振動経路に沿って振動するように、前記周期的制御電圧(U11、U12)の位相シフトおよび/または振幅比は調節されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法の前記第1のステップおよび/または前記第2のステップで、前記周期的制御電圧(U11、U12)は一定の位相シフトで前記駆動電極(11、12)に印加され、前記位相シフトは、好ましくは実質的に180°に等しい、または厳密に180°に等しいことを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記方法の前記第1のステップで、前記周期的制御電圧(U11、U12)の前記振幅比は一定であり、好ましくは実質的に1に等しい、または、厳密に1に等しいことを特徴とする、請求項1〜3の1項に記載の方法。
【請求項5】
前記方法の前記第2のステップで、前記周期的制御電圧(U11、U12)の前記振幅比は、連続して第2の値に変更される第1の値から始まり、前記第1の値は好ましくは前記第1のステップにおける前記周期的制御電圧(U11、U12)の前記電気振幅比に対応することを特徴とする、請求項1〜4の1項に記載の方法。
【請求項6】
前記方法の前記第1のステップおよび/または前記第2のステップで、前記周期的制御電圧(U11、U12)は実質的に同じまたは厳密に同じ周波数を有し、この周波数は、前記圧電モータ(1)の圧電セラミック素子または超音波モータシステムにおける超音波アクチュエータの電気共振周波数外である、または好ましくは前記電気共振周波数に近いことを特徴とする、請求項1〜5の1項に記載の方法。
【請求項7】
周期的制御電圧を少なくとも2つの駆動電極(11、12)に印加することにより、前記駆動電極(11、12)によって圧電モータ(1)を制御するための装置であって、前記装置は、請求項1〜6の1項に記載の方法を自動的に実行するように構成されていることを特徴とする、装置。
【請求項8】
前記装置は制御装置を備えることを特徴とし、前記制御装置は、好ましくは前記モータ(1)の推進が求められたとき、まず、位相シフトを有する前記周期的制御電圧(U11、U12)を前記駆動電極(11、12)に対して印加し、次に、前記第1のステップに対して前記周期的制御電圧(U11、U12)の振幅比を変えるように構成されている、請求項7に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周期的制御電圧を2つの駆動電極に印加することにより、これらの駆動電極によって圧電モータを制御するための方法および装置に関する。特に、本発明は、好ましくは20kHzを超える周波数領域で動作される圧電超音波モータの分野に関する。
【背景技術】
【0002】
2つの別々の電圧源からの周期的制御電圧が供給される2つの駆動電極を有する圧電モータが、たとえば、US6,747,391B1(図1)で公知である。
【0003】
一般に、圧電モータは、周期的制御電圧を駆動電極に印加することにより、圧電セラミック素子(アクチュエータ)の特定の周期的変形が発生するという原則にしたがって動作する。この変形は、いわゆる摩擦素子(摩擦突起)と摩擦接触している出力素子の推進を発生させるために、摩擦素子を介して出力素子に伝えられる。そこでの変形によって、摩擦素子の特定の運動経路が生じる。通常、この経路は楕円形を有しており、楕円の主軸は、出力素子が移動させられるべき方向に傾いている。楕円の第2の軸は、第一近似における摩擦素子の運動経路が線状または直線状の形を有するように、例外として小さくなり得る。摩擦素子のそれぞれの運動により、出力素子の駆動方向を指す速度要素を有する出力素子に対して、短パルスが作用する。対応する繰返しパルスが、全体として、出力素子の所望の運動につながる。
【0004】
摩擦素子とそれと接触している出力素子の表面(以降、摩擦面とも呼ぶ)との間の局所的および一時的に異なる係合状態および/または静止摩擦状態によって、超音波モータの出力素子は、特定の振幅の電圧を印加するとき、要求通り移動することができることがある一方で、静止したままであることも起こり得る。最終的に、これは、制御電圧‐速度特性または伝達特性に対する非線形性またはヒステリシスである。
【0005】
出力素子が特定の制御電圧で静止したままである上記の場合、係合状態および/または静止摩擦状態は、印加電圧またはその振幅が、それぞれ、摩擦素子をそれ自身と摩擦面との間の静止摩擦状態または係合状態から開放するには、または、必要とされる分離トルクまたは分離電圧をそれぞれ生成するには十分ではないようになっている。
【0006】
そこでは電圧の閾値振幅が存在し、それを超えると、係合状態または静止摩擦状態にかかわらず、出力素子の運動が生じる。通常、電圧の閾値振幅は比較的高く、これがある欠点につながる。なぜなら、電圧が高いと、第一にエネルギー消費が増加するが、第二に、それに応じて、摩擦素子および出力素子を有する超音波アクチュエータのシステムへのエネルギー入力が増加するからである。このようにエネルギー入力が増加すると、超音波アクチュエータおよび出力素子から構成されるシステムには、出力素子が実際に運動する前にある程度機械的に張力がかけられ、出力素子の運動が始まると、特にわずかな距離の動作変位が得られる場合、または、出力素子が大変低い速度で移動させられる場合は、出力素子は、それに応じて、制御技術の点から制御することが難しい高加速を受ける。駆動速度が速い場合は、伝達特性に対して存在し続ける非線形性またはヒステリシスにもかかわらず、超音波モータは、制御電圧の振幅を変えることによって、比較的容易に制御可能である。一方、駆動速度が遅い場合、すなわち、1mm/sより小さい場合は、モータが分離トルクまたは分離電圧の状態になるのを防ぐことは困難であり、最終的には、振動および姿勢差につながり得る。
【0007】
分離電圧の状態でいわゆる不感領域を有する、伝達特性が対応して高い非線形性は、圧電超音波モータの位置が制御された動作にとってはきわめて重大な問題である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、本発明は圧電モータを制御するための方法を提供するという目的に基づいており、これにより、特に駆動速度が遅い場合は、簡略化された位置制御が可能になる。さらに、本発明は、圧電モータを制御するために対応する装置を提供するという目的に基づいている。
【0009】
本発明の第1の態様によると、上記の目的は、請求項1に係る方法によって達成される。周期的制御電圧を少なくとも2つの駆動電極に印加することにより、これらの駆動電極によって圧電モータを制御するための方法が開示される。本方法の第1のステップで、位相シフトを有する周期的制御電圧が駆動電極に印加され、本方法の第2のステップで、周期的制御電圧の振幅比が第1のステップに対して変更される。
【0010】
本方法の第1のステップにおける2つの周期的制御電圧間の位相シフトにより、駆動されるべき出力素子の運動経路に実質的に沿って摩擦素子の振動が発生し、駆動と出力との間の摩擦接触が、静止摩擦(いわゆる補償振動)から解放される。その主軸が摩擦面に対して垂直な状態にある、中心から大きく外れた楕円形の経路上に摩擦素子の振動を引き起こす、2つの駆動電極の同相励振とは対照的に、位相シフトされた作動にも、出力の望ましくない固有振動を大幅に減らす摩擦面に対して垂直な振動成分がわずかに存在するだけになる、または、減少するという利点がある。
【0011】
本方法の第2のステップで、摩擦素子の振動経路の傾斜は、出力素子の推進を調節するために、第1のステップに対して周期的制御電圧の振幅比を変えることによって、変更される。非線形静止摩擦遷移の減少、および、特に伝達特性の対応するヒステリシスは閉ループ制御されたシステムの線形化に等しいため、以前の方法と比べて大幅な改善が得られる。
【0012】
経験から、同様の現象が知られている。つまり、支持部(たとえば、洗濯機、移動車両のダッシュボードなど)の振動によって対象物と支持部との間に接着力は与えられない、またはわずかにしか与えられないため、振動している支持部上に位置決めされた対象物を、最小限の力が作用している状態で、支持部に対して移動させることができる。
【0013】
本発明の有利な展開は、従属項の目的である。
好ましくは、本方法の第1のステップで、圧電モータの摩擦素子が励振されて摩擦素子によって駆動されるべき出力素子の摩擦面に実質的に接線方向にまたは厳密に接線方向に延在する振動経路に沿って振動するように、周期的制御電圧の位相シフトおよび/または振幅比は調節される。本方法の第1のステップで、好ましくは、摩擦素子の振動経路は、圧電セラミック素子(アクチュエータ)の長手方向端部側および/または平らな側面の少なくとも1つに対して水平におよび/または平行に伸びている。出力素子が水平運動経路上で伸びて偏向力が加えられないときは、この場合の出力素子は運動の自由度に沿って力が平衡状態になっており、移動することなくその場でほとんど摩擦素子に接触せずに浮動する。「浮動状態」では、出力素子は力が均衡した状態にある、すなわち、出力素子の動きの自由度に沿って作用する力の合計はゼロになる。このいわゆる「浮動状態」では、出力素子を特定の方向に移動させるには極めて小さなパルスで十分である。周期的制御電圧の振幅幅を調節することによって実現される、摩擦素子の振動経路の主軸をわずかに傾けることによって、出力素子も、低速で短距離にわたって、このいわゆる「浮動状態」から移動させることができる。したがって、動作変位が小さい、および/または速度が遅い場合は、出力素子の位置誤差も最小限にすることができる。
【0014】
本方法の第1のステップで、圧電モータの摩擦素子と摩擦素子によって駆動されるべき出力素子との間の摩擦接触が、同時に出力素子を推進することなく静止摩擦から解放されるように、周期的制御電圧の位相シフトおよび/または振幅比が調節されることが有利であり得る。駆動されるべき出力素子の摩擦面または運動経路が厳密に水平に並べられていて、駆動されるべき出力素子に偏向力が作用しない単純な場合を考慮するだけではないことは、本発明の範囲内である。しかしながら、たとえば、出力素子の摩擦面または運動経路が傾斜している場合、重力または他の力(たとえば、ばねによるプリテンション)が出力素子に作用し得る。周波数(たとえば、156kHz)と振幅(すなわち、振幅比=1)が同じである状態で、駆動電極の逆相された励振(位相シフト=180°)によって、静止摩擦から出力と駆動との間の摩擦接触が開放される。静止摩擦が開放されると出力素子の動きの自由度に沿って作用する力の合計はゼロにはならないため、出力素子は偏向力によって移動するであろう。この偏向力は、出力素子の動きの自由度に沿って出力素子に作用する力が合計でゼロになるように、周期的制御電圧の固有の振幅比および/または固有の位相シフトでの駆動電極の選択的作動によって、補償することが可能である。これにしたがって、出力素子が推進せずに「浮動状態」に保持されるように偏向力を打ち消す力を生成するために、それぞれの超音波モータシステムに応じて、駆動電極に印加されるべき制御電圧の位相シフトおよび/または振幅比を調節することが必要になるかもしれない。
【0015】
摩擦素子の振動経路が第1のステップに対して傾斜してそれによって出力素子の推進が生じるように、本発明の第2のステップにおいて、第1のステップに対して周期的制御電圧の位相シフトおよび/または振幅比を変更することが、さらに有利であり得る。その結果、出力素子の運動の速度および方向に影響が及び得る。
【0016】
さらに、本方法の第1のステップおよび/または第2のステップにおいて、周期的制御電圧を一定の位相シフトで駆動電極に印加することは有用であり得、位相シフトは実質的に180°に等しい、または厳密に180°に等しいことが好ましい。振幅が等しく特定周波数が同じ(たとえば、156kHz)である場合に2つの周期的制御電圧の間の位相シフトが180°であれば、その主軸が摩擦面に接線方向にある状態で、中心から大きく外れた楕円形の経路上で摩擦素子が振動する。このように摩擦面に対して接線方向に高周波数で振動するために、同時に推進を発生することなく、摩擦接触は静止摩擦から解放される。周期的制御電圧間の一定の位相シフトを維持したままで、求められていないであろう他のいかなる運動成分を得ることなく周期的制御電圧の振幅比を変更することによって、圧電モータの摩擦素子の振動経路の傾斜を選択的に変えることができる。
【0017】
本方法の第1のステップにおいて周期的制御電圧の振幅比が一定である、好ましくは実質的に1に等しいまたは厳密に1であれば、さらに有利であり得る。出力素子の摩擦面および運動経路が水平方向に延在して偏向力が出力素子に作用していない場合、バランスのとれた1の振幅比によって、推進しない浮動状態が得られる。偏向力が出力素子に作用する場合、摩擦素子と出力素子との間の摩擦接触が静止摩擦から解放されて出力素子が同じ場所にとどまる浮動状態は、必要であれば、摩擦素子の振動経路の特定の傾斜を調節することによって得られる。
【0018】
本方法の第2のステップで周期的制御電圧の振幅比が連続して第2の値に変更される第1の値から始まっていると、さらに有利であり得、第1の値は第1のステップにおける周期的制御電圧の振幅比に対応することが好ましい。摩擦素子の振動経路の傾斜は、周期的制御電圧の振幅比によって調節される。したがって、振幅比の継続的な変化によって、摩擦素子の振動経路の傾斜が継続して変化する。摩擦素子と出力素子との間の浮動状態に静止摩擦が全くまたはほとんど存在しないため、摩擦素子の振動経路をわずかに傾斜させることによって、出力素子の運動を調節しておくことができる。その結果、突然運動させることなく、出力素子を徐々に動かすことができる。これにより、出力素子の動作を少しだけ変位させ、および/または、その推進速度を低くすることもできる。
【0019】
本方法の第1のステップおよび/または第2のステップにおいて、周期的制御電圧が実質的に同じまたは厳密に同じ周波数を有していると有利なことがさらに判明し得、この周波数が圧電セラミック素子の圧電モータまたは超音波モータシステムの超音波アクチュエータの電気共振周波数よりも高いことが好ましい。
【0020】
圧電モータまたは圧電超音波アクチュエータは、対応する範囲が部分的なアクチュエータを示すように、それぞれの駆動電極の範囲で、音響定在波のための発生器であるとみなすことができる。2つの部分的なアクチュエータの各々は、共振周波数で励振されたときにオーミック抵抗器を形成するインピダンスを示す。
【0021】
周期的制御電圧は、周波数、振幅、および位相が調節可能な少なくとも1つの電圧源を介してこれらの部分的なアクチュエータに印加される。超音波モータを、その周波数が圧電モータまたは圧電超音波アクチュエータの共振周波数にそれぞれ対応する周期的制御電圧で動作させるとき、電流は1つの電流源から2つのインピダンスを介して180°の位相シフトで作動されている別の電流源に流れるであろう。しかしながら、共振周波数付近の範囲における周波数のシフトが小さいと、電圧と電流との間で+/‐180°相回転が生じ、これによって、上述の有利な電流の流れを安定して調節することができない。なお、圧電超音波アクチュエータの共振周波数は一定ではなく、機械的および熱的な付随条件に応じて変化する。類似したこのような変化により、電圧と電流との間で上述の不利な相回転が生じる。したがって、圧電超音波アクチュエータを制御するための周波数は、制御電圧と電流との間の相回転が共振周波数の変化と共にわずかに変化するように、選択される。
【0022】
したがって、共振周波数範囲外の、特に共振周波数近辺の励振は、アクチュエータシステムの電気機械的共振周波数の、必ず常に存在する変化の影響を受けにくい。これは、安定して摩擦素子の運動の振動ベクトルを調節できるようにするための前提条件である。振動振幅は共振周波数において最大になるが、運動ベクトルは、共振周波数の領域では、目標を重視したものではない。
【0023】
上述の本発明の目的は、本発明の第2の態様によれば、請求項9に係る装置によってかなえられる。周期的制御電圧を少なくとも2つの駆動電極に印加することにより、これらの駆動電極によって圧電モータを制御するための装置が開示され、本装置は、先行する請求項の1つに係る方法を自動的に実行するように構成されている。本発明によると、本装置はこの目的に好適なだけではなく、特に圧電モータの出力素子の推進が求められる場合(たとえば、ユーザまたは制御装置によって)、先行する実施形態の1つにかかる方法を自動的に実行するように設定または構成されている。
【0024】
好ましくは圧電モータの推進が求められる場合、装置が、まず、位相シフトを有する周期的制御電圧を駆動電極に印加し、次に、第1のステップに対して周期的制御電圧の振幅比を変更するように構成されている制御装置を備えることは有利であり得る。制御装置は、次のようにプログラムされていることが好ましい。特に出力素子の始動中は、制御装置は、まず(方法の第1ステップにおいて)、周期的制御電圧 (たとえば、2つの別々の電圧源から)の位相シフトおよび振幅比を制御することによって摩擦素子の振動を発生させ、それによって、摩擦素子と出力素子との間の静止摩擦が推進を生じることなく打ち消され(浮動状態)、次に(方法の第2のステップにおいて)、出力素子が推進できるように振幅比を変更することによって摩擦素子の振動経路を修正することを目指している。
【0025】
本発明のさらに有利な展開は、請求の範囲、明細書、および図面に開示される特徴を組み合わせることによって生じるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】電極の指定のための圧電モータの概略図である。
図2】周期的制御電圧(正弦波交流電圧)がいわゆる駆動電極に作用する一方で、いわゆる接地電極が接地されている状態の、図1の圧電モータの概略図である。
図3】左上(a)から右下(j)に、0〜1の範囲で駆動電極に印加された制御電圧の位相差の変化を示す図であり、楕円の進行性の反時計回りに傾斜する、摩擦素子の振動経路の主軸は、時計回り方向に回転する。(a)から(j)の個々の図は、調節された位相差に依存して、出力素子の摩擦面に対して接線方向に(X方向、図1および図2を参照)、および横断方向に(Y方向、図1および図2を参照)偏向を有するXY座標系における摩擦素子の振動経路の進路を示す。
図4】左上(a)から右下(f)に、0%から100%の範囲で180°またはπの位相差で、2つの駆動電極のうちの一方の電極を常に完全に作動させた状態で、他方の電極の励振の振幅の変化を示すための図であり、Y方向の摩擦素子の偏向は0に等しい1(図4(f))の振幅比であり、したがって、摩擦素子の振動経路は摩擦面に対して接線方向に伸びている。(a)から(j)の個々の図は、調節された振幅比に依存して、出力素子の摩擦面に対して接線方向に(X方向、図1および図2を参照)、および横断方向に(Y方向、図1および図2を参照)偏向を有するXY座標系における摩擦素子の振動経路の進路を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
好ましい実施形態の詳細な説明
本発明は、周期的制御電圧を2つの駆動電極11、12に印加することにより、これらの駆動電極11、12によって、圧電モータ1を制御するための方法および装置に関する。これは、特に、たとえば156kHzの周波数で駆動される圧電超音波アクチュエータを有する圧電超音波モータである。
【0028】
本発明に係る方法が適用される圧電超音波モータ1が、図1および図2を参照して以下で説明される。
【0029】
圧電超音波モータ1は、合計3つの電極11、12、13を備える。これらのうち2つの電極11、12は、略立方形状の圧電セラミック素子10(寸法は、たとえば、25mm×11mm×4mm)の2つの平らな側面のうちの一方に位置し、同じ寸法(たとえば、10mm×10mm)およびサイズ(たとえば、100mm)の、実質的に正方形の表面を有している。平らな側面に取り付けられたこれら電極11、12は、制御装置(図示せず)を介して周期交流電圧(周期的制御電圧)U11、U12を生成するための電圧源に接続された、そのため、駆動電極11、12とも呼ばれる。圧電セラミック素子10の反対側の平らな側面に配置されている電極13は接地または地面に接続されており、このため、いわゆる接地電極13と呼ばれる。必要に応じて、電極13を必ずしも接地する必要がないように、(アクチュエータインピダンスと比較すると)低抵抗の抵抗器(たとえば、キャパシタ)を相互接続することができる。
【0030】
各駆動電極11、12は、圧電セラミック素子10のこの平らな側面の実質的に半分を覆い、少なくとも電気絶縁のための狭い分離領域が、駆動電極の間に設けられている。駆動電極11、12は、圧電セラミック素子10の長手方向端部側およびその中央に配置された摩擦素子14(摩擦突起)を通じて伸び、アクチュエータシステムのY軸を規定する仮想中心線に対して対称に配置されている。接地電極13(寸法は、たとえば、20mm×10mm)は、圧電セラミック素子10の他方の平らな側面の実質的に全領域を覆っている。
【0031】
圧電セラミック素子10は、周期的制御電圧U11、U12で制御部を介して選択的に駆動電極11、12を作動させることによって、電圧を供給される。圧電セラミック素子10の圧電特性のために、電圧は、摩擦素子14の振動につながる周期的な機械的変位に変換される。周期的制御電圧U11、U12の位相、振幅、および周波数に応じて、振動経路はX方向および/またはY方向における運動成分を含む。
【0032】
駆動されるべき出力素子15は摩擦接触を介して摩擦素子14に連結されており、X方向を規定する運動経路16に沿って移動できる。好ましくは、この運動経路16は、それ自体から摩擦素子14が突出する圧電セラミック素子10の長手方向端部側に対して、概ねまたは厳密に平行に向けられている。摩擦素子14と摩擦接触している出力素子15の側面は、以降、摩擦面17とも呼ばれる。この場合、運動経路16は水平面に配置されて、電極11、12、13を備える圧電セラミック素子10の長手方向側に平行に、および2つの平らな側面に平行に伸びていると仮定できる。さらに、この場合、出力素子15に作用する偏向力は存在しないと仮定できる。したがって、摩擦素子14と出力素子15との間の摩擦接触が静止摩擦から解放されたときに、出力素子15は、同じ場所で力の均衡がとれた状態のままである。
【0033】
制御装置から得られる制御信号にしたがって周期的制御電圧U11またはU12が電極11または12の一方と電極13との間に印加されると、この制御電圧U11、U12により、運動経路16に沿って第1の方向で、摩擦素子14に連結された出力素子15の機械的変位が発生する。電極12または11の他方と電極13との間に周期的制御電圧U12を印加することにより、運動経路16に沿って反対方向に、出力素子15の機械的変位が発生する。
【0034】
制御装置は、周期的制御電圧U11、U12の位相、周波数、および振幅が互いに独立して変更できるように構成されている。周期的制御電圧U11、U12は、特に、位相がシフトされて振幅が変調された態様で(すなわち、可変振幅比で)、駆動電極11、12に印加可能である。これにより、圧電モータ1は異なる動作領域で最適化可能であり、摩擦が減少し、制御挙動が改善される。
【0035】
本発明に係る方法により、改善された制御特性およびより良い制御挙動を得るために、特に圧電モータ1の重要な動作状況に対して、母数空間の最も好ましい組み合わせが選択される。特に、これは調節距離でおよび/または低速度で出力素子15を推進する場合に当てはまり、本発明に係る方法により、コントローラをより容易に安定させることができる。
【0036】
図3および図4は、XY座標系における、駆動電極11、12に印加される周期的制御電圧U11、U12間の位相差および振幅比の変化が、たとえば、圧電モータ1の摩擦素子14の振動経路にどのように影響を与えるかを示す図である。
【0037】
本発明に係る方法は、以下のステップを備える。
本方法の第1のステップで、電気的に電圧フリーの状態から始まり、それぞれ156kHzの同じ周波数、180°(またはπ)の位相シフト、および1の振幅比を有する周期交流電圧U11、U12が、制御部を介して、同時に駆動電極11、12に印加される。摩擦素子14と出力素子15との間の摩擦接触が静止摩擦から解放されるように、同じ周波数および振幅での2つの駆動電極11、12の逆相の作動により、摩擦素子14は主軸が摩擦面17に対して接線方向にある状態で、中心から大きく外れた楕円形の経路上で振動する。出力素子15に作用する偏向力が存在しない場合、推進は生じない。この状態で、出力素子15はほとんど接触がなく同じ場所で「浮いている」状態のままであるため、この状態は「浮動状態」とも呼ばれる。
【0038】
本方法の第2のステップで、摩擦素子14が沿って振動する楕円形の経路は、駆動電極11、12に印加される周期的制御電圧U11、U12の振幅比を変えることによって傾斜させられる。その結果、出力素子15の運動が調節される。経路の傾斜および結果として生じる推進は、振幅比によって制御可能である。1の値から始まる振幅比は、好ましくは連続して、すなわち、急峻にならないように変更され、駆動電極11、12に印加される周期的制御電圧U11の振幅は好ましくは一定であり、駆動電極12に印加される周期的制御電圧U12の振幅は変更される。
【0039】
任意の第3のステップで、最大静止摩擦状態は、「ターゲットウィンドウ」に達すると(すなわち、出力素子15が所望の目標位置の近辺にあり、目標の位置までの距離が好ましくはナノメートルの範囲であるとき)、「浮動状態」に必要な「補償振動」を選択的に減らすことによって、完全に回復される。これにより、停止した、無電流の自立したアクチュエータを得るという利点を得ることが可能である。
【0040】
本発明に係る装置は、特に圧電モータ1の推進が求められる場合に、本発明に係る方法が上記の方法ステップによって自動的に実行されるように構成されている。本発明に係る装置は、たとえば、駆動電極11、12に周期的制御電圧U11、U12を(たとえば、別々の電圧源から)供給するために2つの駆動電極11、12を有する圧電モータ1に連結可能な制御装置として構成される。
【0041】
たとえば、ユーザが制御装置を介して出力素子15の推進を求めると、周期的制御電圧U11、U12は、出力素子15の「浮動状態」をもたらすために、位相シフトされた状態で同じ周波数および振幅で、制御装置を介して駆動電極11、12に印加される。この状態から始まり、摩擦素子14の振動面が上記のように傾斜し、ユーザによって求められる方向および速度で出力素子15が推進するように、制御ユニットは駆動電極11、12に印加される制御電圧U11、U12の振幅比を、自動的におよびユーザによるさらなる動作を必要とすることなく変調する。
【0042】
その結果、特に、従来の装置と比べて出力素子の位置決めにおいてより高い位置精度を得られるように調節距離が短くて速度が遅い場合に、圧電モータ1の始動中に静止摩擦が突然非線形に遷移するという問題が、本発明に係る装置によって解消される。
【0043】
本発明に係る教示を適用すると、たとえば、正常な状態では電圧フリーである自己ロック式システムを提供できる。いわゆる補償電圧を印加することにより、出力素子15の浮動状態が発生して、自己ロック状態が解消される。補償電圧がない場合は、自己ロック状態は回復される。これによると、自己ロックシステムは、出力素子15の推進が発生し、および/または、その位置が修正される場合にのみ電圧を供給されることになり、そうでない場合は、電圧フリーに維持することができる。これにより、自己ロックシステムを、本発明にしたがって最小の消費エネルギーで動作させることができる。
【0044】
参照番号のリスト
【符号の説明】
【0045】
1 圧電モータ
10 圧電セラミック素子
11 駆動電極
12 駆動電極
13 接地電極(接地されている)
14 摩擦素子
15 出力素子
16 出力素子の運動経路
17 摩擦面
U11 周期的制御電圧
U12 周期的制御電圧
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】