特表2018-500025(P2018-500025A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2018-5000255T4及びCD3に対する3つの結合ドメインを含む融合タンパク質
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2018-500025(P2018-500025A)
(43)【公表日】2018年1月11日
(54)【発明の名称】5T4及びCD3に対する3つの結合ドメインを含む融合タンパク質
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/02 20060101AFI20171208BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20171208BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20171208BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20171208BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20171208BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20171208BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20171208BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20171208BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20171208BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20171208BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20171208BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20171208BHJP
【FI】
   C12N15/00 CZNA
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N1/21
   C12N5/10
   C07K19/00
   C07K16/28
   C12P21/08
   A61K38/17 100
   A61P35/00
   A61P37/02
   A61K39/395 N
   A61K39/395 T
   A61K39/395 U
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】73
(21)【出願番号】特願2017-532005(P2017-532005)
(86)(22)【出願日】2015年12月21日
(85)【翻訳文提出日】2017年8月1日
(86)【国際出願番号】EP2015080795
(87)【国際公開番号】WO2016097408
(87)【国際公開日】20160623
(31)【優先権主張番号】14199493.9
(32)【優先日】2014年12月19日
(33)【優先権主張国】EP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】517206627
【氏名又は名称】バイオテクノル リミテッド
【氏名又は名称原語表記】BIOTECNOL LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(74)【代理人】
【識別番号】100148596
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 和弘
(72)【発明者】
【氏名】メルテンス, ニコ
(72)【発明者】
【氏名】カナ, フィリップ ジェフリー
(72)【発明者】
【氏名】ダ フォンセカ リカルド, アナ リタ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG26
4B064AG27
4B064CA01
4B064CA02
4B064CA05
4B064CA08
4B064CA09
4B064CA10
4B064CA11
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA83X
4B065AA86X
4B065AA87X
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AA93X
4B065AA93Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA07
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA22
4C084CA53
4C084DA39
4C084MA16
4C084MA55
4C084MA59
4C084MA63
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZB072
4C084ZB262
4C085AA14
4C085AA16
4C085BB31
4C085BB41
4C085BB43
4C085BB44
4C085CC02
4C085CC23
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG01
4C085GG02
4C085GG03
4C085GG04
4C085GG05
4C085GG06
4C085GG10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA50
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、3つの結合ドメインを含む二重特異性結合分子であって、第1及び/又は第2の結合ドメインが、5T4細胞外抗原に結合する能力があり、残りの結合ドメイン(複数可)が、T細胞のCD3受容体複合体に結合する能力がある、二重特異性結合分子に関する。そのうえ、本発明は、融合タンパク質をコードしている核酸配列、上記核酸配列を含むベクター、及び上記ベクターを形質転換又は形質移入された宿主細胞に関する。さらに、本発明は、本発明の融合タンパク質の産生のための方法、上記融合タンパク質の医学的使用、及び上記融合タンパク質を含むキットに関する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの異なる鎖を含む融合タンパク質であって、(i)一方の鎖が、2つのVH抗体結合ドメイン、1つのVL抗体結合ドメイン及び1つのCH1抗体ドメイン又はCL抗体ドメインを含み、(ii)他方の鎖が、2つのVL抗体結合ドメイン、1つのVH抗体結合ドメイン及び1つのCL抗体ドメイン又はCH1抗体ドメインを含み、但し、融合タンパク質が、一方の鎖のCH1抗体ドメインと他方の鎖のCL抗体ドメインとの間に1つのヘテロ二量体相互作用を含有することを条件とし、(a)鎖内に形成された1つ又は2つの組合せVH/VL結合ドメインが5T4細胞外抗原に結合する能力があり;(b)鎖内に形成された残りの1つ又は2つの組合せVH/VL結合ドメインが、T細胞のCD3受容体複合体に結合する能力があることを特徴とする融合タンパク質。
【請求項2】
2つの異なる鎖:
a)第1の鎖:VH(5T4)−CH1−L1−VH(CD3)−L2−VL(CD3)又は
VH(5T4)−CH1−L1−VL(CD3)−L2−VH(CD3)を
第2の鎖:VL(5T4)CL−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)又は
VL(5T4)CL−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)と組み合わせたもの、
b)第1の鎖:VH(5T4)−CH1−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)又は
VH(5T4)−CH1−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)を
第2の鎖:VL(5T4)CL−L1−VH(CD3)−L2−VL(CD3)又は
VL(5T4)CL−L1−VL(CD3)−L2−VH(CD3)と組み合わせたもの、
c)第1の鎖:VH(CD3)−CH1−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)又は
VH(CD3)−CH1−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)を
第2の鎖:VL(CD3)CL−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)又は
VL(CD3)CL−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)と組み合わせたもの、
d)第1の鎖:VL(CD3)−CH1−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)又は
VL(CD3)−CH1−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)を
第2の鎖:VH(CD3)CL−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)又は
VH(CD3)CL−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)と組み合わせたもの、
e)第1の鎖:VL(5T4)−CH1−L1−VH(CD3)−L2−VL(CD3)又は
VL(5T4)−CH1−L1−VL(CD3)−L2−VH(CD3)を
第2の鎖:VH(5T4)CL−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)又は
VH(5T4)CL−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)と組み合わせたもの、
f)第1の鎖:VL(5T4)−CH1−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)又は
VL(5T4)−CH1−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)を
第2の鎖:VH(5T4)CL−L1−VH(CD3)−L2−VL(CD3)又は
VH(5T4)CL−L1−VL(CD3)−L2−VH(CD3)と組み合わせたもの、
g)第1の鎖:V1(5T4)CL−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)又は
V1(5T4)CL−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)を
第2の鎖:V2−CH1−L1−VH(CD3)−L2−VL(CD3)又は
V2−CH1−L1−VL(CD3)−L2−VH(CD3)と組み合わせたもの、
h)第1の鎖:V2−CH1−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)又は
V2−CH1−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)を
第2の鎖:V1(5T4)CL−L1−VH(CD3)−L2−VL(CD3)又は
V1(5T4)CL−L1−VL(CD3)−L2−VH(CD3)と組み合わせたもの、
i)第1の鎖:V1(CD3)−CH1−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)又は
V1(CD3)−CH1−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)を
第2の鎖:V2−CL−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)又は
V2−CL−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)と組み合わせたもの
[式中、VH、VLは抗体結合ドメインであり、CH1及びCLは、抗体ドメインである]を含む融合タンパク質であって、(a)鎖内に形成された1つ又は2つの組合せVH/VL結合ドメインが5T4細胞外抗原に結合する能力があり;(b)鎖内に形成された残りの1つ又は2つの組合せVH/VL結合ドメインが、T細胞のCD3受容体複合体に結合する能力があるような、好ましくは請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項3】
1つ又は2つのVH結合ドメインが、配列番号1〜15のうちのいずれか1つからなる、又はそれを含む、又はそれと少なくとも90%の同一性を有する、請求項1又は2に記載の融合タンパク質。
【請求項4】
1つ又は2つのVL結合ドメインが、配列番号16〜25のうちのいずれか1つからなる、又はそれを含む、又はそれと少なくとも90%の同一性を有する、請求項1又は2に記載の融合タンパク質。
【請求項5】
配列番号1〜15のうちのいずれか1つが、配列番号16〜25のうちのいずれかと組み合わせることが可能である、請求項3又は4に記載の融合タンパク質。
【請求項6】
1つ又は2つのVH結合ドメインが、配列番号26〜33のうちのいずれか1つからなる、又はそれを含む、又はそれと少なくとも90%の同一性を有する、請求項1又は2に記載の融合タンパク質。
【請求項7】
1つ又は2つのVL結合ドメインが、配列番号34〜41のうちのいずれか1つからなる、又はそれを含む、又はそれと少なくとも90%の同一性を有する、請求項1又は2に記載の融合タンパク質。
【請求項8】
配列番号26〜33のうちのいずれか1つが、配列番号34〜41のうちのいずれかと組み合わせることが可能である、請求項6又は7に記載の融合タンパク質。
【請求項9】
1つ又は2つの組合せVH/VL結合ドメインが、配列番号42〜44のうちのいずれか1つからなる、又はそれを含む、又はそれと少なくとも90%の同一性を有する、請求項1又は2に記載の融合タンパク質。
【請求項10】
1つ又は2つの組合せVH/VL結合ドメインが、配列番号45〜48のうちのいずれか1つからなる、又はそれを含む、又はそれと少なくとも90%の同一性を有する、請求項1又は2に記載の融合タンパク質。
【請求項11】
1つ又は2つの組合せVH/VL結合ドメインが、配列番号42〜44のうちのいずれか1つからなり、残りの1つ又は2つの組合せVH/VL結合ドメインが、配列番号45〜48のうちのいずれか1つからなる、請求項1又は2に記載の融合タンパク質。
【請求項12】
一方の鎖が、配列番号49を含む、又はそれと少なくとも90%の同一性を有し、他方の鎖が、配列番号50を含む、又はそれと少なくとも90%の同一性を有する、請求項1又は2に記載の融合タンパク質。
【請求項13】
一方の鎖が、配列番号51を含む、又はそれと少なくとも90%の同一性を有し、他方の鎖が、配列番号52を含む、又はそれと少なくとも90%の同一性を有する、請求項1又は2に記載の融合タンパク質。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の融合タンパク質をコードしている核酸配列。
【請求項15】
請求項14に記載の核酸配列を含むベクター。
【請求項16】
請求項14に記載の核酸配列又は請求項15に記載のベクターを形質導入又は形質移入された宿主細胞。
【請求項17】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の融合タンパク質の産生のための方法であって、請求項16に記載の宿主細胞を、請求項1〜13のいずれか一項に記載の融合タンパク質の発現を可能にする条件で培養するステップ、及び産生された融合タンパク質を培養物から回収するステップを含む方法。
【請求項18】
請求項1〜13のいずれか一項に記載された、又は請求項17に記載の方法にしたがって産生された融合タンパク質を含む医薬組成物。
【請求項19】
医薬としての使用のための、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項20】
増殖性疾患、腫瘍性疾患、及び免疫障害から選択される疾患の予防、治療又は回復における使用のための、請求項19に記載の医薬組成物又は請求項1〜13のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項21】
腫瘍性疾患が、細胞外抗原5T4が腫瘍細胞に発現されている癌である、使用のための、請求項20に記載の医薬組成物又は請求項1〜13のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項22】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の融合タンパク質、請求項14に記載の核酸分子、請求項15に記載のベクター、又は請求項16に記載の宿主細胞を含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3つの結合ドメインを含む二重特異性結合分子であって、第1及び/又は第2の結合ドメインが、5T4細胞外抗原に結合する能力があり、残りの結合ドメイン(複数可)が、T細胞のCD3受容体複合体に結合する能力がある、二重特異性結合分子に関する。
【背景技術】
【0002】
モノクローナル抗体5T4によって規定される細胞表面抗原は、早くも発生9週間で全ての種類の栄養膜によって発現される72kDの糖タンパク質である。成体組織では、5T4の発現は、少数の特殊な上皮細胞型に限られ、成体の肝臓、肺、気管支、心臓、精巣、卵巣、脳又は筋肉から検出されない。上記抗原は、発生学的起源をもつ細胞株を含めた多様な腫瘍細胞株によって選択的に発現される。分子的特徴、相対的に限られた正常組織での分布及び特定の腫瘍細胞型による発現は、この抗原を悪性腫瘍の診断マーカーとして使用する価値があるものにしている(Hole&Stern、Br J Cancer.(1988)57(3)、239〜46)。
【0003】
癌及び癌の進行に5T4が関与していることを支持する明らかな証拠がある。癌細胞表面での高レベルの5T4発現が、卵巣癌(Wrigley E、McGown AT、Rennison Jら、5T4 oncofetal antigen expression in ovarian carcinoma.Int J Gynecol Cancer.1995;5:269〜274)、結腸癌(Starzynska T、Marsh PJ、Schofield PF、Roberts SA、Myers KA、Stern PL.Prognostic significance of 5T4 oncofetal antigen expression in colorectal carcinoma.Br J Cancer.1994;69:899〜902)、子宮頸癌(Jones H、Roberts G、Hole N、McDicken IW、Stern P.Investigation of expression of 5T4 antigen in cervical cancer.Br J Cancer.1990;6:69〜100)、胃癌(Starzynska T、Rahi V、Stern PL.The expression of 5T4 antigen in colorectal and gastric carcinoma.Br J Cancer.1992;66:867〜869及び上記)並びに肺癌(Forsberg G、Ohlsson L、Brodin Tら、Therapy of human non−small−cell lung carcinoma using antibody targeting of modified superantigen.Br J Cancer.2001;85:129〜136)について示されている。疾患進行、すなわち転移との関連も実証された(Mulder WM、Stern PL、Stukart MJら、Low intercellular adhesion molecule 1 and high 5T4 expression on tumor cells correlate with reduced disease−free survival in colorectal carcinoma patients.Clin Cancer.1997;3:1923〜1930及びStarzynska T、Wiechowska−Kozlowska A、Marlicz Kら、5T4 oncofetal antigen in gastric carcinoma and its clinical significance.Eur J Gastroenterol Hepatol.1998;10:479〜484及びNaganuma H、Kono K、Mori Yら、Oncofetal antigen 5T4 expression as a prognostic factor in patients with gastric cancer.Anticancer Res.2002;22:1033〜1038)。癌性病変とは対照的に、正常組織での5T4の発現は限られているので(AN A、Langdon J、Stern PL、Partidge M.The pattern of expression of 5T4 oncofoetal antigen on normal,dysplastic and malignant oral mucosa.Oral Oncol.2001;37:57〜64)、5T4は、標的化癌療法に適した標的抗原として示唆されている(Woods AM、Wang WW、Shaw DMら、Characterization of the murine 5T4 oncofoetal antigen:a target for immunotherapy in cancer.Biochem J.2002;366:353〜365及びHole N、Stern PL.Isolation and characterization of 5T4,A tumor−associated antigen.Int J Cancer.1990;45:179〜184)。
【0004】
抗体に基づく癌治療は、有効となるために癌細胞表面に堅固に結合した標的抗原を必要とする。表面の標的に結合することによって、抗体は癌細胞に致命的シグナルを直接的又は間接的に送達することができる。理想的な治療シナリオに必要とされる通り、標的抗原5T4は、特異的な癌細胞に豊富に存在し、到達可能であり、正常細胞にはないか、遮蔽されているか、又はずっと少ない。そのうえ、5T4抗原は20年以上前に腫瘍学の標的として同定されていたものの、抗5T4免疫療法は癌を治療するために承認されていない。したがって、この抗原を治療的に有効に標的化することが明らかに必要である。
【0005】
1つのドメインが細胞傷害性細胞、すなわち細胞傷害性T細胞に結合性で、第2の結合ドメインが腫瘍細胞表面の5T4に結合性の二重特異性分子の形態の抗体に基づく治療法を提供することは、当技術分野において公知である。より詳細には、国際公開第2013/041687号において、第1及び第2の結合ドメインを含む二重特異性分子であって、(a)第1の結合ドメインが、5T4のエピトープクラスター4に結合する能力があり;(b)第2の結合ドメインが、T細胞のCD3受容体複合体に結合する能力がある、二重特異性分子が記載されている。
【0006】
Fabと呼ばれる、抗体の抗原結合腕の鎖のそれぞれへの2つの同一若しくは異なるタンパク質若しくはペプチドの融合タンパク質又はその誘導体が公知である。Fabは、その最も伝統的な意味で、VH及びCH1抗体ドメインを含むFd鎖とVL及びCL抗体ドメインを含むL鎖との間のヘテロ二量体である。可変ドメインVH及びVLは、異なる種又は抗体サブクラスに由来する可能性がある。定常ドメインCH1及びCLも、異なる種及びサブクラスに由来する可能性がある。融合タンパク質は、Fab融合タンパク質をヘテロ二量体化するためにCH1:CLヘテロ二量体相互作用を利用する。国際公開第99/37791号(multipurpose antibody derivatives)は、伝統的なコンフォメーションのFabの使用を教示している。VH−CH1:VL−CLヘテロ二量体は、C末端及び/又はN末端に第2及び第3の機能を付けて、又は第4及び第5の機能までも付けて伸長される。伸長された機能は、ペプチド、タンパク質、又はタンパク質の部分若しくは誘導体にコードされている。国際公開第99/37791号は、VL可変軽鎖抗体ドメイン、続くCL定常軽鎖抗体ドメインの融合物とヘテロ二量体を形成させるための、VH重鎖可変ドメイン、続くCH1重鎖定常ドメイン1の融合物の使用を教示している。VH−CH1:VL−CL(又はVHCH1:VLCLと表示)ヘテロ二量体は、最大4つのペプチド又はタンパク質を融合させ伸長させることができる。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、3つの結合ドメインを含む二重特異性結合分子(「融合タンパク質」又は「トリボディー(Tribody)融合タンパク質」又は「Tb−5T4融合タンパク質」とさらに称される)であって、第1及び/又は第2の結合ドメインが、5T4細胞外抗原に結合する能力があり、残りの結合ドメイン(複数可)が、T細胞のCD3受容体複合体に結合する能力がある、二重特異性結合分子に関する。そのうえ、本発明は、融合タンパク質をコードしている核酸配列、上記核酸配列を含むベクター及び上記ベクターを形質転換又は形質移入された宿主細胞に関する。さらに、本発明は、本発明の融合タンパク質の産生方法、上記融合タンパク質の医学的使用及び上記融合タンパク質を含むキットに関する。
【発明の詳細な説明】
【0008】
本開示にわたり、様々な刊行物、特許及び公開された特許明細書が、特定する引用により参照される。これらの刊行物、特許及び公開された特許明細書の開示は、本発明が属する技術の現状をより完全に説明するために、本明細書によって参照により本開示に組み込まれている。
【0009】
本明細書に使用される単数形「a」、「an」、及び「the」は、内容が明らかに別のものを示さない限り複数の参照を含むことに留意しなければならない。したがって、例えば、「試薬」への参照は、そのような種々の試薬のうちの1つ又は複数を含み、「方法」への参照は、本明細書記載の方法のために改変又は置換することができる、当業者に公知の等価のステップ及び方法への参照を含む。
【0010】
特に示さない限り、ある系列の要素に先行する用語「少なくとも」は、上記系列の各要素を表すことを理解すべきである。当業者は、日常的な実験法にすぎないものを使用して、本明細書記載の本発明の詳細な実施形態との多数の均等物を認識している、又は確認することができる。そのような均等物は、本発明により包含されることが意図されている。
【0011】
本明細書のどこで使用されようと、用語「及び/又は」は、「及び」、「又は」及び「上記用語により接続される要素の全て又は任意の他の組合せ」の意味を含む。
【0012】
本明細書に使用される用語「約」又は「およそ」は、所与の値又は範囲の20%以内、好ましくは10%以内、より好ましくは5%以内を意味する。
【0013】
状況が他のことを必要としない限り、本明細書及び後続の特許請求の範囲にわたり、語「含む(comprise)」並びに「含む(comprises)」及び「含んでいる(comprising)」などの変形は、述べられた完全体若しくはステップ又は完全体若しくはステップの群の包含を意味するが、任意の他の完全体若しくはステップ又は完全体若しくはステップの群の排除を意味しないことが理解されよう。本明細書に使用される場合、用語「含んでいる(comprising)」は、用語「含有している(containing)」若しくは「含んでいる(including)」により、又は本明細書に使用する場合、時には用語「有している(having)」により置換することができる。
【0014】
本明細書に使用する場合、「からなっている」は、請求項の要素に特定されない、いかなる要素、ステップ、又は成分も排除するものである。本明細書に使用する場合、「から本質的になっている」は、請求項の基本的及び新規な特徴に著しくは影響しない材料又はステップを排除しない。
【0015】
本明細書におけるどの場合にも、用語「含んでいる」、「から本質的になっている」及び「からなっている」のうちのいずれかは、残りの2つの用語のいずれかにより置き換えることができる。
【0016】
用語「結合ドメイン」は、本発明に関連して、所与の標的エピトープと特異的に結合/相互作用する(所与の標的エピトープと結合/相互作用する能力がある)、ポリペプチドのドメインを特徴付けるものである。「エピトープ」は、抗原性であるので、用語エピトープは、本明細書において時には「抗原構造」又は「抗原決定基」とも呼ばれる。したがって、結合ドメインは、「抗原相互作用部位」である。用語「抗原相互作用部位」は、本発明によると、特異的な抗原又は抗原の特異的な群、例えば異なる種における同一の抗原と特異的に相互作用することができる、ポリペプチドのモチーフを規定している。上記結合/相互作用は、「特異的相互作用」を規定するとも理解されている。一例では、所与の標的エピトープと特異的に結合/相互作用する上記ポリペプチドは抗体であり、上記ドメインは、抗体のVH及び/又はVL領域又はドメインである。
【0017】
用語「エピトープ」は、抗体若しくは免疫グロブリン又は免疫グロブリンの抗体の誘導体などの結合ドメインが特異的に結合する抗原の部位を表す。エピトープは、タンパク質の三次フォールディングによって近接された連続アミノ酸又は非連続アミノ酸の両方から形成されている可能性がある。「線状エピトープ」は、アミノ酸の一次配列が、認識されるエピトープを構成するエピトープである。線状エピトープは、非反復配列の中に少なくとも3つ、より通常には少なくとも5つ、例えば、約8〜約10個のアミノ酸を典型的に含む。
【0018】
線状エピトープとは対照的に「コンフォメーショナルエピトープ」は、エピトープを含むアミノ酸の一次配列が、認識されるエピトープを規定する唯一の構成成分ではないエピトープ(例えば、アミノ酸の一次配列が、エピトープを規定している抗体によって必ずしも認識されないエピトープ)である。典型的には、コンフォメーショナルエピトープは、線状エピトープと比較して増加した数のアミノ酸を含む。コンフォメーショナルエピトープの認識に関して、結合ドメインは、抗原、好ましくはペプチド若しくはタンパク質又はその断片の三次元構造を認識する(本発明に関連して、抗原は、5T4タンパク質の結合ドメインのうちの1つに対するものである)。例えば、タンパク質分子がフォールディングして三次元構造を形成する場合、コンフォメーショナルエピトープを形成している特定のアミノ酸及び/又はポリペプチド主鎖は、近接するようになり、抗体がエピトープを認識できるようにする。エピトープのコンフォメーションを決定する方法には、これらに限定されないが、例えば、X線結晶構造解析、二次元核磁気共鳴分光法及び部位特異的スピンラベル法及び電子常磁性共鳴分光法が含まれる。
【0019】
用語「特異的に結合/相互作用している」、「特異的に認識している」、「に対する」及び「と反応性の」は、本発明により、結合ドメインがエピトープの少なくとも2つ、好ましくは少なくとも3つ、より好ましくは少なくとも4つのアミノ酸と特異的に相互作用する及び/又は結合する能力があることを意味する。そのような結合性は、「鍵と鍵穴原理」の特異性によって例示することができる。本明細書に使用される用語「特異的に相互作用すること」、「特異的に結合性の」又は「特異的に結合する」は、結合ドメインが特定のタンパク質又は抗原に対してはっきりと認識できる親和性を示し、一般には、他のタンパク質又は抗原と顕著な交差反応性を示さないことを意味する。「はっきりと認識できる」又は好ましい結合性は、親和性が10−6M(KD)以上の結合性を含む。結合親和性が約10−11〜10−8M、好ましくは約10−11〜10−9Mの場合に、結合は特異的であると考えられることが好ましい。必要ならば、結合条件を変動させることによって特異的結合性に実質的に影響せずに非特異的結合を減少させることができる。結合ドメインが標的と特異的に反応又は結合するかどうかは、とりわけ、上記結合ドメインのうちの1つと標的タンパク質又は抗原との反応を、上記結合ドメインと他のタンパク質又は抗原との反応と比較することによって、容易に試験することができる。
【0020】
特異的結合は、結合ドメイン及び抗原のアミノ酸配列における特異的モチーフによって引き起こされると考えられる。したがって、結合は、アミノ酸配列の一次、二次又は三次構造の結果としてだけでなく、上記構造の二次的改変の結果として達成される。抗原相互作用部位とその特異的抗原との特異的相互作用は、抗原への上記部位の単純な結合も招く場合がある。そのうえ、抗原相互作用部位とその特異抗原との特異的相互作用は、代替的に、例えば抗原のコンフォメーションの変化、抗原のオリゴマー化などの誘導が原因で、シグナルの開始を招く場合がある。一例では、結合ドメインは抗体である。
【0021】
用語「本質的に結合しない」は、本発明の融合タンパク質の結合ドメインが別のタンパク質と結合しないこと、すなわち、別のタンパク質と30%未満、好ましくは20%、より好ましくは10%、特に好ましくは9、8、7、6又は5%未満の交差反応性を示すことを意味する。
【0022】
本明細書に使用される用語「異種間特異性」、「異種間認識」及び「種間特異性」は、ヒト及び非ヒト種において、好ましくは霊長類種において、結合ドメインが同じ標的分子に結合する能力を意味する。したがって、「異種間特異性」又は「種間特異性」は、異なる種に発現されているX以外の分子(例えば、5T4又はCD3類)ではなく、同じ分子X(例えば、5T4又はCD3類)に対する種間反応性を説明するものである。
【0023】
タンパク質(その断片、好ましくは生物学的に活性な断片及び通常30個未満のアミノ酸を有するペプチドを含む)は、共有ペプチド結合を介して相互に連結された1つ又は複数のアミノ酸を含む(アミノ酸鎖を生じる)。本明細書に使用される用語「ポリペプチド」は、30個を超えるアミノ酸からなる又はそれを含む分子の群を説明するものである。ポリペプチドは、二量体、三量体及びより高いオリゴマーなどの、すなわち1つを超えるポリペプチド分子からなる又はそれを含む、多量体をさらに形成することができる。そのような二量体、三量体などを形成しているポリペプチド分子は、同一又は非同一の場合がある。したがって、そのような多量体に対応する高次構造は、ホモ二量体又はヘテロ二量体、ホモ三量体又はヘテロ三量体などと呼ばれる。ヘテロ多量体の一例は、その自然形態で2つの同一のポリペプチド軽鎖及び2つの同一のポリペプチド重鎖を含む又はそれからなる抗体分子である。用語「ポリペプチド」及び「タンパク質」は、改変が例えばグリコシル化、アセチル化、リン酸化などのような翻訳後改変によって引き起こされる、自然改変ポリペプチド/タンパク質も表す。そのような改変は、当技術分野において周知である。
【0024】
本明細書上述のように、一態様では、融合タンパク質の第1及び/若しくは第2の結合ドメインは、ヒト及びコモンマーモセット(Callithrix jacchus)、ワタボウシタマリン(Saguinus oedipus)若しくはリスザル(Saimiri sciureus)の5T4に結合する能力があり、並びに/又は残りの結合ドメイン(複数可)は、ヒト及びコモンマーモセット、ワタボウシタマリン若しくはリスザルのCD3イプシロンに結合する能力がある。本実施形態によると、本発明の融合タンパク質の全ての3つの結合ドメインは、哺乳類霊長目のメンバーに異種間特異性である。
【0025】
一実施形態では、第1又は第2又は第3の結合ドメインは、抗体に由来する。別の実施形態では、全ての結合ドメインは、抗体に由来する。
【0026】
用語「抗体」の定義には、モノクローナル抗体、キメラ抗体、単鎖抗体、ヒト化抗体及びヒト抗体などの実施形態だけでなく、とりわけFab断片のような抗体断片が含まれる。抗体断片又は誘導体は、F(ab’)2断片、Fv断片、scFv断片又はドメイン抗体若しくはナノボディーなどの単一ドメイン抗体、他のV領域若しくはドメインとは無関係に抗原若しくはエピトープと特異的に結合する、VHH、VH若しくはVLであり得るただ1つの可変ドメインを含む単一可変ドメイン抗体若しくは免疫グロブリン単一可変ドメインをさらに含む。例えば、Harlow及びLane(1988)及び(1999)、上記引用文中;Kontermann及びDubel、Antibody Engineering、Springer、第2版、2010並びにLittle、Recombinant Antibodies for Immunotherapy、Cambridge University Press 2009を参照されたい。そのような免疫グロブリン単一可変ドメインは、単離された抗体単一可変ドメインポリペプチドだけでなく、抗体単一可変ドメインポリペプチドの配列の1つ又は複数の単量体を含むより大きなポリペプチドも包含する。
【0027】
様々な手順が当技術分野において公知であり、そのような抗体及び/又は断片の産生のために使用することができる。したがって、(抗体)誘導体は、ペプチド模倣薬によって産生することができる。さらに、単鎖抗体の産生のための記載された技法(とりわけ、米国特許第4946778号、Kontermann及びDubel(2010)、上記引用文中並びにLittle(2009)、上記引用文中を参照されたい)は、選択されたポリペプチド(複数可)に特異的な単鎖抗体を産生するように構成される可能性がある。また、トランスジェニック動物を使用して、本発明のポリペプチド及び融合タンパク質に特異的なヒト化抗体を発現させることができる。モノクローナル抗体の調製のために、細胞株の連続培養によって産生された抗体をもたらす任意の技法を使用することができる。そのような技法の例には、ハイブリドーマ技法(Kohler及びMilstein Nature 256(1975)、495〜497)、トリオーマ(trioma)技法、ヒトB細胞ハイブリドーマ技法(Kozbor、Immunology Today 4(1983)、72)及びヒトモノクローナル抗体を産生するためのEBV−ハイブリドーマ技法(Coleら、Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy、Alan R.Liss、Inc.(1985)、77〜96)が含まれる。ビアコア(BIAcore)システムに採用されているような表面プラズモン共鳴法を使用して、CD3イプシロンなどの標的ポリペプチドのエピトープに結合するファージ抗体の効率を増加させることができる(Schier、Human Antibodies Hybridomas 7(1996)、97〜105;Malmborg、J.Immunol.Methods 183(1995)、7〜13)。本発明に関連して、用語「抗体」が、本明細書下記のように宿主に発現される場合がある抗体構築物、例えば、とりわけウイルス又はプラスミドベクターを介して形質移入及び/又は形質導入される場合がある抗体構築物を含むことも想定されている。
【0028】
さらに、本発明に採用される用語「抗体」は、記載された抗体と同じ又は類似の特異性を示す、本明細書記載の抗体の誘導体又は変異体にも関する。類似の特異性は、変異体又は誘導体が由来する出発/対照抗体の特異性の少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも105%、少なくとも110%、少なくとも120%、少なくとも130%、少なくとも140%、少なくとも150%、少なくとも160%である特異性である。「抗体変異体」の例には、非ヒト抗体のヒト化変異体、「親和性成熟された」抗体(例えば、Hawkinsら、J.Mol.Biol.254、889〜896(1992)及びLowmanら、Biochemistry 30、10832〜10837(1991)参照)及び変更されたエフェクター機能(複数可)を有する抗体突然変異体(例えば、米国特許第5648260号、Kontermann及びDubel(2010)、上記引用文中及びLittle(2009)、上記引用文中を参照されたい)が含まれる。
【0029】
本明細書に使用される場合の用語「抗原結合ドメイン」、「抗原結合断片」、「抗体結合ドメイン」及び「抗体結合領域」は、抗体と抗原との間の特異的結合を担うアミノ酸を含む抗体分子の部分を表す。抗体によって特異的に認識及び結合される抗原の部分は、本明細書上記の「エピトープ」と呼ばれる。上述のように、抗原結合ドメインは、抗体の軽鎖可変領域(VL)及び抗体の重鎖可変領域(VH)を典型的に含む場合があるが、両方を含む必要はない。例えば、Fd断片は、2つのVH領域を有し、多くの場合に無傷の抗原結合ドメインのいくらかの抗原結合機能を保持する。抗体の抗原結合断片の例には、(1)VLドメイン、VHドメイン、CLドメイン及びCH1ドメインを有する一価断片であるFab断片;(2)2つのFab断片がジスルフィド架橋によってヒンジ領域で連結している二価断片であるF(ab’)2断片;(3)2つのVHドメイン及びCH1ドメインを有するFd断片;(4)抗体の単腕のVLドメイン及びVHドメインを有するFv断片、(5)VHドメインを有するdAb断片(Wardら、(1989)Nature 341:544〜546);(6)単離された相補性決定領域(CDR)、並びに(7)単鎖Fv(scFv)が含まれる。Fv断片の2つのドメインであるVL及びVHは、別々の遺伝子によってコードされているものの、組換え法を用いて、VL領域及びVH領域が対形成して一価分子を形成している単一のタンパク質鎖としてそれらを製造できるようにする合成リンカーによって繋ぐことができる(単鎖Fv(scFv)として公知;例えば、Hustonら、(1988)Proc.Natl.Acad.Sci USA 85:5879〜5883参照)。これらの抗体断片は、当業者に公知の従来技法を用いて得られ、断片は、無傷の抗体と同じ方式で機能について評価される。本明細書に使用される用語「モノクローナル抗体」は、実質的に均質な抗体の集団から得られる抗体を表し、すなわち、集団を構成する個別の抗体は、少量存在するおそれがある可能な天然突然変異及び/又は翻訳後改変(例えば、異性化、アミド化)を除き、同一である。モノクローナル抗体は、高度に特異性であり、単一の抗原部位に対するものである。さらに、種々の決定基(エピトープ)に対する種々の抗体を典型的に含む従来の(ポリクローナル)抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原の単一の決定基に対するものである。モノクローナル抗体は、その特異性に加えて、他の免疫グロブリンが混入していないハイブリドーマ培養によって合成される点で有利である。修飾語「モノクローナル」は、実質的に均質な抗体集団から得られるという抗体の特性を示すのであって、任意の特定の方法によって抗体を産生する必要があると解釈すべきではない。例えば、本発明により使用されるべきモノクローナル抗体は、最初にKohlerら、Nature、256:495(1975)によって記載されたハイブリドーマ法によって製造することができ、又は組換えDNA法によって製造することもできる(例えば、米国特許第4816567号参照)。「モノクローナル抗体」は、例えばClacksonら、Nature、352:624〜628(1991)及びMarksら、J.Mol.Biol.、222:581〜597(1991)に記載された技法を用いてファージ抗体ライブラリーから単離することもできる。
【0030】
詳細には、本明細書におけるモノクローナル抗体には、重鎖及び/又は軽鎖の一部が、特定の種に由来する又は特定の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体における対応する配列と同一又は相同である一方で、鎖(複数可)の残りが、別の種に由来する又は別の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体における対応する配列と同一又は相同である、「キメラ」抗体(免疫グロブリン)並びに所望の生物学的活性を示す範囲でのそのような抗体の断片が含まれる(米国特許第4816567号;Morrisonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、81:6851〜6855(1984))。本明細書における関心対象のキメラ抗体には、非ヒト霊長類(例えば、旧世界ザル、類人猿など)に由来する可変ドメイン抗原結合配列及びヒト定常領域配列を含む「霊長類化(primitized)」抗体が含まれる。
【0031】
非ヒト(例えばマウス)抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト免疫グロブリン由来の最小限の配列を含有する、大部分はヒト配列のキメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖又はその断片(Fv、Fab、Fab’、F(ab’)2又は抗体の他の抗原結合性部分配列など)である。ほとんどの場合、ヒト化抗体は、レシピエントの超可変領域(CDRとも呼ばれる)からの残基が、所望の特異性、親和性、及び能力を有する、マウス、ラット又はウサギなどの非ヒト種(ドナー抗体)の超可変領域からの残基によって置き換えられているヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。ある場合に、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)の残基は、対応する非ヒト残基によって置換されている。さらに、本明細書に使用される「ヒト化抗体」は、レシピエント抗体にもドナー抗体にも見出されない残基も含む場合がある。これらの改変は、抗体の性能をさらに精密化及び最適化するために行われる。ヒト化抗体は、免疫グロブリン定常領域(Fc)、典型的にはヒト免疫グロブリンのFcの少なくとも一部も最適には含む。さらなる詳細については、Jonesら、Nature、321:522〜525(1986);Reichmannら、Nature、332:323〜329(1988);及びPresta、Curr.Op.Struct.Biol.、2:593〜596(1992)を参照されたい。
【0032】
用語「ヒト抗体」には、例えばKabatら(Kabatら(1991)、上記引用文中を参照されたい)によって記載された配列を含めた、当技術分野において公知のヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列に実質的に対応する可変領域及び定常領域を有する抗体が含まれる。本発明のヒト抗体は、例えばCDRに、特にCDR3にヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列によってコードされていないアミノ酸残基(例えば、インビトロのランダム突然変異誘発若しくは部位特異的突然変異誘発によって導入された突然変異又はインビボの体細胞突然変異)を含む可能性がある。ヒト抗体は、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列によってコードされていないアミノ酸残基によって置き換えられた、少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、又はそれよりも多い位置を有する可能性がある。
【0033】
本明細書に使用される「インビトロで作製された抗体」は、可変領域の全て又は部分(例えば、少なくとも1つのCDR)が非免疫細胞選択(例えば、インビトロのファージディスプレイ、タンパク質チップ又は抗原に結合する能力について候補配列を試験することができる任意の他の方法)で作製される抗体を表す。したがって、本用語は、免疫細胞におけるゲノム再配列によって作製される配列を好ましくは排除するものである。「二重特異性」又は「機能性抗体」は、2つの異なる重/軽鎖対及び2つの異なる結合部位を有する人工ハイブリッド抗体である。二重特異性抗体は、ハイブリドーマの融合又はFab’断片の連結を含めた多様な方法によって産生することができる。例えば、Songsivilai及びLachmann、Clin.Exp.Immunol.79:315〜321(1990)を参照されたい。当業者に公知の多数の方法が、抗体又はその抗原結合断片を得るために利用可能である。例えば、抗体は、組換えDNA法を用いて産生することができる(米国特許第4816567号)。モノクローナル抗体は、公知の方法にしたがって、ハイブリドーマの作製によって産生することもできる(例えば、Kohler及びMilstein(1975)Nature、256:495〜499参照)。次に、この方式で形成されたハイブリドーマを、酵素結合性免疫吸着検定法(ELISA)及び表面プラズモン共鳴(ビアコア(商標))分析などの標準的な方法を用いてスクリーニングして、特定の抗原と特異的に結合する抗体を産生する1つ又は複数のハイブリドーマが同定される。任意の形態の特定の抗原を免疫原、例えば組換え抗原、天然形態、その任意の変異体又は断片、及びその抗原性ペプチドとして使用することができる。
【0034】
抗体を製造する1つの例示的な方法には、タンパク質発現ライブラリー、例えば、ファージディスプレイライブラリー又はリボソームディスプレイライブラリーをスクリーニングすることが含まれる。ファージディスプレイは、例えば、Ladnerら、米国特許第5223409号;Smith(1985)Science 228:1315〜1317;Clacksonら(1991)Nature、352:624〜628に記載されている。
【0035】
抗原の結合に直接には関与しないFv可変ドメインの配列を、ヒトFv可変ドメインからの等価の配列によって置き換えることによって、ヒト化抗体又はその断片を作製することができる。ヒト化抗体又はその断片を作製するための例示的な方法は、Morrison(1985)Science 229:1202〜1207;Oiら(1986)BioTechniques 4:214;及び米国特許第5585089号;同第5693761号;同第5693762号;同第5859205号;及び同第6407213号によって与えられている。それらの方法には、重鎖又は軽鎖のうちの少なくとも1つからの免疫グロブリンFv可変ドメインの全て又は部分をコードしている核酸配列を単離する、操作する、及び発現させることが含まれる。そのような核酸は、上記のように予め決定された標的に対する抗体を産生しているハイブリドーマ及び他の供給源から得ることができる。次に、ヒト化抗体分子をコードしている組換えDNAを適切な発現ベクターにクローニングすることができる。
【0036】
ヒト化抗体は、保存的置換、コンセンサス配列の置換、生殖細胞系置換及び/又は復帰突然変異の導入によって最適化することができる。そのような変更された免疫グロブリン分子は、当技術分野において公知のいくつかの技法のうちのいずれかによって製造することができる(例えば、Tengら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、80:7308〜7312、1983;Kozborら、Immunology Today、4:7279、1983;Olssonら、Meth.Enzymol.、92:3〜16、1982、またEP239400の教示にしたがって製造される場合もある)。
【0037】
抗体又はその断片は、国際公開第98/52976号及び国際公開第00/34317号に開示された方法によって、ヒトT細胞エピトープの特異的欠失すなわち「脱免疫化(deimmunization)」によって改変される場合もある。簡潔には、MHCクラスIIに結合するペプチドについて抗体の重鎖可変ドメイン及び軽鎖可変ドメインを分析することができ、これらのペプチドは、潜在的T細胞エピトープに相当する(国際公開第98/52976号及び国際公開第00/34317号に規定されている)。潜在的T細胞エピトープの検出のために、「ペプチドスレッディング(peptide threading)」と名付けられているコンピューターモデル化アプローチを適用することができ、加えて、国際公開第98/52976号及び国際公開第00/34317号に記載されているようにVH配列及びVL配列に存在するモチーフについてヒトMHCクラスII結合ペプチドのデータベースを検索することができる。これらのモチーフは、18個の主要MHCクラスII DRアロタイプのうちのいずれかに結合するので、潜在的T細胞エピトープを構成する。検出される潜在的T細胞エピトープは、可変ドメインの少数のアミノ酸残基を置換することによって、又は好ましくは単一アミノ酸置換によって、除去することができる。これに関連して、「少ない」は、1、2、3、4、5又は6つのアミノ酸残基を意味する。典型的には、保存的置換が行われる。これらに限定しないが多くの場合に、ヒト生殖細胞系抗体配列における位置に共通のアミノ酸が使用される場合がある。ヒト生殖細胞系の配列は、例えば、Tomlinsonら(1992)J.Mol.Biol.227:776〜798;J.Mol.Biol.227:776〜798;Cook、G.P.ら(1995)Immunol.Today、16巻(5):237〜242;及びTomlinsonら(1995)EMBO J.14:14:4628〜4638に開示されている。V BASEディレクトリは、ヒト免疫グロブリン可変領域配列の総合ディレクトリをもたらす(Tomlinson、LA.ら、MRC Centre for Protein Engineering、Cambridge、UKによりコンパイル)。これらの配列は、例えばフレームワーク領域及びCDRについてヒト配列の供給源として使用することができる。例えば米国特許第6300064号に記載されているような、ヒトコンセンサスフレームワーク領域も使用することができる。
【0038】
VH及びVLの一緒の対形成は、本明細書下記に「組合せVH/VL結合ドメイン」と呼ばれる単一の抗原結合部位を形成する。VHに最も近接したCHドメインは、CH1と称される。各L鎖は、1つのジスルフィド共有結合によってH鎖に連結されており、一方で2つのH鎖は、H鎖のアイソタイプに応じて1つ又は複数のジスルフィド結合によって相互に連結されている。VHドメイン及びVLドメインは、フレームワーク領域(FR1、FR2、FR3、及びFR4)と呼ばれる相対的に保存された配列の4つの領域からなり、フレームワーク領域は、3つの超可変配列領域(相補性決定領域、CDR)のための足場を形成する。CDRは、抗体と抗原との特異的相互作用を担う残基のうちの大部分を含有する。CDRは、CDR1、CDR2、及びCDR3と呼ばれる。したがって、重鎖のCDR構成成分はH1、H2、及びH3と呼ばれ、一方で軽鎖のCDR構成成分は、L1、L2、及びL3と呼ばれる。
【0039】
用語「可変」は、配列に可変性を示し、特定の抗体の特異性及び結合親和性を決定することに関与する免疫グロブリンドメインの部分(すなわち、「可変ドメイン(複数可)」)を表す。可変性は、抗体の可変ドメインの全体にわたり均一に分布するわけではなく、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のそれぞれのサブドメインに集中している。これらのサブドメインは、「超可変」領域又は「相補性決定領域」(CDR)と呼ばれる。可変ドメインのより大きく保存された(すなわち非超可変)部分は、「フレームワーク」領域(FRM)と呼ばれる。天然重鎖可変ドメイン及び軽鎖の可変ドメインは、主としてβシート立体配置を採っている4つのFRM領域が3つの超可変領域によって繋がったものをそれぞれ含み、超可変領域は、βシート構造を連結し、ある場合にはβシート構造の部分を形成しているループを形成する。各鎖の超可変領域は、FRMにより隣接してまとまり、他方の鎖からの超可変領域と共に抗原結合部位の形成に貢献する(Kabatら、上記引用文参照)。定常ドメインは、抗原結合に直接には関与しないが、例えば、抗体依存性、細胞介在性細胞傷害作用及び補体活性化などの様々なエフェクター機能を示す。
【0040】
用語「アミノ酸」又は「アミノ酸残基」は、アラニン(Ala又はA);アルギニン(Arg又はR);アスパラギン(Asn又はN);アスパラギン酸(Asp又はD);システイン(Cys又はC);グルタミン(Gln又はQ);グルタミン酸(Glu又はE);グリシン(Gly又はG);ヒスチジン(His又はH);イソロイシン(Ile又はI):ロイシン(Leu又はL);リシン(Lys又はK);メチオニン(Met又はM);フェニルアラニン(Phe又はF);プロリン(Pro又はP);セリン(Ser又はS);トレオニン(Thr又はT);トリプトファン(Trp又はW);チロシン(Tyr又はY);及びバリン(Val又はV)からなる群から選択されるアミノ酸などの、当技術分野において認識された定義を有するアミノ酸を典型的に表すが、所望により改変、合成、又は稀少アミノ酸を使用することができる。一般には、アミノ酸は、非極性側鎖(例えば、Ala、Cys、Ile、Leu、Met、Phe、Pro、Val);陰性荷電側鎖(例えば、Asp、Glu);陽性荷電側鎖(例えば、Arg、His、Lys);又は非荷電の極性側鎖(例えば、Asn、Cys、Gln、Gly、His、Met、Phe、Ser、Thr、Trp、及びTyr)を有することにより分類することができる。
【0041】
本明細書に使用される場合の用語「超可変領域」(「相補性決定領域」又はCDRとしても公知)は、免疫グロブリンのV領域ドメインの中にあり、抗原結合部位を形成し、抗原特異性の主な決定基である、抗体アミノ酸残基(通常は極度の配列可変性をもつ3つ又は4つの短い領域)を表す。CDR残基を同定するために、少なくとも2つの方法:(1)異種間配列変動性に基づくアプローチ(すなわち、Kabatら、上記引用文中);及び(2)抗原−抗体複合体の結晶学的研究に基づくアプローチ(Chothia、C.ら、J.Mol.Biol.196:901〜917(1987))がある。しかし、2つの残基同定技法が、同一な領域でなく重複する領域を規定する範囲内で、残基同定技法を組み合わせてハイブリッドCDRを規定することができる。しかし、一般的に、CDR残基は、好ましくはいわゆるKabat(番号付け)システムにより同定される。
【0042】
本発明は、Fab(VHCH1:VLCL)又はクロスオーバーFab(VHCL:VLCH1)又はドメインFab(V1CH1:V2CL)の使用を含む。本発明者らは、VHCH1:VLCL;VHCL:VLCH1及びV1CH1:V2CLに基づく構造を含むFab由来ヘテロ二量体を参照する。本発明において、Fab由来ヘテロ二量体及びCH1:CL主導ヘテロ二量体に2つだけの伸長が行われる。好ましい立体配置では、CH1を含む鎖及びCLを含む鎖のそれぞれは、ペプチド結合に基づく伸長を有する。最も好ましい立体配置では、これらの伸長は、CH1を含む鎖及びCLを含む鎖のC末端にある。この位置で伸長はFab分子の結合能に影響しないので、完全に機能性の三機能性、三価、二価二重特異性、又は三重特異性分子を生み出す。驚くことに、本発明のC末端融合は、図6A、6Bに実証されたように最終融合タンパク質の安定性及び全体的な融解温度も増加させる。
【0043】
本発明の融合タンパク質は、腫瘍抗原に対する二重結合機能及び単一の免疫活性化機能を含むように結合分子又はエフェクター分子を付けてさらに伸長される。
【0044】
本発明の融合タンパク質は、腫瘍関連抗原(TAA)5T4に対する二価結合をT細胞活性化機能と組み合わせたものである。Tb−5T4トリボディーファミリーの例では、5T4に対する二価結合性が、CD3に対する一価結合性と組み合わされる。二価5T4結合性は、5T4抗原を過剰発現している腫瘍細胞に対する特異性を増加させる。二価結合性は、標的化複合体の解離速度を減少させることで、経時的な結合性も安定化する。T細胞CD3に対する一価結合性は、OKT3及びOKT3由来(Fab’)2(CD3に対する二価結合性Fab断片)で見られるような二価CD3結合分子によるT細胞の活性化を回避する。これらの分子は、T細胞活性化に続く活性化誘導細胞死で、又はT細胞をアネルギーにすることで知られおり、移植器官の拒絶を回避することに有用であることが分かった。
【0045】
したがって、本発明の融合タンパク質は、CH1:CL主導ヘテロ二量体を形成する2つの融合鎖から構成されている。さらなる実施形態では、2つの異なる鎖を含む融合タンパク質であって、(i)一方の鎖が2つのVH抗体結合ドメイン、1つのVL抗体結合ドメイン及び1つのCH1抗体ドメイン又はCL抗体ドメインを含み、(ii)他方の鎖が2つのVL抗体結合ドメイン、1つのVH抗体結合ドメイン及び1つのCL抗体ドメイン又はCH1抗体ドメインを含み、2つの異なる鎖を含む融合タンパク質であって、但し、融合タンパク質が、一方の鎖のCH1抗体ドメインと他方の鎖のCL抗体ドメインとの間に1つのヘテロ二量体相互作用を含有することを条件とし、(a)鎖内で形成された1つ又は2つの組合せVH/VL結合ドメインが5T4細胞外抗原に結合する能力があり;(b)鎖内で形成された残りの1つ又は2つの組合せVH/VL結合ドメインが、T細胞のCD3受容体複合体に結合する能力があることを特徴とする融合タンパク質。
【0046】
本発明の融合タンパク質は、以下の形態の可能性があり、又は以下のように規定することもできる:
VH(5T4)−CH1−L1−VH(CD3)−L2−VL(CD3)若しくは
VH(5T4)−CH1−L1−VL(CD3)−L2−VH(CD3)

VL(5T4)CL−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)若しくは
VL(5T4)CL−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)
と組み合わせたもの、
又は
VH(5T4)−CH1−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)若しくは
VH(5T4)−CH1−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)

VL(5T4)CL−L1−VH(CD3)−L2−VL(CD3)若しくは
VL(5T4)CL−L1−VL(CD3)−L2−VH(CD3)
と組み合わせた形態、
又は
VH(CD3)−CH1−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)若しくは
VH(CD3)−CH1−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)

VL(CD3)CL−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)若しくは
VL(CD3)CL−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)
と組み合わせた形態、
又は
VL(CD3)−CH1−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)若しくは
VL(CD3)−CH1−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)

VH(CD3)CL−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)若しくは
VH(CD3)CL−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)
と組み合わせた形態、
又はクロスオーバーFab(VHCL:VLCH1)に基づく、
VL(5T4)−CH1−L1−VH(CD3)−L2−VL(CD3)若しくは
VL(5T4)−CH1−L1−VL(CD3)−L2−VH(CD3)

VH(5T4)CL−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)若しくは
VH(5T4)CL−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)
と組み合わせた形態、
又は
VL(5T4)−CH1−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)若しくは
VL(5T4)−CH1−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)

VH(5T4)CL−L1−VH(CD3)−L2−VL(CD3)若しくは
VH(5T4)CL−L1−VL(CD3)−L2−VH(CD3)
と組み合わせたもの。
【0047】
全てのこれらの融合タンパク質は、図1B及び1Cに示されている。
【0048】
包含される他のTb−5T4融合タンパク質は、図1Dの(xiii)及び(xvi)に2つの可能な組合せについて図示するように、構造がCH1及びCLヘテロ二量体との単一ドメイン結合物融合体(dFab)に基づく融合タンパク質である(図1Dも参照):
V1(5T4)CL−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)若しくは
V1(5T4)CL−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)
[式中、V1は5T4に特異性を有する単一ドメイン結合体である]を
V2−CH1−L1−VH(CD3)−L2−VL(CD3)若しくは
V2−CH1−L1−VL(CD3)−L2−VH(CD3)
[式中、V2は5T4又はCD3に対する特異性と異なる特異性を有する単一ドメイン結合物である]
と組み合わせたもの、
又は、図1Dの(xiv)及び(xvii)に2つの可能な組合せについて図示するように
V2−CH1−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)若しくは
V2−CH1−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)

V1(5T4)CL−L1−VH(CD3)−L2−VL(CD3)若しくは
V1(5T4)CL−L1−VL(CD3)−L2−VH(CD3)
と組み合わせた、異なる形態の編成
[式中、V2は5T4又はCD3に対する特異性と異なる特異性を有する単一ドメイン結合物である]、
又は、図1Dのモデル(xv)及び(xviii)に2つの可能な組合せについて図示するように、
V1(CD3)−CH1−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)若しくは
V1(CD3)−CH1−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)

V2−CL−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)若しくは
V2−CL−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)
と組み合わせた、異なる形態の編成
[式中、V2は、5T4又はCD3に対する特異性と異なる特異性を有する単一ドメイン結合物である]。
【0049】
図1Dに示される組合せの全てにおいて、scFvは、ジスルフィドで安定化された単鎖可変断片(dsFv)の可能性もある。
【0050】
したがって、好ましい実施形態では、好ましくは上記に規定される融合タンパク質が、本発明によって包含される。この融合タンパク質は、2つの異なる鎖:
a)第1の鎖:VH(5T4)−CH1−L1−VH(CD3)−L2−VL(CD3)又は
VH(5T4)−CH1−L1−VL(CD3)−L2−VH(CD3)を
第2の鎖:VL(5T4)CL−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)又は
VL(5T4)CL−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)と組み合わせたもの、
b)第1の鎖:VH(5T4)−CH1−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)又は
VH(5T4)−CH1−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)を
第2の鎖:VL(5T4)CL−L1−VH(CD3)−L2−VL(CD3)又は
VL(5T4)CL−L1−VL(CD3)−L2−VH(CD3)と組み合わせたもの、
c)第1の鎖:VH(CD3)−CH1−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)又は
VH(CD3)−CH1−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)を
第2の鎖:VL(CD3)CL−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)又は
VL(CD3)CL−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)と組み合わせたもの、
d)第1の鎖:VL(CD3)−CH1−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)又は
VL(CD3)−CH1−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)を
第2の鎖:VH(CD3)CL−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)又は
VH(CD3)CL−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)と組み合わせたもの、
e)第1の鎖:VL(5T4)−CH1−L1−VH(CD3)−L2−VL(CD3)又は
VL(5T4)−CH1−L1−VL(CD3)−L2−VH(CD3)を
第2の鎖:VH(5T4)CL−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)又は
VH(5T4)CL−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)と組み合わせたもの、
f)第1の鎖:VL(5T4)−CH1−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)又は
VL(5T4)−CH1−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)を
第2の鎖:VH(5T4)CL−L1−VH(CD3)−L2−VL(CD3)又は
VH(5T4)CL−L1−VL(CD3)−L2−VH(CD3)と組み合わせたもの、
g)第1の鎖V1(5T4)CL−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)又は
V1(5T4)CL−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)を
第2の鎖:V2−CH1−L1−VH(CD3)−L2−VL(CD3)又は
V2−CH1−L1−VL(CD3)−L2−VH(CD3)と組み合わせたもの、
h)第1の鎖:V2−CH1−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)又は
V2−CH1−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)を
第2の鎖:V1(5T4)CL−L1−VH(CD3)−L2−VL(CD3)又は
V1(5T4)CL−L1−VL(CD3)−L2−VH(CD3)と組み合わせたもの、
i)第1の鎖:V1(CD3)−CH1−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)又は
V1(CD3)−CH1−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)を
第2の鎖:V2−CL−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)又は
V2−CL−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)と組み合わせたもの
[式中、VH、VLは抗体結合ドメインであり、CH1及びCLは抗体ドメインである]を含み、(a)鎖内に形成された1つ又は2つの組合せVH/VL結合ドメインが、5T4細胞外抗原に結合する能力があり;(b)鎖内に形成された残りの1つ又は2つの組合せVH/VL結合ドメインがT細胞のCD3受容体複合体に結合する能力があるような融合タンパク質である。
【0051】
実施形態では、融合タンパク質とも呼ばれるTb−5T4融合タンパク質は、CH1:CLを含む部分が5T4抗原に結合性であって、CH1を含む鎖及びCLを含む鎖のそれぞれが、C末端に別の結合分子を付けて伸長されている融合タンパク質を含む。CH1:CLを含む部分が1つの5T4結合機能を与える場合、追加的な融合型結合物は、少なくとも1つの他の5T4結合分子及び1つの他のCD3結合分子を含む。
【0052】
本発明の融合タンパク質は、正常な抗体に見られるようなVドメインの組合せに由来する可能性がある。それらは、単鎖可変断片(scFv)として形式化することができる。scFvは、形式VH−リンカー−VL又は形式VL−リンカー−VHである可能性がある。両方の形式は、結合特性及び安定性に差を有する可能性がある。両方の形式は、当業者による過度の負担なしに比較することができる。scFvの使用が、国際公開第88/01649号(single polypeptide binding molecules)及び米国特許第5455030号(Immunotherapy using single chain polypeptide binding molecules)によって考えられている。
【0053】
scFv分子は、当技術分野において記載されているリンカー分子を含む。技術は、リンカー配列をVH及びVLの特定の対について最適化できる例を含有している。好ましいリンカーは、第1のVドメインのC末端と第2のVドメインのN末端との間の距離に及ぶ。好ましいリンカーは、可変領域のフォールディングを妨害しないために十分に柔軟でもある。好ましいリンカーは、抗原性抗体エピトープ及び免疫原性T細胞エピトープを全く含有しない。scFvの2つのVドメインを繋ぐ好ましいリンカーの例は、多数のグリシン(柔軟な非免疫原性アミノ酸)及びセリン(高い溶解性を有する柔軟な低免疫原性アミノ酸)を含有する15〜18アミノ酸長のペプチドである。当技術分野において公知の最も好ましいリンカーの例は、GGGGSGGGGSGGGGSである、又は(GGGGS)3と記される。
【0054】
可変ドメインは、一般には、安定な相互作用を有さず、VH:VLの解離定数は、10mMと高い可能性がある。結果として、Vドメイン二量体は、解離していることが多い。両方のドメインを融合させるリンカーは、再会合の機会を増加させる。
【0055】
1つの他の技法が、当技術分野において公知である:国際公開第94/29350号(Methods of making recombinant disulphide−stabilized polypeptide fragments having binding specificity)は、人工ジスルフィド架橋を工学的に作製するための、VHとVLとの間の特異的部位における工学操作を教示している。このようにして、共有結合的に安定な二量体を得ることができる。本発明において、可変結合断片が単鎖ポリペプチドであることが好ましい。2つがTb−5T4トリボディーなどの融合タンパク質のために必要であるので、単鎖形式はVドメインの誤対合を回避することで産物のばらつき及び非機能性誘導体の産生を回避する。しかし、VH−VL対の頻繁な解離及び再会合は、特別な場合にTb−5T4などの別の融合タンパク質との二量体形成に至る場合がある。これらの産物は、可能な二価抗CD3結合性を有することで、腫瘍標的細胞に蓄積しない場合であってもT細胞の潜在的活性化を有する。
【0056】
scFv分子に基づく多くの二重特異性T細胞エンゲージャー(bispecific T−cell engager)が、オフターゲット毒性を炎症性サイトカイン産生の形で誘導する。誘導される典型的なサイトカインは、IL−2、IFN−ガンマ及びTNF−アルファである。刺激が高い及び/又はサイトカインストームが臨床的に制御されない場合、そのことは、臓器不全に繋がり、生命を脅かすおそれがある。
【0057】
本発明は、ジスルフィドで安定化された単鎖可変ドメイン(dsFv)を作り出すために、国際公開第88/01649号に教示されているような単鎖可変ドメイン技法と、国際公開第94/29350号に教示されているようなV断片のジスルフィド安定化との組合せを使用する可能性がある、又は使用する。
【0058】
本発明の融合タンパク質を組み立てるために、機能的結合分子を形成する可変ドメインを選択しなければならない。正常組織における交差反応性が記載されていない、5T4 TAAに結合性の適切な抗体は、マウスモノクローナル5T4.H8として公知である。5T4.H8の可変ドメインは、配列番号01及び配列番号16に示される、又はそれに含まれる、又はそれからなる。これらの配列の構造的により安定な誘導体は、配列番号02及び配列番号17に示される、又はそれに含まれる、又はそれからなる。マウス可変ドメインフレームワーク領域は、当技術分野において公知の様々な方法を使用してヒト化される可能性がある。ヒト化可変ドメインの例は、VHドメインについて配列番号3〜15(配列番号3;4;5;6;7;8;9;10;11;12;13;14;15)及びVLドメインについて配列番号18〜25(配列番号18;19;20;21;22;23;24;25)に示される、又はそれに含まれる、又はそれからなる。ヒト化フレームワーク残基は、一般には抗原性及び/又は免疫原性がより低いと考えられるので、好ましい。したがって、本発明のTb−5T4などの好ましい融合タンパク質は、配列番号3〜15のVH配列と配列番号18〜25のVL配列との組合せを有する。したがって、実施形態は、配列番号3〜15のうちの1つと少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、97%、98%、99%の同一性を有する配列の1つを含む、又は1つからなるVH配列と、配列番号18〜25のうちの1つと少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、97%、98%、99%の同一性を有する配列の1つを含む、又は1つからなるVL配列との組合せを有する、本発明のTb−5T4などの融合タンパク質に関する。次に、機能的組合せを、VH−リンカー−VL形式若しくはVL−リンカー−VH形式のジスルフィドで安定化された単鎖可変ドメイン(dsFv)に形式化することができ、又はCH1ドメイン及びCLドメインに移植してVHCH1:VLCL Fab又はVHCL:VLCH1クロスオーバーFabを作り出することができる。
【0059】
CD3複合体への適切な結合物を、類似の方法で組み立てることができる。T細胞を活性化するいくつかのCD−イプシロン結合物が、当技術分野において公知である。OKT3は、移植拒絶を予防するために使用されるマウスモノクローナルである。OKT3配列(配列番号26及び配列番号34又はこれらの配列を含む、若しくはこれらの配列と少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、97%、98%、99%の同一性を有する配列)の使用が米国特許第6750325号(CD3 specific recombinant antibody)及び国際公開第2008/079713号(Methods for the treatment of LADA and other adult−onset autoimmune diabetes using immunosuppressive monoclonal antibodies with reduced toxicity)によって教示されている。OKT3可変配列のヒト化形態は、米国特許第7635475号(Novel diabody−type bispecific antibody)及び国際公開第2005/040220号(Multispecific deimmunized CD3−binders)に開示されている。ヒト化OKT3由来のVHドメイン配列は、配列番号27;28;29(又はこれらの配列を含む、若しくはこれらの配列と少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、97%、98%、99%の同一性を有する配列)に示されている。ヒト化OKT3由来のVLドメイン配列は、配列番号35;36;37(又はこれらの配列を含む、若しくはこれらの配列と少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、97%、98%、99%の同一性を有する配列)に示されている。scFv、dsFv Fab又はクロスオーバーFab組合せを作り出すためのOKT3可変ドメインに基づくCD3結合部分は、配列番号27〜29(又はこれらの配列を含む、若しくはこれらの配列のうちの1つと少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、97%、98%、99%の同一性を有する配列)と配列番号35〜37(又はこれらの配列を含む、若しくはこれらの配列のうちの1つと少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、97%、98%、99%の同一性を有する配列)とから製造することができる。
【0060】
CD3に対する他の結合物は、米国特許第7728114号(Anti−CD3 antibodies and methods of use thereof)(配列番号30及び38又はこれらの配列を含む、若しくはこれらの配列と少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、97%、98%、99%の同一性を有する配列);国際公開第94/04679号(Humanized antibodies and methods for making them)(配列番号32及び40又はこれらの配列を含む、若しくはこれらの配列と少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、97%、98%、99%の同一性を有する配列)、米国特許第7381803号(Humanized antibodies against CD3)(配列番号33及び40又はこれらの配列を含む、若しくはこれらの配列と少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、97%、98%、99%の同一性を有する配列)によって、又はLiら(2005).「Construction and characterization of a humanized anti−human CD3 monoclonal antibody 12F6 with effective immunoregulation functions.」Immunology 116(4):487〜498(配列番号31及び39又はこれらの配列を含む、若しくはこれらの配列と少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、97%、98%、99%の同一性を有する配列)によって記載されているように当技術分野において公知である。他の種のCD3分子にも結合する適切な抗CD3結合物の他の例は、国際公開第2008/119567号(Cross−species−specific binding domain)に記載されており、国際公開第2010/037835号によって教示されるように、二重特異性T細胞エンゲージャーの創出における抗CD3結合物の使用も記載されている。
【0061】
本発明の実施形態では、次に、VH及びVLの選ばれた組合せは、単鎖可変断片に形式化することができる。これは、配置VH−L2−VL又はVL−L2−VHの可能性がある[式中、L2は、第1の可変ドメインのC末端アミノ酸を第2の可変ドメインのN末端に繋いでいるリンカー配列である]。好ましいリンカーは15〜30アミノ酸長であり、最小の疎水性及び免疫原性又は抗原性と共に高い柔軟性を有する。好ましいリンカーの例は、さらに数個(2〜4つ)の小型アミノ酸で伸長されている可能性がある(GGGGS)3リンカーである。そのような伸長された(GGGS)3リンカーの例は、配列ASGGGGSGGGGSGGGGSAGである。代替的なリンカーが当技術分野で公知であり、安定性又は溶解性を増加させるために抗体断片への立体障害を最小にするように最適化されている。当技術で公知のリンカーを、より最適なscFv分子を得るために評価することができる。L2リンカーのさらなる最適化は、選択系と連動した無作為化により得ることができる。そのような最適化の例は、Tangら、1996「Selection of Linkers for a Catalytic Single−chain Antibody Using Phage Display Technology」、The Journal of Biological Chemistry、271、15682〜15686に示されている。
【0062】
本発明のscFvは、scFvのジスルフィド安定化形態を導入することによってさらに安定化することができる。国際公開第94/29350号は、どの位置がVHドメインのC末端側の半分とVLドメインのC末端側の半分との間に非天然ジスルフィド結合を工学的に作製するために適格であるかを説明している。他の例が、Schiedlら、2000「Expression of a bispecific dsFv−dsFv’ antibody fragment in Escherichia coli」Protein Eng.(2000)13(10):725〜734によって例証されている。これらの刊行物の教示とは異なり、驚くことに、本発明の好ましい分子は、適正なVHとVLとの間に工学的に作製されたジスルフィド結合でさらに安定化された単鎖可変断片である単一のペプチド分子を使用している。これによって、CD3結合物の多量体化が原因の高度活性化複合体の形成が防止された。驚くことに、融合タンパク質に存在する2つの異なるscFvにドメイン間ジスルフィド結合を工学的に作製しても、ミスマッチの対は形成しなかった。融合タンパク質がすでに8つのドメイン内ジスルフィド結合及び1つの鎖間ジスルフィド結合を含有し、今回もう2つのドメイン間ジスルフィド結合が導入されていることを考慮すれば、本発明の融合タンパク質にジスルフィド誤対合が全くなかったことも、同じく驚くべきことであった。本発明の融合タンパク質が分子全体のより高い安定性を有することも、驚くべきことであった。一例は、新規なヒト化形態のCD3結合性scFv(OKT3)をds安定化させた場合(dshuOKT3−31)のT細胞活性化能における驚くべき増加である。5T4結合物に関する組合せVH/VL結合ドメイン(すなわち組合せVH/VLとも呼ばれる)についての配列は、配列番号42(scFv5T4);配列番号43(scFvhu5T4);配列番号44(dsFvhu5T4)に示されている。結合性がOKT3に基づく、CD3に対する組合せVH/VL結合ドメインについての配列は、配列番号45(scFvOKT3);配列番号46(scFvhuOKT3v32)及び配列番号47(dsFvhuOKT3v32)である。本発明の別の実施形態では、融合タンパク質は、配列番号48におけるUCHT1に基づく、ジスルフィドで安定化されたヒト化CD3結合物(dsFvhuUCHT1−24)を含有する。言うまでもなく、当業者は、配列番号1〜41における配列表に基づき他の機能的組合せを製造することができる(すなわち融合タンパク質の人工配列部分とも呼ばれる)。これらの配列を含む配列(すなわち配列番号42、43、44、45、46、47、48)又はこれらの配列と少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、97%、98%、99%の同一性を有する配列も、本発明によって包含される。異なるフレームワークへの抗原の結合性を担う領域を移植することも、当技術分野において公知である。抗原結合部位は、「バーニア(Vernier)」ゾーンの構造的疎水性コアによって支持されている6つの別個の相補的決定領域(CDR)から構成されている。CDR及び不可欠な支持配列の移植は、米国特許第8399625号の教示にあり、例えば国際公開第91/09967号;米国特許第5225539号;米国特許第5693761号又は同第5821337号に開示されているように、異なる種からの抗原結合部位をヒトフレームワーク残基と組み合わせるためにしばしば使用される。抗体に応じて、CDRループの全ての配列が必要なわけでなく、不可欠な位置は、アラニン走査突然変異誘発によって判定することができる。アラニン走査突然変異誘発では、CDRループの各アミノ酸がAlaに変化され、結合性について評価される。抗原結合部位を保存するために最小限の残基を決定する技法の、より最近の好ましい変形は、国際公開第2012/038609号「Super−humanized antibodies」、及びPelatら(2011)「Engineering the variable region of therapeutic IgG antibodies」MAbs 3(3):243〜252に記載されている。当業者は、本発明の融合タンパク質に含有される抗原結合部位を、配列番号1〜41に挙げられるような異なるフレームワークに容易に変化させることができる。
【0063】
所望のVドメインが同定された後、マッチするペアを選択して、Fab定常ドメインCH1及びCLに移植する必要がある。この技法は、Vドメイン(VH及びVL)並びにCドメイン(CH1及びCL)の非天然組合せを含有する「キメラ」Fab分子をもたらす。結合性及び安定性に影響する可能性があるFabのフォールディングを破壊しないように、天然Fab配列との相同性によって置換を導くことができる。Fabのキメラ化は、当技術分野において十分に記載されている(例えば、米国特許出願公開第2003/0095964号「Process for producing humanized chimera antibody」を参照されたい)。VHCL:VLCH1立体配置のクロスオーバーFab鎖の創出でさえも、十分に記載されており、Vドメインの移植の成功を可能にする(例えば、Fennら(2013)「Crystal structure of an anti−Ang2 CrossFab demonstrates complete structural and functional integrity of the variable domain.」PLoS One 8(4):e61953を参照されたい)。
【0064】
本発明の実施形態では、Fab由来鎖(一方の腕のCH1含有鎖及び他方の腕のCL含有鎖)のC末端アミノ酸は、選択されたscFv又はdsFv又は単一ドメイン結合物又はエフェクター分子(抗体由来又は非抗体由来)と選ばれたリンカー配列L1で結合される。L1は、単一のアミノ酸と同じ短さの可能性があり、機能的に必要なだけ長い可能性がある。L1が2つのscFv由来構成ブロックとFab由来部分との間にいくらかの間隙を導入するべきであることが好ましい。また、L1がリンカーの柔軟性をいくらか有するべきであることが好ましい。L1の長さは、エピトープの位置とCD3との間の最適な距離に適合するように最適化することができる。そのような例は、Hombachら(2007).「T cell activation by antibody−like immunoreceptors: the position of the binding epitope within the target molecule determines the efficiency of activation of redirected T cells.」J Immunol 178(7):4650〜4657;及びGuestら(2005).「The role of extracellular spacer regions in the optimal design of chimeric immune receptors: evaluation of four different scFvs and antigens.」J Immunother 28(3):203〜211に見出すことができる。リンカー配列の組成は、硬さ、プロテアーゼ耐性について最適化することができ、又は追加的な機能を含有することができる。
【0065】
好ましい実施形態では、本発明の融合タンパク質は、マウス5T4結合物に基づく融合タンパク質(Tb535C)についての配列番号49(CH1含有鎖)及び配列番号50(CL含有鎖)並びにヒト化5T4結合物に基づく本発明の融合タンパク質(Tb535H)についての配列番号51(CH1含有鎖)及び配列番号52(CL含有鎖)を含む。
【0066】
好ましい実施形態では、本発明の融合タンパク質は、マウス5T4結合物に基づく融合タンパク質(Tb535C)についての配列番号49(CH1含有鎖)と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有する配列及び配列番号50(CL含有鎖)と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有する配列を含む。別の好ましい実施形態では、本発明の融合タンパク質は、ヒト化5T4結合物に基づく本発明の融合タンパク質(Tb535H)についての配列番号51(CH1含有鎖)と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一性を有する配列及び配列番号52(CL含有鎖)と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有する配列を含む。
【0067】
好ましい実施形態では、本発明の融合タンパク質は、マウス5T4結合物に基づく融合タンパク質(Tb535C)についての配列番号49(CH1含有鎖)及び配列番号50(CL含有鎖)の配列を含む又はそれからなる。別の好ましい実施形態では、本発明の融合タンパク質は、ヒト化5T4結合物に基づく本発明の融合タンパク質(Tb535H)についての配列番号51(CH1含有鎖)及び配列番号52(CL含有鎖)の配列を含む又はそれからなる。
【0068】
最良の結果がTb535Hで得られたが、驚くことに、Tb535Hはコンパクトな立体配置を有する(図5A)。したがって、Tb535Hは実に安定であり(図6Ad)、Tb535Hは産生がより容易である(最適な収量は図7Dで得られた)と想定することができよう。加えて、驚くことに、そのような融合タンパク質は、大きな分布容積を有し、浄化が遅いことが見出された(図10)。最終的に、この融合タンパク質の活性は、種々の腫瘍型に対して最適である(図9、11A、11B)。
【0069】
一実施形態では、本発明の融合タンパク質は、配列番号1〜15のうちのいずれか1つからなる、又はそれを含む、又はそれと少なくとも90%の同一性を有する、1つ又は2つのVH結合ドメインを含む。好ましいVHは、配列番号6からなる、又はそれを含む、又はそれと少なくとも90%の同一性を有する配列によって表される。別の実施形態では、本発明の融合タンパク質は、配列番号16〜25のうちの任意の1つからなる、又はそれを含む、又はそれと少なくとも90%の同一性を有する、1つ又は2つのVL結合ドメインを含む。好ましいVLは、配列番号19からなる、又はそれを含む、又はそれと少なくとも90%の同一性を有する配列によって表される。本発明の融合タンパク質は、配列番号1〜15のうちのいずれか1つと、配列番号16〜25のうちのいずれかとの組合せを含むことが好ましい。より好ましい本発明の融合タンパク質は、配列番号6からなる、それを含む、又はそれと少なくとも90%の同一性を有する配列によって表されるVHと、配列番号19からなる、又はそれを含む、又はそれと少なくとも90%の同一性を有する配列によって表されるVLとの組合せを含む。
【0070】
本発明の別の実施形態では、融合タンパク質は、i)配列番号26〜33のうちの任意の1つからなる、若しくはそれを含む、若しくはそれと少なくとも90%の同一性を有する1つ若しくは2つのVH結合ドメインを含む、又はii)配列番号34〜41のうちの任意の1つからなる、若しくはそれを含む、若しくはそれと少なくとも90%の同一性を有する1つ若しくは2つのVL結合ドメインを含む。好ましい実施形態では、本発明の融合タンパク質は、配列番号26〜33のうちの任意の1つと、配列番号34〜41のうちのいずれかとの組合せを含む。融合タンパク質は、i)配列番号29からなる、若しくはそれを含む、若しくはそれと少なくとも90%の同一性を有する1つ若しくは2つのVH結合ドメインを含む、又はii)配列番号37からなる、若しくはそれを含む、若しくはそれと少なくとも90%の同一性を有する1つ若しくは2つのVL結合ドメインを含むことが、より好ましい。
【0071】
好ましい実施形態では、本発明の融合タンパク質は、配列番号42〜44のうちの任意の1つ又は配列番号45〜48のうちのいずれか1つからなる、又はそれを含む、又はそれと少なくとも90%の同一性を有する、1つ又は2つの組合せVH/VL結合ドメインを含み、より詳細には1つ又は2つの組合せVH/VL結合ドメインは、配列番号42〜44のうちのいずれか1つからなる、又はそれを含む、又はそれと少なくとも90%の同一性を有し、残りの1つ又は2つの組合せVH/VL結合ドメインは、配列番号45〜48のうちのいずれか1つからなる、又はそれを含む、又はそれと少なくとも90%の同一性を有する。より好ましい実施形態では、本発明の融合タンパク質の一方の鎖は配列番号49を含むのに対して、他方の鎖は配列番号50を含む、又は一方の鎖は配列番号51を含み、他方の鎖は配列番号52を含む。
【0072】
本発明は、本明細書記載の本発明の融合タンパク質をコードしている核酸配列だけでなく、そのような核酸配列を含むベクター又はそのような核酸配列若しくはそのようなベクターを形質転換若しくは形質移入された宿主細胞も含む。
【0073】
本発明は、また、本発明の融合タンパク質を産生させる方法からなる又はそれを含み、前記方法は、上記に規定される宿主細胞を、本発明の融合タンパク質の発現を可能にする条件で培養するステップ及び培養物から産生された融合タンパク質を回収するステップを含む。
【0074】
好ましい実施形態では、本発明は、医薬として使用するための、より詳細には、増殖性疾患、腫瘍性疾患、及び免疫障害から選択される疾患の予防、治療又は回復における使用のための、本発明の融合タンパク質を含む、又は上記方法により産生された医薬組成物である。本発明は、また、本発明の融合タンパク質、上記の核酸分子、上記のベクター、又は上記の宿主細胞を含むキットを提供するものである。
【0075】
本発明の融合タンパク質は、好ましくは、「単離された」融合タンパク質である。本明細書に開示された融合タンパク質を説明するために使用された場合の「単離された」は、その産生環境の構成成分から同定、分離及び/又は回収された融合タンパク質を意味する。好ましくは、単離された融合タンパク質は、その産生環境からの全ての他の構成成分との関連を有さない。組換え形質移入細胞に起因する混入構成成分などの、その産生環境の混入構成成分は、ポリペプチドについての診断的使用又は治療的使用を典型的には妨害する物質であり、酵素、ホルモン、及び他のタンパク質性溶質又は非タンパク質性溶質を含む場合がある。好ましい態様では、融合タンパク質は、(1)スピニングカップ配列決定装置(spinning cup sequenator)の使用によってN末端アミノ酸配列若しくは内部アミノ酸配列の少なくとも15残基を得るために十分な程度まで、又は(2)クマシーブルー若しくは好ましくは銀染料を使用した非還元条件若しくは還元条件のSDS−PAGEにより均質となるまで、精製される。しかし通例、単離された抗体は、少なくとも1つの精製ステップによって調製される。当業者は、本発明の融合タンパク質が自然界でそれ自体として存在しないことを理解している。本発明の融合タンパク質は、組換え分子生物学的技法によって産生されている。
【0076】
本発明に関連して、タンパク質は、アミノ酸配列によって表される。本発明に関連して、好ましいタンパク質は、本明細書において同定された融合タンパク質又はその鎖である。
【0077】
本発明に関連して、そのようなタンパク質若しくは融合タンパク質又はその鎖をコードしている核酸分子としての核酸分子は、核酸又はヌクレオチド配列によって表される。核酸分子は、調節領域を含む場合がある。
【0078】
本明細書において所与の配列識別番号(配列番号)によって識別される各タンパク質は、開示されたこの特異的配列に限定されず、本明細書上記に規定されたものと類似の活性を示すタンパク質変異体又は誘導体も包含することを理解すべきである。(例えば)所与の配列番号Xによって識別され、そのようなタンパク質をコードしている各核酸分子について同じことが当てはまり、本発明は、配列番号Xによって最初にコードされているタンパク質のうちの1つと類似の活性を有するタンパク質をコードしている核酸分子変異体又はその誘導体も包含する。これに関連して、活性は、5T4に対する融合タンパク質の結合性及び/又は5T4発現細胞の、好ましくは腫瘍細胞の、誘導死の場合がある。より好ましくは、結合性及び/又は死滅の判断は、図8に示される実験で実施される通りである。
【0079】
本出願にわたり、所与のタンパク質若しくは融合タンパク質又はその鎖をコードしている特異的ヌクレオチド配列の配列番号(例として配列番号Xとする)を参照するたびに、ヌクレオチド配列は:
i.配列番号Xと少なくとも60%の配列同一性若しくは類似性を有するヌクレオチド配列を含むヌクレオチド配列;
ii.相補鎖が、(i)の配列の核酸分子とハイブリダイズするヌクレオチド配列;
iii.配列が、遺伝コードの縮重が原因で、(i)若しくは(ii)の核酸分子の配列と異なるヌクレオチド配列;又は
iv.ヌクレオチド配列の配列番号Xによってコードされているアミノ酸配列と少なくとも60%のアミノ酸同一性若しくは類似性を有するアミノ酸配列をコードしているヌクレオチド配列
によって置き換えられる場合がある。
【0080】
本出願にわたり、特異的アミノ酸配列の配列番号(例として配列番号Yとする)を参照するたびに、ヌクレオチド配列は:配列番号Yのアミノ酸配列と少なくとも60%の配列同一性又は類似性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質若しくは融合タンパク質又はその鎖によって置き換えられる場合がある。
【0081】
それぞれ所与のヌクレオチド配列又はアミノ酸配列との同一性パーセンテージ又は類似性パーセンテージ(少なくとも60%)に基づき、本明細書に記載された各ヌクレオチド配列又はアミノ酸配列は、さらに好ましい実施形態で、それぞれ所与のヌクレオチド配列又はアミノ酸配列と、少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%の同一性若しくは類似性又はそれを超える同一性若しくは類似性を有する。好ましい実施形態では、配列同一性又は配列類似性は、本明細書において同定された配列の全長を比較することによって決定される。本明細書において特に指示しない限り、所与の配列番号との同一性又は類似性は、上記配列の完全長に基づく(すなわちその全長にわたる又は全体としての)同一性又は類似性を意味する。
【0082】
「配列同一性」は、本明細書において、2つ以上のアミノ酸(ポリペプチド若しくはタンパク質)配列又は2つ以上の核酸(ポリヌクレオチド)配列を比較することによって決定されるような、それらの配列の間の関係として規定される。好ましい実施形態では、配列同一性は、2つの所与の配列番号の完全長又はその部分に基づき計算される。その部分は、両方の配列番号の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、又は100%を好ましくは意味する。当技術分野において、「同一性」は、場合によってはそのような配列の列の間のマッチによって決定されるような、アミノ酸配列又は核酸配列の間の配列関連性の程度も意味する。
【0083】
2つのアミノ酸配列の間の「類似性」は、1つのポリペプチドのアミノ酸配列及びその保存的アミノ酸置換物を、第2のポリペプチドの配列と比較することによって決定される。「同一性」及び「類似性」は、(Computational Molecular Biology、Lesk、A.M.編、Oxford University Press、New York、1988;Biocomputing:Informatics and Genome Projects、Smith、D.W.編、Academic Press、New York、1993;Computer Analysis of Sequence Data、第I部、Griffin、A.M.、及びGriffin、H.G.編、Humana Press、New Jersey、1994;Sequence Analysis in Molecular Biology、von Heine、G.、Academic Press、1987;及びSequence Analysis Primer、Gribskov、M.及びDevereux、J.編、M Stockton Press、New York、1991;並びにCarillo、H.、及びLipman、D.、SIAM J.Applied Math.、48:1073(1988)に記載されている方法を非限定的に含めた公知の方法によって容易に計算することができる。
【0084】
同一性を決定するために好ましい方法は、被験配列の間に最大のマッチを与えるように計画される。同一性及び類似性を決定するための方法は、公的に入手可能なコンピュータープログラムに暗号化されている。2つの配列の間の同一性及び類似性を決定するために好ましいコンピュータープログラム方法には、例えばGCGプログラムパッケージ(Devereux、J.ら、Nucleic Acids Research 12(1):387(1984))、BestFit、BLASTP、BLASTN、及びFASTA(Altschul、S.F.ら、J.Mol.Biol.215:403〜410(1990)が含まれる。BLAST Xプログラムは、NCBI及び他の入手源から公的に入手可能である(BLAST Manual、Altschul、S.ら、NCBI NLM NIH Bethesda、MD 20894;Altschul、S.ら、J.Mol.Biol.215:403〜410(1990)が含まれる。周知のSmith Watermanアルゴリズムも同一性を決定するために使用することができる。
【0085】
ポリペプチド配列の比較のために好ましいパラメーターには、以下:アルゴリズム:Needleman及びWunsch、J.Mol.Biol.48:443〜453(1970);比較行列:Hentikoff及びHentikoff、Proc.Natl.Acad.Sci.USA.89:10915〜10919(1992)からのBLOSSUM62;ギャップ(Gap)ペナルティー:12;及びギャップ長ペナルティー:4が含まれる。これらのパラメーターに有用なプログラムは、Madison、WIにあるGenetics Computer Groupから「Ogap」プログラムとして公的に入手可能である。上記パラメーターは、アミノ酸比較についてのデフォルトのパラメーターである(末端ギャップについてペナルティーなしに加えて)。
【0086】
核酸比較のために好ましいパラメーターには、以下:アルゴリズム:Needleman及びWunsch、J.Mol.Biol.48:443〜453(1970);比較行列:マッチ=+10、ミスマッチ=0;ギャップペナルティー:50;ギャップ長ペナルティー:3が含まれる。Madison、WisにあるGenetics Computer Groupからギャッププログラムとして入手可能である。核酸比較のためのデフォルトのパラメーターを上に示す。
【0087】
任意選択で、アミノ酸の類似度を決定するにあたり、当業者は、当業者に明らかなように、いわゆる「保存的」アミノ酸置換も考慮することができる。保存的アミノ酸置換は、類似の側鎖を有する残基の互換性を表す。例えば、脂肪族側鎖を有するアミノ酸の群は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、及びイソロイシンであり;脂肪族ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸の群は、セリン及びトレオニンであり;アミノ含有側鎖を有するアミノ酸の群は、アスパラギン及びグルタミンであり;芳香族側鎖を有するアミノ酸の群は、フェニルアラニン、チロシン、及びトリプトファンであり;塩基性側鎖を有するアミノ酸の群は、リシン、アルギニン、及びヒスチジンであり;含硫側鎖を有するアミノ酸の群は、システイン及びメチオニンである。好ましい保存的アミノ酸置換の群は:バリン−ロイシン−イソロイシン、フェニルアラニン−チロシン、リシン−アルギニン、アラニン−バリン、及びアスパラギン−グルタミンである。本明細書開示のアミノ酸配列の置換変異体は、開示された配列における少なくとも1つの残基が除去されており、異なる残基がその位置に挿入された置換変異体である。アミノ酸変化は、保存的であることが好ましい。天然アミノ酸のそれぞれについて好ましい保存的置換は、以下の通りである:AlaからSer;ArgからLys;AsnからGln又はHis;AspからGlu;CysからSer又はAla;GlnからAsn;GluからAsp;GlyからPro;HisからAsn又はGln;IleからLeu又はVal;LeuからIle又はVal;LysからArg;GlnからGlu;MetからLeu又はIle;PheからMet、Leu又はTyr;SerからThr;ThrからSer;TrpからTyr;TyrからTrp又はPhe;及びValからIle又はLeu。
【0088】
包含されるいくつかの種類の融合タンパク質変異体を後述する。本明細書記載の融合タンパク質のアミノ酸配列の改変が予期されている。例えば、抗体の結合親和性及び/又は他の生物学的性質を改善することが理想的な場合がある。融合タンパク質のアミノ酸配列変異体は、融合タンパク質の核酸に適切なヌクレオチド変化を導入すること、又はペプチド合成によって調製される。
【0089】
そのような改変には、例えば、融合タンパク質のアミノ酸配列からの欠失、及び/又はアミノ酸配列への挿入、及び/又はアミノ酸配列内の残基の置換が含まれる。最終構築物が所望の特徴を有するという条件で最終構築物に到達するために、欠失、挿入、及び置換の任意の組合せが行われる。アミノ酸変化は、グリコシル化部位の数又は位置を変化させるなどの、融合タンパク質の翻訳後過程を変更する可能性もある。CDRの中の1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10個のアミノ酸が置換される場合があり、一方でFRの中の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、又は25個のアミノ酸が置換される場合があることが好ましい。置換は、好ましくは本明細書記載の保存的置換である。追加的又は代替的に、CDRのそれぞれに1、2、3、4、5、又は6つのアミノ酸が挿入又は欠失される場合があり(もちろん、CDRの長さに応じて)、一方で、FRのそれぞれに1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、又は25個のアミノ酸が挿入又は欠失される場合がある。
【0090】
突然変異誘発に好ましい位置である、融合タンパク質の特定の残基又は領域の同定に有用な方法は、Cunningham及びWellsによってScience、244:1081〜1085(1989)に記載されているように「アラニン走査突然変異誘発」と呼ばれている。この方法で、融合タンパク質内の残基又は標的残基の群が同定され(例えば、arg、asp、his、lys、及びgluなどの荷電残基)、アミノ酸とエピトープとの相互作用に影響を及ぼすために、中性アミノ酸又は陰性荷電アミノ酸(最も好ましくは、アラニン又はポリアラニン)によって置き換えられる。
【0091】
次に、置換に対する機能的感受性を示しているそれらのアミノ酸位置が、置換部位に又は置換部位について、さらなる変異又は他の変異を導入することによって精密化される。このように、アミノ酸配列変異を導入するための部位が予め決定されているものの、突然変異の性質が、本質的に予め決定されている必要はない。例えば、所与の部位での突然変異の性能を分析するために、標的コドン又は領域でala走査又はランダム突然変異誘発が行われ、発現された融合タンパク質変異体が、所望の活性についてスクリーニングされる。
【0092】
アミノ酸配列の挿入は、1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10残基長から、100個以上の残基を含有するポリペプチドまでの範囲のアミノ末端融合及び/又はカルボキシル末端融合、並びに1つ又は複数のアミノ酸残基の配列内挿入を含むことが好ましい。融合タンパク質の挿入変異体には、酵素に対する抗体のN若しくはC末端との融合又は抗体の血清半減期を増加させるポリペプチドとの融合が含まれる。
【0093】
別の種類の変異体は、アミノ酸置換変異体である。これらの変異体は、融合タンパク質の少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10個のアミノ酸残基が異なる残基によって好ましくは置き換えられている。置換突然変異誘発にとって最も関心がもたれる部位には、重鎖及び/又は軽鎖のCDR、特に超可変領域が含まれるが、重鎖及び/又は軽鎖FRの変更も考えられる。
【0094】
例えば、CDR配列が6つのアミノ酸を包含するならば、これらのアミノ酸のうちの1、2又は3つが置換されることが想定される。同様に、CDR配列が15個のアミノ酸を包含するならば、これらのアミノ酸のうちの1、2、3、4、5又は6つが置換されることが想定される。
【0095】
一般には、アミノ酸が重鎖及び/又は軽鎖のCDRの1つ又は複数又は全てで置換されるならば、次に得られた「置換された」配列が、本明細書の上記に規定されたような「本来の」CDR配列と少なくとも60%、より好ましくは65%、いっそうより好ましくは70%、特に好ましくは75%、より際立って好ましくは80%同一であることが好ましい。これは、CDRの長さがどの程度までが「置換された」配列と同一であるかに依存することを意味する。例えば5つのアミノ酸を有するCDRは、少なくとも1つのアミノ酸を置換させるためには、その置換された配列と好ましくは80%同一である。したがって、融合タンパク質のCDRは、それらの置換された配列と種々の程度の同一性を有する場合があり、例えば、CDRL1が80%を有する場合がある一方で、CDRL3は90%を有する場合がある。好ましい置換(又は置き換え)は保存的置換である。しかし、融合タンパク質が第1の結合ドメインを介して5T4及び第2の結合ドメインを介してCD3に結合する能力を保持し、並びに/又はそのCDRが、その後置換された配列と同一性を有する(「本来の」CDR配列と少なくとも60%、より好ましくは65%、いっそうより好ましくは70%、特に好ましくは75%、より際立って好ましくは80%同一である)限り、任意の置換(非保存的置換を含む)が想定される。
【0096】
融合タンパク質の他の改変が、本明細書において考えられている。例えば、融合タンパク質は、多様な非タンパク質性ポリマーうちの1つ、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシアルキレン、又はポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとのコポリマーに連結される場合がある。融合タンパク質は、例えば、コアセルベーション技法若しくは界面重合(例えば、それぞれヒドロキシメチルセルロース若しくはゼラチンマイクロカプセル及びポリメタクリル酸メチルマイクロカプセル)によって調製されたマイクロカプセルに、コロイド薬物送達システム(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルション、ナノパーティクル及びナノカプセル)に、又はマクロエマルションに封入することもできる。そのような技法は、Remington’s Pharmaceutical Sciences、第16版、Oslo、A.、Ed.、(1980)に開示されている。本明細書に開示された融合タンパク質は、イムノリポソームとして製剤化することもできる。「リポソーム」は、薬物を哺乳類に送達するために有用な、様々な種類の脂質、リン脂質及び/又は界面活性剤から構成される小型小胞である。リポソームの構成成分は、生体膜の脂質配置に類似して、二重層を形成して通常配置されている。抗体を含有するリポソームは、例えばEpsteinら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、82:3688(1985);Hwangら、Proc.Natl Acad.Sci.USA、77:4030(1980);米国特許第4485045号及び同第4544545号;並びに1997年10月23日に公開された国際公開第97/38731号に記載されたような、当技術分野において公知の方法によって調製される。向上した循環時間を有するリポソームは、米国特許第5013556号に開示されている。特に有用なリポソームは、ホスファチジルコリン、コレステロール及びPEG誘導体化ホスファチジルエタノールアミン(PEG−PE)を含む脂質組成で逆相蒸発法によって作製することができる。リポソームは、所定の孔径のフィルターを通して押し出され、所望の直径のリポソームがもたらされる。本発明の抗体のFab’断片は、Martinら、J.Biol.Chem.257:286〜288(1982)に記載されているようにジスルフィド交換反応を介してリポソームにコンジュゲートすることができる。化学療法剤は、リポソームに任意選択で含有される。Gabizonら、J.National Cancer Inst.81(19)1484(1989)を参照されたい。
【0097】
組換え技法を使用する場合、融合タンパク質を細胞内若しくは細胞周辺腔に産生させる、又は培地中に直接分泌させることができる。融合タンパク質が細胞内に産生するならば、第1のステップとして、宿主細胞又は溶解した断片のいずれかの粒子性残骸が、例えば遠心分離又は限外濾過によって除去される。Carterら、Bio/Technology 10:163〜167(1992)は、大腸菌(E coli)の細胞周辺腔に分泌された抗体を単離するための手順を記載している。
【0098】
細胞から調製された融合タンパク質組成物は、例えば、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、及びアフィニティークロマトグラフィーを使用して精製することができ、アフィニティークロマトグラフィーが好ましい精製技法である。
【0099】
さらなる態様では、本発明は、本発明の融合タンパク質をコードしている核酸配列に関する。前記核酸分子は、宿主細胞内に好ましくは含まれるベクターに好ましくは含まれる。前記宿主細胞は、例えば本発明の核酸配列を形質転換又は形質移入後に、融合タンパク質を発現する能力がある。そのために、核酸分子は、制御配列と作動的に連結されている。
【0100】
本明細書に使用される用語「宿主細胞」は、本発明の融合タンパク質をコードしている核酸に形質転換、形質移入などによって導入されている細胞を表すことが意図される。そのような用語は、特定の対象細胞だけでなく、そのような細胞の子孫又は潜在的子孫も表すことを理解すべきである。突然変異又は環境の影響のいずれかが原因で特定の改変が後代に発生するおそれがあるので、そのような子孫は、実際には親細胞と同一でないおそれがあるが、それでも本明細書に使用される用語の範囲内に含まれる。
【0101】
本明細書に使用される用語「発現」は、転写、転写後改変、翻訳、翻訳後改変、及び分泌を非限定的に含めた、本発明の融合タンパク質の産生に関与する任意のステップを含む。
【0102】
用語「制御配列」は、特定の宿主生物における作動的に連結されたコード配列の発現に必要なDNA配列を表す。原核生物に適切な制御配列には、例えば、プロモーター、任意選択でオペレーター配列、及びリボソーム結合部位が含まれる。真核細胞は、プロモーター、ポリアデニル化シグナル、及びエンハンサーを利用することが公知である。
【0103】
核酸は、別の核酸配列と機能的関係に置かれる場合、「作動的に連結されている」。例えば、予備配列若しくは分泌リーダーがポリペプチドの分泌に参加するプレタンパク質として発現されるならば、予備配列若しくは分泌リーダーに関するDNAはポリペプチドに関してDNAに作動的に連結されており;プロモーター若しくはエンハンサーが配列の転写に影響するならば、それはコード配列に作動的に連結されており;又はリボソーム結合部位が翻訳を促進するように置かれるならば、それはコード配列に作動的に連結されている。一般には、「作動的に連結されている」は、連結されているDNA配列が隣接しており、分泌リーダーの場合は隣接しており読取り相にあることを意味する。しかし、エンハンサーは、隣接している必要がない。連結は、好都合な制限部位でのライゲーションによって達成される。そのような部位が存在しないならば、慣例により合成オリゴヌクレオチドアダプター又はリンカーが使用される。適切な宿主細胞には、原核生物及び並びに酵母、真菌、昆虫細胞及び哺乳類細胞を含めた真核生物性宿主細胞が含まれる。本発明の融合タンパク質を細菌に産生させることができる。
【0104】
本発明の融合タンパク質の発現後、融合タンパク質が、大腸菌細胞ペーストから可溶性画分中に単離され、例えば、アフィニティークロマトグラフィー及び/又はサイズ排除により精製することができることが好ましい。最終精製は、例えば、CHO細胞に発現された抗体を精製するための工程に類似して実施することができる。原核生物に加えて、糸状菌又は酵母などの真核微生物が、本発明の融合タンパク質に適切なクローニング宿主又は発現宿主である。出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)又は一般的なパン酵母は、下等真核性宿主微生物の中で最も一般的に使用される。しかし、シゾサッカロミセスポンベ(Schizosaccharomyces pombe);クリベロマイセス(Kluyveromyces)宿主、例えばK.ラクティス(K.lactis)、K.フラジリス(K.fragilis)(ATCC12424)、K.ブルガリクス(K.bulgaricus)(ATCC16045)、K.ウイケラミイ(K.wickeramii)(ATCC24178)、K.ワルティイ(K.waltii)(ATCC56500)、K.ドロソフィラルム(K.drosophilarum)(ATCC36906)、K.サーモトレランス(K.thermotolerans)、及びK.マルキシアヌス(K.marxianus);ヤロウイア(yarrowia)(EP402226);ピキアパストリス(Pichia pastoris)(EP183070);カンジダ(Candida);トリコデルマレーシア(Trichoderma reesia)(EP244234);ニューロスポラクラッサ(Neurospora crassa);シュワンニオマイセス(Schwanniomyces)、例えばシュワンニオマイセスオクシデンタリス(Schwanniomyces occidentalis);並びに糸状菌、例えば、ニューロスポラ(Neurospora)、ペニシリウム(Penicillium)、トリポクラジウム(Tolypocladium)、及びアスペルギルス宿主、例えばA.ニジュランス(A.nidulans)及びA.ニガー(A.niger)などのいくつかの他の属、種、及び株が一般的に入手可能であり、この際に有用である。
【0105】
本発明のグリコシル化融合タンパク質、好ましくは抗体から得られた融合タンパク質の発現に適した宿主細胞は、多細胞生物から得られる。無脊椎動物細胞の例には、植物細胞及び昆虫細胞が含まれる。数多くのバキュロウイルス株及び変異体並びにヨトウガ(Spodoptera frugiperda)(イモムシ)、ネッタイシマカ(Aedes aegypti)(カ)、ヒトスジシマカ(Aedes albopictus)(カ)、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)(ミバエ)、及びカイコ(Bombyx mori)などの宿主からの対応する許容昆虫宿主細胞が同定されている。形質移入のための多様なウイルス株、例えば、オートグラファカリフォニカ(Autographa californica)NPVのL−1変異体及びカイコガNPVのBm−5株が公的に入手可能であり、そのようなウイルスは、本発明によりこの際にウイルスとして、特にヨトウガ細胞の形質移入のために使用することができる。
【0106】
ワタ、トウモロコシ、ジャガイモ、ダイズ、ペチュニア、トマト、シロイヌナズナ(Arabidopsis)及びタバコの植物細胞培養物も、宿主として利用することができる。植物細胞培養物中のタンパク質の産生に有用なクローニングベクター及び発現ベクターは、当業者に公知である。例えば、Hiattら、Nature(1989)342:76〜78、Owenら(1992)Bio/Technology10:790〜794、Artsaenkoら(1995)The Plant J 8:745〜750、及びFeckerら(1996)Plant Mol Biol 32:979〜986を参照されたい。
【0107】
しかし、関心は脊椎動物細胞において最大であり、培養(組織培養)脊椎動物細胞の増殖が、日常的な手順になっている。有用な哺乳類宿主細胞株の例は、SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1株(COS−7、ATCC CRL1651);ヒト胚性腎臓株(293細胞又は懸濁培養での成長のためにサブクローニングされた293細胞、Grahamら、J.Gen Virol.36:59(1977));ベビーハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC CCL10);チャイニーズハムスター卵巣細胞/−DHFR(CHO、Urlaubら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216(1980));マウスセルトリ細胞(TM4、Mather、Biol.Reprod.23:243〜251(1980));サル腎臓細胞(CVI ATCC CCL70);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO−76、ATCC CRL1587);ヒト子宮頸癌細胞(HELA、ATCC CCL2);イヌ腎臓細胞(MDCK、ATCC CCL34);バッファローラット肝細胞(BRL 3A、ATCC CRL1442);ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL75);ヒト肝細胞(Hep G2、1413 8065);マウス乳腺腫瘍(MMT060562、ATCC CCL51);TRI細胞(Matherら、Annals N.Y Acad.Sci.383:44〜68(1982));MRC5細胞;FS4細胞;及びヒト肝癌株(Hep G2)である。組換え技法を使用する場合、本発明の融合タンパク質を、細胞内若しくは細胞周辺腔に産生させる、又は培地中に直接分泌させることができる。融合タンパク質が細胞内で産生するならば、第1のステップとして、宿主細胞又は溶解した断片のいずれかの粒子性残骸が、例えば遠心分離又は限外濾過によって除去される。Carterら、Bio/Technology 10:163〜167(1992)は、大腸菌の細胞周辺腔に分泌された抗体を単離するための手順を記載している。簡潔には、細胞ペーストが酢酸ナトリウム(pH3.5)、EDTA、及びフェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)の存在下で約30分間かけて解凍される。細胞の残骸は、遠心分離によって取り除くことができる。抗体が培地中に分泌される場合、そのような発現系からの上清は、一般には、市販のタンパク質濃縮フィルター、例えば、アミコン(Amicon)又はMillipore製ペリコン(Pellicon)限外濾過ユニットを使用してまず濃縮される。タンパク質分解を阻害するために、上述のステップのうちのいずれかにPMSFなどのプロテアーゼ阻害剤を含ませることができ、外来性混入物の成長を防止するために抗生物質を含ませることができる。
【0108】
宿主細胞から調製された本発明の融合タンパク質は、例えば、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、及びアフィニティークロマトグラフィーを使用して精製することができ、アフィニティークロマトグラフィーが好ましい精製技法である。アフィニティーリガンドが結合しているマトリックスは、ほとんどの場合アガロースであるが、他のマトリックスも利用可能である。制御された細孔ガラス又はポリスチレンジビニルベンゼンなどの機械的に安定なマトリックスが、アガロースで達成できるよりも速い流速及び短い処理時間を可能にする。本発明の融合タンパク質がCH3ドメインを含む場合、ベーカーボンド(Bakerbond)ABXM樹脂(J.T.Baker、Phillipsburg、NJ)が精製に有用である。イオン交換カラムを用いた分画、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカクロマトグラフィー、ヘパリンセファロース(SEPHAROSE)(商標)クロマトグラフィー、陰イオン又は陽イオン交換樹脂クロマトグラフィー(ポリアスパラギン酸カラムなど)、等電点電気泳動、SDS−PAGE、及び硫酸アンモニウム沈殿法などのタンパク質精製のための他の技法も、回収されるべき抗体に応じて利用可能である。別の態様では、本発明の融合タンパク質を産生するための方法であって、本明細書において規定された宿主細胞を、融合タンパク質の発現を可能にする条件で培養するステップ、及び産生された融合タンパク質を培養物から回収するステップを含む方法が提供される。代替的な実施形態では、本発明の融合タンパク質を含む組成物が提供される、又は本発明の方法により産生される。前記組成物は、医薬組成物であることが好ましい。
【0109】
本明細書に使用される用語「医薬組成物」は、患者、好ましくはヒト患者への投与のための組成物に関する。本発明の特定の好ましい医薬組成物は、本発明の融合タンパク質を含む。医薬組成物は、担体、安定化剤及び/又は賦形剤の適切な製剤を含むことが好ましい。好ましい実施形態では、医薬組成物は、非経口、経皮、管腔内、動脈内、くも膜下腔内及び/若しくは鼻腔内投与用又は組織への直接注射による組成物を含む。前記組成物が注入又は注射を介して患者に投与されることが、特に想定される。適切な組成物の投与は、異なる方法により、例えば、静脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、局所又は皮内投与によって達成される場合がある。特に、本発明は、適切な組成物の中断なしの投与を提供するものである。非限定的な例として、中断なしの、すなわち連続した投与は、患者の体内への治療薬の流入を計量するための、患者によって装着された小型ポンプシステムによって実現することができる。本発明の融合タンパク質を含む医薬組成物は、前記ポンプシステムを使用することによって投与することができる。そのようなポンプシステムは、当技術分野において一般に公知であり、通常、注入されるべき治療薬を含有するカートリッジの定期的な交換に頼っている。そのようなポンプシステムのカートリッジを交換する場合、交換しなかったならば中断されない、患者の体内への治療薬の流れに、一時的中断が生じる可能性がある。そのような場合に、カートリッジの取り替え前の投与相及びカートリッジの取り替え後の投与相は、一緒になってそのような治療薬の1回の「中断なしの投与」を構成する本発明の薬学的手段及び方法の意味の範囲内に依然として入ると考えられる。
【0110】
本発明のこれらの融合タンパク質の連続投与又は中断なしの投与は、リザーバーから流体を駆動するための流体駆動メカニズム及び駆動メカニズムを発動させるための発動メカニズムを含む流体送達装置又は小型ポンプシステムによる静脈内又は皮下投与の場合がある。皮下投与のためのポンプシステムは、患者の皮膚を貫通するため及び患者の体内に適切な組成物を送達するための針又はカニューレを含む場合がある。前記ポンプシステムは、静脈、動脈又は血管とは独立して患者の皮膚に直接固定する又は取り付けることにより、ポンプシステムと患者の皮膚との間の直接接触を可能にすることができる。ポンプシステムは、24時間〜最大数日間、患者の皮膚に取り付けておくことができる。ポンプシステムは、小さな体積用のリザーバーを有する小型の可能性がある。非限定的な例として、投与されるべき適切な医薬組成物のためのリザーバーの体積は、0.1〜50mlの間の可能性がある。
【0111】
連続投与は、皮膚に装着され、間隔をおいて取り替えられるパッチによる経皮的である可能性がある。当業者は、この目的のために適切な薬物送達のためのパッチシステムを認識している。例えば第1の使用済みパッチのすぐ隣の皮膚表面への新しい第2のパッチの配置と同時に、第1の使用済みパッチの交換を第1の使用済みパッチの除去直前に有利に果たすことができるので、経皮投与が中断なしの投与に特に適していることに注目すべきである。流動の中断又は動力電池の故障の問題は発生しない。
【0112】
本発明の組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含む場合がある。適切な医薬担体の例は、当技術分野において周知であり、医薬担体には、溶液、例えばリン酸緩衝食塩水、水、エマルション、例えば水中油型エマルション、様々な種類の湿潤剤、無菌溶液、リポソームなどが含まれる。そのような担体を含む組成物は、周知の従来方法によって製剤化することができる。製剤は、糖質、緩衝溶液、アミノ酸及び/又は界面活性剤を含むことができる。糖質は、非還元糖、好ましくはトレハロース、スクロース、オクタスルフェート、ソルビトール又はキシリトールの場合がある。一般に、本明細書に使用される「薬学的に許容される担体」は、薬学的投与に適合した任意及び全ての溶媒、分散媒、コーティング剤、抗細菌剤及び抗真菌剤、等張化剤及び吸収遅延剤を意味する。医薬活性物質のためのそのような媒質及び薬剤の使用は、当技術分野において周知である。許容される担体、賦形剤、又は安定化剤は、採用された投薬量及び濃度でレシピエントに無毒であり、それらには:追加的な緩衝剤;保存剤;共溶媒;アスコルビン酸及びメチオニンを含めた抗酸化剤;EDTAなどのキレート剤;金属錯体(例えば、Zn−タンパク質錯体);ポリエステルなどの生分解性ポリマー;ナトリウム、多価糖アルコールなどの塩形成対イオン;アラニン、グリシン、アスパラギン、2−フェニルアラニン、及びトレオニンなどのアミノ酸;トレハロース、スクロース、オクタスルフェート、ソルビトール又はキシリトール、スタキオース、マンノース、ソルボース、キシロース、リボース、ミオイニシトース(myoinisitose)、ガラクトース、ラクチトール、リビトール、ミオイニシトール(myoinisitol)、ガラクチトール、グリセロール、シクリトール(例えば、イノシトール)、ポリエチレングリコールなどの糖又は糖アルコール;含硫還元剤、例えばグルタチオン、チオクト酸、チオグリコール酸ナトリウム、チオグリセロール、[アルファ]−モノチオグリセロール、及びチオ硫酸ナトリウム;低分子量タンパク質、例えばヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン、ゼラチン、又は他の免疫グロブリン;並びに親水性ポリマー、例えばポリビニルピロリドンが含まれる。そのような製剤は、ポンプシステムを用いて及び/又は用いずに、静脈内又は皮下の場合がある連続投与のために使用することができる。アミノ酸は、荷電アミノ酸、好ましくはリシン、酢酸リシン、アルギニン、グルタミン酸塩及び/又はヒスチジンの場合がある。界面活性剤は、好ましくは分子量>1.2KDの洗剤及び/又は好ましくは分子量>3KDのポリエーテルの場合がある。好ましい洗剤についての非限定的な例は、トウィーン(Tween20、トウィーン40、トウィーン60、トウィーン80又はトウィーン85である。好ましいポリエーテルについての非限定的な例は、PEG3000、PEG3350、PEG4000又はPEG5000である。本発明に使用される緩衝系は、好ましいpH5〜9を有することができ、クエン酸塩、コハク酸塩、リン酸塩、ヒスチジン及び酢酸塩を含む場合がある。
【0113】
本発明の組成物は、適切な用量で対象に投与することができ、適切な用量は、例えば非チンパンジー霊長類、例えばマカクに、本明細書記載の種間特異性を示す本発明のポリペプチドの漸増する用量を投与することによる用量漸増研究によって決定することができる。上述のように、本明細書記載の種間特異性を示す本発明のポリペプチドは、非チンパンジー霊長類での前臨床試験に、及びヒトにおける薬物として、同一の形態で有利に使用することができる。これらの組成物は、他のタンパク質性及び非タンパク質性薬物と組み合わせて投与することもできる。これらの薬物は、本明細書において規定される本発明のポリペプチドを含む組成物と同時に、又は前記ポリペプチドの投与前若しくは投与後に時間的に規定された間隔及び用量で別々に、投与することができる。投薬計画は、担当の医師及び臨床的要因によって決定される。医学分野において周知のように、任意の1人の患者についての投薬量は、患者のサイズ、体表面積、年齢、投与されるべき特定の化合物、性別、時間及び投与経路、全身の健康状態、及び同時投与される他の薬物を含めた多数の要因に依存する。
【0114】
非経口投与用の製剤には、無菌の水性又は非水性の液剤、懸濁剤、及び乳剤が含まれる。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、例えばオリーブ油、及び注射用有機エステル、例えばオレイン酸エチルである。水性担体には、食塩水及び緩衝媒を含めた水、アルコール性/水性の溶液、エマルション又は懸濁液が含まれる。非経口ビヒクルには、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロース及び塩化ナトリウム、乳酸加リンゲル、又は固定油が含まれる。静脈内ビヒクルには、体液補充液及び栄養補充液、電解質補充液(リンゲルデキストロースに基づく補充液など)他が含まれる。例えば、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤、不活性ガスなどの保存剤及び他の添加剤も存在する場合がある。加えて、本発明の組成物は、例えば、好ましくはヒト起源の血清アルブミン又は免疫グロブリンのようなタンパク質性担体を含み得る。本発明の組成物は、本明細書において規定された本発明のポリペプチドに加えて、組成物の意図される使用に応じて、生物学的に活性な薬剤をさらに含み得ることが想定されている。そのような薬剤は、消化系に作用する薬物、細胞増殖抑制剤として作用する薬物、高尿酸血症を予防する薬物、免疫反応を阻害する薬物(例えばコルチコステロイド)、炎症応答を調節する薬物、循環系に作用する薬物及び/又は当技術分野において公知のサイトカインなどの薬剤であり得る。本発明の融合タンパク質は、併用療法に、すなわち、別の抗癌医薬と組み合わせて適用されることも想定されている。
【0115】
本明細書に規定された医薬組成物の生物学的活性は、例えば、以下の実施例に、国際公開第99/54440号に、又はSchlerethら(Cancer Immunol.Immunother.20(2005)、1〜12)によって記載されたような細胞傷害アッセイによって決定することができる。本明細書に使用される「有効性」又は「インビボ有効性」は、例えば標準化NCI応答基準を使用した、本発明の医薬組成物による治療に対する応答を表す。本発明の医薬組成物を使用した治療の成功又はインビボ有効性は、組成物のその意図される目的についての有効性、すなわち組成物がその所望の効果、すなわち病的細胞、例えば腫瘍細胞の枯渇を引き起こす能力を表す。インビボ有効性は、非限定的に、白血球数、鑑別、蛍光標示式細胞分取、骨髄吸引を含めたそれぞれの疾患実体のための確立された標準法によりモニターすることができる。加えて、様々な疾患特異的臨床化学パラメーター及び他の確立された標準法を使用することができる。さらに、コンピューター断層撮影、X線、核磁気共鳴断層撮影(例えば、国立癌研究所の基準に基づく応答評価[Cheson BD、Horning SJ、Coiffier B、Shipp MA、Fisher Rl、Connors JM、Lister TA、Vose J、Grillo−Lopez A、Hagenbeek A、Cabanillas F、Klippensten D、Hiddemann W、Castellino R、Harris NL、Armitage JO、Carter W、Hoppe R、Canellos GP.Report of an international workshop to standardize response criteria for non−Hodgkin’s lymphomas.NCI Sponsored International Working Group.J Clin Oncol.1999年4月;17(4):1244])、陽電子放射型断層撮影スキャン、白血球数、鑑別、蛍光標示式細胞分取、骨髄吸引、リンパ節生検/組織検査、及び様々なリンパ腫特異的臨床化学パラメーター(例えば乳酸脱水素酵素)及び他の確立された標準法を使用することができる。
【0116】
本発明の医薬組成物などの薬物の開発における別の主要な課題は、薬物動態特性の予測可能な調節である。この目的のために、薬物候補の薬物動態プロファイル、すなわち特定の薬物が所与の状態を治療する能力に影響する薬物動態パラメーターのプロファイルを確立することができる。薬物がある特定の疾患実体を治療する能力に影響する、薬物の薬物動態パラメーターには、非限定的に:半減期、分布容積、肝初回通過代謝及び血清結合の程度が含まれる。所与の薬剤の有効性は、上述のパラメーターのそれぞれによって影響される可能性がある。
【0117】
「Tmax」は、その後に薬物の最大血中濃度が達成される時間であり、「Cmax」は、所与の薬物で得られる最大血中濃度である。薬物の生物学的効果のために必要なその薬物の血中濃度又は組織濃縮を達成するための時間は、全てのパラメーターによって影響される。上に概説したように非チンパンジー霊長類における前臨床動物試験で決定できる種間特異性を示している二重特異性単鎖抗体の薬物動態パラメーターは、例えば、Schlerethら(Cancer Immunol.Immunother.20(2005)、1〜12)による刊行物にも示されている。
【0118】
本明細書に使用される用語「毒性」は、有害事象又は重篤な有害事象に顕在化した薬物の毒性作用を表す。これらの副事象は、投与後の全身的な薬物の耐容能の欠如及び/又は局所的な耐容性の欠如を表し得る。毒性は、薬物によって引き起こされる催奇形作用又は発癌作用も含む可能性がある。
【0119】
本明細書に使用される用語「安全性」、「インビボ安全性」又は「耐容能」は、投与直後(局所耐容性)及びより長い期間の薬物適用の間に重篤な有害事象を誘導しない薬物の投与を規定する。「安全性」、「インビボ安全性」又は「耐容能」は、例えば治療及び経過観察期間の間に規則的な間隔で評価することができる。測定には、臨床評価、例えば臓器の症状発現、及び検査室異常のスクリーニングが含まれる。臨床評価を実施し、NCI−CTC及び/又はMedDRA標準により正常な所見からの逸脱を記録/コードすることができる。臓器の症状発現は、例えば有害事象共通用語規準v3.0(CTCAE)に示されるように、アレルギー/免疫、血液/骨髄、心不整脈、凝固などの基準を含む場合がある。試験される可能性のある検査室パラメーターには、例えば血液学、臨床化学、凝固プロファイル並びに尿分析及び血清、血漿、リンパ液又は髄液、液体(liquor)などの他の体液の検査が含まれる。このように、検査室パラメーターを測定すること及び有害事象を記録することによって、安全性、例えば身体検査、画像化技法(すなわち超音波、X線、CTスキャン、磁気共鳴画像法(MRI)、技術的装置を用いた他の手段(すなわち心電図)、生命徴候を判断することができる。例えば、本発明による使用及び方法での非チンパンジー霊長類における有害事象は、組織病理学的方法及び/又は組織化学的方法によって検討することができる。
【0120】
用語「有効用量」又は「有効投薬量」は、所望の効果を達成する又は少なくとも部分的に達成するために十分な量として定義される。用語「治療的有効用量」は、すでに疾患を患っている患者における疾患及びその合併症を治癒する又は少なくとも部分的に停止させるために十分な量として規定される。この使用に有効な量は、感染の重症度及び対象自身の免疫系の状態全般に依存する。用語「患者」には、予防的処置又は治療的処置のいずれかを受けるヒト及び他の哺乳類対象が含まれる。
【0121】
本明細書に使用される用語「有効で無毒性の用量」は、大きな毒性作用を有さずに又は本質的に有さずに、病的細胞の枯渇、腫瘍の除去、腫瘍の萎縮又は疾患の安定化を起こすために十分に高い、本発明の融合タンパク質の耐容用量を表す。そのような有効で無毒性の用量は、例えば、当技術分野において記載されている用量漸増研究によって決定することができ、重篤な有害副事象(用量制限毒性、DLT)を誘導する用量未満であるべきである。
【0122】
上記用語は、例えばPreclinical safety evaluation of biotechnology−derived pharmaceuticals S6;ICH Harmonised Tripartite Guideline;ICH Steering Committee meeting on July 16、1997にも言及されている。
【0123】
本発明の融合タンパク質の適切な投薬量、又は治療有効量は、治療されるべき状態、状態の重篤度、以前の治療、並びに患者の臨床歴及び治療薬に対する応答に依存する。適正用量は、その用量を患者に1回又は一連の投与にわたり投与することができるように担当医師の判断により調整することができる。医薬組成物は、単独の治療薬として、又は必要に応じて抗癌治療などの追加的治療と組み合わせて、投与することができる。
【0124】
本発明の医薬組成物は、非経口投与、すなわち、皮下、筋肉内、静脈内、関節内及び/又は滑液包内に特に有用である。非経口投与は、大量注射又は連続注入によることができる。医薬組成物が凍結乾燥されているならば、凍結乾燥された物質は、投与の前にまず、適切な液体中で復元される。凍結乾燥された物質は、例えば、注射用静菌水(BWFI)、生理食塩水、リン酸緩衝食塩水(PBS)、又は凍結乾燥の前にタンパク質が入っていたものと同じ配合で復元することができる。
【0125】
本発明の融合タンパク質又は本発明の方法によって産生された融合タンパク質が、増殖性疾患、腫瘍性疾患、及び免疫障害から選択される疾患の予防、治療又は回復に使用されることが好ましい。本発明の代替的な実施形態は、増殖性疾患、腫瘍性疾患、及び免疫障害から選択される疾患の治療又は回復のための方法であって、それを必要とする患者に、本発明の融合タンパク質又は本発明の方法によって産生された融合タンパク質を投与するステップを含む方法を提供する。腫瘍性疾患を、癌に置き換えることができる。好ましい癌は、細胞外抗原5T4が腫瘍細胞に発現されている癌である。5T4の発現は、FACS分析を使用して判断することができる。より好ましい癌は、中皮腫、乳癌、卵巣癌、結腸直腸癌、子宮頚癌、胃癌、肺癌又は結腸癌である。好ましい乳癌は、いわゆるトリプルネガティブ乳癌である。好ましい結腸癌は、KRAS突然変異型結腸癌である。
【0126】
本明細書記載の製剤は、本明細書記載の病的医学的状態の治療及び/又は予防を必要とする患者における治療及び/又は予防での医薬組成物として有用である。用語「治療」は、治療的処置と予防的手段又は防止的手段との両方を表す。治療は、疾患、疾患の症状、又は疾患の素因を治癒する、癒やす、緩和する、軽減する、変更する、矯正する、向上させる、改善する、又はそれに影響する目的で、疾患/障害、疾患/障害の症状、又は疾患/障害の素因を有する患者からの身体、単離された組織、又は細胞への製剤の適用又は投与を含む。
【0127】
「治療を必要とする」者には、すでに障害を有する者、及び障害が予防されるべき者が含まれる。用語「疾患」は、本明細書記載のタンパク質製剤を用いた治療から恩恵を受けるであろう任意の状態である。これには、哺乳類を問題となる疾患に罹患しやすくする病的状態を含めた、慢性及び急性の障害又は疾患が含まれる。本明細書における治療されるべき疾患/障害の非限定的な例には、増殖性疾患、腫瘍性疾患、又は免疫障害が含まれる。別の態様では、本発明の融合タンパク質、本発明の核酸分子、本発明のベクター、又は本発明の宿主細胞を含むキットが与えられる。キットは、融合タンパク質を含有する1つ又は複数のバイアル及び使用説明書を含む場合がある。キットは、シリンジ、ポンプ、注入器などの、本発明の融合タンパク質を投与するための手段も含有する場合がある。なお別の態様では、本発明は、の使用に関する。
【0128】
本発明は、特定の方法論、プロトコール、又は試薬に限定されず、それらは変更される可能性があることを理解すべきである。本明細書に与えられた議論及び実施例は、特定の実施形態を説明する目的で提示されているのにすぎず、本発明の範囲を限定することは意図されておらず、本発明の範囲は、特許請求の範囲によってのみ規定される。本明細書の本文全体にわたって引用された全ての刊行物及び特許(全ての特許、特許出願、科学刊行物、製造業者の仕様書、説明書など)は、上記であろうと下記であろうと、参照によりその全体が本明細書に組み込まれている。本明細書の何物も、本発明が先行発明であることを理由としてそのような開示に先行する資格がないことを承認するものとして解釈されるべきではない。参照によって組み込まれた材料が本明細書と食い違う又は矛盾する範囲では、本明細書はあらゆるそのような材料に取って代わる。
【図面の簡単な説明】
【0129】
図1A】本発明の融合タンパク質(「トリボディー融合タンパク質」とも呼ばれる)を製造する好ましい原理を表す図である。A:5T4及びT細胞活性化CD3エピトープに対する最小結合領域が単離される、例えば抗体のVドメイン又は他の結合分子から得られる。これらの最小結合ドメインは、CH1:CLヘテロ二量体化ドメインのN末端伸長として機能するように形式化される、及び/又は単鎖可変ドメインとして形式化されて本発明の融合タンパク質のN末端に伸長される。B:同じ細胞に同時発現された場合にFabヘテロ二量体を形成する、Fab L(VLドメイン及びCLドメインを含む)及びFab Fd(VH鎖及びCH1鎖を含む)の遺伝子構造の略図である。C:単鎖可変ドメイン(scFv)の形態の余分の結合ドメインが、コード遺伝子の遺伝子融合によってmRNAレベルでCLドメイン及びCH1ドメインのC末端に融合されている、本発明の融合タンパク質の形態の遺伝子構造の略図である。例では、遺伝子構造は、イントロンのない連続コード配列に基づいている。D:リボン及び空間充填表示での本発明の融合タンパク質の分子モデルを示す図である。E:CH1とその伸長されたC末端結合物との間、及びCLとその伸長されたC末端結合物との間の両方にアミノ酸10個のリンカー配列を含有する本発明の融合タンパク質の分子モデルである。分子シミュレーションは、SGGGSGGGSSリンカー配列に基づく最大柔軟性を使用している。空間充填で表示し、色の濃いドメインは融合タンパク質であり、銀色のドメインは結合した抗原(モデルでは全部で3つの結合部分に関して同じ抗原)である。
図1B】構造が、Fab鎖ヘテロ二量体(VH−CH1:VLCL):モデル(i)及び(iv)で2つの可能な組合せについて示されたようにVH(5T4)−CH1−L1−VH(CD3)−L2−VL(CD3)若しくはVH(5T4)−CH1−L1−VL(CD3)−L2−VH(CD3)がVL(5T4)CL−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)若しくはVL(5T4)CL−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)と組み合わされたもの又はモデル(ii)及び(v)で2つの可能な組合せについて示されたようにVH(5T4)−CH1−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)若しくはVH(5T4)−CH1−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)がVL(5T4)CL−L1−VH(CD3)−L2−VL(CD3)若しくはVL(5T4)CL−L1−VL(CD3)−L2−VH(CD3)と組み合わされた異なる形態の編成又はモデル(iii)及び(vi)で2つの可能な組合せについて示されたようにVH(CD3)−CH1−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)若しくはVH(CD3)−CH1−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)がVL(CD3)CL−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)若しくはVL(CD3)CL−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)と組み合わせた異なる形態の編成に基づく、融合タンパク質の結合構造の編成における種々の変形のいくつかを示す図である。全ての組合せで、scFvは、ジスルフィドで安定化された単鎖可変断片(dsFv)の可能性もある。
図1C】構造が、クロスオーバーFab鎖(cFab)ヘテロ二量体(VHCL:VLCH1):(vii)及び(x)で2つの可能な組合せについて示されたようにVL(5T4)−CH1−L1−VH(CD3)−L2−VL(CD3)若しくはVL(5T4)−CH1−L1−VL(CD3)−L2−VH(CD3)をVH(5T4)CL−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)若しくはVH(5T4)CL−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)と組み合わせたもの、又は(viii)及び(xi)で2つの可能な組合せについて示されたようにVL(5T4)−CH1−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)若しくはVL(5T4)−CH1−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)をVH(5T4)CL−L1−VH(CD3)−L2−VL(CD3)若しくはVH(5T4)CL−L1−VL(CD3)−L2−VH(CD3)と組み合わせた異なる形態の編成、又はモデル(ix)及び(xii)で2つの可能な組合せについて示されたようにVL(CD3)−CH1−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)若しくはVL(CD3)−CH1−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)をVH(CD3)CL−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)若しくはVH(CD3)CL−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)と組み合わせた異なる形態の編成に基づく、Tb−5T4融合タンパク質の結合構造の編成における種々の変形のいくつかを示す図である。全ての組合せで、scFvは、ジスルフィドで安定化された単鎖可変断片(dsFv)の可能性もある。
図1D】構造が、CH1及びCLのヘテロ二量体(dFab)との単一ドメイン結合物融合体:(xiii)及び(xvi)で2つの可能な組合せについて示されたようにV1(5T4)CL−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)若しくはV1(5T4)CL−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)[式中、V1は、5T4に特異性を有する単一ドメイン結合物である]をV2−CH1−L1−VH(CD3)−L2−VL(CD3)若しくはV2−CH1−L1−VL(CD3)−L2−VH(CD3)[式中、V2は、5T4若しくはCD3に対する特異性と異なる特異性を有する単一ドメイン結合物である]と組み合わせたもの、又は(xiv)及び(xvii)で2つの可能な組合せについて示されたようにV2−CH1−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)若しくはV2−CH1−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)[式中、V2は、5T4若しくはCD3に対する特異性と異なる特異性を有する単一ドメイン結合物である]をV1(5T4)CL−L1−VH(CD3)−L2−VL(CD3)若しくはV1(5T4)CL−L1−VL(CD3)−L2−VH(CD3)と組み合わせた異なる形態の編成、又はモデル(xv)及び(xviii)で2つの可能な組合せについて示されたようにV1(CD3)−CH1−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)若しくはV1(CD3)−CH1−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)をV2−CL−L1−VH(5T4)−L2−VL(5T4)若しくはV2−CL−L1−VL(5T4)−L2−VH(5T4)[式中、V2は、5T4若しくはCD3に対する特異性と異なる特異性を有する単一ドメイン結合物である]と組み合わせた異なる形態の編成に基づく、Tb−5T4融合タンパク質の結合構造の編成における種々の変形のいくつかを示す図である。全ての組合せで、scFvは、ジスルフィドで安定化された単鎖可変断片(dsFv)の可能性もある。
図2A】A:フレームワーク領域及び予測されるCDR領域(枠内)における差異を示す、Forsberg 1997(J.Biol.Chem 272:12430〜12436)によって刊行されたようなマウス5T4.H8のVH及びVL配列(配列番号2及び16)とヒト化配列(配列番号6及び19)との比較を示す図である。
図2B】B:配列番号2及び16におけるマウスV(5T4)配列を含むTb535C並びに配列番号6及び19のようなヒト化V(5T4)を含むTb535H−1120の略図である。
図2C】C:マウス及びヒト化VH及びVLの両方についての平均(zスコア)の偏差で表現されたヒト性(humaness)スコアにおける有意な増加を示す図である。
図2D】D:異なるヒト化形態のVH(5T4)及びVL(5T4)を含み、CH1含有鎖のC末端にHISタグ(HHHHHH)を付けて伸長された、2つのトリボディー融合体のIMAC(固定化金属アフィニティークロマトグラフィー)又はSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)後の産物収量を示す図である。
図3A】A:ヒト化融合タンパク質Tb535H(配列番号51及び52)の略図である。
図3B】B:dsFv形式、Fab形式、IgG形式又はBiTE形式(scFv(5T4)−scFv(CD3)融合物)のいずれかのヒト化VH(5T4)配列番号6及びVL(5T4)配列番号19と比較した、Tb535H及びTb535C(配列番号49及び50)のKD平衡解離定数の比較を示す図である。
図3C】C:5T4の組換え細胞外ドメインに関するTb535HのELISA結合曲線を、その部分Fab(5T4)及びdsFv(5T4)と比較したグラフ表示である。
図3D】D:MSTO−211H 5T4陽性中皮腫細胞株へのTb535H並びにその部分Fab(5T4)及びdsFv(5T4)の飽和条件下でのFACS装飾を示す図である。
図3E】E:MSTO−211H 5T4陽性中皮腫細胞株へのTb535H結合の力価測定及びELISA法との50%結合濃度(KD)の比較を示す図である。
図3F】F:3人の異なるドナーの末梢血単球へのTb535H結合の力価測定を示す図である。KD値は、約25nMで再現性がある。
図4A】a:タンパク質に存在する全てのジスルフィド結合を表示したTb535Hの略図である。b:Tb535Hにおける全ての天然ジスルフィド結合及び工学的に作製されたジスルフィド結合の表である。c:Tb535Hの配列に関する全てのジスルフィド結合の表示である。d:工学的に作製されたジスルフィド結合の形成を比較する図であり、形成は、Tb535CよりもTb535Hで驚くほど良好である(非還元型BOLT SDS−PAGE)。還元型ゲルは、予想通りの分子量の鎖を示す。中間に分子量の検量線を示す。
図4B】a:Tb−5T4に組み込まれたCD3結合物VH(CD3)配列番号29及びVL(CD3)配列番号37のヒト化及び安定化の影響を比較する活性の力価測定曲線を示す図である。b:ジスルフィドで安定化されていないTb−5T4に対して誘導されたストレスが多量体の形成に及ぼす影響を示す図である。図に、20℃又は37℃で3日間インキュベーション後の分析用ゲル濾過溶出のプロファイルを重ね合わせて示す。単量体(1)及び多量体(2〜4)を表示する。c:ジスルフィドで安定化されたTb−5T4に対して誘導されたストレスが37℃で3日後に多量体形成に及ぼす影響を示す図である。開始の状況と比較して多量体の形成に変化はなかった。
図5A】Tb535融合タンパク質の分析を示す図である。A:Tb535C及びTb535Hを比較する分析用ゲル濾過の溶出プロファイル。150kDa、100kDa、50kDa及び25kDaのIgG由来分子を使用する検定を示す。表に、検量線から得られたTb535H及びTb535Cの予測サイズを示す。驚くことに、Tb535Hは、よりコンパクトな立体配置を示す。
図5B】B:Tb535Hの質量分析は、正確な分子量を示し、MWアイソフォームが同定される。
図5C】C:Tb535Hの分析用陽イオン交換分析により、限られた数の電荷異性体が同定される。
図5D】D:等電点電気泳動により、Tb535C、Tb535HがIgG形態と比較される。
図6A】タンパク質の融解曲線に基づくTb535の安定性を示す図である。a:Tb535Hの略図である。b:Tb535CとTb535Hとの間のサーモフルオロ(Thermofluor)アッセイによる融解温度による安定性の比較である。c:Tb535Hと、とその個別の構成成分(Fab(5T4);dsFv(5T4)、dsFv(CD3))とのサーモフルオロアッセイによる融解曲線の比較である。構成成分の理論的合計も示す。驚くことに、Tb535Hは、構成成分の合計ではなく、融合タンパク質の方が安定である。d:Tb535Hと、同じVドメイン配列に基づくBiTE(dsFv(5T4)−dsFv(CD3)融合物)形式及びIgG1(5T4)形式とのサーモフルオロアッセイによる融解曲線との比較である。驚くことに、Tb535Hは、IgG及びscFv融合物(BiTE)の両方よりも安定である。
図6B】37℃で72時間インキュベーション後のTb535の安定性を示す図である。a: Tb535H及びTb535C形態をPBS中で37℃で72時間インキュベートし、その前及び後に分析用サイズ排除クロマトグラフィーによって分析した。インキュベーション後に多量体の形成は見られない。b:Tb535H形態及びTb535C形態を、ヒト血清中で37℃で72時間インキュベートし、その後に細胞死アッセイ(MSTO−211H 5T4陽性中皮腫細胞株をE:Tが5:1のヒトPBMCと共に48時間アッセイ)で活性力価測定により分析した。インキュベーション後に活性の差を認めなかった。
図7A】本発明の融合タンパク質(Fab−(scFv)2及びBiTE(scFv−scFv)形式の比較を示す図である。A:両方の融合タンパク質の形式を用いた単量体及び二量体の典型的な形成。BiTE形式は、形成された二量体の比率がより高い傾向がある。
図7B】B:本発明の形式の融合タンパク質を100%に設定し、同じ配列を有するBiTE形式と比較した、モル比較の相対収量である。本発明の融合タンパク質の形式は、典型的にはより高い産物収量を有する。
図7C】C:融合タンパク質(Tb535H−1120)の精製後の産物収量と、同じ配列に基づくBiTE形式との比較である。
図7D】D:融合タンパク質形式とBiTE形式との活性力価測定(混合培養でのヒトPBMCによる5T4陽性腫瘍細胞の誘導死)の比較は、同じ範囲にEC50値を示すが、本発明の融合タンパク質形式を使用すると、T細胞エンゲージャーよりも高いパーセンテージの腫瘍細胞が死滅する。
図8A】Tb535C及びTb535Hの結合及び活性の比較を示す図である。A:5T4抗原の組換え細胞外ドメインへのELISA結合性を示す。
図8B】B:ヒトT細胞株(ジャーカット(Jurkat))へのELISAの結合性を示す。
図8C】C:MSTO−211H 5T4陽性中皮腫細胞の混合培養での細胞傷害性力価測定を示す。
図8D】D:Tb535C及びTb535Hの結合性及び活性を比較する表である。
図9A】Tb535Hが一連の異なる腫瘍型で活性であることを示す図である。A:異なる形態の中皮腫、トリプルネガティブ乳癌及びKRAS突然変異結腸癌を代表する細胞株を用いたTb535の活性力価測定(混合培養でのヒトPBMCによる5T4陽性腫瘍細胞の誘導死)である。EC50値をピコモル濃度で示す。
図9B】B:FACS装飾によって決定された5T4の膜発現レベルと細胞死アッセイで得られたEC50値との比較である。
図10A】A:マウスC57BL/6における注射後の平衡相及び消失相の半減期の推定を示す図である。屠殺された動物から血液を回収し(recuperate)、細胞傷害性誘導活性アッセイを用いて機能的Tb535の濃度を測定した。推定値は、大きな分布容積及び遅い浄化を示唆している。
図10B】B:抗FLAGタグのウエスタンブロット解析により、全血タンパク質をプローブで調べることによってもTb535の分解を認めることはできなかった。
図11A】ヒトPBMCを用いて再構成された中皮腫異種移植後のNOD/SCIDマウスにおけるTb535の有効性を示す図である。a:皮下に成長している中皮腫の写真を示す。b:エフェクター:標的比1:1での様々な濃度のTb535Hにおける皮下モデル及び腫瘍成長の進展を示す。c:エフェクター:標的比2:1で様々な濃度のTb535Hにおける皮下モデル及び腫瘍成長の進展を示す。d:中皮の内側に同所性に成長している中皮腫の写真を示す。e:ヒトPBMCで再構成されたNOD/SCIDマウスに同所性に誘導された中皮腫及びTb535Hを用いた治療は、腫瘍の形成及び死亡(人道的終点屠殺)を完全に予防する。
図11B】示した日に10E7ヒトPBMC及びTb535をIP注射後の樹立皮下腫瘍の治療。腫瘍体積をノギスで測定した。
図12A】腫瘍細胞とPBMCとの混合培養におけるTb535HによるTH1サイトカインの誘導を示す図である。特にIL−2、インターフェロン−ガンマ及びTNF−アルファが上方調節されている。陽性対照は、OKT3−IgG(ムロモナブ−CD3)(+)及び無添加(−)である。
図12B】最大1mM(ミリモル濃度)のTb535H濃度まで、Tb535Hを3人のヒトドナーからのPBMCと共にインキュベートしてもサイトカイン誘導がないを示す図である。陽性対照は、OKT3−IgG(ムロモナブ−CD3)(+)及び無添加(−)である。
図12C】5T4陽性腫瘍細胞の非存在下では、最大1mM(ミリモル濃度)の濃度でPBMCのT細胞活性化マーカー(CD69及びCD25)の誘導がないこと(白記号)を示す図である。黒記号は、混合腫瘍細胞/PBMCの共培養での対照であり、その場合、活性化マーカーが、10000分の1濃度から開始して誘導される。
図13】ヒトPBMCにおける主要なエフェクター細胞の分析を示す図である。完全PBMCを、精製CD4陽性T細胞画分、CD8陽性T細胞画分、両方の組合せ及びCD56陽性NK細胞画分と比較した。
図14A】既知組成培地及び供給原料を使用する流加培養バイオリアクター工程において安定なCHOクローンからTB535が最大1g/L産生することを示す図である。
図14B】捕捉(A)、精製(B)及び洗練(C)ステップを用いた、使用済み培地からのTb535の単離を示す図である。ゲル濾過分析(D)及びクマシーブリリアントブルーで染色したSDS−PAGEである。
【発明を実施するための形態】
【0130】
本発明の様式を例証するために以下の実施例が含められている。以下の実施例の特定の態様は、本発明の実施において十分に機能することが本共同発明者らによって見出された又は考えられた技法及び手順により記載される。これらの実施例は、共同発明者らの標準的な実験室作業を例証するものである。本開示及び当業者の一般レベルに照らして、以下の実施例は単に例示的であることが意図されることを当業者は認識している。
【0131】
実施例1 発現
HEK293細胞での一過性発現
配列が検証されたヌクレオチド配列を有する発現プラスミドのクローンを、フリースタイル(FreeStyle)−293発現系(Invitrogen GmbH、Karlsruhe、Germany)での形質移入及びタンパク質発現のために製造業者のプロトコールにより使用した。発現されたタンパク質を含有する上清を得、遠心分離によって細胞を除去し、上清を−20℃で保存した。位置(例えば、図1B:i〜iii))及び/或いはscFv分子に関するVH−VL組合せ若しくはVL−VH組合せの使用(例えば、図1B iv〜vi)、又はFabにおける交差Vドメインの使用(例えば、図1C vii〜xii)、又はドメイン結合物との併用(例えば、図1D xiii〜xviii)についての、5T4結合物及びCD3結合物の様々な並べ換えを遺伝子レベルで構築し、他にもいくつか特徴はあるがとりわけCMVプロモーター及びコザック(Kozak)翻訳開始部位を組み合わせているpES33ベクターにクローニングした。全ての構築物をC末端でHISタグ(HHHHHH)と、N末端でFLAGタグ(DYKDDDDK)と融合させた。IMAC捕捉物のTCA沈殿、それに続く抗HIS抗体、抗フラグ抗体、抗ヒトFab又は抗ヒトカッパ血清のいずれかをプローブとして用いたSDS−PAGE及びウエスタンブロット解析により使用済み培地を分析した。タンパク質をIMAC捕捉、イオン交換精製及びゲル濾過での洗練ステップの組合せを用いて精製して、厳密な単量体画分の単離を保証した。
【0132】
5T4×CD3二重特異性抗体の様々な形態をトリボディー(すなわちFab−(scFv)2)又はBiTE(すなわちscFv−scFv)形式の両方で比較し、産生された単量体性タンパク質の相対収量及び相対割合について点数化した。トリボディー形態は、一般にはより多い二重特異性タンパク質及びより高い割合の単量体性タンパク質をもたらすことが見出された(図7A、7B及び7Cを参照されたい)。
【0133】
CHO細胞における安定発現
配列が検証されたヌクレオチド配列を有する発現プラスミドのクローンを、構築物の真核生物発現のためのDHFR欠損CHO細胞に形質移入した。DHFR欠損CHO細胞における真核生物タンパク質の発現を、Kaufman R.J.(1990)Methods Enzymol.185、537〜566によって記載されたように行った。メトトレキサート(MTX)の濃度をMTXの終濃度20nMまで増加させることによって、構築物の遺伝子増幅を誘導した。静置培養の2回継代後に、細胞をヌクレオシド不含HyQ PF CHO液体ソイ培地(0.1%プルロニック(Pluronic)F−68;HyCloneを有する4.0mM L−グルタミン含有)が入ったローラーボトル中で7日間成長させ、その後細胞を収集した。細胞を遠心分離によって除去し、発現されたタンパク質を含有する上清を−20℃で保存した。
【0134】
血清/動物構成成分不含の懸濁培養に適合したCHO細胞を使用して、安定なTB535発現細胞株を作り出す。トリボディーのFd遺伝子及びL遺伝子をベクターにクローニングし、CHO細胞に共形質移入する。プラスミドは、高レベルの発現を発生するための要素と共に選択マーカーを含有する。最高収量をもたらす最も安定なクローンについて選択するために、発現プールから制限希釈クローニングを実施する。既知組成培地及び供給原料を使用する流加培養バイオリアクター工程で安定なクローンから最大1g/LのTB535を産生する。図14Aに、典型的なTB535バイオリアクター工程のための細胞成長及びTB535の力価を図示する。
【0135】
深層濾過による細胞除去を用いてバイオリアクターを採集する。清澄化された使用済み培地相からTB535を回収し、クロマトグラフィーステップ、例えばアフィニティー、イオン交換及びサイズ排除(図14B)に続く、最終濃縮/保存用製剤化緩衝液へのダイアフィルトレーションの組合せを使用して精製する。この精製工程は、精製され安定に製剤化された約400mg/l TB535トリボディーをもたらす。この工程によって産生するTB535は、分析用サイズ排除及び非還元SDS PAGEを含めたいくつかの分析方法によって決定される場合、図14B〜D/Eに示すように純度>98%である。
【0136】
組換え型可溶性ヒト5T4の発現
ヒト5T4(GenBank、受託番号NM_006670)のコード配列を、5T4の細胞外ドメインだけを含むヒト5T4の可溶性タンパク質をコードしている人工cDNA配列の構築のために使用した。
【0137】
ヒトアルブミンとの融合のために、最初に構築物の真核生物発現のためのコザック部位、それに続きフレーム内でフラグ(Flag)タグのコード配列が先行する、シグナルペプチド及び細胞外ドメインに対応するアミノ酸1〜355を含むヒト5T4タンパク質のコード配列、それに続きフレーム内で改変ヒスチジンタグ(SGHHHHHH)のコード配列及び停止コドンを含有するように、改変cDNA断片を設計した。
【0138】
上述の手順は、標準プロトコール(Sambrook、Molecular Cloning; A Laboratory Manual、第3版、Cold Spring Harbour Laboratory Press、Cold Spring Harbour、New York(2001))により全て実施した。
【0139】
実施例2 ヒト化
キメラ及びヒト化抗5T4抗体をマウスH8抗体配列及びヒト抗体配列由来の配列を使用して調製した。本発明の代表的な抗体の一部の配列を図2に示す。
【0140】
マウスH8重鎖配列及び軽鎖可変領域配列(例えば、配列番号01又は配列番号02を、配列番号16又は配列番号17のいずれか及びヒト定常領域配列CH1及びCL−カッパと組み合わせたものを有するキメラH8抗体を構築した。キメラH8抗体及びヒト化H8抗体を調製するために使用された代表的なヒト定常領域には、ヒトIgG1、ヒトカッパ、及びヒトIgG4の定常領域が含まれる。IgG定常領域をコードしている配列のクローニングのために、イントロン配列が任意選択で欠失される場合がある。1つの抗体鎖がマウスH8可変領域(キメラ抗体と同様に)を含み、他方の抗体鎖がヒト化H8可変領域、すなわち、半ヒト化抗体を含む抗体も調製した。
【0141】
ヒト又は実質的にヒトのフレームワーク領域に移植されたマウスH8のCDRを含むようにヒト化H8可変領域を構築した。配列可変性及び構造ループ領域の位置に基づくAbM規定を用いて、マウスH8抗体のCDRを同定した。マウスH8抗体のフレームワーク領域に実質的に類似であったこと、又は可変領域サブファミリーのコンセンサス配列に最も類似していたことに基づき、ヒトアダプターフレームワークを選択した。図2を参照されたい。広範に出現する配列が、数がより少ない配列よりも好まれるように、ヒトにおけるフレームワーク座の内訳も考慮した。例えば、抗原の接触に関与すると考えられるマウス残基及び/又は抗原結合部位の構造完全性に関与する残基を回復させるように、ヒトフレームワークアクセプター配列の追加的な突然変異を行った。CHO細胞のコドン選択(codon preference)のため及び制限酵素部位を除去するためにも、アミノ酸配列を最適化した。ヒト化設計によって導入された翻訳後タンパク質改変部位を同定及び回避するために、ペプチド構造予測プログラムを使用してヒト化可変重鎖領域配列及び軽鎖領域配列を分析した。この戦略を使用して、3つのバージョンのヒト化H8可変領域を構築した。バージョン1は、抗体の完全性及び抗原の結合性に重要と考えられるフレームワーク配列内の位置にマウスH8残基を保持する。バージョン2は、CDRだけにマウス残基を保持する。バージョン3は、コンセンサス可変領域配列が重鎖アクセプターフレームワークとして使用されたことを除き、バージョン2と同様である。バージョン3の抗体の軽鎖可変領域は、バージョン2の抗体の軽鎖可変領域と同じである。
【0142】
ヒト化H8軽鎖可変領域の構築のために、DPK24生殖細胞系配列VL−IV/B3座をアクセプターフレームワークとして使用した。DPK24配列は、マウスH8軽鎖可変領域と68%同一であり、マウスH8軽鎖フレームワーク配列と比べて18個のアミノ酸置換を含有する。
【0143】
生殖細胞系クローン亜群VκIII及びVκIの軽鎖可変領域のフレームワーク領域を使用してヒト化抗体も構築した。特に、軽鎖VκIII亜群フレームワーク領域を含む抗体及び開示されたヒト化H8抗体バージョン1は、両方とも高度に発現され、安定である。
【0144】
ヒト化H8重鎖可変領域の構築のために、DP75生殖細胞系配列VH−I/1−02座をアクセプター配列として使用した。DP75配列は、マウスH8重鎖可変領域と65%同一であり、マウスH8重鎖フレームワーク配列と比較して28個のアミノ酸置換を含有する。ヒト化H8重鎖可変領域バージョン1は、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域との抗原の接触に重要なマウスH8残基K38及びS40、並びに可変領域及びCDR2との抗原の接触に重要なI48を維持していた。或いは、重鎖可変領域亜群のコンセンサス配列を用いてヒト化H8重鎖を調製した。コンセンサス配列は、マウスH8重鎖フレームワーク配列と比較して25個のアミノ酸置換を含有する。
【0145】
重複するオリゴヌクレオチドを一緒にアニーリングして、ヒト抗体定常領域を含有するpUC57クローニングベクターにそれらをライゲーションすることによって、ヒト化H8重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を構築した。PCR突然変異誘発又は部位特異的突然変異誘発を用いてヒト化重鎖可変領域及び軽鎖可変領域も構築することができる。オリゴヌクレオチドの設計は、CHO細胞の発現及び制限酵素部位の除去のためのコドン使用頻度の最適化を含んでいた。
【0146】
VH CDR1、VH CDR2、VL CDR1又はVL CRD2のうちのいずれかを最も近い相同生殖細胞系配列により置換することによって、さらなる最適化を行った。収量及び結合活性により変異体を順位付けした。EP0703926に記載されているように、scFvの安定化ジスルフィド結合を効果的に形成した分子の数が予想外に増加したので、VH CDR1置換は特に関心がもたれた(図4A並びに図4B−a、b及びcを参照されたい)。
【0147】
図5に、ヒト化形態が予想通りの挙動を示し、マウスに基づく抗体と同等であることを示している、ゲル濾過、MALDI−TOFF及び分析用イオン交換に基づく分析を示す(図5B、C、D)。分析用ゲル濾過は、また、Tb535C(キメラ:マウスV−ドメイン含有)と比較してTb535H(ヒト化)がわずかにコンパクトな形態であることを示す。
【0148】
図8に、Tb535H(配列番号06及び配列番号19に基づく)が、マウス可変ドメイン(配列番号02及び配列番号17)に基づくトリボディーと比較して、5T4だけでなくCD3への同等な結合性及び同等な活性を示す。
【0149】
実施例3 結合アッセイ
FACS分析:装飾、力価測定、PBMCの結合性
被験細胞株(腫瘍細胞株、PBMC)を収集し(細胞1×10個/試料)、PBS中で洗浄し、PBS/10%FBS中の結合分子(例えば、抗体/トリボディー)1μgと共に氷上で1時間インキュベートした。腫瘍細胞株による5T4発現の特徴付けのために、市販の抗5T4抗体を使用した(カタログ番号:MAB49751、R&D Systems)。
【0150】
ヒト5T4ドメインへの抗5T4分子(scFv、Fab及びトリボディー形式)の結合にアクセスするために、二相性中皮腫細胞株MSTO−211H(ATCC CRL−2081)を、Innova Biosciences製のライトニング−リンク(Lightning−Link)(登録商標)APCキットによってアロフィコシアニン(APC)で直接標識された分子を用いたFACS結合アッセイで、製造業者の説明書にしたがって試験した。平衡解離定数(KD)の決定に関して、Tb535濃度は0.05〜500nMの範囲であった。
【0151】
次に、細胞をPBSで2回洗浄し、細胞表面への結合性を、BD FACSキャリバー(FACsalibur)装置を用いたフローサイトメトリーによってアクセスする。
【0152】
ジャーカット細胞に基づくELISA
ヒトCD3ドメインへの構造物の結合性にアクセスするために、T細胞リンパ腫(CD3+)細胞株を用いた、細胞に基づくELISAを使用した。ジャーカット細胞を収集し、洗浄し、丸底ELISAプレートの各ウェルに分注する。トリボディー及び単鎖の希釈物をPBS中に調製し、細胞に添加する。洗浄段階の後に、検出用抗体を試料に添加する(アルカリホスファターゼ結合型モノクローナル抗FLAG、カタログ番号:A9469、Sigma)。第2の抗体を、p−NPP(カタログ番号:N7653、Sigma)の添加時の比色反応の発生により検出し、マイクロウェルプレートリーダーで吸光度を定量し、グラフパッドプリズム(graph Pad Prism)ソフトウェアを用いた非線形回帰によって処理する。
【0153】
細胞に基づくELISA又はタンパク質に基づくELISAを、標準プロトコール(Sambrook、Molecular Cloning;A Laboratory Manual、第3版、Cold Spring Harbour Laboratory Press、Cold Spring Harbour、New York(2001))にしたがって行った。
【0154】
ヒトCD3ドメインに対する親和性について、T細胞リンパ腫(CD3+)細胞株であるジャーカットを用いた、細胞に基づくELISAを使用した。ジャーカット細胞を収集し、洗浄し、丸底96ウェルマイクロプレートの各ウェルに分注する。トリボディー/試料の希釈物をPBS中に調製し、細胞に添加し、インキュベートした。洗浄ステップの後に、検出用抗体を試料に添加する(抗ヒトカッパ軽鎖AP;例えばSigma、カタログ番号.K4377)。結合した検出用抗体を、p−NPP(カタログ番号:N7653、Sigma)の添加時の比色反応の発生によって測定し、吸光度をマイクロウェルプレートリーダーで定量し、グラフパッドプリズム(graph Pad Prism)ソフトウェアを用いた非線形回帰によって処理する。
【0155】
5T4標的抗原に対する親和性のために、5T4抗原を用いるELISAを使用する。施設内で産生された標的抗原である5T4細胞外ドメインをポリスチレン平底96ウェルマイクロプレートにコーティングし、ブロッキングする。トリボディー/試料の希釈物を0.2%w/v粉乳を有するTBS中に調製し、プレートに添加し、インキュベートした。洗浄ステップの後に、検出用抗体を試料に添加する(抗ヒトカッパ軽鎖AP;例えばSigma、カタログ番号.K4377)。結合した検出用抗体を、p−NPP(カタログ番号:N7653、Sigma)の添加時の比色反応の発生によって測定し、吸光度をマイクロウェルプレートリーダーで定量し、グラフパッドプリズムソフトウェアを用いた非線形回帰によって処理する。
【0156】
【表1】
【0157】
表1に示すように、二価結合性Tb535は、同等なBiTE(scFv−scFv形式)などの一価形式と比較して2〜3倍高い親和性を有する。トリボディー形式を使用して、IgG形式に近い5T4に対する親和性が得られる(図3A、B及びCを参照されたい)。図3C及びDに、scFv及びFabなどの一価形式よりもトリボディーの結合性に明らかな利点があることを示す。
【0158】
Tb535立体配置での抗CD3の結合性は、ジャーカット細胞及び異なるドナーのPBMCへの結合性によって実証されるように有効なままである(図3F)。
【0159】
実施例4 活性のアッセイ
標的細胞の標識化
フローサイトメトリーアッセイにおける細胞溶解の分析のために、蛍光膜色素DiOCi8(DiO)(Molecular Probes カタログ番号:V22886)を使用して、標的細胞としてヒト又はマカク5T4形質移入CHO細胞又は5T4発現ヒト細胞を標識し、エフェクター細胞からそれらを識別した。簡潔には、細胞を採集し、PBSで1回洗浄し、2%(v/v) FBS及び膜色素DiO(5μl/細胞10個)を含有するPBS中に細胞10個/mLになるよう調整した。37℃で3分間インキュベーション後、細胞を完全RPMI培地中で2回洗浄し、細胞数を細胞1.25×10個/mLに調整した。細胞の活力を、0.5%(v/v)等張エオシンG溶液(Roth カタログ番号:45380)を使用して決定した。
【0160】
ヒトPBMCを用いたFACSに基づく細胞傷害性アッセイ
輸血のために血液を収集している血液銀行の副産物である、濃縮したリンパ球調製物(バフィーコート)からのフィコール(Ficoll)密度勾配遠心分離によって、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)を調製した。バフィーコートを地域の血液銀行が供給し、採血と同じ日にPBMCを調製した。フィコール密度遠心分離及びダルベッコPBS(Gibco)を用いた徹底的な洗浄の後、赤血球溶解緩衝液(155mM NH4Cl、10mM KHCO3、100mM EDTA)を用いたインキュベーションを介して、PBMCから残りの赤血球を除去した。PBMCを100×gで遠心分離したときの上清により血小板を除去した。残りのリンパ球は、主にBリンパ球、Tリンパ球、NK細胞及び単球を包含している。10% FCS(Gibco)を有するRPMI培地(Gibco)中にPBMCを37℃/5% CO2で培養して維持した。
【0161】
異なる腫瘍細胞株:MDA−MB468(ATCC HTB−132)、MSTO−211H(ATCC CRL−2081)、NCI−H2052(ATCC CRL−5915)、NCI−H2452(ATCC CRL−5946)、NCI−H28(ATCC CRL−5820)、MDA−MB231(ATCC HTB−26)、HS−578T(ATCC HTB−126)、BT−549(ATCC HTB−122)、SW−620 ATCC CCL−227)、HCT−116(ATCC CCL−247)、HCT−15(ATCC CCL−225)を標的細胞として使用する、FACSに基づくインビトロ細胞傷害性アッセイによってトリボディーの生物学的活性を分析した。ヒトPBMCをCD3/CD28/IL−2刺激後にエフェクター細胞として使用した。刺激するには、Tフラスコ(75cm3)にPBS(1×)7.5ml中の5μg/ml αCD3(ImmunoTools カタログ番号:21620030)を37℃で2時間コーティングした。フラスコをPBSですすぎ、その後、10% FBS(PAA カタログ番号:A15−151)、5μg/ml αCD28(ImmunoTools カタログ番号:21330280)及び30U/mLヒト組換えIL−2(ImmunoTools カタログ番号:11340023)を補充したRPMI−1640(Sigma カタログ番号: R8758)に全PBMCを添加した。37℃及び5%CO2で3日刺激後に、PBMCを未コーティングのTフラスコに移し、インターナリゼーションしたT細胞受容体を細胞表面に再送達させるために、10% FBS及び30U/ml IL−2を有するRPMI−1640中でさらに24時間インキュベートした。標的細胞をPKH67色素(Sigma カタログ番号:MINI67−1KT)で製造業者の説明書にしたがって標識し、細胞接着のために一晩インキュベートした。ヒトPBMC(Tebu カタログ番号:192PMBC)をエフェクター:標的比5:1で添加し、トリボディーを2つ組にして1000〜0.001ng/mlの濃度範囲で調製した。標的、エフェクター細胞及びトリボディーを37℃及び5%COで48時間インキュベートした。インキュベーション後に、細胞を採集し、トリボディーを有さない細胞を除きヨウ化プロピジウム(Sigma カタログ番号:P4864)を含有するPBS中に再懸濁した。死滅細胞(PI+)と比較した無傷の生きた標的細胞(PKH67+細胞)の関数として比細胞傷害性を決定した。
【0162】
BD FACSキャリバー(FACsalibur)装置を使用するフローサイトメトリーによって、セルクエスト(cell quest)ソフトウェアを用いて細胞にアクセスした。標的細胞の最大半値溶解が起こった推定トリボディー濃度(EC50)の決定のために、比細胞傷害値をトリボディー濃度に対してプロットし、グラフパッドプリズムソフトウェアを用いる非線形回帰によって処理した。
【0163】
いくつかの癌性徴候を表わす一連の細胞株で測定されたTb535 5T4×CD3トリボディーの活性は、常に、低ピコモル濃度範囲であった(例えば図9A及びB)。驚くことに、5T4×CD3トリボディーは、飽和結合条件でインビトロ測定した場合であっても、BiTE scFv−scFv形式よりも高いパーセンテージの細胞死を示した(図7Dを参照されたい)。
【0164】
T細胞活性化マーカーの検出
健康なドナーのPBMC(Tebu−Bio)を標的MSTO−211H細胞の存在下及び非存在下の2つ組でTB535Hと共にインキュベートした。PBMCを解凍し、RPMI中で37℃及び5%CO2で24時間インキュベートした。MSTO−211H細胞を細胞8×10個/ウェルで24ウェルプレートに播種し、細胞接着のために一晩インキュベートした。一連のトリボディー濃度で、エフェクター:標的が10:1(非活性化)のPBMCを添加した。
【0165】
MSTO−211H細胞株の存在下及び非存在下でhPBMC及びトリボディーを24時間インキュベーション後に、PBMC(供給業者:Tebu−Bio)を遠心分離(300×g、5分、室温)によって採集し、抗体濃度1μg/細胞100万個のAPC標識抗CD69(Immunotools カタログ番号:21270564)及びFITC結合型抗CD3(Immunotools カタログ番号:21620033)で染色した。別のT細胞活性化マーカーであるCD25の決定のために、48時間インキュベーション後に細胞を採集し、APC−抗CD25(Immunotools カタログ番号:21270256)及びFTIC抗CD3で染色した。抗体を4℃で1時間遮光しながらインキュベートした。細胞をPBS中で3回洗浄し、FACSキャリバー装置のフローサイトメトリーによって結果にアクセスした。
【0166】
図12Cに、PBMCと一緒の腫瘍細胞のエクスビボ共培養が、Tb535濃度依存性のT細胞活性化マーカーの発現を誘導するが、最大1μMの濃度であっても標的細胞の非存在下でこれは存在しないことを示す。
【0167】
CD4+、CD8+及びNK亜集団を用いた細胞傷害性アッセイ
CD4+ヘルパーT細胞、CD8+エフェクターT細胞及びNK細胞の細胞障害活性を評価するために、市販のCD4+、CD8+及びCD56+濃縮細胞を購入した(供給業者:Tebu−bio)。
【0168】
Tb535Hの生物学的活性を、エフェクター細胞の調製を変更したFACSに基づくインビトロ細胞傷害性アッセイによって評価した。PBMCと同じく、これらの細胞集団も解凍し、一晩培養した後、細胞傷害性アッセイに使用した。しかし、PBMCについてE:Tが10:1という固定比を使用する代わりに、エフェクター細胞の量を各細胞亜集団のために適合させた。典型的には、CD4+ヘルパーT細胞、CD8+エフェクターT細胞及びNK細胞は、PBMCの全集団の50%、25%及び10%に相当する。この仮定のもとに、この細胞傷害性アッセイに使用されたE:T比は、CD4+ヘルパーT細胞について5:1、CD8+エフェクターT細胞について2.5:1、及びNK細胞について1:1であった。対照として、E:Tが10:1のPBMCの全集団を用いてもアッセイを行った。追加的に、CD4+細胞及びCD8+細胞の混合も試験した
【0169】
100.000pMのTb535のインキュベーションを行ってこれらの細胞集団の細胞傷害性活性を決定した。死細胞(PI+)と比べた無傷の生きた標的細胞(PKH67+細胞)の関数として比細胞傷害性を決定した。
【0170】
図13に実証するように、CD8+T細胞は主なエフェクター細胞であり、有効性はCD4+細胞を含ませることによって高まる。NK細胞が刺激されてTb535により標的細胞を死滅させることはない。
【0171】
実施例5 安定性
サーモフルオロ分析
scFv−PO3試料及びscFv−SP34試料をpH7.4のPBSに入れて終濃度0.1mg/mlに希釈した。200×希釈のシプロレッド(Sypro Red)ゲル染料(カタログ番号:S−6653、Invitrogen)5μlを、希釈した試料55μlに添加した。調整済みの各試料20μlをキャピラリーに負荷し、700gで5秒間遠心分離した。検出のために、サーモサイクラー(Rocheライトサイクラー(Lightcycler)1.5)を640nmに設定し、第1のステップで37℃で10秒間、続いて連続的にデータ取得しながら0.5℃/秒で最大95℃まで上昇するようプログラムした。
【0172】
分析用サイズ排除(ゲル濾過)
トリボディーを定量し、純度、より高い分子量の可溶性凝集形態、例えば二量体、三量体など、及びより小さな分子量の断片化形態、例えば遊離した軽鎖と比較した単量体の比率を決定するための分析を、Bio SEC−5、5um、300A、7.8×300mmのカラム(Agilent)を備える、1ml min−1のリン酸ナトリウム/NaCl(pH7.0)緩衝液を用いたUltimate 3000 HPLC(Dionex)で280nmのUVにより検出して実施した。精製された標準を使用して描いた検量線に対するAUCを使用して定量を実施する。
【0173】
特に、ジスルフィドで安定化された単鎖を含有する場合のトリボディー形式は、同等なscFv−scFv(BiTE)形式よりも、及び驚くことに同一のVドメイン配列を含有するIgG形式と比較した場合であっても、安定であることが見出されている(図6A−d)。
【0174】
Tb535の顕著な安定性は、PBS又はヒト血清のいずれかの中で37℃で3日間インキュベートすることによってさらに例証される。単量体性可溶性画分(図6B−a)では変化がなく、活性喪失がない(図6B−b)。
【0175】
実施例6 分析
荷電アイソフォームを特徴付け、その比率を決定するための分析用陽イオン交換分析を、MabPac SCX−10 3μm、4×50mmカラム(Thermofisher)を備える、0.5ml min−1のMES(pH5.6)緩衝液を用いたUltimate 3000 HPLC(Dionex)で塩勾配を使用して、280nmのUVにより検出して実施した。
【0176】
BIO−RADパワーパック(Power Pac)HVを備えるエクセルシュアロックミニセル(XCell Surelock Mini−Cell)(Invitrogen)の中で泳動させるIEF 3−10成形済みゲル(Serva)を使用する非平衡pHゲル電気泳動を使用して、等電点電気泳動を実施し、シンプリーブルーセーフステイン(SimplyBlue SafeStain)(Invitrogen)で染色した。
【0177】
BIO−RADパワーパックHVを備え、MOPs緩衝液を入れたエクセルシュアロック(商標)ミニセル(Invitrogen)の中で泳動させるNuPAGEノベックス(Novex)ビストリス4〜12%ゲル(Invitrogen)でSDS PAGEを実施し、シンプリーブルー(SimplyBlue)(商標)セーフステイン(Invitrogen)で染色した。分析のために試料を負荷緩衝液NuPAGE LDS(Invitrogen)で希釈し、還元SDS PAGEのために追加的にDTTで還元した。
【0178】
ウエスタンブロットのために、BIO−RADパワーパックHVを備え、MOPs緩衝液を入れたエクセルシュアロックミニセル(Invitrogen)の中で泳動させるNuPAGE Novexビストリス4〜12%ゲル(Invitrogen)を用いた非還元SDS PAGEにより、試料を最初に分離し、PVDF膜に転写し、抗ヒトカッパ軽鎖AP;例えばSigma カタログ番号K4377を使用して検出する。結合した検出用抗体を、APコンジュゲートキット、カタログ番号170−6432(Biorad)を使用して発色させる。
【0179】
実施例7 マウスモデルにおける薬物動態及び薬力学
細胞傷害性アッセイによる半減期の決定
マウス30匹(FOXP3−GFP;雌雄;1時点あたり雄2匹及び雌1匹)に10mg/kgのTb535を注射し、異なる時点:注射後5及び30分、1、2、3、4、6、8、12及び16時間にマウス3匹の群で屠殺した。血清試料中のTb535Hの生物学的活性を上記のFACSに基づくインビトロ細胞傷害性アッセイにより評価した。簡潔には、標的細胞(MSTO−211H)を、製造業者の説明書にしたがってPKH67色素(Sigma−Aldrich)で標識化し、細胞接着のために一晩インキュベートした。市販のヒト末梢血単核細胞(PBMC)をCD3/CD28/IL2で活性化し、エフェクター細胞としてエフェクター:標的比が5:1で使用した。各血清試料について2〜3つの希釈物を調製し、標的細胞に添加し、37℃及び5%CO2で72時間インキュベートした。対照として、公知の濃度を有するTb535H試料も含めて、トリボディー濃度をこの特異的PBMCドナーについての細胞傷害性値と対比する検量線を確立した。インキュベーション後に、細胞を採集し、比細胞傷害性を、BD FACSキャリバー装置を使用するフローサイトメトリーによって、セルクエストソフトウェアを使用して判断される、死細胞(PI+)に対する無傷の生きた標的細胞(PKH67+細胞)の関数として決定した。この方法による推定Tb535H濃度及び半減期の決定のために、時間に対して比細胞傷害性の値をプロットし、α相及びβ相を考慮する線形回帰によって処理した。
【0180】
図10に、大きな分布容積及び相対的に低い浄化を示している、半減期の決定の例を示す。
【0181】
有効性の決定:早期治療
早期腫瘍モデルを用いてトリボディー(10;1;0.1;0.01mg/kg)の有効性を試験するために、NOD/SCIDマウスに、ヒトPBMC2.5×10又は5×10個と混合した中皮腫細胞2.5×10個を皮下注射した。トリボディーを腫瘍注射の0、2、4、7、9及び11日後にi.v.で与えた。腫瘍の成長をノギスで測定した。
【0182】
同所性中皮腫モデルを模倣して、中皮腫細胞2.5×10個を胸膜内に注射した。呼吸困難及び20%超の体重減少について動物を定期的に点検して、地域の倫理委員会によって承認されたような人道的終点を決定した。
【0183】
図11A−abcに、ヒトPBMCで再構成されたNOD/SCIDマウスに皮下異種移植後の治療におけるTb535の有効性を示し、図11A−d及びeに、同所性(胸膜内注射された)中皮腫モデルにおける活性を図示する。
【0184】
有効性の決定:晩期治療
NSGマウス(NOD−scid IL2Rガンマ<ヌル>、The Jackson Laboratory)における異種移植試験を使用して樹立腫瘍の治療を実証し、癌細胞5×10個の皮下植込みから7日後に、マウスに活性化PBMC10×10個をIPにより6日毎に3回注射した。全ての試験について、初回PBMC注入の2日後に、マウスをTb535又は食塩水の7回隔日投与で静脈内治療した。腫瘍を週に2回ノギスで測定し、腫瘍体積をW×L×Hによって計算した。
【0185】
図11Bに、Tb535も樹立腫瘍に活性であることを示す。
【0186】
実施例8 エクスビボ細胞傷害性
サイトカイン放出アッセイ
健康なドナー4人からのPBMCを標的MSTO−211H細胞の存在下及び非存在下でTB535Hと共にインキュベートした。PBMCを解凍し、RPMI中に入れて37℃及び5%CO2で24時間インキュベートした。MSTO−211H細胞を24ウェルプレートに細胞8×10個/ウェルで接種し、細胞接着のために一晩インキュベートした。PBMCをエフェクター:標的が10:1(非活性化)のもと、一連のトリボディー濃度で添加した。37℃及び5%CO2で24又は48時間インキュベートした後に細胞を採集し、遠心分離し(300×g、5分、室温)、上清を新しいチューブに収集し、サイトカイン放出についてアッセイした。
【0187】
以下のキットを製造業者の説明書にしたがって使用するELISAによって培地へのサイトカイン放出にアクセスした:IL−2、Mabtech 3445−1H−6;IFN−ガンマ Mabtech 3420−1H−6;TNF−アルファ Mabtech 3510−1H−6;TGF−ベータ1 R&D DY 240−05;IL−4 R&D DY204−05及びIL−6 R&D DY206。結果が標準曲線に適合するように、一部の試料を、すなわちTGF1−ベータ(1:7希釈)、IL−6(1:10希釈)及びIFN−ガンマ(10ng/ml以上のTb535H濃度についてNOEL標的試料に1:40希釈)で、希釈しなければならなかった。24時間インキュベーション後に、IL−2、IFN−ガンマ、TNF−アルファ及びIL−6の定量のために試料を測定した。48時間インキュベーション後にIL−4及びTGF−ベータ1を培地から定量した。
【0188】
図12Aに腫瘍細胞とPBMCとのエクスビボ共培養におけるI型応答のサイトカイン誘導を示し、図12Bに標的細胞の非存在下(PBMC+Tb535のみ)での有意なサイトカイン誘導の欠如を示す。
【0189】
【表2-1】

【表2-2】

【表2-3】

【表2-4】

【表2-5】

【表2-6】
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図7D
図8A
図8B
図8C
図8D
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
図12A
図12B
図12C
図13
図14A
図14B
【配列表】
2018500025000001.app
【国際調査報告】