(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2018-503802(P2018-503802A)
(43)【公表日】2018年2月8日
(54)【発明の名称】内皮機能不全を処置するための物質及び方法ならびに被験者における治療の有効性をモニタリングするための方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20180112BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20180112BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20180112BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20180112BHJP
A61P 9/04 20060101ALI20180112BHJP
A61P 9/08 20060101ALI20180112BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20180112BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20180112BHJP
【FI】
G01N33/68
A61K35/28
A61P9/00
A61P9/10
A61P9/04
A61P9/08
G01N33/48 M
C12Q1/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-526979(P2017-526979)
(86)(22)【出願日】2015年11月13日
(85)【翻訳文提出日】2017年6月23日
(86)【国際出願番号】US2015060624
(87)【国際公開番号】WO2016081309
(87)【国際公開日】20160526
(31)【優先権主張番号】62/080,984
(32)【優先日】2014年11月17日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】510250892
【氏名又は名称】ユニバーシティー オブ マイアミ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF MIAMI
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100062144
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 葆
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】ジョシュア・エム・ヘア
(72)【発明者】
【氏名】コートニー・プレマー
(72)【発明者】
【氏名】アーノン・ブルム
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4C087
【Fターム(参考)】
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4C087ZA39
(57)【要約】
本開示は、内皮機能不全の処置を必要とする被験者において、それを処置するための物質及び方法を対象とする。処置の有効性を判定する方法もまた提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者において、内皮機能不全のための治療の有効性をモニタリングする方法であって、
内皮機能不全のための治療の適用前に、前記被験者から得られた第1の試料内の血管内皮増殖因子(VEGF)及び内皮前駆細胞(EPC)のレベルを測定することと、
内皮機能不全のための治療の適用後に、前記被験者から得られた第2の試料内のVEGF及びEPCのレベルを測定することと、を含み、
前記第1の試料内のVEGF及びEPCの前記レベルと比較して、前記試料内のVEGFのレベルが低く前記第2の試料内のEPCのレベルが高ければ、前記内皮機能不全の有効な処置であることを示す、方法。
【請求項2】
内皮機能不全のための前記治療が、間葉系幹細胞治療を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記間葉系幹細胞治療が、前記被験者に対する同種異系の間葉系幹細胞の適用を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
心血管障害に罹患している被験者において、間葉系幹細胞治療の有効性をモニタリングする方法であって、前記幹細胞治療の適用後に、前記被験者から得られた試料内の血管内皮増殖因子(VEGF)のレベルを測定することと、VEGFの前記レベルを所定の基準と比較することとを含む、方法。
【請求項5】
内皮機能不全の処置を必要としている被験者において、それを処置する方法であって、被験者に対して、同種異系の間葉系幹細胞を、前記被験者内の血管内皮増殖因子の循環レベルを低下させ、内皮前駆細胞のレベルを増大させるために有効な量で適用し、それによって前記内皮機能不全を治療することを含む、方法。
【請求項6】
前記被験者が、心血管障害に罹患している、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記心血管障害が、心不全、特発性拡張型心筋症、及び虚血性心筋症からなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記間葉系幹細胞が、局所的に適用される、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記間葉系幹細胞が、経心内膜注入によって適用される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記間葉系幹細胞が、約2000万個〜約1億個の範囲の細胞量で適用される、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
前記間葉系幹細胞の適用が、少なくとも3%の、前記被験者における血流依存性血管拡張反応(FMD)の増大をもたらす、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
米国政府の利益に関する声明
本発明は、National Institutes of Health,Heart,Lung and Blood Instituteによって与えられた認可番号R01HL110737−01の下、米国政府の支持をもってなされた。米国政府は、本発明における一定の権利を有する。
【0002】
本開示は、人間の被験者において、内皮機能不全を処置し、心血管障害に罹患している被験者において、間葉系幹細胞治療の有効性をモニタリングするための物質及び方法を対象とする。
【背景技術】
【0003】
心不全(HF)は、依然として米国内における主要な罹患及び死亡原因である
1。循環の不全は、心機能低下のみならず、内皮機能不全も特徴とする
2。内皮機能不全は、全身血管抵抗の増大を生じさせ、これが不全の心臓に対してストレスを増加させ、HF総体症状の原因となる
3、4。また、内皮機能不全は、多数の心血管(CV)障害の病態生理学のきわめて重大な要素であり、アテローム硬化症、高血圧症、及び糖尿病等のCV危険因子を有する患者に発症する
5、6。また、内皮前駆細胞(EPC)は、内皮に組み入れ、損傷した内皮細胞を置換して、成熟した内皮細胞を活性化させる血管形成因子を分泌することによって血管系の健康を調整する
7、8。とりわけ、HF患者は、低下した循環EPCレベル及び生物活性を有する
7。
【発明の概要】
【0004】
内皮機能不全のための治療の有効性をモニタリングする方法が提供される。1つの態様では、本方法は、内皮機能不全のための治療の適用前に、被験者から得られた第1の試料内の血管内皮増殖因子(VEGF)及び内皮前駆細胞(EPC)のレベルを測定することと、内皮機能不全のための治療の適用後に、被験者から得られた第2の試料内のVEGF及びEPCのレベルを測定することと、を含み、第1の試料内のVEGF及びEPCのレベルと比較して、第2の試料内のVEGFのレベルが低くEPCのレベルが高ければ、内皮機能不全の治療として有効であることを示す。いくつかの実施形態では、内皮機能不全のための治療は、間葉系幹細胞治療を含む。いくつかの実施形態では、間葉系幹細胞治療は、被験者に対する同種異系の間葉系幹細胞の適用を含む。
【0005】
代替的に、本発明は、内皮機能不全のための治療の有効性をモニタリングする方法を提供し、内皮機能不全のための治療の適用後に、被験者から得られた試料内の血管内皮増殖因子(VEGF)及び内皮前駆細胞(EPC)のレベルを測定することと、VEGF及びEPCのレベルを所定の基準、例えば健康な被験者から得られたVEGF及びEPCのレベルと比較することとを含む。所定の基準と比較して、試料内のVEGFのレベル(例えば、試料内のVEGFのレベルが健康な被験者におけるVEGFのレベルに対応している)が低くEPCのレベル(例えば、試料内のEPCのレベルが健康な被験者におけるEPCのレベルに対応している)が高ければ、内皮機能不全の治療として有効であることを示す。内皮細胞不全のための任意の治療が、本明細書において意図され、1つの態様では、治療は、細胞ベースの治療、例えば幹細胞(例えば間葉系幹細胞)の適用である。
【0006】
また、本明細書では、心血管障害に罹患している被験者において、間葉系幹細胞治療の有効性をモニタリングする方法が記載され、幹細胞治療の適用後に、被験者から得られた試料内の血管内皮増殖因子(VEGF)のレベルを測定することと、VEGFのレベルを所定の基準、例えば健康な被験者から得られたVEGFのレベルと比較することとを含む。試料内のVEGFのレベルが健康な被験者におけるVEGFのレベルに対応しているような、試料内の低下したVEGFのレベルは、有効な幹細胞治療を示す。
【0007】
試料内のVEGF及び/またはEPCのレベルを測定するステップは、任意の手段、例えば当技術分野で既知であり、以下に説明されたものによって行われる。例えば、試料内のVEGFのレベルの測定は、本発明のいくつかの態様においては、試料内のVEGFタンパク質量の定量化を要するが、VEGF DNAまたはmRNAの量の定量化もまた意図されている。いくつかの実施形態では、本方法は、EPCを試料から分離し、EPCを少なくとも24時間培養し、コロニー形成ユニット(CFU)数を計数することを含む。
【0008】
いくつかの実施形態では、試料は、血液試料または血清試料である。
【0009】
本開示は、被験者における内皮機能不全を特定する方法をさらに提供し、被験者から得られた試料内の血管内皮増殖因子(VEGF)のレベルを測定することと、被験者から得られた試料内の内皮前駆細胞(EPC)のレベルを測定することとを含み、試料内のVEGFのレベルが高く試料内のEPCのレベルが低ければ、被験者が内皮機能不全に罹患していることを示す。
【0010】
別の態様では、本明細書では、内皮機能不全の処置を必要としている被験者において、それを処置する方法が記載され、被験者に対して、同種異系の間葉系幹細胞(MSC)を、被験者内のVEGFの循環レベルを低下させ、EPCのレベルを増大させるために有効な量で適用し、それによって内皮機能不全を治療することを含む。いくつかの実施形態では、被験者は、心血管障害、例えば心不全、特発性拡張型心筋症及び虚血性心筋症等に罹患している。種々の実施形態では、本方法は、血管緊張を改善させる。
【0011】
間葉系幹細胞は、当技術分野で既知のものを含む任意の好適な方法に従って適用される。いくつかの実施形態では、細胞は、局所的に適用される。いくつかの実施形態では、細胞は、経心内膜注入によって適用される。
【0012】
任意には、間葉系幹細胞は、約2000万個〜約1億個の範囲の細胞量で適用される。いくつかの実施形態では、間葉系幹細胞は、約2000万個〜約3000万個の細胞、または約2000万個〜約4000万個の細胞、または約2000万個〜約5000万個の細胞、または約2000万個〜約6000万個の細胞、または約2000万個〜約7000万個の細胞、または約2000万個〜約8000万個の細胞、または約2000万個〜約9000万個の細胞、または約3000万個〜約5000万個の細胞、または約3000万個〜約7000万個、または約3000万個〜約9000万個の細胞、または約5000万個〜約1億個の細胞の量の範囲で適用される。いくつかの実施形態では、約2000万個、または約2500万個、または約3000万個、または約3500万個、または約4000万個、または約4500万個、または約5000万個、または約5500万個、または約5000万個、または約5500万個、または約6000万個、または約6500万個、または約7000万個、または約7500万個、または約8000万個、または約8500万個、または約9000万個、または約9500万個、または約1億個の間葉系幹細胞が、被験者に適用される。
【0013】
いくつかの実施形態では、間葉系幹細胞の被験者への適用は、少なくとも3%の、被験者における血流依存性血管拡張反応(FMD)の増大をもたらす。
【0014】
本明細書に記載された方法のいずれかにおいては、被験者は、人間の被験者である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】拡張型及び虚血性心筋症を含む心不全を有する患者における内皮機能。
図1Aは、対象とする患者(n=22)が、健康対照(n=10、****P<0.001)と比較して、障害のあるEPC−CFUを見せたことを示す。
図1Bは、対象とする患者(n=22)が、健康対照(n=10、**P=0.0017)と比較して、FMD%が低かったことを示す。
【
図2】同種異系かあるいは自己由来のいずれかの間葉系幹細胞(MSC)で処置された心不全患者における内皮コロニー形成ユニット。
図2Aは、同種異系のMSCで処置された患者が、EPC−CFUの処置3カ月後における有意な改善を見せたこと(n=15、****P<0.001)を示す。
図2Bは、自己由来MSCで処置された患者が、EPC−CFU後処置(n=7)において変化がなかったことを示す。
図2C及び2Eは、MSC適用前5日間フィブロネクチン上で平板培養されたEPC−CFUをそれぞれ示す(倍率20x)。
図2D及び2Fは、MSC適用後5日間フィブロネクチン上で平板培養されたEPC−CFYをそれぞれ示す(倍率20x)。
【
図3】間葉系幹細胞(MSC)処置前後の血流依存性血管拡張反応(FMD)測定値。
図3Aは、同種異系のMSCで処置された患者で、FMD%が処理3カ月後に増大を見せたことを示す(n=15、***P<0.001)。
図3Bは、自己由来MSCで処置された患者が、FMD%の処理3カ月後における有意差がなかったことを示す(n=7、P=NS)。
図3Cは、すべての患者(P<0.001、R=0.684)における、ベースラインからMSC注入後3カ月までのFMD%における絶対変化とEPF−CFUにおける絶対変化との間の相関を示す。
【
図4】患者及び健康対照における血清VEGF濃度。
図4Aは、患者(n=14)が、ベースライン(P=0.0009)における健康対照(n=9)と比較して高レベルの循環VEGFを見せたことを実証する。
図4Bは、同種異系のMSC(n=9)による処置を受けた患者では注入後(Δ−547.5±350.8pg/mL)のVEGF血清レベルが低下し、一方で、自己由来MSCによる処置を受けた患者(n=5)では注入後(Δ814.1±875.8)、が血清VEGFレベルが上昇し、群間に差(**P=0.0012)があったことを実証する。
図4Cは、ベースラインと3カ月のMSC後処置との両方において、患者内でEPC−CFUと血清VEGFとの間に相関があることを示す(R=−0.421、P=0.026)。
図4Dは、ベースラインから3カ月の後処置までのEPC−CFUの変化と、VEGFにおける変化に強い相関が見られたことを示す(R=−0.863、P<0.001)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示は、増大した血管内皮増殖因子(VEGF)の循環レベルが、任意には低下した内皮前駆細胞(EPC)のレベルと組み合わせて、被験者における内皮機能不全を示し、低下したVEGFのレベル及び増大したEPCのレベルが、内皮機能不全、血管緊張、及び心血管疾患のための治療有効性を示すという発見に、少なくとも部分的に基づく。本明細書において提供されたデータは、心不全に罹患している被験者に対する同種異系の間葉系幹細胞(MSC)の適用が、EPC生物活性を促進させ、血流依存性血管拡張反応を正常値まで回復させたことを実証している。同種異系のMSCの能力は、内皮機能の回復、EPC CFU形成の強化、及びVEGFレベルの抑制において、自己由来MSCのものを大きく上回る。これらの知見はともに、MSCの生物活性に関する新しい臨床上の見識をもたらし、内皮機能不全を特徴とする障害のための新規な治療方針を提案し、処置の成功を検出して測定するための有用な診断用標識を提供する。
【0017】
MSCは、骨髄内に原型的に発見され、多数の細胞タイプに分化する能力を有する成体幹細胞である。これらは、内因性前駆細胞の増殖及び分化を促進し、幹細胞ニッチの維持において重要な役割を果たす
27。加えて、MSCは、血管新生、心筋発生、心血管新生、他の内因性幹細胞の促進、及び免疫システムの調整に関係する傍分泌因子を分泌する
28、29。MSCは、心臓内の心臓前駆細胞及び細胞周期活性を促進することが知られているが、他の内因性前駆体集団を促進することにおけるそれらの役割は、従来知られていなかった。本明細書において提供されたデータは、MSCが内因性EPCの活性化を促進して、機能性EPCの数及び質を高めることを立証している。これらの知見は、EPCの増加が、それによってMSCが好ましい生物学的効果を及ぼす、新規な作用機序を表し得ることを示唆する。
【0018】
過去10年間にわたり、CV障害におけるMSCの使用に新たに関心が集まっている
30。臨床実験は、MSC適用のための主要な安全性プロファイル実証しており、HF患者における有効性を示唆している
30〜32、しかしながら、潜在的な作用機序については、精力的に議論され続けている。虚血性及び非虚血性の両方のHFを有する患者への同種異系のMSC注入は、結果として、特にEPC機能、FMDの回復、及び低いVEGFレベルの正常値への回復によって、内皮機能を改善させることがすぐに見いだされれば、MSCの作用機序に主要な新しい見識をもたらされる。試験対象集団において、増大した血清VEGFは、減少したEPC−CFUと相関し、VEGFが補償の役割を果たすという概念に適合しており、また、脳動脈瘤を有する患者においても知見が報告された
26。本明細書において提供された知見は、同種異系のMSCを使用して、EPC生物活性を促進し、動脈の生理的な血管拡張反応を改善させ、CV疾患及び内皮機能不全に関連する他の障害を有する患者における望ましくないサイトカイン可動化を減少させることができることを立証している。
【0019】
本明細書において提供されたデータは、同種異系のMSCが、患者における内皮機能を自己由来MSCのものを大きく上回る度合いまで回復させたことを実証する。以下に記載された調査において、すべての同種異系の幹細胞ドナーは、20〜35歳の間の健康で若いドナーであった。自分自身の幹細胞を受けている患者は、基礎疾患として慢性疾患を有しているのみならず、年齢がより高かった(45〜75歳の間)。自己由来のMSCの老化は、残存、分化、及びEPCを損傷部位に補充するための能力を損ない、最終的にそれらの治療の有効性を低下させるおそれがある
38、39。
【実施例】
【0020】
方法
試験集団:HF患者を、POSEIDON−DCM(NCT01392625)、「A Phase I/II,Randomized Pilot Study of the Comparative Safety and Efficacy of Transendocardial Injection of Autologous Mesenchymal Stem Cells Versus Allogeneic Mesenchymal Stem Cells in Patients with Nonischemic Dilated Cardiomyopathy」及びTRIDENT(NCT02013674)、「The TRansendocardial Stem Cell Injection Delivery Effects on Neomyogenesis Study」に登録した。PODEIDON−DCMにおいて、1億個の自己由来あるいは同種異系のMSCのいずれかの経心内膜送達によって受け取るために患者をランダム化した。心臓カテーテル法の4〜6週間前に、自己由来のMSCを患者の骨髄から吸引した(腸骨稜吸引)。TRIDENT試験において、2000万または1億個の同種異系のMSCを経心内膜によって受けるように、ICM患者をランダム化した。同種異系のMSCを、University of Miami Cell Manufacturing Programによって製造した。健康で年齢22〜58歳の男女被験者(n=10)を登録した。すべての被験者から文書による同意を取得し、University of Miami Institutional倫理委員会から試験の承認を受けた。
【0021】
内皮コロニー形成ユニット(EPC−CFU):MSC注入前及びその3か月後に、患者から末梢血液試料を得た。Ficoll−Paqueを用いてEPCを試料から分離し、500万個の細胞を、CFU−Hill medium(stem cell technologies、カタログ番号05900)17の中のフィブロネクチンでコーティングした6ウェル皿(BD biosciences)上に播種した。48時間後に非付着性細胞を収集し、100万個の細胞を、フィブロネクチンでコーティングした24ウェル皿上に播種した。5日目に、EPC−CFUを5ウェルにおいてカウントし、平均値を得た。
【0022】
血流依存性血管拡張反応(FMD):一晩絶食後の朝、上腕動脈の直径測定及びFMD%を行った。被験者の右腕を伸ばした位置で固定し、超音波を介して、上腕動脈を肘前窩上5〜10cmでスキャンした
17、18。その後、上腕カフを超収縮期血圧(収縮期血圧を上回る40〜50mmHg)まで5分間膨張させた。続いて、カフを収縮させて、上腕動脈の直径を3分間記録した。
【0023】
VEGF ELISA:ベースライン及び同種異系の(n=6)または自己由来の(n=5)MSC処置後6カ月で、DCM患者における血清血管内皮増殖因子(VEGF)レベル(Invitrogen #KHG0111)を測定した。ICM患者(n=4)においては、ベースライン及び同種異系のMSC処置後3カ月で、VEGFを測定した。同種異系のMSCの細胞移植を受けたDCM及びICM患者を併合して、自己由来細胞移植を受けた患者と比較した。最後に、健康対照におけるVEGFを測定した(n=9)。
【0024】
C反応性タンパク質:CRPモノクローナル抗体でコーティングされたラテックス粒子とともに血漿試料がインキュベートされた、C反応性タンパク質(CRP)を、比濁法を用いて評価した。分析感度は0.2mg/Lであり、結果をmg/Lで報告した。
【0025】
統計分析:自己由来細胞により処置した群と同種異系細胞により処置した群との間の差異を評価するために、対応のない両側T検定を用いた。各群における処置前後の差異を測定するために、対応のある両側T検定及び一元配置分散分析(one−way ANOVA)の両方を利用した。ガウス分布を前提として、ピアソン相関を用いて相関を計測した。平均値及び平均値の標準偏差としてデータを提示する。HUVEC処置群間の差異を判定するために、対応のない両側T検定を用いた。
【0026】
結果
ベースライン特性:本試験では、計22人の患者を解析対象とした。その内訳は、同種異系のMSCによる処置を受けた患者15人、自己由来MSCによる処置を受けた7人であった。試験被験者のベースライン特性を表1に要約する。年齢及び性別を均等に分散させた。
【表1】
【0027】
心不全患者及び健康な被験者におけるEPC−CFU及びFMD:虚血性(n=15)のみならず非虚血性(n=6)の心筋症を有する患者は、ベースラインでの内皮機能不全を有しており、EPC−CFUを形成する能力の低下と、損なわれたFMD反応とを特徴とする(
図1)。具体的には、患者では、健常対照(それぞれ4±3対25±16、P<0.001)と比較してEPC−CFU数が低下しており、FMD%が低下していた(それぞれ5.6±3.2対9.2±4、P=0.0017)。
【0028】
MSCで処置された心不全患者におけるEPC−CFU:MSC処置前及びその3カ月後に、EPC−CFUについて患者を評価した。同種異系のMSCによる処置を受けた患者では、処置後のEPC−CFU数に有意な改善が認められた(Δ10±5、P<0.001、
図2A)。一方、自己由来MSCによる処置を受けた患者では改善は認められなかった(Δ1±3、P=NS、
図2B)。また、同種異系のMSC処置と自己由来MSC処置とを比較したが、同種異系のMSC処置は、EPCコロニー形成の促進において優れていた(P=0.02)。
【0029】
また、EPC−CFUを形態についても調べた。HF患者からのEPCは、組織化されていない不完全なコロニー形成体を有し(
図2C及びE)、結果として、機能的コロニーを形成し損なったクラスタが生じた。同種異系のMSC処置の3カ月後、患者のコロニーは組織化されて、外見は正常となった(
図2D及びF)。これらの知見は、経心内膜MSC治療が、虚血性及び非虚血性の両方を病因とするHFを有する患者において、EPC生物活性を促進することを示唆する。
【0030】
MSCで処置された心不全患者におけるFMD:MSC注入前及びその3カ月後に、上腕動脈FMDを用いて、すべての患者を評価した。同種異系のMSCによる処置を受けた患者では、FMD%に劇的な改善が認められた(Δ3.7±3%、P=0.001、
図3A)。反対に、自己由来MSC処置を受けた患者では改善が見られず、大多数の患者が処置後3カ月で悪化した(Δ−0.46±3%、
図3B)。
【0031】
自己由来のMSCでの処置と、同種異系のMSCでの処置との間の差異を解析した。2つの細胞タイプ間には顕著な差異があり(P=0.005)、この患者集団では自己由来のMSCによる処置によって内皮機能が回復しないことが示唆される。また、すべての患者を対象としてEPC−CFUとFMD%との間の相関を評価したところ、ΔFMD%とΔEPC−CFUとの間にきわめて有意な相関が認められた(P<0.001、R=0.684、
図3C)。
【0032】
自己由来及び同種異系のMSCによる処置を受けた患者におけるVEGFの評価:患者及び健康対照を対象としてVEGF血清循環濃度を測定した。ベースラインのVEGF血清循環濃度は、患者において健康対照と比較して非常に高かった(1130.3±803.3対2.0±5.9pg/mL、P<0.001、
図4A)。同種異系のMSCはVEGF濃度を低下させ(−547.5±350.8pg/mL、P=0.002)、一方で自己由来MSCによる処置を受けた患者ではVEGFの増加が認められた(814.1±875.8pg/mL、
図4B)。さらに、同種異系のMSCによる処置を受けた患者と自己由来MSCによる処置を受けた患者との間には有意差が認められた(P=0.0012、
図4B)。
【0033】
VEGF濃度はEPC−CFUと相関を示した(P=0.026、R=−0.421、
図4C)。より驚くべきことに、ベースラインから処置後3カ月までのVEGFにおける変化幅とEPC−CFUにおける変化幅には有意な相関が認められた(R=0.863、P<0.001、
図4G)。とりわけ、自己由来MSCによる処置を受けた患者から成るグループによって示されるように、高レベルのVEGFと低レベルのEPCは相関を示した。逆に、同種異系のMSCによる処置を受けた患者から成るグループによって示されるように、低レベルのVEGFは高レベルのEPC−CFUと相関を示した。総合的に考えると、これらのデータから、MSCによってEPC可動化が促進され、VEGF循環濃度における代償的な上昇が抑制されることが示される。
【0034】
要約
本実施例から、HF患者において、MSCを用いた経心内膜治療によって強力かつ臨床的に重大な有効性の転帰がもたらされることが示される。同種異系のMSCは、血流依存性の上腕動脈拡張及びEPC生物活性を回復させ、VEGF濃度を正常値まで回復させる。CV疾患を有する患者の血管機能における異常は、好ましくない転帰及び疾患の進行を強く示唆することから、内皮機能を標的とすることは重大な治療戦略と言える。また、データから、VEGFは、内皮機能不全の治療の成功、血管緊張の回復、及び心血管疾患の合併症の緩和を示す新規な指標とされる。FMDが改善された被験者では、FMDが改善されなかった心不全の被験者と比較して、VEGF循環濃度が低く、EPC−CFUのレベルが高かった。
【0035】
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【国際調査報告】