(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2018-504857(P2018-504857A)
(43)【公表日】2018年2月15日
(54)【発明の名称】語音了解度向上システム
(51)【国際特許分類】
H04R 25/00 20060101AFI20180119BHJP
H04R 3/00 20060101ALI20180119BHJP
H04R 25/02 20060101ALI20180119BHJP
H04R 1/10 20060101ALI20180119BHJP
【FI】
H04R25/00 L
H04R3/00 310
H04R25/02 B
H04R1/10 104A
H04R1/10 104E
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-541071(P2017-541071)
(86)(22)【出願日】2016年2月1日
(85)【翻訳文提出日】2017年8月30日
(86)【国際出願番号】US2016015995
(87)【国際公開番号】WO2016126614
(87)【国際公開日】20160811
(31)【優先権主張番号】62/111,930
(32)【優先日】2015年2月4日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】505261449
【氏名又は名称】エティモティック・リサーチ・インコーポレーテッド
(71)【出願人】
【識別番号】501083115
【氏名又は名称】メイヨ・ファウンデーション・フォー・メディカル・エデュケーション・アンド・リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】セベット、マイケル ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ステパネク、ヤン
(72)【発明者】
【氏名】キリオン、ミード シー.
(72)【発明者】
【氏名】オルダス、チャールズ ジェイ.
【テーマコード(参考)】
5D005
5D220
【Fターム(参考)】
5D005BA07
5D005BB03
5D005BB08
5D005BB11
5D005BE01
5D220AA50
5D220AB01
5D220AB08
5D220DD03
(57)【要約】
語音了解度システム。話手ユニットと、聴手ユニットと、イヤピースとを備える。話手ユニットは、可聴スピーチコンテントを受けるとともにスピーチコンテントを表す電気信号を生成するマイクロフォンと、スピーチコンテントを含む無線送信信号を生成するようにそのマイクロフォンに接続されている送信器とを含む。聴手ユニットは、無線送信信号を受信するとともにスピーチコンテントを表す電気信号を生成する受信器を含む。話手ユニット及び聴手ユニットの少なくとも一方は、800Hzから1,700Hzまでの下限と、7,000Hzから11,000Hzまでの上限を有する周波数範囲内におけるスピーチコンテントのスペクトル成分を増幅する増幅器を含む。イヤピースは、聴手ユニットに接続されるとともに増幅されたスペクトル成分を有するスピーチコンテントを生成するスピーカと、スピーチコンテントをスピーカからユーザの外耳道に向けて案内するチューブとを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
語音了解度向上システムであって、
可聴スピーチコンテントを受信するとともに前記可聴スピーチコンテントを表す電気信号を生成するマイクロフォン、及び
前記可聴スピーチコンテントを含む無線送信信号を生成するように前記マイクロフォンに接続された送信器、
を含む話手ユニットと、
前記無線送信信号を受信するとともに前記可聴スピーチコンテントを表す電気信号を生成する受信器
を含む聴手ユニットと、
を備え、前記話手ユニット及び前記聴手ユニットの少なくとも一方は、約800Hzから1,700Hzまでの下限と約7,000Hzから11,000Hzまでの上限とを有する周波数範囲内における前記可聴スピーチコンテントのスペクトル成分を増幅する増幅器を含み、
前記語音了解度向上システムは、
増幅された前記スペクトル成分を有する可聴スピーチコンテントを生成するように前記聴手ユニットに接続されたスピーカ、及び
前記可聴スピーチコンテントを前記スピーカからユーザの外耳道に向けるチューブ
を含み、前記聴手ユニットに接続されたイヤピースを備えている語音了解度向上システム。
【請求項2】
前記聴手ユニットと前記イヤピースのスピーカとの間の有線接続をさらに含む請求項1に記載の語音了解度向上システム。
【請求項3】
前記増幅器は前記話手ユニットに内蔵されている請求項1に記載の語音了解度向上システム。
【請求項4】
前記聴手ユニットと前記イヤピースのスピーカとの間の有線接続をさらに含む請求項3に記載の語音了解度向上システム。
【請求項5】
前記増幅器は前記聴手ユニットに内蔵されている請求項1に記載の語音了解度向上システム。
【請求項6】
前記聴手ユニットと前記イヤピースのスピーカとの間の有線接続をさらに含む、請求項5に記載の語音了解度向上システム。
【請求項7】
前記増幅器のゲインは、増幅がなされる周波数範囲の下限でのスペクトル成分についての第1の値から、約3,000Hzから4,500Hzまでの周波数範囲内におけるスペクトル成分についての第2の値である最大値まで一般的に増加するとともに、前記最大値から前記増幅がなされる周波数範囲の上限でのスペクトル成分についての第3の値まで減少する請求項1に記載の語音了解度向上システム。
【請求項8】
前記ゲインの第1の値は、約5db以下である請求項7に記載の語音了解度向上システム。
【請求項9】
前記ゲインの第2の値である最大値は、約10dbから約30dbまでである請求項8に記載の語音了解度向上システム。
【請求項10】
前記ゲインの第3の値は、約5db以下である請求項9に記載の語音了解度向上システム。
【請求項11】
前記イヤピースは、マイクロフォンを含むヘッドセットの構成部品であり、
前記ヘッドセットは、前記マイクロフォンを前記話手ユニットに接続するように構成される、請求項1に記載の語音了解度向上システム。
【請求項12】
前記話手ユニットを、前記話手ユニットの前記マイクロフォンと前記ヘッドセットの前記マイクロフォンの一方に接続するスイッチをさらに含む、請求項11に記載の語音了解度向上システム。
【請求項13】
前記話手ユニットと前記聴手ユニットが一体化される、請求項12に記載の語音了解度向上システム。
【請求項14】
聴手ユニットと併用するために構成された語音了解度話手ユニットであって、前記語音了解度話手ユニットは、スピーチコンテントのソースに接続されるように構成され、約800Hzから1,700Hzまでの下限と約7,000Hzから11,000Hzまでの上限とを有する周波数範囲内におけるスピーチコンテントのスペクトル成分を増幅する増幅器を含む、語音了解度話手ユニット。
【請求項15】
前記増幅器のゲインは、増幅がなされる周波数範囲の下限でのスペクトル成分についての第1の値から、約3,000Hzから4,500Hzまでの周波数範囲内におけるスペクトル成分についての第2の値である最大値まで一般的に増加するとともに、前記最大値から前記増幅がなされる周波数範囲の上限でのスペクトル成分についての第3の値まで減少する請求項14に記載の語音了解度話手ユニット。
【請求項16】
前記スピーチコンテントを生成するマイクロフォンをさらに含む請求項14に記載の語音了解度話手ユニット。
【請求項17】
話手ユニットと併用するために構成された語音了解度聴手ユニットであって、前記語音了解度聴手ユニットは、スピーチコンテントのソースに接続されるように構成され、約800Hzから1,700Hzまでの下限と約7,000Hzから11,000Hzまでの上限とを有する周波数範囲内におけるスピーチコンテントのスペクトル成分を増幅する増幅器を含み、前記聴手ユニットは、前記増幅したスピーチコンテントのスペクトル成分をスピーカに接続するように構成される語音了解度聴手ユニット。
【請求項18】
前記増幅器のゲインは、増幅がなされる周波数範囲の下限でのスペクトル成分についての第1の値から、約3,000Hzから4,500Hzまでの周波数範囲内におけるスペクトル成分についての第2の値である最大値まで一般的に増加するとともに、前記最大値から前記増幅がなされる周波数範囲の上限でのスペクトル成分についての第3の値まで減少する請求項17に記載の語音了解度聴手ユニット。
【請求項19】
前記スピーチコンテントの前記増幅したスペクトル成分を受けるように接続されたスピーカを有するイヤピースをさらに含む請求項17に記載の語音了解度聴手ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、聴覚障害者のために、了解度を高めるようにスピーチを処理して再生するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
聴覚障害は、人々のかなりの部分の生活の質を損ねている。難聴によって引き起こされる問題は、フラストレーションの原因から抑鬱や引きこもりまで多岐にわたる可能性がある。
【0003】
聴覚障害者がスピーチを理解する能力は、語音了解度(intelligibility of speech)としても知られ、多くの要因によって制限されている。1つの要因は、スピーチが行われている環境における環境雑音のレベルである。別の要因は、聴覚障害者が、話者のスピーチの主要な高周波成分における至ってソフトなレベルの成分を聴き取る能力の欠如である。室内音響からの反響音もまた、聴覚障害者のスピーチを理解する能力を制限する。
【0004】
語音了解度を高めるシステムは、一般的には、特許文献1、特許文献2、特許文献3において公知であり、及び開示されており、これらの明細書は、あらゆる目的のために参照によってそれらの全体が本願明細書に組み込まれる。しかし、聴覚障害者のために語音了解度を高める改良されたシステムに対する必要性が引き続き存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6,993,480号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0195996号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2010/0166209号明細書
【発明の概要】
【0006】
語音了解度向上システムの態様は、話手ユニットと、聴手ユニットと、イヤピースとを備えている。話手ユニットは、可聴スピーチコンテントを受信するとともに前記可聴スピーチコンテントを表す電気信号を生成するマイクロフォンと、前記スピーチコンテントを含む無線送信信号を生成するように前記マイクロフォンに接続された送信器とを含んでいる。聴手ユニットは、無線送信信号を受信するとともに前記可聴スピーチコンテントを表す電気信号を生成する受信器を含んでいる。話手ユニット及び聴手ユニットの少なくとも一方は、約800Hzから1,700Hzまでの下限と、約7,000Hzから11,000Hzまでの上限とを有する周波数範囲内におけるスピーチコンテントのスペクトル成分を増幅する増幅器を含んでいる。イヤピースは、聴手ユニットに接続され、かつ増幅されたスペクトル成分を有する可聴スピーチコンテントを生成するスピーカと、可聴スピーチコンテントをスピーカからユーザの外耳道に向けるチューブとを有する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の実施形態による語音了解度向上システムのブロック図。
【
図2】
図1に示すシステムの実施形態に用いることができるゲイン対周波数のグラフ。
【
図3A】
図1に示すシステムの実施形態に用いることができる代替的なゲイン対周波数のグラフ。
【
図3B】
図1に示すシステムの実施形態に用いることができる代替的なゲイン対周波数のグラフ。
【
図3C】
図1に示すシステムの実施形態に用いることができる代替的なゲイン対周波数のグラフ。
【
図3D】
図1に示すシステムの実施形態に用いることができる代替的なゲイン対周波数のグラフ。
【
図3E】
図1に示すシステムの実施形態に用いることができる代替的なゲイン対周波数のグラフ。
【
図3F】
図1に示すシステムの実施形態に用いることができる代替的なゲイン対周波数のグラフ。
【
図4】本発明の実施形態による別の語音了解度向上システムのブロック図。
【
図5】環境雑音レベルの範囲で、本発明の実施形態によるプロトタイプの語音了解度向上システムを用いた(即ち補聴された)テスト参加者、並びに該システムを用いていない(即ち補聴されていない)テスト参加者の単語と音素の認識を示すパフォーマンスデータのグラフ。
【
図6】本発明の実施形態によるプロトタイプの語音了解度向上システムを用いた(即ち補聴された)及び該システムを用いていない(即ち補聴されていない)テスト参加者の文章の認識を示すパフォーマンスデータのグラフ。
【
図7】環境雑音レベルの範囲で、本発明の実施形態によるプロトタイプの語音了解度向上システムを用いた(即ち補聴された)及び該システムを用いていない(即ち補聴されていない)テスト参加者の文章の認識を示すパフォーマンスデータのグラフ。
【
図8】環境雑音レベルの範囲で、本発明の実施形態によるプロトタイプの語音了解度向上システムを用いた(即ち補聴された)及び該システムを用いていない(即ち補聴されていない)テスト参加者の文章の認識を示すパフォーマンスデータのグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施形態による語音了解度向上システムが
図1に図示されている。システム10は、話手ユニット12と、受信器、即ち聴手ユニット14と、イヤピース16とを含む。話手ユニット12の図示されている実施形態は、携帯機器とすることができるものであり、マイクロフォン20と、増幅器22と、送信器24と、ハウジング28に取り付けられ又は収納されているアンテナ26とを含む。話者のスピーチは、マイクロフォン20によって受音される。マイクロフォン20は、スピーチの情報、即ちコンテントを含む電気信号に当該スピーチを変換する。増幅器22は、電気的スピーチコンテント信号を処理(例えば、増幅)する。増幅されたスピーチコンテント信号は、送信器24により、無線送信用に変調されて、話手ユニット12からアンテナ26を介して送信される。送信器24は、Bluetooth(登録商標)、周波数変調(FM)又は振幅変調(AM)等の何らかの適切な又は所望の変調及び送信プロトコルを実施することが可能である。聴手ユニット14は、アンテナ30と、受信器32と、増幅器34と、調節つまみ37を有する音量調節器36と、ハウジング38に取り付けられ又は内蔵されている出力接続部、即ちジャック39とを含む。話手ユニット12からの無線スピーチコンテント信号は、アンテナ30によって受信され、受信器32によって復調される。増幅器34は、当該スピーチコンテント信号を音量調節器36によって制御されるレベル、及びつまみ37を利用することによって設定されるレベルに調節することを含め、変調されたスピーチコンテント信号を処理する。そして、増幅されたスピーチコンテント信号は、ジャック39を介して聴手ユニット14から出力される。イヤピース16は、イヤフック40と、スピーカ42と、音声配信チューブ44とを含んでいる。図示されている実施形態において、スピーカ42は、イヤフック40のハウジング46内に設けられている。またスピーカ42は、ワイヤ50を介して、聴手ユニット14のジャック39に接続しているプラグ48にも接続されている。図示されている実施形態において、イヤフック40は、音声配信チューブ44の一部である。聴手ユニット14からの電気的スピーチコンテント信号は、プラグ48及びワイヤ50を介してスピーカ42に接続される。スピーカ42は、スピーチ信号から可聴スピーチコンテントを生成し、その可聴スピーチコンテントは、チューブ44を介してイヤピース16を着用しているユーザの外耳道に向けられる。
【0009】
システム10によってユーザに供給される可聴語音了解度を向上させるために、話手ユニットの増幅器22及び聴手ユニットの増幅器34の少なくともいずれか一方は、スピーチ信号のスペクトル成分、即ち周波数成分を選択的に増幅する。本発明のいくつかの実施形態において、選択的増幅は、専ら話手ユニット12の増幅器22によって実行される。増幅器22及び34の少なくともいずれか一方は、従来の又は公知の設計とすることができ、しかも、例えば正ゲインを与えることにより、或いはフィルタリングを介して(即ち、負ゲイン)を与えることにより、従来の又は公知のアプローチによって増幅を実行することが可能である。
【0010】
図2は、本発明の実施形態において、増幅器22及び34の少なくともいずれか一方によってもたらされ図示されている実施形態において、増幅器22及び34の少なくともいずれか一方は、語音了解度に最も関係のあるスピーチ信号のスペクトル成分を選択的に増幅するゲイン伝達関数(即ち、ゲイン対周波数)のグラフである。ある実施形態において、増幅がなされる周波数範囲は、約800Hzから1,700Hzまでの下限と、約7,000Hzから11,000Hzまでの上限とを有する可能性がある。他の実施形態では、増幅がなされる周波数範囲の下限は、約1,000Hzから1,500Hzまでであり、増幅がなされる周波数範囲の上限は、約8,000から10,000Hzまでである。増幅がなされる周波数範囲の下限におけるスピーチ信号の増幅の量は、約5db以下(例えば、約0db迄)とすることが可能である。同様に、増幅された範囲の上限におけるスピーチ信号の増幅の量は、約5db以下(例えば、約0db迄)とすることが可能である。
図2に示す実施形態において、ゲインは、一般的に、増幅がなされる範囲の下限での値から、約3,000Hzから4,500Hzまでの周波数における最大値まで増加し、また、一般的に、その最大から、増幅がなされる範囲の上限での値まで低下する。最大増幅値は、例えば、約10dbから30dbまでとすることが可能である。また、
図2に示すように、増幅の量は、例えば、音量調節つまみ37の利用によって、ユーザが選択することが可能である。
【0011】
増幅器22,34の増幅周波数閾値(即ち、増幅が開始又は終了する周波数)、及び増幅器の増幅伝達関数は、本発明の異なる実施形態において多様である。一般に、増幅器22,34は、音に含まれる環境雑音の主要な部分の範囲より高い周波数を有する音を増幅するように構成されている。例えば、航空機内での使用に適合されたバージョンのシステム10における増幅閾値周波数及び伝達関数、あるいは増幅閾値周波数又は伝達関数は、屋外街路環境での使用に適合されたものと違えてもよい。一般に、語音了解度指数(speech intelligibility index:SII)は、語音認識が聴者の聴力閾値から計算することができるスピーチスペクトル可聴度と、聴者の耳に到達する語音及び雑音の長期平均スペクトルとに対して直接的に比例して増加する。SII=ΣIiAiであり、Iiは、語音了解度に関するi番目の周波数帯域の重要度を特徴付ける関数であり、Aiは、聴者の閾値、即ちマスキング音より上のi番目の周波数帯域における音声ダイナミックレンジの割合を表す。語音了解度にとって重要な情報を典型的には含んでおらず、しかも音声から有用な情報を引き出す聴覚障害者の能力を損ねる可能性がある、音声信号の雑音及びその他の比較的低周波の成分は有効に除去される。そのため、増幅器22や34は、情報を含む音声スペクトルコンテントの音量を向上しながらも、環境中の知覚騒音を比例して高めることはない。また、室内音響からの反響も、システム10によって著しく低減することができ、別の要因が、そのシステムによってもたらされる、向上された語音了解度に寄与している。
【0012】
要約すると、スピーチ処理システム10の構成部品は、マイクロフォン20によって受けられた音声であって、聴覚障害者によって知覚される可能性があるスピーチコンテントを通常は含んでいるものが有する周波数部分の音量を増加させるように協働する。本発明の他の実施形態(図示せず)は、スピーカ42によって出力される音声の全音量を安全な作動レベルに制限するために、話手ユニット12及び聴手ユニット14の少なくともいずれか一方に出力リミッタを含んでいる。従って、聴覚障害者は、イヤピース16に供されるスピーチコンテントを、話手ユニット12で受けられたスピーチを含む元の音声よりも良好に(即ち、より明瞭に)理解することが可能である。それにより、聴力損失に付随する煩雑さを低減して、生活全体の質を高めることが可能である。例えばシステム10は、話しているときの距離を克服するように、家庭環境で使用される携帯式又は固定式の装置とすることが可能である。またシステム10は、ミーティングやレストラン等の騒がしい環境でも使用可能である。システム10が、聴覚障害者の生活の質を高めることができる他の一般的な日常の環境は、ショッピング、診療予約及び(例えば、航空機、自動車及びバスでの)移動を含む。コミュニケーション及び安全性の有効性も、システム10の使用によって高めることが可能である。検査では、約14dbの最大ゲイン値での
図2に示すようなゲイン伝達関数によって、単語理解の顕著な改善(例えば、20%程度)が実証された。
【0013】
スピーチ処理システム10は、多数の追加的な実施形態のうちのいずれにおいても実施することが可能である。例えば、システム10は、(例えば、会話の過程で)異なるユーザによって使用される複数の聴手ユニット14を有することが可能である。同様に、システム14は、1つ以上の聴手ユニット14と情報をやり取りする複数の話手ユニット12を有することが可能である。話手ユニット12及び聴手ユニット14は、特許文献3に記載されているプロトコル等のパケットベースの通信プロトコルのために構成することが可能である。話手ユニット12及び聴手ユニット14は、これらのユニットを都合良くユーザに取り付けたり、或いはユーザが着用したりするためのクリップ又はラニヤードを有することが可能である。オン/オフスイッチ、制御部及びディスプレイといった他のユーザインタフェース機能を、話手ユニット12及び聴手ユニット14に組み込むことが可能である。音声配信チューブ44を使用することの利点は、周囲の音を受けるために外耳道を開いている間(さらにはまた、ユーザが装置を使用して補聴が可能な間)、スピーカ42からのスピーチをユーザに提供するために、チューブの端部をユーザの外耳道の近くに配置することができるということである。本発明の他の実施形態(図示せず)において、イヤピース16は、イン−イヤ式装置である。本発明のさらに他の実施形態(図示せず)は、聴手ユニット14からのスピーチコンテント信号をイヤピース16に接続するための無線技術(例えば、Bluetooth)を有している。さらに他の実施形態(図示せず)において、聴手ユニット14の構成部品及び機能は、イヤピース16に組み込まれている。
【0014】
図4は、本発明の実施形態による話者/聴者語音了解度向上システム111の図である。図示されているように、話者/聴者システム111は、送信機、即ち話手ユニット112と、受信機、即ち聴手ユニット114と、ヘッドセット115とを含んでいる。話手ユニット112及び聴手ユニット114は、同じユーザによって使用されるように構成されている。
図4においては、別体のハウジング128,138を有するように図示されているが、他の実施形態では、これらのハウジングは、一体化され、つまり両ユニットの機能部品が共通のハウジング内に接続されている。アンテナ130と、受信器132と、増幅器134と、音量調節器136とを含む構成部品、並びに聴手ユニット114の機能は、上述した聴手ユニット14のものと同一又は同等にすることができ、また、同等の参照数字が同種の構成部品を識別するのに用いられている。特に、増幅器134は、システム10に関連して上述したゲイン伝達関数を有することが可能である。
【0015】
ヘッドセット115は、イヤピース116及びマイクロフォン117を含んでいる。イヤフック140、スピーカ142、及び音声配信チューブ144を含むイヤピース116の構成部品及び機能は、上述したイヤピース16のものと同一又は同等にすることができ、同等の参照数字が、同種の構成部品を識別するのに用いられている。スピーカ142は、聴手ユニット114のジャック139に接続するプラグ148に、ワイヤ150を介して接続されている。マイクロフォン117は、ワイヤ151を介してプラグ149に接続されている。ある実施形態において、ヘッドセット115は、ユーザの両耳に1つずつ、2つのイヤピース116を有することが可能である。また、ヘッドセット115のある実施形態は、音声をユーザの片耳又は両耳に取り付けるための他の構造、例えば、イヤチップを含むこともできる。一例として、ヘッドセット115は、米国イリノイ州エルクグローブビレッジ所在のエティモティックリサーチ社より入手可能なHF3ヘッドセットとすることが可能である。
【0016】
話手ユニット112は、上述した話手ユニット12のものと同一又は同等の方法で機能するマイクロフォン120、増幅器122、送信器124、及びアンテナ126を含み、同等の参照数字が、同種の構成部品を識別するのに用いられている。特に増幅器122は、システム10に関連して上述したゲイン伝達関数を有することが可能である。図示されているように、話手ユニット112は、マイクロフォン120、即ち入力接続部とジャック155のいずれか一方を増幅器122に接続するように作動可能なスイッチ153を含む。ジャック155は、ヘッドセット115のプラグ149に接続されるように構成されている。これにより、話者/聴者システム111のユーザは、(例えば、スイッチ153を作動させることにより)ヘッドセット115のマイクロフォン117又は話手ユニット112のマイクロフォン120を介して、システムを作動させてスピーチを受けることが可能である。話手ユニット112によって生成された増幅後のスピーチコンテント信号は、例えば、システム111の聴手ユニット114と、別の人によって使用されているシステム111等の1つ以上の他の聴者/話者システム(図示せず)と、上述した型式の1つ以上の聴手ユニット14との少なくともいずれか1つに送信可能である。他の実施形態において、話手ユニット112によって生成されたスピーチコンテント信号は、(例えば、
図4に示す無線送信とは対照的に)有線接続によって、システム111の関連する聴手ユニット114に伝送される。
【0017】
図5から
図8は、本発明の実施形態によるプロトタイプの語音了解度向上システムを用いた研究中に、参加者から得られたパフォーマンスデータのグラフである。以下においてヒヤフック(HearHook)装置と呼称される、研究用に用いたプロトタイプの装置は、上述したシステム10と実質的に同じであり、
図2に示すタイプのゲイン対周波数特性を有していた。
【0018】
すべての参加者は、4つの聴取条件、即ち、1)静寂時の補聴なしでの単語認識、2)静寂時の補聴ありの単語認識、3)喧騒時の補聴なしでの文節認識、及び4)喧騒時の補聴ありの文節認識、を完了した。参加者は、補聴あり条件においては、ヒヤフック装置を着用し、補聴なし条件では着用しなかった。補聴器のユーザは、すべてのテスト条件の前に、本人の補聴器を取り外して試験に参加した。補聴なし及び補聴ありの条件は、喧騒テスト時の単語認識及びスピーチの両方に対して無作為化した。テスト全体を通して、必要に応じて定期的に休憩が与えられた。
【0019】
補聴ありの条件の場合、ヒヤフック受信器は、小さなフレキシブルオープンフィット形イヤフックを用いて両耳に着用させた。ヒヤフック送信器は、対象のスピーカから4インチ(約1.01メートル)の所に掛けた。これは、ラペルマイクロフォンの伝送距離を模倣するために行った。ヒヤフックシステムによって加えられる高周波ゲインの量は、参加者全員について一定であり、ピークゲインは、1000Hzから4000Hzまでの間で17dBであった。
【0020】
静寂時の単語認識は、音場内で完了した。刺激は、音素的にバランスを取って記録した子音−母音−子音(consonant−vowel−consonant:CVC)の単音節単語リスト(monosyllabic word lists)(English Speech Audiometry,Brigham Young University,1998年)とした。10個の音素的にバランスのとれた単語からなる2つのリストが、補聴あり及び補聴なしの両条件に対して採点された。両耳の単語レセプション閾値(reception threshold for words:RTW)、即ち参加者が45%から55%までの単語を正しく答えた場合を判断するために、dBHLにおけるプレゼンテーションレベルを3dBずつ適応調節した。単語の正解率は、閾値の上下の2から3のプレゼンテーションレベルでも記録された。閾値プレゼンテーションレベルについて等音素(isophonemes)の正解率を計算し、調査結果を確認するために上下の2から3の追加的なプレゼンテーションについても同様に計算した。
【0021】
騒音テストにおけるスピーチは、成人AzBio文節及び雑音を用いて実施した。聴者は、較正されたスピーカを8つ並べたR−SPACEアレイ(“Developing and Testing a Laboratory Sound System That Yields Accurate Real−World Results,”hearingreview.com,October,2007年)のフロントスピーカから、記録されているAzBio文節を聞いた。R−SPACE(登録商標)システムは、実行可能な現実世界の音響環境の最も正確な実験室シミュレーション(Compton−Conley,2004#129)においてヒヤフック装置をテストするこの研究のために選択した。ロウ・マルナティ(Lou Malnati)刺激は、イリノイ州シカゴの人気のあるピザ屋で、キーマー(KEMAR)マネキンを用いて録音した生のレストランの音から作り、この研究のために、可能な限り実際のレストラン環境を再現するのに用いた。AzBioのターゲット文節に伴うこの無指向性のレストラン騒音は、0度の方位角とした。信号レベルは、まず、+5dBの信号対雑音比(SNR)で提示され、その後、さまざまなSNRを生成するように調整した。イルミナティ騒音のプレゼンテーションレベルは、60dB SPLで一定のままであった。正解率は、各SNRプレゼンテーションレベルで計算した。両耳での文節レセプション閾値(binaural reception threshold of sentences:RTS)、即ち参加者が45から55%までの文節を正解した場合のSNRを決めるために、SNRを適応調節した。文節の正解率は、RTSでのSNRについて記録され、さらに調査結果を確認するために、このプレゼンテーションレベルの上下の2から3における追加的なSNRについて記録した。
【0022】
平均年齢が73.4歳(SD=±8.5;範囲:56歳から86歳まで)の感音性難聴を伴う総勢14人の参加者が研究(男性10人、女性4人)に組み込まれた。14人の参加者のうち7人は、補聴器の着用を経験しており、7人は、補聴器を着用したことがなかった。聴力測定データは、グループ全体で軽度から重度まで勾配のある感音性聴覚という結果をもたらした。
【0023】
静寂時の単語認識に関しては、補聴あり状態で、RTWは、補聴なしの状態と比較して、9.29dB改善した。サンプルt検定対を用いると、これら2つの状態はかなり異なっていた(t=6.52,df=13,p<0.0001)。
【0024】
喧騒時のスピーチに関しては、補聴あり状態で、RTSは、補聴なしの状態と比較して、4.71dBのSNRだけ改善した。対応のあるサンプルt検定を用いると、これら2つの状態はかなり異なっていた(t=9.95,df=13,p<0.0001)。
【0025】
本発明を好適な実施形態に関して説明してきたが、当業者は、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形式上及び細部において変更を行えることを認識するであろう。聴覚障害者による使用に関して記載されているが、本装置は、(例えば、距離、騒音、反響に関連する聞き取りの問題を克服するために)会議室等の広範囲の場所で、良好なスピーチ理解を所望する者なら誰でも使用することが可能である。
【国際調査報告】