(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2018-505871(P2018-505871A)
(43)【公表日】2018年3月1日
(54)【発明の名称】ナイシンに基づく化合物および細菌感染の処置におけるそれらの使用
(51)【国際特許分類】
C07K 7/64 20060101AFI20180202BHJP
A61K 38/12 20060101ALI20180202BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20180202BHJP
【FI】
C07K7/64
A61K38/12
A61P31/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】39
(21)【出願番号】特願2017-537955(P2017-537955)
(86)(22)【出願日】2016年1月15日
(85)【翻訳文提出日】2017年8月9日
(86)【国際出願番号】EP2016050827
(87)【国際公開番号】WO2016116379
(87)【国際公開日】20160728
(31)【優先権主張番号】2014152
(32)【優先日】2015年1月19日
(33)【優先権主張国】NL
(31)【優先権主張番号】2014670
(32)【優先日】2015年4月20日
(33)【優先権主張国】NL
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】506308769
【氏名又は名称】ウニフェルジテイト・ユトレヒト・ホールディング・ベスローテン・フェンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】Universiteit Utrecht Holding B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】ナサニエル・アイザック・マーティン
(72)【発明者】
【氏名】ティモ・コープマンス
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・メルビン・ウッド
(72)【発明者】
【氏名】ラウレンス・ヘンリ・ヨハン・クレイン
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA07
4C084BA01
4C084BA09
4C084BA18
4C084BA25
4C084BA32
4C084DA43
4C084NA14
4C084ZB352
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA16
4H045BA30
4H045CA11
4H045EA29
4H045FA50
4H045GA21
(57)【要約】
本発明はナイシン由来新規抗微生物性化合物に関する。特に、本化合物は非置換ナイシン[1−12]構造に基づき、ここで前記化合物は非置換ナイシン[1−12]構造の活性を上回る抗微生物活性を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
〔式中
Zは置換基NHR
1、NR
1R
2、OR
1およびSR
1のいずれか一つから選択され、Yは置換基NHR
3、NR
3R
4、NHCR
3R
4、NHCOR
3、NHCSR
3、NHOR
3およびNHC(NHR
3NHR
4)のいずれか一つから選択され、ここでR
1、R
2、R
3および/またはR
4はアルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリールおよびポリアリールから選択される置換されたまたは置換されていない置換基であり、ここで前記置換基は少なくとも2個、4個または6個の炭素原子かつ最大でも30個、40個または50個の炭素原子を含み;
A
1およびA
3は独立してD−アラニンまたはD−アミノ酪酸であり;
A
2およびA
4はL−アラニンであり;
A
1+A
2およびA
3+A
4は独立して(2S,6R)−ランチオニン結合または(2S,3S,6R)−メチルランチオニン結合を形成し;
X
1〜X
8はそれぞれ独立して天然または非天然アミノ酸から選択される。〕
の抗微生物性化合物。
【請求項2】
YおよびZがそれぞれ1200ダルトン未満の分子量を有する、請求項1に記載の抗微生物性化合物。
【請求項3】
R1、R2、R3および/またはR4がC4〜C50アルキル、C2〜C50アルケニル、C2〜C50アルキニル、シクロアルキル、アリールおよびポリアリールから独立して選択される、置換されたまたは置換されていない置換基である、請求項1または2に記載の抗微生物性化合物。
【請求項4】
R1およびR2の双方ならびに/またはR3およびR4の双方が独立してC5〜C40アルキル、C4〜C40アルケニル、C4〜C40アルキニル、シクロアルキル、アリールおよびポリアリールから選択される、置換されたまたは置換されていない置換基である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗微生物性化合物。
【請求項5】
X8が側鎖に電荷を帯びていないアミノ酸である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗微生物性化合物。
【請求項6】
X8が側鎖がアシル化またはアセチル化されたリシンである、請求項5に記載の抗微生物性化合物。
【請求項7】
Zが1000ダルトン未満、好ましくは800ダルトン未満、より好ましくは600ダルトン未満の分子量を有する;および/またはYが1000ダルトン未満、好ましくは800ダルトン未満、より好ましくは600ダルトン未満の分子量を有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の抗微生物性化合物。
【請求項8】
YがNH2ではなく、ZがOHまたはNHCH3ではない、請求項1〜7のいずれか1項に記載の抗微生物性化合物。
【請求項9】
前記化合物が置換されていないナイシン[1−12]構造の活性を上回る抗微生物活性を有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の抗微生物性化合物。
【請求項10】
Zのアミド形態が独立して抗微生物活性を欠く、請求項1〜9のいずれか1項に記載の抗微生物性化合物。
【請求項11】
化合物が100μg/mL未満、好ましくは70μg/mL未満、50μg/mL未満、20μg/mL未満、および最も好ましくは10μg/mL未満のMIC値を示す、請求項1〜10のいずれか1項に記載の抗微生物性化合物。
【請求項12】
細菌感染症の処置に使用するための、請求項1〜11のいずれか1項に記載の抗微生物性化合物。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の抗微生物性化合物、および薬学的に許容される希釈剤および/または担体を含む医薬組成物。
【請求項14】
細菌感染症の処置に使用するための医薬の製造のための、請求項1〜11のいずれか1項に記載の抗微生物性化合物の使用。
【請求項15】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の抗微生物性化合物、または請求項13に記載の医薬組成物を対象に投与することを含む、細菌感染症に罹患した対象を処置する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬の分野に関する。より具体的には、本発明はナイシンに基づく抗微生物性化合物およびそれらの薬剤としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ナイシンは細菌ラクトコッカス・ラクティスによって産生される多環抗菌ペプチドである。その抗菌活性のため、プロセスチーズ、肉、牛乳のような食品中に添加物としてしばしば使用される。その元の形態において、ナイシンは端緒となる57−aa前駆体ペプチドの翻訳後修飾で導入される珍しいランチオニン(Lan)、メチルランチオニン(MeLan)、ジデヒドロアラニン(Dha)およびジデヒドロアミノ酪酸(Dhb)を含む34個のアミノ酸を有する。ナイシンは「ランチビオティック」と称される分子群の一員である。この群の他の分子はサブチリンおよびエピデルミンである。ナイシンは既に1960年代後半に食品での使用が承認された。そのE番号はE234である。その抗菌特性のため、抗生物質として想定もされた。しかしヒトに医薬抗生物質としてそれを使用することの主な欠点の1つは、ヒトの胃および血液中で比較的速やかに代謝されることである。
【0003】
ナイシンの変化は文献で報告されている。国際公開2007/103548号は、抗生部分、特にバンコマイシンとリンカーを経て結合している、本明細書でさらに「ナイシン[1−12]」と称される、12個のアミノ酸を含む構造を開示する。国際公開2014/085637号に、いくつかのアミノ酸を置換でき、かつさらに炭化水素置換基を含み得る5員環ナイシンに基づくランチビオティックが記載されている。国際公開2010/058238号に、広範な置換基、例えばC
1〜C
20アルキルを含む4員環ランチビオティックが開示されている。さらにペプチド配列中に置換されたアミノ酸を少なくとも1つ有するナイシン誘導体が国際公開2009/13545号で開示された。これらの既知化合物の全てではないがほとんどは大きく、従ってタンパク質分解酵素の作用を経て速やかに分解される。微生物の広範な多様性に対して作用し、かつ循環に存在したら速やかに分解しない、新規抗生物質の継続的な必要性が存在することは言うまでもない。
【発明の概要】
【0004】
本発明は式(1)
【化1】
〔式中、
Zは置換基NHR
1、NR
1R
2、OR
1およびSR
1のいずれか一つから選択され、かつYは置換基NHR
3、NR
3R
4、NHCR
3R
4、NHCOR
3、NHCSR
3、NHOR
3およびNHC(NHR
3NHR
4)のいずれか一つから選択され、ここでR
1、R
2、R
3および/またはR
4はアルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、およびポリアリールから選択される置換されたまたは置換されていない置換基であって、ここで前記置換基は少なくとも2個、4個または6個の炭素原子かつ最大でも30個、40個または50個の炭素原子を含み;
A
1およびA
3は独立してD−アラニンまたはD−アミノ酪酸であり;
A
2およびA
4はL−アラニンであり;
A
1+A
2およびA
3+A
4は独立して(2S,6R)−ランチオニン結合または(2S,3S,6R)−メチルランチオニン結合を形成し;
X
1〜X
8はそれぞれ独立して天然または非天然アミノ酸から選択される。〕
の抗微生物性化合物に関する。
【0005】
好ましい態様において、YおよびZはそれぞれ1200ダルトン未満の分子量を有する。さらに好ましい態様において、および本明細書に開示される全ての種々の抗微生物性化合物に関して、R
1、R
2、R
3およびR
4はそれぞれ置換されたまたは置換されていない置換基であって、C
4〜C
50アルキル、C
2〜C
50アルケニル、C
2〜C
50アルキニル、シクロアルキル、アリールおよびポリアリールから独立して選択される。別の好ましい態様において、R
1およびR
2の双方ならびに/またはR
3およびR
4の双方はC
5〜C
40アルキル、C
4〜C
40アルケニル、C
4〜C
40アルキニル、シクロアルキル、アリールおよびポリアリールから選択される。
【0006】
別の好ましい態様において、X
8は側鎖に電荷を帯びていないアミノ酸である。より好ましくは、X
8は側鎖がアシル化またはアセチル化されたリシンである。さらにより好ましくは、X
8は側鎖がアセチル化されたリシンである。本発明の極めて好ましい面において、本発明の構造は先行文献に知られている置換されていないナイシン[1−12]構造の活性を上回る抗微生物性化合物を有する。
【0007】
詳細な説明
本発明の目的は新規抗微生物性化合物を提供することである。本発明のナイシン由来化合物は抗微生物活性、特に抗菌活性を示す。さらに、本発明化合物は一般的に、薬剤耐性株、特にグラム陽性菌の薬剤耐性株を殺すことができる。本発明者らは驚くべきことに、殺菌メカニズムがナイシンのそれと異なることを発見した。本発明化合物はナイシンと同様に、細菌細胞壁の脂質IIのピロリン酸に結合できる。ナイシンはさらに細胞壁内に細孔を形成させ、一方、本発明化合物はそのような細孔形成を引き起こさない。さらに、ZがOH(R
1が水素)であって、YがNH
2(R
3およびR
4が水素)である、先行文献に知られているナイシン[1−12]構造は一般的に顕著な抗微生物活性を有さないことが注目される。従って、本発明化合物が高い抗微生物活性を示し、広範な細菌株に対して概して活性であると考えられることは驚くべきことであった。更なる利点は、ナイシンと比較したヒト血清中における本発明化合物の改善された安定性であると考えられる。
【0008】
本発明は式(1)
【化2】
〔式中、
Zは置換基NHR
1、NR
1R
2、OR
1およびSR
1のいずれか一つから選択され、Yは置換基NHR
3、NR
3R
4、NHCR
3R
4、NHCOR
3、NHCSR
3、NHOR
3およびNHC(NHR
3NHR
4)のいずれか一つから選択され、ここでR
1、R
2、R
3および/またはR
4はアルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、およびポリアリールから選択される置換されたまたは置換されていない置換基であって、ここで前記置換基は少なくとも2個、4個または6個の炭素原子かつ最大でも30個、40個または50個の炭素原子を含み;A
1およびA
3は独立してD−アラニンまたはD−アミノ酪酸であって;A
2およびA
4はL−アラニンであり;A
1およびA
3は独立してD−アラニンまたはD−アミノ酪酸であり;A
2およびA
4はL−アラニンであり;A
1+A
2およびA
3+A
4は独立して(2S,6R)−ランチオニン結合または(2S,3S,6R)−メチルランチオニン結合を形成し;X
1〜X
8はそれぞれ独立して天然または非天然アミノ酸から選択される。〕
の抗微生物性化合物に関する。
【0009】
好ましい態様において、YおよびZはそれぞれ1200ダルトン未満の分子量を有する。別の好ましい態様において、R
1、R
2、R
3およびR
4は、C
4〜C
50アルキル、C
2〜C
50アルケニル、C
2〜C
50アルキニル、シクロアルキル、アリールおよびポリアリールから独立して選択される置換されたまたは置換されていない置換基である。特に好ましい態様において、R
1およびR
2の双方ならびに/またはR
3およびR
4の双方はC
5〜C
40アルキル、C
4〜C
40アルケニル、C
4〜C
40アルキニル、シクロアルキル、アリールおよびポリアリールから独立して選択される、置換されたまたは置換されていない置換基である。さらに好ましい態様において、X8は側鎖に電荷を帯びていないアミノ酸、好ましくは側鎖がアシル化またはアセチル化されたリシンである。好ましくは、それはアセチル化されている。
【0010】
特定の態様において、本発明は、本発明による抗微生物性化合物に関し、ここでZは1000ダルトン未満、好ましくは800ダルトン未満、より好ましくは600ダルトン未満の分子量を有する;および/またはYは1000ダルトン未満、好ましくは800ダルトン未満、より好ましくは600ダルトン未満の分子量を有する。ある特定の面において、YはNH
2ではなく、ZはOHまたはNH−CH
3ではない、なぜならばこれらY基およびZ基を有する式(1)による化合物は、置換されていないナイシン[1−12]構造の抗微生物活性を上回らなかったことが見出されたからである。従って、極めて好ましい面において、本発明は、本発明による抗微生物性化合物に関し、ここで前記化合物は置換されていないナイシン[1−12]構造の活性を上回る抗微生物活性を有する。好ましくは、Zのアミド形態は独立して抗微生物活性を欠く。
【0011】
別の好ましい面において、本発明化合物は100μg/ml未満、好ましくは70μg/ml未満、50μg/ml未満、20μg/ml未満、および最も好ましくは10μg/ml未満のMIC値を示す。
【0012】
本発明はさらに、本発明による抗微生物性化合物の細菌感染症の処置における使用に関する。本発明はまた、本発明による抗微生物性化合物、および薬学的に許容される希釈剤および/または担体を含む医薬組成物に関する。
【0013】
本発明はさらに、感染症、好ましくは細菌感染症の処置において使用するための医薬の製造のための、本発明による抗微生物性化合物の使用に関する。
【0014】
さらに別の態様において、本発明は細菌感染症を有する対象を処置する方法であって、本発明による抗微生物性化合物、または本発明による医薬組成物を前記対象に投与することを含む方法に関する。
【0015】
本明細書に開示される好ましい化合物は(6)、(10)、(12)および(20)である。特に好ましい化合物は(10)、(12)および(20)である。本明細書に開示されるR
1構造(e)を有する化合物(24)もまた好ましい。極めて好ましい化合物は化合物(12)である。
【0016】
本発明化合物に使用される好ましいアミノ酸は、既知のA型ランチオビティック、特にナイシン、サブチリン、ガリデルミンおよびエピデルミンに由来するアミノ酸である。本発明の特定の化合物およびそれらのアミノ酸配列を表1に例示する。本発明の好ましい態様は、X
6がプロリンおよびX
7がグリシンならびにA
3がD−アミノ酪酸およびA
4がL−アラニンである式(1)の化合物である。
【0017】
本発明の好ましい態様において、式(1)の化合物において、X
6はプロリン、X
7はグリシン、A
3はD−アミノ酪酸およびA
4はL−アラニンである。残りのアミノ酸は既知の天然または非天然アミノ酸のいずれでもあり得る。それらは当業者に知られている一般的方法によって組み込むことができる。このような方法の例は、例えばRink et al.(in Appl. Environ. Microbiol., Sept. 2007, pp. 5809-5816)から収集できる。
【表1】
【0018】
ある特定の態様において、本発明は100μg/ml未満の最小阻害濃度(MIC)値を有する抗微生物性化合物に関する。好ましくは、化合物は70μg/ml未満、より好ましくは50μg/ml未満、さらにより好ましくは20μg/ml未満、および最も好ましくは10μg/ml未満のMICを有する。MIC値の決定は当業者によく知られている標準的な技術であり、特にMIC値は方法M07−A9(CLSI standard, January 2012, Vol.32, No.2, “Methods for Dilution Antimicrobial Susceptibility Tests for Bacteria That Grow Aerobically”)を使用して測定できる。
【0019】
本発明化合物は、同一または異なってよいY置換基およびZ置換基を含む。本発明の式(1)の化合物の置換基Zおよび/またはY、好ましくはZの前駆体は、一般的にそれら自体が抗微生物活性を欠き、これは個々でのZが抗微生物活性を欠くことを意味する。Z置換基のこのような前駆体の例はH
2NR
1、HNR
1R
2、HOR
1およびHSR
1を含む。Y置換基のこのような前駆体の例はR
3HCO、R
3R
4CO、R
3COOH、R
3CSOHおよびR
3−Iを含む。前駆体は一般的に本発明の抗微生物性化合物の調製工程で使用できる。用語「抗微生物活性を欠く」とは、先行文献で知られている慣行の技術を用いて、関連する抗微生物活性または抗菌活性を全く測定できないことを意味する。置換基は従って別個の抗微生物性化合物またはその誘導体ではない。国際公開2007/103548号に開示された(例えばZがバンコマイシンである)化合物は本発明による抗微生物性化合物の一部であると見なされない。
【0020】
本発明による化合物は、1200ダルトン未満の分子量を有する置換基Zを含む。好ましくは、分子量は1000ダルトン未満、より好ましくは800ダルトン未満、および最も好ましくは600ダルトン未満である。本発明化合物はさらに、1200ダルトン未満の分子量を有する置換基Yを含む。好ましくは、分子量は1000ダルトン未満、より好ましくは800ダルトン未満、および最も好ましくは600ダルトン未満である。このような比較的小さな置換基の利点は本発明化合物の調製が比較的単純であり、経済的および商業的関心を保持できることである。
【0021】
本発明の抗微生物性化合物は元のナイシン[1−12]構造に基づき、好ましくは置換基(R
3および/またはR
4を有する)Yおよび/またはZ、好ましくは(R
1および/またはR
2を有する)Zを含み、置換されたまたは置換されていない置換基はC
4〜C
50アルキル、C
2〜C
50アルケニル、C
2〜C
50アルキニル、シクロアルキル、アリールおよびポリアリールから独立して選択される。本発明の状況において、用語「置換された」とは、さらなる置換基を有する置換基の置換および/または、例えばO、S、Nのようなヘテロ原子を有する置換基の修飾を指す。好ましくは、R
1およびR
2の双方ならびに/またはR
3およびR
4の双方、さらにより好ましくはR
1およびR
2の双方は独立して、C
5〜C
40アルキル、C
4〜C
40アルケニル、C
4〜C
40アルキニル、シクロアルキル、アリールおよびポリアリールから選択される、置換されたまたは置換されていない置換基である。さらにより好ましくはアルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリールまたはポリアリールから選択される置換されたまたは置換されていない置換基であって、ここで置換基は少なくとも4個の炭素原子、より好ましくは少なくとも5個の炭素原子および最も好ましくは少なくとも6個の炭素原子、かつ最大でも50個の炭素原子、より好ましくは最大でも40個の炭素原子、最も好ましくは最大でも30個の炭素原子を含む。
【0022】
本発明者らは、本発明の他の化合物の例外として、YがNH
2、かつZがOHまたはNH−CH
3である式(1)の化合物は、ナイシン[1−12]構造の抗微生物活性を上回る抗微生物活性を提供しないことを見出した。
【0023】
本発明の好ましい態様において、本発明による抗微生物性化合物は表2に示す通りであり、上に示した基本的な式(1)によれば、X
1=Ile、X
2=Dhb、X
3=Ile、X
4=Dha、X
5=Leu、X
6=Pro、X
7=Gly;A
1=D−Ala、A
2=L−Ala、A
3=D−AbuおよびA
4=L−Alaであり、ZはNHR
1型の置換基であって、YはNHR
3型の置換基であり、かつX
8、R
1およびR
3は表2に提供する構造から選択され、式(2)〜(23)と称する化合物に至る。
【表2】
【0024】
さらに別の好ましい態様によって、Z置換基は表2に示す基から選択されるR
1基を含み、Y置換基はNHR
3であり、ここでR
3は水素である。
【0025】
本発明による抗微生物性化合物の前駆体は、比較化合物Eである;式(1)によれば、ここでR1は以下の構造(a)を有する:
【化3】
【0026】
本発明はまた式(24)
【化4】
〔式中、
Yは置換基NHR
3、NR
3R
4、NHCR
3R
4、NHCOR
3、NHCSR
3、NHOR
3およびNHC(NHR
3NHR
4)のいずれか一つから選択され、ここでR
1、R
3およびR
4は独立して選択される、本明細書に開示される置換基であり;A
1、A
3は独立してD−アラニンまたはD−アミノ酪酸であり;A
2およびA
4はL−アラニンであり;A
1+A
2およびA
3+A
4は独立して(2S,6R)−ランチオニン結合または(2S,3S,6R)−メチルランチオニン結合を形成し;X
1〜X
8はそれぞれ独立して天然または非天然アミノ酸から選択される。〕
の抗微生物性化合物に関する。
【0027】
好ましい態様において、YおよびR
1はそれぞれ1200ダルトン未満の分子量を有する。別の好ましい態様において、X
8は側鎖に電荷を帯びていないアミノ酸である。より好ましくは、X
8は側鎖がアシル化されたリシンであり、さらに好ましくは、X
8は側鎖がアセチル化されたリシンである。
【0028】
本発明はさらに、以下の4つの構造(b)、(c)、(d)、および(e)から選択されるR
1基を含む式(24)による抗微生物性化合物(下の表4も参照)に関する:
【化5】
【0029】
ある好ましい態様において、本発明は式(24)の抗微生物性化合物に関し、ここでR
1基は4つの構造(b)、(c)、(d)、および(e)から選択され、かつY置換基はNHR
3であり、ここでR
3は水素である。さらに好ましい態様において、本発明は式(24)による抗微生物性化合物に関し、ここでR
1基は構造(e)であり、かつY置換基はNH
2である。
【0030】
それらの示されたR基を有する式(1)〜(24)による本発明の抗微生物性化合物は、好ましくは全て、置換されていないナイシン[1−12]構造の活性を上回る抗微生物活性を示す。特に好ましい本発明の抗微生物性化合物は、式(6)、(7)、(8)、(9)、(10)、(12)、(13)、(14)、(15)、(16)、(17)、(18)、(20)およびR
1基として構造(e)を有する式(24)の化合物である。これらの化合物は特に本発明の他の化合物よりも、ヒト血清中で高い抗微生物活性および/もしくは安定性、ならびに/または低い溶血活性を提供する。極めて好ましくは式(12)の抗微生物活性化合物である。
【0031】
本発明化合物は共有結合を形成しているZ置換基で求核剤前駆体またはアルキン前駆体とのカップリングによってC末端側で後に置換される塩基性ナイシンで出発することにより調製できる。塩基性ナイシン[1−12]構造はナイシンを12位で切断できる酵素でナイシンを処理することにより調製できる。このような酵素の例はトリプシンである。原料および方法は添付の実施例に提供する。
【0032】
本発明はさらに、本発明の殺微生物性化合物と活性医薬成分の配合剤に関する。活性医薬化合物は当業者に知られているこのような化合物のいずれでもあり得る。好ましくは、活性医薬成分は第2の抗微生物性物質である。本出願の状況において用語「配合剤」とは、2以上の異なる組成物中に、本発明の抗微生物性化合物および活性医薬成分の双方を含む組成物、または抗微生物活性化合物および医薬成分の双方を含む複数の医薬組成物を指す。従って本発明はまた、抗微生物性化合物および活性医薬成分、特に第2の抗微生物性物質である医薬成分を含むパーツキットに関する。複数の本発明の組成物は患者に対して同時的および/または逐次的に投与できる。
【0033】
このような抗微生物性物質の例はアミカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ネチルマイシン、トブラマイシン、パロモマイシン、ストレプトマイシンおよびスペクチノマイシンのようなアミノグリコシド類;リファキシミン、ゲルダナマイシンおよびハービマイシンのようなアンサマイシン類;エルタペネム、ドリペネムおよびメロペネムのようなカルバペネム類;セファドロキシル、セファゾリン、セファロチン、セファクロル、セファマンドール、セフォキシチン、セフプロジル、セフロキシム、セフィキシム、セフジニル、セフィジトレン、セフォペラゾン、セフォタキシム、セフポドキシム、セフタジジム、セフィブテン、セフチゾキシム、セフトリアキソン、セフェピム、セフタロリンフォサミルおよびセフトビプロールのようなセファロスポリン類;テイコプラニン、バンコマイシン、オリタバンシン、テラバンシン、ダルババンシンおよびラモプラニンのようなグリコペプチド類;クリンダマイシンおよびリンコマイシンのようなリンコサミド類;ダプトマイシンのようなリポペプチド類;アジスロマイシン、クラリスロマイシン、ジリスロマイシン、エリスロマイシン、ロキシスロマイシン、トロレアンドマイシン、テリスロマイシン、およびスピラマイシンのようなマクロライド類;アズトレナムのようなモノバクタム類;フラゾリドン、ニフロフラントインのようなニトロフラン類;リネゾリド、ポシゾリド、ラデゾリドおよびトレゾリドのようなオキサゾリジノン類;アモキシシリン、アンピシリン、カルベニシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、フルクロキサシリン、メジオシリン、メシシリン、ナフシリン、オキサシリン、ペニシリンG、ペニシリンV、ピペラシリン、テモシリン、チカルシリンのようなペニシリン類;アモキシシリン/クラブラナート、アンピシリン/サルバクタム、ピペラシン/タゾバクタムおよびチカルシリン/クラブラナートのようなペニシリン配合剤;バシトラシン、コリスチンおよびポリミキシンBのようなポリペプチド類;シプロフロキサシン、エノキサシン、ガチフロキサシン、ゲミフロキサシン、レボフロキサシン、ロメフロキサシン、モキシフロキサシン、ニリジックス酸、ノルフロキサシン、トロバフロキサシン、グレパフロキサシン、スパルフロキサシンおよびテマフロキサシンのようなキノロン類;マフェニド、スルファアセトアミド、スルファジアジン、スルファジアジン銀、スルファジメトキシン、スルファメチゾール、スルファメトキサゾール、スルファニルイミド、スルファサラジン、スルフィスオキサゾール、トリメトプリム−スルファメトキサゾール(コ−トリトキサゾール)、スルホンアミドクリソイジンのようなスルホンアミド類;デメクロサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、オキシテトラサイクリン、テトラサイクリンのようなテトラサイクリン類;シオファジミン、ダプソン、カプレオマイシン、シクロセリン、エタムブト、エチオナミド、イソニアジド、ピラジナミド、リファンピン、リファブチン、リファペンチンおよびストレプトマイシンのようなマイコバクテリアに対する薬剤;ならびにアルスフェナミン、クロラムフェニコール、フォスフォマイシン、フシジン酸、メトロニダゾール、ムピロシン、プラテンシマイシン、キヌプリスチン/ダルホプリスチン、チアムフェニコール、チゲサイクリン、チニダゾールおよびトリメトプリムを含む。
【0034】
本発明のある態様において、抗微生物性化合物と活性医薬成分のモル比は最大でも10:1、好ましくは最大でも5:1、最も好ましくは最大でも2:1、かつ一般的には少なくとも1:20、好ましくは少なくとも1:10、より好ましくは少なくとも1:5、および最も好ましくは1:2である。
【0035】
本発明はさらに、抗微生物性化合物または本発明の配合剤、および薬学的に許容される希釈剤または担体を含む医薬組成物に関する。用語「医薬組成物」または「医薬製剤」とは、その中に含まれる活性成分の生物活性が有効であることを可能とし、かつ製剤を投与される対象にとって許容できない毒物である、付加的成分を全く含まない形態の製剤を指す。「薬学的に許容される希釈剤または担体」とは、活性成分以外の、対象に無毒な医薬製剤中の成分を指す。薬学的に許容される希釈剤または担体は、限定されないが、水、緩衝液、賦形剤、安定剤、保存剤を含む。
【0036】
本発明の別の態様において、抗微生物性化合物または本発明の配合剤は2以上の医薬組成物に分けられ、ここで本発明の抗微生物化合物は1つの医薬組成物に含まれ、活性医薬成分は第2の医薬組成物に含まれる。このようにして、抗微生物性化合物および活性医薬成分は患者に逐次的に投与される。それはまた抗微生物性化合物および/または活性医薬成分の全量の一部を含む組成物を提供することが想定される。
【0037】
ある態様において、本発明は抗微生物性化合物、本発明の配合剤または本発明の医薬組成物の医薬としての使用に関する。さらに別の態様において、本発明は抗微生物性化合物、本発明の配合剤または本発明の医薬組成物の、感染症、好ましくは細菌感染症の処置における使用に関する。
【0038】
本明細書で使用される用語「感染症」とは、ヒトまたは動物の体が反応する、一般的には炎症反応を引き起こす細菌またはウイルスのような微生物によって引き起こされる疾患を指す。本発明の抗微生物性化合物は、特に細菌に対して効果的である。このような細菌はグラム陰性菌およびグラム陽性菌であり得る。特に興味深いものは前駆体が脂質IIである賄防壁を含む細菌株である。グラム陰性菌の例はヘモフィルス・インフルエンザ、ボルデテラ・ペルツシス、ブルセラ種、フランシセラ・ツラレンシス、パスツレラ・ムルトシダおよびレジオネラ・ニューモフィラのような球桿菌;ナイセリア・ゴノルロエ、ナイセリア・メニンジチディスおよびモラキセラ・カタルラリスのような球菌;クレブシエラ・ニューモニエ, シュドモナス・エルジノサプロテウス・ミラビリス、エンテロバクター・クロアセ、ヘリオバクター・ピロリ、セラチア・マルセッセンス、サルモネラ・エンテリチディス、サルモネラ・ティフィ;およびアシネトバクター・バウマニのような桿菌である。グラム陽性菌の例はスタフィロコッカス・アウレウス、スタフィロコッカス・エピデルミディスおよびスタフィロコッカス・サプロフィチカスのようなスタフィロコッカス;ストレプトコッカス・ヨゲニス、ストレプトコッカス・アガラクティエ、ストレプトコッカス・ニューモニエ、ヴィリダンス・ミュータンス、エンテロコッカス・フェカーリス、およびエンテロコッカス・フェシウムのようなストレプトコッカス;ミクロコッカス・ルテウスのようなミクロコッカス;コリネバクテリウム、マイコバクテリウム、ファーミキューテス、ストレプトマイセス、クロストリジウム、リステリアおよびバチルスを含む。
【0039】
本発明の抗微生物性化合物は一般的に薬剤耐性細菌に対して活性である。従って本発明はまた、薬剤耐性細菌の処置における抗微生物性化合物の使用に関する。用語「薬剤耐性」とは、1以上の既存薬剤に対する耐性が存在することを意味する。さらに、本発明の抗微生物性化合物を含む医薬組成物および配合剤はまた、薬剤耐性細菌の処置に使用できる。
【0040】
ある態様によって、薬剤耐性細菌はペニシリン、ベータ−ラクタム、バンコマイシン、リネゾリド、フルオロキノロン、クリンダマイシン、カルバペネム、イソニアジド、リファムピン、テトラサイクリン、セファロスポリン、アミノグリコシド、メチシリン、アンピシリンおよびダプトマイシンから成る群から選択される薬剤の少なくとも1つに対して耐性である。薬剤耐性細菌の例はメチシリン耐性スタフィロコッカス・アウレウス(MRSA)、バンコマイシン耐性スタフィロコッカス・アウレウス(VRSA)、ペニシリン耐性ストレプトコッカス・ヨゲネス、マクロライド耐性ストレプトコッカス・ヨゲネス、ペニシリン耐性ストレプトコッカス・ニューモニア、ベータ−ラクタム耐性ストレプトコッカス・ニューモニア、ペニシリン耐性エンテロコッカス・フェカーリス、バンコマイシン耐性エンテロコッカス・フェカーリス、リネゾリド耐性エンテロコッカス・フェカーリス、ペニシリン耐性エンテロコッカス・フェシウム、バンコマイシン耐性エンテロコッカス・フェシウム、リネゾリド耐性エンテロコッカス フェシウム、シュドモナス・エルジノサ・フルオロキノロン耐性クロストリジウム・ディフィシレ、クリンダマイシン耐性 クロストリジウム・ディフィシレ、フルオロキノロン耐性大腸菌、サルモネラ、アシネトバクター・バウマニ(MRAB)、カルバペネム耐性クレブシエラ・ニューモニエ、マイコバクテリウム・ツベルクロシス(XDRTB)、イソニザジド耐性マイコバクテリウム・ツベルクロシス、リファムピン耐性マイコバクテリウム・ツベルクロシス、テトラサイクリン耐性ナイセリア・ゴノルロセ、アミノグリコシド耐性ナイセリア・ゴノルロセ、 セファロスポリン耐性ナイセリア・ゴノルロセ、およびペニシリン耐性ナイセリア・ゴノルロセを含む。
【0041】
薬剤耐性細菌の特定の例は、ストレプトコッカス・ミュータンス(ATCC 700610)、ストレプトコッカス ミュータンス(Xc株)、ストレプトコッカス・ソブリナス (ATCC 33478)、ストレプトコッカス・ウベリス(1978株)、ストレプトコッカス ウベリス(1979株)、ストレプトコッカス ウベリス(1980株)、ストレプトコッカスウベリス(1981株)、ストレプトコッカス・ヨゲネス(5448株)、ストレプトコッカス・ヨゲネス(JRS4株)、ストレプトコッカス・ヨゲネス(ATCC BAA−595)、ストレプトコッカス・ニューモニア、ストレプトコッカス・ミティス、ストレプトコッカス・サングイス、ストレプトコッカス・ボビス、ストレプトコッカス・サリバリウス、ストレプトコッカス・インテルメディウス、ストレプトコッカス・ビリダンス、ストレプトコッカス・オラリス、ストレプトコッカス・サリバラス、スタフィロコッカス・ラデュネシス、スタフィロコッカス・アウレウス(ATCC BAA−1717)、スタフィロコッカス・アウレウス(ATCC 25904)、スタフィロコッカス・アウレウス(MRSA−16株)、スタフィロコッカス・アウレウス(Cowan株),スタフィロコッカス・カピティクス(V19株)、スタフィロコッカス・エピデルミディス(1587株)、スタフィロコッカス・ホミニス(V27株)、スタフィロコッカス・ワルネリ(V64株)、スタフィロコッカス・サプロフィチカス(NCTC 7292株)、スタフィロコッカス・ヘモリティス(V8/1株)、サルモネラ・チフィムリウム、エンテロコッカス・フェシウム(ATCC 700221)、エンテロコッカス・フェシウム(ダプトマイシン耐性株)、エンテロコッカス・フェシウム(リネゾリド耐性株)、エンテロコッカス・フェシウム(アンピシリン耐性株)、エンテロコッカス・フェシウム(バンコマイシン耐性株E0013、E0072、E0300、E0321、E0333、E0338、E0341、E0506、E0745、E1130、E1441、E1679、E1763、E2297、E2359、E2365、E2373、E6016、E7312、E7314、E7319、E7329、E7401、E7403、E7413、E7424、E7464、E8218、E8235、E8237)、エンテロコッカス・フェカーリス(ATCC 700802)、エンテロコッカス・フェカーリス(JH2−2株)、エンテロコッカス・フェカーリス(MMH594株)、エンテロコッカス・フェカーリス(ATCC 29212)、エンテロコッカス・フェカーリス(ATCC 47077)、エンテロコッカス・ヒラエ、エンテロコッカス・カセリフラバス、エンテロコッカス・ガリナラム、エンテロコッカス・ラフィノサス、エンテロコッカス・アビウム、エンテロコッカス・セコラム、エンテロコッカス・サッカロミニマス、エンテロコッカス・コルムベ、エンテロコッカス・デュランス、クレブシエルサ・ニューモニア、ラクトバチルス・パラカセイ、クロストリジウム・テタニ、クロストリジウム・ボツリナム、クロストリジウム・ペルフリングス、クロストリジウム・ディフィシレ、バチルス・アントラクティスおよびリステリア・モノサイトゲネスを含む。上記薬剤耐性株はUtrecht Medical Centerで同定され、知られた。
【0042】
本明細書で使用される「処置(treatment)」(および「処置する(treat)」もしくは「処置すること(treating)」のようなその文法的変形)は、処置される個体または動物の自然経過を変える試みにおける臨床的介入を指し、予防のためにまたは臨床病理の経過中のどちらかで行うことができる。望む処置効果は、限定されないが、疾患の発生または再発の予防、症状の緩和、疾患のなんらかの直接的または間接的な病理学的結果の減少、転移の予防、疾患の進行速度の低下、病態の改善または一時的緩和、および寛解または予後の改善を含む。
【0043】
物質、例えば医薬製剤の「効果的な量」とは、望む治療的または予防的結果を達成するための、必要な投与量でおよび期間についての効果的な量を指す。
【0044】
「天然または非天然アミノ酸」とは一般的に天然に存在するアミノ酸だけでなく、合成的に得ることができるまたは天然源から発生し得る、修飾された、誘導体化された、光学的な、稀なおよび/または異常なアミノ酸のいずれをも指す。天然に存在するアミノ酸はアラニン(Ala,A)、システイン(Cys,C)、アスパラギン酸(Asp,D)、グルタミン酸(Glu,E)、フェニルアラニン(Phe,F)、グリシン(Gly,G)、ヒスチジン(His,H)、イソロイシン(Ile,I)、リシン(Lys,K)、ロイシン(Leu,L)、メチオニン(Met,M)、アスパラギン(Asn,N)、プロリン(Pro,P)、グルタミン(Gln,Q)、アルギニン(Arg,R)、セレノシステイン(Sec,U)、セリン(Ser,S)、スレオニン(Thr,T)、バリン(Val,V)、トリプトファン(Trp,W)、およびチロシン(Tyr,Y)を含む。修飾されたアミノ酸の例はヒドロキシプロリン、ヒドロキシリシン、アセチルリシン、デスモシン、イソデスモシン、ε−N−メチルリシン、ε−N−トリメチルリシン、メチルヒスチジン、デヒドロブチリン(Dhb)、デヒドロアラニン(Dha)、α−アミノ酪酸(Abu)、2,3−ジアミノプロピオン酸、β−アラニン、γ−アミノ酪酸、ホモシステイン、ホモセリン、シトルリンおよびオルニチンを含む。
【0045】
本発明は以下の非限定的な実施例に例示される。
【実施例】
【0046】
実施例1.ナイシン由来抗微生物性化合物の調製
使用された全ての試薬はAmerican Chemical Society(ACS)等級またはそれ以上であり、特に断らない限りさらに精製することなく使用した。フラッシュクロマトグラフィーはMerck type 60、230−400メッシュシリカゲルを使用して実施した。ペプチドはReprospher 100 C8−Aquaカラム(10μm,250×20mm)上で、流速12mL/分で精製した。高分解能質量スペクトル(HRMS)分析はESI−TOF LC/MS装置を使用して実施した。
1H NMRスペクトルは、400MHzでトリメチルシラン(TMS)に対する百万分率(ppm)ダウンフィールドで報告された化学シフトで記録した。
1H NMRデータは以下の順序で報告する。:多重度(s,一重項;d,二重項;t,三重項;q,四重項;qn,五重項およびm,多重項)、プロトン数、ヘルツ(Hz)でのカップリング定数(J)。適切なときは、多重度はシグナルが広範であることを示すbrによって先行される。
13C NMRスペクトルは100MHzで使用した溶媒の残留炭素共鳴に対して報告された化学シフトで記録した。全ての文献化合物は指定された構造と一致する
1H NMR、および質量スペクトルを有した。
【0047】
ナイシン[1−12]構造(比較化合物A)の調製
ナイシン(600mg,0.18mmol)を250mLのトリス緩衝液(25mmol NaOAc,5mmol トリスアセテート,5mmol CaCl
2,pH7)に溶解し、溶液を氷上で15分間冷却した。トリプシン(50mg)を添加し、混合物を室温で15分間撹拌した。混合液をその後30℃で16時間撹拌し、アリコートをHPLCによって分析した。さらにトリプシン50mgを添加し、さらに24時間後、HPLCから明らかなとおり、反応が完結した。反応液を塩酸(1N)でpH4まで酸性にし、溶媒を真空中で除去した。ナイシン[1−12]構造は分取HPLCによって混合物から単離した。生成物のフラクションを凍結乾燥し、白色粉末(80mg,39%)を得た。
【0048】
(G M Coppola and M Prashad, Synthetic Communications 23, no. 4 (1993): 535−41に従った)ファルネシルアミンの調製
リチウムビス(トリメチルシリル)アミド(7.7mL;THFに1.0M)をtrans,trans−ファルネシルブロミド(6.7mmol,1.9g)にアルゴン雰囲気下で添加し、16時間撹拌し、その後飽和塩化アンモニウム溶液でクエンチした。混合物をMTBEで2回抽出し、有機相を合わせ、Na
2SO
4で乾燥させた。この油状物質に31mLのMeOHおよび4mLのCH
2Cl
2を添加し、得られた溶液を室温で16時間撹拌した。真空下で溶媒を除去し、生成物として褐色固体(1.5g,定量的)を得た。
1H NMR(400MHz,CDCl
3):δ5.28−5.24(m,1H)、5.12−5.07(m,2H)、3.29−3.27(d,2H,J=7.0Hz)、2.10−1.95(m,8H)、1.67−1.59(m,12H)、1.12(s,2H);
13C NMR(100MHz,CDCl
3):δ137.8、135.2、131.3、125.4、124.3、123.9、39.7、39.5、26.7、26.4、25.7、17.6、16.1、16.0。
【0049】
2,5−ジオキソピロリジン−1−イル ペント−4−インオエート
4−ペンチン酸(2.00g,20.36mmol)をDMF(40mL)に溶解し、EDCI(5.84g,29.84mmol,1.5当量)およびNHS(4.68g,40.76mmol,2.0当量)を添加した。混合物を室温で16時間撹拌した。DMFの蒸発後、残渣をEtOAc(120mL)に希釈し、NH
4Cl(1M,120mL)で2回洗浄し、飽和NaHCO
3(120mL)で2回洗浄した。有機層をNa
2SO
4で乾燥させ、生成物をフラッシュカラムクロマトグラフィー(EtOAc:PE)を用いて精製し、所望の活性化エステルを白色粉末(3.3g,83%)として得た。
1H NMR(400MHz,CDCl
3):δ2.89−2.83(m,4H)、2.63−2.59(m,4H)、1.55(bs,1H);
13C NMR(100MHz,CDCl
3):δ168.8、167.0、80.8、70.0、30.3、25.5、14.1。
【0050】
ジデシル−アルキンの調製
ジデシルアミンを使用し、方法3(p3)によって調製した。
収量:105mg、30%
1H NMR(400MHz,CDCl
3):δ3.31−3.27(m,2H)、3.22−3.18(m,2H)、2.54(m,4H)、1.95(2,1H)、1.56−1.48(m,4H)、1.27−1.25(m,28H)、0.90−0.85(m,6H);
13C NMR(100MHz,CDCl
3):δ70.0、83.8、68.5、47.8、46.1、32.1、31.9、29.6、29.5、29.3、22.7、14.6、14.1;HRMS C
25H
48NO [M+H]
+の計算値:378.3736、測定値378.3743。
【0051】
オクタデシル−アルキンの調製
オクタデシルアミンを使用し、方法3(p3)によって調製した。
収率:560mg、52%
1H NMR(400MHz,CDCl
3):δ5.61(bs,1H)、3.27−3.21(m,2H)、2.53−2.50(m,2H)、2.39−2.34(m,2H)、1.99−1.97(m,1H)、1.47−1.47(m,3H)、1.27−1.24(m,32H)、0.88−0.84(m,3H);
13C NMR(100MHz,CDCl
3):δ170.7、83.0、69.2、39.6、35.4、31.9、29.7、29.6、29.5、29.3、26.9、22.7、15.0、14.1; HRMS C
23H
44NO [M+H]
+の計算値:350.3423、測定値350.3430。
【0052】
ファルネシル−アルキンの調製
ファルネシルアミンを使用し、方法3(p3)によって調製した。
収量:540mg、60%
1H NMR(400MHz,CDCl
3):δ5.69(bs,1H)、5.19−5.15(m,1H)、5.06−5.04(m,2H)、4.12−4.08(m,2H)、3.85−3.82(m,2H)、2.78(s,1H)、2.50−2.48(m,4H)、2.38−2.34(m,4H)、1.64(s,9H)、1.57(s,3H)、1.25−1.21(m,2H);
13C NMR(100MHz,CDCl
3):δ170.5、140.2、135.4、131.4、124.2、123.7、119.7、83.0、69.2、39.7、39.5、37.6、35.4、26.7、26.3、25.7、17.7、16.3、16.0、14.9;HRMS C
20H
32NO [M+H]
+の計算値:302.2484、測定値302.2474。
【0053】
テルフェニル−アルキンの調製
テルフェニルカルボン酸(250mg,1.0当量)および塩化チオニル(カルボン酸1mmolにつき10mL)の混合物を、全ての固体が溶解するまで還流し、続いてさらに16時間加熱した。減圧下で過剰の塩化チオニルを蒸発させた後、得られた酸クロリドを真空中で乾燥させた。酸クロリドを15mLのDCMに溶解し、プロパルギルアミンHCL(183mg,2.0当量)を添加した。TEA(558μL,4.0当量)の添加で、溶液は濃い白色懸濁液へ変化した。撹拌を容易にするため、5mLのDCMを添加した。3時間後、TLCは変換をほとんど示さなかった。ピリジン(790μL,10当量)を添加し、混合物を加熱還流した。2時間後、反応が完結した。真空下溶媒を除去し、残渣をCHCl
3に懸濁した。沈殿物をろ過によって回収し、MeOHで洗浄し、真空下で乾燥した。収量:189mg、63%。
1H NMR(400MHz,DMSO−d6):δ8.98(s,1H)、7.97−7.95(m,2H)、7.84−7.71(m,4H)、7.48−7.37(m,3H)、4.07(s,1H)、3.31(s,6H);
13C NMR(100MHz,DMSO−d6):δ166.0、142.8、140.2、139.9、138.6、133.1、129.5、128.5、127.8、127.7、127.1、126.9、81.8、73.3、29.0;HRMS C
22H
18NO [M+H]
+の計算値:312.1388、測定値312.1361。
【0054】
Boc−ナイシン[1−11]Lys(Boc)−OH(比較化合物F)の調製
Boc
2O(50mg,229μmol)とDIPEA(51μL,293μmol)をナイシン[1−12](100mg,86.9μmol)の乾燥MeOH(30mL)溶液に添加し、混合物を4.5時間撹拌した。反応混合物を濃縮し、H
2O/MeCN/TFA(70/30/0.1)に再度溶解し、C18 Maisch 250×22mmを使用した分取HPLCによって精製して、68.9mg(51.0μmol)の白色粉末(収率57%)を得た。ESI−MS:C
61H
99ON
13O
17S
2 [M+H]
+の計算値1350.6796、測定値1350.6818。
【0055】
((S)−2−アミノ−N−デシル−3−(1H−インドール−3−イル)プロパンアミド)の調製
Boc−Trp−OHを使用して方法7(p7)に従って調製した。収率=88%
1H NMR(CD
3OD):δ7.55(d,7.88Hz,1H)、7.29(d,8.12Hz,1H)、7.04(t,7.50Hz,2H)、6.96 (t,7.42Hz,1H)、3.55(t,6.72Hz,1H)、3.14−2.91(m,4H)、1.32−1.00(m,16H)、0.90−0.82(t,6.64Hz,3H)。
13C NMR(CD
3OD):δ176.70、138.1、128.8、124.7、122.4、119.8、119.5、112.3、111.1、57.0、40.4、33.0、32.3、30.5、30.1、27.9、23.7、18.2、14.5。ESI−MS:C
21H
33N
3O [M+H]
+の計算値344.26、測定値344.15。
【0056】
((S−2−アミノ−N−デシル−3−(4−ヒドロキシフェニル)プロパンアミド)の調製
Boc−Tyr−OHを使用して方法7(p7)に従って調製した。収率=31%
1H NMR(400MHz;CD
3OD):δ8.17−8.10(m,1H)、7.04(d,J=8.0Hz,2H)、6.74(d,J=7.6Hz,2H)、3.90(t,J=7.0Hz,1H)、3.25−3.11(m,2H)、3.08−2.86(m,2H)、1.39−1.36(m,2H)、1.35−1.09(m,14H)、0.87(t,J=6.4Hz,3H)。
13C NMR(100MHz;CD
3OD):δ168.0、156.8、130.1、124.6、115.3、54.6、39.2、36.6、31.6、29.3、29.2、29.0、28.9、28.7、26.5、22.3、13.0。ESI−MS:C
19H
32N
2O
2 [M+H]
+の計算値:321.2537、測定値321.75。
【0057】
((S)−2−アミノ−N−デシル−3−フェニルプロパンアミド)の調製
Boc−Phe−OHを使用して方法7(p7)に従って調製した。収率=3%
1H NMR(CD
3OD):δ7.39−7.23(m,5H)、3.99(t,J=7.48Hz,1H)、3.24−3.01(m,4H)、1.43−1.13(m,16H)、0.90(t,J=6.86Hz,3H)。
13C NMR(CD
3OD):δ135.7、130.5、130.0、128.8、55.9、40.6、38.8、33.1、30.5、30.1、27.9、23.7、14.4。ESI−MS:C
19H
32N
2O [M+H]
+の計算値305.25、測定値305.15。
【0058】
((S)−2−アミノ−N−デシル−3−(1H−イミダゾール−4−イル)プロパンアミド)の調製:
Boc−His−OHを使用して方法7(p7)に従って調製した。収率=定量的
1H NMR(CD
3OD):δ8.84(d,J=1.2Hz,1H),8.24(bs,1H),7.07(bs,1H),4.18−4.12(m,1H),3.31−3.27(m,2H)、3.18(t,J=7.2Hz,2H)、1.31−1.23 (m,16H)、0.87(t,3H)。
13C NMR(100MHz;CD
3OD):δ143.9、140.8、118.1、52.3、39.4、31.6、29.2、29.0、28.9、28.8、28.7、26.5、22.3、13.0。ESI−MS:C
16H
30N
4O [M+H]
+の計算値:295.2492、測定値295.20。
【0059】
(tert−ブチル((S)−1−(((S)−1−(デシルアミノ)−3−(1H−インドール−3−イル)−1−オキソプロパン−2−イル)アミノ)−3−(1H−インドール−3−イル)−1−オキソプロパン−2−イル)カーバメート)の調製
H−Trp−C10(1.0g,2.91mmol)、Boc−Trp−OH(1.1当量)、BOP(1.1当量)およびDIPEA(3.3当量)のCH
2Cl
2溶液を室温で1時間撹拌した。反応混合液を濃縮し、EtOAcに取り込み、1M KHSO
4と飽和NaHCO
3で洗浄した。Na
2SO
4で乾燥し、濃縮してBoc−Trp−Trp−C10(1.45g,2.30mmol、収率:79%)を黄色固体泡状物質として得た。この物質(0.5g,0.95mmol)をTiS(0.195mL,0.95mmol)存在下、室温で1時間、TFA/CH
2Cl
2で処理した。濃縮後、残渣をEtOAcに取り込み、飽和NaHCO
3で洗浄した。Na
2SO
4で乾燥し、濃縮してH−Trp−Trp−C10(1.45g,2.30mmol,定量的な収率)を油状物質として得た。MS分析によってBoc基の除去を確認し、本物質はさらに精製することなく使用した。Boc−Trp−Trp−C10
1H NMR:(CDCl
3):δ8.73(s,1H),8.43(1H),7.63(d,J=7.6Hz,1H)、7.42(d,=8.0Hz,1H)、7.29−7.00(m,6H),6.73−6.63(m,3H)、6.40(s,1H)、6.33(d,J=7.6Hz,1H)、4.90(d,J=5.2Hz,1H)、4.66(m,1H)、4.26(m,1H)、3.45−3.33(m,2H)、3.13−3.08(m,2H)、2.99−2.96(m,1H)、2.58−2.54(m,1H)、1.46−1.02(m,25H)、0.87(t,J=6.8Hz)。
13C NMR:(100MHz;CDCl
3):δ171.9、171.1、155.9、136.7、136.3、127.6、127.4、123.6、123.5、122.8、22.3、120.1、119.7、119.0、118.4、111.7、111.4、109.8、55.7、53.8、39.9、32.0、29.7、29.6、29.4、29.4、29.2、27.9、26.9、22.8、14.2。MS:[M+H]
+計算値630.4014;測定値629.89.H−Trp−Trp−C10:MS [M+H]
+計算値530.3490;測定値530.10。
【0060】
(2,5−ジオキソ−2,5−ジヒドロ−1H−ピロール−1−イル 3−((tert−ブトキシカルボニル)アミノ)プロパンオエート)
DCC(5.5g,26.6mmol)のEtOAc(10mL)溶液をBoc−β−Ala−OH(5.0g,26.4mmol)およびNHS(3.1g,26.9mmol)の混合物のEtOAc(100mL)溶液に添加した。白色懸濁液を室温で終夜撹拌し、その後セライトでろ過した。透明なろ液を濃縮し、MTBE/ヘキサンから再結晶させ、白色結晶(6.05g,21.1mmol)を得た。
収率:80%。
1H NMR:(CDCl
3):δ5.14(br,1H),3.48−3.46(m,2H)、2.81−2.79(m,6H)、1.40(s,9H)。
13C NMR:(100MHz;CDCl
3):δ169.2、167.6、155.8、79.7、36.2、32.2、28.4、25.6.MS:[M−tBu+H]
+計算値229.0455;測定値230.71.
【0061】
方法1(p1):アミド結合脂質−ナイシン
得られたナイシン[1−12]構造の粉末をDMFまたはTHF(240μl)に溶解し、対応する脂質アミン(59当量)、BOP(2当量)およびDiPEA(4当量)を添加した。反応を20分撹拌し、続いて4mLの緩衝液A(H
2O:MeCN,95:5+0.1%TFA)でクエンチした。不溶性の物質を除去するために溶液を5000rpmで遠心分離し、上清を分取HPLCによって精製した。生成物フラクションを凍結乾燥し、最終生成物を得た。
【0062】
方法2(p2):クリック脂質−ナイシン
硫酸銅の10倍ストック溶液(1mLの水に16.2μmol、2.59mg)、アスコルビン酸ナトリウムの10倍ストック溶液(1mLの水に32.4μmol、6.42
mg)およびTBTAの10倍ストック溶液(1mLのDMFに4.1μmol、2.18mg)を調製した。表3に示すように方法1(p1)を使用してナイシン[1−12]−アジド(比較化合物E)を調製した。ナイシン[1−12]−アジド(8.1μmol,10mg)をDMF(200mL)に溶解した。脂質−アルキンをマイクロウェーブ容器に加えた。ナイシン[1−12]−アジド溶液を100μLのTBTAストック溶液、100μLのアスコルビン酸ナトリウムストック溶液および100μLの硫酸銅ストック溶液とともに添加した。容器をマイクロウェーブに入れ、80℃で20分間反応させた。終了後、反応混合物を4mLの緩衝液B(H
2O:MeCN,5:95+0.1%TFA)でクエンチし、分取HPLCによって精製した。
【0063】
方法3(p3):脂質−アルキン
脂質−アミン(3mmol)をDMF(20mL)に溶解し、撹拌しながら2,5−ジオキソピロリジン−1−イル ペント−4−インオエート(2.0mmol,390mg)を添加し、反応を16時間行った。DMFの濃縮後、フラッシュカラムクロマトグラフィー(EtOAc:PE,1:4)で精製し、最終生成物を得た。
【0064】
方法4(p4):boc保護ナイシン[1−12]に結合したアミン
脂質−アミン(1.2当量)、BOP(1.2当量)およびDiPEA(3当量)をBoc−ナイシン[1−11]Lys(Boc)−OH(1当量)の乾燥CH
2Cl
2(2μmol/mL)溶液に添加した。化合物の溶液に数滴のDMFを添加した。混合物を45分間撹拌し、濃縮し、残渣をTFA/TiS/H
2O(95/2.5/2.5)で1時間処理し、MTBE/ヘキサン(1:1)で沈殿させ、遠心分離(4500回転/分で5分間)した。沈殿物をH
2O/t−BuOH(1:1)に溶解し、凍結乾燥した。凍結乾燥した粉末を4mLの緩衝液B(H
2O:MeCN,5:95+0.1%TFA)に溶解し、分取HPLCによって精製した。
【0065】
方法5(p5):Lys
12アシル化化合物
ナイシン[1−12]をDMF/THF(1/1)に溶解し、4当量のDiPEAを添加した。THFに溶解した1当量のカルボン酸活性エステルの溶液を滴下して、リシン側鎖の好ましいアシル化が得られた。1当量を超える活性化エステルの添加はN−末端およびLys
12側鎖の両方のアシル化をもたらした。1.5時間後、反応混合物を濃縮し、Maisch Reprospher 100 C8−Aqua、250mm×20mmを使用して精製した。脂質−アミン(1.2当量)、BOP(1.2当量)およびDiPEA(3当量)をアシル化ナイシン[1−12]のDMF/THF(2μmol/mL)溶液に添加した。反応混合物液を45分間撹拌し、濃縮し、MTBE/ヘキサン(1:1)で沈殿させ、遠心分離(4500回転/分で5分間)した。ペレットをH
2O/t−BuOH(1:1)に溶解し、凍結乾燥した。凍結乾燥した粉末を4mLの緩衝液B(H
2O:MeCN,5:95+0.1%TFA)に溶解し、分取HPLCによって精製した。注記:ナイシン[1−12]−C12のモノおよびビスβ−Alaアシル化変型体は前記のように、それぞれのBoc保護前駆体をTFA/TIS/H
2O(95/2.5/2.5)で処理し、続いてMTBE/ヘキサンで沈殿させ、分取HPLC精製することによって得られた。
【0066】
方法6(p6):アミノ−酸−脂質
Boc保護されたアミノ酸(Boc−AA−OH)をCH
2Cl
2に溶解し、0℃に冷却した。EDC(2.5当量)、HOBT(2.5当量)、デシルアミン(1.5当量)およびトリエチルアミン(1.5当量)を添加し、室温まで昇温させながら混合物を一晩撹拌した。反応混合物をH
2O、1M NaOHおよび1M HClで洗浄した。再結晶(ヘキサン/EtOAc)またはシリカゲルカラムクロマトグラフィー(石油エーテル/EtOAc)による精製でBoc−AA−デシルアミン中間体を得た。Boc−アミノ酸−デシルアミン化合物をCH
2Cl
2に溶解し、TiS(2当量)およびTFAをCH
2Cl
2:TFA(2:1)の比に達するように添加し、混合物を1時間撹拌した。反応混合物を濃縮し、脱保護されたアミノ酸−C10を任意に酢酸エチルに取り込み、飽和NaHCO
3で洗浄した。濃縮により、脂質化アミノ酸が油状物質として得られた。さらなる試験に使用される化合物は表3および表4に示すように調製した。表中に、使用される前駆体ならびにその方法で使用される特定の物質を示す。
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【0067】
【表4】
【0068】
調製した化合物の分析を表5および表6に示す。保持時間(R
t)はDr.Maisch C8カラム(250×4.6mm,300Å,10μm)を使用して、1.0mL/分の流速および以下の勾配:(a)5〜60%MeCN(0.1%TFA)で40分;(b);5〜95%MeCN(0.1%TFA)で40分、および(c)5〜95%MeCN(0.1%TFA)で60分;または1.0mL/分の流速および以下の勾配;(d)5〜95%MeCN(0.1%TFA)で40分;(e)5〜95%MeCN(0.1%TFA)で60分を使用して、Dr.Maisch C18カラム(250×4.6mm,300Å,10μm)を使用して測定した。
【表5-1】
【表5-2】
【0069】
【表6】
【0070】
実施例2.MICアッセイにおける抗微生物性化合物の分析
(グリセロールストックからの)種々の微生物を血清寒天上に播種し、37℃で24時間インキュベートした。コロニーを選択し、2×5mLのTSBを接種した。試料および無菌対照を37℃で16〜20時間培養した。比較化合物Bは対照として作用するナイシンである。比較化合物Cもまた、対照として作用するバンコマイシンである。比較化合物A、DおよびEもまた、本発明の一部ではない対照化合物である。
【0071】
100μLの化合物(2)〜(23)、およびR
1基(b)〜(e)を有する化合物(24)、ならびに比較化合物A、DおよびE(128μg/mL,2%DMSOのTSB溶液)、100μLのナイシン陽性対照(比較化合物B)およびバンコマイシン(比較化合物C)(2μg/mL,2%DMSOのTSB溶液)ならびに100μLの陰性対照(2%DMSOのTSB溶液)を96ウェルプレートの最上列、残りのウェルに50μLのTSBを添加し、化合物を連続的に希釈した。一晩の培養液をTSBに0.5×10
6CFUまで希釈した。50μLの細菌溶液を各ウェルに添加し、プレートを接着性の膜で密封し、37℃で16時間インキュベートした。翌日、細菌生育についてプレートを視覚的に観察した。
【0072】
種々の細菌についてのMICアッセイの結果を表7に示す。表8は、多数の種々のVRE株に対する化合物(10)の活性を示し、それぞれ4および8であったMIC
50およびMIC
90の決定を可能とした。比較化合物B(ナイシン)について同一の値が見られ、新規化合物の有効性を示している。
【表7-1】
【表7-2】
【0073】
【表8】
【0074】
実施例3.モデル膜内の脂質II結合
0.2%脂質IIでスパイクした1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DOPC)から成る大型単層小胞(LUVs)にカルボキシフルオレセイン(CF)を充填した。CF流出は492nmで励起とともに、515nmで蛍光強度の増加を測定することにより観察した。キュベット中で、緩衝液(トリスHCl、pH7.0,100mM NaClを含む)のCF添加小胞(20μM最終濃度)の溶液(1mL)を調製し、化合物(6)、(10)、および(12)の相対最終濃度、ならびにR
1基(e)を有する化合物(24)もまた添加し、混合物を1分間撹拌し、蛍光(A
0)を記録した。約10秒後、ナイシン(比較化合物B)を添加(5nM最終濃度)し、安定化するまで蛍光(A
stable)を追跡し、その後記録した。Triton−X100(最終濃度0.1%)の添加により全膜漏出を誘導し、蛍光を記録した(A
total)。百分率値を:
【数1】
によって計算した。
【0075】
化合物(6)、(10)および(12)での処置およびR
1基(e)を有する化合物(24)での処置は検出可能な色素漏出を示さなかったが、一方ナイシン(比較化合物B)は5nMの濃度でCF色素の約50%の漏出を示した。競合アッセイでは、R
1基(e)を有する化合物(24)以外、ナイシンよりも10倍高い濃度で投与されたとき、各化合物が効率的に、ナイシン誘発膜漏出に拮抗し、等モル濃度で色素漏出を阻害し、このモデルにおいてナイシンと同程度の脂質II結合親和性を示していることが示唆された。
【0076】
実施例4.血清安定性
2mg/mLのペプチド溶液をMilliQ中26%DMSOで調製した。42mLのペプチド溶液と518mLのヒト血清を用いて複製サンプルを調製し、最終DMSO濃度を2%とした。試料を37℃でインキュベートし、試料をt=0時間、1時間、2時間、4時間、24時間で以下のように採取した:100μLヒト血清に、200μL MeOH(内部標準物質として0.075mg/mLのエチルパラベンを含む)を添加してタンパク質を沈殿させた。試料を簡単にボルテックス処理し、室温で10分間静置させた。試料をその後13,000回転/分で5分間遠心分離し、上清を取り、分析まで−20℃で保存した。各試料はC4カラム上でHPLCによって分析した。ピークを積分し、内部標準に対して標準化した。
【0077】
ヒト血清における化合物(6)、(10)および(12)の安定性およびR
1基(e)を有する化合物(24)の安定性をナイシン[1−12](化合物B)の安定性と比較した。新規化合物の安定性は50%を優に超え、化合物Bの安定性を大きく上回った。すなわち、ナイシンの33%しか24時間後に無傷のままではなく、一方化合物(6)の94%が24時間後に無傷のままであった。
【0078】
実施例5.溶血アッセイ
ヒト全血を600×gで15分間遠心分離し、血漿およびヘマトクリットのレベルをチューブ上に記録した。血漿を除去し、PBSを用いて赤血球を3回洗浄(600×gで15分間遠心分離)した。上清を廃棄した後、血球(packed cell)を氷上で保存した。100μLのペプチド(PBSに128μg/mL,2%DMSO)ならびにPBS中2%DMSOを含む対照溶液を、ポリプロピレン製の丸底96ウェルプレートの最上列に添加し、50μLのPBSを残りのウェルに添加した。ペプチドおよびDMSO対照溶液をその後下列方向に順番に希釈した。血球200μLをPBS(10mL)に添加し、この懸濁液50μLを各ウェルに添加した。0.1%トリトンX−100を含む脱イオン水を使用するカラムを100%溶解対照として使用し、連続的希釈PBS(1.0%DMSO)対照を含むカラムは0%溶解対照としての役割を果たした。細胞を37℃で1時間インキュベートした。インキュベート後、プレートを遠心分離(800×g,5分間)し、平底プレート(ポリスチレン)内で25μLの上清を100μLの脱イオン水に加えた。遊離ヘモグロビン量を測定するために、414nmでの吸収を記録した。化合物(6)、(10)、(12)および(20)の溶血およびR
1基(e)を有する化合物(24)の溶血を、比較化合物BおよびCと比較した。全ての新規化合物は32μg/mLと同程度の高い濃度で15%未満の溶血レベルを示した。比較化合物BおよびCは32μg/mLで無視できる溶血を示した。化合物(20)は最も高い試験濃度(64μg/mL)まで検出できる溶血を全く示さなかったが、これは溶血を防ぐための、Lys
12の正電荷の好ましいマスキングを示している。
【0079】
実施例6.エンテロコッカス・フェシウムを用いたバイオスクリーン生育アッセイ
エンテロコッカス・フェシウムの生育に対する化合物(6)、(10)、(12)および(20)の効果およびR
1基(e)を有する化合物(24)、または比較化合物B(ナイシン)の効果(各化合物は固定濃度5μMで投与した)を観察するために、BioScreen C装置(Oy Growth Curves AB,Helsinki,Finland)を使用した。エンテロコッカス・フェシウム株を0.05の初期OD
660で、1%DMSOおよび1%グルコースを含む300μlのTSBまたは抗生物質化合物を5μMの最終濃度で含む同一の培地に接種した。培養液を連続的に振盪しながらBioScreen C系中37℃でインキュベートし、生育/阻害効果を決定するために600nmでの吸収(A
600)を15分ごとに、15時間記録した。
【0080】
これらの実験で使用されるエンテロコッカス・フェシウム株は、エンテロコッカス・フェシウムE745(バンコマイシン−アンピシリン耐性院内集団感染株)、エンテロコッカス・フェシウムE980(バンコマイシン−アンピシリン感受性ヒト共生単離株)、エンテロコッカス・フェシウムE1133(バンコマイシン−アンピシリン耐性院内集団感染株)、およびエンテロコッカス・フェシウムE1162(バンコマイシン感受性アンピシリン耐性院内単離株)。各株のBioScreen生育アッセイは化合物(6)、(10)、(12)およびまたR
1基(e)を有する化合物(24)だけでなくナイシン(比較化合物B)についても決定され、非処理株と比較し、結果を以下の表9〜12に示す。
【表9】
【0081】
【表10】
【0082】
【表11】
【0083】
【表12】
【0084】
結論は、本発明に従い産生および製造された全ての化合物ならびにナイシンは、全ての試験されたエンテロコッカス・フェシウム株の生育の遅延だけでなく阻害も示したということである。化合物(6)および(10)ならびにまたR
1基(e)を有する式(24)の化合物、および特に化合物(12)は極めて高い生育阻害作用を示した。
【国際調査報告】