(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2018-507152(P2018-507152A)
(43)【公表日】2018年3月15日
(54)【発明の名称】防食処理された機能性コーティングを備えた複層板材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 27/12 20060101AFI20180216BHJP
B32B 3/10 20060101ALI20180216BHJP
B23K 26/362 20140101ALI20180216BHJP
C03C 17/245 20060101ALI20180216BHJP
C03C 17/09 20060101ALI20180216BHJP
C03B 33/09 20060101ALI20180216BHJP
【FI】
C03C27/12 C
B32B3/10
B23K26/362
C03C17/245 Z
C03C17/09
C03B33/09
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2017-532944(P2017-532944)
(86)(22)【出願日】2015年12月2日
(85)【翻訳文提出日】2017年8月16日
(86)【国際出願番号】EP2015078354
(87)【国際公開番号】WO2016096435
(87)【国際公開日】20160623
(31)【優先権主張番号】14198940.0
(32)【優先日】2014年12月18日
(33)【優先権主張国】EP
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】512212885
【氏名又は名称】サン−ゴバン グラス フランス
【氏名又は名称原語表記】Saint−Gobain Glass France
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ファレンティン シュルツ
(72)【発明者】
【氏名】イレーヌ クッチ
【テーマコード(参考)】
4E168
4F100
4G015
4G059
4G061
【Fターム(参考)】
4E168AD00
4E168DA02
4E168DA06
4E168DA23
4E168DA24
4E168DA25
4E168DA42
4E168DA43
4E168DA45
4E168DA46
4E168JA01
4E168JA04
4E168JA06
4F100AA17C
4F100AA19C
4F100AA25C
4F100AA28C
4F100AA33C
4F100AB24C
4F100AG00A
4F100AK00B
4F100AK04A
4F100AK07A
4F100AK25A
4F100AK45A
4F100AT00A
4F100AT00C
4F100AT00D
4F100BA04
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10D
4F100DC00C
4F100EH46C
4F100GB07
4F100GB32
4F100JB16B
4F100YY00C
4G015FA06
4G015FB01
4G015FC11
4G015FC12
4G015FC14
4G059AA01
4G059AB09
4G059AC06
4G059DA01
4G059DB02
4G059EA01
4G059EA02
4G059EA03
4G059EB04
4G061AA04
4G061AA11
4G061BA01
4G061BA02
4G061BA03
4G061CA02
4G061CB19
4G061CD18
4G061DA38
(57)【要約】
本発明は、機能性コーティング(3)を備えた複層板材(100)の製造方法に関し、当該製造方法では少なくとも、(a)ベース板材(1’)の表面(III)の少なくとも一部に機能性コーティング(3)を設け、(b)ベース板材(1’)からの第1の板材(1)の切り出しと、内側領域(11)が第1の板材(1)に側面エッジ(6)に接続しないように少なくとも1つのコーティング無し領域(9.1,9.2)を機能性コーティング(3)に形成することとを行い、(c)熱可塑性の中間層(4)を介して、機能性コーティング(3)が設けられた第1の板材(1)の表面(III)と第2の板材(2)の表面(II)とを結合する。本発明はさらに、本発明の方法を実施するための装置(30)も包含する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能性コーティング(3)を備えた複層板材(100)の製造方法であって、少なくとも、
(a)ベース板材(1’)の表面(III)の少なくとも一部に機能性コーティング(3)を設け、
(b)前記ベース板材(1’)からの第1の板材(1)の切り出しと、当該機能性コーティング(3)の内側領域(11)を完全に包囲する少なくとも1つのコーティング無し領域(9.1,9.2)であって、当該内側領域(11)を部分的または完全に包囲する外側領域(10.1,10.2)から当該内側領域(11)を切り離す少なくとも1つのコーティング無し領域(9.1,9.2)を、前記機能性コーティング(3)に形成することとを、同時に行い、
(c)熱可塑性の中間層(4)を介して、前記機能性コーティング(3)が設けられた前記第1の板材(1)の表面(III)と第2の板材(2)の表面(II)とを結合する、
製造方法。
【請求項2】
前記コーティング無し領域(9.1,9.2)を形成するために、レーザビーム(15)を有する除去工具(17)を使用し、
前記切り出しを行うために、切削ホイール(16)を備えた切削工具(18)を、冷却液(21)と共に使用する、
請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記ステップ(b)において、前記第1の板材(1)のコーティングされた前記表面(III)上にて直接、前記切削ホイール(16)を移動させ、かつ当該第1の板材(1)のコーティングされた前記表面(III)とは反対側の表面(IV)から前記レーザビーム(15)を当該第1の板材(1)に入射させて当該第1の板材(1)を透過させ、前記機能性コーティング(3)へ送る、
請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
前記切削工具(18)と前記除去工具(17)とを同時に移動させ、前記レーザビーム(15)を、前記機能性コーティング(3)上の、前記冷却液(21)によって覆われた領域へ送る、
請求項1から3のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項記載の製造方法を実施するための装置(30)であって、少なくとも、
ベース板材(1’)から第1の板材(1)を切り出すため、またはスクライビングするための切削工具(18)と、
前記ベース板材(1’)上の機能性コーティング(3)にコーティング無し領域(9.1,9.2)を形成するための除去工具(17)と、
前記切削工具(18)および前記除去工具(17)を移動させるための移動装置(19)と
を備えている装置(30)。
【請求項6】
前記切削工具(18)は冷却液(21)を用いて冷却され、
前記切削工具(18)は切削ホイール(16)またはダイヤモンド先端部を備えており、
前記除去工具(17)はレーザビーム(15)を有する、
請求項5記載の装置(30)。
【請求項7】
前記除去工具(17)と前記切削工具(18)とは、前記ベース板材(1’)を配置することができる一平面のそれぞれ反対側に配置される、
請求項6記載の装置(30)。
【請求項8】
前記移動装置(19)は、ロボットまたは多軸ハンドリング装置またはXY移動ステージ(20)を備えている、
請求項5から7までのいずれか1項記載の装置(30)。
【請求項9】
請求項1から4までのいずれか1項記載の製造方法により製造された、機能性コーティング(3)を備えた複層板材(100,100’)であって、少なくとも、
表面(III)を有する第1の板材(1)、表面(II)を有する第2の板材(2)、および当該第1の板材(1)の表面(III)と当該第2の板材(2)の表面(II)とを面で結合する熱可塑性の中間層(4)と、
前記第1の板材(1)の内側の前記表面(III)の少なくとも一部に設けられた少なくとも1つの機能性コーティング(3)と、
前記機能性コーティング(3)の内側領域(11)を完全に包囲する少なくとも1つのコーティング無し領域(9.1,9.2)と
を備えている複層板材(100,100’)。
【請求項10】
前記コーティング無し領域(9.1,9.2)はストリップ状であり、かつ前記第1の板材(1)の側面エッジ(6)に対して実質的に平行に配置されている、
請求項9記載の複層板材(100,100’)。
【請求項11】
前記コーティング無し領域(9.1,9.2)の幅(d1,d2)は30μm〜30mmであり、有利には100μm〜2mmであり、特に有利には250μm〜1.5mmであり、特に250μm〜500μmである、
請求項9または10記載の複層板材(100,100’)。
【請求項12】
前記機能性コーティング(3)の前記内側領域(11)は、部分的または完全に、当該機能性コーティング(3)の少なくとも1つの外側領域(10.1,10.2)によって包囲されており、
有利には、前記外側領域(10.1,10.2)の幅(b1,b2)は0.5mm〜30mmであり、特に有利には3mm〜11mmである、
請求項9から11までのいずれか1項記載の複層板材(100)。
【請求項13】
前記第1の板材(1)上において、第1のコーティング無し領域(9.1)が第2のコーティング無し領域(9.2)によって完全に包囲されており、有利には、前記第2のコーティング無し領域(9.2)は第3のコーティング無し領域によって完全に包囲されている、
請求項9から12までのいずれか1項記載の複層板材(100)。
【請求項14】
前記第1の板材(1)および/または前記第2の板材(2)は、ガラス、有利には板ガラス、フロートガラス、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、石灰ソーダガラス、またはポリマー、有利にはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレートおよび/またはこれらの混合物を含む、
請求項9から13までのいずれか1項記載の複層板材(100)。
【請求項15】
前記機能性コーティング(3)は、銀(Ag)、インジウム錫酸化物(ITO)、フッ素ドープされた酸化錫(SnO2:F)またはアルミニウムドープされた酸化亜鉛(ZnO:Al)を含む、
請求項9から14までのいずれか1項記載の複層板材(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防食処理された機能性コーティングを備えた複層板材の製造方法と、本発明の方法を実施するための装置とに関する。
【0002】
2つ以上の板ガラスまたはポリマー板材から成る複層板材は、建物、家具または陸上交通、航空もしくは水上交通用の移動手段において多岐にわたって、特に自動車において、たとえばフロントガラス、リアガラス、サイドガラスおよび/またはルーフガラスとして使用される。
【0003】
かかる板材の各面に1つまたは複数の機能性コーティングが設けられることが多く、これはたとえば、赤外線反射特性、反射防止特性もしくはLow‐E特性を有するものであり、または電圧の印加によって電気加熱可能なものである。このような複層板材はたとえば、米国特許出願公開第2004/0146645号明細書(US 2004/0146645 A1)、米国特許出願公開第2005/0238861号明細書(US 2005/0238861 A1)または国際公開第2014/060203号(WO 2014/060203 A1)から公知である。たとえば独国特許発明第3403682号明細書(DE 34 03 682 C1)、独国特許発明第102008058310号明細書(DE 10 2008 058 310 B3)、独国特許出願公開第102011075328号明細書(DE 10 2011 075 328 A1)または欧州特許出願公開第0517176号明細書(EP 0 517 176 A1)から、機能性コーティングを含む板材の加工と特に除去とを行うための方法が公知である。
【0004】
さらに、透明導電性コーティングから成る電気加熱層を単板材のうち1つの単板材の内側表面に備えた複層板材が公知である。外部電圧源によって電流をこの導電性コーティングに流すことができ、この電流が当該コーティングを加熱し、ひいては板材を加熱する。
【0005】
国際公開第2003/024155号(WO 2003/024155 A2)、米国特許出願公開第2007/0082219号明細書(US 2007/0082219 A1)、米国特許出願公開第2007/0020465号明細書(US 2007/0020465 A1)および国際公開第2012/052315号(WO2012/052315 A1)に、たとえば、金属系の上述の加熱可能な導電性コーティング、特に、1つまたは複数の銀含有層の積層体をベースとする導電性コーティングが開示されている。
【0006】
上述のような機能性コーティング、特に金属系の導電性コーティングは、非常に腐食しやすいので、気密封止して水分から保護する必要がある。こうするためには、複層板材の周囲部のフレーム状の領域に沿って、内側の機能性コーティングを除去する。この周囲部のフレーム状の領域の幅は、通常は5mm〜20mmであり、複層板材の側面エッジにおいて終了する。通常はこの除去は、非常に面倒かつ長時間を要する手法で、機械的切削により、たとえば研磨盤を用いた研磨によって行われる。このコーティング無しの領域は、複層板材の内側において熱可塑性の中間層によって、かつ/または蒸気拡散バリアとしてのアクリレート系接着剤によって、気密封止される。この蒸気拡散バリアによって、腐食しやすい機能性コーティングは水分や空気中酸素から保護される。複層板材が車両用ガラスとして、たとえば電気加熱可能なフロントガラスとして設けられている場合、周囲部のコーティング無しの領域によってさらに、電圧を送るコーティングと車体との間の電気絶縁も行われる。
【0007】
本発明の課題は、簡単かつ迅速に実施することができ、よって低コストで実施できる、防食処理された機能性コーティングを備えた複層板材の改善された製造方法を実現することである。
【0008】
本発明の課題は、本発明では請求項1に記載の方法によって解決される。従属請求項に有利な実施形態が記載されている。
【0009】
機能性コーティングを備えた複層板材の本発明の製造方法は、少なくとも以下のステップを有する:
(a)ベース板材の表面(III)の少なくとも一部に機能性コーティングを設けるステップ。
(b)切削工具によってベース板材から第1の板材を切り出し、除去工具によって機能性コーティングに、当該機能性コーティングの内側領域を完全に包囲する少なくとも1つのコーティング無し領域を形成するステップ。
(c)熱可塑性の中間層を介して、機能性コーティングが設けられた第1の板材の表面(III)と第2の板材の表面(II)とを結合するステップ。
【0010】
つまり、コーティング無し領域は内側領域をフレーム状に包囲するように配置されており、内側領域は第1の板材の側面エッジには接しない。
【0011】
本発明の方法において特に重要なのは、第1の板材の切り出しとコーティング無し領域の除去とを1つのステップで、ひいては同時に行うことである。
【0012】
従来技術の方法では、先にベース板材から第1の板材を切り出してから、第2のステップにおいて機械的切削により、広幅の領域の縁部の除去を行っていた。かかる第2のステップは非常に長い時間を要し、専用の処理ステーションを必要とするので、非常に高コストである。
【0013】
本発明の方法では、切り出しと同時に除去を行うことにより、処理ステーションが削減され、これにより方法が迅速化する。その際に特に有利なのは、除去工具と切削工具とを互いに合わせることであり、除去プロセスの速度を切削工具の送り速度に整合しなければならない。有利には超硬合金製の切削ホイールを切削工具として使用し、かつ除去工具としてレーザビームを用いた場合、特に良好な結果が達成された。特に、レーザ出力と除去される領域の幅とを適切に選択することにより、所望の速度整合を簡単に達成することができる。
【0014】
切削工具と、有利には切削ホイールまたはダイヤモンド先端部は、有利には冷却液によって冷却される。この冷却液は有利には、市販により公知となっている切削油である。冷却液は典型的には、切削工具の刃部または先端部とベース板材の表面との間に導入、噴射または噴霧され、これによりベース板材の表面の領域を濡らす。
【0015】
本発明の方法の有利な一実施形態では、ステップ(b)において、内側領域が部分的または完全に、機能性コーティングの少なくとも1つの外側領域によって包囲され、コーティング無し領域によって外側領域から切り離されるように、コーティング無し領域を形成する。
【0016】
以下「ベース板材」とは、寸法が第1の板材より大きい板材であって、切り出して第1の板材を形成する元になる板材をいう。
【0017】
ステップ(b)において行われるベース板材からの第1の板材の切り出しは、ベース板材の切りつけまたはスクライビングとすることもできる。その際には、切りつけまたはスクライビングの後、第1の板材はたとえば僅かな機械的荷重によってベース板材から割断される。このことは、たとえばガラス等の脆性材料の場合、特に正確かつ迅速に行うことができる。
【0018】
ステップ(a)において機能性コーティングを設けることは、自明の手法により、有利には磁場アシスト陰極スパッタリングにより行うことができる。このことは、ベース板材のコーティングを簡単、迅速、低コストかつ均一に行えるという観点で、特に有利である。また、機能性コーティングは、たとえば蒸着法、化学蒸着法(chemical vapour deposition、CVD)、プラズマアシスト気相蒸着法(PECVD)または湿式化学的手法により成膜することもできる。
【0019】
ステップ(a)および/またはステップ(b)の後、第1の板材に温度処理を施すことができる。その際には、機能性コーティングが設けられた第1の板材を、少なくとも200℃、有利には少なくとも300℃の温度まで加熱する。かかる温度処理は、機能性コーティングの透過率の上昇および/またはシート抵抗の低下に用いることができる。
【0020】
ステップ(a)またはステップ(b)の後、第1の板材を、典型的には500℃〜700℃の温度で曲げることができる。平面の板材にコーティングすることの方が技術的に簡単であるから、かかる手順は、第1の板材を曲げる必要がある場合に有利である。しかしこれに代えて、たとえば機能性コーティングが損傷を生じずに曲げ工程に耐えるのに適していない場合には、ベース板材をステップ(a)の前に曲げることも可能である。
【0021】
ステップ(b)における機能性コーティングの個々のコーティング無し領域の除去は、有利にはレーザビームによって行われる。たとえば欧州特許出願公開第2200097号明細書(EP 2 200 097 A1)または欧州特許第2139049号明細書(EP 2 139 049 A1)から、金属薄膜のパターニング方法が公知である。
【0022】
コーティング無し領域の除去を行うためのエネルギーの導入は、本発明では、全ての適したレーザを用いて行うことができる。特に有利なのはYAGレーザを用いること、特に、1047〜1079nm(ナノメータ)の領域の波長、特に1064nm前後の領域のNd:YAGレーザ(ネオジムドープされたイットリウム‐アルミニウム‐ガーネット固体レーザ)を用いることである。また、1030nm前後の領域の波長のYb:YAGレーザ(イッテルビウムドープされたイットリウム‐アルミニウム‐ガーネット固体レーザ)も有利である。有利な実施形態では、第2次高調波発生型(2倍)または第3次高調波発生型(3倍)の両種類のレーザを用いることが可能である。
【0023】
本発明の他の代替的な一実施形態では、機能性コーティングを除去するためにYAGレーザが使用され、特に、ピコ秒領域やナノ秒領域の高いパルス周波数のYAGレーザが使用される。その除去品質は非常に良好であり、機能性コーティングは実質的に完全に除去される。特に第1の板材としてガラス基材を用いる場合、表面はマイクロクラックを有さず、光散乱は低く、かつ2点曲げ試験において高い強度値を示す。
【0024】
これに代えて、機能性コーティングを除去するためにはCO
2レーザが特に適しており、とりわけ9.2μm〜11.4μmの領域内、有利には10.6μm前後の領域内の波長のCO
2レーザ、または第2次高調波発生型CO
2レーザが特に適している。これは、パルスCO
2レーザまたは連続発振CO
2レーザ(CWレーザ、continuous-wave laser)とすることができる。
【0025】
CO
2レーザを使用する場合、本発明の方法を実施するためには、特に除去速度の観点から、500W未満の平均レーザ出力PAV、有利には300W未満、特に有利には200W未満の平均レーザ出力PAVが適している。除去品質に関しては、良好な除去品質を実現するために有利な100W未満の平均レーザ出力が好適であるが、その際には除去速度は低速になる。
【0026】
パルスCO
2レーザを使用する場合、本発明の方法を実施するためには、5〜12kHz(キロヘルツ)の平均レーザパルス周波数f
repが有利であり、特に8〜10kHzの平均レーザパルス周波数f
repが有利である。さらに、パルスCO
2レーザを使用する場合には、0.1〜500μs(マイクロ秒)のレーザパルス幅t
pが有利であり、特に1〜100μsのレーザパルス幅t
pが有利である。
【0027】
さらに、エキシマレーザ、特にF
2レーザ(157nm)、ArFレーザ(193nm)、KrFレーザ(248nm)またはArレーザ(351nm)も有利である。かかる種類のレーザは、本発明の実施形態に応じて、パルス動作または連続(continuous wave)動作レーザとして使用することができる。
【0028】
本発明の方法の有利な一実施形態では、ステップ(b)においてレーザ除去を行うために、第1の板材のコーティングされた表面IIIに直接、レーザビームを送る。このことによって奏される利点は、比較的大きなベース板材から第1の板材を切り出すための切削工具をレーザの隣に配置することができ、レーザと同時に移動できることである。このことによって、本発明の複層板材を製造するための装置が格段に簡素化する。
【0029】
上記実施形態に代わる本発明の方法の他の有利な一実施形態では、ステップ(b)においてレーザ除去を行うために、第1の板材のコーティングされた表面IIIとは反対側の表面からレーザビームを当該第1の板材に入射させて当該第1の板材を透過させ、機能性コーティングへ送る。このことによって奏される格別な利点は、除去または蒸発した材料がレーザビームの経路に達することがないので、レーザビームを偏向、散乱または減衰することがないことである。このことにより、除去プロセスの精度が高くなる。
【0030】
本発明の方法の特に有利な一実施形態では、切削工具とレーザビームとを同時に移動させる。その際には切削工具は、ベース板材の機能性コーティングが設けられた表面上にて移動し、レーザビームは、ベース板材のコーティングされた表面とは反対側の表面から当該ベース板材に入射して、当該ベース板材を透過して機能性コーティングへ送られる。特に有利にはレーザビームは、機能性コーティングの、冷却液によって覆われている領域内において移動する。このことによって奏される格別な利点は、機能性コーティングの蒸発した材料が装置を自由に通って移動できなくなるので、ベース板材の隣接領域に堆積することもなくなることである。表面から除去された材料は冷却液中に拘束され、たとえば典型的には後続の洗浄ステップにおいて、冷却液と共に第1の板材のコーティングされた表面から除去することができる。かかる方法により、特に高品質の板材を製造することができる。
【0031】
ステップ(c)では、第1の板材の表面のうち、機能性コーティングが施された表面が、熱可塑性の中間層の方を向くように、第1の板材を配置する。このことにより、当該表面は第1の板材の内側表面となる。
【0032】
熱可塑性の中間層は、単一の中間層によって構成することができ、または2つ以上の中間層を面で互いに重ねて配置することにより構成することもできる。
【0033】
ステップ(c)における第1の板材と第2の板材との結合は有利には、熱、真空および/または圧力の作用下で行われる。複層板材を製造するための自明の手法を使用することができる。
【0034】
たとえば、約10バール〜15バールの昇圧した圧力で、かつ130℃〜145℃の温度で、約2時間にわたっていわゆるオートクレーブ法を実施することが可能である。自明の真空袋法または真空リング法は、たとえば約200ミリバールおよび80℃〜110℃で動作する。第1の板材と、熱可塑性の中間層と、第2の板材とを、カレンダーで少なくとも1対のローラ間でプレスして複層板材にすることもできる。かかる方式の設備は、複層板材作製において公知であり、通常は、プレス機構前に少なくとも1つの加熱トンネルを備える。プレス工程中の温度は、たとえば40℃〜150℃である。カレンダー法とオートクレーブ法との組み合わせは、実用上特に優れていることが判明している。これに代えて、真空ラミネータを使用することもできる。この真空ラミネータは、1つまたは複数の加熱可能かつ排気可能なチャンバから成り、このチャンバ内において、第1の板材と第2の板材とをたとえば約60分以内で、0.01ミリバール〜800ミリバールの降圧した圧力で、かつ80℃〜170℃の温度で貼り合わせる。
【0035】
本発明はさらに、本発明の方法を実施するための装置も包含する。本発明の装置は少なくとも、
・ベース板材から第1の板材を切り出すため、またはスクライビングするための切削工具と、
・ベース板材上の機能性コーティングにコーティング無し領域を形成するための除去工具と、
・切削工具および除去工具を移動させるための移動装置と
を備えている。
【0036】
有利な一実施形態では、切削工具は切削ホイール、ダイヤモンド先端部または超硬合金先端部を備えており、切削ホイールは有利には超硬合金から成る。特に有利には、切削工具は、特にベース板材と接触する領域において、冷却液を用いて冷却される。これに代わる有利な一実施形態では、切削工具はレーザビームを有する。
【0037】
また、ベース板材がガラス等の脆性材料から成る場合、切削工具はベース板材に切りつけるだけ、またはスクライビングするだけで、第1の板材はその後、たとえば僅かな機械的荷重によって、ベース板材から割断することも、もちろん可能である。
【0038】
他の有利な一実施形態では、除去工具はレーザビームを有する。レーザビームは、完全かつ迅速でありひいては低コストの除去を達成するために、特に有利である。
【0039】
他の有利な一実施形態では、移動装置はロボットまたは多軸ハンドリング装置を備えており、有利にはXY移動ステージを備えている。有利な一実施形態では、除去工具と切削工具とは互いに接続されており、または同一の移動装置によって互いに同時に移動する。このことによって、本発明の装置は特に簡単かつ低コストになる。
【0040】
本発明の装置の有利な一実施形態では、除去工具はレーザビームを有する。除去工具と切削工具とは、ベース板材が位置する一平面のそれぞれ反対側に配置されている。よって本装置は、切削工具がベース板材の一方の表面を加工することができ、かつレーザビームが当該ベース板材の反対側の表面から当該ベース板材に入射して、当該ベース板材を透過して機能性コーティングに当たるように構成されている。その際には、コーティングされた表面とは反対側の表面からレーザビームがベース板材に侵入できるように、ベース板材の機能性コーティングが配置された表面は、切削工具の方に向けられる。その際には、レーザビームがベース板材を通過した後に、機能性コーティングの、冷却液によって覆われている領域に当たるように、切削工具とレーザビームとを操作する。その際には、機能性コーティングの、ベース板材と当該機能性コーティングとの境界面とは反対側の面が冷却液によって覆われた状態で、レーザビームは当該境界面に入射する。このことによって奏される格別な利点は、‐既に上記にて述べたように‐機能性コーティングの除去された成分を冷却液中に拘束し、その後洗い流すことができることである。
【0041】
本発明はさらに、本発明の方法によって製造された、機能性コーティングを備えた複層板材も包含し、当該複層板材は少なくとも以下の構成を有する:
・表面IIIを有する第1の板材、表面IIを有する第2の板材、および熱可塑性の中間層。第1の板材の表面IIIと第2の板材の表面IIとは、熱可塑性の中間層によって面で結合されている。
・第1の板材の内側の表面IIIの少なくとも一部に設けられた少なくとも1つの機能性コーティング。
・機能性コーティングの内側領域を完全に包囲する少なくとも1つのコーティング無し領域。
【0042】
かかる構成によって、内側領域は第1の板材の側面エッジに接しないこととなる。
【0043】
有利な一実施形態では、コーティング無し領域は少なくとも部分的に、または有利には完全に、機能性コーティングの外側領域によって包囲されている。つまり、内側領域とコーティング無し領域とは、少なくとも部分的に、有利には完全に、機能性コーティングの外側領域の内側に入っている。
【0044】
「完全に包囲されている」とはここでは、コーティング無し領域が、機能性コーティングの周囲部のフレーム状の外側領域によって完全に包囲されていることを意味する。
【0045】
機能性コーティングの外側領域を、他のコーティング無し領域によって包囲することも可能であり、また、この他のコーティング無し領域を機能性コーティングの他の外側領域によって、少なくとも部分的に、有利には完全に包囲することも可能である。
【0046】
本発明では、内側領域と第1の板材の側面エッジとの間、または内側領域と1つの外側領域もしくは複数の外側領域との間には、機能性コーティングの材料の素材結合は存在しない。コーティング無し領域と内側領域の機能性コーティングとは、複層板材を製造するための貼り合わせ過程中は、中間層によって気密封止される。このようにして、複層板材の周辺から水分が機能性コーティングの内側領域に到達することがなくなり、内側領域の機能性コーティングの腐食は効果的に防止される。
【0047】
本発明の複層板材の有利な一実施形態では、コーティング無し領域はストリップ状であり、第1の板材の側面エッジに対して実質的に平行に配置されている。このことは、プロセス技術上特に有利である。というのも、除去工具を切削工具と平行に移動させることができ、これにより側面エッジに対して平行に、かつ第1の板材全体に沿って移動させることができるからである。内側領域が複層板材の周辺から素材的に確実に分離されることは、コーティング無し領域が第1の板材の角部分において交差することによって保証される。
【0048】
つまり、コーティング無し領域は、外側領域の機能性コーティングの周囲部のフレーム状の領域によって実質的に完全に包囲されている。これには、外側領域の内側の周囲部のフレーム状のコーティング無し領域と第1の板材の側面エッジとを繋ぐ、ストリップ状のコーティング無し領域の延長部分も付け加わる。この延長部分も、完成後の複層板材では中間層によって気密封止されるので、これが、機能性コーティングの耐食性に影響を及ぼすことはない。
【0049】
本発明の複層板材の他の有利な一実施形態では、1つまたは複数の各外側領域の幅bは0.5mm〜30mmであり、有利には3mm〜11mmである。この幅は、内側領域の縁辺に直交する寸法として定義される。かかる幅bが特に有利である理由は、確実な腐食防止を実現することができ、かつ黒色プリントまたは装飾プリントまたは車体によって隠すことができるからである。
【0050】
本発明の複層板材の特に有利な一実施形態では、外側領域は内側領域の周長の70%超を包囲し、有利には90%超を包囲する。つまり外側領域は、たとえばコーティング無しの通信窓またはバスバーへの供給線の領域等の僅かなゾーンでのみ取り除かれる、ということである。
【0051】
本発明の複層板材の他の有利な一実施形態では、第1のコーティング無し領域は第2のコーティング無し領域によって完全に包囲される。したがって、機能性コーティングが設けられた外側領域は第1のコーティング無し領域と第2のコーティング無し領域との間に配置される。特に有利には、第2のコーティング無し領域は第3のコーティング無し領域によって完全に包囲される。つまり、第2のコーティング無し領域と第3のコーティング無し領域との間に機能性コーティングを有するもう1つの第2の外側領域が配置されている、ということである。かかる第2ないしは第3のコーティング無し領域によって、特に良好な防湿性を達成することができ、これにより、特に良好な防食性を達成することができる。
【0052】
本発明の複層板材の他の有利な一実施形態では、コーティング無し領域の幅dは30μm〜30mmであり、有利には100μm〜2mmであり、特に有利には250μm〜1.5mmであり、特に250μm〜500μmである。このことによって奏される格別な利点は、かかる小さい幅のコーティング無し領域は非常に迅速かつ簡単に製造できることである。
【0053】
コーティング無し領域は、全ての適した技術的手法によって作製することができる。特に有利なのは、レーザ除去による除去である。このことによって奏される格別な利点は、かかる除去を迅速かつ正確に行えることである。レーザ除去は、その正確性のため、特に狭い幅dにも適している。
【0054】
第1の板材および第2の板材としては、基本的に、本発明の板材の製造条件および使用条件下において熱的および化学的に安定的であり、かつ寸法安定的であるあらゆる電気絶縁性基板が適している。
【0055】
第1の板材および/または第2の板材は、有利にはガラスを含み、特に有利には板ガラス、フロートガラス、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、石灰ソーダガラスまたはクリアプラスチック、有利には剛性のクリアプラスチック、とりわけポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリ塩化ビニルおよび/またはこれらの混合物を含む。第1の板材および/または第2の板材は有利には、特に車両のフロントガラスまたはリアガラスとして当該板材を使用するため、または、高い光透過率が望ましい他の用途のために、透明である。本発明において「透明」とは、板材が可視スペクトル領域において、70%を超える透過率を有することをいう。運転者の交通上重要な視界内に位置しないガラス、たとえばルーフガラスの場合には、透過率を格段に低くすること、たとえば5%超とすることもできる。
【0056】
各単板材の厚さは幅広く変動することができるので、個別的事例の要求に合わせて調整できるという点に優れている。有利には、車両用ガラスでは標準厚さが1.0mm〜25mm、有利には1.4mm〜2.5mmである板材が使用され、家具、機器および建物、とりわけ電気加熱体には、標準厚さが有利には4mm〜25mmの板材が用いられる。板材のサイズは幅広く変動することができ、本発明の使用のサイズに従って定まる。第1の板材と、場合によっては第2の板材の通常の面積は、たとえば車両産業や建築分野では200cm
2〜20m
2である。
【0057】
複層板材は、任意の3次元形状を有することができる。有利にはこの3次元形状は、たとえば陰極スパッタリングによってコーティングできるように、陰のゾーンを有しない。有利には、基板は平坦であるか、または、空間の1方向もしくは複数方向に軽くもしくはきつく湾曲している。特に、平坦な基板が用いられる。板材は無色または有色とすることができる。
【0058】
複数の単板材を少なくとも1つの中間層によって互いに結合することができる。中間層は有利には、少なくとも1種の熱可塑性プラスチックを含み、有利にはポリビニルブチラール(PVB)、エチレン酢酸ビニル(EVA)および/またはポリエチレンテレフタレート(PET)を含む。また熱可塑性の中間層は、ポリウレタン(PU)、ポリプロピレン(PP)、ポリアクリレート、ポリエチレン(PE)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリアセテート樹脂、注型用樹脂、アクリレート、フッ化エチレンプロピレン、ポリフッ化ビニルおよび/またはエチレン‐テトラフルオロエチレン、またはこれらのコポリマーもしくは混合物を含むこともできる。接着特性がより悪い中間層を、接着特性がより良好な中間層間に配置して貼り合わせることができる。これはたとえば、PVB/PET/PVB等である。熱可塑性の中間層は、1つの熱可塑性フィルムにより、または、複数の熱可塑性フィルムを積層したものにより構成することができる。その際には、1つの熱可塑性フィルムの厚さは有利には0.25mm〜1mm、典型的には0.38mmまたは0.76mmである。
【0059】
第1の板材と熱可塑性の中間層と第2の板材とから成る本発明の複層板材の場合、機能性コーティングは第1の板材に直接被着されている。第1および第2の各板材は、内側表面と外側表面とを有する。第1および第2の板材の内側表面は互いに向き合っており、熱可塑性の中間層を介して互いに結合されている。第1および第2の板材の外側表面は互いに反対側を向いており、かつ熱可塑性の中間層とは反対側を向いている。機能性コーティングは、第1の板材の内側表面に被着されている。もちろん、第2の板材の内側表面にも、別の機能性コーティングを被着することができる。板材の各外側表面も、コーティングを有することができる。「第1の板材」および「第2の板材」との用語は、本発明の複層板材における2つの板材を区別するために選択されたものであり、当該用語は、幾何学的配置について特定するものではない。本発明の板材がたとえば、車両または建物等の開口内に設けられて外部周辺から内側スペースを分離するためのものである場合、第1の板材はこの内側スペース側または外部周辺側に位置することができる。
【0060】
機能性コーティングは、有利には透明である。「透明」とはここでは、電磁波に対して透過性であるという意味であり、有利には、300nm〜1,300nmの波長の電磁波に対して、特に可視光に対して透過性であるという意味である。よって、本発明において「透明」とは、機能性コーティングを備えた複層板材が可視スペクトル領域において、70%を超える透過率を有することをいう。運転者の交通上重要な視界内に位置しない板材、たとえばルーフガラスの場合には、透過率を格段に低くすること、たとえば5%超とすることもできる。
【0061】
機能性コーティングが複層板材の電気加熱に用いられる場合、機能性コーティングは導電性の機能性コーティングとして構成されており、有利には、透明導電性の機能性コーティングとして構成されている。
【0062】
本発明の導電性の機能性コーティングは、たとえば独国特許実用新案第202008017611号明細書(DE 20 2008 017 611 U1)、欧州特許第0847965号明細書(EP 0 847 965 B1)または国際公開第2012/052315号(WO2012/052315 A1)から公知である。その導電性コーティングは典型的には、1つまたは複数の機能層を、たとえば2つ、3つまたは4つの導電性の機能層を含む。この機能層は有利には少なくとも1種の金属、たとえば銀、金、銅、ニッケルならびに/もしくはクロム、または金属合金を含む。機能層は特に有利には、少なくとも90重量%の金属、とりわけ少なくとも99.9重量%の金属を含む。機能層は、上述の金属または金属合金から成ることができる。機能層は特に有利には、銀または銀含有合金を含む。かかる機能層は、特に有利な導電性を示すと同時に、可視スペクトル領域において高い透過率を示す。機能層の厚さは、有利には5nm〜50nmであり、特に有利には8nm〜25nmである。機能層の厚さの上述の範囲内では、可視スペクトル領域において有利な高さの透過率と、特に有利な導電性とが達成される。
【0063】
典型的には、機能性コーティングの各2つの隣接する機能層間にそれぞれ、少なくとも1つの誘電体層が配置されている。有利には、最初の機能層の下方および/または最後の機能層の上方に、さらに別の誘電体層が配置されている。誘電体層は、たとえば窒化シリコン等の窒化物または酸化アルミニウム等の酸化物等を含有する誘電体材料から成る少なくとも1つの単層を含む。また、誘電体層は複数の単層を含むこともでき、たとえば誘電体材料の複数の単層、平坦化層、整合層、ブロック層および/または反射防止層を含むこともできる。1つの誘電体層の厚さは、たとえば10nm〜200nmである。
【0064】
かかる積層体は一般的に、磁場アシスト陰極スパッタリング等の真空法により行われる成膜プロセスの連続によって得られる。
【0065】
他の適した機能性コーティングは有利には、インジウム錫酸化物(ITO)、フッ素ドープされた酸化錫(SnO
2:F)またはアルミニウムドープされた酸化亜鉛(ZnO:Al)を含む。
【0066】
電気加熱層として使用される機能性コーティングは原則的に、電気的にコンタクトできるあらゆるコーティングとすることができる。本発明の板材が、たとえば窓領域の板材のように透視性を可能とするものである場合、機能性コーティングは有利には透明である。
【0067】
1つの有利な実施形態では機能性コーティングは、総厚が2μm以下、特に有利には1μm以下の1つの層または複数の単層の積層体である。
【0068】
電気加熱層として使用される本発明の有利な機能性コーティングは、0.4Ω/□〜10Ω/□のシート抵抗を有する。特に有利な一実施形態では、本発明の機能性コーティングは0.5Ω/□〜1Ω/□のシート抵抗を有する。かかるシート抵抗のコーティングは、12V〜48Vの典型的な車載電圧の場合において車両ガラスを加熱するため、または最大500Vの典型的な車載電圧の電気自動車において、特に適している。
【0069】
有利な一実施形態では、本発明の複層板材は、電圧源に接続される少なくとも2つのバスバーを備えており、これらのバスバーは、各バスバー間に加熱電流の電流路を形成するように、導電性の機能性コーティングに接続されており、有利には透明導電性の機能性コーティングに接続されている。
【0070】
バスバーは有利には、導電性の機能性コーティングの内側領域の上側面エッジと下側面エッジとに沿って配置されている。バスバーの長さは典型的には、内側領域の長さと実質的に等しいが、より短くすることも可能である。また、2つより多くのバスバーを導電性の機能性コーティング上に配置することもでき、有利には、内側領域の2つの相対向する側面エッジに沿った縁部領域に配置することができる。また、1つの機能性コーティングに2つ以上の独立した加熱場を形成するため、またはバスバーを1つもしくは複数のコーティング無しゾーンによって切り離し、もしくは移動させる場合に、機能性コーティングに2つより多くのバスバーを配置することも可能である。
【0071】
1つの有利な実施形態では、本発明のバスバーは、印刷および焼成された導電パターン部として形成されている。印刷されたバスバーは有利には、少なくとも1種の金属、金属合金、金属化合物および/または炭素、特に有利には貴金属と、とりわけ銀を含む。印刷ペーストは有利には、金属性の粒子、金属粒子および/または炭素と、とりわけ貴金属粒子、たとえば銀粒子等を含む。その導電性は、有利には導電性粒子によって達成される。粒子は、有利にはガラスフリットを含む印刷ペーストとして、ペーストまたはインク等の有機および/または無機マトリクス中に存在することができる。
【0072】
第1および第2の各バスバーの幅は、有利には2mm〜30mmであり、特に有利には4mm〜20mmであり、とりわけ10mm〜20mmである。これよりバスバーを細くすると電気抵抗が過度に高くなり、これにより、動作中のバスバーの加熱が過度に大きくなる。さらに、より細いバスバーをスクリーン印刷等の印刷技術によって作製することは、非常に困難である。バスバーをより太くすると、所要材料使用量が望ましい量より多くなる。さらに、バスバーをより太くすると、板材の透視領域が過度に大きく制限され、美観的に好ましくない。バスバーの長さは、電気加熱層の寸法に応じて定まる。典型的にはストリップ形状のバスバーの場合、当該バスバーの寸法のうち長い方の寸法を「長さ」と称し、当該バスバーの寸法のうち短い方の寸法を「幅」と称する。第3または追加のバスバーは、より細くすることもでき、有利には0.6mm〜5mmとすることができる。
【0073】
印刷されたバスバーの層厚は、有利には5μm〜40μmであり、特に有利には8μm〜20μmであり、非常に傑出して有利には8μm〜12μmである。上述の厚さの印刷されたバスバーは、技術的に簡単に実現することができ、有利な電流容量を有する。
【0074】
バスバーの比抵抗ρ
aは、有利には0.8μΩ・cm〜7.0μΩ・cm、特に有利には1.0μΩ・cm〜2.5μΩ・cmである。かかる範囲内の比抵抗を有するバスバーは、技術的に簡単に実現することができ、有利な電流容量を有する。
【0075】
これに代えて、バスバーを導電性フィルムのストリップとすることも可能である。その際にはバスバーは、たとえば少なくともアルミニウム、銅、錫めっきされた銅、金、銀、亜鉛、タングステンならびに/もしくは錫またはその合金を含む。かかるストリップは、有利には10μm〜500μmの厚さ、特に有利には30μm〜300μmの厚さを有する。上述の厚さの導電性フィルムから成るバスバーは、技術的に簡単に実現することができ、有利な電流容量を有する。ストリップは、たとえばはんだ材、導電性接着剤または直接載置により、上述の導電パターン部に導電接続することができる。
【0076】
機能性コーティングは、第1の板材の表面全体にわたって延在することができる。これに代えて、機能性コーティングは第1の板材の表面の一部のみにわたって延在することもできる。機能性コーティングは有利には、第1の板材の内側表面の少なくとも50%にわたって、特に有利には少なくとも70%にわたって、非常に傑出して有利には少なくとも90%にわたって延在する。機能性コーティングは内側領域および/または外側領域において、1つまたは複数のコーティング無しゾーンを有することができる。このゾーンは、電磁波に対しては透過性とすることができ、たとえばデータ伝送窓または通信窓として知られている。
【0077】
給電線は有利には、フレキシブルなフィルム導体(フラット導体、フラットリボン導体)として構成されている。これは、幅が厚さより格段に大きい電気導体をいう。かかるフィルム導体はたとえば、銅、錫めっきされた銅、アルミニウム、銀、金もしくはその合金を含むまたはこれから成るストリップまたはリボンである。フィルム導体はたとえば、2mm〜16mmの幅と、0.03mm〜0.1mmの厚さとを有する。フィルム導体は、絶縁性の、有利にはポリマーの外被を備えることができ、かかる外被はたとえばポリイミド系である。板材内の導電性コーティングのコンタクトを行うのに適したフィルム導体の総厚は、たとえば0.3mmのみである。かかる薄さのフィルム導体は、困難を伴わずに、各板材間において熱可塑性の中間層内に埋め込むことができる。フィルム導体リボン内には、互いに電気的に絶縁された複数の導電層を設けることができる。
【0078】
これに代えて、細い金属ワイヤを給電線として使用することもできる。かかる金属ワイヤは、とりわけ銅、タングステン、金、銀、アルミニウムまたはこれらのうち少なくとも2種の金属の合金を含む。合金は、モリブデン、レニウム、オスミウム、イリジウム、パラジウムまたは白金を含むこともできる。
【0079】
本発明はさらに、建物において、特に出入口領域、窓領域、屋根領域またはファサード領域において、家具および機器の組付部品として、地上交通用移動手段、航空用移動手段または水上交通用移動手段において、とりわけ列車、船舶ならびに自動車において、たとえばフロントガラス、リアガラス、サイドガラスおよび/またはルーフガラスとしての、本発明の方法により製造された、機能性コーティングを備えた複層板材の使用も包含する。
【0080】
以下、図面と実施例とを参照して本発明を詳細に説明する。本図面は概略図であり、実寸の比率通りではない。また、本図面は本発明を何ら限定するものでもない。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【
図1A】本発明の方法を実施するための本発明の装置を概略的に示す斜視図である。
【
図1B】
図1Aのベース板材1’の切断線E‐E’に沿った断面図である。
【
図1C】
図1Aに依拠した、本発明の方法を実施するための本発明の他の代替的な装置の、ベース板材1’の切断線E‐E’に沿った断面図である。
【
図2】本発明の方法の一実施形態の詳細なフローチャートである。
【
図3A】本発明の方法のステップ(b)の後の、
図1Aの第1の板材1の切断線F‐F’に沿った断面図である。
【
図3B】本発明の方法のステップ(c)の後の、
図1Aの第1の板材1の切断線F‐F’に沿った断面図である。
【
図4A】本発明の一実施形態の、機能性コーティングを備えた複層板材の平面図である。
【
図4B】
図4Aの本発明の複層板材の切断線B‐B’に沿った断面図である。
【
図5A】本発明の他の代替的な一実施形態の、機能性コーティングを備えた複層板材の平面図である。
【
図5B】
図5Aの複層板材の切断線A‐A’に沿った断面図である。
【
図6A】本発明の他の一実施形態の、機能性コーティングを備えた複層板材の平面図である。
【
図6B】
図6Aの本発明の複層板材の切断線B‐B’に沿った断面図である。
【
図7A】本発明の他の一実施形態の、機能性コーティングを備えた複層板材の平面図である。
【
図7B】
図7Aの本発明の複層板材の切断線C‐C’に沿った断面図である。
【
図8A】本発明の他の一実施形態の、機能性コーティングを備えた複層板材の平面図である。
【
図8B】
図8Aの本発明の複層板材の切断線D‐D’に沿った断面図である。
【0082】
図1Aは、本発明の方法を実施するための本発明の装置30を概略的に示す斜視図である。装置30は、比較的大きな板材から第1の板材1を切り出すための切削工具18を備えている。以下、この比較的大きな板材を「ベース板材1’」という。このベース板材1’上に、機能性コーティング3が配置されている。
【0083】
図1Bは、切断線E‐E’に対して平行でありかつベース板材1’と直交する切断面に沿った、
図1Aの本発明の装置30の断面図である。
【0084】
切削工具18は本実施例では、超硬合金から成る切削ホイール16である。もちろん、たとえばダイヤモンドニードルまたはレーザ等の他の切削工具18を使用することも可能である。また、ベース板材1’がガラスから成る場合、切削工具18はベース板材1’に切りつけるだけ、またはスクライビングするだけで、第1の板材1はその後、たとえば僅かな機械的荷重によって、ベース板材1’から割断することも、もちろん可能である。
【0085】
装置30はさらに、機能性コーティング3にコーティング無し領域9.1を形成するための除去工具17も備えている。除去工具17は、本実施例ではレーザビーム15である。レーザビーム15は、ベース板材1’の表面III上の機能性コーティング3へ送られる。ここで、機能性コーティング3はレーザビーム15の作用を受けて、たとえば蒸発によって除去される。
【0086】
もちろん、除去工具17を研磨ホイールまたは他の適切な工具とすることも可能である。
【0087】
本発明の装置30はさらに、切削工具18と除去工具17とを移動させるための移動装置19も備えている。本実施例では、移動装置19はXY移動ステージ20であり、これは、工具18,19をベース板材1’の平面内において一緒に移動させるものである。移動装置19としては、他のあらゆる適切な装置を使用することもでき、たとえば多軸ハンドリング装置またはロボットを使用することができる。
【0088】
また、レーザビーム15を第1の板材1に透過させ、その後に初めて機能性コーティング3に入射させるように、除去工具17、特にレーザを、ベース板材1’の他方の面に配置することもできる。この構成が奏する格別な利点は、機能性コーティング3の蒸発した材料がレーザビーム15の光路に達することがないので、レーザビーム15は散乱せず、また減衰もせず、比較的高いパターニング精度を達成できることである。
【0089】
図1Cは、本発明の方法を実施するための本発明の他の代替的な一実施形態の装置を示している。本実施形態では、除去工具17はレーザであり、
図1Bとは対照的に、レーザビーム15を第1の板材1に透過させ、その後に初めて機能性コーティング3に入射させるように、ベース板材1’の、切削工具18とは反対側の面に、レーザが配置されている。有利には、切削工具18の切削ホイール16は機能性コーティング3の一部領域と共に、冷却液21によって、たとえば切削油によって冷却され、これは、機能性コーティング3の少なくとも一部領域を濡らす。有利には、レーザビーム15は第1の板材1を通過して、第1の板材1とは反対側の面が冷却液21によって濡れている機能性コーティング3に入射する。このレーザビーム15は、切削ホイール16と機能性コーティング3との接触場所の直ぐ隣に送ることができ、または切削ホイール16による処理後の機能性コーティング3上に冷却液が流れた跡を辿ることができる。この構成が奏する格別な利点は、機能性コーティング3の蒸発した材料が冷却液21によって拘束され、これにより、冷却液21を通って拡散すること、または機能性コーティング3の隣接区域に堆積することがないことである。典型的には、第1の板材1の表面上に残った冷却液21は後続のステップにおいて洗い流され、これにより、冷却液21に拘束された機能性コーティング3の除去された材料が取り除かれる。
【0090】
図2は、本発明の一実施例の、機能性コーティング3を備えた複層板材100の製造方法のフローチャートである。
【0091】
ステップ(a)において、たとえば陰極スパッタリング法を用いて、ベース板材1’の表面III上に機能性コーティング3を設ける。
【0092】
ステップ(b)において、切削工具18によってベース板材1’から第1の板材1を切り出し、またはスクライビングし、かつ除去工具17によって機能性コーティング3に、フレーム状の周囲部の少なくとも1つのコーティング無し領域9.1を形成して、第1の板材1において機能性コーティング3の内側領域11が当該機能性コーティング3の外側領域10.1から完全に切り離され、内側領域11が第1の板材1の側面エッジ6に接続しないようにする。
【0093】
ステップ(c)において、熱可塑性の中間層4を介して、機能性コーティング3が設けられた第1の板材1の表面IIIと第2の板材2の表面IIとを結合する。
【0094】
図3Aは、ステップ(b)の後の第1の板材1の切断線F‐F’に沿った断面図である。コーティング無し領域9.1において、機能性コーティング3は幅d
1にわたって完全に除去される。これにより、機能性コーティング3は内側領域11と外側領域10.1とに分割される。具体的には、内側領域11の機能性コーティング3の材料は外側領域10.1と素材結合しなくなる、ということである。
【0095】
次にステップ(c)において、たとえばオートクレーブ内で、通常の貼り合わせプロセスによって、熱可塑性の中間層4を介して第1の板材1と第2の板材2とを結合する。
図3Bは、本発明の方法により製造された、貼り合わされた複層板材100を示す。
【0096】
図4Aは、本発明の一実施例の、機能性コーティング3を備えた複層板材100の平面図である。
図4Bは、
図4Aの本発明の複層板材100の切断線B‐B’に沿った断面図である。複層板材100は第1の板材1と第2の板材2と熱可塑性の中間層4とを備えており、この中間層4は、第1の板材1の表面IIIと第2の板材2の表面IIとを面で結合する。第1の板材1および第2の板材2は、たとえば石灰ソーダガラスから成る。第1の板材1の厚さはたとえば1.6mmであり、第2の板材2の厚さは2.1mmである。熱可塑性の中間層4は、たとえばポリビニルブチラール(PVB)から成り、0.76mmの厚さを有する。複層板材100の寸法は、たとえば1m×1mである。
【0097】
第1の板材1の表面III上に、透明導電性のコーティングから成る機能性コーティング3が設けられており、これはたとえば、赤外線反射層または電気加熱層として機能することができる。機能性コーティング3は、たとえば3つの導電性の銀層を誘電体層によって互いに分離したものを含む積層体である。
【0098】
機能性コーティング3はたとえば、当該機能性コーティング3の内側領域11を当該機能性コーティング3の外側領域10.1から完全に切り離す周囲部のフレーム状のコーティング無し領域9.1を除いて、第1の板材1の表面III全体にわたって延在している。つまり、内側領域11は第1の板材1の側面エッジ6に接続していない。同図中の実施例では、周囲部のフレーム状のコーティング無し領域9.1は方形の形状を有し、本実施例では正方形に除去された、幅d
1の線を有し、この線は全周にわたって、複層板材100の側面エッジ6から距離b
1だけ板材内側に向かって引っ込んでいる。距離b
1は、本実施例では外側領域10.1の幅であり、たとえば5mmである。コーティング無し領域9.1の幅d
1はたとえば一定であり、たとえば300μmである。かかる構成によって、機能性コーティング3の内側領域11が第1の板材1の側面エッジ6に接続することが回避される。これによって複層板材100において、機能性コーティング3が複層板材100外部の大気と直接接触することが回避される。中間層4を用いて第1の板材1と第2の板材2とを貼り合わせることにより、コーティング無し領域9.1に中間層4の材料が完全に充填され、内側領域11は気密封止される。このことによって、内側領域11における機能性コーティング3は水分から有効に保護され、これにより腐食が防止される。本願発明者の試験により、驚くべきことに、内側領域11における機能性コーティング3の腐食を防止するためには、既に30μmの幅d
1で十分であるという結果が得られた。もちろん、上述の本発明の腐食防止作用を阻害することなく、内側領域11内または外側領域10.1内の機能性コーティング3の他の区域をコーティング無しとすることもできる。狭幅のコーティング無し領域9.1は、たとえば機能性コーティング3のレーザ除去によって作製することができる。このことによって奏される格別な利点は、本発明の複層板材100を迅速かつ低コストで作製できることである。
【0099】
図5Aは、本発明の他の代替的な一実施形態の複層板材100’の平面図である。
図5Bは、
図5Aの複層板材の切断線A‐A’に沿った断面図である。複層板材100’の基本的構成は、材料および寸法については、
図4Aおよび
図4Bの本発明の複層板材100に相当する。複層板材100’も同様に機能性コーティング3を備えており、これは第1の板材1の表面III上に配置されている。
【0100】
図4Aおよび
図4Bの本発明の複層板材100との相違点は、複層板材101は第1の板材1の縁部領域12において、15mmの幅d
1のコーティング無し領域9.1を有し、これが板材エッジ6まで延在していることである。つまり複層板材101は、機能性コーティング3から成る外側領域9.1を有しない。
【0101】
図6Aは、本発明の他の代替的な一実施形態の、機能性コーティング3を備えた複層板材100の平面図である。
図6Bは、
図6Aの本発明の複層板材100の切断線B‐B’に沿った断面図である。
図6Aおよび
図6Bの複層板材100の構成は基本的に、
図4Aおよび
図4Bの複層板材100の構成に相当するので、以下では両複層板材100の相違点のみを説明する。
【0102】
機能性コーティング3は
図4Aの実施例と同様に、当該機能性コーティング3の内側領域11が第1の板材1の側面エッジ6に接続しないように当該内部領域11を当該機能性コーティング3の外側領域10.1から完全に切り離す周囲部のフレーム状のコーティング無し領域9.1を除いて、第1の板材1の表面III全体にわたって延在している。
図6Aの実施例が
図4Aと相違する点は、コーティング無し領域9.1が、第1の板材1の側面エッジ6に対して平行に延在するストリップによって構成されていることである。これらのストリップは、第1の板材1の角領域においてそれぞれ交差する。ストリップがこのように交差することにより、コーティング無し領域9.1に相当する、周囲部のフレーム状の領域が形成され、この領域は機能性コーティング3を第1の板材1の側面エッジ6から完全に切り離す。このことによって、完成後の複層板材100では、内側領域11の機能性コーティング3は複層板材100の周辺から気密封止され、外部から侵入する水分から保護される。
図4Aの実施例との相違点として、
図6Aのコーティング無し領域9.1は、第1の板材の角領域においてコーティング無し領域9.1を側面エッジ6まで延長した延長部分16を有する。この延長部分16も、熱可塑性の中間層4による貼り合わせ後には気密封止されるので、この延長部分16においても、水分が内側領域11の機能性コーティング3に達することはない。複数の平行に延在するかかるストリップから成るコーティング無し領域9.1は、製造技術的に特に簡単に作製することができ、たとえば、比較的大きなベース板材から第1の板材1を切り出す他の工具、または切り離すためにスクライビングする他の工具に対して、コーティング無し領域9.1の除去のための除去工具、たとえばレーザ等を平行に移動させることによって、特に簡単に作製することができる。
【0103】
図7Aは、本発明の他の代替的な一実施形態の、機能性コーティング3を備えた複層板材100の平面図である。
図7Bは、
図7Aの本発明の複層板材100の切断線C‐C’に沿った断面図である。
図7Aおよび
図7Bの複層板材100の構成は基本的に、
図6Aおよび
図6Bの複層板材100の構成に相当するので、以下では両複層板材100の相違点のみを説明する。
【0104】
本実施例にて示されている複層板材100は、コーティング無し領域9.1の他にさらに、他のコーティング無し領域9.2も有し、これをコーティング無し領域9.1がフレーム状に一周している。コーティング無し領域9.2はたとえば、100μmの幅d
2を有し、コーティング無し領域9.1からコーティング無し領域9.2までの距離b
2は2mmである。両コーティング無し領域9.1,9.2は、第1の板材1の側面エッジ6に対して平行に延在するストリップによって構成され、これらのストリップは第1の板材1の角部においてそれぞれ交差し、かつ延長部分16を有する。つまり、第1の板材1の機能性コーティング3の内側領域11は少なくとも、幅d
1の除去された領域9.1と幅d
2の除去された領域9.2とによって側面エッジ6から分離されている、ということである。このことによって、完成後の複層板材100では、当該複層板材100の周辺の大気からの内側領域11の切り離しが2重に拡張され、よって当該切り離しが改善し、これによって水分からの保護が改善し、ひいては防食性が改善する。
【0105】
図8Aは、本発明の他の一実施例の、電気加熱層の形態の機能性コーティング3を備えた複層板材100の平面図である。複層板材100は第1の板材1と第2の板材2とを備えており、これらは熱可塑性の中間層4を介して互いに結合されている。複層板材100はたとえば車両用ガラスであり、特に乗用自動車のフロントガラスである。第1の板材1はたとえば、組付状態において車内スペース側に配置されるために構成されている。第1の板材1および第2の板材2は石灰ソーダガラスから成る。第1の板材1の厚さはたとえば1.6mmであり、第2の板材2の厚さは2.1mmである。熱可塑性の中間層4はポリビニルブチラール(PVB)から成り、0.76mmの厚さを有する。第1の板材1の内側の表面III上に、導電性のコーティングから成る機能性コーティング3が設けられており、これは、電気加熱層として使用することができる。機能性コーティング3は、たとえば3つの導電性の銀層を誘電体層によって互いに分離したものを含む積層体である。この導電性の機能性コーティング3に電流が流れると、機能性コーティング3の電気抵抗とジュール熱発生とにより、当該機能性コーティング3は加熱される。よって、機能性コーティング3は複層板材100の能動加熱に使用され得る。
【0106】
機能性コーティング3はたとえば、100μm幅d
1の周囲部のフレーム状のコーティング無し領域9.1を除いて、第1の板材1の表面III全体にわたって延在している。コーティング無し領域9.1は、板材エッジ6からたとえば5mmの距離b
1だけ板材内側にずれている。コーティング無し領域9.1はここでは2つの技術的役割を果たす。すなわち、機能性コーティング3が電気加熱される場合に、電圧を送る機能性コーティング3と車体との電気絶縁の機能を果たし、また、コーティング無し領域9.1は中間層4による接着によって気密封止されて、内側領域11の機能性コーティング3を損傷や水分から保護し、これにより腐食を防止する。
【0107】
電気加熱層として機能する機能性コーティング3の電気的コンタクトを行うためには、機能性コーティング3の内側領域11の下縁部領域に第1のバスバー5.1を配置し、かつ上縁部領域に第2のバスバー5.2を配置する。これらのバスバー5.1,5.2はたとえば銀粒子を含み、スクリーン印刷法で塗布され、その後焼成されている。バスバー5.1,5.2の長さは、機能性コーティング3の内側領域11の寸法にほぼ等しい。
【0108】
バスバー5.1,5.2に電圧が印加されると、導電性の機能性コーティング3内にバスバー5.1,5.2間において均一な電流が流れる。各バスバー5.1,5.2のほぼ中央に、給電線7が配置されている。この給電線7は、自明のフィルム導体である。給電線7はコンタクト面を介してバスバー5.1,5.2に導電接続されており、たとえばはんだ材、導電性接着材を用いて、または単に載置して複層板材100の内側に押し付けることにより、導電接続されている。フィルム導体はたとえば、銅フィルムに錫めっきを施したものを含み、その幅は10mmであり、厚さは0.3mmである。給電線7を介して、バスバー5.1,5.2は接続ケーブル13を介して、自動車において通常の車載電圧を、有利には12V〜15Vの車載電圧、たとえば約14Vの車載電圧を出力する電圧源14に接続されている。これに代えて、電圧源14の電圧をより高くすることもでき、たとえば35V〜50V、特に42Vまたは48Vとすることもできる。
【0109】
もちろん、機能性コーティング3は加熱機能の他にさらに別の機能を、たとえば赤外線反射機能またはLow‐E特性を有することもできる。
【0110】
複層板材100には、板材幅のほぼ中央に、コーティング無しゾーン8が配置されている。コーティング無しゾーン8は、機能性コーティング3の導電性材料を有しない。コーティング無しゾーン8は、ここではたとえば、機能性コーティング3によって完全に包囲されている。これに代えて、コーティング無しゾーン8を機能性コーティング3の縁部に配置することもできる。コーティング無しゾーン8の面積は、たとえば1.5dm
2である。コーティング無しゾーン8の下端部は、追加のバスバー5.3に接しており、この追加のバスバー5.3は、コーティング無しゾーン8の下側を縁取っている。コーティング無しゾーン8はたとえば、通信窓、センサ窓またはカメラ窓として機能する。
【0111】
バスバー5.1,5.2,5.3は、図中の実施例ではたとえば約10μmの一定の幅と、たとえば2.3μΩ・cmの一定の比抵抗とを有する。
【0112】
本発明の方法により製造された複層板材100,101に、通常の腐食試験を行った:
a)温度70℃かつ空気相対湿度100%で300時間の持続時間にわたる湿度試験、および
b)空気相対湿度85%かつ85℃から−40℃への温度変動での、各12時間の持続時間の20サイクルでの気候変動試験。
c)温度35℃で960時間に及ぶ、塩化ナトリウム水溶液を用いた塩水噴霧試験。
【0113】
本発明により製造された複層板材100,101はいずれも、上記の腐食試験において非常に良好な耐食性を示している。
【符号の説明】
【0114】
1 第1の板材
2 第2の板材
3 機能性コーティング
4 熱可塑性の中間層
5.1,5.2,5.3 バスバー
6 第1の板材1の側面エッジ
7 給電線
8 コーティング無しゾーン、通信窓
9.1,9.2 コーティング無し領域
10.1,10.2 外側領域
11 内側領域
12 縁部領域
13 接続ケーブル
14 電圧源
15 レーザビーム
16 切削ホイール
17 除去工具
18 切削工具
19 移動装置
20 XY移動ステージ
21 冷却液
30 本発明の装置
100,101 本発明の複層板材
II 第2の板材2の表面
III 第1の板材1の内側表面
IV 第1の板材1の外側表面
A−A’,B−B’,C−C’,D−D’,E−E’,F−F’ 切断線
b
1,b
2 外側領域10.1,10.2の幅
d
1,d
2 コーティング無し領域9.1,9.2の幅
x,y 方向
【国際調査報告】