(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2018-507293(P2018-507293A)
(43)【公表日】2018年3月15日
(54)【発明の名称】多糖類懸濁液、その調製方法、及びその使用
(51)【国際特許分類】
C08L 5/00 20060101AFI20180216BHJP
C08B 37/00 20060101ALI20180216BHJP
A23L 29/20 20160101ALI20180216BHJP
C08L 3/00 20060101ALI20180216BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20180216BHJP
C08K 3/30 20060101ALI20180216BHJP
C08L 23/02 20060101ALI20180216BHJP
C08L 21/02 20060101ALI20180216BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20180216BHJP
C08L 101/14 20060101ALI20180216BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20180216BHJP
C08J 3/05 20060101ALI20180216BHJP
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A61K 8/73 20060101ALN20180216BHJP
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A61K 47/36 20060101ALN20180216BHJP
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A61K 47/02 20060101ALN20180216BHJP
A61K 47/04 20060101ALN20180216BHJP
A61K 47/32 20060101ALN20180216BHJP
A61K 47/34 20170101ALN20180216BHJP
【FI】
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A61K8/73
A61K9/10
A61K47/36
A61K9/14
A61K47/02
A61K47/04
A61K47/32
A61K47/34
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-541265(P2017-541265)
(86)(22)【出願日】2016年2月3日
(85)【翻訳文提出日】2017年8月4日
(86)【国際出願番号】AT2016000007
(87)【国際公開番号】WO2016123644
(87)【国際公開日】20160811
(31)【優先権主張番号】A56/2015
(32)【優先日】2015年2月6日
(33)【優先権主張国】AT
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】500077889
【氏名又は名称】レンツィング アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】オピエントニク マルティナ
(72)【発明者】
【氏名】マナー ヨハン
(72)【発明者】
【氏名】ハーガー マルクス
(72)【発明者】
【氏名】レートリンガー ジークリット
(72)【発明者】
【氏名】クローナー ゲルト
【テーマコード(参考)】
4B041
4C076
4C083
4C090
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
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(57)【要約】
本発明は、α(1→3)−グルカンを含有する新規な安定コロイド多糖類懸濁液、その調製のための費用効率の高い方法、及びこれらの多糖類懸濁液の使用可能性に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相安定コロイド多糖類懸濁液であって、
多糖類が少なくとも部分的にα(1→3)−グルカンからなり、
前記α(1→3)−グルカンがその調製中に未乾燥であり、
前記懸濁液は、多糖類含有量が4〜80重量%(好ましくは15〜45重量%)であるプレスケーキから調製され、
前記懸濁液の多糖類濃度が0.01〜50重量%(好ましくは1.0〜20重量%)であることを特徴とする、相安定コロイド多糖類懸濁液。
【請求項2】
前記多糖類のα(1→3)−グルカン含有量が1〜100重量%(より好ましくは80〜100重量%)であることを特徴とする、請求項1に記載の多糖類懸濁液。
【請求項3】
前記α(1→3)−グルカンの少なくとも90%がヘキソース単位からなり、前記ヘキソース単位の少なくとも50%がα(1→3)−グリコシド結合を介して連結されている、請求項1に記載の多糖類懸濁液。
【請求項4】
多糖類材料以外に、顔料、酸化チタン(特に、準化学量論的二酸化チタン)、硫酸バリウム、イオン交換体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ラテックス、活性炭、高分子超吸収剤、及び難燃剤からなる群から選択される添加剤を、前記多糖類の量に対して1〜200重量%含有する、請求項1に記載の多糖類懸濁液。
【請求項5】
(a)使用する基材が、少なくとも部分的にα(1→3)−グルカンからなる、初期湿潤多糖類材料のプレスケーキであり、
(b)前記プレスケーキが、(プレスケーキ全体に対して)4〜80重量%(好ましくは15〜45重量%)の固形分を有し、
(c)所望の多糖類濃度が、(懸濁液全体に対して)0.01〜50重量%(好ましくは1.0〜20重量%)に調整され、
(d)続いて、分散装置を用いた粉砕が行われる、
ことを特徴とする、多糖類懸濁液を調製するための方法。
【請求項6】
工程(d)の後に、好ましくは高圧ホモジナイザーを用いた分散装置による更なる処理が行われる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
使用される前記α(1→3)−グルカンの重合度(重量平均DPw)が200〜2000(好ましくは400〜1000)である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
多糖類層の製造における、請求項1に記載の多糖類懸濁液の使用。
【請求項9】
接着効果が、乾燥及び水素結合の形成によって達成される、他の材料の結合剤としての請求項1に記載の多糖類懸濁液の使用。
【請求項10】
前記他の材料が不織材料である、請求項9に記載の多糖類懸濁液の使用。
【請求項11】
前記他の材料の量が、前記多糖類の量に対して200〜1000重量%である、請求項9に記載の多糖類懸濁液の使用。
【請求項12】
乾燥多糖類粉末の調製における、請求項1に記載の多糖類懸濁液の使用。
【請求項13】
噴霧乾燥によって調製される、請求項12に記載の乾燥多糖類粉末。
【請求項14】
粘度調整剤としての、請求項1に記載の多糖類懸濁液の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α(1→3)−グルカンを含有する新規な安定コロイド状多糖類懸濁液、その調製のための費用効率の高い方法及びこれらの多糖類懸濁液の使用可能性に関する。このような懸濁液は、しばしば「ゲル」とも呼ばれ、本発明では、両方の用語は同義語として解釈される。
【背景技術】
【0002】
キサンタンガム、アルギン酸塩、グアーガム、デンプン等の天然多糖類、及びカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルプロピルセルロース等のセルロース誘導体は、水中でコロイドとして溶解し、特定の条件下でゲル形成能を示すことが知られている。これらの水への溶解度のために、上記の物質は安定なコロイド懸濁液を形成しない。
【0003】
セルロースは世界中で最も良く遭遇する多糖類である。I型セルロース構造を有するナノフィブリルセルロース及び繊維状パルプゲルからの懸濁液の調製はそれぞれ公知である。関連する先行技術の特許及び刊行物が、特許文献1に引用されている。アミンオキシド法によるII型セルロース構造を有するセルロースゲルの調製が、特許文献1に記載されている。一方、高圧ホモジナイザーを用いて、セルロース濃度が0.1〜4.0重量%であり、保水能力が500〜5000%である相安定セルロース懸濁液を、比較的高いセルロース含有量(例えば、13重量%のセルロース)を有する紡糸原液からアミンオキシド法により調製することも可能であることが判明した。
【0004】
ミクロフィブリル化セルロース又はその他のタイプのナノセルロースと比較して、アミンオキシド法(使用される溶媒は第3級アミンオキシド、好ましくはN−メチルモルホリンオキシドである)に従って調製されたセルロースゲルは、製品として著しい有利性を示す。つまり、それらはもはや繊維状構造を有さず、主に等方性であるという有利性である。粒子は高度に膨潤し、3次元ネットワークを形成する。これらのゲルは、紡糸原液から種々の成形体を沈殿させ、酵素処理、粗粉砕及びその後の高圧ホモジナイザーでの粉砕によってこれらの成形体を弱化させることによって得ることができる。
【0005】
特許文献2は、α(1→3)−グリコシド結合を介して連結されたヘキソース繰返し単位から実質的になる多糖類の溶液を紡糸することによって得られる繊維を記載している。これらの多糖類は、サッカロース水溶液を、Streptococcus salivariusから単離されたGtfJグルコシルトランスフェラーゼと接触させることによって調製することができる(非特許文献1)。本明細書において使用される場合、「実質的に」とは、多糖類鎖内に他の結合配置が生じる散発性欠損(sporadic defects)が存在し得ることを意味する。本発明の目的のために、これらの多糖類を「α(1→3)−グルカン」と称する。
【0006】
このようなグルカンの調製の開示は特許文献3に見出すことができる。特許文献3に記載されている多糖類混合物は、α(1→3)−、α(1→6)−、(1→2)−及び(1→4)−連結されたグルカン類を含有するが、その比率については更に詳細に説明されていない。これらの製品は、コーティング中でデンプン又はラテックスを完全に又は部分的に置き換えて使用しなければならない。しかしながら、特許文献3は、この点に関してこれ以上の詳細を提供していない。
【0007】
特許文献2は、単糖類からα(1→3)−グルカンを酵素的に調製する可能な方法を開示している。この方法では、ポリマー鎖がモノマー構成ブロックを用いて構築されるので、モノマー構成ブロックの損失無しに比較的短鎖の多糖類を調製することができる。短鎖セルロース分子の調製とは対照的に、α(1→3)−グルカンの調製は、費用効率がより高く、ポリマー鎖が短ければ短いほど、この場合、反応器中の必要な滞留時間は非常に短くなる。
【0008】
単糖類からのα(1→3)−グルカンの酵素的調製のための別の選択肢が、特許文献4及び特許文献5に開示されている。この方法によれば、他の多糖類を実質的に形成しない、特に純粋なα(1→3)−グルカンを調製することができる。
【0009】
グルカンゲルは文献では知られているが、α(1→3)−グルカンを含有するグルカンゲルは見出されていない。文献に見られるものは、グルカンホスホリラーゼによって生成されたα(1→4)−グルカン(特許文献6)及びアルカリ溶媒に溶解し、再生沈殿させることよってゲルに加工されたα(1→4)−グルカン(特許文献7、特許文献8)のいずれかである。または、デンプン及び可塑剤を添加することによってゲルに加工された、水溶性のβ(1→3)−グルカン(特許文献7)である。このようなゲルを、事前の溶解及び沈殿、又はその他の化学的前処理を用いずに直接的な調製法は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2013/006876A1号
【特許文献2】米国特許第7,000,000号
【特許文献3】米国特許第6,284,479A1号
【特許文献4】国際公開第2013/036968A1号
【特許文献5】国際公開第2013/036918A2号
【特許文献6】特開第2006−211989号
【特許文献7】米国特許出願第2003185863号、
【特許文献8】国際公開第2012073019A1号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Simpson et al., Microbiology, vol.41,pp 1451−1460(1995年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
最新技術と比較して、本発明の目的は、その調製方法が多糖類の化学的又は酵素的前処理を必要とせず、高いエネルギー効率を提供する、相安定コロイド多糖類懸濁液を提供することである。多糖類基材は、製造が安価でなければならず、懸濁液を調製する方法は、既存の方法と比較して単純でなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
驚くべきことに、この目的は、生物工学的に産生され、かつ未乾燥の(never−dried)α(1→3)−グルカンを使用することによって達成された。特許文献2、特に特許文献4及び特許文献5に記載されている多糖類から、乾燥されたことがない限り、フィブリル構造を有さず、3次元ネットワークを形成する多糖類懸濁液を、機械的処理だけで調製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、Ultraturrax及びHDHをそれぞれ使用して調製したグルカンゲルの比較を示す図である。
【
図2】
図2は、乾燥グルカン前駆体由来のグルカンゲルの光学的評価(DP約1000)を示す図である。
【
図3】
図3は、剪断速度10〜200s
−1における4%グルカンゲルの粘度及び剪断応力を示す図である。
【
図5】
図5は、グルカンゲルの光学的評価を示す図である。
【
図6】
図6は、グルカンフィルムの透明性を示す図である。
【
図7】
図7は、風乾グルカンフィルムのSEM画像である。左:表面の斜視図;右:フィルムの断面図。
【
図8】
図8は、凍結乾燥グルカンゲルのSEM画像である。
【
図9】
図9は、異なる濃度のグルカンゲルの粘度の比較を示す図である。
【
図10】
図10は、Buchi Mini Spray Dryer 8−290の概略図である。イソプロパノール中で噴霧乾燥させたグルカンゲルの粒度分布を示す図である。
【
図11】
図11は、イソプロパノール中で噴霧乾燥させたグルカンゲルの粒度分布を示す図である。
【
図12】
図12は、4%及び10%グルカン懸濁液間の粘度比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
α(1→3)−グルカンは、サッカロースの水溶液をStreptococcus salivariusから単離されたGtfJグルコシルトランスフェラーゼ(非特許文献1)と接触させることによって調製することができる。
【0016】
したがって、上記の目的の解決策は、相安定コロイド多糖類懸濁液であって、多糖類が少なくとも部分的にα(1→3)−グルカンからなり、α(1→3)−グルカンがその調製中に未乾燥であり、懸濁液は、多糖類含有量が4〜80重量%(好ましくは15〜45重量%)であるプレスケーキから調製され、懸濁液の多糖類濃度が0.01〜50重量%(好ましくは1.0〜20重量%)であることを特徴とする、相安定コロイド多糖類懸濁液を提供することからなる。
【0017】
多糖類のα(1→3)−グルカン含有率は、1〜100重量%、より好ましくは80〜100重量%であり得る。残りの多糖類は、セルロースゲルであることが好ましく、アミンオキシド法に従って調製され、II型セルロース構造を有するようなものであることがより好ましい。例えば、このようなゲルは国際公開第2013/006876A1号に従って調製することができる。また、上述の通り、セルロース濃度が0.1〜4.0重量%である懸濁液を、比較的高いセルロース含有率(例えば、13重量%のセルロース)を有する紡糸原液から、高圧ホモジナイザーを使用することによってアミンオキシド法に従って調製することもできる。
【0018】
更に、残りの多糖類は、セルロース誘導体、例えばカルボキシメチルセルロース又はデンプンのような当業者に公知のゲル形成性多糖類であってよい。このような混合物は、例えば、製紙産業において有利に使用することができる。
【0019】
残りの多糖類は、その他のグルカン類、特にα(1→6)−、(1→2)−及び(1→4)連結グルカン類であってもよい。
【0020】
特に、本発明に係る多糖類懸濁液は、化学的又は酵素的前処理無しで、高圧を用いず、かつ粉砕(comminution)中の高剪断速度を用いず、並びに溶解又は沈殿ステップを伴わずに調製されるため有利である。
【0021】
好ましい実施形態では、プレスケーキから多糖類懸濁液を調製する際に、例えば、高圧ホモジナイザーと比較して低い剪断速度を生じる分散装置(例えば、Ultraturrax(登録商標)ミキサー又はコロイドミル)が使用される。
【0022】
好ましくは、この懸濁液調製方法中に、上記の残りの多糖類をα(1→3)−グルカンに添加することができる。
【0023】
本発明によれば、多糖類懸濁液は、多糖類材料以外に、顔料、酸化チタン(特に準化学量論的二酸化チタン)、硫酸バリウム、イオン交換体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ラテックス、活性炭、高分子超吸収剤、及び難燃剤からなる群から選択される添加剤を、多糖類の量に対して1重量%〜200重量%含有してもよい。
【0024】
本発明の方法の好ましい実施形態では、α(1→3)−グルカンの少なくとも90%がヘキソース単位であり、ヘキソース単位の少なくとも50%がα(1→3)−グリコシド結合を介して連結される。α(1→3)−グルカンは未乾燥形態(never−dried form)で使用される。
【0025】
本発明に係る懸濁液は、調製後に乾燥されることがない(never dried)含水(特に初期湿潤な(initially moist))α(1→3)−グルカンに基づく。水中では、α(1→3)−グルカンはコロイドとして溶解しない。文献で知られているグルカンゲルについて記載されたように、溶解又はその後の沈殿ステップは必要ではない。典型的には、セルロースゲルの調製のためには、表面構造の弱化のための前処理(酵素処理、化学的処理)及び高圧ホモジナイザーによる下流側処理が用いられる。本発明の多糖類懸濁液の調製のためには、上記の調製工程は必ずしも必要ではなく、分散装置(例えば、Ultraturrax(登録商標)又はコロイドミル)を用いた粉砕で十分である。これにより、セルロースゲルと比較して、使用される総エネルギーが数倍減少する。本発明の懸濁液の製造中に溶解ステップを行わないことによって、最終懸濁液中に溶媒の残留量が入ることが防止され、このことにより最終懸濁液が特に使用の敏感な分野(食品、医薬品及び化粧品)における用途に適切になる。
【0026】
懸濁液の基材として使用される多糖類は、米国特許第7,000,000号に従って調製されることが好ましく、国際公開第2013/036968A1号及び国際公開第2013/036918A2号に従って調製されることがより好ましい。本発明によれば、懸濁液の基材として使用される多糖類は、初期の湿潤した状態で使用され、すなわち、懸濁液を調製する前に乾燥されることはない。懸濁液の基材として使用される多糖類は、少なくとも部分的にα(1→3)−グルカンからなる。調製の最終手順ステップにおいて、(プレスケーキ全体に対して)4〜80重量%、好ましくは15〜45重量%の固形分となるまでプレスされる。水を添加することによって、所望の多糖類濃度を(懸濁液全体に対して)0.01〜50重量%、好ましくは1.0〜20重量%に調整し、その後適切な分散装置(例えばUltraturrax(登録商標)、コロイドミル等)を使用して粉砕し、多糖類懸濁液を調製する。成形体を弱化するための前処理及びその後の高剪断下での処理(例えば、高圧ホモジナイザーにおいて)は、これらの多糖類ゲルを形成するために必ずしも必要ではない。これはセルロースゲルより大きな有利性をもたらす。本発明に係る多糖類懸濁液の固形分は0.01〜50重量%、好ましくは0.1〜20重量%であり、多糖類はそれらの調製中に未乾燥でなければならない。
【0027】
要約すると、多糖類懸濁液を調製するための本発明の方法は、(a)初期湿潤多糖類材料のプレスケーキを基材として使用し、ここで上記多糖類材料は少なくとも部分的にα(1→3)−グルカンからなり、(b)プレスケーキが、(プレスケーキ全体に対して)4〜80重量%、好ましくは15〜45重量%の固形分を有し、(c)所望の多糖類濃度が、(懸濁液全体に対して)0.01〜50重量%、好ましくは1.0〜20重量%に(典型的には水を加えることにより)調整され、(d)続いて、分散装置を用いた粉砕が行われる、ことを特徴とする。
【0028】
粉砕装置として高圧ホモジナイザーを用いてさらに処理することにより、必要に応じて、懸濁液の均質性を更に少し向上させることが可能である。
【0029】
しかし、米国特許第7,000,000号に従って、特に国際公開第2013/036968A1号及び国際公開第2013/036918A2号に従って調製された多糖類が、懸濁液の形成前に既にいったん乾燥されてしまうと、すなわち、もはや初期に湿潤ではない場合には、この多糖類を再懸濁しても水ゲルは限られた程度でしか形成されず、懸濁安定性が低く、感知可能な粘度はほとんど上昇しない。
【0030】
重量平均DP
wとして表される、本発明に係る方法において使用されるα(1→3)−グルカンの重合度は、200〜2000であってよく、400〜1,000の値が好ましい。これらのグルカンの酵素的に制御された調製により、それらの分子量分布は非常に狭い。このような狭い分布は、天然の多糖類では起こらない。
【0031】
本発明に係る懸濁液は、調整された懸濁液濃度に応じて、フィルム形成特性を示し、多糖類層、特に他の物体のシート又はコーティング、例えばさまざまな表面のコーティング用の調製に特によく適している。これには、例えば、紙及び包装用途が含まれる。本発明に係る懸濁液がフィルム又は層を形成する場合、このフィルム又は層は均一で緻密な構造有するため、多くの物質の障壁として作用する。本発明に係る多糖類懸濁液は、例えば製紙産業における既存のコーティング混合物に対する添加剤としても適している。これらのフィルム又は層は、ドクター法(doctoring)、スプレー法(spraying)若しくは刷毛塗り(brushing)によって、及び/又は水相の蒸発によって、及び/又は加熱若しくは加圧等の追加手段によって形成することができる。これらのフィルム又は層は、基材としっかりと結合することができ(特にこの基材が多糖類も含む場合)、又は分離させることができる。フィルムを形成する目的で、湿潤強化剤又は可塑剤を本発明に係る多糖類懸濁液に更に添加することも可能である。また、フィルム又は層の架橋も可能である。コーティングは、連続的であっても断続的であってもよい。可能な断続的なコーティングは、穿孔であるか、又は芸術的に設計されたパターン又は装飾品の作成でもある。
【0032】
フィルム又はコーティングの製造に加えて、本発明に係る多糖類懸濁液からのその他の成形体の製造もまた、例えば押出成形又は適切な成形鋳型の使用によって可能である。この目的のために、本発明に係る多糖類懸濁液をできるだけ高い濃度で使用し、それぞれに適切な添加剤を添加することが有利である。
【0033】
更に、本発明に係る懸濁液は、最終生成物にクリーム様稠度を付与するために粘度調整剤が必要とされる全てのタイプの使用によく適している。膨潤した多糖類粒子は、大量の水と結合することができ、したがって、最新技術に従って調製された多糖類懸濁液よりも低い濃度で既に増粘効果を発揮することが可能である。
【0034】
本発明に係る多糖類懸濁液は、本発明の主題でもある乾燥多糖類粉末を調製するための基材として使用することが可能である。本発明の懸濁液を単純に乾燥させると、水素結合の形成により凝集物及び緻密層が形成され、これがフィルム形成特性に寄与する。特別な乾燥方法(噴霧乾燥、凍結乾燥)により、分離した粒子が形成され、より小数の凝集物が形成される。また、噴霧乾燥は、ハイブリッド粒子の製造を可能にする。添加剤は、その調製中に本発明に係る懸濁液に混合することができ、又は乾燥工程中にのみ添加することができる。別の乾燥選択肢は、超臨界乾燥である。この場合、水相を適切な無極性溶媒と交換する。超臨界CO
2を用いて溶媒を除去する間、水素結合の強度は低下し、ゲルの3次元ネットワークは元のままであり、いわゆるエアロゲルが形成される。
【0035】
乾燥ステップの前に、本発明の懸濁液にいわゆる「スペーサー」を添加することも可能である。スペーサーは、例えば、無機塩、ポリエチレングリコール、セルロース誘導体、又はゲルの分野においてスペーサーとして公知の他の物質であってもよい。これらのスペーサーは、多糖類分子の間に沈着し、そうすることによって、過度に強い水素結合の形成を防止する。この場合、凝集体が形成されても、これらを再分散することができる。これらの凝集体の形成は、投薬用途に有利であり得る。
【0036】
以下、噴霧乾燥をより詳細に説明する。ここで、乾燥すべき基材、すなわち本発明に係る多糖類ゲルは、ノズルを介して微細な液滴に霧化される。液滴は分離サイクロン内の高温空気流と一緒に排出され、この工程中に水が蒸発する。固体分濃度、噴霧ノズルのサイズ、又は供給空気と排出空気流との間の温度差等の異なるパラメータを使用して、粒子構造に影響を与えることができる。この工程で得られる多糖類粒子の平均粒径は、1μm未満5μm以下である。噴霧乾燥の原理及び模式図を
図8に示す。
【0037】
A:多糖類懸濁液の供給
B:噴霧空気(=圧縮空気)の供給
TE:供給空気の温度測定
TA:排出空気の温度測定
1:供給空気用吸気ポート
2:電気ヒーター
3:噴霧ノズル
4:噴霧シリンダー
5:排出空気
6:分離サイクロン
7:排出空気出口フィルタ
8:乾燥粒子回収容器
【0038】
本発明に係る懸濁液は、剪断希釈特性(shear−diluting properties)を有し、簡単な塗布方法(刷毛塗り、スプレー等)により、その他の材料のための結合剤としても使用することができ、小さな隙間を埋めるのに十分に液体状である。このような場合、その他の材料は、多糖類の量に対して200〜1000重量%の割合で存在することが好ましい。乾燥の間、水素結合が形成され、この水素結合に由来する「接着効果」が達成される。
【0039】
特に、結合剤として、例えば不織布又は類似の開放構造用に使用される場合、本発明に係る多糖類懸濁液は、構造全体又はその一部のみのいずれかが懸濁液によって浸透されるか、又は表面コーティングが形成されるように適用することができる。これは、元の構造と比較して、得られる複合材料の強度の更に別の重要な増加をもたらす。水と接触させると、α(1→3)−グルカン含有懸濁液で補強されたこのような構造は再び分解され、このことが、このような構造を「水に流せるワイプ」、すなわち、廃水流において繊維が離解され得るワイプの分野における使用可能性を適切にする。
【0040】
本発明によれば、添加剤の均一な導入によって、更なる機能性を多糖類懸濁液に組み込むことができる。さまざまな有機添加剤(キトサン等)及び無機添加剤(ナノ銀、酸化亜鉛等)並びに着色顔料を懸濁液に導入することができる。
【0041】
以下、本発明を実施例を参照しながら説明する。しかし、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、同じ発明概念に基づく他の全ての実施形態も含む。
【実施例】
【0042】
一般情報:百分率は、他に指示がない限り、重量%として常に理解されるべきである。
【0043】
<実施例1>
水含有の初期湿潤α(1→3)−グルカン(乾物含量=17.6重量%)のプレスケーキを脱イオン水中に懸濁し、Ultraturrax(登録商標)(「UT」)、タイプIKA T50 basicを使用して6,000rpmで4分間粉砕する。この実験では、粉砕すべき懸濁液は、3.05重量%のα(1→3)−グルカン(atro)を含有していた。このようにして調製された懸濁液を2つの画分(subquantities)に分け、一方の画分を高圧ホモジナイザー(HDH)、タイプGEA Niro Soavi NS 1001L−2Kを用いて、操作圧力1,000barで2回にわたってポンプで更に循環させた。次いで、2つのグルカン懸濁液について、粘度及び保水能力を調べた。
【0044】
グルカン粒子の保水能力(WRC)は、以下のようにして決定した:正確に規定された量の懸濁液を特別な遠心分離管(水のための排水管を有する)に導入した。その後、3,000rpmで15分間遠心分離を行い、直後に湿潤グルカンを秤量した。湿潤グルカンを105℃において一晩乾燥し、次いで乾燥重量を決定した。WRCは以下の式に従って計算した:
WRC[%]=(m
f−m
t)/m
t×100
(m
f=湿潤質量、m
t=乾燥質量)
決定された乾燥含量(TS)及びWRCを表1にまとめる。
【0045】
【表1】
【0046】
2つの懸濁液の粘度は、剪断希釈挙動(shear−diluting behavior)を示し、それらの曲線は異なるものではない(
図1)。粘度を、10〜200/秒(s
−1)の剪断速度範囲でコーンプレート測定システム(CP4/40 S0687 SS)を備えたMalvern Kinexusレオメータを用いて決定した。
【0047】
比較目的のために、乾燥グルカンを用いた実験を行った。使用したグルカンは、異なる重合度(DP
w 1,000及びDP
w 500)を有する直鎖グルカン、及び分岐鎖グルカンであった。3つの場合それぞれにおいて、形成されたゲルは均一ではなく、相分離していた。懸濁液を固形分2〜3%に調整し、Ultraturrax(登録商標)(UT、IKA T50 basic、6,000rpm)で4分間処理して予備粉砕し、次いで高圧ホモジナイザーで操作圧力1,000バールにおいて2回処理した。その後、乾燥含量及びWRCを決定した(表2)。WRCは、初期湿潤グルカンから製造されたゲルの値よりはるかに低い。また、これらの懸濁液は粘度の上昇を示さない。
【0048】
【表2】
【0049】
このように処理された懸濁液を、表面をより利用可能にするために一晩膨潤させた。翌日に、サンプルをHDHで1,000バールにおいて4回再び処理した。使用した乾燥グルカンは懸濁液の調製には不適当であることが実証された。すなわち、HDHを6回通過させた後でさえ相分離が存在し、粒子は視覚的に認識可能であった(
図2)。
【0050】
<実施例2>
コロイドミル(IKA Colloid Mill MK2000/10)を用いたパイロットプラントベースの実験において、より多量のグルカンゲル(4重量%)を調製することにより、高圧ホモジナイザーを使用しなくても、大量の多糖類を均一な懸濁液に処理可能なことを実証した。
【0051】
3.69kgの未乾燥の初期湿潤α(1→3)−グルカン(TS=16.25%)及び11.3kgの水から、固形分が3.9%であるグルカンゲルを、コロイドミル(IKA Colloid Mill MK2000/10)で粉砕することによって調製した。0.1mmのギャップを用いて最大出力において15分間粉砕することにより、グルカンゲルを作成した。その後、以下のようにグルカンゲルの特徴を調べた。
【0052】
粘度:コーンプレート測定システム(CP4/40 S0687 SS)を備えたMalvern Kinexusレオメータで、10〜200/秒(s
−1)の剪断速度範囲においてグルカンゲルを測定した。本発明に係る懸濁液は、剪断希釈挙動を示した(
図3)。
【0053】
顕微鏡検査:2枚の顕微鏡スライドの間にグルカンゲルを充填し、薄層を形成した。この層を顕微鏡検査に供した。層の厚さを均一にするために、各下部スライドの縁に接着テープ片(Scotch tape、マット、約0.3mm)を接着させた。写真をZEISS Discovery V12実体顕微鏡で50倍の倍率及び底部照明を用いて撮影した(
図4)。懸濁液中に、非常に小さな粒子から形成された凝集体を認識することができる。しかし、これらの凝集体は、指の間でこすったときに感じることができず、わずかな剪断下で再び崩壊する。
【0054】
ガラス管法:10gのグルカンゲルを、クロージャーキャップを備えたガラス管(長さ=約9.7cm、φ2.5cm)に秤量し、振盪し、逆さにして、10秒後に撮影した。ガラス管を黒色の背景の前に置き、テーブルランプ(下面までの距離約22cm)を用いて上から照明した。
写真をCanon EOS450Dデジタルカメラを使用して撮影した。この場合もまた、粒子は見えなかい(
図5)。均一で緻密なフィルムがガラス壁に沿って形成される。
【0055】
これらの懸濁液のフィルム形成特性をさまざまな表面で試験した。
【0056】
実施例2の本発明に係る懸濁液を、ポリエステル(PES)シート又はガラス上に、それぞれドクター法及びスプレー法によって塗布した。いずれのコーティング方法でも、基材に容易に接着する連続的で均一なフィルムが生成された。
図6は、PESシート上のこのようなフィルムの透明性を示し、画像の右側はコーティングされたPESシートで覆われており、左側は覆われていない。
【0057】
風乾フィルムのSEM写真(日立S−4000 SEM走査型電子顕微鏡)を撮影した。
図7には、大きな内表面を同時に示す緻密層の構造が見られる(
図7)。
【0058】
更に、凍結乾燥グルカンゲルのSEM写真を撮影した(
図8)。ここで、グルカンゲル中に形成された、本発明の懸濁液に特有の特性を付与する3次元スポンジネットワークに気付くことができる。
【0059】
<実施例3>
異なる固形分濃度を有するグルカンゲルを、実施例2と同様の方法で製造した。固形分が増加するにつれて、懸濁液の粘度が増加する(
図9)一方、保水能力(WRC)は低下する。固形分が3%及び4%である懸濁液はまだHDHで処理することができるが、固形分が5%である懸濁液は、HDHはこのような高粘性の懸濁液をポンプで送ることができないのでUltraturrax IKA T50 basic(「IKA」)等の比較的低い剪断力を有する装置でのみ粉砕することができる。表3は、固形分が増加するにつれて粘度が増加するが、同時にWRCが低下することを示している。
【0060】
【表3】
【0061】
<実施例4>
以下の実施例では、実施例3の3%グルカンゲルを実験用噴霧乾燥機(Buchi Mini Spray Dryer 8−290、
図10を参照されたい)中で乾燥させた。粒度分布を、イソプロパノール中でレーザー回折(Helos製の測定装置)を用いて決定した。パラメータ:供給空気温度=180℃;排出空気温度=62℃;ノズルサイズ=1.4mm。粒度分布は以下の通りであった:x
10=0.79μm;x
50=2.2μm;x
90=5.29μm;x
99=8.27μm。
【0062】
<実施例5>
未乾燥の初期湿潤α(1→3)−グルカン(TS=39.74%)1.887kg及び水5.613kgを使用して、IKAミル(IKA MK2000/10コロイドミル)を用いることによってグルカンを10%含む懸濁液を調製した。0.1mmのギャップを用いて最大出力において20分間粉砕して、グルカン懸濁液を作成した。その粘度が実施例2の4%グルカン懸濁液に匹敵する、安定した懸濁液を形成した(
図12)。
【0063】
更に、実施例5のゲルの顕微鏡写真(
図13)を、実施例2に記載の条件下で撮影した。この場合もまた、小さな粒子が気付くことができるが、やはりこの場合も指の間で感じることはできない。
【国際調査報告】