特表2018-509460(P2018-509460A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2018-509460炎症疾患及び免疫疾患を治療するための方法及び組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2018-509460(P2018-509460A)
(43)【公表日】2018年4月5日
(54)【発明の名称】炎症疾患及び免疫疾患を治療するための方法及び組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/20 20060101AFI20180309BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20180309BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20180309BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20180309BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20180309BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20180309BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20180309BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20180309BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20180309BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20180309BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20180309BHJP
   A61P 27/14 20060101ALI20180309BHJP
【FI】
   A61K33/20
   A61P29/00
   A61P37/02
   A61P17/06
   A61P1/04
   A61P3/10
   A61P11/06
   A61P37/08
   A61P29/00 101
   A61P25/00
   A61P35/00
   A61P17/00
   A61P27/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2017-550556(P2017-550556)
(86)(22)【出願日】2016年3月28日
(85)【翻訳文提出日】2017年11月2日
(86)【国際出願番号】US2016024453
(87)【国際公開番号】WO2016160668
(87)【国際公開日】20161006
(31)【優先権主張番号】14/670,641
(32)【優先日】2015年3月27日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】513233780
【氏名又は名称】レルム セラピューティクス,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】サンプソン,マーク
(72)【発明者】
【氏名】パニチェヴァ,スヴェトラーナ
(72)【発明者】
【氏名】ショッケメール,キャリー
(72)【発明者】
【氏名】ソロモン,イーサン
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA09
4C086HA24
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA22
4C086MA55
4C086MA57
4C086MA59
4C086MA63
4C086MA65
4C086NA05
4C086NA06
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZA59
4C086ZA66
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4C086ZA94
4C086ZA96
4C086ZB07
4C086ZB11
4C086ZB13
4C086ZB15
4C086ZB26
4C086ZB27
4C086ZC06
4C086ZC35
4C086ZC42
(57)【要約】
本発明は、急性又は慢性の炎症に関連した症状を含む局所炎症症状、特に基礎免疫疾患又は状態によって特徴付けられる状態を治療、防止、又は管理するための方法を提供する。本発明は更に、癌及び微生物叢に関する炎症プロセスを制御するための方法を提供する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎免疫又は炎症疾患を有する患者において炎症局所炎症症状を治療又は防止するための方法であって、局所炎症の患部に次亜塩素酸組成物を投与することを備え、前記次亜塩素酸は有効遊離塩素を100ppmから5000ppm有する、方法。
【請求項2】
前記免疫疾患は、I型過敏症、II型過敏症、III型過敏症、及びIV型過敏症のうち1つ以上によって特徴付けられる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記基礎免疫疾患は自己免疫状態である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記基礎免疫状態は、全身性エリテマトーデス、乾癬、アトピー性皮膚炎、関節リウマチ、セリアック病、クローン病、潰瘍性結腸炎、血管炎、甲状腺炎、重度の喘息、糖尿病、高免疫グロブリンE症候群、皮膚筋炎、又は多発性硬化症である、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記基礎免疫又は炎症疾患は、好酸球増多、薬物アレルギー、食物アレルギー、溶血性貧血、重症筋無力症、全身性血管炎、糖尿病、多発性硬化症(MS)、線維筋痛、脊髄炎、末梢神経障害、パーキンソン病、肝炎、腎不全、膵臓炎、甲状腺炎、移植片対宿主疾患、慢性移植拒絶反応、汗腺膿瘍、成人発症スチル病、全身性発症若年性突発性関節炎(SJIA)、シュニッツラー症候群、ベーチェット病、SAPHO症候群、マクロファージ活性化症候群、家族性地中海熱(FMF)、クリオピリン関連周期熱症候群(CAPS)、TNF受容体関連周期性症候群(TRAPS)、高IgD症候群、間欠熱、アフタ性口内炎、PFAPA(pharyngitis and adenitis)、インターロイキン−1(IL−1)受容体アンタゴニスト欠損(DIRA)、巨細胞性動脈炎、アミロイド症、再発性心膜炎、視神経脊髄炎、筋委縮性側索硬化症、痛風、糸球体腎炎、骨髄腫、ネザートン症候群、魚鱗癬、及び表皮水疱症である、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記局所炎症症状は、結膜炎、ドライアイ、眼の痒み、ブドウ膜炎、ドライ型もしくはウェット型AMD、副鼻腔炎、鼻漏もしくは鼻詰まり、口内炎、咽頭炎、歯肉炎、口内乾燥、気道過敏症、皮膚もしくは粘膜の痛みもしくは潰瘍、蕁麻疹、水疱、及び/又は皮膚の発疹もしくは病巣のうち1つ以上を含む、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記局所炎症症状は、皮膚、眼、鼻、副鼻腔、耳、口、又は咽喉のうち1つ以上に影響を及ぼす、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記局所炎症症状は、皮膚、結腸、肺、尿路、膣、骨格筋、靭帯、腱、関節腔、骨、腹膜、腎臓、肝臓、膵臓、又は血管系のうち1つ以上に影響を及ぼす、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記次亜塩素酸組成物は1日に1〜10回投与される、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記次亜塩素酸組成物は1日に1〜4回投与される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
免疫又は炎症疾患を治療するための方法であって、患者に次亜塩素酸組成物を投与することを備え、前記免疫又は炎症疾患は、好酸球増多、薬物アレルギー、食物アレルギー、溶血性貧血、血管性浮腫、重症筋無力症、バセドウ病、グッドパスチャー症候群、農夫肺、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、突発性肺線維症(IPF)、嚢胞性線維症、全身性血管炎、糖尿病、多発性硬化症(MS)、脊髄炎、末梢神経障害、パーキンソン病、肝炎、骨髄炎、腎不全、膵臓炎、甲状腺炎、移植片対宿主疾患、慢性移植拒絶反応、汗腺膿瘍、成人発症スチル病、全身性発症若年性突発性関節炎(SJIA)、シュニッツラー症候群、ベーチェット病、SAPHO症候群、マクロファージ活性化症候群、家族性地中海熱(FMF)、クリオピリン関連周期熱症候群(CAPS)、TNF受容体関連周期性症候群(TRAPS)、高IgD症候群、高IgE症候群、間欠熱、アフタ性口内炎、PFAPA(pharyngitis and adenitis)、インターロイキン−1(IL−1)受容体アンタゴニスト欠損(DIRA)、巨細胞性動脈炎、アミロイド症、再発性心膜炎、視神経脊髄炎、筋委縮性側索硬化症、痛風、糸球体腎炎、ネザートン症候群、魚鱗癬、表皮水疱症、又は骨髄腫から選択される、方法。
【請求項12】
次亜塩素酸組成物が、皮膚、結腸、肺、尿路、膣、骨格筋、靭帯、腱、関節又は関節腔、骨、腹膜、腎臓、肝臓、膵臓、又は血管系のうち1つ以上に投与される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記次亜塩素酸組成物は、皮膚、眼、鼻腔に、又は注入によって投与される、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
アレルギー性喘息、職業性喘息、気管支炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、突発性肺線維症(IPF)、嚢胞性線維症、グッドパスチャー症候群、又は農夫肺から選択された状態を治療するための方法であって、肺に次亜塩素酸組成物を投与することを備え、前記次亜塩素酸組成物は有効遊離塩素を100ppmから5000ppm有する、方法。
【請求項15】
接触性皮膚炎、放射性皮膚炎、皮膚の老化、日焼け、血管性浮腫、蕁麻疹、全身性エリテマトーデス、サルコイドーシス、酒さ(rosasea)、疱疹状皮膚炎、ネザートン症候群、魚鱗癬、表皮水疱症、又は皮膚血管炎、及び痔から選択された状態を治療するための方法であって、前記次亜塩素酸組成物は、有効遊離塩素を100ppmから5000ppm有するヒドロゲルとして皮膚の患部に投与される、方法。
【請求項16】
癌を有する患者を治療するための方法であって、前記患者に次亜塩素酸組成物を投与することを備え、前記次亜塩素酸組成物は有効遊離塩素を100ppmから5000ppm有する、方法。
【請求項17】
前記次亜塩素酸組成物は、前記癌の進行又は転移を遅らせるか又は阻害する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記次亜塩素酸組成物は、化学療法又は放射線療法の1つ以上によって生じた粘膜、皮膚、及び消化管のうち1つ以上における損傷又は病巣を軽減させる、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
前記癌はステージI又はステージIIの癌である、請求項16から18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記癌はステージIII又はステージIVである、請求項16から18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記癌は、基底細胞癌、胆道癌、膀胱癌、骨肉種、脳及び中枢神経系の癌、乳癌、腹膜の癌、子宮頸癌、絨毛癌、大腸癌、結合組織癌、消化器系の癌、子宮内膜癌、食道癌、眼癌、頭頸部癌、胃又は腸癌、膠芽細胞腫、肝臓癌、ヘパトーマ、上皮内腫瘍、腎臓癌、喉頭癌、白血病、肝臓癌、肺癌、黒色腫、骨髄腫、神経芽細胞腫、口腔癌、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、網膜芽種、横紋筋肉腫、直腸癌、唾液線癌、肉腫、皮膚癌、扁平上皮癌、精巣癌、甲状腺癌、子宮又は子宮内膜癌、泌尿器系の癌、外陰部癌、及びリンパ腫である、請求項16から20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記癌は、皮膚癌、皮膚黒色腫、乳癌、結腸癌、肺癌、精巣癌、子宮頸癌、リンパ腫、副甲状腺癌、陰茎癌、直腸癌、小腸癌、甲状腺癌、子宮癌、ホジキンリンパ腫、口唇及び口腔癌、白血病、及び多発性骨髄腫である、請求項16から20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記癌は皮膚癌である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記癌は乳癌である、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記癌は、口、咽喉、又は副鼻腔の癌である、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
前記癌は肺癌である、請求項22に記載の方法。
【請求項27】
前記次亜塩素酸は少なくとも約2か月間投与される、請求項16から26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記次亜塩素酸組成物は腫瘍に直接投与される、請求項16から27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記次亜塩素酸組成物は局所的に投与される、請求項16から27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
炎症状態を有する患者において微生物叢を正常化するための方法であって、前記患者に次亜塩素酸組成物を投与することを備え、前記次亜塩素酸組成物は有効遊離塩素を100ppmから5000ppm有する、方法。
【請求項31】
前記次亜塩素酸組成物は、少なくとも1日に1回、少なくとも1週間にわたって、又は任意選択的に少なくとも1か月間投与される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
組織の微生物叢の正常化はrRNA遺伝子配列決定法によって決定される、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
前記次亜塩素酸組成物は、皮膚、口腔もしくは鼻の粘膜、消化管、又は泌尿生殖器系に適用される、請求項30から32のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2015年3月27日に出願された米国特許出願第14/670,641号の優先権の利益を主張する。この出願は引用によりその全体が本願にも含まれるものとする。
【0002】
本発明は、炎症状態を治療、防止、又は管理するための組成物及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
炎症は、病原体、損傷した細胞、又は刺激物等の有害な刺激に対する生体組織の複雑な生物学的反応の一部である。炎症は、免疫細胞、血管、及び分子メディエータを伴う防御反応である。炎症の目的は、細胞障害の一次的原因を排除し、最初の障害及び炎症プロセスによって損傷を受けた壊死細胞及び壊死組織を取り除き、組織修復を開始することである。慢性炎症は、歯周炎、アテローム性動脈硬化症、関節リウマチ、皮膚炎、及び癌のような多くの疾患を招く可能性がある。炎症は通常、生体によって厳密に調節される。
【0004】
炎症は、急性又は慢性のいずれかに分類することができる。急性炎症は、有害な刺激に対する生体の初期反応であり、血液から障害を受けた組織への血漿及び白血球の移動が増大することによって達成される。一連の生化学的イベントが炎症反応を伝播して増大させ、局所血管系、免疫系、及び障害を受けた組織内の様々な細胞に影響を及ぼす。長期炎症又は慢性炎症は、単核細胞のような炎症部位に存在する細胞タイプの進行性の変化を引き起こし、炎症プロセスによる組織の破壊及び治癒が同時に起こることによって特徴付けられる。
【0005】
炎症は、病原体関連分子パターン(すなわちPAMP:pathogen−associated molecular pattern)、又は損傷(もしくは危険)関連分子パターン(DAMP:damage(or danger)−associated molecular pattern)のいずれかによって開始し得る。PAMPは、自然免疫系の細胞によって認識される病原体に関連した分子である。これらの分子は、トール様受容体(TLP)及びその他のパターン認識受容体(PRR)によって認識され、自然免疫反応を活性化して宿主を感染から保護する。DAMPは、非感染性炎症反応を開始して持続させ得る分子であり、多くの場合、例えば細胞壊死の際に細胞から放出される細胞質成分又は核成分である。PAMP及びDAMPによって活性化される自然免疫反応は、インフラマソーム(inflammasome)、掻痒と疼痛のメディエータ、及びそれら各々の受容体、掻痒受容器(prurireceptor)、及び皮膚神経末端における侵害受容器(nociceptor)のような炎症プロセス/カスケードを含む。炎症カスケードのメディエータには、とりわけ、α−2マクログロブリン、TNF−α、IL−2、IL−6、IL−1β、IL−8、TSLP、IL−4、IL−13、IL−17、IL−18、IL−31等の様々なサイトカインが含まれる。これらのサイトカインは、調節され局所化された場合、通常の宿主防御反応の一部として有益な炎症反応を仲介し得る。しかしながら、サイトカイン活性化に異常があると、これらの炎症反応は著しい組織障害や、場合によっては組織死を引き起こすことがある。炎症症状は、その原因にかかわらず、疼痛、熱、赤み、発熱、発疹又は腫れ、並びに、皮膚又はその他の組織の創傷及び潰瘍を含む病変等、類似の症状が共通して見られる。多くの場合、疼痛は炎症の重要な指標である。これは、患部/罹患臓器の腫れが敏感な神経終末を押し、これが疼痛信号及び/又は掻痒信号を脳に送るからである。
【0006】
炎症症状は多くの場合、コルチコステロイド等、局所又は全身抗炎症薬を用いて治療されるが、従来の薬剤の使用には、年齢制限、薬物中毒、刺激(irritation)、過敏性、及び/又は特に慢性的な使用によって発生又は発症し得るその他の副作用を含む著しい制約がある。更に、局所症状を制御するための(例えば患部の不快感及び/又は組織損傷を軽減することによる)多くの治療では、大きな全身性の利点は得られない。従って、炎症症状を引き起こしている基礎疾患が免疫疾患である場合、局所薬では、患者の全身状態の改善にはほとんど効果がない。
【0007】
本発明の目的は、基礎疾患に良い影響を及ぼしながら炎症症状を緩和することによって炎症状態及び/又は免疫状態を治療又は管理することである。また、本発明の目的は、癌を含む、長期の炎症又は無治療の炎症に関連した又はこれらの炎症によって引き起こされた疾患及び状態を防止するための、広範囲で有効かつ安全な治療を提供することである。更に、本発明の目的は、炎症の防止、軽減、及び管理のための、小児患者及び高齢患者を含む全ての年齢層の患者及び/又は免疫障害を持つ患者による長期使用及び/又は予防的使用において安全かつ有効である組成物及び方法を提供することである。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、炎症状態又は免疫状態を治療するための次亜塩素酸組成物及びその使用に関する。
【0009】
一態様において、本発明は、急性又は慢性の炎症に関連した症状を含む局所炎症症状、特に基礎免疫疾患又は状態によって特徴付けられる状態を治療、防止、又は管理するための方法を提供する。本発明は、局所炎症症状及び/又は組織損傷の軽減、管理、又は防止を可能としながら、基礎免疫状態を改善する全身性の利点を与える。
【0010】
別の態様において、本発明は、癌を治療する方法、又は癌の進行を遅くするかもしくは阻害する方法を提供する。具体的には、癌は、進行及び転移において炎症機構に頼っている。本発明は、これらの炎症プロセスを調節することによって、癌の進行及び転移の制御を手助けし、特に、患者が、化学療法又は放射線療法のような、非癌細胞及び組織に有害である一次癌療法を受けている場合、人体の修復機構を支援する。
【0011】
別の態様において、本発明は、患者の微生物叢、特に急性又は慢性の炎症を示す組織の微生物叢を制御又は正常化するための方法を提供する。明らかな感染が存在しない場合であっても、微生物叢と組織炎症との間には複雑な相互作用がある。微生物負荷(microbial burden)の軽減と組織微生物叢の正常化を同時に行い、これと共に宿主炎症を軽減することで、組織の治癒及び正常化を促進する。更に、いくつかの実施形態では、次亜塩素酸の投与から遠隔の部位における微生物叢は、治療によって良い影響を受ける。
【0012】
様々な実施形態において、この方法は次亜塩素酸組成物を投与することを含み、次亜塩素酸組成物は、有効遊離塩素(AFC:available free chlorine)を約100ppmから約5000pppmまで有する。いくつかの実施形態では、有効遊離塩素は、次亜塩素酸、次亜塩素酸塩、及びCl(分子塩素)の全濃度に対して、少なくとも約70%の次亜塩素酸である。本明細書に開示されるように、次亜塩素酸は、用量依存的に抗炎症性を示し、いくつかの実施形態では局所性及び全身性の双方の炎症メディエータに影響を及ぼし得る。様々な実施形態において本発明は、炎症症状を阻害及び軽減し、基礎疾患である慢性の炎症又は免疫状態の「再燃(flare−up)」を防止する。様々な実施形態において本発明を用いて、癌を含む長期の及び/又は無治療の炎症によって引き起こされる疾患又は状態を防止することができる。
【0013】
様々な実施形態において、本発明は、経腸(経口、経胃、及び経直腸)、非経口(静脈内、動脈内、骨内、筋肉内、髄腔内、皮下)、又はその他のルートで(舌下、口腔内、経直腸的、経膣的、関節内、眼球もしくは耳ルート、経鼻的、局所もしくは全身への効果のため皮膚に、吸入もしくは噴霧、もしくは経皮的)、又は1つ以上の組織もしくは臓器に対する洗浄剤(irrigant)として(例えば外科処置又は外傷の間)、次亜塩素酸組成物の投与を行う。次亜塩素酸組成物の適用部位は、局所炎症の兆候を示すものであり得る(「患部」)。いくつかの実施形態では、内部臓器、血管系、CNS、又は筋骨格系のような遠隔部位に(遠隔部位にも)有益であることが意図される。例えば様々な実施形態において、患部又は投与領域は、眼、耳、鼻、副鼻腔、咽喉、口(例えば歯肉)、又は皮膚のうち1つ以上である。他の実施形態では、患部又は遠隔の組織もしくは臓器は、腸管及び/又は結腸、肺、泌尿生殖器系(尿路又は膣)、骨格筋、靭帯、腱、関節、骨、腹膜、腎臓、肝臓、膵臓、又は血管系のうち1つ以上である。いくつかの実施形態では、次亜塩素酸は局所的に(例えば皮膚に)投与され、更に全身性の利点も示される。
【0014】
いくつかの実施形態では、組成物を用いて局所炎症症状を治療する。局所炎症症状には、限定ではないが、結膜炎、ドライアイ、目の痒み、副鼻腔炎、気道過敏症、痛み、潰瘍、水疱、及び/又は皮膚の発疹もしくは病巣を含む。いくつかの実施形態において、この方法は、自己免疫状態、遺伝子免疫疾患、又は高アレルギー状態(hyper allergic condition)等の基礎免疫疾患を改善する全身性の利点を与える。そのような状態にはとりわけ、限定ではないが、全身性エリテマトーデス、乾癬、アトピー性皮膚炎、関節リウマチ、セリアック病、クローン病、潰瘍性結腸炎、血管炎、甲状腺炎、重度の喘息、重度のアレルギー、糖尿病、高免疫グロブリンE症候群、皮膚筋炎、多発性硬化症、パーキンソン病、線維筋痛が含まれる。
【0015】
本発明は、患者の炎症部位及び/又は患部を、炎症の病因から比較的独立して、かつ、従来の薬剤の毒性、過敏症、及び他の副作用を回避するように治療するための、広範囲で効果的な方法を提供する。本発明の方法は、従来の抗生物質、抗ウイルス剤、うっ血除去薬、抗ヒスタミン剤、免疫抑制剤/免疫調節剤、鎮痛剤/麻酔薬、及びステロイド治療薬に対する代替療法もしくは補助療法として、又は従来の薬剤の組み合わせを用いた療法に対する代替療法として、有用である。
【0016】
本発明の方法は、長期使用及び/又は予防的使用に特に適している。これは、代替療法には年齢制限、副作用、及び/又は薬物耐性の問題があるためである。本方法は更に、感染症又は微生物コロニー過剰形成及び/又は炎症状態にかかりやすい個人、又は他の治療では典型的に過敏症もしくは重度の副作用を経験する個人に適している。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】動物モデルにおいて、HOClが用量依存的に充血を軽減できることを示す。比較例として、ステロイド(プレドニゾロン)及び抗ヒスタミン剤(オロパタオジン)による治療を示す。(A)投与1時間後の充血、(B)CAC(結膜アレルゲン投与)18分後の充血である。
図2】マウスのイミキモド誘発性乾癬様皮膚炎における乾癬の臨床スコアの軽減を、無治療の対照及びクロベタゾール(コルチコステロイド)と比較して示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、その必要がある被験者に次亜塩素酸組成物を投与することによって、免疫状態及び/又は炎症状態を治療、防止、又は管理するための組成物及び方法を提供する。
【0019】
次亜塩素酸(HOCl)は、人体の自然免疫系によって生成される酸化剤及び抗菌剤である。HOClは、大量のHOClが食胞内に放出されて侵入してくる微生物を破壊する酸化的破壊経路の最終ステップとして発生される。次亜塩素酸は、表面及び原形質膜のタンパク質を攻撃し、溶質の移動及び細菌細胞の塩類バランスを損なうことによって、抗菌作用を発揮することができる(Pieterson等、Water SA, 22(1): 43−48(1996年))。
【0020】
本発明に従って、免疫状態及び/又は炎症状態を治療又は防止するために、外因性次亜塩素酸を投与する。理論に束縛されることは望まないが、次亜塩素酸の投与は、局所炎症症状を治療、監視、及び/又は防止すると共に、全身レベルの基礎免疫疾患を制御又は調節する手助けとなると考えられる。更に、理論に束縛されることは望まないが、局所又は局部に適用された次亜塩素酸であっても全身性炎症メディエータを有利に調節し、これによって、慢性の全身性炎症によって特徴付けられる多種多様な状態を、局所次亜塩素酸組成物を用いて好都合に管理及び/又は治療することが可能となると考えられる。
【0021】
様々な実施形態における本発明は、病徴を改善するため、及び/又は炎症反応を抑制及び/又は変化させるため、次亜塩素酸配合物(formulation)を適用することを含む。例えば、免疫反応を誘導する細胞(単球、マクロファージ、樹状細胞、ランゲルハンス細胞、線維芽細胞、ケラチノサイトを含み得る)は、例えばTNF、IFNγ、IL−1β、IL−2、IL−4、IL−6、IL−8、IL−10、IL−18のうち1つ以上を含むサイトカイン及びその他の可溶性因子を分泌する。サイトカイン放出パターンは、サイトカインによって及び細胞の種類によって異なる。例えば、多くの免疫メディエータは、調節性エキソサイトーシスもしくは構成性エキソサイトーシスを含む古典的な分泌経路を介して、又は脱顆粒によって分泌される。古典的な分泌経路では、サイトカインは、小胞体(ER:endoplasmic reticulum)内のシグナルペプチドによって変換され、小胞でゴルジ複合体に輸送され、その後、放出のため細胞表面に輸送される。脱顆粒の場合は、サイトカイン及び/又はその他のカーゴ(cargo)は、後に放出されるために顆粒で貯蔵される。一方、IL−1β及びIL−18等、インフラマソームにより活性化されて炎症反応の開始において基本的な役割を果たす特定のサイトカインは、非古典的な分泌経路を介して分泌される。具体的には、これらの分子は不活性前駆体として合成され、一度カスパーゼ−1切断によって活性化されると、エキソソーム又は微小胞で膜輸送体によって、又は場合によっては細胞溶解によって、分泌され得る。例えば、Lacy及びStowによる、Cytokine release from innate immune cells: association with diverse membrane trafficking pathways, Blood 118(1)(2011年7月)を参照のこと。
【0022】
炎症プロセスにおける内因性活性酸素種(ROS:reactive oxygen species)の役割は、矛盾するデータによっていくぶん不明瞭になっているが、ROSは、インフラマソームの活性化因子と考えられることが多い。Harijith A等のReactive oxygen species at the crossroads of inflammasome and inflammation、Front. Physiol. 5:352(2014年)を参照のこと。例えば、内因的に発生された次亜塩素酸は一般に、炎症性分子と見なされる。例えば、Schieven GL等のHypochlorous acid activates tyrosine phosphorylation signal pathways leading to calcium signaling and TNFalpha production、Antioxid. Redox Signal 4(3): 501−7(2002年)、Pullar JL等のLiving with a killer: the effects of hypochlorous acid on mammalian cells、IUBMB Life、50(4−5): 259−66(2000年)を参照のこと。インビボのHOCl発生は、慢性炎症疾患において炎症を仲介すると仮定されている。Halliwell等のOxidants, inflammation, and anti−inflammatory drugs、FASEB 2:2867−2873(1988年)を参照のこと。これに対して、本開示は、HOClが用量依存的に炎症プロセスを阻害し得ることを示している。更に、HOClは、全身性免疫反応を軽減又は変化させることを含めて、基礎免疫疾患を軽減又は変化させることができる。
【0023】
本発明によれば、次亜塩素酸(強酸化剤)は、急性及び慢性の炎症状態及び炎症性疾患を治療するため、組織への適用向けに配合される。局所及び全身ステロイドは炎症性疾患の最も一般的な処方薬であるが、長期的なステロイド使用から生じ得る副作用及び損傷に対する認識が高まっている。これはとりわけ、食欲の増進、体重の増加、急激な気分変動、筋力低下、目のかすみ、体毛の増加、易傷性、感染への抵抗性低下、顔の腫れとむくみ、にきび、骨粗しょう症、糖尿病の悪化、高血圧、胃炎、神経過敏、不安、不眠、白内障又は緑内障、及び水貯留又は腫れを含む。いくつかの皮膚状態では、局所レチノイド、局所ビタミンD(及びその類似体)、抗ヒスタミン剤、及び免疫抑制剤が用いられるが、これらの薬剤は著しい毒性を伴う可能性がある。更に、一部の患者及び状態は、可能な治療では効果がない。従って、より効果的及び/又は安全な代替案が望まれている。次亜塩素酸は、これらの従来の薬剤に対する代替療法又は補助療法として使用され得る。
【0024】
多くの場合、従来の薬剤は、HOCl治療では観察されない広範囲の潜在的な望ましくない副作用を引き起こす。例えば抗生物質は、発疹、下痢、腹痛、吐き気/嘔吐、薬物熱、過敏(アレルギー)反応、血清病、膣カンジダ症、及び光過敏症を誘発する可能性がある。一般的な抗ウイルス剤は、吐き気、嘔吐、下痢、及び頭痛、並びに動揺、錯乱、発疹、貧血、筋肉痛、過敏反応、発作、及び肝炎を誘発することが報告されている。抗ヒスタミン剤及び充血除去剤は、眠気、めまい、口/鼻/喉の乾燥、頭痛、胃のむかつき、便秘、及び睡眠障害を誘発することが知られている。免疫抑制剤/免疫調節剤は、頭痛、吐き気、嘔吐、下痢、及び倦怠感、並びに腎機能低下、肝炎、感染リスクの増大、糖尿病、コレステロール値の増大、睡眠障害、軽度の震え、高血圧、歯茎の腫れ、指や足のうずき、顔の毛の増加、及びリンパ腫リスクの増大を誘発することが報告されている。オピオイド等の鎮痛薬及び麻酔薬は、鎮静状態、めまい、吐き気、嘔吐、便秘、身体的依存性、耐性、及び呼吸抑制を含む一般的な副作用が示されている。局所麻酔薬の一般的な副作用には、皮膚の紅潮又は赤み、皮膚の掻痒、皮膚の小さい赤又は紫の斑点、及び異常に熱い皮膚が含まれる。ステロイドは、食欲の増進、体重の増加、急激な気分変動、筋力低下、目のかすみ、体毛の増加、易傷性、感染への抵抗性低下、顔の腫れとむくみ、にきび、骨粗しょう症、糖尿病の悪化、高血圧、胃炎、神経過敏、不安、不眠、白内障又は緑内障、及び水貯留又は腫れを誘発することが報告されている。HOClを代替療法として提供することにより、従来の薬物の副作用を回避することができる。
【0025】
次亜塩素酸組成物は酸化種の混合物を含有し得るが、酸化種は主に次亜塩素酸(HOCl)である。次亜塩素酸及び次亜塩素酸塩は平衡状態であり、平衡の位置は単にpHだけによって決定される。例えば次亜塩素酸組成物は、約3から約7.5のpH、又は約3.5から約7.5、又は約4から約7.5のpH、又は約5から約7.5、又は約4から約7のpH、又は約4.5から約7のpH、又は約5から約7のpH、又は約3から約6.5のpH、又は約4から約6.5のpH、又は約5から約6.5のpHを有し得る。例えば次亜塩素酸組成物は、約5から約6のpHを有し得る。
【0026】
いくつかの実施形態において、次亜塩素酸組成物は、次亜塩素酸、次亜塩素酸塩、及び分子塩素(Cl)の全濃度(100%として)に対して、少なくとも約70%、又は少なくとも約80%の次亜塩素酸を含有する。次亜塩素酸組成物は、次亜塩素酸、次亜塩素酸塩、及び分子塩素(Cl)の全濃度(100%として)に対して、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも98%の次亜塩素酸を有し得る。そのような実施形態では、組成物の結果としての刺激を回避しながら、より高いレベルの活性塩素を投与することが可能となる。次亜塩素酸塩は、有効塩素の必要濃度に加えて、高いpHのために、哺乳類細胞で毒性を有することが以前から知られている。従ってこれは、長期の使用には望ましくなく、いくつかの抗炎症性の用途では充分な治療域を持たない可能性がある。従っていくつかの実施形態では、溶液又は組成物中の次亜塩素酸塩のレベルが制限される(例えば、次亜塩素酸、次亜塩素酸塩、及び分子塩素(Cl)の全濃度(100%として)に対して、約10%以下、又は約5%以下、又は約3%以下)。
【0027】
様々な実施形態における次亜塩素酸組成物は、有効遊離塩素(AFC)を、約100から約5000ppm(parts per million)、又はいくつかの実施形態では約250から約2000ppm含有する。いくつかの実施形態では、組成物は、約500ppmより大きい、又は約600ppmより大きい、又は約700ppmより大きい、又は約800ppmより大きい、又は約1000ppmより大きい、又は約1200ppmより大きい、又は約1500ppmより大きいAFCを有する。例えば組成物は、約400から約3000ppm、例えば約500から2000ppm、又は約500から約1500ppm、又は約500から約1000ppmのAFCを有し得る。いくつかの実施形態では、HOCl組成物は、約1000から約2000、又は約1000から約1500ppmのAFCを用いて配合される。次亜塩素酸は、容量に依存した抗炎症作用を示す。
【0028】
次亜塩素酸組成物は、局所性及び/又は全身性の抗炎症効果を持ち、所望の臓器又は組織に有益であるように選択された任意の送達ルート向けに配合することができる。いくつかの実施形態では、組成物の抗炎症性又は免疫調節性は、適用部位の遠隔部位で観察される。
【0029】
本明細書で用いる場合、「患部」という言葉は、炎症状態の症状が現れる人体のいずれかの組織、臓器、又は部分であり、皮膚、粘膜、眼、耳、鼻、副鼻腔、咽喉、口(例えば歯肉)、リンパ節、肺、結合組織(骨格筋、靭帯、腱、関節を含む)、神経系(ひっかき/掻痒もしくは疼痛のような神経に基づくシグナル応答の活性化もしくは阻害を含む)、腸管(例えば結腸)、非尿生殖器系(尿路及び膣を含む)、並びに、血管系に影響を及ぼす全身炎症、又は、いくつかの実施形態では、腹膜又は、腎臓、肺、もしくは膵臓のような1つ以上の臓器を含み得る。いくつかの実施形態では、患部は投与ルートを決定する。投与ルートは、経腸(経口、経胃、及び経直腸)、非経口(静脈内、動脈内、骨内、筋肉内、髄腔内、皮下)、又はその他(舌下、口腔内、経直腸的、経膣的、関節内、眼球もしくは耳ルート、経鼻的、局所もしくは全身への効果のため皮膚に、吸入もしくは噴霧、もしくは経皮的)、又は1つ以上の組織もしくは臓器に対する洗浄剤としての使用(例えば外科処置又は外傷の間)を含む。いくつかの実施形態では、患部は、皮膚、眼、肺、又は粘膜のうち1つ以上である。いくつかの実施形態では、患部は、組成物の適用部位に対して遠隔である。
【0030】
本明細書で用いる場合、「治療する」という言葉は、疾患の症状(例えば炎症症状)を防止(予防的治療によって)、軽減、阻害、改善、もしくは管理するため、又は、いくつかの実施形態では、疾患の進行を遅らせるか又は停止させて、ある状態又は症状の発症又は再発を防止するため、療法を提供することを指す。例えば、様々な実施形態において本発明は、急性、慢性、及び遅延型反応を含む、組織又は遠隔部位における炎症プロセスを阻害、軽減、又は防止するために組織を治療し、これによって組織の再生及び/又は治癒を可能とし、及び/又は組織の損傷もしくは組織の完全性の喪失を防止する方法を提供する。
【0031】
本明細書で使用する場合、「長期の使用」という言葉は、慢性状態の治療を指す。一般に、慢性状態は、療法によっても排除されない状態であり、従って療法は、炎症症状を軽減、阻害、又は防止(例えば予防的治療によって)し、これによって症状を管理することを目的とする。長期の使用は一般に、少なくとも約2か月、少なくとも約6か月、少なくとも約1年、少なくとも約2年、又はそれ以上の治療を含む。いくつかの実施形態における長期の使用は、基礎疾患の自己免疫状態又は癌の治療等のため、全身的な効果が望まれる場合に使用される。
【0032】
本発明のいくつかの実施形態によれば、次亜塩素酸組成物は、例えば1日に1回、又は1日に2回以上投与することができる。例えば次亜塩素酸組成物は、1日に約1から10回(例えば1日に約2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、又は10回)投与することができる。あるいは、次亜塩素酸組成物は、1週間に1回、又は1週間に2回以上(例えば1週間に約2回から5回)投与することができる。いくつかの実施形態では、次亜塩素酸組成物は、1日に1回から4回(例えば1日に2回)局所的に投与される。
【0033】
次亜塩素酸の投与は、例えば医師によって適切と判断される任意の時間期間とすればよい。様々な実施形態では、次亜塩素酸組成物は、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも3週間、少なくとも4週間、少なくとも5週間、少なくとも6週間、少なくとも7週間、少なくとも8週間、少なくとも9週間、少なくとも10週間、少なくとも11週間、又は少なくとも12週間、投与される。長期の使用の場合、次亜塩素酸組成物は、少なくとも約2か月、少なくとも約3か月、少なくとも約4か月、少なくとも約5か月、少なくとも約6か月、少なくとも約7か月、少なくとも約8か月、少なくとも約9か月、少なくとも約10か月、少なくとも約11か月、又は少なくとも約12か月、投与することができる。いくつかの実施形態では、次亜塩素酸は、少なくとも約1年、又は少なくとも約2年、又はそれ以上、投与される。
【0034】
炎症状態は、(小児及び高齢の患者を含む)いかなる年齢のヒトの患者又は患畜にも、並びに免疫障害を持つ患者にも存在し得る。例示的な患畜には、イヌ、ネコ、ウマ、子羊、ウシ、ヤギ、ブタ、及びモルモット等の哺乳類が含まれる。本発明は更に、そのような炎症状態の予防的ケア(予防的使用を含む)、又は患者が遺伝子的に又は環境的にそのような状態を生じやすい状態、及び、抗菌もしくはステロイド治療、又はレチノイド、ビタミンD軟膏、免疫抑制剤、もしくは生物学的抗炎症薬によって完全に消散しない症状の防止を想定している。小児患者には、乳幼児、児童、及び青年が含まれ、年齢制限は通常、生後から18歳(米国では21歳)までの範囲である。いくつかの実施形態では、患者は12歳以下、又は幼児である。本開示に従った高齢患者には、60歳を超える個人が含まれる。免疫障害を持つ患者には、免疫抑制剤の投与、化学療法、放射線照射、栄養不良、遺伝病、又は後天性免疫不全症(AIDS:acquired immunodeficiency syndrome)のような特定の疾患プロセスによって、免疫反応が弱くなった患者が含まれる。
【0035】
次亜塩素酸組成物は、点眼剤、洗眼剤、うがい、含漱剤、鼻洗浄剤、又は喉スプレー、又は点耳薬のような液体として配合することができる。更に別の実施形態では、組成物は、皮膚、歯(dentia)、又は歯肉に適用するため、ペースト、クリーム、エマルション、ゲル(例えばヒドロゲル)、及び/又は泡の形態をとることができる。そのような配合物は、当技術分野において既知の及び/又は本明細書に記載するような従来の添加剤を用いて調製できる。ペースト、クリーム、エマルション、ゲル、及び/又は泡を用いる実施形態では、流出を抑えることによって、溶液を炎症部位の周りにより良く含ませる。クリーム、泡等のための好都合な塗布器が既知であり、本発明に従って用いることができる。あるいは、組成物は、エアロゾル、ミスト、もしくはスチームで送達するか、創傷包帯、接着剤、又は溶解性ストリップ(dissolving strip)、パッチ、もしくは座薬に含浸させるか、又はシリコンもしくは他の担体に封入するように、ナノ粒子としてもしくは自立型で、液体、懸濁液、粉末、丸薬、もしくはカプセル内に、又は腸内投与もしくは非経口投与による標的放出又は持続放出で放出させるための粒子として、配合することができる。
【0036】
また、次亜塩素酸組成物は、NaCl等の塩を約0.1から2.0%w/v含有することができる。いくつかの実施形態では、次亜塩素酸組成物は、0.4から1.5%w/vの塩を含有することができ、又は、生理食塩水(0.9%w/vのNaCl)とすることができる。いくつかの実施形態では、溶液は、血液、膵液、又は涙液のような生理液に対して等張である。いくつかの実施形態では、溶液は生理液に対して低張である。
【0037】
様々な実施形態における組成物は、エアロゾルによって肺に送達するか、又は粒子の静脈もしくは皮下送達によって投与することができる。この粒子は、HOClを封入し、徐放により又は特定の組織もしくは臓器を標的として血液循環中にHOClを放出する。いくつかの実施形態では、溶液又は組成物は、結腸、膣、尿路、もしくは腹膜の洗浄用に配合されるか、又は関節腔への注入用に配合される。いくつかの実施形態では、溶液又は組成物は、外科処置後に生じ得るような炎症性合併症を防止又は軽減するため、外科的処置中の又はその後の組織又は臓器の洗浄用に配合される。いくつかの実施形態では、組成物は、移植前の又は移植中のドナーの組織又は臓器(例えば腎臓、肝臓、肺、心臓、皮膚、及び角膜)の処置用に配合される。
【0038】
本発明のいくつかの実施形態では、次亜塩素酸は、別の治療薬又は洗浄剤と組み合わせて配合又は投与される(例えば別個に投与される)。治療薬の非限定的な例には、抗生物質、抗ウイルス剤、抗真菌剤、及び駆虫薬、免疫調節剤/抑制剤、抗炎症薬、抗ヒスタミン剤、鎮痛剤、局所麻酔薬、ビタミン等の酸化防止剤、及び保湿剤のような抗菌剤が含まれる。例えば、次亜塩素酸は、バシトラシン、ネオマイシン、ネオスポリン、フラマイセチン、フシジン酸、クロラムフェニコール、ゲンタマイシン、トブラマイシン、セフトリアキソン、スルファセタミド、エリスロマイシン、ゲンタマイシン、シプロフロキサシン、オフロキサシン、セフォキシチン、セフォタキシム、スペクチノマイシン、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、及びアジスロマイシン等の抗生物質、アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビル、及びオセルタミビル等の抗ウイルス剤、ケトコナゾール、フルコナゾール、イトラコナゾール、ボリコナゾール、テルビナフィン、及びナイスタチン抗真菌剤、メトロニダゾール、イベルメクチン、パモ酸ピランテル、アルベンダゾール、及びアトバコンプログアニル等の駆虫薬、サリドマイド、レナリドミド、アプレミラスト、シクロスポリン、ラパマイシン、プレドニゾン、及びタクロリムス等の免疫調節剤/抑制剤、アスピリン、イブプロフェン、ナプロキセンナトリウム、セレコキシブ等のコルチコステロイド及びNSAID、ジフェンヒドラミン、ロラタジン、フェキソフェナジン、シメチジン、ラニチジン、シプロキシファン、及びクロモグリケイト等の抗ヒスタミン剤、アセトアミノフェン/パラセタモール、ブプレノルフィン、コデイン、メペリジン、及びトラマドール等の鎮痛剤、エピネフリン、リドカイン、ブピバカイン、及びベンゾカイン等の局所麻酔薬、ビタミンA及びE等の酸化防止剤、シリコーン、皮膚軟化剤、ラノリン、鉱油、尿素、αハイドロキシ酸、グリセリン、脂肪酸、セラミド、コラーゲン、又はケラチン等の保湿剤と共に配合又は投与することができる。洗浄剤の非限定的な例には、アルコール、ベタイン、薄い石けん水、重炭酸塩溶液もしくは生理食塩水、又は陰極液等の電解溶液が含まれる。
【0039】
組成物は、薬学的に許容できる担体を含むことができる。適切な担体の非限定的な例には、ヘクトライト、ベントナイト、ラポナイト、油乳剤、ポリビニルアルコール、ポビドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポロキサマー、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、及び精製水が含まれる。また、組成物は、等張化剤、緩衝剤、界面活性剤、共溶媒、増粘剤、防腐剤、及びその他の治療薬のような様々な他の成分も含み得る。
【0040】
等張化剤については、そのような薬剤を用いて、例えば眼科用組成物の場合、組成物の張性を自然涙の張性に調節することができる。例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、デキストロース、及び/又はマンニトールを組成物に加えて、生理学的張性を近似することができる。そのような等張化剤の量は、加える特定の薬剤及び組成物のタイプによって異なる。しかしながら一般的には、組成物は、最終組成物が許容できるオスモル濃度を有するのに充分な量の等張化剤を有する。例えば眼科用組成物では、組成物は一般に、約150から450mOsm、好ましくは250から350mOsmの範囲内である。
【0041】
緩衝剤については、適切な緩衝系(例えばリン酸ナトリウム、リン酸カリウム、炭酸カリウム、重炭酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム又はホウ酸、リン酸、又はHCl)を組成物に加えて、貯蔵条件下でのpHドリフトを防ぐことができる。緩衝剤の具体的な量は、使用する薬剤によって異なる。しかしながら好ましくは、緩衝剤は標的pHを維持するように選択される。
【0042】
次亜塩素酸は非常に不安定であり、この問題は、高い強度の溶液(例えば数百ppmAFC超)、及び不安定化を生じ得る他の配合成分を用いる場合、いっそう難しくなる。従っていくつかの実施形態では、配合物は、引用により全体が本願に含まれる米国特許第8,871,278号に開示されているような、安定化量の溶存無機炭素(DIC:dissolved inorganic carbon)を含む。例えば配合物は、ナトリウム、カリウム、カルシウム、又はマグネシウム等のアルカリ又はアルカリ土類金属の重炭酸塩又は炭酸塩として組み込まれ得る安定化量のDICを利用することができる。いくつかの実施形態では、重炭酸塩又は炭酸塩は、(例えば電気化学的処理による)次亜塩素酸の配合前に追加され、他の実施形態では、重炭酸塩又は炭酸塩は電気化学的処理の後に加えられる。例えば、重炭酸塩(複数の重炭酸塩)又は炭酸塩(複数の炭酸塩)は、前駆体水溶液(例えば水)又は乾式電解質に含有させ、及び/又は電解溶液にもしくは配合中に組み込むことができる。
【0043】
DICは「安定化量(stabilizing amount)」で組み込まれる。この量は、配合物のpH又はAFC含有量の経時的な変化を参照して決定することができる。一般に、配合物は、AFCの量が約6か月間で初期値の約75%未満に低減しない場合、安定化していると考えられる。いくつかの実施形態では、AFC含有量は配合物の生成日から少なくとも1年間安定化している。更に、配合物の安定性はpHを参照して決定され得る。一般に、配合物は、pHが約6か月間で1単位変動しない場合、安定化していると考えられる。いくつかの実施形態では、pHは配合物の生成日から少なくとも1年間安定化している。配合物は、安定性を高めるため、25℃又は20℃、又はそれ以下で貯蔵するべきである。20℃が、安定性を決定するための基準温度である。安定性の試験のため、溶液又は配合物をガラス又はペットボトルに入れ、暗所で貯蔵し、未開封に保持する。最良の安定性を得るため、いくつかの実施形態では、配合物は使用するまで4℃で保存する。
【0044】
DIC(例えば炭酸塩又は重炭酸塩)の安定化量は、AFC含有量を基準として決定することができる。例えばいくつかの実施形態では、炭酸塩又は重炭酸塩の安定化量は、AFCレベルに対して約5:1から1:5のモル比であり、又はAFCレベルに対して約3:1から1:2のモル比である。いくつかの実施形態では、重炭酸塩又は炭酸塩は、AFC含有量(例えば次亜塩素酸含有量)に対して少なくとも等しいモル量で存在する。更に別の実施形態では、DIC(例えば重炭酸塩又は炭酸塩)は、AFC含有量に対して約5:1、約4:1、約3:1、約2:1、約1:1、約1:2、約1:3、約1:4、又は約1:5で存在する。様々な実施形態では、リン酸緩衝剤のような他の緩衝成分も用いられる。例えば、約500ppmから約2000ppmのAFCを有する配合物では、配合物を安定化させるため、炭酸塩又は重炭酸塩は、約500mg/Lから約3000mg/Lの量で存在し得る。いくつかの実施形態では、配合物は、皮膚の局所的治療のためのものであり、500から2000ppmの範囲のAFCを有し、約500から約2000mg/Lの範囲内の重炭酸ナトリウムを含み、5から7の範囲のpHを有し、2から5%(例えば約3%又は約4%)のフルオロケイ酸塩(例えばナトリウムマグネシウムフルオロケイ酸)を含む。いくつかの実施形態では、配合物は、ナトリウムマグネシウムフルオロケイ酸又はリチウムマグネシウムフルオロケイ酸等のケイ酸ベースの担体を使用するヒドロゲルであり、HOClを安定化させるために重炭酸ナトリウムを(例えば500から2000mg/L)含み、弱酸性のpH(例えば5から6.5)を標的とするためにリン酸(及び任意選択的にリン酸ナトリウム緩衝剤)を含む。配合物は約500から約150,000cPの粘度を有することができ、例えば約1000から約840,000cP、又は1000から約30,000cP等である。いくつかの実施形態における配合物は、10mS/cm未満の導電率を有し、例えば約0.5から約5mS/cm、約0.5から約3mS/cm、又はいくつかの実施形態では約1又は約2mS/cmである。
【0045】
理論に束縛されることは望まないが、一般に炭酸塩、重炭酸塩、炭酸、及び溶解COを含む溶存無機炭素(DIC)は、本明細書に記載される溶液及び配合物が標的とするpH範囲において、低いか又は最小限の緩衝能力を与える。それにもかかわらず、これらの溶液は効果的に安定化され、これらの溶液及び組成物が「要求に応じた(on−demand)」生成に左右されないようになっている。安定化効果は、部分的には、DICのフリーラジカル捕捉能力によってHOClの分解を減速させることから得られる。
【0046】
安定化された配合物は、任意の適切なプラスチック又はガラスの瓶、又は袋、又は管、又は缶(例えばスプレー又はエアロゾル)のような任意の適切な容器を用いて、販売用に包装することができる。ある特定の容器材料が、保存期間の点で有利であり得る。いくつかの実施形態では、包装材料は、CO及びO等の種によるものを含め、ガス透過率が最小限である(例えば非透過性である)。従ってこれらの容器は、COの形態の安定化剤を失うことなく、溶存無機炭素の安定化量を維持する。容器は透明であるか、又は光を通さないように不透明とすることができる。しかしながら、UV光はHOClの解離を引き起こす可能性があるので、透明な容器によってUV光を除去することが好ましい。容器の容積は安定性及び保存期間に影響を与えると考えられているが、本明細書に記載される配合物は、約5mLから約20リットル、又は約100mLから約1リットルまでの範囲内とすればよい。例示的な容器は、約5mL、約16mL、約50mL、約100mL、約125mL、約250mL、約0.5リットル、約1リットル、約2リットル、約3リットル、約4リットル、約5リットル、又は約10リットルの単位容積を有する。
【0047】
界面活性剤については、従来の配合物において有用な種々の界面活性剤、特に、HOCl等の酸化剤に耐性がある界面活性剤を使用できる。界面活性剤には、CREMOPHOR EL、ラウラミンオキサイド、ミリスチルジメチルアミンオキシド、ポリオキシル20セトステアリルエーテル、ポリオキシル40水添ヒマシ油、ポリキシル23ラウリルエーテル、及びポロキサマー407が含まれる。
【0048】
増粘剤については、そのような薬剤を本発明のHOCl組成物に加えて担体の粘度を増大させることができる。増粘剤の例は、限定ではないが、合成ケイ酸塩、ヒアルロン酸及びその塩、コンドロイチン硫酸及びその塩、デキストラン、セルロース族の様々なポリマー等の多糖、ビニルポリマー、並びにアクリル酸ポリマーを含む。例えば組成物は、1対400,000センチポアズ(「cps」)の粘度を示し得る。
【0049】
防腐剤については、HOClが防腐剤として機能するので、追加の抗菌剤は必要ない。しかしながら、いくつかの実施形態では、銀のような第2の防腐剤又は抗菌剤とHOClを組み合わせる。様々な実施形態では、HOClは無菌で(as sterile)製造される。また、組成物は、当技術分野において既知の抗炎症剤、抗ヒスタミン剤、充血除去剤、抗生物質、鎮痛剤、免疫調節剤及び抑制剤、及び/又は保湿剤のような他の治療薬を含むことも可能である。
【0050】
様々な実施形態において、様々な実施形態に従って治療される炎症状態は、少なくとも部分的に、I型過敏症、II型過敏症、III型過敏症、及び/又はIV型過敏症によって特徴付けられる。炎症状態は、急性又は慢性であり、自己免疫又はアレルギー由来であり得る。
【0051】
I型過敏症(又は即時型過敏症)は、抗原(例えばアレルゲン)に対する再暴露によって引き起こされるアレルギー反応である。I型過敏症では、抗原が、この抗原に特異的なCD4+Th2細胞に提示されて、この抗原に特異的なIgE抗体のB細胞生成を刺激する。感作の間、IgE抗体は組織肥満細胞及び血中好塩基球の表面の受容体に結合する。後に、同じアレルゲンに暴露されると、感作細胞の結合IgEを架橋し、この結果、周囲の組織に対して作用するヒスタミン、ロイコトリエン(LTC4及びLTD4)、及びプロスタグランジン等の薬理活性メディエータの脱顆粒及び分泌が起こる。これらの生成物の主な効果は、血管拡張及び平滑筋収縮である。本発明が効果的であり得る例示的なI型の状態には、アレルギー性喘息(重症の喘息を含む)、アレルギー性結膜炎、アレルギー性鼻炎、アナフィラキシー、血管性浮腫、蕁麻疹、好酸球増多、薬物アレルギー(例えばペニシリン、セファロスポリン)、又は食物アレルギーが含まれる。I型過敏症は、即時反応と遅発相反応に更に分類することができる。即時型過敏症反応は、暴露の何分か後に発生し、血管作用性アミン及び脂質メディエータの放出を含むが、遅発相反応は、暴露の2〜4時間後に発生し、サイトカインの放出を含む。
【0052】
いくつかの実施形態では、患者は高免疫グロブリンE症候群にかかっている。これは、再発性ブドウ球菌感染症、湿疹様皮膚発疹、気瘤(空気又は膿又は瘢痕組織で埋まった空胞状の病変)を生じる重症肺感染症、及び極めて高い濃度の血清抗体IgEによって特徴付けられる。
【0053】
II型過敏症(又は細胞毒性過敏症)では、免疫反応によって生成された抗体が、患者自身の細胞表面の抗原に結合する。認識される抗原は、自己抗原であるか、又は何らかの外来抗原への暴露中に細胞に吸収された外部抗原(extrinsic antigen)であり得る。これらの細胞は、抗原提示細胞として作用するマクロファージ又は樹状細胞によって認識される。これによってB細胞反応が起こり、外来抗原に対して抗体が生成される。本発明を使用できるII型過敏症の例には、溶血性貧血、重症筋無力症、バセドウ病、及びグッドパスチャー症候群が含まれる。II型過敏症の別の形態は、抗体依存性細胞媒介性細胞障害(ADCC:antibody−dependent cell−mediated cytotoxicity)と呼ばれる。この場合、外来抗原を示す細胞は、抗体(IgG又はIgM)で標識される。標識された細胞は次いで、ナチュラルキラー細胞(NK)及びマクロファージによって認識され、これらが、標識された細胞を殺す。
【0054】
III型過敏症は、自然免疫細胞によって適切に除去されていない抗原抗体複合体が蓄積して、炎症反応を起こすと共に白血球を引き寄せる場合に発生する。III型過敏症は、過剰な抗原が存在することで、補体に結合せず血液循環から除去されない小さい免疫複合体が形成される場合に発生する。大きい複合体はマクロファージによって除去できるが、マクロファージが小さい免疫複合体を処理するのは難しい。これらの免疫複合体は、細い血管、関節、及び糸球体に入り込み、症状を引き起こす。沈着部位(血管壁等)に結合した小さい免疫複合体は、自由な免疫複合体とは異なり、補体とはるかに活発な相互作用を生じ得る。組織でのそのような沈着は、炎症反応を誘発することが多く、沈殿するとどこでも損傷を生じる可能性がある。この損傷は、分解した(cleaved)補体アナフィラトキシンC3a及びC5aの作用によって、これらがそれぞれ肥満細胞からの顆粒放出の誘発と炎症細胞の組織内への動員(recruitment)を仲介することから生じ得る。III型過敏症に対する皮膚反応は、アルサス反応と呼ばれ、局所紅斑及び多少の硬化によって特徴付けられる。III型過敏症の他の例には、全身性エリテマトーデス(SLE:Systemic Lupus Erythematosus)(これは例えば腎炎、皮膚病変、及び関節炎を伴い得る)、糸球体腎炎、全身性血管炎、関節炎、皮膚血管炎、農夫肺(肺胞の炎症として現れる)が含まれる。
【0055】
IV型過敏症は、多くの場合、反応が生じるのに2〜3日かかるので遅延型過敏症と呼ばれる。他の型とは異なり、これは抗体媒介性でなく、一種の細胞媒介性反応である。CD4+ヘルパーT細胞は、クラスIIの主要組織適合遺伝子複合体による複合体における抗原を認識する。この場合の抗原提示細胞はマクロファージであり、これがIL−12を分泌して、CD4+Th1細胞の増殖を刺激する。CD4+T細胞はIL−2及びインターフェロンガンマを分泌し、他のTh1サイトカインの放出を更に誘発し、これによって免疫反応を仲介する。活性化されたCD8+T細胞は、標的細胞に接触するとこれを破壊するのに対し、活性化されたマクロファージは加水分解酵素を生成し、特定の細胞内病原体に提示されると、多核巨細胞に変わる。
【0056】
IV型過敏症の例には以下のものが含まれる。I型糖尿病は膵臓β細胞に影響を及ぼし、β細胞の破壊及び/又は膵島炎を引き起こす。多発性硬化症はオリゴデンドロサイトタンパク質への攻撃から発生し、結果として、脱髄疾患、血管周囲炎、麻痺、及び/又は眼病変を招く。関節リウマチ(RA:rheumatoid arthritis)は滑膜における抗原への攻撃から発生し、慢性関節炎を引き起こす。RAは多くの場合、関節軟骨及び関節骨の破壊に至る(これはIII型過敏症も伴うことがある)。シュワン細胞抗原への攻撃から発生し得る末梢神経障害は、神経炎又は麻痺を引き起こす。橋本甲状腺炎は、サイログロブリン抗原への攻撃から発生し、甲状腺機能低下症、甲状腺腫、及び/又は濾胞性胸腺炎を招く。クローン病は回腸及び結腸の炎症を伴う。アレルギー性接触皮膚炎は、ツタウルシ及びニッケルを含む環境化学物質との接触により発生し、掻痒として現れ、放射線への暴露を含み得る。これは、生きている間の人工又は自然のUVへの暴露によるもの(UVによる損傷/皮膚の老化を引き起こす)、及び/又は癌治療の目的もしくは介入手順のための放射線への暴露である。他の例には、セリアック病、移植片対宿主疾患、慢性移植拒絶反応が含まれる。
【0057】
様々な実施形態では、次亜塩素酸組成物の投与により、IL−1β、IL−2、IL−4、IL−6、IL−8、IL−18、及びTNF−αのうち1つ以上のような炎症性サイトカイン、並びにα−2マクログロブリン及びNF−kβのような他の可溶性因子又は細胞因子が全身で低減する。
【0058】
様々な実施形態では、HOCl組成物を適用して、上記の状態を含む、長期及び/又は無治療の炎症によって生じたか又はそれらに関連した疾患又は状態を防止する。これらの疾患又は状態の例には、癌(とりわけ、例えば大腸癌、肺癌、皮膚癌、卵巣癌、乳癌)、心血管疾患、糖尿病、及び代謝性疾患が含まれる。
【0059】
いくつかの実施形態では、次亜塩素酸を癌患者に投与して、癌の進行を遅らせるか又は阻害する。具体的には、癌は、進行及び転移において炎症機構に頼っている。本発明は、これらの炎症プロセスを調節することによって、癌の進行及び転移の制御を手助けし、特に、患者が、化学療法又は放射線療法のような、非癌細胞及び組織(限定ではないが、粘膜、皮膚、及びGIを含む)に有害である一次癌療法を受けている場合、人体の修復機構を支援する。
【0060】
本明細書で用いる場合、癌は、身体の組織及び系の正常な機能を妨げ得る制御されない細胞増殖を指し、原発腫瘍及び転移性腫瘍の双方を含む。原発部位から移動し、重要臓器に広がる(seed)原発性腫瘍又は癌は、最終的に、罹患臓器の機能低下によって対象の死に至ることがある。転移は、原発腫瘍部位とは異なる1つの癌細胞又は癌細胞群であり、原発腫瘍から他の身体部位への癌細胞の播種から生じる。転移は最終的に対象の死に至ることがある。例えば癌は、良性及び悪性の癌、ポリープ、過形成、及び休眠腫瘍又は微小転移を含み得る。いくつかの実施形態では、癌はステージI又はステージIIの癌である。他の実施形態では、癌はステージIII又はステージIVである。
【0061】
治療し得る例示的な癌は、限定ではないが、基底細胞癌、胆道癌、膀胱癌、骨肉種、脳及び中枢神経系の癌、乳癌、腹膜の癌、子宮頸癌、絨毛癌、大腸癌、結合組織癌、消化器系の癌、子宮内膜癌、食道癌、眼癌、頭頸部癌、胃癌(消化管癌を含む)、膠芽細胞腫、肝臓癌(hepatic carcinoma)、ヘパトーマ(hepatoma)、上皮内腫瘍、腎臓癌、喉頭癌、白血病、肝臓癌、肺癌(例えば小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺腺癌、及び扁平上皮肺癌)、黒色腫、骨髄腫、神経芽細胞腫、口腔癌(唇、舌、口、及び咽頭)、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、網膜芽種、横紋筋肉腫、直腸癌、呼吸器系の癌、唾液線癌、肉腫、皮膚癌、扁平上皮癌、胃癌、精巣癌、甲状腺癌、子宮又は子宮内膜癌、泌尿器系の癌、外陰部癌、ホジキンリンパ腫及び非ホジキンリンパ腫、並びにB細胞リンパ腫(低悪性度/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)を含む)を含むリンパ腫、小リンパ球性(SL)NHL、中悪性度/濾胞性NHL、中悪性度びまん性NHL、高悪性度免疫芽球性NHL、高悪性度リンパ芽球性NHL、高悪性度小型非開裂細胞性NHL、巨大病変NHL、マントル細胞リンパ腫、AIDS関連リンパ腫、及びヴァルデンストレームマクログロブリン血症、慢性リンパ球性白血病(CLL:chronic lymphocytic leukemia)、急性リンパ性白血病(ALL:acute lymphoblastic leukemia)、有毛細胞白血病、慢性骨髄芽球性白血病、並びに、他の上皮性悪性腫瘍及び肉腫、移植後リンパ増殖性疾患(PTLD:post−transplant lymphoproliferative disorder)、並びに、母斑症、浮腫(例えば脳腫に関連するもの)、及びメージュ症候群に関連した異常な血管増殖を含む。
【0062】
様々な実施形態において、治療し得る癌には、限定ではないが、皮膚癌、皮膚黒色腫、乳癌、結腸癌、肺癌、精巣癌、子宮頸癌、リンパ腫、副甲状腺癌、陰茎癌、直腸癌、小腸癌、甲状腺癌、子宮癌、ホジキンリンパ腫、口唇及び口腔癌、白血病、及び多発性骨髄腫が含まれる。一実施形態では、癌は、基底細胞癌又は扁平上皮癌のような皮膚癌である。一実施形態では、癌は乳癌である。別の実施形態では、癌は口、咽喉、副鼻腔の癌である。更に別の実施形態では、癌は肺癌である。
【0063】
いくつかの実施形態では、次亜塩素酸組成物は、腫瘍に又は腫瘍を含む組織もしくは臓器に直接投与される。例えばいくつかの実施形態では、次亜塩素酸組成物は、癌の外科的除去の間に投与される。他の実施形態では、腫瘍の位置によって最も適切な送達ルートが指示される。この送達ルートは、局所的な投与、経肺投与、結腸洗浄、カテーテル、腫瘍内注入、又は口腔もしくは副鼻腔への送達によるものを含む。いくつかの実施形態では、癌が皮膚で発生しているか、又は皮膚の近位にあるかにかかわらず、次亜塩素酸組成物は局所的に投与される。いくつかの実施形態では、次亜塩素酸は、局所送達によって全身的な効果を与えるので、遠隔の癌(肝臓、膵臓、膀胱、結腸直腸、及びその他)であっても、このルートを用いて効果的に治療できる。いくつかの実施形態では、癌の治療のため、次亜塩素酸組成物による長期の治療が用いられる。
【0064】
様々な実施形態において、HOCl組成物は、炎症プロセスを阻害することによって、及び/又は皮膚ホメオスタシスを維持することによって、又は細胞(例えば皮膚細胞)の増殖を刺激して病変の創傷を治癒することによって、炎症状態により引き起こされた病変を治療又は防止するために適用される。従っていくつかの実施形態では、患者は、皮膚又は粘膜の病変として現れる炎症状態を有し、HOCl配合物は、傷のない皮膚を(例えば発生した病変から)保護し、及び/又は一度発生した創傷の閉鎖を促進する。いくつかの実施形態では、患者は、患者を皮膚病変にかかりやすくする状態を有し得る。この状態は、微生物感染又は微生物負荷、炎症、掻痒、高いpH、及びバリア障害(compromised barrier)によって特徴付けられる。本明細書に記載するHOClは、多様に作用して、微生物負荷の軽減、pHの正常化、掻痒の軽減を含む様々な段階の状態を阻害すると同時に、炎症メディエータを軽減する。
【0065】
いくつかの実施形態において、本発明は、限定ではないが皮膚、眼、口、歯肉、鼻腔、副鼻腔、泌尿生殖器系、膣、腸等を含む組織の微生物叢を制御又は正常化するための方法を提供する。いくつかの実施形態では、組織は急性又は慢性の炎症に罹患し、いくつかの実施形態では、微生物コロニー過剰形成によって特徴付けられ、又は、炎症状態もしくは免疫状態に関連した1つ以上の微生物の存在によって特徴付けられる。
【0066】
明らかな感染が存在しない場合であっても、微生物叢と組織炎症との間には複雑な相互作用がある。例えば、McDermott及びHuffnagleの、The microbiome and regulation of mucosal immunity、Immunology Vol. 142(1): 24−31(2014年)を参照のこと。微生物負荷の軽減と組織微生物叢の正常化を同時に行い、これと共に局所炎症を軽減することで、組織の治癒及び正常化を促進することができる。いくつかの実施形態では、炎症組織又は他の領域からのミクロフローラ(microflora)が決定される(例えばrRNA遺伝子配列決定法(gene sequencing)によって)。免疫状態又は炎症状態に関連した微生物(又は微生物の個体群又はプロファイル)が存在する実施形態では、次亜塩素酸組成物を投与して微生物叢を正常化することができる。
【0067】
いくつかの実施形態では、特に長期使用で、局所に適用されたHOClは、健康なミクロフローラ(皮膚、粘膜、消化管等を含む)を維持する手助けとなる。これは、慢性炎症を制御するために有益である。
【0068】
様々な実施形態において、炎症状態は、患部として、眼、耳、鼻、副鼻腔、咽喉、口、歯肉、又は皮膚のうち1つ以上を含む。他の実施形態では、炎症状態は、患部として、腸管/結腸、肺、泌尿生殖器系(例えば尿路、膣)、骨格筋、靭帯、腱、関節、骨、腎臓、肝臓、膵臓、又は血管系のうち1つ以上を有し得る。
【0069】
本発明に従って治療し得る様々な局所化炎症状態又は症状には、アレルギー性結膜炎、腺の閉塞、霰粒腫、ものもらい(stye)、目の充血、ドライアイ疾患、ブドウ膜炎、眼の外科的処置の後の炎症、ドライ型又はウェット型加齢黄斑変性症(AMD:age−related macular degeneration)等の目の状態、鼻炎、鼻漏、副鼻腔炎、鼻詰まり等の鼻又は副鼻腔の状態、口内炎、口腔乾燥症、歯肉炎、又は咽頭炎等の口又は咽喉の状態、角膜炎、皮膚炎、にきび、乾癬、ネザートン症候群、魚鱗癬、皮膚の水泡性疾患(例えば表皮水泡症)、水泡性類天疱瘡、光線性角化症、掻痒(pruritis)、発疹、病変、水膨れ、瘤等の皮膚の状態が含まれる。
【0070】
特定の標的組織に影響を及ぼし得るか、又は多数の組織、臓器、もしくは系に影響を及ぼし得る、様々な実施形態において治療される追加的な炎症状態は以下の通りである。肺に影響を及ぼす例示的な状態には、アレルギー性喘息、職業性喘息、気管支炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD:chronic obstructive pulmonary disease)、突発性肺線維症(IPF:idiopathic pulmonary fibrosis)、嚢胞性線維症、グッドパスチャー症候群、又は農夫肺が含まれる。皮膚に影響を及ぼす例示的な状態には、接触性皮膚炎、にきび、血管性浮腫、蕁麻疹、全身性エリテマトーデス(SLE)、乾癬、サルコイドーシス、酒さ(rosasea)、疱疹状皮膚炎、日焼け、及び皮膚血管炎が含まれる。結腸及び腸管に影響を及ぼす例示的な状態には、クローン病、セリアック病、潰瘍性結腸炎、及び痔が含まれる。関節又は骨に影響を及ぼす例示的な状態には、関節炎(関節リウマチ又は骨関節炎)、多発性骨髄炎、外傷性の膝のけが、SLE、及び痛風が含まれる。腎臓に影響を及ぼす例示的な状態には、グッドパスチャー症候群、SLE、糸球体腎炎、及び腎臓結石が含まれる。臓器、系の炎症、又は全身の炎症を伴う他の例示的な状態には、好酸球増多、薬物アレルギー、食物アレルギー、溶血性貧血、重症筋無力症、全身性血管炎、I型及びII型の糖尿病、汗腺膿瘍、多発性硬化症(MS:multiple sclerosis)、脊髄炎、末梢神経障害、パーキンソン病、肝炎、腎不全、膵臓炎、橋本甲状腺炎、成人発症スチル病、全身性発症若年性突発性関節炎(SJIA:systemic onset juvenile idiopathic arthritis)、シュニッツラー症候群、ベーチェット病、SAPHO症候群、マクロファージ活性化症候群、家族性地中海熱(FMF:Familial Mediterranean Fever)、クリオピリン関連周期熱症候群(CAPS:cryopyrin−associated periodic syndrome)、TNF受容体関連周期性症候群(TRAPS:TNF receptor associated periodic syndrome)、高IgD症候群、間欠熱、アフタ性口内炎、PFAPA(pharyngitis and adenitis)、インターロイキン−1(IL−1)受容体アンタゴニスト欠損(DIRA:deficiency of interleukin−1 receptor antagonist)、巨細胞性動脈炎、移植片対宿主疾患、アミロイド症、再発性心膜炎、視神経脊髄炎、筋委縮性側索硬化症、骨髄腫、慢性移植拒絶反応が含まれる。
【0071】
いくつかの実施形態では、HOClを皮膚に適用して、急性又は慢性の炎症状態にある患者の炎症を軽減もしくは阻害するか、又は炎症を防止する。例えば皮膚の患部は、正常な健康な皮膚と比較して、アルカリ性のpHによって特徴付けることができる。そのような実施形態では、次亜塩素酸の弱酸性のpHによって、皮膚を治癒及び健康な再生が生じやすいpHにするよう手助けする。更に、いくつかの実施形態では、無傷であるが炎症を起こしている皮膚に適用することで、組織に損傷を与える炎症反応を阻害又は軽減し、治癒プロセスと一致した細胞(例えば皮膚線維芽細胞及び/又はケラチノサイト)の増殖を可能とすることによって、健康な皮膚の再生及びバリア完全性を促進する。更に、HOClは、適用されるレベルではこれらの細胞に対して毒性ではない。治癒環境は、炎症を起こしている組織の微生物負荷を軽減することによって更に支援される。そうでない場合は、バリア完全性の喪失のために感染症が発生し得る。このため、様々な実施形態では、次亜塩素酸配合物によって、微生物負荷の軽減、炎症の軽減、掻痒(pruritis)の軽減、皮膚細胞再生の増大、及び皮膚pHの正常化のうち1つ以上が可能となる。いくつかの実施形態では、患者は、微生物負荷(例えばコロニー過剰形成)、又は感染、炎症、掻痒、病変、及び患部における高い皮膚pHによって特徴付けられる状態を有する。いくつかの実施形態では、患者は、活動性病変を有するか又は有しない皮膚の病変によって特徴付けられる状態を有する。HOCl配合物によって活動性病変の治癒及び皮膚の正常化を促進しながら、新しい病変の形成を防止する。
【0072】
いくつかの実施形態では、対象は、皮膚を含む複数の臓器又は組織に影響を及ぼす基礎免疫状態を有する。これらの実施形態において、次亜塩素酸組成物は、皮膚の患部における炎症症状を緩和しながら、自己免疫又は過敏性の成分を有し得る基礎疾患の全身免疫状態を抑制又は変化させる。
【0073】
例えばいくつかの実施形態では、対象は全身性エリテマトーデス(SLE)を有する。SLE又はループスは、身体の免疫系が健康な組織を攻撃する全身性自己免疫疾患である。SLEは多くの場合、心臓、関節、皮膚、肺、血管、肝臓、腎臓、及び神経系に影響を及ぼす。ループスの患者には皮膚の病変/発疹が現れることがある。病変の3つの主要カテゴリは、慢性皮膚(円板状)ループス、亜急性皮膚ループス、及び急性皮膚ループスである。円板状ループスは、皮膚に厚いうろこ状の紅斑として現れる。同様に、亜急性皮膚ループスは、皮膚のうろこ状の紅斑であるが明らかな境界を持って現れる。急性皮膚ループスは、発疹として現れる。いくつかの実施形態における次亜塩素酸組成物は、皮膚病変又は発疹を改善及び/又は緩和しながら、全身性の抗炎症の利点を与える。従って、一般にループスで影響を受けている他の組織及び臓器は、本明細書で記載されるHOClを用いた皮膚治療から恩恵を受けられる。
【0074】
他の実施形態では、対象は、尋常性乾癬、乾癬性紅皮症、膿疱性乾癬、頭皮の乾癬、滴状乾癬、又は倒置乾癬等の乾癬を有する。乾癬は皮膚の病変として顕著に現れるが、乾癬は、関節及び周囲の結合組織、眼、及び粘膜(耳及び鼻腔を含む)にも影響を及ぼす。いくつかの実施形態における次亜塩素酸組成物は、乾癬性の皮膚病変を改善及び/又は緩和しながら、全身性の抗炎症の利点を与える。従って、乾癬で影響を受けている他の組織は、本明細書で記載されるHOClを用いた皮膚治療から恩恵を受けられる。
【0075】
いくつかの実施形態では、対象は関節リウマチ(RA)を有する。RAは慢性の炎症性疾患であり、滑膜(joint lining)に影響を及ぼして疼痛を伴う腫脹を生じ、最終的に骨侵食及び関節変形を引き起こす可能性がある。関節の問題に加えて、RAは、皮膚を含む身体の他の臓器に影響を及ぼし得る。例えば、一部のRA患者は、皮膚のリウマチ結節、血管炎、発疹、潰瘍、水疱、及び瘤を経験する。更にRAは、壊疽性膿皮症、スイート症候群、結節性紅斑、ローブ脂肪織炎(lobe panniculitis)、指の皮膚の委縮、手掌紅斑、びまん性薄毛(diffuse thinning)、及び皮膚脆弱性(コルチコステロイド使用により悪化することが多い)を誘発する可能性がある。様々な実施形態において、次亜塩素酸組成物は、RAに伴う皮膚の症状を防止、改善、及び/又は緩和しながら、RA患者に全身性の抗炎症の利点を与える。
【0076】
いくつかの実施形態では、対象はセリアック病を有する。セリアック病は、グルテン摂取に対して免疫反応を生じる遺伝的な傾向がある対象において発生する自己免疫疾患である。セリアック病の患者は、下痢、腹痛、及びけいれんを含む胃腸の症状を示す。更に、セリアック病は、皮膚等の他の臓器系にも影響を及ぼし、結果として口内炎又はびらん等の症状を引き起こす可能性がある。また、セリアック病患者の約15〜25%は、瘤及び水疱のある激しい掻痒のある皮膚の発疹として現れる疱疹状皮膚炎も発症する。様々な実施形態では、次亜塩素酸組成物は、(局所的に適用された場合)セリアック病に伴う口内炎、びらん、及び皮膚の発疹を防止、改善、及び/又は緩和すると共に、全体として状態に対する全身性の利点を与える。
【0077】
いくつかの実施形態では、対象はクローン病を有する。クローン病は、ある種の炎症性腸疾患であり、消化管粘膜の炎症を引き起こす。クローン病により生じた炎症は、多くの場合、重度の腹痛、下痢、疲労、体重減少、及び栄養不良を招く。また、クローン病は、皮膚を含む胃腸管の外側で他の合併症を生じ得る。例えばクローン病は、口内炎及びびらんを含む皮膚の症状、皮膚の隆起した赤い小結節として現れる結節性紅斑、及び有痛性潰瘍性皮膚結節を引き起こす壊疽性膿皮症を生じる可能性がある。様々な実施形態において、次亜塩素酸組成物の投与は、クローン病に伴う皮膚症状を防止又は改善し、また、この疾患によって影響を受けている他の臓器又は組織に対して更に全身性の利点を与える。
【0078】
いくつかの実施形態では、対象は潰瘍性結腸炎を有する。クローン病と同様、潰瘍性結腸炎も、ある種の炎症性腸疾患である。この疾患は、結腸における炎症及び潰瘍を生じ、下痢等の症状を引き起こす。更に、潰瘍性結腸炎は、口内炎又はびらん、結節性紅斑、及び壊疽性膿皮症等の皮膚症状を起こす可能性がある。いくつかの実施形態における次亜塩素酸組成物(局所的に適用される)は、潰瘍性結腸炎に伴う口内炎、びらん、及び有痛性又は壊死性潰瘍を防止、改善、及び/又は緩和しながら、全身性の抗炎症の利点を与える。従って、潰瘍性結腸炎で影響を受けている他の組織及び臓器は、本明細書に記載されるHOClを用いた皮膚治療から恩恵を受けられる。
【0079】
いくつかの実施形態において、対象は血管炎を有する。血管炎は、血管の炎症を伴う状態であり、皮膚の合併症を生じる可能性がある。例えば、血管炎の患者は多くの場合、皮膚の発疹、及び皮膚出血、又は明らかな紫斑及び網状斑による変色を発症する。いくつかの実施形態において、次亜塩素酸組成物は、これらの皮膚症状を防止、改善、及び/又は緩和しながら、全身性の抗炎症の利点を与える。
【0080】
いくつかの実施形態では、対象は、甲状腺の炎症である甲状腺炎を有する。甲状腺炎は、甲状腺機能低下症又は甲状腺機能亢進症のいずれかによる多種多様な症状を生じる可能性がある。例えば、甲状腺炎は乾燥肌を引き起こすことが多いが、これは次亜塩素酸組成物を適用することによって防止又は緩和され得る。また、次亜塩素酸組成物を適用して、眼及び筋肉等の甲状腺炎によって影響を受けた他の組織及び臓器に緩和(relief)を与えることで、全身性の効果も与え得る。
【0081】
いくつかの実施形態では、対象はI型糖尿病を有する。糖尿病は皮膚を含む身体のあらゆる部分に影響を及ぼす可能性があり、糖尿病を持つ多くの人々は、糖尿病によって引き起こされたか又は影響を受けた皮膚疾患を発症する。場合によっては、皮膚の問題は、人が糖尿病を有することの最初の兆候である。糖尿病を持つ人々に共通するいくつかの皮膚状態には、黒色表皮症、皮膚発疹、瘤、又は水疱、乾燥肌、及び/又は皮膚の掻痒、皮膚にうろこ状の斑を生じ得る糖尿病性皮膚障害、指の硬化、播種状環状肉芽腫、発疹性黄色腫、糖尿病性リポイド類壊死症、糖尿病性強皮症、及び白斑が含まれる。様々な実施形態では、次亜塩素酸組成物の適用によって、糖尿病に伴う様々な皮膚症状を防止、改善、及び/又は緩和すると共に、糖尿病によって影響を受けるか又は引き起こされる他の組織又は臓器に利点を与える。
【0082】
いくつかの実施形態では、対象は皮膚筋炎を有する。皮膚筋炎は、筋力低下及び特有の皮膚発疹によって示される炎症性疾患である。この疾患を持つ患者は多くの場合、顔及び眼瞼、並びに爪、指関節、肘、膝、胸、及び背の周囲の領域に、赤紫のうろこ状発疹を示す。様々な実施形態では、皮膚に次亜塩素酸組成物を適用することで、この疾患に伴う発疹を防止、改善、及び/又は緩和しながら、全身性の抗炎症の利点を与えることができる。従って、皮膚筋炎で影響を受ける筋肉等の他の組織は、本明細書に記載されるHOClを用いた治療から恩恵を受けられる。
【0083】
上述の目的に用いる用量は、医師によって又は他の有資格医療職員によって決定することができ、例えば、皮膚状態の種類、基礎免疫状態、投与の頻度(例えば慢性又は急性の使用)、状態の重症度、患者の年齢及び健康全般、次亜塩素酸の投薬形態、及びその他のファクタに応じて異なる可能性がある。例えば、限定でない1つの実施形態では、HOCl組成物は1日に1〜10回投与され得る。別の実施形態では、組成物は1日に1〜4回(例えば1日に約2回)、皮膚の患部に投与される。本明細書に記載されるヒドロゲル組成物は、これらの実施形態で投与することができ、記載されるように長期間にわたって投与され得る。
【0084】
いくつかの実施形態では、本発明は眼の状態の治療に関する。眼の状態は、結膜、ブドウ膜、眼瞼、皮脂腺、及び涙管のような眼のいずれかの部分又は周囲の領域に影響を及ぼし得る。例示的な眼の状態には、目の充血、ドライアイ(ドライアイ症候群を含む)、細菌性、ウイルス性、又はアレルギー性の結膜炎、ブドウ膜炎、眼瞼炎、外麦粒腫又は内麦粒腫、涙管炎、涙嚢炎、及び霰粒腫が含まれる。
【0085】
本発明は、例えば細菌性因子、ウイルス性因子、寄生性因子、及び/又は真菌性因子等の多種多様な病原体により引き起こされる眼の感染症の治療及び防止を含む。細菌性因子の限定でない例には、連鎖球菌種(例えば肺炎菌)、ブドウ球菌種(例えば黄色ブドウ球菌)、ヘモフィルス種(例えばインフルエンザ菌)、シュードモナス菌種(例えば緑膿菌(aeruginosa))、クラミジア種(例えばトラコマチス、シッタシ、ペコラム)、ナイセリア種(例えば淋菌)、及びアクチノミセス種が含まれる。ウイルス性因子の限定でない例には、アデノウイルス、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、インフルエンザ(パラインフルエンザを含む)、コクサッキーウイルス、ライノウイルス、コロナウイルス、単純ヘルペスウイルスが含まれる。真菌性因子の限定でない例には、カンジダ種、フザリウム(Fusariu)種、及びアスペルギルス種が含まれる。寄生性因子の限定でない例には、眼虫が含まれる。特定の患者の部分母集団(subpopulation)では、特定の細菌性因子が、より一般的であり得る。例えば、クラミジアシッタシ及びクラミジアペコラムの異なる株は、ネコ、子羊、ヤギ、及びモルモットで著しい眼の感染症を引き起こす。これらの感染症は時として人に伝播する。更に、眼虫は、ウマ及びウシ、ヤギ、ブタ、イヌ、及びネコの一般的な寄生生物である。従って、本発明では、更に、抗生物質及びその他の活性薬剤を控えめに使用するべきである農業において、追加的な利点を与える。
【0086】
これらの微生物因子は、様々な眼の感染症に関与する可能性がある。様々な眼の感染症には、眼瞼炎、外麦粒腫及び内麦粒腫等の麦粒腫、ウイルス性結膜炎又は細菌性結膜炎等の結膜炎、クラミジアトラコマチス又は淋菌による新生児の結膜炎(新生児眼炎)、封入体結膜炎及びトラコーマ等の成人のクラミジア症、又は成人の淋菌性結膜炎、枯草菌によって生じる虹彩毛様体炎及び全眼球炎、涙管炎及び涙嚢炎等の涙器系感染症、ウイルス性角膜炎(単純ヘルペスウイルス)、細菌性角膜炎、及び真菌性角膜炎(例えばフザリウム)等、ソフトコンタクトレンズ着用者のものを含む角膜炎、イヌ及びネコにおけるものを含むトキソプラズマ症、ネコにおける眼及び上部呼吸器感染症の一般的な原因であるネコヘルペスウィルス、リステリア菌によって生じるウシ等の大型動物におけるものを含むブドウ膜炎、並びに、鳥インフルエンザによって生じる眼の感染症、又は他の医学的状態に続発する他の眼の状態及び感染症が含まれる。
【0087】
いくつかの実施形態では、眼の状態は、炎症性疾患又は過敏症反応(I、II、III、及び/又はIV型を含む)を伴う。例えば、眼の状態は、アレルギー性結膜炎等の即時型過敏症反応を伴い得る。他の実施形態では、状態は、ものもらい及び霰粒腫を含む腺の閉塞又は慢性炎症状態の結果として生じる可能性があり、これは急性の細菌感染も発症し得る。そのような状態は、再発性であるか、又は完全に治癒するのが困難であることがある。微生物感染を伴う場合も伴わない場合もある他の炎症性の眼の状態には、ブドウ膜炎が含まれる。
【0088】
いくつかの実施形態では、眼の状態(限定ではないが、ドライアイを含む)は、基礎免疫状態に関連付けられる。これらの実施形態では、次亜塩素酸組成物は、局所的な眼の症状を緩和するだけでなく、いくつかの実施形態では自己免疫状態である基礎免疫疾患も抑制するか、又は良い方向に変化させる。
【0089】
例えばいくつかの実施形態では、対象はSLEに罹患し、眼の症状を示す場合がある。これらの症状には、限定ではないが、ドライアイ、強膜炎(これは眼の白色強膜層の炎症である)、網膜血管病変、及び眼瞼の周りの皮膚病変が含まれる。また、SLEは、眼に神経損傷を引き起こし、これによって眼の運動及び視力に影響を及ぼす可能性がある。様々な実施形態において、次亜塩素酸溶液は、SLEに伴う局所的な眼の症状の一部又は全てを防止又は改善しながら、全身性の抗炎症の効果を与えて、SLEにより影響されている他の臓器及び系に利点を与える。
【0090】
いくつかの実施形態において、この次亜塩素酸組成物は、乾癬に伴う眼の症状を効果的に治療する。例えば、ブドウ膜炎及び虹彩炎は、乾癬の合併症であることが多い。更に、乾癬患者は眼の周りに再燃(flare−up)を生じ、このため眼瞼の周りに鱗屑及び乾燥が発生し得る。次亜塩素酸溶液を眼と周囲の領域に適用して、これらの局所的な炎症症状を防止又は緩和しながら、全身性の利点を潜在的に与えることができる。
【0091】
いくつかの実施形態では、次亜塩素酸組成物を用いて、関節リウマチ(RA)に伴う眼の症状を治療する。RAの患者では、炎症が眼の損傷を引き起こすことがある。例えばこれらの患者は、強膜の炎症を伴う上強膜炎及び強膜炎を経験し得る。また、RA患者は、ブドウ膜の炎症を伴うブドウ膜炎も経験し得る。更に、RA患者は、乾性角結膜炎(ドライアイ症候群としても知られている)、緑内障、及び/又は白内障を発症する可能性がある。更に、一部のRA患者は、慢性の自己炎症性状態であり、眼、鼻、及び口に極度の乾燥を生じるシェーグレン症候群を発症する。様々な実施形態では、次亜塩素酸組成物を局所領域に適用して、これらの症状を緩和すると共に全身性の症状を改善することができる。
【0092】
いくつかの実施形態では、対象はクローン病を有する。様々な実施形態では、次亜塩素酸組成物を投与して、ブドウ膜炎、上強膜炎、及び強膜炎の治療を含む、クローン病に伴う局所的な眼の症状を治療又は防止しながら、全身状態の改善が得られる可能性がある。
【0093】
いくつかの実施形態では、対象は潰瘍性結腸炎を有する。潰瘍性結腸炎の患者は、ブドウ膜炎、虹彩炎、及び上強膜炎を含む眼の症状を発症し得る。次亜塩素酸組成物を局所的にこれらの患者に投与して、これらの眼の炎症性症状を防止、又は改善、及び/又は緩和しながら、全身性の抗炎症の利点を与えることができる。
【0094】
いくつかの実施形態では、対象は血管炎を有する。血管炎は、眼を含む多くの臓器及び組織に影響を及ぼし得る。例えば、血管炎の患者の一部は、視力低下及び視力喪失を招き得る眼の炎症を経験することがある。様々な実施形態では、次亜塩素酸組成物を眼に適用して、これらの症状を防止又は緩和しながら、基礎疾患である炎症状態を治療する全身性の効果を与えることができる。
【0095】
いくつかの実施形態では、対象は甲状腺炎を有する。これらの患者では、眼の症状が発症することが多い。例えばこれらの患者は、眼の筋肉及び眼の背後の脂肪組織が炎症を起こす眼の状態である甲状腺眼疾患を発症し得る。これによって眼が前方に押され(「凝視する(staring)」又は「隆起した(bulging)」眼)、眼及び眼瞼が膨張して赤くなることがある。場合によっては、眼を動かす筋肉の膨張及びこわばりによって、眼の配置が一列でなくなる。これは複視を生じる可能性がある。本発明の次亜塩素酸組成物を用いて、これらの局所的な眼の症状、並びに、他の組織又は臓器に影響を及ぼす追加的な全身症状を防止又は緩和することができる。
【0096】
いくつかの実施形態では、対象は、アレルゲンによって誘発される炎症性疾患であるアレルギー性喘息を有する。喘息の発作の間、対象の気道は炎症を起こし、狭窄し、更に膨張して、呼吸が困難になる。また、対象は、眼の痒み、生気のない眼、又は涙目を経験し得る。様々な実施形態では、次亜塩素酸組成物をこういった対象の眼に適用して、局所的な眼の症状を防止又は緩和すると共に、発作の頻度低下又は発作の重症度低下として観察できる全身性の抗炎症効果を仲介することができる。
【0097】
いくつかの実施形態では、対象はI型糖尿病を有する。いくつかの実施形態では、次亜塩素酸組成物を用いて糖尿病性の眼の疾患を治療する。糖尿病性の眼の疾患は、糖尿病の人々に影響を及ぼす一群の眼の状態を指す。これらの状態には、糖尿病性網膜症、糖尿病性黄斑浮腫(DME:diabetic macular edema)、白内障、及び緑内障が含まれる。全ての形態の糖尿病性の眼の疾患は、重度の視力喪失及び失明を引き起こす可能性がある。糖尿病性網膜症は、網膜血管を変化させてそれらの出血又は体液漏出を引き起こし、これによって視野を歪ませることがある。DMEは、糖尿病性網膜症から生じるものであり、黄斑と呼ばれる網膜領域の膨張を引き起こす。また、糖尿病は、眼の水晶体の混濁である白内障、及び視神経に損傷を生じる眼圧上昇に関連した緑内障の原因となり得る。次亜塩素酸組成物を眼に適用することで、糖尿病性の眼の疾患のうち1つ以上の症状、及び他の全身症状を防止又は緩和することができる。
【0098】
いくつかの実施形態では、本発明の次亜塩素酸組成物を用いて、皮膚筋炎に伴う1つ以上の眼の症状を治療することができる。皮膚筋炎の対象は眼の局所炎症にかかり、その結果として浮腫による眼の膨張又は腫れぼったさが生じる可能性がある。次亜塩素酸組成物を眼に適用して、これらの局所的な眼の症状を防止又は改善しながら、全身性の抗炎症の利点を与えることができる。
【0099】
いくつかの実施形態において、対象は、一般に伝染性結膜炎として知られる結膜炎を有する。結膜炎は、結膜、すなわち強膜を覆う眼の最も外側の層の炎症である。結膜炎の兆候及び症状の多くは比較的非特異的であるが、所与のケースで原因となり得るいくつかの病因がある。結膜炎の最も一般的な3つの原因は、細菌性感染、ウイルス性感染、又はアレルギー反応である。
【0100】
いくつかの実施形態では、組成物を適用して、眼瞼炎、霰粒腫、又は麦粒腫を治療又は防止する。眼瞼炎は、眼瞼辺縁の炎症であり、通常は黄色ブドウ球菌の感染によって生じる。眼瞼炎は、霰粒腫を引き起こすか、又はものもらい(麦粒腫)を引き起こす可能性がある。霰粒腫は、通常は上眼瞼の閉塞したマイボーム腺の炎症によって生じる眼瞼の嚢胞である。霰粒腫は、細菌性感染症を招くことがある。状態が自然に治らない場合、霰粒腫にコルチコステロイドを注射するか、又は外科的に除去することができる。麦粒腫は、外麦粒腫又は「ものもらい」、及び内麦粒腫(急性マイボーム腺炎)の双方を含む。ものもらいは、まつ毛の付け根の病変であり、主に黄色ブドウ球菌の感染によって引き起こされる。
【0101】
いくつかの実施形態では、組成物を適用して、涙管炎及び涙嚢炎のような涙器系の感染症及び/又は炎症を治療又は防止する。涙嚢炎は、連鎖球菌又は黄色ブドウ球菌が原因であることが多い。
【0102】
いくつかの実施形態において、眼の状態は、眼の外科処置又は眼の外傷による感染症及び/又は炎症の防止である。
【0103】
いくつの他の実施形態において、次亜塩素酸組成物は、特に人々の間で眼の感染症が発生又は伝播する可能性がある場合、予防的に投与される。従ってこの実施形態では、本発明は、感染症及び/又は炎症の発症前に次亜塩素酸を投与することを含む。そのような予防的ケアには、眼及び眼瞼のような周囲領域の次亜塩素酸による定期洗浄、又はコンタクトレンズに次亜塩素酸を適用して残屑及びバイオフィルムを消毒及び除去することによるコンタクトレンズの定期洗浄が含まれ得る。そのような実施形態によって、眼の感染症を防止することが可能となり、汚染レンズによって生じた既存の眼の感染症の悪化を防止でき、又は細菌性バイオフィルムによって生じた眼の刺激を防止することができる。他の実施形態において、本発明は、噴射、噴霧、又は加湿によって環境に次亜塩素酸を投与して、飛沫から感受性のある人の眼への病原体の伝播を防止することを含む。
【0104】
いくつかの実施形態において、眼の状態は、急性又は慢性の炎症状態から生じる可能性があり、急性感染症を発症し得る。これらの実施形態では、次亜塩素酸を投与して、感染症及び基礎にある炎症の双方を治療する。従って、次亜塩素酸を、ステロイド点滴剤又は全身性ステロイド薬又は抗生物質の代わりに投与することで、そのような治療の潜在的な有害反応を回避できる。いくつかの他の実施形態では、ステロイド及び/又は抗生物質治療の期間中に次亜塩素酸組成物を投与して、患部をきれいにする。一実施形態では、ステロイド治療の期間中に、ブドウ膜炎に罹患した患者の眼に次亜塩素酸を投与する。例えば、次亜塩素酸は、局所点眼剤(ベータメタゾン、デキサメタゾン、又はプレドニゾロン等)、又はプレドニゾロン錠剤による経口療法のいずれかとして、グルココルチコイドステロイドと併用することができる。同様に、状態がアレルギー性結膜炎のようにアレルギー起源である場合、次亜塩素酸を抗ヒスタミン剤と一緒に用いて、肥満細胞からの炎症メディエータの放出をより効果的に阻害することができる。
【0105】
いくつかの実施形態では、次亜塩素酸溶液を患者の視覚系の2つ以上の部位に投与することができる。例えば次亜塩素酸を、点眼剤又は洗眼剤として、及び眼瞼及び/又は眼瞼辺縁の洗浄剤として、投与することができる。
【0106】
本発明の次亜塩素酸及び組成物は、液体、エアロゾル、気体、又は半固体等、任意の適切な投薬形態で投与することができ、それには溶液、懸濁液、粘着性又は半粘着性ゲル、軟膏、クリーム、又は他のタイプの組成物が含まれる。好ましくは、溶液は、眼に滴下して又は眼の周囲の組織に対して、局所的に投与される。また、溶液又は溶液を含む組成物は、前眼房への前房内投与、又は眼の小柱網への直接投与のため(例えば、ドライ型又はウェット型AMDの治療のため)、滅菌溶液に配合することも可能である。上述の目的に用いられる用量は、医師又は他の有資格医療職員によって決定することができ、例えば、眼の状態のタイプ、治療の頻度及び/又は期間(すなわち慢性又は急性の使用向け)、状態の重症度、患者の年齢及び全般的な健康状態、次亜塩素酸の投薬形態、並びにその他のファクタに依存し得る。例えば点眼剤として適用する場合、1つの非限定的な実施形態では、1滴又は2滴のHOCl溶液を1日1〜10回投与する。別の実施形態では、溶液(例えば片目につき約1滴又は2滴)を1日1〜4回投与する(例えば1日に約2回)。このレジメンを、記載するように長期間にわたって用いることができる。
【0107】
本発明は、耳(外耳、中耳、及び内耳を含む)、鼻(副鼻腔ケアを含む)、口、及び咽喉の炎症によって特徴付けられる状態の治療及び予防的ケアを提供する。例示的な状態には、鼻炎、鼻漏、鼻詰まり、中耳炎、外耳炎、咽頭炎、及び口内炎が含まれ、ヒト又は動物の患者に存在し得る。本発明は更に、特にそのような状態が、例えば再発性耳感染症、副鼻腔感染症、咽頭痛、又は口内炎のように再発性である場合、そのような状態の予防的ケアを提供する。
【0108】
様々な実施形態において、本発明は、炎症状態を有する対象に副鼻腔/鼻腔の治療を提供する。様々な実施形態では、次亜塩素酸組成物の投与により、局所的な副鼻腔及び鼻腔の症状を改善及び緩和しながら、全身性の抗炎症の利点を与える。
【0109】
いくつかの実施形態において、本発明は、全身性エリテマトーデスを有する対象において局所的な副鼻腔及び鼻腔の症状を緩和する。そのような実施形態では、次亜塩素酸組成物を対象に投与して、鼻潰瘍又は鼻の痛みを防止又は緩和することができる。様々な実施形態において、次亜塩素酸組成物の投与により、対象における全身性炎症を抑制又は変化させる。
【0110】
いくつかの実施形態では、組成物を用いて乾癬を有する対象を治療する。乾癬の患者は、鼻の内側に鱗屑を生じ得るが、これは次亜塩素酸組成物を適用することにより防止又は改善することができる。
【0111】
いくつかの実施形態では、組成物を用いて関節リウマチを有する対象を治療する。例えば、組成物をRAの対象に適用して、シェーグレン症候群のため二次的に発症するRAの対象での極端な乾燥性鼻炎を防止するか又は局所的に緩和することができる。
【0112】
様々な実施形態では、次亜塩素酸組成物を、血管炎を有する対象に投与する。例えば、組成物を鼻に適用して、鼻血を防止又は緩和することができる。
【0113】
いくつかの実施形態では、組成物を用いてアレルギー性喘息を有する対象を治療する。例えば、組成物を鼻又は副鼻腔に適用して、鼻詰まりを防止又は緩和することができる。様々な実施形態において、次亜塩素酸組成物の投与は、こういった鼻の症状を治療するだけでなく、他の組織及び臓器に全身性の利点を与える。
【0114】
いくつかの実施形態では、次亜塩素酸組成物を用いて、I型糖尿病のような糖尿病に罹患した対象における副鼻腔炎及び/又は副鼻腔感染症を治療する。様々な実施形態では、次亜塩素酸組成物の投与により、これらの対象における局所的な副鼻腔炎症及び/又はいずれかの全身性炎症を防止又は改善する。
【0115】
いくつかの実施形態では、組成物を適用して、鼻炎、鼻漏、又は鼻詰まりを治療する。鼻粘膜の炎症である鼻炎は、鼻詰まり及び鼻漏を生じ得る。鼻炎は典型的にはウイルス起源であるが、二次細菌感染症を伴うことがある。鼻漏及び鼻詰まりは典型的にウイルス又はアレルギー起源である。場合によっては、鼻詰まりは、局所うっ血除去薬の後遺症として観察される(薬物性鼻炎)。局所又は経口うっ血除去薬(例えば偽エフェドリン)は、ある程度症状を防止又は緩和するが、長期間の使用は推奨されない。
【0116】
いくつかの実施形態では、本発明の次亜塩素酸組成物を投与して、様々な炎症状態に関連した耳の症状を治療する。組成物の投与は、耳の局所症状を防止又は改善し、更に全身性の抗炎症の利点を与えることができる。
【0117】
例えばいくつかの実施形態では、次亜塩素酸組成物を全身性エリテマトーデスの対象に投与する。SLEの対象は、耳腔の局所炎症を示し、例えば末梢神経損傷による耳鳴りを生じ得る。組成物の投与によって、これらの局所的な耳の症状、並びに他の組織及び臓器に影響を及ぼす他の全身症状を防止又は緩和する。いくつかの実施形態では、組成物を投与して、乾癬を有する対象の耳の症状を治療する。乾癬患者は、耳腔に蓄積する鱗屑を発症し得る。組成物をこれらの患者に適用して、鱗屑の蓄積を防止又は改善することができる。
【0118】
いくつかの実施形態では、組成物を投与して中耳炎又は外耳炎を治療する。中耳構造の炎症である中耳炎は、平衡の喪失及び難聴に至ることがある。中耳炎は一般に、細菌起源又はウイルス起源である。ウイルス感染症は、肺炎連鎖球菌、カタラリス菌、分類不可能なインフルエンザ菌を含む二次細菌感染症を引き起こす可能性がある。外耳炎は、外耳道の急性又は慢性の炎症であり、細菌(例えば緑膿菌、プロテウルブルガリス、黄色ブドウ球菌)又は真菌(例えばアスペルギルス、カンジダ)感染症を伴い得る。
【0119】
更に他の実施形態では、組成物を投与して、咽頭炎(咽頭痛)又は口内炎を治療する。咽頭炎は、後咽頭の疼痛及び膨張によって特徴付けられる。咽頭炎は一般に、細菌(例えば連鎖球菌)又はウイルス感染によって引き起こされる。口内炎は、口腔粘膜の有痛性潰瘍又は炎症である。口内炎は、例えば感染(細菌、ウイルス、又は真菌)、化学性刺激物、又はアレルギー反応によって生じ、口内乾燥を有する患者では一般的であり得る。いくつかの一般的な感染性因子には、単純ヘルペスウイルス、水痘帯状疱疹、エプスタインバーウイルス、インフルエンザ、サイトメガルウイルス、淋病、及びカンジダが含まれる。
【0120】
いくつかの実施形態では、状態は、例えば外耳炎又は鼻漏のような分泌物を生じる細菌感染を伴い得る。これらの実施形態では、次亜ハロゲン酸が、感染拡大のリスクを低減するように耳から分泌物、バイオフィルム、又は残屑を効果的に取り除く。
【0121】
皮膚、耳、鼻、口、及び/又は咽喉に加えて、多くの炎症状態は他の臓器及び組織にも影響を及ぼす。例えば多臓器疾患で予想されるように、肺系統全体が損傷を受けやすい。肺症状は多様であり、気道の全ての解剖学的部位(すなわち気道、肺胞、血管、及び胸膜)に影響を及ぼす。様々な実施形態において、本発明の次亜塩素酸組成物の投与は、肺を含む様々な組織及び臓器に局所及び全身性の抗炎症の利点を与える。
【0122】
いくつかの実施形態では、組成物を用いて、全身性エリテマトーデスに伴う肺症状を治療又は防止する。肺病変は、SLEでは頻度が高く、胸膜、肺血管系、及び肺実質に影響を及ぼし得る。様々な実施形態では、組成物を用いて、SLEに伴う胸膜炎、片側又は両側胸水、肺出血、肺動脈塞栓、肺線維症、ループス肺炎、間質性肺疾患、肺高血圧症、及び萎縮肺症候群を防止又は治療することができる。
【0123】
いくつかの実施形態では、組成物を用いて、関節リウマチの患者における局所症状を治療又は防止することができる。肺疾患は、RAにおける主な死因であり、感染症に次いで第2位である。RAの肺合併症には、胸水、結節性肺疾患、びまん性間質性線維症、肺血管炎、肺胞出血、閉塞性肺疾患、肺高血圧症、間質性肺疾患、肺動脈炎、及び感染症が含まれる。様々な実施形態において、次亜塩素酸組成物の投与は、RAに伴うこれらの肺症状の1つ以上を防止、改善、又は緩和することができる。
【0124】
いくつかの実施形態では、組成物を用いて、クローン病又は潰瘍性結腸炎を有する対象の肺症状を防止又は治療することができる。これらの疾患の肺合併症には、末梢気道及び太い気道の炎症、肺実質疾患、漿膜炎、及び肺塞栓が含まれる。様々な実施形態において、本発明の方法は、これらの症状の1つ以上を防止又は改善する。
【0125】
いくつかの実施形態では、次亜塩素酸組成物を用いて、重症の及び/又はコントロールされていない喘息を含むアレルギー性喘息の対象を治療する。喘息は、気道の一時的な狭窄を生じる気道の炎症によって特徴付けられる慢性状態である。この結果、咳、喘鳴、息切れ、頻呼吸、及び胸苦しさを含む喘息症状が発生する。次亜塩素酸組成物は、これらの症状の1つ以上を緩和しながら、全身の炎症を軽減することができる。いくつかの実施形態では、発作の重症度及び/又は頻度が軽減される。
【0126】
HOCl組成物の肺送達は、例えば噴霧器によって実行できる。例えば1つの非限定的な実施形態では、HOCl組成物を1日に1〜4回投与することができる。別の実施形態では、組成物を1日に1回又は2回投与する。
【0127】
また、多くの免疫状態は、筋肉及び関節に影響を及ぼし、結果として筋肉及び関節の疼痛及び膨張を生じる。様々な実施形態において、次亜塩素酸組成物の投与は、例えば局所的に、これらの筋骨格症状の1つ以上を緩和し、全身性の抗炎症の利点を与える。
【0128】
いくつかの実施形態において、組成物は、全身性エリテマトーデスの対象における筋骨格症状を治療する。筋骨格系の病変は、SLEの患者では極めて一般的である。関節痛、関節炎(有痛で、膨張あり又は無し)、骨壊死(骨の虚血壊死)、及び筋疾患が主な兆候である。様々な実施形態において、本発明の組成物は、局所筋骨格症状を防止又は治療しながら、全身性の抗炎症効果を与える。
【0129】
いくつかの実施形態において、対象は、乾癬性関節炎を発症している乾癬患者である。影響を受けている関節に応じて、いくつかのタイプの乾癬性関節炎がある。対称性乾癬性関節炎は、身体の両側のいくつかの関節対に影響を及ぼし、機能障害をもたらす(disabling)ことがある。非対称性乾癬性関節炎は、典型的には、いくつかの関節にのみ影響を及ぼす。遠位指節間優勢型(DIP:distal interphalangeal predominant)乾癬性関節炎は、主に手指及び足指の端部の小関節、並びに爪に影響を及ぼす。脊椎炎は、背骨に影響を及ぼし、頸部、脊椎、腰部、及び骨盤の骨を含む椎骨間の炎症及び凝りを生じ得る。破壊性関節炎は、乾癬性関節炎の最も重度かつ破壊性の形態であり、多くの場合、手指及び足指の変形を生じる。次亜塩素酸組成物の投与は、局所及び全身の炎症症状を緩和することによって、乾癬性関節炎の1つ以上の形態を防止又は治療することができる。
【0130】
いくつかの実施形態において、組成物は、関節リウマチの1つ以上の症状を効果的に防止又は治療する。そのような症状には、患部の関節の膨張、発熱、疼痛、及び凝りを引き起こす滑膜の局所炎症が含まれる。炎症は、主に手、足、及び頸椎の小関節に関連するが、肩及び膝のようなより大きい関節も影響を受ける可能性がある。様々な実施形態において、次亜塩素酸組成物は、RAの局所及び全身性の炎症症状を効果的に防止又は改善する。いくつかの実施形態では、次亜塩素酸組成物(ゲル又はローション)を1日に少なくとも1回(例えば1日に1〜4回)、RAの患者の手及び/又は足に塗布し、これによってRAの進行を遅らせ、RA症状を緩和し、及び/又は手及び足の関節における炎症を軽減する。
【0131】
いくつかの実施形態では、組成物を投与して、クローン病又は潰瘍性結腸炎を有する対象の筋骨格症状を防止又は緩和する。一実施形態では、組成物を投与して、これらの対象における関節炎を緩和する。別の実施形態では、組成物を投与して、脊椎を冒し、時として腕及び脚の関節も冒す関節炎の一種である脊椎関節症を防止又は治療する。
【0132】
いくつかの実施形態では、組成物を投与して、血管炎(vaculitis)に罹患した対象の1つ以上の筋骨格症状を防止又は治療する。例えば、組成物を投与して、筋肉痛又は筋炎、関節痛又は関節炎の1つ以上を防止又は治療することができる。
【0133】
いくつかの実施形態では、組成物を投与して、I型糖尿病のような糖尿病に伴う筋骨格合併症を防止又は治療する。糖尿病患者は、神経及び関節の局限性炎症を経験し、これが、拘縮手症候群(stiff hand syndrome)、手根管症候群、肩の癒着性関節包炎、ばね指、神経障害性関節症、末梢神経障害、及び反射性交感神経性ジストロフィー症候群等の状態を招くことがある。次亜塩素酸組成物の投与は、これらの症状の1つ以上を防止又は緩和しながら、全身性の抗炎症効果を与えることができる。
【0134】
いくつかの実施形態において、状態は、急性感染症を発症し得る自己免疫状態のような急性又は慢性の状態から生じることがある。これらの実施形態では、次亜塩素酸を投与して、感染症と基礎免疫疾患の双方を防止又は治療する。従って、次亜塩素酸を、ステロイド点滴薬又は全身性ステロイド薬又は抗生物質の代わりに投与することによって、そのような治療の潜在的な有害反応を回避できる。いくつかの他の実施形態では、次亜塩素酸を用いて、ステロイド及び/又は抗生物質の治療の期間中に患部を洗浄する。一実施形態では、ステロイド治療の期間中に、次亜塩素酸を、アレルギー患者の鼻腔及び/又は副鼻腔に投与する。例えば、次亜塩素酸を、ステロイド治療と併用して、又は抗ヒスタミン剤と一緒に用いて、肥満細胞からの炎症メディエータの放出をいっそう効果的に阻害することができる。
【0135】
実施例
炎症軽減の評価
評価者盲検無作為化試験において、ゲルの形態の次亜塩素酸組成物を、炎症の軽減について、掻痒の軽減によって評価した。軽度から中程度のアトピー性皮膚炎の12〜75歳の対象30人が、3日間にわたって参加した。患者である20人の対象を、≦450ppmAFCの次亜塩素酸組成物で治療し、10人の無治療の対照の対象と比較した。評価は、評価者及び参加者による忍容性(tolerability)の査定を含んだ。
【0136】
1日目(ベースライン訪問(baseline visit))、2日目、及び3日目に、全体的な刺激、刺すような感じ、ヒリヒリする感じ、及び掻痒を、5点の順序尺度で評価した。紅斑、落屑、苔蘚化、全体的な刺激、及び擦りむきについて、5段階評価の平均として評価者の査定を計算した。1日目、2日目、及び3日目の刺すような感じ、ヒリヒリする感じ、及び掻痒に基づいて、対象に質問を行った。重篤な有害事象、局所皮膚反応、及び中断に至る有害事象を含む全ての有害事象の発生を記録した。
【0137】
HOCl組成物による治療は、早くも1日目に、軽度から中程度のアトピー性皮膚炎の対象において掻痒を効果的に軽減した。
【0138】
3日目に、HOCL治療群は、無治療群に比べて、掻痒が著しく軽減した(p=0.007)。
【0139】
少なくとも1日2回のHOCl組成物による治療は、極めて充分に忍容され、重篤な有害事象も、治療に関連した中断もなかった。
【0140】
炎症軽減のケーススタディ評価
HOCLゲルで治療した4歳の男児において、掻痒の軽減及び肌質の改善による炎症軽減の評価を行った。患者には手の掌側及び足の足底面の湿疹があった。患者は、2か月にわたって、重度の掻痒、重度の紅斑(真っ赤)から痂皮形成、ひび割れ、黄色斑/皮膚硬化、及び皮膚剥離を経験していた。第1の療法として、患者は、局所コルチコステロイドである吉草酸ヒドロコルチゾン軟膏(USP)0.2%を、患部に1日2回処方された。コルチコステロイドによる1日2回の治療を4週間続けた後、患者の症状は解消しなかった。
【0141】
患者は局所コルチコステロイドを取りやめ、代わりに、次亜塩素酸組成物≦450ppmAFCによる患部への治療を1日2回行った。
【0142】
HOCl組成物による治療は、早くも1日目に、中程度の湿疹を有する対象において効果的に症状を軽減させた。
【0143】
1日目及び3日目の双方で、患者は、掻痒の軽減、紅斑の軽減(赤みの軽減)、皮膚の傷の治癒(ひび割れの軽減)、斑の軟化と正常な皮膚色への変化、及び剥離の軽減を含む症状の著しい軽減を示した。
【0144】
少なくとも1日2回のHOCl組成物による治療は、極めて充分に忍容された。
【0145】
患者は、1日2回の治療を2週間にわたって行う間、全ての症状の完全な解消に至った。
【0146】
重篤な有害事象も、治療に関連した中断もなかった。
【0147】
患者及び監視者(guardian)は、コルチコステロイドによる治療に対して、ゲル形態のHOCl組成物の「使いやすさ」が増したことを報告した。これは、眼、鼻、又は口の内部で及び/又は近傍で製品を使用することに関する警告がなかったためであるが、これは、製品を手及び指に適用しなければならない場合には難しい。
【0148】
動物モデルにおける充血の軽減
全身感作モデルにおけるアレルギー性結膜炎に伴う赤み及び掻痒の局所的治療について、HOCl溶液を調べた。このモデルでは、アレルゲン(ブタクサ、SRW)による全身感作の後、同じアレルゲンで局所投与を行った。この研究の目的は、アレルギー性結膜炎に伴う兆候及び症状の軽減における3つの次亜塩素酸配合物の有効性を評価することであった。
【0149】
この研究の結果は、次亜塩素酸がこのアレルギー性結膜炎モデルにおいて用量依存的に充血を軽減できることを示している。500ppm及び1000ppmの次亜塩素酸は、ステロイド(プレドニゾロン、1%)と同様、balb/cマウスの眼で赤みを著しく軽減した。この研究における対照は、機能すべきである通りに機能し、賦形剤対照では、投与後充血が顕著であり、プレドニゾロン群は、全ての投与を通して低い赤みスコアを維持した。予想されたように、肥満細胞安定剤群(オロパタジン)は、最初の投与後に著しく充血を軽減できたが、経時的に効能を失った。高濃度次亜塩素酸群は、投与プロセス全体を通して著しく充血を軽減できたが、100ppmの最低濃度では赤みを軽減できなかった。
【0150】
イミキモド(IMQ)誘発性乾癬様皮膚炎マウスモデルに対する次亜塩素酸(HOCl)ヒドロゲルの効能
1000ppmの有効遊離塩素を含有したHOClヒドロゲルの乾癬マウスモデルに対する効能を決定するため、研究を行った。BALB/cマウスの剃毛した背にIMQクリームを塗布することにより、乾癬を誘発した。IMQで処理した動物は、患部に紅斑及び斑のような乾癬の臨床的兆候を生じた。HOClヒドロゲルの塗布によって、無治療の対照及びクロベタゾール(コルチコステロイド)で治療した動物に比べ、乾癬の臨床的症状は著しく軽減した。結果は、HOClヒドロゲルによる治療がマウスモデルにおける乾癬の臨床的症状を軽減したことを示した。
【0151】
BALB/マウス(Harlan Laboratories)の剃毛した背に、31.25mgのイミキモド(IMQ)を毎日塗布することで、乾癬様皮膚炎を誘発した。IMQクリームは、いぼ及び基底細胞癌等のいくつかの皮膚状態を治療するため用いられる。マウスの健康な皮膚にIMQを塗布すると、乾癬の臨床的症状を発症することが実証されており、従って局所的治療の効能を決定するためのモデルとして用いられる。
【0152】
研究は10日間にわたって行い、4つの治療群で構成された。すなわち、投与なし(無治療)、IMQのみで処理した動物、クロベタゾール治療、及びHOClヒドロゲル治療である。3つの処理群において、各マウスの背に毎日午後4時にIMQクリームを塗布した。クロベタゾール群は、毎日午後2時に50mgのクロベタゾールで治療した。HOClヒドロゲル群は、毎日2回(午前10時と午後3時)、各動物の背に200mgを投与した。乾癬の臨床スコアは目視検査によって決定した。陰性対照としての投与なし動物と治療を比較した。
【0153】
HOClヒドロゲル及びクロベタゾールクリームを用いた治療では、IMQのみを与えられた動物に比べ、臨床スコアが著しく低下した(図2)。臨床スコアの低下は、p=0.01レベルで顕著であった。更に、HOClで治療した動物の臨床スコアは、研究開始後4日目から10日目まで、クロベタゾールで治療した動物よりも低かった。まとめると、これらの結果は、1000ppmの有効遊離塩素を含有するHOClヒドロゲルが、マウスモデルにおいて乾癬の臨床的症状を著しく軽減できることを実証している。
【0154】
本発明の精神及び実体を組み込んだ開示される実施形態の変更が、当業者には想起され得る。そのような変更は本発明の範囲内である。本明細書で言及した全ての参考文献は、引用により全体が本願にも含まれるものとする。
図1
図2
【国際調査報告】