(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2018-513858(P2018-513858A)
(43)【公表日】2018年5月31日
(54)【発明の名称】ヴァン・ウィルブランド因子の新規な使用
(51)【国際特許分類】
A61K 38/36 20060101AFI20180427BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20180427BHJP
【FI】
A61K38/36
A61P7/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-553017(P2017-553017)
(86)(22)【出願日】2016年4月6日
(85)【翻訳文提出日】2017年10月3日
(86)【国際出願番号】EP2016057494
(87)【国際公開番号】WO2016162369
(87)【国際公開日】20161013
(31)【優先権主張番号】1552982
(32)【優先日】2015年4月7日
(33)【優先権主張国】FR
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】511216008
【氏名又は名称】ラボラトワール フランセ デュ フラクショヌマン エ デ ビオテクノロジ
(71)【出願人】
【識別番号】517347447
【氏名又は名称】サントレ ホスピタリエール ユニベルシテール デ リール
(71)【出願人】
【識別番号】517347458
【氏名又は名称】ユニベルシテ リール ドゥ ドワ エ サンテ
(74)【代理人】
【識別番号】100092277
【弁理士】
【氏名又は名称】越場 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100155446
【弁理士】
【氏名又は名称】越場 洋
(72)【発明者】
【氏名】スザン,ソフィ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィンセンテリ,アンドレ
(72)【発明者】
【氏名】ヴアン ベル,エリック
(72)【発明者】
【氏名】ロショ,アントワーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィンセント,フラビァン
【テーマコード(参考)】
4C084
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA44
4C084CA36
4C084DC10
4C084MA65
4C084NA06
4C084ZA531
4C084ZA532
(57)【要約】
本発明は機械循環支援装置(assistance circulatoire mecanique)を使用した患者での出血(hemorragies)および/またはブリーディング(saignements)の予防および/または治療で使用するためのヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物に関するものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械循環支援装置を使用した患者での出血(hemorragies)および/またはブリーディング(saignements)の予防で使用するためのヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物。
【請求項2】
第VIII因子を含まない請求項1に記載のヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物。
【請求項3】
ADAMTS 13を含まない請求項1〜2のいずれか一項に記載のヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物。
【請求項4】
第VIII因子の残存量が10IU/100IU VWF:RCo以下である請求項1〜3のいずれか一項に記載のヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物。
【請求項5】
高分子量の多量体が医薬組成物中に含まれるフォヴァン・ウィルブランド因子の多量体が全含有量の少なくとも65%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは75%、より好ましくは少なくとも80%である請求項1〜4のいずれか一項に記載のフォヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物。
【請求項6】
高分子量の多量体の含有量が血漿のそれに近い請求項1〜5のいずれか一項に記載のヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物。
【請求項7】
高分子量の多量体の含有量が十分なインビボ活性を可能にするように十分な量に維持された請求項1〜6のいずれか一項に記載のヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物。
【請求項8】
患者に投与されるヴァン・ウィルブランド因子組成物の用量が少なくとも30IU/kg体重、好ましくは40UI/kg体重、より好ましくは50UI/kg体重、より好ましくは60UI/kg体重である請求項1〜7のいずれか一項に記載のヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物。
【請求項9】
ヴァン・ウィルブランド因子を含む薬学的組成物が週2回の投与で繰り返し投与されまる請求項1〜8のいずれか一項に記載のヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物。
【請求項10】
ヴァン・ウィルブランド因子を含む薬学的組成物の最初の投与を患者に機械循環支援装置を導入した後の4〜7日後に行う請求項1〜9のいずれか一項に記載のヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物。
【請求項11】
静脈内投与される請求項1〜10のいずれか一項に記載のヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物。
【請求項12】
ヴァン・ウィルブランド因子組成物が少なくとも30IU/kg体重の用量で週2回の投与の割合で患者に投与されることを特徴とする、機械循環支援装置を使用した患者における出血および/または出血の治療に使用するためのヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物。
【請求項13】
ヴァン・ウィルブランド因子組成物が少なくとも40UI/kg体重、好ましくは50UI/kg体重、より好ましくは60UI/kg体重の用量で患者に投与される請求項12に記載のヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物。
【請求項14】
上記医薬組成物が第VIII因子を含まない請求項12〜13のいずれか一項に記載のヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物。
【請求項15】
上記医薬組成物がADAMTS 13を含まない請求項12〜14のいずれか一項に記載のヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物。
【請求項16】
第VIII因子の残存率が10IU/100IU VWF:RCo以下である請求項12〜15のいずれか一項に記載のヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物。
【請求項17】
静脈内投与される請求項12〜16のいずれか一項に記載のヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヴァン・ウィルブランド因子の新規な使用、特に、機械循環支援(assistance circulatoire mecanique)を使用している患者の出血(hemorragies)および/またはブリーディング(saignements)の治療および/または予防に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記の機械循環支援(補助)装置は、通常は心臓が行っている循環器の機能を体内または体外で完全または部分的に補うために使われ、その目的は身体の主要機能を保存または復元することであり、特に、必要に応じて単心室放電または両心室放電を確実にするため、または、欠陥のある心臓の機能を完全に支援することである。このタイプの装置は患者の血行動態(hemodynamique)、特に下記の3つの特定の兆候のある患者で使用される:
(1)心臓移植の待機患者、特に、移植リストに載っているが待機の延長によって血行動態状態が悪化するのを回避する必要のある患者、
(2)回復を待っている患者、特にウイルス性心筋炎や薬物中毒の患者、人工心肺を使用して心臓手術をした後の心拍出量の低い患者、
(3)心臓移植を受ける予定の患者で、この外科手術に対して禁忌(肺高血圧症、未完治の寛解期腫瘍、年齢)を有する患者。
【0003】
初期の循環支援装置は全て空気圧タイプであった。この装置は全て外側が剛性なシェルで構成され、内部にポリウレタンのバッグまたはダイヤフラムが存在しており、機械または生物学的な弁によって一方向の流れを確保していた。この装置は一般に非常に大型でかさばるアクティブコンソールに接続されているため、患者の移動は制限されていた。圧縮空気は病院の壁のコンセント(CardioWest、登録商標)から送られ、必要な場合には上記コンソール内に配置された圧縮空気シリンダで送ることもできた。他の全てのシステムは上記コンソールに接続され、そこで空気を圧縮機で圧縮していた。これらのデバイスの動作原理は単純で、バッグまたはダイヤフラムを減圧して人工器官を充填させ、吐出フェーズでは血液吐出リズムに合わせてバッグを圧縮するかダイアフラムを変形させて加圧空気を送る。従って、これらの全ての循環装置は脈動流を与える。これらの空気圧式循環装置の中には単心室(通常は左心室)放電または両心室放電のおよび心室移植(完全人工心臓、CardioWest、登録商標)に使用することができる体外設置型の補助人工心臓(paracorporels)がある。これら全ての循環装置は優れた血行動態性能を示し、可能最大限の条件での移植が期待でき、長期にわたって使用することができる。最も使用されているシステムは間違いなくThoratec(登録商標)システムで、これは新規な駆動コンソール (TLC-II)を有し、患者の快適さが向上し、患者は退院して自宅に戻ることが可能である。
【0004】
新世代の循環装置は電気エネルギーで動作する。1980年代および1990年代には左心室先端と昇順胸部大動脈との間に位置する2つの電気−機械式の循環装置(Novacor、登録商標, HeartMate XVE、登録商標)があった。このポンプをエネルギー源に連結する電気ケーブルおよびコントローラを腹壁の筋肉の後ろに移植する。送られる流れは脈動タイプである。しかし、ヨーロッパではNovacor(登録商標)は使用できなくなり、HeartMate XVE(登録商標)は現在では使用されていない。
【0005】
植込み型ポンプの最も新しい新世代はロータリータイプのものであり、移植可能なポンプは下記の2つのグループに分類できる:
(1)遠心ポンプ、例えばDuraHeart(登録商標)またはHeartWare(登録商標)
(2)軸硫ポンプ、例えばHeartMate II(登録商標)、MicroMed DeBakey(登録商標)、BerlinHeart Incor(登録商標)またはJarvik 2000(登録商標)
【0006】
これらのポンプは連続流を送り、脈動(パルス)流ではないので、一方向の流れを確保するための弁は必要としない。大抵の回転ポンプではロータが軸を中心に回転する。
【0007】
しかし、脈動流ではない連続流を出すこのタイプの植込み型ポンプを使用した患者がヴァン・ウィルブランド症候群を発症するということが判明した。事実、これらの患者ではヴァン・ウィルブランド因子の高分子量の多量体(multimeres)の割合が有意に失なわる結果、主として消化管出血を引き起こし、医師の治療ができなくなるということが観察された。
【0008】
非特許文献1(Fisher et al. (Transfusion, 2015; vol. 55(1), pp. 51-54)には、連続流ポンプの機械循環支援装置 (HeartMate II) を使用した患者がポンプ移植後に胃腸の所に厳しい出血を繰り返す症例が報告されている。この患者には従来の治療が失敗した後に、ヴァン・ウィルブランド因子が17日、18日および19日目に80UI/体重1kg投与された。その後、ヴァン・ウィルブランド因子による治療を続け、手術後21日、23日、27日および30日目に患者に再び80UI/体重1kgを新たに投与された。それにもかかわらず、41日目には患者の回腸にハイパーデンス(hyperdense)が存在することを医師は確認した。これはこの区域に活発な出血があることを示唆している。ヴァン・ウィルブランド因子の投与は手術後41日から53日目まで隔日で行なわれた。医師は手術後57日目に十二指腸の近辺に重度の出血を引き起こす可能性のある3つの血管形成異常病変(angiodysplastic lesions)を発見した。従って、手術後の17日目〜19日目にヴァン・ウィルブランド因子を大量投与したにもかかわらず医師は消化管(回腸)の新たな出血の出現を止めることができなかったということになる。
【0009】
[非特許文献2](Cushing et al. Transfusion, 2012; vol. 52, pp. 1535-1541)には、心臓移植を待っている患者が連続流ポンプ(HeartMate II)式の機械循環支援装置を使用した症例が報告されている。機械循環支援装置を埋め込んだ後の9日後に患者は十二指腸球部に出血を発症した。この出血に対しては輸血とアミノカプロン酸投与の処理をした。手術後47日目に患者は胃に浸潤が見られ、十二指腸空腸結合部に活発な出血が見られた。機械循環支援装置を埋め込んでから49日後に、患者にはヴァン・ウィルブランド因子と第VIII因子とを含む医薬組成物を60UI/体重1kgの用量で8時間毎に3回投与され、それと同時にアミノカプロン酸の投与も継続された。ヴァン・ウィルブランド因子と第VIII因子の組成物を用いた治療を、投与量を減しながら33日間続けたが、数日後に左の目の周りにあざが生じ、ポンプの所に血小板塞栓が生じたため、患者の治療は中止した。この著者らはヴァン・ウィルブランド因子と第VIII因子の組成物による治療で出血および/または消化管出血を治療できると結論付けているが、この治療方法、特に高濃度の第VIII因子の存在下における治療方法はポンプ回路の血栓に対する非常に慎重な制御を必要とする。従って、ヴァン・ウィルブランド因子と第VIII因子の組成物の投与による患者の出血治療の研究は行われたが、この製品の投与は血栓症を発生させることになる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Fisher et al. Transfusion, 2015; vol. 55(1), pp. 51-54.
【非特許文献2】Cushing et al. Transfusion, 2012 vol. 52, pp. 1535-1541
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、上記の出血の発症を防止するために、機械循環支援装置を使用した患者に適用することができ、新たな出血の恐れがなく、しかも血栓症の恐れがない、出血および/またはブリーディングの治療方法および/または予防方法を提供するというニーズがある。
【0012】
本発明者らは、驚くべきことに、ヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物を所定の用量および特定の条件下で投与することで機械循環迂遠装置を導入することに関連したリスクを防ぐことができるということを示した。
【0013】
具体的には、本発明者らは、驚くべきことに、ヴァン・ウィルブランド因子の予防的投与によって機械循環支援装置の導入に伴うリスクを60%以上低減させることができるということ、すなわち、患者の出血および/またはブリーディングの発生を60%以上減少させることができるということを示した。このヴァン・ウィルブランド因子の予防的投与によって患者の出血および/またはブリーディングの発生は70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上低減させることができる。有利には、ヴァン・ウィルブランド因子の投与によって機械循環支援装置を使用した患者の出血および/またはブリーディングの再発のリスクを恒久的に無くすことができる。
【0014】
本発明の別の有利な実施形態では、本発明のヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物の投与によって、通常のケアと比較して出血の発生率を臨床的に有意な比率で減少させることができる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
従って、本発明は機械循環支援装置を使用した患者における出血および/またはブリーディングの予防に使用するためのヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物に関するものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
「ブリーディング(saignement)」という用語は自然の血液循環以外の少量の(体内または体外)での血流を意味する。血液の損失が多量で、生命を脅かすかもしれときには「出血(d'hemorragie)」という。出血やブリーディングは皮膚または体孔を通って外部にで出るが、内在する場合もある。「臨床的に有意な出血」とは体内または体外への出血死または長期入院、再入院または手術につながる、または、少なくとも赤血球の3単位輸血を必要とする出血、または、従来の治療法が適用できない3g/dL以上のヘモグロビン上昇を引き起こす出血を意味する。
【0017】
本発明で「医薬組成物」という用語は液体形態の医薬組成物、特に溶液または懸濁液の形態の医薬組成物並びに粉末形態の医薬組成物を意味する。この医薬組成物は少なくとも1つの活性成分、ヴァン・ウィルブランド因子および薬学的に許容される賦形剤を含む。
【0018】
「ヴァン・ウィルブランド因子、Facteur von Willebrand」または「ヴァン・ウィルブランド因子」または「vWF」という用語にはヒト野生型ヴァン・ウィルブランド因子または別の種(例えば、ウシ、ブタ、イヌ、ネズミ等)由来のヴァン・ウィルブランド因子の配列を含むポリペプチドが含まれる。これには存在してもよいヴァン・ウィルブランド因子の自然の対立遺伝子変異または任意の形態および程度のグリコシル化またはその他のポストトランスレーション変異が含まれる。「ヴァン・ウィルブランド因子」という用語は野生型のヴァン・ウィルブランド因子の活性と比較してそれと同等またはそれ以上の生物活性を有するヴァン・ウィルブランド因子の変異体が含まれ、特に、この変異体は野生型のヴァン・ウィルブランド因子の塩基配列と少なくとも70%、好ましくは75%、好ましくは80%、好ましくは85%、好ましくは90%、好ましくは92%、好ましくは94%、好ましくは95%、好ましくは96%、好ましくは97%、好ましくは98%、好ましくは99%以上、好ましくは100%の相同性を有する。ヴァン・ウィルブランド因子はヒトのヴァン・ウィルブランド因子であるのが有利である。
【0019】
有利な実施形態では、機械循環支援装置を使用した患者における出血および/またはブリーディングの予防に使用するためのヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物は第VIII因子を含まない。「第VIII因子を含まない(depourvue de facteur VIII)」という表現は本発明組成物が第VIII因子を含有しないか、無視できる程度の量で存在することを意味する。すなわち、本発明者らは、市販の既存のFVIII/VWF兼用医薬組成物、特に160IU/mlのヴァン・ウィルブランド因子と66,6UI/mLの第VIII因子との組み合わせから成る製品とは違って、上記の凝固因子を除去することが血栓症を発症する危険性を低減させるのに有効であるということを見出した。
【0020】
本発明のヴァン・ウィルブランド因子を含む薬学的組成物中の第VIII因子の残存率(taux residuel)は10IU/100IU VWF:RCo以下であるのが好ましい。この残存率は世界保健機関(WHO)が定義したヴァン・ウィルブランド因子濃縮物の国際標準に対してヴァン・ウィルブランド因子のリストセチン補因子(ristocetin cofactor)の量(VWF:RCo)を測定する方法で測定できる。本発明組成物中のヴァン・ウィルブランド因子の活性は再構成された1ミリリットルの溶液に対して100IUであるのが好ましい。本発明組成物中の残留第VIII因子の含有量は市販の製品に対してファクターが少なくとも1/4であり、そうすることによって血栓症のリスクを制限し、FVIIIの外因性供給を最小化することができる。本発明のヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物中の第VIII因子の残存率は10IU/100IU VWF:RCo以下、好ましくは8IU/100IU VWF:RCo以下、より好ましくは6UI/100IU VWF:RCo以下、より好ましくは4IU/100IU VWF:RCo以下であるのが好ましい。特定の実施形態では、ヴァン・ウィルブランド因子を含む本発明組成物は血液凝固第VIII因子を完全に含まない。
【0021】
本発明の別の実施形態では、ヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物が無視できない量の第VIII因子を含む。この場合の第VIII因子/ヴァン・ウィルブランド因子の比は1/10〜5/10IU/mLであるのが有利である。
【0022】
本発明の別の実施形態では、機械循環支援装置を使用した患者における出血および/またはブリーディングの予防に使用するためのヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物はADAMTS13を含まない。「ADAMTS13を含まない」または「タンパク質ADAMTS13含まない」という表現は、本発明の組成物がこのタンパク質またはADAMTS13を含まないか、このタンパク質が存在するが無視できる量であるか、ADAMTS13の活性が無視できるということを意味する。すなわち、本発明者らは、このタンパク質はヴァン・ウィルブランド因子を弱め、劣化させるが、それと同時に機械循環支援装置によって加わる剪断力によって上記タンパク質の活性を増強させる傾向があるということを発見した。従って、このタンパク質の不在または無視できる程度の量の存在によって、機械循環支援装置を使用した患者における出血および/またはブリーディングの発生リスクを軽減することができる。
【0023】
本発明のヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物はADAMTS13を含まないのが有利である。
【0024】
本発明の別の特定の実施形態では、本発明のヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物中のADAMTS13の残存量は0.15μg/ml以下である。ADAMTS13の残存率は0.10μg/ml以下、より好ましくは0.05μg/ml以下または0.01μg/ml以下である。ADAMTS13の残存率は0.01μg/ml〜0,15μg/mlであるのが好ましい。
【0025】
本発明のヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物はADAMTS13を含まないのが有利である。
【0026】
本発明の別の特定の実施形態では、本発明のヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物中のADAMTS13の残存活性率は検出閾値以下、すなわち0.03ADAMTS13:Act[U/mL]以下である。
【0027】
この残存活性率はFRET(蛍光共鳴エネルギー移動)および蛍光基質FREIGHT−VWF73(Peptides International, Louisville, USA)を使用したKokame達(British Journal of Haematology, 2005, vol. 129, pp. 93_100)が開示した方法で測定される。本発明組成物中のADAMTS13の残留量(その残留量は少なくとも0.13±0.07ADAMTS13:Act[U/mL]は市販の製品に比べて少なくとも2〜3倍少ない。従って、機械循環支援装置を使用した患者における出血および/またはブリーディングの発生を回避することができる。本発明の好ましい実施形態では、ヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物中のADAMTS13の残存量は0.10ADAMTS13:Act[U/mL]以下、好ましくは0.05ADAMTS13:Act[U/mL]以下である。本発明の好ましい他の実施形態では、ヴァン・ウィルブランド因子を含む組成物はADAMTS13を完全に含まない。本発明の別の実施形態では、超大型の多量体の存在(la presence d'ultralarges multimeres)(>20多量体)を回避するために、本発明のヴァン・ウィルブランド因子を含む組成物中のADAMTS13の量を調整する。この場合、ADAMTS13は血漿由来のもので、本発明のヴァン・ウィルブランド因子を含む組成物と同時に精製するか、組換え起源のもので、組換え起源の本発明ヴァン・ウィルブランド因子を含む組成物に添加することができる。
【0028】
ヴァン・ウィルブランド因子の多量体の形の分布は225キロダルトンの単量体サブユニットで多量体(multiples)のマー(mer)(サブユニット)の寸法を定量化することができる電気泳動ゲルの分析で定義される。すなわち、225x2〜225x15の寸法のmerで記述する。ヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物の高分子量の多量体は10個のモノマー以上の多量体を意味する。
【0029】
本発明の特定実施形態では、ヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物の高分子量多量体の含有量は血漿のそれに近い。
【0030】
本発明の別の特定の実施形態では、ヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物の高分子量の多量体の含有量は医薬組成物のインビボ活性を十分なものにするのに十分な量に維持される。
【0031】
本発明のヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物の高分子量の多量体の含有量は医薬組成物に含まれるヴァン・ウィルブランド因子の多量体の全含有量の少なくとも65%、好ましくは70%以上、好ましくは75%以上、好ましくは80%であるのが有利である。高分子量多量体が少なくとも65%存在すると本発明組成物の治療効果はより良くなる。
【0032】
本発明医薬組成物はさらに、1種以上の賦形剤を含んでいてもよく、それによってヴァン・ウィルブランド因子が安定化し、凍結乾燥形態のヴァン・ウィルブランド因子の可溶化が可能になる。
【0033】
特に、賦形剤は下記の中から選択できる:
1)親水性または正に荷電した側鎖を有するアミノ酸、
2)疎水性アミノ酸(任意成分)、
3)塩、
4)タンパク質安定化剤、
5)上記の混合物。
【0034】
上記の親水性(または極性)アミノ酸または正に荷電した側鎖を有するアミノ酸にはリジン、アルギニン、ヒスチジン、グリシン、セリン、トレオニン、チロシン、アスパラギン、グルタミンが含まれる。親水性または正に荷電した側鎖を有するアミノ酸の中ではアルギニンまたはその塩、例えばアルギニン塩酸塩またはアルギニンリン酸塩を使用するのが好ましい。グリシンおよび/またはリジンのようなアミノ酸またはその塩、例えばリジン塩酸塩も有利に添加できる。疎水性アミノ酸には特に以下のアミノ酸が含まれる:アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、トリプトファン、プロリン。
【0035】
上記の塩はアルカリ金属塩、アルカリ土類金属または遷移金属の塩にすることができる。塩の例としては特にクエン酸ナトリウム、塩化カルシウムまたは塩化亜鉛を挙げることができる。好ましく使用される塩はクエン酸ナトリウムまたは塩化カルシウムである。
【0036】
タンパク質安定剤は公知のタンパク質安定剤、例えばアルブミンおよび第VIII因子から選択することができる。好ましいタンパク質安定剤はアルブミン、好ましくはヒトのアルブミンであるのが有利である。
【0037】
本発明組成物は活性成分としてのヴァン・ウィルブランド因子と、薬学的に許容される賦形剤:アルブミン、アルギニン塩酸塩、グリシン、クエン酸ナトリウムおよび塩化カルシウムを含むのが有利である。特に、本発明組成物は以下を含むことができる:
1)ヒトのヴァン・ウィルブランド因子
2)アルブミン、好ましくはヒトのアルブミン、
3)アルギニン(場合によっては塩酸塩の形)、
4)グリシン、
5)クエン酸ナトリウム、
6)塩化カルシウム。
【0038】
注射用製剤からの再構成は注射用水(WFI)を添加することで行うことができる。
【0039】
「予防(prevention)」または「病気予防(prophylaxie)」または「予防治療(traitement preventif)」または「病気予防的処置(traitement prophylactique)」という用語は予防処置と、病気またはそれに続いて起こるリスクの発症を低減および/または遅らせる処置の両方を含む。本発明のヴァン・ウィルブランド因子組成物は機械循環支援装置に関連した出血および/またはブリーディングの予防または軽減に特に有用である。本発明のこの目的では、機械循環支援装置を患者で使用する前、換言すれば装置を埋め込んだ日または実装後(いずれかの場合でも出血またはブリーディングの発症の前)に上記の予防または病気予防治療を行う。
【0040】
好ましい実施形態では、本発明のヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物は機械循環支援装置を使用した患者に少なくとも30IU/kg体重の用量で投与される。
【0041】
「投与」とは、本発明医薬組成物を患者への注射することを意味する。この投与は非経口注射、例えば静脈内、筋肉内、皮下、眼窩内、皮内、髄腔内、腹腔内および組織または器官への直接注射を含む。経口または経気道、例えば吸入投与も本発明の範囲に含まれる。特に好ましくは、本発明のヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物を静脈内投与する。
【0042】
本発明のヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物は、少なくとも40UI/kg体重、好ましくは45UI/g体重、より好ましくは50UI/kg体重、より好ましくは55UI/kg体重、好ましくは60UI/kg体重、より好ましくは65UI/kg体重の用量で患者に投与するのが有利である。特に有利な投与量は50UI/kg体重である。当業者は、選択された投与経路に応じて投与量を調整できる。具体的には、静脈内投与を選択した場合、投与される好ましい投薬量は50UI/kg体重である。
【0043】
注射後1時間で15マー(mer)以上の多量体が20%に増加するヴァン・ウィルブランド因子の多量体の分布変化を与える投与計画(dosing regime)が有利である。
【0044】
投与計画は少なくとも30分間でヴァン・ウィルブランド因子の15マー以上の多量体の分布が変化する投与計画であるのが有利である。より好ましくは、少なくとも45分間でヴァン・ウィルブランド因子の15マー以上の多量体の分布が変化する投与計画が有利である。さらに、注射後少なくとも1時間でヴァン・ウィルブランド因子の15マー以上の多量体の分布が変化する投与計画が有利である。この一時的な上昇および変化によって微小循環(microcirculation)における正常な血管新生(normal angiogenesis)を復元させることができる。
【0045】
VWF:Act/VWF:Ag> 0.7の結果によって測定されるヴァン・ウィルブランド因子の正常な機能を回復できる投与計画が有利である。本発明のヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物を静脈内投与した後に、ヴァン・ウィルブランド因子の平均血漿濃度およびヴァン・ウィルブランド因子の平均最大血漿濃度を測定するのが有利である。
【0046】
特に有利な実施形態では、機械循環支援装置を使用した患者の最初の出血またはブリーディングの発症の前に本発明のヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物の最初の投与を行う。
【0047】
本発明のヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物の最初の投与は、機械循環支援装置を患者に取り付けた後の4日目に行うのが有利である。
【0048】
本発明のヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物の最初の投与は、機械循環支援装置を患者に取り付けた後の5日目、好ましくは6日目、好ましくは7日目に行うのが有利である。
【0049】
本発明のヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物の最初の投与は、機械循環支援装置を患者に取り付けた後の4日目〜7日目の間に行うのが有利である。第7日目を超えた時に最初の投与をしない。すなわち、投与は早期ブロッキング血管新生(blocage precoce de l'angiogenese)に関連した有効性を確認し、効果を観察するために可能な限り早期にする必要がある。後期の治療介入(intervention)は効率の変化として現れる。
【0050】
本発明のヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物の最初の投与は機械循環支援装置を患者に取り付けた後の4〜7日目に行うのが有利である。
【0051】
機械循環支援装置を装着した患者へのヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物の投与は週2回の割合で繰り返して投与するのが特に有利である。
【0052】
ヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物の最初の投与が患者へ機械循環支援装置を装着した日から4日目である場合には、2回目のヴァン・ウィルブランド因子組成物の投与は患者へ機械循環支援装置を装着した日から5日目〜8日目に行うのが有利である。
【0053】
ヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物の最初の投与が患者へ機械循環支援装置を装着した日から5日目である場合には、2回目のヴァン・ウィルブランド因子組成物の投与は患者へ機械循環支援装置を装着した日から6日目〜8日目に行うのが有利である。
【0054】
ヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物の最初の投与が患者へ機械循環支援装置を装着した日から6日目である場合には、2回目のヴァン・ウィルブランド因子組成物の投与は患者へ機械循環支援装置を装着した日から7日目〜8日目に行うのが有利である。
【0055】
ヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物の最初の投与が患者へ機械循環支援装置を装着した日から7日目である場合には、2回目のヴァン・ウィルブランド因子組成物の投与は患者へ機械循環支援装置を装着した日から8日目に行うのが有利である。
【0056】
本発明のヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物の投与の間隔は1日未満でない、好ましくは2日以下でないのが有利である。本発明のヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物の投与の間隔は6日以上ではなく、好ましくは5日以上ではなく、より好ましくは4日以上ではなく、より好ましくは3日以上ではないのが特に有利である。
【0057】
機械循環支援装置を装着した患者におけるヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物の投与は、週2回の割合で少なくとも15日間の間、投与を繰り返し実行するのが特に有利である。
【0058】
機械循環支援装置を装着した患者におけるヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物の投与は、少なくとも30日間、好ましくは45日間、好ましくは60日間好ましくは75日、好ましくは90日間の間、週2回の割合で投与を繰り返し実行するのが特に有利である。
【0059】
特に有利な実施形態では、本発明のヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物は機械循環支援装置を装着した患者に50UI/kg体重の用量で週2回の投与を90日間、繰り返して投与する。
【0060】
本発明のヴァン・ウィルブランド因子組成物の予防としての投与によって、患者の出血および/またはブリーディングの発生または再発の危険性を有意に低減させることができる。好ましくは、機械循環支援装置の使用に関連するブリーディングのリスクは60%減少する。好ましくは、本発明のヴァン・ウィルブランド因子の予防的投与によって患者の出血および/またはブリーディングの発生を70%以上、好ましくは80%以上、好ましくは90%以上低減させることができる。有利には、本発明のヴァン・ウィルブランド因子の投与によって機械循環支援装置を使用した患者の、ぶり返しのリスク(risks of relapse)を含めた、出血および/またはブリーディングの発生を恒久的に無くすことができる。
【0061】
本発明の他の対象は、機械循環支援装置を使用した患者に本発明のヴァン・ウィルブランド因子組成物を投与することを含む、出血および/またはブリーディングの予防的治療(traitement preventive)方法にある。
【0062】
特に有利な実施形態では、本発明は機械循環支援装置を使用した患者の出血および/またはブリーディングの予防のための医薬の製造におけるヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物の使用にも関するものである。
【0063】
本発明の別の観点は、機械循環支援装置を使用した患者における出血および/またはブリーディングの治療に使用されるヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物を提供することにある。
【0064】
本発明者らは、驚くべきことに、機械循環支援装置を使用した患者に本発明のヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物を週2回の投与速度で少なくとも30IU/kg体重の用量で投与することによって患者の出血および/またはブリーディングを効果的に治療することができるということを発見した。
【0065】
すなわち、本発明は、ヴァン・ウィルブランド因子を少なくとも30IU/kg体重の用量で週2回の投与される、機械循環支援装置を使用した患者の出血および/またはブリーディングの治療に使用するためのヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物に関するものである。
【0066】
「治療(traitement)」または「病気治療(traitement curatif)」という用語は病気を治すための処置または緩和する処置、疾患症状およびその原因となる苦痛の改善および/または除去、低減および/または安定化のための処置と定義される。
【0067】
本発明のヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物は少なくとも30IU/kg体重、好ましくは少なくとも40UI/kg体重、好ましくは45UI/kg体重、好ましくは50UI/kg体重、好ましくは55UI/kg体重、好ましくは60UI/kg体重、好ましくは65UI/kg体重の用量で患者に投与するのが有利である。好ましくは50UI/kg体重の用量で投与する。
【0068】
投薬計画は、注射後1時間で15マー以上の多量体(マルチマー、multimeres)を少なくとも10%、好ましくは少なくとも15%、好ましくは少なくとも20%増加させるヴァン・ウィルブランド因子の多量体分布(repartition multimerique)の変化をもたらすような投薬計画であるのが有利である。投薬計画は少なくとも30分間で15マー以上の多量体を高くするヴァン・ウィルブランド因子の多量体分布を与えるものが有利である。投薬計画は少なくとも45分間で15マー以上の多量体を高くするヴァン・ウィルブランド因子の多量体分布を与えるものが好ましい。投薬計画は少なくとも1時間で15マー以上の多量体を高くするヴァン・ウィルブランド因子の多量体分布を与えるものが有利である。投薬計画はVWF:Act/VWF:Ag>0,7の測定結果によってヴァン・ウィルブランド因子の正常な機能を回復するものが有利である。
【0069】
ヴァン・ウィルブランド因子の平均血漿濃度およびヴァン・ウィルブランド因子の平均最大血漿濃度は、本発明のヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物の静脈内投与後に測定するのが有利である。
【0070】
機械循環支援装置を使用した患者への本発明のヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物の投与は少なくとも15日間、週2回の割合で投与を繰り返して実行するのが有利である。
【0071】
機械循環支援装置を使用した患者への本発明のヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物の治療のための投与は少なくとも30日間、好ましくは45日間、好ましくは60日間、好ましくは75日、好ましくは90日間、週2回の割合で投与を繰り返して実行するのが有利である。
【0072】
本発明の1つの特に有利な実施形態では、本発明のヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物は機械循環支援装置を使用した患者へ30IU/kg体重の用量で90日間、週2回の割合で投与を繰り返す。
【0073】
本発明の有利な実施形態では、機械循環支援装置を使用した患者への出血および/またはブリーディングの治療方法で使用する本発明のヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物は第VIII因子を含まない。本発明のヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物中の第VIII因子の残存率は10IU/100IU VWF:RCo以下であるのが有利である。
【0074】
本発明の有利な実施形態では、機械循環支援装置を使用した患者への出血および/またはブリーディングの治療方法で使用する本発明のヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物はADAMTS13を含まない。本発明のヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物中のADAMTS13の残存率は0.10ADAMTS13:Act[U/mL]以下であるのが有利である。
【0075】
本発明の他の対象は、本発明のヴァン・ウィルブランドの組成物を投与することを含む、機械循環支援装置を使用した患者の出血および/またはブリーディングの治療方法にある。
【0076】
上記の機械循環支援装置を使用した患者に本発明のヴァン・ウィルブランドの組成物を投与する患者の出血および/またはブリーディングの治療方法は、血液凝固剤の第VIII因子を含まないのが有利である。
【0077】
機械循環支援装置を使用した患者に本発明のヴァン・ウィルブランドの組成物を投与する出血および/またはブリーディングの上記治療方法では、少なくとも30IU/kg体重、好ましくは40UI/kg体重、好ましくは45UI/kg体重、好ましくは50UI/kg体重、好ましくは55UI/kg体重、好ましくは60UI/kg体重、好ましくは65UI/kg体重の用量で本発明のヴァン・ウィルブランドの組成物を患者に投与するのが有利である。投与量は50UI/kg体重であるのが特に有利である。
【0078】
機械循環支援装置を使用した患者での出血および/またはブリーディングの治療方法では本発明のヴァン・ウィルブランドの組成物を週に2回の割合で投与を繰り返すのが有利である。
【0079】
機械循環支援装置を使用した患者での出血および/またはブリーディングの治療方法では、機械循環支援装置を使用した患者の最初の出血または最初のブリーディングの発症時に本発明のヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物の投与を実行するのが有利である。
【0080】
本発明の一つの実施形態では、機械循環支援装置を使用した患者での出血および/またはブリーディングの治療方法は、本発明のヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物の投与を50UI/kg体重の用量で90日間、週2回の割合で繰り返すのが特に有利である。
【0081】
特に有利な実施形態では、本発明は機械循環支援装置を使用した患者の出血および/またはブリーディングの治療用医薬の製造でヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物の使用に関するものである。
【0082】
本発明の別の観点から、本発明はヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物の製造方法に関するものである。このヴァン・ウィルブランド因子組成物は当技術分野で周知の方法、例えば血漿分画、細胞培養による発現またはトランスジェニック動物の乳中での発現によって製造できる。
【0083】
本発明の特定の実施形態では、本発明のヴァン・ウィルブランド因子は、従来の分画法(Cohn et al., J. Am . Chem. Soc, 68, 459, 1946およびKistler et al., Vox Sang., 7, 1962, 414-424)と、必要に応じて行う水酸化アルミニウム上での吸着による予備精製処理によって、ヒト血漿またはヴァン・ウィルブランド因子を含むヒト血漿の凍結乾燥画分または寒冷沈降物の上清画分から得ることができる。この場合、vWFは第VIII因子と複合体化される。従って、「血漿(plasmatique)」ヴァン・ウィルブランド因子とよばれる。
【0084】
特定の実施形態では、ヴァン・ウィルブランド因子が欧州特許第EP0359593号公報および欧州特許第EP0503991号公報に記載の陰イオン交換DEAE−Fractogel(登録商標)−TSK650タイプのクロマトグラフィーを使用した精製前処理工程を行った血漿の凍結乾燥画分から得られる。
【0085】
別の特定の実施形態では、ヴァン・ウィルブランド因子は遺伝子工学によって得られ、特に遺伝子組換えによってFVII分子を発現するように改変されたDNAを有する特定のグリコシル化特性を有する細胞によって産生できる。これは「組換えヴァン・ウィルブランド因子」とよばれる。従って、本発明のヴァン・ウィルブランド因子は細胞宿主におけるヴァン・ウィルブランド因子をコードするDNA分子の転写および翻訳で得られる。本発明の組換えヴァン・ウィルブランド因子は生物系でのタンパク質の発現を可能にする当技術分野で周知の標準的な技術を用いて得ることができる。「組換えヴァン・ウィルブランド因子」という用語は遺伝子組換えによって得られ、細胞株の培養によって発現された任意のヴァン・ウィルブランド因子を意味する。細胞株の例としてはBHK tk≡tsl3(CRL10314,WaechterおよびBaserga,Proc.Natl.Acad.Sci.USA79:1106−1110,1982)、CHO(ATCC CCL61)、COS−I(ATCCCRL1650)、HEK293(ATCC CRL1573;Graham達,J.Gen.Virol.36:59−72,1977)、Rat HepI(ラット肝癌;ATCC CRL1600)、Rat HepII(ラット肝癌;ATCC CRL1548)、TCMK(ATCC CCL 139)、ヒト肺(ATCC HB8065)、NCTC 1469(ATCC CCL 9.1)およびDUKX細胞(CHO細胞株)(UrlaubおよびChasin,Proc.Natl.Acad.Sci.USA77:4216−4220,1980)、3T3細胞、Namalwa細胞または無血清培養に適応したBHK細胞(米国特許第US6,903,069号明細書)がある。また、組換えヴァン・ウィルブランド因子はvWFの濃縮画分および/または公知技術によって細胞培養上清から単離した組換え因子VIII/vWF複合体から単離することができる。
【0086】
本発明の別の特定の実施形態では、ヴァン・ウィルブランド因子は「トランスジェニック ヴァン・ウィルブランド因子(facteur von Willebrand transgenique)」すなわち遺伝子組換えによって得られ、動物または植物の生体組織で発現されたものである。
【0087】
トランスジェニック ヴァン・ウィルブランド因子は遺伝子組換えによって得られ、動物すなわちトランスジェニック動物で発現されたものであるのが有利である。トランスジェニック動物とはゲノム遺伝子導入によって1つまたは複数の遺伝子を導入した動物を意味する。好ましくは、ヴァン・ウィルブランド因子を特にトランスジェニック動物の乳中で製造することで、凍結乾燥後でも本発明の製剤(formulation)でヴァン・ウィルブランド因子の良好な生物学的活性を維持する。好ましい実施形態では、ヴァン・ウィルブランド因子がこのタンパク質を非ヒトで遺伝的に産生するように操作された雌のトランスジェニック哺乳動物の乳汁中に産生される。このタンパク質を生産することができるように遺伝子組み換えされた非ヒトトランスジェニック哺乳動物の例としてはウサギ、ヤギ、ウシ、げっ歯類、ハムスター、ラクダ、ラマ、ヒトコブラクダ、マウス、ラット、ブタ、ブタ、ウマ、イヌ、ネコ、ヒツジ、反芻動物、豚を特に挙げることができるが、これらに限定されるものではない。トランスジェニックウサギまたはヤギのミルクであるのが好ましい。乳腺の分泌によってヴァン・ウィルブランド因子をトランスジェニック哺乳動物の乳汁中に分泌でき、ヴァン・ウィルブランド因子の発現を組織依存的(tissu-dependante)に調節することができる。この調節方法は当該分野で周知のものである。動物の特定の組織でタンパク質が発現できるようにした配列を用いて発現の制御を行う。これらはプロモーター配列WAP、β−カゼイン、ベータラクトグロブリンおよびシグナルペプチド配列である。トランスジェニック動物の乳汁から目的タンパク質を抽出する方法は欧州特許第EP0264166号公報に記載されている。トランスジェニック ヴァン・ウィルブランド因子はvWFがリッチな画分および/または米国特許6518482号明細書に記載のようにトランスジェニック哺乳動物の乳から得られる第VIII因子/vWF複合体から単離することもできる。
【0088】
ヴァン・ウィルブランド因子を血漿から製造するにせよ、遺伝子工学(組換えまたはトランスジェニック)で製造するにせよ、ヴァン・ウィルブランド因子の画分は透析濾過(diafiltree)され、変性のリスクなしにヴァン・ウィルブランド因子を加熱、乾燥可能にするための適当な賦形剤を添加し、アルブミンなどの薬学的に許容される付加的な安定化剤を添加する前に限外濾過で濃縮され、バイアルに包装され、凍結乾燥される
【0089】
最後に、標準条件に従って寒冷沈降物を80℃で72時間、乾燥加熱する最終ウイルス不活性化段階を行って、不活性化および/またはウイルス除去の2つの工程の少なくとも一つで不活性化および/または除去しない非エンベロープウイルスを不活性化する。
【0090】
次いで、乾燥加熱した寒冷沈降物は臨床使用可能な水性媒体中、好ましくは10mlの注射用精製水(WFI)で再構成して注射製剤を得る。
【0091】
注射用製剤は静脈内、皮下または筋肉内に非経口で投与するのが好ましいが、液体(乾燥前の溶液または懸濁液)または粉末形態の投与、任意経路および任意の適切な手段による投与も除外されるものではない。本発明の特定実施形態では、注射用製剤は静脈内投与される。
【実施例】
【0092】
実施例1
ヴァン・ウィルブランド因子組成物の調製
1)
vWFを含む画分の取得
ヘパリンナトリウム(2U/ml)(pH7.1〜7)の水溶液中に懸濁させたヒト血漿の寒冷沈降物(cryoprecipitate)を使用した。この寒冷沈降懸濁液を欧州特許第EP0359593号公報に記載のように水酸化アルミニウム上で予備精製して、主要な汚染物質を除去する。次いで、精製上清を回収し、Tween(登録商標)−TNBPの存在下での溶媒−洗剤による従来のウイルス不活性化処理をする。
次いで、予備精製した寒冷沈降溶液を、pHを7.01に調整した0.01Mクエン酸三ナトリウム、0.001M塩化カルシウム、0.11M塩化ナトリウム、0.12Mグリシンおよび0.016Mリジンから成る緩衝液で予め平衡化したFractogel(登録商標)TSK−DEAE650(M)型の長さ25cm、直径1cmのクロマトグラフィーカラムに注入する。移動相の線速度は100cm/時に設定した。ヴァン・ウィルブランド因子、第VIII因子およびフィブロネクチンはクロマトグラフィー担体に保持される。担体に弱く保持されるか、保持されないタンパク質は主としてフィブリノーゲンと免疫グロブリンG(IgG)で、これらは濾液中に除去され、Tween(登録商標)およびTNBPは同じ緩衝液で連続洗浄によって除去される。
【0093】
タンパク質含量は280nm(O.Dで表す)での吸収を測定することによってモニターした。
【0094】
280nmで測定したO.Dがベースラインに落ちた時に緩衝液の塩化ナトリウム濃度を0.15Mに増加させる。この条件でヴァン・ウィルブランド因子を溶出させる。こうして得られた溶出液はヴァン・ウィルブランド因子とフィブロネクチンがリッチであり、Tween(登録商標)とTNBPをさらに含み、残留第VIII因子も含む。
【0095】
2)
クロマトグラフィー分離
本発明のヴァン・ウィルブランド因子を含む出発画分のロットとして上記の溶出ヴァン・ウィルブランド因子に富む画分を長さ25cm、直径1cmのDEAE−Fractogel(登録商標)−TSK650(M)のクロマトグラフィーカラムにロードした。クロマトグラフィーカラムは1)と同じ緩衝液で予め平衡化し、モル浸透圧濃度は387mosmolkg−1、線速度は100cm/時に設定した。12.9IU FvWF/mlと6.6IU VIII/mlを含むこの画分(すなわち比Rが51、1%(R=FVIII:C/VWF:RCo)の140ミリリットルを注入した。
【0096】
次いで、カラムをpH4.35、80mosmolkg
-1に調整した20mM酢酸ナトリウム酸緩衝液で150cm/時の線形速度で洗浄した。この条件でウイルスの不活性化剤だけでなくフィブロネクチンの残留物およびヴァン・ウィルブランド因子と複合体を形成している第VIII因子も極めて良く除去されることを確認した。タンパク質の沈殿は観察されない。D.Oがベースラインまで低下した時に、線速度を100cm/時にし、次いで、カラムを洗浄し、0.11MのNaClを含む上記と同じ緩衝液で平衡化した。
【0097】
ヴァン・ウィルブランド因子を含む画分の溶出は、pH6.95、492mosmolkg
-1に調整した0.17M平衡化緩衝液のNaCl濃度を増加させることによって行った。
【0098】
次いで、溶出したヴァン・ウィルブランド因子を公知の処理、0.22ミクロンフィルターでの滅菌濾過、35nmのフィルターでのナノ濾過、公知のダイアフィルトレーションおよび限外濾過を行って、ヴァン・ウィルブランド因子濃縮物が少なくとも90IU RCo/mgタンパク質の比活性(SA)を有するようにした。
【0099】
得られたヴァン・ウィルブランド因子濃縮物に10g/lのアルブミンを添加し、次いで−40℃で48時間、凍結乾燥した 。凍結乾燥後に、寒冷沈降物を80℃で72時間、乾燥加熱してウイルス不活性化熱処理を行った。
【0100】
実施例2
機械循環支援装置を仕様した患者の出血および/またはブリーディングの予防のためのヴァン・ウィルブランド因子組成物の投与の効果
この研究は、高度心不全のために機械循環支援装置を取り付ける必要のあった136人の18歳以上の高齢者患者で行った。
【0101】
以下で、略語のJは「日」を意味する。J=0は手術の日すなわち0日目に対応する。例えば、略語のJ+4は手術の翌日から4日目に対応する。
J=0に患者に連続流ポンプHeartMate IIを備えた機械循環支援装置を移植した。J+4とJ+7との間に本発明のヴァン・ウィルブランド因子を含む医薬組成物を50UI/kg体重の用量で患者に最初に投与した。ヴァン・ウィルブランド因子を含む本発明の医薬組成物の投与を50UI/kg体重の用量で一週間に2回の割合で90日間続けた。
【0102】
90日、各患者で出血および/またはブリーディングの発症はコントロールできた。さらに、血管新生マーカー(VEGF、アンジオポエチン2、ガレクチン1および3)の進化が制御でき、さらに、ヴァン・ウィルブランド因子の薬理学的特性の進化(比vWF :Act, vWF :Ag, vWF :CBAの変化)も制御でき、J+15、J+30、J+45、J+60、J+75、J+90での高分子量の多量体(HMW)の比率もコントロールできた。
【0103】
この結果は、本発明のヴァン・ウィルブランド因子組成物を50UI/kgの用量で、週2回の投与を90日間、投与することで患者の出血および/またはブリーディングの発生を防止することができることを示している。
【国際調査報告】