(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2018-515461(P2018-515461A)
(43)【公表日】2018年6月14日
(54)【発明の名称】癌を処置するフェノール誘導体
(51)【国際特許分類】
C07C 49/835 20060101AFI20180518BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20180518BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20180518BHJP
A61K 31/353 20060101ALI20180518BHJP
A61K 31/352 20060101ALI20180518BHJP
A61K 31/11 20060101ALI20180518BHJP
C07D 311/22 20060101ALI20180518BHJP
C07D 311/58 20060101ALI20180518BHJP
C07D 311/86 20060101ALI20180518BHJP
C12N 1/14 20060101ALI20180518BHJP
C12P 7/02 20060101ALI20180518BHJP
C07C 49/84 20060101ALI20180518BHJP
C12R 1/645 20060101ALN20180518BHJP
【FI】
C07C49/835
A61P35/00
A61P43/00 111
A61K31/353
A61K31/352
A61K31/11
C07D311/22CSP
C07D311/58
C07D311/86
C12N1/14 A
C12P7/02
C07C49/84 E
C12P7/02
C12R1:645
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】53
(21)【出願番号】特願2017-555742(P2017-555742)
(86)(22)【出願日】2016年4月29日
(85)【翻訳文提出日】2017年12月22日
(86)【国際出願番号】EP2016059650
(87)【国際公開番号】WO2016174226
(87)【国際公開日】20161103
(31)【優先権主張番号】15382217.6
(32)【優先日】2015年4月30日
(33)【優先権主張国】EP
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】516002886
【氏名又は名称】フンダシオン、メディナ.セントロ、デ、エクセレンシア、エン、インベスティガシオン、デ、メディカメントス、イノバドレス、エン、アンダルシア
【氏名又は名称原語表記】FUNDACION MEDINA.CENTRO DE EXCELENCIA EN INVESTIGACION DE MEDICAMENTOS INNOVADORES EN ANDALUCIA
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100155631
【弁理士】
【氏名又は名称】榎 保孝
(74)【代理人】
【識別番号】100137497
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100207907
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 桃子
(72)【発明者】
【氏名】ヌリア、デ、ペドロ、モンテホ
(72)【発明者】
【氏名】ビクトル、ゴンザレス、メネンデス
(72)【発明者】
【氏名】グロリア、クレスポ、スエイロ
(72)【発明者】
【氏名】イグナシオ、ペレス‐ビクトリア、モレノ、デ、バレダ
(72)【発明者】
【氏名】バスティアン、コーテイン
(72)【発明者】
【氏名】マリア、フランシスカ、ビセンテ、ペレス
(72)【発明者】
【氏名】ホセ、フェルナンド、レイエス、ベニテス
(72)【発明者】
【氏名】オルガ、ゲニリョウド、ロドリゲス
(72)【発明者】
【氏名】カルメン、グリニャン、リソン
(72)【発明者】
【氏名】フアン、アントニオ、マルシャル、コラレス
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C062
4C086
4C206
4H006
【Fターム(参考)】
4B064AC16
4B064AC18
4B064CA05
4B064CE06
4B064CE08
4B064CE10
4B064DA01
4B065AA57X
4B065AA57Y
4B065BD14
4B065BD16
4B065BD18
4B065CA05
4B065CA44
4C062EE38
4C062EE47
4C062FF11
4C062FF13
4C062HH01
4C062HH25
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086AA04
4C086BA08
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA17
4C086MA22
4C086MA23
4C086MA28
4C086MA35
4C086MA37
4C086MA41
4C086MA52
4C086MA63
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZC20
4C206AA01
4C206AA02
4C206AA03
4C206AA04
4C206CB09
4C206KA01
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA37
4C206MA42
4C206MA43
4C206MA48
4C206MA55
4C206MA57
4C206MA61
4C206MA72
4C206MA83
4C206MA86
4C206NA14
4C206ZB26
4C206ZC20
4H006AA01
4H006AA02
4H006AA03
4H006AB29
(57)【要約】
本発明は、一般式(I)の化合物:
【化1】
[式中、R
1〜R
8は、それぞれ異なる意味を有する]、これらを含有する医薬組成物、ならびに医療における、特には、癌の処置および/または予防のためのこれらの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)の化合物またはその薬学的に許容可能な塩、立体異性体もしくは溶媒和物:
【化1】
[式中、
A
---はO=またはOHを表し;
R
1は水素またはヒドロキシル保護基であり、かつ、R
2は
【化2】
から選択されるか;または
R
1およびR
2は一緒になって、
【化3】
から選択される環を形成し;
R
3は水素またはヒドロキシル保護基であり;
R
4はメチルであり;
R
5は水素またはハロゲンであり;
R
6は水素またはヒドロキシル保護基であり、かつ、R
7はCHOまたはCH
2(OH)であるか;または
R
6およびR
7は一緒に単結合を形成し;
R
8は水素またはヒドロキシル保護基であり;
R
11、R
12、R
13、R
14およびR
15は、独立に、水素またはヒドロキシル保護基を表し;
但し、化合物2,3’,5’,6−テトラヒドロキシ−2’−ホルミル−6’−(3−メチル−2−ブテニル)−4−メチル−ベンゾフェノンは含まれない]。
【請求項2】
R
1が水素またはヒドロキシル保護基であり、かつ、R
2が
【化4】
である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
R
1が水素またはメチルであり、かつ、R
2が
【化5】
であるか、または
R
1およびR
2が一緒になって、
【化6】
から選択される環を形成する、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
R3が水素である、前記いずれかの請求項に記載の化合物。
【請求項5】
R5が水素またはクロロである、前記いずれかの請求項に記載の化合物。
【請求項6】
R6が水素であり、R7がCHOである、前記いずれかの請求項に記載の化合物。
【請求項7】
R8が水素である、前記いずれかの請求項に記載の化合物。
【請求項8】
R1,R3,R6,R8,R11,R12,R13,R14およびR15のヒドロキシル保護基が、独立に、
− 式−R’のエーテル;
− 式−C(=OR)R’のエステル;および
− 式−C(=O)OR’のカーボネート
から選択される(ここで、R’は、独立に、置換または非置換のアルキルおよび置換または非置換のアリールから選択することができる)、請求項1に記載の化合物。
【請求項9】
下記化合物:
【化7】
またはその薬学的に許容可能な塩、立体異性体もしくは溶媒和物からなる群から選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項10】
式(I):
【化8】
[式中、
A
---はO=またはOHを表し;
R
1は水素またはヒドロキシル保護基であり、かつ、R
2は
【化9】
から選択されるか;または
R
1およびR
2は一緒になって、
【化10】
から選択される環を形成し;
R
3は水素またはヒドロキシル保護基であり;
R
4はメチルであり;
R
5は水素またはハロゲンであり;
R
6は水素またはヒドロキシル保護基であり、かつ、R
7はCHOまたはCH
2(OH)であるか;または
R
6およびR
7は一緒に単結合を形成し;
R
8は水素またはヒドロキシル保護基であり;
R
11、R
12、R
13、R
14およびR
15は、独立に、水素またはヒドロキシル保護基を表す]
の化合物またはその薬学的に許容可能な塩、立体異性体もしくは溶媒和物の少なくとも1つと、薬学的に許容可能な賦形剤とを含んでなる、医薬組成物。
【請求項11】
式(I)の化合物が
【化11】
から選択される、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
医療における使用のための、請求項10または11に記載の式(I)の化合物。
【請求項13】
癌の処置および/または予防に使用するための、請求項10または11に記載の式(I)の化合物。
【請求項14】
CBSに受託番号CBS139230で寄託されたオニココラ属(Onychocola sp.)菌株。
【請求項15】
請求項10または11のいずれか一項に定義される一般式(I)の化合物またはその薬学的に許容可能な塩、立体異性体もしくは溶媒和物を得る方法であって、制御された液内好気条件下で、資化性の炭素源および窒素源ならびに塩を有する水性栄養培地においてオニココラ属(Onychocola sp.)CBS139230菌株を培養し、次いで、培養ブロスから一般式(I)の化合物を回収および精製する工程を含んでなる、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規化合物、これらを含有する医薬組成物および医療における、特には、癌を処置および/または予防し得る薬剤としてのこれらの使用に関する。本発明はまた、このような化合物および組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)カスケードは、正常細胞の増殖、生存および分化の調節に関与する重要なシグナル伝達経路である。MAPKカスケードの異常な調節は、癌および他のヒト疾患の一因となる。特に、細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)MAPK経路は、癌の処置のための薬理学的阻害剤の開発につながる入念な研究対象となっている。
【0003】
MAPK/ERK経路(Ras−Raf−MEK−ERK経路としても知られる)では、シグナル伝達分子が受容体型チロシンキナーゼ(RTK)に結合するとシグナル伝達が始まり、Rasタンパク質が活性化される。続いて、3段階のリン酸化カスケードが起こる:活性化されたRasはRafセリン/スレオニンキナーゼのプロテインキナーゼ活性を活性化し、次いでRafキナーゼはMAP/ERKキナーゼ1および2(MEK1/2)二重特異性プロテインキナーゼを活性化し、これは次にERK1/2を活性化する(Robert PJ and Der CJ Oncogene 2007)。
【0004】
現在、Ras/Raf/MEK/ERK経路の調節不全とヒトの発癌との関連を示す多数の証拠がある。Rasは、最も一般的にはK−Rasアイソフォームで、ヒト癌の約30%において過剰活性化される。より具体的には、膵臓癌の約90%、結腸癌の50%、肺癌の30%、および骨髄性白血病の約30%においてRas活性化変異が報告されている。Rafの活性化変異は、ヒト癌の約7%で報告されている。特に、B−RAFの変異は、メラノーマの60%以上、卵巣癌の約30%、結腸直腸癌の約20%、およびいくつかの他の悪性腫瘍においてより低い頻度で観察されている。構成的活性型のMEK1/2およびERK1/2タンパク質は、比較的多数のヒト腫瘍、特に大腸、肺、膵臓、卵巣および腎臓由来の腫瘍に存在する(Yap, JL et al. ChemMedChem 2011)。
【0005】
多くのMAPK/ERK経路阻害剤が開発され、前臨床試験および早期臨床試験において評価されている。
【0006】
したがって、この経路の新しい阻害剤の提供は、多くの治療の機会と癌治療のための大きな挑戦の双方を提供するものである。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、Ras/Raf/MEK/ERK経路を阻害することができる新規の化合物を提供することにより前記課題を解決する。
【0008】
1つの測面において、本発明は、一般式(I)の化合物またはその薬学的に許容可能な塩、立体異性体もしくは溶媒和物(明瞭を目的として、いくつかの例において炭素原子の番号付けが示されている):
【化1】
[式中、
A
---はO=またはOHを表し;
R
1は水素またはヒドロキシル保護基であり、かつ、R
2は
【化2】
から選択されるか;または
R
1およびR
2は一緒になって、
【化3】
から選択される環を形成し;
R
3は水素またはヒドロキシル保護基であり;
R
4はメチルであり;
R
5は水素またはハロゲンであり;
R
6は水素またはヒドロキシル保護基であり、かつ、R
7はCHOまたはCH
2(OH)であるか;または
R
6およびR
7は一緒に単結合を形成し;
R
8は水素またはヒドロキシル保護基であり;
R
11、R
12、R
13、R
14およびR
15は、独立に、水素またはヒドロキシル保護基を表し;
但し、化合物2,3’,5’,6−テトラヒドロキシ−2’−ホルミル−6’−(3−メチル−2−ブテニル)−4−メチル−ベンゾフェノンは含まれない。]。
【0009】
特開平7−61950号公報は、毛髪化粧料組成物のためのUV光吸収剤として有用なテストステロン5アルファ−レダクターゼ阻害活性を有するベンゾフェノン誘導体に関し、特に、SB87−Hとして特定されている2,3’,5’,6−テトラヒドロキシ−2’−ホルミル−6’−(3−メチル−2−ブテニル)−4−メチル−ベンゾフェノン(または2−(2,6−ジヒドロキシ−4−メチル−ベンゾイル)−4,6−ジヒドロキシ−3−(3−メチル−ブタ−2−エニル)−ベンズアルデヒド)化合物を開示し、これは本明細書でMDN−0090と称する化合物に相当し、化学式が以下に示される
【化4】
【0010】
したがって、MDN−0090は、本出願では請求されていない。しかしながら、MDN−0090は以下に示す本発明の残りの側面に含まれ、式(I)の化合物を含有する医薬または医薬組成物、医療における、特には、癌の処置および/または予防におけるこれらの使用、ならびにこのような化合物および組成物の製造方法に関する。
【0011】
本発明の他の側面としては、上記で定義される式(I)の化合物またはその薬学的に許容可能な塩、立体異性体もしくは溶媒和物の少なくとも1つと薬学的に許容可能な賦形剤とを含んでなる医薬または医薬組成物に関する。
【0012】
本発明の他の側面としては、医療における使用、特には、癌の処置および/または予防のための、上記で定義される式(I)の化合物またはその薬学的に許容可能な塩、立体異性体もしくは溶媒和物に関する。
【0013】
本発明の他の側面としては、癌の処置および/または予防のための医薬の製造における、上記で定義される式(I)の化合物またはその薬学的に許容可能な塩、立体異性体もしくは溶媒和物の使用に関する。
【0014】
本発明の他の側面としては、癌を処置および/または予防する方法であって、そのような処置または予防を必要とする対象に、上記で定義される式(I)の化合物またはその薬学的に許容可能な塩、立体異性体もしくは溶媒和物の有効量を投与することを含んでなる方法に関する。
【0015】
よって、本発明は、一般式(I)の化合物またはその薬学的に許容可能な塩、立体異性体もしくは溶媒和物が、Ras/Raf/MEK/ERK経路を阻害することを確立する。本発明の化合物は、種々の癌処置のためのRas/Raf/MEK/ERK経路において阻害活性を示すことが見出された。
【0016】
本発明はまた、それらを生産することができる微生物、具体的には、オニココラ属(
Onychocola sp.)として同定される菌類、より具体的には、オニココラ属CBS139230菌株からの式(I)の化合物の取得、および得られた化合物からの誘導体の形成に関する。好ましい態様においては、式(I)の化合物を得る方法は、制御された液内好気条件下で、資化性の炭素源および窒素源ならびに塩を有する水性栄養培地においてオニココラ属CBS139230などのこれらを生産することができる微生物系統を培養する工程と、その後培養ブロスから本発明による化合物を回収および精製する工程とを含んでなる。
【0017】
本発明の他の側面としては、受託番号CBS139230のオニココラ属菌株である。
【0018】
本発明のこれらの側面および他の側面は、以下に記載される態様を参照して明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】化合物MDN−0090との72時間のインキュベーションでのMiaPaca_2およびBxPC3細胞株におけるMTTアッセイの結果(すなわち、腫瘍膵臓細胞株に対する増殖阻害効果)。実施例6を参照。
【
図2】Alphascreen Surefire_pERKアッセイの結果。実施例9を参照。
【
図3】異種移植における化合物MDN−0090の抗腫瘍活性の結果(腫瘍体積対インキュベーション後日数)。実施例12を参照。
【
図4】CSCに対する化合物MDN−0090の抗腫瘍活性の結果(腫瘍体積対インキュベーション後日数)。実施例13を参照。
【
図5】化合物MDN−0090のイン・ビボ(in vivo)腫瘍形成能アッセイの結果(腫瘍体積対インキュベーション後日数)。実施例14を参照。
【0020】
癌はヒトの主要な死因であり、それは機能不全の細胞シグナル伝達に本質的に起因する。Ras/Raf/MEK/ERK経路はシグナルを伝達することができ、アポトーシスまたは細胞周期の進行を阻止または誘導する。従って、それは治療的介入の標的となる適切な経路である。したがって、抗癌剤を開発する努力は、大部分において、Ras/Raf/MEK/ERK経路阻害剤の同定に集中してきた。
【0021】
本発明は、癌を処置および/または予防することができる新規化合物に関する。一般式(I)のこれらの化合物は、Ras/Raf/MEK/ERK経路の阻害剤として特に有用である。
【0022】
これらの化合物において、各基は以下の指針に従って選択することができる。
【0023】
アルキル基は、分岐鎖または非分岐鎖であってよく、好ましくは、1〜約18個の炭素原子、例えば、1〜約12個の炭素原子を有する。より好ましいアルキル基は、1〜約6個の炭素原子を有し、さらに好ましくは、1、2、3または4個の炭素原子を有するアルキル基である。本発明の化合物においては、メチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピルならびにn−ブチル、tert−ブチル、sec−ブチルおよびiso−ブチルを含むブチルが特に好ましいアルキル基である。環状基は少なくとも3個の炭素環員を含んでなるが、本明細書で使用されるアルキルとの用語は、特に明記しない限り、環状基および非環状基の双方を意味する。
【0024】
本発明の化合物におけるアルケニルおよびアルキニル基は、分岐鎖または非分岐鎖であってよく、1または複数の不飽和結合および2〜約18個の炭素原子、例えば、2〜約12個の炭素原子を有する。より好ましいアルケニルおよびアルキニル基は、2〜約6個の炭素原子を有し、さらに好ましくは、2、3または4個の炭素原子を有するアルケニルおよびアルキニル基である。環状基は少なくとも3個の炭素環員を含んでなるが、本明細書で使用されるアルケニルおよびアルキニルとの用語は、環状基および非環状基の双方を意味する。
【0025】
本発明の化合物における適切なアリール基としては、分離(separate)および/または縮合アリール基を含有する多環式化合物を含む単環式および多環式化合物が挙げられる。典型的なアリール基は、1〜3個の分離および/または縮合環および6〜約18個の炭素環原子を含有する。好ましくは、アリール基は、6〜約10個の炭素環原子を含有する。特に好ましいアリール基としては、置換または非置換フェニル、置換または非置換ナフチル、置換または非置換ビフェニル、置換または非置換フェナントリルおよび置換または非置換アントリルが挙げられる。
【0026】
上述した各基は、1または複数の利用可能な位置でOR’、=O、SR’、SOR’、SO
2R’、OSO
2R’、OSO
3R’、NO
2、NHR’、N(R’)
2、=N−R’、N(R’)COR’、N(COR’)
2、N(R’)SO
2R’、N(R’)C(=NR’)N(R’)R’、CN、ハロゲン、COR’、COOR’、OCOR’、OCOOR’、OCONHR’、OCON(R’)
2、CONHR’、CON(R’)
2、CON(R’)OR’、CON(R’)SO
2R’、PO(OR’)
2、PO(OR’)R’、PO(OR’)(N(R’)R’)、置換または非置換C
1−C
12アルキル、置換または非置換C
2−C
12アルケニル、置換または非置換C
2−C
12アルキニルおよび置換または非置換アリール(ここで、各R’基は、独立に、水素、OH、NO
2、NH
2、SH、CN、ハロゲン、COH、COアルキル、COOH、置換または非置換C
1−C
12アルキル、置換または非置換C
2−C
12アルケニル、置換または非置換C
2−C
12アルキニルおよび置換または非置換アリールからなる群から選択される。)などの1または複数の適切な基により置換されていてもよい。当該基自体が置換されている場合は、置換基は前述のリストから選択されてもよい。
【0027】
本発明の化合物における適切なハロゲン基または置換基としては、F、Cl、BrおよびIが挙げられる。
【0028】
適切な保護基は当業者によく知られている。有機化学における保護基の一般的概説については、Wuts, PGM and Greene TW in Protecting Groups in Organic Synthesis, 4
th Ed. Wiley-Interscience, and by Kocienski PJ in Protecting Groups, 3
rd Ed. Georg Thieme Verlagにより提供される。これらの文献はヒドロキシ基のための保護基についてのセクションを提供する。これらの文献はいずれも全体として参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0029】
当該保護されたOHの例としては、エーテル、シリルエーテル、エステル、スルホネート、スルフェネートおよびスルフィネート、カーボネートならびにカルバメートが挙げられる。エーテルの場合、OHの保護基は、メチル、メトキシメチル、メチルチオメチル、(フェニルジメチルシリル)メトキシメチル、ベンジルオキシメチル、p−メトキシベンジルオキシメチル、[(3,4−ジメトキシベンジル)オキシ]メチル、p−ニトロベンジルオキシメチル、o−ニトロベンジルオキシメチル、[(R)−1−(2−ニトロフェニル)エトキシ]メチル、(4−メトキシフェノキシ)メチル、グアヤコールメチル、[(p−フェニルフェニル)オキシ]メチル、t−ブトキシメチル、4−ペンテニルオキシメチル、シロキシメチル、2−メトキシエトキシメチル、2−シアノエトキシメチル、ビス(2−クロロエトキシ)メチル、2,2,2−トリクロロエトキシメチル、2−(トリメチルシリル)エトキシメチル、メントキシメチル、o−ビス(2−アセトキシエトキシ)メチル、テトラヒドロピラニル、フルオラステトラヒドロピラニル、3−ブロモテトラヒドロピラニル、テトラヒドロチオピラニル、1−メトキシシクロヘキシル、4−メトキシテトラヒドロピラニル、4−メトキシテトラヒドロチオピラニル、4−メトキシテトラヒドロチオピラニルS,S−ジオキシド、1−[(2−クロロ−4−メチル)フェニル]−4−メトキシピペリジン−4−イル、1−(2−フルオロフェニル)−4−メトキシピペリジン−4−イル、1−(4−クロロフェニル)−4−メトキシピペリジン−4−イル、1,4−ジオキサン−2−イル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロチオフラニル、2,3,3a,4,5,6,7,7a−オクタヒドロ−7,8,8−トリメチル−4,7−メタノベンゾフラン−2−イル、1−エトキシエチル、1−(2−クロロエトキシ)エチル、2−ヒドロキシエチル、2−ブロモエチル、1−[2−(トリメチルシリル)エトキシ]エチル、1−メチル−1−メトキシエチル、1−メチル−1−ベンジルオキシエチル、1−メチル−1−ベンジルオキシ−2−フルオロエチル、1−メチル−1−フェノキシエチル、2,2,2−トリクロロエチル、1,1−ジアニシル−2,2,2−トリクロロエチル、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−フェニルイソプロピル、1−(2−シアノエトキシ)エチル、2−トリメチルシリルエチル、2−(ベンジルチオ)エチル、2−(フェニルセレニル)エチル、t−ブチル、シクロヘキシル、1−メチル−1’−シクロプロピルメチル、アリル、プレニル、シンナミル、2−フェナリル、プロパルギル、p−クロロフェニル、p−メトキシフェニル、p−ニトロフェニル、2,4−ジニトロフェニル、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−(トリフルオロメチル)フェニル、ベンジル、p−メトキシベンジル、3,4−ジメトキシベンジル、2,6−ジメトキシベンジル、o−ニトロベンジル、p−ニトロベンジル、ペンタジエニルニトロベンジル、ペンタジエニルニトロピペロニル、ハロベンジル、2,6−ジクロロベンジル、2,4−ジクロロベンジル、2,6−ジフルオロベンジル、p−シアノベンジル、フルオラスベンジル、4−フルオラスアルコキシベンジル、トリメチルシリルキシリル、p−フェニルベンジル、2−フェニル−2−プロピル、p−アシルアミノベンジル、p−アジドベンジル、4−アジド−3−クロロベンジル、2−トリフルオロメチルベンジル、4−トリフルオロメチルベンジル、p−(メチルスルフィニル)ベンジル、p−シレタニルベンジル、4−アセトキシベンジル、4−(2−トリメチルシリル)エトキシメトキシベンジル、2−ナフチルメチル、2−ピコリル、4−ピコリル、3−メチル−2−ピコリルN−オキシド、2−キノリニルメチル、6−メトキシ−2−(4−メチルフェニル−4−キノリンメチル、1−ピレニルメチル、ジフェニルメチル、4−メトキシジフェニルメチル、4−フェニルジフェニルメチル、p,p’−ジニトロベンズヒドリル、5−ジベンゾスベリル、トリフェニルメチル、トリス(4−t−ブチルフェニル)メチル、α−ナフチルジフェニルメチル、p−メトキシフェニルジフェニルメチル、ジ(p−メトキシフェニル)フェニルメチル、トリ(p−メトキシフェニル)メチル、4−(4’−ブロモフェナシルオキシ)フェニルジフェニルメチル、4,4’,4’’−トリス(4,5−ジクロロフタルイミドフェニル)メチル、4,4’,4’’−トリス(レブリノイルオキシフェニル)メチル、4,4’,4’’−トリス(ベンゾイルオキシフェニル)メチル、4,4’−ジメトキシ−3’’−[N−(イミダゾリルメチル)]トリチル、4,4’−ジメトキシ−3’’−[N−(イミダゾリルエチル)カルバモイル]トリチル、ビス(4−メトキシフェニル)−1’−ピレニルメチル、4−(17−テトラベンゾ[a,c,g,i]フルオレニルメチル)−4,4’’−ジメトキシトリチル、9−アントリル、9−(9−フェニル)キサンテニル、9−フェニルチオキサンチル、9−(9−フェニル−10−オキソ)アントリル、1,3−ベンゾジチオラン−2−イルおよび4,5−ビス(エトキシカルボニル)−[1,3]−ジオキソラン−2−イル、ベンズイソチアゾリルS,S−ジオキシドから選択することができる。シリルエーテルの場合、OHの保護基は、トリメチルシリル、トリエチルシリル、トリイソプロピルシリル、ジメチルイソプロピルシリル、ジエチルイソプロピルシリル、ジメチルヘキシルシリル、2−ノルボルニルジメチルシリル、t−ブチルジメチルシリル、t−ブチルジフェニルシリル、トリベンジルシリル、トリ−p−キシリルシリル、トリフェニルシリル、ジフェニルメチルシリル、ジ−t−ブチルメチルシリル、ビス(t−ブチル)−1−ピレニルメトキシシリル、トリス(トリメチルシリル)シリル、(2−ヒドロキシスチリル)ジメチルシリル、(2−ヒドロキシスチリル)ジイソプロピルシリル、t−ブチルメトキシフェニルシリル、t−ブトキシジフェニルシリル、1,1,3,3−テトライソプロピル−3−[2−(トリフェニルメトキシ)エトキシ]ジシロキサン−1−イルおよびフルオラスシリルから選択することができる。エステルの場合、OHの保護基は、ホルメート、ベンゾイルホルメート、アセテート、クロロアセテート、ジクロロアセテート、トリクロロアセテート、トリクロロアセトアミデート、トリフルオロアセテート、メトキシアセテート、トリフェニルメトキシアセテート、フェノキシアセテート、p−クロロフェノキシアセテート、フェニルアセテート、ジフェニルアセテート、3−フェニルプロピオネート、ビスフルオラス鎖型プロパノイル、4−ペンテノエート、4−オキソペンタノエート、4,4−(エチレンジチオ)ペンタノエート、5[3−ビス(4−メトキシフェニル)ヒドロキシメチルフェノキシ]レブリネート、ピバレート(pivaloate)、1−アダマントエート、クロトネート、4−メトキシクロトネート、ベンゾエート、p−フェニルベンゾエート、2,4,6−トリメチルベンゾエート、4−ブロモベンゾエート、2,5−ジフルオロベンゾエート、p−ニトロベンゾエート、ピコリネート、ニコチネート、2−(アジドメチル)ベンゾエート、4−アジドブチレート、(2−アジドメチル)フェニルアセテート、2−{[(トリチルチオ)オキシ]メチル}ベンゾエート、2−{[(4−メトキシトリチルチオ)オキシ]メチル}ベンゾエート、2−{[メチル(トリチルチオ)アミノ]メチル}ベンゾエート、2−{{[(4−メトキシトリチル)チオ]メチルアミノ}−メチル}ベンゾエート、2−(アリルオキシ)フェニルアセテート、2−(プレニルオキシメチル)ベンゾエート、6−(レブリニルオキシメチル)−3−メトキシ−2−ニトロベンゾエート、6−(レブリニルオキシメチル)−3−メトキシ−4−ニトロベンゾエート、4−ベンジルオキシブチレート、4−トリアルキルシリルオキシブチレート、4−アセトキシ−2,2−ジメチルブチレート、2,2−ジメチル−4−ペンテノエート、2−ヨードベンゾエート、4−ニトロ−4−メチルペンタノエート、o−(ジブロモメチル)ベンゾエート、2−ホルミルベンゼンスルホネート、4−(メチルチオメトキシ)ブチレート、2−(メチルチオメトキシメチル)ベンゾエート、2−(クロロアセトキシメチル)ベンゾエート、2−[(2−クロロアセトキシ)エチル]ベンゾエート、2−[2−(ベンジルオキシ)エチル]ベンゾエート、2−[2−(4−メトキシベンジルオキシ)エチル]ベンゾエート、2,6−ジクロロ−4−メチルフェノキシアセテート、2,6−ジクロロ−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノキシアセテート、2,4−ビス(1,1−ジメチルプロピル)フェノキシアセテート、クロロジフェニルアセテート、イソブチレート、モノスクシノエート、(E)−2−メチル−2−ブテノエート、o−(メトキシカルボニル)ベンゾエート、α−ナフトエート、ニトレート、アルキルN,N,N,N−テトラメチルホスホロジアミデートおよび2−クロロベンゾエートから選択することができる。スルホネート、スルフェネートおよびスルフィネートの場合、OHの保護基は、サルフェート、アリルスルホネート、メタンスルホネート、ベンジルスルホネート、トシレート、2−[(4−ニトロフェニル)エチル]スルホネート、2−トリフルオロメチルベンゼンスルホネート、4−モノメトキシトリチルスルフェネート、アルキル2,4−ジニトロフェニルスルフェネート、2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−3−オン−1−スルフィネート、ボレートおよびジメチルホスフィノチオリルから選択することができる。カーボネートの場合、OHの保護基は、メチルカーボネート、メトキシメチルカーボネート、9−フルオレニルメチルカーボネート、エチルカーボネート、ブロモエチルカーボネート、2−(メチルチオメトキシ)エチルカーボネート、2,2,2−トリクロロエチルカーボネート、1,1−ジメチル−2,2,2−トリクロロエチルカーボネート、2−(トリメチルシリル)エチルカーボネート、2−[ジメチル(2−ナフチルメチル)シリル]エチルカーボネート、2−(フェニルスルホニル)エチルカーボネート、2−(トリフェニルホスホニオ)エチルカーボネート、cis−[4−[[(メトキシトリチル)スルフェニル]オキシ]テトラヒドロフラン−3−イル]オキシカーボネート、イソブチルカーボネート、t−ブチルカーボネート、ビニルカーボネート、アリルカーボネート、シンナミルカーボネート、プロパルギルカーボネート、p−クロロフェニルカーボネート、p−ニトロフェニルカーボネート、4−エトキシ−1−ナフチルカーボネート、6−ブロモ−7−ヒドロキシクマリン−4−イルメチルカーボネート、ベンジルカーボネート、o−ニトロベンジルカーボネート、p−ニトロベンジルカーボネート、p−メトキシベンジルカーボネート、3,4−ジメトキシベンジルカーボネート、アントラキノン−2−イルメチルカーボネート、2−ダンシルエチルカーボネート、2−(4−ニトロフェニル)エチルカーボネート、2−(2,4−ジニトロフェニル)エチルカーボネート、2−(2−ニトロフェニル)プロピルカーボネート、アルキル2−(3,4−メチレンジオキシ−6−ニトロフェニル)プロピルカーボネート、2−シアノ−1−フェニルエチルカーボネート、2−(2−ピリジル)アミノ−1−フェニルエチルカーボネート、2−[N−メチル−N−(2−ピリジル)]アミノ−1−フェニルエチルカーボネート、フェナシルカーボネート、3’,5’−ジメトキシベンゾインカーボネート、メチルジチオカーボネートおよびS−ベンジルチオカーボネートから選択することができる。カルバメートの場合、OHの保護基は、ジメチルチオカルバメート、N−フェニルカルバメート、N−メチル−N−(o−ニトロフェニル)カルバメートから選択することができる。これらの基についての記載は、OHについての保護基を単に説明するものとして記載されるものであって、本発明の範囲を限定するものと解釈され
るべきではなく、前記機能を有するさらなる基も当業者であれば分かり、本発明に包含されると理解される。
【0030】
「塩」との用語は、イオン型をとる、または、荷電し、対イオン(陽イオンまたは陰イオン)と結合する、または、溶液中にあるといった本発明による活性化合物の任意の形態を意味すると理解される。また、活性化合物と他の分子およびイオンとの複合体、特には、イオン相互作用を介して複合体化される複合体も意味する。この定義は特に生理学的に許容可能な塩を含み、この用語は「薬理学的に許容可能な塩」または「薬学的に許容可能な塩」と同等と理解される。
【0031】
「生理学的に許容可能な塩」または「薬学的に許容可能な塩」との用語は、本発明に照らして、特には、生理学的に許容される酸と形成される(上記で定義されたような)塩、すなわち、特定の活性化合物と生理学的に許容される(特にヒトおよび/または哺乳類に使用される場合に)無機または有機酸との塩、または生理学的に許容される(特にヒトおよび/または哺乳類に使用される場合に)少なくとも1つの(好ましくは無機の)陽イオンと形成される(上記で定義されたような)塩と理解することができる。特定の酸の生理学的に許容される塩の例は、塩酸、臭化水素酸、硫酸、臭化水素酸塩、一臭化水素酸塩、一塩酸塩もしくは塩酸塩、メチオジド、メタンスルホン酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、マンデル酸、フマル酸、乳酸、クエン酸、グルタミン酸、馬尿酸、ピクリン酸および/またはアスパラギン酸の塩である。特定の塩基の生理学的に許容される塩の例は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の塩ならびにNH
4との塩である。
【0032】
当業者には、薬学的に許容可能でない塩も、薬学的に許容可能な塩を得るための可能な手段として、本発明の範囲に含まれることが明らかであろう。
【0033】
本発明による「溶媒和物」との用語は、本発明による化合物が非共有結合を介して他の分子(最も可能性が高いのは極性溶媒)に付着するといった本発明による化合物の任意の形態(特に、水和物やアルコール和物、例えば、メタノール和物を含む)を意味すると理解される。溶媒化の方法は当技術分野において一般的に知られている。本発明の化合物は種々の多形形態を示し得るものであって、本発明はこのようなすべての形態を包含することが意図される。
【0034】
本明細書に記載される任意の化合物は、当該特定の化合物も一定の変形または形態も意図される。上記の式(I)で表される本発明の化合物は立体異性体を含む。本明細書で用いられる「立体異性体」との用語は、当該化合物の任意のエナンチオマー、ジアステレオマーまたは幾何異性体(E/Z)を含む。特には、本明細書に記載される化合物は不斉中心を有し得、それゆえ、種々のエナンチオマーまたはジアステレオマー型が存在する。よって、本明細書に記載される任意の所定の化合物は、ラセミ化合物、1または複数のエナンチオマー型、1または複数のジアステレオマー型およびこれらの混合物のいずれかを表すことが意図される。同様に、二重結合についての立体異性または幾何異性もまた可能であり、それゆえ、いくつかの場合では、分子は(E)−異性体または(Z)−異性体(トランスおよびシス異性体)として存在することができる。分子がいくつかの二重結合を含有する場合、各二重結合は、その分子の他の二重結合の立体異性と同一でも異なっていてもよい独自の立体異性を有することになる。本明細書に記載される化合物のエナンチオマー、ジアステレオマーおよび幾何異性体を含むあらゆる立体異性体ならびにこれらの混合物は本発明の範囲内であるとみなされる。
【0035】
さらに、本明細書に記載される任意の化合物は、互変異性体として存在し得る。具体的には、互変異性体との用語は、平衡状態で存在し、ある異性体から他の異性体へ直ちに変換される2または複数の化合物の構造異性体の1つを意味する。一般的な互変異性体は、エナミン−イミン、アミド−イミド酸、ケト−エノール、ラクタム−ラクチムなどである。
【0036】
特に明記しない限り、本発明の化合物は、同位体で標識された形態、すなわち、1または複数の同位体が濃縮された原子が存在することのみが異なる化合物も意味する。例えば、少なくとも1つの水素原子を重水素もしくは三重水素に置き換える、または、少なくとも1つの炭素を
13C−もしくは
14C−濃縮炭素に置き換える、または、少なくとも1つの窒素を
15N−濃縮窒素に置き換える以外は現在の構造を有する化合物は本発明の範囲内である。
【0037】
式(I)の化合物またはそれらの塩もしくは溶媒和物は、好ましくは、薬学的に許容可能または実質的に純粋な形態である。薬学的に許容可能な形態とは、とりわけ、希釈剤や担体などの通常の医薬品添加物を除き、薬学的に許容可能な純度のレベルを有し、かつ、通常の投与量レベルで毒性と考えられる物質を含まないことを意味する。薬剤物質の純度レベルは、好ましくは、50%を上回り、より好ましくは、70%を上回り、最も好ましくは、90%を上回る。好ましい態様において、式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物もしくはプロドラッグは95%を上回る。
【0038】
より簡潔に説明するために、本明細書に記載される量的表現のいくつかは「約」との用語で特定されていない。「約」との用語が明確に使用されていてもいなくても、本明細書に記載されるあらゆる量は、実際の所定の値に言及することを意味するとともに、当該所定の値についての実験および/または測定条件に起因する等価量および近似値を含む、当技術分野における通常の技術に基づいて合理的に推測できる当該所定の値の近似値に言及することも意味すると理解される。
【0039】
本発明の化合物において、A
---はO=またはOHを表す。特定の態様では、A
---はO=である。
【0040】
特定の態様によれば、本発明の化合物において、R
1は水素またはヒドロキシル保護基であり、かつ、R
2は
【化5】
から選択される。
【0041】
より詳細には、R
1は水素またはヒドロキシル保護基であり、かつ、R
2は
【化6】
である。
【0042】
さらにより詳細には、R
1は水素またはメチルであり、かつ、R
2は
【化7】
である。
【0043】
別の特定の態様によれば、本発明の化合物において、R
1およびR
2は一緒になって、
【化8】
から選択される環を形成する。
【0044】
より詳細には、R
1およびR
2は一緒になって、
【化9】
から選択される環を形成する。
【0045】
本発明の化合物において、R
3は水素またはヒドロキシル保護基である。特定の態様では、R
3は水素である。
【0046】
本発明の化合物において、R
5は水素またはクロロなどのハロゲンである。特定の態様では、R
5は水素またはクロロである。
【0047】
特定の態様によれば、本発明の化合物において、R
6は水素であり、かつ、R
7はCHOまたはCH
2(OH)である。より詳細には、R
6は水素であり、かつ、R
7はCHOである。
【0048】
別の特定の態様によれば、本発明の化合物において、R
6およびR
7は一緒に単結合を形成する。
【0049】
本発明の化合物において、R
8は水素またはヒドロキシル保護基である。特定の態様において、R
8は水素である。
【0050】
R
1,R
3,R
6,R
8,R
11,R
12,R
13,R
14およびR
15の代表的なヒドロキシル保護基は、
− 式−R’のエーテル;
− 式−C(=OR)R’のエステル;および
− 式−C(=O)OR’のカーボネート
(ここで、R’は、独立に、置換または非置換のアルキルおよび置換または非置換のアリールから選択することができる。)である。
【0051】
当業者であれば分かるように、ヒドロキシル保護基は酸素原子を考慮して一般的に命名される。従って、「エーテル」、「エステル」および「カーボネート」などの用語は、本明細書においては実際には酸素原子により形成される化学基、すなわち、それぞれ−OR’、−OC(=O)R’または−OC(=O)OR’を意味する。
【0052】
より具体的には、ヒドロキシ保護基としては、メチルエーテル、tert−ブチルエーテル、ベンジルエーテル、p−メトキシベンジルエーテル、3,4−ジメトキシベンジルエーテル、トリチルエーテル、アリルエーテル、メトキシメチルエーテル、2−メトキシエトキシメチルエーテル、ベンジルオキシメチルエーテル、p−メトキシベンジルオキシメチルエーテル、2−(トリメチルシリル)エトキシメチル、1−メトキシエチルエーテル、1−エトキシエチルエーテル、1−n−プロポキシエチルエーテル、1−イソプロポキシエチルエーテル、1−n−ブトキシエチルエーテル、1−イソブトキシエチルエーテル、1−sec−ブトキシエチルエーテル、1−tert−ブトキシエチルエーテル、1−エトキシ−n−プロピルエーテル、メトキシプロピルエーテル、エトキシプロピルエーテル、1−メトキシ−1−メチルエチルエーテル、1−エトキシ−1−メチルエチルエーテル;テトラヒドロピラニルおよび関連エーテルなどのエーテル; アセテート、ベンゾエート、ピバレート、メトキシアセテート、クロロアセテート、レブリネートなどのエステル;ベンジルカーボネート、p−ニトロベンジルカーボネート、tert−ブチルカーボネート、2,2,2−トリクロロエチルカーボネート、2−(トリメチルシリル)エチルカーボネート、アリルカーボネートなどのカーボネート、が挙げられる。
【0053】
本発明の特に好ましい化合物は、以下の化合物:
【化10】
またはその薬学的に許容可能な塩、立体異性体もしくは溶媒和物である。
【0054】
さらなる好ましい態様においては、上記式中における種々の基および置換基について上述される好ましい選択肢が組み合わされる。本発明はこのような組み合わせにも向けられる。
【0055】
化合物MDN−0089からMDN−0094は、オニココラ属として同定された菌から単離された。該菌はメディナ財団(Fundacion MEDINA)の微生物株保存機関に受託番号CF−107644で寄託され、また、ブダペスト条約の下、CBS真菌生物多様性センター(Centraalbureau voor Schimmelcultures)(ウップサララン 8,3584 CT ユトレヒト、オランダ)の微生物株保存機関に受託番号CBS139230で寄託される。
【0056】
本発明の1つの側面は、受託番号CBS139230でCBSに寄託されたオニココラ属の前記菌株、ならびに生物学的に純粋な培養物を含むその培養物である。この微生物の説明は、以下の実験部分で提供される。
【0057】
したがって、本発明の抗腫瘍化合物は、発酵において相当量が蓄積されるまで、以下に示すような適切な栄養培地においてオニココラCF−107644菌株 CBS139230を培養することにより得てもよい。
【0058】
菌株は通常、資化性の炭素源および窒素源を含有する水性栄養培地において培養する。例えば、培養物は液内(submerged)好気条件下で(例えば、振盪培養、液内培養など)または固体発酵において増殖させてもよい。水性培地は好ましくは発酵プロセスの開始および終了(採取)の時点で約6〜8のpHに維持される。所望のpHはモルホリノエタン−スルホン酸(MES)、モルホリノプロパン−スルホン酸(MOPS)などの緩衝液の使用や、緩衝特性を本質的に有する栄養物質を選択することにより維持してもよい。栄養培地における適切な炭素源としては、グルコース、キシロース、ガラクトース、グリセリン、デンプン、スクロース、デキストリンなどの炭水化物が挙げられる。使用し得る他の適切な炭素源としては、マルトース、ラムノース、ラフィノース、アラビノース、マンノース、コハク酸ナトリウムなどが挙げられる。適切な窒素源は、酵母抽出物、肉抽出物、ペプトン、グルテンミール、綿実ミール、大豆ミールおよび他の植物ミール(部分的または全体的に脱脂)、カゼイン加水分解物、大豆加水分解物、酵母加水分解物、コーンスティープリカー、乾燥酵母、小麦胚芽、フェザーミール、ピーナッツ粉末、蒸留可溶物など、ならびにアンモニウム塩(硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウムなど)、尿素、アミノ酸などの無機および有機窒素化合物である。微量の成長因子、ビタミンや大量の無機栄養素を含有する不純物質もまた使用に適していることから、有利には組み合わせて用い得る炭素源および窒素源は、それぞれ純粋な形で用いる必要はない。必要であれば、炭酸ナトリウムまたはカルシウム、リン酸ナトリウムまたはカリウム、塩化ナトリウムまたはカリウム、ヨウ化ナトリウムまたはカリウムなどの無機塩、マグネシウム塩、銅塩、コバルト塩などを培地に加えてもよい。必要であれば、特には培養培地が過剰に泡立つ場合は、1または複数の消泡剤(例えば、流動パラフィン、脂肪油、植物油、鉱油またはシリコーン)を加えてもよい。液内好気培養条件は、膨大な量の細胞を生産するために細胞を培養する典型的な方法である。小規模生産については、フラスコまたは瓶において振盪または表面培養を行ってもよい。大型タンクで増殖を行う場合は、生産プロセスにおける増殖の停滞を避けるために、生産タンクにおいて接種するために生物の栄養型(vegetative forms)を用いることが好ましい。従って、まず、「スラント」またはペトリ皿に生産された生物の胞子または菌糸を有する培養培地の比較的少量を接種し、「種培地」とも呼ばれる前記接種された培地を培養することにより、生物の栄養種菌(vegetative inoculum)を生産し、その後、培養された栄養種菌を無菌で大型タンクに移すことが望ましいであろう。種菌が生産される発酵培地は、一般的には接種前に該培地を滅菌するために加圧滅菌処理される。培地のpHは一般的には加圧滅菌処理工程の前に約6〜7に調整する。培養混合物の撹拌および通気は種々の方法で達成されてよい。撹拌は、プロペラもしくは類似の機械的撹拌機器、発酵槽を回転させるもしくは振ること、種々のポンプ機器、または無菌の空気を培地に通過させることにより提供されてよい。発酵は通常、約20℃および30℃の間(例えば、約22℃および25℃の間)の温度で約7〜21日の期間行われ、パラメーターは発酵の条件や規模に従って変化してもよい。発酵を行うための好ましい培養/生産培地としては実施例に記載される培地が挙げられる。LSFMまたはBRFTなどの培養培地が特に好ましい。
【0059】
本発明の化合物の粗活性抽出物からの分離および精製は、常法のクロマトグラフィー技術の適切な組み合わせを用いて行うことができる。
【0060】
さらに、本発明の化合物は、天然源から既に得られたものを改変すること、または種々の化学反応、例えば、誘導体化、保護/脱保護および異性化反応を用いて既に改変されたものをさらに改変することにより得ることができる。従って、ヒドロキシル基は、標準的なカップリングまたはアシル化手順により、例えば、ピリジンなどにおいて酢酸、塩化アセチルまたは無水酢酸を用いて、アシル化することができる。ホルメート基は、ギ酸においてヒドロキシル前駆体を加熱することにより得ることができる。カルバメートは、イソシアネートとともにヒドロキシル前駆体を加熱することにより得ることができる。ヒドロキシル基は、ヨウ化物、臭化物または塩化物のために中間体スルホネートを介するか、またはフッ化物のために硫黄トリフルオリドを直接用いてハロゲン基へ変換することができ、あるいは、中間体スルホネートの還元により水素に還元することができる。ヒドロキシル基はまた、臭化、ヨウ化またはスルホン酸アルキルを用いるアルキル化によりアルコキシ基に、または、例えば、保護2−ブロモエチルアミンを用いてアミノ低級アルコキシ基に変換することができる。アミド基は、例えば、ピリジンなどにおいてKHおよびヨウ化メチルまたは塩化アセチルをそれぞれ用いることによる標準的なアルキル化またはアシル化手順によりアルキル化またはアシル化することができる。エステル基は、カルボン酸に加水分解またはアルデヒドもしくはアルコールに還元することができる。カルボン酸は、標準的なカップリングまたはアシル化手順により、アミンと一緒にアミドを提供することができる。カルボニル化合物は、標準的な手順によってアルコールに還元することができる。二重結合は、公知の方法によってエポキシ化することができる。必要であれば、置換基に適当な保護基を用いて反応基が影響を受けないようにすることができる。これらの誘導体を調製するのに必要な手順や試薬は当業者に知られており、March’s Advanced Organic Chemistry 6th Edition 2007, Wiley Interscienceなどの一般的な教科書に見出すことができる。当業者であれば分かるように、式(I)の化合物は、式(I)の他の化合物の調製における中間産物として有用であり得る。
【0061】
上記化合物の重要な特徴は、それらの生物活性、特には、Ras/Raf/MEK/ERK経路の阻害剤としてのそれらの活性、したがって癌治療におけるそれらの有用性である。よって、本発明のさらなる面としては、癌の処置および/または予防に使用するための、少なくとも式(I)の化合物、場合により、少なくとも他の抗癌剤および少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤を含んでなる、種々の医薬形態の医薬または組成物に関する。
【0062】
医薬組成物の例としては、経口、局所または非経口(例えば、静脈内)投与のための任意の固体(錠剤、丸剤、カプセル剤、粒剤など)、半固体(クリーム、軟膏など)または液体(液剤、懸濁剤または乳剤)組成物が挙げられる。
【0063】
個々の医薬は、その投与経路によるが、当業者に知られる1または複数の賦形剤も含有してもよい。本発明による医薬は、当業者に知られる標準的な手順に従って製造してもよい。
【0064】
「賦形剤」との用語は、有効成分以外の薬剤化合物の成分を意味する(欧州医薬品庁(EMA)から得られた定義)。好ましくは、「担体、アジュバントおよび/またはビヒクル」が挙げられる。担体は、薬剤の伝達や有効性を向上させるために、物質が配合される形態である。薬剤担体は、イン・ビボでの薬物作用を延長し、薬物代謝を減らし、薬物毒性を低減させるために、放出制御技術などの薬物伝達システムにおいて使用される。担体は、薬理活性の標的部位への薬物伝達の有効性を増加させるための設計においても使用される(アメリカ国立医学図書館、国立衛生研究所)。アジュバントは、予測可能な形で有効成分の活性に影響を与える、製剤処方物に添加される物質である。ビヒクルは、医薬の投与のために量を増すための媒体として使用される、好ましくは治療作用を有しない賦形剤または物質である(Stedman's Medical Spellchecker, (著作権) 2006 Lippincott Williams & Wilkins)。このような医薬担体、アジュバントまたはビヒクルは、水や、ピーナッツ油、大豆油、鉱油、ごま油などの石油、動物、植物または合成起源のものを含む油などの滅菌液、賦形剤、崩壊剤、湿潤剤または希釈剤とすることができる。適切な医薬担体はE.W.Martinによる「Remington’s Pharmaceutical Sciences」に記載されている。これらの賦形剤の選択や使用する量は、医薬組成物の適用の形態に依存するであろう。
【0065】
本明細書において使用される「処置する(treat)」、「処置する(treating)」および「処置」との用語は、一般に、癌をその発症後に根絶、除去、逆転、緩和、調節または制御することを含む。
【0066】
本明細書において使用される「予防(prevention)」、「予防する(preventing)」、「予防の」、「予防する(prevent)」および「予防(prophylaxis)」との用語は、所定の物質、組成物または医薬が癌の発症または進行をその発症前に回避する、最小にするまたは困難にする能力を意味する。
【0067】
本発明はまた、式(I)の化合物と他の抗癌剤との組み合わせを包含する。少なくとも式(I)の化合物と少なくとも他の抗癌剤との組み合わせは、その同時、個別または逐次投与のために処方されてもよい。このことは、2つの化合物の組み合わせが、
− 同一の医薬処方物の一部であり、ひいては2つの化合物が常に同時に投与される組み合わせとして、
− 同時、逐次または個別投与の可能性を生じさせる、各ユニットが1つの物質を有する2つのユニットの組み合わせとして
投与され得ることを含む。
【0068】
特定の態様においては、式(I)の化合物は、他の抗癌剤と独立して(すなわち、2つのユニットにおいて)、しかし同時に投与される。
【0069】
他の特定の態様においては、まず式(I)の化合物が投与され、次に他の抗癌剤が個別にまたは逐次投与される。
【0070】
さらに他の特定の態様においては、まず他の抗癌剤が投与され、次に式(I)の化合物が上記で定義されるように個別にまたは逐次投与される。
【0071】
本発明の他の側面としては、癌に罹患している、または癌に罹患する可能性がある患者、特にはヒトを処置する方法であって、そのような処置または予防を必要とする患者に式(I)の化合物の有効量を投与することを含んでなる方法である。
【0072】
本発明の式(I)の化合物が使用され得る癌の例としては、限定されないが、膵臓癌が挙げられる。
【0073】
薬剤または薬理活性物質の「有効」量または「治療上の有効量」は、毒性を示さないが、該薬剤または物質が所望の効果を提供するのに十分な量を意味する。本発明の療法において、式(I)の化合物の「有効量」は、所望の効果を提供するのに有効な化合物の量である。「有効」な量は、個人の年齢や一般的な症状、個別の活性物質などに応じて被験者により異なる。従って、正確な「有効量」を特定することが常に可能なわけではない。しかしながら、個々の症例における適当な「有効量」は日常的な実験を用いて当業者により決定され得る。
【0074】
以下の実施例は本発明の特定の態様を単に例示するものであり、本発明を何等か限定するものとみなされるものではない。
【実施例】
【0075】
実施例1:菌株の記載
生産菌(CF−107644 CBS139230)は、スペインで採取した土壌サンプルから単離した。
【0076】
菌は、2%麦芽寒天培地で、金色のコロニー、適度に生育した菌糸体、クッション形、黄褐色から赤褐色へと変化する黄色を呈する。菌糸は、幅1〜2μmの無色透明であり、側方、密接に巻き付けられた繁殖可能な枝を有し、これは分節型分生子に分離し、分生子は空の細胞と交互になる。分生子は、円筒形で端が尖っており、淡黄色で、3−6.5×2.5−4.5μmである。
【0077】
菌株CF−107644の系統発生位置を推定するために、麦芽酵母抽出物寒天上で増殖させた菌糸体からゲノムDNAを抽出した。D1 D2可変ドメインを含む28S rDNAの部分配列を含むrDNA領域を、プライマーNL1およびNL4で増幅し(O’Donnell K, 1993. Fusarium and its near relatives. In: Reynolds DR, Tailor JW (eds). The fungal holomorph: mitotic, meiotic and pleomorphic speciation in fungal systematic, CAB international, Wallingford, UK, pp. 225-233)、DNA配列を生成した。ABI PRISM Dye Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction Kit(Perkin Elmer、Norwalk CT)を用いて、メーカー推奨の手順に従って、約0.1μg/mLの二本鎖増幅産物を配列決定した。精製したPCR産物を、PCR反応と同じプライマー対を用いて直接的に配列決定した。配列決定反応で得られた部分配列をGenestudio 2.1.1.5(Genestudio、Inc.、Suwanee、GA、USA)を用いて組み立てた。28S rDNA配列(www.fungalbar.org)とのデータベースマッチングにより、
Arachnomyces nitidus IFO 32048菌株との非常に高い配列類似性(99%)が得られ、菌株CF−107644は
A.nitidusと遺伝的に類似し、おそらく同属であることが示された。他の真正菌株である
Arachnomyces nitidus NBRC 32048との高い類似のスコア(99%)は、CF−107644が
Arachnomyces sp.(
Ascomycota、
Pezizomycotina、
Eurotiomycetes、
Eurotiomycetidae、
Arachnomycetales、
Arachnomycetaceae)に対してオニココラ属anamorphousとして分類できることを示した。
【0078】
実施例2:液体培地での液内における発酵
LSFMと名付けられた培地(グリセロール18.7g、グルコース40g、NH
4SO
42g、Sigma酵母自己消化物5g、大豆粉5g、トマトペースト5g、クエン酸ナトリウム2g、蒸留水1000mL)の抽出物から最も強力な活性がさらなる研究のために選択された。MAPK経路阻害剤活性を特徴付けるための最初のサンプルは、各60mmプレートから5つの菌糸ディスクを切断し、酵母抽出物および希釈寒天(SMYA)(Difcoネオペプトン10g、マルトース40g、Difco酵母エキス10g、寒天4g、蒸留水1000ml)を補充したサブロー・マルトース培養液12mLおよび2つのカバーグラス(22×22mm)を含むチューブ(25×150mm)の底部で破砕することによって調製した。チューブをオービタルシェーカー(220rpm、5cmスロー)上で攪拌して、均質菌糸懸濁液を作製した。7日間の種菌期の培養後、0.3mLアリコートを使用して、2×10mLのEPAバイアル中の10mLのLSFM培地に接種した。チューブを通気撹拌発酵(220rpm)で、21日間、22℃でインキュベートした。これらのチューブからの菌糸体および培養液をアセトンで抽出し、蒸発によりアセトンを除去した後、水性残渣を用いて一連の活性分子を検出した。活性の原因となる分子をさらに特徴付けるために、1−L発酵を調製した。10個の菌糸体ディスクを使用して50mLのSMYAに接種した。7日後、この培養物の3mLアリコートを使用してLSFM培地(500mLエルレンマイヤーフラスコ中10×100mL培地)に接種した。フラスコを通気撹拌発酵(220rpm、5cmスロー)、22℃、相対湿度70%で21日間インキュベートした。
【0079】
実施例3:固体培地における発酵
前記菌のBRFT[500mLエルレンマイヤーフラスコ当たり、褐色米20g、ベース液(base liquid)40mL(酵母抽出物1g、酒石酸ナトリウム0.5g、KH
2PO
40.5g、蒸留水1000mL)]固体培地中での培養も行い、化合物MDN−0090の化学的誘導体のより広いスペクトルがもたらされた。
【0080】
この実施例において前記分子をさらに特徴付けるために、400mLの発酵物を調製した。10個の菌糸体ディスクを使用して、50mLのSMYA培養物に接種した。7日後、この培養物の3mLアリコートを使用してBRFT培地(10個のエルレンマイヤーフラスコ)に接種した。フラスコを静止状態、22℃、相対湿度70%で21日間インキュベートした。
【0081】
実施例4:MDN−0089からMDN−0094までの単離および構造同定
発酵ブロス(フラスコ中の1L、BRFT培地)を220rpmでの連続振盪の下、2.5時間、アセトン(1L)で抽出した。菌糸体を遠心分離で分離し、上清(2L)を窒素気流の下、アセトンの大部分を除去して1Lに濃縮した。濾紙による濾過後の残りの1L溶液に、あらかじめ水と平衡化されたSP−207SS逆相樹脂(臭素化スチレンポリマー、65g)を詰めたカラムに、連続1:1水希釈とともに充填した。カラムをさらに水(1L)で洗浄し、その後、最終100%アセトンの12分間の洗浄ステップを伴う、18mL/分で20分間の20%〜100%の水中アセトンの段階的勾配を用いて溶出し、18mLの15のフラクションを収集した。目的化合物は、得られたフラクションのバイオアッセイにより80〜100%アセトン−水フラクション(3フラクションで収集)に位置した。
【0082】
これらのフラクションを、35分を超える45%〜80%のCH
3CN−TFAで水中CH
3CN(0.1%TFA)の直線勾配を伴う逆相分取HPLC(Agilent Zorbax SB−C8、21.2×250mm、7μm;20mL/分、210nmおよび280nmでのUV検出)によりさらに精製すると、化合物MDN−0089を含有するフラクションは10.0分で、MDN−0090は11.1分で、MDN−0091は13.5分で、MDN−0092は16.0分で、MDN−0093は18.4分で、およびMDN−0094は22.0分で溶出された。
【0083】
MDN−0089およびMDN−0090を含むフラクションを、34分を超える50%〜65%の水中CH
3CNの直線勾配を伴う逆相セミ分取HPLC(Agilent Zorbax RX−C8、9.4×250mm、5μm;3.6mL/分、210nmおよび280nmでのUV検出)によりさらに精製すると、化合物MDN−0089(5.8mg)は11.25分で、MDN−0090(6.6mg)は13.0分で溶出された。
【0084】
MDN−0091およびMDN−0092を含むフラクションを、34分を超える55%〜65%の水中CH
3CNの直線勾配を伴う逆相セミ分取HPLC(Agilent Zorbax RX−C8、9.4×250mm、5μm;3.6mL/分、210nmおよび280nmでのUV検出)によりさらに精製すると、MDN−0091(4.8mg)およびMDN−0092(6.0mg)を含有するフラクションはそれぞれ12.5分および15.5分で溶出された。
【0085】
MDN−0093を含むフラクションを、34分を超える58%〜70%の水中CH
3CNの直線勾配を伴う逆相セミ分取HPLC(Agilent Zorbax RX−C8、9.4×250mm、5μm;3.6mL/分、210nmおよび280nmでのUV検出)によりさらに精製すると、化合物MDN−0093(4.0mg)は15.25分で溶出された。
【0086】
MDN−0094を含むフラクションを、34分を超える60%〜68%の水中CH
3CNの直線勾配を伴う逆相セミ分取HPLC(Agilent Zorbax RX−C8、9.4×250mm、5μm;3.6mL/分、210nmおよび280nmでのUV検出)によりさらに精製すると、化合物MDN−0094(7.2mg)は18.0分で溶出された。
【0087】
MDN−0089:黄色の固体;UV (DAD) λ
max 264, 288 & 332(sh) nm; IR (ATR) γ cm
-1: 3166, 2978, 1690, 1636, 1573, 1468, 1373, 1342, 1263, 1201, 1161, 1078, 826, 771. HRMS m/z 371.1128 [M+H]
+ (C
20H
19O
7+についての計算値, 371.1125, Δ 0.7 ppm); 388.1390 [M+NH
4]
+ (C
20H
22NO
7+についての計算値, 388.1391, Δ -0.2ppm);
1Hおよび
13C NMRデータは表1を参照:
【0088】
【表1】
【0089】
【化11】
【0090】
MDN−0090:黄色の固体;UV (DAD) λ
max 288, 329(sh) nm; IR (ATR) γ cm
-1: 3294, 2979, 2914, 2858, 1630, 1575, 1444, 1376, 1297, 1244, 1208, 1173, 1079, 829, 732. HRMS m/z 357.1330 [M+H]
+ (calc. for C
20H
21O
6+, 357.1333, Δ -0.7 ppm); 379.1147 [M+Na]
+ (C
20H
20O
6Na
+についての計算値, 379.1152, Δ -1.3 ppm); 339.1223 [M+H-H
2O]
+ (C
20H
19O
5+についての計算値, 339.1227, Δ -1.2 ppm);
1Hおよび
13C NMRデータは表2を参照:
【0091】
【表2】
【0092】
【化12】
【0093】
MDN−0091:黄色の固体;UV (DAD) λ
max 264, 288, 360(sh) nm; IR (ATR) γ cm
-1: 3313, 2977, 2928, 2865, 1635, 1583, 1455, 1374, 1305, 1258, 1212, 1155, 1112, 829. HRMS m/z 355.1179 [M+H]
+ (C
20H
19O
6+についての計算値, 355.1176, Δ 0.8 ppm); 377.0994 [M+Na]
+ (C
20H
18O
6Na
+についての計算値, 377.0996, Δ -0.5 ppm);
1Hおよび
13C NMRデータは表3を参照:
【0094】
【表3】
【0095】
【化13】
【0096】
MDN−0092:黄色の固体;UV (DAD) λ
max 232, 288, 332(sh) nm; IR (ATR) γ cm
-1: 3289, 2967, 2918, 2855, 1636, 1581, 1439, 1374, 1305, 1250, 1209, 1166, 1082, 981. HRMS m/z 371.1496 [M+H]
+ (C
21H
23O
6+についての計算値, 371.1489, Δ 1.9 ppm); 353.1390 [M+H-H
2O]
+ (C
21H
21O
5+についての計算値, 353.1389, Δ 0.3 ppm);
1Hおよび
13C NMRデータは表4を参照:
【0097】
【表4】
【0098】
【化14】
【0099】
MDN−0093:黄色の固体;UV (DAD) λ
max 286, 328(sh) nm; IR (ATR) γ cm
-1: 3366, 2965, 2924, 2856, 1632, 1440, 1375, 1323, 1301, 1263, 1237, 1205, 1165, 983, 837. HRMS m/z 405.1099 [M+H]
+ (C
21H
23O
6+についての計算値, 405.1099, Δ 0ppm); 387.0994 [M+H-H
2O]
+ (C
21H
21O
5+についての計算値, 389.0999, Δ -1.3 ppm);
1Hおよび
13C NMRデータは表5を参照:
【0100】
【表5】
【0101】
【化15】
【0102】
MDN−0094:黄色の固体;UV (DAD) λ
max 236, 266, 300, 324, 396 (sh) nm; IR (ATR) γ cm
-1: 3309, 2956, 2917, 2853, 1656, 1590, 1573, 1490, 1458, 1426, 1362, 1320, 1271, 1213, 1100, 978, 827. HRMS m/z 341.1385 [M+H]
+ (C
20H
21O
5+についての計算値, 341.1384, Δ 0.3 ppm); 703.2513 [2M+Na]
+ (C
40H
40O
10Na
+についての計算値, 703.2514, Δ -0.1 ppm);
1Hおよび
13C NMRデータは表6を参照:
【0103】
【表6】
【0104】
【化16】
【0105】
実施例5:MDN−0090単離のスケールアップ
発酵ブロス(フラスコ中の4.5L、LSFM培地)を濾過し、細胞をすりつぶし、メチルエチルケトン(6×1L)で抽出した。液体上清も同じ有機溶媒(2×3L)で抽出した。合わせた有機相を蒸発乾固して17.7gの粗抽出物を得、これを逆相シリカゲル(RP18)クロマトグラフィー(70g C18、40−60μm)に付した。カラムを、30%の水中CH
3CNで7分間洗浄し、最終100%CH
3CNの10分間の洗浄ステップを伴う、18mL/分で43分間の30%〜100%の水中CH
3CNの直線勾配を用いて溶出し、18mLの57フラクションを収集した。化合物MDN−0090は、HPLC−MSにより70〜80%CH
3CN画分に溶出することが検出された。
【0106】
これらのフラクションを、35分を超える45%〜55%の水中CH
3CNの直線勾配を伴う逆相セミ分取HPLC(x−ブリッジC18,10×150mm、5μm;3.6mL/分、210nmおよび280nmでのUV検出)によりさらに精製すると、化合物MDN−0090(675mg)は12.5分で溶出された。
【0107】
実施例6:化合物MDN−0089、MDN−0090、MDN−0091、MDN−0092、MDN−0093およびMDN−0094の抗腫瘍活性の評価
腫瘍性膵臓細胞株(MiaPaca−2およびBxPC3)を用いて化合物の活性を検出した。この目的のために、MTT試験を用いた。細胞を10
6細胞/ウェルで播種し、72時間、化合物で処理した。
【0108】
【表7】
【0109】
MDN−0090の腫瘍性膵臓細胞株に対する増殖阻害効果は
図1でも確認できる。
【0110】
実施例7:化合物MDN−0089、MDN−0090、MDN−0092およびMDN−0093の細胞毒性およびアポトーシス活性の評価
MiaPaca2細胞株をMDN−0089、MDN−0090、MDN−0092およびMDN−0093活性のさらなる評価に使用した。ApoTox−Glo
TM Triplex Assayを用いて、3つのパラメーター(生存率、細胞毒性およびアポトーシス)を評価した。
【0111】
生存率:生細胞プロテアーゼ活性は完全な生存細胞に限定され、蛍光性の細胞浸透性ペプチド基質(グリシルフェニルアラニル−アミノフルオロクマリン;GF−AFC)を用いて測定される。基質は完全な細胞に入り、生細胞プロテアーゼ活性によって切断され、生存細胞の数に比例した蛍光シグナルを生成する。
【0112】
細胞毒性:膜の完全性を失った細胞から放出される死細胞プロテアーゼ活性を測定するために、細胞不透過性蛍光ペプチド基質(ビス−アラニルアラニル−フェニルアラニル−ローダミン110;ビス−AFF−R110)を使用する。ビス−AAF−R110は細胞透過性ではないため、この基質からのシグナルは完全な生存細胞によっては本質的に生成されない。
【0113】
アポトーシス:このアッセイでは、カスパーゼ活性、ルシフェラーゼ活性および細胞溶解に最適化された試薬中にテトラペプチド配列DEVDを含有する発光性カスパーゼ−3/7基質を供給するCaspase−Glo(登録商標)Assay Technologyを使用する。
【0114】
【表8】
【0115】
実施例8:化合物MDN−0089、MDN−0090、MDN−0092およびMDN−0093の細胞周期阻害活性の評価
MDN−0089、MDN−0090、MDN−0092およびMDN−0093の効力を測定するために、色素CFSEおよび高含有量スクリーニング(HCS)装置を使用した。MiaPaca_2細胞株を使用した。細胞を10,000細胞/ウェルで96ウェルプレートに播種した。培地を除去し、化合物および標準物質を新鮮な培地に異なる濃度(1μLの化合物/200μLの新鮮な培地)で添加した。DMSO濃度はすべてのウェルで0.5%であった。72時間のインキュベーション(37℃、5%CO
2)後、HCS装置でプレートを読み取った。
【0116】
【表9】
【0117】
実施例9:化合物MDN−0089、MDN−0090、MDN−0092およびMDN−0093のRAS/RAF/MEK/ERK経路阻害剤の評価
メンブレンを読み取るOdissey Licor装置を用いてウェスタンブロット技術を使用した。pERK1_2抗体を一次抗体として使用し、二次抗体として抗マウス抗体を使用した。次に、β−アクチンを用いてメンブレンを定量した。結果を表10に示す。
【0118】
【表10】
【0119】
表10に示すように、全ての化合物は、24時間処理後にpERK1_2量を減少させた。
【0120】
この効果を、p−ERKキット(Perkin Elmer)を用いてMDN−0090について調べた。細胞を75000細胞/ウェルで96ウェル/プレートに播種した。24時間後、培地を除去し、新鮮な培地とともに化合物を添加した。24時間処理した後、細胞を溶解した。15μLの溶解物および15μLの試薬を添加した。2時間インキュベーションした後、AlphaScreenアッセイ(AlphaScreenシグナル(発光/蛍光))を読み取るEnVision装置を用いてプレートを読み取った。表11および
図2を参照。
【0121】
【表11】
【0122】
実施例10:細胞毒性の評価
MDN−0089、MDN−0090およびMDN−0092は、HepG2において72時間で中程度の活性効果を示した。MDN−0093は、HepG2において72時間で高い活性効果を示した。
【0123】
【表12】
【0124】
実施例11:膵臓癌幹細胞における化合物MDN−0090の抗腫瘍活性の評価
2つの異なる膵臓腺癌由来の2つの確立された細胞株である、CDKN2A、MAP2K4、SMAD4およびTP53について突然変異したBxPC3(ATCC(登録商標)CRL−1687参照)およびk−RASについて突然変異したMIA−PaCa−2(ATCC(登録商標)CRL−1420参照)を使用した。別段の指示がない限り、これらの細胞株は75cm
2培養フラスコ(BD Falcon、Franklin Lakes、NJ)中の10%ウシ胎仔血清(FBS)(Gibco、Carlsbad、CA、USA)および1%ペニシリン/ストレプトマイシン(P/S)(Sigma−Aldrich)を補充したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)(Sigma−Aldrich、St.Louis、Mo、USA)で維持した。全ての細胞を、加湿インキュベーター(Steri−Cult CO
2インキュベーター、Thermo Electron Corporation、Waltham、MA、USA)内で、37℃、5%CO
2で増殖させた。培地を48〜72時間ごとに交換し、最大80%のコンフルエンスを有する培養細胞を継代した。
【0125】
CSC亜集団の単離と濃縮
CSC亜集団の単離のために、国際公開第2016/020572号に記載された方法論を用いた。
【0126】
癌幹細胞の特徴づけ
Aldefluorアッセイ
生存細胞におけるアルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH)酵素活性を、Aldefluor(登録商標)キットアッセイ(Stem Cell Technologies、Grenoble、France)によって製造者の指示に従って測定した。Aldefluorは、それ自体がALDHの基質ではないBodipy(商標)−アミノアセトアルデヒド−ジエチルアセテート(BAAA−DA)の形態で供給される。BAAA−DAをDMSOに溶解し、塩酸に曝露して、完全な生存細胞の原形質膜を自由に拡散できる、ALDHの無電荷蛍光基質であるBodipy(商標)−アミノアセトアルデヒド(BAAA)に変換した。ALDHの存在下では、BAAAはBodipy(商標)−アミノアセテート(BAA)に変換され、細胞内に保持される。アッセイを行うために、1×10
6個の細胞を、細胞からのBAAの流出を防止する輸送阻害剤を含む1mLのAldefluor(登録商標)アッセイ緩衝液に再懸濁した。次いで、5μLのBAAAを細胞懸濁液に添加し、500μLを別のチューブに移し、5μLのジエチルアミノ−ベンズアルデヒド(DEAB)−ALDH阻害剤を添加した。両方のチューブを暗所で30分間、37℃でインキュベートした。次いで、細胞を4℃、1500rpmで5分間遠心沈降し、冷緩衝液に再懸濁し、フローサイトメトリーで分析した。
【0127】
このアッセイは、細胞内ALDHが、BAAAを蛍光化合物BAA(正味の負電荷のために細胞内に保持され自由に拡散しない)に変換するという事実に基づいている。明るい蛍光ALDH発現細胞(ALDH
+細胞)は、FACS CANTO II(BD Biosciences、San Jose、CA、USA)において製造者が推奨する緑色蛍光チャネル(520〜540nm)で検出され、データはFACS DIVAソフトウェア(BD Biosciences)を用いて分析され、あるいは、FACS ARIA III(BD Biosciences)によって単離された。
【0128】
細胞表面マーカー発現のためのフローサイトメトリー
細胞表面タンパク質の発現を測定するために、まず細胞をPBSで2回洗浄し、次いで、PBS中の3%ウシ血清アルブミン(BSA)(Sigma−Aldrich)および2mM EDTAによって希釈することにより調製した、他の細胞表面タンパク質と非特異的結合可能な抗体部位をブロックする、100μLのブロッキング緩衝液に再懸濁した。その後、細胞を遠心沈降し、10μLのCD44−フィコエリトリン(PE)およびCXCR4−アロフィコシアニン(APC)抗ヒト抗体を膵臓癌細胞株(Miltenyi Biotec、Auburn、CA、USA)の細胞懸濁液に添加した。これらの抗体とのインキュベーションを4℃、暗所で15分間行った。次いで、細胞を4℃で遠心分離し、冷PBSに再懸濁した。明るい蛍光PE、APCおよびFITCは、FACS CANTO IIを用いて、赤色(564−606nm)、青色(650−670nm)および緑色(520−540nm)の蛍光チャネルでそれぞれ検出され、得られたデータはFACS DIVAソフトウェアで解析された。
【0129】
腫瘍スフィア(tumorsphere)形成アッセイ
細胞の自己再生能の指標である、血清悪化条件(serum depravation conditions)下での低付着表面における腫瘍スフィア形成能は、濃縮CSCにおいて実施し全集団(TP)と比較した。簡単に述べると、ウェル当たり3×10
3個の細胞を、6ウェルの超低付着プレート(Corning Inc.、Corning、NY、USA)に播種し、5%CO
2の加湿インキュベーター内で37℃、6日間培養した。その後、Leica CW4000ソフトウェア(Leica、Solms、Germany)を装備したLeica DM5500 B蛍光顕微鏡を用いて、直径が75μMより大きいスフィアを計数し、典型的な画像を撮影した。
【0130】
MDN−0090の活性は、膵臓癌幹細胞株(MiaPaca−2およびBxPC3)を用いて検出された。この目的のために、MTT試験を使用した。細胞を10
6細胞/ウェルで播種し、表13に示すように化合物で異なる時間、処理した。
【0131】
【表13】
【0132】
実施例12:異種移植における抗腫瘍活性の評価
腫瘍増殖に対するMDN−0090の効果を評価するために、異所性異種移植をBxPC3およびMIAPaca−2腫瘍細胞株の両方に使用した。8週齢の雌性NOD scidマウスγ(NOD.Cg−Prkdcscid Il2rgtm1Wjl/SzJ、NSG)に5×10
6細胞/マウスを皮下注射して腫瘍形成を誘導した。動物(1群あたり40匹、10匹)を20℃〜24℃、湿度50%、明暗サイクル(14、10時間)で飼育し、飼料と水を自由に摂取させた。腫瘍を100mm
3の平均体積まで増殖させた後、無作為に対照群(生理食塩水)とMDN−0090(20mg/kg、生理食塩水に溶解)処置に割り当て、50日間、週に3回腹腔内注射した。腫瘍増殖は、デジタルカリパスを用いて毎週2回評価し、腫瘍体積は式V=(長さ)
2×幅×π/6によって計算した。MDN−0090による処置は、
図3に示すように腫瘍のサイズを減少させた。
【0133】
実施例13:CSCに対する抗腫瘍活性の評価
本発明者らは、CSCから誘導された腫瘍に対するMDN−0090の効果を評価した。本発明者らは、以前に記載された方法論(国際公開第2016/020572号)を用いて、BxPC3細胞株から膵臓CSCを単離し特徴を明らかにした。
【0134】
イン・ビボ実験は、雌雄のNOD scidガンママウス(NSG、NOD.Cg−Prkdcscid Il2rgtm1Wj1/SzJ)で行った。すべての動物(1群あたり10匹)は、12時間の明/暗サイクルでマイクロ換気ケージシステム(microventilated cage system)中で維持し、特定の病原体のない状態を維持するために、ラミナエアフローキャビネット内で操作した。
【0135】
異種移植腫瘍の誘導のために、イソフルランの吸入によりマウスを麻酔し、5×10
4個のBxPC3 CSCを腹部領域に皮下注射することにより接種した。腫瘍を100mm
3の平均体積まで増殖させた後、週に3回、52日間の腹腔内投与の対照群(生理食塩水)およびMDN−0090を含む処置A(10mg/kg、生理食塩水に溶解)および処置B(20mg/kg、生理食塩水に溶解)に無作為に割り当てた。腫瘍増殖は、デジタルカリパスを用いて毎週2回評価し、腫瘍体積は式V=(長さ)
2×幅×π/6によって計算した。MDN−0090による処置は、
図4に示すように腫瘍のサイズを減少させた。
【0136】
実施例14:イン・ビボ腫瘍形成能アッセイの評価
CSC様細胞の腫瘍形成能力に対するMDN−0090の効果を評価するために、BxPC3およびMIAPaca−2腫瘍細胞株の両方を用いた異所性異種移植を確立した。まず、細胞をMDN−0090でIC
50で24時間処理した後、細胞を動物に接種した。膵臓癌の非処理細胞を対照として使用した。
【0137】
腫瘍形成は、NOD scidマウスガンマ(NOD.Cg−Prkdcscid Il2rgtm1Wj1/SzJ、NSG)において、イン・ビトロ(in vitro)処理または非処理の1.5×10
4個の細胞/マウスを皮下注射することにより誘導した。動物(1群あたり20匹、10匹)を20℃〜24℃、湿度50%、明暗サイクル(14、10時間)で飼育し、飼料と水を自由に摂取させた。腫瘍増殖を2日ごとに観察した。腫瘍増殖は、デジタルカリパスを用いて毎週2回評価し、腫瘍体積は式V=(長さ)
2×幅×π/6によって計算した。MDN−0090による処置は、
図5に示すように腫瘍形成を減少させる。
【0138】
実施例15:ゲムシタビンとの相乗作用の評価
MDN−0090による処置が、最も一般的な膵臓化学療法薬(ゲムシタビン)との相乗作用において使用できるかどうかを調べるために、腫瘍細胞株(MiaPaca_2およびBxPC3)および癌幹細胞(MiaPaca_2およびBxPC3)を用いてMTTアッセイを行った。このようにして、MDN−0090用量応答曲線(0.39〜50μM)と共に異なるゲムシタビン濃度(0.00025〜5μM)を使用し、その逆もまた同様にした。このアッセイにより、本発明者らは、両方の化合物(ゲムシタビンおよびMDN−0090)の活性が、一緒に投与された場合に増加することを観察した(表14〜19)。
【0139】
【表14】
【0140】
【表15】
【0141】
【表16】
【0142】
【表17】
【0143】
【表18】
【0144】
【表19】
【0145】
参考文献リスト
Roberts PJ, Der CJ. (2007). Targeting the Raf-MEK-ERK mitogen-activated protein kinase cascade for the treatment of cancer. Oncogene. May 14;26(22):3291-310
Yap, J. L., Worlikar, S., MacKerell, A. D., Shapiro, P. and Fletcher, S. (2011), Small-Molecule Inhibitors of the ERK Signaling Pathway: Towards Novel Anticancer Therapeutics. ChemMedChem, 6: 38-48
【国際調査報告】