【実施例】
【0087】
V. 実施例
以下の実施例は、本開示の好ましい態様を示すために含まれる。当業者であれば、以下の実施例において開示する技術は、本開示の実施において良好に機能するように本発明者らが見出した技術であり、したがってその実施のための好ましい様式を構成すると考えうることを理解すべきである。しかし、当業者であれば、本開示に照らして、開示する特定の態様において多くの変更を行いうることを理解すべきであり、本開示の精神および範囲から逸脱することなく、同様または類似の結果を得るべきである。
【0088】
実施例1−材料と方法
化学物質。NSN21778(N-{4-[2-(6-アミノ-キナゾリン-4-イルアミノ)-エチル]-フェニル}-アセトアミド)はNanosyn Inc.(Santa Clara、CA)が合成し、精製した。
【0089】
動物。PS1-M146Vノックインマウス(PS1KI)[Guo, 1999 #3782]はHui Zheng(Baylor University)から御供与いただいた。APP
NL-Fノックインマウス(APPKI)はTakaomi Saido(Riken、Japan)[Saito, 2014 #6473]から御供与いただいた。同じ系統のWTマウス(C57BL/6)を対照実験で用いた。PS1KIGFPおよびAPPKIGFPマウスはPS1KIまたはAPPKIマウスをM系統GFPマウス(C57BL/6系統)[Feng, 2000 #6019]と交配させることにより作製した。すべてのマウスコロニーを樹立し、UT Southwestern Medical Centerバリア施設で12時間の明暗周期のビバリウム内(ケージ毎に4匹)に収容した。マウスに関わるすべての手順は、National Institutes of Health Guidelines for the Care and Use of Experimental Animalsに従い、Institutional Animal Care and Use Committee of the University of Texas Southwestern Medical Center at Dallasによって承認された。
【0090】
初代海馬神経培養物における樹状突起スパイン分析。PS1KI、APPKIおよびWTマウスの海馬培養物を、生後0〜1日の仔から樹立し、本発明者らが以前に記載したとおりに培養下で維持した[Zhang, 2010 #5733]。シナプスの形態の評価のために、海馬培養物にDIV7でTD-Tomatoプラスミドをリン酸カルシウム法を用いて形質移入し、DIV15〜16で固定した(PBS中4%ホルムアルデヒド、4%スクロース、pH7.4)。光学的断面のZスタックを共焦点顕微鏡(Carl Zeiss Axiovert 100M with LSM510)により100×対物レンズを用いて取得した。遺伝子型ごとに3つの培養バッチからの18〜20個の培養ニューロンを定量分析のために用いた。樹状突起スパインの定量分析を、NeuronStudioソフトウェアパッケージを用いて実施した[Rodriguez,2008 #6276]。培養下のニューロンスパインの形状を分類するために、本発明者らは発表された方法からのアルゴリズムを採用した[Rodriguez, 2008 #6276]。スパインの形状の分類において、本発明者らは、以下のカットオフ値を用いた:細いスパインのアスペクト比(AR_thin
(crit))=2.5、頭部対頚部の比(HNR
(crit))=1.4、および頭部直径(HD(crit))=0.5μm。これらの値を[Rodriguez, 2008 #6276]の記載のとおりに規定し、正確に計算した。
【0091】
GCamp5.3 Ca
2+イメージング実験。GCamp5.3イメージング実験を、本発明者らが以前に報告したとおりに実施した[Sun, 2014 #6478]。簡単に言うと、培養した海馬ニューロンにDIV7でGCamp5.3発現プラスミドをリン酸カルシウム形質移入法を用いて形質移入した。GCamp5.3蛍光画像を、60×レンズ、Cascade 650デジタルカメラ(Roper Scientific)およびPrior Lumen 200照明器を備えたOlympus IX70倒立落射蛍光顕微鏡を用いて収集した。実験はMetaFluor画像獲得ソフトウェアパッケージ(Universal Imaging)により制御した。シナプスnSOCを測定するために、ニューロンを人工CSF(aCSF)から0.4mM EGTAおよび1μM TG(タプシガルジン)を含む無カルシウム培地に30分間移し、基本で30秒間記録した後、無カルシウムaCSF中100μM DHPGを加え、50秒後にCa
2+チャンネル阻害剤カクテル(1μM TTX、50μM AP5、10μM CNQXおよび50μMニフェジピン)を加えたaCSFに戻した。データの解析をNIH Image Jソフトウェアを用いて実施した。画像解析に用いた関心領域(ROI)は、スパインに対応するように選択した。すべてのCa
2+イメージング実験は室温で行った。
【0092】
海馬切片フィールド記録。海馬切片フィールド記録を、最近記載されたとおりに実施した[Zhang, 2015 #6714]。簡単に言うと、海馬切片(400μm)をいずれかの性別の月齢6ヶ月の動物から調製した。マウスを麻酔し、解剖緩衝液で経心的に灌流した後、断頭した。脳を摘出し、切開し、2.6mM KCl、1.25mM NaH
2PO
4、26mM NaHCO
3、0.5mM CaCl
2、5mM MgCl
2、212mMスクロース、および10mMデキストロースを含む氷冷解剖緩衝液中、ビブラトーム(Leica VT 1000S)を用いてスライスした。CA3を切断して、てんかん誘発性活動を回避した。切片を、124mM NaCl、5mM KCl、1.25mM NaH
2PO
4、26mM NaHCO
3、2mM CaCl
2、1mM MgCl
2、および10mMデキストロースを含むACSFを満たしたレザバーチャンバーに移した。切片を30℃で2〜5時間回復させた。ACSFおよび解剖緩衝液を95%O
2-5%CO
2で平衡化した。記録のために、切片を30℃で維持した液中記録チャンバーに移し、2〜3ml/分の速度でACSFにより持続灌流した。ACSFを満たし、領域CA1の放線状層に設置した、細胞外記録電極(1MΩ)を用いてフィールド電位(FP)を記録した。FPを、同心双極タングステン刺激電極(FHC、Bowdoinham、ME)でのシェファー側枝/交連求心性神経の単相刺激(長さ100μs)により誘起した。安定なベースライン応答を30秒ごとに最大応答の50%を生じる刺激強度(15〜30μA)を用いて収集した。FPの最初のスロープを用いて、シナプス応答の安定性を測定し、LTPの大きさを定量した。LTPを、1秒間の周波数100Hzの刺激を、それぞれ20秒間隔で2回行うことにより誘導した。14812処置の実験については、海馬切片を、ACSF中での記録開始の前に、300nMの14812で2〜3時間プレインキュベートした。
【0093】
海馬切片における樹状突起スパイン分析。海馬切片におけるスパインの形状を分析するために、本発明者らはWTGFP、PS1KIGFPおよびAPPKIGFPマウスを用いた。海馬切片を前述のとおりに調製し、切片を30℃で1時間回復させ、半分の切片を300nMの14812により30℃で3.5時間処理し、他の半分の切片は対照としてACSF中に放置し、切片をPBS中、4%ホルムアルデヒド、0.125%グルタルアルデヒドで固定した。GFP画像を、40×レンズおよび5×ズームによる二光子画像法(Zeiss LSM780)で獲得した。Z間隔は0.5μmであった。海馬CA1錐体ニューロンの二次尖端樹状突起を、画像取得のために選択した。マウス5匹からの約25個のニューロンを各遺伝子型について分析した。切片におけるニューロンスパインの形状を分類するために、本発明者らはここでも、NeuronStudioソフトウェアパッケージおよび[Rodriguez, 2008 #6276]からのアルゴリズムを、以下のカットオフ値と共に用いた:AR_thin
(crit)=2.5、HNR
(crit)=1.4、HD(crit)=0.5μm。
【0094】
NSN21778インビボ試験。マッシュルーム型スパイン救済および行動試験のために、各群5匹の雌マウス(WTGFP、PS1KIGFPおよびAPPKIGFP)に、月齢4ヶ月で開始して、10mg/kgのNSN21778を3回/週でi.p.注射した。対照群のマウスには同じ溶媒溶液を注射した。6週間後、注射ルーチンを2回/週に変更した。9週間後、マウスを恐怖条件づけ実験で試験した。10週間後、すべてのマウスをインビボスパイン分析のために屠殺した。アミロイド斑試験のために、APPKIマウスに、月齢11ヶ月で開始して、10mg/kgのNSN21778を3回/週でi.p.注射した。対照群のマウスには同じ溶媒溶液を注射した。8週間の注射後、マウスをAβ免疫組織化学染色のために屠殺した。
【0095】
統計解析。結果を平均±SEMで示す。実験で得た結果の統計学的比較を、2群比較についてはスチューデンツt検定により、3群以上の多重比較については一元配置または二元配置分散分析と、続くチューキー検定により実施した。p値は適宜、本文および図の説明に示す。
【0096】
プラスミドとウイルス。YFP-STIM2はDr. Jen Liouから御供与いただき、ヒトTRPC6 cDNAおよびマウスOrai2 cDNAクローンはOpen Biosystemsから購入して、PCRによりTRPC6およびOrai2レンチウイルス発現構築物を作製するために用い、HAタグはPCRにより5'末端に誘導し、YFP-TRPC6はDr. Craig Montellから御供与いただき、FLAG-TRPC6/pCMVはDr. Joseph Yuanから御供与いただき、GST-S2-SOAR(aa 348-450)およびGST-S2-CT(aa248-C末端)はPCRにより作製して、PGEX-KGベクター中にクローニングした。STIM2-LASS(L377S、A380S)変異はQ5変異誘発キット(Sigma)により作製し、対照-低分子ヘアピン型RNA干渉(Ctrl-shRNAi)(SHC002)、マウスTRPC6-shRNAi(SHCLNG-NM_013838、TRCN0000068394)、およびマウスOrai2-shRNAi(SHCLNG-NM_178751、TRCN0000126314)レンチウイルスシャトル構築物はSigmaから入手した。レンチウイルスは、本発明者らが以前に記載したとおり(Zhang et al., 2010)、2つのヘルパープラスミド(pVSVgおよびpCMVΔ8.9)のパッケージング細胞株HEK293Tへの同時形質移入により作製した。
【0097】
抗体。抗TRPC6 pAb(1:500、Sigma、SAB4300572)、抗Orai2 pAb(1:200 Santa Cruz、sc-292103)、抗GFP mAb(1:2000、Pierce、MA5-15256)、抗FLAG(1:1000、Sigma、F3165)、抗HA(1:3000、Covance、MMS-101R)、抗STIM2 pAb(1:500、Cell Signaling、4917s)、抗Phospho-CaMKII(1:1000、Cell Signaling、3361s)、抗CaMKII(1:1000、Chemicon、MAB8699)、抗PSD95(1:1000、Cell Signaling、3450s)、抗GAPDH(1:1000、Millipore、MAB374) 、および抗Aβ 6E10 mAb(1:1000、Covance、SIG-39300)を用いた。HRP結合抗ウサギおよび抗マウス二次抗体(115-035-146および111-035-144)はJackson ImmunoReseachから入手した。
【0098】
定量的逆転写PCR分析(qRT-PCR)。マウス遺伝子発現プロファイリングのために、異なる脳領域組織を7〜8週齢雄C57BL/6マウス(n=6)から得た。RNAを、RNAStat60(TelTest、Friendswood、TX)を製造者の指示に従い用いて抽出した。全RNAを各組織(n=6)について等量プールした。ゲノムDNAの混入をDNアーゼI(Roche)により除去した。qPCRアッセイのためのcDNAを、High Capacity cDNA Reverse Transcriptionキット(Life Technologies)を用いて調製した。遺伝子発現レベルをApplied Biosystems 7900HTおよびSYBR Green chemistryでプライマー(以下の表参照)を用いて測定した。正規化mRNAレベルを任意単位で表し、mRNA発現の平均した効率補正値を、18s rRNA(マウス18s rRNAフォワード:accgcagctaggaataatgga;SEQ ID NO: 1、およびマウス18s rRNAリバース:gcctcagttccgaaaacca;SEQ ID NO: 2)のもので割ることにより得た。グラフ表示のために、得られた値に10
5をかけた。誤差バーは実験誤差を表し、三つ組の試料ウェルからの平均値の標準偏差に基づいて計算した。
【0099】
海馬シナプトソーム画分(P2)および免疫共沈降。海馬領域を月齢1ヶ月のマウスから抽出し、0.32Mスクロースおよび25mM HEPES、pH7.2中でホモジナイズし、800gで10分間遠心分離して核を除去した。次いで、低速上清を12,000gで20分間遠心分離して、シナプトソーム上清とシナプトソーム膜画分(P2ペレット)とを分離した。P2ペレットを、1%CHAPS、137mM NaCl、2.7mM KCl、4.3mM Na
2HPO
4、1.4mM KH
2PO
4、pH7.2、5mM EDTA、5mM EGTA、およびプロテアーゼ阻害剤を含む溶解緩衝液中、4℃で2時間可溶化した。試料を16300gで20分間遠心分離することにより、不溶性材料を除去した。シナプトソーム画分中のタンパク質濃度を、Nanodrop OD280により測定した。各免疫共沈降反応のために、500μgの総タンパク質溶解物をまず正常ウサギIgGおよびプロテインA/Gビーズにより4℃で1時間あらかじめ清浄化し、次いで2μgの一次抗体と共に4℃で1時間インキュベートし、次いで20μlのプロテインA/Gアガロースビーズと共に揺動プラットフォーム上、4℃で終夜インキュベートし、次いで沈降した試料を溶解緩衝液で3回洗浄し、最終ビーズペレットを1×SDSローディング緩衝液中に再度懸濁し、SDS-PAGEおよびウェスタンブロットにより分析した。
【0100】
GSTプルダウンアッセイ。GST融合タンパク質をBL21大腸菌(E. coli)株中で発現させ、以前に記載したとおりに精製し(Zhang et al., 2005)、YFP-TRPC6またはHA-Orai2タンパク質をHEK293細胞中で発現させ、1%CHAPS、137mM NaCl、2.7mM KCl、4.3mM Na
2HPO
4、1.4mM KH
2PO
4、pH7.2、5mM EDTA、5mM EGTA、およびプロテアーゼ阻害剤を含む溶解緩衝液中、4℃で1時間抽出した。抽出物を遠心分離により澄明化し、対応するGST融合タンパク質と共に4℃で1時間インキュベートした。ビーズを抽出緩衝液で4回洗浄し、結合タンパク質をSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離し、抗GFPまたは抗HA抗体をプローブに用いて試験した。
【0101】
Fura-2 Ca
2+イメージング実験。培養したDIV15〜16の海馬ニューロンによるFura-2 Ca
2+イメージング実験を、以前に記載したとおりに実施した(Zhang et al., 2010)。Fura-2 340/380比画像をDeltaRAM-X照明器、Evolveカメラ、およびIMAGEMASTER PRO(登録商標)ソフトウェア(すべてPhoton Technology International, Inc.から)を用いて収集した。全細胞体を画像解析のための関心領域(ROI)としてセットした。神経細胞ストア作動性Ca
2+流入(nSOC)実験において、ニューロンを人工CSF(aCSF、140mM NaCl、5mM KCl、1mM MgCl
2、2mM CaCl
2、および10mM HEPES、pH7.3)から0.4mM EGTAおよび1μM Tg(タプシガルジン)を加えた無カルシウムaCSFに30分間移し、次いで1μM TTX、50μM AP5、10μM CNQXおよび50μMニフェジピンを含むaCSFに戻した。nSOC媒介性Ca
2+増加の最大振幅(ピーク)を、Fura-2 340nm/380nm比からもとめた。すべてのCa
2+イメージング実験は室温で行った。
【0102】
インビトロ代謝アッセイ。雌ICR/CD-1マウスS9画分をCelsis/In Vitro Technologies(Baltimore、MD)から購入した。25μl(0.5mg)のS9タンパク質を15mlのガラスネジ蓋チューブに加えた。対象化合物を含む50mM Tris、pH7.5溶液350μlを氷上で加えた。すべての試薬を加えた後のNSN21778化合物の最終濃度は2μMであった。125μlのNADPH再生系(2% w/v NaHCO
3/10mm MgCl
2中1.7mg/ml NADP、7.8mg/mlグルコース-6-リン酸、6U/mlグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ)を第I相代謝の分析のために加えた。次いで、チューブを37℃の振盪水浴に入れた。第I相補助因子の添加後、様々な時点で、ギ酸およびn-ベンジルベンズアミド内部標準(IS)を含むメタノール0.5mlを加えることにより、反応を停止した。試料を室温で10分間インキュベートし、次いで16,100×gで5分間遠心分離した。上清をLC-MS/MSで分析した。市販のマウスCD-1血漿(Bioreclamation、Westbury、NY)の安定性を同様の様式で測定した。NSN21778(2μM)をマウス血漿と共に0〜1440分間インキュベートした。反応を前述のとおりメタノールで停止し、上清をLC-MS/MSで評価した。化合物の半減期を、記載のとおり、基質枯渇の方法によりもとめた(McNaney et al., 2008)。
【0103】
インビボ薬物動態。6週齢雌CD-1マウスに、10%エタノール/10%cremophor EL/80%50mMクエン酸緩衝液、pH5.0中で製剤化した10mg/kg NSN21778をIP(0.2ml)投与した。全血および脳を回収した。酸性クエン酸デキストロース(ACD)を抗凝固剤として用いた。血漿を全血から標準遠心分離機中、10,000rpmで10分間遠心分離することにより処理した。脳を秤量し、液体窒素中で急速凍結した。脳ホモジネートを、脳組織を3倍量のPBS中でホモジナイズすることにより調製した(ホモジネートの全量(ml)=4×重量(g))。脳ホモジネートの全量は加えたPBSの量+脳の量(ml)として推定した。100μlの血漿または脳を200μlのギ酸含有アセトニトリルと混合して、血漿または組織タンパク質を沈降させ、結合した薬物を放出した。試料を15秒間ボルテックスにかけ、室温で10分間インキュベートし、2×16,100gで遠心分離した。次いで、上清をLC-MS/MSで分析した。NSN21778を血漿または脳ホモジネートに加えることにより、検量線を調製した。ブランク血漿または脳ホモジネートで得たシグナルよりも3倍高い値を検出限界(LOD)とした。定量限界(LOQ)は、逆算すると理論値の20%以内の濃度となり、LODシグナルよりも高い、最低濃度と定義した。血漿および脳についてのNSN21778のLOQは5ng/mlであった。値がLODよりも高いが、LOQよりも低い場合、1/2 LOQまたは実際の測定値のいずれか高い方に設定した。動物を組織単離前に灌流しなかったため、NSN21778の最終脳濃度をもとめるために、NSN21778の血漿濃度計算値および脳組織1gあたりの血液30μlの値を用いて、脳血管による脳内の化合物の量をまず差し引いた(Kwon, 2001)。
【0104】
恐怖条件づけ試験。恐怖条件づけを、スクランブル式ショック発生器(Med Associates Inc.、St. Albans)に接続した金属格子床を備えた箱の中で測定した。訓練のために、マウスを個々にチャンバーに入れた。2分後、マウスに3回の音-ショックの組み合わせ(30秒間の白色雑音、80dBの音を2秒間の0.5mAの足ショックと同時停止、試験の間に1分の間隔)を与えた。翌日、マウスを同じチャンバーに入れることにより文脈の記憶を測定し、すくみをMed Associatesソフトウェアで自動的に測定した。訓練の48時間後、マウスを床と壁を変え、異なる照明とバニラの匂いの箱に入れることにより、白色雑音合図の記憶を測定した。すくみを3分間測定し、次いで雑音合図をさらに3分間オンにして、すくみを測定した。
【0105】
マウス海馬における樹状突起スパイン分析。インビボで海馬におけるスパインの形状を分析するために、本発明者らはGFP-M系統のマウス(Feng et al., 2000)(WTGFP)を用いた。分析を単純にするために、本発明者らは、M系統GFPマウスをPS1KIおよびAPPKIマウスと交配させてPS1KIGFPおよびAPPKIGFPマウスを得た。マウスを氷冷したリン酸緩衝液(pH7.4)中の4%パラホルムアルデヒド(PFA)溶液30mlで3分間心臓内灌流した。脳を抽出し、4%PFA溶液中で16時間後固定した後、切断した。固定した脳から50μm海馬切片をビブラトーム(Leica 1200S)を用いて得た。光学的断面のZスタックを共焦点顕微鏡(Carl Zeiss Axiovert 100M with LSM510)により100×対物レンズを用いて取得した。Z間隔は0.5μmであった。海馬CA1錐体ニューロンの尖端樹状突起を、画像取得のために選択した。マウス5匹からの約25個のニューロンをマウスの各群について分析した。切片におけるニューロンスパインの形状を分類するために、本発明者らはここでも、NeuronStudioソフトウェアパッケージおよび(Rodriguez et el., 2008)からのアルゴリズムを、以下のカットオフ値と共に用いた:AR_thin
(crit)=2.5、HNR
(crit)=1.4、HD
(crit)=0.5μm。
【0106】
Aβ免疫組織化学染色。βアミロイド斑分析のために、マウスを終末麻酔し、30mlの氷冷PBSと、続いて50mlの固定液(0.1M PBS中4%パラホルムアルデヒド、pH7.4)で経心的に灌流した。すべての脳を頭蓋から摘出し、4%パラホルムアルデヒド中、4℃で終夜後固定し、PBS中20〜30%(w/v)スクロース中で平衡化した。脳をSM2000R滑走式ミクロトーム(Leica)を用いて厚さ30μmの冠状切片にスライスした。全脳の全体に一定間隔で配置したAPPPS1マウスからの30μm冠状切片を、6E10抗AβmAb(1:1000希釈)と、続いてAlexa Flour-488二次抗マウスIgG(1:1000希釈)で染色した。アミロイド斑の平均面積および斑における蛍光シグナルの強度を、以前に記載したとおり(Zhang et al., 2010)、Isocyteレーザースキャナおよび画像分析ソフトウェアを用いて、各切片について自動的に計算した。各マウスから20の冠状切片を分析のために定量し、データをNSN21778処置群(n=5)および対照群(n=4)内で平均した。
【0107】
実施例2−結果
TRPC6およびOrai2は海馬シナプスにおいてSTIM2との複合体を形成する。スパインにおけるSTIM2依存性nSOCチャネルの分子構成要素を特定するために、本発明者らは候補アプローチを取った。以前の試験は、タンパク質の2つの主要なファミリーである一過性受容器電位基準(TRPC)チャネルおよびOraiチャネルが、様々な細胞でのSOCの支持において重要な役割を果たすことを示唆した[Majewski, 2015 #6717;Sun, 2014 #6718]。ヒトでは6つのTRPCタンパク質(TRPC1、TRPC3〜TRPC7)があり、これらは生化学的および機能的類似性に基づいて、2つのサブファミリー、TRPC1/TRPC4/TRPC5およびTRPC3/TRPC6/TRPC7に分けられている。残りのメンバーのTRPC2はヒトでは偽遺伝子であるが、他の種では制限された発現パターンで発現される[Cheng, 2013 #6719]。Oraiチャネルは3つ(Orai1〜Orai3)あるが、これまでほとんどの試験はOrai1に焦点を合わせてきた。本発明者らは、TRPCおよび/またはOraiチャネルファミリーのメンバーは、おそらくはスパインにおけるSTIM2依存性nSOCチャネルをコードする候補であると推論した。STIM2の発現は海馬で非常に多い[Sun, 2014 #6478](
図8)。本発明者らは、STIM2依存性nSOCチャネルの他の構成要素が類似の発現パターンを有するであろうと推論した。Allen Brain Atlasからのデータの解析により、TRPC6およびOrai2タンパク質は類似の発現パターンを有することが判明した(
図8)。STIM1ならびにTRPCおよびOraiファミリーの他のメンバーは、脳の海馬領域において有意な濃縮を示さない(
図8)。これらの結果を確認するために、本発明者らは、異なる脳領域から調製したcDNA試料で、一連のq-RTPCR実験を実施した。Allen Brain Atlasデータと一致して、本発明者らは海馬に多い遺伝子としてSTIM2、TRPC6およびOrai2を特定した(
図9)。遺伝子発現データ(
図8〜9)に基づき、本発明者らは、海馬スパインにおけるSTIM2依存性nSOCチャネルをコードする候補分子として、TRPC6およびOrai2に焦点を合わせた。
【0108】
STIM2依存性チャネル複合体の構成要素を特定するために、本発明者らは、海馬シナプトソームを調製し、一連の免疫沈降実験を実施した。本発明者らは、TRPC6またはOrai2に対する抗体は、実際に、シナプトソーム溶解物からSTIM2を回収し得ることを見出した(
図1A)。免疫沈降したSTIM2の見かけの分子量は、インプットレーンのSTIM2の分子量よりも高かった(
図1A)。おそらくは、TRPC6およびOrai2は、リン酸化などの翻訳後修飾を受けたSTIM2との複合体を形成すると考えられる[Smyth, 2012 #6763]。この知見と一致して、皮質溶解物からのOrai1と免疫共沈降したSTIM2もゲル上でより高い分子量を示す[Gruszczynska-Biegala, 2013 #6722]。
【0109】
STIM2はTRPC6および/またはOrai2に直接結合するか?STIM1およびSTIM2タンパク質は、類似のドメイン構造および76%の配列類似性を有する[Stathopulos, 2013 #6729]。STIM2タンパク質は詳細に試験されていないが、STIM1タンパク質の構造-機能分析がこれまでにいくつかの研究室によって実施されている。STIM1タンパク質はOrai1と、サイトゾルのSOARドメインを介して相互作用し、これを開口することが確かめられている[Park, 2009 #6730;Yuan, 2009 #6731]。STIM1 SOARドメイン配列における二重変異(L373S、A376S)は、STIM1とOraiとの間の結合を破壊した[Frischauf, 2009 #6716]。STIM1とSTIM2との間の配列相同性により導かれて、本発明者らは、野生型STIM2-SOARドメイン(S2-SOAR)およびSTIM2-SOAR配列における対応する変異体(L377S、A380S)(S2-LASS)のGST融合構築物を作製した。本発明者らはこれらの構築物を、YFPタグTRPC6またはHAタグOrai2を形質移入したHEK293細胞からの溶解物によるプルダウン実験で用いた。本発明者らは、STIM2-SOARドメインはOrai2タンパク質と強力に結合し、この結合はLASS変異によって破壊されることを見出した(
図1B)。これに対して、STIM2-SOARドメインのTRPC6との結合は弱く、LASS変異によって影響されなかった(
図1B)。SOARドメインの代わりにSTIM2の全サイトゾルテールをプルダウン実験で用いた場合に、同様の結果が観察された(データは示していない)。これらの結果から、STIM2はSOARドメインを介してOrai2と強力かつ直接に結合するが、TRPC6とは非常に弱く結合することが示唆された。これは、SOARを介してOrai1と相互作用し、かつERMドメインを介してTRPC1/2/4と相互作用するが、TRPC3/6/7とは相互作用しないことが示された、STIM1の以前の分析と一致している[Huang, 2006 #6732]。TRPC6抗体のSTIM2を沈降させる能力(
図1A)を説明するために、本発明者らは、Orai2およびTRPC6が膜において複合体を形成すると推論した。類似の複合体が非興奮性細胞におけるTRPC6/3およびOrai1について以前に提唱されている[Liao, 2007 #6733;Jardin, 2009 #6738]。この仮説を試験するために、本発明者らは、FLAGタグTRPC6およびHAタグOrai2をHEK293細胞に同時形質移入し、免疫共沈降実験でTRPC6/Orai2複合体の形成を確認した(
図1C)。
【0110】
STIM2-Orai2-TRPC6複合体の機能をさらに調べるために、本発明者らは、HEK293細胞にHAタグTRPC6およびHAタグOrai2構築物ならびにYFPタグSTIM2構築物またはYFPタグSTIM2-LASS変異体構築物を同時形質移入した。文献における結果は、STIM1、OraiおよびTRPCチャネルの間の結合はER Ca
2+ストアの枯渇状態により調節されうることを示唆している[Cheng, 2013 #6719;Liao, 2007 #6733;Liao, 2008 #6734;Liao, 2009 #6735;Cheng, 2008 #6736;Cheng, 2011 #6737;Jardin, 2009 #6738;Ong, 2007 #6739;Zeng, 2008 #6740]。この可能性を説明するために、本発明者らは、ストア枯渇を引き起こすための無Ca
2+培地中でのインキュベーションの後に、標準培養条件下(2mM細胞外Ca
2+)で形質移入HEK239細胞から溶解物を調製した。溶解物を抗TRPC6抗体で沈降させ、YFP-STIM2の存在を抗EGFP抗体によるウェスタンブロッティングにより分析した。これらの実験において、本発明者らは、正常なCa
2+条件下(2mM Ca
2+)で、STIM2はTRPC6と弱く結合し(
図1D、レーン1)、この結合はストア枯渇によって促進される(
図1D、レーン2)ことを見出した。興味深いことに、STIM2-SOARドメイン配列におけるLASS変異は、STIM2のTRPC6との結合を破壊しなかったが、この相互作用はもはやER Ca
2+レベルによって調節されなかった(
図1D、レーン3および4)。これらの結果を説明するために、本発明者らは、
図1Eに示すモデルを提唱した。本発明者らは、正常なER Ca
2+ストアの状態で、SOARドメインを介してOrai2と強く相互作用するいくつかのSTIM2タンパク質および異なる領域を介してTRPC6と弱く相互作用するいくつかのSTIM2タンパク質があることを提唱する(
図1E、パネル1)。ERストア枯渇およびSTIM2のオリゴマー化の後、より多くのOrai2およびTRPC6タンパク質が動員され、TRPC6、Orai2およびSTIM2の機能的複合体が構築される(
図1E、パネル2)。この複合体において、TRPC6はCa
2+伝導チャネルとして働き、Orai2はSTIM2との結合によりER Ca
2+レベル検知に関与している。STIM1-TRPC3/6-Orai1複合体の機能を説明するために、同様の考えが提唱されている[Liao, 2007 #6733;Jardin, 2009 #6738]。本発明者らは、STIM2-SOARドメインにおけるLASS変異はそのOrai2との結合を破壊し、Orai2との競合がなくなったことにより、TRPC6との非生産的結合の増強をもたらすことをさらに主張する(
図1E、パネル3)。Orai2と結合できないため、STIM2-LASSのTRPC6との結合はもはやER Ca
2+ストア枯渇によって調節されない(
図1E、パネル4)。これ以降の議論は、海馬シナプススパインにおけるTRPC6/Orai2-STIM2複合体の機能を評価するためのこのモデル(
図1E)によって誘導される。
【0111】
TRPC6およびOrai2は海馬マッシュルーム型スパインにおけるSTIM2依存性nSOCチャネルの構成要素である。TRPC6およびOrai2が実際にスパインにおけるSTIM2依存性nSOCチャネルの構成要素として作用するかどうかを調べるために、本発明者らは、レンチウイルス媒介性shRNAi送達を用いて、マウス海馬ニューロン培養物でTRPC6およびOrai2のノックダウンを実施した。以前の試験で、本発明者らは、シナプスCaMKIIの活性がnSOC経路によって調節され、自己リン酸化pCaMKIIのレベルをスパインにおける定常状態のCaMKII活性の生化学的測定値として用い得ることを示した(Sun et al., 2014)。本発明者らは以前、nSOCの阻害がスパインにおけるPSD95発現の減少を引き起こすことも示した(Sun et al., 2014)。これらの実験において、本発明者らは、TRPC6またはOrai2のRNAi媒介性ノックダウンがPSD95発現の低減およびpCaMKIIのレベル低減をもたらすことを見出した(
図2A〜Bおよび10)。CaMKIIの全レベルは影響されないままであった(
図2A〜Bおよび10)。TRPC6またはOrai2ノックダウン後のpCaMKIIおよびPSD95レベルの低減は、以前の試験(Sun et al., 2014)におけるSTIM2低減またはnSOC阻害剤の適用によって誘導された変化と一致している。
【0112】
nSOC活性をより直接的に評価するために、本発明者らは、一連のCa
2+イメージング実験を実施した。Fura-2イメージング実験において、本発明者らは、TRPC6またはOrai2のノックダウンが細胞体におけるnSOCピークを低減させることを見出した(
図11A〜B)。スパインにおけるCa
2+イメージングを実施するために、本発明者らは、樹状突起スパインを同時に可視化して局所Ca
2+シグナルを測定することを可能にするために、海馬ニューロンにGCamp5.3プラスミドを形質移入した(Sun et al., 2014)。これらの実験において、本発明者らは、TRPC6またはOrai2のノックダウンがシナプスnSOCの急激な低減をもたらすことを見出した(
図2C〜D)。重要なことに、STIM2の過剰発現は、TRPC6またはOrai2のノックダウン後のシナプスnSOCを救済することはできなかった(
図2C〜D)。これらのデータは、スパインにおけるSTIM2依存性nSOCチャネルの機能はTRPC6およびOrai2タンパク質両方の存在を必要とするという仮説を支持するものであった(
図1E、パネル2)。
【0113】
以前の試験で、本発明者らは、海馬マッシュルーム型スパインの維持はシナプスnSOC活性を必要とすることを示した(Sun et al., 2014)。TRPC6およびOrai2のノックダウン後のシナプススパインの形態を評価するために、本発明者らは海馬培養物にTD-Tomatoプラスミドを形質移入し、細胞を固定し、各実験群について共焦点イメージング実験を実施した(
図2E)。スパイン形状の自動分析により、マッシュルーム型スパインの割合はTRPC6またはOrai2タンパク質のノックダウン後に有意に低下することが判明した(
図2E〜F)。nSOCのCa
2+イメージング実験と同様、STIM2の過剰発現は、TRPC6またはOrai2ノックダウン後のマッシュルーム型スパインを安定化することはできなかった(
図2E〜F)。これらのデータは、STIM2-TRPC6/Orai2チャネル複合体は海馬マッシュルーム型シナプススパインの維持に必要であるとの仮説を支持している。
【0114】
以前の発表(Sun et al., 2014)において、本発明者らは、家族性ADのPS1KIマウスモデルからの海馬ニューロンにおいて、STIM2の過剰発現がシナプスnSOCおよびマッシュルーム型スパインの欠損を救済し得ることを示した。本発明者らは、今回の実験において、これらの結果を再現することができた(
図2G〜J)。しかし、STIM2の発現は、TRPC6またはOrai2のノックダウン後に、PS1-KIニューロンにおいてシナプスnSOCまたはマッシュルーム型スパインを救済することはできなかった(
図2G〜J)。これらの結果は、海馬マッシュルーム型スパインにおけるSTIM2依存性nSOCを媒介する際の、TRPC6およびOrai2チャネルの重要な役割をさらに支持するものであった。
【0115】
海馬スパインnSOCの構成要素としてのTRPC6およびOrai2の異なる機能的役割。以前の試験で、本発明者らは、家族性ADのPS1KIおよびAPPKIマウスモデルにおいて、STIM2の過剰発現がnSOCおよびマッシュルーム型スパインの欠損を救済することを示した(Sun et al., 2014およびZhang et al., 2015)。本発明者らは、TRPC6およびOrai2の過剰発現の効果を評価するために、類似のアプローチを用いた。本発明者らは、TRPC6の過剰発現もPS1KIおよびAPPKI海馬ニューロンにおけるスパインnSOC(
図3A〜B)およびマッシュルーム型スパインの減少(
図3C〜D)を救済すると確認した。これに対して、Orai2の過剰発現はPS1KIおよびAPPKI海馬ニューロンにおけるスパインnSOCを救済することはできなかった(
図3A〜B)。実際、Orai2の過剰発現は、野生型ニューロンにおいてさえスパインnSOC応答を有意に弱めた(
図3A〜B)。Orai2形質移入ニューロンにおけるスパインの形態の分析は、この群のニューロンの約30%が異常な樹状突起形態を示し、シナプススパインはこれらの細胞で明らかに特定することができなかった(データは示していない)ため、行わなかった。これらの結果から、本発明者らは、過剰発現したOrai2はSTIM2に高い親和性で結合するが、化学量論量のTRPC6および/またはSTIM2の非存在下で機能的Ca
2+流入チャネルを生成しないと結論付けた。これらの知見と一致して、HEK293細胞において、Orai1またはOrai2の過剰発現はSTIM1を捕捉することによりSOCEを阻害すると報告されている(Mercer et al., 2006およびHoover et al., 2011)。これに対して、TRPC6の過剰発現はSTIM2の過剰発現と同様の結果をもたらし、PS1KIおよびAPPKI海馬ニューロンにおけるnSOCおよびマッシュルーム型スパインの救済につながる(
図3A〜D)。これらの結果は、TRPC6はnSOC経路の主要なCa
2+流入源であることを示唆している。これらの結果はすべて、スパインの適切に調節されたnSOCチャネルは正しい化学量論で構築されたSTIM2-Orai2/TRPC6複合体によって形成されるというモデルと一致している(
図1E、パネル2)。
【0116】
この仮説をさらに試験するために、本発明者らは、STIM2およびSTIM2-LASS変異体の過剰発現の効果を比較した。以前の試験(Sun et al., 2014およびZhang et al., 2015)と一致して、STIM2の発現はPS1KIおよびAPPKI海馬ニューロンにおけるスパインnSOC(
図3A〜B)およびマッシュルーム型スパインの減少(
図3C〜D)を救済した。これに対して、STIM2-LASS変異体の発現はPS1KIおよびAPPKI海馬ニューロンにおけるスパインnSOC(
図3A〜B)およびマッシュルーム型スパインの減少(
図3C〜D)を救済することはできなかった。実際に、STIM2-LASS変異体の発現は、野生型ニューロンのスパインnSOCに対してドミナントネガティブ効果を発揮し(
図3A〜B)、これらのニューロンでマッシュルーム型スパインの減少を引き起こした(
図3C〜D)。これらの結果を説明するために、本発明者らは、STIM2-LASS変異体はOrai2に結合せず、代わりにTRPC6を非機能的複合体に捕捉すると推論した(
図1E、パネル4)。これらの結果から、本発明者らは、TRPC6はシナプススパインにおける主要なCa
2+流入チャネルであり、Orai2はストア枯渇依存的様式でSTIM2によって開口される複合体の調節サブユニットであると結論付けた。同様のモデルが非興奮性細胞におけるSTIM1-TRPC3/6-Orai1複合体について以前に提唱されている(Liao et al., 2007およびJardin et al., 2009)。
【0117】
NSN21778およびハイパーフォリンはスパインnSOCチャネルを活性化する。遺伝的救済実験(Sun et al., 2014およびZhang et al., 2015)(
図3A〜B)は、スパインにおけるTRPC6/Orai2 nSOCチャネルの薬理学的活性化剤は、マッシュルーム型スパインの減少の防止を助け、ADに対する治療能力を有しうることを示唆している。ハイパーフォリン(Hyp)はTRPC6の公知の活性化剤である(Leuner et al., 2007)(
図4A)。本発明者らの研究室は最近、新規のnSOC活性化剤NSN21778(NSN、分子量321)を同定した(
図4A)。この化合物は、以前の試験(Wu et al., 2011)において新規nSOC阻害剤を分析する過程で思いがけなく発見された。Ca
2+イメージング実験において、本発明者らは、Ca
2+の再添加前に300nMのHypまたはNSNを適用することで、PS1KIおよびAPPKI海馬ニューロンにおけるスパインnSOCが救済されることを見いだした(
図4B〜C)。興味深いことに、両方の化合物は野生型のスパインにおけるnSOCに対して有意な効果は有さなかった(
図4A〜B)。これは、スパインnSOC経路は正常な状態ではすでに最大に活性化されていることを示唆している。さらなる実験において、本発明者らは、TD Tomatoを形質移入した海馬ニューロン培養物を30nM濃度のHypまたはNSNと共に16時間インキュベートし、共焦点イメージングによりスパインの形状の分析を実施した(
図4D)。本発明者らは、HypまたはNSNとのインキュベーションはPS1KIおよびAPPKIニューロンにおけるマッシュルーム型スパインの完全な救済をもたらすことを見出した(
図4D〜E)。両方の化合物は野生型ニューロンにおけるマッシュルーム型スパインの割合に対して有意な効果は有しなかった(
図4D〜E)。さらなる実験において、本発明者らは、300nMのHypまたはNSNによる4時間の処理は、PS1KIおよびAPPKI海馬ニューロンにおけるマッシュルーム型スパインに対して類似の救済効果を発揮することを示した(データは示していない)。
【0118】
HypおよびNSN化合物の標的を確認するために、本発明者らはHEK293細胞においてTRPC6を過剰発現させ、一連のFura-2 Ca
2+イメージング実験を実施した。発表された報告(Leuner et al., 2007)と一致して、1μM Hypの適用はTRPC6を形質移入したHEK293細胞においてCa
2+流入を活性化したが、EGFPプラスミドを形質移入した対照細胞では活性化しなかった(
図5Aおよび5C)。Hypとは対照的に、1μM NSNの適用はTRPC6形質移入細胞においてCa
2+流入を誘発しなかった(
図5Aおよび5C)。さらなる実験において、本発明者らは、他のTRPC(TRPC1〜7)、Orai(Orai1〜3)、またはTRPC6およびOrai2の組み合わせを形質移入したHEK293細胞での実験において、1μM NSN化合物の効果を評価した。しかし、NSN化合物は、これらの実験のいずれにおいてもCa
2+流入を誘導することはできなかった(データは示していない)。これらの実験から、本発明者らは、HypはTRPC6チャネルの直接活性化剤として作用するが、NSN化合物の作用はより複雑であると結論付けた。さらなる実験において、本発明者らは、ストア枯渇の条件下でSOCを測定した。これを達成するために、HEK239細胞を1μM Tgを含む無Ca
2+培地中でプレインキュベートした。これらの実験において、本発明者らは、EGFP形質移入細胞で内因性SOC応答を観察し、これはTRPC6形質移入細胞でさらに増強された。しかし、NSN化合物の適用は、これらの条件下でGFPまたはTRPC6細胞におけるSOCに対してさらなる効果を示さなかった(データは示していない)。TRPC6チャネルはDAGによって活性化されることが公知である(Estacion et al., 2004)。スパインnSOC測定において、強いCa
2+応答を生成するために、100μM DHPGの添加が必要であった。したがって、次の一連の実験において、本発明者らは、DAGの安定な合成類縁体であるOAGの効果を評価した。標準の記録条件下で、100μM OAGをTRPC6形質移入細胞に適用すると、変動性の高い応答を引き起こし、強いCa
2+流入を示すバッチの細胞もあれば、非応答性のバッチもあった(データは示していない)。しかし、本発明者らは、0.1mM Ca
2+を含む細胞外培地中での細胞のプレインキュベーションによりストアを部分的に枯渇させると、100μM OAGはより一貫した応答を生成し得ることを見出した(
図5B〜C)。OAGの効果はTRPC6形質移入細胞で観察されたが、対照のEGFP形質移入細胞では見られなかった(
図5B〜C)。興味深いことに、同様の部分的ストア枯渇プロトコルがSTIM2のクローニングを報告する論文で用いられ(Brandman et al., 2007)、そのような条件下でSTIM2依存性Ca
2+流入経路が重要であることが示唆された。1μM NSNとのプレインキュベーションは、TRPC6形質移入細胞においてこれらの条件下でのOAG誘導性応答の有意な増強をもたらしたが、対照GFP細胞では増強は見られなかった(
図5B〜C)。これらの結果から、本発明者らは、NSN化合物はおそらくはニューロンのTRPC6チャネルに対する内因性DAGの効果を増強することによって作用すると結論付けた。
【0119】
スパインにおけるHypおよびNSN化合物の標的を確認するために、本発明者らは、TRPC6またはOrai2に対するLenti-RNAiを感染させた野生型およびPS1KI海馬ニューロンによる実験を実施した。これらの培養物にTD Tomatoを形質移入し、30nMのHypまたはNSNと共に16時間インキュベートし、共焦点顕微鏡で分析した(
図5A〜B)。これらの実験において、TRPC6またはOrai2のノックダウンは、野生型ニューロンにおけるマッシュルーム型スパインの減少を引き起こした(
図2E〜Fおよび5A〜B)。30nMのHypまたはNSNとのインキュベーションはこの表現型を救済することはできなかった(
図5A〜B)。30nMのHypまたはNSNとのインキュベーションは、対照RNAiレンチウイルスに感染したPS1KI培養物でマッシュルーム型スパインの減少を救済したが、TRPC6またはOrai2のノックダウン後のPS1KI海馬ニューロンでマッシュルーム型スパインの減少を救済することはできなかった(
図5A〜B)。得られた結果は、ハイパーフォリンおよびNSNは、スパインにおけるTRPC6/Orai2チャネル複合体を活性化することによって、ADニューロンにおけるシナプスnSOCおよびマッシュルーム型スパインを救済するとの仮説と一致する。ADマウスモデルにおけるハイパーフォリンおよびその誘導体の効果は以前に記載されており(考察の項を参照)、本発明者らは残りの試験についてNSN化合物の分析に焦点を合わせた。
【0120】
NSN21778はADマウスモデルからの海馬切片におけるシナプススパインおよび可塑性の欠損を救済する。NSN化合物のシナプスへの効果をさらに評価するために、本発明者らは、海馬切片による一連の実験を実施した。分析を単純化するために、本発明者らは、M系統GFPマウス(Feng et al., 2000)をPS1KIおよびAPPKIマウスと交配させて、PS1KIGFPおよびAPPKIGFPマウスを得た。海馬切片を月齢6ヶ月のM系統GFPマウス(WTGFP)、PS1KIGFPおよびAPPKIGFPマウスから調製した。切片を300nM NSNで3.5時間処理し、固定し、二光子画像法で分析した(
図6A)。以前の試験(Sun et al., 2014およびZhang et al., 2015)と一致して、スパインの形状の分析により、月齢6ヶ月のPS1KIGFPおよびAPPKIGFPマウスでは、WTGFPマウスと比べると、マッシュルーム型スパインの有意な減少が明らかとなった(
図6A〜B)。300nM NSNでの処理はWTGFPマウスのマッシュルーム型スパインに対して効果がなかったが、PS1KIGFPおよびAPPKIGFP海馬切片におけるマッシュルーム型スパインの完全な救済をもたらした(
図6A〜B)。PS1KIマウスはE-LTPの欠損を示さず(Chakroborty et al., 2009およびOddo et al., 2003)、これらのマウスではL-LTPの表現型のみが報告された(Auffret et al., 2010およびZhang et al., 2015)。APPKIマウスは最近作製され(Saito et al., 2014)、これまでにこれらのマウスでLTP試験は実施されていない。これらの試験において、本発明者らは、二連続の高頻度刺激(HFS)は月齢6ヶ月の野生型およびAPPKI海馬切片で類似のシナプス増強を誘導しうることを見いだした(
図6C〜D)。しかし、この増強はAPPKI海馬切片では持続しなかった(
図6C〜D)。平均で、APPKI切片では、fEPSPのスロープは60分以内に刺激前のレベルに低下した(
図6C〜6E)。これに対して、野生型切片では、fEPSPのスロープは高いままで、60分の時点で175%の平均増加であった(
図6C〜E)。これらの結果は、APPKIマウスは月齢6ヶ月で強いLTP欠損を示すことを示唆し、これは以前に記載された海馬LTPに対するAβ42の作用から予想することができた(Chapman et al., 1999;Shankar et al., 2007;Shankar et al., 2008およびWalsh et al., 2002)。海馬切片を300nM NSN化合物で2〜3時間前処理しても、野生型切片のLTPに対して有意な効果はなかったが、APPKI切片ではLTP欠損を完全に救済した(
図6C〜6E)。これらの実験から、本発明者らは、スパインnSOC経路のNSN化合物による活性化は、APPKI海馬ニューロンにおけるシナプス可塑性欠損を救済し得ると結論付けた。
【0121】
NSN21778はインビボでADマウスモデルのマッシュルーム型スパインおよび記憶の欠損を救済する。NSN化合物がインビボで有益な効果を発揮しうるかどうかを判定するために、本発明者らは、この化合物の予備代謝安定性試験を実施した。本発明者らは、NSN化合物は、市販の肝S9画分中、NADPH再生系を含む第I相補助因子存在下で一般に安定であり、市販のCD-1マウス血漿中で安定であることを見いだした(
図12A〜B)。10mg/kgのNSN21778のi.p.注射後、化合物は血漿中で適度なレベルに達したが、脳への浸透は不良であった(
図12C)。NSN化合物はスパイン救済実験においてナノモル濃度で有効であった(
図4A〜Dおよび5A〜B)ため、本発明者らは、それでも、全身の動物試験を開始した。これらの実験において、NSN化合物をWTGFP、PS1KIGFPおよびAPPKIGFPマウスで、月齢4ヶ月で開始して、10mg/kgの濃度で1週間に3回i.p.注射した。本発明者らは、注射したマウスでいかなる毒性も明白に観察しなかったが、10週間の処置後にNSN注射マウスでいくらかの体重減少が見られた(データは示していない)。体重減少は、腸運動を加速させうる、腸平滑筋におけるTRPC6チャネルの活性化が原因と考えられる(Tsvilovskyy et al., 2009)。マウスを月齢6.5ヶ月で屠殺し、スパイン形状の分析を海馬切片の共焦点イメージングによって実施した(
図7A)。以前の試験(Sun et al., 2014およびZhang et al., 2015)と一致して、本発明者らは、PS1KIGFPおよびAPPKIGFPマウスの対照群で、WTGFPマウスと比べると、マッシュルーム型スパインの有意な減少を観察した(
図7A〜B)。NSN化合物の注射は、WTGFPマウスではマッシュルーム型スパインに対して効果がなかったが、PS1KIGFPおよびAPPKIGFPマウスではマッシュルーム型スパインの欠損の救済をもたらした(
図7A〜B)。これらの結果は、PS1KIおよびAPPKIマウスにおいてAAV1-STIM2ウイルスの海馬への注射後に見られた、マッシュルーム型スパインのインビボ救済と同等である(Sun et al., 2014およびZhang et al., 2015)。したがって、本発明者らは、i.p.注射後、これらのマウスの脳に、シナプスnSOCを活性化し、マッシュルーム型スパインを安定化するのに十分なNSNの浸透があると結論付けた。または、LC-MS/MSアッセイでは検出されないが、わずかに改変されたがまだ活性なNSNの代謝物がより高い濃度で脳に浸透し、活性を担っている可能性がある。
【0122】
アミロイド斑の蓄積はADの病態の特徴である。APPKIマウスは月齢12ヶ月頃にアミロイド斑を蓄積し始める(Saito et al., 2014)。アミロイド蓄積に対するNSN化合物の効果を試験するために、本発明者らは月齢11ヶ月のAPPKIマウスに10mg/kgのNSN化合物を注射した。i.p.注射を1週間に3回、8週間実施し、マウスを月齢13ヶ月で屠殺した。発表された知見(Saito et al., 2014)と一致して、免疫染色によりAPPKIマウスの皮質におけるアミロイド斑の蓄積が明らかとなった(
図7C)。斑はNSN化合物を注射したマウス群では低減した(
図7C)。斑負荷の定量により、NSN処置マウスで全体の斑面積および斑強度の有意な低減が明らかとなった(
図7D〜E)。
【0123】
PS1KIマウスの行動表現型は非常に微細である(Wang et al., 2004およびSun et al., 2005)。APPKIマウスは月齢18ヶ月でのY迷路アッセイでわずかな減弱しか示さないと報告されている(Saito et al., 2014]。しかし、注射のためにマウスを取り扱っている間に、本発明者らは、4週間の注射の後、APPKIGFPマウスの対照群を除いて、すべてのマウスが痛い注射の前に恐怖記憶関連の不安行動を示し始めることに気づいた。このマウス群の記憶機能を正式に試験するために、本発明者らは一連の文脈的恐怖条件づけ実験を実施した。本発明者らは実際に、月齢6.5ヶ月のAPPKIGFPマウスは、月齢をマッチさせたWTGFPマウスと比べると、文脈的恐怖条件づけ反応において有意な減弱を有することを見出した(
図7F)。APPKIGFPマウスの恐怖条件づけ表現型は、NSN化合物のi.p.注射によって完全に救済された(
図7F)。WTGFPマウスでは、NSN化合物の注射はいくらか弱められた反応をもたらしたが、対照群との差は統計学的有意には達していない(
図7F)。文脈的恐怖条件づけに加えて、本発明者らは手がかり試験実験も実施した。文脈的恐怖条件づけ試験と類似の行動パターンが、4つのマウス群すべてで観察されたが、各群内のデータの変動性が大きかったため、群間の差は有意レベルに達しなかった(データは示していない)。
【0124】
実施例3−考察
TRPC6およびOrai2は海馬マッシュルーム型スパインにおいてSTIM2調節性nSOCチャネルを形成する。以前の試験で、本発明者らは、マッシュルーム型スパインにおけるSTIM2媒介性nSOCがこれらのスパインの安定性に重要であることを示した(Sun et al., 2014)。本発明者らは、nSOC媒介性Ca
2+流入がシナプスCaMKIIの構成的活性化を引き起こし、これはマッシュルーム型スパインの安定性に必須であるとさらに結論付けた(Sun et al., 2014)。重要なことに、本発明者らは、STIM2-nSOC-CaMKII経路がPS1KIニューロン、APPKIニューロン、加齢ニューロン、および散発性AD脳では、STIM2タンパク質のダウンレギュレーションにより損なわれることを示した(Sun et al., 2014およびZhang et al., 2015)。本試験において、本発明者らは、海馬スパインにおけるSTIM2依存性nSOCチャネルの分子アイデンティティを決定した。候補アプローチで開始して、本発明者らは、STIM2依存性nSOCの重要な構成要素としてTRPC6チャネルおよびOrai2チャネルを特定した。本発明者らは、TRPC6およびOrai2が海馬に多く存在し(
図8〜9)、STIM2と、および互いに生化学的に関連している(
図1A〜E)ことを示した。さらに、TRPC6またはOrai2のRNAi媒介性ノックダウンはシナプスnSOCを抑制し、海馬ニューロンにおけるマッシュルーム型スパインの減少を引き起こした(
図2A〜J)。これらの結果は、TRPC6/Orai2がマッシュルーム型シナプススパインにおいて機能的複合体を形成するとの仮説と一致している(
図7G)。以前に発表された報告は、nSOCの支持におけるTRPC6およびOrai2チャネルの役割の可能性を支持している。ニューロン発現パターンに基づき、Orai2はnSOCの支持において重要な役割を果たし得ることが以前に推論されている(Hoth et al., 2013およびMajewski et al., 2015)が、この主張を支持する直接の実験的証拠は、これらの結果までは得られていなかった。TRPC6は以前、スパインの形態および神経突起成長にとって重大であると示唆されている(Zhou et al., 2008およびHeiser et al., 2013)。TRPC6トランスジェニックマウスはスパインの形成の増強、ならびにモリス水迷路における空間学習および記憶の増強を示した(Zhou et al., 2008)。いくつかの試験でTRPC6はSOCに関係があるとされているが、このチャネルは主に、ジアシルグリセロール(DAG)によって直接活性化されうる、受容体作動性チャネル(ROC)であると考えられている(Sun et al., 2014およびCheng et al., 2013)。これらの実験において、本発明者らは、強力なスパインnSOCの測定はCa
2+の再添加前に100μM DHPGの適用を必要とすることを見出した。興味深いことに、DHPGの効果は合成DAG類縁体のOAGによって模倣されず、OAGの海馬ニューロン培養物への直接適用はほんの少数のスパインでCa
2+応答を誘導した(データは示していない)。これらの結果から、本発明者らは、スパインにおけるTRPC6チャネルの活性化は局所Ca
2+ストアの枯渇を必要とし、DAGだけでは達成できないと結論付けた。STIM2-LASS変異体による実験に基づいて、同様の結論が得られる。Orai2と相互作用することができない、この変異体の発現は、野生型ニューロンのスパインnSOCに対してドミナントネガティブ効果を発揮した(
図3A〜B)。ニューロンシナプスの活性中、スパインにおけるmGluR受容体の活性化は、PLCの活性化、PIP
2の分解、DAGおよびInsP
3の生成ならびにスパインのERストアからのInsP
3R1媒介性Ca
2+放出に結びついている。これらの結果は、スパインにおけるTRPC6/Orai2チャネル複合体の活性化は、主に局所ER Ca
2+ストア枯渇の結果として起こり、STIM2によって媒介されることを示唆している(
図7G)。DAGの局所生成も、スパインにおけるTRPC6/Orai2チャネルの活性化に寄与し得るが、これらの結果に基づき、ストア枯渇なしでは、それらを活性化するのに十分ではない。得られた結果に基づき、本発明者らは、TRPC6チャネルはスパインにおけるCa
2+流入を媒介し、Orai2はSTIM2との直接相互作用によってER Ca
2+感受性を与えると結論付けた(
図7G)。したがって、TRPC6およびOrai2はいずれも、シナプススパインにおけるnSOCのストア枯渇媒介性活性化に必須である。以前に、非興奮性細胞におけるSTIM1-TRPC3/6-Orai1複合体について、類似のモデルが提唱されている(Liao et al., 2007およびJardin et al., 2009)。
【0125】
TRPC6/Orai2 nSOCチャネル複合体はADの新規治療標的である。これらの結果は、スパインにおけるSTIM2依存性TRPC6/Orai2 nSOCチャネルがADおよび加齢性記憶喪失の有望な治療標的であることをさらに示す。以前の試験で、本発明者らは、STIM2過剰発現が家族性ADのPS1KIおよびAPPKIマウスモデルにおいてnSOCおよびマッシュルーム型スパイン欠損を救済することを示した(Sun et al., 2014およびZhang et al., 2015)。本明細書において、本発明者らは、TRPC6の過剰発現もPS1KIおよびAPPKIマウスモデルにおいてnSOCおよびマッシュルーム型スパイン欠損を救済することを示した(
図3A〜B)。さらに、本発明者らは、公知のTRPC6活性化剤であるハイパーフォリンおよび新規のnSOC活性化剤であるNSN21778もPS1KIおよびAPPKIマウスモデルにおいてnSOCおよびマッシュルーム型スパイン欠損を救済することを示した(
図4A〜D)。以前の試験で、ハイパーフォリンおよびその誘導体は、AβPPSwe/PSEN1ΔE9(AβPP/PS1)トランスジェニックマウスにおいてベータアミロイド神経毒性および空間記憶障害を防止しうることが明らかにされている(Inestrosa et al., 2011;Cerpa et al., 2010およびDinamarca et al., 2006)。これらの実験におけるハイパーフォリンの作用のメカニズムは明らかにされなかった。ハイパーフォリンはこれらの実験におけるその有益な効果を、アセチルコリンエステラーゼ活性に影響をおよぼし、Aβ沈着物を低減し、ミトコンドリア機能および神経形成を促進することにより発揮すると示唆されている(Zolezzi et al., 2013;Carvajal et al., 2013;Abbott et al., 2013;Inestrosa et al., 2011;Cerpa et al., 2010およびDinamarca et al., 2006)。しかし、最近の試験において、ハイパーフォリン誘導体のテトラヒドロハイパーフォリン(IDN5706)はニューロンのTRPC3/6/7チャネルを活性化することによりAβ誘導性シナプス可塑性欠損を救済することが示唆されている(Montecinos-Oliva et al., 2014)。同様に、ハイパーフォリンは、TRPC6チャネルの活性化を通じて、海馬切片培養物における樹状突起スパインの形態を調節しうることも最近報告された(Leuner et al., 2013)。本発明者らのハイパーフォリンによる結果(
図4A〜D)は、ハイパーフォリンおよびその誘導体が、マッシュルーム型シナプススパインにおけるTRPC6媒介性nSOCを刺激することにより、ADモデルにおいて有益な効果を発揮するとの結論と一致している。
【0126】
本発明者らは、スパイン救済アッセイにおいてTRPC6またはOrai2いずれかのノックダウンがハイパーフォリンおよびNSN化合物を無効にするため、これらの化合物はいずれも、Trpc6/Orai2チャネル複合体に作用することを確かめた(
図5A〜E)。しかし、これら2つの化合物の作用機序は異なる。ハイパーフォリンは標準の記録条件下でHEK293細胞において発現されるTRPC6チャネルを直接活性化することができた(
図5A〜E)。これに対して、NSN化合物はこれらの実験では効果がなかったが、部分的に枯渇した細胞内ストアの条件下で、TRPC6チャネルを通じてOAG誘導性Ca
2+流入を促進することができた(
図5A〜E)。これらの結果は、ハイパーフォリンはTRPC6の直接活性化剤として作用するが、NSN化合物はTRPC6の正のモジュレーターとして作用すると示唆した(
図5A〜Eおよび
図7G)。NSN化合物の正確な作用機序はさらなる調査を必要とするであろうが、この化合物が生理的条件下で内因性のスパインnSOCチャネルの正のモジュレーターとして作用する能力は、ADにおける治療的適用のためのさらなる利益を提供するであろう。実際に、初代海馬培養物実験において、本発明者らは、10μMハイパーフォリンによる処理後に、非常に大きいCa
2+上昇および毒性を観察し、nSOC経路の過度の活性化が示唆された。本発明者らはまた、300nMハイパーフォリンで終夜処理した海馬培養物のいくつかのバッチで、神経毒性も観察した(データは示していない)。これに対して、本発明者らは、10μMのNSN化合物による短期間実験、または300nMのNSN化合物との終夜インキュベーション後に、いかなる毒性も観察しなかった。これらの結果は、NSN化合物は、ハイパーフォリンおよびその誘導体などのTRPC6の直接活性化剤よりも、広い治療域を有し得ることを示唆している。本発明者らは、その実験において、NSN化合物がPS1KIおよびAPPKIマウスモデルからの海馬培養物および切片においてマッシュルーム型スパインの減少を救済し得(
図4D〜Eおよび6A〜B)、APPKIマウスにおいて海馬LTP欠損を救済し得る(
図6C〜E)ことを示した。さらに、NSN化合物は、PS1KIおよびAPPKIマウスで、i.p.注射により送達すると、マッシュルーム型スパインの減少を救済した(
図7A〜B)。NSN化合物はまた、老化APPKIマウスにおいて、i.p.注射により送達すると、アミロイド負荷も低減した(
図7C〜E)。nSOCはAβ産生の負の調節因子として作用することが報告されており(Zeiger et al., 2013)、これはNSN化合物がAPPKIマウスでアミロイド負荷を低減する能力を説明するものであろう。重要なことに、本発明者らは、NSN化合物のi.p.注射が、文脈的恐怖条件づけ試験においてAPPKIマウスの記憶欠損を救済し得ることを示した(
図7F)。得られた結果(
図4A〜7G)に基づき、本発明者らは、NSN21778は脳の老化およびADにおける治療的介入のための有望な候補分子であると結論付けた。
【0127】
本明細書において開示し、特許請求する組成物および方法はすべて、本開示に照らせば、過度の実験を行うことなく作製し、実施することができる。本開示の組成物および方法を好ましい態様に関して記載してきたが、当業者には、本開示の概念、精神および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載の組成物および方法ならびに方法の段階または段階の順序に変化を適用しうることは明らかであろう。より具体的には、化学的および生理的の両方で関連する特定の物質を本明細書に記載の物質の代わりに用い、同時に同じまたは類似の結果を達成し得ることは明らかであろう。当業者には明らかなすべてのそのような類似の代替物および改変は、添付の特許請求の範囲によって規定される、本開示の精神、範囲および概念の範囲内であると考えられる。
【0128】
VI. 参照文献
以下の参照文献は、それらが本明細書に示すものを補う例示的手順または他の詳細を提供する程度に、具体的に参照により本明細書に組み入れられる。