特表2018-516570(P2018-516570A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2018-516570Oct4が導入されたヒト体細胞からダイレクトリプログラミングを用いた希突起膠前駆細胞を誘導する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2018-516570(P2018-516570A)
(43)【公表日】2018年6月28日
(54)【発明の名称】Oct4が導入されたヒト体細胞からダイレクトリプログラミングを用いた希突起膠前駆細胞を誘導する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0797 20100101AFI20180601BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20180601BHJP
   A61K 35/30 20150101ALN20180601BHJP
   A61P 25/00 20060101ALN20180601BHJP
【FI】
   C12N5/0797
   C12N5/10
   A61K35/30
   A61P25/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2017-560793(P2017-560793)
(86)(22)【出願日】2016年5月2日
(85)【翻訳文提出日】2017年11月16日
(86)【国際出願番号】KR2016004603
(87)【国際公開番号】WO2016186346
(87)【国際公開日】20161124
(31)【優先権主張番号】10-2015-0069696
(32)【優先日】2015年5月19日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2016-0043593
(32)【優先日】2016年4月8日
(33)【優先権主張国】KR
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ
(71)【出願人】
【識別番号】517401521
【氏名又は名称】ステムラボ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ソン・クォン・ヨウ
(72)【発明者】
【氏名】ウォン−ジン・ユン
(72)【発明者】
【氏名】ミン・ジ・パク
(72)【発明者】
【氏名】ジ−ヨン・パク
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AA93Y
4B065AB01
4B065BA02
4B065BB02
4B065BB04
4B065BB10
4B065BB12
4B065BB19
4B065BB20
4B065BB34
4B065BB40
4B065CA44
4C087AA03
4C087BB45
4C087CA04
4C087ZA02
(57)【要約】
本発明は、Oct4蛋白質をコードする核酸分子が導入されたヒト体細胞またはOct4蛋白質が処理されたヒト体細胞からダイレクトリプログラミングを用いて希突起膠前駆細胞を誘導する方法に関する。本発明によるOct4が過発現したヒト体細胞に低分子性物質を処理して希突起膠前駆細胞を誘導する方法は、神経幹細胞を経由しないダイレクトリプログラミングを用いて短期間に高効率で希突起膠前駆細胞を確立することができ、難治性脱髄性疾患の細胞治療剤として有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Oct4蛋白質をコードする核酸分子が導入されたヒト体細胞を(i)TGF−βタイプI受容体阻害剤(TGF−βtype I receptor inhibitor);(ii)ROCK阻害剤(Inhibitor of Rho−associated kinase);(iii)ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(Histone deacetylase inhibitor);および(iv)Shh作動剤(Sonic hedgehog agonist)を含有する培地で培養する段階を含むダイレクトリプログラミング(direct reprogramming)を用いたヒト体細胞から希突起膠前駆細胞を誘導する方法。
【請求項2】
前記培地は、カルシウムチャネル作動剤(Calcium channel agonist)をさらに含有することを特徴とする、請求項1に記載のダイレクトリプログラミング(direct reprogramming)を用いたヒト体細胞から希突起膠前駆細胞を誘導する方法。
【請求項3】
ヒト体細胞を(i)TGF−βタイプI受容体阻害剤(TGF−βtype I receptor inhibitor);(ii)ROCK阻害剤(Inhibitor of Rho−associated kinase);(iii)ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(Histone deacetylase inhibitor);および(iv)Shh作動剤(Sonic hedgehog agonist)を含有する培地で培養し、且つ、前記ヒト体細胞は、培養前に、培養と同時に、または培養後にOct4蛋白質を処理する段階を含むダイレクトリプログラミング(direct reprogramming)を用いたヒト体細胞から希突起膠前駆細胞を誘導する方法。
【請求項4】
前記培地は、カルシウムチャネル作動剤(Calcium channel agonist)をさらに含有することを特徴とする、請求項3に記載のダイレクトリプログラミング(direct reprogramming)を用いたヒト体細胞から希突起膠前駆細胞を誘導する方法。
【請求項5】
前記培地は、RG108、BIX01294、SP600125、リゾホスファチジン酸(Lysophosphatidic acid)、Bayk8644、ホルスコリン(Forskolin)、デキサメタソン(Dexamethasone)、EX527およびロリプラム(Rolipram)よりなる群から選択されたいずれか一つをさらに含有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のダイレクトリプログラミング(direct reprogramming)を用いたヒト体細胞から希突起膠前駆細胞を誘導する方法。
【請求項6】
TGF−βタイプI受容体阻害剤はA83−01であり、ROCK阻害剤はチアゾビビン(Thiazovivin)であり、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤はバルプロ酸(Valproic Acid)であり、Shh作動剤はパルモルファミン(Purmorphamine)であることを特徴とする、請求項1または3に記載のダイレクトリプログラミング(direct reprogramming)を用いたヒト体細胞から希突起膠前駆細胞を誘導する方法。
【請求項7】
カルシウムチャネル作動剤は、ホルスコリン(Forskolin)であることを特徴とする、請求項2または4に記載のダイレクトリプログラミング(direct reprogramming)を用いたヒト体細胞から希突起膠前駆細胞を誘導する方法。
【請求項8】
前記培地は、N2、B27、ペニシリン/ストレプトマイシン、非必須アミノ酸、bFGF、PDGFおよびアスコルビン酸が含まれたDMEMであることを特徴とする、請求項1または3に記載のダイレクトリプログラミング(direct reprogramming)を用いたヒト体細胞から希突起膠前駆細胞を誘導する方法。
【請求項9】
前記ヒト体細胞は、包皮線維芽細胞(Foreskin fibroblast)、毛嚢毛乳頭細胞(Hair−follicle dermal papilla)、IMR90肺線維芽細胞および皮膚線維芽細胞(Dermal Fibroblasts)よりなる群から選択されることを特徴とする、請求項1または3に記載のダイレクトリプログラミング(direct reprogramming)を用いたヒト体細胞から希突起膠前駆細胞を誘導する方法。
【請求項10】
前記希突起膠前駆細胞は、PDGFRa、A2B5、Olig2、Sox10、S100bおよびZFP536よりなる群から選択されるいずれか一つ以上のマーカーを発現することを特徴とする、請求項1または3に記載のダイレクトリプログラミング(direct reprogramming)を用いたヒト体細胞から希突起膠前駆細胞を誘導する方法。
【請求項11】
前記希突起膠前駆細胞は、Sox1、Sox2およびPax6マーカーを発現しないことを特徴とする、請求項1または3に記載のダイレクトリプログラミング(direct reprogramming)を用いたヒト体細胞から希突起膠前駆細胞を誘導する方法。
【請求項12】
(i)TGF−βタイプI受容体阻害剤(TGF−βtype I receptor inhibitor);(ii)ROCK阻害剤(Inhibitor of Rho−associated kinase);(iii)ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(Histone deacetylase inhibitor);および(iv)Shh作動剤(Sonic hedgehog agonist)を有効成分として含む、Oct4蛋白質をコードする核酸分子が導入されたヒト体細胞またはOct4蛋白質で処理されたヒト体細胞からダイレクトリプログラミング(direct reprogramming)を用いた希突起膠前駆細胞誘導用組成物。
【請求項13】
カルシウムチャネル作動剤(Calcium channel agonist)をさらに含有することを特徴とする、請求項12に記載のOct4蛋白質をコードする核酸分子が導入されたヒト体細胞またはOct4蛋白質で処理されたヒト体細胞からダイレクトリプログラミング(direct reprogramming)を用いた希突起膠前駆細胞誘導用組成物。
【請求項14】
RG108、BIX01294、SP600125、リゾホスファチジン酸(Lysophosphatidic acid)、Bayk8644、ホルスコリン(Forskolin)、デキサメタソン(Dexamethasone)、EX527およびロリプラム(Rolipram)よりなる群から選択されたいずれか一つをさらに含有することを特徴とする、請求項12または13に記載のOct4蛋白質をコードする核酸分子が導入されたヒト体細胞またはOct4蛋白質で処理されたヒト体細胞からダイレクトリプログラミング(direct reprogramming)を用いた希突起膠前駆細胞誘導用組成物。
【請求項15】
TGF−βタイプI受容体阻害剤はA83−01であり、ROCK阻害剤はチアゾビビン(Thiazovivin)であり、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤はバルプロ酸(Valproic Acid)であり、Shh作動剤はパルモルファミン(Purmorphamine)であることを特徴とする、請求項12に記載のOct4蛋白質をコードする核酸分子が導入されたヒト体細胞またはOct4蛋白質で処理されたヒト体細胞からダイレクトリプログラミング(direct reprogramming)を用いた希突起膠前駆細胞誘導用組成物。
【請求項16】
カルシウムチャネル作動剤は、ホルスコリン(Forskolin)であることを特徴とする、請求項13に記載のOct4蛋白質をコードする核酸分子が導入されたヒト体細胞またはOct4蛋白質で処理されたヒト体細胞からダイレクトリプログラミング(direct reprogramming)を用いた希突起膠前駆細胞誘導用組成物。
【請求項17】
希突起膠前駆細胞は、Sox1、Sox2およびPax6マーカーを発現しないことを特徴とする、請求項12に記載のOct4蛋白質をコードする核酸分子が導入されたヒト体細胞またはOct4蛋白質で処理されたヒト体細胞からダイレクトリプログラミング(direct reprogramming)を用いた希突起膠前駆細胞誘導用組成物。
【請求項18】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法で製造された希突起膠前駆細胞をROCK阻害剤(Inhibitor of Rho−associated kinase)、カルシウムチャネル作動剤(Calcium channel agonist)およびLIF(Leukemia Inhibitory Factor)が含まれた培地で培養する段階を含む、希突起膠前駆細胞を希突起膠細胞に分化させる方法。
【請求項19】
前記培地は、N2、B27、ペニシリン/ストレプトマイシン、非必須アミノ酸、アスコルビン酸およびT3(triiodo−l−thyronine)が含まれたDMEMであることを特徴とする、請求項18に記載の希突起膠前駆細胞を希突起膠細胞に分化させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Oct4蛋白質をコードする核酸分子が導入されたヒト体細胞またはOct4蛋白質が処理されたヒト体細胞からダイレクトリプログラミングを用いて希突起膠前駆細胞を誘導する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化社会となるに伴い、元気な老後と健康で元気な人生のための各個人に応じたオーダーメード型細胞治療剤は、人生の質を向上させるための必須の医薬品である。中枢神経系疾患として知られている多発性硬化症(Multiple Sclerosis)は、正確な原因が明らかにされていない脱髄性疾患であって、症状がひどい場合、感覚および運動障害を伴うが、薬による症状緩和治療が施されるだけで、根本的な治療法がないのが現状である。これにより、ミエリン鞘(Myelin Sheath)の形成が可能な希突起膠細胞(Oligodendrocyte)に分化し得る希突起膠前駆細胞(Oligodendrocyte Precursor Cell;OPC)の移植が主な治療法として提起されており、移植に使用される細胞を得るために、胚芽幹細胞、成体幹細胞を用いた研究が進められている。
【0003】
胚芽幹細胞(Embryonic Stem Cells)は、体細胞とは異なって、無限に分裂し得る能力を有する人体内におけるすべての細胞に分化し得る分化全能性(Pluripotency)細胞である。成体幹細胞は、患者から抽出し得る分化多能性(Multipotency)細胞であって、代表的には神経幹細胞(Neural Stem Cell;NSC)がよく知られている。成体幹細胞である神経幹細胞は、神経系疾患の治療時に免疫拒否反応の問題点を克服できる長所があるため、細胞治療剤として注目されているが、希突起膠細胞に分化し得る能力が顕著に低く、患者本人の脳組織で得なければならないため、得られる細胞の数が制限されていて、大きな効果がないのが実情である。胚芽幹細胞もやはり、臨床利用のために克服すべき短所が存在するが、まず、胚芽幹細胞を得るためには、受精された胚芽を破壊しなければならないため、倫理的な問題点を有しており、胚芽幹細胞から分化した細胞を患者に移植した場合、免疫拒否反応が起こるという問題点がある。
【0004】
このような問題点を克服するために試みられた様々な方法のうち、分化した細胞から未分化した細胞への逆分化(dedifferentiation)方法が注目されており、逆分化は、分化した細胞を利用して胚芽幹細胞のような全分化能幹細胞を製造することを総称する。2006年に日本国の山中伸弥教授が遺伝子導入を用いた逆分化幹細胞(induced pluripotent stem cell;iPS cell)を開発した後、治療剤に適用するための数多くの研究が進められている。
【0005】
マウスまたはヒトの体細胞に4個の遺伝子(逆分化誘導因子;Oct4、Sox2、c−Myc、Klf4)を導入した後、胚芽幹細胞の培養条件で長期間培養すると、胚芽幹細胞と類似した特性の幹細胞が確立するという報告(Cell 126:663−676、2006;Science 318:1917−1920、2007)以後、これを臨床的に利用するために、遺伝子を代替し得る様々な方法が研究されている。しかし、まだヒト体細胞に対する研究結果は不十分であり、逆分化誘導機序を糾明しにくい点および良性腫瘍(teratoma)形成の危険などに起因して、逆分化幹細胞を臨床適用するのに困難がある。このような逆分化幹細胞の代案として最近提示されている方法が、「ダイレクトリプログラミング(Direct reprogramming)」方法であり、細胞で特異的に発現する遺伝子の導入技術および逆分化誘導因子と低分子性物質の組合せにより成長信号の調節を用いた万能性の獲得なしに所望の細胞に誘導する技術の二つに分けられる。この方法は、様々な幹細胞の長所だけを有しながら、臨床適用を阻害する要素を相当部分除去したという点において高く評価されている。
【0006】
最近、米国のMarius Wernig研究チームは3個の遺伝子(Olig2、Sox10、Zfp536)を、Paul J Tesar研究チームも3個の遺伝子(Olig2、Sox10、NKX6.2)を利用してマウス希突起膠前駆細胞の確立が可能であることを示し、マウス体細胞から希突起膠前駆細胞にダイレクトリプログラミングに成功したことを報告した。しかし、まだヒトの体細胞を利用した報告はない。また、米国のShengding研究チームとMickie Bhatia研究チームは、ヒトの体細胞にOct4遺伝子を導入して、ダイレクトリプログラミングを用いた神経幹細胞の確立を示し、Oct4遺伝子が細胞内で神経系関連遺伝子の発現を調節できるという新しいパラダイムを提示した。
【0007】
これにより、本発明者らは、ヒトの体細胞からダイレクトリプログラミングを用いた希突起膠前駆細胞を誘導するために鋭意努力した結果、ヒト体細胞にOct4を導入させ、希突起膠細胞の形成に関与する様々な低分子性物質を処理して、希突起膠前駆細胞への誘導が可能であることを確認し、本発明を完成した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、Oct4蛋白質をコードする核酸分子が導入されたヒト体細胞を特定の低分子性物質を含有する培地で培養する段階を含むダイレクトリプログラミング(direct reprogramming)を用いたヒト体細胞から希突起膠前駆細胞を誘導する方法を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、ヒト体細胞を特定の低分子性物質を含有する培地で培養し、且つ、前記ヒト体細胞は、培養前に、培養と同時に、または培養後にOct4蛋白質で処理する段階を含むダイレクトリプログラミング(direct reprogramming)を用いたヒト体細胞から希突起膠前駆細胞を誘導する方法を提供することにある。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、特定の低分子性物質を有効成分として含む、Oct4蛋白質をコードする核酸分子が導入されるか、またはOct4蛋白質で処理されたヒト体細胞からダイレクトリプログラミング(direct reprogramming)を用いた希突起膠前駆細胞誘導用組成物を提供することにある。
【0011】
本発明のさらに他の目的は、前記方法で製造された希突起膠前駆細胞を希突起膠細胞に分化させる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明は、Oct4蛋白質をコードする核酸分子が導入されたヒト体細胞を(i)TGF−βタイプI受容体阻害剤(TGF−β type I receptor inhibitor);(ii)ROCK阻害剤(Inhibitor of Rho−associated kinase);(iii)ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(Histone deacetylase inhibitor);および(iv)Shh作動剤(Sonic hedgehog agonist)を含有する培地で培養する段階を含むダイレクトリプログラミング(direct reprogramming)を用いたヒト体細胞から希突起膠前駆細胞を誘導する方法を提供する。
【0013】
また、本発明は、ヒト体細胞を(i)TGF−βタイプI受容体阻害剤(TGF−βtype I receptor inhibitor);(ii)ROCK阻害剤(Inhibitor of Rho−associated kinase);(iii)ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(Histone deacetylase inhibitor);および(iv)Shh作動剤(Sonic hedgehog agonist)を含有する培地で培養し、且つ、前記ヒト体細胞は、培養前に、培養と同時に、または培養後にOct4蛋白質を処理する段階を含むダイレクトリプログラミング(direct reprogramming)を用いたヒト体細胞から希突起膠前駆細胞を誘導する方法を提供する。
【0014】
また、本発明は、(i)TGF−βタイプI受容体阻害剤(TGF−βtype I receptor inhibitor);(ii)ROCK阻害剤(Inhibitor of Rho−associated kinase);(iii)ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(Histone deacetylase inhibitor);および(iv)Shh作動剤(Sonic hedgehog agonist)を有効成分として含む、Oct4蛋白質をコードする核酸分子が導入されたヒト体細胞またはOct4蛋白質で処理されたヒト体細胞からダイレクトリプログラミング(direct reprogramming)を用いた希突起膠前駆細胞誘導用組成物を提供する。
【0015】
また、本発明は、前記方法で製造された希突起膠前駆細胞をROCK阻害剤(Inhibitor of Rho−associated kinase)、カルシウムチャネル作動剤(Calcium channel agonist)およびLIF(Leukemia Inhibitory Factor)が含まれた培地で培養する段階を含む希突起膠前駆細胞を希突起膠細胞に分化させる方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、Sox10::eGFP hESCsから分化させたFibroblastsにOct4を導入して、iOPCsが誘導されることを示す図である。
図2図2は、Sox10::eGFP fibroblastsにOct4を導入して、Reprogramming Media(RM)で7日間培養後、Inducing Media(IM)で培養を通じて希突起膠前駆細胞(induced OPCs、iOPCs)を確立するのに必要な低分子性物質を選別する過程を示す図である。
図3図3は、Oct4が導入されたSox10::eGFP Fibroblastsに低分子性物質を処理した後、GFP+分布をFACS分析を通じて確認した結果である。
図4図4は、Oct4が導入されたSox10::eGFP Fibroblastsに低分子性物質を処理した後、Sox10以外に希突起膠前駆細胞のマーカーとして知られているOlig2、NKX2.2およびZFP536のmRNA水準をリアルタイムPCRを通じて確認した結果である。
図5図5は、KSR(Knockout Serum Replacement)を使用せずに、ヒト体細胞から希突起膠前駆細胞の形状が現れることを示す図であり、Olig2、Sox10およびZFP536マーカーが発現することを確認した結果である。
図6図6は、低分子性物質が一つずつ除去された培地と全部含有された培地におけるSox10発現を比較した図である。
図7図7は、KSR(Knockout Serum Replacement)を使用せずに、ヒト体細胞からiOPCsを誘導することを示す図である。
図8図8は、誘導培地(IM)で培養した3日後に上皮間葉移行(MMET:esenchymal to Epithelial Transition)過程を経た細胞を確認し、培養7日後にOPCと類似した形状の細胞を確認した結果である。
図9図9は、FACS分析を通じてiOPCでOPCマーカーであるPDGFRa、A2B5の発現を確認した結果である。
図10図10は、免疫化学染色法を通じてiOPCで発現するPDGFRa、A2B5の発現を細胞膜で確認した結果である。
図11図11は、リアルタイムPCRを通じてiOPCでOPCマーカー遺伝子のmRNAの発現を比較分析した結果である。
図12図12は、確立されたiOPCを成長因子が排除された分化条件で40日〜60日間培養したときに現れる典型的なBranch類型の形態で希突起膠細胞(Oligodendrocyte)の分化を確認した結果であり、リアルタイムPCRと免疫化学染色法を通じて希突起膠細胞のマーカーであるMBPとMAGの発現増加を確認した結果である。
図13図13は、GFPを発現するiOPCをマウスのニューロン(Neuron)と共培養して、希突起膠細胞に分化し、ニューロンとミエリン鞘形成(myelination)を成していることを確認した結果である。
図14図14は、生体内分化および治療剤としての効能を検証するために、多発性硬化症動物モデルにiOPCを移植して、myelinが正常マウスと類似して観察されることを確認した。
図15図15は、iOPCsの誘導過程がOct4過発現後に神経幹細胞を経て分化をしたものでないことを証明するために、誘導期間中に神経幹細胞マーカーであるSox1、Sox2、Pax6遺伝子の発現をリアルタイムPCRを通じて確認した結果である。
図16図16は、iOPCsの誘導過程が神経幹細胞を経由せずに、成長因子に反応して増殖するiOPCであることを証明するために、誘導過程中にOPCsの成長因子であるbFGF、PDGF−AAを培養液で除去した後に増殖を確認し、前記成長因子依存増殖細胞でOPCマーカーであるPDGFRa、A2B5の発現をFACS分析で確認した。
図17図17は、毛嚢細胞(Hair−follicle Dermal Papilla)でOct4を過発現させてIMで培養した後、OPCマーカーの発現をFACS分析およびリアルタイムPCR、免疫化学染色法で分析した結果である。
図18図18は、羊水幹細胞、多様な年齢帯の脂肪由来幹細胞および皮膚細胞でOct4を過発現させてIMで培養した後、OPCマーカーの発現をリアルタイムPCRまたはFACS分析を通じて示す結果である。
図19図19は、本発明の全体的な内容および従来技術との差異点を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
他の方式で定義されない限り、本明細書で使用されたすべての技術的および科学的用語は、本発明の属する技術分野における熟練した専門家により通常的に理解されることと同じ意味を有する。一般的に、本明細書で使用された命名法は、当該技術分野においてよく知られていて、通常的に使用されるものである。
【0018】
本発明において、ヒト体細胞にOct4を過発現させ、希突起膠細胞の形成に関与する様々な低分子性物質を共に処理するOct4遺伝子の導入と培養条件の調節を通じて希突起膠前駆細胞への誘導が可能であることを確認し、OPCマーカー遺伝子の発現、後成学的特性(epigenetics)およびin vitroにおけるミエリン(Myelin)形成能力などを確認した。また、このように誘導された希突起膠前駆細胞が分化して細胞治療剤としての効能を示すことを確認した。
【0019】
本発明は、ダイレクトリプログラミング方法を活用した各患者に応じたオーダーメード型細胞治療剤の開発に関し、本発明者らは、以前に確立した低分子性物質(KR10−1357402)を基に新しい物質の組合せを知見し、遺伝子との組合せを通じてヒト体細胞から神経幹細胞を経由せずに、希突起膠前駆細胞を確立した。
【0020】
本発明の一実施例では、ヒト体細胞である包皮線維芽細胞にOct4遺伝子を導入した後、A83−01、チアゾビビン、バルプロ酸(VPA)、パルモルファミンおよびホルスコリンを含有する培地で培養して、希突起膠前駆細胞マーカーの発現を確認し、ヒト体細胞から希突起膠前駆細胞への誘導を確認した。
【0021】
したがって、本発明は、一態様において、Oct4蛋白質をコードする核酸分子が導入されたヒト体細胞を(i)TGF−βタイプI受容体阻害剤(TGF−βtype I receptor inhibitor);(ii)ROCK阻害剤(Inhibitor of Rho−associated kinase);(iii)ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(Histone deacetylase inhibitor);および(iv)Shh作動剤(Sonic hedgehog agonist)を含有する培地で培養する段階を含むダイレクトリプログラミング(direct reprogramming)を用いたヒト体細胞から希突起膠前駆細胞を誘導する方法に関する。
【0022】
本発明の一実施例では、ヒト体細胞である包皮線維芽細胞にOct4蛋白質をコードする核酸形態の遺伝子を導入して、Oct4を過発現させたが、希突起膠前駆細胞を誘導するためには、体細胞にOct4遺伝子を導入する方法以外にも、Oct4蛋白質を直接体細胞に処理して使用してもよい。Oct4蛋白質は、体細胞を低分子性物質を含有する培地で培養する前に、培養と同時に、または培養後に処理することができる。
【0023】
したがって、本発明は、他の態様において、ヒト体細胞を(i)TGF−βタイプI受容体阻害剤(TGF−βtype I receptor inhibitor);(ii)ROCK阻害剤(Inhibitor of Rho−associated kinase);(iii)ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(Histone deacetylase inhibitor);および(iv)Shh作動剤(Sonic hedgehog agonist)を含有する培地で培養し、且つ、前記ヒト体細胞は、培養前に、培養と同時に、または培養後にOct4蛋白質を処理する段階を含むダイレクトリプログラミング(direct reprogramming)を用いたヒト体細胞から希突起膠前駆細胞を誘導する方法に関する。
【0024】
本発明において、培地は、カルシウムチャネル作動剤(Calcium channel agonist)をさらに含有することが好ましく、また、RG108、BIX01294、SP600125、リゾホスファチジン酸(Lysophosphatidic acid)、Bayk8644、ホルスコリン(Forskolin)、デキサメタソン(Dexamethasone)、EX527およびロリプラム(Rolipram)よりなる群から選択されたいずれか一つをさらに含有することが好ましいが、これに限らない。
【0025】
本発明において、TGF−βタイプI受容体阻害剤はA83−01であり、ROCK阻害剤はチアゾビビン(Thiazovivin)であり、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤はバルプロ酸(Valproic Acid)であり、またはShh作動剤はパルモルファミン(Purmorphamine)であることが好ましく、カルシウムチャネル作動剤はホルスコリン(Forskolin)であることが好ましいが、これに限らない。
【0026】
本発明において「A83−01」は、TGF−βタイプIレセプター阻害剤(TGF−βtype I receptor inhibitor)であり、TGF−βタイプIレセプターに結合してTGF−βタイプIの正常な信号伝達過程を妨害する物質を意味する(Tojo M et al.,Cancer Sci.96:791−800、2005)。TGF−βタイプI(Transforming growth factor−β type I)は、細胞増殖、分化および多様な種類の細胞に多様な作用をする多機能性ペプチドであって、このような多機能性は、脂肪細胞の形成、筋細胞の形成、骨細胞の形成、上皮細胞の分化などの様々な組織の成長および分化において中枢的な役目をし、神経幹細胞の増殖を抑制すると知られている。前記TGF−βタイプIレセプター阻害剤A83−01以外にも、SB432542を含むすべてのTGF−βタイプIレセプター阻害剤が使用でき、前記低分子性物質TGF−βタイプIレセプター阻害剤A83−01は、市中で購入して使用するか、または製造して使用することができ、前記阻害剤の処理により神経幹細胞の増殖が促進される。前記TGF−βタイプIレセプター阻害剤A83−01は、培地に処理して有効な濃度で含まれるようにする。培地の種類および培養方法など当該分野においてよく知られた要素に応じて有効な濃度は影響を受け得る。
【0027】
本発明において「チアゾビビン(Thiazovivin:N−benzyl−2−(pyrimidin−4−ylamino)thiazole−4−carboxamide)」は、神経細胞と神経幹細胞の細胞死滅を誘導するRho/ROCK信号を阻止し、神経幹細胞の増殖を抑制するPTEN信号を阻止すると知られていて、神経幹細胞の細胞死滅抑制と自己再生能力と自己増殖能力を増加させることができると予想される(Matthias Groszer,et al.,Science 294:2186、2001)。前記チアゾビビン(Thiazovivin)は、ROCK阻害剤(inhibitor of Rho−associated kinase:ROCK)でROCK(Rho−associated kinase)を選択的に抑制する役目をする物質であって、チアゾビビン以外にY−27632等が使用できる。前記チアゾビビンを培地に処理して有効濃度で含まれるようにし、培地の種類および培養方法など当該分野においてよく知られた要素に応じて有効な濃度は影響を受け得る。
【0028】
本発明において「VPA(valproic acid、2−プロピルペンタン酸)」は、ヒストンデアセチラーゼを抑制する物質であり、クロマチンを高アセチル化状態にして、細胞増殖抑制因子および分化誘導に必須な遺伝子の発現を促進して、細胞(癌細胞)の分化を誘導し、血管新生(angiogenesis)を抑制し、細胞周期をG1状態に固定させて、癌細胞(cancer cell)のアポトーシス(apoptosis)を誘発し、強い細胞増殖抑制(cytostatic)抗癌活性を示すと知られている。ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)は、pRB/E2Fを媒介として遺伝子転写(gene transcription)を抑制し、ヒストンアセチレーション(histone acetylation)の破壊が様々な癌発生と関連しており、HDACは、低酸素症、低糖、細胞癌化など劣悪な環境条件で高発現され、細胞増殖抑制因子の発現を阻害して細胞増殖を促進させる役目をし、HDACは、細胞の癌化および分化調節に重要調節因子として認識されていると知られている。特に、前記VPAは、イノシトールの減少を誘発し、GSK−3βを阻害し、ERK pathwayを活性化させ、PPAR活性を刺激するものと知られている。前記ヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDAC inhibitor)VPA(valproic acid、2−プロピルペンタン酸)以外にも、トラコスタチン(trichostatin、TSA)またはその誘導体などが使用でき、前記誘導体は、薬剤学的に許容可能な各種無機塩または有機塩を含む。処理濃度があまり低いと、効果を発揮しくく、濃度があまり高いと、毒性を有するようになるので、細胞の種類によって適正な濃度を確認しなければならない。
【0029】
本発明において「パルモルファミン(purmorphamine)」は、プリン化合物(purine compound)であって、Shh信号体系に関与するものと知られている。前記パルモルファミンは、Shhシグナルを誘導できる場合、特別な制限があるものではなく、多様な誘導体が使用できる。例えば2−(1−Naphthoxy)−6−(4−morpholinoanilino)−9−cyclohexylpurin)等を市中で購入して使用できる。前記パルモルファミンは、神経幹細胞類似細胞であって、逆分化を誘導するために通常的に使用される培地に処理すればよい。このようにShh類似体であるパルモルファミンを処理すると、ヒトの線維芽細胞から神経幹細胞を製造するために遺伝子を導入する必要がないという利点がある。前記パルモルファミンは、前記培地に有効な濃度で含まれるようにする。培地の種類と培養方法など、当該分野においてよく知られた要素に応じてパルモルファミンの有効な濃度は影響を受け得る。
【0030】
本発明において「ホルスコリン」は、アデニル酸シクラーゼの触媒小単位を直接活性化して細胞内cAMPの濃度を上昇させる作用をし、「トラニルシプロミン」は、神経末端で正常にノルエピネフリンを分解する酵素であるモノアミン酸化酵素(MAO)を抑制する作用をする。
【0031】
本発明において、培養培地は、神経幹細胞培養に通常的に使用される培地を全部含み、培養に使用される培地は、一般的に炭素源、窒素源および微量元素成分を含む。本発明の培地は、N2、B27、ペニシリン/ストレプトマイシン、非必須アミノ酸、bFGF、PDGFおよびアスコルビン酸が含まれたDMEMであることが好ましいが、これに限らない。
【0032】
本発明の誘導された細胞培養のための培地は、当業界に知られている基本培地を制限なしに使用できる。基本培地は、人為的に合成して製造することができ、商業的に製造された培地を使用することもできる。商業的に製造される培地の例を取ると、DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)、MEM(Minimal Essential Medium)、BME(Basal Medium Eagle)、RPMI 1640、F−10、F−12、α−MEM(α−Minimal essential Medium)、G−MEM(Glasgow’s Minimal Essential Medium)およびIsocove’s Modified Dulbecco’s Mediumなどがあるが、これに限定されるものではなく、DMEM培地であってもよい。本発明の具体的な実施例では、DMEM培地に培養させた。
【0033】
本発明において、前記ヒト体細胞は、包皮線維芽細胞(Foreskin fibroblast)、毛嚢毛乳頭細胞(Hair−follicle dermal papilla)、IMR90肺線維芽細胞または皮膚線維芽細胞(Dermal Fibroblasts)であることが好ましいが、これに限らない。また、ヒト体細胞以外に、羊膜幹細胞(Amniotic derived Stem Cells)または脂肪幹細胞(Adipose−derived Stem Cells)から希突起膠前駆細胞の誘導もまた可能である。
【0034】
本発明のOct4は、蛋白質または当該蛋白質をコードする核酸の形態で提供されることが好ましく、本発明のOct4蛋白質は、当該野生型(wild type)のアミノ酸配列を有する蛋白質だけでなく、Oct4蛋白質の変異体を含む。
【0035】
前記Oct4蛋白質の変異体とは、Oct4の天然アミノ酸配列と一つ以上のアミノ酸残基が欠失、挿入、非保全的または保全的置換またはこれらの組合せによって異なる配列を有する蛋白質を意味する。前記変異体は、天然蛋白質と同じ生物学的活性を示す機能的等価物であるか、または、必要に応じて蛋白質の物理化学的性質が変形して、物理、化学的環境に対する構造的安定性が増大するか、または生理学的活性が増大した変異体であってもよい。
【0036】
より好ましくは、Oct4蛋白質をコードするヌクレオチド配列を有する核酸の形態であり、前記Oct4をコードするヌクレオチド配列は、野生型または前記変異体形態のOct4蛋白質をコードするヌクレオチド配列であって、一つ以上の塩基が置換、欠失、挿入またはこれらの組合せにより変異し得、天然で分離されるか、または、化学的合成法を利用して製造することができる。前記Oct4蛋白質をコードするヌクレオチド配列を有する核酸は、単鎖または二重鎖であってもよく、DNA分子(ゲノム、cDNA)またはRNA分子であってもよい。
【0037】
前記Oct4蛋白質をコードする核酸は、当該分野において公知にされた方法、例えばベクター形態のネイキッドDNAで細胞内に導入するか(Wolff et al.Science,1990:Wolff et al.J Cell Sci.103:1249−59,1992)、リポソーム(Liposome)、カチオン性高分子(Cationic polymer)等を利用して細胞内に導入され得る。リポソームは、遺伝子導入のためにDOTMAやDOTAPなどのカチオン性リン脂質を混合して製造したリン脂質膜であって、カチオン性のリポソームとアニオン性の核酸を一定の比率で混合すると、核酸−リポソーム複合体が形成される。
【0038】
本発明において用語「ベクター」とは、適当な宿主細胞で目的の蛋白質を発現できる発現ベクターであって、遺伝子挿入物が発現するように作動可能に連結された必須の調節要素を含む遺伝子構築物をいう。
【0039】
本発明において用語「作動可能に連結された(operably linked)」は、一般的機能を行うように核酸発現調節配列と目的とする蛋白質をコードする核酸配列が機能的に連結(functional linkage)されているものをいう。組換えベクターとの作動的連結は、当該技術分野においてよく知られている遺伝子組換え技術を利用して製造することができ、部位特異的DNA切断および連結は、当該技術分野において一般的に知られている酵素などを使用する。
【0040】
本発明のベクターは、プロモーター、オペレーター、開始コドン、終止コドン、ポリアデニル化シグナル、エンハンサーのような発現調節要素以外にも、膜の標的化または分泌のための信号配列またはリーダー配列を含み、目的に応じて多様に製造され得る。ベクターのプロモーターは、構成的または誘導性であってもよい。また、発現ベクターは、ベクターを含有する宿主細胞を選択するための選択性マーカーを含み、複製可能な発現ベクターである場合、複製起源を含む。ベクターは、自己複製するか、または、宿主DNAに統合され得る。
【0041】
ベクターは、プラスミドベクター、コスミドベクター、ウイルスベクターなどを含む。好ましくは、ウイルスベクターである。ウイルスベクターは、レトロウイルス(Retrovirus)、例えばHIV(Human immunodeficiency virus)、MLV(Murineleukemia virus)、ASLV(Avian sarcoma/leukosis)、SNV(Spleen necrosis virus)、RSV(Rous sarcoma virus)、MMTV(Mouse mammary tumor virus)等、アデノウイルス(Adenovirus)、アデノ関連ウイルス(Adenoassociatedvirus)、単純ヘルペスウイルス(Herpes simplex virus)等に由来するベクターを含むが、これに限らない。
【0042】
本発明において、前記希突起膠前駆細胞は、PDGFRa、A2B5、Olig2、Sox10、S100bおよびZFP536よりなる群から選択されるいずれか一つ以上のマーカーを発現することを特徴とし、Sox1、Sox2およびPax6マーカーを発現しないことを特徴とする。
【0043】
本発明は、さらに他の態様において、(i)TGF−βタイプI受容体阻害剤(TGF−βtype I receptor inhibitor);(ii)ROCK阻害剤(Inhibitor of Rho−associated kinase);(iii)ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(Histone deacetylase inhibitor);および(iv)Shh作動剤(Sonic hedgehog agonist)を有効成分として含む、Oct4蛋白質をコードする核酸分子が導入されたヒト体細胞またはOct4蛋白質で処理されたヒト体細胞からダイレクトリプログラミング(direct reprogramming)を用いた希突起膠前駆細胞誘導用組成物に関する。
【0044】
本発明において、カルシウムチャネル作動剤(Calcium channel agonist)をさらに含有することを特徴とし、また、RG108、BIX01294、SP600125、リゾホスファチジン酸(Lysophosphatidic acid)、Bayk8644、ホルスコリン(Forskolin)、デキサメタソン(Dexamethasone)、EX527およびロリプラム(Rolipram)よりなる群から選択されたいずれか一つをさらに含有することを特徴とする。
【0045】
本発明において、TGF−βタイプI受容体阻害剤はA83−01であり、ROCK阻害剤はチアゾビビン(Thiazovivin)であり、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤はバルプロ酸(Valproic Acid)であり、またはShh作動剤はパルモルファミン(Purmorphamine)であることが好ましく、カルシウムチャネル作動剤は、ホルスコリン(Forskolin)であることが好ましいが、これに限らない。
【0046】
本発明において、前記希突起膠前駆細胞は、Sox1、Sox2およびPax6マーカーを発現しないことを特徴とする。
【0047】
本発明の他の実施例では、従来の誘導培養液において成長因子および特定の低分子性物質を除去し、T3(triiodo−l−thyronine)、チアゾビビン、ホルスコリンおよびLIFを添加した分化培養液を利用して誘導された希突起膠前駆細胞が希突起膠細胞に分化することを確認した。
【0048】
したがって、本発明は、さらに他の態様において、前記方法で製造された希突起膠前駆細胞をROCK阻害剤(Inhibitor of Rho−associated kinase)、カルシウムチャネル作動剤(Calcium channel agonist)およびLIF(Leukemia Inhibitory Factor)が含まれた培地で培養する段階を含む希突起膠前駆細胞を希突起膠細胞に分化させる方法に関する。
【0049】
本発明において、培地は、N2、B27、ペニシリン/ストレプトマイシン、非必須アミノ酸、アスコルビン酸およびT3(triiodo−l−thyronine)が含まれたDMEMであることが好ましいが、これに限らない。
【0050】
本発明の希突起膠前駆細胞の場合、大脳でも極めて少量存在する細胞であると知られているだけでなく、大脳を構成する神経幹細胞においても分化率が低いと知られていて、上位幹細胞から希突起膠前駆細胞を確立するのに多くの困難がある。したがって、従来技術の場合、希突起膠前駆細胞を効率的に確立しようとする研究が数多く進められているが、最小70日という長期間の分化を通じずには希突起膠前駆細胞を確立できない問題点がある。
【0051】
本発明は、神経幹細胞を経由せずに、ダイレクトリプログラミングを用いて希突起膠前駆細胞を1週〜2週程度の相対的に短期間の培養を通じて確立できるため、短期間に高効率の細胞転換率でこのような問題点を解決することができる。また、まだヒト体細胞を利用したダイレクトリプログラミングを利用した希突起膠前駆細胞の確立に関する報告がないため、今後、細胞治療剤の市場において脱髄性疾患関連治療剤として有用であり、本発明の低分子性物質が神経系の治療において重要な役目をするものと期待される。
【0052】
脱髄性疾患(demyelination disease)は、希突起膠細胞の不在により起こる難治性神経系疾患であって、従来の技術は、胚芽幹細胞から希突起膠前駆細胞を確立して治療する研究が大部分である。しかし、胚芽幹細胞は、免疫拒否反応に起因して限界があるだけでなく、倫理的な問題があるため、治療剤として確立するのに困難がある。これにより、本発明による体細胞からダイレクトリプログラミングを用いて希突起膠前駆細胞を確立する方法は、倫理的な問題を解決すると共に、免疫拒否反応がないため、各患者に応じたオーダーメード型細胞治療剤を確立するのに大きく寄与することができる。
【0053】
実施例
以下、実施例を通じて本発明をより詳しく説明する。これらの実施例は、単に本発明をより具体的に説明するためのものであって、本発明の要旨によって本発明の範囲がこれらの実施例に限定されないことは、当業界における通常の知識を有する者にとって自明である。
【0054】
実施例1:低分子性物質の選別および誘導条件の確立
1−1:Sox10レポーターシステムを利用した低分子性物質の選別
本発明者らは、遺伝子の導入なしに低分子性物質だけでマウス細胞から神経幹細胞を誘導できる条件を確立したことがある(KR10−1357402)。したがって、以前の研究で確立された低分子性物質に基づいてヒト体細胞を希突起膠前駆細胞に誘導し得る新しい条件を確立するために、希突起膠細胞の発達に重要であると知られている遺伝子であるSox10レポーターシステム(Sox10::eGFP)を利用して低分子性物質を選別した(図1)。
【0055】
Oct4遺伝子が導入された細胞をReprogramming Media(RM:DMEM High Glucose+5% Knock out Serum Replacement(KSR)+1%ペニシリン/ストレプトマイシン+1%非必須アミノ酸+basic FGF(bFGF)20ng/ml+Human Recombinant Platelet Derived Growth Factor(PDGF)20ng/ml+アスコルビン酸50μg/ml)で培養したとき、誘導1週間後に、上皮間葉移行(Mesenchymal to Epithelial Transition:MET)過程を通じて細胞の長さが短くなり、サイズが小さくなって、上皮類似コロニー(Epithelial like Colony)を形成することを確認した。この細胞をマトリゲルコートディッシュ(Matrigel coated dish)に継代培養を行った後、神経幹細胞を誘導できる低分子性物質の組合せであるA83−01、チアゾビビン(Thiazovivin)、バルプロ酸(Valproic Acid)、パルモルファミン(Purmorphamine)が含まれた培養液(DMEM High glucose+1XN2+1XB27(without vitamin A)+1%ペニシリン/ストレプトマイシン+1%非必須アミノ酸+basic FGF(bFGF)20ng/ml+Human Recombinant Platelet Derived Growth Factor(PDGF)20ng/ml+アスコルビン酸50μg/ml+0.5μMのA83−01+0.5μMのチアゾビビン+0.1mMのバルプロ酸(VPA)+0.5μMのパルモルファミン)に後成的調節因子(epigenetic modulator)および神経系発達に影響を及ぼす低分子性物質などをさらに組み合わせて選別した。
【0056】
次は、低分子性物質の組合せ条件を示す。
ATVP:0.5μMのA83−01+0.5μMのチアゾビビン+0.1mMのバルプロ酸(VPA)+0.5μMのパルモルファミン、RG108:0.5μMのRG108、BIX01294:0.25μMのBIX01294、SP600125:2μMのSP600125、LPA:2μMのリゾホスファチジン酸(Lysophosphatidic acid)、Bayk:2μMのBayk8644、Fsk:10μMのホルスコリン(Forskolin)、Dex:1μMのデキサメタソン(Dexamethasone)、EX527:5μMのEX527、Rolipram:2μMのロリプラム(Rolipram)
【0057】
その結果、10μMのホルスコリン(Forskolin)を添加した条件でSox10::eGFPの発現が最も高い(3.31%)ことをFACS分析を通じて確認したのであり(図3)、リアルタイムPCRを通じてSox10以外に希突起膠前駆細胞のマーカーと知られているOlig2、NKX2.2およびZFP536のmRNA発現もまた、前記条件で最も高いことを確認した(図4)。
【0058】
1−2:KSRを排除した誘導条件の確立
実施例1−1のReprogramming Media(RM)に含有されたKnockout Serum Replacement(KSR)の場合、Oct4の過発現と共に利用される場合、神経幹細胞への転換が可能であるという報告がある。
【0059】
これにより、リプログラミングでなく、分化で誘導された希突起膠前駆細胞を排除するために、KSRを除いた条件で希突起膠前駆細胞を誘導した結果、希突起膠前駆細胞の形状が現れることを確認したのであり、希突起膠前駆細胞のマーカーであるOlig2、Sox10およびZFP536の発現をPCRを通じて検証した(図5)。
【0060】
また、最適の低分子性物質の組合せを選別するために、実施例1−1の誘導条件で低分子性物質を一つずつ除去して処理してみた結果、低分子性物質がすべて含有された培地で最も高いSox10の発現を確認した(図6)。
【0061】
したがって、前記確立された条件(IM:DMEM High glucose+1X N2+1XB27(without vitamin A)+1%ペニシリン/ストレプトマイシン+1%非必須アミノ酸+basic FGF(bFGF)20ng/ml+Human Recombinant Platelet Derived Growth Factor(PDGF)20ng/ml+アスコルビン酸50μg/ml+0.5μM のA83−01+0.5μMのチアゾビビン+250μMのバルプロ酸(VPA)+0.5μMのパルモルファミン+10μMのホルスコリン)を希突起膠前駆細胞の誘導条件として確立した(図2)。
【0062】
実施例2:ヒト体細胞から希突起膠前駆細胞の誘導および検証
実施例1−1のレポーター細胞株として使用されたSox10::eGFP線維芽細胞(fibroblasts)の場合、胚芽幹細胞(ES cell)から分化を通じて得られた細胞であるので、線維芽細胞でない他の幹細胞を完全に排除できないため、体細胞からのダイレクトリプログラミングであると見られない。また、米国のShengding研究チームとMickie Bhatia研究チームがヒト体細胞にOct4を過発現させた後、神経幹細胞を確立する過程で、KSR(Knock out Serum Replacement)が入った培養液を使用したため、本実施例では、胚芽(Embryo)由来でないヒト体細胞から希突起膠前駆細胞の上位幹細胞である神経幹細胞を経由せずにダイレクトリプログラミングを誘導するために、KSRが入ったRM(Reprogramming Media)を使用しなかった(図7)。
【0063】
すなわち、BJ細胞にOct4遺伝子を導入した後、マトリゲルコートディッシュ(Matrigel coated dish)に継代培養し、前記実施例1−2で確立された希突起膠前駆細胞の誘導条件(IM)で4日間培養した結果、上皮間葉移行(MET)過程を経た細胞が観察されたのであり、培養7日後に希突起膠細胞のように見える細胞が観察された(図8)。
【0064】
また、培養7日後の細胞が希突起膠前駆細胞であるかを確認するために、FACS分析(図9)および免疫化学染色法(図10)を通じて、約10%細胞が希突起膠前駆細胞の代表的なマーカーであるPDGFRaおよびA2B5がそれぞれ発現することを確認したのであり、リアルタイムPCRを通じて誘導された希突起膠前駆細胞で逆分化幹細胞に由来する希突起膠前駆細胞で発現するマーカーであるOlig2、Sox10、S100bおよびZFP536が発現することを確認した(図11)。
【0065】
前記結果に基づいて、確立された細胞を誘導された希突起膠前駆細胞(induced OPC:iOPC)と命名した。
【0066】
実施例3:希突起膠前駆細胞の希突起膠細胞への分化
3−1:希突起膠細胞への分化
実施例2で誘導された希突起膠前駆細胞の希突起膠細胞への分化能力を確認するために、従来の培養液において成長因子を除去し、分化培養液(DMEM High glucose+1XN2+1XB27(without vitamin A)+1%ペニシリン/ストレプトマイシン+1%非必須アミノ酸+50μg/mlのアスコルビン酸+40ng/mlのT3(triiodo−l−thyronine)+0.5μMのチアゾビビン+10μMのホルスコリン+10ng/mlのHuman Leukemia Inhibitor Factor(LIF))に変えた。
【0067】
その結果、希突起膠細胞の典型的なBranch類型の形態(morphology)を示したのであり、リアルタイムPCRを通じてMBPおよびMAGの発現が増加することを確認した(図12)。
【0068】
また、分化した希突起膠細胞のin vitroミエリン鞘形成(myelination)を確認するために、ラット(Rat)の海馬(Hippocampus)から得たニューロンと共培養を進めた結果、分化した希突起膠細胞がニューロンとの髄鞘形成(myelination)を成すことを確認した(図13)。
【0069】
3−2:生体内分化および治療能の検証
希突起膠前駆細胞の生体内分化能および細胞治療剤としての治療能を検証するために、多発性硬化症動物モデル(Experimental Autoimmune Encephalomyelitis mouse model、EAE mouse model)に実施例2で誘導された希突起膠前駆細胞を移植した。
【0070】
その結果、PBSを注入した対照群では、ミエリン(myelin)が全く観察されなかったが、iOPCが移植された群では、ミエリン (myelin)が正常なマウスと類似して観察されることを確認した(図14)。すなわち、誘導された希突起膠前駆細胞(induced OPC:iOPC)は、生体内で分化して、細胞治療剤としての効能を示すことが分かった。
【0071】
実施例4:ダイレクトリプログラミングを用いた希突起膠前駆細胞の誘導
本実施例では、iOPCを確立する過程で、iOPCがOct4過発現後に誘導された神経幹細胞から分化したものでなく、ダイレクトリプログラミングを用いて確立されたことを検証するために、誘導7日間の遺伝子発現の変化をリアルタイムPCRを通じて確認した。
【0072】
その結果、神経幹細胞のマーカーと知られているSox1、Sox2およびPax6がいずれも7日間発現されないことを確認した(図15)。
【0073】
また、誘導7日間、OPCの成長因子と知られているFGF2およびPDGF−AAにより細胞が増殖することを観察したのであり、増殖した細胞は、PDGFRaおよびA2B5を示す細胞であることがFACS分析を通じて分かった(図16)。
【0074】
したがって、前記結果に基づいて、iOPCは、誘導7日間、神経幹細胞を経由せずに、ダイレクトリプログラミングを用いて希突起膠前駆細胞を確立することを証明することができた。
【0075】
実施例5:多様なヒト体細胞から希突起膠前駆細胞の誘導
希突起膠前駆細胞への誘導が包皮線維芽細胞(Foreskin fibroblast)だけでなく、他のヒト体細胞でも可能であるかを確認するために、それぞれ異なる5種の細胞(毛嚢毛乳頭細胞(Hair−follicle dermal papilla)、羊膜幹細胞(Amniotic derived Stem Cells)、IMR90肺線維芽細胞、皮膚線維芽細胞(Dermal Fibroblasts)および脂肪幹細胞(Adipose−derived Stem Cells))にOct4を過発現させた後、希突起膠前駆細胞に誘導した。
【0076】
その結果、包皮線維芽細胞(Forskin Fibroblasts)と同様に、希突起膠前駆細胞の代表的なマーカーであるPDGFRα、A2B5およびOlig2の発現をRT−PCR、免疫化学染色法およびFACS分析を通じて確認した(図17および図18)。
【0077】
したがってOct4と低分子性物質の組合せは、BJ細胞に限定された誘導方法でなく、多様なヒト体細胞に適用され得る誘導方法であることを証明した。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によるOct4が過発現したヒト体細胞に低分子性物質を処理して希突起膠前駆細胞を誘導する方法は、神経幹細胞を経由しないダイレクトリプログラミングを用いて短期間に高効率で希突起膠前駆細胞を確立することができ、難治性脱髄性疾患の細胞治療剤として有用である。
【0079】
以上、本発明内容の特定の部分を詳細に記述したところ、当業界における通常の知識を有する者にとって、このような具体的技術は、単に好ましい実施様態に過ぎず、これにより本発明の範囲が制限されるものではない点は明白であろう。したがって、本発明の実質的な範囲は、添付の請求項とそれらの等価物により定義されると言える。
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【国際調査報告】