(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2018-517038(P2018-517038A)
(43)【公表日】2018年6月28日
(54)【発明の名称】塩基性イオン液体処理を含む、グリセリド油を精製する方法
(51)【国際特許分類】
C11B 3/06 20060101AFI20180601BHJP
C11B 3/14 20060101ALI20180601BHJP
A23D 9/02 20060101ALI20180601BHJP
【FI】
C11B3/06
C11B3/14
A23D9/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2017-561967(P2017-561967)
(86)(22)【出願日】2016年5月27日
(85)【翻訳文提出日】2018年1月25日
(86)【国際出願番号】GB2016051566
(87)【国際公開番号】WO2016189333
(87)【国際公開日】20161201
(31)【優先権主張番号】1509084.8
(32)【優先日】2015年5月27日
(33)【優先権主張国】GB
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】503133922
【氏名又は名称】ザ、クイーンズ、ユニバーシティー、オブ、ベルファースト
【氏名又は名称原語表記】THE QUEEN’S UNIVERSITY OF BELFAST
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【識別番号】100145920
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 博行
(72)【発明者】
【氏名】グッドリッチ ピーター
(72)【発明者】
【氏名】オハラ オーエン
(72)【発明者】
【氏名】アトキンス マーティン フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ハマー クリストファー クラット
【テーマコード(参考)】
4B026
4H059
【Fターム(参考)】
4B026DG01
4B026DG03
4B026DG04
4B026DG05
4B026DG06
4B026DG07
4B026DG08
4B026DG10
4B026DL01
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4B026DP10
4H059BA26
4H059BA33
4H059BA47
4H059BC01
4H059CA32
4H059CA72
4H059DA04
4H059EA22
4H059EA23
4H059EA24
4H059EA25
4H059EA26
4H059EA33
(57)【要約】
本発明は、塩基性イオン液体処理を組み込んだ、改善された、グリセリド油を精製する方法に関する。特に、塩基性イオン液体処理は、精製する方法全体中のクロロプロパノール脂肪酸エステル及びグリシジル脂肪酸エステルの生成を阻止するか、又は減らす。本発明はまた、それから生成されるグリセリド油組成物、及び塩基性イオン液体の使用にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセリド油を精製する方法であって、
(i)グリセリド油を塩基性イオン液体と接触させて、被処理グリセリド油を生成するステップであり、前記塩基性イオン液体が、水酸化物イオン、アルコキシドイオン、アルキル炭酸イオン、炭酸水素イオン、炭酸イオン、セリネートイオン、プロリネートイオン、ヒスチジネートイオン、トレオニネートイオン、バリネートイオン、アスパラギネートイオン、タウリネートイオン、及びリシネートイオンから選択される塩基性アニオン、並びに有機第四級アンモニウムカチオンを含む、ステップと、
(ii)前記グリセリド油を前記塩基性イオン液体と接触させた後、前記被処理グリセリド油を、前記有機第四級アンモニウムカチオンを含むイオン化合物から分離するステップと、
(iii)前記分離するステップ後の前記被処理グリセリド油を、少なくとも1つのさらなる精製するステップに供するステップとを含み、
但し、前記グリセリド油がパーム油を含まない、前記方法。
【請求項2】
少なくとも1つのさらなる精製するステップが、デガミングするステップ、漂白するステップ、脱ろうするステップ、脱色するステップ、及び脱臭するステップから選択され、好ましくは少なくとも1つのさらなる精製するステップが、脱臭するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1つのさらなる精製するステップが、160〜270℃の温度で、好ましくは160℃〜240℃の温度で、より好ましくは170℃〜190℃の温度で行われる蒸気ストリッピングを好ましくは伴う脱臭するステップを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(i)の塩基性イオン液体による処理の前に行われる、グリセリド油の、少なくとも1つの追加の精製するステップをさらに含み、好ましくは、前記少なくとも1つの追加の精製するステップが、漂白するステップ及び/又はデガミングするステップから選択される、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1つの追加の精製するステップが、塩酸により活性化された漂白土などの、塩化物アニオン源を含む漂白土を用いて漂白するステップである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つのさらなる精製するステップ(iii)が脱臭するステップを含む、請求項1〜3のいずれかに記載の方法であって、デガミングするステップ及び/又は漂白するステップを含まない、前記方法。
【請求項7】
ステップ(ii)で分離されたイオン化合物が、1又は2以上の塩化物アニオンを含む、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
ステップ(ii)で分離されたイオン化合物が、遊離脂肪酸のアニオンを含む、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
接触させるステップが、80℃未満の温度で、好ましくは25〜65℃の温度で、より好ましくは35〜55℃の温度で行われる、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
塩基性イオン液体の有機第四級アンモニウムカチオンが、
[N(Ra)(Rb)(Rc)(Rd)]+
(式中、Ra、Rb、Rc、及びRdは、それぞれ独立して、直鎖状若しくは分岐状のC1−C8アルキル基、又はC3−C6シクロアルキル基から選択されるか;或いはRa、Rb、Rc、及びRdの任意の2つが、結合してアルキレン鎖−(CH2)q−を生成し、但しqは3〜6であり、前記アルキル基又は前記シクロアルキル基が、C1−C4アルコキシ、C2−C8アルコキシアルコキシ、C3−C6シクロアルキル、−OH、−SH、−CO2(C1−C6)アルキル、及び−OC(O)(C1−C6)アルキルから選択される1〜3個の基によって、例えば、1〜3個の−OH基によって置換されていてもよい。)
から選択される、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
塩基性イオン液体の有機第四級アンモニウムカチオンが、
[N(Ra)(Rb)(Rc)(Rd)]+
(式中、Ra、Rb、Rc、及びRdは、それぞれ独立して、直鎖状又は分岐状のC1−C8アルキル基から選択され、前記アルキル基は、C1−C4アルコキシ、C2−C8アルコキシアルコキシ、C3−C6シクロアルキル、−OH、−SH、−CO2(C1−C6)アルキル、及び−OC(O)(C1−C6)アルキルから選択される1〜3個の基によって、例えば、1〜3個の−OH基によって置換されていてもよい。)
から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
塩基性イオン液体の有機第四級アンモニウムカチオンが、
[N(Ra)(Rb)(Rc)(Rd)]+
(式中、Ra、Rb、Rc、及びRdは、それぞれ独立して、C1、C2、及びC4のアルキルを含む、直鎖状又は分岐状のC1−C4アルキル基から選択され、Ra、Rb、Rc、又はRdの少なくとも1つは、1個の−OH基によって置換される。)
から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
有機第四級アンモニウムカチオンがコリン:
【化1】
である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
塩基性アニオンが、アルキル炭酸イオン、炭酸水素イオン、及び炭酸イオンから選択され、好ましくは、前記塩基性アニオンが炭酸水素イオンである、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
ステップ(i)でグリセリド油を接触させるために用いられるイオン液体が、重炭酸コリン:
【化2】
である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
塩基性アニオンが、水酸化物イオン及びアルコキシドイオンから選択され、好ましくは、前記塩基性アニオンが水酸化物イオンである、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
ステップ(i)でグリセリド油を接触させるために用いられる塩基性イオン液体が、水酸化コリン:
【化3】
である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
グリセリド油を、塩基性イオン液体及び水性溶媒などの溶媒を含む液体と接触させ、前記液体中のイオン液体の濃度が、15重量%〜90重量%である、請求項1〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
グリセリド油を、塩基性イオン液体及び水性溶媒などの溶媒を含む液体と接触させ、前記液体中のイオン液体の濃度が、50重量%〜90重量%、好ましくは75重量%〜85重量%である、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項20】
グリセリド油を、塩基性イオン液体及び水性溶媒などの溶媒を含む液体と接触させ、前記液体中のイオン液体の濃度が、15重量%〜60重量%、好ましくは40重量%〜50重量%である、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項21】
接触させたグリセリド油がFFAを含み、グリセリド油から分離されたイオン化合物がコリン−FFA塩であり、かつ被処理油から分離されたイオン化合物から、重炭酸コリン塩基性イオン液体を再生するステップをさらに含み、前記再生するステップが、
(a)前記コリン−FFA塩を炭酸と接触させるステップと、
(b)反応混合物から重炭酸コリンを得るステップと
を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
再生するステップのステップ(a)が、コリン−FFA塩を含む水溶液をCO2と接触させることによって実施される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
グリセリド油が、植物油であり、好ましくは、前記植物油が、ヤシ油、トウモロコシ油、綿実油、落花生油、オリーブ油、ナタネ油、米ぬか油、サフラワー油、ダイズ油、及びヒマワリ油、又はその混合物から選択される、請求項1〜22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
加熱するステップの前に油を塩基性イオン液体と接触させることによって、前記加熱するステップ中のグリセリド油中の、クロロプロパノール脂肪酸エステル及び/又はグリシジル脂肪酸エステルの生成を阻止するか、又は減らすための前記塩基性イオン液体の使用であって、但し前記グリセリド油がパーム油を含まず、前記塩基性イオン液体が、水酸化物イオン、アルコキシドイオン、アルキル炭酸イオン、炭酸水素イオン、炭酸イオン、セリネートイオン、プロリネートイオン、ヒスチジネートイオン、トレオニネートイオン、バリネートイオン、アスパラギネートイオン、タウリネートイオン、及びリシネートイオンから選択される塩基性アニオン、並びに有機第四級アンモニウムカチオンを含む、前記使用。
【請求項25】
グリセリド油が請求項23に記載の通りであり、及び/又は塩基性イオン液体が、請求項10〜17のいずれかに記載の通りである、請求項24に記載の使用。
【請求項26】
塩基性イオン液体が、グリセリド油中のモノクロロプロパノール脂肪酸エステル及び/又はグリシジル脂肪酸エステルの生成を阻止するか、又は減らすために使用され、より好ましくは、塩基性イオン液体が、グリセリド油中のモノクロロプロパノール脂肪酸エステルの生成を阻止するか、又は減らすため、最も好ましくは、塩基性イオン液体が、グリセリド油中の3−MCPD脂肪酸エステルの生成を阻止するか、又は減らすために使用される、請求項24又は25に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩基性イオン液体処理を組み込んだ、改善された、グリセリド油を精製する方法に関する。特に、塩基性イオン液体処理は、精製工程全体中のクロロプロパノール脂肪酸エステル及びグリシジル脂肪酸エステルの生成を阻止するか、又は減らす。本発明はまた、それから生成されるグリセリド油組成物、及び塩基性イオン液体の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
天然源から抽出される粗グリセリド油は、典型的には、所望されない汚染物質を除去するために、且つ使用目的に応じて油の感覚刺激特性又は他の品質パラメータを改善するために、多様な精製工程に付される。精製工程、及び様々な調理作業の性質によって、潜在的に発がん性の、又は毒性の汚染物質を生成することになり得ると確認されたため、グリセリド油の精製は、近年、油がヒトによって摂取される場合、ますます精査されるようになった。ヒトの健康に対して有害であると特定された、既知のグリセリド油汚染物質の2つの群は、クロロプロパノール及びグリシドールである。
【0003】
クロロプロパノール及びグリシドールの脂肪酸エステルは、グリセリド油、特に、精製工程中に高温にさらされた精製油に蓄積されることが明らかになった。摂取されると、クロロプロパノール及びグリシドールの脂肪酸エステルは、消化管のリパーゼによって加水分解され、遊離クロロプロパノール及び遊離グリシドールが放出される。モノクロロプロパンジオール類、2−クロロ−1,3−プロパンジオール(2−MCPD)、及び3−クロロ−1,2−プロパンジオール(3−MCPD)、又は対応するジクロロプロパノール類、2,3−ジクロロプロパン−1−オール(2,3−DCP)、及び1,3−ジクロロプロパン−2−オール(1,3−DCP)を含む、エステル化されていないクロロプロパノールも、グリセリド油中に含まれていることがある。3−MCPDは、インビトロで遺伝毒性発がん性作用を示すことが明らかになり、今では食品業界全体で耐容1日摂取量(TDI)2μg/Kgが確立されている。インビボでの3−MCPDへの暴露は、ヒトのGI管における、多様なクロロプロパノール脂肪酸エステルの酵素加水分解により起こり得ると考えられる。
【0004】
クロロプロパノールの脂肪酸エステルは、環状アシルオキソニウムイオンの酸促進生成、続いて塩化物による開環を介して、グリセリド油のモノグリセリド成分又はジグリセリド成分から生成される。一方で、グリシドールの脂肪酸エステルは、クロロプロパノール脂肪酸の生成に関連する同じ環状アシルオキソニウムイオンを介して生成される。但し、アシルオキソニウムイオンは脱プロトン化されてエポキシド生成をもたらす。
【0005】
微量のクロロプロパノール及びグリシドール、又はそれらの脂肪酸エステルが、一部の天然の粗グリセリド油に含まれていることがあると確認されているが、現在、精製工程がそれらの生成に著しく寄与すると理解されている。漂白するステップ及びデガミングする(degumming)ステップも寄与することが明らかになっているが、特に、グリセリド油の脱臭するステップ中の、典型的には220℃を超える温度で蒸気ストリッピングするステップによる熱暴露が、グリセリド油中のクロロプロパノール/グリシドールの脂肪酸エステル生成の主要な要因であることが明らかになった。熱暴露により、グリシドール脂肪酸エステル生成が促され、一方で、有機塩素含有化合物の熱分解も引き起こされ、それによりクロロプロパノールの生成に必要な塩化物源がもたらされる。
【0006】
典型的には、脂質含有粗グリセリド油の精製は、通常、強塩基により中和するステップ、又は油中に含まれる任意の遊離脂肪酸(FFA)を除去するために拡張された脱臭するステップのいずれかの形態で含まれた脱酸するステップと共に、デガミングするステップ、漂白するステップ、及び脱臭するステップを含む。デガミングするステップは、典型的には、水性酸(クエン酸及び/又はリン酸)の添加を含み、また金属イオンなどの、グリセリド油の他の成分を脂質成分と同時に除去することもできる。一方で、漂白土を用いて漂白するステップは、顔料の量を減らすだけでなく、油の他の成分も吸収し、それにより感覚刺激特性を改善することができる。
【0007】
歴史的に、グリセリド油は、その飽和レベル又は鎖長に応じてグリセリドを分離するために、且つトリグリセリドから、モノグリセリド及びジグリセリド、FFA、並びにグリセロールを分離するために、液−液抽出の一部として極性溶媒で処理されてきた。アルコール抽出などの液−液抽出は、極性不純物をグリセリド油から除去する手段としても知られている。しかし、こうした抽出は、そのエステル化されていないものよりも、極性がより低く、揮発性がより低い、クロロプロパノール及びグリシドールの脂肪酸エステルを除去するのに適さないことがある。現在、特に、クロロプロパノール脂肪酸エステルの生成をもたらす有機塩素化合物を除去する目的の、又は方法条件を調整することによってその変換を阻止する目的の、多数の精製工程が当分野で知られている。
【0008】
国際公開第2014/012548号パンフレットにおいて、減圧で油に蒸気を通過させ、エステル交換度を60%より低く維持しながら、塩基と混合し、加熱処理することによって、精製トリグリセリド油で生成される2−MCPD及び3−MCPDのエステルの量を低減する方法が開示されている。この方法は、比較的緩やかな加熱処理による利点はあるが、エステル交換度を抑制するために遊離脂肪酸(FFA)を油に添加するステップを含む。しかし、FFAの添加は、油の感覚刺激特性及び油安定性に悪影響を及ぼすと考えられ、したがって添加後にFFAを除去するために、追加の工程ステップが必要になると考えられる。
【0009】
国際公開第2011/005081号パンフレットにおいて、遊離クロロプロパノール、クロロプロパノール脂肪酸エステル、遊離エポキシプロパノール、エポキシプロパノール脂肪酸エステル、及びその組み合わせを含む、所望されないプロパノール成分を、未使用トリグリセリド油から除去する方法が開示されている。その方法は、汚染油を、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、及びこれらケイ酸塩の組み合わせからなる群から選択されるケイ酸塩吸着剤と接触させるステップを含む。処理される油は、好ましくは脱臭済み汚染トリグリセリド油である。
【0010】
国際公開第2010/063450号パンフレットにおいて、酸を添加せずに70℃未満の温度で、粗油を水でデガミングするステップ、続いて80〜100℃の範囲の温度で湿式漂白するステップ及び真空漂白するステップを含む、精製工程が開示されている。このようなデガミングするステップ及び漂白するステップは、3−MCPDとその前駆体との両方を除去することによって、精製工程全体の結果として3−MCPD生成を減らすことが報告されている。
【0011】
国際公開第2012/107230号パンフレットにおいて、減少した含量の3−MCPDエステル及び/又はグリシジルエステルを有する、精製油を製造する方法であって、油を以下のステップ、順に(a)漂白するステップ、(b)脱臭するステップ、(c)最終の漂白するステップ、及び(d)最終の脱臭するステップに供するステップを含むことを特徴とし、最終の脱臭するステップ(d)が、脱臭するステップ(b)よりも少なくとも40℃より低い温度で、好ましくは190℃より下の温度で実施される、方法が開示されている。
【0012】
国際公開第2013/093093号パンフレットにおいて、グリシジルエステルを植物油から除去する方法であって、その方法が、油の少なくとも0.5重量%である酸活性漂白土と油を接触させるステップ、及び200℃未満の温度で、少なくとも30分間、油を脱臭するステップを含む、方法が開示されている。しかし、高濃度の顔料及び芳香化合物を含む油の場合、こうした脱臭するステップが、商業的に受け入れられる製品を提供するのに好適であるかどうかは、明白ではない。
【0013】
国際公開第2012/169718号パンフレットにおいて、精製工程に用いられる水源に含有される塩化物イオンを、イオン交換樹脂を用いて制御することによって、精製食用油の3−MCPD脂肪酸エステルの濃度を0.3ppm以下まで減らす方法が開示されている。
【0014】
国際公開第2014/042937号パンフレットにおいて、モノクロロプロパンジオールの濃度を減らすために、イオン交換樹脂、特にヒドロキシル形態の強塩基イオン交換樹脂による処理を含む、モノクロロプロパンジオール及び/又はグリシドールをグリセロールから除去する方法が開示されている。一方で、特開平08−302382号公報に、減圧下で強塩基性アニオン−交換樹脂と接触させることによって、魚油を脱臭し、且つ脱色する方法が開示されている。
【0015】
精製工程全体のエネルギー節約を最大にしながら、高価値の製品を提供することができうる、グリセリド油中のクロロプロパノール脂肪酸エステル及び/又はグリシジル脂肪酸エステルの生成を阻止するか、又は減らす方法の必要性が依然としてある。
【0016】
本発明は、厳密に選択される、塩基性アニオンを含む塩基性イオン液体を、グリセリド油中のクロロプロパノール脂肪酸エステル及び/又はグリシジル脂肪酸エステルの生成を阻止するか、又は減らすために、有利に用いることができるという驚くべき発見に基づくものであり、その処理は、精製工程全体に容易に組み込むことができる。
【0017】
追加的に、塩基性イオン液体によるグリセリド油の処理により、典型的に、従来の精製工程の分離漂白するステップ及び高温脱臭するステップ(例えば、240℃〜270℃)それぞれで除去される、顔料及び芳香化合物が、少なくとも部分的に除去されることが明らかになった。塩基性イオン液体による処理は、グリセリド油を少なくとも部分的にデガミングすることも明らかになった。
【0018】
塩基性イオン液体によるグリセリド油の処理は、精製工程全体の一部である脱臭するステップに、より低い温度及び/又はより短い時間区分を使用することが可能であり、仮に行うとしてもより狭い範囲のデガミング及び/又は漂白が必要とされ得ることを意味する。これにより、精製工程に関連するエネルギー要件を緩和し、材料コストを下げる利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】国際公開第2014/012548号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2011/005081号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2010/063450号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2012/107230号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2013/093093号パンフレット
【特許文献6】国際公開第2012/169718号パンフレット
【特許文献7】国際公開第2014/042937号パンフレット
【特許文献8】特開平08−302382号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0020】
したがって、第1の態様において、本発明は、グリセリド油を精製する方法であって、
(i)グリセリド油を塩基性イオン液体と接触させて、被処理グリセリド油を生成するステップであり、イオン液体が、水酸化物イオン、アルコキシドイオン、アルキル炭酸イオン、炭酸水素イオン、炭酸イオン、セリネートイオン、プロリネートイオン、ヒスチジネートイオン、トレオニネートイオン、バリネートイオン、アスパラギネートイオン、タウリネートイオン、及びリシネートイオンから選択される塩基性アニオン、並びに有機第四級アンモニウムカチオンを含む、ステップと、
(ii)グリセリド油を塩基性イオン液体と接触させた後、被処理グリセリド油を、有機第四級アンモニウムカチオンを含むイオン化合物から分離するステップと、
(iii)分離するステップ後の被処理グリセリド油を、少なくとも1つのさらなる精製するステップに供するステップとを含み、
但し、グリセリド油がパーム油を含まない、方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書で用いられる用語「グリセリド油」は、その主要成分としてトリグリセリドを含む、油又は脂を示す。例えば、トリグリセリド成分は、グリセリド油の少なくとも50重量%であることができる。グリセリド油は、モノグリセリド及び/又はジグリセリドも含むことができる。好ましくは、グリセリド油は、天然源(例えば、植物、動物、又は魚/甲殻類の源)から少なくとも部分的に得られ、好ましくは食用でもある。グリセリド油には、典型的にその粗状態でホスホリピド成分も含む、植物油、水産油、及び動物油/脂が含まれる。
【0022】
植物油には、全ての植物、堅果、種の油が含まれる。本発明で用いてもよい好適な植物油の例には、アサイーオイル、アーモンドオイル、ブナノキ油、カシュー油、ヤシ油、ナタネ油(colza oil)、トウモロコシ油、綿実油、グレープフルーツ種子油、ブドウ種子油、ヘーゼルナッツ油、大麻油、レモン油、マカダミア油、マスタード油、オリーブ油、オレンジ油、落花生油(peanut oil)、ペカン油、松の実油、ピスタチオ油、ケシ油、ナタネ油、米ぬか油、サフラワー油、ゴマ油、ダイズ油、ヒマワリ油、クルミ油、及び小麦胚芽油が挙げられる。好ましい植物油は、ヤシ油、トウモロコシ油、綿実油、落花生油(groundnut oil)、オリーブ油、ナタネ油(rapeseed oil)、米ぬか油、サフラワー油、ダイズ油、及びヒマワリ油から選択される油である。
【0023】
好適な水産油には、油の多い魚又は甲殻類(例えば、クリール)の組織から誘導される油が挙げられる。好適な動物油/脂の例には、ブタ脂(ラード)、カモ脂、ガチョウ脂、獣脂油、及びバターが挙げられる。
【0024】
グリセリド油に存在することがあるFFAは、モノ不飽和FFA、多価不飽和FFA、及び飽和FFAを含む。不飽和FFAの例には、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、リノール酸、リノエライジン酸、α−リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、エルカ酸、及びドコサヘキサエン酸が挙げられる。飽和FFAの例には、カプリル酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸(tridecylic acid)、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデシル酸、アラキジン酸、ヘンイコシル酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、及びセロチン酸が挙げられる。
【0025】
好ましくは、本発明で用いられるグリセリド油は植物油である。より好ましくは、グリセリド油は、ヤシ油、トウモロコシ油、綿実油、落花生油、オリーブ油、ナタネ油(rapeseed oil)、米ぬか油、サフラワー油、ダイズ油、及びヒマワリ油から選択される植物油である。
【0026】
本明細書で用いられる用語「ダイズ油」は、ダイズ(ダイズ(Glycine max))の種から抽出される油を含む。本明細書で用いられる用語「パーム油」は、ヤシ科(Arecaceae genera)の一部を成し、ギニアアブラヤシ(Elaeis guineensis)種(アフリカのアブラヤシ)及びアメリカアブラヤシ(Elaeis oleifera)種(アメリカのアブラヤシ)、又はその交配種を含む、アブラヤシ属(genus Elaeis)の木から少なくとも部分的に誘導される油を含む。したがって、本明細書のパーム油についての言及は、パーム核油及び分留したパーム油、例えば、パーム油ステアリン留分又はパーム油オレイン留分も含む。本明細書で用いられる用語「ナタネ油」(rapeseed oil)は、カノーラ油と同義であり、例えば、ナタネ(セイヨウナタネ(Brassica napus L.))又はノハラガラシ/アブラナ(アブラナ(Brassica rapa subsp. oleifera)、ハクサイ(syn. B. campestris L.))のナタネ種から誘導される油を指す。
【0027】
グリセリド油に関して本明細書で用いられる用語「粗」は、油抽出に続いて精製するステップを受けていないグリセリド油を意味することを意図する。例えば、粗グリセリド油は、デガミングするステップ、脱酸するステップ、脱ろうするステップ、漂白するステップ、脱色するステップ、又は脱臭するステップを受けていないことになる。グリセリド油に関して本明細書で用いられる「精製された」は、デガミングするステップ、脱酸するステップ、脱ろうするステップ、漂白するステップ、脱色するステップ、及び/又は脱臭するステップなどの、1又は2以上の精製するステップを受けたグリセリド油を意味することを意図する。
【0028】
本明細書で称される「クロロプロパノール」は、例えば、グリセロールから派生することができ、モノクロロプロパノール:2−クロロ−1,3−プロパンジオール(2−MCPD)及び3−クロロ−1,2−プロパンジオール(3−MCPD)、並びにジクロロプロパノール:2,3−ジクロロプロパン−1−オール(2,3−DCP)及び1,3−ジクロロプロパン−2−オール(1,3−DCP)を含む、クロロプロパノールに対応する。本明細書で称されるクロロプロパノールの脂肪酸エステルは、FFAによるエステル化から生成される、クロロプロパノールのモノエステル形態又はジエステル形態に対応する。
【0029】
本明細書で称されるグリシドールは、2,3−エポキシ−1−プロパノールに対応する。本明細書で称されるグリシドールの脂肪酸エステルは、FFAによるグリシドールのエステル化から生成される、グリシドールのエステル形態に対応する。
【0030】
本明細書で用いられる用語「イオン液体」は、塩を溶かすことによって産出可能な液体であり、その場合、イオンのみからなる液体である。イオン液体は、カチオンの1種及びアニオンの1種を含む均一な物質から生成されてもよく、又はカチオンの2種以上及び/若しくはアニオンの2種以上で構成することができる。したがって、イオン液体は、カチオンの2種以上及びアニオンの1種で構成されてもよい。イオン液体は、さらにカチオンの1種及びアニオンの1又は2以上の種で構成されてもよい。またさらに、イオン液体は、カチオンの2種以上及びアニオンの2種以上で構成されてもよい。
【0031】
用語「イオン液体」は、共に、高い融点を有する化合物、及び例えば、室温以下の低い融点を有する化合物を含む。したがって、多くのイオン液体は、200℃より低い融点、好ましくは150℃より低い融点、特に100℃より低い融点、室温付近(15〜30℃)の融点、又はさらに0℃より低い融点を有する。約30℃より低い融点を有するイオン液体が、一般的に「室温イオン液体」と称される。室温イオン液体では、カチオン及びアニオンの構造により、規則性結晶構造の生成が妨げられ、そのため塩は室温で液体である。
【0032】
本明細書で用いられる用語「イオン液体」はまた、イオン液体特性を示すが、溶媒が存在する状態で、又は支持体上でのみ安定に存在する、「非正統的な」イオン液体も含む。例えば、本発明に従って用いられる塩基性イオン液体は、第四級アンモニウム水酸化物イオン液体を含む。これらのイオン液体は、ニート(neat)な形態でホフマン脱離によって不安定になることがあるため、典型的には「非正統的な」イオン液体として考えられる。それでも、こうしたイオン液体は、支持体で固定されるとき(例えば、Chem. Commun., 2004, 1096-1097参照)、又は溶媒、例えば水性共溶媒が存在する状態で、安定に存在することが知られている。本発明に従って用いられる塩基性イオン液体は、第四級アンモニウム重炭酸イオン液体も含む。これらのイオン液体は、ホフマン脱離(水酸化物系イオン液体よりもかなり少ない程度であるが)、及び重炭酸塩アニオンの炭酸塩形態への熱分解を被ることもあるため、典型的には「非正統的な」イオン液体であると考えられる。それでも、こうしたイオン液体は、溶媒、例えば水性溶媒が存在する状態で、安定に存在することが知られている。
【0033】
したがって、「非正統的な」塩基性イオン液体が本発明に従って用いられる場合、水性溶媒などの溶媒と共に、塩基性イオン液体を含む液体を用いることができる。アルコール共溶媒などの追加の共溶媒も含まれていてもよい。イオン液体が溶媒と組み合わせて用いられる好ましい実施形態が、以下により詳細に説明される。
【0034】
イオン液体は、その、ごくわずかな蒸気圧、温度安定性、低い燃焼性、及び再利用性のために、やはり環境に配慮したものにする、溶媒として最も広く知られている。利用可能なアニオン/カチオンの組み合わせの膨大な数のために、イオン液体の物理的特性(例えば、融点、密度、粘度、及び水又は有機溶媒との混和性)を特定の用途の要件に合うように微調整することが可能である。
【0035】
したがって、イオン液体は、従来、その有利な特性のために、様々な有機化合物合成及びポリマー合成のための溶媒として開発されてきた。イオン液体が、溶媒として用いられるときに担うことになる、様々な役割を思索する多くの報告がされてきた。S.-I. Ishiguro et al., Pure Appl. Chem., Vol. 82, No.10, pp 1927 to 1941, 2010では、イオン液体が溶媒として作用すると考えられる反応において、溶質−溶媒相互作用、又は溶質イオン若しくは溶質分子の溶媒和が担う重要な役割が報告されている。溶媒粒子が、バルク液体構造に移動し、収容される前に反応で遊離することができる溶液において、こうした溶媒の液体構造が反応で担う重要な役割が特に強調されている。
【0036】
S.-I. Ishiguroらによれば、イオン液体の液体構造が、分子溶媒とは異なって不均一であり、そのためイオン液体の特有の溶媒特性及び特有の溶質反応性をもたらすことができる。しかし、イオン液体の酸−塩基特性は、例えば、特に通常の分子液体と比較して、溶液化学に関して満足に確立されていないと認められた。したがって、イオン液体が特定の溶液をベースにした反応で果たすことがある役割を予測することは難しい。
【0037】
本明細書で「有機第四級アンモニウムカチオンを含むイオン化合物」を言及する場合、少なくとも、有機第四級アンモニウムカチオンによって、グリセリド油を接触させるのに用いられる塩基性イオン液体から派生するイオン化合物を指すことを意図する。いくつかの実施例において、有機第四級アンモニウムカチオンを含むイオン化合物は、塩基性イオン液体がアニオン交換を受ける結果として予測されるように、塩化物アニオンも含むことができる。他の実施例において、グリセリド油は、FFAを含み、有機第四級アンモニウムカチオンを含むイオン化合物はまた、脂肪酸のアニオンを含む。被処理グリセリド油から分離されたイオン化合物は、本明細書で定められたイオン液体であってもよいが、初めにグリセリド油を接触させるのに用いられる塩基性イオン液体とは異なる。さらなる実施例において、有機第四級アンモニウムカチオンを含むイオン化合物は、初めにグリセリド油を接触させるのに用いられるイオン液体と同じアニオンを含む。言い換えれば、被処理グリセリド油から分離されたイオン化合物は、初めにグリセリド油を接触させるのに用いられたイオン液体と同じものである。
【0038】
本発明の方法で用いられるイオン液体は、有機第四級アンモニウムカチオンをベースにする。本明細書で用いられる「有機第四級アンモニウムカチオン」は、窒素原子が置換又は非置換のC
1−C
12ヒドロカルビル基にのみ結合した正電荷アンモニウムカチオンを指すことを意図する。用語「ヒドロカルビル基」は、炭化水素から誘導された、一価のラジカル又は多価のラジカルを指し、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、又はアリールの各基を含むことができる。
【0039】
好ましくは、塩基性イオン液体の有機第四級アンモニウムカチオンは、
[N(R
a)(R
b)(R
c)(R
d)]
+
(式中、R
a、R
b、R
c、及びR
dは、それぞれ独立して、直鎖状若しくは分岐状のC
1−C
8アルキル基、又はC
3−C
6シクロアルキル基から選択されるか;或いはR
a、R
b、R
c、及びR
dの任意の2つが、結合してアルキレン鎖−(CH
2)
q−を生成し、但しqは3〜6であり、上記のアルキル基又はシクロアルキル基が、C
1−C
4アルコキシ、C
2−C
8アルコキシアルコキシ、C
3−C
6シクロアルキル、−OH、−SH、−CO
2(C
1−C
6)アルキル、及び−OC(O)(C
1−C
6)アルキルから選択される1〜3個の基によって、例えば、1〜3個の−OH基によって置換されていてもよい。)
から選択される。
【0040】
より好ましくは、塩基性イオン液体の有機第四級アンモニウムカチオンは、
[N(R
a)(R
b)(R
c)(R
d)]
+
(式中、R
a、R
b、R
c、及びR
dは、それぞれ独立して、直鎖状又は分岐状のC
1−C
8アルキル基から選択され、上記アルキル基は、C
1−C
4アルコキシ、C
2−C
8アルコキシアルコキシ、C
3−C
6シクロアルキル、−OH、−SH、−CO
2(C
1−C
6)アルキル、及び−OC(O)(C
1−C
6)アルキルから選択される1〜3個の基によって、例えば、1〜3個の−OH基によって置換されていてもよい。)
から選択される。
【0041】
さらにより好ましくは、有機第四級アンモニウムカチオンは、
[N(R
a)(R
b)(R
c)(R
d)]
+
(式中、R
a、R
b、R
c、及びR
dは、それぞれ独立して、C
1、C
2、及びC
4のアルキルを含む、直鎖状又は分岐状のC
1−C
4アルキル基から選択され、R
a、R
b、R
c、又はR
dの少なくとも1つは、1個の−OH基によって置換される。)
から選択される。
【0042】
最も好ましくは、有機第四級アンモニウムカチオンはコリンである。
【0044】
本発明に用いられる塩基性イオン液体は、水酸化物イオン、アルコキシドイオン、アルキル炭酸イオン、炭酸水素イオン、炭酸イオン、セリネートイオン、プロリネートイオン、ヒスチジネートイオン、トレオニネートイオン、バリネートイオン、アスパラギネートイオン、タウリネートイオン、及びリシネートイオンから選択される塩基性アニオンを取り込む。これらのアニオンは、得られるイオン液体にある種の融点を付与するその能力によって選択される傍観アニオンであるだけではない。本発明に関連して用いられるイオン液体の一部を形成するアニオンの塩基度は、クロロプロパノール及びグリシドール、又はその脂肪酸エステルをグリセリド油から除去する、イオン液体の能力に寄与すると考えられる。本明細書で用いられる用語「塩基性」は、酸と反応(酸を中和)して塩を生成する能力を有するブレンステッド塩基を指す。塩基のpH範囲は、水に溶解又は懸濁されているとき、7.0より高く14.0以下である。
【0045】
本発明の一実施形態において、塩基性アニオンは、アルキル炭酸イオン、炭酸水素イオン、炭酸イオン、水酸化物イオン、及びアルコキシドイオンから選択され、好ましくは炭酸水素イオン、アルキル炭酸イオン、及び炭酸イオンから選択され、より好ましくは炭酸水素イオンである。
【0046】
塩基性アニオンが、アルコキシドイオン又はアルキル炭酸イオンから選択される場合、アルキル基は、直鎖状又は分岐状であってもよく、置換又は非置換であってもよい。好ましい一実施形態において、アルキル基は非置換である。他の好ましい実施形態において、アルキル基は、非分岐状である。より好ましい実施形態において、アルキル基は、非置換及び非分岐状である。
【0047】
アルキル基は、1〜10個の炭素原子、好ましくは1〜8個の炭素原子、より好ましくは1〜4個の炭素原子を含むことができる。したがって、アルキル基は、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、及び/又はデシルから選択することができる。イソ−プロピル、イソ−ブチル、sec−ブチル、及び/又はtert−ブチルなどの分岐状アルキル基もまた用いることができると理解されるであろう。特に好ましいのは、メチル、エチル、プロピル、及びブチルである。さらに好ましい実施形態において、アルキル基は、メチル及びエチルから選択される。
【0048】
本発明の実施形態において、塩基性アニオンは、セリネートイオン、プロリネートイオン、ヒスチジネートイオン、トレオニネートイオン、バリネートイオン、アスパラギネートイオン、タウリネートイオン、及びリシネートイオンから選択される。
【0049】
本発明の好ましい実施形態において、塩基性アニオンは、セリネートイオン、リシネートイオン、プロリネートイオン、タウリネートイオン、及びトレオニネートイオンから選択され、より好ましくはリシネートイオン、プロリネートイオン、及びセリネートイオンから選択され、最も好ましくは、塩基性アニオンは、リシネートイオンである。
【0050】
本発明の方法から直接得られるグリセリド油を摂取に適合させるために、ステップ(i)のグリセリド油、並びにステップ(ii)で分離された有機第四級アンモニウムカチオンを含むイオン化合物を接触させるために用いられる塩基性イオン液体は、毒性がほとんどないか、全くない、及び/又は被処理油から容易に、且つ十分に分離できるものであると認識されたい。コリンカチオンを含む塩基性イオン液体は、本発明の方法で用いるのに特に好適である。コリンは、ビタミンB群に分類される水溶性の基本的な栄養素であり、数多くの生理学的機能に関わるアセチルコリンの前駆体である。コリンは、毒性が特に低く、優れた生分解性を有し、本発明の方法で特に有用なイオン液体を生成することができる天然成分となる。
【0051】
したがって、本発明の特に好ましい実施形態において、塩基性イオン液体は、重炭酸コリン、
【0055】
(式中、アルキル基は、前述されたアルキル基である)
又は水酸化コリン
【0058】
セリネートイオン、プロリネートイオン、ヒスチジネートイオン、トレオニネートイオン、バリネートイオン、アスパラギネートイオン、タウリネートイオン、及びリシネートイオンから選択される塩基性アニオンを含む塩基性イオン液体はまた、これらのアミノ酸誘導体の毒性が特に低いために、本発明の方法に特に好適である。
【0059】
本発明の最も好ましい実施形態において、塩基性イオン液体は重炭酸コリンである。
【0061】
接触させるステップ(i)で用いられる塩基性イオン液体、及びステップ(ii)で分離された有機第四級アンモニウムカチオンを含むイオン化合物は、好ましくは、低い油溶解度を有し、優先的に水性相などの非油相へ分配し、被処理油からのその除去を容易にする。より好ましくは、塩基性イオン液体は、油と非混和性である。油と非混和性であることによって、イオン液体は、グリセリド油に50ppm未満、好ましくは30ppm未満、より好ましくは20ppm未満、最も好ましくは10ppm未満、例えば5ppm未満の濃度で溶解できることが意味される。したがって、塩基性イオン液体の溶解度は、塩基性イオン液体が油と非混和性であるように調整することができる。
【0062】
好適には、本発明の方法の接触させるステップ(i)は、80℃未満の温度で、好ましくは25〜65℃の温度で、より好ましくは35〜55℃の温度で、例えば40℃の温度で実施される。認識されるであろうように、グリセリド油は、室温で半固体である場合、塩基性イオン液体と接触させるために液体状であるように、より高い温度が好ましい。好適には、接触させるステップ(i)は、0.1MPa絶対圧〜10MPa絶対圧(1バール絶対圧〜100バール絶対圧)の圧力で実施される。
【0063】
いくつかの実施形態において、接触させるステップは、得られる混合物が、例えば機械式撹拌機、超音波式撹拌機、電磁撹拌機を用いて、又は混合物中で不活性ガスを泡立たせることによって、撹拌される容器内で、グリセリド油を塩基性イオン液体と接触させることによって実施することができる。
【0064】
好適には、塩基性イオン液体及びグリセリド油は、1:40より大きく1:300までの体積比で接触させることができ、1:50からの、好ましくは1:100からの質量比で接触させることができる。接触させるステップは、1分〜60分、好ましくは2〜30分、より好ましくは5〜20分、最も好ましくは8〜15分持続することができる。
【0065】
接触させるステップ(i)において、塩基性イオン液体をグリセリド油と接触させる。塩基性イオン液体は、ニートな形態で、又は塩基性イオン液体及びグリセリド油と相溶性である、溶媒又は溶媒混合物を追加的に含む液体の一部として、添加することができる。溶媒又は溶媒混合物は、塩基性イオン液体の粘度を所望されるように改良するのに用いてもよい。或いは、溶媒を用いることにより、液体系反応の液体構造に、塩基性イオン液体の反応を促進するのに特に好適な所望される特性を付与することができる。この用途に好適な溶媒には、水又はアルコール、例えばメタノール若しくはエタノールなどの極性溶媒が含まれる。
【0066】
いくつかの実施形態において、グリセリド油を、液体中の塩基性イオン液体の濃度が15重量%〜90重量%である、塩基性イオン液体及び溶媒を含む液体と接触させる。例示的な実施形態において、溶媒は純水などの水性溶媒である。
【0067】
好ましい実施形態において、塩基性イオン液体の塩基性アニオンが、アルキル炭酸イオン、炭酸水素イオン、及び炭酸イオンから選択される場合、特に塩基性アニオンが炭酸水素イオンである場合、グリセリド油を、塩基性イオン液体及び水性溶媒などの溶媒を含む液体と接触させ、液体中の塩基性イオン液体の濃度は、50重量%〜90重量%、例えば、75重量%〜85重量%である。
【0068】
好ましい実施形態において、塩基性イオン液体の塩基性アニオンが、水酸化物イオン及びアルコキシドイオンから選択される場合、特に塩基性アニオンが水酸化物イオンである場合、グリセリド油を、塩基性イオン液体及び水性溶媒などの溶媒を含む液体と接触させ、液体中の塩基性イオン液体の濃度は、15重量%〜60重量%、好ましくは40重量%〜50重量%である。
【0069】
上記実施形態において、塩基性イオン液体が溶媒との混合物の一部である場合、追加の共溶媒も含まれていてもよい。例えば、水性溶媒が用いられる場合、アルコール共溶媒(複数可)が、例えば塩基性イオン液体及び水性溶媒を含む液体の1重量%から20重量%の間で含まれていてもよい。
【0070】
本方法のステップ(ii)における有機第四級アンモニウムカチオンを含むイオン化合物の分離は、重力分離によって(例えば、沈降装置において)実施することができ、沈降装置で、被処理グリセリド油が一般的に上相であり、任意の溶媒と共に有機第四級アンモニウムカチオンを含むイオン化合物が下相に取り込まれる。有機第四級アンモニウムカチオンを含むイオン化合物を分離するステップは、例えば、デカンター、液体サイクロン、静電併合、遠心分離機、又はメンブレンフィルタープレスを用いて成し遂げることもできる。好ましくは、相は、遠心分離機を用いて分離される。接触させるステップ及び分離するステップは、複数回、例えば、2〜4回繰り返すことができる。
【0071】
ステップ(ii)で分離された、有機第四級アンモニウムカチオンを含むイオン化合物が、接触させるステップ(i)後、例えば第四級アンモニウム−FFA塩の生成に続いて沈降する固体である場合、固体イオン化合物は、濾過によって油から分離することができる。或いは、油相と非混和性である、前述された極性溶媒を、固体塩を溶解させるために添加することができ、それに続いて塩含有相を上述の方法によって油から分離することができる。
【0072】
接触させるステップ及び分離するステップは、共に向流反応カラムで実施することもできる。グリセリド油(以下「油供給流」)は、一般に向流反応カラムの下部で、又は下部付近で導入され、塩基性イオン液体(以下「イオン液体供給流」)は、向流反応カラムの上部で、又は上部付近で導入される。被処理油相(以下「生成油流」)は、カラムの上部から引き出され、有機第四級アンモニウムカチオンを含むイオン化合物、及び存在する場合溶媒を含有する相(以下「第2流」)は、カラムの下部で、又は下部付近から引き出される。好ましくは、向流反応カラムは、第2流を収集する油溜め領域を有する。好ましくは、油供給流は、油溜め領域のすぐ上の向流反応カラムへ導入される。2個以上の向流反応カラム、例えば、直列に配列された、2〜6個、好ましくは、2〜3個のカラムを用いることができる。好ましくは、向流反応カラムは、構造化されたパッキン材料、例えばガラスラシヒリングで充填することができ、それによって、カラムを通る油及び塩基性イオン液体の流出経路が増える。或いは、向流反応カラムは、複数のトレイを備えてもよい。
【0073】
特に好ましい実施形態において、接触させるステップ及び分離するステップは共に、遠心接触分離器、例えば米国特許第4959158号明細書、米国特許第5571070号明細書、米国特許第5591340号明細書、米国特許第5762800号明細書、国際公開第99/12650号パンフレット、及び国際公開第00/29120号パンフレットに記載された遠心接触分離器で実施される。好適な遠心接触分離器には、Costner Industries Nevada, Inc.社製のものが挙げられる。グリセリド油及びイオン液体を含む液体を、遠心接触分離器の環状混合領域へ導入することができる。好ましくは、グリセリド油及び塩基性イオン液体は、分離供給流として環状混合領域へ導入される。グリセリド油及び塩基性イオン液体は、環状混合領域で急速に混合される。次いで、得られる混合物は、分離領域を通り、遠心力が加わって、油相及び第2相に明確に分離される。
【0074】
好ましくは、複数個の遠心接触分離器、好ましくは2〜6個、例えば、2〜3個を直列で用いる。好ましくは、油供給流が、直列の第1の遠心接触分離器に導入される一方で、塩基性イオン液体供給流が、直列の最終の遠心接触分離器に導入されて、例えば、FFA又は遊離塩化物アニオンの含量が次第に減少する油が、直列の、第1の遠心接触分離器から最終の遠心接触分離器へ通る一方で、例えば、第四級アンモニウム−FFA塩及び/又は第四級アンモニウム塩化物の含量が次第に増加する塩基性イオン液体流が、直列の、最終の遠心接触分離器から第1の遠心接触分離器へ通るようにする。したがって、有機第四級アンモニウムカチオンを含むイオン化合物を含有する相は、第1の遠心接触分離器から除去され、被処理油相は、直列の最終の遠心接触分離器から除去される。
【0075】
必要に応じて、被処理グリセリドに含まれている残留塩基性イオン液体は、生成油流をシリカカラムに通して、残留イオン液体がシリカカラムに吸着されることによって回収することができる。次いで、吸着されたイオン液体は、イオン液体用の溶媒を用いてシリカカラムから洗い落とすことができ、イオン液体は、減圧で溶媒を飛ばすことによって回収することができる。
【0076】
被処理グリセリド油は、連続相を産出し、相分離を促進するように、非油相液体、例えば有機第四級アンモニウムカチオンを含むイオン化合物を含む液体の微細液滴を合体させるために、コアレッサーフィルタ(coalescer filter)に通すこともできる。好ましくは、接触させるステップ(i)に用いられた塩基性イオン液体を溶媒と組み合わせて用いる場合、濾過を改善するためにコアレッサーフィルタを同じ溶媒で濡らす。
【0077】
いくつかの実施形態において、塩基性イオン液体は、支持材に用意することができる。本発明で用いられる好適な支持体は、シリカ、アルミナ、アルミナ−シリカ、炭素、活性炭素、又はゼオライトから選択することができる。好ましくは、支持体はシリカである。支持された形態により、好適な溶媒を含むスラリーとして油と接触させることができる。溶媒は前述されたとおりである。
【0078】
支持された塩基性イオン液体が用いられる場合、接触させるステップ及び分離するステップは共に、支持されたイオン液体で充填されたカラム(すなわち、充填ベッド構造(packed bed arrangement))に油を通すことによって実施することもできる。追加的に、又は代替的に、複数の、プレート及び/又はトレイを備えた固定ベッド構造を用いることができる。
【0079】
支持材にイオン液体を支持する方法は、例えば米国特許出願公開第2002/0169071号、米国特許出願公開第2002/0198100号、及び米国特許出願公開第2008/0306319号など、当分野でよく知られている。典型的には、イオン液体は、支持材に物理吸着又は化学吸着することができ、好ましくは物理吸着することができる。本発明の方法において、イオン液体は、塩基性イオン液体:支持体質量比10:1〜1:10で、好ましくは、塩基性イオン液体:支持体質量比1:2〜2:1で支持体に吸着することができる。
【0080】
本発明に従って用いられる塩基性イオン液体により、後続の精製するステップの結果として、グリセリド油中の、クロロプロパノール脂肪酸エステル及びグリシジル脂肪酸エステルの生成を阻止するか、又は減らすことが可能であると明らかになった。いくつかの反応機構は、油を塩基性イオン液体と接触させた結果として可能であると考えられ、以下にさらに詳細に説明される。
【0081】
クロロプロパノール脂肪酸エステル及びグリシジル脂肪酸エステルの生成は、主に(i)グリセリド油のモノグリセリド及びジグリセリドの含量、(ii)グリセリド油の塩化物含量、(iii)グリセリド油のプロトン活性、及び(iv)精製中の熱暴露の程度に依存することが明らかになった。本発明に従う塩基性イオン液体によるグリセリド油の処理は、油のモノグリセリド及びジグリセリドの含量に影響を及ぼさないことが明らかとなり、したがって減少するのは、塩化物含量及びプロトン活性であり、それによって、精製工程中のクロロプロパノール脂肪酸エステル及びグリシジル脂肪酸エステル生成を阻止するか、又は減らすことになると考えられる。
【0082】
油中の塩基性イオン液体の可能な反応又は相互作用の、任意の特定の理論に捉われることなく、遊離塩化物イオンによるアニオン交換は、油の遊離塩化物含量を減らすことができる手段であると考えられる。一方で、塩基性イオン液体の塩基度によって、グリシジル脂肪酸エステル生成も減らすように、油のプロトン活性を調整することもできる。例えば、本発明に従って用いられるイオン液体は、油中に含まれているFFAを中和し、接触させるステップ(i)で用いられる塩基性イオン液体の有機第四級アンモニウムカチオンを含むイオン化合物、及びFFAのカルボキシレートアニオンを生成することも明らかになった。油中の塩基性イオン液体とFFAの間の酸−塩基反応の生成物は、塩化物アニオン及び/又は塩素含有化合物と錯体形成することもでき、被処理油から第四級アンモニウム−FFA塩を分離するとき、油からのそれらの除去に寄与することも可能である。
【0083】
したがって、いくつかの実施形態において、方法のステップ(ii)で分離された有機第四級アンモニウムカチオンを含むイオン化合物は、塩化物アニオンを含むことができる。ステップ(i)で接触させたグリセリド油がFFAを含む実施形態において、ステップ(ii)で分離された有機第四級アンモニウムカチオンを含むイオン化合物は、脂肪酸のアニオンを含むことができる。
【0084】
好ましくは、本発明の方法を用いて、グリセリド油中のクロロプロパノール脂肪酸エステルの生成を阻止するか、又は減らす。より好ましくは、本発明の方法を用いて、グリセリド油中のモノクロロプロパノール脂肪酸エステルの生成を阻止するか、又は減らす。最も好ましくは、本発明の方法を用いて、グリセリド油中の3−MCPD脂肪酸エステルの生成を阻止するか、又は減らす。
【0085】
本発明の方法に従って、グリセリド油を塩基性イオン液体で処理した後に、少なくとも1つのさらなる精製するステップが行われる。当業者には、例えば、"Practical Guide to Vegetable Oil Processing", 2008, Monoj K. Gupta, AOCS Press、及びthe Edible Oil Processing section of the "AOCS Lipid Library" website (lipidlibrary.aocs.org)に説明された精製するステップを含む食用油加工で典型的に用いられる様々な精製するステップが知られている。
【0086】
少なくとも1つのさらなる精製するステップ(iii)は、例えば、デガミングするステップ、漂白するステップ、脱ろうするステップ、脱色するステップ、及び脱臭するステップから選択することができる。典型的には、脱臭するステップと関連する熱暴露は、クロロプロパノール脂肪酸エステル及びグリシドール脂肪酸エステルの生成を大幅に増大させる要因であることが知られているので、塩基性イオン液体処理は、好ましくは脱臭するステップより先に行われる。したがって、好ましい実施形態において、本発明の方法による少なくとも1つのさらなる精製するステップは、脱臭するステップを含む。
【0087】
いくつかの実施形態において、少なくとも1つのさらなる精製するステップ(iii)は、デガミングするステップ、漂白するステップ、及び脱臭するステップを含む。或いは、他の実施形態において、少なくとも1つのさらなる精製するステップ(iii)は、脱臭するステップを含み、デガミングするステップ及び/又は漂白するステップを含まない。したがって、例示的な実施形態において、少なくとも1つのさらなる精製するステップは、デガミングするステップ及び脱臭するステップを含むが、漂白するステップを含まない。他の例示的な実施形態において、少なくとも1つのさらなる精製するステップは、漂白するステップ及び脱臭するステップを含むが、デガミングするステップを含まない。
【0088】
本発明に従う塩基性イオン液体による処理の追加の利点は、塩基性イオン液体により、典型的に、従来の精製工程中の高温脱臭するステップ(例えば、240℃〜270℃)で除去される、顔料及び芳香化合物が、少なくとも部分的に除去されることが明らかになったことである。塩基性イオン液体によるグリセリド油の処理は、精製工程全体の一部である脱臭するステップに、より低い温度及び/又はより短い時間区分を用いることができることを意味する。これにより、精製工程のエネルギー要件を緩和する利点がある。
【0089】
デガミングするステップは、典型的には油を水性リン酸及び/又は水性クエン酸と接触させて、水和性及び非水和性のホスファチド(NHP)を共に除去するステップを含む。典型的には、クエン酸又はリン酸は50重量%水溶液として添加される。好適には、水性酸は、油の約0.02重量%〜約0.20重量%の酸量で、好ましくは、油の0.05重量%〜約0.10重量%の酸量で用いられる。好適には、デガミングするステップは、約50〜110℃、好ましくは80℃〜100℃、例えば、90℃の温度で実施される。デガミングするステップは、好適には、5分〜60分、好ましくは15〜45分、より好ましくは20〜40分、例えば30分持続することができる。酸処理に続いて粘液を沈下させた後、水性相は、デガミングされた油が一般に乾く前に分離される。デガミングされた油を乾燥するステップは、好適には80〜110℃の温度で、好適な時間区分、例えば20〜40分、減圧で、例えば2〜3kPa(20〜30mbar)で行われる。
【0090】
当業者に知られているように、低いホスファチド含量(例えば、リン20重量ppm未満)のグリセリド油について、リン酸又はクエン酸を水で大幅に希釈することなく(例えば、85%酸溶液)添加した乾燥デガミング法を用いることができる。NHPは、次の漂白するステップで油から除去することができる、ホスファチジン酸、及び重リン酸カルシウム又は重リン酸マグネシウムの塩へ変換される。油にホスファチド、特にNHPが多い場合、乾燥デガミングは、過剰な量の漂白土が必要となるので、あまり適さないことが知られている。
【0091】
漂白するステップは、食用油を精製工程に組み込まれ、クロロフィル、残留セッケン、及びガムを含む着色体、微量金属、並びに酸化生成物を減らす。漂白するステップは、典型的には、例えば、油の質量に対して粘土0.5〜5重量%の量の漂白粘土又は漂白土と油を接触させるステップを含む。漂白粘土又は漂白土は、典型的には、3種の粘土鉱物、カルシウムモンモリロナイト、アタパルジャイト、及び海泡石の、1又は2以上で構成される。中性活性粘土及び酸活性粘土を含む、任意の好適な漂白粘土又は漂白土を、本発明に従って用いることができる(例えば、ベントナイト)。好適には、土を典型的に濾過によって分離する前に、油を漂白粘土と15〜45分、好ましくは20〜40分接触させる。典型的には、80℃〜125℃の温度で、好ましくは90℃〜110℃の温度で、油を漂白粘土又は漂白土と接触させる。大気圧下で行われる接触の最初の区分(「湿式漂白」)に続いて、漂白する方法の第2の段階は、減圧下、例えば、2〜3kPa(20〜30mbar)で行われる(「乾式漂白」)。
【0092】
従来のグリセリド油精製工程は、典型的には、強塩基、例えば、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムでFFAを中和するステップ(いわゆる「化学的精製」方法に対応する)を含む。或いは、脱臭パラメータを調整することによって脱酸を成し遂げることができ、それによって、揮発性FFAがそのステップで除去されることを確実にする(いわゆる「物理的精製」方法)。FFAを中和するステップ(「化学的精製」)の不利点は、所望されないけん化、低いトリグリセリド含量に伴うものであり、またセッケン生成により、乳化の結果として相当な中性油損失をもたらすことがある。本発明の精製工程の一部を成す塩基性イオン液体処理は、油中のFFAを中和するのに有効であり、化学的精製方法で用いられる従来の中和するステップに完全に取って代わることができる。有利なことに、塩基性イオン液体による処理には、中性油のけん化をもたらさないという利益がある。したがって、本発明の好ましい実施形態において、精製工程は、無機塩基(例えば、水酸化ナトリウム)で中和するステップを含まない。
【0093】
油に含まれているFFAは、塩基性イオン液体と接触させて中和されて、第四級アンモニウム−FFA塩を生成することができる。好ましい実施形態において、接触させるステップで用いられる塩基性イオン液体の量は、油に含まれるFFAのモル量と少なくとも化学量論的である。例えば、油中の塩基性イオン液体対FFAのモル比は、1:1〜10:1、又は1.5:1〜5:1であってもよい。グリセリド油のFFA含量は、当業者に既知の一般的な滴定技術を用いて、塩基性イオン液体による処理の前に測定することができる。例えば、フェノールフタレイン指示薬を用いた水酸化ナトリウムによる滴定は、グリセリド油のFFA含量を測定するのに用いることができる。
【0094】
好ましい実施形態において、有機第四級アンモニウムカチオンは、直鎖状C
12−C
18FFAを含む低融点脂肪酸塩をもたらすように選択される。特に好ましい有機第四級アンモニウムカチオンは、100℃未満の融点を有する、こうしたFFAと塩を生成する。こうした塩は、好都合なことに、本明細書で説明された液−液分離技術によって、分離するステップ(ii)中に分離することができる。
【0095】
当業者に知られているように、脱臭するステップは、FFA、アルデヒド、ケトン、アルコール、炭化水素、トコフェロール、ステロール、及び植物ステロールなどの揮発性成分を蒸発又は抽出するように、ある量のストリッピング剤を、典型的には、減圧下で一定時間、直接注入することによって蒸留装置の油に通す、ストリッピングする方法に対応する。ストリッピング剤は、好ましくは、蒸気であるが、窒素などの他の作用剤を用いてもよい。好適に用いられるストリッピング剤の量は、油の約0.5重量%〜約5重量%である。
【0096】
本発明による精製工程の脱臭するステップの温度範囲は、好適には160℃〜270℃である。本明細書で脱臭するステップの温度について言及する場合、油がストリッピング剤に暴露される前に加熱される温度を指す。脱臭するステップの圧力範囲は、好適には0.1〜0.4kPa(1〜4mbar)、好ましくは0.2〜0.3kPa(2〜3mbar)である。脱臭するステップの好適な時間区分は、典型的には30〜180分、例えば60〜120分、又は60〜90分である。
【0097】
当業者は、グリセリド油の性状及び組成を解析すること、例えば、油のp−アニシジン価(AnV)を測定することによって、脱臭するステップの好適な長さを決定することができる。油のp−アニシジン価は、その酸化状態の測定値であり、より具体的には、主に2−アルケナール及び2,4−ジエナールなどアルデヒドであるが、油に含まれる第2の酸化生成物の濃度に関する情報をもたらす。したがって、p−アニシジン価(AnV)は、脱臭するステップによって除去しようとする酸化生成物の濃度の指標をもたらす。例えば、AOCS公定法Cd 18−90で決定して、AnVが10未満、好ましくは5未満である場合、十分な脱臭するステップを成し遂げることができる。
【0098】
追加的に、又は代替的に、典型的には粗油の臭気と関連する、油のアルデヒド成分及びケトン成分の量を測定することができ、それにより十分に脱臭が行われたかどうかを決定する。粗パーム油又は臭いパーム油の典型的な揮発性臭気のアルデヒド成分及びケトン成分には、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、n−プロパナール、n−ブタナール、n−ペンタナール、n−ヘキサナール、n−オクタナール、n−ナナナール(nananal)、2−ブテナール、3−メチルブタナール、2−メチルブタナール、2−ペンタナール、2−ヘキサナール、2E,4E−デカジエナール、2E,4Z−デカジエナール、2−ブタノン、2−ペンタノン、4−メチル−2−ペンタノン、2−ヘプタノン、2−ノナノンが挙げられる。好ましくは、これらの成分の各々は、脱臭済み油中にそれぞれ、油1kg当たり3mg未満、より好ましくは油1kg当たり1mg未満、最も好ましくは油1kg当たり0.5mg未満の量で存在する。
【0099】
アルデヒド及びケトンの量は、クロマトグラフ法、例えば、GC−TOFMS又はGCxGC−TOFMSによって容易に測定することができる。或いは、アルデヒド及びケトンの誘導体化を用いて、クロマトグラフ分析を改良することができる。例えば、アルデヒド及びケトンは、酸性条件の下、2,4−ジニトロフェニルヒドラジン(DNPH)で誘導体化できることが知られている。この試薬は、カルボン酸又はカルボン酸エステルと反応することはなく、したがって分析が、グリセリド油試料中のこうした成分の存在によって影響されることはない。誘導体化に続いて、HPLC−UV分析によって、試料中に存在するアルデヒド及びケトンの全量を定量化することができる。
【0100】
従来の脱臭温度は、典型的には220℃を超え、例えば240℃〜270℃であり、典型的には60〜90分行われる。本発明の方法で可能になるように、従来よりも低い温度、例えば160℃〜200℃が脱臭するステップに用いられる場合、脱臭するステップの時間区分は、十分な脱臭を確実にするために長くなることがあるが、それでもなお、より高い温度、例えば240℃〜270℃で、より短い時間で行われた従来の脱臭するステップよりもエネルギー消費がより少なくなる。
【0101】
好ましい実施形態において、従来の脱臭するステップの時間区分と同じか、それよりも短いものが、従来の脱臭温度よりも低い温度と組み合わせて用いられるが、先行の塩基性イオン液体処理の結果として同程度の脱臭が成し遂げられる。他の好ましい実施形態において、従来の温度、例えば、240℃〜270℃が本発明の精製工程に含まれた脱臭するステップで用いられる場合、脱臭するステップの時間区分は、従来用いられるものに比べて短くすることができ、それでも、先行の塩基性イオン液体処理の結果として、同等のレベルの脱臭が成し遂げられる。
【0102】
したがって塩基性イオン液体処理は、次の脱臭するステップ中のエネルギー消費を減らすことができるという利点も有する。さらに、有利なことに、脱臭するステップ中の熱暴露の温度を低くするか、又は時間区分を短くするかによって、油の所望されない感覚刺激特性をもたらし得る副反応、又は所望されない潜在的な有害副生成物の生成も減らすことができる。
【0103】
特に好ましい実施形態において、本発明の方法による少なくとも1つのさらなる精製するステップが脱臭するステップを含む場合、脱臭の温度は、160℃〜200℃、より好ましくは170℃〜190℃である。好ましくは、脱臭がこれらの温度で行われる時間区分は、30〜150分、より好ましくは45〜120分、最も好ましくは60〜90分である。
【0104】
本発明の方法による塩基性イオン液体処理は、好適には、油抽出に続く任意の先行の精製するステップに付されていない粗グリセリド油に施すことができる。或いは、本発明の方法は、塩基性イオン液体による処理の前に、少なくとも1つの追加の精製するステップを受けたグリセリド油に施すことができる。好ましくは、少なくとも1つの追加の精製するステップは、漂白するステップ及び/又はデガミングするステップから選択される。
【0105】
前述されたように、デガミングするステップは、典型的には、クエン酸及び/又はリン酸を添加して油中のホスホリピドを除去するステップを含む。このステップは、熱暴露でグリシジル脂肪酸エステルの生成を増やすように、油のプロトン活性に悪影響を及ぼす可能性がある。例えば、塩酸が酸活性に用いられた場合、酸活性化された漂白粘土又は漂白土が、塩化物アニオンなどの汚染物質の源になる可能性があることも知られている。こうした酸活性の漂白土又は漂白粘土もまた、プロトン活性を変えることがあり、後続の熱暴露でグリシジル脂肪酸エステルの生成を可能性として増やすことがある。
【0106】
したがって、いくつかの実施形態において、デガミングするステップは塩基性イオン液体処理より先に行うことが好ましく、その理由は、塩基性イオン液体処理は、グリセリド油を酸に暴露した後、塩基性イオン液体によって調整された、油のプロトン活性をもたらすからである。いくつかの実施形態において、漂白するステップは塩基性イオン液体処理より先に行うことが好ましく、その理由は、特に塩化物アニオン源を含む材料が用いられる場合、こうした汚染物質が、塩基性イオン液体処理によって除去される見込みがあるからである。
【0107】
有利なことに、本発明の方法の一部を成す塩基性イオン液体処理は、少なくとも部分的に、油をデガミングすることもでき、顔料を除去することもできることが明らかになった。それは、デガミングするステップ及び漂白するステップの範囲を、例えば処理時間又は材料に関して減ずることができることを意味する。前述されたように、本発明の方法の一部を成す塩基性イオン液体処理により、化学的精製方法で用いられる、分離FFAを中和するステップが不要になる。一方で、本発明の方法の一部を成す塩基性イオン液体処理によって、脱臭するステップのエネルギー消費を減らすこともできる。
【0108】
本発明に従って用いられる塩基性イオン液体処理は、グリセリド油精製に関連する材料コストに著しく寄与することができる、汚染物質を除去するためのイオン交換樹脂膜及び限外濾過膜などの使用を不要にすることを意図する。したがって、好ましい実施形態において、本明細書に記載の精製工程は、イオン交換樹脂膜又は限外濾過膜によるグリセリド油の処理を含まない。
【0109】
いくつかの実施形態において、必要に応じて、塩基性イオン液体を本発明の精製工程へ再利用するために、接触させるステップ(i)で用いられる塩基性イオン液体は、再生する方法によって、ステップ(ii)で分離された有機第四級アンモニウムカチオンを含むイオン化合物(この塩は様々である)から再生することができる。例えば、再生する方法は、前述された所望の塩基性アニオンを含む塩基性イオン液体を得るために、アニオン又はカチオンを交換するステップを含むことができる。
【0110】
一実施形態において、再生する方法は、
(a)コリン−FFA塩を炭酸と接触させるステップと、
(b)反応混合物から重炭酸コリンを得るステップと
を含む、コリン−FFA塩から重炭酸コリンである塩基性イオン液体を生成するステップを含む。
【0111】
好ましくは、ステップ(a)は、コリン−FFA塩を含む水溶液をCO
2と接触させることによって(例えば、水溶液中にCO
2を泡立たせることによって)実施される。
【0112】
好ましくは、ステップ(b)は、ステップ(a)の混合物を重炭酸コリンと混和性である溶媒と接触させ、溶媒を重炭酸コリンから分離することによって実施される。
【0113】
本発明はまた、加熱するステップの前に油を塩基性イオン液体と接触させることによって、加熱するステップ中のグリセリド油中の、クロロプロパノール及び/又はグリシドールの脂肪酸エステルの生成を阻止するか、又は減らすための、前述された塩基性イオン液体の使用も提供する。グリセリド油中の、クロロプロパノール及び/又はグリシドールの脂肪酸エステルがかなり生成されると通常予測される場合、加熱するステップは、例えば150℃を超える温度まで、200℃を超える温度まで、又はさらに250℃を超える温度まで油を加熱するステップに例えば対応し得る。したがって加熱するステップは、脱臭するステップの一部を成すことができる。
【0114】
好ましくは、塩基性イオン液体を用いて、グリセリド油中のクロロプロパノール脂肪酸エステルの生成を阻止するか、又は減らす。より好ましくは、塩基性イオン液体を用いて、モノクロロプロパノール脂肪酸エステルの生成を阻止するか、又は減らす。最も好ましくは、イオン液体を用いて、グリセリド油中の3−MCPD脂肪酸エステルの生成を阻止するか、又は減らす。塩基性イオン液体のアニオン及びカチオンの特性、並びにグリセリド油の特性に関する、本発明の他の態様の好ましい実施形態は、本発明のこの態様に同様に適用される。例えば、イオン液体が重炭酸コリンであることが最も好ましい。
【0115】
グリセリド油中のMCPDの濃度を決定する分析方法は、R.Weisshaar, "Determination of total 3-chloropropane-1,2-diol (3-MCPD) in edible oils by cleavage of MCPD esters with sodium methoxide", Eur. J. Lipid Sci. Technol. (2008) 110, 183-186に記載されている。改正されたドイツ脂質科学会(DGF)標準法C−III18(10)(ドイツ標準法2010)により、MCPD又はその脂肪酸エステルの濃度を決定する好適な手順、及びグリシドール又はその脂肪酸エステルの存在を決定する間接的な方法も提供される。クロロプロパノール及びグリシドール、並びにそれらの脂肪酸エステルの含量を決定する直接的な手順は、J Am Oil Chem Soc. Jan 2011; 88(1): 1-14に報告されているように、液体クロマトグラフィー−飛行時間型質量分析法(LC−TOFMS)の使用を含む。
【0116】
前述された本発明の実施形態は、任意の他の両立可能な実施形態と組み合わせて、本発明のさらなる実施形態を構成することができる。当業者に認識されるであろうように、本発明の全ての態様は、パーム油又はパーム油を含むグリセリド油混合物の処理及び精製に適用することができる。特定の実施例において、本発明はまた、グリセリド油がパーム油を含み、又はパーム油からなる、本明細書に記載の方法であって、前述された再生するステップをさらに含む、方法にも及ぶ。
【0117】
本発明は、ここで以下の実施例によって説明される。
[実施例]
【0118】
グリセリド油の、酸価(油1g当たりKOHmg)及びFFA(重量%)含量を決定する一般的な方法
イソプロピルアルコール60mlを含むビーカーに、フェノールフタレイン0.5mLを添加した。この混合物を沸騰するまで加熱し、イソプロピルアルコール中0.02M水酸化カリウムを、薄桃色が約10秒持続するまで添加した。
【0119】
ガラスバイアルに、グリセリド油試料0.200gを添加し、次いで上記の加熱イソプロピルアルコール溶液50mlに溶解させた。得られた溶液は、0.1ml刻みで目盛られた25mlビュレットを用いて、0.02M水酸化カリウム溶液で、フェノールフタレイン指示薬の終点まで、すなわち、桃色が少なくとも30秒続くまで撹拌しながら滴定した。
【0120】
次に酸価(油1g当たりKOHmg)を、次式を用いて計算した。
56.1×N×V/m
式中、
56.1は水酸化カリウムのMrであり、
Vは用いられた水酸化カリウム溶液量(ml)であり、
Nは水酸化カリウム溶液の規定度であり、及び
mはグリセリド油試料の質量(g)である。
【0121】
酸価が決定されると、FFA含量を導くことができる。本開示においてFFA含量は、FFAがパルミチン酸(Mr=256g/モル)及びオレイン酸(Mr=282g/モル)の、平均分子量269g/モルをもたらす等量混合物であると仮定して、質量パーセントで定められる。FFA1重量%を含む油は、油1g当たりオレイン酸/パルミチン酸0.01gを含み、オレイン酸/パルミチン酸量が3.171×10
−5モル(0.01/269)に対応する。このオレイン酸/パルミチン酸量(すなわち、酸価−AV)を中和するのに必要となるKOH量は、油1g当たりKOH2.086mg(3.171×10
−5×56.1)であると計算される。したがって、FFA含量(重量%)の計算には次式が含まれる。
FFA重量%=酸価×0.479
【実施例1】
【0122】
トウモロコシ油のイオン液体処理
トウモロコシ油(10g)をそのFFA含量について分析し、ステアリン酸でドープしてFFA含量5重量%をもたらした。ドープされた油が試料であり、これを60℃まで加熱し、その後重炭酸コリン溶液(H
2O中80w/w%、Sigma-Aldrich UK社製)0.363gを添加した。混合物を30分間急速に撹拌し、その後4400rpmで2分間遠心分離した。
【0123】
上部の油相を取り出し、FFA含量を分析した。結果を以下の表1に示す。
【実施例2】
【0124】
オリーブ油のイオン液体処理
トウモロコシ油の代わりにオリーブ油試料を用いたことを除き、実施例1の方法を繰り返した。結果を以下の表1に示す。
【実施例3】
【0125】
ヒマシ油のイオン液体処理
トウモロコシ油の代わりにヒマシ油試料を用いたことを除き、実施例1の方法を繰り返した。結果を以下の表1に示す。
【実施例4】
【0126】
ナタネ(カノーラ)油のイオン液体処理
トウモロコシ油の代わりにナタネ油試料を用いたことを除き、実施例1の方法を繰り返した。結果を以下の表1に示す。
【実施例5】
【0127】
牛のミルクバターのイオン液体処理
トウモロコシ油の代わりにバター試料を用いたことを除き、実施例1の方法を繰り返した。結果を以下の表1に示す。
【0128】
【表1】
【0129】
表1の結果によれば、塩基性イオン液体処理によって、多様な油からFFAを除去することができる。さらに、上記結果によれば、塩基性イオン液体処理によって油のプロトン活性を低くすることができる。この特性は、後続の脱臭するステップにおけるクロロプロパノール脂肪酸エステル及びグリシジル脂肪酸エステル生成の重要な促進剤であることが明らかになった。
【0130】
上記被処理油のそれぞれが、続いて、(加熱マントルを用いた)フラスコ内で、蒸気の流れの下(1時間あたり水1質量%)、減圧(0.1kPa)で、260℃で90分間加熱するステップにさらされるとき、MCPD脂肪酸エステル及びグリシジル脂肪酸エステルの濃度(標準法DGF−C−VI 18、A部、及びDGF標準法C−VI 17(10)を用いて決定される)は、イオン液体処理を受けていない、ステアリン酸でドープされた油の試料で観測された濃度と比較して、著しく減少することが明らかである。
【実施例6】
【0131】
牛のミルクバターのイオン液体処理
バター1.5gを、試料バイアル内に置いた後、非結合3−MCPD(Sigma-Aldrich UK社製)でドープした。得られた混合物を40℃で3時間撹拌して、油とドーパントの完全な混合を確実なものにし、その後油中のドーパントの濃度を測定した。続いて、重炭酸コリン(100mg、H
2O中80w/w%、Sigma-Aldrich UK社製)を油/ドーパント混合物に添加し、得られた混合物を40℃で約12時間撹拌した。次いで、混合物を2500rpmで10分間遠心分離した。次いで、上部の油相を取り出し、油相の小さい試料を分析用に取得した。結果を以下の表2に示す。
【実施例7】
【0132】
トウモロコシ油のイオン液体処理
バターの代わりにトウモロコシ油を用い、重炭酸コリンと、混合するステップ及び接触させるステップを室温で行ったことを除き、実施例6の方法を繰り返した。結果を以下の表2に示す。
【実施例8】
【0133】
オリーブ油のイオン液体処理
バターの代わりにトウモロコシ油を用い、重炭酸コリンと、混合するステップ及び接触させるステップを室温で行ったことを除き、実施例6の方法を繰り返した。結果を以下の表2に示す。
【0134】
【表2】
【0135】
油の分析に用いられる手法は、R.Weisshaar, "Determination of total 3-chloropropane-1,2-diol (3-MCPD) in edible oils by cleavage of MCPD esters with sodium methoxide", Eur. J. Lipid Sci. Technol. (2008) 110, 183-186によって提案されたものである。この方法には、3−MCPDの抽出、フェニルボロン酸による誘導体化、及びその後のGC−MSを用いた分析(重水素で標識された内部標準(3−MCPD−d
5)も各試料に添加される)が含まれる。
【0136】
重水素で標識された3−MCPDでスパイクした標準溶液を増加させて、較正曲線を用いて定量分析を実施した。イオンm/z147(3−MCPD)及びイオンm/z150(3−MCPD−d
5)が標的イオンであった。m/z196(3−MCPD)及びm/z201(3−MCPD−d
5)のイオンが確認イオンであった。この手法の検出限界は、0.15mg/kgである。
【0137】
表2の結果によれば、塩基性イオン液体処理によって、3−MCPDそれ自体などの、有機塩素化合物の相当な量を油から除去することができる。したがって、イオン液体処理によって、前述されたように、後続の脱臭するステップでクロロプロパノール脂肪酸エステルの生成に関連する塩化物源を油から除去することができる。
【国際調査報告】