特表2018-520043(P2018-520043A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2018-520043ヘッドアップディスプレイ(HUD)用の投影システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2018-520043(P2018-520043A)
(43)【公表日】2018年7月26日
(54)【発明の名称】ヘッドアップディスプレイ(HUD)用の投影システム
(51)【国際特許分類】
   B60J 1/02 20060101AFI20180629BHJP
   C03C 27/12 20060101ALI20180629BHJP
   B60K 35/00 20060101ALI20180629BHJP
【FI】
   B60J1/02 M
   C03C27/12 Z
   B60K35/00 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-564074(P2017-564074)
(86)(22)【出願日】2016年6月10日
(85)【翻訳文提出日】2018年2月7日
(86)【国際出願番号】EP2016063407
(87)【国際公開番号】WO2016198679
(87)【国際公開日】20161215
(31)【優先権主張番号】15171630.5
(32)【優先日】2015年6月11日
(33)【優先権主張国】EP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】512212885
【氏名又は名称】サン−ゴバン グラス フランス
【氏名又は名称原語表記】Saint−Gobain Glass France
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マーティン アーント
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン ゴッセン
【テーマコード(参考)】
3D344
4G061
【Fターム(参考)】
3D344AA21
3D344AB01
3D344AC25
4G061AA04
4G061AA25
4G061BA02
4G061CB03
4G061CB16
4G061CD02
4G061CD03
(57)【要約】
本発明は、ヘッドアップディスプレイ(HUD)用の投影システムに関し、当該投影システムは、熱可塑性の中間層(4)を介して互いに結合された外側板材(2)および内側板材(3)を有する車両ウィンドシールド(1)であって、上部エッジ(O)と下部エッジ(U)とHUD領域(B)とを有し、当該車両ウィンドシールド(1)の組付角度は55°乃至75°の範囲内であり、外側板材(2)および内側板材(3)の各厚さは最大5mmである、車両ウィンドシールド(1)と、アイボックス(E)内に居る観察者(6)が知覚可能な虚像を生成する、HUD領域(B)に向けられたプロジェクタ(5)と、を少なくとも備えており、ウィンドシールド(1)は、プロジェクタ(5)とアイボックス(E)の中心との間に延在する中心光線(M)が内側板材(3)に当たるHUD基準点(G)を有し、熱可塑性の中間層(4)の厚さは、上部エッジ(O)と下部エッジ(U)との間の垂直方向の延在線において少なくとも部分的にウェッジ角(α)で変化し、当該ウェッジ角(α)は、少なくともHUD領域(B)において変化し、ウィンドシールド(1)は、上部エッジ(O)と下部エッジ(U)との間のHUD基準点(G)を通る垂直方向の延在線(V)において変化する垂直方向曲率半径(R)を有し、垂直方向曲率半径(R)の最大値は、延在線(V)の、ウィンドシールド(1)の上部エッジ(O)とHUD領域(B)の下部エッジ(BU)との間の区間(V’)において、HUD基準点(G)より上方に位置する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッドアップディスプレイ(HUD)用の投影システムにおいて、
熱可塑性の中間層(4)を介して互いに結合された外側板材(2)および内側板材(3)を有する車両ウィンドシールド(1)であって、上部エッジ(O)と下部エッジ(U)とHUD領域(B)とを有し、当該車両ウィンドシールド(1)の組付角度は55°乃至75°の範囲内であり、前記外側板材(2)および前記内側板材(3)の各厚さは最大5mmである、車両ウィンドシールド(1)と、
アイボックス(E)内に居る観察者(6)が知覚可能な虚像を生成する、前記HUD領域(B)に向けられたプロジェクタ(5)と、
を少なくとも備えており、
前記ウィンドシールド(1)は、前記プロジェクタ(5)と前記アイボックス(E)の中心との間に延在する中心光線(M)が前記内側板材(3)に当たるHUD基準点(G)を有し、
前記熱可塑性の中間層(4)の厚さは、前記上部エッジ(O)と前記下部エッジ(U)との間の垂直方向の延在線において少なくとも部分的にウェッジ角(α)で変化し、当該ウェッジ角(α)は、少なくとも前記HUD領域(B)において変化し、
前記ウィンドシールド(1)は、前記上部エッジ(O)と前記下部エッジ(U)との間の前記HUD基準点(G)を通る前記垂直方向の延在線(V)において変化する垂直方向曲率半径(R)を有し、
前記垂直方向曲率半径(R)の最大値は、前記延在線(V)の、前記ウィンドシールド(1)の前記上部エッジ(O)と前記HUD領域(B)の前記下部エッジ(BU)との間の区間(V’)において、前記HUD基準点(G)より上方に位置する、
投影システム。
【請求項2】
前記垂直方向曲率半径(R)の最大値は、前記HUD領域(B)より上方に位置する、
請求項1に記載の投影システム。
【請求項3】
前記HUD領域(B)の上部エッジ(BO)における前記垂直方向曲率半径(R)は、当該HUD領域(B)の下部エッジ(BU)における前記垂直方向曲率半径(R)より大きく、かつ、当該上部エッジ(BO)と当該下部エッジ(BU)との間において単調に減少していく、
請求項1または2に記載の投影システム。
【請求項4】
前記垂直方向曲率半径(R)の最大値は、ECE規則43のA視界の上部のエッジにまたは当該上部のエッジより上方に位置する、
請求項1から3までのいずれか1項に記載の投影システム。
【請求項5】
前記垂直方向曲率半径(R)の最大値は、前記ウィンドシールド(1)の前記上部エッジ(O)と当該ウィンドシールド(1)の前記下部エッジ(U)との間の前記垂直方向の延在線(V)全体において、前記HUD基準点(G)より上方に位置する、
請求項1から4までのいずれか1項に記載の投影システム。
【請求項6】
前記ウェッジ角(α)は、前記垂直方向の延在線において、前記HUD領域(B)の上部エッジ(BO)から当該HUD領域(B)の前記下部エッジ(BU)に向かって単調に増加していく、
請求項1から5までのいずれか1項に記載の投影システム。
【請求項7】
前記ウェッジ角(α)は、前記HUD領域(B)において0.05mrad乃至2mradであり、有利には0.1mrad乃至1mradである、
請求項1から6までのいずれか1項に記載の投影システム。
【請求項8】
前記垂直方向曲率半径(R)は、前記HUD領域(B)において6m乃至10mであり、有利には7m乃至9mである、
請求項1から7までのいずれか1項に記載の投影システム。
【請求項9】
前記ウィンドシールド(1)全体の前記垂直方向曲率半径(R)は、1m乃至20mであり、有利には2m乃至15mである、
請求項1から8までのいずれか1項に記載の投影システム。
【請求項10】
前記外側板材(2)および前記内側板材(3)は、石灰ソーダガラスを含み、かつ、0.8mm乃至5mmの厚さ、有利には1.4mm乃至2.5mmの厚さを有する、
請求項1から9までのいずれか1項に記載の投影システム。
【請求項11】
前記中間層(4)は、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレン酢酸ビニル(EVA)、ポリウレタン(PU)、または、これらの混合物もしくはコポリマーもしくは誘導体、有利にはPVBを少なくとも含み、かつ、0.2mm乃至2mmの最小厚さ、有利には0.3mm乃至1mmの最小厚さを有する、
請求項1から10までのいずれか1項に記載の投影システム。
【請求項12】
前記中間層(4)は、騒音減衰性の多層フィルムとして構成されている、
請求項1から11までのいずれか1項に記載の投影システム。
【請求項13】
請求項1から12までのいずれか1項に記載のヘッドアップディスプレイ(HUD)用の投影システムの製造方法において、
熱可塑性の中間層(4)を介して互いに結合された外側板材(2)および内側板材(3)を有する車両ウィンドシールド(1)であって、上部エッジ(O)と下部エッジ(U)とHUD領域(B)とを有し、前記上部エッジ(O)と前記下部エッジ(U)との間の垂直方向の延在線における前記熱可塑性の中間層(4)の厚さは、少なくとも部分的にウェッジ角(α)で変化し、当該ウェッジ角(α)は、少なくとも前記HUD領域(B)において変化する、車両ウィンドシールド(1)と、
アイボックス(E)内に居る観察者(6)が知覚可能な虚像を生成する、前記HUD領域(B)に向けられたプロジェクタ(5)と、
を備えており、
前記製造方法は、
(a)前記プロジェクタ(5)と前記アイボックス(E)の中心との間に延在する中心光線(M)が前記内側板材(3)に当たるHUD基準点(G)を、前記ウィンドシールド(1)と前記プロジェクタ(5)と前記アイボックス(E)との計画された相対的配置から特定するステップと、
(b)前記垂直方向曲率半径(R)の最大値が、前記延在線(V)のうち、前記HUD領域(B)の下部エッジ(BU)と前記ウィンドシールド(1)の前記上部エッジ(O)との間の区間(V’)内において、前記HUD基準点(G)より上方に位置するように、前記上部エッジ(O)と前記下部エッジ(U)との間の前記HUD基準点(G)を通る垂直方向の延在線(V)において変化する前記垂直方向曲率半径(R)のプロファイルを作成するステップと、
(c)前記ウェッジ角(α)と、前記垂直方向曲率半径(R)の特定された推移とを有する、前記ウィンドシールド(1)を製造するステップと、
(d)前記ウィンドシールド(1)と前記プロジェクタ(5)とを相対的に配置することにより、前記投影システムが得られるステップと、
を少なくとも有する製造方法。
【請求項14】
車両におけるヘッドアップディスプレイ(HUD)としての、有利には自動車、特に有利には乗用自動車における、請求項1から12までのいずれか1項に記載の投影システムの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、投影システム、その製造方法、および、ヘッドアップディスプレイとしての投影システムの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の自動車ではますます、いわゆるヘッドアップディスプレイ(HUD)を備えることが増えてきている。たとえばダッシュボードの領域またはルーフ領域に設けられたプロジェクタにより、ウィンドシールドに画像が投影され、ここで反射されて、(運転者から見て)ウィンドシールド後方において虚像として運転者によって知覚される。たとえば、運転者の視界内に重要な情報を、たとえば現時点の車速、ナビゲーション指示または警報指示等を投影することができ、運転者は視線を走行路から逸らす必要なく、この重要な情報を知覚することができる。よって、ヘッドアップディスプレイは交通安全性の向上に格段に寄与することができる。
【0003】
上記のヘッドアップディスプレイの場合、プロジェクタ画像がウィンドシールドの両表面において反射されるという問題が生じる。かかる反射により、運転者は所望の1次像を知覚するだけでなく、僅かにオフセットした、通常は強度が比較的弱い2次像も知覚することとなる。後者は通常、「ゴースト像」とも称される。この問題は、公知になっているところでは、ゴースト像が邪魔をしないようにすべく1次像とゴースト像とを重ね合わせるように、反射性の両表面を、相互間に意識的に選択した角度で配置することにより解決される。ヘッドアップディスプレイ用の従来の複層ガラスの場合、この角度は典型的には約0.5mradである。
【0004】
ウィンドシールドは、熱可塑性フィルムを介して2つのガラス板を互いに貼り合わせたものから構成される。これらのガラス板の表面を上述のように角度をなすように配置する場合には、厚さが一定でない熱可塑性フィルムを使用するのが通常である。これを「ウェッジ形フィルム」または「ウェッジフィルム」ともいう。かかるフィルムの両表面間の角度を「ウェッジ角」という。ウェッジフィルムを有するヘッドアップディスプレイ用複層ガラスは、たとえば欧州特許第1800855号明細書(EP1800855B1)または欧州特許出願公開第1880243号明細書(EP1880243A2)から公知となっている。
【0005】
最も簡単な事例では、ウェッジ角はフィルム全体にわたって一定である(厚さ変化が一定)。このことは、ウェッジ角が1つの観察位置(いわゆる眼位置)にしか最適でないという欠点を有する。実際の運転者の眼が、たとえば身長が異なるために他の位置にある場合には、ゴースト像の補償は最適でなくなってしまう。かかる欠点は、ウェッジ角を一定にする代わりに、たとえば独国特許出願公開第102007059323号明細書(DE102007059323A1)から公知であるように、ウェッジ角を垂直方向の延在線において変化させることにより改善することができる(厚さ変化が非線形)。その際には、ウェッジ角は(少なくともHUD領域において)上方から下方に向かって増大していく。
【0006】
ウィンドシールドの場合、反射時におけるゴースト像の他に、さらに不所望の現象が生じる。両ガラス板の屈折挙動により、板材を通じて観察される対象物が2重の像として見えることがある。透過時におけるこの現象は、一般的に「2重像」と称される。この2重像も、独国特許出願公開第102008008758号明細書(DE102008008758A1)から公知であるように、ウェッジ角を非線形とすることによって縮小することができる。しかし、そのために必要なウェッジ角プロファイルは、ゴースト像を回避するためのウェッジ角プロファイルとちょうど正反対となっている(ウェッジ角は上方から下方に向かって減少していく)。ゴースト像を補償するための要件と、2重像を補償するための要件とは、いわば相反している。よって、ゴースト像の回避に最適なウェッジ角プロファイルが2重像の作用を増幅させることがあり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許第1800855号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第1880243号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開第102007059323号明細書
【特許文献4】独国特許出願公開第102008008758号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】ミュンヘン工科大学情報科学研究所のAlexander Neumannによる論文「Simulationsbasierte Messtechnik zur Pruefung von Head-Up Displays」(ミュンヘン:ミュンヘン工科大学図書館、2012年)、特にKapitel 2「Das Head-Up Display」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の基礎となる課題は、HUD投影のゴースト像の発生と、透過時における2重像の発生との双方が減少する、ヘッドアップディスプレイ(HUD)用の改善された投影システムを実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の前記課題は、本発明では請求項1に記載の投影システムによって解決される。従属請求項に有利な実施形態が記載されている。
【0011】
本発明に係るヘッドアップディスプレイ(HUD)用投影システムは、少なくとも1つの車両ウィンドシールド(特に自動車のウィンドシールド、たとえば乗用自動車のウィンドシールド)と、プロジェクタとを備えている。HUDにおいて通常であるように、プロジェクタは、ウィンドシールドのうち放射を観察者(運転者)の方向に反射させる領域に照射し、この反射によって虚像が生成され、観察者を基準としてウィンドシールド後方において当該観察者がこの虚像を知覚する。ウィンドシールドのうちプロジェクタにより照射され得る領域は、「HUD領域」と称される。プロジェクタはこのHUD領域に向けられる。プロジェクタの光線方向を典型的にはミラーによって変化させることができ、特に、投影を観察者の身長に合わせて調整するために垂直方向に変化させることができる。所与のミラー位置決めの場合に観察者の眼が存在しなければならないこの領域は、「アイボックス窓」と称される。このアイボックス窓は、ミラーの位置調整によって垂直方向に移動することができ、この垂直移動によって到達可能となる全領域(すなわち、全ての可能なアイボックス窓が重なり合う領域)を、「アイボックス」と称する。このアイボックス内に存在する観察者が、虚像を知覚することができる。これはもちろん、観察者の眼がアイボックス内に存在しなければならないことを意味するのであって、たとえば身体全体が存在しなければならないことを意味するものではない。
【0012】
本願で使用されるHUD分野の専門用語は、当業者に周知である。詳細な説明については、ミュンヘン工科大学情報科学研究所のAlexander Neumannによる論文「Simulationsbasierte Messtechnik zur Pruefung von Head-Up Displays」(ミュンヘン:ミュンヘン工科大学図書館、2012年)、特にKapitel 2「Das Head-Up Display」を参照されたい。
【0013】
ウィンドシールドは外側板材と内側板材とを有し、これらは熱可塑性の中間層を介して互いに結合されている。ウィンドシールドは、車両のウィンドウ開口において車室を外部周辺から分離するために設けられている。「内側板材」とは、本発明では、複層ガラスのうち車室(車内スペース)側の板材をいう。「外側板材」とは、外部周辺側のガラスをいう。
【0014】
ウィンドシールドは上部エッジおよび下部エッジを有する。「上部エッジ」とは、組付状態において上向きになるように設けられる側部エッジをいう。「下部エッジ」とは、組付状態において下向きになるように設けられる側部エッジをいう。上部エッジはしばしば「ルーフエッジ」とも称されることが多く、下部エッジは「エンジンエッジ」と称されることが多い。
【0015】
プロジェクタとアイボックス中心との間に延在する光線は、一般的に「中心光線」という。これは、HUD投影システムの設計のための特徴的な参照光線である。本発明では、中心光線が内側板材に当たる点を「HUD基準点」という。HUD基準点はHUD領域内にあり、典型的にはほぼ中央にある。
【0016】
中間層の厚さは、ウィンドシールドの上部エッジと下部エッジとの間の垂直方向の延在線において、少なくとも部分的に変化している。「部分的」とはここでは、上部エッジと下部エッジとの間の垂直方向の延在線の少なくとも一部分において、中間層の厚さが位置に依存して変化すること、すなわち、中間層がウェッジ角を有することを意味する。中間層の厚さは、少なくともHUD領域において変化している。この厚さは、複数の部分において変化すること、または、垂直方向の延在線全体において変化すること、たとえば下部エッジから上部エッジに向かって単調に増加していくことも可能である。「垂直方向の延在線」とは、上部エッジと下部エッジとの間にある、当該上部エッジに対して実質的に垂直な延在方向の延在線をいう。ウィンドシールドの場合、この上部エッジは直線とは大きく異なり得るので、より厳密にいうと垂直方向の延在線は、上部エッジの2つの角部間の接続線に対して垂直方向の向きである。中間層は、少なくとも部分的に、有限のウェッジ角を有する。すなわち、0°超のウェッジ角を、すなわち、厚さが変化する部分に有する。
【0017】
「ウェッジ角」とは、中間層の両表面間の角度をいう。このウェッジ角が一定でない場合には、1点においてこれを測定するために、両表面に対する接線を使用する。
【0018】
ウェッジ角は、少なくともHUD領域において変化している。有利には、ウェッジ角は垂直方向の延在線において、HUD領域の上部エッジから当該HUD領域の下部エッジに向かって単調に増加していく。かかるウェッジ角プロファイルによって、プロジェクタ像の2重反射に起因するゴースト像を、異なる眼位置でも効果的に回避することができる。
【0019】
本発明の基礎となる認識は、2重像の不所望の作用、および、ウェッジ角を変化させることによる2重像の作用の増幅が、板材の曲率半径と決定的に関連しているということである。ウィンドシールドは典型的には、上部エッジと下部エッジとの間で垂直方向の延在線において変化する、垂直方向曲率半径を有する。この垂直方向曲率半径は、板材の上部エッジと下部エッジとの間の垂直方向の次元における曲率に係るものである。板材について、大きい曲率半径は弱い曲率に相当し、小さい曲率半径はきつい曲率に相当する。従来の典型的なウィンドシールドの場合、垂直方向曲率半径は、垂直方向の延在線において上部エッジから下部エッジの方向へ向かって増加していく。
【0020】
本願発明者は驚くべきことに、曲率半径の上述の典型的な推移が、ウェッジ角が変化することによる2重像の増幅と関連していること、および、従来の板材と比較して曲率半径の最大値を上方向に、少なくともHUD基準点を越えるまでシフトさせることによって、ゴースト像の作用と2重像の作用とをいわば切り離すことができるとの認識を得た。
【0021】
よって、本発明のウィンドシールドは、上部エッジと下部エッジとの間で垂直方向の延在線において変化する、垂直方向曲率半径を有する。曲率半径が決定されるこの垂直方向の延在線は、HUD基準点を通過するように選択される。
【0022】
ここで、上述の垂直方向の延在線のうち、ウィンドシールドの上部エッジとHUD領域の下部エッジ(すなわち、HUD領域の側部エッジのうちウィンドシールドの下部エッジ側に来る側部エッジ)との間の区間を考察すると、垂直方向曲率半径の最大値は、この区間内においてHUD基準点より上方に位置することとなる。ここで「上方」とは、最大値がHUD基準点より、ウィンドシールドの上部エッジに近いことをいう。よって、板材の最も平坦な場所は、HUD基準点より上方にある、ということになる。
【0023】
理想的には、HUD基準点を通過する垂直方向の延在線全体において、曲率半径の最大値はHUD基準点より上方に位置する。しかし、実際の板材では、下縁部領域に非常に平坦な場所が生じ得る。この平坦な場所は、典型的には曲げエラーに起因するものである。しかし、この平坦な場所は本発明の機能に影響しない。よって、HUD領域の下部エッジとウィンドシールドの上部エッジとの間の区間内で最大値を決定することで足りる。ここで記載されている曲率半径最大値の有利な配置は全て、理想的には、ウィンドシールドの上部エッジと下部エッジとの間の垂直方向の全延在線を基準としたものであって、ウィンドシールドの上部エッジとHUD領域の下部エッジとの間の区間を基準とするものではない。
【0024】
有利な一実施形態では、垂直方向曲率半径の最大値はHUD領域より上方に位置する。これによって、2重像の回避の観点で特に良好な結果が得られる。本態様は設計にも有利となり得る。というのも、HUD基準点が既知であること、または、特定されることを要しなくなるからである。この場合、最大曲率半径とHUD領域の上部エッジにおける曲率半径との差は、有利には0.5m乃至2m、特に有利には1m乃至1.5mである。
【0025】
有利な一実施形態では、HUD領域の上部エッジにおける垂直方向曲率半径は当該HUD領域の下部エッジにおける垂直方向曲率半径より大きく、有利には、上部エッジと下部エッジとの間において単調に減少していく。
【0026】
特に有利な一実施形態では、垂直方向曲率半径の最大値は、ECE規則43のA視界の上部のエッジにまたはこれより上方に位置する。これによって、特に良好な結果が得られる。
【0027】
(変化する)ウェッジ角はHUD領域では、有利には0.05mrad乃至2mradであり、特に有利には0.1mrad乃至1mradであり、特に0.3mrad乃至0.8mradである。これによって、典型的なヘッドアップディスプレイの場合には、ゴースト像の抑圧の観点で良好な結果が達成される。
【0028】
有利な一実施形態では、HUD領域における垂直方向曲率半径は6m乃至10m、有利には7m乃至9mである。これにより、2重像を特に効果的に回避することができる。
【0029】
垂直方向曲率半径の最大値は、有利には8m乃至10mである。
【0030】
ウィンドシールド全体の垂直方向曲率半径は、有利には1m乃至40mの範囲内、特に有利には2m乃至15m、特に3m乃至13mである。
【0031】
ウィンドシールドの組付角度は、典型的には水平線に対して55°乃至75°の範囲内、特に58°乃至72°である。かかる組付角度の場合、本発明のウェッジ角を問題なく実現することができる。特に有利な一実施形態では、組付角度は水平線に対して60°乃至68°であり、有利には63°乃至67°である。かかる組付角度によって、特に小さいウェッジ角の中間層を達成することができる。
【0032】
ウィンドシールドにおける中心光線の入射角は、有利には50°乃至75°の範囲内であり、特に有利には60°乃至70°の範囲内であり、たとえば65°である。この入射角は、ウィンドシールドに対する法線の方向に対して測定されるものである。
【0033】
HUD領域はコンタクトアナログHUDの場合、典型的には、古典的な静止HUDより大きい。有利な一実施形態では、本発明のHUD領域の面積はウィンドシールドの面積の少なくとも7%、特に有利には少なくとも8%である。静止HUDのHUD領域の面積は典型的には、ウィンドシールドの面積の最大4乃至5%である。たとえば、HUD領域の面積は40,000mm乃至125,000mmである。
【0034】
外側板材および内側板材は、有利にはガラスを、特に石灰ソーダガラスを含む。しかし、板材は基本的に他種のガラスを含むこと、たとえば石英ガラスまたはホウケイ酸ガラス等を含むことができ、または、剛性のクリアプラスチックを含むこと、特にポリカーボネートまたはポリメチルメタクリレートを含むことも可能である。外側板材および内側板材の各厚さは、幅広く変えることができる。有利には、各単板材の厚さは最大5mm、有利には最大3mmである。有利なのは、0.8mm乃至5mmの範囲内の厚さ、有利には1.4mm乃至2.5mmの範囲内の厚さの板材を使用すること、たとえば1.6mmまたは2.1mmの標準厚さの板材を使用することである。
【0035】
熱可塑性の中間層は、少なくとも熱可塑性ポリマーを含み、有利には、エチレン酢酸ビニル(EVA)、ポリビニルブチラール(PVB)もしくはポリウレタン(PU)、または、これらの混合物もしくはコポリマーもしくは誘導体を含み、特に有利にはPVBを含む。この熱可塑性の結合フィルムの最小厚さは、有利には0.2mm乃至2mm、特に有利には0.3mm乃至1mmである。「最小厚さ」とは、中間層の最も薄い位置における厚さをいう。熱可塑性の中間層は、厚さが変化する少なくとも1つの熱可塑性の結合フィルムによって、ウェッジ角が少なくとも部分的に変化するいわゆるウェッジフィルムによって構成されている。
【0036】
水平方向断面(すなわち、上部エッジおよび下部エッジに対してほぼ平行な断面)における中間層の厚さは、一定とすることができる。この厚さプロファイルは、複層ガラスの幅にわたって一定である。また、水平方向断面においても厚さが変化することも可能である。その際には、厚さは垂直方向延在線においてだけでなく、水平方向延在線においても変化する。
【0037】
中間層は1つのフィルムによって構成することができ、または、1つより多くのフィルムによって構成することもできる。後者の場合には、これら複数のフィルムのうち少なくとも1つは、上述のウェッジ角を有するように構成しなければならない。中間層は、騒音減衰作用を有するいわゆる音響フィルムから構成すること、または、かかるフィルムを含むこともできる。かかるフィルムは、典型的には少なくとも3層から成り、その中間の層は、たとえば軟化剤の割合が高いことにより、当該中間の層を挟む外側の層より高い塑性または弾性を有する。
【0038】
外側板材、内側板材および熱可塑性の中間層は、クリアかつ無色とすることができ、また、色味付きまたは有色とすることもできる。有利な一実施形態では、複層ガラスの総透過率は70%超である。「総透過率」との用語は、ECE規則43、付録3、§9.1により定められた、自動車ガラス板の光透過率の検査方法を基準とする。
【0039】
本発明のウィンドシールドは機能性コーティングを、たとえばIR反射コーティング、IR吸収コーティング、UV反射コーティング、UV吸収コーティング、低放射率コーティング、加熱可能なコーティングを備えることができる。機能性コーティングは、外側板材上または内側板材上に配置することができる。機能性コーティングは有利には、板材の、熱可塑性の中間層を向いた表面上に配置され、この表面において機能性コーティングの腐食や損傷が防止される。機能性コーティングを中間層内の、たとえばポリエチレンテレフタレート(PET)製のインレイフィルム上に配置することもできる。
【0040】
本発明はさらに、HUD用の投影システムの製造方法も包含しており、当該投影システムは、
・熱可塑性の中間層を介して互いに結合された外側板材および内側板材を有する車両ウィンドシールドであって、上部エッジと下部エッジとHUD領域とを有し、上部エッジと下部エッジとの間の垂直方向の延在線における熱可塑性の中間層の厚さは、少なくとも部分的にウェッジ角で変化し、ウェッジ角は、少なくともHUD領域において変化する、車両ウィンドシールドと、
・アイボックス内に居る観察者が知覚可能な虚像を生成する、HUD領域に向けられたプロジェクタと、
を備えている。
【0041】
本発明に係る製造方法は、
(a)プロジェクタとアイボックスの中心との間に延在する中心光線が内側板材に当たるHUD基準点を、ウィンドシールドとプロジェクタとアイボックスとの計画された相対的配置から求めるステップと、
(b)垂直方向曲率半径の最大値が、延在線のうち、HUD領域の下部エッジとウィンドシールドの上部エッジとの間の区間内においてHUD基準点より上方に位置するように、上部エッジと下部エッジとの間のHUD基準点を通る垂直方向の延在線において変化する垂直方向曲率半径のプロファイルを求めるステップと、
(c)ウェッジ角と、垂直方向曲率半径の求められた推移とを有する、ウィンドシールドを製造するステップと、
(d)ウィンドシールドとプロジェクタとを相対的に配置することにより、投影システムが得られるステップと、
を有する。
【0042】
本方法の格別な利点は、投影システムの設計時にウィンドシールドの曲率プロファイルが考慮されることである。
【0043】
板材の厚さおよび組付位置は、典型的には、HUDの設計時には既に決定している。これを基礎として、ゴースト像を最適に最小化するように、理論的にウェッジ角推移を求めることもできる。ウェッジ角推移は、当業者に通常のシミュレーションによって求められる。
【0044】
さらに、ウィンドシールドとプロジェクタとの間の相対的配置も決定しなければならない。この相対的配置から、アイボックスの位置が求められる。これらのデータから中心光線およびHUD基準点の双方を求めることができる。
【0045】
HUD基準点が決定すると、垂直方向曲率プロファイルが本発明により求められる。曲率プロファイルはゴースト像にも影響を及ぼし得るので、この時点でウェッジ角の調整が必要となり得る。ウェッジ角プロファイルおよび曲率プロファイルを有する板材幾何形態の最終的な決定は、ゴースト問題および2重像問題が最小になるまで反復的に行うことができる。
【0046】
これまで述べてきたステップは全て、典型的には設計段階において、典型的には車両のCADデータに基づいて行われる。最終的な板材幾何形態が決定した後、板材を製造することができる。
【0047】
熱可塑性の中間層は、フィルムとして準備される。ウェッジ角は、(出発状態において)実質的に一定の厚さのフィルムの延伸によって、または、ウェッジ形の押出ノズルを用いた押出成形により、フィルムに導入することができる。
【0048】
外側板材および内側板材は、貼り合わせの前に、求められた曲率プロファイルに従って曲げ処理を施される。有利には、外側板材と内側板材とを共に(すなわち、同時かつ同一の工具によって)合同で曲げる。というのもこのことによって、両板材の形状が後で行われる貼り合わせのために最適に互いに適合するからである。ガラス曲げ処理のための典型的な温度は、たとえば500℃乃至700℃である。
【0049】
ウィンドシールドの製造は、当業者に自明である通常の手法を用いて、たとえばオートクレーブ法、真空袋法、真空リング法、カレンダー法、真空ラミネータ、またはこれらの組合せによって、貼り合わせにより行われる。このとき、外側板材と内側板材との結合は、通常は熱、真空および/または圧力の作用下で行われる。
【0050】
次に、典型的にはウィンドシールドおよびプロジェクタを車体に組み付けることにより、ウィンドシールドとプロジェクタとを互いに相対的に配置する。このようにして、本発明に係る投影システムが得られる。
【0051】
本発明はさらに、車両におけるヘッドアップディスプレイ(HUD)としての本発明に係る投影システムの使用、有利には自動車、特に有利には乗用自動車における本発明に係る投影システムの使用も包含する。
【0052】
以下、図面と実施例とを参照して本発明を詳細に説明する。本図面は概略図であり、実寸の比率通りではない。また、本図面は本発明を何ら限定するものでもない。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1】本発明に係る投影システムのウィンドシールドの平面図である。
図2】本発明に係る投影システムの断面図である。
図3】本発明のウィンドシールドの曲率半径の推移の概略図である。
図4】本発明に係る方法の一実施形態のフローチャートである。
図5】垂直方向曲率半径と、これにより生じる2重像角度のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0054】
図1は、本発明に係る投影システムのウィンドシールド1の平面図である。ウィンドシールド1は、上部エッジO、下部エッジU、および、これらを接続する2つの側部エッジを有する。組付状態では、上部エッジOは車両ルーフに向かって上向きであり(ルーフエッジ)、下部エッジUはエンジンルームに向かって下向きである(エンジンエッジ)。ウィンドシールド1は、組付状態においてHUDプロジェクタによって照射され得るHUD領域Bを有し、動作中にこのHUD領域Bは照射される。HUD領域Bは、上部エッジ(BO)と、下部エッジ(BU)と、これら両エッジを接続する2つの側部エッジとによって区切られる。図中にはさらに、HUD基準点G、および、上部エッジOと下部エッジUとの間の当該HUD基準点Gを通る垂直方向の延在線Vが示されており、このHUD基準点Gについては以下詳細に説明する。
【0055】
図2は、垂直方向の延在線Vに沿った本発明に係る投影システムの断面図であり、この投影システムは、図1のウィンドシールド1とHUDプロジェクタ5とを備えている。ウィンドシールド1は外側板材2と内側板材3とから成り、これらは熱可塑性の中間層4を介して互いに結合されている。ウィンドシールドは、車内スペースを外部周辺から分離し、外側板材2は、組付状態では外部周辺側に位置し、内側板材3は車内スペース側に位置する。
【0056】
外側板材2は、たとえば、厚さ2.1mmの石灰ソーダガラスから成る。内側板材3は、たとえば、厚さ1.6mmの石灰ソーダガラスから成る。これらの板材は、ウィンドシールドに慣用されているものである。中間層4の厚さは、下部エッジUから上部エッジOに向かう垂直方向の延在線において単調に厚くなっていく。図中では簡素化のため、この厚さ増大は、両表面間のウェッジ角αを一定とした線形に示されている。しかし、本発明の中間層4は、一定でないウェッジ角αでのより複雑な、少なくとも部分的に非線形の厚さ増大を有することもある。中間層4は、PVB製の単一のフィルムから構成されている。中間層4の厚さは、たとえば、上部エッジOでは1.25mmであり、下部エッジUではたとえば0.76mmである。
【0057】
プロジェクタ5はこのHUD領域Bに向けられる。この領域において、プロジェクタ5によって画像を生成する必要がある。プロジェクタ像は、ウィンドシールド1によって観察者6(車両運転者)の方向に反射される。これによって、観察者6から見てウィンドシールド1後方に、図示されていない虚像が生じる。このようにして表示される情報は、観察者6が視線を走行路から逸らす必要なく知覚することができる。
【0058】
中間層4をこのようにウェッジ形とすることにより、外側板材2および内側板材3の、中間層4とは反対側の両表面におけるプロジェクタ像の反射によって生成された両像が、互いに重なり合う。妨害となるゴースト像の出現が僅かになる。ウェッジ角αは、少なくともHUD領域B内において、垂直方向の延在線において変化し、上部エッジBOから下部エッジBUに向かって単調に増大していく。ウェッジ角αは、たとえば上部エッジBOでは0.3mradであり、HUD基準点Gでは0.5mradであり、下部エッジBUでは0.8mradである。ウェッジ角αがこのように変化することにより、たとえば運転者の身長がそれぞれ異なることに起因して異なる眼位置に合わせて、作用(ゴースト像の抑圧)を最適化することができる。
【0059】
虚像を知覚するために観察者6の眼が存在しなければならない領域は、「アイボックス窓」と称される。このアイボックス窓は、異なる身長および着座位置の観察者6に合わせてHUDを調整できるようにするため、プロジェクタ5内のミラーによって垂直方向に移動可能となっている。アイボックス窓を移動できる、到達可能な全領域は、「アイボックスE」と称される。プロジェクタ5とアイボックスEの中心とを結ぶ光線(通常は、プロジェクタ5のミラーが0位置にある)を「中心光線M」という。HUD基準点Gは、内側板材3上においてこの中心光線Mが当たる点に相当する。HUD投影システムの設計時には、この基準点Gは特徴量となる。
【0060】
図3は、従来のウィンドシールドおよび本発明の一実施形態のウィンドシールド1の、下部エッジUと上部エッジOとの間の垂直方向の延在線Vにおける垂直方向曲率半径Rのプロファイルを比較した図である。従来の典型的なウィンドシールドの場合、垂直方向曲率半径Rは、典型的には、上部エッジOから下部エッジUに向かって連続的に増加していく。
【0061】
本発明のウィンドシールド1は、垂直方向曲率半径Rの推移が従来のものとは相違することを特徴とする。HUD領域Bの下部エッジBUとウィンドシールド1の上部エッジOとの間の垂直方向の延在線Vの区間V’を考察して、この区間V’において垂直方向曲率半径Rの最大値を決定すると、この最大値はHUD基準点Gより上方に位置することとなる。すなわち、HUD基準点Gと上部エッジOとの間に位置することとなる。図中の有利な実施形態では、最大値はHUD領域Bより上方に位置する。HUD領域B内では、上部エッジBOから下部エッジBUに向かって曲率半径が単調に増加していく。
【0062】
垂直方向曲率半径Rは、最大でたとえば9.5mとなり、HUD領域内では、上部エッジBOにおける9mから下部エッジBUにおける7.5mまで減少していく。
【0063】
本発明に係る投影システムは、ウィンドシールドの曲率半径の推移をHUDの設計に初めて取り入れたものである。すなわち、反射時におけるゴースト像を効果的に低減できる、上方から下方に向かって増加していく変動的なウェッジ角は、従来は透過時における2重像を増幅させる原因となっていた。本願発明者は、この現象は従来の、最も平坦な場所(最大曲率半径の場所)がHUD領域より下方にある、ウィンドシールドの曲率プロファイルによって増幅されるものであるとの認識を得た。最も平坦な場所をHUD基準点Gより上方とする本発明の曲率プロファイルによって、ゴースト像と2重像とをいわば互いに切り離すことができ、ウェッジ角推移が2重像に対して及ぼす増幅作用が低減する。これは、本発明の大きな利点である。
【0064】
図4は、本発明に係るヘッドアップディスプレイ用投影システムの製造方法の一実施例のフローチャートである。
【0065】
図5は、垂直方向曲率半径Rの本発明の推移の有利な効果を示すグラフである。上方のグラフには、従来のウィンドシールドの場合と本発明のウィンドシールドの場合とにおける垂直方向曲率半径Rの垂直方向推移が示されており、両推移とも、変化するウェッジ角は同一構成となっている。従来技術の垂直方向曲率半径Rは、下部エッジUまでの距離が小さくなるにつれて定常的に増大していくのに対し、本発明の本実施例では垂直方向曲率半径Rは、HUD領域Bより上方であって、かつ、ECE規則43のA視界の上部のエッジより僅かに上方に最大値を示す。
【0066】
その作用は、上述の垂直方向曲率半径Rにより生じる2重像角度を示した下方のグラフから明らかである。ゴースト像を回避するため、ウェッジ角推移はHUD領域Bにおいて、異なる表面におけるHUD投影の反射が互いに重なり合うように最適化される。しかし、このようなウェッジ角推移の最適化は、2重像問題を増幅させる原因となり得る。すなわち、板材を通じて観察される対象物が、ますます2重像として見えることとなる。グラフを見ると、垂直方向曲率半径Rの本発明の推移によって2重像角度が格段に小さくなり、これによって2重像の妨害性が低くなることが分かる。
【0067】
本発明は、上部エッジと下部エッジとHUD領域とを有する車両ウィンドシールドを少なくとも備えた、ヘッドアップディスプレイ(HUD)用の投影システムに関するものであり、車両ウィンドシールドは、熱可塑性の中間層を介して互いに結合された外側板材および内側板材を備えており、当該投影システムはさらに、アイボックス内に居る観察者が知覚可能な虚像を生成する、HUD領域に向けられたプロジェクタを備えており、ウィンドシールドは、プロジェクタとアイボックスの中心との間に延在する中心光線が内側板材に当たるHUD基準点を有し、熱可塑性の中間層の厚さは、上部エッジと下部エッジとの間の垂直方向の延在線において少なくとも部分的にウェッジ角(α)で変化し、ウェッジ角(α)は、少なくともHUD領域において変化し、ウィンドシールドは、上部エッジと下部エッジとの間のHUD基準点を通る垂直方向の延在線において変化する垂直方向曲率半径を有し、垂直方向曲率半径の最大値は、当該延在線の、ウィンドシールドの上部エッジとHUD領域の下部エッジとの間の区間において、HUD基準点より上方に位置する。
【符号の説明】
【0068】
(1) ウィンドシールド
(2) 外側板材
(3) 内側板材
(4) 熱可塑性の中間層
(5) プロジェクタ
(6) 観察者/車両運転者
(O) ウィンドシールド1の上部エッジ
(U) ウィンドシールド1の下部エッジ
(B) ウィンドシールド1のHUD領域
(BO) HUD領域Bの上部エッジ
(BU) HUD領域Bの下部エッジ
α 中間層4のウェッジ角
R ウィンドシールド1の垂直方向曲率半径
(V) 上部エッジOと下部エッジUとの間の曲率半径Rの垂直方向の推移
(V’) ウィンドシールド1の上部エッジOと下部エッジBUとの間のVの区間
(E) アイボックス
(M) (プロジェクタ5とアイボックスEの中心との間の)中心光線
(G) HUD基準点
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】