特表2018-520085(P2018-520085A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オックスフォード ユニヴァーシティ イノヴェーション リミテッドの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2018-520085(P2018-520085A)
(43)【公表日】2018年7月26日
(54)【発明の名称】結晶格子内の空孔を捕捉する方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 33/00 20060101AFI20180629BHJP
   C30B 33/02 20060101ALI20180629BHJP
   C30B 29/04 20060101ALI20180629BHJP
   C30B 29/36 20060101ALI20180629BHJP
   C30B 29/06 20060101ALI20180629BHJP
【FI】
   C30B33/00
   C30B33/02
   C30B29/04 V
   C30B29/36 A
   C30B29/06 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2018-500316(P2018-500316)
(86)(22)【出願日】2016年7月1日
(85)【翻訳文提出日】2018年2月22日
(86)【国際出願番号】GB2016052004
(87)【国際公開番号】WO2017006092
(87)【国際公開日】20170112
(31)【優先権主張番号】1511677.5
(32)【優先日】2015年7月3日
(33)【優先権主張国】GB
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】507226592
【氏名又は名称】オックスフォード ユニヴァーシティ イノヴェーション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブース, マーティン ジェイムズ
(72)【発明者】
【氏名】ソルター, パトリック
(72)【発明者】
【氏名】スミス, ジェイソン
(72)【発明者】
【氏名】チェン, ユーチェン
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BA03
4G077BA04
4G077BE08
4G077FE02
4G077FE11
4G077FH08
4G077FJ06
(57)【要約】
ターゲットの結晶格子内に捕捉された空孔を加工する方法が提供される。方法は、結晶格子内に空孔捕捉要素を有するターゲットをレーザシステム内に位置決めするステップと、レーザを用いてターゲット内の結晶格子を改質して、格子空孔を生成するステップと、ターゲットをアニーリング処理して格子空孔を移動させ、空孔捕捉要素によって捕捉して、結晶格子内に捕捉された空孔を形成するステップを含む。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットの結晶格子内に捕捉された空孔を加工する方法であって、
結晶格子内に空孔捕捉要素を有するターゲットをレーザシステム内に位置決めするステップと、
レーザを用いてターゲット内の結晶格子を改質して、格子空孔を生成するステップと、
ターゲットをアニーリング処理して格子空孔を移動させ、空孔捕捉要素によって捕捉して、結晶格子内に捕捉された空孔を形成するステップを含む、方法。
【請求項2】
結晶格子を改質するステップは、結晶格子による非線形多光子吸収を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
レーザは、吸収された光子のエネルギがターゲットのバンドギャップ未満となるように、中心波長で作動される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ターゲットに入るレーザのパルスエネルギが5nJと15nJとの間であり、好ましくはエネルギは9nJと14nJとの間であり、更に好ましくは10nJと12nJとの間である、請求項1乃至3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
空孔捕捉要素は、1ppm未満の濃度で存在し、好ましくは空孔捕捉要素は5ppm未満の濃度で存在する、請求項1乃至4の何れかに記載の方法。
【請求項6】
空孔捕捉要素は窒素であり、又は空孔捕捉要素はシリコンであり、又は空孔捕捉要素はゲルマニウムである、請求項1乃至5の何れかに記載の方法。
【請求項7】
空孔捕捉要素は、ターゲットの加工中に蒸着され、ターゲットは化学蒸着(CVD)を使用して加工される、請求項1乃至6の何れかに記載の方法。
【請求項8】
空孔捕捉要素はターゲット全体に均一に分布され、又は空孔捕捉要素はターゲット全体に不均一に分布された、請求項1乃至7の何れかに記載の方法。
【請求項9】
捕捉された空孔は着色中心の一部を形成し、着色中心は窒素空孔中心である、請求項1乃至8の何れかに記載の方法。
【請求項10】
結晶格子を改質するステップは、焦点が合わさったレーザビームをターゲットの特定の領域に向けるステップを含む、請求項1乃至9の何れかに記載の方法。
【請求項11】
更に、レーザビームの波面を改質して、ターゲットの屈折率によって引き起こされるレーザビームの収差を相殺するステップを含み、レーザビームの波面は、空間光変調器、変形可能なミラー、又は膜変形可能なミラーを使用して改質される、請求項1乃至10の何れかに記載の方法。
【請求項12】
更に、結晶格子を改質するための有効ビーム領域を減少させるために、ターゲットの改質閾値(MT)に対するレーザのパルスエネルギー(PE)を選択するステップを含み、改質閾値(MT)が決定され、パルスエネルギー(PE)が、0.9MT<PE<1.3MTとなるように選択される、請求項1乃至11の何れかに記載の方法。
【請求項13】
結晶格子の改質された領域は、200nmm未満のサイズを有し、好ましくは100nm未満のサイズを有する、請求項1乃至12の何れかに記載の方法。
【請求項14】
更に、捕捉された空孔について所望の位置を決定するステップと、該位置にレーザビームの焦点を合わせて結晶格子を改質することを実行するステップを含む、請求項1乃至13の何れかに記載の方法。
【請求項15】
ターゲットはダイヤモンドである、請求項1乃至14の何れかに記載の方法。
【請求項16】
ターゲットは炭化ケイ素であり、又はターゲットはシリコンである、請求項1乃至14の何れかに記載の方法。
【請求項17】
アニーリング処理するステップは、真空中でターゲットを800℃-1400℃の間で15分間-24時間加熱するステップを含み、好ましくは、アニーリング処理するステップは、真空中でターゲットを約900℃に約3時間加熱するステップを含む、請求項1乃至16の何れかに記載の方法。
【請求項18】
ターゲットの結晶格子内に捕捉された空孔の二次元または三次元のアレイまたはパターンを形成するステップを含み、アレイは、互いに周期的に間隔をおいて隔離され捕捉された空孔のグリッドである、請求項1乃至17の何れかに記載の方法。
【請求項19】
方法は、センサの加工における製造工程であり、センサは、磁界センサ、電界センサ、及び/又は温度センサである、請求項1乃至18の何れかに記載の方法。
【請求項20】
方法は、量子要素の加工における製造工程である、請求項1乃至19の何れかに記載の方法。
【請求項21】
パルスの持続時間は、ターゲット内の熱拡散のための特有の時間スケールよりも短く、レーザによって生成されるパルスの持続時間は約80fsであり、及び/又は好ましくは、ターゲットにおけるパルス持続時間は約300fsである、請求項4又は12に記載の方法。
【請求項22】
レーザは、ピコ秒又はフェムト秒レーザである、請求項1乃至21の何れかに記載の方法。
【請求項23】
結晶格子を改質するステップは、結晶格子中における4次、又はより高次の非線形多光子吸収を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項24】
ターゲットがアニーリング処理された後に、捕捉された空孔の周りの領域に損傷のないようにレーザ動作を制御するステップを含む、請求項1乃至23の何れかに記載の方法。
【請求項25】
結晶格子を改質するステップは、5ミクロンを超える深さ、又はターゲットの表面から100ミクロンを超える深さ、ターゲットの表面から500ミクロンを超える深さで結晶格子を選択的に改質するステップを含む、請求項1乃至24の何れかに記載の方法。
【請求項26】
結晶格子を改質するステップは、少なくとも1つの特定の捕捉された空孔について歪み場を処理するように格子を改質し、その特性を改質するステップを含む、請求項1乃至25の何れかに記載の方法。
【請求項27】
ターゲットの表面は影響を及ぼされないか、改質されない、請求項1乃至26の何れかに記載の方法。
【請求項28】
ターゲットの光学的特性は、捕捉された空孔が加工される箇所を除いて変更されないままである、請求項1乃至27の何れかに記載の方法。
【請求項29】
結晶格子をアニーリング処理するステップは、捕捉されない格子空孔を除去する、請求項1乃至28の何れかに記載の方法。
【請求項30】
ターゲットの結晶格子における結晶欠陥の歪み処理方法であって、
ターゲットをレーザシステム内に位置決めするステップと、
結晶格子内の結晶欠陥の位置を決定するステップと、
結晶欠陥の位置に基づいて改質されるべきターゲットの領域を決定するステップと、
制御された光学パルスをターゲットの領域に付与して結晶格子を局所的に損傷させるステップと、
ターゲットをアニーリング処理して結晶格子の損傷された領域から改質された結晶質又は非結晶質の構造を得るステップを含み、
改質された結晶質又は非結晶質の構造は、結晶欠陥にて所望の歪み場を誘発する、方法
【請求項31】
結晶格子の領域を局所的に損傷させるステップは、結晶格子による非線形多光子吸収を含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
光学パルスは、吸収された光子のエネルギーがターゲットのバンドギャップより小さくなるような中心波長を有する、請求項30又は31に記載の方法。
【請求項33】
ターゲットの結晶格子内に、改質された結晶質又は非結晶質の構造の二次元又は三次元のアレイ又はパターンを形成するステップを含み、アレイは互いに周期的に間隔をおいて隔離され改質された結晶質又は非結晶質の構造である、請求項30乃至32の何れかに記載の方法。
【請求項34】
更に、光学パルスの波面を改質してターゲットの屈折率により引き起こされる収差を相殺するステップを含み、波面は空間光変調器、変形可能なミラー、又は膜変形可能なミラーを用いて改質される、請求項30乃至33の何れかに記載の方法。
【請求項35】
結晶格子の改質された領域は、200nm未満のサイズを有し、好ましくは100nm未満のサイズを有する、請求項30乃至34の何れかに記載の方法。
【請求項36】
方法は、センサの加工における製造工程であり、センサは、磁界センサ、電界センサ、及び/又は温度センサである、請求項30乃至35の何れかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶欠陥に関し、より詳細には、結晶格子を改質(modifying)する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶中の光学的にアクティブな点欠陥(着色中心としても知られている)は、センシングから遠隔通信及び情報記憶/処理までのデバイス用途の範囲に使用することができる。例えば、ダイヤモンド内の点欠陥(point defect)は、情報技術において数多くの潜在的用途を有する。点欠陥は、磁場、電場、及び温度のセンサとして使用され、ナノメートルスケールで極めて低い検出限界及び空間分解能の両方を提供し、計算を実行するのに十分な時間持続時間の量子重畳として情報が記憶される量子メモリレジスタとして使用され、サブポアソンノイズレベルが要求される量子通信及びアプリケーションで使用するための光の単一光子源として使用される。
【0003】
上記の用途が特定されるこれらの欠陥の1つは、窒素空孔中心であり、これはダイヤモンド中の巨大四面体結晶の[111]結合軸に沿って置換窒素原子及び隣接空孔を構成する。
欠陥の特性の多くは一般的であり、他の欠陥は潜在的に同様の用途に興味深く有用である。ダイヤモンドに一般的な特性は以下を含む。
【0004】
(i)環境堅牢性-ダイヤモンドは、硬く不活性な材料であり、安定した耐久性のあるデバイスを作ることができる。
(ii)生体適合性-ダイヤモンドは完全に炭素からなるので、完全に生体適合性である。
(iii)低熱雑音-多くの用途は、格子振動の形の熱雑音に敏感である。ダイヤモンドは、約2200Kのデバイ温度(Debye temperature)を有するため、熱誘起格子振動は、室温で他の材料よりもはるかに低い。
(iv)低磁気ノイズ-多くの用途は、格子内の電子スピン及び核スピンのランダムな再配向によって引き起こされる磁気ノイズに敏感である。ダイヤモンドは、周囲温度での自由キャリア密度が無視できるように5.5eVの極めて広いバンドギャップ(電子が存在することのできない領域)を有する。天然に存在するダイヤモンドはまた、主にスピン0核を有する(ほぼ99%)12C同位体であるため、核スピンはほとんどない。この材料は、同位体純度を高めて成長させて、格子内の磁気ノイズをさらに低減する。高い化学的純度と低い欠陥レベルも、これらのスピンを介して磁場を生成する不対電子のための部位を提供するので重要である。
(v)点欠陥は、バンドギャップ内に深く高度に局在化した電子状態を有し、残留格子摂動から比較的切り離された原子状の挙動を提供する。
【0005】
殆どの点欠陥は格子空孔を伴う。窒素空孔、シリコン空孔欠陥及びゲルマニウム空孔欠陥はそれぞれ、その構造の一部として単一の(無傷または分割された)空孔を有する。他の欠陥は、複数の空孔を含むか、または形成中に不純物拡散を可能にする空孔の存在を必要とする。従って、格子内に空孔を制御された方法で生成することは、特にダイヤモンド格子内の他の不純物の存在と組み合わされるときに、広範囲の欠陥を制御された方法で生成するのに大きな価値がある。
【0006】
炭化ケイ素、シリコン、ガーネット結晶などの他の材料もまた、成長(deplopment)の初期段階では情報用途において同様に有用な着色中心を表す。
技術的に有望な着色中心の一例は、窒素空孔(NV)中心である。NV中心は、2つの公知の帯電状態を有し、それは中立状態NVと単独で負に帯電されたNVである。NV空孔は、スペクトルの可視領域において、スピン三重項基底状態と、強力なスピン保存型電気双極子遷移を提供する電子構造を有し、光学的ポンピングと欠陥のスピン状態の測定の両方を可能にする。過去10年間に、量子光学、量子センサ及び量子コンピューティング用途におけるNV欠陥の使用を中心に、ますます多くの文献が生み出されてきた。
【0007】
NV中心は天然ダイヤモンド中に見出され、また、結晶成長プロセスの間、または結晶成長が完了した後に作成される合成材料中に形成され得る。多くの上記の用途について、結晶中のNV中心の位置、形成されるNV中心の数(しばしばアドレス可能な体積内にて個々のNV中心を必要とする)、及びNV中心の特性を制御することが望ましい。この理由から、結晶成長後にNV中心を生成することが有利であり得る。
【0008】
NV中心がダイヤモンド格子内に通常に形成されるステップは、第1に、十分な置換窒素原子の存在を確実にすることであり、それらは既に存在するかまたはイオン注入によって添加される必要がある。第2に空孔(例えば、イオン注入によって生成された空孔)の存在を確実にし、次いで空孔が移動し格子中に拡散するように、ダイヤモンドを摂氏800度を超える温度でアニーリング処理する。拡散された空孔が置換窒素原子に遭遇すると、エネルギー的に安定したNV中心を形成することができる。同様のプロセスが他の空孔に関連した欠陥中心にも適用され、これにより、適切なイオンまたはイオンの組み合わせの注入が、空孔生成及びアニーリング処理と組み合わされて、格子内に安定な錯体を生成する。
【0009】
以前は、空孔形成は電子照射またはイオン注入プロセスのいずれかによって行われていた。これらの方法は、侵入点から表面下の最大深さまでの格子損傷を生じる、何故なら粒子が格子原子と衝突することによって損傷が生じ、粒子は格子に侵入するにつれて徐々にエネルギーを失うからである。これらの衝突は、粒子をその経路からそらすこともでき、その結果、空孔は意図された場所以外の場所に生成される可能性がある。一般に、イオン注入については、侵入時に運動エネルギーを失うので、強く注入されたイオンの平均軌道のために、殆どの格子損傷が最大侵入深さ付近で生じることがわかっている。
【0010】
これにより、誘起された空孔の位置が、ある程度制御されるが、殆どの場合(特に表面又は表面の下に1マイクロメータ以上のNV中心を作成する場合)、このプロセスは、着色中心を形成するために、空孔を生成するのに望ましいよりもはるかに多くの格子損傷を生じる。高温アニーリングは、残留した損傷格子の一部を除去することができるが、全ての損傷格子を除去するのではなく-NV中心は摂氏約1450℃まで安定であり、注入プロセスによって生成される殆どの拡張された空孔欠陥は、摂氏約1000℃以上の温度で破壊される。しかし、作成されるあらゆる着色中心は、一般的には広範囲の格子損傷によって取り囲まれ、着色中心の特性に望ましくない影響を及ぼす。従って、これらの従来技術の方法を使用して、結晶成長プロセス中に生じる特性と等しい特性を有するNV中心の生成を達成することはできない。
【0011】
以前に使用されていたNV生成方法の更なる制限事項は、それらでは結晶深部の孤立したNV中心を作成することができないことである、何故なら窒素注入は(MeV注入エネルギーを用いて)数マイクロメートルにしか達し得ないので、電子ビーム照射は空孔生成のための深さ制御を提供しないからである。より高いエネルギー方法は、格子への副次的損傷の増加をもたらす。
【0012】
同様の方法は、シリコン空孔中心のような他の空孔を組み込んだ欠陥の作成において想定することができる。
結晶中の空孔の存在は、多くの欠陥を形成することとなる要素であり、空孔を制御された方法で生成することは、デバイス処理の欠陥形成を制御するための重要点となり得る。
【発明の概要】
【0013】
本発明の実施形態に従って、広義には、結晶格子を改質する方法が提供され、該方法は、レーザを用いてターゲット内の制御された位置で結晶格子を改質するステップと、前記結晶格子をアニーリング処理して前記結晶中に所望の特徴を形成するステップとを含む。
【0014】
結晶格子を改質するステップは、結晶格子の構造が変えられるようにレーザからの光パルスの相互作用によって結晶格子を局所的に損傷するステップを含む。これは1以上の空孔の作成を経る。幾つかの例において、損傷がより大きくなり、格子が改質結晶または非晶質構造を採用する結果となる。全ての場合において、光パルスの相互作用の領域に限定されるという意味において、損傷は「局所的」である。一般に、これは、1マイクロメートル未満の量、より好ましくは500ナノメートル(nm)未満の量、より好ましくは250nm未満の幅の量に対応する。最も好ましい構成にて、損傷は150nm未満で、あらゆる方向に距離を伸ばし、約100nm以下のオーダーでさえあり得る。
【0015】
本発明の第1の態様に従って、ターゲットの結晶格子内に捕捉された空孔を加工する方法であって、結晶格子内に空孔捕捉要素を有するターゲットをレーザシステム内に位置決めするステップと、レーザを用いてターゲット内の結晶格子を改質して、格子空孔を生成するステップと、ターゲットをアニーリング処理して格子空孔を移動させ、空孔捕捉要素によって捕捉して、結晶格子内に捕捉された空孔を形成するステップを含む。
【0016】
制御された方法で結晶中に空孔を形成することにより、着色中心の生成を制御することができ、材料の格子歪みを処理して(engineering)着色中心特性を改質することができる。本発明は従って、レーザ処理を使用して生産用の格子空孔を生成し、着色中心に基づいてデバイスを処理することに関する。一実施形態はダイヤモンド内の窒素空孔(NV)中心に焦点を当てるが(方法が実験的に示される)、方法は他の欠陥及び他の結晶材料にも適用可能である。方法はレーザ処理の後にアニーリング処理して、結晶格子、好ましくはダイヤモンド内の所望の箇所に1つのNV中心を生成する。
【0017】
方法は、非線形多光子吸収を介して結晶格子を改質するステップを含む。
方法は、パルスレーザを用いるステップを含む。方法は、吸収された光子の予測されるエネルギーがターゲットのバンドギャップより小さくなる中心波長でレーザを動作させるステップと、線形の単一光子吸収によってターゲットに損傷を与えるとは予測されない出力でレーザを動作させるステップを含む。即ち、結晶格子によってレーザからのエネルギを吸収することは非線形であり、多光子のエネルギを同時に吸収する結果となり、吸収された光子の総エネルギーはバンドギャップのエネルギーと略等しくなる。
【0018】
従って、改質すべきターゲットの領域のサイズは、レーザの強度が非線形吸収を引き起こすのに十分な箇所でのみ、縮小され得る。非線形吸収は、一般的に線形吸収よりも高い強度を必要とするので、改質される結晶格子の領域は、レーザの最高強度領域のみに制約される(constrained)。結晶格子の改質は、結晶格子中における2次、3次、4次、またはより高次の非線形多光子吸収を含むことができる。
【0019】
結晶に入射するレーザのパルスエネルギーは、15nJ未満である。このレベルより上では、パルスエネルギーが結晶格子に多大な損傷を与えることが分かる。
好ましい構成では、方法は、結晶に入射するレーザのパルスエネルギーが2nJより大きいことを含む。結晶格子内に所望の損傷を確実に与えるために、最小レベルのパルスエネルギーが必要とされる。
【0020】
結晶に入射するレーザのパルスエネルギーは、9nJと14nJとの間であり、具体例では、10nJと12nJとの間である。これらのエネルギーは、結晶格子を改質するのに一般的に使用されるエネルギーよりも実質的に低い。例えば、ダイヤモンドを改質するために使用される一般的なエネルギーは100nJであり、例えば、ダイヤモンドにグラファイトワイヤを製作する時に用いられる。従って、本発明の方法は、結晶格子を改質する他の公知の方法よりも著しく低いパルスエネルギーを用いるものと考えられる。本発明の方法の低パルスエネルギーの結果は、例えばダイヤモンドがターゲットの場合、黒鉛損傷の表示が見えないなど、目に見える改質が結晶格子に引き起こされないことである。
【0021】
方法は、約1ppm未満の濃度で空孔捕捉要素が存在するターゲットを使用するステップを含み、約5ppm未満の濃度で空孔捕捉要素が存在するステップを更に含むのがより好ましい。ターゲットは、1立方ミクロン当たり約200の空孔捕捉要素を有する。
参考のために、方法はアニーリング処理中に、生成された空孔が生成点に近い点で捕捉されるように十分に捕捉濃度が高く、一方、結晶格子自体の特性が望ましくない方法で影響されないように十分に低い捕捉要素の濃度を有するターゲットを選択するステップを含む。
【0022】
方法は、空孔捕捉要素が窒素であることを含む。本発明の方法によって、特にダイヤモンドのターゲット中に作り出される処理された窒素空孔は、処理され捕捉された空孔を有するセンサ等のための有用なデバイスとして有望である特性を有する。空孔捕捉要素は、シリコン又はゲルマニウムのような他の要素でもよい。方法は、窒素空孔、シリコン空孔又はゲルマニウム空孔、及びこれらの任意の組み合わせを加工するステップを含み、窒素、シリコン及びゲルマニウム以外の空孔捕獲要素を使用するステップを含み得る。そのような空孔捕捉要素は、結晶格子中に自然に存在し、結晶成長の間に蒸着され、拡散され、注入されるか、または結晶中に配置される任意の不純物であり得る。
【0023】
一実施形態にて、ターゲットはダイヤモンドである。ダイヤモンドは、耐久性で比較的化学的に不活性であるだけでなく、生体適合性であり、熱ノイズ及び磁気ノイズが低いなど、上記の望ましい特性を有する。方法は、ダイヤモンド、シリコンまたは炭化ケイ素のターゲット、及びそれらの任意の組み合わせを選択するステップを含む。他の結晶格子を有する他のターゲットも使用され得る。
【0024】
方法は、ターゲットの加工中に蒸着(deposit)される空孔捕捉要素を含み、化学蒸着(CVD)を使用して加工されるターゲットをさらに含む。空孔捕捉要素の濃度は、高純度CVD加工中に生じる濃度であり、従って、特別な加工工程を必要としない。或いは、濃度は、加工中に結晶格子のドーピングを必要とし、またはより低い純度のターゲットを使用することを可能にする。空孔捕捉要素は、結晶の蒸着中にプリントされてもよい。
【0025】
空孔捕捉要素は、ターゲット材料全体にわたって均一に分布することができ、従って、ターゲットの各領域は、アニーリング中に移動する空孔を捕捉する可能性がほぼ等しい。或いは、空孔捕捉要素は、他のものよりも意図的にターゲットの一部の領域に集中し、空孔捕捉要素の濃度がより高い特定の領域は、空孔捕捉要素の濃度がより低いターゲットの領域と比較して、移動する空孔を捕捉する可能性が高くなる。空孔と空孔捕捉要素を組み合わせたときに、空孔捕捉要素をターゲットの中央領域、アレイ位置に集中させることが、光学的装置または他の装置にとって有益であることが望ましい。従って、ターゲット材料の加工は、特に所望の領域における空孔捕捉要素の濃度を増加または減少させる特別な加工を必要とする。
【0026】
方法は、捕捉された空孔が着色中心の一部を形成することを含み、好ましくは、着色中心が窒素空孔の着色中心(NV)であることを含む。着色中心は、シリコン空孔またはゲルマニウム空孔であってもよい。他の着色中心も考えられる。
【0027】
方法は、集束されたレーザをターゲット内の特定の領域に向けることによって結晶格子を改質するステップを含むことができる。従って、結晶格子の所望の領域が改質される。これらの所望の領域は、バルク材料に比して増加又は減少した濃度の空孔捕捉要素を有する。所望の領域は、他の捕捉された空孔、改質された結晶格子領域又はターゲット領域に比して特殊な位置である。方法は、捕捉された空孔の所望の位置を決定するステップと、結晶格子を改質するステップを実行するためにレーザをその位置に集束させるステップとを含む。
【0028】
方法は、レーザの波面を改質して、ターゲットの屈折率によって引き起こされるレーザの収差を相殺するステップを含む。レーザの波面の改質は、空間光変調器、変形可能なミラー、及び膜変形可能なミラー、またはそれらの任意の組み合わせを使用して行うことができる。
或いは又はこれに加えて、レーザの波面の改質は、この方法を実施するのに適した特定の装置のために予め設計された位相マスクを使用して行うことができる。このようなマスクを使用して、加工された捕捉空孔を有するターゲットのバルク製造のための装置が構成される。集束の収差を相殺するように波面を改質する他の手段も使用される。
【0029】
方法は、ターゲット内の任意の位置または任意の位置の組み合わせで、結晶格子の領域を改質するステップを含む。方法は、ターゲットの表面に隣接する結晶格子を改質するステップ、及び/又はターゲットの縁に隣接する結晶格子を改質するステップ、及び/又はターゲットの後面に隣接する結晶格子を改質するステップを含む。
【0030】
結晶格子を改質するステップは、5ミクロンを超える深さで結晶格子を選択的に改質するステップを含む。方法は、10ミクロンを超える深さ、又はターゲットの表面から100ミクロンを超える深さで結晶格子を選択的に改質するステップを含み、表面から500ミクロンを超える深さで結晶格子を選択的に改質するステップを含む。特に、ターゲットの表面による光の屈折に起因する収差の影響が相殺され、ターゲットの表面の下の深い深度で収差のない焦点合わせが達成される。
【0031】
方法は、所望の焦点を除いてターゲットの領域に影響を及ぼさないか、または改質せず、結晶の表面に影響を及ぼしたり、または改質しない、何故なら焦点の位置を制御することができ、ターゲットの表面における強度が低すぎて改質を引き起こすことができないからである。ターゲットの光学的特性は、捕捉された空孔が加工される場合を除いて、ターゲット全体にわたって変化しないままであり得る。
【0032】
方法は、結晶格子を改質するための有効ビーム領域を減少させるために、ターゲットの改質閾値(MT)に対するレーザのパルスエネルギー(PE)を選択するステップを含む。換言すれば、方法は、例えば異なる位置で異なるパルスエネルギーを用いることにより、結晶格子の改質がそれ未満では観察されないパルスエネルギーを特定するステップと、ターゲットを調査するステップと、結晶格子の改質が見られ始める閾値を決定するステップを含む。好ましくは、改質閾値(MT)が決定され、パルスエネルギー(PE)が、0.9MT<PE<1.3MTとなるように選択される。この方法で、レーザの最も高い強度の領域のみが所望の方法で結晶格子を改質するのに十分なエネルギーを有し、改質された領域の空間的範囲は最高強度の領域に限定される。従って、より高い精度で格子空孔を生成することができる。
【0033】
結晶格子の改質された領域は、200nm未満のサイズを有する。好ましくは、結晶格子の改質された領域は100nm未満である。従って、加工され捕捉された空孔の局在化は、約500nm以内、より好ましくは350nm以内または250nm以内に制御され得る。幾つかの例では、加工され捕捉された空孔は、約200nm、150nmまたはより好ましくは100nm以内に制御され、改質領域の大凡のサイズに対応する合理的な生産速度を達成することが可能であり得る。
【0034】
パルス持続時間は、ターゲット内の熱拡散のための特有の時間スケールよりも短くてもよく、その結果、熱としてのエネルギーの損失を低減することができる。レーザパルスの持続時間は、1アト秒と1秒の間である。レーザは、ピコ秒又はフェムト秒レーザである。レーザによって生成されるパルスの持続時間は約80fsであってもよく、及び/又は好ましくは、ターゲットにおけるパルス持続時間は約300fsであってもよい。他のパルス持続時間が使用されてもよく、特定の装置又はターゲットにより適していてもよい。
【0035】
方法は、ターゲットの結晶格子内に捕捉された空孔の二次元または三次元のアレイまたはパターンを形成するステップを含む。二次元アレイは、互いに周期的に間隔をおいて隔離され捕捉された空孔の二次元グリッドである。三次元アレイは、互いに周期的に間隔をおいて隔離され捕捉された空孔の三次元グリッドである。
アレイ又はパターンは、2次元または3次元の任意の所望のアレイまたはパターンであり得て、捕捉された空孔の間に規則的または不規則な間隔を有することができる。更に、アレイは、1つの次元では規則的な間隔を有し、別の次元では不規則な間隔を有し、または規則的な間隔と不規則な間隔の任意の組み合わせを有する。
【0036】
方法は、例えば、以下に記載する本発明の他の態様によって、捕捉された空孔の歪みを処理する(engineer)ステップを含む。方法は、少なくとも1つの特定の捕捉された空孔について歪み場(strain field)を処理するように格子を改質し、その特性を改質するステップを含む。格子歪みは、捕捉された空孔の特性に影響を及ぼすことができ、ここに記載される技術の正確さにより、格子の特定の点における歪みが所定の方法で制御され、それによって特定の捕捉された空孔における歪みが処理される。
【0037】
方法は、ターゲットをアニーリング処理して、加工された空孔を移動させ、空孔捕捉要素によって捕捉させるステップを含む。アニーリング処理するステップは、真空中でターゲットを800℃-1400℃の間で15分間-24時間加熱するステップを含む。好ましくは、アニーリング処理するステップは、真空中でターゲットを約900℃に約3時間加熱するステップを含む。
【0038】
ターゲットをアニーリング処理することにより、空孔が移動することができる、しかし、また捕捉されない空孔を治癒し、それによって結晶格子を再生し、加工され捕捉された空孔のみを残すことができる。従って、ターゲットをアニーリング処理する目的は2つの要素(twofold)であり、それは空孔を移動させることと、空孔捕捉要素によって捕捉されていない空孔を治癒することである。
【0039】
方法は隔離され捕捉された空孔を加工するステップと、その捕捉された空孔について結晶格子の損傷を修復するステップを含む。方法は、ターゲットがアニーリング処理された後に、捕捉された空孔の周りの領域及び/又はそれに隣接する領域に損傷のないようにレーザ動作を制御するステップを含む。レーザ動作を制御するステップは、レーザ焦点の位置、レーザ焦点のサイズ、強度、パワー、位相、及び/又はレーザの持続時間を制御するステップを含む。
【0040】
アニーリング処理するステップは、ターゲットを保護コーティングで覆うステップを含む。保護コーティングは、ダイヤモンドグリット、または他の任意の適切なコーティングを含む。保護コーティングは、アニーリング処理のステップ中にターゲットの表面を保護及び/又は修復する。
方法は、センサの加工における製造工程であってもよい。好ましくは、センサは、磁界センサ、電界センサ、及び/又は温度センサである。方法は、量子メモリレジスタ又は単一光子源などの量子要素の加工における製造工程であってもよい。
【0041】
本発明の第2の態様に従って、ターゲットの結晶格子における結晶欠陥の歪み処理方法が提供され、ターゲットをレーザシステム内に位置決めするステップと、結晶格子内の結晶欠陥の位置を決定するステップと、結晶欠陥の位置に基づいて改質されるべきターゲットの領域を決定するステップと、制御された光学パルスをターゲットの領域に付与して結晶格子を局所的に損傷させるステップと、ターゲットをアニーリング処理して結晶格子の損傷された領域から改質された結晶質又は非結晶質の構造を得るステップを含み、改質された結晶質又は非結晶質の構造は、結晶欠陥にて所望の歪み場(field)を誘発する。
【0042】
方法は、第1の態様に関連して上述したような非線形多光子吸収による結晶格子を改質させる又は損傷させるステップを含む。方法は、第1の態様に関連して上述したのと同じパルスエネルギーを使用するステップを含む。或いは、方法は、例えば15nJより大きく、結晶格子を改質してグラファイト損傷を生じさせるのに使用される約100nJの一般的なレベルを指向する高いパルスエネルギーを使用するステップを含む。第2の態様では、第1の態様にて望ましいよりも結晶格子のより多くの損傷を生成することが望ましく、従って、より高いパルスエネルギーが使用され得る。或いは、精度の高い歪み処理の為に、より低いパルスエネルギーが使用され得る。
【0043】
ターゲットは上記の如く、ダイヤモンドを含む。方法は、上記の如く、集束されたレーザビームをターゲット内の特定の領域に向けることによって結晶格子を改質するステップを含む。方法は、第1の態様に関連して上述したように、ターゲットの屈折率によって引き起こされるレーザビームの収差を相殺するようにレーザビームの波面を修正するステップを含む。結晶格子を改質するステップは、上記の如く、或る深さで結晶格子を選択的に改質するステップを含む。方法は、上記の如く、ターゲットの修正閾値(MT)に対するレーザのパルスエネルギ(PE)を選択するステップを含む。結晶格子の改質領域又は損傷領域は、上記の如く、200nm未満のサイズを有する。方法は、上記の如く、ターゲットの結晶格子中に改質領域又は損傷領域の二次元又は三次元のアレイ又はパターンを形成するステップを含む。ターゲットは上記の方法で、アニーリング処理される。アニーリング処理するステップは、上記の如く、ターゲットを保護コーティングで覆うステップを含む。方法は、上記の如く、センサ又は量子コンポーネントの加工における製造工程である。
【0044】
方法は、本発明の第1の態様に関して上記した任意の又は全ての光学的特徴を含み得る。方法は本発明の第1の態様に従って、空孔を捕捉するステップ、及び本発明の第2の態様に従って、生じた結晶欠陥を歪み処理するステップを含む。本発明の態様は次々に又は同時に実行される。
【0045】
本発明は、上記の方法の何れかに従って改質された結晶にも及ぶ(extend)。本発明は、そのような結晶を組み込んだデバイスにまで及び、該デバイスは磁場、電場または温度のセンサ、量子メモリレジスタ、単一光子の光源、量子構成要素、及びそのような結晶の包含から利益を得ることができる任意の他のデバイスである。
【0046】
このようにして、本発明は少なくとも好ましい実施形態にて、結晶を改質する方法を提供するように理解され、以下のことが出来る。
(i) 制御された数の空孔の生成、又は格子歪みを誘発する所望の損傷レベルの生成。レーザパルスのパワー、持続時間、及びサイズを制御することにより、結晶格子の改質の量及び範囲を制御することができ、これは、加工される空孔の数及び位置の制御につながる(translate into)。
(ii) ターゲット材料内の三次元における改質の高い位置精度と少ない空間分布。ターゲット材料は、レーザパルスの強度が非線形の多光子吸収を引き起こすのに十分である場合にのみ改質される。更に、この方法はイオンを用いた試料の衝撃に依存しないので、予期しない場所へのイオンの散乱はなく、イオンが試料内へ侵入することによる付随的損傷の痕跡はない。
【0047】
(iii) バルク結晶のどこかに空孔を生成する。衝撃技術は、過度の損傷を引き起こすことなくどれだけ深く浸透できるかによって制限される。反対に、本発明の方法のレーザパルスは、試料内のどこにでも集束することができ、強度が改質を引き起こすのに十分な場合を除いて試料と相互作用しない。
(iv) 表面の品質、形状又は障害構造に対する工程の感知性の無さ。パルスの波面は、試料表面の収差の影響に対抗するように制御することができる。これにより、結晶内のどこにでも制御された焦点を生成することができる。
(v) 複雑なパターンの素早い生成。レーザは、衝撃技術と比較して困難性を最小限にして、走査又は再焦束することができる。
(vi) 格子に残留する損傷を最小にする。レーザパルス全体を正確に制御することにより、格子に発生する損傷を最小だけにすることを確実にする。パルスの強度が非線形吸収を引き起こすのに十分である領域のみが改質される。
本発明の特徴及び利点は、図面と共に以下の例示的な実施形態の詳細な記載から更に明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0048】
本発明の実施形態が、実施例のみと以下の図面を参照して詳細に記載される。
図1A図1Aは、線状の単一光子吸収を模式的に示し、そのような吸収が起こり得るレーザ焦点の領域を示す図である。
図1B図1Bは、非線形の多光子吸収を模式的に示し、そのような吸収が起こり得るレーザ焦点の領域を示す。この領域は、図1Aに示される線形の単一光子吸収の領域よりも比較的小さい。
図2A図2Aは、図2Bのパルスよりも材料の改質のための閾値を上回る割合を有するレーザパルスを示す。
図2B図2Bは、図2Aのパルスよりも材料の改質のための閾値を上回る小さな割合のレーザパルスを示し、ターゲット材料の小さな領域は図2Aのパルスによってではなく、図2Bのパルスによって改質される。
図3A図3Aは、レンズによって集束され、続いて異なる屈折率のターゲット材料に入射する光線によって生じる光線の収差を示す。
図3B図3Bは、異なる屈折率のターゲット材料に続いて入射することによって引き起こされる収差を相殺するように集束する前に改質された波面を示し、ターゲット材料のより小さい領域、特に深さ方向は、図3Aのパルスではなく、図3Bのパルスによって改質される。
図4図4は、結晶格子中に捕捉された空孔を加工するために使用されるレーザシステムの概略図を示す。
図5A図5Aは、図4の装置を使用して修正された例示的なターゲット材料のアニーリング処理前のフォトルミネッセンス(物質が光子を吸収した後、光を再放出する過程)を示し、改質された領域は明るい点として見ることが出来る。
図5B図5Bは、図5Aのターゲット材料のアニーリング処理後のフォトルミネッセンスを示しており、改質領域はドットとして見え、アニーリング処理はターゲット材料の改質の一部を修復している。
図6A図6Aは、ダイヤモンド内にて加工された窒素空孔中心のフォトルミネッセンス強度の一般的な飽和曲線を示す。
図6B図6Bは、ダイヤモンドの天然の窒素空孔中心のフォトルミネッセンス強度の典型的な飽和曲線を示す。
図7A図7Aは、最初に作製された窒素空孔中心のフォトルミネッセンススペクトルを示す。
図7B図7Bは、2番目に作製された窒素空孔中心のフォトルミネッセンススペクトルを示す。
図7C図7Cは、3番目に作製された窒素空孔中心のフォトルミネッセンススペクトルを示す。
図7D図7Dは、天然の窒素空孔中心のフォトルミネッセンススペクトルを示す。
図8A図8Aは、加工された図7Aの窒素空孔中心の光子相関のハンブリブラウン・トゥイス(Hanbury-Brown and Twiss)測定を示し、着色中心が存在することを確認するのに用いられる。
図8B図8Bは、加工された図7Bの窒素空孔中心の光子相関のハンブリブラウン・トゥイス測定を示し、着色中心が存在することを確認するのに用いられる。
図8C図8Cは、加工された図7Cの窒素空孔中心の光子相関のハンブリブラウン・トゥイス測定を示し、着色中心が存在することを確認するのに用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0049】
レーザは、材料の精密切削及び表面マーキングを含む作業について、加工に使用される。このような産業プロセスでは、レーザは一般的には10Wを超える出力とナノ秒単位のパルス持続時間を有する。レーザは、典型的には数十マイクロメートルの範囲内にあるスポットに集束され、焦点はワークピースを横切って走査される。最も一般的な材料の相互作用は、しばしば金属である材料の表面溶融であり、数十ミクロンの範囲の形状サイズを有する。より短いパルスレーザを使用するレーザ処理技術は、より高い空間分解能での材料改質をより正確に制御することができる。
【0050】
より短いパルス持続時間(例えば、ピコ秒またはフェムト秒)を有するレーザは、より低い電力でより精密な加工に対する機会を与える。これは、フォトニック技術及び透明材料内での加工にとって特に重要である。透明材料は、スペクトルの可視部分の光子エネルギーよりも大きい光学バンドギャップを有する。しかしながら、光強度が十分に大きい場合、バンドギャップを乗り越える(bridge)ために、多数の光子が同時に吸収される実現性のある可能性が生じる(即ち、多光子、非線形吸収)。図1Bは、図1Aに示される線形の単一光子(110)吸収と比較した非線形で多光子吸収の概略図を示す。同じエネルギーバンドギャップは、線形の単一光子(110)吸収によって、または低エネルギー(120)の複数の光子の同時吸収によって乗り越えられる。例えば、図1Bにおいて、4つの光子が吸収され、これは、以下に述べるダイヤモンドターゲットの例に用いられてきたメカニズムであると考えられる。
【0051】
非線形の多光子吸収に必要な光強度は、短パルスレーザビームの焦点の最高強度領域(122)においてのみ達成可能である。焦点領域の外側では、強度はより低く、多光子吸収の確率は十分に小さい。レーザからのエネルギーの多光子吸収は、結晶格子を改質することができ、故に吸収材料の特性を改質することができる。従って、非線形の多光子吸収に依拠することにより、焦点領域(122)に対して3次元で高度に局在化されたレーザ加工が達成され、表面又は周辺領域に改質が殆ど無いか全くなく、表面又は周辺領域では多光子吸収の確率は無視できる。
【0052】
対照的に、単一光子(110)吸収を用いて材料を改質する場合、焦点のより大きな体積の光線(112)内に高エネルギー光子の十分な強度が存在して、線形の単一光子吸収を引き起こし、故に結晶格子の改質を引き起こす。図1Aは、レーザ焦点のより大きい領域(112)(Z方向)は、図1Bに示す非線形の多光子吸収の領域よりも、結晶格子の線形な単一光子の改質を引き起こすことを示している。従って、多光子吸収により、結晶格子のより正確な改質が可能となる。
【0053】
超高速レーザ(ピコ秒又はフェムト秒のパルス長を有する)を使用する加工工程の別の利点は、パルス持続時間が熱拡散の特有の時間スケールより短いことである。従って、レーザパルスエネルギーの大部分は、熱として拡散する前に焦点体積に供給され得る。これにより、集束されたレーザビームの焦点体積に制限された特徴サイズの製作が可能になり、これは例えばあらゆる方向にマイクロメートルより小さいサイズである。製作された特徴サイズは、「閾値処理」が生じる場合にさらに小さくすることができる。図2は、閾値処理の一例を示す。
【0054】
一般的に強度閾値が存在し、強度閾値に亘って恒久的な材料改質が多光子吸収に続く。レーザパルスのエネルギーを低減することにより、強度が最も高い焦点の中央領域だけの格子を改質することが可能である。図2Aにおいて、より高い強度のパルス(202)は、材料改質のための閾値(MT)を上回る体積のより大きな割合を有し、従って、図2Bに示されているより低いエネルギーのパルス(204)の場合よりも大きな体積の材料(212)が改質されてもよく、より小さい割合のパルス強度が材料改質の閾値(MT)よりも大きい。従って、図2Bにおいて、図1Aのパルス(202)の場合よりも、より小さい体積(214)の材料を改質することができる(陰影領域として示す)。レーザパルスエネルギーを注意深く制御することにより、製作された特徴サイズは、約100nm以下の範囲に縮小され得る。
【0055】
超高速レーザビームが、例えば、ダイヤモンドの表面下で集束する場合、強度は非線形吸収のために十分に大きくすることができる。ダイヤモンドは約5.5eVの大きな光学的バンドギャップを有する。近赤外(短パルスレーザが通常動作する)の波長を有するレーザを考慮すると、非線形吸収は、主に4次プロセス(即ち、4光子の同時吸収)である。非線形吸収は、一般的に電子流れ(avalanche)イオン化に引き続いて行われ、ダイヤモンド格子を破壊するのに十分なエネルギーを有する高密度プラズマを生成する。十分なパルスエネルギーを用いて、ダイヤモンドのグラファイト相への変換との結果になり、これはレーザの焦点体積に限定される。ビーム走査またはダイヤモンド試料の運動のいずれかを用いてダイヤモンド内の焦点を平行移動することにより、連続グラファイトトラック又は点状グラファイト特徴のアレイを3次元で生成することが可能である。レーザパルスエネルギーを注意深く制御することにより、グラファイトへのダイヤモンドの変換を制限し、その代わりにダイヤモンド格子全体が大きく維持されているが、追加の空孔が存在する領域を残すことも可能である。従って、制御されたレーザパルスは、ダイヤモンド格子の特定の領域を改質(損傷)して、その中に空孔を生成し、歪みを処理するのに用いられる。単一のレーザパルスを用いて単一の格子空孔を生成してもよく、単一のパルスによって複数の空孔を生成してもよい。
【0056】
透明材料内のレーザ製作法において遭遇する可能性のある問題は、屈折率が一致しない界面を通って集束する際の光学収差を導入することである。例えば、これは、集束レンズの浸漬媒体と屈折率が整合していない(屈折率が異なる)試料の上面に生じることがある。
近似的にスネルの法則(Snell’s law)に従う界面での屈折は、試料内の所望の焦点に全て重なり合わないように、試料内の光線の方向転換につながる。図3Aは、光線が試料(314)に入るときに、光線(316)の収差が生じるシナリオの概略図を示す。その結果、光線はもはや意図された焦点で合わさらず、広がってより低輝度のよりゆるやかに集束した領域(318)を生成する。収差された焦点の強度も図3Aに示されている。この球面収差は、焦点深度または開口数(NA)の増大とともに大きさが増大する。これは、加工工程に対する効率、分解能及び制御の損失につながる。
【0057】
球面収差は、ダイヤモンドの屈折率が大きいために、ダイヤモンド内に焦点を合わせるときに特に深刻である。最高解像度(高NA)での正確なレーザ加工のためには、収差により、加工深さはダイヤモンド表面の下の数マイクロメートルに制限される。
しかし、本発明の方法の一実施形態にて、レーザビームを「予備収差」させることによって透明材料の表面の下に焦点を合わせるときに導入される収差を相殺することが可能である。加工における柔軟性を完全にするために、適切な光学素子(AOE)が用いられて、試料表面に導入された収差と等しく且つ反対向きの位相分布をレーザビームに与える。
【0058】
図3Bは、AOE(322)によって改質されて、修正された波面(324)を形成する平坦な波面(320)の概略図を示す。修正された波面(324)の光線(326)は、図3Aに示す波面(310)の光線(316)とは異なる向きであることに注意されたい。図3Bにおいて、修正された波面の光線(326)は、レンズ(328)によって集束され、続いて試料面(330)によって屈折されて、試料内で所望の焦点(332)を充足する。修正された焦点の強度はまた、図3Bに示され、図3Aに示す焦点よりも局所的である。一般的なAOEは、液晶空間光変調器(SLM)、変形可能なミラー、又は変形可能な膜ミラーを含む。これらの要素は、位相プロファイルを変更して入射波面を改質し、試料内の異なる深さにレーザビームの収差のない焦点合わせを受け折れる。
【0059】
AOEの使用により、ダイヤモンド表面に導入された収差が効果的に相殺され、例えば少なくとも220μmであるより大きい深さで正確なレーザ加工が可能となる。ダイヤモンド表面の下に連続グラファイトトラックを加工する場合、AOEを使用して収差を修正すると、トラックの抵抗率が数桁低下し、ダイヤモンドからグラファイト相へのはるかに効率的な変換を示す。
本発明の方法の一実施形態において、適切な光学系を用いたレーザ書込みを用いて、着色中心形成のための空孔を生成し、多くの望ましい特徴を提供することができる。続けて記載された方法が如何にそのような特徴を付与するかを記載する。用途の範囲も記載される。
【0060】
超短パルスレーザ処理によってもたらされる空間的な局在化は、加工された着色中心の位置を正確に選択する能力を提供する。これは、例えば光キャビティモード内や電極を収容するアレイに着色中心を配置する必要がある場合に、デバイスの機能性にとって重要である。損傷から保護する必要がある材料内の別の既存の構造の近くに着色中心を作成することが必要な場合もある。材料内に焦点を合わせる際の収差の適切な光学的修正は、レーザビームを用いて着色中心を作成することを目指す際に重要となる。AOE修正により、3Dでレーザ加工を正確に位置決めすることができる。また、焦点量のサイズを小さくすることで、生成された空孔の位置決め精度が向上し、加工された着色中心の位置決め精度も向上する。更に、着色中心の作成にはレーザパルスエネルギーの精巧な制御が必要なため、収差の修正により全ての深さで同じレーザパルスエネルギーを使用して、処理条件を簡素化することを確実にする。
【0061】
損傷の局在化を制御することはまた、局部的な歪み場による着色中心特性の処理を可能にする。局部的な歪みは、着色中心の光学的遷移及びスピン遷移の両方のエネルギー及び特性の変化につながることが知られており、欠陥の歪み処理はそれらの特性を最適化する強力なツールとなり得る。単一の欠陥レベルにおける制御は例えば、着色中心が互いに共鳴するように調整され、放出される光子間の量子干渉を可能にするので、特に強力である。レーザ加工は、そのような歪み処理を実行することができる便利な手段を提供する。レーザが誘起した損傷は、処理された量の平均的な膨張又は収縮をもたらし、周囲の材料に応力を加え、損傷していない格子内に長距離に延びる歪み場を生成する。従って、損傷した領域を高精度に局在化及び分布することは、隣接する着色中心が被る局所的歪みの制御において直接的に高精度に平行移動し、その特性を高度に制御する結果となる。
【0062】
レーザ損傷の非線形性は、損傷を制御して局在化するのに有用なツールである。特に、浅い材料に影響を与えることなく、ダイヤモンド表面のずっと下に損傷を生じさせることができる、何故ならダイヤモンド内のレーザビームの焦点だけにて、十分な光強度が存在して、損傷を全く生じないからである。
材料内のレーザの焦点を調整することによって、改質又は損傷の完全な3D書込みを達成することができる。この機能により、着色中心又は複雑な歪みパターンの詳細な分布が生成され、着色中心特性の処理に大きなパラメータ空間を提供する。
【0063】
レーザ強度を制御することにより、結晶内に生成される損傷の量を制御することができる。空孔生成は、結晶中の体積当たりに生成される空孔の数がポアソン確率分布に従うように、ほぼ確率論的工程である可能性が高い。これにより、正確な所望数の空孔を作成することができる程度に制限が設けられるが、それにも拘わらず、空孔の数及び特定のレーザパルス強度が生成する他の欠陥を平均して識別することが可能であるべきである。大体において、そのような計算は、処理されるべき結晶の均一性及び純度に依存する(既に存在する欠陥はより強くレーザ放射を吸収する可能性があり、従って強い熱生成の源として作用するからである)。最も純度の高い材料では、殆どの場合、焦点量内に欠陥が存在しないことが予想され、反復処理の間に高度の再現性を提供する。
【0064】
一実施形態にて、ダイヤモンド内の着色中心のレーザ書き込みについて記載された方法は、慎重に制御されたエネルギーの単一パルスを使用して、ダイヤモンド格子の構造破壊を生成する。相互作用の非線形性により、そのような構造的改質が3次元で高度に局在化されることが示される。
図4は一実施形態に従った記載された方法を実行するシステム(400)を示し、再生増幅されたTi:サファイアレーザ(410)を使用する。波長790nmのパルスは、レーザを離れる約80fsの持続時間を有する。焦点におけるパルス持続時間は、光学システム内の分散のために約300fsに近い。レーザビームは、その位相を制御するために、液晶相上で空間光変調器(SLM)のみに達して(expanded)、60×1.4NA油浸対物レンズの背面開口部に結像され得る。前述したように、SLM上に表示された位相パターンは、システム及び標本に起因する収差を除去するように制御される。SLMの位相パターンは、ダイヤモンド格子の可視的な改質に必要なレーザパルスエネルギーを最小化することによって実験的に決定することができる。
【0065】
次に、レーザはダイヤモンドのターゲット(420)に向けられ、レーザからの単一パルスは、例えばダイヤモンド内の50μmの深さで集束され得る。対物レンズの前のパルスエネルギーは、2nJと13nJとの間で変化されて、格子に対して様々な程度の破壊を引き起こす。幾つかの改質は光学的に可視的であるが、大部分は可視的ではない。改質された特徴のサイズは、検査に使用される顕微鏡の回折限界内にあってもよく、横方向の寸法が約400nm以下であってもよい。
レーザ加工は、5ppb未満の窒素密度を有する市販の高純度CVDダイヤモンドで行われる。ダイヤモンドのNV中心密度は、レーザ加工前に走査型の共焦点(cofocal)顕微鏡によって調べることができる。平均で100μmごとに100μm内に2-3の天然の単一のNV中心しか存在しないことがある。その結果、天然のNV中心は事前にラベルを付けることができ、比較のベンチマークとして使用される。
【0066】
ターゲット材料のレーザ改質の後、加工されたダイヤモンド試料は高純度の窒素ガスで約900℃で約3時間アニーリング処理され得る。約900℃の温度は、安定したNV中心を形成するのに十分に高い。純粋な窒素環境は、ダイヤモンド試料の表面の酸化を防止することができる。アニーリング処理によって、レーザ加工段階中に生成された空孔が結晶格子内を移動することが可能となる。この移動はランダムであり、空孔は結晶格子内の空孔捕捉要素(この場合は窒素)を通って、安定した窒素空孔及び着色中心を形成する必要がある。この段階の間に、加工された幾つかの空孔が修復され、結晶格子が実質的に改質されていない状態に回復する。しかし、幾つかの空孔は窒素不純物に近づくように移動し、安定した着色中心を形成することがある。このような着色中心を形成する可能性は、ターゲット材料の各改質領域ごとに1つだけが形成されるようなものであってもよい。
【0067】
空孔の移動はまた、結晶格子内の他の不純物の移動を可能にする。従って、他の不純物が結合して結晶欠陥を形成し、空孔の移動によって促進される。
捕捉された空孔を加工する記載された方法を試験するために、上記の方法の実施形態に従って試料が準備された。アニーリング処理前後にて共焦点顕微鏡を用いて、加工された特徴のフォトルミネッセンス(PL、物質が光子を吸収した後、光を再放出する過程)強度が調べられた。図5Aは、アニーリング処理前の幾つかの加工された特徴のPLを示す。アニーリング処理前のPL画像では、約9nJより大きいレーザエネルギによって生成された特徴だけが観察され、少なくとも例示した装置及び試験したターゲットでは、9NJが光学的に検知可能な損傷を生成するための最低のエネルギであることを示す。図5Bは、アニーリング処理後の同じ加工された特徴のPLを示す。図5A及び図5Bの最も左の列は、約13.6nJのレーザエネルギによって生成された特徴を示す。アニーリング処理後、加工された特徴はより暗くなり、図5Bに示すように、9.1nJ(左から6番目の列)及び9.8nJ(左から7番目の列)のレーザエネルギによって生成された特徴は消滅し、アニーリング処理によって損傷がある程度治癒したことを意味する。
【0068】
図6は、図5の試料に対して実施されたパワー依存性PL強度測定値及びスペクトル測定値を示し、その中の損傷された特徴がNV中心に変換されたことを検証する。NV-中心の励起強度に対する発光強度の依存性は、1mWオーダーの出力で明瞭な飽和挙動を示す。反対に、損傷された欠陥の励起電力依存曲線は一般に線形である。従って、パワー依存性測定は、材料の損傷領域の着色中心への変換を試験するために使用される。
【0069】
特徴が実際にNV中心であることを確認するには、スペクトル内に637nmでの特性ゼロ光子ライン(ZPL)放射を観測する必要がある(図7参照)(ZPLの不存在がNVではないことを確実にしないが)。本実施例の全ての天然のNV中心は、アニーリング処理の前にラベル付けされ、加工された特徴には近接していないので、損傷特徴に見出されたNV中心は、開示されたレーザ加工方法によって作成された。一旦、NV中心が見出されると、ハンブリブラウン・トゥイス(Hanbury-Brown and Twiss、HBT)測定が使用されて自己相関関数を測定し、作成されたNV中心の数を識別した。ソースが単一のNV-中心であった場合、正規化された自己相関カウントは、δt=0で0.5未満である。
【0070】
図5A及び図5Bに示される特徴の少なくとも3つは、開示された方法によるアニーリング処理の後にNV中心に変換された。1つの特徴は、約11.3nJのレーザパルスで生成され、4P1Rとラベル付けられている。2つの特徴は、10.6nJのレーザパルスで生成され、5P7R及び5P10Rとラベル付けられている。作成されたNV中心の蛍光光子計数率は、1mWの532nm励起下で約17,000カウント/秒であり、PL強度の飽和挙動は図6Aに明確に示される。図6Bは、天然のNV中心の励起パワー依存性を示す。作成されたNV中心の計数率は、天然のNV中心の計数率よりも高く、1mW励起では10000カウント/秒である、何故ならまだ完全にアニーリング処理がされていない幾つかの残留欠陥が残っているからである。
【0071】
図7A-図7Cは、作成されたNV中心のPLスペクトルを示し、図7Dは、300K及び532nm励起下での天然のNV中心のPLスペクトルを示す。図7Aは、作成されたNV中心4P1Rのスペクトルである。図7B及び図7Cは、夫々5P7R及び5P10Rのスペクトルを示す。図7Dは、天然のNV中心のスペクトルである。637nmでのZPLは、3つの作成されたNV中心のスペクトルではっきりと観察されるが、5P7R及び5P10Rの両方のPL強度は、残留した空孔の複合体のために740nm付近でゆっくりと減少する。
生成されたNV中心についての光子自己相関関数のHBT測定値が1mWの532nm励起で記録され、その結果が図8の散乱グラフとして示される。4P1Rのアンチバンチング(反集群)低下は約60.7%であり(図8A)、焦点内に2つのNV中心があることを示す。5P7Rの特徴的な低下は約48.4%であり(図8B)、これは単一のNV中心であることを示している。5P7Rの特徴的な低下は、δt=0でゼロに近くないことに留意されたい。おそらく残留空孔のためである。5P10Rのアンチバンチング低下は約54.6%である。残留空孔の排出を考慮に入れると、5P10Rは単一のNV中心である可能性がある。
【0072】
本発明の方法の一実施形態を使用して、請求項1に記載のレーザ処理及びアニーリング処理を使用して単一の窒素空孔欠陥を作成することについて説明され、実証された。非線形多光子吸収を用いてターゲットが先ず改質されて、その中に空孔を作製した。次に、ターゲットをアニーリング処理して空孔を移動させて窒素原子と結合させ、それによりターゲット内の所望の位置に着色中心を形成した。方法はまた請求項30に従って、結晶の領域が改質されて、周囲の結晶に歪みを誘発することができることを示している。上記し図面に示された本開示の方法、デバイス及びシステムは、結晶格子内に捕捉された空孔を加工することができる。ここで開示した装置及び方法は例示的な実施形態を参照して示され記載されてきたたが、当業者は添付した特許請求の範囲に規定された本開示の範囲から離れることなく、変更及び/又は修正が成されることを理解するだろう。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図7D
図8A
図8B
図8C
【国際調査報告】