(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2018-521128(P2018-521128A)
(43)【公表日】2018年8月2日
(54)【発明の名称】ポリマー性ベシクル中の機能性タンパク質の改善されたカプセル化のための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
A61K 9/127 20060101AFI20180706BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20180706BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20180706BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20180706BHJP
【FI】
A61K9/127
A61K47/10
A61K47/02
A61K47/32
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2018-520384(P2018-520384)
(86)(22)【出願日】2016年7月1日
(85)【翻訳文提出日】2018年2月26日
(86)【国際出願番号】US2016040657
(87)【国際公開番号】WO2017004498
(87)【国際公開日】20170105
(31)【優先権主張番号】62/187,942
(32)【優先日】2015年7月2日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】15/198,836
(32)【優先日】2016年6月30日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】518002398
【氏名又は名称】ポセイダ セラピューティクス, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ゴローチャン, ピー. ピーター
(72)【発明者】
【氏名】イェウレ, ジバン ナンデオ
【テーマコード(参考)】
4C076
【Fターム(参考)】
4C076AA19
4C076CC29
4C076CC50
4C076DD26Z
4C076EE04
4C076EE23
4C076EE49
4C076FF11
4C076FF63
4C076GG41
(57)【要約】
ポリマーソームカプセル化機能性タンパク質懸濁液を調製する方法は、ブロックコポリマーのある量を低分子量ポリエチレングリコール(PEG)のある量と少なくとも30分間熱ブレンドする工程と、結果として生成するPEG/ポリマー配合物を混合し室温に冷却する工程と、機能性タンパク質の溶液のアリコートをPEG/ポリマー配合物を含有する試料に添加する工程と、生成するポリマーソームが機能性タンパク質で逐次飽和される少なくとも3回の希釈ステップを行う工程とを含むことができる。添加した、機能性タンパク質の溶液のアリコートは、PEG/ポリマー試料に対する比が容積でおよそ0.5:1〜1.5:1であり得、熱ブレンドは90〜100℃で行うことができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーソームカプセル化機能性タンパク質の懸濁液を調製する方法であって、
ブロックコポリマーのある分量を低分子量ポリエチレングリコール(PEG)のある分量と少なくとも30分間熱ブレンドする工程であって、前記熱ブレンドが90〜100℃で行われる、工程と;
結果として生成するPEG/ポリマー配合物を混合し室温に冷却する工程と;
前記機能性タンパク質の溶液のアリコートを前記PEG/ポリマー配合物を含有する試料に添加する工程であって、添加した前記アリコートと前記PEG/ポリマー配合物との比が容積でおよそ0.5:1とおよそ1.5:1との間である、工程と;
生成するポリマーソームが前記機能性タンパク質で逐次飽和されるように少なくとも3回の希釈ステップを行う工程であって、各希釈ステップが:
前記試料に前記機能性タンパク質の前記溶液の追加量を添加することと;
前記PEG/ポリマー配合物中の前記機能性タンパク質の、結果として生成する分散液を混合することと;
前記結果として生成する分散液を少なくとも30分間超音波処理することと
を含む、工程と
を含む、方法。
【請求項2】
前記少なくとも3回の希釈ステップを行う工程が、順次的な様式で、第1、第2、および第3の希釈ステップを行う工程を含み、
前記第1のステップにおいて前記溶液の前記追加量を添加することが、前記機能性タンパク質の前記溶液の第1の量と前記PEG/ポリマー配合物との比が容積でおよそ1:1であるように、前記第1の量を添加することを含み;
前記第2のステップにおいて前記溶液の前記追加量を添加することが、前記機能性タンパク質の前記溶液の第2の量と前記PEG/ポリマー配合物との比が容積でおよそ2:1であるように、前記第2の量を添加することを含み;
前記第3のステップにおいて前記溶液の前記追加量を添加することが、前記機能性タンパク質の前記溶液の第3の量と前記PEG/ポリマー配合物との比が容積でおよそ5:1であるように、前記第3の量を添加することを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも3回の希釈ステップを行う工程が、第4の希釈ステップを行う工程をさらに含み、前記第4のステップにおいて前記溶液の前記追加量を添加することが、前記機能性タンパク質の前記溶液の第4の量と前記PEG/ポリマー配合物との比が容積でおよそ5:1であるように、前記第4の量を添加することを含む、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも3回の希釈ステップの後、タンパク質分解を使用して、前記ポリマーソームカプセル化機能性タンパク質の前記懸濁液中のポリマーソームから表面会合タンパク質を除去する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
タンパク質分解を使用することが:
PEG/ポリマー/タンパク質試料を0.4wt%プロナーゼ溶液で室温で少なくとも18時間処理すること;および
混合した前記PEG/ポリマー/タンパク質試料を4℃で少なくとも12時間透析する こと
を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記機能性タンパク質の前記溶液が、リン酸緩衝食塩水(PBS)中のオキシミオグロビン150mg/mL溶液を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
リン酸緩衝食塩水中の150mg/mLメトミオグロビン(metMb)溶液を1wt%亜ジチオン酸ナトリウム(Na2S2O4)の十分量と合わせて、前記metMbをオキシミオグロビン(oxyMb)に還元することにより、前記機能性タンパク質の前記溶液を調製する工程をさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ブロックコポリマーが、両親媒性ジブロックコポリマーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記両親媒性ジブロックコポリマーが、ポリ(エチレンオキシド)−ブロック−ポリ(ブタジエン)(PEO−b−PBD)を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ブロックコポリマーの前記ある分量を前記低分子量PEGの前記ある分量と少なくとも30分間熱ブレンドする工程が、ポリ(エチレンオキシド)−ブロック−ポリ(ブタジエン)(PEO−b−PBD)5〜15mgを500kDa PEG(PEG500)5〜15mgと少なくとも1時間熱ブレンドする工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記両親媒性ジブロックコポリマーを前記低分子量PEGと少なくとも30分間熱ブレンドする工程が、ポリ(エチレンオキシド)−ブロック−ポリ(ブタジエン)(PEO−b−PBD)10mgを500kDa PEG(PEG500)10mgと1時間熱ブレンドする工程を含み;
前記機能性タンパク質の前記溶液の前記アリコートを添加する工程が、オキシミオグロビン溶液10μLを前記PEG/ポリマー配合物の前記試料に添加する工程を含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記熱ブレンドが、およそ95℃で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
ポリマーソームカプセル化機能性タンパク質の懸濁液を含む組成物であって、前記懸濁液が、
ブロックコポリマーのある分量を低分子量ポリエチレングリコール(PEG)のある分量と少なくとも30分間熱ブレンドする工程であって、前記熱ブレンドが90〜100℃で行われる、工程と;
結果として生成するPEG/ポリマー配合物を混合し室温に冷却する工程と;
前記機能性タンパク質の溶液のアリコートを前記PEG/ポリマー配合物を含有する試料に添加する工程であって、添加した前記アリコートと前記PEG/ポリマー配合物との比が容積でおよそ0.5:1とおよそ1.5:1との間である、工程と;
生成するポリマーソームが前記機能性タンパク質で逐次飽和されるように少なくとも3回の希釈ステップを行う工程であって、各希釈ステップが:
前記試料に前記機能性タンパク質の前記溶液の追加量を添加することと;
前記PEG/ポリマー配合物中の前記機能性タンパク質の、結果として生成する分散液を混合することと;
前記結果として生成する分散液を少なくとも30分間超音波処理することと
を含む、工程と
によって調製される、組成物。
【請求項14】
被験体を処置する方法であって、前記方法が:
ポリマーソームカプセル化機能性タンパク質の懸濁液を調製する工程を含み、前記懸濁液を調製する工程が:
ブロックコポリマーのある分量を低分子量ポリエチレングリコール(PEG)のある分量と少なくとも30分間熱ブレンドする工程であって、前記熱ブレンドが90〜100℃で行われる、工程と;
結果として生成するPEG/ポリマー配合物を混合し室温に冷却する工程と;
前記機能性タンパク質の溶液のアリコートを前記PEG/ポリマー配合物を含有する試料に添加する工程であって、添加した前記アリコートと前記PEG/ポリマー配合物との比が容積でおよそ0.5:1とおよそ1.5:1との間である、工程と;
生成するポリマーソームが前記機能性タンパク質で逐次飽和されるように少なくとも3回の希釈ステップを行う工程であって、各希釈ステップが、
前記試料に前記機能性タンパク質の前記溶液の追加量を添加することと;
前記PEG/ポリマー配合物中の前記機能性タンパク質の、結果として生成する分散液を混合することと;
前記結果として生成する分散液を少なくとも30分間超音波処理することと
を含む、工程と;
前記被験体にポリマーソームカプセル化機能性タンパク質の懸濁液を投与する工程であって、前記懸濁液が:によって調製される、工程と
を含む、方法。
【請求項15】
ポリマーソームカプセル化機能性タンパク質の懸濁液を調製する方法であって、
ブロックコポリマーのある分量を低分子量ポリエチレングリコール(PEG)のある分量と熱ブレンドする工程と;
前記機能性タンパク質の溶液のアリコートを前記PEG/ポリマー配合物を含有する試料に添加する工程と;
生成するポリマーソームが前記機能性タンパク質で逐次飽和されるように少なくとも1回の希釈ステップを行う工程と
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2015年7月2日に出願された米国仮特許出願第62/187,942号および2016年6月30日に出願された米国通常特許出願第15/198,836号に対する優先権の利益を主張し、これらの両方の出願はその全体が本明細書により参照として援用される。
【0002】
連邦政府支援の研究に関する陳述
本発明に関する研究は、the National Institute of Healthからの基金(研究ID# 1R43CA159527-01A1および研究ID# 1R43AI096605-01)によって支援された。したがって、米国政府は本発明における一定の権利を有し得る。
【背景技術】
【0003】
背景
天然および合成タンパク質は、ヒトの治療用途に利用できる、独特な生物学的機能の比類ないアレイを与えてくれる。しかし、その臨床的有用性は、生化学的不安定性、貧弱な薬理学的特性、および有害な免疫原性を誘発する可能性によって、制限されることが多い。結合したポリエチレングリコール(PEG)ポリマー鎖を有する長循環媒体(すなわち、ペグ化された媒体)、例えばナノ粒子中に、生体分子、例えば、タンパク質を組み込むことによって、そのような問題が軽減され得る。しかし、多量の機能性タンパク質をペグ化された媒体に安定してカプセル化することは難題であることが判明している。従来のカプセル化技法は、これは元来小分子薬物の送達のために開発されたが、粒子を形成するために高エネルギーの入力および/または有機溶媒の使用を必要とし、それゆえ、生物学的に複雑でより不安定な巨大分子で使用するには不向きである。
【0004】
特に、従来のカプセル化技法の例としては、薄膜再水和、直接水和、およびエレクトロフォーメーションが挙げられ得、これらを使用して、独特な生物学的機能を有する小分子およびタンパク質を、ポリ(エチレンオキシド)−ブロック−ポリ(ブタジエン)(PEO−b−PBD)から生成したポリマーソームにカプセル化することができる。例えば、メチレンブルー(mBlue;Mw=319.85g/mol)をモデル小分子として使用することができ、ミオグロビン(Mb;Mw=17,600Da)を独特の生物学的機能(すなわち、酸素貯蔵)を有するモデルタンパク質として使用することができる。薄膜再水和技法および直接水和技法を使用して、PEO−b−PBDへのメチレンブルーおよびミオグロビンのカプセル化の効率について比較した。特には、完全に機能的なミオグロビンの最大カプセル化の定量化は、これらの確立された技法を使用し、いくつかの特徴に基づいた。例えば、ミオグロビンのヘム基における鉄の濃度および還元酸化反応(「酸化還元(redox)」)状態は、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP−OES)およびUV−Vis吸収分光法(分光光度法ともいう)を使用して、それぞれ測定した。ポリマーソームカプセル化ミオグロビン(PEM)の形態および安定性は、極低温透過型電子顕微鏡法(cryo−TEM)によっておよび動的光散乱(DLS)によってそれぞれ確認した。種々の酸素の分圧での平衡酸素結合および放出は、Hemeoxアナライザーを使用して測定した。薄膜再水和技法および直接水和技法によって首尾よくメチレンブルーをカプセル化すことは可能であったが、ミオグロビンのカプセル化は一様に不十分であった。したがって、PEMを生成するための方法を改善すれば、ヒトの治療用途にとって有益である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
要旨
種々の実施形態は、ブロックコポリマーのある量を低分子量ポリエチレングリコール(PEG)のある量と少なくとも30分間熱ブレンドする工程と、結果として生成するPEG/ポリマー配合物を混合し室温に冷却する工程と、機能性タンパク質の溶液のアリコートをPEG/ポリマー配合物を含有する試料に添加する工程と、生成するポリマーソームが機能性タンパク質で逐次飽和される(progressively saturated)少なくとも3回の希釈ステップを行う工程とによって、ポリマーソームカプセル化機能性タンパク質懸濁液を調製する方法を含む。一部の実施形態では、添加したアリコートとPEG/ポリマー試料との比は容積でおよそ0.5:1〜1.5:1である。一部の実施形態では、熱ブレンドは90〜100℃で行われる。一部の実施形態では、各希釈ステップは、試料に機能性タンパク質の溶液の追加量を添加することと、PEG/ポリマー配合物中の機能性タンパク質の、結果として生成する分散液を混合することと、結果として生成する分散液を少なくとも30分間超音波処理することを含む。
【0006】
一部の実施形態では、少なくとも3回の希釈ステップを行う工程は、順次的な様式で第1、第2、および第3の希釈ステップを行う工程を含む。
一部の実施形態では、第1のステップにおいて溶液の追加量を添加することは、機能性タンパク質の溶液の第1の量とPEG/ポリマー配合物との比が容積でおよそ1:1であるように、第1の量を添加することを含む。一部の実施形態では、第2のステップにおいて溶液の追加量を添加することは、機能性タンパク質の溶液の第2の量とPEG/ポリマー配合物との比が容積でおよそ2:1であるように、第2の量を添加することを含む。一部の実施形態では、第3のステップにおいて溶液の追加量を添加することは、機能性タンパク質の溶液の第3の量とPEG/ポリマー配合物との比が容積でおよそ5:1であるように、第3の量を添加することを含む。実施形態の方法はまた、第4の希釈ステップを行う工程も含むことができ、この場合、第4のステップにおいて溶液の追加量を添加することは、機能性タンパク質の溶液の第4の量とPEG/ポリマー配合物との比が容積でおよそ5:1であるように、第4の量を添加することを含む。実施形態の方法はまた、少なくとも3回の希釈ステップ後タンパク質分解を使用して、ポリマーソームカプセル化機能性タンパク質の懸濁液中のポリマーソームから表面会合タンパク質を除去する工程もさらに含むことができる。一部の実施形態では、タンパク質分解を使用することは、混合したPEG/ポリマー/タンパク質試料を0.4wt%プロナーゼ溶液で室温で少なくとも18時間処理することと、PEG/ポリマー/タンパク質試料を4℃で少なくとも12時間透析することを含む。
【0007】
一部の実施形態では、機能性タンパク質の溶液は、リン酸緩衝食塩水(PBS)中のオキシミオグロビン(oxyMb)150mg/mL溶液とすることができる。実施形態の方法はまた、リン酸緩衝食塩水中の150mg/mLメトミオグロビン(metMb)溶液を1wt%亜ジチオン酸ナトリウム(Na
2S
2O
4)の十分量と合わせて、metMbをoxyMbに還元することにより、機能性タンパク質の溶液を調製する工程も含むことができる。一部の実施形態では、ブロックコポリマーは両親媒性ジブロックコポリマーとすることができる。一部の実施形態では、両親媒性ジブロックコポリマーはポリ(エチレンオキシド)−ブロック−ポリ(ブタジエン)(PEO−b−PBD)とすることができる。一部の実施形態では、両親媒性ジブロックコポリマーのある量を低分子量PEGのある量と少なくとも30分間熱ブレンドする工程は、ポリ(エチレンオキシド)−ブロック−ポリ(ブタジエン)(PEO−b−PBD)5〜15mgを500kDa PEG(PEG500)5〜15mgと少なくとも1時間熱ブレンドする工程を含む。一部の実施形態では、両親媒性ジブロックコポリマーのある量を低分子量PEGのある量と少なくとも50分間熱ブレンドする工程は、ポリ(エチレンオキシド)−ブロック−ポリ(ブタジエン)(PEO−b−PBD)10mgを500kDa PEG(PEG500)10mgと1時間熱ブレンドする工程を含む。一部の実施形態では、両親媒性ジブロックコポリマーのある量を低分子量PEGのある量と少なくとも30分間熱ブレンドする工程は、ポリ(エチレンオキシド)−ブロック−ポリ(ブタジエン)(PEO−b−PBD)10mgを500kDa PEG(PEG500)10mgと1時間熱ブレンドする工程を含むことができる。一部の実施形態では、機能性タンパク質の溶液のアリコートを添加する工程は、PEG/ポリマー配合物を含有する試料にoxyMb溶液10μLを添加する工程を含むことができる。一部の実施形態では、熱ブレンドはおよそ95℃で行うことができる。
【0008】
本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成する添付の図面は、例示的な実施形態を例証するものであり、種々の実施形態の記述とともに、本明細書における特色を説明する役割を果たす。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、既存の技法を使用した様々なタンパク質のカプセル化による結果の表である。
【0010】
【
図2】
図2は、2種のポリ(エチレンオキシド)−ブロック−ポリ(ブタジエン)(すなわち、PEO−b−PBD)ジブロックコポリマーならびに小分子およびタンパク質カプセル化に使用したそれらのポリマーソーム配合物に関する特性の表である。
【0011】
【
図3A】
図3Aおよび
図3Bは、特定のPEO−b−PBD配合物のポリマーソームにおけるミオグロビンのカプセル化を改善するために、直接水和プロトコールの種々のステップを最適化することによる結果を示すグラフである。
【
図3B】
図3Aおよび
図3Bは、特定のPEO−b−PBD配合物のポリマーソームにおけるミオグロビンのカプセル化を改善するために、直接水和プロトコールの種々のステップを最適化することによる結果を示すグラフである。
【0012】
【
図3C】
図3Cおよび
図3Dは、時間の関数として、ミオグロビン酸化率およびタンパク質分解による表面会合ミオグロビンの消失を示すグラフである。
【
図3D】
図3Cおよび
図3Dは、時間の関数として、ミオグロビン酸化率およびタンパク質分解による表面会合ミオグロビンの消失を示すグラフである。
【0013】
【
図3E】
図3Eは、ミオグロビンとリン酸緩衝食塩水溶液との種々の比を使用して、ミオグロビンのカプセル化効率と比較した最終重量百分率を示すグラフである。
【0014】
【
図4】
図4は、種々の実施形態に従って、逐次飽和(progressive saturation)プロトコールおよびOB29ポリマーソームを使用して、ある範囲のタンパク質をカプセル化したことによるカプセル化の結果を示す表である。
【0015】
【
図5A】
図5Aは、種々の実施形態に従って調製されたポリマーソームの構成成分の略図である。
【0016】
【
図5B】
図5Bは、ポリマーソームカプセル化ミオグロビンを形成するための既存の薄膜再水和プロトコールの略図である。
【0017】
【
図5C】
図5Cは、ポリマーソームカプセル化ミオグロビンを形成するための既存の直接水和プロトコールの略図である。
【0018】
【
図6A】
図6Aおよび
図6Bは、既存のプロトコールを使用して特定のPEO−b−PBD配合物から形成されたポリマーソームへのメチレンブルーのカプセル化による結果を示すグラフである。
【
図6B】
図6Aおよび
図6Bは、既存のプロトコールを使用して特定のPEO−b−PBD配合物から形成されたポリマーソームへのメチレンブルーのカプセル化による結果を示すグラフである。
【0019】
【
図6C】
図6Cおよび
図6Dは、既存のプロトコールを使用して特定のPEO−b−PBD配合物から形成されたポリマーソームへのミオグロビンのカプセル化による結果を示すグラフである。
【
図6D】
図6Cおよび
図6Dは、既存のプロトコールを使用して特定のPEO−b−PBD配合物から形成されたポリマーソームへのミオグロビンのカプセル化による結果を示すグラフである。
【0020】
【
図7A】
図7Aは、種々の実施形態においてポリマーソームカプセル化ミオグロビンを形成するための逐次飽和プロトコールの略図である。
【0021】
【
図7B】
図7Bおよび
図7Cは、
図7Aの逐次飽和プロトコールを使用して特定のPEO−b−PBD配合物から形成されたポリマーソームへのミオグロビンのカプセル化による結果を例証するグラフである。
【
図7C】
図7Bおよび
図7Cは、
図7Aの逐次飽和プロトコールを使用して特定のPEO−b−PBD配合物から形成されたポリマーソームへのミオグロビンのカプセル化による結果を例証するグラフである。
【0022】
【0023】
【
図7E】
図7Eは、遊離ミオグロビンについて、ならびに、逐次飽和によって調製された、タンパク質分解の前のおよびプロナーゼ処理後の、ポリマーソームカプセル化ミオグロビンについて、O
2平衡曲線から得られた50%飽和(P
50)を達成するのに必要な酸素の分圧を示す表である。
【0024】
【
図8A】
図8Aは、種々の実施形態の逐次飽和技法を使用して2種の特定のPEO−b−PBD配合物から形成されたポリマーソームへのミオグロビンのカプセル化による結果を示すグラフである。
【0025】
【
図8B】
図8Bおよび
図8Cは、種々の実施形態の逐次飽和技法を使用して特定のPEO−b−PBD配合物のそれぞれから形成されたポリマーソームカプセル化ミオグロビン懸濁液中のベシクルのcryo−TEM画像である。
【
図8C】
図8Bおよび
図8Cは、種々の実施形態の逐次飽和技法を使用して特定のPEO−b−PBD配合物のそれぞれから形成されたポリマーソームカプセル化ミオグロビン懸濁液中のベシクルのcryo−TEM画像である。
【0026】
【
図8D】
図8Dは、種々の実施形態の逐次飽和技法を使用して特定のPEO−b−PBD配合物から形成されたポリマーソームカプセル化ミオグロビン懸濁液の平均流体力学的直径を示すグラフである。
【0027】
【
図8E】
図8Eは、遊離オキシミオグロビンについて、ならびに、種々の実施形態の逐次飽和技法を使用して特定のPEO−b−PBD配合物から形成された、酸素化されたポリマーソームカプセル化ミオグロビン懸濁液について、酸素平衡曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
詳細な説明
種々の実施形態について添付の図面を参照して詳細に説明する。可能な限り、同一参照番号を、同一または同じ部分を示すために図面全体にわたって使用する。特定の例および実装になされる言及は、例証のためのものであり、特許請求の範囲を限定することを意図するものではない。
【0029】
種々の実施形態には、PEMを生成するための改善方法が含まれ、これには、効率的な取込みを妨害しかつ/またはタンパク質機能を損なう、薄膜再水和プロトコールおよび直接水和プロトコールの重要なパラメーターを同定すること、ならびにそのような重要なパラメーターの反復最適化を行うことが含まれる。結果として、種々の実施形態により、中性に帯電しかつ完全にペグ化されたポリマーベシクル内で増大量の機能性タンパク質のカプセル化を可能とする一般化可能な技法が提供される。すなわち、種々の実施形態には、ミオグロビンをポリマーソームにカプセル化するための新しい「逐次飽和」方法が含まれる。
【0030】
ナノ粒子媒体によって、機能性タンパク質の送達に関連する多くの課題を解決することができ、多様な巨大分子医薬品の臨床開発が可能になる。ナノ粒子媒体としては、例えば、リポソーム(すなわち、天然リン脂質の自己集合ベシクル)およびポリマーソーム(すなわち、ブロックコポリマーの自己集合ポリマーベシクル)、ならびにミセル、ペルフルオロカーボンエマルジョンなどが挙げられ得る。その目的のため、リポソームは通常は、in vivoでの高い膜透過性および低い安定性を有するので、ポリマーソームは従来のリポソームと比較して有利な特性を有する。しかし、中性に帯電しおよび/またはペグ化されたポリマーソームに大量のタンパク質をカプセル化するための単一の、大規模対応が可能で、一般化された戦略を確立および確認した比較研究はほとんどなかった。リポソームベースの種々のカプセル化方法からの様々なステップを最適化しかつ組み合わせることによって、種々の実施形態は、ナノスケールポリマーベシクルにおいて機能性タンパク質のカプセル化を改善することができる新しい逐次飽和技法を提供する。種々の実施形態は、ポリマーソーム負荷の程度(すなわち、タンパク質対ポリマーの重量百分率)と達成が可能なタンパク質のカプセル化効率(ポリマーソーム形成に用いられた最初の分量に対する)との間の、トレードオフを実証する。さらに、種々の実施形態では、タンパク質分解ステップによって、逐次飽和プロトコールにより形成されたポリマーソーム懸濁液中に得ることのできる、カプセル化タンパク質(すなわち、所望の成果)ならびに表面会合(すなわち、非特異的に結合した)生成物の双方の量が正確に定量化される。既存のリポソームカプセル化技法を使用した、高効率でのポリマーソーム内の大量のタンパク質負荷に関する一部の報告があるが、そのような報告にはカプセル化タンパク質と表面会合タンパク質との間を区別することが含まれていない。したがって、種々の実施形態での逐次飽和技法によって、さらなる橋渡し的な開発を可能とし得る量および効率で、完全にペグ化されかつ中性に帯電したポリマーソーム中にタンパク質をカプセル化する、より確固とした、大規模対応が可能で、一般化可能な戦略を提供することができる。
【0031】
哺乳動物細胞においてタンパク質機能を選択的におよび強力に調節することは、ほとんどの分子治療薬の主たる作業であるが、この場合、大多数の利用可能な薬剤が有機小分子(サイズが800Da未満またはそれに等しい)である。しかし、最近の研究では、ほんのわずかの割合のヒトプロテオームが小分子をベースとした治療に感受性であることが示唆されている。さらに、小分子により首尾よく標的化されるタンパク質の機能的多様性は依然として非常に低いままである。すなわち、全ての処方薬のおよそ40%が単一のクラスのタンパク質、すなわちGタンパク質共役型受容体を標的とする。しかし、小薬物分子は、生物学的に重要な多くの境界面にみられる拡張した接触表面に対処することが本質的にできないので、小分子治療の使用は限られている。
【0032】
タンパク質などの生体巨大分子は、相当程度、従来の小分子治療に伴うこれらの重要な限界を解決するその能力により、重要な臨床的実用性を最近示している。小分子とその生物学的標的との相互作用を比較した場合、巨大分子治療薬は、より大きくより正確な三次元構成の適用を可能にするより高い折り畳みエネルギー(通常はおよそ7〜20kcal/mol)を有するが、これは、効率的な結合および/または複雑な生物学的機能の制御にとって必要であることが多い。したがって、巨大分子は、卓越した結合選択性およびより強力な標的に対する活性を達成することができる。現在、世界中で利用可能な約200のタンパク質薬物を含めて、使用状態にある少数の巨大分子治療は、薬物開発の新たなリードとして可能性が高いことを実証している。それにもかかわらず、いくつかの障壁がヒト治療薬としての巨大分子の迅速な開発の妨げとなってきており、(i)商業的規模の生産の困難および/または費用、(ii)病態生理学的環境においてまたは長期貯蔵によって生じる生化学的不安定性、(iii)短い循環半減期および効果的な組織浸透を妨害する大きい立体障害、ならびに(iv)抗イディオタイプ抗体および/または免疫複合体形成の誘発などの重度の有害効果を促進する巨大分子の可能性に関連したリスクが挙げられる。これらの制限のいくつかを解決するために、ほとんどの医薬化合物は、タンパク質複合体形成およびin vivo送達のために生体適合性ポリマー(例えば、ポリエチレングリコール(PEG)またはヒアルロン酸)またはリポソーム(すなわち、脂質ベースのベシクル)のいずれかを用いる。
【0033】
合成ナノ粒子は、より従来の配合物と比較した場合、薬物送達を高める卓越した特性を呈することができる。特に、ナノ粒子のクラスの内で、ポリマーソーム(すなわち、両親媒性ブロックコポリマーで構成される自己集合ポリマーベシクル)は、有益なナノスケール送達プラットフォームを提供することができる。脂質ベースのベシクル(すなわち、リポソーム)は生物医学研究に広く利用されてきたが、懸濁安定性が損なわれること、早すぎる薬物放出、および限られた製品有効期間を含めて、これらのリン脂質ベースの薬物送達媒体に付随する物質的な制限がある。対照的に、ポリマーソームは、広範で整調可能な範囲の担体特性を付与する、高分子量の両親媒性ブロックコポリマーから形成される。例えば、ポリマーソームは、(i)非共有結合相互作用を介する多様な治療有効搭載量の容易で安定した負荷、(ii)類似した分子量のコポリマーから構築されたリポソームまたはミセル構造のそれより5〜50倍大きい機械的安定性、(iii)コストのかかる製造後精製の必要性を除去する経済的で大規模な生産、および(iv)様々なコポリマー組成物からのポリマーソームの構築によって付与される生化学的特性の多様性、を可能とする。そのような特性として、完全にペグ化された表面および整調可能なin vivo循環時間、部位特異的標的化、環境応答性、および完全な生分解を挙げることができる。
【0034】
ナノ粒子へタンパク質を組み込むことで、それらの薬理学的性能を高め、それらの標的に対する活性を改善することができる。タンパク質をナノ粒子にカプセル化するために開発された方法では、静電相互作用を利用して、効率的で再現性のあるナノ粒子形成のために、一握りの高度にアニオン性のタンパク質、または当初のタンパク質の化学的もしくは遺伝的改変物を組み込んだ。そのような方法の例としては、薄膜再水和(すなわち、乾燥ポリマーの再水和)が挙げられ、これはポリマーソームカプセル化タンパク質の収率を低くする。別の例の方法は直接水和であるが、この使用は一般に小規模調製(例えば、1mL未満)に限定される。別の例の方法はエレクトロフォーメーションであるが、これは限られた数のタンパク質(すなわち、高度に荷電したタンパク質)に対してのみ有用な結果を提供する。別の例の方法は中空繊維の押出であるが、これはタンパク質溶液の存在下で予め形成されたベシクルの押出を必要とする。中空繊維押出技法は、リポソームカプセル化タンパク質の大規模調製に使用されてきたが、ポリマーソーム形成には温度および圧力の上昇が必要であり、これによってその広範な適用性が制限されてきた。
【0035】
既存の技法は、粒子形成のための熱、電気、超音波、もしくは機械エネルギーの入力、または代替的にタンパク質の構造および/もしくは機能を損なうおそれがある有機共溶媒の使用を必要とし、カプセル化をいっそう難題とし、利用性において限定的とする。したがって、種々のカプセル化技法では、中性に帯電しかつ/またはペグ化されたナノ粒子に大量の天然タンパク質を組み込むことを可能にする一般化された方法に対する必要性が存在する。
【0036】
種々のリポソームカプセル化技法の適用により、ポリマーソーム内に小分子を容易に組み込むことが可能になったが、これらの方法は、機能性タンパク質の大規模対応が可能なカプセル化に直接適用することはできない。多くの場合、カプセル化することができる水性タンパク質の最大濃度(すなわちmgタンパク質/mL溶液)、ポリマーソーム構造を構成するタンパク質対ポリマーの最終的な負荷率(すなわち、w/w%のタンパク質/ポリマー)、および/またはタンパク質カプセル化効率(すなわち、保持される、最初のタンパク質懸濁液の百分率)には、トレードオフが存在する。さらに、これらのパラメーターのそれぞれの値は、タンパク質の性質、厳密なブロックコポリマー配合物、および利用されるカプセル化方法に大きく依存する。例えば、
図1の表には、種々のタンパク質のポリマーソームへのカプセル化による既存の結果が示されている。種々の実施形態は、ポリマーソーム中に増大量の機能性タンパク質を効率的にカプセル化するための代替の、最適化された再現性のある方法を提供する。種々の実施形態の新たに開発された「逐次飽和」技法は、新しく多様な生物医学的用途を可能にし得る増大量のポリマーソームカプセル化タンパク質を生産するのに、容易に大規模対応が可能であり、高度に再現性があり、一般化可能である。
【0037】
種々の実施形態では、PEO−b−PBDコポリマーを使用して、完全にPEG化された表面を有するポリマーソームを形成する。非荷電および非分解性であるそのような表面によって、ベシクルの完全性を保証し、かつ望ましくないタンパク質相互作用または改変を最小限にする理想的なシステムが提供される。異なる分子量の2種のPEO−b−PBDポリマー、「OB18」ジブロックコポリマーおよび「OB29」ジブロックコポリマーは、最小サイズ、PEGの長さ、および膜コアの厚さが異なっているポリマーソームに係るので、これらを用いて結果の一般化可能性について決定する。
図2は、OB18およびOB29の種々の特性の比較を示す表を提供する。メチレンブルー(mBlue;Mw=319.85g/mol)を、これは水性懸濁液中で非常に安定であり、容易な分光光度検出を可能とする強い近赤外吸光度を有するが、モデル小分子として使用して、既存の方法を使用してカプセル化のための種々のベースラインパラメーターを確立する。そのようなベースラインパラメーターには、水性懸濁液の濃度、最終重量百分率、およびカプセル化効率が含まれる。ミオグロビン(Mb;Mw=17,600Da)を、これは治療的可能性を有する他の小タンパク質に匹敵するサイズと熱安定性(すなわち、60℃超での変性)を有するが、モデルタンパク質として使用した。ミオグロビンはまた、その鉄含有ヘム基の酸化還元状態によって決定される、その機能的状況の容易な同定を可能にし得る強い紫外線(UV)吸光度を有する。ミオグロビンはさらに、
図1に関連して上で論議したように、他の研究で用いられており、既存の技法を使用する他のカプセル化との結果の比較が可能となる。メチレンブルーは、高温での薄膜再水和によって形成されたPEO−b−PBDポリマーソーム中に容易にカプセル化され、40および60℃で形成された場合、それぞれ、4.1および5.0w/w%のmBlue対ポリマーの最終重量比が得られる。しかし、類似の条件ではミオグロビンの分解をもたらすだけであった。
【0038】
薄膜再水和によってベシクルを形成する場合、乾燥コポリマーのフィルムが水和されるときに、膜の膨潤部に親水性ブロックとしてラメラ(別名スポンジ様構造)が最初に形成される。さらに膨潤させると、六角形にパックされたベシクルへの、最終的に完全に分散したポリマーソームへの形質転換をもたらす。可溶性小分子(またはタンパク質)の溶液中で薄膜再水和を試みると、これらの水溶性種は突起を形成している(budding)ラメラの表面に吸着し、これはその後自発性の(または好ましい)湾曲する形をとる。形成の間、これらの膜は、より高濃度の吸着種を含有する水性区画から離れるように優先的に曲がり、それによって水溶性薬剤はベシクルカプセル化から除外される。最終的に、エネルギーを入力することで、ベシクルのカプセル化を促進するために、この自発性の表面張力を解決することができる。必要とされるエネルギーの量は、吸着した分子のサイズおよびベシクルの膜厚により増減する。したがって、熱(および/または音波)エネルギーの入力によって、リポソームを崩壊させることならびに薄膜再水和による小分子およびタンパク質の効果的負荷を可能とすることは容易である一方で、そのような入力は、小分子のポリマーソーム懸濁液への効果的なカプセル化を可能とするだけである。溶媒分散とホモポリマー添加とのハイブリッドとして開発された直接水和方法では、親水性ポリマーPEG500ジメチルエーテル(DME)を使用して、形成するポリマーラメラの疎水性鎖の相互作用を崩壊させる。続いて水溶液を添加すると、分散したタンパク質を有する突起を形成しているラメラからのベシクルの自己集合が促進され、水性カプセル化の改善がもたらされる。37%という高いカプセル化効率が観察された。23℃での直接水和を使用して、ポリマーソームカプセル化ミオグロビン懸濁液は、カプセル化されたミオグロビン種が良好な懸濁特性および未変成タンパク質の特徴的な吸収スペクトルを呈する状態で、10%を超えるカプセル化効率を有することができる。しかし、これらのポリマーソームカプセル化懸濁液中のミオグロビンの最終負荷は、わずかおよそ0.3w/w%のMb/ポリマーであることが判明した。全ての表面会合(すなわち、非特異的に結合した)タンパク質のタンパク質分解を誘発するプロテアーゼ溶液を添加すると、PEM懸濁液の最終的なMb組成はさらに低く、すなわち0.1w/w%未満のMb/ポリマーであると判明した。橋渡し的な治療用途の場合、ポリマーソーム媒体の水性キャビティ内への治療用タンパク質の負荷は、被験体に導入される関連担体の量を最小限にするために最大化する必要がある、最終的な評価指標(metric)である。したがって、標準的な直接水和を使用するそのようなカプセル化は不十分である。
【0039】
種々の実施形態では、逐次飽和プロトコールによって、PEM懸濁液の効率的な生成が提供される。タンパク質カプセル化のための逐次飽和の一般化可能性は、17〜450kDaの範囲の様々な異なるタンパク質を利用することによってさらに確立され、新規の多数の治療組成物に関する前臨床研究を可能とし得る量でナノスケールポリマーソームが得られる。特に、逐次飽和方法と直接水和との間の差異は、リン酸緩衝食塩水(PBS)での追加の希釈の代わりに、後続する5容積の機能性タンパク質溶液を添加してPEG/ポリマー混合物を希釈することが関与し得る。
【0040】
具体的には、種々の実施形態の逐次飽和方法は、ポリマー10mgおよびPEG10mgをおよそ95℃で約1時間加熱することを含む。試料混合物を遠心分離し、室温に冷却することができる。メトミオグロビン(metMb)溶液(例えば、PBS中150mg/mL)は、亜ジチオン酸ナトリウム(Na
2S
2O
4)(例えば、1wt%)でオキシミオグロビン(oxyMb)に還元することができる。結果として生成するoxyMb溶液から、一部(すなわち、アリコート)を1:1の容積比で試料混合物に添加し、十分に混合し、続いて室温でおよそ30分間超音波処理することができる。特に、アリコートは、oxyMb溶液10μLとすることができる。試料混合物は、いくつかの希釈ステップでさらに希釈することができる。具体的には、各希釈ステップは、oxyMb溶液のある容積(例えば、PBS中150mg/mL)を添加し、続いて十分に混合して、室温でおよそ30分間超音波処理することを含み得る。希釈ステップで使用されるoxyMb溶液の容積は、oxyMb溶液と当初の試料混合物との比が、容積10μLで、続いて20、50および100μLで、1:1、2:1、5:1および5:1である量とすることができる。希釈ステップの後、結果として生成する試料を室温でさらに30分間超音波処理し、続いて1000kDaの分子量カットオフ膜を用いておよそ4℃で少なくとも30時間透析することができる。表面会合ミオグロビンは、0.4wt%プロナーゼ溶液での処理を介するタンパク質分解によって、続いておよそ4℃で少なくとも12時間の透析(例えば、分子量カットオフ1000kDa)によって、除去することができる。種々の実施形態では、結果として生成するポリマーソーム懸濁液のミオグロビンカプセル化は、タンパク質分解の前後で測定することができる。具体的には、ミオグロビンの濃度は誘導結合プラズマ発光分光法(ICP−OES)を使用して測定することができ、一方、ミオグロビンのヘム基の鉄の酸化還元状態はUV−Vis吸収分光法を使用して定量化することができる。
【0041】
これらの逐次飽和ステップによって、
図3A〜
図3Eに示すように、OB18ポリマーソーム中のミオグロビンのカプセル化について好ましい結果が提供された。例えば、
図3Aには、超音波処理を使用しなかった場合(従来技法におけるように)、および逐次飽和プロトコールに従って、超音波処理を使用することによって(すなわち、各希釈ステップの後、室温でおよそ30分間)得られた、ポリマーソームカプセル化ミオグロビン中のMb対ポリマー(すなわち、w/w%のMb/ポリマー)の最終重量百分率が示されている。
図3Aに示すように、およそ6のMb対ポリマーの最終重量百分率(すなわちw/w%のMb/ポリマー)が、そのような超音波処理を含むプロトコールによって作製されたポリマーソームカプセル化ミオグロビンにより達成された結果であり得る。したがって、各希釈ステップの後に室温でおよそ30分間試料を超音波処理することにより、直接水和を介して生成されたポリマーソームカプセル化ミオグロビンから得られる最終重量百分率に基づいて、カプセル化効率を30倍超で向上させることができる。
【0042】
図3Bには、メトミオグロビン溶液を使用して(従来技法におけるように)、および逐次飽和技法におけるようにoxyMbを使用することによって得られた、ポリマーソームカプセル化ミオグロビン中のMb対ポリマー(すなわちw/w%のMb/ポリマー)の最終重量百分率が示されている。
図3Cには、様々な溶液条件に対するミオグロビンの曝露の関数として、ミオグロビン酸化率(経時的に形成されるmetMbの百分率として表されている)が示されている。
図3Dには、様々なoxyMb容積に対するタンパク質分解時間の関数として除去された表面会合Mbの量(%Mb消失)が示されている。
図3Eには、oxyMb溶液の容積と希釈ステップで使用されたPBSの容積との種々の比を使用して生成されたポリマーソームカプセル化ミオグロビンにおいて、カプセル化効率(%Mb EE)と比較した、Mb対ポリマーの最終重量百分率(すなわちw/w%のMb/ポリマー)が示されている。特に、
図3Eの試料を18時間タンパク質分解して表面会合ミオグロビンを除去し、UV−Vis吸収分光法を使用して定量化した。
【0043】
したがって、種々の実施形態による逐次飽和を使用してポリマーソームカプセル化ミオグロビンを生成する際に得られた最終的なMb対ポリマー重量比(すなわち、4〜6w/w%のMb/ポリマー)は、直接水和プロトコールを使用して生成されたポリマーソームカプセル化ミオグロビン(すなわち0.1〜0.3w/w%のMb/ポリマー)と比較して、有意に改善され得る。特定の理論に縛られることを望むものではないが、逐次飽和ステップを使用して達成される負荷容量は、最初の希釈ステップ中の不完全なポリマーソーム形成に起因し得、さらなるカプセル化はタンパク質溶液の後続する各添加によって実現される。
【0044】
逐次飽和プロトコールの開発には、複数のリポソーム形成法からの種々のステップを最適化することおよび組み合わせることが含まれた。ミオグロビンの最終濃度、OB18ポリマーソーム担体内で達成できた相対負荷レベル(すなわち、w/w%のタンパク質/ポリマー)、およびミオグロビンカプセル化の効率に影響する要因を体系的に評価した。ポリマーの分子量、タンパク質の酸化状態および濃度、緩衝溶液のpHおよび性質、厳密なポリマー水和条件(すなわち、時間、温度およびブレンド技法)、超音波処理ステップの回数および持続時間、ならびに凍結−融解サイクルの追加または回避などの要因全てが最終ポリマーソームカプセル化タンパク質生成物の濃度および忠実度に効果を有した。
【0045】
さらに、既存の技法を使用して作製されたポリマーソームカプセル化ミオグロビンと比較して、逐次飽和によって作製されたポリマーソームカプセル化ミオグロビンはまた、Mbの最終濃度の向上を呈する。例えば、直接水和を介して生成されたポリマーソームカプセル化ミオグロビン中のMbの最終濃度は、溶液中でおよそ0.5mg/ML未満であるが、種々の実施形態において逐次飽和を介して生成されたポリマーソームカプセル化ミオグロビンの最終濃度は溶液中でおよそ2.0mg/mL超であり得る。
【0046】
ベシクル形態を確認するためにcryo−TEMを使用すると、逐次飽和を使用して開発されたポリマーソームカプセル化ミオグロビンの懸濁液は、4℃、23℃および37℃で1ヶ月より長い間維持した場合に凝集体形成に関してなんら兆候を示さなかった。逐次飽和技法は、PEO−b−PBDポリマーソーム内で17〜450kDaのサイズの範囲の様々な他のタンパク質を首尾よくカプセル化するために、さらに利用することができる。
【0047】
特定の理論に縛られることを望むものではないが、各添加ステップに使用された遊離Mbの濃度に基づいて達成され得たMbカプセル化効率とMb対ポリマーの最終重量比との間に直接的なトレードオフが存在する可能性がある。最終生成物はポリマーソーム送達媒体を利用するという目的を満たしていることを保証するために、すなわち、生化学的安定性を改善し、循環半減期を向上させ、有害な副作用を最小限にし、会合タンパク質の放出制御を達成するために、表面会合タンパク質よりもタンパク質の水性カプセル化が好ましい。種々の実施形態の技法は、治療上適切な抗体および酵素に関連するものを含めて、広い範囲の分子量およびサイズにわたって変化する様々なタンパク質を使用して用いることができる。例えば、逐次飽和技法を利用して、OB29ジブロックコポリマーで構成されるPEO−b−PBDベースのポリマーソームシステムにミオグロビンをカプセル化することができる。種々の実施形態では、逐次飽和技法を利用して、限定されないが、抗体(例えば、免疫グロブリンG(IgG))および機能性酵素(例えば、カタラーゼ)を含めて、いくつかの他のタンパク質のいずれかをカプセル化することができる。
【0048】
図2に関連して上記のように、OB18ジブロックコポリマーと比較した場合、OB29ジブロックコポリマーは、より小さい分子量を有し、より短いPEG刷子縁(1.3対3.9kDa)、より薄い二分子膜(9.6nm対14.8nm)、およびより小さい平均流体力学的直径(130対200nm)を有するポリマーソームを生成する。種々の実施形態では、逐次飽和を使用してOB29ポリマーソームにミオグロビンをカプセル化すると、OB18ポリマーソームからのものと同様の結果が得られる。種々の実施形態では、逐次飽和技法は、PEGおよび生分解性ポリマー(例えば、生分解性のポリエステル、ポリ(アミド)、ポリ(ペプチド)、ポリ(核酸)等)である、疎水性ブロックで構成される任意の両親媒性ポリマーを含めて、任意のPEGベースポリマーソーム形成性ブロックコポリマーを使用して、適用することができる。疎水性ブロックを形成し得る生分解性ポリエステルの例としては、限定されないが、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸−co−グリコール酸)、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(メチルカプロラクトン)、ポリ(ヒドロキシブチレート)、ポリ(ヒドロキシバレレート)、ポリ(ヒドロキシヘキサノエート(hdyroxyhexanoate))、ポリ(ヒドロキシオクタノエート(hydroxyoxtanoate))およびポリ(トリメチレンカーボネート)が挙げられる。
【0049】
逐次飽和技法の一般化可能性は、OB29ポリマーソームを使用するより大きいいくつかのタンパク質のカプセル化による類似の結果によってさらに実証される。
図4には、逐次飽和プロトコールおよびOB29ポリマーソームを使用して、ミオグロビン、ヘモグロビン(Hb)(64kDa)、ウシ血清アルブミン(BSA)(66kDa)、IgG(150kDa)、カタラーゼ(250kDa)、フィブリノーゲン(340kDa)、およびアポフェリチン(450kDa)をカプセル化することによるカプセル化の結果が示されている。
【0050】
本発明を、以下の実施例によって説明するが、限定されることを意図するものではない。
【実施例】
【0051】
実験
機能性タンパク質をカプセル化する大規模対応が可能な量の中性に帯電しかつ完全にペグ化されたポリマーソームを生産するための一般化可能な方法を確立するために、比較および定量研究を行った。小分子およびタンパク質カプセル化の差異について、OB18ジブロックコポリマーおよびOB29ジブロックコポリマーで構成されるポリマーソーム配合物を用いることにより調べた。
図2に関連して上記のように、これら2つのPEO−b−PBDポリマーおよびこれらから形成されたポリマーソームは、分子量および最終的にはベシクルの膜厚に関して異なっている。メチレンブルー(mBlue;Mw=319.85g/mol)をモデル小分子として、ミオグロビン(Mb;Mw=17,600Da)を独特の生物学的機能(すなわち、酸素貯蔵および放出)を有するモデルタンパク質として使用した。
図5Aには、両親媒性ジブロックコポリマーでできているポリマーソーム、ならびにポリマーソーム中にカプセル化され得るかまたはそれに結合され得る水不溶性薬剤および水溶性種の表現が示されている。例えば、PEO−b−PBDポリマーソーム内に水溶性薬剤を組み込むために用いられた従来のベシクル形成技法には、薄膜再水和および直接水和が含まれ、これらのプロトコールは、
図5Bおよび
図5Cにそれぞれ示されている。薄膜再水和方法および直接水和方法のそれぞれによって生成されたPEO−b−PBDポリマーソームにおけるメチレンブルーおよびミオグロビンのカプセル化を比較した。酸素結合が可能な完全機能性タンパク質のカプセル化量を定量化するために、ポリマーソームカプセル化ミオグロビンの鉄濃度をICP−OESにより測定し、ミオグロビンのヘム基における鉄の酸化還元状態をUV−Vis吸収分光法により測定した。
【0052】
既存の技法を使用して作製されたPEMと比較して、逐次飽和によって作製されたPEMは、Mbの最終濃度の向上(例えば、溶液中およそ0.5mg/mL未満から溶液中およそ2.0mg/mL超へ)および再現可能に得ることができたMbとポリマーとの最終重量比における向上(1w/w%未満のMb/ポリマーからおよそ3〜4w/w%超のMb/ポリマーへ)を呈する。さらに、逐次飽和によって作製されたPEMは、PEM懸濁液中のタンパク質カプセル化の全体的効率の向上(およそ5%未満からおよそ90%超へ)を示している。ベシクル形態を確認するためにcryo−TEMを使用すると、逐次飽和を使用して開発したPEMの懸濁液は、4℃、23℃、および37℃で1ヶ月より長い間、凝集体形成に関してなんら兆候を示さない。
【0053】
材料
【0054】
PEO(3900)−b−PBD(6500)(OB18)およびPEO(1300)−b−PBD(2500)(OB29)は、Polymer Source(Dorval、Quebec、カナダ)から購入した。ウマの骨格筋Mb、ウシ血液ヘモグロビン(Hb)、ウシ血清アルブミン(BSA)、カタラーゼ(C)、フィブリノーゲン(F)、次亜硫酸ナトリウム、ポリ(エチレングリコール)ジメチルエーテル(PEG;Mn=約500)、Streptomyces griseus由来プロテアーゼ(「プロナーゼ」)およびジクロロメタン(DCM)は、Sigma−Aldrich(St.Louis、米国)から購入した。ウマ脾臓アポフェリチン(aFr)はAlfa Aesar(Ward Hill、米国)から購入した。免疫グロブリンG(IgG)はLEE Biosolutions(St.Louis、米国)から購入した。透析チューブおよびバイアルは、Spectrum Laboratories(Rancho Dominguez、米国)から購入した。塩化ナトリウム、塩化カリウム、第二リン酸ナトリウム、第一リン酸カリウム、mBlueおよびTriton X−100は、Fisher Scientific(Suwanee、米国)から購入した。全ての化学物質は、別段の記載がない限り試薬グレードであった。
【0055】
粒子サイズは、Delsa(商標)Nano、動的光散乱(DLS)装置(Beckman Coulter、Indianapolis、米国)を使用して測定した。MbおよびmBlue濃度は、Genesys(商標)10S UV−Vis分光光度計(Thermo Scientific、Suwanee、米国)を使用する吸収分光法によって決定した。ポリマーソーム懸濁液中の全タンパク質の濃度は、UV−Vis分光光度法を利用し、製造者のプロトコール(Pierce Biotechnology,Inc;Rockford、IL、米国)に従って、Micro BCA Protein Assay Kitを使用してさらに測定した。ポリマーソームカプセル化Mb懸濁液中の鉄濃度は、Vista−PRO CCD ICP−OES(Varian、米国)を使用して決定した。酸素平衡結合は、Hemox(商標)−Analyzer(TCS Scientific Corp、New Hope、PA、米国)を使用して調べた。エレクトロフォーメーションは、Gene Pulser(Bio−Rad、Hercultes、CA、米国)を使用して行った。
【0056】
方法
【0057】
薄膜再水和方法
【0058】
OB18ポリマー10mgをDCM 200μLに溶解させた。ポリマー溶液をテフロン(登録商標)ウェハー(15mm×15mm)上に堆積させ、続いて室温(RT)で30分間乾燥させた。フィルムを真空下RTで一晩さらに維持してDCMの蒸発を確実とした。メチレンブルーのカプセル化については、次いで、リン酸緩衝食塩水(PBS;10mM、pH7.4)のメチレンブルー溶液(21mg/mL)で23、40または60℃で24〜48時間、ポリマーフィルムを水和させた。試料を、室温で30分間超音波処理し、続いて液体窒素を使用して凍結−解凍サイクル(×10)を行った。試料をRTで30時間透析した(MWカットオフ=100kDa)。ミオグロビンカプセル化については、PBS(10mM、pH7.4)中のミオグロビン溶液(150mg/mL)で23、40、および60℃で60時間、ポリマーフィルムを水和させた。次いで、試料をRTで30分間超音波処理し、続いて4℃で30時間透析した(MWカットオフ=1000kDa)。
【0059】
直接水和方法
【0060】
OB18 10mgおよびPEG 10mgを、1.5mL遠心分離管中で95℃で20分間加熱した。試料を混合し、室温に冷却し、続いてPBS(10mM、pH7.4)中のメチレンブルー溶液(21mg/mL)10μLまたはミオグロビン溶液(150mg/mL)10μLを添加した。次いで、試料をPBS 20、70および900μLで希釈し、各添加/希釈の後に(ボルテックスにより)十分に混合した。次いで、試料を室温でまたは4℃で30時間透析して(分子量カットオフ1000kDa)、カプセル化されていないメチレンブルーまたはミオグロビンをそれぞれ除去した。
【0061】
mBlue/Mbの定量化
【0062】
精製されたポリマーソーム懸濁液中のカプセル化されたメチレンブルーまたはミオグロビンの量は、UV−Vis分光光度計を使用して、665nm(mBlue)でのまたは410nm(Mb)での溶液の吸光度を測定することによって決定した。メチレンブルーおよびミオグロビンの検量線は、既知濃度の段階希釈を使用して作成した。ポリマーソームカプセル化ミオグロビン懸濁液中の鉄含量を測定するために(その試料中のミオグロビン濃度の確証として)、5〜10%(v/v)のTriton X−100を添加し、混合物を王水中で98℃で3時間加熱することにより消化し、続いて脱イオン水で希釈した。ICP−OESを実験試料に対して行い、その鉄含量をこの標準検量線と比較して決定した。ミオグロビンの濃度(UV−Vis吸光度分光法によって算出される)を、各懸濁液について、ICP−OESを介してまたはMicro BCA Assay(二次UV−Vis法)を介して得られたものと比較した。ポリマーソーム中の水性カプセル化材の負荷を定量化し、懸濁液中のベシクルを構成するカプセル化材対ポリマーの最終重量百分率として表した(例えば、w/w%のMb/ポリマー)。
【0063】
metMbの定量化
【0064】
ポリマーソーム懸濁液中のメトミオグロビン(metMb、すなわち、Fe(III)−ヘム基を有する酸化Mb)の量を、シアノメトヘモグロビンレベルの測定のために以前に確立された改変UV−Vis吸収プロトコールを使用して定量化した。手短に言えば、ミオグロビンの吸光度を、ブランク基準(脱イオン水)に対して630nm(L
1)で測定した。KCN溶液(10%KCN 1部および50mMホスフェート 1部、pH7.6)1滴を添加し、処理済みミオグロビン試料と混合した。この反応ステップは、metMbを630nmでは吸収しないシアノメトミオグロビン(cyanoMb)に変換するのに必要であった。2分後、ブランク基準として働く脱イオン水に対して吸光度を630nm(L
2)で測定した。式1を使用してmetMbの濃度を決定した:
【数1】
式中、E=3.7(cm×mM)
−1であり、630nmでのmetMbの消衰係数であり、D
1はこの実験における希釈倍率である(キュベット長=1cm)。
【0065】
ミオグロビンの濃度を決定するために、20%K
3(Fe(CN)
6)1滴を添加し、処理済みミオグロビン試料と混合した。溶液を2分間反応させ、10%KCNの追加の1滴を添加し、混合した。次いで、試料の吸光度を540nm(L
3)で測定した。式2を使用して総Mbの濃度を決定した:
【数2】
式中、E=11.3(cm×mM)
−1であり、540nmでのcyanometMbの消衰係数であり、D
2は希釈倍率である(キュベット長=1cm)。
【0066】
式3を使用して当初の溶液におけるmetMbの百分率を決定した:
【数3】
【0067】
ポリマーソームの構造的特徴付け
【0068】
ポリマーソーム懸濁液をPBS溶液で希釈し、それらの流体力学的直径を標準1.5mLセミミクロのPlastibrandポリスチレンキュベット(VWR、Atlanta、米国)を使用してDLSにより測定した。ブランクポリマーソームおよびポリマーソームカプセル化ミオグロビンの形態を、cryo−TEM(JEOL 2100F、米国)によって可視化した。手短に言えば、ポリマーソーム試料をマイクロ穿孔グリッド中で懸濁させ、液体エタン(−183℃)を使用して急速にガラス化し、200kVでのcryo−TEMイメージング用の低温試料ホルダーに載せた。
【0069】
従来の方法を使用するポリマーソーム懸濁液でのmBlueおよびMbのカプセル化
【0070】
ポリマーソーム懸濁液中の小分子およびタンパク質カプセル化の比較のベースラインを確立するために、最終濃度、重量百分率(すなわち、ナノ粒子を構成するポリマーの重量と比較したカプセル化剤の重量)、およびメチレンブルーのカプセル化の効率を、薄膜再水和技法によって形成されたOB18ポリマーソームで決定した。
図6Aには、40℃(すなわち、4.1w/w%のmBlue/ポリマー)および60℃(すなわち、5.0w/w%のmBlue/ポリマー)でメチレンブルーをカプセル化するための最終ポリマーソーム組成物の重量百分率結果が示されている。室温(すなわち、23℃)で薄膜再水和を試みた場合、おそらく、水和の48〜72時間後にポリマーフィルムは膨潤しなかったという観察から、メチレンブルーのカプセル化は無視できると判明した(結果は示さず)。PEO−b−PBDベースのポリマーソームはベシクル形成のためのエネルギーの入力を必要とするが、これは高温(例えば、45℃超)を使用することによって通常支援される。
【0071】
不安定なタンパク質を用いる場合に必要となるより低温でのカプセル化の効率を改善するために、mBlueのカプセル化も直接水和方法によって調べた。
図6Bには、23℃での直接水和を使用して作製されたポリマーソーム懸濁液中のmBlue対ポリマーの最終重量百分率が示されている(すなわち、1.2w/w%のmBlue/ポリマー)。
【0072】
次に、薄膜再水和によって23℃で形成されたポリマーソームカプセル化ミオグロビン懸濁液はおよそ2.7w/w%のMb/ポリマーで構成されていることが、最初に判明した。タンパク質分解ステップを追加して任意の表面会合Mb(すなわち、非特異的に結合した遊離タンパク質)を除去した後、ポリマーソームの最終組成はわずか0.5w/w%のMb/ポリマーであることが判明し、これは非常に少量のタンパク質がポリマーソーム内にカプセル化されていたことを示している。
図6Cには、追加したタンパク質分解ステップの前後両方での、23℃での薄膜再水和を使用して作製されたポリマーソーム懸濁液中のMb対ポリマーの最終重量百分率が示されている。
【0073】
ポリマーソームカプセル化ミオグロビン懸濁液中のミオグロビンの濃度および最終重量百分率を改善するために、40および60℃での薄膜再水和を利用して、より高温でのポリマーソーム生成を再度試みた。しかし、そのような試験では、タンパク質は変性し凝集するだけであった。対照的に、23℃での直接水和によって調製されたポリマーソームカプセル化ミオグロビン懸濁液は、良好なコロイド特性および未変成ミオグロビンの特徴的な吸収スペクトルを示したが、これらのポリマーソームカプセル化ミオグロビン懸濁液中のMb対ポリマーの最終負荷率は依然として低かった。
図6Dには、タンパク質分解前(すなわち、0.3w/w%のMb/ポリマーを示す)およびタンパク質分解後(すなわち、0.1w/w%のMb/ポリマーを示す)両方の、23℃での直接水和を使用して作製したポリマーソーム懸濁液中のMb対ポリマーの最終重量百分率が示されている。
従来プロセスに対する改変
【0074】
機能性タンパク質のポリマーソームカプセル化を改善するために、直接水和および薄膜再水和技法の両方の特色を実験条件下で繰り返して評価した。
【0075】
超音波処理の効果
【0076】
直接水和プロトコールに続き、OB18ポリマーおよびPEGの添加の際に、試料を混合し、RTに冷却し、PBS(10mM、pH7.4)中のMb溶液(150mg/mL)10μLを添加した。次いで、試料をMb溶液10、20、50および100μLでさらに希釈し、続いて、追加の各希釈ステップの後にA)0分間またはB)30分間のいずれかで混合および超音波処理した。次いで、全ての試料を4℃で30時間透析した(分子量カットオフ1000kDa)。結果として得られたポリマーソーム懸濁液中の最終Mb濃度、Mb対ポリマーの重量百分率、およびMbカプセル化の効率を、UV−Vis吸収分光法、ICP−OESによって測定し、比較した。
【0077】
OB18ポリマーソーム中のMbのカプセル化を試みる上で、およびベシクル形成に直接水和プロトコールを用いることにより、最終的なPEM懸濁液中で再現可能に得られたMb対ポリマーの重量比は、ここでも非常に低いことが判明した(例えば、およそ0.2w/w%のMb/ポリマー)。しかし、カプセル化効率は、各希釈ステップの後に、試料を室温で30分間超音波処理した場合(すなわち、水溶液の追加容積を導入して懸濁液中のポリマーの濃度を希釈した後に超音波処理する)、30倍超で向上することができた。
図3Aに関連して上で論議したように、PEM懸濁液中のMbの相対量は、およそ6.0w/w%のMb/ポリマーまで増量させることができ、この超音波処理ステップを当初の直接水和プロトコールに追加することが裏付けられている。
【0078】
ブレンド技法の効果(有機溶媒へのポリマーの溶解対加熱の追加)
【0079】
直接水和プロトコールの第1のステップ中のポリマーの溶解を改善するために、有機溶媒を利用する効果を、加熱してOB18をPEG500ホモポリマーとブレンドすることと比較した。これらの戦略を、ポリマーソーム形成の最終収率、ならびに最終的には、各方法によって得ることができたタンパク質カプセル化の濃度および効率について比較した。2種のポリマーをDCMに溶解させることによって最初に混合した場合(続いて、有機溶媒蒸発後にポリマーソームを形成させる)、PEM懸濁液中のMb対ポリマーの最終重量比はおよそ2w/w%のMb/ポリマーであった。これと比較して、乾燥OB18およびPEG500を95℃に1時間最初に加熱すると、混合が改善され、より効率的なポリマーソームの生成が促進され、最終的なPEM懸濁液中の、Mb対ポリマーの著しく高い最終重量比が得られ(すなわち、およそ5w/w%のMb/ポリマー)、これは、より多量のカプセル化されたタンパク質に相当する。
【0080】
直接水和プロトコールに続き、OB18 10mgおよびPEG 10mgを、95℃で1時間加熱することによってブレンドするか、またはDCM(50μL)に溶解することによって混合した後、室温で一晩真空下で乾燥した。さらなるカプセル化は、各希釈ステップの後に30分間の超音波処理を追加して同一プロトコールを使用して行った。最終懸濁液中のMb濃度を、UV−Vis吸収分光法およびICP−OESによって決定し、比較した。
【0081】
Mb酸化状態の効果(すなわち、ポリマーソームカプセル化のためのoxyMb対metMbの利用)
【0082】
出発Mb原液を亜ジチオン酸ナトリウムで最初に還元して全てのメトミオグロビン(すなわちmetMb)をオキシミオグロビン(すなわちoxyMb)型に変換すると、ミオグロビンカプセル化はさらに増強されることが判明した。oxyMbは、第一鉄の状態(すなわち、Fe(II))の鉄を有する中心ヘム基を含有するが、これによって、Fe(III)を含有するそのmetMb型と溶解性を比較した場合、タンパク質の溶解度が改善される。このoxyMb溶液は、直接水和プロトコールにおける後続の希釈ステップの全てにおいてそれを利用する前に透析によりさらに脱塩したが、これは、PEM懸濁液中のMbの負荷(すなわち、Mb対ポリマーの最終重量比)を向上させるのに必要であることが判明した。
図3Bに関連して上で論議したように、oxyMbを最初のプロトコールステップで使用すると、6w/w%のMb/ポリマーで構成されたPEM懸濁液が形成され、これはmetMbを利用した場合に得られる4w/w%のMb/ポリマーよりも統計的に有意な改善であった。
【0083】
直接水和プロトコールを改変して、ポリマーとPEGとの最初の混合物を95℃で1時間(20分の代わりに)の加熱に曝露した。ポリマーソームカプセル化の効率に対するMbのヘム基の鉄酸化状態の効果を、各希釈ステップに対してoxyMb(すなわち、Fe(II)Mb)対metMbを使用することによって調べた。metMb溶液を、凍結乾燥したMbをPBSで溶解することによって調製した。同一溶液を1wt%Na
2S
2O
4で処理して、還元されたMb型(oxyMb)を得た。ポリマーソームにおけるMbカプセル化を、UV−Vis吸収分光法およびICP−OESによって測定し、比較した。
【0084】
Mb酸化に対する超音波処理および温度の効果
【0085】
ポリマーソームのカプセル化の最初のステップで使用されたoxyMbの40%超が、50℃で2時間以内にmetMbに再酸化されることが判明した。対照的に、ポリマーソーム形成により低い温度を用いた場合(例えば、40℃で2時間の加熱)、およそ15%のmetMbのみが最初のoxyMb溶液から生成した。50℃でのMb酸化率はまた、
図3Cに関連して上で論議したように、超音波処理の追加または利用された電力にかかわらず、40℃でのMb酸化率よりも有意に大きかった。このように、超音波処理はMb酸化に効果を有さないこと、したがってこれを優先的に用いて、ポリマー混合を促進するとともに、界面エネルギーを提供してポリマーソーム形成を増強することが決定された。
【0086】
最初のMb溶液(150mg/mL)をNa
2S
2O
4で還元し、40℃(超音波処理有りでまたはなしで)または50℃で2〜5時間加熱することを含めて、種々の条件に供した。Mb酸化を、シアノメトヘモグロビン法を使用して、総ポリマーソームカプセル化Mb懸濁液中のmetMbの百分率を測定することによって決定した。
【0087】
タンパク質分解の効果
【0088】
形成時に、任意の表面会合(すなわち、非特異的に結合した)Mbの完全消化に要する期間を調べるために、PEM懸濁液を室温で最長18時間0.4%プロナーゼ溶液で処理した。全ての表面会合Mbは2時間で消化されること、プロナーゼ曝露時間を長くしても濃度を高めてもMb消失をさらに増強させないことが観察され、したがって、
図3Dに関連して上で論議したように、カプセル化されたMbのみが保持されていたことが示された。
【0089】
タンパク質の様々な初期溶液濃度(すなわち、50、75、150mg/mL)を使用してOB18ポリマーソームにMbをカプセル化し、その後4℃で少なくとも30時間透析した(分子量カットオフ1000kDa)。続いて試料を室温で18時間0.4wt%プロナーゼ溶液で処理し、4℃で一晩再度透析した。ポリマーソームにおけるMbカプセル化(タンパク質分解前後)をUV−Vis吸収分光法およびICP−OESで測定し、比較した。
【0090】
Mbカプセル化効率の改善(すなわち、%Mb EE)
【0091】
最適なMb濃度を確立して、当初の「直接水和」プロトコールに関する本発明者らの改変における後続の各希釈ステップで使用するために、種々のMb対PBSの容積比(すなわち、「Mb:PBS」)を用いて5セットの実験を行った。特に、Mb:PBSが上昇すると、PEM懸濁液中の最終w/w%のMb/ポリマーも上昇したが、結果として、Mbカプセル化効率(すなわち、%Mb EE)は低下した。換言すれば、Mb対ポリマーの最終的な質量比は、全ての希釈ステップが最大濃縮Mb溶液(すなわち、Mb:PBS=190:0および150mg/mL oxyMb)を使用して行われたときに最大化された。
図3Eに関連して上で論議したように、%Mb EEは、Mb:PBSが最小であった場合に(すなわち、10:180)最も大きかった。最終ポリマーソーム懸濁液中のタンパク質の量は、治療投与のために最適化する必要がある最終的な評価指標なので(被験体に導入される関連担体ポリマーの量を最小限にするために)、純粋なMb溶液(150mg oxyMb/mL)が、究極的なカプセル化プロトコールにおいて各希釈ステップに使用され、PEM懸濁液中の最終w/w%のMb/ポリマーが最大化されると決定された。
【0092】
基本的な直接水和プロトコールに続き、ポリマー10mgおよびPEG 10mgを1.5mL微量遠心分離管中で95℃で1時間最初に加熱し、その後RTに冷却した。次いで、希釈剤10、10、20、50および100μLを添加することにより混合物を希釈した。2つの異なる溶液、PBSおよび/またはMb懸濁液(すなわち、PBS中150mg/mLのMb)を使用し、5つの希釈ステップのそれぞれについて比較した。ステップ1、2、3、4および5において、Mbと希釈剤として使用したPBSとの最終(v/v)比(すなわち「Mb:PBS」)は、それぞれ、10:180、20:170、40:150、90:100、および190:0であった。次いで、試料を0.4wt%プロナーゼを使用してタンパク質分解し、4℃で一晩再度透析した(分子量カットオフ1000kDa)。Mbカプセル化をUV−Vis吸収分光法を使用して測定した。Mbカプセル化効率を式4を使用して算出した。
【数4】
式中、v
1=未カプセル化Mbの最初の容積(mL)、c
1=未カプセル化Mbの最初の濃度(mg/mL)、v
2=透析およびタンパク質分解後に得られたポリマーソームカプセル化Mbの容積(mL)、ならびにc
2=透析およびタンパク質分解後に得られたカプセル化Mbの濃度(mg/mL)。
【0093】
ポリマーソームカプセル化タンパク質懸濁液を生成するための逐次飽和の使用。
【0094】
種々の実施形態でのステップのそれぞれを組み込むことによって逐次飽和技法が確立され、
図7Aに表されているが、これによって、
図5Cに関連して上で論議した当初の直接水和プロトコールの結果に大幅に改良が加えられた。逐次飽和プロトコールを使用すると、OB18ベースのPEM懸濁液中のMbの最終含量は、タンパク質分解の前後でそれぞれ、6.1および3.2w/w%のMb/ポリマーであると判明した。ICP−OESによるポリマーソーム懸濁液それぞれにおける鉄含量(未変成のヘム基の数)の定量化によってUV−Vis測定のタンパク質濃度が確証された。
図7Bに示すように、ポリマーソーム中のMbの最終負荷率は、タンパク質分解の前後でそれぞれ、7.9および5.1w/w%のMb/ポリマーであると判明した。
図7Cに示すように、metMbの百分率(これらの懸濁液中の総Mb含量に対する)をUV−Vis吸光度分光法により決定し、非タンパク質分解(PEM−SE)試料およびタンパク質分解(PEM−E)試料において、それぞれ、およそ8%および6%であると判明した。
図7Dは、
図7Bおよび
図7Cに関連して論議したように、OB18ベースのPEM懸濁液に関して測定された特性(すなわち、結果)の表である。
【0095】
ポリマーソームカプセル化タンパク質懸濁液の安定性
【0096】
最適化された逐次飽和技法を使用してOB18カプセル化Mb懸濁液を調製した。試料を4、23および37℃で3週間保存した。所定の時点で、試料をPBSで希釈し、平均粒子サイズおよび分布をDLSによって決定した。
【0097】
ポリマーソームカプセル化Mb懸濁液中の酸素の平衡結合
【0098】
遊離のおよびポリマーソームカプセル化Mbの懸濁液中の酸素に対する平衡結合曲線および解離曲線を、Hemox(商標)−Analyzerを使用して37℃で得た。試料を147mmHgのpO
2に飽和させ(圧縮空気を使用して)、次いで脱酸素化した(圧縮窒素流を使用して)。酸素化されたおよび脱酸素化された遊離Mb懸濁液ならびに酸素化されたおよび脱酸素化されたポリマーソームカプセル化Mb懸濁液の吸光度を、二重波長分光法によるpO
2の関数として記録した。酸素平衡曲線は、4パラメーター(A
0、A
∞、P
50、n)ヒルモデル(式5)に適合させた。このモデルでは、A
0およびA
∞は、それぞれ0mmHgおよび147mmHgにおける吸光度を表す。pO
2は酸素の分圧を表す。P
50は、試料が酸素で50%飽和しているO
2の分圧を表す。最後に、nは試料の協同性係数を表す。
【数5】
【0099】
図7Eには、遊離ミオグロビン(Mb)試料、逐次飽和技法を使用して調製された、タンパク質分解前のポリマーソームカプセル化ミオグロビン試料(PEM−SE)、および逐次飽和技法を使用して調製された、プロナーゼ処理後のポリマーソームカプセル化ミオグロビン試料(PEM−E)について得られた、P
50値(mmHg単位)が示されている。
【0100】
最終PEM懸濁液の特徴付け
【0101】
最終的なOB18ベースおよびOB29ベースのPEM懸濁液のサイズ分布を、DLSおよびcryo−TEMの両方によって測定した。
図8Aには、DLSによって評価された、逐次飽和を使用して調製されたOB18ベースのおよびOB29ベースのPEM懸濁液中の粒子の平均流体力学的直径が提供されている。OB18ベースのおよびOB29ベースのPEM懸濁液中のベシクルのcryo−TEM画像を、それぞれ
図8Bおよび
図8Cに示す。これらの結果により、OB18ポリマーソームについては約200nmの、OB29ポリマーソームについては130nmの平均粒径が確認された。OB18ベースのPEM懸濁液の安定性は、3週間にわたり、種々の温度でさらに調べ、ポリマーソームによって、懸濁液中の一定した粒子数および安定なサイズ分布に基づいて凝集はないことが実証された。
図8Dには、種々の温度(すなわち、4℃、23℃および37℃)で逐次飽和により調製されたOB18ベースのPEM懸濁液中の、DLSにより決定された、粒子の平均流体力学的直径が、時間の関数として示されている。最後に、PEM懸濁液中のカプセル化Mbの機能的状況(すなわち、酸素を結合および放出するMbの能力の保持)を、二重波長分光法によって確認した。
図8Eには、遊離のoxyMb懸濁液および酸素化されたOB18ベースのPEM懸濁液の酸素平衡曲線が示されている。エラーバーは、1条件当たりn≧3回の実験の繰り返しで、平均の標準偏差を示している。酸素平衡曲線、PEMのP
50(すなわち、Mbが酸素で50%飽和しているO
2の分圧)は、溶液中の遊離Mbの酸素平衡曲線と非常に類似していた。
【0102】
ブロックコポリマーおよび種々の分子量のタンパク質を使用するポリマーソームカプセル化
【0103】
逐次飽和技法の一般化可能性は、種々のサイズのタンパク質、すなわち、Mb(17kDa)、ヘモグロビン(Hb;64kDa)、ウシ血清アルブミン(BSA;66kDa)、免疫グロブリンG(IgG:150kDa)、カタラーゼ(250kDa)、フィブリノーゲン(340kDa)、およびアポフェリチン(450kDa)を使用して試験した。各タンパク質を、150、150、40、20、50、50および25mg/mLの最終懸濁液濃度にそれぞれ相当するその最大溶解度で、PBS(10mM、pH7.4)に溶解させた。逐次飽和プロトコールの後、OB29ポリマーソームにこれらのタンパク質をカプセル化した。遊離タンパク質を4℃で少なくとも30時間透析することにより分離した(分子量カットオフ1000kDa)。0.4wt%プロナーゼ溶液での処理を介するタンパク質分解によって表面会合タンパク質を除去した後、4℃で一晩透析した(分子量カットオフ1000kDa)。ポリマーソーム懸濁液中のタンパク質カプセル化(タンパク質分解前後)を、UV−Vis分光光度法を利用し、製造者のプロトコール(Pierce Biotechnology,Inc;Rockford、IL、米国)に従い、micro−BCAアッセイを介して定量化した。タンパク質の最終濃度は、ポリマーの最終濃度で除し、懸濁液中のポリマーソームを構成するタンパク質対ポリマーの最終重量比(例えば、w/w%のMb/ポリマー)として表した。
【0104】
統計学的解析
【0105】
平均±平均の標準偏差(SD)としてデータが提示されている。各条件に対して、最低でも3回の実験の繰り返しを使用した。GraphPadソフトウェア(San Diego、米国)を使用して一元配置分散分析(ANOVA)を行った。<0.05のp値は統計的に有意であるとした。
【国際調査報告】