特表2018-522050(P2018-522050A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2018-522050(P2018-522050A)
(43)【公表日】2018年8月9日
(54)【発明の名称】経鼻組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/00 20060101AFI20180713BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20180713BHJP
   A61P 11/02 20060101ALI20180713BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20180713BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20180713BHJP
   A61K 36/80 20060101ALI20180713BHJP
   A61K 36/71 20060101ALI20180713BHJP
   A61K 36/185 20060101ALI20180713BHJP
   A61K 36/28 20060101ALI20180713BHJP
   A61K 36/481 20060101ALI20180713BHJP
   A61K 36/53 20060101ALI20180713BHJP
   A61K 36/534 20060101ALI20180713BHJP
   A61K 36/61 20060101ALI20180713BHJP
   A61K 36/752 20060101ALI20180713BHJP
   A61K 36/8962 20060101ALI20180713BHJP
   A61K 36/9066 20060101ALI20180713BHJP
   A61K 31/01 20060101ALI20180713BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20180713BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20180713BHJP
   A61K 31/723 20060101ALI20180713BHJP
   A61K 31/23 20060101ALI20180713BHJP
   A61K 35/02 20150101ALI20180713BHJP
【FI】
   A61K36/00
   A61P37/08
   A61P11/02
   A61P43/00 105
   A61K45/00
   A61K36/80
   A61K36/71
   A61K36/185
   A61K36/28
   A61K36/481
   A61K36/53
   A61K36/534
   A61K36/61
   A61K36/752
   A61K36/8962
   A61K36/9066
   A61K31/01
   A61K9/12
   A61K9/107
   A61K31/723
   A61K31/23
   A61K35/02
   A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2018-505731(P2018-505731)
(86)(22)【出願日】2016年8月3日
(85)【翻訳文提出日】2018年2月2日
(86)【国際出願番号】MY2016000046
(87)【国際公開番号】WO2017023162
(87)【国際公開日】20170209
(31)【優先権主張番号】PI2015702548
(32)【優先日】2015年8月4日
(33)【優先権主張国】MY
(31)【優先権主張番号】PI2016702385
(32)【優先日】2016年6月28日
(33)【優先権主張国】MY
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】516080507
【氏名又は名称】インキューファーム グループ エスディーエヌ ビーエイチディー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】トー ジャニス ペイ イン
(72)【発明者】
【氏名】チェン チンウェン
(72)【発明者】
【氏名】タン ビー クウァン
(72)【発明者】
【氏名】シェルマン ヴォルカー
(72)【発明者】
【氏名】チュウ オードリー リ チン
(72)【発明者】
【氏名】ミラー アブレヒト イェルク マティアス
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4C087
4C088
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA24
4C076BB25
4C076CC03
4C076CC10
4C076DD26
4C076DD38
4C076DD39
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4C206ZA34
4C206ZB13
4C206ZB21
4C206ZC75
(57)【要約】
本発明は、植物に由来する抗アレルギー油及び油性障壁形成調製物を含む経鼻組成物に関する。本組成物は、季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)及び通年性アレルギー性鼻炎を含む鼻腔のアレルギー性障害を予防及び/又は治療するために使用することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物由来の抗アレルギー油、及び
油性障壁形成調製物、
を含むことを特徴とする経鼻組成物。
【請求項2】
前記抗アレルギー油が、ペリラ種、ニゲラ種、ウルチカ種、アストラガルス種、ペタシテス種、シトラス種、ウンカリア種、ラバンデュラ種、メンタ種、ユーカリプタス種、マトリカリア種、ロスマリヌス種、クルクマ種、アリウム種、又はそれらの任意の2つ以上の組み合わせの植物に由来する、請求項1に記載の経鼻組成物。
【請求項3】
前記抗アレルギー油が、前記植物の種子、根、葉、又は全植物部分から得られる、請求項2に記載の経鼻組成物。
【請求項4】
前記油性障壁形成調製物が、油状成分、1つ又は複数のゲル形成剤、及び水性基剤を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の経鼻組成物。
【請求項5】
前記油状成分が、炭化水素、植物油、ベジタブルオイル、又はそれらの水和、ポリオキシエチル化、若しくはポリオキシ−、若しくは水和ポリオキシ、若しくは分画誘導体、又はそれらの任意の2つ以上の組み合わせである、請求項4に記載の経鼻組成物。
【請求項6】
前記油状成分が、ごま油であり、及び/又は前記抗アレルギー油が、ペリラ種及び/又はニゲラ種の植物に由来する、請求項4に記載の経鼻組成物。
【請求項7】
前記抗アレルギー油及び前記油状成分が、約1:10〜10:1の質量比範囲で存在する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の経鼻組成物。
【請求項8】
前記1つ又は複数のゲル形成剤が、チキソトロピーゲル用であり、有機懸濁媒体及び無機懸濁媒体又はそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項4に記載の経鼻組成物。
【請求項9】
前記1つ又は複数のゲル形成剤が、チキソトロピーゲル用であり、キサンタンガム、ベントナイト、グリセロールモノステアレート、又はそれらの任意の2つ以上の組み合わせを含む、請求項4に記載の経鼻組成物。
【請求項10】
前記水性基剤が、水、又は安定化添加剤を有する水である、請求項4に記載の経鼻組成物。
【請求項11】
前記油性障壁形成調製物が、水中油型エマルション又はマイクロエマルジョンである、請求項1〜10のいずれか1項に記載の経鼻組成物。
【請求項12】
経鼻スプレーの形態である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の経鼻組成物。
【請求項13】
実質的に環状又は円形の噴霧パターンを提供する、請求項12に記載の経鼻組成物。
【請求項14】
鼻腔に形成される前記噴霧パターンの網羅範囲の面積が、約70%〜95%の範囲である、請求項13に記載の経鼻組成物。
【請求項15】
前記実質的に環状の噴霧パターンが、約0.5cm〜12.0cmの環状リング幅範囲を有し、噴霧起始部から衝突表面までの距離が約0.1cm〜10.0cmである、請求項13に記載の経鼻組成物。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物並びに薬学的に許容される担体、賦形剤、希釈剤、及び/又は添加剤を含む医薬組成物。
【請求項17】
前記薬学的に許容される担体、賦形剤、及び/又は希釈剤が、結合剤、界面活性剤、保存剤、着色剤、香味物質、pH調節剤、浸透活性の調節剤、及び塩生成基からなる群から選択される、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
肥満細胞活性化を阻害するための治療方法に使用するための、請求項1〜15のいずれか1項に記載の経鼻組成物又は請求項16若しくは17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記肥満細胞からのヒスタミン放出が阻害される、請求項18に記載の使用のための経鼻組成物又は医薬組成物。
【請求項20】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の経鼻組成物又は請求項16若しくは17に記載の医薬組成物の投与後に、対象の組織中のヒスタミン濃度が低減される、請求項18又は19に記載の使用のための経鼻組成物又は医薬組成物。
【請求項21】
対象の組織中のヒスタミン濃度が、請求項1〜15のいずれか1項に記載の経鼻組成物又は請求項16若しくは17に記載の医薬組成物の投与後に、少なくとも約20%、例えば少なくとも約40%、例えば少なくとも約50%低減される、請求項20に記載の使用のための経鼻組成物又は医薬組成物。
【請求項22】
鼻腔のアレルギー性障害、例えば、季節性アレルギー性鼻炎又は通年性アレルギー性鼻炎等の対象において、肥満細胞活性化が阻害されるか、又は肥満細胞からのヒスタミン放出が阻害される、請求項18〜21のいずれか1項に記載の使用のための経鼻組成物又は医薬組成物。
【請求項23】
季節性アレルギー性鼻炎及び通年性アレルギー性鼻炎を含む鼻腔のアレルギー性障害の予防及び/又は治療に使用するための、請求項1〜15のいずれか1項に記載の経鼻組成物又は請求項16若しくは17に記載の医薬組成物。
【請求項24】
肥満細胞活性化を阻害するための治療方法であって、有効量の請求項1〜15のいずれか1項に記載の経鼻組成物又は請求項16若しくは17に記載の医薬組成物を前記肥満細胞に投与することを含む方法。
【請求項25】
前記肥満細胞からのヒスタミン放出が阻害される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
対象の組織中のヒスタミン濃度が、請求項1〜15のいずれか1項に記載の経鼻組成物又は請求項16若しくは17に記載の医薬組成物の投与後に低減される、請求項24又は25に記載の方法。
【請求項27】
対象の組織中のヒスタミン濃度が、請求項1〜15のいずれか1項に記載の経鼻組成物又は請求項16若しくは17に記載の医薬組成物の投与後に、少なくとも約20%、例えば少なくとも約40%、例えば少なくとも約50%低減される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記対象が、鼻腔のアレルギー性障害、例えば、季節性アレルギー性鼻炎又は通年性アレルギー性鼻炎を有する、請求項24〜26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
季節性アレルギー性鼻炎及び通年性アレルギー性鼻炎を含む、対象における鼻腔のアレルギー性障害を予防及び/又は治療するための方法であって、有効量の請求項1〜15のいずれか1項に記載の経鼻組成物又は請求項16若しくは17に記載の医薬組成物を、前記対象に投与することを含む方法。
【請求項30】
肥満細胞活性化を阻害するための薬剤、医薬組成物、又は経鼻組成物の製造における、植物に由来する抗アレルギー油及び油性障壁形成調製物の使用。
【請求項31】
前記肥満細胞からのヒスタミン放出を阻害するための、請求項29に記載の使用。
【請求項32】
対象の組織中のヒスタミン濃度が、前記薬剤、医薬組成物、又は経鼻組成物の投与後に低減される、請求項29又は30に記載の使用。
【請求項33】
季節性アレルギー性鼻炎及び通年性アレルギー性鼻炎を含む鼻腔のアレルギー性障害を予防及び/又は治療するための薬剤、医薬組成物、又は経鼻組成物の製造における、植物に由来する抗アレルギー油及び油性障壁形成調製物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経鼻組成物に関する。特に、本発明は、肥満細胞の活性化を阻害するために使用することができる経鼻組成物に関する。より詳しくは、本発明は、季節性アレルギー性鼻炎及び通年性アレルギー性鼻炎等の鼻腔のアレルギー性障害の予防及び/又は治療に使用するための有効性を有する抗アレルギー性経鼻組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
鼻粘膜の障害であるアレルギー性鼻炎を引き起こす原因は、原理的には既知である。主に、免疫反応が生じ、患者は、特定のメディエーターによる局所的及び全身的な影響を被る。主として、特に外側細胞膜の非特異的及び特異的受容体(例えば、免疫グロブリンEに対する)が特徴的である組織肥満細胞が攻撃される。これら受容体がアレルゲンと結合することにより、ロイコトリエン及びプロスタグランジン等のヒスタミン及び他の炎症性メディエーターの放出がもたらされる。これらメディエーターの効果の結果として、血管の筋系が緩み、血管及び膜の透過性が増加し、気管支筋系の収縮が生じる。アレルギー性鼻炎の症状は、こうした反応の後に生じる:局所的発赤、並びに鼻粘膜及び結膜の膨潤、並びに組織内への流体流入増加及びその結果生じる鼻及び目での分泌増加。また、心血管系の低張状態等の全身的影響が生じる場合がある。
【0003】
この影響のカスケードは、主として、花粉、ハウスダスト、獣毛、食料品成分、医薬品、若しくはダニ等の外因性作用剤が引き金となって、又は花粉若しくは他の異物に対する反応として生物中でそれら自身が形成した抗体が引き金となって起きる。これは、非常に頻繁に遭遇する障害である。2,400人の生徒に対して1992年/1993年に実施された調査では、13.5%が前年に花粉症を被っていたことが示された。花粉アレルギーは、アトピー障害の中心(leader)である。
【0004】
アレルギー性鼻炎の治療は、3つの主要原理に基づいている:アレルゲン制限、薬物治療(症状のみ)、及び特異的免疫治療(減感作)。
【0005】
アレルゲン制限は、因果的効果であり、肥満細胞との接触を回避するために、患者のアレルゲンへの曝露を回避又は低減することが意図されている。これは、窓及びドア等を閉めておくこと、空調設備に花粉フィルターを取り付けること、野外でスポーツをしないこと、他の気候帯で休暇をとること等、日常生活行動における対策を含む。しかしながら、これには、患者及びその周辺の側に高いレベルの遵守が必要とされる。この方法は、特に、予防に効果的である。
【0006】
薬物治療は、相当に複雑及び高価であり、原則として、アレルゲン曝露を低減する試みもなされなければならない。過敏症反応の可能性もある。因果的に効果的な減感作は、特に高レベルの診断努力を必要とし、複雑であり、患者に負担がかかり(長期間にわたる定期的な注射のため)、いかなる長期間な効果又は信頼性よく再現可能な効果も示さない。
【0007】
更なる形態の治療を可能にし、副作用が少なく、単純な様式で(特に予防的に)効果的であり、アレルゲン制限を可能にする調製物が提供されており、欧州特許第1343472号明細書に記載されている。この特許文献には、ヒト又は動物身体の治療(therapeutic treatment)に使用するための、特に鼻部障害、特にアレルギー性鼻炎の治療的治療に使用するための、チキソトロピー調製物、特に活性物質を含まないチキソトロピー経鼻スプレー(nasal spray)が開示されている。チキソトロピー調製物は、アレルゲンがその中に進入することを防止する物理的障壁を鼻腔に形成することが可能であり、この組成物は、対象のアレルゲンへの曝露低減に効果的であり、肥満細胞との接触を回避するのに効果的である。しかしながら、このチキソトロピー調製物は、ひどい鼻炎症状が存在する場合、それほど効果的ではない可能性がある。
【0008】
したがって、例えば、花粉症を含むアレルギー性鼻炎等の鼻腔のアレルギー性疾患のための、予防的及び/又は治療的効果が増強された更なる抗アレルギー組成物が必要とされて続けている。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、天然抗アレルギー物質を含む、活性成分の特定の組み合わせを有する経鼻組成物を提供することを目的とする。ある実施形態では、本発明の経鼻組成物は、製品の性能向上、特にその障壁機能並びに噴霧性及び噴霧パターンの向上を提供し、したがって、季節性アレルギー性鼻炎及び通年性アレルギー性鼻炎を含む鼻腔のアレルギー性障害の予防及び治療の効力増強をもたらすことを目的とする。
【0010】
ある実施形態では、本発明の経鼻組成物は、相乗的に作用する活性成分の特定の組み合わせを有する組成物を提供し、抗アレルギー効果の増強を提供することを目的とする。ある実施形態では、本発明の経鼻組成物は、肥満細胞活性化及び/又は肥満細胞脱顆粒及び/又は肥満細胞からのヒスタミンの放出を阻害することを目的とする。
【0011】
第1の態様によると、植物に由来する抗アレルギー油及び油性障壁形成調製物を含む経鼻組成物が提供される。
【0012】
経鼻組成物に使用される抗アレルギー油は、以下の植物に由来していてもよい:ペリラ種(Perilla spp.)、ニゲラ種(Nigella spp)、ウルチカ種(Urtica spp.)、アストラガルス種(Astragalus spp.)、ペタシテス(Petasites spp.)、シトラス種(Citrus spp.)、ウンカリア種(Uncaria spp.)、ラバンデュラ種(Lavandula spp.)、メンタ種(Mentha spp.)、ユーカリプタス種(Eucalyptus spp.)、マトリカリア種(Matricaria spp.)、ロスマリヌス種(Rosmarinus spp.)、クルクマ種(Curcuma spp.)、アリウム種(Allium spp.)、又はそれらの任意の2つ以上の組み合わせ。
【0013】
上記に示されている抗アレルギー油は、植物の種子、根、葉、又は植物部分全体から得ることができる。
【0014】
本組成物の油性障壁形成調製は、3つの成分を含有していてもよく、3つの成分は、油状成分、1つ又は複数のゲル形成剤、例えばチキソトロピーゲルのゲル形成剤、及び水性基剤である。第1の成分は、油状成分であり、炭化水素、植物油、ベジタブルオイル、又はそれらの水和、ポリオキシエチル化、若しくはポリオキシ−、若しくは水和ポリオキシ、若しくは分画(fractionated)誘導体、又はそれらの任意の2つ以上の組み合わせであってもよい。好ましくは、油状成分は、ごま油である。
【0015】
抗アレルギー油及び油状成分は、1〜10:10〜1の質量比範囲で存在していてもよい。
【0016】
ある実施形態では、抗アレルギー油及び油状成分は、好ましくは異なる種であり、つまり経鼻組成物は、抗アレルギー油及び油状成分の両方として同じ油を含有しない。
【0017】
本組成物の油性障壁形成調製物の第2の成分は、1つ又は複数のゲル形成剤、例えば、チキソトロピーゲルの1つ又は複数のゲル形成剤であり、有機懸濁媒体、無機懸濁媒体、又はそれらの組み合わせからなる群から選択することができる。好ましくは、チキソトロピーゲルの1つ又は複数のゲル形成剤は、キサンタンガム、ベントナイト、グリセロールモノステアレート、又はそれらの任意の2つ以上の組み合わせを含有していてもよい。
【0018】
第3の成分は、水性基剤であり、水、又は安定化添加剤を有する水であってもよい。
【0019】
ある実施形態では、経鼻組成物の油性障壁形成調製物は、水中油型エマルション又はマイクロエマルジョンである。
【0020】
経鼻組成物は、経鼻スプレーの形態に調製することができる。好ましくは、経鼻組成物は、本明細書に記載の噴霧性試験法に従って決定することができるような、実質的に環状又は円状の(circular)噴霧パターンを提供することができる。好ましくは、鼻腔に形成される噴霧パターンの網羅面積は、約70%〜95%の範囲である。
【0021】
より好ましくは、実質的に環状の(annular)噴霧パターンは、噴霧起始部から衝突表面までの距離が0.1cm〜10.0cmの場合、0.5cm〜12.0cmの環状リング幅範囲を有する。ある実施形態では、実質的に環状の噴霧パターンは、噴霧起始部から衝突表面までの距離が7.0cmの場合、0.5cm〜12.0cmの環状リング幅範囲を有する。そのような実施形態では、1噴霧当たりの単位用量は、約120μlから約160μlまでであってもよい。
【0022】
第2の態様によると、第1の態様による組成物、並びに薬学的に許容される担体、賦形剤、希釈剤、及び/又は添加剤を含む医薬組成物が提供される。医薬組成物に使用するための薬学的に許容される担体、賦形剤、及び/又は希釈剤は、結合剤、界面活性剤、保存剤、着色剤、香味物質、pH調節剤、浸透活性(osmotic activity)の調節剤、及び塩形成基からなる群から選択することができる。
【0023】
第3の態様によると、肥満細胞活性化を阻害するための治療(therapeutic)方法に使用するための、第1の態様による経鼻組成物又は第2の態様による医薬組成物が提供される。更なる態様によると、肥満細胞を、第1の態様による経鼻組成物又は第2の態様による医薬組成物と接触させることを含む、肥満細胞活性化を阻害するための治療方法が提供される。
【0024】
第4の態様によると、肥満細胞脱顆粒を阻害するための治療方法に使用するための、第1の態様による経鼻組成物又は第2の態様による医薬組成物が提供される。更なる態様によると、肥満細胞を、第1の態様による経鼻組成物又は第2の態様による医薬組成物と接触させることを含む、肥満細胞脱顆粒を阻害するための治療方法が提供される。
【0025】
第5の態様によると、肥満細胞からのヒスタミン放出を阻害するための治療方法に使用するための、第1の態様による経鼻組成物又は第2の態様による医薬組成物が提供される。更なる態様によると、肥満細胞を、第1の態様による経鼻組成物又は第2の態様による医薬組成物と接触させることを含む、肥満細胞からのヒスタミン放出を阻害するための治療方法が提供される。
【0026】
第6の態様によると、季節性アレルギー性鼻炎及び通年性アレルギー性鼻炎を含む鼻腔のアレルギー性疾患の予防及び/又は治療に使用するための、第1の態様による経鼻組成物又は第2の態様による医薬組成物が提供される。
【0027】
第7の態様によると、第1の態様による経鼻組成物又は第2の態様による医薬組成物を肥満細胞に投与することを含む、肥満細胞活性化を阻害するための治療方法が提供される。
【0028】
第8の態様によると、第1の態様による経鼻組成物又は第2の態様による医薬組成物を肥満細胞に投与することを含む、肥満細胞脱顆粒を阻害するための治療方法が提供される。
【0029】
第9の態様によると、第1の態様による経鼻組成物又は第2の態様による医薬組成物を肥満細胞に投与することを含む、肥満細胞からのヒスタミン放出を阻害するための治療方法が提供される。
【0030】
本発明の任意の態様のある実施形態では、対象の組織中のヒスタミン濃度は、第1の態様による経鼻組成物又は第2の態様による医薬組成物の投与後に、少なくとも約20%低減される。ある実施形態では、対象の組織中のヒスタミン濃度は、第1の態様による経鼻組成物又は第2の態様による医薬組成物の投与後に、少なくとも約40%低減される。ある実施形態では、対象の組織中のヒスタミン濃度は、第1の態様による経鼻組成物又は第2の態様による医薬組成物の投与後に、少なくとも約50%低減される。
【0031】
第10の態様によると、有効量の第1の態様による経鼻組成物又は第2の態様による医薬組成物を対象に投与することを含む、季節性アレルギー性鼻炎及び通年性アレルギー性鼻炎を含む、対象の鼻腔のアレルギー性障害を予防及び/又は治療するための方法が提供される。
【0032】
第11の態様によると、季節性アレルギー性鼻炎及び通年性アレルギー性鼻炎を含む鼻腔のアレルギー性障害を予防及び/又治療するための薬剤、医薬組成物、又は経鼻組成物の製造における、植物に由来する抗アレルギー油及び油性障壁形成調製物の使用が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】抗アレルギー油及び油状成分の比が異なる、本発明の好ましい実施形態の1つに記載されている経鼻組成物により形成される噴霧パターンの1組の写真である。(a)ごま油のみ、抗アレルギー油無し;(b)1:3の質量比のペリラ油及びごま油;(c)1:1の重量比のペリラ油及びごま油;(d)3:1の重量比のペリラ油及びごま油;及び(e)抗アレルギー油及び油状成分が両方ともペリラ油。
図2】本発明の好ましい実施形態の1つに記載されている経鼻スプレー組成物の噴霧性試験の装置設定の概略図である。
図3】種々の化合物による治療後のヒスタミン放出を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の好ましい実施形態により、及び添付の説明及び図面を参照することにより、本発明を説明するものとする。しかしながら、説明を本発明の好ましい実施形態に限定していることは、本発明の考察を容易にするために過ぎないことが理解されるべきであり、当業者であれば、添付の特許請求の範囲から逸脱せずに種々の改変を考案することができることが想定される。
【0035】
上記及び下記で一般的に使用されている用語は、別様の指示がない限り、好ましくは、下記に示されている意味を有し、本発明の好ましい実施形態では、本発明の特に好ましい実施形態を説明するより特定の意味が、一般的な定義の代わりに互いに独立して使用されていてもよい。
【0036】
用語「少なくとも1つ」又は「1つ又は複数」は、上記及び下記で使用される場合、成分等の列挙されている特徴の、特に1〜10個、好ましくは1〜3つ、及び特に1つ、又は更に2つを意味する。質量パーセント範囲等の範囲が示されている場合、これらは、示されている限界値を含む。したがって、例えば「X〜Y」は、「X以上及びY以下」を意味する。
【0037】
用語「製品」は、特に、調合物という意味での医薬製品、好ましくは医薬製品を意味することが理解されるべきであり、この用語は、登録に好適な医薬製品、又は医療用製品、又は架空の医薬品に限定されない。また、「製品」は、特に、調合物という意味での栄養補給食品、好ましくは医療デバイスのカテゴリーの栄養補給食品、又は天然物に基づく製品等を指す。
【0038】
用語「抗アレルギー性」は、アレルギー反応を予防、阻害、緩和する作用剤又は対策に関すると理解されるべきである。
【0039】
用語「チキソトロピー調製物」は、せん断力(振とう、ノズルによる加圧、又は撹拌等)に曝された際に、点鼻剤として又は特に経鼻スプレーとしての使用に特に好適な、例えば、低せん断力では50〜300Pa.Sの範囲の、及び高せん断力では<150Pa.Sの低粘度(ゾル状態)であるという特徴を意味すると理解されるべきである。安定性試験の例では、静止状態では、粘性範囲は、1〜15Pa.S、例えば8〜10Pa.Sの範囲であってもよい。測定は、回転粘度計により達成され、読み出しは、装置及び方法の違いより影響を受ける場合がある。
【0040】
また、用語「治療的治療」は、対象の症状の予防及び緩和を含むが、美容的治療を含まない。これは、治療的治療に関し、特に、肥満細胞活性化及び/又は肥満細胞脱顆粒に関する鼻腔の障害の予防又は緩和に関する。これは、治療的治療に関し、特に上部鼻道、特に鼻咽腔及び鼻腔の障害(上記及び下記では、「鼻部障害」という)の予防又は緩和に関し、特に季節性アレルギー性鼻炎(花粉症としても知られている)並びにハウスダスト又は獣毛アレルギーにより引き起こされる通年性アレルギー性鼻炎を含む、特にアレルギー性鼻炎等の、そうした部位に見られるアレルギープロセスの治療及び予防に関する。
【0041】
用語「噴霧性」は、本発明の経鼻又は医薬組成物を参照する場合、経鼻又は医薬組成物が、噴霧により投与可能であることを意味する。ある実施形態では、「噴霧性」は、噴霧起始部から衝突表面まで距離が0.1cm〜10cm、例えば7cmの場合、形成される噴霧パターンが、0.5cm〜12cmの環状リング幅範囲を有することを意味する。この場合、衝突表面は、本明細書に記載の噴霧性試験法に従って決定することができるような、噴霧起始部の上方に垂直に保持される平坦な表面である。
【0042】
上記及び下記で参照されている成分は、特に、薬局方、例えば米国薬局方国民医薬品集、欧州薬局方、スイス薬局方、英国薬局方、又はドイツ薬局方、又は法令による補遺に列挙されているもの等の中から選択される。
【0043】
本発明は、植物に由来する抗アレルギー油及び油性障壁形成調製物を含む経鼻組成物に関する。
【0044】
本組成物の油性障壁形成調製物は、「機械的」な障壁を提供することにより、鼻部障害、特にアレルギー性鼻炎に対する肯定的な効果を提供することが可能である。この説明のみに束縛されることは望まないが、アレルギー性鼻炎を引き起こすアレルゲンに対する効果は、障壁形成調製物により提供することができる「機械的」な阻止機能(特に、含有されている油状成分及び/又はゲルの粘度による)に基づくと考えられる。したがって、アレルゲンは、ゲルが粘膜をおおむね均一に覆っているため、もはや鼻粘膜上で直接まん延することができず、したがって肥満細胞と接触しない。その結果、上述のアレルギー反応は、完全に排除されるか又は減退される。阻止機能は、投与直後に生じる。
【0045】
経鼻組成物に使用される抗アレルギー油は、好ましくは、抗アレルギー特性を有する天然物質である。この抗アレルギー油は、以下の植物に由来していてもよい:ペリラ種(例えば、ペリラ、中国バジル、シオガマギク等としても知られているペリラ・フルテセンス(Perilla frutescens))、ニゲラ種(例えば、ブラッククミン、ブラックキャラウェー、又はフェンネル種子としても知られているニゲラ・サチバ(Nigella sativa))、ウルチカ種(例えば、イラクサ)、アストラガルス種(例えば、レンゲソウ)、ペタシテス種(例えば、フキ)、シトラス種(例えば、レモン)、ウンカリア種(例えば、キャッツクロー)、ラバンデュラ種(例えば、ラベンダー)、メンタ種(例えば、ペパーミント)、ユーカリプタス種(例えば、タスマニアユーカリ、南方ユーカリ、又はユーカリとしても知られているユーカリプタス・グロブルス)、マトリカリア種(例えば、ドイツカモミール)、ロスマリヌス種(例えば、ローズマリー)、クルクマ種(例えば、ウコン)、アリウム種(例えば、ニンニク)、又はそれらの任意の2以上の組み合わせ。
【0046】
上記の記載に示されている抗アレルギー油は、上記の記載に列挙されている植物の種子、根、葉、又は植物部分全体から得ることができる。例えば、抗アレルギー油は、ペリラ種の植物の種子に由来するペリラ油、及び/又はニゲラ種の植物の種子に由来するニゲラ油である。
【0047】
油性障壁形成調製物に添加された又は組み合わされた抗アレルギー油は、ゲル障壁の安定性を妨害し得る症状を制御することにより、障壁成形の性能を向上させることが可能である。更に、植物由来油を油性障壁形成調製物に介在させると、油性障壁形成調製物の物理的及び化学的特性の変化により、製品特徴、特にその噴霧性を増強することも可能である。
【0048】
本組成物の油性障壁形成調製物は、3つの成分を含有していてもよい。3つの成分は、油状成分、1つ又は複数のゲル形成剤、例えばチキソトロピーゲルの1つ又は複数のゲル形成剤、及び水性基剤である。
【0049】
第1の成分は、油状成分であり、炭化水素、植物油、ベジタブルオイル、又はそれらの水和、ポリオキシエチル化、若しくはポリオキシ−、若しくは水和ポリオキシ、若しくは分画誘導体、又はそれらの任意の2つ以上の組み合わせであってもよい。
【0050】
本発明の油状成分としての使用に好適である炭化水素の例としては、鉱油、特にパラフィン、パラフィン油(特に、白色パラフィン油、低粘度の又はより幅広い実施形態では高粘度のパラフィン油)、パーセリン油、ペルヒドロスクアレン、固形パラフィン、又はワセリンが挙げられ、低粘度パラフィン油が非常に好ましい。他方では、スペアミント油、アーモンド油、落花生油、小麦胚芽油、菜種油、亜麻仁油、アプリコット油、くるみ油、パーム油、ピスタチオ油、ごま油、ケシ種子油、マツ油、ヒマシ油、大豆油、アボカド油、ココア油、ヘーゼルナッツ油、オリーブ油、ブドウ種子油、米油、トウモロコシ胚芽油、杏仁油、コーヒー油、ホホバ油、ひまわり油、アザミ油、又はカカオ脂等のベジタブルオイル、又はそれらの水和、ポリオキシエチル化、ポリオキシ−、若しくは水和ポリオキシ誘導体、若しくは分画誘導体も使用することができる。
【0051】
好ましくは、油状成分は、これら油又はそれらの誘導体の2つ以上の混合物である。好ましくは、油状成分は、ごま油である。
【0052】
本発明のある実施形態によると、油状成分は、上述の記載に示されている植物油であってもよい。この植物油は、以下の植物に由来する油から選択することができる:ペリラ種(例えば、ペリラ、中国バジル、シオガマギク等としても知られているペリラ・フルテセンス、ニゲラ種(例えば、ブラッククミン、ブラックキャラウェー、又はフェンネル種子としても知られているニゲラ・サチバ)、ウルチカ種(例えば、イラクサ)、アストラガルス種(例えば、レンゲソウ)、ペタシテス種(例えば、フキ)、シトラス種(例えば、レモン)、ウンカリア種(例えば、キャッツクロー)、ラバンデュラ種(例えば、ラベンダー)、メンタ種(例えば、ペパーミント)、ユーカリプタス種(例えば、タスマニアユーカリ、南方ユーカリ、又はユーカリとしても知られているユーカリプタス・グロブルス)、マトリカリア種(例えば、ドイツカモミール)、ロスマリヌス種(例えば、ローズマリー)、クルクマ種(例えば、ウコン)、アリウム種(例えば、ニンニク)、又はそれらの任意の2以上の組み合わせ。
【0053】
ある実施形態では、油状成分は、ペリラ種及び/又はニゲラ種の植物に由来する植物油を含むか又は植物油である。
【0054】
植物に由来する抗アレルギー油は、抗アレルギー効果を提供することができることの他に、高含有量の油状成分を含有しているため調製物での使用に好適であり、障壁の一体的成分として機能することができる。更に、これら植物油は、物理的なゲル障壁を形成するために、上述の記載に示されているような油状成分と理論的には交換可能である。
【0055】
本発明の実施形態により使用することもできる油状成分の更なる例は、動物油、飽和若しくは不飽和エステル、高級アルコール、及び/又はシリコーン油、又はそれら成分の2つ以上の混合物である。また、粘膜上での滞留を補強するために、上記で規定されているもの等の1つ又は複数の油と共にロウを使用して、油状成分の一部を形成してもよい。好適なワックスの例としては、カルナバロウ(camauba wax)、セラアルバ(Cera alba)、セラフラバ(Cera flava)、中国ミツロウ(Cera chinesis)、日本ミツロウ(Cera japonica)、カンデリラロウ(Candelilla wax)、微結晶性ロウ、羊毛脂、及びオコゼリテ(okozerite)が挙げられる。
【0056】
上記の記載に示されている各タイプの油は、個々に、油状成分としての完成調合物のチキソトロピー特性に寄与することができる。しかしながら、各油は、芳香、外観、20℃での比重、鹸化価、屈折率、及び脂肪酸組成の点で、その固有の仕様を有する。天然種子油(ペリラ及びニゲラ種子油)は、至適比で使用されると、化学的及び物理的特性(特に、脂肪酸組成)の違いにより、最終的に製品の性能及び有効性に影響を及ぼすことになる粘度、密度、塊の均一性等の完成調合物の仕様を変更することができるため、チキソトロピー調合物の調節剤であると考えられる。例えば、粘度は、製品が塗布された際に不透過性防護障壁を形成するスピード又は速度に影響を及ぼすことになり、塊の密度及び均一性は、鼻腔内への塗布中の製品の分布及び噴霧パターンに影響を及ぼすことになる。
【0057】
油状成分は、好ましくは、完成調製物(つまり、経鼻又は医薬組成物)中の質量パーセントが、約10%から約80%まで、特に約40%から約70%まで、又は約10%から約60%まで、又は約10%から約50%まで、又は約10%から約40%まで、又は約10%から約30%まで、又は約10%から約25%までである。
【0058】
抗アレルギー油は、好ましくは、完成調製物(つまり、経鼻又は医薬組成物)中の質量パーセントが、約10%から約80%まで、特に約40%から約70%まで、又は約10%から約60%まで、又は約10%から約50%まで、又は約10%から約40%まで、又は約10%から約30%まで、又は約10%から約25%までである。
【0059】
本発明の好ましい実施形態によると、抗アレルギー油及び油状成分は、1:10〜10:1の質量比範囲で、例えば、約1:9から約9:1まで、約1:8から約8:1、又は約1:7から約7:1まで、又は約1:6から約6:1まで、又は約1:5から約5:1まで、又は約1:4から4:1まで、又は約1:3から約3:1まで、又は約1:2から約2:1まで、又は約1:1の質量比範囲で存在してもよい。
【0060】
本発明のある実施形態では、経鼻組成物は、抗アレルギー油としてペリラ油及び油性障壁形成調製物の油状成分としてごま油を含んでいてもよい。ペリラ油のごま油に対する質量比は、約1:10〜10:1の範囲、例えば、約1:9から約9:1まで、約1:8から約8:1まで、又は約1:7から約7:1まで、又は約1:6から約6:1まで、又は約1:5から約5:1まで、又は約1:4から4:1まで、又は約1:3から約3:1まで、又は約1:2から約2:1まで、又は約1:1の範囲であってもよい。ある実施形態では、ペリラ油のごま油に対する質量比は、約1:3〜約3:1の範囲である。
【0061】
好ましくは、経鼻組成物中の油(抗アレルギー油及び油状成分)の合計パーセントは、組成物の約10〜80質量%の範囲、又は組成物の約20〜80質量%、又は約30〜70質量%、約30〜60質量%、又は約35〜55質量%、又は約40〜55質量%、又は約40〜50質量%の範囲であってもよい。
【0062】
驚くべきことに、油(抗アレルギー油及び油状成分)の混合物は、噴霧パターンの向上に結び付く。この噴霧パターンの向上は、経鼻塗布時により均一な薄膜形成をもたらし、最終的にはアレルゲンに対するより良好な保護を提供する。
【0063】
本組成物の油性障壁形成調製物の第2の成分は、ゲル、例えばチキソトロピーゲルのゲル形成剤である。ある実施形態では、チキソトロピーゲルは、調製物にチキソトロピー特性を付与することができる懸濁液を生成する効果を提供する。
【0064】
チキソトロピーゲルのゲル形成剤は、有機懸濁媒体、及び無機懸濁媒体、又はそれらの組み合わせからなる群から選択することができる。有機懸濁媒体は、以下のものであってもよい:(i)ポリサッカライド、特にセルロース(特に、Avicel(登録商標)(FMC Corporation社、フィラデルフィア、米国))等の微結晶性セルロース、又はカルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、又はそれらの塩(特に、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩)、単体又は微結晶性セルロース、メチルセルロース、グアーガム、トラガント、若しくはデキストリンエステルとの組み合わせ;(ii)ポリサッカライドに属さないポリマー化合物、特に、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸又はポリメタクリレート(特に交差結合されたもの)等のポリアクリレート、特にHypaneヒドロゲル(Kingston Technology Inc.ニューヨーク州、米国)等の、親水性及び疎水性ブロックを交互に有するポリアクリレートブロックコポリマー; 又は(iii)その他の有機ゲル形成剤、例えば、オキシエチレン化(=ポリオキシエチレン化)ポリオール脂肪酸エステル、特にアルキル−(特にメチル−)モノサッカライド−C6〜C24脂肪酸エステル、又はそれらの混合物(単体又は適切な非オキシエチレン化ポリオール−脂肪酸エステル、特にメチル−モノサッカライド−C6〜C24脂肪酸エステル又はメチルグルコシド−セスキステアレート(=モノ及びジステアレートの混合物)との混合物、又は好ましくは、2〜50の量の又は特に20モルのエチレンオキシドでオキシエチレン化されているか、又は20モルのエチレンオキシドが加えられており、例えば、Amerchol Corp.社の「Giucamate SSE 20(登録商標)」(Du Pont社、エジソン、ニュージャージー州、米国;CAS番号68389−70−8)という商標で入手可能であり、又はそれらとメチルグルコシド−セスキステアレート(例えば、「Giucamate SSE 20(登録商標)」(Amerchol社;CAS番号68389−70−8)という商標で入手可能)との混合物。好ましくは、これは、10:1〜1:10の、特に3:1から1:3までの、例えば1:1の質量割合で混合される。他のものは、リン酸ジエステルの金属塩、及びケイ素を含むリン酸ジエステルの多価金属塩で誘導体化されている有機ポリシロキサンの混合物である。
【0065】
他方では、チキソトロピーゲルのゲル形成剤として使用することができる無機懸濁媒体としては、以下のものが挙げられる:コロイドを形成するカオリン粘土、特に、ベントナイト等の(特に水和された)金属酸化物ケイ酸塩、又は乾燥若しくは好ましくは水和形態の(好ましくは、高度に分散したコロイド状の)二酸化ケイ素、スメクタイト、特に、トリオカヘデリック(triochahedric)配位陽イオンを有し、ケイ酸マグネシウム及びアルカリ陽イオン又はケイ酸アルミニウムに好適なコロイド状マグネシウムから製造される合成スメクタイト等の3層粘土材料;又はLaponite(登録商標)(Laporte社、ロンドン、英国)等の合成ヘクトライト粘土;又はこれら成分の2つ以上の混合物。
【0066】
本発明の好ましい実施形態の1つによると、(iii)に示されている有機ゲル形成剤が、経鼻組成物のチキソトロピーゲルのゲル形成剤として使用されることになる。
【0067】
好ましくは、本発明の経鼻組成物は、チキソトロピーゲル用の主要ゲル形成成分としてキサンタンガム及び/又はベントナイトを、及びチキソトロピーゲルの乳化剤としてグリセロールモノステアレートを含んでいてもよい。
【0068】
ゲル形成剤は、好ましくは、完成調製物に対して、約0.1から15質量%までの、好ましくは(特に有機ゲル形成剤の場合は)約0.2から10質量%までの、例えば、調製物の約0.2〜8質量%の、又は約0.2〜6質量%の、特に約0.25から4質量%までのパーセントで存在している。
【0069】
チキソトロピーゲルの一般的な利点は、例えば、温度感受性ゲルとは対照的に、その使用が容易なことであり、投与前の温度を定める必要が一切ない。調製物を単に振とうすることにより、ゲルを、投与に適切なゾル状態に固化することが可能である。
【0070】
油性障壁形成調製物の第3の成分は、水性基剤(aqueous base)である。この水性基剤は、水、又は安定化添加剤を有する水であってもよい。水性基剤(aqueous basis)としては、水が特に好適であり、水には、他の水溶性成分を添加することができる。添加する水溶性成分は、安定化添加剤、特にエチレングリコール、1,2プロピレングリコール、ソルバイト、ヘキサイト、又はマンニトール等の糖アルコール、又は特にグリセリンであってもよく、これらはゲルの形成を支援し安定化することが可能である。安定化添加剤を含むか又は含まない水を、本発明の実施形態の1つによる調製物の他の成分と混合したそのような基礎水溶液として、又は完成調製物の成分として調製物に添加することができる。
【0071】
水は、好ましくは、完成調製物の約10〜80質量%の、好ましくは約30から70質量%までの、より好ましくは約40〜60質量%のパーセントで存在する。安定化添加剤は、好ましくは、それぞれ完成調製物の約0.1から10質量%まで範囲の量の1つ又は複数のジ−又はポリオール、特にグリセリンの形態で、水溶性成分に含まれていてもよい。水のパーセントは、チキソトロピーゲルの基礎粘性を調節するために特に好適である。また、グリセリン等の安定剤は、調製物の賦形剤として使用することができる。
【0072】
ある実施形態では、経鼻組成物の油性障壁形成調製物は、水中油型エマルション又はマイクロエマルジョンである。
【0073】
調製物は、特に、必要に応じて段階的に、並びに/又は流体の運動及び/若しくは加熱下において、例えば撹拌により、成分を混合することを含む従来公知の方法により製造することができる。好ましくは、滅菌初期成分を用いて開始し、作業は滅菌条件下で行われる。全ての成分を含有している訳ではない不完全な中間段階は滅菌される。必要に応じて、工程の最後で調製物を、好適な通常の方法による更なる滅菌手順にかけてもよい。
【0074】
チキソトロピーの決定は、上述のように達成することができる。したがって、上記の成分で製造した混合物が、本発明の特に有利な実施形態により使用されることになるチキソトロピーゲルの範疇に入るか否かの検証は容易に行うことができる。油性障壁形成調製物中の3つの成分を上から又は下から順に列挙することは、これら成分を順に次々に添加しなければならないと理解されるべきではなく、特に、水及び添加剤は別々に混合されると理解されるべきではない。実際、上記成分は、本発明の実施形態による調製物を製造するための任意の考え得る順序、特に通例の順序及び様式で混合することができる。
【0075】
経鼻組成物は、経鼻スプレーの形態に調製することができる。より具体的には、チキソトロピーゲルは、点鼻液(通常、ピペット付きボトル中の)、又は好ましくは経鼻スプレーとして調合することができる。本発明の好ましい実施形態による経鼻スプレー製品調合物の一例は、実施例1に更に詳述されている。
【0076】
本発明の好ましい実施形態によると、携帯用噴霧デバイスを、経鼻スプレーに使用することができる。携帯用噴霧デバイス(又は経鼻ディスペンサー)は、指の圧力により手動で作動させることができる。好適な噴霧デバイスの例は、保存容器、噴霧ポンプ、及び好ましくは噴霧化の手段を含むものであってもよい。また、噴霧デバイスは、小さな金属球又は棒等の、振とう効果に寄与する緩やかに設けられている撹拌要素を含むことが好ましい。また、噴霧デバイスは、配液ポンプ並びに保存容器と組み合わせた単純なスクイーズボトル又は予圧ポンプを両方とも含むことができる。好適なポンプは、Valois SA社、フランスのVP7/1 OOSポンプ(Perfect Valois VP7)、及びAero Pump GmbH社、ホーフハイム/タウヌス、ドイツの「3K Pumpe」(3K Pump)、又はCOMODシステム、又はAP3ポンプであってもよい。好ましくは、噴霧デバイスの用量単位は、約1〜50mlの量である。経鼻スプレー用の携帯用保存容器の場合、約3〜40ml、特に約5〜35mlの用量単位を有することが好ましい。
【0077】
本発明の好ましい実施形態の1つによると、本発明は、上述の記載で説明されているような携帯用噴霧デバイス内部に含まれている、任意選択でチキソトロピー性の経鼻調製物に関する。
【0078】
経鼻組成物の障壁機能増強の他に、組成物の噴霧性も、実施例2に詳述されているように、標準的噴霧性試験を使用して測定することができる。抗アレルギー油及び油状成分の異なる組み合わせの噴霧パターンは、図1に更に示されている。
【0079】
経鼻組成物が鼻腔内に投与されると、噴霧された液滴は、鼻粘膜と接触して、表面にゲル障壁を形成することになる。形成されるゲル障壁の網羅範囲は、噴霧パターン及び液滴が鼻粘膜表面上で接触する位置に依存する。その結果、経鼻組成物の噴霧パターンは、鼻腔でのゲル障壁の形成及び網羅範囲に影響を及ぼすことにより、製品の有効性に直接的な影響を及ぼすことができる。ヒト鼻腔が円錐形状及びトンネル様の構造であることを考慮すると、経鼻組成物の望ましい噴霧パターンは、比較的大きな環状幅及び噴霧パターンの実質的な中心に小さな空白を有する環形状であると考えられ、この噴霧パターンは、その後、円錐形状及びトンネル様分布の液滴に形状を変えることができ、鼻腔の表面領域の実質的に全体を網羅するゲル障壁を生成して、浮遊アレルゲンに対する実質的に完全な網羅範囲を鼻腔にもたらすが、小さな空白中心を残すことにより、溶液が気道を直接閉塞することを回避し、気道の閉塞によるあらゆる不快感を最低限に抑えることができる。好ましくは、鼻腔に形成される噴霧パターンの網羅面積は、約70%〜95%の範囲である。
【0080】
好ましくは、経鼻組成物は、噴霧起始部から衝突表面までの距離が約0.1cm〜10.0cmの場合、約0.5cm〜12.0cmの環状リング幅範囲を有する実質的に環状の噴霧パターンを提供することができる。ある実施形態では、実質的に環状の噴霧パターンは、噴霧起始部から衝突表面まで距離が10.0cmの場合、0.5cm〜12.0cmの環状リング幅範囲を有する。ある実施形態では、実質的に環状の噴霧パターンは、少なくとも2.5cm、例えば少なくとも3.0cm、又は少なくとも3.5cm、又は少なくとも4.0cmの環状リング幅を有する。ある実施形態では、環状リング幅は、約12.0cm以下、例えば約10.0cm以下、又は約8.0cm以下、又は約6.0cm以下である。
【0081】
理論的には、噴霧パターンの環状リング幅は、噴霧起始部から衝突表面までの距離に比例する、つまり距離が大きいほど、噴霧パターンの直径は大きくなる。実施例2の噴霧性試験に示されているような経鼻組成物の噴霧パターンの例は、およそ7cmの噴霧起始部から衝突表面までの距離で得られたものである。ある実施形態では、噴霧パターンの最大直径は、約2cmから約15cmまで、例えば、約5cmから約10cmまでである。そのような実施形態では、1噴霧当たりの単位用量は、約120μlから約160μlまでであってもよい。
【0082】
上述の記載に示されているように、抗アレルギー油及び油状成分は、約1:10〜10:1の質量比範囲で経鼻スプレー組成物に存在していてもよい。本発明の好ましい実施形態では、抗アレルギー油はペリラ油であり、油状成分は、ごま油である。好ましくは、所望の噴霧パターンは、約1:3〜3:1の質量範囲のこれらの油の特定の組み合わせ比により得ることができる。より好ましくは、ペリラ油及びごま油は、約1:1の質量比で経鼻スプレー組成物に使用される。しかしながら、好ましい環状の噴霧パターンを提供することが可能な他の組み合わせ比の油の他の組み合わせも、本発明に適用することができる。
【0083】
第2の態様によると、第1の態様による組成物、並びに薬学的に許容される担体、賦形剤、希釈剤、及び/又は添加剤を含む医薬組成物が提供される。医薬組成物に使用するための薬学的に許容される担体、賦形剤、及び/又は希釈剤は、結合剤、界面活性剤、保存剤、着色剤、香味物質、pH調節剤、浸透活性の調節剤、及び塩形成基からなる群から選択することができる。
【0084】
本発明の経鼻組成物で使用される結合剤(ゲル形成剤に加えて)は、例えば、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、ペクチン、デンプン、又はカルボキシルメチルセルロースナトリウムであってもよい。また、本発明のある実施形態によると、結合剤は、ゲル形成特性を更に提供することができる。結合剤は、好ましくは、完成調製物の約10質量%までの、約5質量%までの、好ましくは約0.1から3.0質量%までのパーセントで存在していてもよい。
【0085】
界面活性剤は、約2質量%までの、例えば、約0.2から0.8質量%まで量で調製物中に存在していてもよい。界面活性剤は、陰イオン性、陽イオン性、非イオン性、双性イオン性、又は両性の洗浄剤であってもよい。例えば、好適な陰イオン洗浄剤は、スルホン酸塩、例えば、アルキルベンゾールスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、Alta−オレフィンスルホン酸塩、2−アシルオキシ−アルカン−1−スルホン酸塩、又は脂肪酸モノグリセリド硫酸塩、硫酸塩、例えば、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチル硫酸塩、脂肪酸モノグリセリド硫酸塩、又はそれらの塩(例えば、アルカリ金属、アンモニア、又はアンモニウム化合物との)を、組成物に使用することができる。好適な陽イオン洗浄剤の例としては、以下のものが挙げられる:四級アンモニウム化合物、例えば、アルキルアリールエーテルジメチルベンザルコニウムハロゲン化物(alkylaryiether dimethylbenzalkonium halogenide)、アルキルトリメチルアンモニウムクロリド、アルキルジメチルエチルアンモニウムハライド、アルキルピリジニウムハロゲン化物、アルキルジメチルエチルアンモニウムハライド、アルキルピリジニウムハライド、アルキルイミダゾリウムハライド、アルキルジメチルジクロロベンジルアンモニウムハロゲン化物、アシルコラモノホルミルイネテルピリジニウムハロゲン化物(acylcolamonoformylinether pyridinium halogenide)、又はアルキルアリールメチルピリジニウムハロゲン化物。非イオン性洗浄剤の例としては、以下のものが挙げられる:アルキルフェノレン(alkylphenolene)のポリエチレンオキシド縮合物、プロピレンオキシド及びエチレンジアミンに由来する産物とエチレンオキシドの反応に由来するエチレンオキシド縮合産物、エチレンオキシドと脂肪族アルコールの縮合産物、又はアンモニウム、モノエタノールアミノ、ジエタノールアミノ、又は他のアルカノールアミド基を含むアミド洗浄剤。双性イオン洗浄剤の例としては、アンモニウム及びホスホニウム又はスルホニウム基を含む脂肪族四級化合物が挙げられる。好適な両性洗浄剤の例としては、脂肪族二級又は三級アミンが挙げられる。
【0086】
保存剤は、特に、エチレンジアミンテトラ酢酸等の錯体形成剤、アスコルビン酸等の酸化防止剤、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、若しくはブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、又は4−ヒドロキシ−安息香酸(パラベン)のメチル、エチル、プロピル、若しくはブチルエステル、安息香酸、セトリミド、セチルトリメチルアンモニウムクロリド、ソルビン酸、又はチオメルサール等の他の保存剤である。保存剤は、例えば、約5質量%までの、特に約0.5%から3.5質量%までの範囲の質量比パーセントで(完成調製物に対して)存在していてもよい。好ましくは、保存剤は、鼻粘膜の自己浄化機構に対する負の効果を回避するために、含まれていない。好ましくは、本発明で使用される保存剤は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、フェノキシエタノール、フェニルエチルアルコール、カプリリルグリコール、エチルヘキシルグリセリン、パラベン、ソルビン酸カリウム、安息香酸ナトリウム、又はポリヘキサニドであってもよい。加えて、トコフェロールを抗酸化剤として使用することができる。トコフェロールは、生じる場合がある組成物の酸敗臭の防止及び/又は低減に、したがって製品の保管寿命の延長に有用である。
【0087】
着色剤としては、例えば、ベータケラチン、エリスロシン、ゲルブオレンジS、インジゴチン、又はタートラジン等の毒物学的に許容される物質を使用することができる。着色剤を添加することにより、例えば、本発明による調製物が、鼻粘膜全体にわたって分布されるか否かの決定を試験することができる。着色剤は、例えば、約1質量%までの、特に約0.001%から0.200質量%までの質量パーセントで(完成調製物に対して)存在していてもよい。
【0088】
香味物質は、好ましくは、エーテル油又は植物抽出物に属する香味物質ではなく、果物香味物質(例えば、果物エステル)又はバニリン等であり、それらは、例えば、完成調製物の約1質量%まで、特に約0.001%〜0.500質量%で存在していてもよい。
【0089】
pH調節剤としては、緩衝剤添加剤、例えばリン酸塩緩衝剤、又はクエン酸ベースの緩衝剤を使用することができる。好ましくは、pH調節剤は、pH値を3〜9に、特に5〜8に調節する役目を果たし、約120mMまでの、特に約120mM未満の、例えば約20〜100mMの濃度で存在していてもよい。好ましくは、本発明で使用される緩衝剤は、リン酸一カリウム及び/又はリン酸二カリウムである。
【0090】
浸透活性の調節剤としては、例えば、糖又は糖アルコール(添加剤として同時に使用することができる)又は特に塩化ナトリウムを、例えば(特に塩化ナトリウムの場合は)約0.9%(質量%)までの濃度で使用することができる。
【0091】
また、塩形成基(カルボキシ、スルホニル、又はスルファート等の陰イオン性)又は陽イオン性基(アミノ等)は、上記で参照されている成分又は活性物質中に存在する場合、塩(特に、薬学的に許容される)として、陰イオン性基の場合は、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、亜鉛塩、又はスズ塩として、陽イオン性基の場合は、例えば、有機酸又は無機酸の、例えば、ハロゲン化水素、炭化水素、硫酸、リン酸、有機スルホン又は硫酸塩、又は酢酸等のカルボン酸の塩として、或いは陰イオン性基及び陽イオン性基の両方が存在する場合は、分子内塩として存在していてもよい(全体として又は部分的に)。
【0092】
ある実施形態によると、本発明の経鼻スプレー組成物に使用される賦形剤は、グリセリン、リン酸一カリウム、及び/又はリン酸二カリウム等の緩衝剤、トコフェロール等の抗酸化剤、EDTA、クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、フェノキシエタノール、フェニルエチルアルコール、カプリリルグリコール、エチルヘキシルグリセリン、パラベン、ソルビン酸カリウム、安息香酸ナトリウム、又はポリヘキサンイド等の等の保存剤、及び水等の溶媒を含むことができる。
【0093】
本発明の第1の態様による経鼻組成物又は第2の態様による医薬組成物は、抗アレルギー薬、又は薬学的に活性の抗アレルギー物質、例えば抗ヒスタミン剤、又は更なる肥満細胞安定剤(例えば、クロモグリク酸塩等)を更に含むことができる。ある実施形態では、経鼻組成物又は医薬組成物は、H1−抗ヒスタミン剤(例えば、アゼラスチン、オロパタジン、トリプロリジン、ビラスチン、セチリジン、ピリラミンなど)、H2抗ヒスタミン剤(例えばシメチジン、ファモチジン等)及びH3−抗ヒスタミン剤(例えばチオペラミド等)を含む抗ヒスタミン剤を更に含むことができる。抗ヒスタミン剤は、対象のヒスタミン受容体の活性に対抗し、経鼻組成物又は医薬組成物中の抗アレルギー油及び油状成分(例えば、ペリラ油及びごま油)の肥満細胞活性化の阻害効果を更に増強する。ある実施形態では、アゼラスチンは、三重の作用機序、つまり抗ヒスタミン効果、肥満細胞安定化効果、及び抗炎症効果を有するため、抗ヒスタミン剤として本発明の組成物に使用することができる。例えば、経鼻組成物又は医薬組成物は、本明細書に記載されている本発明の組成物の、約0.1質量%から約50質量%まで、又は約0.01質量%から約10質量%まで、又は約10質量%から約40質量%まで、又は約20質量%から約30質量%までの抗ヒスタミン剤を含んでいてもよい。
【0094】
当業者であれば、参照されている成分のどれを互いに組み合わせて使用すれば、相互に負の影響(析出又はチキソトロピー性の非存在等)を生じさせずに、本発明による調製物を形成することができるかについて、承知しているか又は単純な実験様式で決定することができる。
【0095】
さらなる態様によると、肥満細胞活性化(肥満細胞安定化)を阻害するための治療方法で使用するための、第1の態様による経鼻組成物又は第2の態様による医薬組成物が提供される。上記方法は、例えば、肥満細胞を、第1の態様による経鼻組成物又は第2の態様による医薬組成物と接触させることを含んでいてもよい。
【0096】
肥満細胞は、細胞表面のIgEレセプターとの架橋によるアレルゲンにより、損傷関連分子パターン分子による物理的損傷により、病原体関連分子パターン分子による病原体関連剤により、関連するGタンパク質共役受容体との種々の化合物により、及び/又は補体タンパク質により活性化される。肥満細胞の活性化は、複雑な細胞内シグナル伝達経路を生じさせ、それにより肥満細胞の脱顆粒がもたらされる。これにより、肥満細胞の顆粒に格納されている分子が、細胞の外部に放出される。このような分子としては、例えば、セリンプロテアーゼ(例えば、トリプターゼ)、ヒスタミン、セロトニン、及びプロテオグリカン(例えば、ヘパリン)が挙げられる。肥満細胞活性化の阻害は、例えば、こうしたステップのいずれか1つ又は複数を含んでいてもよい。例えば、本明細書に開示されている組成物は、肥満細胞脱顆粒の阻害に有用であってもよい。例えば、本明細書に開示されている組成物は、肥満細胞からのヒスタミン放出の阻害に有用であってもよい。
【0097】
第1の態様による経鼻組成物又は第2の態様による医薬組成物は、例えば、ヒスタミン放出を少なくとも約20%低減することができる。例えば、経鼻組成物又は医薬組成物は、ヒスタミン放出を、少なくとも約30%、例えば少なくとも約40%、例えば少なくとも約50%、例えば少なくとも約60%、例えば少なくとも約70%、例えば少なくとも約75%、例えば少なくとも約80%、例えば少なくとも約85%、例えば少なくとも約90%、例えば少なくとも約95%低減することができる。例えば、経鼻組成物又は医薬組成物は、ヒスタミン放出を、最大で100%、例えば最大で99%、例えば最大で98%低減することができる。
【0098】
更なる態様によると、肥満細胞活性化及び/又は肥満細胞脱顆粒に関連する鼻腔の障害の予防及び/又は治療に使用するための、第1の態様による経鼻組成物又は第2の態様による医薬組成物が提供される。
【0099】
更なる態様によると、季節性アレルギー性鼻炎及び通年性アレルギー性鼻炎を含む鼻腔のアレルギー性障害の予防及び/又は治療に使用するための、第1の態様による経鼻組成物又は第2の態様による医薬組成物が提供される。
【0100】
第1の態様による経鼻組成物又は第2の態様による医薬組成物は、例えば、対象の組織中のヒスタミン濃度を、経鼻組成物又は医薬組成物の投与後に、それぞれ少なくとも約20%低減することができる。例えば、経鼻組成物又は医薬組成物は、対象の組織中のヒスタミン濃度を、経鼻組成物又は医薬組成物の投与後に、それぞれ、少なくとも約30%、例えば少なくとも約40%、例えば少なくとも約50%、例えば少なくとも約60%、例えば少なくとも約70%、例えば少なくとも約75%、例えば少なくとも約80%、例えば少なくとも約85%、例えば少なくとも約90%、例えば少なくとも約95%低減することができる。例えば、経鼻組成物又は医薬組成物は、対象の組織中のヒスタミン濃度を、経鼻組成物又は医薬組成物の投与後に、それぞれ、最大で100%、例えば最大で99%、例えば最大で98%低減することができる。実施形態の1つによると、ヒスタミン放出の低減は、経鼻組成物の投与後、およそ4〜6時間にわたって生じると予想される。
【0101】
対象の組織中のヒスタミン濃度は、当業者に知られている任意の方法により測定することができる。例えば、ヒスタミン濃度は、微小透析で試料収集し、その後市販ELISAキット又はHPLCにより定量化することにより決定することができる。例えば、局所部位でのヒスタミン濃度は、組織ホモジネート等の組織試料を使用して決定することができる。例えば、ヒスタミン濃度は、アレルゲンが肥満細胞と接触する鼻孔組織(例えば、皮膚又は鼻内側層)を使用して決定することができる。
【0102】
第3の態様によると、季節性アレルギー性鼻炎及び通年性アレルギー性鼻炎を含む鼻腔のアレルギー性障害の予防及び/又は治療に使用するための、第1の態様による経鼻組成物又は第2の態様による医薬組成物が提供される。
【0103】
鼻部障害を治療的治療するための製品を製造するための使用は、特に、製品の(例えば、より広義又は狭義の医薬製品としての)適切な調達:言いかえれば、調製物の製造、特に噴霧デバイスへのその導入、その包装、及び例えば添付文書及び/又は包装上への印刷による治療的治療に使用するための対応する説明書の提供を含む。
【0104】
組成物は、花粉、動物鱗屑、及びイエダニ等の一般的なアレルゲンを透過しない機械的障壁を鼻粘膜に形成することができるため、鼻腔のアレルギー性障害の予防及び/又は治療に有用である。エマルジョンのチキソトロピー特性により形成される障壁は、粘膜付着性ゲル形成成分(キサンタンガム及びベントナイト等)及び乳化剤(グリセロールモノステアレート)を含む。この不透過性ゲル層は、進入してくるアレルゲン粒子と鼻粘膜との接触を阻止することができ、それにより、アレルギー反応の開始を防止し、アレルギー性鼻炎症状の発症を止める。症状の軽減は、ゲル層が鼻粘膜表面上に保持されている限り、数時間にわたって継続することができる。
【0105】
抗アレルギー油を油性障壁形成調製物に添加することにより、組成物が噴霧ノズルから均一に分散することを可能にする至適粘性等の、組成物の物理的及び化学的特性を変更することが可能である。これにより、上述の記載に示されているような、完全に均一に鼻腔を覆うことができる噴霧パターンがもたらされ、鼻粘膜に進入してくるアレルゲンが完全に阻止されることになる。したがって、本組成物のそのような噴霧特性は、より良好な物理的防護、並びにアレルギー性鼻炎等の、アレルゲンにより引き起こされる鼻部障害に対する治療的及び予防的効果の全体的有効性がもたらされる。
【0106】
更なる態様によると、肥満細胞活性化を阻害するための治療方法が提供される。上記方法は、例えば、肥満細胞を、第1の態様による経鼻組成物又は第2の態様による医薬組成物と接触させることを含んでいてもよい。
【0107】
更なる態様によると、季節性アレルギー性鼻炎及び通年性アレルギー性鼻炎を含む、対象の鼻腔のアレルギー性障害を予防及び/又は治療するための方法であって、有効量の第1の態様による経鼻組成物又は第2の態様による医薬組成物を対象に投与することを含む方法が提供される。
【0108】
投与は、任意の所望の方法で達成することができる。経鼻投与の場合、参照されている障害の治療に好適な、噴霧放出1回当たりで投与される量、特に噴霧作用1回あたりの経鼻スプレーと共に放出される調製物の量は、噴霧放出1回で、およそ3〜200μl、特に約50〜150μl、例えば1噴霧当たりおよそ140μlである。実施形態の1つでは、障害の治療に好適な量は、1鼻孔当たりおよそ1〜2回の噴霧であるか、又は医療従事者の裁量にゆだねられる。
【0109】
投与は、1日1回、又は好ましくは起床直後から開始して、夜間にも防御が必要な場合は就寝直前まで、特に数時間の間隔で、例えば約1〜8時間の間隔で、特に約4〜6時間の間隔で好ましくは数回おこなわれる。通年性アレルギーの場合、好ましくは、夜間の治療が含まれていてもよい。
【0110】
好ましくは1日数回使用される経鼻スプレーは、特に起床直後から開始して、最後は就寝直前まで、数時間の間隔で、特に約1〜8時間の間隔で、好ましくは約4〜6時間の間隔で、1鼻孔当たり、好ましくは約3〜500μl、特に約50〜150μlの容積で使用される。
【0111】
ある実施形態では、対象はヒトである。ヒト塗布及び治療に有用であることに加えて、本発明は、鼻部障害を患う場合がある一連の哺乳動物にも有用である。そのような哺乳動物としては、例えば動物園の非ヒト霊長動物(例えば、類人猿、サル、及びキツネザル)、ネコ又はイヌ等の伴侶動物、イヌ、ウマ、及びポニー等の作業用及びスポーツ用動物、家畜、例えばブタ、ヒツジ、ヤギ、シカ、雄役牛、畜牛、及びげっ歯動物等の実験動物(例えば、ウサギ、ラット、マウス、ハムスター、アレチネズミ、又はモルモット)が挙げられる。
【0112】
更なる態様によると、薬剤、医薬組成物、又は経鼻組成物の製造における、植物に由来する抗アレルギー油及び油性障壁形成調製物の使用が提供される。薬剤、医薬組成物、又は経鼻組成物は、例えば、季節性アレルギー性鼻炎及び通年性アレルギー性鼻炎を含む鼻腔のアレルギー性障害を予防及び/又は治療するために使用することができる。
【0113】
実施例
実施例1:経鼻スプレー調合物
【0114】
【表1】
【0115】
実施例2:噴霧性及び噴霧パターン試験
噴霧性試験は、抗アレルギー油(ペリラ油)及び油状成分(ごま油)を異なる比で含む経鼻スプレーの5つの異なる試料を使用して実施した:(a)ごま油のみ、抗アレルギー油無し;(b)1:3の質量比のペリラ油及びごま油;(b)1:1の質量比のペリラ油及びごま油;(b)3:1の質量比のペリラ油及びごま油;及び(e)抗アレルギー油及び油状成分が両方ともペリラ油。試験の前に、噴霧を5回放出した。10×10cmの黒色ボール紙を10×10cmのガラス板に固定し、経鼻スプレーの噴霧方向に対して垂直に保持し、図2に示されているように、黒色ボール紙/ガラス板から7cmの距離に位置する噴霧デバイス(Aero Pump GmbH社のAP3噴霧ノズルを備えたHDPEボトル)を用いて、1回の完全な140μlの用量をガラス板に噴霧した。製品毎に、噴霧パターンを記録し、定量化した。容器の1回の単一用量を放出する時間は、1秒未満だった。試験は、結果を確認するために3回繰り返した。
【0116】
実施例3:噴霧パターンの定量化
実施例2で得られた、抗アレルギー油(ペリラ油)及び油状成分(ごま油)を異なる比で含む経鼻スプレーの5つの異なる試料の噴霧パターンを分析して、それぞれの試料の噴霧性を比較した。測定は全て、0.5cmを最小単位として記録した。試料(a)〜(e)の噴霧パターンを、以下に詳しく説明する:(a)2.5cmのリング幅及び比較的大きな空白中心を有する環形状;(b)4cmのリング幅及び比較的中程度の大きさの空白中心を有する環形状;(c)4.5cmのリング幅及び比較的小さな空白中心を有する環形状;(d)3.5cmのリング幅及び比較的中程度の大きさの空白中心を有する環形状;(e)2cmのリング幅及び比較的大きな空白中心を有する環形状。
【0117】
ごま油及びペリラ油を1:3、1:1、又は3:1のいずれかの質量比の組み合わせで含む調合物(試料(b)〜(d))の観察された噴霧パターンは驚くべきものである。これら調合物では、小さなものから中程度の空白中心を有する、幅広く広がった噴霧パターンが観察された。ごま油のみを有する試料(試料(a))及びペリラ油のみを有する試料(試料(e))は、大きな空白中心を有する噴霧パターンを展開させたため、ごま油及びペリラ油の組み合わせを有する経鼻組成物の噴霧パターンは予期せざるものであった。
【0118】
実施例4:肥満細胞株HMC−1のIn vitro実験
肥満細胞株、つまりHMC1細胞(提供:Joseph H.Butterfield博士、Mayo Clinic、ロチェスター、ミネソタ州、米国)を、10%ウシ胎仔血清(FBS)、2mM L−グルタミン、50μM 2−メルカプトエタノール、100U/mLペニシリン、及び100μg/mLストレプトマイシンを含有するイスコブ変法ダルベッコ培地(IMDM)で培養した。細胞は、湿潤大気中5%CO2で37℃にて維持した。
【0119】
生細胞のパーセントを、トリパンブルー染色により決定した。50μl細胞懸濁液及び450μlトリパンブルーの1:10稀釈液を準備し、生細胞及び死細胞の数を血球計算器で計数した。106個の生細胞を、安全ロック付きのEppendorfチューブに移した。細胞懸濁液を、遠心分離し(200g、5分間)、上清を廃棄した。
【0120】
媒体であるKolliphor ELP(ポリオキシル−35水添ヒマシ油)中のペリラ油、ごま油、並びにペリラ油及びごま油の組み合わせ(1:1の組み合わせ比)の効果を決定した。リン酸緩衝食塩水(PBS)中の陽性対照クロモリン、媒体であるPBS及びELP、並びにカルシウムイオノフォアA23187も対照として試験した。
【0121】
100μl IgE(PBS/ELP中100ng/ml)を細胞ペレットに添加した後、細胞を37℃で終夜12時間インキュベートした。その後、細胞を、異なる濃度の化合物と共に37℃で2時間インキュベートした。遠心分離(200g、5分間)した後、上清を廃棄し、細胞ペレットを、37℃で1時間、100μlの抗IgE(PBS/ELP中1μg/ml)と共に再度インキュベートした。37℃で6時間の最終インキュベーション時には、300μlのHMC1培地を添加した。細胞を再度遠心分離し(200g、5分間)、上清を収集し、ELISA測定用に300μl等量として−20℃で保存した。細胞ペレットを、細胞生存率決定用に100μl HMC1培地に再懸濁した。
【0122】
化合物試験がカルシウムイオノフォアA23187だった場合、手順はわずかに異なっていた。カルシウムイオノフォア(100μg/ml)を細胞ペレットに添加した後、細胞を37℃で30分間インキュベートした。37℃で6時間の最終インキュベーション時には、300μlのHMC1培地を添加した。細胞を再度遠心分離し(200g、5分間)、上清を収集し、ELISA測定用に300μl等量として−20℃で保存した。細胞ペレットを、細胞生存率決定用に100μl HMC1培地に再懸濁した。
【0123】
収集した上清中のヒスタミンの濃度を、製造業者のガイドラインに従ってIBL International社製キットを使用したELISAにより決定した。各試料を2回測定した。予想される測定範囲に合わせて、媒体(PBS、ELP)治療試料を1:2に希釈し、カルシウムイオノフォア治療試料を1:5に希釈した。
【0124】
統計分析は、独立両側スチューデントt試験を使用して、GraphPad Prism(バージョン5.01)ソフトウェア(GraphPad Software社、サンディエゴ、カリフォルニア州、米国)で実施した。0.05未満のP値を統計的に有意であるとみなした。
【0125】
結果は、下記の図3に示されている。
【0126】
予想通り、IgE/抗IgE(陰性対照)及びカルシウムイオノフォアのみでの治療は、最高値のヒスタミン産生を示した。細胞は、この治療により完全に破壊されたため、カルシウムイオノフォア試料は、ヒスタミンを全て放出した。
【0127】
ヒスタミン濃度は、PBS及びELP対照と比較して、化合物で治療した試料全てで、及びクロモリンで治療した試料で、有意に低下した。用量依存性を観察することができなかったため、ペリラ油又はごま油のみによる治療は、低下が明確ではなかった。ペリラ油及びごま油の組み合わせによる治療又はクロモリンによる治療は、ヒスタミン放出の用量依存的低下を明確に示した。ヒスタミン放出低下は、肥満細胞活性化/肥満細胞安定化の阻害を示すものである。
【0128】
ペリラ油及びごま油の個々で治療した平均ヒスタミン放出を、ペリラ油及びごま油の組み合わせによる平均ヒスタミン放出と比較すると、組み合わせは、250μg/ml及び500μg/mlで有意なヒスタミン放出低下を示した(それぞれ、p=0.0185及びp=0.0092)。これは、クロモリンと同等である。したがって、ペリラ油及びごま油の組み合わせは、相乗的に作用して、ヒスタミン放出を阻害する。
図1(a)】
図1(b)】
図1(c)】
図1(d)】
図1(e)】
図2
図3
【国際調査報告】