特表2018-524611(P2018-524611A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ニューロロジカル・サージェリー・ピーシーの特許一覧 ▶ レンスラー・ポリテクニック・インスティチュートの特許一覧

<>
  • 特表2018524611-脳脊髄液の検出 図000002
  • 特表2018524611-脳脊髄液の検出 図000003
  • 特表2018524611-脳脊髄液の検出 図000004
  • 特表2018524611-脳脊髄液の検出 図000005
  • 特表2018524611-脳脊髄液の検出 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2018-524611(P2018-524611A)
(43)【公表日】2018年8月30日
(54)【発明の名称】脳脊髄液の検出
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20180803BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20180803BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20180803BHJP
   C12Q 1/26 20060101ALI20180803BHJP
【FI】
   G01N33/543 501H
   G01N33/53 V
   G01N33/53 U
   G01N33/543 541A
   G01N33/543 541Z
   G01N33/68
   G01N33/543 521
   C12Q1/26
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2018-517676(P2018-517676)
(86)(22)【出願日】2016年6月17日
(85)【翻訳文提出日】2018年2月14日
(86)【国際出願番号】US2016038062
(87)【国際公開番号】WO2016205637
(87)【国際公開日】20161222
(31)【優先権主張番号】62/181,469
(32)【優先日】2015年6月18日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】517442823
【氏名又は名称】ニューロロジカル・サージェリー・ピーシー
【氏名又は名称原語表記】NEUROLOGICAL SURGERY, P.C.
(71)【出願人】
【識別番号】517442834
【氏名又は名称】レンスラー・ポリテクニック・インスティチュート
【氏名又は名称原語表記】RENSSELAER POLYTECHNIC INSTITUTE
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100209495
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 さおり
(72)【発明者】
【氏名】コン、ソク−ジュン
(72)【発明者】
【氏名】リンハート、ロバート・ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】ドーディック、ジョナサン・エス
(72)【発明者】
【氏名】ゾンシュタイン、ウィリアム・ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】ツァン、フミン
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045BB08
2G045BB60
2G045CA26
2G045CB30
2G045DA44
2G045FB03
4B063QA01
4B063QA19
4B063QA20
4B063QQ03
4B063QR03
4B063QR48
4B063QS28
4B063QX02
(57)【要約】
本発明は、生体試料中の脳脊髄液(CSF)の存在を検出する方法及び試験片であって、シアロ−トランスフェリンを除去することと、該生体試料中のアシアロ−トランスフェリンを選択的に検出又は測定することとを含む、方法及び試験片を包含する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料中の脳脊髄液(CSF)の存在を検出する方法であって、
a.生体試料を得る工程と、
b.末端残基中にアルデヒド基を含む酸化シアロ−トランスフェリン(sTF)を生成するのに十分な量の酸化剤を前記試料に添加する工程と、
c.工程bから得られる試料と、ヒドラジド反応性基を含む試薬とを接触させる工程であって、前記酸化sTFが該ヒドラジド反応性基に結合して複合体を形成する、工程と、
d.前記試料から前記複合体を除去して残留試料を形成する工程と、
e.前記残留試料中の残留トランスフェリンの存在を検出する工程と、
を含み、
前記生体試料中の残留トランスフェリンの検出がCSFの存在を示す、方法。
【請求項2】
前記残留トランスフェリンがβ2−トランスフェリンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸化剤が過ヨウ素酸塩である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記酸化剤が過ヨウ素酸ナトリウムである、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記酸化剤がガラクトースオキシダーゼであり、前記試料を酸化に先立ってノイラミニダーゼで処理する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記酸化sTFが、共有結合によって前記ヒドラジド反応性基に結合する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ヒドラジド反応性基を含む試薬が磁性ヒドラジド粒子である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記磁性ヒドラジド粒子が磁性ヒドラジドミクロ粒子である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記複合体を、磁気分離器を使用して除去する、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記残留トランスフェリンが、前記磁気分離器を使用した後の上清中にある、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ヒドラジド反応性基を含む試薬がビオチン化ヒドラジドであり、前記複合体がビオチン化複合体である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記ビオチン化複合体を、ビオチン結合タンパク質を使用して捕捉する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ビオチン結合タンパク質がアビジン又はストレプトアビジンである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ビオチン化複合体を、ストレプトアビジン連結粒子を使用して捕捉する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ストレプトアビジン連結粒子が磁性粒子である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記生体試料が、血清、血液、血漿、鼻水、耳液、生検試料、リンパ液試料、頭又は脊椎の創傷又は穿刺に由来する液体、及び外科的切開部位に由来する液体である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記生体試料が血清である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記生体試料が手術中又は手術後に患者から得られた試料である、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記試料を脊椎の手術中又はその手術後に患者から取得する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記試料を手術中又は手術後に患者の切開部位から取得する、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記試料を手術後の液貯留から取得する、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記残留トランスフェリンをイムノアッセイによって検出する、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記残留トランスフェリンをサンドイッチイムノアッセイによって検出する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記残留トランスフェリンをELISAによって検出する、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記残留トランスフェリンを競合イムノアッセイによって検出する、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
前記残留トランスフェリンを、試験片を使用して検出する、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
前記残留トランスフェリンを、抗トランスフェリン抗体を使用して検出する、請求項1又は請求項22に記載の方法。
【請求項28】
前記残留試料を抗トランスフェリン抗体で被覆された固体支持体に添加する、請求項23又は24に記載の方法。
【請求項29】
標識化検出抗体を前記固体支持体に添加する、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記標識化検出抗体が抗トランスフェリン抗体である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記標識化検出抗体が、蛍光発生標識、発色性標識、ビオチン分子、及び/又は金粒子と抱合した抗体である、請求項29又は30に記載の方法。
【請求項32】
前記標識化検出抗体がビオチン化抗体である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
被験体においてCSF漏れを検出するために使用する、請求項1〜32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記被験体が脊椎手術を経ている、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記脊椎手術が腰椎手術である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記試料を取得後に希釈する、請求項1に記載の方法。
【請求項37】
前記試験片が、
a.試料ローディング領域と、
b.抗トランスフェリン抗体を含む前記試料ローディング領域の下流の結合領域と、
を備える、請求項26に記載の方法。
【請求項38】
前記抗トランスフェリン抗体を検出可能に標識化する、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記試験片が前記結合領域の下流に捕捉領域を更に備え、前記捕捉領域が抗トランスフェリン抗体−トランスフェリン複合体に結合する捕捉領域を備える、請求項37又は38に記載の方法。
【請求項40】
前記試験片が前記結合領域の下流に捕捉領域を更に備え、前記捕捉領域が抗トランスフェリン抗体−トランスフェリン複合体に結合する捕捉試薬を備え、前記捕捉試薬を固定化する、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記捕捉試薬が抗トランスフェリン抗体である、請求項39又は40に記載の試験片。
【請求項42】
生体試料からシアロ−トランスフェリン(sTF)を除去する方法であって、
a.生体試料を得ることと、
b.末端残基中にアルデヒド基を含む酸化sTFを生成するのに十分な量の酸化剤を前記試料に添加することと、
c.工程bから得られる試料と、ヒドラジド反応性基を含む試薬とを接触させることであって、前記酸化sTFが前記反応性基に結合して複合体を形成することと、
d.前記試料から前記複合体を除去することと、
を含む、方法。
【請求項43】
前記酸化剤が過ヨウ素酸塩である、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記酸化剤が過ヨウ素酸ナトリウムである、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記酸化剤がガラクトースオキシダーゼであり、前記試料を酸化に先立ってノイラミニダーゼで処理する、請求項42に記載の方法。
【請求項46】
前記酸化sTFが、共有結合によってヒドラジド基に結合する、請求項42に記載の方法。
【請求項47】
前記ヒドラジド反応性基を含む試薬が磁性ヒドラジド粒子である、請求項42に記載の方法。
【請求項48】
前記磁性ヒドラジド粒子が磁性ヒドラジドミクロ粒子である、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記複合体を、磁気分離器を使用して除去する、請求項47又は48に記載の方法。
【請求項50】
前記ヒドラジド反応性基を含む試薬がビオチン化ヒドラジドであり、前記複合体がビオチン化複合体である、請求項42に記載の方法。
【請求項51】
前記ビオチン化複合体を、ビオチン結合タンパク質を使用して捕捉する、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記ビオチン結合タンパク質がアビジン又はストレプトアビジンである、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記ビオチン化複合体を、ストレプトアビジン連結粒子を使用して捕捉する、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記ストレプトアビジン連結粒子が磁性粒子である、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記生体試料が、鼻水、耳液、血液、血清、頭若しくは脊椎の創傷若しくは穿刺に由来する液体、又は外科的切開部位に由来する液体である、請求項42に記載の方法。
【請求項56】
前記生体試料が血清である、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
前記生体試料が手術中又は手術後に患者から得られた試料である、請求項42に記載の方法。
【請求項58】
前記試料を脊椎の手術中又はその手術後に患者から取得する、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
前記試料を手術中又は手術後に患者の切開部位から取得する、請求項55に記載の方法。
【請求項60】
前記試料を手術後の液貯留から取得する、請求項55に記載の方法。
【請求項61】
手術中又は手術後に被験体においてCSF漏れを検出する方法であって、
a.手術に先立って前記被験体から第1の生体試料を得るとともに、該第1の試料中に存在するトランスフェリンを測定することと、
b.手術中又は手術後に前記被験体から第2の生体試料を得るとともに、該第2の試料中に存在するトランスフェリンを測定することと、
を含み、
前記第1の試料中に存在するトランスフェリンと比較した前記第2の試料中に存在するより多量のトランスフェリンがCSF漏れを示す、方法。
【請求項62】
前記トランスフェリンをイムノアッセイによって検出する、請求項61に記載の方法。
【請求項63】
前記トランスフェリンを、試験片を使用して検出する、請求項61に記載の方法。
【請求項64】
前記トランスフェリンを、抗トランスフェリン抗体を使用して検出する、請求項61〜63のいずれか一項に記載の方法。
【請求項65】
前記被験体が脊椎手術を経ている、請求項61に記載の方法。
【請求項66】
前記脊椎手術が腰椎手術である、請求項65に記載の方法。
【請求項67】
前記試料を取得後に希釈する、請求項61に記載の方法。
【請求項68】
前記トランスフェリンを測定する前に、sTFを前記第1の試料及び前記第2の試料から除去する、請求項61に記載の方法。
【請求項69】
β2−トランスフェリンを測定する、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
a.試料ローディング領域と、
b.前記試料ローディング領域の下流の濾過領域であって、sTFに結合する固定化試薬を含む、濾過領域と、
c.抗トランスフェリン抗体を含む前記濾過領域の下流の結合領域と、
を備える、試料中のトランスフェリンを検出する又は測定するための試験片。
【請求項71】
対照抗体を含む対照領域を更に備える、請求項70に記載の試験片。
【請求項72】
前記結合領域の下流に捕捉領域を備え、該捕捉領域が、抗トランスフェリン抗体−トランスフェリン複合体に結合する捕捉試薬を含む、請求項70又は71に記載の試験片。
【請求項73】
前記捕捉試薬が抗トランスフェリン抗体である、請求項72に記載の試験片。
【請求項74】
前記結合領域中の抗トランスフェリン抗体を検出可能に標識化する、請求項70に記載の試験片。
【請求項75】
前記抗トランスフェリン抗体が、蛍光発生標識、発色性標識、ビオチン分子、及び/又は金粒子と抱合した抗体である、請求項74に記載の試験片。
【請求項76】
前記捕捉試薬が固定化される、請求項72又は73に記載の試験片。
【請求項77】
sTFに結合する前記固定化試薬が酸化sTFに結合する試薬であり、該酸化sTFが前記sTFの末端シアル酸残留物中にアルデヒド基を含む、請求項70に記載の試験片。
【請求項78】
前記試薬がヒドラジド反応性基を含む、請求項77に記載の試験片。
【請求項79】
前記試薬が反応性ヒドラジド基を含む粒子である、請求項78に記載の試験片。
【請求項80】
試料中のトランスフェリンの存在を検出するための装置であって、
a.請求項70〜79のいずれか一項に記載の試験片と、
b.前記試験片を含むハウジングであって、試料ローディング域において前記試験片の表面を前記試料に曝露させるための少なくとも1つの開口を備える、ハウジングと、
を備える、装置。
【請求項81】
手持ち型装置である、請求項75に記載の装置。
【請求項82】
請求項70〜79のいずれか一項に記載の試験片と、酸化剤を含む容器とを備えるキット。
【請求項83】
請求項81又は82に記載の装置と、酸化剤を含む容器とを備えるキット。
【請求項84】
生体試料中のトランスフェリンを検出する又はトランスフェリンの量を測定する方法であって、
前記試料と、請求項70〜79のいずれか一項に記載の試験片、又は請求項80若しくは81に記載の装置、又は請求項82若しくは83に記載のキットとを接触させることを含み、
前記結合領域、又は前記捕捉領域の下流においてトランスフェリンを検出する又は測定することを含む、方法。
【請求項85】
前記試料が生体試料である、請求項84に記載の方法。
【請求項86】
前記方法がCSF漏れを検出するために使用され、前記試料が被験体から得られた生体試料である、請求項84に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願]
本出願は、2015年6月18日付出願の米国仮特許出願第62/181469号(その内容は全て引用することにより本明細書の一部をなす)の利益を主張する。
【背景技術】
【0002】
脊椎手術中の偶発的な硬膜切開の結果としての髄液漏れは、2%〜17%の発生率で起こる比較的一般的な合併症である[1〜6]。通常、髄液漏れは手術時に認められ、順調に修復される。時々、例えば、小さな硬膜切開が手術時に認められない場合、又は初期の修復が理想的なものでない場合、髄液漏れは遅れて現れる。脊椎外科医は、CSF(脳脊髄液)の漏れを表す又は表さない可能性のある、手術後の液貯留と頻繁に直面する。これはより一般には、変性疾患に対する腰椎手術で問題となる。患者が体位性頭痛又は明らかな液漏れを伴う場合であれば、診断はより簡単に行われる。しかしながら、手術後の時期には、患者の症状が必ずしも典型的に現れるとは限らないため、CSFと区別される漿液腫の液体(seromatous fluid)と時々混同されることがある。患者は吸引すると、皮下で膨隆する液貯留を示す場合があり、その液体の性質は確かではない。手術の意思決定において、修復を開始することができるように、皮膚ドレナージがある場合には、外科的処置を特に必要とし、髄膜炎をもたらす可能性があるCSF漏れの診断を速く確定することが理想的であろう。漿液腫はしばしば、手術室に戻ることなく保存的に治療され得ることから、貯留物が漿液腫であるかどうかを知ることは有利であろう。現在、CSFと漿液腫の液体とを識別するため、電気泳動を利用する実験室に液体試料を送らなければならず、結果を得るのに3日〜5日を要することがある。
【0003】
電気泳動及び質量分析を使用するタンパク質の分離及び検出の組み合わせは、CSF中のタンパク質バイオマーカーを同定するための適用に成功している[7]。CSF中のタンパク質バイオマーカーのうちトランスフェリン(TF)アイソフォームは、髄液漏出によるCSF漏れを検出するためのみならず、初期の口腔癌[8]、慢性アルコール中毒[9]、及び糖尿病性腎疾患[10]を含む、幾つかの疾患を検出するための重大な診断マーカーとして使用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
CSF漏れの迅速な検出方法が当該技術分野において今なお必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、アシアロ−トランスフェリン(aTF)バイオマーカーであるCSF β2−トランスフェリンを選択的に特定するための新規なアプローチの開発に基づく。具体的には、血清及び他の試料から選択的にシアロ−トランスフェリン(sTF)を除去する方法が開発され、CSF由来aTFの検出を可能とした。
【0006】
或る実施の形態において、本発明は、生体試料中の脳脊髄液(CSF)の存在を検出する方法であって、
a.生体試料を得る工程と、
b.末端残基中にアルデヒド基を含む酸化シアロ−トランスフェリン(sTF)を生成するのに十分な量の酸化剤を試料に添加する工程と、
c.工程bから得られる試料と、ヒドラジド反応性基を含む試薬とを接触させる工程であって、酸化sTFが該ヒドラジド反応性基に結合して複合体を形成する、工程と、
d.試料から複合体を除去して残留試料を形成する工程と、
e.残留試料中の残留トランスフェリンの存在を検出する工程と、
を含み、
生体試料中の残留トランスフェリンの検出がCSFの存在を示す、方法に関する。
【0007】
付加的な態様において、本発明は、生体試料からシアロ−トランスフェリン(sTF)を除去する方法であって、
a.生体試料を得ることと、
b.末端残基中にアルデヒド基を含む酸化sTFを生成するのに十分な量の酸化剤を試料に添加することと、
c.工程bから得られる試料と、ヒドラジド反応性基を含む試薬とを接触させることであって、酸化sTFが反応性基に結合して複合体を形成することと、
d.試料から複合体を除去することと、
を含む、方法に関する。
【0008】
更に付加的な実施の形態において、本発明は、手術中又は手術後に被験体においてCSF漏れを検出する方法であって、
a.手術に先立って被験体から第1の生体試料を得るとともに、該第1の試料中に存在するトランスフェリンを測定することと、
b.手術中又は手術後に被験体から第2の生体試料を得るとともに、該第2の試料中に存在するトランスフェリンを測定することと、
を含み、
第1の試料中に存在するトランスフェリンと比較して第2の試料中に存在するより多量のトランスフェリンがCSF漏れを示す、方法を包含する。
【0009】
更なる実施の形態において、本発明は、
a.試料ローディング領域と、
b.試料ローディング領域の下流の濾過領域であって、sTFに結合する固定化試薬を含む、濾過領域と、
c.抗トランスフェリン抗体を含む濾過領域の下流の結合領域と、
を備える、試料中のトランスフェリンを検出する又は測定するための試験片に関する。
【0010】
本発明の上述及び他の目的、特徴及び利点は、添付の図面に例示されるような本発明の好ましい実施形態の以下のより詳細な記載から明らかとなり、図面中、同様の参照符号は種々の図全体を通じて同じ部分を指している。図面は必ずしも縮尺通りではなく、代わりに本発明の原理を例示することに重点が置かれている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1A及び1Bはトランスフェリングリコフォーム中に存在するグリカンの構造を示す図である。血清sTFの構造を示し、図1BはCSF sTF及びaTF、すなわちβ2TFの構造を示す。
図2図2A、2B及び2CはTFグリコフォームの特定のための電気泳動に基づくアッセイを示す図である。図2Aは、NHS−ローダミンを使用するTFグリコフォームsTF及びaTFの蛍光標識を示す。図2Bは、ローダミン標識化sTFからのローダミン標識化aTFの分離を示す。図2Cは、ローダミン標識化TFに対する検出限界を示す。
図3図3A及び図3Bは、バッファーグリカンからのTFグリコフォームの分離のための1段階(single-step)過ヨウ素酸グリカン酸化を示す図である。図3Aは、末端シアル酸の過ヨウ素酸酸化及びSiMAG−ヒドラジドによる捕捉を示す。図3Bは、捕捉されたTFグリコフォームを除去し、上清を回収するために使用した磁気分離器を示す。図3Cは、電気泳動によるバッファー中のaTF及び微量のsTFの分離及び検出を示す。
図4図4A、4B、4C及び4Dは、CSFと血清との混合物において1段階過ヨウ素酸酸化を使用するTFグリコフォームからのsTFの分離を示す図である。図4Aは、CSF及び血清の両方から除去されたsTFのアガロースゲル分離及び検出を示す。図4Bは、1段階過ヨウ素酸酸化の前後のCSF及び血清におけるTFの定量をそれぞれ示す。図4Cは、1段階過ヨウ素酸酸化の後のCSFと血清との種々の混合物中での残留TF(主にaTF)の定量を示す。図4Dは、CSFと様々な血清(S1:29歳/アフリカ系男性、S2:41歳/白人男性、S3:61歳/ヒスパニック系女性、S4:21歳/アフリカ系女性)との混合物(1:1体積比)からのsTFの選択的な除去の後のTFの検出を示す。
図5図5A及び5Bは、TFグリコフォームの分離のための2段階(two-step)酵素酸化を示す図である。図5Aは、シアル酸の除去及びガラクトースの酸化の後の酸化sTFの捕捉及び除去を示す。(B)、TFグリコフォームの分離のための2段階酵素酸化の定量。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の好ましい実施形態の記載は以下の通りである。
【0013】
本明細書で使用される場合、「1つの」という("a" and "an":数量を特定していない単数形で表される)語句は、別段の定めがない限り1以上を含むことを意味する。例えば、「粒子(a particle)」という用語は1以上の粒子を包含する。
【0014】
トランスフェリン(TF)は、負に帯電したシアル酸残基によって非還元末端がキャップされたグリカンを含む、複数のグリコフォームを有する分泌糖タンパク質である[11、12]。TFは、ホメオスタシス及び鉄の輸送、また同様に結合していない鉄と関連するフリーラジカル損傷に対する身体の保護において重大な役割を果たす[13]。血清中のTFは、679個のアミノ酸残基(分子量約78kDa)で構成され、しばしば様々な数の末端(非還元末端)シアル酸(又はN−アセチルノイラミン酸)残基を持つN結合グリカンで占められるアスパラギンAsn432及びAsn630に2つの糖鎖付加部位を有し、TFグリコフォームの異種集団をもたらす[11、14](図1A及び図1B)。血清中のTFは、完全にシアル酸付加されたグリコフォームで独占的に構成される。対照的に、β2−トランスフェリン(β2TF)と呼ばれるCSF中のTFは、シアログリコフォーム(sTF)とアシアログリコフォーム(aTF)との混合物として存在する[7、12](図1A及び図1B)。CSF中のaTFは脳のノイラミニダーゼの作用を通して血清sTFから生じると推測されている[15]。長年にわたって、中枢神経系の様々な障害と同様に、CSF漏れのバイオマーカーとしてTFアイソフォームを検出するように多くの方法が設計されている[16、17]。等電点電気泳動法[18]、免疫固定ゲル電気泳動法[19]、硫酸ドデシルナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS−PAGE)[20]、及びキャピラリー電気泳動法(CE)[21]を含む、電気泳動に依存する種々の分離方法が、TFアイソフォームを分離するために開発されてきた。
【0015】
本発明は、脊椎外科医が、術後ドレナージ等の生体試料から直接的にCSFを検出及び/又は測定することを可能とする、単純で迅速な方法を包含する。液漏れが患者の手術後の切開の手術部位で検出される場合、脊椎外科医は患者のケアに関する時間的制約のある重大な決定に直面する場合がある。或る実施形態では、本発明は、血清等の生体試料中のsTFを特異的に酸化して、それがヒドラジド試薬(ヒドラジド磁性ミクロ粒子等)と抱合して(conjugated)、選択的に試料から除去されることを可能とし、迅速なリアルタイム「ディップ−スティック」分析において使用するのに適用可能な方法によってCSF由来aTFの迅速な検出を可能にする化学的及び/又は酵素的な方法の使用を包含する。
【0016】
生体試料は、CSF、トランスフェリン、及び/又はアシアロ−トランスフェリンを含むことが疑われる任意の試料であってもよい。例示的な生体試料として、例えば、血清、血液、血漿、鼻水(nasal fluid)、耳液(aural fluid)、生検試料、リンパ液試料、頭又は脊椎の創傷又は穿刺に由来する液体、及び外科的切開部位に由来する液体が挙げられる。特定の実施形態では、生体試料は血清である。付加的な実施形態では、生体試料は手術中又は手術後にヒト患者等の被験体から得られる。更に付加的な実施形態では、生体試料は、外科的切開部位又は手術後の液貯留から得られる。「被験体」の用語は、限定されないがヒト被験体を含む動物の被験体を包含することを意味する。特定の実施形態では、生体試料はヒト被験体から得られるか、又はヒト起源である。
【0017】
本明細書に記載される方法は、生体試料に酸化剤を添加して、酸化sTFを生成することを包含する。酸化剤は、TF中のアルコール基をアルデヒド基に酸化することができる、穏やかな酸化剤等の酸化剤である。或る実施形態では、酸化剤は化学薬剤又は酵素剤である。或る実施形態では、酸化剤は、TFの末端残基においてアルコール基をアルデヒドに酸化させるものである。末端残基は、トランスフェリン分子の非還元末端の単糖残基である。シアロ−トランスフェリン(sTF)では、末端残基はシアル酸残基である。シアル酸残基は、例えば、酵素ノイラミニダーゼによる処理によってsTFから除去され得る。シアル酸基がsTFから除去される場合、末端の単糖残基はガラクトースである。例示的な酸化剤として、例えば、過ヨウ素酸塩(例えば過ヨウ素酸ナトリウム及び過ヨウ素酸カリウム)等の過ヨウ素酸塩が挙げられる。また、酸化剤として、例えば、ガラクトースオキシダーゼ等の酵素が挙げられる。
【0018】
酸化sTFは、穏やかな酸化反応等の酸化反応の生成物であるsTFである。或る実施形態では、酸化sTFは、例えば、TFのオリゴ糖側鎖中にアルデヒド基を含む。或る実施形態では、アルデヒド基は末端の単糖残基中にある。酸化sTFの非限定的な例は、末端シアル酸のC−7位がアルデヒド基であるsTFである(例えば、図1Aを参照されたい)。酸化sTFの別の非限定的な例は、末端シアル酸残基が除去され、末端ガラクトースのC−6位がアルデヒド基であるsTFである(例えば、図5Aを参照されたい)。
【0019】
ヒドラジド基を含む試薬として、例えば、ヒドラジド反応性基を含む任意の物質、化合物又は組成物が挙げられる。カルボニル基とヒドラジド官能基との反応は、ヒドラゾン結合の形成から抱合体を形成することができる。或る実施形態では、ヒドラジド反応性基を含む試薬は、ヒドラジド官能基を含む化学試薬である。更に付加的な実施形態では、ヒドラジド基を含む試薬は、ヒドラジド反応性基を含む固体支持体である。支持体は有機物であっても無機物であってもよく、例えば、ビーズ、粒子、フィルム、メンブレン、チューブ、ウェル、片(strips)、ロッド、平面、例えばプレート、紙状のもの等、線維等が挙げられる。固体支持体の他の例として、例えば、ニトロセルロース及び酢酸セルロース等のポリマーが挙げられる。ヒドラジド部分を任意の固体支持体にライゲートしてもよく、そうでなければ化学的に結合させてもよい。或る実施形態では、ヒドラジド反応性基を含む試薬は粒子である。ヒドラジド粒子の作製は、例えばHermanson 2013, Bioconjugate Techniques, 3rd Ediition, London, UK: Academic Pressに記載される。また、ヒドラジド粒子は商業的に入手可能である。ヒドラジド粒子は、ヒドラジド反応性基が粒子の表面に存在するように処理、被覆、又は官能基化されていてもよい。更に付加的な実施形態では、試薬は、磁性ヒドラジド粒子、例えば磁性ヒドラジドのミクロ粒子、又はナノ粒子(例えばSiMAGヒドラジド)である。また更なる実施形態では、試薬は、ヒドラジド官能基が存在するように処理、被覆、又は官能基化された、ニトロセルロース等の高分子支持体である。付加的な実施形態では、ヒドラジド試薬は、(ビオチニルヒドラジド)及び6−(ビオチンアミド)ヘキサンヒドラジド等のビオチン化ヒドラジドである。
【0020】
本発明の或る実施形態では、生体試料中の酸化sTFを、ヒドラジド反応性基を含む試薬と接触させることで複合体又は抱合体を形成し、該複合体又は抱合体を試料から除去する。複合体又は抱合体は適切な手段によって試料から除去され得る。例えば、ヒドラジド反応性基を含む試薬が粒子である場合、濾過、遠心分離、沈降等の適切な方法を使用して試料から該粒子を除去することができる。別の例では、ヒドラジド反応性基を含む試薬が磁性粒子である場合、磁気分離器を使用して複合体又は抱合体を除去することができる。更に付加的な実施形態では、ヒドラジド試薬がビオチン化ヒドラジドである場合、ビオチン化された複合体又は抱合体を、アビジン、ストレプトアビジン、又は他のビオチンと結合するタンパク質を使用して捕捉することができる。例えば、ビオチン化複合体を、ストレプトアビジン結合検出技術を使用して捕捉することができる。或る実施形態では、ビオチン化複合体は、ストレプトアビジン被覆粒子、例えばストレプトアビジン被覆磁性粒子を使用して捕捉される。かかる粒子として、ストレプトアビジンが共有結合的に連結する粒子又はビーズが挙げられる。
【0021】
複合体又は抱合体の除去の後、残った試料(本明細書では「残留試料」と呼ぶ)は、sTFの酸化及び除去を行う前の試料よりも少ないsTFを有する。例えば、上に記載されるように、磁性ヒドラジド粒子及び磁気分離器が使用される場合、上清は残留トランスフェリンを含む。或る実施形態では、残留試料は実質的にsTFを含まず、例えば、残留試料は(sTFの酸化及び除去を行う前に)試料中に本来存在したsTFの約5%以下を含む。更に他の実施形態では、残留試料はsTFを含まない。残留試料中に残ったトランスフェリンは残留トランスフェリンと呼ばれる。
【0022】
上で検討されるように、CSF中のTFはシアロトランスフェリン(sTF)とアシアロトランスフェリン(aTF)との混合物として存在する。対照的に、血清中では、トランスフェリンは、完全にシアル酸付加されたグリコフォームで独占的に構成される。生体試料からのsTFの除去は、アシアロ−トランスフェリンの検出及び測定を可能にする。アシアロ−トランスフェリンはCSFに見られる(通常血清中に見られない)ことから、生体試料におけるアシアロ−トランスフェリンの検出又は測定はCSF漏れを示す。残留トランスフェリン又はアシアロ−トランスフェリンは、例えば抗トランスフェリン抗体を使用して、検出又は測定され得る。或る実施形態では、残留トランスフェリンは、イムノアッセイ、例えば競合イムノアッセイ、サンドイッチイムノアッセイ、側方流動イムノアッセイ及び/又はELISAによって検出又は測定される。或る実施形態では、残留トランスフェリンは、標識化抗トランスフェリン抗体を使用して検出又は測定される。当業者によって理解されるように、標準曲線を使用して試料中のトランスフェリン又は残留トランスフェリンの量を測定することができる。
【0023】
或る態様では、抗トランスフェリン抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、又はFabフラグメント等の抗体のトランスフェリン結合フラグメントである。抗トランスフェリン抗体は、Harlow, E., Using Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1999に述べられる方法等の当業者によく知られている従来の方法を使用して作製され得るか、又は商業的な供給元から購入することができる。或る実施形態では、本明細書に記載される方法及び試験片は、2つの抗体(例えば、試験片の結合領域中の抗体、及び捕捉領域中の抗体)の使用を含む。2つの抗体は異なる種類であってもよく、例えば第1の抗体はマウスモノクローナル抗体であってもよく、第2の抗体はウサギポリクローナル抗体であってもよく、若しくはその逆でもよく、又は抗体はトランスフェリンの異なるエピトープに結合するものであってもよい。
【0024】
付加的な実施形態では、残留トランスフェリンはELISAを使用して検出され、ここで、残留試料を、抗トランスフェリン抗体で被覆された固体支持体(例えばマルチウェルプレート)に添加した後、固体支持体に標識化検出抗体を添加する。或る実施形態では、標識化検出抗体は、標識化抗トランスフェリン抗体である。例えば、標識化検出抗体は、例えば、蛍光発生標識、発色性標識、ビオチン分子、及び/又は金粒子を含む、検出可能な標識に抱合した抗体であってもよい。特定の態様では、標識化検出抗体は、ストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ複合体を添加し、結合していない抱合体を除去し、TMB(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン)又はABTS(2,2’−アジノ−ビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)等のペルオキシダーゼ基質を添加することによって検出され得る、ビオチン化抗体である。
【0025】
更に付加的な態様では、トランスフェリン又は残留トランスフェリンは試験片を使用して検出される。或る実施形態では、試験片は、試料ローディング領域と、試料ローディング領域の下流の結合領域とを備え、該結合領域は抗トランスフェリン抗体を含む。或る態様では、結合領域中の抗トランスフェリン抗体は標識化抗体である。トランスフェリンは、標識化抗トランスフェリン抗体が可視化されるか、そうでなければ他の方法で検出されることで、検出される及び/又は測定される。付加的な態様では、試験片は結合領域の下流に捕捉領域を備え、該捕捉領域は、抗トランスフェリン抗体−トランスフェリン複合体に結合する捕捉試薬を備える。更に付加的な実施形態では、捕捉試薬は試験片に固定化される。更なる態様では、捕捉試薬は抗体である。また更なる実施形態では、試験片は、対照試薬を含む対照領域を更に備える。対照試薬は、例えば、標識化抗体に対して結合親和性を有する抗体であってもよい。
【0026】
また、上で考察されるように、本発明は、手術中又は手術後に被験体においてCSF漏れを検出する方法であって、a.手術に先立って被験体から第1の生体試料を得るとともに、該第1の試料中に存在するトランスフェリンを測定することと、b.手術中又は手術後に被験体から第2の生体試料を得るとともに、該第2の試料中に存在するトランスフェリンを測定することとを含み、第1の試料中に存在するトランスフェリンと比較した第2の試料中に存在するより多量のトランスフェリンがCSF漏れを示す、方法を包含する。或る態様では、例えば、上に記載されるように、トランスフェリンはイムノアッセイによって検出される。更に付加的な実施形態では、トランスフェリンが試験片を使用して検出される。特定の態様では、試料を取得後に希釈する。また更なる態様では、トランスフェリンを測定する前に、sTFを第1の試料及び第2の試料から除去する。
【0027】
また、上に記載されるように、本発明は、a.試料ローディング領域と、b.試料ローディング領域の下流の濾過領域であって、sTFに結合する固定化試薬を含む、濾過領域と、c.抗トランスフェリン抗体を含む濾過領域の下流の結合領域とを備える、試料中のトランスフェリンを検出する又は測定するための試験片を包含する。或る実施形態では、試験片が、対照試薬、例えば対照試薬抗体を含む対照領域を更に備える。上で検討されるように、或る実施形態では、対照試薬は、標識化抗体及び標識化抗体複合体に対して結合親和性を有する抗体であり、例えば、標識化抗体がウサギ抗体であれば、対照抗体はヤギ抗ウサギ抗体であってもよい。更に付加的な態様では、試験片は、結合領域の下流の捕捉領域を更に含み、ここで、該捕捉領域は抗トランスフェリン抗体−トランスフェリン複合体と結合する捕捉試薬を含み、例えば、該捕捉試薬は抗トランスフェリン抗体である。特定の態様では、捕捉試薬は試験片上に固定化される。更なる実施形態では、結合領域中の抗トランスフェリン抗体を標識化する。
【0028】
特定の態様では、試験片上のsTFに結合する固定化試薬は、酸化sTFに結合する試薬であり、ここで、酸化sTFは、sTFの末端残基中にアルデヒド基を含む。或る実施形態では、試薬は、例えばヒドラジド反応性基を含む。また更なる実施形態では、濾過領域がニトロセルロース、PVDF又は他のメンブレンを含む。付加的な実施形態では、メンブレンはヒドラジド反応性基を含み、例えば、ニトロセルロースメンブレンは、ヒドラジド反応性基が存在するように、好ましくは固定化されるように被覆されるか官能基化されていてもよい。更に付加的な実施形態では、濾過領域は本明細書に記載されるヒドラジド粒子を含み、ここで、該粒子は濾過領域に固定化される。生体試料中のsTFを、このように試験片の濾過領域において保持することができ、残留トランスフェリンは側方流動によって試験片に沿って移動し得る。
【0029】
側方流動及び側方流動用試験片は、当該技術分野においてよく知られている。例示的な方法では、試験試料に続いて典型的にはチェース(chase)バッファーを試験面に添加する。チェースバッファーは、試験面にわたって液体のフローを促進させる。また、試験片は、抗体に付着した金粒子等の標識化抗体を含む。試料中に存在する分析物(トランスフェリン又は残留トランスフェリン)を標識化抗体に結合することができ、複合体は、毛細管現象によってメンブレンを通って移動する。その後、分析物及び標識複合体は、メンブレン上に固定化される抗体に結合して、試験区域において、有色の線等の検出可能な指標をもたらすことができる。分析物が試料の中になければ、抱合体は試験区域を過ぎて移動し、メンブレンの試験ライン上の抗体に結合しない。任意に、対照試薬は、過剰な抱合体を捕捉及びこれと結合することができる。或る実施形態では、対照試薬及びそこから生じた線は、試験が適切に実行されたことを示す対照である。或る実施形態では、約1分〜約60分、又は約1分〜約30分、又は約5分〜約15分で結果を読み取ることができる。
【0030】
更に付加的な実施形態では、本発明は、試料中のトランスフェリンの存在を検出するための装置であり、該装置は、本明細書に記載される試験片と、該試験片を含むハウジングであって、試料ローディング域において試験片の表面を試料に曝露させるための少なくとも1つの開口を備える、ハウジングとを備える。或る実施形態では、装置は手持ち型装置である。
【0031】
更に付加的な態様では、本発明は、本明細書に記載される試験片又は装置と、酸化剤を含む容器とを備えるキットを包含する。或る実施形態では、酸化剤は過ヨウ素酸ナトリウム又は過ヨウ素酸カリウムである。更に付加的な実施形態では、酸化剤はガラクトースオキシダーゼである。
【0032】
本明細書に記載される様々な実施形態は、標識化抗体の使用を含む。例示的な標識として、例えば、酵素、及び基質に対するそれらの結果として生じる効果、コロイド金属粒子、染料を組み込んだラテックス、並びに染料粒子が挙げられる。酵素は基質上で反応して、例えば、色の吸収(例えば紫外線、可視線、赤外線)によって、又は蛍光によって検出可能な生成物を生成し得る。更に付加的な実施形態では、標識は蛍光発生標識、発色性標識、ビオチン分子、及び/又は金属粒子である。或る態様では、金属粒子は白金、金、銀、セレン若しくは銅、又は特徴的な色を示す任意の他の金属化合物を含み得る。本発明における使用に適した金属粒子を、従来の方法によって作製することができる。例えば、金ゾル粒子の作製はFrens, Nature 241: 20-22 (1973)に記載される。
【0033】
更なる実施形態では、試験片は、固体支持体(プラスチック、ボール紙又は他の剛性若しくは半剛性の材料)、固体支持体上のメンブレン(或る実施例では、メンブレンはニトロセルロース又はPVDFのメンブレンである)を含む。メンブレンは、本明細書に記載される試料ローディング領域及び結合領域を備える。また、メンブレンは、捕捉領域及び/又は対照領域を含んでいてもよい。
【0034】
また、本発明は、生体試料中のトランスフェリンを検出する又はトランスフェリンの量を測定する方法であって、試料と、本明細書に記載される試験片、装置又はキットとを接触させることを含み、結合領域若しくは捕捉領域、又は結合領域若しくは捕捉領域の下流においてトランスフェリンを検出する又は測定することを含む、方法を包含する。或る実施形態では、トランスフェリンはβ2−トランスフェリン、例えばアシアロ−トランスフェリンである。特定の態様では、試料は生体試料である。更に付加的な実施形態では、本発明は、生体試料中のCSFの存在を検出する方法であって、試料と、本明細書に記載される試験片、装置又はキットとを接触させることを含み、結合領域若しくは捕捉領域、又は結合領域若しくは捕捉領域の下流においてトランスフェリンを検出する又は測定することを含む、方法である。
【0035】
本発明を以下の実施例によって説明するが、本実施例は何ら限定を意図するものではない。
【実施例】
【0036】
2.材料及び方法
2.1 酵素反応及び標識化
ヒト血清sTF(10mg/mL(Sigma))を、1×Glycobuffer(5mM CaClを含むpH5.5の20mM酢酸ナトリウムバッファー)に溶解した。ヒトsTF溶液を37℃で一晩ノイラミニダーゼ(1×Glycobuffer(Sigma)中1mg/mL)で処理してaTFを生成した。sTF及びaTFの両方を製造業者のプロトコルに従ってNHS−ローダミン(Pierce)で標識化した。全ての未反応ローダミンをPD MiniTrap G−25カラム(GE Heathcare)上のカラムクロマトグラフィによって除去した。
【0037】
ノイラミニダーゼ(Sigma)及びガラクトースオキシダーゼ(Sigma)を含む2段階酵素反応を、ヒトCSF(PrecisionMed)、貯蔵ヒト血清(Innovative Research Inc.)、及び個々のヒト血清試料(BioreclaimationIVT)に対して行った。最初に、CSF及び血清の両方を、1×Glycobufferでそれぞれ2倍と200倍に希釈した。希釈したCSF(10μL)及び希釈した血清(10μL)を各々37℃で1時間ノイラミニダーゼ(1mg/mLを10μL)により処理した後、37℃の100mM、pH 7.2、Trisバッファー(0.5KU/mLを10μL)に溶解したガラクトースオキシダーゼで様々な時間にわたって処理した。
【0038】
2.2 アガロースゲル電気泳動
40mLの1×Tris−ホウ酸塩バッファー(89mM Trisベース及び89mMホウ酸、pH8.0)中に0.4gのアガロース粉末(Sigma)を溶解した後、電子レンジでアガロースを溶かすことによってアガロースゲル(1%)を調製し、その後、溶けたアガロース溶液を成形トレイに注ぎ、室温に冷却することで固体ゲルを形成した。ローディング試料を、ローダミン標識化タンパク質(10μL中20ng〜320ng)を30%グリセロール(2μL)と混合することにより調製した。タンパク質試料をロードした後、ゲルを200Vで15分間電気泳動に供した。
【0039】
2.3 過ヨウ素酸酸化
4℃(氷上)で30分間にわたり1mM NaIOを用いて穏やかな過ヨウ素酸酸化を行い、TF中で非還元末端シアル酸残基を酸化した。過ヨウ素酸酸化中に生成された過剰な過ヨウ素酸塩及びホルムアルデヒドをPD Mini Trap G−25カラム(GE Heathcare)によって除去した。G−25カラムを使用する脱塩及びpH7.0のリン酸ナトリウムバッファー100mMによるバッファー交換の後、酸化シアル酸残基を含むTFをSiMAG−ヒドラジドミクロ粒子(Chemicell)で捕捉した。
【0040】
2.4 シアロ−タンパク質のカップリング及び分離
SiMAG−ヒドラジド粒子(10mg/ml)をpH7.0、100mMのリン酸ナトリウムバッファーで2回洗浄した後、該粒子を、酸化シアル酸残基を含むTFとともに20℃で3時間インキュベートした。タンパク質−粒子抱合体を、磁気分離器を使用してペレット化した。上清中に残ったタンパク質をAmicon超遠心分離フィルタ(Ultracel−3K)によって回収し濃縮した。aTFを含む濃縮試料をアガロースゲル電気泳動によるか、又はトランスフェリンELISAキット(Abcam)を使用して分析した。
【0041】
2.5 ELISAアッセイ
トランスフェリンELISAアッセイキット(Abcam)で試験試料中のヒトTFを検出することができた。簡潔には、標準試料又は試験試料をTF特異抗体で予め被覆した96ウェルプレートに添加した後、特異的ビオチン化TF検出抗体を添加し、該プレートを洗浄バッファーで洗浄した。ストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ複合体を添加し、結合していない抱合体を洗浄バッファーで洗い流した。TMBがペルオキシダーゼによって触媒され、酸性停止溶液を添加した後に黄変する青色生成物を生成することで、TMBを使用してストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ酵素反応を可視化した。450nmの波長においてマイクロプレートリーダー(SpectraMax M5(Molecular Devices))で黄色の吸光度を直ちに測定した。詳細なELISAプロトコルは、製造業者のガイドライン(Abcam)に従った。
【0042】
3.結果及び考察
ノイラミニダーゼを使用してsTFからaTFを生成した。シアル酸残基の除去後、TFをNHS−ローダミンを使用して標識化した(図2A)。アガロースゲル電気泳動を使用して、ローダミン標識化aTF及びsTFを分離することができた(図2B)。結果は、より多くの負に帯電したsTFが陽極近くに移動したことを示した。さらに、ヒト血漿中においてローダミン標識化トランスフェリンを選択的に検出することができた(図2B)。ローダミン標識化TFに対する検出限界は2μg/mLであり(図2C)、それは免疫固定(IFE)ゲル電気泳動による検出に類似する[19]。
【0043】
ヒト血清TFが非還元末端シアル酸残基を含む2つのグリカンを有する糖タンパク質(sTF)であり、CSFがsTF及びaTFの両方を含む[7、12]ことから、穏やかな過ヨウ素酸酸化[22]はsTFをヒドラゾンとして捕捉可能とする(図3A)。したがって、本発明者らは、CSF中におけるaTFの検出を容易にするためsTFを選択的に除去した(図3A)。sTF中の末端シアル酸残基を、過ヨウ素酸ナトリウムで穏やかに処理することによってそれらのアルデヒド誘導体へと酸化し[22、23]、安定なヒドラゾン結合形態のSiMAG−ヒドラジド(磁性ヒドラジドミクロ粒子)への共有結合カップリングによって酸化sTFを捕捉した。その後、磁気分離器を使用してsTF−ビーズ複合体を容易に除去することができた(図3B)。実証実験として、本発明者らは、種々の濃度(100μL)のsTF及びaTFを穏やかな過ヨウ素酸酸化(4℃で30分間の1mM NaIO)に供し、sTF中の末端シアル酸残基のC−7位に選択的にアルデヒドを導入した。Sephadex G−25カラム上で脱塩することによって未反応の酸化試薬を除去した後、20℃で3時間にわたって200μLのSiMAG−ヒドラジド(10mg/mL)とともにインキュベートすることによってアルデヒド基含有sTFを補捉した。捕捉されたsTFを磁気分離器で除去し、アガロースゲル電気泳動を使用して微量の残留sTFとともにaTFを含む上清をアッセイした(図3C)。結果は、sTFがSiMAG−ヒドラジドとの共有結合的な捕捉によって選択的に除去され、aTFが上清バッファー中に残ったことを示した。高濃度のsTF(0.8mg/mL)では、その捕捉に必要なSiMAG−ヒドラジドが不十分であったため、約50%のsTFが上清バッファーに残った。本発明者らがSiMAG−ヒドラジドの量を2倍にした(20mg/mL)場合、残った残留sTFは3%未満まで減少した(データは示されていない)。この穏やかな過ヨウ素酸酸化は、30分以内にアルデヒド基をsTFへと迅速かつ選択的に導入し(図3C)、SiMAG−ヒドラジド磁性ミクロ粒子とのカップリングを3時間で遂行することができ、5時間未満の全体的な前処理時間を要する。これらの結果を励みに、本発明者らは、CSFと血清との混合物からなる試料においてCSF aTFを検出するために開発したプロトコルを適用した。
【0044】
CSF及び血清の両方を含む試料に対する実証実験として、ローダミン標識化(200倍)希釈血清とローダミン標識化(2倍)希釈CSFとの混合物(10μL)を穏やかな過ヨウ素酸酸化に供した。上に記載されるプロトコルに従って血清及びCSFの両方からのsTFの選択的な分離の後、アガロースゲル中の残留sTFを分析した(図4A)。血清中のsTFのレベルはCSF中のsTFより高く、血清及びCSFの両方に存在するsTFは全て、穏やかな過ヨウ素酸酸化及びSiMAG−ヒドラジドによる捕捉によって成功裡に除去された(図4Aの下のバンド)。
【0045】
血清及びCSFの両方に存在するタンパク質の複雑な混合物のため、アガロースゲルにおいてaTFバンドを直接検出することができなかった。したがって、CSF及び血清の両方の残留TFを検出するため、ヒトトランスフェリンELISAを行ってTFのみを特異的に捕捉した(図4B)。CSF中の残留TF(aTF)の量は、血清中の残留TF(捕捉されなかったsTF)よりも明らかに多かった。しかしながら、微量の残留TF(捕捉されなかったsTF)は、シアル酸残基の不完全な酸化又は非効率的な捕捉のいずれかのため血清中に尚も存在した。ELISA(データは示されていない)におけるTFの標準曲線に基づいて、血清中に残留する微量のTFのレベルは、約7ng/mLであり、バッファー対照のそれに類似するものであった。対照的に、CSF中の残留TF(aTF)は、CSF中の初期量のTF(約170ng/mL)の三分の一に相当する約60ng/mLであった。この結果から、CSF中の総TFの約30%のみがaTFであると予想された[7]。本発明者らは、CSF漏れの現実の状況をシミュレートするために、種々の体積比を有する血清とCSFとの混合物を調製した。上のプロトコルによる血清とCSFとの混合物からのsTFの選択的な除去の後、残留TF(主にaTF)をELISAキットによって測定した(図4C)。結果は、血清とCSFとの混合物に由来する残留TFの量が、血清とCSFとの混合物と同じ希釈液であるバッファー中の種々の量のCSFに由来する残留TFの量に類似していたことを示した。さらに、本発明者らは、複数の血清試料(S1:29歳/アフリカ系男性、S2:41歳/白人男性、S3:61歳/ヒスパニック系女性、S4:21歳/アフリカ系女性)を使用し、CSFと様々な血清との混合物(1:1体積比)を調製し、sTFを選択的に除去した。種々の血清試料とCSFとの混合物に由来する初期TF及び残留TFの両方をELISAキットによって測定した(図4D)。CSFに由来する残留TF(主にaTF)は血清の種類にかかわらず明らかに検出され、血清に由来する残留TFの量は陰性対照(バッファーのみ)に類似するものであった。
【0046】
本発明者らは、sTFの選択的な除去を通じてCSFと血清を区別することができたが、CSFと血清との混合物を分析する場合、血清sTFの完全な除去がCSF中のaTFの正確な測定に望ましい。したがって、本発明者らは、酵素が非常に高い基質特異性を示すことから、sTF中のアルデヒド基を生成するために2段階酵素(ノイラミニダーゼ及びガラクトースオキシダーゼ)反応を検討した。CSF由来aTF中には非還元末端シアル酸残基もガラクトース残基もないことから[7]、2段階酵素反応は、定量的かつ選択的にガラクトース残基のC−6位においてsTFへアルデヒド基を導入するはずである(図5A)。希釈された(2倍)CSF及び(200倍)血清の両方の10μLの試料を37℃でノイラミニダーゼ(1mg/mLを10μL)及びガラクトースオキシダーゼ(0.5KU/mLを10μL)に添加した。該試料を種々の長さの時間にわたって2つの酵素に供した後、SiMAG−ヒドラジド(10mg/mLを100μL)を該反応混合物に添加し、20℃で更に3時間インキュベートして酸化sTFを捕捉した。磁気分離器によってミクロ粒子に捕捉された酸化sTFをプルダウンした(pulling down:下方移動させた)後、上清中の残留TFをELISAで判定した(図5B)。結果は、この処置は24時間を要したが、本発明者らはこの2段階酵素反応において血清sTFを完全に除去することができたことを示した。しかしながら、この2段階プロセスは成功裡に全てsTFを除去することができたものの、この前処理工程は約24時間を要し、長すぎて外科医の早急な臨床決定に適応することができないものだった。結果的に、将来の研究は、2段階酵素前処理に必要な時間を減少させるとともに、過ヨウ素酸塩の前処理の選択性を改善することを目標とする。
【0047】
CSFの迅速で高感度な検出は、患者ケアに関するリアルタイムの重大な決定を下すために極めて重要なものである[24]。例えば、手術後にCSF漏れが起きた場合、CSF漏れを探索し修復するため、患者をすぐに手術室に戻さなければならない場合があり、次に、体位性頭痛、及び髄膜炎を発症するリスクを増加させる汚染された皮膚との接触により起こり得る感染を治療すると考えられる。液体に最初に気づいた時、また液体がCSFを含むかどうか外科医が確信を持てない場合、外科医は、しばしば確認分析を待つだけの場合があり、それが行動を先延ばしして、より不良な患者の予後に結びつく可能性がある。場合によっては、患者は体位性頭痛を典型的に示さないことがあり、CSF液漏れの診断を更に遅延させる可能性がある。したがって、CSF液の存在を検出することができる迅速な試験は、脊椎外科医が早急な臨床決定を行うことを可能とし、患者の転帰を改善させるであろう。
【0048】
β2トランスフェリン(β2TF)の形成は中枢神経系内のノイラミニダーゼ活性によって媒介される[25]。したがって、β2TFは、シアル酸化付加されていないTFグリコフォームであるaTFとして存在する、CSF内にのみあることから、CSF漏れに対して高い選択性を示す潜在的なマーカータンパク質を表すものである。この解剖学的な選択性は、液漏れ試料における血清sTFの迅速で選択的な除去に対する前処理方法の開発を可能にし、それはCSF関連β2TF(aTF)の検出を可能にするであろう。また、迅速な前処理法は、使用が容易で単純なTF検査キットの商業的開発を促進するであろう。
【0049】
参考文献
[1] Barrios, C, Ahmed, M., Arrotegui, J. I., Bjornsson, A., J Spinal Disorders 1990, 3, 205-209.
[2] Cammisa, F. P., Jr., Girardi, F. P., Sangani, P. K., Parvataneni, H. K., Cadag, S., Sandhu, H. S., Spine 2000, 25, 2663-2667.
[3] Khan, M. H., Rihn, J., Steele, G., Davis, R, Donaldson, W. F., 3rd, Kang, J. D., Lee, J. Y., Spine 2006, 31, 2609-2613.
[4] Stolke, D., Sollmann, W. P., Seifert, V., Spine 1989, 14, 56-59.
[5] Wang, J. C, Bohlman, H. H., Riew, K. D., J Bone Joint Surgery (Am) 1998, 80, 1728-1732.
[6] Eismont, F. J., Wiesel, S. W., Rothman, R. H., J Bone Joint Surgery (Am) 1981, 63, 1132-1136.
[7] Brown, K. J., Vanderver, A., Hoffman, E. P., Schiffmann, R., Hathout, Y., Int JMass Spectrom 2012, 312, 97-106.
[8] Jou, Y. J., Lin, C. D., Lai, C. H., Chen, C. H., Kao, J. Y., Chen, S. Y., Tsai, M. H., Huang, S. H., Lin, C. W., Anal Chim Acta 2010, 681, 41-48.
[9] Whitfield, J. B., Clin Chem 2002, 48, 2095-2096.
[10] Wang, C, Li, C, Gong, W., Lou, T., BiomarkRes 2013, 1, 9.
[11] Coddeville, B., Carchon, H., Jaeken, J., Briand, G, Spik, G, Glycoconj J 1998, 15, 265-273.
[12] de Jong, G, van Noort, W. L., van Eijk, H. G, Electrophoresis 1992, 13, 225-228.
[13] Kallee, E., Lohss, F., Debiasi, S., NuclMed 1963, 2, Suppl 1 : 111-118.
[14] Iourin, O., Mattu, T. S., Mian, N., Keir, G, Winchester, B., Dwek, R. A., Rudd, P. M., Glycoconj J 1 1996, 13, 1031-1042.
[15] Nandapalan, V., Watson, I. D., Swift, A. C, Clinical otolaryngology and allied sciences 1996, 21, 259-264.
[16] Arrer, E., Meco, C, Oberascher, G, Piotrowski, W., Albegger, K., Patsch, W., Clin Chem 2002, 48, 939-941.
[17] Vanderver, A., Schiffmann, R., Timmons, M., Kellersberger, K. A., Fabris, D., Hoffman, E. P., Maletkovic, J., Hathout, Y., Clin Chem 2005, 51, 2031-2042.
[18] Roelandse, F. W., van der Zwart, N., Didden, J. H., van Loon, J., Souverijn, J. H., Clin Chem 1998, 44, 351-353.
[19] Normansell, D. E., Stacy, E. K., Booker, C. F., Butler, T. Z., Clin Otolaryngol Allied Sci 1994, 1, 68-70.
[20] Gorogh, T., Rudolph, P., Meyer, J. E., Werner, J. A., Lippert, B. M., Maune, S., Clin Chem 2005, 51, 1704-1710.
[21] Legros, F. J., Nuyens, V., Baudoux, M., Zouaoui Boudj eltia, K., Ruelle, J. L., Colicis, J., Cantraine, F., Henry, J. P., Clin Chem 2003, 49, 440-449.
[22] Zeng, Y., Ramya, T. N., Dirksen, A., Dawson, P. E., Paulson, J. C, Nat Methods 2009, 6, 207-209.
[23] De Bank, P. A., Kellam, B., Kendall, D. A., Shakesheff, K. M., Biotechnol Bioeng 2003, 81, 800-808.
[24] Choi, D., Spann, R., Br JNeurosurg 1996, 10, 571-575.
[25] Gallo, P., Bracco, F., Morara, S., Battistin, L., Tavolato, B., J Neurol Sci 1985, 70, 81-92.
【0050】
本発明を、特に、その好ましい実施形態に関連して示し、記載したが、添付の特許請求の範囲により包含される本発明の範囲を逸脱することなく、形態及び詳細における様々な変更を、本発明内でなすことができることが当業者に理解されるであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】