【実施例】
【0163】
IRAPノックアウトマウスの作出
包括的IRAP欠失(IRAP
−/−)マウスを、以前に記載されるように(Albiston, 2009)、Ozgene Pty Ltd,(Perth, Australia)によって作出した。オリゴヌクレオチド
(GeneticアクセッションNT_039643)を用いるPCRによって、子孫の遺伝子型を特定した。生じた野生型対立遺伝子PCR産物は384bpであり、ノックアウト対立遺伝子は1041bpであった。C57BL/6Jマウスを、野生型(WT)対照として用いた。4〜6ヵ月齢の幼年マウス、および18〜22ヵ月齢の老齢マウス(双方の系統とも35〜50gと秤量された)を、Monash Animal Research Laboratories(ARL)から得た。標準的な食事をマウスに不断給餌して、該マウスを、Pharmacology Animal House, Monash Universityにおいて、21±1〜5℃、12時間の明/暗室の標準的なマウスケージ内に収容した(ケージあたりおおよそマウス4頭)。全ての処理および実験手順は、Monash University Animal Ethics Committeeによって承認された(Ethics # SOBSB/PHAR/2010/23)。
【0164】
薬物処置および外科的手順
異なる8セットのインビボ実験を、この研究において行った:
A)アンギオテンシン(Ang)II(800ng/kg/分;s.c.)で4週間処理した、包括的IRAPノックアウトマウスおよびそのWT対照の心臓および血管の表現型の特徴付け。マウスの心臓および血管を、生理食塩水で処理した幼年WTマウスおよびIRAP
−/−マウスから得た組織と比較した。
B)IRAPインヒビタ処置後の心血管系における、Ang II起因性変化の予防。予防モデルにおいて、WTマウスを、Ang II(800ng/kg/分;s.c.)±IRAPインヒビタ(HFI−419;500ng/kg/分を28日間)、またはHFI−ビヒクル(1DMSO:3HBC)で処置した。
C)包括的IRAPノックアウトマウスにおける老齢の心臓、腎臓、および血管の表現型の特徴付け。老齢WTマウスおよびIRAP
−/−マウスの心臓、腎臓、および血管を、幼年WTマウスおよびIRAP
−/−マウスから得た組織と比較した。
D)IRAPインヒビタ処置後の、心血管系の年齢起因性変化の逆転。逆転モデルにおいて、老齢WTマウスを、生理食塩水、IRAPインヒビタ(500ng/kg/分のHFI−419;500ng/kg/分の化合物1;50ng/kg/分の化合物2)、またはHFI−ビヒクル(1DMSO:3HBC)のいずれかで4週間処置した。
E)老齢包括的IRAPノックアウトマウス、および老齢IRAPインヒビタ(500ng/kg/分のHFI−419;s.c.)処置WTマウスからとった単離心臓における虚血再灌流傷害の予防を、年齢がマッチするビヒクル処置(1DMSO:3HBC;s.c.)WT対照と比較した。
F)老齢包括的IRAPノックアウトマウスにおける、心エコー検査法を用いた心機能の表現型の、老齢WTマウスおよび幼年WTマウスと比較した特徴付け。
G)高脂肪食(HFD)モデルにおけるIRAPノックアウトマウスの肝臓脂肪症の表現型の特徴付け。
H)IRAPインヒビタ処置後の肝臓における塩起因性線維症の逆転。
【0165】
外科手術を受けた全てのマウスを、イソフルラン(Isorrane)(誘導5%、そして維持2.5%)で麻酔して、肩甲中央(midscapular)領域を切開して、そこを通して浸透圧ミニポンプ(Alzet model 2004, Alza Corp)を、皮下薬物投与用に挿入した。切開領域を、6/0 DY silk(Dynek Pty Ltd)で縫合して、抗生作用粉末(Cicatrin, Pfizer)を掛けてから、鎮痛剤Cartrophenを筋肉内注射した(1.5mg/mlのストック溶液;Biopharm Australiaの0.1ml)。非侵襲性の尾部カフ(tail-cuff)プレチスモグラフ使用装置(MC4000 Blood Pressure Analysis System, Hatteras Instrument Inc)を用いて、収縮期血圧(SBP)を隔週で、薬物処置前(0週目)、処置の2週目、そして処置の最後(4週目)に測定した。薬物処置の終了後、マウスの体重を記録した。イソフルラン吸入を用いてマウスを麻酔して、頚椎脱臼によって殺した。臓器(心臓、大動脈、腎臓、脳、血液、および脛骨)を収集して、心臓および大動脈を、以下に記載するように適切に解剖した。全ての臓器を、液体窒素中で急速に凍結させて、マウスを殺した日に血管反応性研究に用いないのであれば、−80℃にて保存した。
【0166】
以下の手順を、先の実験群から収穫した臓器に行った:
【0167】
心線維症分析
コラーゲン沈着を測定するために、心臓、腎臓、または大動脈の凍結切片(全て5μmの厚さ)を、10分間空気乾燥させて、キシレンに3回(それぞれ2分)通して、3回無水アルコール洗浄してから、水道のH
2O中で30秒間リンスした。ピクロシリウスレッドの最適濃度(この場合、飽和ピクリン酸中に希釈した0.05%ピクロシリウスレッド)での染色を実行して、1時間放置した。その後、切片を水中でリンスして、0.01M HCl中で2分間分化させてから、無水アルコールで3回洗浄して脱水した。その後、スライドを3回キシレン洗浄してから、封入媒質としてDPXを用いる標準的な組織学的技術に従って、カバーガラスをかけた。20×の倍率下で、明視野(Olympus, BX51)および円偏光光学顕微鏡(circularized polarized light microscopy)(DM IRB, Leica)を用いて撮像した一方、総視野あたりの陽性間質コラーゲン染色のパーセンテージを、ImageJ 1.46ソフトウェア(Java, NIH)を用いて定量化して、8視野の合計から、特定の動物におけるコラーゲン含有量の最終パーセンテージとして平均した。
【0168】
心肥大のグロス分析
心室重量(VW)を、体重(BW)と、VW:BW(mg/g)の比率として、そしてVWを、脛骨長(TL)と、VW:TL(mg/mm)の比率として、それぞれ比較した。OCT内に包埋して凍結させた心臓を、クリオスタット内で5μmの厚さに横断方向に切片化して、ヘマトキシリンおよびエオシン(Amber Scientific)で着色して、細胞構造を形態的に調査した。Image Jを用いて、心臓切片あたり平均100個の心筋細胞を、60×の倍率下で実行して、分析した。
【0169】
線維症マーカーおよび炎症マーカーの免疫組織化学的位置特定
免疫染色を、5μmの厚さの横断方向凍結心臓切片または5μmの厚さの凍結胸部大動脈に実行した。これらの切片を、空気乾燥させて、氷冷アセトン中でおおよそ15分間固定してから、0.01M PBSバッファで洗浄した(3×10分)。その後、切片を、0.01M PBS中10%ヤギ血清で30分間インキュベートして、非特異的結合を減らした。一次抗体がヤギにおいて産生されたら、この予めブロックした媒質を、PBSおよびトリトン−X中5%BSAで置換する。次に、ブロッキングバッファを除去して、それぞれのマーカーに対する一次抗体を、以下の希釈物および抗体の起源に基づいて、室温にて一晩処理した:IRAP(1:500、自社)、α−SMA(1:500、Abcam)、ビメンチン(1:500、Santa Cruz)、P−IκBα(1:200、Cell Signalling)、F4/80マクロファージ(1:100、Serotec)、MCP−1(1:100、Santa Cruz)、VWF(1:500、abcam)。第2日目に氷冷PBS中にて4連続で洗浄した後、適切な二次抗体をインキュベートした。主に、Alexa 488(InvitrogenまたはAbcam)、Alexa 594(Invitrogen)、およびFluorescein FI-5000(Vector)を用いた。マウスにおいて一次抗体を産生し、mouse on mouse (M.O.M)キット(Vector)を用いる別の免疫蛍光技術を、以下の希釈物および抗体の起源に基づいて、心臓切片に実行した:TGF−β(1:50、Santa Cruz)、ICAM−1(1:100、Santa Cruz)。全ての免疫蛍光切片を、Olympus、BX51顕微鏡で20×の倍率下で見て、Image Jを用いて画像を分析した。
【0170】
心臓スーパーオキシドおよび血管スーパーオキシドの組織化学的位置特定
ジヒドロエチジウム(DHE)を用いて、スーパーオキシドをインサイチューで位置特定した。5μmの心臓切片または10μmの胸部大動脈切片を、2μM DHEで37℃にて45分間インキュベートした。隣接する切片を、PEG−SOD(1000U/mL)と30分間プレインキュベートしてから、DHEと45分インキュベートして、スーパーオキシドについての蛍光シグナルの特異性を確認した。生成物2−ヒドロキシエチジウムの蛍光を、倒立型共焦点顕微鏡(Nikon, C1)を用いて、それぞれ568nmおよび585nmの励起放射スペクトル下で画像化した。レーザー設定は、得られた各画像について同一であった。蛍光の総密度を、Image Jを用いて定量化した。
【0171】
ウェスタンブロット分析による組織タンパク質の発現の決定
ホモジナイズした心室由来の総タンパク質を、25%グリセロール、7.5%SDS、250mMトリス−HCl pH6.8、および0.001gブロモフェノールブルーを含有する1.5×Laemmliバッファを用いて、抽出した。ホモジナイズしたサンプルを超音波で破壊してから、37℃にて20分間加熱して、13,000rpmで4℃にて30分間、遠心分離した。RCDCアッセイを実行して、タンパク質含有量を、ProteinQuant-Lowryソフトウェア(SoftMax Pro)を750nmにて用いて、定量化した。最後に、サンプルを−20℃にて保存した。ウェスタンブロットを実行した。最初に、サンプル(10または25μg/μl/サンプル)を電気泳動にかけて、転写させて、一次抗体TGF−β(25kDa、1:2000、Santa Cruz)、MMP−2(72kDa、1:2000、Millipore)、MMP−8(65kDa、1:2000、Santa Cruz)、MMP−9(84kDa、1:1000、Chemicon)、MMP−13(54kDa、1:100、Abcam)、ICAM−1(85−110kDa、1:200、Santa Cruz)、GAPDH(36kDa、1:20000、Abcam)でプロービングした。二次抗体は、HRP結合ヤギ抗マウスIgG(1:10000、Jackson ImmunoResearch)または抗ウサギIgG(1:10000、DAKO)であった。その後、ECL試薬で現像した。メンブレンを、CLxPosureフィルム(Pierce, Rockford, IL)に曝した。その後、免疫反応バンドを、chemiDoc XRS撮影装置およびQuantity Oneソフトウェア(BioRad)を用いて、定量化した。個々のバンドを、面積あたりのバンド強度を用いて定量化してから、ハウスキーピング遺伝子GAPDHの面積あたりの強度に対して標準化した。
【0172】
Bioplex Multiplex Systemによるサイトカイン発現プロフィールの定量化
心室および心尖におけるサイトカインのレベルを、Bio-Plex multiplexアッセイ(Bio-rad)を用いて検出した。組織を急速凍結させて、Bio-Plex細胞溶解キット(Biorad)により、メーカーの説明書に従って、ホモジナイズした。簡潔に、組織を300μlの洗浄バッファで1回洗浄して、Tissue Lyser(Qiagen)を用いて溶解溶液中でホモジナイズした。サンプルを30分間氷上に放置して、6,000×gにて4℃にて20分間遠心分離した。上澄みを収集して、タンパク質含有量を、Biorad proteinアッセイ(Biorad)を用いて決定した。500μg/mlのタンパク質を用いて、サイトカインのレベルを検出した。Bio-Plex Pro(商標)Mouse Cytokine Standard 23-Plex、グループIのパネル(IL−1α、IL−1β、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−9、IL−10、IL−12(p40)、IL−12(p70)、IL−13、IL−17A、エオタキシン、G−CSF、GM−CSF、IFN−γ、KC、MCP−1、MIP−1α、MIP−1β、RANTES、TNFα)を用いた(ビーズに共有結合する23の異なる抗体を含有した)。サンプル(500μg/ml)または公知の標準品(200〜900μg/ml)の50μlを、各抗体に特異的な希釈結合ビーズで予めコーティングした96ウェルプレートのウェルに加えて、RTにて、暗所において300rpmで30分間振盪させながらインキュベートした。結合していない物質を洗浄除去した後に、ビオチン化した検出抗体を加えて、サンドイッチ錯体を作製して、プレートを、暗所においてRTにて300rpmで振盪させながら、30分間インキュベートした。3回の洗浄後、最終検出錯体を、ストレプトアビジン−フィコエリトリン結合体の付加により形成して、300rpmで振盪させながら、暗所においてRTにて10分間インキュベートした。100μl洗浄バッファによる3回の洗浄後、ビーズを125μlのアッセイバッファ中に再懸濁させた。サンプルを、Bio-Plex MAGPIX Multiplex Reader(Bio-Plex Suspension System)を用いて読みとった。データを、Bio-Plex Managerソフトウェアによって計算した。
【0173】
ゲルザイモグラフィによるゲラチナーゼ活性の決定
0.25%トリトンX−100中でホモジナイズした心尖を、10mM CaCl
2中に溶解させて、6000rpmで2℃にて30分間、遠心分離した。ペレットを、0.1M CaCl
2中で、60℃にて4分間の熱抽出に曝してから、氷中で冷やして、20000rpmで4℃にて30分間、遠心分離した。上澄みを、コンセントレータ(企業)を用いて篩分けて、−20℃にて保存した。MMPザイモグラフィを実行した。最初に、サンプル(25μg/μl/サンプル)を電気泳動にかけた。その後、ゲルを0.25%トリトンX−100で2回、それぞれ15分間洗浄してから、37℃のインキュベーションバッファ中で一晩、インキュベーションさせたままにした。ゲルを、0.1クマシーブルーで1時間染色してから、翌日、7%酢酸で脱色した。その後、バンドの光学密度を、chemiDoc XRS撮影装置およびQuantity Oneソフトウェア(BioRad)を用いて定量化した。
【0174】
Langendorff単離心臓標本による心機能の決定
マウスにヘパリン(500IU)を注射し、20分後に頚椎脱臼により死亡させた。心臓を迅速に摘出して、氷冷した生理食塩水溶液(PSS)中に浸漬した。解剖顕微鏡下で、心臓および大動脈弓の疎性組織(loose tissue)を取り除き、肺の静脈を穿孔して、心臓のフリー灌流を可能にして、心臓を、20ゲージ針を介してLangendorff装置(ML870B2, ADInstruments, Bella Vista, NSW, Australia)上に載せた。心臓を、以下を含有する予め温めたPSSで、連続的に灌流し(mM):NaCl 118;KCl 4.7;NaHCO
3 25;グルコース 11;KH
2PO
4 1.2;MgSO
4 1.2;CaCl
2 1.2mM、そしてO
2 95%およびCO
2 5%(カルボゲン)で37℃にてガス処理した。使用の前に、PSSを、0.22μm酢酸セルロースフィルタ(Millipore)で濾過した。心臓の灌流チャンバを、温度を37℃に維持したサーモスタット制御水ジャケット系で取り囲んだ。細い、200μmカニューレを、薬物送達用のPSSライン内に存在させた(1:10薬物希釈、心臓まで1分のタイムラグ)。Millar圧力カテーテル(Millar instruments Inc.)を、左心房および左心室の接合部にて、穿刺を介して左心室中に導入して、Power lab system(ADInstruments)に連結した。灌流圧力を80mmHgに維持して、標本を、20〜30分間、平衡させたままにした。左心室発生圧(LVDP);拡張終期圧(EDP)、心拍数(HR)、左心室収縮性(+dP/dt)および左心室弛緩(−dP/dt)、ならびに冠状動脈流を、継続的に記録した。
【0175】
Langendorff単離心臓標本における虚血再灌流傷害の決定
虚血を、心臓の灌流を40分間停止することによって、誘導した。この後に60分の再灌流を続けた。左心室発生圧(LVDP)、拡張終期圧(EDP)、および収縮性(±dP/dt)を、60分間記録した。心臓をLangendorff装置から取り出して、高カリウム(100mM)PSS内に3分間入れることによって、拡張期で停止させた。その後、これをマウンティングブロックに(心房を介して)接着させて、アガーブロックによって支持して、1mm厚のスライスにカットした(Integraslice 7550MM(Campden Instruments, UK))。スライスを、2,3,5−トリフェニルテトラヒドロゾリウム(2,3,5-triphenyltetrahydrozolium)(TTZ 10mg/ml)内に入れて、37℃にて15分間インキュベートした。スライスを、リン酸緩衝食塩水中4%パラホルムアルデヒド内に保存して、24時間以内に写真を撮った。梗塞領域を、Image Jソフトウェア(Centre for Information Technology, NIH, Bethesda, MA, USA)を用いて決定した。梗塞面積を、以下のように算出した:
梗塞面積(%)=(総梗塞面積×100)/(総スライス面積−内腔面積)。
【0176】
心エコー検査法による心機能の決定
心エコー検査法を、浅い鎮静(酸素中1%イソフルラン)下で、幼年(3ヵ月齢)、そして老齢の(約22ヵ月齢)WT、および老齢の(約22ヵ月齢)包括的IRAP欠失マウスに実行した。心エコー検査法を、デジタル超音波系(Vevo 2100 Imaging System, VisualSonics, Toronto, Canada)により、18から38MHzの直線配列振動子を用いて実行した。標準的な傍胸骨の長軸画像および短軸画像を、各心エコー調査の間に得て、従来の心エコー測定を、盲検化された観察者によってオフラインで実行した(VisualSonics, Toronto, Canada)。
【0177】
ヒト心臓線維芽細胞の培養研究
市販のヒト心臓線維芽細胞(HCF、Catalog #6300, Sciencell, CA, USA)を、37℃、5%CO
2のインキュベータ内で維持したT75フラスコ内で増殖させた。完全培地組成:M199培地(#11150-059, life technologies)+10%FBS(#10437-028, life technologies)+1%Fibroblast Growth Supplement-2(#2382, ScienCell)+1%ペニシリン/ストレプトマイシン10,000U/ml抗生物質(#15140-122, Life Technologies)。新鮮な完全培地を、培養体が70%のコンフルエンスに達するまで、隔日で補充した。ここで、継代培養するために、培地を、おおよそ90%のコンフルエンスに達するまで、毎日補充した。継代培養するために、培地を破棄して、培養体を、温かいPBSでリンスした。その後、温かい0.05%トリプシン+EDTAを用いて、フラスコを穏やかにかき回しながら、培養体を剥離させて、フラスコの表面に細胞が付着していないことを確実にした。その後、トリプシンを完全培地で中和してから、懸濁液を新しいファルコンチューブ中に移して、1000rpmにて5分間、遠心分離した。上澄みを破棄して、細胞のペレットを5mlの完全培地で再懸濁させてから、細胞を計数した。継代培養用に、100万個のHCFを、T75フラスコ中に入れる。ピクロシリウスレッド(PSR)染色または免疫蛍光実験用に、丸いカバースリップに沿って並ぶ24ウェルプレートにおいて、ウェルあたり10万個の細胞をロードした。ウェスタンブロット分析実験用に、12ウェルプレートにおいて、ウェルあたり10万個の細胞をロードした。3〜6継代細胞を実験に用いた。完全培地中に、線維化促進剤アンギオテンシンII(Ang II;10
−8M 10
−7M 10
−6M)を、細胞を継代してプレーティングする時点にて加えた。処置の全期間は、おおよそ72時間であった。一旦処置がなされると、培地を収集して、細胞を、以下の実験タイプに応じて異なるように、処置した:
【0178】
A)ピクロシリウスレッド(PSR)染色
細胞を最初にカバースリップ上で増殖させて、温かいPBSで1回洗浄して、氷冷メタノール中で−20℃にて一晩固定した。その翌日、メタノールを破棄して、細胞を、低温PBSで1回洗浄して、0.1%PSR溶液と、室温にて1時間インキュベートした。この後、色素を除去して、細胞を0.1%酢酸で3回洗浄してから、100%エタノールで3回(それぞれ5分)、そしてキシレンで3回(それぞれ10分)交換して、脱水した。カバースリップを取り外して、DPX封入媒質を用いて、スライド上に載せた。
【0179】
B)免疫蛍光:
細胞をカバースリップ上で増殖させて、温かいPBSで1回洗浄して、氷冷アセトン中で−20℃にて5分間固定した。アセトンを破棄して、細胞を、PBS中で、室温にて3×10分リンスした。その後、細胞を、10%ヤギ血清で室温にて30分間ブロックしてから、一次抗体(1:500希釈)で4℃にて一晩インキュベートした。その翌日、一次抗体を除去して、細胞を、PBSで、室温にて3×10分リンスした。その後、細胞を、二次抗体(1:500の希釈)と室温にて2時間、インキュベートした。その後、細胞を再度、PBSで、室温にて3×10分リンスした。カバースリップを24ウェルプレートから取り外して、DAPIを有するVectashield封入媒質を用いてスライド上に載せて、乾燥させたままにしてから、共焦点顕微鏡下で撮像した。
【0180】
C)ウェスタンブロット分析:
i.タンパク質抽出:
処置が完了すると、細胞を、温かいPBSで洗浄して、Accutase(A6964, Sigma)を用いて剥離させて、37℃にて5分インキュベートした。その後、細胞を収集して、7000rpmで4℃にて5分間、遠心分離した。この間に、1×RIPA溶解バッファカクテルを新規調製した。遠心分離後、上澄みを破棄した。その後、細胞ペレットを、20μlの1×RIPA溶解バッファカクテル中に溶解させて、氷上で30分間維持した。その後、細胞溶解液を、13200rpmで4℃にて10分間、遠心分離して、核および不溶性の細胞残渣をペレット化させた。上澄み(約20μl)を新しいチューブに移して、タンパク質濃度を、Biorad Lowry proteinアッセイを用いて測定した。それぞれのマーカーのタンパク質の定量化を、標準的なウェスタンブロット分析によって実行した。
【0181】
ii.ウェスタンブロッティング:
10%ゲル(15ウェル)を、TGX Stain-Free FastCast Acrylamideスターターキット、10%(#161-0183, Biorad)を用いて作製した。3部のサンプルを4×サンプルバッファの一部で希釈することによって、すなわち、抽出したタンパク質サンプルの10μl(総抽出タンパク質の半分)を、3.3μlの4×Laemliサンプルバッファ(#161-0747, Biorad)中に加えることによって、サンプルを調製した。この工程に至るまでは、サンプルを常に氷上で維持した。サンプルを95℃にて5分間沸騰させた。15ウェルゲル上に全サンプルをロードした。タンパク質ラダーも加えた。1×ランニングバッファを10×バッファ(#161-0732, Biorad)から作製した。タンクを一杯にして、約40分〜1時間、200Vでサンプルをランした。所望のタンパク質バンドが適切に分離したならば、ゲル電気泳動を終了した。サンドイッチスタックおよびメンブレン(メンブレンは約10秒間、メタノール中に予め浸した)を用意してから、それらを全て、1×Trans-Blot Turbo Transferバッファ(#170-4272)中に浸漬した。濡らした大量のスタックを、カセットの底部に置いてから(底部イオンリザーバスタック)、濡らしたメンブレン、その次にゲルを、そして最後に、別の濡らしたトランスファスタックを上部に置いた(上部イオンリザーバスタック)。トラップした気泡を放出するために、まとめたサンドイッチをブロットローラでロールした。カセット蓋を閉じてロックし、そしてカセットをTransfer-Blot Turbo転写システム内に挿入して、転写を開始した。転写が完了すると、メンブレンをTBS−T(1×TBS中0.1%トゥイーン−20)中で簡単に洗浄した。メンブレンをブロッキングバッファ(TBS−T/5%スキムミルク;5g/100ml)中で室温にて少なくとも1時間、機械シェーカ上でブロックした。メンブレンを入れ換えて、一次抗体と4℃にて一晩、インキュベートした。その翌日、メンブレンをTBS−T中で3×15分洗浄した。二次抗体を、5%スキムミルク中で室温にて1時間、シェーカ上でインキュベートした。TBS−T中で3×15分洗浄した。メンブレンをECL基質と5分間インキュベートした。メンブレンを、デジタル撮影装置ChemiDoc MPイメージングシステムで画像化した。バンドを、Image Labソフトウェアを用いて分析した。α−平滑筋アクチン(α−SMA)およびI型コラーゲン等の関心対象のマーカーを、ハウスキーピング遺伝子GAPDHに対して定量化した。全てのタンパク質発現を、対照群に対する相対比率として評価した。
【0182】
肝線維症−実験設計
動物
30〜40グラムを秤量したおおよそ4から6ヶ月齢の雄C57BL/6J野生型(WT)マウスを、Monash Animal Research Laboratoryから得た。動物を、Department of Pharmacology, Monash University内のAnimal Houseにおいて、標準的なケージ内に収容し、そこで最初に、標準的な食事を維持した。収容部を、おおよそ21℃±5℃に維持し、マウスを12時間の明/暗サイクルに曝して、食物および水を自由に摂らせた。着手した実験手順は、School of Biomedical Sciences (SOBS) Animal Ethics Committee of Monash University (2013/118)によって承認かつ認定された。
【0183】
実験モデル
高塩分食(5%塩)モデルが、臨床的に関連した疾患−逆転モデルであり、これは、先進国において現在拡大中の問題である、ヒトによる高塩分摂取量を再現し得る。高塩分摂取量は、心血管系の変化を誘導して、心臓および肝臓におけるリモデリングおよび線維形成を誘導する。
【0184】
WTマウスを、対照として機能する標準的な齧歯類食(ND;0.5%NaCl)に、または高塩分食(HSD;5%NaCl)に、4週間配置した。4週後、HSDのマウスを無作為化して、ビヒクル(DMSO/30%HBC溶液)またはIRAPインヒビタ(HFI419;0.72mg/kg/d)を受けさせた。ビヒクルおよびIRAPインヒビタは双方とも、s.c.浸透圧ミニポンプを介して投与した。マウスにHSDを与え続けながら、これらの処置を受けさせた。8週の処置期間の終了後、マウスを秤量してから、過量のイソフルラン吸入によって殺した。肝臓を摘出して、切片化した。肝臓の半分を10%ホルマリン中に入れ、残りを液体窒素中で凍結させてから、今後の使用のために−80℃フリーザ内で保存した。
【0185】
肝線維症の評価
ホルマリン固定した、パラフィン包埋肝臓を、4μmの厚さに切片化して、肝線維症の分析について標準的な手順に従って、マッソントリクロームで染色した。最初に、切片を脱パラフィンして、100%アルコール、95%アルコール、および75%アルコールの洗浄によって再水和させてから、蒸留水中で洗浄した。切片を、ブアン溶液中で56℃にて1時間再固定して、染色品質を向上させてから、水道の流水中で5〜10分間リンスして、黄色を除去した。この後、切片を10分間のワイゲルト鉄ヘマトキシリン実験溶液中で着色した。水道の温かい流水中で10分間リンスした。蒸留水中で洗浄した。Biebrich scarlet-acid fuchsin solution中で10〜15分間染色した。蒸留水中で洗浄した。リンモリブデンリン−タングステン酸溶液中で10〜15分間、コラーゲンがもはや赤色でなくなるまで、分化させた。切片をアニリンブルー溶液に直接(リンスなしで)移して、5〜10分間染色した。蒸留水中で簡単にリンスして、1%酢酸溶液中で2〜5分間分化させた。蒸留水中で洗浄した。95%エチルアルコール、無水エチルアルコールに非常に迅速に通して脱水させて、キシレン中でクリアにした。DPX封入媒質で封入した。
【0186】
肝線維症の定量化を、Aperioスキャナ(Monash Histology Platform, Monash University)で5×の倍率でキャプチャした画像を用いて、実行した。各肝臓切片を、この倍率にて5つの異なる視野で写真を撮った。Image J 1.48ソフトウェア(Java, NIH)を用いて、間質コラーゲンおよび血管周囲コラーゲンのパーセンテージを分析かつ定量化して、5つのランダムな視野のパーセンテージを、その特定の動物についてのコラーゲンの最終パーセンテージについて、平均した。コラーゲン発現の全分析を、盲検化して行った。
【0187】
統計分析
結果を、平均±平均の標準誤差(SEM)として表した。全ての統計プロットおよび統計分析を、Prismプログラム(GraphPad Software Inc. SanDiego, CA, USA)を用いて実行した。老齢WTと、老齢モデルにおけるIRAP KOマウスとの統計学的比較(心肥大、コラーゲン沈着、全てのIHC定量化、およびウェスタンブロット分析)、または逆転モデルにおけるビヒクル処置老齢WTとHFI−419処置老齢WTとの比較を全て、t検定を用いて行った。幼年WTまたはIRAP
−/−と老齢のWTまたはIRAP
−/−とを比較するデータセット、および内皮血管拡張機能のデータ全てについて、二元配置分散分析(ANOVA)の後に、必要に応じて、事後ボンフェローニ補正を用いて、比較した。Langendorff単離心臓灌流実験において、標準偏差の同一性およびガウス分布を、コルモゴロフ/スミルノフ法を用いて試験した。事後ボンフェローニ検定による一元配置ANOVAおよび二元配置ANOVAを、LVDP、EDP、HR、±dP/dtの基礎的な記録に実行した一方、LVDPおよびEDPの虚血後再灌流を、二元配置ANOVAを用いて評価した。
【0188】
化合物
HFI−419、化合物1、および化合物2を、それぞれ国際公開第2009065169号パンフレット、オーストラリア国特許第2015901676号明細書、およびAndersson et al J. Med. Chem., (2010) 53, 8059に従って合成した。一部の化合物の合成を以下に記載し、それらの阻害活性は、国際出願PCT/AU2016/050332号明細書に記載されている。
【0189】
一般的な情報
全ての試薬および溶媒は、受け取ったままの状態で用いた。プロトン核磁気共鳴(
1H n.m.r.)スペクトルを、300MHzにて、Bruker Advance DPX-300により、または400MHzにて、Bruker Ultrashield-Advance III NMR分光計を用いて、記録した。
1H n.m.r.スペクトルは、示すように、重水素化溶媒中の溶液に言及する。残りの溶媒のピークを、内部基準として用いた。各共鳴を、以下の規則に従って割り当てた:化学シフト(δ)を、残りの溶媒のピークに対する100万分の1(ppm)で測定した。高分解能質量分析値を、エレクトロスプレーイオン源(ESI)を装備するBruker Apex II Fourier Transform Ion Cyclotron Resonance Mass Spectrometerで収集した。低分解能質量分析を、大気圧(ESI/APCI)イオン源を備えたMicromass Platform IIシングル四重極質量スペクトロメータを用いて、実行した。
【0190】
液体クロマトグラフィ質量スペクトル(LCMS)を、エレクトロスプレーイオン化源およびシングル四重極質量アナライザに直接連結したフォトダイオードアレイ検出器(特に明記しない限り、214nm)を組み込んだ島津2020 LCMSシステムで、測定した。標準的なRP−HPLCを、室温にて、Phenomenex Luna C8(100×2.0mmI.D.)カラムを使用して実行した。溶出は、特に明記しない限り、0.05%水性トリフルオロ酢酸中0〜64%CH
3CNの勾配により、流量0.2ml/分にて10分にわたった。質量スペクトルを、ポジティブモードで得た。走査範囲は200〜2000m/zであった。分析HPLCを、ダイオードアレー検出器(254nm)を組み込んだWaters 2690 HPLCシステムで、Phenomenexカラム(Luna C8(2)、100×4.5mmI.D.)を使用して、実行した。溶出は、0.1%水性トリフルオロ酢酸中16〜80%アセトニトリルの勾配により、流量1ml/分にて10分にわたった。分析薄層クロマトグラフィ(t.l.c.)を、シリカゲル60 F254でコーティングしたMerckアルミニウムシート上で実行した。視覚化を、UVランプで達成した。カラムクロマトグラフィを、シリカゲル60(Merck)を用いて実行した。化合物の純度(≧95%)を、逆相HPLCまたは1H n.m.rによって確立した。
【0191】
一般的な方法
ピペリジン(cat.)を、マロノニトリル(1.1eq.)およびアルデヒド(1eq.)のEtOH(3〜5mL)溶液に加えて、周囲温度にて15分間撹拌した。アセト酢酸エチル(1.1eq.)を加えて、混合液を、周囲温度にて4時間撹拌した。溶媒の容量を減らして、生じた沈殿物を収集して、低温EtOHで洗浄して、表題の化合物が得られた。必要であれば、化合物を、高温EtOHから再結晶化させ、またはDCMで摩砕した。
【0192】
4−(2−アミノ−3−シアノ−5−(エトキシカルボニル)−6−メチル−4H−ピラン−4−イル)安息香酸
一般的な方法に従って、4−カルボキシベンズアルデヒド(1.0g、6.6mmol)、マロノニトリル(0.48g、7.3mmol)、アセト酢酸エチル(0.95g、7.3mmol)、ピペリジン(8滴)、およびエタノール(20mL)により、表題の化合物が白色の固体として得られた(1.7g、78%)。
【0193】
3−(2−アミノ−3−シアノ−5−(エトキシカルボニル)−6−メチル−4H−ピラン−4−イル)安息香酸
一般的な方法に従って、3−カルボキシベンズアルデヒド(100mg、0.66mmol)、マロノニトリル(48mg、0.73mmol)、アセト酢酸エチル(95mg、0.73mmol)、ピペリジン(滴)、およびエタノール(3mL)により、表題の化合物が、EtOHからの再結晶後に、白色の固体として得られた(41mg、19%)。
【0194】
エチル4−(4−アセトキシ−3−メチルフェニル)−6−アミノ−5−シアノ−2−メチル−4H−ピラン−3−カルボキシレート
一般的な方法に従って、4−ホルミル−2−メチルフェニルアセテート(100mg、0.56mmol)、マロノニトリル(41mg、0.67mmol)、アセト酢酸エチル(80mg、0.67mmol)、ピペリジン(3滴)、およびエタノール(5mL)により、表題の化合物が白色の固体として得られた(87mg、44%)。
【0195】
エチル4−(4−アセトキシ−3,5−ジメチルフェニル)−6−アミノ−5−シアノ−2−メチル−4H−ピラン−3−カルボキシレート
一般的な方法に従って、4−ホルミル−2,6−ジメチルフェニルアセテート(85mg、0.44mmol)、マロノニトリル(32mg、0.49mmol)、アセト酢酸エチル(63mg、0.49mmol)、ピペリジン(2滴)、およびエタノール(3mL)により、表題の化合物が白色の固体として得られた(146mg、90%)。
【0196】
エチル6−アミノ−5−シアノ−2−メチル−4−(4−(ピリジン−2−イル)フェニル)−4H−ピラン−3−カルボキシレート
一般的な方法に従って、4−(2−ピリジル)ベンズアルデヒド(250mg、1.36mmol)、マロノニトリル(99mg、1.50mmol)、アセト酢酸エチル(195mg、1.50mmol)、ピペリジン(3滴)、およびエタノール(5mL)により、表題の化合物が白色の固体として得られた(410mg、83%)。
【0197】
エチル6−アミノ−5−シアノ−2−メチル−4−(キノリン−2−イル)−4H−ピラン−3−カルボキシレート
一般的な方法に従って、2−キノリンカルボキサルデヒド(250mg、1.59mmol)、マロノニトリル(115mg、1.75mmol)、アセト酢酸エチル(228mg、1.75mmol)、ピペリジン(3滴)、およびエタノール(5mL)により、表題の化合物が、再結晶後に、白色の固体として得られた(302mg、57%)。
【0198】
エチル6−アミノ−5−シアノ−2−メチル−4−(キノリン−3−イル)−4H−ピラン−3−カルボキシレート
一般的な方法に従って、3−キノリンカルボキサルデヒド(50mg、0.32mmol)、マロノニトリル(23mg、0.35mmol)、アセト酢酸エチル(45mg、0.35mmol)、ピペリジン(1滴)、およびエタノール(3mL)により、表題の化合物が白色の固体として得られた(85mg、79%)。
【0199】
エチル6−アミノ−5−シアノ−2−メチル−4−(キノリン−4−イル)−4H−ピラン−3−カルボキシレート
一般的な方法に従って、4−キノリンカルボキサルデヒド(250mg、1.59mmol)、マロノニトリル(115mg、1.75mmol)、アセト酢酸エチル(228mg、1.75mmol)、ピペリジン(2滴)、およびエタノール(5mL)により、表題の化合物が白色の固体として得られた(395mg、74%)。
【0200】
4−(2−アミノ−3−シアノ−5−(メトキシカルボニル)−6−メチル−4H−ピラン−4−イル)安息香酸
ピペリジン(2滴)を、4−(2,2−ジシアノビニル)安息香酸(200mg、1.01mmol)およびアセト酢酸メチル(117mg、1.01mmol)のEtOH(3mL)懸濁液に加えた。混合物を周囲温度にて6時間撹拌した。生じた沈殿物を収集して、低温EtOHで洗浄して、白色の固体が得られた(117mg)。カラムクロマトグラフィ(SiO
2、EtOAc:MeOH(9:1))により、表題の化合物が白色の固体として得られた(78mg、25%)。
【0201】
4−(2−アミノ−5−(ベンジルオキシカルボニル)−3−シアノ−6−メチル−4H−ピラン−4−イル)安息香酸
(i)4−(2,2−ジシアノビニル)安息香酸
ピペリジン(66μL、0.67mmol)を、マロノニトリル(480mg、7.27mmol)および4−カルボキシベンズアルデヒド(1.0g、6.65mmol)のEtOH(5mL)混合液に加えた。懸濁液を加熱して、18時間還流させた。冷却した後に、溶媒を真空内で除去して、トルエン中に入れた。生じた沈殿物を収集して、トルエンおよび低温EtOHで洗浄して、中間体が淡い黄色の固体として得られた(1.28g、85%)。
【0202】
(ii)4−(2−アミノ−5−(ベンジルオキシカルボニル)−3−シアノ−6−メチル−4H−ピラン−4−イル)安息香酸
ピペリジン(5μL、0.05mmol)を、4−(2,2−ジシアノビニル)安息香酸(100mg、0.5mmol)およびアセト酢酸ベンジル(87μL、0.5mmol)のEtOH(3mL)懸濁液に加えた。混合液を周囲温度にて6時間撹拌した。生じた沈殿物を収集して、低温EtOHで洗浄して、白色の固体が得られた(55mg)。カラムクロマトグラフィ(SiO
2、EtOAc)により、表題の化合物が淡褐色の固体として得られた(31mg、16%)。
【0203】
ベンジル6−アミノ−5−シアノ−4−(4−シアノフェニル)−2−メチル−4H−ピラン−3−カルボキシレート
(i)2−(4−シアノベンジリデン)マロノニトリル
マロノニトリル(111mg、1.68mmol)および4−シアノベンズアルデヒド(200mg、1.53mmol)のH
2O(10mL)懸濁液を、100℃にて8時間撹拌した。生じた沈殿物を収集して、H
2Oで洗浄して、表題の化合物がクリーム状の固体として得られた(228mg、83%)。
【0204】
(ii)ベンジル6−アミノ−5−シアノ−4−(4−シアノフェニル)−2−メチル−4H−ピラン−3−カルボキシレート
ピペリジン(3μL、0.028mmol)を、中間体2−(4−シアノベンジリデン)マロノニトリル(50mg、0.28mmol)およびアセト酢酸ベンジル(48μL、0.28mmol)のEtOH(2mL)懸濁液に加えた。混合液を、周囲温度にて1時間撹拌した。生じた沈殿物を収集して、低温EtOHで洗浄して、表題の化合物が白色の固体として得られた(77mg、74%)。
【0205】
ベンジル6−アミノ−5−シアノ−4−(3−シアノフェニル)−2−メチル−4H−ピラン−3−カルボキシレート
(i)2−(3−シアノベンジリデン)マロノニトリル
マロノニトリル(111mg、1.68mmol)および3−ホルミルベンゾニトリル(200mg、1.53mmol)のH
2O(5mL)懸濁液を、マイクロ波加熱により100℃にて、3分間撹拌した。生じた沈殿物を収集して、H
2Oで洗浄して、表題の化合物が白色の固体として得られた(225mg、82%)。
【0206】
(ii)ベンジル6−アミノ−5−シアノ−4−(3−シアノフェニル)−2−メチル−4H−ピラン−3−カルボキシレート
ピペリジン(3μL、0.028mmol)を、2−(3−シアノベンジリデン)マロノニトリル(50mg、0.28mmol)およびアセト酢酸ベンジル(48μL、0.28mmol)のEtOH(2mL)懸濁液に加えた。混合液を周囲温度にて1時間撹拌した。生じた沈殿物を収集して、低温EtOHで洗浄して、表題の化合物が白色の固体として得られた(82mg、79%)。
【0207】
4−(3−アセチル−6−アミノ−5−シアノ−2−メチル−4H−ピラン−4−イル)安息香酸
ピペリジン(38μL、0.38mmol)を、4−(2,2−ジシアノビニル)安息香酸(750mg、3.78mmol)およびアセチルアセトン(379mg、3.78mmol)のEtOH(5mL)懸濁液に加えた。混合液を周囲温度にて18時間撹拌した。生じた沈殿物を収集して、低温EtOHで洗浄して、表題の化合物が白色の固体として得られた(840mg、75%)。
【0208】
4−(3−アセチル−6−アミノ−5−シアノ−2−メチル−4H−ピラン−4−イル)安息香酸のサンプルを、NH
4HCO
3(2eq.)の水溶液中に溶解させて、凍結乾燥して、化合物1が得られた。
【0209】
3−(3−アセチル−6−アミノ−5−シアノ−2−メチル−4H−ピラン−4−イル)安息香酸
ピペリジン(2滴)を、マロノニトリル(48mg、0.73mmol)および3−カルボキシベンズアルデヒド(100mg、0.66mmol)のアセトニトリル(3mL)溶液に加えて、周囲温度にて1時間撹拌した。アセチルアセトン(75μL、0.73mmol)を加えて、混合液を周囲温度にて4時間撹拌した。溶媒の容量を減らして、生じた残留物を、カラムクロマトグラフィ(SiO
2、CHCl
3:ACN:AcOH、9:0.7:0.3)によって精製した。生成物が、淡褐色の固体として得られた(13mg、7%)。
【0210】
5−アセチル−2−アミノ−6−メチル−4−(キノリン−2−イル)−4H−ピラン−3−カルボニトリル
(i)2−(キノリン−2−イルメチレン)マロノニトリル
マロノニトリル(92mg、1.39mmol)および2−キノリンカルボキサルデヒド(200mg、1.27mmol)のH
2O(5mL)懸濁液を、周囲温度にて7時間撹拌した。沈殿物を収集して、H
2Oで洗浄して、表題の化合物が緑色の固体として得られた(240mg、92%)。
【0211】
(ii)5−アセチル−2−アミノ−6−メチル−4−(キノリン−2−イル)−4H−ピラン−3−カルボニトリル
ピペリジン(2.4μL、0.024mmol)を、2−(キノリン−2−イルメチレン)マロノニトリル(50mg、0.24mmol)およびアセチルアセトン(25μL、0.24mmol)のEtOH(0.5mL)溶液に加えた。混合液を周囲温度にて6時間撹拌した。生じた沈殿物を収集して、低温EtOHで洗浄して、淡い茶色の固体が得られた(24mg、33%)。
【0212】
5−アセチル−2−アミノ−4−(3−シアノフェニル)−6−メチル−4H−ピラン−3−カルボニトリル
ピペリジン(3μL、0.028mmol)を、2−(3−シアノベンジリデン)マロノニトリル(50mg、0.28mmol)およびアセチルアセトン(28mg、0.28mmol)のEtOH(2mL)懸濁液に加えた。混合液を周囲温度にて1時間撹拌した。生じた沈殿物を収集して、低温EtOHで洗浄して、白色の固体が得られた(64mg)。カラムクロマトグラフィ(SiO
2、EtOAc:ヘキサン、1:2に続いて100%EtOH)により、表題の化合物が白色の固体として得られた(36mg、46%)。
【0213】
5−アセチル−2−アミノ−6−メチル−4−(4−(チオフェン−2−イル)フェニル)−4H−ピラン−3−カルボニトリル
(i)2−(4−(チオフェン−2−イル)ベンジリデン)マロノニトリル
ピペリジン(2.6μL、0.027mmol)を、マロノニトリル(19mg、0.29mmol)および4−(2−チエニル)ベンズアルデヒド(50mg、0.27mmol)のEtOH(1.5mL)溶液に加えた。混合液を周囲温度にて1時間撹拌した。生じた沈殿物を収集して、低温EtOHで洗浄して、中間体が黄色の固体として得られた(53mg、83%)。
【0214】
(ii)5−アセチル−2−アミノ−6−メチル−4−(4−(チオフェン−2−イル)フェニル)−4H−ピラン−3−カルボニトリル
ピペリジン(2.2μL、0.022mmol)を、中間体2−(4−(チオフェン−2−イル)ベンジリデン)マロノニトリル(53mg、0.22mmol)およびアセチルアセトン(23μL、0.22mmol)のトルエン(1mL)懸濁液に加えた。混合液を周囲温度にて4時間撹拌した。生じた沈殿物を収集して、トルエンで洗浄して、淡い黄色の固体が得られた。カラムクロマトグラフィ(SiO
2、CH
2Cl
2:Et
2O、95:5)により、表題の化合物が白色の固体として得られた(40mg、77%)。HRMS(ESI+):実測値:m/z337.1008(M+H)+,C
19H
17N
2O
2S理論値m/z337.1001.
【0215】
5−アセチル−2−アミノ−6−メチル−4−(キノキサリン−6−イル)−4H−ピラン−3−カルボニトリル
(i)2−(キノキサリン−6−イルメチレン)マロノニトリル
ピペリジン(4.7μL、0.047mmol)を、マロノニトリル(34mg、0.52mmol)およびキノキサリン−6−カルバルデヒド(75mg、0.47mmol)のEtOH(1mL)溶液に加えた。混合液を周囲温度にて1時間撹拌した。生じた沈殿物を収集して、低温EtOHで洗浄して、中間体が淡褐色の固体として得られた(66mg、68%)。
【0216】
(ii)5−アセチル−2−アミノ−6−メチル−4−(キノキサリン−6−イル)−4H−ピラン−3−カルボニトリル
ピペリジン(1.4μL、0.015mmol)を、中間体2−(キノキサリン−6−イルメチレン)マロノニトリル(30mg、0.145mmol)およびアセチルアセトン(15μL、0.145mmol)のトルエン(1mL)懸濁液に加えた。混合液を周囲温度にて4時間撹拌した。生じた沈殿物を収集して、低温Et
2Oで洗浄して、表題の化合物が淡褐色の固体として得られた(38mg、86%)。HRMS(ESI+):実測値:m/z307.1190(M+H)+,C
17H
15N
4O
2理論値m/z307.1195.
【0217】
2−(3−アセチル−6−アミノ−5−シアノ−2−メチル−4H−ピラン−4−イル)安息香酸
(i)2−(2,2−ジシアノビニル)安息香酸
マロノニトリル(48mg、0.73mmol)および2−カルボキシベンズアルデヒド(100mg、0.67mmol)のH
2O(4mL)懸濁液を、マイクロ波加熱により100℃にて、3分間撹拌した。生じた沈殿物を収集して、H
2Oで洗浄して、表題の化合物が白色の固体として得られた(34mg、55%)。
【0218】
2−(3−アセチル−6−アミノ−5−シアノ−2−メチル−4H−ピラン−4−イル)安息香酸
ピペリジン(12.5μL、0.125mmol)を、2−(2,2−ジシアノビニル)安息香酸(50mg、0.25mmol)およびアセチルアセトン(25mg、0.25mmol)のEtOH(3mL)懸濁液に加えた。混合液を3日間撹拌した。溶媒を真空内で除去して、残留物をEtOAc内に入れて、18時間撹拌した。生じた沈殿物を収集して、低温EtOAcで洗浄して、淡い黄色の固体が得られた(76mg)。カラムクロマトグラフィ(SiO
2、ACN:CHCl
3、2:1に続いてEtOAc:MeOH、95:5)により、黄色の残留物が得られた(33mg)。
【0219】
4−(2−アセトアミド−5−アセチル−3−シアノ−6−メチル−4H−ピラン−4−イル)安息香酸
4−(3−アセチル−6−アミノ−5−シアノ−2−メチル−4H−ピラン−4−イル)安息香酸(250mg、0.84mmol)の無水酢酸(3mL)溶液を加熱して、3時間還流させた。混合液をN
2流下で濃縮してから、氷冷したH
2O中に注いだ。水溶液をEtOAcで抽出して(3×20mL)、組み合わせた有機抽出物をブライン(20mL)で洗浄して、乾燥させて(MgSO
4)、濾過して、真空内で減らして、黄色の油が得られた。黄色の油をEtOH(5mL)中に溶解させて、ヒドラジン水和物(1.3eq.)を加えた。30分間の撹拌後、懸濁液を真空内で減らして、H
2O(10mL)内に入れて、EtOAc(3×10mL)で抽出した。組み合わせた有機抽出物を乾燥させて(MgSO
4)、濾過して、溶媒を真空内で除去して、黄色の油が得られた。カラムクロマトグラフィ(SiO
2、EtOAc:MeOH、95:5に続いて100%EtOH)により、表題の化合物が得られた(20mg、7%)。
【0220】
4−(2−アミノ−3,5−ビス(エトキシカルボニル)−6−メチル−4H−ピラン−4−イル)安息香酸
(i)(Z)−4−(2−シアノ−3−エトキシ−3−オキソプロプ−1−エニル)安息香酸
ピペリジン(13μL、0.13mmol)を、エチルシアノアセテート(151mg、1.33mmol)および4−カルボキシベンズアルデヒド(200mg、1.33mmol)のEtOH(3mL)懸濁液に加えた。混合液を加熱して、3時間還流させた。混合液を真空内で濃縮した。トルエンを加えて、生じた沈殿物を収集して、トルエンで洗浄して、中間体が白色の固体として得られた(278mg、85%)。
【0221】
(ii)4−(2−アミノ−3,5−ビス(エトキシカルボニル)−6−メチル−4H−ピラン−4−イル)安息香酸
ピペリジン(20μL、0.2mmol)を、(Z)−4−(2−シアノ−3−エトキシ−3−オキソプロプ−1−エニル)安息香酸(50mg、0.2mmol)およびアセト酢酸エチル(26mg、0.2mmol)のEtOH(3mL)懸濁液に加えた。混合液を周囲温度にて2日間撹拌した。ピペリジン(10μL、0.1mmol)を加えて、溶液をさらに1日間撹拌した。混合液を真空内で濃縮して、残留物をカラムクロマトグラフィ(SiO
2、EtOAc:ヘキサン、2:1)によって精製して、黄色の油が得られた。EtOHからの再結晶により、白色の固体が得られた(>5mg)。
【0222】
(v)4−(3−アセチル−6−アミノ−5−(エトキシカルボニル)−2−メチル−4H−ピラン−4−イル)安息香酸
ピペリジン(30μL、0.3mmol)を、(Z)−4−(2−シアノ−3−エトキシ−3−オキソプロプ−1−エニル)安息香酸(50mg、0.2mmol)およびアセチルアセトン(20mg、0.2mmol)のEtOH(3mL)懸濁液に加えた。混合液を周囲温度にて24時間撹拌した。分析HPLCにより、出発材料の、生成物に対する比率が1:1であると示される。しかしながら、更なる反応時間により変質する。カラムクロマトグラフィ(SiO
2、EtOAc)による精製により、表題の化合物が得られた(2mg、3%)。
【0223】
IRAPの酵素アッセイ
粗膜を、完全長ヒトIRAPまたは空のベクターでトランスフェクションしたHEK 293T細胞から調製してから、50mMトリス−HCl、1%トリトンX−100からなるバッファpH7.4中での4℃での5時間にわたる撹拌下で、可溶化させる。可溶化の後、膜を、23,100gでの4℃15分間の遠心分離によってペレット化して、上澄みを、IRAP活性源として保存する。IRAPの酵素活性を、380および440nmのそれぞれ励起および放射波長での、蛍光性製品MCAの放出によって監視される合成基質Leu−MCA(Sigma- Aldrich, Missouri, USA)の加水分解によって、決定する。アッセイを、96ウェルプレート内で実行する;各ウェルに、50mMトリス−HClバッファ(pH7.4)の100μLの最終容量中0.2〜10μgの可溶化膜タンパク質、広範な濃度の基質を含有させる。放射を、空のベクターでトランスフェクションした膜とのインキュベーションから減算することによって、基質の非特異的加水分解を補正する。反応を37℃にて30分間続行して、IRAP阻害活性を、96ウェルマイクロタイタープレート内で、吸光度をWallac Victor 3分光光度計で監視して、決定する。動態パラメータ(K
mおよびV)を、ミカエリス−メンテン式の非線形フィッティング(GraphPad Prism, GraphPad Software Inc., CA, USA);Leu−MCAの最終濃度15.6μM〜1mMによって、決定する。競合インヒビタについてのインヒビタ定数(K
j)を、関係IC
50=K;(1+[S]/K
m)から算出する;式中、IC
50値を、広範なインヒビタ濃度(10
〜9から10
”4M)にわたって決定する。Leu−MCAについてのIRAPのK
m値を、動態研究から決定する。化合物の、IRAPに対する結合親和性を、化合物の濃度を増大させながら(10
*8から10
〜3M)存在させて、Leu−MCAの加水分解の阻害を監視することによって、調査した。
【0224】
インヒビタ、例えば小分子または抗体が、IRAPについて選択的であるか特異的であるかを見るために、他の亜鉛依存性メタロペプチダーゼについてのインヒビタの阻害活性を、96ウェルマイクロタイタープレート内で、吸光度をWallac Victor 3分光光度計で監視して、決定することができる。そのようなアッセイが、国際公開第2009/065169号パンフレットに記載されており、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼおよびヘキソキナーゼの活性、ロイコトリエンA4ヒドロラーゼアッセイ、アミノペプチダーゼNアッセイ、ならびにアンジオテンシン変換酵素アッセイが挙げられる。
【0225】
全体的に、以下の実施例における研究は、IRAP活性の除去または阻害が、心線維症および血管組織線維症に劇的な作用を及ぼし、そしてIRAPを、CVDにおける新規の標的として同定したことを示す。
【0226】
実施例1
線維症のアンギオテンシンII起因性マウスモデルの心臓および血管におけるIRAP特異的作用を調査する研究を、最初の原理実証研究として実行した。遺伝的欠失モデルにおいて、雄の幼年成体のWTマウスおよびIRAP KOマウス(4〜6ヵ月齢)を、Ang IIまたは生理食塩水で皮下に4週間、浸透圧ミニポンプを介して処理した。血圧を隔週に測った。薬理学的阻害モデルにおいて、WTマウスを、合成IRAPインヒビタHFI−419で、Ang II−注入と併せて4週間、皮下に共処置した。インヒビタを、1:3の比率のジメチルスルホキシド(DMSO)および2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HBC)中に溶解させた。
【0227】
Ang II注入を、心血管系に「ストレスを加える」ための従来モデルとして用いた。というのも、この内因性ホルモンは、本明細書において言及した以前の心血管疾患の全てについて周知のリスク要因である、高血圧、心不全、腎不全、および血管硬化が挙げられる広範な心血管疾患の発症および進行に寄与するからである。このモデルの、自然に年老いたモデルに勝る利点は、本明細書において既に注目した生化学的特徴および臨床的特徴が、より迅速に表されるような、臓器線維症の迅速な進行があることである。特に臓器線維症および高血圧における、そのような迅速な変化は、4週間にわたる遺伝子型および薬理学的阻害の試験を容易にし、このこともまた、異なる臨床前モデルにおける本発明者らの発見の普遍性を確認する目的に適う。ゆえに、Ang II注入モデルは、加齢で見られるよりも高速で、臓器線維症および機能障害の悪化に至り、複数の心血管病理を伴う高血圧の、よく認識されたモデルである。
【0228】
IRAP欠失またはIRAPインヒビタ処置の、アンギオテンシンII注入後の血圧に及ぼす影響
IRAP欠失、またはHFI419による常習的IRAPインヒビタ処置は、血圧の、Ang II起因性の上昇を弱める(
図1)。データを、平均±s.e.mとして表す;P値を、反復測定二元配置分散分析(ANOVA)によって決定する。
【0229】
アンギオテンシンII注入マウスの大動脈および心臓におけるIRAP発現
IRAP発現は、Ang IIを注入したWTマウスの大動脈(
図2a)および心臓(
図2b)において、増大する。これは、Ang II±ビヒクル/HFI−419で処置した成体(4〜6ヵ月齢)のWTマウスおよびIRAP
−/−マウス(n=5)由来の5μmの厚さの横断方向大動脈切片の内側領域および外膜領域におけるIRAP発現の定量化によって、示される。さらに、
図2bにおけるデータは、Ang II±ビヒクル/HFI−419で処置した成体(4〜6ヵ月齢)のWTマウスおよびIRAP
−/−マウス(n=5)由来の5μmの厚さの横断方向心臓切片におけるIRAPの定量化に由来した。IRAPの定量化を、陽性染色組織面積パーセントとして表す。データを、平均±s.e.mとして表す;P値を、二元配置分散分析(ANOVA)によって決定する。
【0230】
IRAPの遺伝的欠失および薬理学的阻害が、アンギオテンシンII介在性大動脈線維形成、および関連マーカーを弱める。
生理食塩水またはAng II±ビヒクル/HFI−419で処置した成体(4〜6ヵ月齢)のWTマウスおよびIRAP
−/−マウス由来の胸部大動脈切片における陽性染色免疫蛍光の典型的な画像および定量化は、赤色のTGF−β
1およびα−SMAの発現の低下を実証した(緑色は、弾性薄膜の自家蛍光を示す)(
図3)。ピクロシリウスレッドを用いたコラーゲン染色を決定してから、偏光顕微鏡観察により画像化した。データを、陽性染色面積パーセンテージの平均±s.e.mとして表す(n=5〜6)。
*P<0.05;
**P<0.01;
***P<0.001;
****P<0.0001を、多重比較についてボンフェローニ補正した一元配置ANOVAによって決定した。これらの発見は、AngII起因性血管線維症および線維化促進マーカーが上昇すること、そしてこれらの上昇は、IRAP
−/−マウスにおいて、またはHFI−419処置によって、予防されたことを示す。
【0231】
IRAPの遺伝的欠失および薬理学的阻害が、大動脈におけるアンギオテンシンII介在性炎症を弱める。
生理食塩水またはAng II±ビヒクル/HFI−419で処置した成体(4〜6ヵ月齢)のWTマウスおよびIRAP
−/−マウス由来の胸部大動脈切片における陽性染色免疫蛍光の典型的な画像および定量化は、赤色のP−IκBα(NFκB活性化についてのマーカー)、MCP−1、ICAM−1、およびVCAM−1(血管細胞接着タンパク質−1)の発現の低下を示した(緑色は、弾性薄膜の自家蛍光を示す)(
図4)。データを、陽性染色面積パーセンテージの平均±s.e.mとして表す(n=5〜6)。
*P<0.05;
**P<0.01;
***P<0.001;
****P<0.0001を、多重比較についてボンフェローニ補正した一元配置ANOVAによって決定した。
【0232】
IRAPの遺伝的欠失および薬理学的阻害が、アンギオテンシンII介在性の心肥大および線維症を弱める。
IRAP欠失またはIRAP阻害(HFI−419を用いる)が、
図5aに示すように、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色した横断方向心臓切片(n=6)における心筋細胞断面積を用いて評価した心肥大のAng II介在性増大を、予防した。IRAPの欠失または阻害が、
図5bに示すように、ピクロシリウスレッドで染色した横断方向心臓切片(n=6)の明視野顕微鏡観察を介して判定した間質コラーゲンの発現を、有意に引き下げた。データを、陽性染色面積パーセンテージの平均±s.e.mとして表す(n=5〜6)。
*P<0.05;
**P<0.01;
***P<0.001;
****P<0.0001を、多重比較についてボンフェローニ補正した一元配置ANOVAによって決定した。
【0233】
IRAPの遺伝的欠失および薬理学的阻害が、心臓線維形成マーカーのアンギオテンシンII起因性増大を予防する。
図6は、生理食塩水またはAng II±ビヒクル/HFI−419で処置した成体(4〜6ヵ月齢)のWTマウスおよびIRAP
−/−マウス由来の横断方向心臓切片における陽性染色免疫蛍光の典型的な画像および定量化を示しており、ビメンチン染色(線維芽細胞発現についてのマーカー)の変化なし、α−SMA染色(筋線維芽細胞発現についてのマーカー)の減少、TGF−β
1(線維形成誘導性サイトカイン)の血管周囲発現の引下げ、およびTGF−β
1のタンパク質発現(ウェスタンブロットにより分析した)の引下げを示した。データを、WT対照の平均±s.e.mに対する相対比率として表した、免疫蛍光についての陽性染色面積パーセンテージ、およびウェスタンブロットの濃度測定分析の平均±s.e.mとして表す;(n=5〜6)。
*P<0.05;
**P<0.01;
***P<0.001;
****P<0.0001を、多重比較についてボンフェローニ補正した一元配置ANOVAによって決定した。
【0234】
IRAPの遺伝的欠失または薬理学的阻害が、心臓活性酸素種(ROS)および炎症マーカーのアンギオテンシンII起因性増大を予防する。
図7は、生理食塩水またはAng II±ビヒクル/HFI−419で処置した成体(4〜6ヵ月齢)のWTマウスおよびIRAP
−/−マウス由来の横断方向心臓切片における陽性染色免疫蛍光またはウェスタンブロット分析を用いたタンパク質レベルの定量化の典型的な画像および定量化を示す(n=5〜6)。IRAP欠失またはIRAP阻害が、スーパーオキシド生成のAng II起因性増大を予防し、NADPHオキシダーゼアイソフォーム、NOX−2の発現に影響を及ぼさず、P−IκBα発現(NFκB活性化についてのマーカー)を引き下げ、ICAM−1発現およびタンパク質含有量の双方を引き下げ、そしてMCP−1およびマクロファージ発現を引き下げた。データを、WT対照の平均±s.e.mに対する相対比率として表した、免疫蛍光についての陽性染色面積パーセンテージ、およびウェスタンブロットの濃度測定分析の平均±s.e.mとして表す;(n=5〜6)。
*P<0.05;
**P<0.01;
***P<0.001;
****P<0.0001を、多重比較についてボンフェローニ補正した一元配置ANOVAによって決定した。
【0235】
実施例2
IRAPの欠失およびIRAPの直接的な薬理学的阻害が、アンギオテンシンII介在性の、心臓および血管の線維症および炎症を予防するのに有効であったことを示す原理実証研究(実施例1)に続いて、この実施例は次に、IRAPを標的とする臨床有効性の潜在性を強調する。これは、包括的IRAP欠失マウスが、心線維症および炎症の年齢起因性増大から保護される一方、直接的なIRAP阻害が、年齢起因性心臓リモデリングを完全に逆転する、心血管線維症の老齢モデルを用いて、実証される。
【0236】
包括的IRAP遺伝子欠失が、年齢起因性心線維症から保護する
本研究において、IRAP免疫蛍光が、心臓の間質領域および血管周囲領域の双方に存在し、そして、幼年遺伝子型対照と比較して、老齢WTマウスの心臓において二倍であった(
図8a、
図8b)。この作用の正確度は、幼年成体および老齢のIRAP
−/−マウスから得た心臓における染色の不在によって確認された(
図8a)。さらに、IRAP発現は、間質領域および血管周囲領域の双方において、α−平滑筋アクチン(α−SMA)発現と共局在しており、このことはそれが、VSMC上に位置決めされ、かつ筋線維芽細胞を分化させたことを示唆している。ピクロシリウスレッド染色を用いたコラーゲン含有量、ならびに明視野および円偏光光学顕微鏡を用いた定量化によって評価した心線維症を、幼年WTマウスおよび老齢WTマウス、ならびに幼年IRAP
−/−マウスおよび老齢IRAP
−/−マウスにおいて評価した。予想されるように、加齢が、心臓間質線維形成を有意に、約75%増大させ(
図9a、
図9b;
図10a、
図10b)、そしてまた、血管周囲線維形成を増大させ、老齢心臓におけるECMの既知の上昇と同調していた(
図10c、
図10d)。そのような発見は、CVDの自然な進行に従う動物モデルを用いることの重要性を強調する。本発明者らの老齢WTマウス由来の心臓において見られるコラーゲンの増大と対照的に、老齢IRAP
−/−マウスは、幼年成体WTマウスにおいて見られるのと類似したECM沈着を示し(
図9a、
図9b;
図10a〜
図10d)、これは、IRAPがない場合の抗線維化作用を示しており、このことは、I型コラーゲンα1タンパク質レベルの成熟形態の減少によって確認された(
図11)。
【0237】
線維形成誘導性サイトカインTGF−β1は、線維芽細胞の、より多くの合成タイプの筋線維芽細胞への分化を促進することが周知である。この文脈では、IRAP
−/−マウスは、ウェスタンブロットによって、心臓における有意に低いTGF−β1タンパク質を(
図11)、そしてより顕著には、免疫蛍光によって、老齢WTマウスと比較して、TGF−β1の4倍低い血管周囲発現を示した(
図12a、
図12b)。加齢が、WT遺伝子型とIRAP遺伝子型との間で、ビメンチン陽性の線維芽細胞発現の程度に影響を及ぼさなかった一方、老齢のWTマウス由来の心臓における筋線維芽細胞発現(αSMA−陽性)が増大した(
図12a、
図12b)。それに対して、老齢のIRAP
−/−マウス由来の心臓は、この年齢依存性の筋線維芽細胞の上方制御を示さず、幼年WTマウス由来の心臓において見出されるのと類似した筋線維芽細胞発現に終わった(
図12a、
図12b)。これらの結果は、合成筋線維芽細胞活性の増大に起因する、異常に多いコラーゲン生産が、老齢WTの心臓において注目される心線維形成の増大に寄与したことを、そしてこの現象が、老齢のIRAP
−/−マウス由来の心臓において高度に弱められたことを示唆している。二重標識IHCを用いたこの概念と一致して、IRAPが、筋線維芽細胞と共局在することが明らかにされた。このことはさらに、筋線維芽細胞の機能的活性を変更する、IRAPの潜在的な役割を意味している。
【0238】
ECMのホメオスタシスは、コラーゲン合成とコラーゲン分解とのバランスによって維持されている。本研究において、老齢のWTマウスおよびIRAP
−/−マウスにおける、ゲラチナーゼMMP−2およびMMP−9の、そしてコラゲナーゼMMP−8の類似したタンパク質レベルまたは酵素活性を、ウェスタンブロットおよびザイモグラフィによって実証したところ(
図11)、老齢IRAP
−/−マウスにおいて、年齢マッチWT対照と比較して、MMP−13タンパク質発現の約50%の増大があった(
図11c)。MMP−13は、心臓内に存在する主なコラゲナーゼであるので、タンパク質発現の増大は、老齢のIRAP欠失マウスにおけるより多くのコラーゲン分解を示す。全体的に、これらの結果は、IRAP欠失が、コラーゲン合成を下方制御し、かつコラーゲン分解を上方制御することによって、年齢介在性心線維症から保護することを示す。
【0239】
IRAP欠失が、スーパーオキシド生産を減少させて、炎症を調節する
心臓におけるジヒドロエチジウム(DHE)染色は、老齢WT対照と比較して、老齢IRAP
−/−マウスにおける心臓スーパーオキシド(・O
2−)生産が約40%少ないことを明らかにした(
図13a)。IRAP
−/−マウス心臓はまた、より少ないホスホIκBαの発現(NFκB活性化の低下(
図13a)を示す)、および炎症の低下を、血管周囲免疫組織化学、およびウェスタンブロット分析による、単球化学誘引タンパク質−1(MCP−1)発現の引下げ、細胞間接着分子1(ICAM−1)発現の著しい引下げによって実証し、これにより心臓におけるマクロファージ浸潤が引き下げられた(
図13)。心臓から放出されるサイトカインのパターンも調査した。老齢IRAP
−/−マウスの心臓において、炎症誘発サイトカインIL−1β、IL−17A、およびTNF−αの僅かな増大があった(
図14)。しかしながら、IL−2、IL−4、IL−5、IL−10、およびIL−12p40が挙げられるいくつかの抗炎症サイトカインのより著しい増大があり(
図14;表1)、老齢IRAP
−/−マウスにおける抗炎症表現型の証拠が得られた。
【0240】
(表1)心臓サイトカインタンパク質レベル。老齢WTマウス、老齢IRAP-/-マウス、ビヒクル処散老齢WTマウス、およびHFI-419処置老齢WTマウス由来の心臓における心臓サイトカインタンパク質レベルを、Bioplex cytokineアッセイ(Bio-rad)キットを用いて定量化し、サイトカインレベルを、pg/mlの平均±s.e.mとして表した。サイトカインを、炎症誘発因子、抗炎症因子、コロニー刺激因子、およびCCケモカインリガンド表現型に基づいてグループ化する。IRAP-/-マウスにおける心臓サイトカインの濃度を、老齢WT対照の平均濃度に対する相対比率として表す;一方、HFI-419処置老齢WTの心臓におけるサイトカインレベルを、ビヒクル処置老齢WTの平均濃度に対する相対比率として表す。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.0001をt検定によって決定した;各群中n=9。
【0241】
IRAPの薬理学的阻害が、年齢介在性心臓疾患を逆転する
IRAPを欠く老齢マウスが、心臓表現型について、年齢マッチWT対照と比較して、幼年成体の対応動物に似るように、ECM、炎症、および酸化ストレスの引下げを示すことを考えれば、本発明者らは、小分子IRAPインヒビタによるIRAPの薬理学的阻害が、心血管疾患の確立時に、心線維症を逆転し得るか否かに関心をもった。この目的で、合成IRAPインヒビタHFI−419を、心線維症を確立した4週から約20ヶ月齢のWTマウスに投与した。実際に、HFI−419は有意に、IRAP発現を引き下げ(
図8c)、年齢起因性コラーゲン沈着を、幼年成体マウス(
図15および
図16)または老齢のIRAP
−/−マウス(
図9)において見られるのと同じレベルに逆転し、そしてまた、I型コラーゲンα1の前駆体および成熟形態を著しく引き下げた(
図17);全て、IRAP阻害後の線維形成誘導性メディエータ、例えば合成筋線維芽細胞(
図18)およびTGF−β1発現(
図18)の下方制御と整合した。IRAP阻害は、コラゲナーゼMMP−8のタンパク質発現の増大に傾くIRAP欠失マウスにおいて見られるものと僅かにしか異ならない、コラーゲン分解に及ぼす作用を有した一方、MMP−2、MMP−9、またはMMP−13のタンパク質レベルにおいては、変化がなかった。しかしながら、HFI−419処置は、TIMP−1タンパク質レベルを有意に減少させた(
図17)ので、MMPの活性増大を可能にすることで、IRAPの阻害によるコラーゲン分解の全体的な増大が実現した。
【0242】
HFI−419によるIRAP阻害はまた、IRAP
−/−マウスにおいて示される炎症性メディエータに及ぼす作用を再生して、強炎症状態を通常示す老齢WTマウスにおける、スーパーオキシド生産の減弱、NFκB活性化、ICAM−1の引下げ、MCP−1およびマクロファージの発現を伴う(
図13)。さらに、炎症誘発サイトカインおよび抗炎症サイトカインを、HFI−419処置WTマウスにおいて、区別して調節した(表1)。IRAP
−/−マウス由来の炎症誘発サイトカインプロフィールと比較して、直接的なIRAP阻害は、いかなる炎症誘発サイトカインも増大させなかった(
図14および表1)。しかしながら、IL−4、IL−9、およびIL−12p40が挙げられるいくつかの抗炎症サイトカインの著しい増大があり(表1)、IRAP阻害によって媒介された抗炎症作用の証拠が得られ、これは、老齢IRAP
−/−マウスにおいて明らかな表現型を代表するものである。
【0243】
IRAPインヒビタの構造的に異なるクラスが、年齢起因性心線維症を逆転するのに、等しく有効である
HFI419に加えて、IRAPインヒビタの2つの構造的に異なる化学クラスが、
図19に示すように、心臓において、年齢起因性コラーゲン発現を逆転する。クラス1インヒビタは、化合物1であり、本明細書において示す構造を有する一方、クラス2は、本明細書において示す構造を有する化合物2である。これらのデータは、IRAPの3つの異なる小分子インヒビタが、年齢起因性モデルにおいて、コラーゲン発現(線維症の特質)を逆転することを示したことを示している。
【0244】
IRAP阻害および心機能
細胞外マトリックス沈着の引下げが、心機能の向上に変換されたかを判定するために、2つのプロトコルを研究した。第1のプロトコルにおいて、心臓を、幼年WTマウス、老齢IRAP
−/−マウス、およびビヒクルまたはHFI−419で4週間処置した老齢WTマウスから単離して、虚血再灌流(IR)傷害にしてから、IR後の心機能を評価し、かつIR起因性梗塞を分析した。ベースラインにて、老齢WTマウス(ビヒクルおよびHFI−419で処置)または老齢IRAP
−/−マウスにおいて、HR、LVDP、またはLVEDPに差異はなかった。ビヒクル処置老齢WTマウス由来の心臓におけるLVDPおよびLV±dP/dt双方の回復は、幼年WTマウス由来の心臓におけるIR傷害の作用と比較して、虚血および再灌流の時間経過と共に有意に損なわれ(
図20b〜
図20d)、LV機能のこれらのマーカーは、それらの前虚血ベースラインレベルと比較して、有意に引き下げられた。IRAP欠失または常習的IRAPインヒビタ処置は、再灌流の最初の10分において、LVDPの回復に影響を及ぼさなかった。しかしながら、LVDPおよびLV±dP/dtにおける再灌流の後の方のステージにおける有意な改善が、20分の再灌流から明らかであり、幼年WTマウス由来の心臓と、老齢のIRAP
−/−マウスまたはIRAPインヒビタ処置マウス由来の心臓とにおけるLVDPの回復に、有意差はなかった(
図20b〜
図20d)。IRAP欠失または常習的IRAPインヒビタ処置の、IR傷害から保護する能力もまた、梗塞面積を測定して明らかとなった;IRAP欠失およびIRAP阻害は双方とも、老齢WT対照と比較して、梗塞面積を約50%減少させた(
図20a)。第2のプロトコルにおいて、心エコー検査研究を用いて、WTマウスにおける心機能の年齢起因性変化が、IRAPを包括的に欠失した老齢マウスにおいて軽減したかを判定した。心臓を、いくつかの解剖学的外観、および心エコー検査を介したイメージングモードを用いて、画像化した。幼年WTマウスおよび老齢WTマウスのベースライン心臓機能測定基準は、高齢のマウスの以前の心エコー検査研究において報告したものと類似していた(Dai et al, Circulation. 2009; 119:2789-2797)。しかしながら、IR傷害後のIRAP
−/−マウスから単離した心臓において実証された保護作用と同様に、老齢IRAP
−/−マウスは、年齢マッチWTマウス(n=4〜5)と比較した場合に、駆出率の年齢起因性の低下なく、心機能の向上を(
図20e)、そして左心室収縮性(面積変化率;FACにより評価)の向上傾向を(
図20f)示し、これは、老齢IRAP
−/−マウス由来の心臓における明らかな線維形成の引下げと相関しており、IRAPを標的とすることが確認される。
【0245】
IRAPの欠失または阻害が、収縮期血圧、心肥大、心筋細胞肥大、および中膜肥大を変えなかった
収縮期血圧(SBP)に関して、僅かな差異が、老齢WTマウスと老齢IRAP
−/−マウスとの間に(
図21)、またはHFI−419処置老齢WTマウスとの間に(
図16)存在した。心室重量対体重(VW:BW)比、および心室重量対脛骨長(VW:TL)比によって評価した心肥大、ならびにH&Eで染色した心筋細胞の断面積として定量化した心筋細胞肥大は、多くの場合、加齢に起因して増大したが、IRAPの欠失または薬理学的阻害によって大きく影響されなかった(
図21および
図16)。したがって、HFI−419の著しい抗線維化作用および抗炎症作用は、血圧および心臓サイズの変化から独立していた。
【0246】
本発明者らは初めて、IRAP欠失およびIRAPの薬理学的阻害の双方が、心臓疾患から保護することを実証した。本研究の強みは、遺伝子欠失が、年齢起因性心線維症を予防しただけでなく、IRAPの薬理学的阻害が、年齢起因性心線維症を完全に逆転したことの実証であり、この後者の作用は、臨床重要性が大きい。実際に、この有益な心臓リモデリングは、コラーゲン合成の減少およびコラーゲン分解の増大を、心臓および血管の炎症の引下げと一緒に伴った。さらに、IRAPの薬理学的阻害は、心臓および血管の機能的な向上に変換された。本研究は、IRAPの除去または阻害が、線維症の進行を抑えて、特に加齢集団における、CVDに対する新規の治療戦略としてのIRAPの阻害を強調することを示している。
【0247】
老化は、不可逆性の線維症に終わる、長期間にわたる反応性心臓リモデリングに起因するCVDの主要な危険因子である。コラーゲンの過剰蓄積に起因する心臓スティフネスの増大およびコンプライアンスの低下は、心機能障害を悪化させて、CHFに至り、MIからの回復を妨げ、または腎機能の悪化に寄与する虞がある。実際に、動物の老化は、心線維症および慢性炎症が確立した、臨床的に関連するモデルを示す。そのような年齢介在性心線維症の原因は、多元的であり、心臓損傷が、線維化促進サイトカイン、例えばTGF−βと他の炎症性メディエータとの複雑な相互作用を包含して、これが次に、相乗的に作用して、心線維症を悪化させる。しかしながら、既存のECMおよび臓器機能障害を逆転する薬理学的処置は現在、臨床ニーズが満たされていない。というのも、抗線維形成治療の成功は、いくつかの重要なメディエータを同時に標的とする必要があるからである。したがって、IRAPのAng IV処置または遺伝的除去によるIRAP阻害によって媒介される血管保護表現型または神経保護表現型を考えれば、本発明者らは今回、予防パラダイムおよび介入パラダイムの双方による、老齢マウスにおけるIRAP欠失および薬理学的IRAP阻害の役割を正確に概説した。
【0248】
この文脈において、本発明者らの本研究は、酵素IRAPが、CVDにおいて上方制御されること、そしてIRAPの阻害が、いくつかの機構によって、加齢による心臓の線維症および機能障害を逆調節することを同定した。全体的に、本研究の結果は、CVDの処置における新規の治療戦略を同定した。
【0249】
加齢が心機能障害を引き起こして、慢性炎症および過剰なECM生産が、瘢痕化または心線維症をもたらすことが十分に確立されている。線維形成は主に、強力な線維化促進サイトカインTGF−β1の上方制御を介して起こり、これが、ビメンチン発現線維芽細胞の、αSMA発現筋線維芽細胞への分化を促進して、コラーゲン生産を増大させる。しかしながら、老齢IRAP
−/−マウスは、WTマウスにおいて見られる間質コラーゲン沈着の年齢起因性増大から保護された。機構的に、これは、老齢IRAP
−/−マウスが、「幼年成体の」心臓表現型を示し、筋線維芽細胞分化およびTGF−β
1発現が、老齢WTマウス由来の心臓と比較して有意に小さいという事実によって、説明され得る。さらに、線維芽細胞の増殖および線維形成は、心臓内で、血管周囲領域から生じて、隣接する間質空間中に次第に達する。これは、マウスにおいて、老齢WT心臓におけるTGF−β
1およびコラーゲンの血管周囲発現の増大によって明示されたが、老齢IRAP
−/−マウスにおいては消滅した。
【0250】
治療標的としてのIRAPの臨床関連性は、HFI−419が、心線維症を確立した老齢WTマウスに与えられたときに、確認された。というのも、この介入は、上流の線維形成誘導性機構、例えば筋線維芽細胞の分化およびTGF−βの発現を排除することによって、遺伝的欠失と同じようにして、心線維症を完全に逆転したからである。さらに、IRAPは、心臓の間質領域および血管周囲領域の双方において、筋線維芽細胞と共局在したので、筋線維芽細胞発現およびECM合成を調節するための、IRAPについての解剖学的フレームワークが提供された。同時に、ECMは、プロテアーゼ、例えばMMPによって分解される。老齢マウスにおいて、IRAPの欠失または薬理学的阻害は、MMP−13および/またはMMP−8を増大させ、かつTIMP−1を減少させるので、コラーゲン分解が、コラーゲン合成の減少と共に、IRAPがない場合の老齢心臓の抗線維化表現型に寄与したことが示唆される。
【0251】
線維症は多くの場合、炎症が先行する。これは、損傷の初期相の間の炎症性細胞の浸潤、およびその後の、複数のサイトカインの生産に起因する。加齢もまた、ROSを高め、これが炎症を悪化させる。NFκB活性化は、化学誘引物質、例えばMCP−1およびICAM−1を増大させて、疾患のある心臓中への炎症性細胞浸潤を促進することによって、単球がマクロファージに分化して、これがまた、スーパーオキシドおよびTGF−β
1を生産して、これらが筋線維芽細胞分化を誘導し、かつ心線維症を悪化させる。老齢IRAP
−/−マウスは、抗炎症心臓表現型を示し、そして、注目すべきことに、HFI−419による処置は、双方の実験モデルにおいて、心臓における既存の炎症を逆転して、同様に、スーパーオキシド、ホスホ−IκBα、MCP−1、ICAM−1発現を引き下げ、かつマクロファージ浸潤を軽減した。これらの発見は概して、IRAP欠失に起因して、炎症誘発サイトカインよりも、いくつかの抗炎症サイトカインの増大が比較的大きいことを示す心臓サイトカイン分析と、一致した。より顕著には、HFI−419は、抗炎症サイトカインのみを高めた。ゆえに、炎症経路と線維形成経路との間のクロストークを考えれば、老齢心臓におけるIRAPの欠失または阻害に起因する蔓延抗炎症状態が、双方の実験パラダイムにおける心線維症の標準化におそらく寄与するであろう。重要なことに、HFI−419およびIRAP欠失の抗炎症作用はまた、血管組織においても注目された。
【0252】
組織形態学的な考慮点から導き出されるIRAP阻害のための心血管保護作用を考えれば、本発明者らはまた、これらの有益な作用が、心臓機能の向上に変換され得るかも調査した。心筋は、虚血再灌流(IR)傷害に応じて損傷を受けて、IR傷害後にLVDPが低下する虞があることが十分に確立されており、これは、IR後の本発明者らの老齢WTマウスにおいて明らかで、線維化した心臓の収縮性が損なわれたことを示している。IRAP
−/−マウス、またはHFI−419で4週間常習的に処置したWTマウス由来の心臓は、LVDPの虚血後の回復において、有意な向上を示した。機能的作用の向上はまた、IR傷害後の梗塞面積の縮小ともかなり相関した。
【0253】
結論として、IRAPの遺伝的欠失または薬理学的阻害は、実質的に、心線維症を消滅させた。そして、常習的IRAPインヒビタ処置が、約2ヵ年齢のマウスにおける年齢起因性の心線維症を完全に逆転したという重要な発見があった。IRAP阻害の心臓、腎臓、および血管の保護作用の基礎となる機構は、多元的である可能性が高い。これらの作用として、線維症の引下げを、種々の抗炎症作用と一緒に支持するECMのバランスの変更(生産の低下および分解の増大)が挙げられる;それらの全てまたは一部が、IRAP基質レベルの変化および/またはIRAPシグナル伝達経路の変更に起因し得る。全体的に、これらの発見は、特に加齢および/または高血圧関連損傷もしくは心血管関連損傷で起こる、処置が困難な末端臓器障害について、IRAPが、心血管疾患の病因において重要な役割を果たすことを示唆しており、そしてIRAPの薬理学的阻害の潜在性を、新規の治療戦略として強調している。
【0254】
全体的に、これらの研究は、IRAP活性の除去または阻害が、心臓、腎臓、および血管組織の線維症に劇的な作用を及ぼし、かつIRAPを、CVDにおける新規の標的として同定した、説得力に富む原理実証を提供する。
【0255】
実施例3
おおよそ170万人のオーストラリア人および2600万人のアメリカ人は、腎機能が低下した慢性腎疾患を患っている。慢性腎疾患(CKD)の最終徴候は、尿細管間質性線維症および糸球体硬化症によって特徴付けられる腎線維症である。
【0256】
この実施例における本研究は、IRAP活性の除去または阻害が、腎線維症に劇的な作用を及ぼし、そしてCKDにおける新規の標的としてIRAPを同定したことを示す。
【0257】
老齢マウスの腎臓におけるIRAP発現および線維症の調節
心線維症に関する先の実施例2と同様に、2つの具体的な実験パラダイムを用いた。それゆえに、本発明者らは、老齢のWTマウスと、包括的IRAPノックアウトマウス(18〜22ヵ月齢)と、幼年WTマウス(4〜6ヵ月齢)との間で、腎臓表現型を比較して、加齢による腎線維症の進行の予防を判定した。本発明者らはまた、WT老齢マウスの処置を、ビヒクルと、またはIRAPの小分子インヒビタと比較して、確立された線維症の治療処置を決定し、そして加齢による腎線維症の逆転に及ぼすIRAP阻害の作用を確立した。
【0258】
IRAP発現は、幼年WTマウス由来の腎臓において発現されるレベルと比較して、老齢WTマウスの腎臓において、増大した(
図22a)。IRAP発現は、IRAPのインヒビタ(HFI−419)による処置の4週後の老齢WTマウスの腎臓において、減少する傾向があった。心臓における免疫蛍光研究と同様に、IRAP抗体の特異性が、老齢IRAP
−/−マウスから得た腎臓における染色の不在によって確認された(
図22a)。
【0259】
年齢起因性腎線維症におけるIRAP欠失およびIRAPインヒビタ処置
ピクロシリウスレッド染色を用いてコラーゲン含有量によって評価し、かつ明視野顕微鏡観察を用いて定量化した腎臓間質線維形成を、幼年WTマウス、老齢のWTマウスおよびIRAP
−/−マウス、ならびにビヒクルまたはHFI−419(500ng/kg/分;s.c.)で4週間処置した老齢WTマウスにおいて、評価した。予想されるように、加齢は、腎臓間質線維形成を有意に増大させた(
図23a)。本発明者らの老齢WTマウス由来の腎臓において見られるコラーゲンの増大と対照的に、老齢IRAP
−/−マウスは、幼年成体WTマウスにおいて見られるのと類似したECM沈着を示し(
図23a)、これは、IRAPがない場合の抗線維化作用を示し、そして、老齢IRAP
−/−マウス由来の心臓において見られる抗線維化作用と一致した(実施例2)。老齢WTマウスが腎線維形成の有意な増大を有し、そしてIRAPを欠いている老齢マウスが、幼年成体の対応動物に類似したコラーゲン発現の引下げの腎臓表現型を実証することを考えれば、本発明者らは、小分子IRAPインヒビタによるIRAPの薬理学的阻害が、心血管/腎臓疾患の確立時に、腎線維症を逆転することができるか否かに関心をもった。この目的で、合成IRAPインヒビタHFI−419を、腎線維症を確立した4週から約20ヶ月齢のWTマウスに投与した。実際に、HFI−419は、年齢起因性コラーゲン沈着を、幼年成体のWTマウスおよびIRAP
−/−マウスにおいて見られるのと類似したレベルに完全に逆転する有意な作用を示した(
図23aおよび
図23b)。
【0260】
線維症の増大は、線維芽細胞の、より多くの合成タイプの筋線維芽細胞への、より多くの分化に起因し得る。この文脈において、老齢WTマウス由来の腎臓は、幼年WT対照由来の腎臓よりも有意に多くのαSMA−陽性筋線維芽細胞発現を示した(
図24a)。それに対して、老齢IRAP
−/−マウス由来の腎臓は、この年齢依存性の筋線維芽細胞の上方制御を示さず、幼年WTマウス由来の腎臓において見いだされるのと類似した筋線維芽細胞発現に終わった(
図24a)。これらの結果は、合成筋線維芽細胞活性の増大に起因する、異常に多いコラーゲン生産が、老齢WTの腎臓において注目される線維形成の増大に寄与したことを、そしてこの現象が、老齢のIRAP
−/−マウス由来の腎臓において高度に弱められたことを示唆している。老齢WTマウスにおける、HFI−419による4週間のIRAP阻害は、年齢マッチビヒクル処置対照マウスと比較した場合、腎臓におけるαSMA−陽性筋線維芽細胞発現の引下げに向かう傾向を実証した(
図24b)。
【0261】
実施例4
臨床的に関連したヒトモデルにおけるIRAP阻害の心臓保護作用の基礎となる機構を解明するために、ヒト心臓線維芽細胞の一次細胞株を研究した。研究は、以下の疑問に答えるために実行した:IRAPがこれらの細胞中に存在し、そして線維化促進刺激因子がIRAP発現を増大させるのか?IRAP阻害が、筋線維芽細胞発現/コラーゲン生産を引き下げることができるのか?
【0262】
アンギオテンシンIIにより刺激したヒト心臓線維芽細胞におけるIRAP発現の増大
典型的な画像は、Ang IIの濃度の増大により刺激された一次ヒト心臓線維芽細胞が、IRAPの発現の増大を誘導したことを示している(
図25)。ヒト心臓線維芽細胞におけるIRAP発現の用量依存性の増大が明確である。
【0263】
IRAPインヒビタが、ヒト心臓線維芽細胞において、α−SMAおよびコラーゲンの発現を用量依存的に引き下げた
小分子HFI−419による薬理学的IRAP阻害は、筋線維芽細胞発現(α−SMA染色)およびコラーゲン生産を用量依存的に引き下げた。典型的な画像は、ヒト心臓線維芽細胞(HCF)をAng II(0.1μM)で刺激した場合の、α−SMA(赤色;筋線維芽細胞についてのマーカー)およびコラーゲン(緑色)の発現の増大を示している(
図26a)。Ang IIおよびHFI−419の併用処置(0.01から1μM)は、α−SMAおよびコラーゲンの発現を引き下げた。
図26bは、ウェスタンブロット由来の定量データであり、HCFを、Ang II+濃度を上げたHFI−419で共処置した場合、α−SMAおよびコラーゲンのタンパク質発現の用量依存的引下げを確認した(n=10〜12)。データを、平均±s.e.mとして表す;ウェスタンブロットの濃度測定分析を、対照細胞の平均±s.e.mに対する相対比率として表す;
*P<0.05;
**P<0.01;
***P<0.001を、多重比較についてボンフェローニ補正した一元配置ANOVAによって決定した。
【0264】
実施例5
肝臓脂肪症に及ぼすIRAP遺伝子欠失の作用
雄IRAPノックアウトマウス(IRAO KO:インスリン調節性アミノペプチダーゼについての遺伝子の包括的欠失)6ヵ月齢、およびそれらの野生型対応動物に、高脂肪食(HFD)または標準的な食事(ND)のいずれかを給餌した。4週の食事操作の後、全身の代謝を、Oxymax Lab Animal Monitoring System(Columbus Instruments, OH, U.S.A.)を用いて、マウスの全群において測定した。予想されるように、HFDを給餌したマウスは、ND給餌マウスと比較した場合、呼吸交換比(代謝において生産された二酸化炭素の量と、用いられた酸素の量との比率)が低下し、かつ熱発生量が増大したが、48時間にわたり、遺伝子型間で差異はなかった。
【0265】
12週の食事操作の後、マウスを殺して組織を収集した。血液、脳、肝臓、腎臓、生殖腺の白色脂肪組織(内蔵脂肪)、鼠径部の白色脂肪組織(皮下脂肪)、褐色脂肪組織(熱発生脂肪)、腸、心臓、および大動脈を収集した。組織重量は、鼠径部の白色脂肪組織においてのみ異なり、HFDを給餌した野生型マウスは、鼠径部の白色脂肪組織沈着が、他の全ての群よりも有意に重かった。
【0266】
肝臓重量は、群間で異ならなかったが、この組織の組織学的調査は、ND給餌マウスと比較して、HFD給餌マウスにおいてより高いレベルの脂肪形成を示し、そしてHFDのIRAP KOマウスは、HFDのWTマウスと比較して、脂肪形成の低下を示した(
図27)。このことは、HFD給餌マウスが、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)、または初期ステージの非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を示した一方、これらのマウスにおけるIRAPの阻害が、小胞における過剰な脂質蓄積を予防したことを示す。
【0267】
実施例6
IRAPの薬理学的阻害が、肝線維症における高塩誘導増大を逆転する
塩は、メタボリックシンドロームの進行の促進要因であることが周知であり、そして心血管疾患の進行に関与する。これはおそらく、その酸化促進特性に起因する。最近の証拠は、高塩分食(HSD)が、HFD給餌レクチン様酸化低密度リポタンパク質受容体−1(LOX−1)トランスジェニック(Tg)apoEノックアウト(KO)(TgKO)マウス(メタボリックシンドロームを調査する研究において用いられるモデル)の肝臓における脂肪および線維形成の蓄積を悪化させる虞があることを示している(Uetake et al, Lipids in Health and Disease (2015) 14:6)。したがって、本発明者らは、HSDが単独で、肝線維症の有意な変化を誘導するか、そしてIRAPインヒビタ処置が、これらの線維形成変化を逆転するかに関心をもった。HSDをWT(C57Bl/6J)マウスに8週間給餌することで、肝臓における線維形成および小胞数が有意に増大し、このことは、このモデルが、線維症の悪化が挙げられるNASHの特質の全てを有することを示している。合成IRAPインヒビタHFI−419を、約20週齡のWTマウスに4週間投与した。これには既に、肝臓における変化を誘導するために、初期の4週間、HSDを給餌していた。実際に、HFI−419は、HSD起因性コラーゲン沈着を、標準的な食事を給餌したマウスにおいて見られるのと同じレベルにまで有意に逆転し(
図28)、そして肝臓における脂肪症の指標を著しく引き下げた(
図28)。これらの抗線維化作用は、合成IRAPインヒビタHFI−419が、確立された心線維症を逆転する明確な能力を示す、以前の発見と一致している。