(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2018-528103(P2018-528103A)
(43)【公表日】2018年9月27日
(54)【発明の名称】準安定粒子を含有する複合材料及び樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
B29B 11/16 20060101AFI20180831BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20180831BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20180831BHJP
B29C 39/10 20060101ALI20180831BHJP
B29C 39/24 20060101ALI20180831BHJP
B29C 70/16 20060101ALI20180831BHJP
B29C 70/48 20060101ALI20180831BHJP
B32B 5/28 20060101ALI20180831BHJP
B29K 101/10 20060101ALN20180831BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20180831BHJP
B29K 105/10 20060101ALN20180831BHJP
【FI】
B29B11/16
C08K7/02
C08L101/00
B29C39/10
B29C39/24
B29C70/16
B29C70/48
B32B5/28 A
B29K101:10
B29K105:08
B29K105:10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2018-510092(P2018-510092)
(86)(22)【出願日】2016年8月24日
(85)【翻訳文提出日】2018年4月18日
(86)【国際出願番号】US2016048264
(87)【国際公開番号】WO2017035175
(87)【国際公開日】20170302
(31)【優先権主張番号】62/208,974
(32)【優先日】2015年8月24日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】517318182
【氏名又は名称】サイテック インダストリーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】アーツ, ヴィンセント
(72)【発明者】
【氏名】グリフィン, ジェームズ マーティン
(72)【発明者】
【氏名】エルダー, ジュディス
【テーマコード(参考)】
4F072
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【Fターム(参考)】
4F072AA04
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4J002FD016
4J002GF00
4J002GN00
(57)【要約】
熱硬化樹脂成分と準安定熱可塑性粒子とを含有する硬化性マトリックス樹脂組成物であって、準安定熱可塑性粒子が、結晶化温度T
cまで加熱すると結晶化を起こす非晶質ポリマーフラクションを有する半結晶性熱可塑性材料の粒子である、硬化性マトリックス樹脂組成物。準安定熱可塑性粒子を含有する繊維強化高分子複合材料も開示される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化性熱硬化マトリックス樹脂で含浸された又はそれが注入された強化繊維の2つ以上の層;
強化繊維の隣接する層間に配置された準安定熱可塑性粒子
を含む繊維強化高分子複合材料であって、準安定熱可塑性粒子が、粒子が結晶化温度Tcまで加熱されると結晶化を起こす非晶質ポリマーフラクションを有する半結晶性熱可塑性材料の粒子である、繊維強化高分子複合材料。
【請求項2】
窒素雰囲気下において10℃/分で50℃〜250℃の温度範囲まで加熱すると、準安定熱可塑性粒子が、示差走査熱量分析(DSC)によって決定される発熱ピーク後に吸熱ピークを示す、請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
準安定熱可塑性粒子が、示差走査熱量分析(DSC)によって決定されるゼロより大きい融解エンタルピー(ΔHm)とゼロより大きい結晶化エンタルピー(ΔHc)とによって同時に特徴付けられ、
ΔHm及びΔHcが、DSCサーモグラム中に存在する融解ピーク及び結晶化ピーク下の面積をそれぞれ積分することによって決定される、請求項1に記載の複合材料。
【請求項4】
硬化性熱硬化マトリックス樹脂で含浸された又はそれが注入された強化繊維の2つ以上の層;
強化繊維の隣接する層間に配置された準安定熱可塑性粒子
を含む繊維強化高分子複合材料であって、準安定熱可塑性粒子が半結晶性熱可塑性材料の粒子であり、準安定粒子が周囲温度(20℃〜25℃)で化学的に安定な状態であるが、粒子が結晶化温度Tcまで加熱されると熱力学的に不安定になる、繊維強化高分子複合材料。
【請求項5】
硬化性マトリックス樹脂が硬化温度Tcureを有し、及び準安定粒子が、Tcureより高い融解温度(Tm)を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項6】
硬化性マトリックス樹脂が硬化温度Tcureを有し、及びTcがTcureより低い、請求項1〜5のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項7】
Tcが50℃より高く、及びTcureが100℃〜250℃の範囲である、請求項6に記載の複合材料。
【請求項8】
Tcが80℃より高く、及びTcureが170℃〜190℃の範囲である、請求項6に記載の複合材料。
【請求項9】
Tcが100℃〜200℃の範囲である、請求項6に記載の複合材料。
【請求項10】
準安定熱可塑性粒子がポリアミドの粒子である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項11】
準安定熱可塑性粒子がポリフェニレンサルファイド(PPS)又はポリアリールエーテルケトン(PAEK)の粒子である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項12】
準安定粒子が、複合材料中の総樹脂含有量を基準として2.5重量%〜30重量%の量で存在する、請求項1〜11のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項13】
他のポリマー粒子又は無機粒子を更に含む、請求項1〜12のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項14】
強化繊維の隣接する層間の領域が、Tcure未満の融解温度を有するポリマー粒子を全く含まない、請求項1〜13のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項15】
強化繊維が連続的な一方向に配向された繊維である、請求項1〜14のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項16】
強化繊維が織布又は多軸生地の形態である、請求項1〜14のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項17】
強化繊維が炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、及びこれらの組み合わせから選択される、請求項1〜16のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項18】
樹脂成分が、エポキシ樹脂、ビスマレイミド、ビニルエステル樹脂、シアネートエステル樹脂、フェノール樹脂、ベンズオキサジン、ホルムアルデヒド縮合樹脂、不飽和ポリエステル、アクリル、及びこれらの組み合わせから選択される1種以上の熱硬化樹脂を含む、請求項1〜17のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項19】
樹脂成分が1種以上のエポキシ樹脂を含む、請求項1〜18のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項20】
1種以上の熱硬化樹脂;
準安定熱可塑性粒子;及び
任意選択的に、熱硬化樹脂のための硬化剤
を含む硬化性樹脂組成物であって、準安定熱可塑性粒子が、粒子が結晶化温度Tcまで加熱されると結晶化を起こす非晶質ポリマーフラクションを有する半結晶性熱可塑性材料の粒子である、硬化性樹脂組成物。
【請求項21】
1種以上の熱硬化樹脂;
準安定熱可塑性粒子;及び
任意選択的に、熱硬化樹脂のための硬化剤
を含む硬化性樹脂組成物であって、準安定熱可塑性粒子が、周囲温度(20℃〜25℃)で化学的に安定な状態であるが、結晶化温度Tcまで加熱すると熱力学的に不安定になる半結晶性熱可塑性材料の粒子である、硬化性樹脂組成物。
【請求項22】
樹脂成分が、エポキシ樹脂、ビスマレイミド、ビニルエステル樹脂、シアネートエステル樹脂、フェノール樹脂、ベンズオキサジン、ホルムアルデヒド縮合樹脂、不飽和ポリエステル、アクリル、及びこれらの組み合わせから選択される1種以上の熱硬化樹脂を含む、請求項20又は21に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項23】
樹脂成分が1種以上のエポキシ樹脂を含む、請求項20〜22のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項24】
アミン硬化剤を含む、請求項23に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項25】
準安定熱可塑性粒子がポリアミドの粒子である、請求項20〜24のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項26】
準安定粒子が、樹脂組成物の総重量を基準として2.5重量%〜30重量%の量で存在する、請求項20〜25のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項27】
硬化性マトリックス樹脂が硬化温度Tcureを有し、及びTcがTcureより低い、請求項20〜26のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項28】
Tcが約50℃より高く、及びTcureが100℃〜250℃の範囲内である、請求項27に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項29】
硬化性熱硬化マトリックス樹脂で含浸された強化繊維の2つ以上の層と、強化繊維の隣接する層間に配置された準安定熱可塑性粒子とを含む複合積層体を形成することであって、準安定熱可塑性粒子が、結晶化温度Tcで結晶化可能な非晶質ポリマーフラクションを有する半結晶性熱可塑性材料の粒子である、形成すること;及び
複合積層体を硬化温度Tcureで硬化させること
を含む、複合構造体を製造する方法であって、硬化温度Tcureまでの昇温中、準安定熱可塑性粒子が、Tcureより低い結晶化温度Tcで結晶化を起こした、方法。
【請求項30】
液体樹脂を浸透させることが可能な複数の繊維質層と、隣接する繊維質層間に配置された準安定熱可塑性粒子とを含むプリフォームを形成することであって、準安定熱可塑性粒子が、結晶化温度Tcで結晶化可能な非晶質ポリマーフラクションを有する半結晶性熱可塑性材料の粒子である、形成すること;
プリフォームに、1種以上の熱硬化樹脂を含む硬化性液体樹脂を注入すること;及び
樹脂が注入されたプリフォームを硬化温度Tcureで硬化させること
を含む、複合構造体を製造する方法であって、硬化温度Tcureまでの昇温中、準安定硬化性粒子が、Tcureより低い結晶化温度Tcで結晶化を起こした、方法。
【請求項31】
Tcが約50℃より高く、及びTcureが100℃〜250℃の範囲内である、請求項29又は30に記載の方法。
【請求項32】
準安定粒子が、Tcureより高い融解温度(Tm)を有する、請求項29〜31のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
繊維強化高分子(FRP)複合材料は、航空宇宙、航空、船舶、自動車、及びビル/構造物の用途のためのものなどの耐荷重部品の製造で使用されてきた。FRP複合材料のための従来のマトリックス材料はエポキシ樹脂などの熱硬化樹脂を含み、これは、その耐熱性及び耐薬品性について知られている。そのような熱硬化樹脂は硬化後に良好な機械的特性も示すが、これらは、多くの場合に靭性が不足し、非常に脆くなる傾向がある。これは、その架橋密度が高い場合に特に当てはまる。
【0002】
一般的に、硬化した複合材料の機械的性能は、強化繊維及びマトリックス樹脂の個々の特性及びこれらの2つの成分間の相互作用の関数である。
【図面の簡単な説明】
【0003】
【
図1】非晶質ポリイミド粉末であるP84(登録商標)の示差走査熱量分析(DSC)のサーモグラムを示す。
【
図2】半結晶性ポリアミド粉末であるOrgasol(登録商標)2001EXDのDSCサーモグラムを示す。
【
図3】半結晶性ポリアミド粉末であるOrgasol(登録商標)1002DのDSCサーモグラムを示す。
【
図4】半結晶性ポリアミドであるVestosint(登録商標)2159のDSCサーモグラムを示す。
【
図5】ポリアミド−10,10を主体とする半結晶性ポリアミド粉末であるVestosint(登録商標)Z2649のDSCサーモグラムを示す。
【
図6】準安定であることが見出された半脂環式ポリアミドであるDAIAMID MSP−CXのポリアミド粉末のDSCサーモグラムを示す。
【
図7】準安定であることが見出された、ポリアミド−10,10(PA10,10)を主体とするポリアミド粉末であるDAIAMID MSP−BIOのDSCサーモグラムを示す。
【
図8】アニールされたDAIAMID(登録商標)MSP−CXポリアミド粒子のDSCサーモグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0004】
繊維強化高分子複合材料は、高い比強度、耐衝撃性、及び損傷許容性を同時に必要とする翼及び機体など(ただし、これらに限定されない)の重要な耐荷重構造のための材料として使用されてきた。
【0005】
従来の繊維強化複合材料の製造方法としては、連続強化繊維を硬化性マトリックス樹脂で含浸してプリプレグを形成することが挙げられる。この方法は、多くの場合に「プリプレグ化」法と呼ばれる。例えば、飛行機及び自動車の胴体の部品の一次構造及び二次構造などの高性能構造体は、プリプレグの複数の層を成形表面上にレイアップし、その後、コンソリデーション及び硬化させることによって形成することができる。
【0006】
硬化した繊維強化高分子複合材料は、特にアルミニウムなどの金属と比較した場合に明らかに損傷を受けやすいことから、典型的にはこれらの衝撃後残留圧縮強度(CSAI)によって測定されるこれらの耐衝撃性、及び典型的にはモードIとモードIIとの層間破壊靱性(それぞれG
Ic及びG
IIc)によって測定される損傷許容性が、重要な耐荷重複合構造体の設計で考慮される機械的性能であり、その結果、そのような構造は、それらの耐用期間中に遭遇する可能性があるエネルギー水準の衝撃に耐えることができる。硬化した複合材料の耐衝撃性を評価するために使用される典型的な衝撃エネルギー/硬化積層体の厚さの比率は、1,500in−lb/in又は6.7J/mmである。
【0007】
耐用期間中の硬化した複合材料構造の耐久性を確かなものにするために、硬化した複合材料に更に望まれる特性は、耐熱疲労性とも呼ばれる熱サイクルに対する耐性である。例えば、航空機外板上の温度は、滑走路でのアイドリング状態で停まっている際に最大で70℃に達し得る一方、巡航高度で飛行している際に−55℃もの低温に下がるであろう。飛行機のライフサイクル中、翼及び機体など(ただし、これらに限定されない)の硬化した複合材料部品は、70℃〜−55℃の高温/低温熱サイクルを何千回も経験することになる。これらの熱サイクルはかなりの内部熱応力を生じさせ、これは、マトリックスの亀裂又は複数要素のマトリックス樹脂を含む硬化した複合材料の界面剥離のいずれかを生じさせる場合がある。「界面剥離」という用語は、繰り返される高温/低温熱サイクル間に界面で生じる熱応力によって生じる、例えば熱可塑性粒子及び周りの熱硬化樹脂など、マトリックス樹脂内での2つの別々の要素間の剥離を指す。そのような熱応力は、2つの要素のそれぞれの熱膨張係数(CTE)間の不一致に起因する。熱によるマトリックスの亀裂又は界面剥離は、一般的には「微小亀裂」と呼ばれている。微小亀裂の存在は、例えば、溶剤などの液体の透過経路を増やすことから、微小亀裂は、低下した耐疲労性及び低下した耐流体性と関連する傾向がある。
【0008】
硬化した複合材料のもう1つの重要な特性は、耐溶剤性、特に洗浄作業又は塗装剥離作業時に典型的に使用されているものに対する耐性である。硬化した複合材料の耐溶剤性を評価するために使用される典型的な溶剤はメチルエチルケトン(MEK)である。MEKは、マトリックス樹脂の可塑化に悪影響を及ぼし、その引張応力を低下させる。硬化した複合材料のMEKに対する耐性は、典型的にはMEKに曝露した後にその面内せん断弾性係数(IPSM)の低下を測定することによって評価される。面内せん断弾性係数の低下はできるだけ小さいことが望ましい。
【0009】
多くの用途、特に航空機及び自動車の用途では、熱サイクルに対する耐性(微小亀裂に対する耐性)及び耐溶剤性(MEKへの曝露後のできるだけ小さいIPSMノックダウン)などの耐久性を維持しつつ、耐衝撃性(CSAI)及び/又は損傷許容性(G
1c/G
2c)を最大にすることが望まれる。CSAI並びに/又はG
Ic及びG
IIcの増加は、一般的には熱硬化マトリックス樹脂中に分散されている熱可塑性強化粒子の使用によって達成することができる。しかし、特定の種類の粒子が存在すると、微小亀裂に対する耐性の低下及び/又はMEKに対する耐性の低下が生じる場合がある。
【0010】
例えば、膨潤性のポリイミド粒子を使用すると、高いCSAI及び微小亀裂に対する耐性を有する硬化した複合材料を得ることができるが、特にモードIIにおける損傷許容性に若干の限界を有する。いくらかの半結晶性のポリアミド粒子を使用すると、高いCSAI及び損傷許容性を有する硬化した複合材料を得ることができるものの、硬化した複合材料は、熱サイクル時の微小亀裂の問題を有する。非晶質ポリアミド粒子を使用すると、高いCSAI及び損傷許容性を有する硬化した複合材料を得ることができ、また熱サイクル時の微小亀裂に対する優れた耐性を有し、硬化した複合材料は、耐溶剤性の問題をあまり有さない。
【0011】
重要な耐荷重構造のための設計要件に対応するために、高温/低温熱サイクル時の微小亀裂に対する耐性、並びに構造体のライフサイクル中に遭遇する複数回の洗浄及び塗料除去作業に耐えるための良好な耐溶剤性などの堅牢な耐久性と組み合わされた、高い耐衝撃性(CSAI)及び損傷許容性(G
1c/G
2c)を有する複合材料が依然として必要とされている。そのような複合材料は、航空宇宙及び自動車用途のために非常に望ましいであろう。
【0012】
準安定熱可塑性粒子を含む硬化性樹脂組成物及び繊維強化高分子複合材料が開示される。複合構造体を製造する方法も開示される。
【0013】
ある実施形態では、硬化性樹脂組成物は、
a.1種以上の熱可塑性樹脂を含む熱硬化樹脂;
b.準安定熱可塑性粒子;及び
c.任意選択的に、熱硬化樹脂成分のための硬化剤
を含み、ここで、準安定熱可塑性粒子は、粒子が結晶化温度T
cまで加熱されると結晶化を起こす非晶質ポリマーフラクションを有する半結晶性熱可塑性材料の粒子である。
【0014】
ある実施形態では、繊維強化高分子複合材料は、
硬化性熱硬化マトリックス樹脂で含浸された又はそれが注入された強化繊維の2つ以上の層;
強化繊維の隣接する層間に配置された準安定熱可塑性粒子
を含み、ここで、準安定熱可塑性粒子は、粒子が結晶化温度T
cまで加熱されると結晶化を起こす非晶質ポリマーフラクションを有する半結晶性熱可塑性材料の粒子である。
【0015】
半結晶性熱可塑性粒子を、その一般的な半結晶性の安定状態ではなく「準安定」状態で繊維強化高分子複合材料中に組み込むと、半結晶性ポリアミド粒子が典型的に遭遇する微小亀裂の問題を低減又は除去しながら、耐衝撃性及び損傷許容性を維持又は改善できることが見出された。また、そのような準安定熱可塑性粒子を複合材料中で強化剤として使用すると、非晶質ポリアミド粒子で強化された同じ複合材料と比較して改善された耐溶剤性を有する硬化した複合材料を得ることもできる。
【0016】
準安定熱可塑性粒子の重要な性質は、結晶性ポリマーフラクションに加えて粒子中に非晶質ポリマーフラクションが存在することであり、この場合の非晶質ポリマーフラクションは、硬化した複合材料構造体の製造時に熱をかけると低温結晶化を起こす。そのため、準安定粒子は周囲温度(20℃〜25℃)で化学的に安定な状態であるが、加熱時に熱力学的に不安定になって低温結晶化を起こす。「低温結晶化」とは、ポリマーを室温から加熱した際に生じる結晶化を指す。この用語は、ポリマーをその溶融状態から室温以下まで冷却した際に生じる結晶化と区別するために当業者によって使用される。ある実施形態では、加熱すると結晶化を起こす非晶質ポリマーフラクションは、結晶性ポリマーフラクションの5%よりも多い。いくつかの実施形態では、準安定熱可塑性粒子中の非晶質フラクションが結晶化を起こす温度範囲は、約80℃〜硬化温度T
cureである。いくつかの実施形態では、T
cureの範囲は、約170℃〜約190℃などの約100℃〜約250℃である。
【0017】
本開示において、「硬化する」又は「硬化」とは、ポリマー鎖の化学的な架橋による高分子材料の固化を指す。用語「硬化性」は、組成物を固化又は熱硬化した状態にさせる条件に組成物が曝され得ることを意味する。
【0018】
ある実施形態では、準安定粒子はポリアミドの粒子であり、これは、脂肪族、脂環式、芳香族、又はこれらの任意の組み合わせであってもよい。別の実施形態では、準安定粒子は、例えば、ポリイミド(PI)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、及びポリアリールエーテルケトン(PAEK)(ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)及びポリエーテルエーテルケトン(PEKK)を含む)など、水に不溶性であり、硬化した複合、材料構造体の製造時に熱をかけると低温結晶化を起こす別の結晶性熱可塑性ポリマーの粒子である。
【0019】
準安定熱可塑性粒子
本明細書において、「準安定熱可塑性粒子」という用語は、ゼロより大きい吸熱性の融解エンタルピー(ΔH
m)とゼロより大きい発熱性の結晶化エンタルピー(ΔH
c)とによって同時に特徴付けられる粒子状の熱可塑性ポリマーを指す。「半結晶性熱可塑性粒子」という用語は、完全にゼロより大きい吸熱性の融解エンタルピー(ΔH
m)とゼロに等しい発熱性の結晶化エンタルピー(ΔH
c)とによって同時に特徴付けられる粒子状の熱可塑性ポリマーを指す。また、「非晶質熱可塑性粒子」という用語は、ゼロに等しい吸熱性の融解エンタルピー(ΔH
m)とゼロに等しい発熱性の結晶化エンタルピー(ΔH
c)とによって同時に特徴付けられる粒子状の熱可塑性ポリマーを指す。熱可塑性粒子の準安定状態は、窒素雰囲気下において10℃/分の加熱速度で得られる示差走査熱量分析(DSC)サーモグラムによって数値化することができる。本明細書における用語「粒子」には、レーザー散乱粒子径分布分析装置を使用するレーザー散乱によって測定される75ミクロン未満の平均径を有する微細乾燥粒子の粉末が含まれる。
【0020】
「結晶化温度(T
c)」という用語は、第1の発熱ピークの温度を指し、「結晶化エンタルピー(ΔH
c)」という用語は、窒素下において10℃/分で得られるDSCサーモグラム中に存在する発熱ピークの積分を指す。そのような発熱ピークの存在は、結晶化が生じやすい粒子中の非晶質ポリマーフラクションの存在を示す。「融解温度(T
m)」という用語は、吸熱ピークの温度を指し、「融解エンタルピー(ΔH
m)」という用語は、窒素下において10℃/分で得られるDSCサーモグラム中に存在する吸熱ピークの積分を指す。
【0021】
当業者であれば、非晶質の熱可塑性粒子が例えば51℃〜250℃などの約50℃より高い温度範囲に加熱された際、発熱の結晶化ピークも吸熱の融解ピークも示さないことを認識するであろう。
図1は、窒素下において10℃/分で得られた、HP Polymerによって供給された非晶質ポリイミド粉末P84(登録商標)のDSCサーモグラムを示す。
【0022】
従来の半結晶性ポリアミド粒子は、周囲温度(20℃〜25℃)で安定状態であり、例えば51℃〜250℃などの50℃より高い温度範囲に加熱された際、発熱の結晶化ピークを全く示さず、代わりに吸熱の融解ピークのみ示す。
図2〜5は、それぞれ、共にArkemaから供給されているOrgasol(登録商標)2001EXD及びOrgasol(登録商標)1002D;共にEvonik Industriesから供給されているVestosint(登録商標)2159及びVestosint(登録商標)Z2649である、数種の市販の半結晶性ポリアミド粉末の、窒素下において10℃/分で得られたDSCサーモグラムを示す。
【0023】
対照的に、本開示の好ましい実施形態の準安定ポリアミド粒子は、例えば、51℃〜250℃などの50℃より高い温度範囲に加熱された際、最初の発熱性の結晶化ピークとそれに続く第2の吸熱性の融解ピークとの両方を示す。これらの発熱性及び吸熱性のピークは完全に分かれていてもよく、又は若干重なり合っていてもよい。
【0024】
図6は、Evonikから供給されている半脂環式ポリアミドであるDAIAMID(登録商標)MSP−CXのポリアミド粉末のDSCサーモグラムを示し、これは、50℃より高い温度範囲に加熱された際に準安定であることが見出された。
【0025】
図7は、Daicel−Evonikによって化粧用途のために市販されているポリアミド − 10,10(PA10,10)を主体とする別の準安定ポリアミド粉末であるDAIAMID(登録商標)MSP−BIOのDSCサーモグラムを示し、これは、50℃より高い温度範囲に加熱された際に準安定であることが見出された。
【0026】
半結晶性である準安定粒子は、非晶質ポリマーフラクションが結晶化を起こす温度である結晶化温度T
cを有する。準安定粒子は、融解温度T
mも有する。硬化性樹脂組成物中の樹脂成分、硬化剤、及び準安定粒子は、準安定熱可塑性粒子が、約50℃より高い温度であるが、マトリックス樹脂の硬化温度(T
cure)よりも低い温度(T
c)で更なる結晶化を起こすように、且つマトリックス樹脂の硬化サイクル時の粒子の融解を回避するために準安定粒子の融解温度(T
m)がマトリックス樹脂のT
cureよりも高いように選択される。マトリックス樹脂のT
cureは、約100℃〜約250℃の範囲であってもよい。T
cは、T
c<T
cureであることを条件として約140℃超などの約80℃超であってもよい。いくつかの実施形態では、T
cは、約100℃〜約200℃の範囲である。いくつかの実施形態では、T
cureは、約170℃〜約190℃の範囲内であってもよく、いくつかの実施形態では、T
cureは約180℃である。
【0027】
準安定粒子は、樹脂組成物の総重量(すなわち、熱硬化樹脂、準安定粒子、硬化剤、及び全ての任意選択的な追加的な強化剤又は他の添加剤類の総重量)を基準として約5%〜約25%などの約2.5重量%〜約30重量%の含有率で存在していてもよい。
【0028】
マトリックス樹脂
本明細書に開示の硬化性樹脂組成物中の1種以上の熱硬化樹脂としては、これらに限定するものではないが、エポキシ樹脂、ビスマレイミド、ビニルエステル樹脂、シアネートエステル樹脂、イソシアネート変性エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ベンズオキサジン、ホルムアルデヒド縮合樹脂(尿素、メラミン、又はフェノールと共になど)、ポリエステル、アクリル、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0029】
好適なエポキシ樹脂としては、芳香族ジアミン、芳香族1級モノアミン、アミノフェノール、多価フェノール、多価アルコール、ポリカルボン酸の、ポリグリシジル誘導体が挙げられる。好適なエポキシ樹脂の例としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、及びビスフェノールKなどのビスフェノールのポリグリシジルエーテル、並びにクレゾール及びフェノール系ノボラックのポリグリシジルエーテルが挙げられる。
【0030】
具体的な例は、4,4’−ジアミノジフェニルメタンのテトラグリシジル誘導体(TGDDM)、レゾルシノールジグリシジルエーテル、トリグリシジル−p−アミノフェノール、トリグリシジル−m−アミノフェノール、ブロモビスフェノールFジグリシジルエーテル、ジアミノジフェニルメタンのテトラグリシジル誘導体、トリヒドロキシフェニルメタントリグリシジルエーテル、フェノール−ホルムアルデヒドノボラックのポリグリシジルエーテル、o−クレゾールノボラックのポリグリシジルエーテル、又はテトラフェニルエタンのテトラグリシジルエーテルである。
【0031】
ホスト樹脂マトリックス中での使用に好適な市販のエポキシ樹脂としては、N,N,N’,N’−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(例えば、HuntsmanのMY9663、MY720、及びMY721);N,N,N’,N’−テトラクリシジル−ビス(4−アミノフェニル)−1,4−ジイソ−プロピルベンゼン(例えば、MomentiveのEPON1071);N,N,N’,N’−テトラグリシジル−ビス(4−アミノ−3,5−ジメチルフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン(例えば、MomentiveのEPON1072);p−アミノフェノールのトリグリシジルエーテル(例えば、HunstmanのMY0510);m−アミノフェノールのトリグリシジルエーテル(例えば、HunstmanのMY0610);2,2−ビス(4,4’−ジヒドロキシフェニル)プロパンなどのビスフェノールA系材料のジグリシジルエーテル(例えば、DowのDER661、又はMomentiveのEPON828、及び好ましくは25℃で8〜20Pa・sの粘度のノボラック樹脂;フェノールノボラック樹脂のグリシジルエーテル(例えば、DowのDEN431又はDEN438);ジシクロペンタジエン系フェノールノボラック(例えば、HunstmanのTactix556);ジグリシジル1,2−フタレート(例えば、GLY CEL A−100);ジヒドロキシジフェニルメタンのジグリシジル誘導体(ビスフェノールF)(例えば、HunstmanのPY306)が挙げられる。他のエポキシ樹脂としては、3’,4’−エポキシシクロヘキシル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(例えば、HuntsmanのCY179)などの脂環式が挙げられる。
【0032】
通常、マトリックス樹脂は、1種以上の熱硬化樹脂を、硬化剤、硬化触媒、コモノマー、レオロジー調整剤、粘着性付与剤、無機若しくは有機フィラー、エラストマー系強化剤、強化用コア−シェル粒子、安定化剤、阻害剤、顔料、染料、難燃剤、反応性希釈剤、可溶性若しくは粒子状熱可塑性物質、及び硬化前又は後の樹脂マトリックスの特性を改良するための当業者に周知の他の添加剤などの他の添加剤との組み合わせで含む。
【0033】
マトリックス樹脂組成物は、例えばオートクレーブ又は赤外線若しくはマイクロ波照射などの任意の従来の手段によって硬化させることができ、また熱的に硬化可能である。1種以上の硬化剤を添加すると、硬化速度が増加する及び/又は硬化温度が低下する。ある実施形態では、1種以上の触媒が使用されてもよい。
【0034】
硬化剤は、例えば芳香族若しくは脂肪族アミン、又はグアニジン誘導体などの公知の硬化剤から適切に選択される。芳香族アミン硬化剤が好ましく、好ましくは1分子当たり少なくとも2つのアミノ基を有する芳香族アミンであり、特に好ましいものは、例えば、アミノ基がスルホン基に対してメタ位又はパラ位にあるものなどのジアミノフェニルスルホンである。具体的な例は、3,3’−及び4−,4’−ジアミノジフェニルスルホン(DDS);メチレンジアニリン;ビス(4−アミノ−3,5−ジメチルフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン;ビス(4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン;4,4’メチレンビス−(2,6−ジエチル)−アニリン(LonzaのMDEA);4,4’メチレンビス−(3−クロロ,2,6−ジエチル)−アニリン(LonzaのMCDEA);4,4’メチレンビス−(2,6−ジイソプロピル)−アニリン(LonzaのM−DIPA);3,5−ジエチルトルエン−2,4/2,6−ジアミン(LonzaのD−ETDA80);4,4’メチレンビス−(2−イソプロピル−6−メチル)−アニリン(LonzaのM−MIPA);4−クロロフェニル−N,N−ジメチル−尿素(例えば、Monuron);3,4−ジクロロフェニル−N,N−ジメチル−尿素(例えば、DiuronTM)、及びジシアノジアミド(例えば、Pacific Anchor ChemicalのAmicure TM CG 1200)である。
【0035】
好適な硬化剤としては無水物も挙げられ、特にナド酸無水物、メチルナド酸無水物、フタル酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルテトラヒドロフタル酸無水物、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸無水物、及びトリメリット酸無水物などのポリカルボン酸無水物が挙げられる。
【0036】
好ましくは、樹脂組成物中の熱硬化樹脂成分の量は、樹脂組成物の総重量に対して約20%〜約80%、より好ましくは約30%〜約70%の範囲である。
【0037】
硬化剤は、例えば熱硬化樹脂1モル当たり硬化剤0.5〜1.5モルの範囲など、熱硬化樹脂の反応性基と反応するための硬化剤由来の反応性基が十分な量で存在するような化学量論量で存在していてもよい。
【0038】
より一般的には、硬化剤は、樹脂組成物中の熱硬化樹脂成分+硬化剤の合計重量に対して、約15重量%〜約50重量%及び約20重量%〜約40重量%など、約5重量%〜約60重量%で存在していてもよい。
【0039】
複合材料
本開示の準安定熱可塑性粒子は、複合積層体の繊維強化層間の層間強化粒子として使用することができる。好ましい実施形態では、複合積層体は、硬化性マトリックス樹脂(未硬化の又は不完全に硬化された)で含浸された又はそれが注入された強化繊維の複数の層と、強化繊維の隣接する層間に形成される層間領域に分散されている準安定粒子とからなる。複合積層体が硬化すると、準安定粒子は上述したように更なる結晶化を起こす。「層間領域」とは、複数の積層された複合材料構造体中の強化繊維の隣接する層間の領域を指す。
【0040】
高性能の複合材料を製造するために、好適な強化繊維は、一般論として500ksi(又は3447MPa)超の引張強度を有するものとして特徴付けることができる。この目的のために有用な繊維としては、炭素若しくはグラファイト繊維、ガラス繊維、及び、炭化ケイ素、アルミナ、チタニア、ホウ素等から形成された繊維、並びに例えばポリオレフィン、ポリ(ベンゾチアゾール)、ポリ(ベンズイミダゾール)、ポリアリレート、ポリ(ベンゾオキサゾール、アラミド、ポリアリールエーテル等などの有機ポリマーから形成された繊維が挙げられ、これらは2種以上のそのような繊維の混合物を含んでいてもよい。好ましくは、繊維は、ガラス繊維、炭素繊維、及びアラミド繊維(DuPont Companyから商品名KEVLARとして販売されている繊維など)から選択される。繊維は、複数のフィラメントから作られた連続トウの形態で、連続的な一方向繊維のシートとして、織布又は多軸不織布として使用されてもよい。織り形態は、平織、サテン織、又は綾織の織り方から選択されてもよい。多軸形態は、例えばノンクリンプ織物など、多数のパイル及び繊維の配向を有していてもよい。
【0041】
準安定粒子は、複合材料中の合計の樹脂含有量を基準として約2.5重量%〜約30重量%、いくつかの実施形態では約5%〜約25%の含有率で存在していてもよい。
【0042】
ある実施形態では、準安定粒子は他の層間強化粒子と組み合わせて使用されてもよく、これは高分子性(例えば、ポリイミド、ポリアリールスルホン、エラストマー)であっても、無機物(例えば、炭素、金属)であってもよい。いくつかの実施形態では、層間領域は、マトリックス樹脂の硬化温度T
cure未満で融解する熱可塑性粒子を全く含まない。他の粒子が存在する場合、粒子の総量は、複合材料中の合計の樹脂含有量を基準として最大約25重量%であってもよい。
【0043】
準安定ポリマー粒子の製造方法
本開示の準安定ポリマー粒子は、溶媒を用いない溶融プロセスによって製造することができ、これによって製造プロセスは完全且つ安定な結晶性の発現を阻止し、その結果、これらが「準安定」状態に保たれる。
【0044】
例えば、溶媒を用いない溶融プロセスは、以下を含み得る:
a)非晶質状態の非水溶性熱可塑性樹脂(例えば、ポリアミド樹脂)と水溶性のマトリックス材料との溶融混合物を、一軸押出機又は二軸押出機などの押出機を使用して押出して、水溶性マトリックス材料中に分散された熱可塑性樹脂の微粒子を含むストランド又はシートの形態の溶融樹脂組成物を形成すること;
b)再結晶化を防止するような条件下で溶融樹脂組成物を冷却及び固化させることであり、例えば冷却及び固化を迅速に行うことができる、冷却及び固化させること;及び
c)水で洗浄することで固化した樹脂組成物から水溶性材料を溶解させて除去し、これにより準安定半結晶性熱可塑性ポリマーの微細な球形粒子を得ること。
【0045】
押出工程時の溶融混合物中の水溶性マトリックス材料に対する熱可塑性樹脂の比率は、重量基準で約1/99〜約60/40、好ましくは重量基準で約5/95〜約50/50であってもよい。
【0046】
微粒子の大きさ(寸法)は、例えば水溶性材料の種類、水溶性材料に対する熱可塑性樹脂の比率、融解温度、押出機のスクリューの構造、及びスクリューの回転数などの条件又はパラメータを調整することによって制御することができる。
【0047】
押出機から押し出されたばかりの樹脂組成物は溶融状態であり、この中で微細な熱可塑性粒子とマトリックス材料との両方が冷却及び固化前に融解又は軟化される。押出機のダイから出た押し出された樹脂は、ダイの穴からそれほど離れていない位置で押出機のダイの下で押出方向に水平に移動するベルトコンベアなどの搬送装置の上に載せられる。搬送装置は押出機の押出速度と実質的に等しい速度で移動し、押出された樹脂組成物は空気によって冷却され、その結果、固化する。搬送装置は、冷却装置によって冷却されてもよい。空冷における冷却温度は、例えば、約0℃〜約35℃である。
【0048】
水溶性マトリックス材料は、好ましくは、例えば約100℃〜300℃などの非水溶性熱可塑性樹脂と同じ溶融/軟化温度で軟化でき、非水溶性熱可塑性樹脂と共に混練でき、且つ溶融又は固化状態で非水溶性熱可塑性樹脂から2相に分離できる水溶性材料である。そのような水溶性材料の例は、単糖、オリゴ糖、多糖、糖アルコール、ポリデキストロース、マルトデキストリン、及びイヌリンなどの糖;これらの糖の水素化生成物及び加水分解生成物;並びに水溶性樹脂である。糖の水素化生成物及び加水分解生成物としては、水素化ヘキソース、水素化二糖、水素化でんぷん、転化糖、及びでんぷんの水素化若しくは非水素化分解生成物が挙げられる。これらの水溶性材料のそれぞれは単独でも組み合わせでも使用することができる。
【0049】
単糖の例は、キシロース、リブロース、グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、及びソルボースである。多糖は、脱水縮合の結果としてのグリコシド結合によって結合した1つ以上の単糖及び/又は糖アルコールの11個以上の分子を含む糖である。その例は、イヌリン、アクロデキストリン、ポリデキストロース、アミロース、アミロペクチン、でんぷん、及びセルロースである。糖アルコールとしては、例えばエリスリトール、ペンタエリスリトール、アラビトール、リビトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、及びガラクチトールが挙げられる。水溶性樹脂の例は、分子内に−CONH−、−COOH、又は−OHなどの親水性基を有する直鎖ポリマーであり、ポリアクリルアミド、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(イタコン酸)、及びポリ(ビニルアルコール)が挙げられる。
【0050】
オリゴ糖の例は、トレハロース、マルトース、イソマルトース、マルチトール、セロビオース、ゲンチオビオース、ラクトース、ラクチトール、スクロース、1,6−GPS(6−O−a−D−グルコピラノシル−D−ソルビトール)、1,1−GPS(1−O−a−D−グルコピラノシル−D−ソルビトール)、及び1,1−GPM(1−O−a−D−グルコピラノシル−D−マンニトール)などの二糖;セロトリオース、ゲンチアノース、マルトトリオース、及びラフィノースなどの三糖;リコテトラオース、マルトテトラオース、及びスタキオースなどの四糖;マルトペンタオース及びベルバスコースなどの五糖;マルトヘキサオースなどの六糖;並びにマルトデキストリンなどの三糖、四糖、又は五糖;並びにデキストリン及びシクロデキストリンなどの七糖又は八糖である。
【0051】
冷却及び固化した樹脂組成物を水中に入れることにより、及び撹拌しながら水溶性マトリックス材料を水中に溶解させることにより、水での洗浄を行ってもよい。水での洗浄時の温度は、微粒子の球形に悪影響を与えない範囲内で適切に設定することができ、例えば約0℃〜約100℃である。洗浄温度は100℃を超える温度であってもよい。必要に応じて、洗浄水は、非水溶性の不純物を除去するために有機溶剤を含んでいてもよい。
【0052】
水での洗浄後、水中に分散されている非水溶性熱可塑性樹脂の微細な球形の熱可塑性粒子を含む水性分散液に対して、濾過又は遠心分離及びその後の乾燥などの従来の分離プロセスを行うことにより、微細な球形の熱可塑性樹脂粒子を回収することができる。
【0053】
得られる微細な実質的に球形の熱可塑性樹脂粒子は、約5μm〜約75μmなどの約0.01μm〜約100μmの平均粒径(又はサイズ)を有していてもよい。平均粒径は、例えばMalvernのMastersizerなどの光散乱粒径分布分析装置を使用することによって決定することができる。
【0054】
複合材料及び構造体の製造方法
本開示の層間準安定粒子を有する複合材料及び構造は、様々な方法を使用して製造されてもよい。
【0055】
各繊維層は、別々にマトリックス樹脂に含浸/注入されてプリプレグを形成してもよい。本明細書において、「プリプレグ」という用語には、それらの体積の少なくとも一部内においてマトリックス樹脂で予め含浸された繊維のシート又は層が含まれる。樹脂マトリックスは、部分的に硬化した状態又は未硬化の状態で存在していてもよい。プリプレグは、完全に含浸されたプリプレグであっても部分的に含浸されたプリプレグであってもよい。典型的には、プリプレグは最終的な複合部品への成形及び硬化の準備が整った形態であり、一般的には航空機の翼、胴体、バルクヘッド、及び動翼などの耐荷重構造部品の製造で使用される。硬化したプリプレグの重要な特性は、削減された重量での高い強度及び剛性である。
【0056】
複数のプリプレグのプライは積層配列でレイアップされて「プリプレグレイアップ」を形成する。各プリプレグプライは一方向に配向された繊維を含んでいてもよく、レイアップ中のプリプラグプライは、一方向繊維が例えば0°、±45°、90°等などの互いに対して選択された配向にあるように位置していてもよい。プリプレグレイアップは、限定するものではないが、ハンドレイアップ、自動テープ積層(ATL)、改良型繊維配置(advanced fibre placement,AFP)、及びフィラメントワインディングを含み得る手法によって製造することができる。
【0057】
ある実施形態では、複数のプリプレグプライを互いに積層して硬化の準備が整った積層された積層体を形成する前に、プリプレグプライの表面上に粒子が堆積される。粒子は、散布、静電堆積、散乱コーティング、噴霧分散、及び当業者に公知の任意の他の手法などの任意の他の手法によって堆積することができる。分散された複合粒子は、樹脂の粘性によってプリプレグの表面に付着する。プリプレグプライが互いに積層されて積層パネルを形成すると、粒子は積層パネルの層間領域に残る。
【0058】
別の実施形態では、プリプレグの製造前に硬化性/未硬化の樹脂マトリックスと特定量の粒子とが混合される。そのような実施形態では、剥離紙の上に粒子含有樹脂混合物をコーティングすることによって樹脂フィルムが最初に製造される。次いで、得られた樹脂フィルムは、繊維を含浸するために熱及び圧力を用いて繊維の層の上に積層され、それにより、特定の繊維目付及び樹脂含有量を有するプリプレグプライが形成される。樹脂フィルムの積層工程時、粒子のサイズが繊維間の間隔よりも大きいため、粒子が濾過されて繊維層の外部に残る。引き続き、粒子を含むプリプレグの2つの層が重ねられて積層されると、粒子は2つの隣接したプリプレグプライ間の層間領域に配置される。
【0059】
代替の実施形態では、粒子がない硬化性樹脂組成物が剥離紙の上にコーティングされて樹脂フィルムを形成し、これが対向する繊維層の表面の一方又は両方と接触される。樹脂は繊維を含浸し、繊維層の外表面上に樹脂を少しのみ残すか又は全く残さない。引き続き、粒子を含む硬化性樹脂の第2のフィルムが樹脂で含浸された繊維層の外表面と接触される。粒子を含む硬化性樹脂の追加的なフィルムが、樹脂で含浸された繊維層の対向する外表面と接触することでサンドイッチ構造を形成してもよい。結果として、粒子を含む樹脂層は含浸された繊維層の外側のままであり、これは繊維を更に含浸しない。複数のそのような構造が互いに積層されて層間領域に位置する粒子を有する複合構造体を形成する。
【0060】
別の実施形態では、粒子を含まない硬化性樹脂組成物の2枚のフィルムが繊維層の2つの対向する表面と接触される。樹脂は繊維を含浸し、繊維層の外表面上に樹脂を少しのみ残すか又は全く残さない。引き続き、粒子を含む硬化性樹脂の2枚のフィルムが、予め含浸された繊維層の対向する表面と接触させる。複数のそのような構造が互いに積層されることで、層間領域に粒子を有する複合パネルが形成される。そのような手法は、粒子が繊維の配置を破壊しないことに起因する秩序正しい積層体を与える傾向があるために好ましい。
【0061】
上述の方法によって形成される複合材料、構造、又はプリプレグは、連続繊維又はチョップドファイバーを有するテープ、トウプレグ、又はウェブの形態であってもよい。
【0062】
別の実施形態では、準安定粒子は、RTM又はVaRTMなどの樹脂注入法によって液体樹脂を受けるように構成された繊維プリフォーム中に組み込まれる。プリフォームは、乾燥強化繊維の隣接する層間に挿入された粒子を有する乾燥強化繊維の複数の層からなる。乾燥強化繊維の層は、液体樹脂を浸透させることができる。
【0063】
プリフォーム中の強化繊維の層は、複合材料の製造に関して当該技術分野で公知の任意の種類の繊維製品であってもよい。好適な生地の種類又は構造の例としては、これらに限定するものではないが、全ての織布(例えば、平織、綾織、サテン織、スパイラル織、及び一方向織);全ての多軸生地(例として、たて編生地及び非捲縮生地(NCF)が挙げられる);編み生地;編組生地;全ての不織布(例として、限定するものではないが、チョップドファイバー及び/又は連続繊維のフィラメントからなるマット生地が挙げられる)、フェルト、及び上述の生地タイプの組み合わせが挙げられる。
【0064】
樹脂注入法では、プリフォームがモールド内に配置され、これに硬化性液体樹脂が注入されて繊維の層が濡らされる。RTM及びVaRTMシステムのためのマトリックス樹脂は、プリフォームを完全に濡らして浸み込むことができるための非常に低い注入粘度を有さなければならない。
【0065】
いくつかの実施形態では、硬化した複合材料は、以下の特性を同時に示す:
a)非常に優れた又は改善された耐衝撃性、特に1500in−lb/in(CSAI)の衝撃後の残留圧縮強度;
b)非常に優れた又は改善された損傷許容性、特に耐久性をほとんど損なうことのないモードI及びモードIIの層間破壊靭性;
c)層間領域における最小限にのみ存在するか又は完全に存在しない微小亀裂;
d)非常に優れた耐溶剤性;及び
e)非常に優れた又は改善されたホットウェット有孔圧縮強度(HW OHC)。
【実施例】
【0066】
以降の実施例では、複合材料の機械的性能を以下の手法に従って測定した。
【0067】
モードI(G
1c)の層間破壊靭性は、ASTM D5528に記載されている通りのダブルカンチレバービーム(DCB)試験片について、インチ−ポンド毎平方インチ(in−lb/in
2)単位で測定した。長さ10”×幅1”の試験片を製造するために、26プライ含む1軸方向(UD)のレイアップを使用した。剥離フィルムを試験片の端部で中心面に配置して長さ2.5”の剥離亀裂スターターを形成した。その後、DCB試験片に剥離が成長するまで引張荷重をかけた。モードIの層間破壊靭性(G
1c)は、モードIでの剥離成長の開始と関連するひずみエネルギー開放率(G)の臨界値である。G
1cの値は、式1を使用することによる修正ビーム理論に従って計算した。式中、F
maxは剥離成長開始時の最大記録荷重であり、wは試験片の幅であり、∂C/∂aは微小剥離亀裂成長(∂a)についての試験片コンプライアンス(∂C)の偏微分である。
G
1c=(F
max)
2/(2w)∂C/∂a[in−lb/in
2] 式1
【0068】
モードIIの層間破壊靭性(G
2c)は、ASTM D7905に記載されている通りのエンド−ノッチ屈曲(ENF)試験片について、インチ−ポンド毎平方インチ(in−lb/in2)単位で測定した。長さ10”×幅1”の試験片を製造するために、26プライ含む1軸方向(UD)のレイアップを使用した。剥離フィルムを試験片の端部で中心面に配置して長さ2.5”の剥離亀裂スターターを形成した。その後、剥離が成長するまでENF試験片に3点曲げ荷重を加えた。モードIIの層間破壊靭性(G
2c)は、モードIIでの剥離成長の開始と関連するひずみエネルギー開放率(G)の臨界値である。G
2cの値は式2を使用した。式中、F
maxは剥離成長開始時の最大記録荷重であり、wは試験片の幅であり、aは亀裂の長さであり、Cは試験片のコンプライアンスであり、Lは荷重の間隔の半分である。
G
2c=(a
2F
2maxC)/(2w(2L
3+3a
3))[in−lb/in
2] 式2
【0069】
衝撃後圧縮強度(CSAI)は、ASTM D7136及びATSM D7137に記載されている3回対照の疑似等方性レイアップ([+45/0/−45/90]
3s)について、キロ−ポンド毎平方インチ(ksi)単位で測定した。試験前に、長さ6”×幅4”の試験片に270インチ−ポンド(in−lb)の衝撃エネルギーを与えた。この衝撃エネルギーは、1,500in−lb/inの衝撃エネルギー/硬化積層体厚さの比率が得られるように選択した。CSAIの値は式3を使用することによって計算した。式中、F
maxは最大荷重であり、wは試験片の幅であり、tは試験片厚さである。
CSAI=F
max/(w・t)[ksi] 式3
【0070】
面内せん断弾性係数(IPSM)は、BSS7320に記載の通りに対称クロスプライレイアップ([+45/−45]
s)に対してメガ−ポンド毎平方インチ(Msi)単位で測定した。試験片に対して0.5%の軸ひずみまで張力をかけた。IPSMの値は式4を使用することによって計算した。式中、E
xは、最初と0.4%の軸ひずみとの間で測定された軸方向割線係数であり、muは0.4%の軸ひずみで測定されたポアソン比である。
IPSM=E
x/(2(1+mu))[Msi] 式4
【0071】
メチルエチルケトン(MEK)に対する耐性を評価するために、追加的なIPSM試験片を上述した手順の通りに試験する前に室温で6日間にわたりMEK中に浸漬した。MEKノックダウンファクターは、式5を使用することによってMEK曝露後のIPSMの減少率として計算した。式中、IPSMは未処理の試験片で測定された値であり、IPSM
MEKはMEKに6日間浸漬された試験片で測定された値である。
MEK knockdown=(IPSM−IPSM
MEK)/IPSM[%] 式5
【0072】
熱サイクルに対する耐性を評価するために、2回対称の疑似等方性レイアップ([+45/0/−45/90]
2s)の2in×3in試験片を−54℃〜71℃で2,000回反復させた。その後、試験片を横断面で切断し、研磨してから光学顕微鏡で撮像した。その後、1平方ミリメートル当たりの微小亀裂の数を数えた。
【0073】
ホットウェット有孔圧縮強度(HW OHC)は、ASTM D6484に記載の通りの2回対称の疑似等方性レイアップ([+45/0/−45/90]
2s)に対してキロ−ポンド毎平方インチ(ksi)単位で測定した。中心に0.25”の孔を有する長さ12”×幅1.5”の試験片を、180F(82C)で試験する前に160F(71C)で14日間水に浸漬した。HW OHCの値は式6を使用することによって計算した。式中、F
maxは最大荷重であり、wは試験片の幅であり、tは試験片の厚さである。
HW OHC=F
max/(w・t)[ksi] 式6
【0074】
原材料
Araldite(登録商標)MY0510はトリグリシジルp−アミノフェノールであり、Araldite(登録商標)(登録商標)(登録商標)PY306はビスフェノールFのジグリシジルエーテルであり、共にHuntsmanからのものである。SumikaexcelTM5003Pは住友化学株式会社からのポリエーテルスルホンであり、Aradur9664−1はHuntsmanからの4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(4,4’−DDS)であり、DAIAMID(登録商標)MSP BIOは、Evonik Industriesから供給された、solvent−free(登録商標)溶融プロセスによって製造された、平均粒径が8.6μmのポリアミド−10,10(PA10,10)を主体とする半結晶性粒子についての製品名である。
【0075】
Vestosint(登録商標)Z2654は、Evonik Industriesから供給された、溶剤フリーの溶融プロセスによって製造された、平均粒径が16.1μmのポリアミド−10,10(PA10,10)を主体とする半結晶性粒子についての製品名である。
【0076】
Trogamid(登録商標)MSP A7042は、Evonik Industriesから供給された、溶剤フリーの溶融プロセスによって製造された、平均粒径が15.8μmの、脂環式ジアミンとドデカン二酸との生成物である半脂環式ポリアミドの粒子についての製品名である。
【0077】
Vestosint(登録商標)Z2649は、Evonik Industriesから供給された、平均粒径が10.4μmの半結晶性ポリアミド−10,10(PA10,10)の粒子についての製品名である。
【0078】
Orgasol(登録商標)2001EXDは、Arkemaから供給された、平均粒径が10.0μmの半結晶性ポリアミド−12(PA12)の粒子についての製品名である。
【0079】
Orgasol(登録商標)1002Dは、Arkemaから供給された、平均粒径が19.6μmの半結晶性ポリアミド−6(PA6)の粒子についての製品名である。
【0080】
Vestosint(登録商標)2159は、Evonik Industriesから供給された、平均粒径が10.9μmの半結晶性ポリアミド−12(PA12)の粒子についての製品名である。
【0081】
Fortron(登録商標)0205B4は、Ticonaから供給された、平均粒径が20.0μmの半結晶性ポリフェニレンサルファイド(PPS)の粉砕粒子についての製品名である。
【0082】
P84は、HP Polymersから供給された、平均粒径が44μmの非晶質ポリイミドの粉砕粒子についての製品名である。
【0083】
DAIAMID(登録商標)MSP−CXは、Evonik Industriesから供給された、溶剤フリーの溶融プロセスによって製造された、平均粒径が16.9μmの、脂環式ジアミンとドデカン二酸との生成物である半脂環式ポリアミドの粒子についての製品名である。
【0084】
全ての粒径はレーザー散乱法により決定した。
【0085】
実施例1
強化用粒子なしの樹脂系Uは、表1に示されている成分を使用して配合した。
【0086】
【0087】
樹脂Uは、60℃〜90℃の範囲の温度でエポキシ前駆体のAraldite(登録商標)(登録商標)MY0510とAraldite(登録商標)(登録商標)PY306を混合することによって製造した。Sumikaexcel 5003P(ポリエーテルスルホン)をエポキシ混合物に添加し、次いで110℃〜130℃の範囲の温度で溶解させた。その後、Aradur9664−1(4,4’−DDS)を60℃〜90℃の範囲の温度で添加して混合した。
【0088】
このようにして製造した樹脂Uを、その後、剥離紙の上に23.4gsm(グラム毎平方メートル)の名目目付で成膜した。従来のプリプレグ機内で中間弾性率炭素繊維を広げ、190gsmの名目目付の一方向繊維の繊維ウェブを形成した。形成された繊維ウェブを、その後、樹脂Uの2枚のフィルム間に挟み、190gsmの名目繊維目付(FAW)と19.8重量%の名目樹脂含有率とを有するプリプレグUを得た。
【0089】
異なる熱可塑性粒子を含む6種の樹脂組成物P.1〜P.6を、表2に示されている成分を使用して配合した。全ての量は重量%である。
【0090】
【0091】
表2中の各樹脂成分は、60℃〜90℃の範囲の温度でエポキシ前駆体のAraldite(登録商標)(登録商標)MY0510とAraldite(登録商標)(登録商標)PY306を混合することによって製造した。Sumikaexcel 5003P(ポリエーテルスルホン)を添加し、次いで110℃〜130℃の範囲の温度で溶解させた。その後、Aradur9664−1(4,4’−DDS)を60℃〜90℃の範囲の温度で添加して混合した。
【0092】
このようにして製造した各樹脂組成物Pを、その後、剥離紙の上に23.4gsmの名目目付で成膜した。従来のプリプレグ機を使用して、粒子含有樹脂組成物Pから形成された2枚の樹脂フィルム間に、上述の通りに形成したプリプレグUを挟んで、190gsmの名目繊維目付(FAW)と33重量%の名目総樹脂含有率とを有するプリプレグPを得た。
【0093】
複数のプリプレグPをレイアップして複合積層体を形成した。積層体を従来のゼロブリードで封入し、真空バッグを密封し、硬化サイクル全体を通して真空を維持しながら85psiの圧力下において180℃で2時間にわたりオートクレーブ中で硬化させた。使用した異なる強化用粒子は、表2中でE−P1、E−P2、E−P3、C−P4、C−P5、及びC−P6と表示されている。
【0094】
その後、硬化したパネルを耐衝撃試験(CSAI)及びモードI(G
1c)とモードII(G
2c)との破壊靭性について試験した。結果は表3に報告されている。
【0095】
【0096】
準安定粒子E−P1(DAIAMID(登録商標)MSP BIO)は、窒素雰囲気下において10℃/分の加熱速度で得られるDSCによって決定される176.65℃のT
c、5.59J/gのΔH
c、200.42℃のT
m、及び69.91J/gのΔH
mによって特徴付けられる。これらは8%のΔH
c/ΔH
mの比率によって特徴付けられる。これらの粒子は、その後の融解なしに複合積層体の硬化時に更に結晶化を起こした。これらの粒子は、51.3ksiの高いCSAI、4.2in−lb/in
2の高いG
1c、及び14.1in−lb/in
2の高いG
1cのG
2cを同時に生じさせることが分かった。
【0097】
準安定粒子E−P2(Vestosint(登録商標)Z2654)は、窒素雰囲気下において10℃/分の加熱速度で得られるDSCによって決定される166.99℃のT
c、11.44J/gのΔH
c、246.14℃のT
m、及び25.33J/gのΔH
mによって特徴付けられる。これらは45.2%のΔH
c/ΔH
mの比率によって特徴付けられる。そのため、これらの粒子は、その後の融解なしに複合積層体の硬化時に更に結晶化を起こした。これらの粒子は、45.7ksiの高いCSAI、4.1in−lb/in
2の高い
1c、及び13.7in−lb/in
2の高いG
2cを同時に生じさせることが分かった。
【0098】
準安定粒子E−P3(Trogamid(登録商標)MSP A7042)は、窒素雰囲気下において10℃/分の加熱速度でDSCによって決定される166.71℃のT
c、10.60J/gのΔH
c、245.94℃のT
m、及び20.09J/gのΔH
mによって特徴付けられる。これらは52.7%のΔH
c/ΔH
mの比率によって特徴付けられる。これらの粒子は、その後の融解なしに180Cの硬化温度(T
cure)での積層体の硬化時に結晶化を起こした。これらの粒子は、50.8ksiの高いCSAI、3.4in−ln/in
2の高いG
1c、及び17.6in−ln/in
2の高いG
1cの
2cを同時に生じさせることが分かった。
【0099】
粒子C−P4(Vestosint(登録商標)Z2649)は、窒素雰囲気下において10℃/分の加熱速度でDSCによって決定される200.56℃のT
m及び121.80J/gのΔH
mによって特徴付けられる。結晶化のピークが存在しないことから、これらは0%のΔH
c/ΔH
mの比率によって特徴付けられる。これらの粒子は複合積層体の硬化時に結晶化又は溶融を生じなかった。そのような粒子の半結晶特性が周囲のマトリックス樹脂とのより低い相互作用を生じさせ、これが43.1ksiのより低いCSAI、1.9in−lb/in
2のより低いG
1c、及び11.1in−lb/in
2のより低いG
2cを生じさせたことが見出された。これらの結果を、同じ粒子の化学的性質を有する準安定粒子E−P1について得られたものと比較すると、その半結晶性の対応するものの代わりに準安定ポリアミド粒子を使用することの優位性は明白である。
【0100】
粒子C−P5(Orgasol(登録商標)2001EXD)は、窒素雰囲気下において10℃/分の加熱速度でDSCによって決定される結晶化の不存在、177.08CのT
m、及び93.33J/gのΔH
mによって特徴付けられる。結晶化のピークが存在しないことから、これらは0%のΔH
c/ΔH
mの比率によって特徴付けられる。Orgasol 2001EXDは複合積層体の硬化時に結晶化を起こさなかったが、融解した。複合積層体の硬化時のその融解にもかかわらず、そのような粒子の半結晶特性が周囲のマトリックス樹脂とのより低い相互作用を生じさせ、それによって36.9ksiのより低いCSAI、2.6in−lb/in
2のより低いG
1c、及び9.3in−lb/in
2のより低いG
2cを生じさせたことが見出された。これらの結果を、準安定粒子E−P1〜E−P3について得られたものと比較すると、T
cure未満のT
mを有する半結晶性ポリアミド粒子の代わりに準安定ポリアミド粒子を使用することの優位性は明白である。更に、マトリックス樹脂のT
cure未満のT
mを有するポリアミド粒子の使用は、特にエポキシ系熱硬化樹脂中で硬化剤4,4’−DDSが使用される場合、典型的には硬化プロファイルへのロバスト性の致命的な欠如に関係する。例えば、0.25℃/分及び0.5℃/分などのより遅い加熱速度では、ポリアミド粒子が埋め込まれている表1中に示されている樹脂系は、それぞれ143℃及び159℃の温度T
gelでゲル化するであろう。そのようなゲル化温度はC−P5ポリアミド粒子の融解温度T
m177.08℃未満であるため、粒子の形態は硬化した積層体中で保持されるであろう。2℃/分のようなより速い硬化速度では、ポリアミド粒子が埋め込まれている表1中に示されている樹脂系は、C−P5ポリアミド粒子の融解温度T
mである177.08℃よりも高い192℃の温度T
gelでゲル化するであろう。その結果、粒子がその溶融状態で癒着し、より粗くて粒子ではない形態になるであろう。加熱速度に応じての形態上のこの変化は、流体に対する耐性だけでなく機械的性能におけるロバスト性に関しても懸念を生じさせる。
【0101】
T
gelは、0.5mmのギャップと20%のひずみとを有する直径25mmの平行プレートを使用して、1Hzの周波数で、TA InstrumentsからのARES−G2上で粘度試験を行うことによって決定することができる。温度は、0.25℃/分、0.5℃/分、又は2℃/分などの様々な加熱速度で70℃〜200℃まで昇温させることができる。ゲル化温度T
gelは、損失弾性率(G”)が弾性率(G’)曲線と交差する温度として決定される。
【0102】
粒子C−P6(Orgasol(登録商標)1002D)は、窒素雰囲気下において10℃/分の加熱速度でDSCによって決定される、211.84℃のT
m及び116.04J/gのΔH
mによって特徴付けられる。結晶化のピークが存在しないことから、これらは0%のΔH
c/ΔH
mの比率によって特徴付けられる。Orgasol(登録商標)1002Dでは、180℃の硬化温度(T
cure)での積層体の硬化時に結晶化又は融解が生じなかった。対応する実施例C−P4と同様に、そのような粒子の半結晶特性が周囲のマトリックス樹脂とのより低い相互作用を生じさせ、それによって44.2ksiのより低いCSAI、2.1in−lb/in
2のより低いG
1c、及び5.9in−lb/in
2のより低いG
2cを生じさせたことが見出された。これらの結果を、実施例E−P1〜E−P3について得られたものと比較すると、T
cureより大きいT
mを有する半結晶性ポリアミドの代わりに準安定ポリアミド粒子を使用することの優位性は明白である。
【0103】
実施例2
異なる熱可塑性粒子を含む6種の樹脂組成物(樹脂P.3、P.7、P.8、P.9、P.11)を表4に示されている処方に従って製造した。樹脂組成物の成分の混合のための手順は実施例1に記載の通りである。示されている全ての量は重量パーセント(%)である。
【0104】
【0105】
その後、各樹脂組成物を剥離紙の上に23.4gsmの名目目付で成膜した。従来のプリプレグ機を使用して、実施例1で前述した通りに形成したプリプレグUを、その後、樹脂組成物Pの上下のフィルム間に挟み、190gsmの名目繊維目付(FAW)と33重量%の名目総樹脂含有率とを有するプリプレグPを得た。
【0106】
複数のプリプレグPをレイアップして複合積層体を形成した。積層体を従来のゼロブリードで封入し、真空バッグを密封し、硬化サイクル全体を通して真空を維持しながら85psiの圧力下において180℃で2時間にわたりオートクレーブF中で硬化させた。使用した異なる強化用粒子は、表4中でE−P3、C−P7、C−P8、C−P9、及びC−P11と表示されている。
【0107】
その後、硬化したパネルを耐衝撃性(CSAI)、モードI(G
1c)とモードII(G
2c)との破壊靭性、並びに熱サイクル及びMEKに対する耐性について試験した。結果は表5に報告されている。
【0108】
【0109】
粒子C−P8(Vestosint(登録商標)2159)は、窒素雰囲気下において10℃/分の加熱速度でDSCによって決定される結晶化の不存在、184.23℃のT
m、及び107.00J/gのΔH
mによって特徴付けられる。結晶化のピークが存在しないことから、これらは0%のΔH
c/ΔH
mの比率によって特徴付けられる。これらの粒子は複合積層体の硬化時に結晶化を起こさなかった。この半結晶性PA12粒子は準安定粒子の耐衝撃性及び損傷許容性と一致するものの、これらの半結晶性粒子を含む複合材料は加熱サイクルへの曝露後に微小亀裂の問題を有することが分かった。これは、航空宇宙産業の複合材料部品などの重要な耐荷重構造においてそのような半結晶性ポリアミドを使用することの耐久性の懸念及び限界を生じさせる。半結晶性PA12粒子を有する複合積層体とは対照的に、準安定ポリアミド粒子を有する複合積層体は熱サイクルへの曝露後に微小亀裂を生じなかった。
【0110】
粒子C−P9(Fortron(登録商標)0205B4)は高融点の半結晶性粒子であり、結晶化の不存在、288.31℃のT
m、及び57.17J/gのΔH
mによって特徴付けられる。結果として、これらの粒子は複合積層体の硬化時に結晶化を起こさなかった。これらの半結晶性粒子を含む複合材料は不十分な耐衝撃性及び損傷許容性を有しているだけでなく、加熱サイクルへの曝露後の微小亀裂の問題も有していることが分かった。
【0111】
粒子C−P11(P84)は、結晶化の及び融解の不存在によって特徴付けられる。その結果、これらの粒子は複合積層体の硬化時に結晶化を起こさず、またその後の融解も全く生じなかった。P84粒子は高い耐衝撃性及び熱サイクルに対する耐性を示した一方、準安定ポリアミド粒子は、著しく大きいG1c及びG2cの値だけでなくMEKへの曝露後のより低いIPSMノックダウン及びより高いHW OHCによって示されるように、モードI及びIIの増加した損傷許容性のみならず、改善されたMEK及び水分に対する耐性も与える優位性を有する。
【0112】
実施例3
2つの樹脂系(樹脂F.2及びF.3)を表6に示されている処方に従って製造した。
【0113】
【0114】
各樹脂組成物は、60℃〜90℃の範囲の温度でエポキシ樹脂のAraldite(登録商標)MY0510とAraldite(登録商標)PY306とを混合することによって製造した。Sumikaexcel(登録商標)5003Pを添加し、次いで110℃〜130Cの範囲の温度で溶解させた。その後、Aradur(登録商標)9664−1を60℃〜90℃の範囲の温度で添加して混合した。その後、熱可塑性粒子を60℃〜90℃の温度で添加して混合した。
【0115】
このようにして製造した各樹脂組成物を、その後、剥離紙の上に51.2gsmの名目目付で成膜した。従来のプリプレグ機内で炭素繊維を広げ、190gsmの名目目付の繊維ウェブを形成した。そのように形成された繊維ウェブを、その後、樹脂Fの上下のフィルム間に挟み、190gsmの名目繊維目付(FAW)と35重量%の名目総樹脂含有率とを有するプリプレグFを得た。
【0116】
複数のプリプレグFをレイアップして複合積層体を形成した。積層体を従来のゼロブリードで封入し、真空バッグを密封し、硬化サイクル全体を通して真空を維持しながら85psiの圧力下において180℃で2時間にわたりオートクレーブ中で硬化させた。
【0117】
その後、硬化したパネルを耐衝撃性(CSAI)、モードI(G
1c)とモードII(G
2c)との破壊靭性、及び熱サイクルに対する耐性について試験した。結果は表7に報告されている。
【0118】
【0119】
準安定粒子E−F3(DAIAMID MSP−CX)は、窒素雰囲気下において10℃/分の加熱速度でDSCによって決定される166.79℃のT
c、10.92J/gのΔH
c、246.71℃のT
m、及び23.26J/gのΔH
mによって特徴付けられる。これらは46.9%のΔH
c/ΔH
mの比率によって特徴付けられる。その結果、これらの粒子は、その後の融解なしに複合積層体の硬化時に結晶化を起こした。ここでも同様に、準安定粒子は、熱サイクル時の微小亀裂の問題なく耐衝撃性と損傷許容性との優れたバランスを生じさせたことが見出された。粒子C−P4(Vestosint Z2649)を含む複合材料は、粒子E−F3を含む複合材料と耐衝撃性及び損傷許容性の性能について一致したものの、前者は熱サイクルへの曝露時に微小亀裂の問題を有していた。
【0120】
実施例4
その通常の半結晶安定状態ではなくその「準安定」状態にある半結晶性熱可塑性粒子の使用を更に例示するために、異なる熱可塑性粒子を含む2種の樹脂組成物(樹脂P.12、P.13)を表8に示されている処方に従って製造した。樹脂組成物の成分の混合のための手順は実施例1に記載の通りである。示されている全ての量は重量パーセント(%)である。
【0121】
【0122】
その後、各樹脂組成物を剥離紙の上に23.4gsmの名目目付で成膜した。従来のプリプレグ機を使用して、実施例1で前述した通りに形成したプリプレグUを、その後、樹脂組成物Pの上下のフィルム間に挟み、190gsmの名目繊維目付(FAW)と33重量%の名目総樹脂含有率とを有するプリプレグPを得た。
【0123】
2枚のプリプレグPをレイアップして複合積層体を形成した。積層体を従来のゼロブリードで封入し、真空バッグを密封し、硬化サイクル全体を通して真空を維持しながら85psiの圧力下において180℃で2時間にわたりオートクレーブ中で硬化させた。使用した異なる強化用粒子は、表8中でEF−3及びC−P13と表示されている。
【0124】
その後、硬化したパネルを耐衝撃性(CSAI)及びモードI(G
1c)とモードII(G
2c)との破壊靭性について試験した。結果は表9に報告されている。
【0125】
【0126】
前の実施例と同様に、粒子E−F3(DAIAMID−MSP−CX)を含む複合材料は、高い耐衝撃性及び損傷許容性の性能を示す。
【0127】
粒子C−P13(アニールされたDAIAMID MSP−CX)は、窒素雰囲気下において10℃/分の加熱速度でDSCによって決定される、更なる結晶化の不存在、246.55℃のT
m、及び26.46J/gのΔH
mによって特徴付けられる半結晶性の粒子である。粒子C−P13は、DAIAMID MSP−CX粒子をその結晶化温度T
cである166.79℃より20℃高い温度で30分間アニールして確実に完全に結晶化させることによって得た。
図8は、アニールしたDAIAMID MSP−CX粒子についてのサーモグラムを示す。その結果、これらの粒子は複合積層体の硬化時に結晶化を起こさなかった。これらの半結晶性粒子を含む複合材料は、これらの準安定の対応するものと比較して同様の耐衝撃性及びモードIIの損傷許容性(G
2c)を示すが、はるかに低いモードIの損傷許容性(G
1c)の問題を生じることが見出された。G
1cの性能は複合構造体の剥離に対する耐久性及び耐疲労性のための重要な推進力であることから、このG
1cの大幅な減少(ほぼ50%)は、航空宇宙用途及び自動車用途のためのものなどの高性能な複合構造体のために非常に望ましくない。これらの結果は、半結晶性熱可塑性粒子を、その従来の半結晶安定状態ではなく「準安定」状態で使用することの優位性を更に浮き彫りにしている。
【0128】
本明細書に記載の準安定ポリアミド粒子は、CSAI及びG
2c性能の点から同様の損傷許容性を達成するために、単一の種類の層間強化用粒子として、又はT
cureより高いT
mによって特徴付けられる異なる半結晶性ポリアミド粒子と組み合わせて、又は非晶質の熱可塑性粒子と組み合わせて使用することができる。そのため、マトリックス樹脂のT
cureよりも低いT
mを有する低融解ポリアミド粒子の使用を排除することができる。そのような低融解ポリアミドが存在することは、上述のように典型的には硬化プロファイルへのロバスト性の致命的な欠如に関係する。G
1cの性能は複合構造体の剥離に対する耐久性及び耐疲労性のための重要な推進力である。そのため、同様のCSAI及びG
2cの性能を維持させながらG
1cを大幅に増加させることは、航空宇宙用途及び自動車用途のためのものなどの高性能な複合構造体のために強く望まれる。
【国際調査報告】