特表2018-529013(P2018-529013A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2018-529013(P2018-529013A)
(43)【公表日】2018年10月4日
(54)【発明の名称】水溶性ポリマーの脱水方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 15/08 20060101AFI20180907BHJP
   D21H 11/18 20060101ALI20180907BHJP
   B01D 12/00 20060101ALI20180907BHJP
【FI】
   C08B15/08
   D21H11/18
   B01D12/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2018-530972(P2018-530972)
(86)(22)【出願日】2016年9月5日
(85)【翻訳文提出日】2018年4月23日
(86)【国際出願番号】FI2016050615
(87)【国際公開番号】WO2017037349
(87)【国際公開日】20170309
(31)【優先権主張番号】20155635
(32)【優先日】2015年9月3日
(33)【優先権主張国】FI
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】518073457
【氏名又は名称】ヘルシンギン ユリオピスト
【氏名又は名称原語表記】HELSINGIN YLIOPISTO
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【弁理士】
【氏名又は名称】神 紘一郎
(72)【発明者】
【氏名】アリステア ダブリュー ティー キング
(72)【発明者】
【氏名】イラーリ フィッポネン
(72)【発明者】
【氏名】ユッシ ヘルミネン
(72)【発明者】
【氏名】イルッカ キルペレイネン
【テーマコード(参考)】
4C090
4D056
4L055
【Fターム(参考)】
4C090AA03
4C090BA24
4C090BB12
4C090BB36
4C090BC01
4C090CA22
4C090DA31
4D056EA01
4D056EA03
4D056EA08
4L055AF09
4L055AF46
4L055AG35
4L055AG36
4L055AH50
4L055EA23
4L055EA25
4L055EA32
4L055FA30
(57)【要約】
ナノセルロース及び他の水溶性又は親水性ポリマーを脱水する方法。該方法は、遊離ヒドロキシル基を有するナノセルロースにより水中で形成された水性懸濁液を提供するステップと、水性懸濁液と、遊離ヒドロキシル基の少なくとも一部に水素結合することが可能なイオン液体又は共晶溶媒とを混合して、変性懸濁液を形成するステップと、ナノセルロースを脱水するために、変性懸濁液から水を蒸発させるステップとを含む。イオン液体処理により、繰り返しの遠心分離工程を伴う溶媒分離を避け、溶媒消費及びコストを低減し、作業工程をスピードアップすることができる。次いで、無水環境で安定化されたナノセルロースは、効率的で徹底的な無水化学変性処理の利用を可能にし、高度にフィブリル化された生成物をもたらす。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーにより水中で形成された水性懸濁液を提供するステップと、
前記水性懸濁液と、前記ポリマー上の官能基の少なくとも一部に水素結合することが可能なイオン液体又は共晶溶媒とを混合して、変性懸濁液を形成するステップと、
前記ポリマーを脱水するために、前記変性懸濁液から水を物理的に分離するステップと
を含む、水溶性ポリマー又は親水性ポリマーを脱水する方法。
【請求項2】
遊離ヒドロキシル基を有するナノセルロースにより水中で形成された水性懸濁液を提供するステップと、
前記水性懸濁液と、前記遊離ヒドロキシル基の少なくとも一部に水素結合することが可能なイオン液体又は共晶溶媒とを混合して、変性懸濁液を形成するステップと、
前記ナノセルロースを脱水するために、前記変性懸濁液から水を物理的に分離するステップと
を含む、ナノセルロースを脱水するための、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
水が、前記変性懸濁液から蒸発により分離される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記イオン液体又は共晶溶媒が、水を前記水性懸濁液から蒸発させるときにナノセルロースが凝集するのを防ぐように、前記ナノセルロースの表面を安定化させることができる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記イオン液体又は共晶溶媒が、水を前記水性懸濁液から蒸発させる条件において本質的に不揮発性である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記イオン液体又は共晶溶媒が、前記水性懸濁液と混合される条件及び水を蒸発させる条件においてセルロースを本質的に溶解せず、好ましくは水と混和性である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記イオン液体又は共晶溶媒が、前記水性懸濁液と、100〜10重量部の前記水性懸濁液の水に対して約10〜100重量部の前記イオン液体又は共晶溶媒の重量比で混合され、好ましくは、99〜80重量部の前記水性懸濁液に対して約1〜20重量部の前記イオン液体又は共晶溶媒の重量比で混合される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記イオン液体又は共晶溶媒が、
ジエチル(ポリプロポキシ)メチルアンモニウムクロライド、
1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネート、及び
塩化コリン/尿素共晶混合物、並びにそれらの組み合わせ
の群から選択される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ナノセルロースの水性懸濁液とイオン液体とを混合するステップが、第1の圧力、及び水の凝固点よりも高く、水の沸点よりも低い第1の温度で行われる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記変性懸濁液から水を蒸発させるステップが、前記第1の温度よりも高い第2の温度で行われる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記変性懸濁液から水を蒸発させるステップが、前記第1の圧力と同じか又は前記第1の圧力よりも低い第2の圧力で行われる、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記水を蒸発させるステップが、0.001〜1bar(a)、例えば0.1〜750mbar(a)、有利には0.5〜500mbar(a)、特に1〜100mbar(a)の圧力、及び好ましくはその圧力における水の沸点に相当する温度で行われる、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記変性懸濁液から水を蒸発させるステップが、薄膜エバポレーター、ロータリーエバポレーター、流下膜式エバポレーター、膜押出エバポレーター、クーゲルロールエバポレーター、ショートパスエバポレーター、若しくはロングパスエバポレーター、又は対応する蒸留装置で行われる、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記ナノセルロースが、ナノウィスカー、ミクロフィブリル化セルロース、ナノ結晶セルロース、ナノフィブリル化セルロース、及びバクテリアナノセルロース、並びにそれらの組み合わせの群から選択される、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記ナノセルロースの水性懸濁液中のナノセルロースの濃度が、前記懸濁液が自由流動するか、又は前記水性懸濁液と前記イオン液体又は共晶溶媒とを混合する前又は後にポンプ輸送可能であるような濃度である、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記ナノセルロースの水性懸濁液が、前記水性懸濁液の重量から計算して、約0.1〜45重量%、特に約1〜15重量%、例えば1〜10重量%のナノセルロースを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
非凝集ナノセルロースとイオン液体又は共晶溶媒とを含み、水の蒸発後に得られた残留物を回収し、そのままで更なる処理に付す、請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
非凝集ナノセルロースとイオン液体又は共晶溶媒とを含み、水の蒸発後に得られた残留物を回収し、前記イオン液体又は深共晶溶媒を前記残留物から分離する、請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
非凝集ナノセルロースとイオン液体又は共晶溶媒とを含み、水の蒸発後に得られた残留物を回収し、溶媒交換に付す、請求項1〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
非凝集ナノセルロースとイオン液体又は共晶溶媒とを含み、水の蒸発後に得られた残留物を回収し、プロトン性溶媒又はそれらの混合物等の溶媒を添加して、前記イオン液体又は共晶溶媒、繊維、フィルム、又は他の成形された物体を洗うことにより、前記繊維、フィルム、若しくは他の成形された形状又は物として再生する、請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
非凝集ナノセルロースとイオン液体又は共晶溶媒とを含み、水の蒸発後に得られた残留物を、前記セルロースの表面は変性されるが前記イオン液体は未反応のままとなる化学変性に直接付す、請求項1〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記残留物と、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジアルキル尿素、N−アルキルピロリドン、ジアルキルカーボネート、γ−バレロラクトン、及びアセトンの群から選択される有機溶媒、又は他の同様の双極性非プロトン性溶媒とを混合して混合物を形成し、固体物質を前記混合物から任意選択的に分離して乾燥ナノセルロースを提供する、請求項19〜21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記残留物と有機溶媒とを、前記有機溶媒の、前記残留物のイオン液体又は共晶溶媒に対するモル比0.1〜10:1で混合する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記混合物の液相を回収し、リサイクルする、請求項22又は23に記載の方法。
【請求項25】
前記ナノセルロースの総重量から計算して、約10%未満の水、特に5%未満の水、例えば1%未満の水を含有するナノセルロースを製造することを含む、請求項1〜24に記載の方法。
【請求項26】
前記ナノセルロースの総重量から計算して、約10%未満、特に5%未満、例えば1%未満の凝集ナノセルロース物質を含有するナノセルロースを製造することを含む、請求項1〜25に記載の方法。
【請求項27】
水におけるポリマーの水性懸濁液の形態で提供されるナノセルロース等の水溶性ポリマー又は親水性ポリマーの脱水における、助剤としてのイオン液体又は共晶溶媒の使用。
【請求項28】
前記イオン液体又は共晶溶媒が、ナノセルロース等のポリマーを本質的に溶解しない、請求項27に記載の使用。
【請求項29】
前記イオン液体又は共晶溶媒が、前記水性懸濁液と、100〜10重量部の前記水性懸濁液の水に対して約10〜100重量部の前記イオン液体又は共晶溶媒の重量比で混合され、好ましくは、99〜50重量部の前記水性懸濁液に対して約1〜20重量部の前記イオン液体又は共晶溶媒の重量比で混合される、請求項27又は28に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノセルロース等の水を含むポリマーの処理に関する。特に、本発明は、当該ポリマーを脱水する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノセルロースの新しい製造及び使用方法は、セルロース研究コミュニティ及びバイオマスベースの産業で開発されている。提案された用途の多くは、その強度及びバリア特性ゆえにナノセルロースを利用することを含む。しかしながら、これまで、成功した大規模な商業用途はごく僅かであった。
【0003】
ナノセルロースは、通常、セルロースバイオマスの化学的及び/又は機械的フィブリル化により調製される。セルロースナノクリスタル(CNC)の場合、化学的方法によりナノフィブリル状セルロース中の非晶質領域が分解され、高アスペクト比の「結晶子」が得られる。また、化学的方法を用いてナノセルロースの表面上の静電荷を増加させ、表面間のより大きな反発及びそれによる分子溶媒中での懸濁をもたらすこともできる。
【0004】
上記調製方法の結果、得られたナノセルロースは、遊離ヒドロキシル基又は酸性基を有し、高度に親水性である。通常、それは、10重量%以下、典型的には4重量%未満の固形分含有量を有する水性懸濁液又は分散液の形態で得られる。このような懸濁液はゲル状である。45重量%もの高い固形分濃度を有する分散液を報告している研究者もいるが、そのような分散液は非常に粘性があり、加工が難しく、実際のところポンプ輸送することができない。
【0005】
従って、ナノセルロースの商業化の重要な課題の1つは、ナノセルロースからの水の除去であり、そのようにしてナノセルロースは、更に、合成したり、化学的に変性したり、又は一般に特定の形状に形成したりすることができる。
【0006】
現在の脱水戦略では、これは通常、非常にエネルギー集約的である。
【0007】
いくつかのナノセルロースは、効果的に噴霧乾燥することができるが、得られるセルロースの含水量は依然としてかなり相当である可能性がある。
【0008】
ナノセルロースから水を完全に除去する一般的な実験方法は、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等の典型的な双極性非プロトン性溶媒との溶媒交換である。これは、双極性非プロトン性溶媒中での連続的な懸濁、及び徐々に乾燥させたナノセルロースを比較的凝集していない状態で単離するための遠心分離サイクルを必要とする。これは極めてプロセス集約的であるが、含水量を低濃度に下げるための既存の最良の方法である。
【0009】
特許文献において、ナノセルロースの脱水に関する多くの方法が提案されている。
【0010】
国際公開第2014/072886号は、実質的に乾燥したナノフィブリル化多糖類製品を得るためにナノフィブリル化多糖類を乾燥させる方法を開示しており、ナノフィブリル化多糖類の水性懸濁液を提供するステップと、前記懸濁液の固形分を増加させ、それにより高固形分ミクロフィブリル化セルロース懸濁液を形成するステップと、前記高固形分ミクロフィブリル化セルロース懸濁液を加熱混合同時操作により乾燥させるステップとを含む。
【0011】
国際公開第2012/156880号は、ミクロフィブリル化セルロースのスラリーを脱水する方法であって、スラリーを電場に付し、それによりスラリーの液体を流し、ミクロフィブリル化セルロースから液体を分離する方法を開示している。
【0012】
国際公開第2014/096547号は、脱水されたミクロフィブリル化セルロース(MFC)の製造方法を開示しており、水性MFCスラリーを提供するステップと、前記MFCスラリーを機械的手段により脱水して部分的に脱水されたMFCスラリーを提供するステップと、1つ又は複数の吸収材料を用いて前記脱水されたMFCスラリーを1つ又は複数の乾燥操作に付し、脱水されたMFCを製造するステップとを含む。
【0013】
国際公開第2015/068019号は、ミクロフィブリル化セルロースを含むスラリーの脱水方法であって、ミクロフィブリル化セルロースと液体とを含むスラリーに、スラリーを脱水するために第1の機械的圧力をかけ、次いで、前記スラリーに第1の圧力よりも高い第2の機械的圧力をかける方法に関する。
【0014】
欧州特許第2815026号明細書は、水性フィブリルセルロースゲルの形態であるフィブリルセルロースを処理する方法を開示しており、当該方法は、水性フィブリルセルロースゲルのpHを低下させて水分保持能力の低い水性フィブリルセルロースゲルを提供するステップと、前記水分保持能力の低い水性フィブリルセルロースゲルを脱水して、脱水されたフィブリルセルロースを提供するステップとを含む。脱水は、加圧ろ過により行われる。
【0015】
国際公開第2010/019245号は、微結晶性セルロースと水との混合物をイオン液体と混合する方法を開示している。水は、例えば、減圧、蒸留、又は加熱により除去されるため、セルロースが分解する。具体的に、水の除去がセルロースの分解を促進することが示された。分解したセルロースは、エステル化されて、例えば、LCDの保護フィルムに使用される酢酸セルロースを形成する。
【0016】
国際公開第2009/101985号は、カーボンナノチューブの分散ゲル及びイオン液体をセルロース及び水と混合して分散液を形成する、導電性セルロース組成物の調製に関する。導電性組成物を調製する際に、ナノスケール構造が保存されるか、又は生成されることは示されていない。
【0017】
上記の方法は全て、フィブリル化ナノセルロース材料の構造に熱的又は物理的損傷を与えるリスクがある過度の圧力又は温度の使用を含む、エネルギー多消費型である。こうした既知の方法の面倒な操作にもかかわらず、脱水結果は依然として不満の残るものであり、ナノセルロースは少なくとも部分的に凝集する可能性がある。
【0018】
国際公開第2012/089929号は、疎水性ミクロフィブリル化セルロースを製造する方法を開示しており、これにより、親水性材料がもたらす脱水上の問題を少なくとも理論的に回避することができる。この方法において、疎水化試薬としてアルケニル無水コハク酸(ASA)を使用し、共沸蒸留を行うことにより、有機疎水化試薬を、ミクロフィブリル化セルロースの表面上の置換基と水性分散液中で反応させる。ある程度のナノセルロースの疎水化及び脱水は達成されるが、ASA及び他の化学試薬は、水と反応させるのが典型的であり、試薬の消費や副生物を除去するための追加の精製ステップが必要となるために、かなりのプロセスコストを伴う。更に、得られる材料は、出発ナノセルロース材料の特性とは異なる特性を有し、こうして製造された製品の適用性を強く制限することになるであろう。
【0019】
従って、水溶性又は親水性ポリマーから、例えば、ナノセルロースから、特に親水性ナノセルロースから、水を除去するための新しい技術が必要とされている。
【発明の概要】
【0020】
本発明の目的は、当該技術に関連する問題の少なくともいくつかを取り除き、ポリマーを脱水する新しい方法を提供することである。
【0021】
別の目的は、イオン液体及び深共晶溶媒の新しい用途を提供することである。
【0022】
本発明は、水含有ポリマー懸濁液の脱水における助剤としてのイオン液体及び共晶溶媒の使用の概念に基づいている。
【0023】
従って、本発明の方法は、水性スラリーの形態で提供されるポリマーと少なくとも1種のイオン液体又は共晶溶媒とを混合して混合物を形成することを含む。イオン液体又は共晶溶媒は、ポリマーを本質的に溶解しないように選択される。水性スラリーのポリマーは、本質的に未変性である。
【0024】
上述のように、本発明の方法は、ナノセルロースの脱水に特に適している。このようなポリマーに関して、イオン液体又は共晶溶媒は、本質的にポリマーを溶解しないように選択され、これは、ナノセルロースが少なくともいくつかの遊離ヒドロキシル基を有することを意味する。
【0025】
前述のような類のイオン液体及び共晶溶媒は、ナノセルロース等のポリマーを安定化させるため、含水量が減少しても、ポリマー、特にナノセルロースが著しく凝集することなく、従来の物理的手段、例えば、蒸発又は吸収により水を除去することができる可能性が見出された。
【0026】
より具体的には、本発明に係る方法は、主に、請求項1の特徴部分に記載されていることを特徴とする。
【0027】
本発明に係る使用は、請求項27に記載されていることを特徴とする。
【0028】
本発明によりかなりの利点が得られる。従って、有機溶媒に脱水するための既存の手順は、典型的には、繰り返しの遠心分離工程を伴う溶媒交換を必要とするが、本発明の方法では、反復処理工程が省略され、溶媒消費を低減し、作業工程をスピードアップし、コストを低減する。
【0029】
ナノセルロースの脱水に適用する場合、ナノセルロースは、本質的に凝集していない形態で得られるであろう。ナノセルロースは、イオン液体又は共晶溶媒により形成された溶媒相中で、又は溶媒交換ステップ後の慣用の有機溶媒中で、更なる処理に容易に移行することができる。
【0030】
従って、無水環境で安定化されたナノセルロースは、効率的で徹底的な無水化学変性処理の利用を可能にし、高度にフィブリル化された生成物をもたらす。
【0031】
本発明の技術の更なる特徴及び利点は、いくつかの実施形態に関する以下の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1図1は、水の除去及び更なる可能な処理工程の一実施形態を示す簡略化されたプロセススキームであり、合成工程、化学変性工程、又は再生工程の1つ又はいくつかの順序を含む。
図2図2は、DMF中に分散させたTEGO(登録商標)P9イオン液体による脱水物質(下)と比較した、水中に分散させた出発ヘムロックCNC(上)の粒度分布を示す図である。
図3図3は、DMF中に分散させたTEGO(登録商標)P9イオン液体による脱水物質(下)と比較した、水中に分散させた出発コットンCNC(上)の粒度分布を示す図である。
図4図4は、DMF中に分散させた[emim][OTf]イオン液体による脱水物質(下)と比較した、水中に分散させた出発コットンCNC(上)の粒度分布を示す図である。
図5図5は、DMF中に分散させたTEGO(登録商標)P9イオン液体による脱水物質(下)と比較した、水中に分散させた出発カバノキNFC(上)の粒度分布を示す図である。
図6図6は、DMF中に分散させた[emim][OTf]イオン液体による脱水物質(下)と比較した、水中に分散させた出発カバノキNFC(上)の粒度分布を示す図である。
図7図7は、イオン液体の存在下での乾燥後のイオン液体−ナノセルロース−水スラリーの含水量の減少を示す図である。
図8図8は、約10〜15nmの範囲の線維構造(セルロースIβ結晶構造中のH−結合単位あたり8.2Å及びスパッタリング層として約5nmによる約5〜10AGUフィブリル径)を示すAc−NFCフィルムのSEM分析である。
図9図9は、対応するアセチル化セルロース及びキシランの帰属とともに、[P4444][OAc]/DMSO−d6(1:4)におけるカバノキパルプに由来するAcNFCフィルムのHSQC NMRを示す。
図10図10は、Ac−NFCアセチル化を示す、後のDOSYの増加を示し、急速に拡散する(低分子量の)重複種が存在しない。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下の記載は、ナノセルロースの脱水を含む実施形態に関する。
【0034】
念のため、本発明の技術は、一般に、水溶性ポリマー及び他の親水性ポリマー、例えば、高分子電解質、高分子ゲル、及び高吸水性ポリマーに適用することができることを指摘しておきたい。高吸水性ポリマーの例としては、水中で又は水性ゲル状態で通常調製されるアクリル酸又はアクリルアミドをベースとしたポリマーが挙げられる。一般に、水溶性ポリマー又は親水性ポリマーは、イオン液体又は共晶溶媒が、水素結合、イオン結合、又は他の持続的な荷電相互作用を形成することが可能な遊離官能基を有する。
【0035】
方法において、イオン液体又は共晶溶媒が、水素結合、イオン結合、又は他の持続的な荷電相互作用をポリマー上の官能基の少なくとも一部に形成して、変性懸濁液が形成されるようにする。その後、ポリマーを脱水するために、例えば、物理的に、変性懸濁液から水を除去することができる。
【0036】
本明細書において、「ナノセルロース」とは、高いアスペクト比を有するナノサイズのセルロースフィブリルから形成された材料を表す。典型的には、フィブリルは、5〜100ナノメートル、例えば、5〜20ナノメートルの範囲の厚さ(最大直径)、及び、典型的には、1マイクロメートル超の長さ、例えば、約1〜10マイクロメートルの長さを有する。
【0037】
個々のミクロフィブリルは、典型的には、少なくとも部分的に互いに分離している。ナノセルロースはまた、ナノサイズのセルロースフィブリルに由来する「ナノ結晶」の形態であってもよい。これらもまた、高いアスペクト比を有する。典型的には、ナノ結晶は、5〜100ナノメートル、例えば、5〜20ナノメートルの範囲の厚さ(最大直径)、及び、典型的には、ナノメートルスケールの長さ、例えば、約100ナノメートル〜1マイクロメートルの長さを有する。
【0038】
基本フィブリルは、約4ナノメートル以上の厚さを有することができる。
【0039】
ナノセルロースは、材料として、従来、擬似プラスチックであり、典型的には、チキソトロピーの特性を示す。
【0040】
ナノセルロースは、セルロース材料から、通常は木材パルプから調製される。使用することができるパルプは、アルカリ性、酸性、又は中性パルプ化法により製造された漂白パルプ、半漂白パルプ、及び無漂白パルプ等の化学木質パルプを含む。パルプ化法としては、有機パルプ化法も含まれる。紙及びボール紙に適した従来の化学パルプに加えて、溶解パルプも使用することができる。このようなパルプは、典型的には、低い含量の、例えば、5%以下のヘミセルロースを有する。
【0041】
本発明のために、用語「ナノセルロース」は、例えば、以下の種及び関連する異名を包含する:ナノウィスカー、セルロースナノクリスタル(CNC)、ミクロフィブリル化セルロース(MFC)、ナノクリスタリンセルロース(NCC)、ナノフィブリル化セルロース(NFC)、及び細菌ナノセルロース(BNC)。
【0042】
木材パルプから調製されるナノセルロースは、例えば、複合材料、不織布、吸着ウェブ、紙及び板、食品、紙及び板コーティング、化粧品及びトイレタリー、並びにフィルター材料に使用される。
【0043】
更に、ナノセルロースは、細菌(「細菌ナノセルロース、BNC」)、例えば、グルコンアセトバクター・キシリナス(Gluconacetobacter xylinus)(アセトバクター・キシリナム(Acetobacter xylinum)としても知られる)株の細菌から得ることもできる。BNCは、繊維製品、化粧品、食品等の様々な商業用途にも使用されており、医療用途に対して高い可能性を有する。
【0044】
本明細書において、ナノセルロース又はその懸濁液の「脱水」は、液体、特に水が除去されること、及び、ナノセルロース又はナノセルロース懸濁液の固形分が増加することを意味する。
【0045】
上述したように、本発明の技術は、特に、ナノセルロースが水性懸濁液の形態で提供される場合に、ナノセルロースを脱水する方法を提供する。本明細書において、用語「懸濁液」は、「スラリー」又は「分散液」と同義的に使用される。
【0046】
「イオン液体」は、100℃以下の融点を有する塩である。イオン液体は、アニオン及びカチオンを含む。「溶融塩」は、100℃超で融解する塩であり、本明細書に記載の目的にも有用である可能性がある。イオン液体のこの定義は、所望の処理条件に近い任意の融解温度を使用するため、暫定的であることが理解される。
【0047】
「共晶溶媒」又は「深共晶溶媒」(本明細書において、これらの用語は交換可能に使用される)は、個々の成分の融点よりも低い融点を有する共晶混合物を形成する、2つ以上の成分を含むイオン性溶媒である。個々の成分が何百℃も高い温度に至る融点を有する場合であっても、融点が室温未満ですらある可能性がある。
【0048】
この点に関して、イオン液体及び共晶混合物は、それら自体で、又は水等の追加の共溶媒成分の存在下で、「電解質」とみなすこともできる。
【0049】
イオン液体、共晶溶媒又は深共晶溶媒は、それぞれ、ポリマーを溶解しないか又は本質的に溶解しないように選択される。好ましくは、イオン液体、共晶溶媒又は深共晶溶媒はまた、それぞれ、水と混和性である。特に、一般的な圧力における水の凝固点と沸点との間の温度で水と混和する。典型的には、1つの実施形態において、イオン液体、共晶溶媒又は深共晶溶媒は、それぞれ、約0.5〜99.5℃、又は5〜90℃の範囲の温度で、常圧で水と混和性である。
【0050】
イオン液体又は共晶溶媒(深共晶溶媒を含む)は、水の凝固点と沸点との間のより高い温度及びより低い温度で操作することは可能であるが、典型的には、室温又はほぼ室温で、即ち、約10〜35℃、例えば、15〜30℃で、水溶性ポリマー又は親水性ポリマー、特にナノセルロースと混合する。
【0051】
典型的には、ナノセルロースは、遊離ヒドロキシル基又は酸性基、例えば、カルボン酸基又は硫酸基を有する。特に、ナノセルロース分子の各アンヒドログルコース単位当たり、平均で0.1〜3個、特に1〜3個の遊離ヒドロキシル基又は酸性基が存在する可能性がある。酸性基はまた、金属塩としてイオン化されていてもよい。
【0052】
上記のように、ナノセルロースは、製造後に、通常、水性懸濁液若しくはスラリーの形態で、又はスポンジ若しくはゲルの形態でさえも提供される。ナノセルロースの水性懸濁液中のナノセルロース濃度は、懸濁液の総重量から計算して、最高で45%であってもよい。
【0053】
1つの実施形態において、ナノセルロースの水性懸濁液は、水性懸濁液の重量から計算して、約0.1〜15%、特に約1〜10%のナノセルロースを含む。ナノセルロースの水性懸濁液は、そのままで又は少なくともイオン液体又は共晶溶媒の添加後に、自由流動するか、又はポンプ輸送可能であることが好ましい。
【0054】
図1のプロセススキームは、ナノセルロースに適用される本発明の技術の実施形態を示す。
【0055】
詳細に説明される以下の実施形態は、ナノセルロースに関連しているが、対応する方法ステップを水溶性ポリマー及び他の親水性ポリマーに適用することもできる。
【0056】
図1から明らかなように、ナノセルロースの水性懸濁液1と、遊離ヒドロキシル基又は酸性基の少なくとも一部に対して水素結合するか又は電荷安定化して変性懸濁液2を形成することが可能なイオン液体又は共晶溶媒とを混合する。
【0057】
1つの実施形態において、ナノセルロースは、ナノウィスカー、ミクロフィブリル化セルロース、ナノ結晶セルロース、ナノフィブリル化セルロース、及び細菌ナノセルロース、並びにこれらの組み合わせの群から選択される。
【0058】
混合ステップ2において、イオン液体と水性懸濁液とを、水性懸濁液の水100〜10重量部に対して約1〜100重量部のイオン液体、好ましくは99〜80重量部の水性懸濁液に対して約1〜20重量部のイオン液体の重量比で混合する。
【0059】
次いで、混合物又は変性懸濁液2を、水を除去するための物理的操作3に付す。例えば、ナノセルロースを脱水するために水を蒸発させることができる。しかしながら、分離は、吸着等の他の物理的手段により行うこともできる。
【0060】
蒸発を伴う物理的分離ステップを可能にするために、イオン液体又は共晶溶媒は、水を変性懸濁液から蒸発させる条件において、本質的に不揮発性である。
【0061】
更に、イオン液体又は共晶溶媒は、水性懸濁液と混合される条件、及び、ステップ3において水を蒸発させる条件において、ナノセルロースを溶解又は溶媒和しない。好ましくは、イオン液体又は共晶溶媒は水と混和性である。
【0062】
従って、ナノセルロースの10重量%未満、特に5重量%未満、好ましくは1重量%未満が、混合物のイオン液体相又は共晶溶媒相に溶解されることが好ましい。
【0063】
溶解は避けるべきであるが、イオン液体又は共晶溶媒によるナノセルロースの部分膨潤又は再結晶化は、本発明の技術の操作に対して許容されることが分かった。その場合であっても、変性懸濁液中にナノセルロース粒子又は固体が存在するであろう。
【0064】
また、第3の基準として、ナノセルロース懸濁液と混合されたイオン液体又は共晶溶媒は、特に、水性懸濁液から水を蒸発させたときにナノセルロースが凝集するのを防ぐように、水素結合を形成することによりナノセルロースの表面を安定化させることが好ましい。
【0065】
一般に、イオン液体又は共晶溶媒(深共晶溶媒を含む)は、好ましくは、ポリマーを溶解せず水と混和するイオン液体及び共晶溶媒から選択される。特に、イオン液体又は共晶溶媒(深共晶溶媒を含む)は、水性懸濁液と混合される条件及び水を蒸発させる条件においてセルロースを溶解しない。
【0066】
1つの実施形態において、イオン液体又は共晶溶媒は、
・TEGO(登録商標)P9の商品名でDegussa社により提供される、ジエチル(ポリプロポキシ)メチルアンモニウムクロライド
【化1】
・一般に[emim][OTf]と略される、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネート
【化2】
・塩化コリンと尿素との共晶混合物
【化3】
(式中、Xは共晶混合物を得るために必要な塩化コリンに対する尿素のモル比を示し、「DES」は深共晶溶媒(deep eutectic solvent)の略語である。)、及び
・これらの組み合わせ
の群から選択される。
【0067】
混合ステップ及び蒸発ステップは、同じ又は異なる条件で行うことができる。
【0068】
1つの実施形態において、ナノセルロースの水性懸濁液とイオン液体とを混合するステップは、第1の圧力、及び水の凝固点より高く、水の沸点より低い第1の温度で行われる。
【0069】
1つの実施形態において、変性懸濁液から水を蒸発させるステップ3は、第1の圧力よりも低い第2の圧力で行われる。
【0070】
従って、水を蒸発させるステップは、減圧(部分真空)で行うことができる。例えば、蒸発は、0.1〜500mbar(a)、特に1〜100mbar(a)の圧力で、好ましくはその圧力における水の沸点に相当する温度で実施することができる。当該温度は、混合ステップ2で使用される温度よりも低くても、同じであっても、高くてもよい。
【0071】
一般に、水を蒸発させるステップは、0.001〜1bar(a)、例えば、0.1〜750mbar(a)、有利には、0.5〜500mbar(a)、特に、1〜100mbar(a)で、好ましくはその圧力における水の沸点に相当する温度で実施することができる。
【0072】
ナノセルロース材料の温度に対する感度に依存して温度を変えることができるため、減圧を使用することにより、操作の柔軟性がもたらされる。より高い空時収率及びより低い滞留時間が、より厳しい条件下よりも得られる可能性がある。
【0073】
しかしながら、水は、ナノセルロースがこれらの沸騰条件下で安定である場合、大気圧(1013.25mbar)で除去することもできる。これにより、減圧(「真空」)の必要性を回避することができる。
【0074】
典型的には、変性懸濁液から水を蒸発させるステップは、蒸発3で使用される圧力に関係なく、第1の温度よりも高い第2の温度で実施される。
【0075】
蒸発は、薄膜エバポレーター、ロータリーエバポレーター、流下膜式エバポレーター、膜押出エバポレーター、クーゲルロールエバポレーター、ショートパスエバポレーター、ロングパスエバポレーター、又は、水が飛散することが可能なエネルギー効率のよい経路が存在する対応する蒸留装置で行うことができる。
【0076】
非凝集ナノセルロースとイオン液体又は共晶溶媒とを含む、水の蒸発3の後に得られた残留物を回収し、さらなる処理に付す。
【0077】
本発明の方法は、蒸発後に次の分離ステップを必要としないが、蒸発後の残留物をそのまま使用することができる。
【0078】
しかしながら、いくつかの実施形態においては、残留物が回収され、イオン液体又は深共晶溶媒が残留物から分離される。
【0079】
いくつかの実施形態において、残留物を回収し、溶媒交換4、5に付す。
【0080】
共溶媒を用いて、イオン液体−ナノセルロース懸濁液により形成された蒸発残留物からイオン液体を抽出することができる。次いで、固体ナノセルロースを分離してそのまま回収すること(6)ができ、又はそれを更に変性させるために溶媒に再導入することができる。
【0081】
典型的には、ナノセルロースは、溶媒、例えば、プロトン性溶媒、又は、イオン液体又は共晶溶媒を洗い流すために添加される化学試薬を用いて、繊維、フィルム、若しくは他の成形形状又は物体の形態で再生させることができる。
【0082】
従って、いくつかの実施形態において、残留物は、典型的には、有機溶媒の、残留物のイオン液体又は共晶溶媒に対するモル比0.1〜10:1で有機溶媒と混合される(4)。
【0083】
4で使用される溶媒は、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジアルキル尿素、N−アルキルピロリドン、ジアルキルカーボネート、γ−バレロラクトン、及びアセトンの群から選択される有機溶媒、又は混合物を形成するための他の類似の双極性非プロトン性溶媒である。固形物は、任意選択的に混合物から分離されて、乾燥ナノセルロース6が得られる。
【0084】
好ましい実施形態いおいて、共溶媒は揮発性であるため、フィルムを流延することができ、イオン液体から再び蒸留することができる(7)。
【0085】
代替の実施形態において、物理的分離操作3の後の残留物8は、セルロース表面は変性されるがイオン液体は未反応のままとなるか又は再生される(10)、化学変性9に直接付す。
【0086】
一般に、所望される場合には、蒸発ステップの後、イオン液体又は共晶溶媒を除去するために、1回のみ遠心分離ステップ5が必要である。
【0087】
遠心分離ステップ5において、一般にナノセルロースの更なる処理に支障を来さない微量のイオン液体が残っていてもよい。しかしながら、ナノセルロースの更なる処理のための異なる処理条件及び必要条件に応じて、より高いレベルの純度に達するためには、第2の遠心分離ステップを行ってもよい。
【0088】
他方で、遠心分離5は、更なる処理ステップが適用される場合は避けることができる。或いは、イオン液体又は共晶溶媒は、ナノろ過、限外ろ過、及びマイクロろ過等の膜ろ過法により除去してもよい。
【0089】
混合物の液相は、回収し、リサイクルする。共溶媒は、蒸発7により分離することができ、任意選択的に混合ステップ4に再循環させることができる。このような蒸発7は、典型的には、イオン液体又は共晶溶媒を本質的に含む残留物を残し、これは第1の混合ステップ2に再循環させることができる。
【0090】
6で得られるナノセルロースは、ナノセルロースの総重量から計算して、約10%未満の水、特に5%未満の水、例えば、1%未満の水を含む。
【0091】
更に、6で得られるナノセルロースは、ナノセルロースの総重量から計算して、約20%未満、例えば、10%未満、特に5%未満、又は更には1%未満の凝集ナノセルロース物質を含む。
【0092】
1つの実施形態において、非凝集ナノセルロースとイオン液体又は共晶溶媒とを含む、水の蒸発後に得られた残留物を回収する。その後、イオン液体又は共晶溶媒を洗い流すために、溶媒、好ましくはプロトン性溶媒、例えば、水及び脂肪族若しくは芳香族アルコール又はそれらの混合物を添加することにより、繊維、フィルム、又は他の成形形状として再生させることができる。
【0093】
1つの実施形態において、非凝集ナノセルロースとイオン液体又は共晶溶媒とを含む、水の蒸発後に得られた残留物を、セルロース表面は変性されるがイオン液体は未反応のままとなる化学変性に直接付す。これは、ナノセルロース表面の無水化学変性を容易にする。イオン液体は、回収してプロセス中で循環させてもよく、無水条件下でNFC水性懸濁液を再分散可能なナノセルロースに変換するための連続プロセスを可能にしている。
【0094】
好ましくは、このプロセスは、イオン液体中のナノセルロースの脱水及び無水化学変性を含む、ワンポットプロセスとして実施される。
【0095】
上記に基づいて、本発明の技術は、水中におけるナノセルロースの水性懸濁液の形態で提供されるナノセルロース等の水溶性及び親水性ポリマーを脱水する際の助剤としてのイオン液体及び共晶溶媒の使用をもたらす。
【0096】
使用の1つの実施形態において、イオン液体又は共晶溶媒は、ナノセルロース等のポリマーを本質的に溶解しない。別の実施形態において、イオン液体又は共晶溶媒と水性懸濁液とを、水性懸濁液の水100〜10重量部に対して約10〜100重量部のイオン液体又は共晶溶媒の重量比で、好ましくは99〜80重量部の水性懸濁液に対して約1〜20重量部のイオン液体又は共晶溶媒の重量比で混合する。
【0097】
以下の非限定的な例は、ナノセルロースに適用される本発明の技術の実施形態を示す。
【実施例】
【0098】
実施例1−TEGO(登録商標)IL P9中のヘムロックCNCの脱水
10mLのBGB Natural(商標)(Blue Goose Biorefineries社)7.4重量/ヘムロックセルロースナノクリスタル(CNC)水性懸濁液を、10mLのジエチル(ポリプロポキシ)メチルアンモニウムクロライド(TEGO(登録商標)IL P9)(Degussa社)に添加し、分散液を形成した。試料をロータリーエバポレーターで蒸発させ、80℃、最小10mbarで水を除去した。
【0099】
次いで、4mLのDMFを0.5gの分散液に添加し、十分に振盪して均質にした。この試料をDMFでさらに希釈し、静的光散乱(Zetaziser)により分析し、出発CNCの粒度分布(Zetasiserによる)と比較した(1gを1Lの水中に分散、図2)。
【0100】
図2から分かるように、イオン液体脱水手順により、ナノサイズのセルロースが回収できた。従って、イオン液体脱水ステップは、セルロースを分解又は不可逆的に凝集させない。
【0101】
実施例2−TEGO(登録商標)IL P9中のコットンCNCの脱水
コットンセルロースナノクリスタル(CNC)の1.5重量%水性懸濁液30.2gを、TEGO(登録商標)IL P9(Degussa社)8.9gに添加し、分散液を形成した。試料をロータリーエバポレーターで蒸発させ、80℃、最小10mbarで水を除去した。
【0102】
次いで、4mLのDMFを0.5gの分散液に添加し、十分に振盪して均質にした。この試料をDMFでさらに希釈し、静的光散乱(Zetaziser)により分析し、出発CNCの粒度分布(Zetasiserによる)と比較した(1gを1Lの水中に分散、図3)。
【0103】
図3から分かるように、イオン液体脱水手順により、ナノサイズのセルロースが回収できた。従って、イオン液体脱水ステップは、セルロースを分解又は不可逆的に凝集させない。
【0104】
実施例3−[emim][OTf]中のコットンCNCの脱水
コットンセルロースナノクリスタル(CNC)の1.5重量%水性懸濁液18.7gを、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネート([emim][OTf])5.3gに添加し、分散液を形成した。試料をロータリーエバポレーターで蒸発させ、80℃、最小10mbarで水を除去した。
【0105】
次いで、4mLのDMFを0.5gの分散液に添加し、十分に振盪して均質にした。この試料をDMFでさらに希釈し、静的光散乱(Zetaziser)により分析し、出発CNCの粒度分布(Zetasiserによる)と比較した(1gを1Lの水中に分散、図4)。
【0106】
図4から分かるように、イオン液体脱水手順により、マイクロサイズのセルロース粒子が回収できた。溶液は依然として均質であったが、出発CNCと比較して有意な凝集が生じた。これは、[emim][OTf]が凝集防止に有効ではなかったことを示している。
【0107】
実施例4−TEGO(登録商標)IL P9中のカバノキNFCの脱水
コットンセルロースナノクリスタル(CNC)の1.7重量%水性懸濁液14.4gを、TEGO(登録商標)IL P9(Degussa社)10.0gに添加し、分散液を形成した。試料をロータリーエバポレーターで蒸発させ、80℃、最小10mbarで水を除去した。
【0108】
次いで、4mLのDMFを0.5gの分散液に添加し、十分に振盪して均質にした。この試料をDMFでさらに希釈し、静的光散乱(Zetaziser)により分析し、出発NFCの粒度分布(Zetasiserによる)と比較した(1gを1Lの水中に分散、図5)。
【0109】
図5から分かるように、イオン液体脱水手順により、ナノサイズからマイクロサイズのセルロースが回収できた。従って、イオン液体脱水ステップは、セルロースを分解又は不可逆的に凝集させない。いくらか緩やかな凝集が起こっているが、最大流体力学的半径は依然としてナノスケールである。
【0110】
実施例5−[emim][OTf]中のカバノキNFCの脱水
コットンセルロースナノクリスタル(CNC)の1.7重量%水性懸濁液13.7gを、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネート([emim][OTf])9.5gに添加し、分散液を形成した。試料をロータリーエバポレーターで蒸発させ、80℃、最小10mbarで水を除去した。
【0111】
次いで、4mLのDMFを0.5gの分散液に添加し、十分に振盪して均質にした。この試料をDMFでさらに希釈し、静的光散乱(Zetaziser)により分析し、出発NFCの粒度分布(Zetasiserによる)と比較した(1gを1Lの水中に分散、図6)。
【0112】
図6から分かるように、イオン液体脱水手順により、マイクロサイズのセルロースが回収できた。凝集は、沈殿を引き起こすほど著しくはないが、ナノスケールから僅かに外れた流体力学的直径を示す凝集物が明らかに形成されている。これは、[emim][OTf]が凝集防止に有効ではなかったことを再び示している。
【0113】
水の除去
本発明のナノセルロースからの水の除去を図7に示す。これは、イオン液体への導入及びロータリーエバポレーターでの蒸発後の含水量の減少を示している。図7から分かるように、ほとんど全ての水がイオン液体混合物から除去されている。残留水がイオン液体中に残るが、これは適切な処理設備、例えば、薄膜蒸発、ショートパス蒸発、又は流下膜式蒸発、可変真空、温度、及びイオン液体の選択を用いて更に除去することができる。
【0114】
既存のプロセスを超える重要な主な利点は、繰り返しの混合及び遠心分離ステップをせずに含水量を1重量%以下にすることが可能なことである。大部分の水は、例えば、薄膜エバポレーター又はショートパス蒸留を用いてイオン液体混合物から蒸発させることにより、除去することができる。ここで、このプロセスにフィルムトルーダー(FILMTRUDER)(登録商標)が適している可能性があることを説明する。これは、リヨセルプロセスにおけるセルロースドープからの水の蒸発を可能にする技術であり、典型的には、しばしば固体を含有する粘性溶液から水を除去するために使用される。これは改良された薄膜エバポレーターであり、非常に低い真空及び高温の必要性を最小限にする。当然のことながら、多くの他の方法及び設備を使用することができ、典型的には、高濃度蒸発に使用することができる。
【0115】
実施例6−[emim][OTf]−NFC溶液の化学変性
含水量0.1重量%(Karl−Fischer分析による)及び乾燥パルプ含量1.9重量%を有する[emim][OTf]−NFC溶液を、DMF添加後に1ヶ月間放置した。有意な程度の沈殿は観察されなかった。
【0116】
[emim][OTf]−NFC溶液のアセチル化を、脱水と同じ[emim][OTf]溶液中で直接行った。アセチル化セルロース及びキシランは2D NMRにより既に完全に特徴づけられているため、アセチル化をモデル反応として選択した。NFC−[emim][OTf]ゲル(1.9重量%セルロースの[emim][OTf]を2.28g)を、触媒DMAP(3.0mg)とともに無水酢酸(0.149ml、3.44重量当量のナノセルロース)を添加することによりアセチル化した。混合物をスパチュラで攪拌し、断続的に攪拌しながら80℃で22時間加熱した。混合物を水(10mL)の添加によりクエンチした。混合物を遠心分離し、固体を水で更に2回(2×10mL)、メタノールで1回(10mL)洗浄し、最終的に試料を乾燥させた。さらにメタノール(10mL)を加え、溶液をロータリーエバポレーターで蒸発乾固し、部分的に透明な薄膜を得た。これをSEMで分析した(図8)。SEM分析は、繊維構造が極めて損傷のないものであることを示している。いくつかのフィブリルは、スパッタリング層として約5nm及びNishiyamaのセルロースI型ベータ結晶構造のH−結合面における隣接するポリマー単位間8.2Å(Journal of the American Chemical Society,2002,124,9074にて発表されている)に基づいた、基本フィブリルに相当すると思われる最小約10〜15nmさえ示している。これは、少なくとも広範な凝集が回避されていることを明確に示している。
【0117】
要するに、図8から分かるように、[emim][OTf]は、2つのイオン液体のうちより塩基性が低い、即ち、多糖類表面へのH−結合の能力がより低いものであるにもかかわらず、NFCが依然として存在する。NFCが実際にアセチル化されたことを裏付けるように、ATR−IRは有意なCO伸長を示した。しかしながら、これは、セルロースが変性されたかどうか、又は、変性手順の間にゲル化するか又は溶解及び再沈殿さえする可能性のある表面吸着キシランを単に示すものではない。このため、Green ChemistryにおいてDebにより発表された手順に従って、Ac−NFC膜を、1:4[P4444][OAc]/DMSO−d6(100℃、30分)に完全に溶解し、サンプルについてHSQC NMRを収集した(図9)。H及び13Cセルロースバイオポリマー領域の拡張は、アセチル化セルロース及びキシランの周知文献の帰属と比較すると、少なくともセルロースC6及びC2並びにキシランC2及びC3が化学変性されていることを明確に示している。AcNFC膜をとり、DMSO−d6中で80℃で1時間加熱することにより、アセチル化キシランの共鳴の帰属も行った。これにより、部分的にアセチル化されたキシランをAcNFC繊維から抽出することができ、セルロースの共鳴とヘミセルロースの共鳴とを区別することができた。アセチル化セルロース及びキシランに対応するシグナルは明確であり、表面吸着キシラン及び不溶セルロースの両方の表面変性を裏付けている。
【0118】
アセチル化はまた、2ppmにおける酢酸塩のシグナルとともに、拡散秩序化分光法(DOSY)勾配アレイを実行することにより明確に示すことができる。H勾配アレイのスタッキング及び標準化は、2ppmに確実に位置付けられる酢酸塩の共鳴とともに、高速拡散低分子量種(DMSO及びイオン液体)の消失及び低速拡散ポリマー材料の出現を示す(図10)。H及び13Cスペクトルにおいて、場合によっては微量のイオン液体を除去するために更なる洗浄が必要であることを示す、微量の[emim][OTf]を観察することができる。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明の方法は、任意の起源のナノセルロース並びに他の水溶性又は親水性ポリマーを脱水するのに有用である。
【0120】
含水量が低い又は非常に低い非凝集ナノセルロースが達成される。本発明の技術により得られたナノセルロースは、更に加工することができる。このようなステップとしては、変性又は未変性ナノセルロースの合成、ポリマー又はナノ粒子を用いたナノセルロースのグラフト化、表面の化学変性、無機化合物又は界面活性剤を用いた変性、特定の形状、例えば、フィルム、繊維又は他の低アスペクト比形状への変性又は未変性ナノセルロースの生化学変性及び再生が挙げられる。
【0121】
更に、分散性材料は、様々なプロセスにおいて添加剤として使用することができ、塗料のように表面に適用することができ、又は濾過のために不純物を除去するのに使用することができる。
【符号の説明】
【0122】
参照符号リスト
1 水性ナノセルロース
2 混合
3 蒸発
4 混合
5 遠心分離
6 ナノセルロースの乾燥
7 共溶媒の蒸発
8 合成
9 化学変性
10 再生
【0123】
引用リスト
特許文献
国際公開第2014/072886号
国際公開第2012/156880号
国際公開第2014/096547号
国際公開第2015/068019号
欧州特許第2815026号明細書
国際公開第2012/089929号
国際公開第2010/019245号
国際公開第2009/101985号
非特許文献
Soft Matter,2012,8,8338
J.Am.Chem.Soc.,2002,124,9074
Green Chem.,2016,18,3286
図1
図2
図3
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図5
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図10
【国際調査報告】