(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2018-531922(P2018-531922A)
(43)【公表日】2018年11月1日
(54)【発明の名称】エルシグルチドの治療上の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 38/18 20060101AFI20181005BHJP
A61K 38/00 20060101ALI20181005BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20181005BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20181005BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20181005BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20181005BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20181005BHJP
A61K 31/513 20060101ALI20181005BHJP
A61K 31/4745 20060101ALI20181005BHJP
A61P 7/06 20060101ALI20181005BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20181005BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20181005BHJP
【FI】
A61K38/18ZNA
A61K38/00
A61K38/16
A61P35/00
A61P37/04
A61P43/00 121
A61K45/00
A61K31/513
A61K31/4745
A61P7/06
A61P7/00
A61P7/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2018-513865(P2018-513865)
(86)(22)【出願日】2016年9月16日
(85)【翻訳文提出日】2018年5月8日
(86)【国際出願番号】EP2016072023
(87)【国際公開番号】WO2017046357
(87)【国際公開日】20170323
(31)【優先権主張番号】62/219,833
(32)【優先日】2015年9月17日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG
(71)【出願人】
【識別番号】505180070
【氏名又は名称】ヘルシン ヘルスケア ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100121120
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100169904
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 康司
(72)【発明者】
【氏名】クラウディオ ピエトラ
(72)【発明者】
【氏名】エマニュエラ ロヴァティ
(72)【発明者】
【氏名】ヨウセフ エム. ラスタム
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA19
4C084CA59
4C084DB35
4C084MA16
4C084MA21
4C084MA22
4C084MA56
4C084MA65
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA06
4C084ZA51
4C084ZA53
4C084ZA55
4C084ZB09
4C084ZB26
4C084ZC75
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC43
4C086CB22
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA65
4C086NA05
4C086NA06
4C086ZA51
4C086ZA53
4C086ZA55
4C086ZB09
4C086ZB26
4C086ZC75
(57)【要約】
本発明は、特に、化学療法剤の投与により傷つけられている患者における骨髄及び末梢血細胞種の活性または免疫応答を保護し、且つ刺激するためのエルシグルチドの治療上の使用に関する。本発明はさらに、細胞傷害性化学療法剤の抗腫瘍活性を高め、且つ特定の生物作用剤を標的とするためのエルシグルチドの使用を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞傷害性療法の結果として骨髄抑制を患っている対象にて骨髄活性を高める方法での使用のためのエルシグルチドであって、前記細胞傷害性療法のサイクルを前記対象に実行する前、前記サイクルの実行中、または、前記サイクルの実行後に前記エルシグルチドが投与される、使用のためのエルシグルチド。
【請求項2】
細胞傷害性療法の結果として免疫力が低下した対象の免疫状態を改善する方法での使用のためのエルシグルチドであって、前記細胞傷害性療法のサイクルを前記対象に実行する前、前記サイクルの実行中、または、前記サイクルの実行後に前記エルシグルチドが投与される、使用のためのエルシグルチド。
【請求項3】
癌の治療のために細胞傷害性療法を受けている対象にて細胞傷害性療法の有効性を高める方法での使用のためのエルシグルチドであって、前記細胞傷害性療法のサイクルを前記対象に実行する前に、前記サイクルの実行中、または、前記サイクルの実行後に前記エルシグルチドが投与される、使用のためのエルシグルチド。
【請求項4】
前記細胞傷害性化学療法が、白血球数、リンパ球数、単球数、平均赤血球容積、好酸球数及び平均赤血球ヘモグロビン濃度から成る群から選択される1以上の血液学的マーカーの低下を特徴とし、前記エルシグルチドは、前記エルシグルチドの投与がない場合に観察されるものより、前記1以上の血液学的マーカーにて小さな低下を引き起こす、請求項1または2に記載の使用のためのエルシグルチド。
【請求項5】
前記対象が、白血球数、リンパ球数、単球数、平均赤血球容積、好酸球数及び平均赤血球ヘモグロビン濃度から成る群から選択される1以上の血液学的マーカーの低下に悩まされており、前記エルシグルチドが前記1以上の血液学的マーカーの上昇を引き起こす、請求項1または2に記載の使用のためのエルシグルチド。
【請求項6】
前記細胞傷害性化学療法が、貧血(赤血球数の低下)、好中球減少症(好中球の数の低下)、白血球減少症(白血球数の低下)、及び血小板減少症(血小板数の低下)から成る群から選択される1以上の状態に関連し、前記エルシグルチドが前記1以上の状態を治療する、請求項1または2に記載の使用のためのエルシグルチド。
【請求項7】
前記対象が、貧血(赤血球数の低下)、好中球減少症(好中球の数の低下)、白血球減少症(白血球数の低下)、血小板減少症(血小板数の低下)及びそれらの組み合わせから成る群から選択される状態を患っている、請求項1または2に記載の使用のためのエルシグルチド。
【請求項8】
前記エルシグルチドの投与が2〜6日間のエルシグルチドの毎日投与の投薬計画を含み、細胞傷害性療法の前記サイクルが8〜24日間である、請求項1、2または3に記載の使用のためのエルシグルチド。
【請求項9】
前記エルシグルチドの投与が、細胞傷害性療法のサイクルの開始から連続して複数日についてエルシグルチドの毎日投与の投薬計画を含む、請求項1、2または3に記載の使用のためのエルシグルチド。
【請求項10】
細胞傷害性療法のサイクルの開始から少なくとも最初の2連続日の間にエルシグルチドが投与される、請求項1、2または3に記載の使用のためのエルシグルチド。
【請求項11】
細胞傷害性療法のサイクルの開始から少なくとも最初の4連続日の間にエルシグルチドが投与される、請求項1、2または3に記載の使用のためのエルシグルチド。
【請求項12】
細胞傷害性療法の各サイクルの開始から最初の4連続日の間に細胞傷害性療法の2サイクルについてエルシグルチドが投与される、請求項1、2または3に記載の使用のためのエルシグルチド。
【請求項13】
細胞傷害性療法のサイクルが14日まで長い、請求項1、2または3に記載の使用のためのエルシグルチド。
【請求項14】
細胞傷害性療法のサイクルが14日以上長い、請求項1、2または3に記載の使用のためのエルシグルチド。
【請求項15】
約10〜40mg/日の治療上有効な量のエルシグルチドを投与することを含む、請求項1、2または3に記載の使用のためのエルシグルチド。
【請求項16】
約10mg/日、約20mg/日及び約40mg/日から選択される治療上有効な量のエルシグルチドを投与することを含む、請求項1、2または3に記載の使用のためのエルシグルチド。
【請求項17】
細胞傷害性療法が、代謝拮抗剤、アルキル化剤、抗癌抗生剤、微小管−ターゲッティング剤、トポイソメラーゼ阻害剤、アルカロイド、抗体、ピリミジン類似体、プリン類似体、葉酸アンタゴニスト、エピジポドフィロトキシン、DNA損傷剤、抗血小板剤、白金配位錯体、ホルモン、ホルモン類似体、アロマターゼ阻害剤、抗血管新生化合物、増殖因子阻害剤、アンギオテンシン受容体遮断剤、酸化窒素ドナー、アンチセンスオリゴヌクレオチド、細胞周期阻害剤、分化誘導剤、mTOR阻害剤、ミトコンドリア機能不全誘導剤、クロマチン破壊剤から成る群から選択される1以上の化合物の投与を含む、請求項1、2または3に記載の使用のためのエルシグルチド。
【請求項18】
細胞傷害性療法が、5−フルオロウラシル(5−FU)、フロクスウリジン、カペシタビン、ゲムシタビン、シタラビン、イリノテカン、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、アムサクリン、カンプトテシン、ダウノルビシン、ダクチノマイシン、エニポシド、エピルビシン、エトポシド、イダルビシン、ミトキサントロン、トポテカン、オキサリプラチン、シスプラチン、カルボプラチン、フォリン酸、メソトレキセート、ならびにエルロチニブ、ソラフェニブ、ベバシズマブ、アキシチニブ、スニチニブ、及びラパチニブから選択される生物学的に標的とされる作用剤から成る群から選択される1以上の化合物の投与を含む、請求項1、2または3に記載の使用のためのエルシグルチド。
【請求項19】
細胞傷害性療法が5−フルオロウラシルまたはイリノテカンの投与を含む、請求項1、2または3に記載の使用のためのエルシグルチド。
【請求項20】
細胞傷害性療法が、FOLFOXまたはFOLFIRI細胞傷害性療法の投薬計画として投与される、請求項1、2または3に記載の使用のためのエルシグルチド。
【請求項21】
エルシグルチドが皮下(s.c.)に投与される、請求項1、2または3に記載の使用のためのエルシグルチド。
【請求項22】
エルシグルチドが静脈内または腹腔内に投与される、請求項1、2または3に記載の使用のためのエルシグルチド。
【請求項23】
対象がヒトである、請求項1、2または3に記載の使用のためのエルシグルチド。
【請求項24】
対象が、米国東海岸癌臨床試験グループ(ECOG)に従って≦2の一般状態を伴う癌を有する、請求項1、2または3に記載の使用のためのエルシグルチド。
【請求項25】
対象が、細胞傷害性療法の最初のサイクルの開始に先立って細胞傷害性療法を受けていない、請求項1、2または3に記載の使用のためのエルシグルチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に急性や慢性の毒性に対して保護するための、及び、化学療法剤の投与を受けている患者にて骨髄、末梢血の細胞型及び免疫系を含む血液学的な活性を刺激するためのエルシグルチドの治療上の使用に関する。本発明は、さらに、化学療法剤の治療上の有効性を高めるためのエルシグルチドの使用を提供する。
【背景技術】
【0002】
化学療法で使用される細胞毒性薬は、多数のマイナスの副作用を生じる。骨髄における細胞の複製が抑制される状態である骨髄抑制は、最も影響力が強く且つ有害な副作用の1つである。骨髄抑制は、貧血(赤血球数の低下)、好中球減少症(好中球の数の低下)、白血球減少症(白血球数の低下)、及び血小板減少症(血小板数の低下)を引き起こす。また、骨髄抑制は、貧血による疲労感、好中球減少症による感染症の増加、及び、血小板減少症による皮下出血(bruising)や出血としても感じられ得る。
【0003】
グルカゴン様ペプチド−2(GLP−2)は、小腸の腸内分泌L細胞及び脳幹の特定の領域におけるプログルカゴンの翻訳後プロセッシング(post−translational processing)により放出される33アミノ酸のペプチドである。それは、栄養物摂取に応答してグルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)、オキシントモジュリン及びグリセンチンと一緒に同時分泌される。GLP−2は、腺窩における幹細胞の増殖の刺激及び絨毛でのアポトーシスの阻害を介して、小腸粘膜上皮の有意な増殖を誘導する(Druckerら.Proc.Natl.Acad.Sci.USA.1996,93:7911−6)。また、GLP−2は、胃内容排出及び胃酸分泌を阻害し(Wojdemannら.J.Clin.Endocrinol.Metab.1999,84:2513−7)、腸のバリア機能を高め(Benjaminら.Gut.2000,47:112−9)、グルコーストランスポータの上方調節を介して腸管ヘキソースの輸送を刺激し(Cheeseman,Am.J.Physiol.1997,R1965−71)、且つ腸管の血流を増やす(Guanら.Gastroenterology.2003,125,136−47)。
【0004】
小腸におけるGLP−2の効能は、腸管の疾患または損傷の治療におけるGLP−2の使用で多くの関心を高めている(Sinclair及びDrucker,Physiology,2005:357−65)。さらに、GLP−2は、化学療法が誘発した粘膜炎、虚血/再潅流傷害、デキストラン硫酸が誘発した大腸炎、及び炎症性腸疾患の遺伝モデル(Sinclair及びDrucker,Physiology,2005:357−65)を含む消化管損傷の多数の前臨床モデルにおいて、粘膜上皮の損傷を防ぐかまたは軽減することが示されている。
【0005】
GLP−2は、配列HADGSFSDEMNTILDNLAARDFINWLIQTKITD(配列番号2)を有する33アミノ酸のペプチドとして分泌される。それは酵素ジペプチジルペプチダーゼ−4(DPP IV)によってN末端の2位におけるアラニン(A)で不活性ヒトGLP−2(3〜33)に迅速に切断される。腎クリアランスに加えてGLP−2(1〜33)のこの迅速な酵素分解は、そのペプチドについての約7分の半減期を生じる(Tavaresら,Am.J.Physiol.Endocrinol.Metab.278:E134−E139,2000)。
【0006】
米国特許第7,745,403号及び同第7,563,770号は、野生型GLP−2に比べて、多くの置換の1つを含むGLP−2類似体を開示している。記載されているGLP−2の類似体の1つが、ZP1846(エルシグルチド)である。GLP−2とエルシグルチドの配列の比較を以下に提供する。
エルシグルチド:HGEGSFSSELSTILDALAARDFIAWLIATKITDKKKKKK(配列番号1)
GLP−2:HADGSFSDEMNTILDNLAARDFINWLIQTKITD(配列番号2)
【0007】
米国特許第7,745,403号及び同第7,563,770号は、化学療法が誘発する下痢(CID)を含む化学療法の副作用を防ぐかまたは改善するためのエルシグルチドを含むGLP−2類似体の使用を提案している。GLP−2類似体は、腸管細胞及び腺窩細胞のアポトーシスを阻害し、腺窩細胞の増殖を高めるので、化学療法後の損傷した腸管上皮を置き換える新しい細胞を提供することによってCIDで作用すると思われる。
【0008】
計画されたエルシグルチドの実験的試験は、2012年2月21日前後のある時に臨床試験機関で報告された。試験の公式の表題は、「化学療法が誘発する下痢(CID)の予防において皮下投与されたエルシグルチド(ZP1846)の有効性を評価するための5−FUに基づく化学療法を受けている結腸直腸癌患者における概念研究のフェーズII二重盲検無作為化二段階プラセボ対照試験」であった。臨床試験機関は、試験の以下の簡潔な要約を報告している。すなわち、この試験の主な目的は、プラセボとの比較で5−FUに基づく化学療法(FOLFOX4またはFOLFIRI投薬計画)を受けた結腸直腸癌患者にて化学療法が誘発する下痢(CID)を予防することにおけるエルシグルチドの有効性に関するデータを得ることである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、細胞毒性薬が原因で生じた骨髄抑制及び免疫不全がGLP−2類似体であるエルシグルチドを投与することによって元に戻せるという意外な発見に基づく。
【課題を解決するための手段】
【0010】
従って、第1の主要な実施形態では、本発明は、細胞毒性薬のサイクルを対象に実行する前、当該サイクルの実行中、または、当該サイクルの実行後に、エルシグルチド投薬計画を前記対象に実行することを含む、細胞傷害性療法の結果免疫不全となった前記対象の免疫状態を改善する方法を提供する。
【0011】
第2の主要な実施形態では、本発明は、細胞毒性薬のサイクルを対象に実行する前、当該サイクルの実行中、または、当該サイクルの実行後に、エルシグルチド投薬計画を前記対象に実行することを含む、細胞傷害性療法の結果、骨髄抑制を患っている前記対象にて骨髄活性を高める方法を提供する。
【0012】
本発明はまた、エルシグルチドが細胞毒性薬の効果を高めることができるという意外な発見にも関する。従って、第3の主要な実施形態では、本発明は、細胞毒性薬のサイクルを対象に実行する前、当該サイクルの実行中、または、当該サイクルの実行後に、エルシグルチド投薬計画を前記対象に実行することを含む、癌の治療のために細胞傷害性療法を受けている前記対象にて細胞傷害性療法の有効性を高める方法を提供する。
【0013】
本発明の前述の及び他の目的、特徴及び利点は本発明の好まれる実施形態の以下のさらに詳しい記載から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】(A〜C)実施例2にてさらに詳細に記載されているような、動物試験の種々の群における主要な末梢血細胞型(白血球、赤血球、及び血小板)の平均数の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、本発明の好ましい実施形態及びそれに含まれる実施例の以下の詳細な記載を参照してさらに容易に理解されてもよい。
【0016】
(用語の定義及び使用)
明細書及びクレームで使用されるとき、単数形態、a、an及びtheは文脈が明瞭に指示しない限り、複数参照を含む。たとえば、「a医薬賦形剤」は現在開示されている製剤及び方法で使用するための1以上の医薬賦形剤を指す。
【0017】
範囲の上限とは別に範囲の下限を特定することによって範囲が与えられる場合、その範囲は、下限変数のいずれか1つと上限変数のいずれか1つとを、数学的にあり得るように選択し組み合わせることによって定義することができることが理解されるであろう。
【0018】
本明細書の変数の任意の定義における要素の一覧表の引用には、一覧表にされた要素の単一の要素または組み合わせ(もしくは下位組み合わせ)としてのその変数の定義が含まれる。本明細書の実施形態の引用には、任意の単一の実施形態としてまたは他の実施形態もしくはその一部との組み合わせでのその実施形態が含まれる。
【0019】
特許、特許出願及び公開された特許出願を含む本明細書で引用されている参考文献はすべて、それぞれが個々に参照によってさらに組み入れられようとそうでなかろうと、その全体が参照によって本明細書に組み入れられる。
【0020】
用語「約」は、当業者によって決定されるような特定の値についての許容誤差範囲内を意味し、部分的には、その値がどのように測定されるかまたは決定されるか、すなわち、測定系の限界に左右されるであろう。たとえば、「約」は、当該技術における実践ごとに許容できる標準誤差の範囲内を意味することができる。或いは、「約」は、所与の値の±20%まで、好ましくは±10%まで、さらに好ましくは±5%まで、一層好ましくは±1%までの範囲を意味することができる。或いは、特に生物系または生物過程に関して、その用語は、一桁分の範囲内、好ましくは値の2倍の範囲内を意味することができる。特定の値が本出願及びクレームに記載されている場合、言及されない限り、用語「約」は黙示的であり、この文脈で特定の値の許容できる誤差範囲の範囲内を意味する。
【0021】
ペプチド有効成分が本明細書でネイティブな形態で言及される場合、それはその薬学上許容できる塩すべてを含むと理解されるであろう。従って、エルシグルチドには、エルシグルチド塩酸塩及びエルシグルチドの他の薬学上許容できる塩が含まれる。
【0022】
本明細書で使用されるとき、用語「エルシグルチド」または「ZP1846」は、アミノ酸の配列番号1を有するGLP−2ペプチド類似体を指す。その用語は、また、塩の形態で提供されるペプチドも包含する。塩には、たとえば、酸付加塩及び塩基性塩のような薬学上許容できる塩が挙げられる。酸付加塩の非限定例には、塩酸塩、クエン酸塩及び酢酸塩が挙げられる。塩基性塩の非限定例には、カチオンがたとえば、ナトリウム及びカリウムのようなアルカリ金属、たとえば、カルシウムのようなアルカリ土類金属、及びアンモニウムイオン
+N(R
3)
3(R
4)から選択される塩が挙げられ、式中、R
3及びR
4は独立して任意で置換されるC
1−6アルキル、任意で置換されるC
2−6アルケニル、任意で置換されるアリールまたは任意で置換されるヘテロアリールを指す。薬学上許容できる塩の他の例は、“RemingtonのPharmaceutical Sciences”, 17th edition.Ed.Alfonso R.Gennaro(Ed.),Mark Publishing Company,Easton,Pa.,U.S.A.,1985及びさらに最近の版,ならびにthe Encyclopaedia of Pharmaceutical Technologyにて記載されている。
【0023】
用語「化学療法」及び「細胞傷害性療法」は、本明細書では通常、癌の治療のために哺乳類における細胞を殺傷するか、または、細胞の複製を阻害する目的のための化学剤の投与を指すために、相互交換可能に使用される。用語「抗癌剤」及び「化学療法剤」は、癌を治療するのに使用される任意の化合物を指すために本明細書で使用される。化学療法剤は、当該技術で周知である(たとえば、Gilman,A.G.,ら,The Pharmacological Basis of Therapeutics,8th Ed.,Sec.12:1202−1263(1990)を参照のこと)。化学療法剤の具体的な非限定例が本明細書全体で提供されており、それには、たとえば、FOLFOX(フォリン酸(リューコボリン)、フルオロウラシル(5−FU)、及びオキサリプラチンの投与を含む、結腸直腸癌の治療のための化学療法投薬計画)、及び、FOLFIRI(フォリン酸(リューコボリン)、フルオロウラシル(5−FU)、及びイリノテカンの投与を含む、結腸直腸癌の治療のための化学療法投薬計画)、と同様に標的化モノクローナル抗体療法(たとえば、ベバシズマブ、セツキシマブ、またはパニツムマブ)の単独でのまたは化学療法剤との併用での投与が挙げられる。
【0024】
用語「化学療法のサイクル」及び「細胞傷害性療法のサイクル」は、抗癌剤の最初の投与とその反復投与の間の時間を指すために本明細書で使用される。たとえば、FOLFOX4化学療法のサイクルは14日間を含み、その際、抗癌剤は以下のようにサイクルの最初の2日間だけ投与される。
1日目:双方とも別々のバッグで同時に120分間にわたって与えられるオキサリプラチン85mg/m
2のIV点滴とリューコボリン200mg/m
2のIV点滴、その後、2〜4分間で与えられる5−FU400mg/m
2のIVボーラス、その後、22時間の連続点滴としての5−FU600mg/m
2のIV点滴。
2日目:リューコボリン200mg/m
2のIV点滴、その後2〜4分間で与えられる5−FU400mg/m
2のIVボーラス、その後、22時間の連続点滴としての5−FU600mg/m
2のIV点滴。
同様に、以下の実施例の区分で議論されているFOLFIRI化学療法のサイクルは、14日間を含み、その際、抗癌剤は以下のようにサイクルの最初の2日間だけ投与される。フォリン酸(120分間かけた400mg/m
2[または2×250mg/m
2]のIV)と同時にイリノテカン(90分間かけた180mg/m
2のIV)、その後のフルオロウラシル(400〜500mg/m
2のIVボーラス)次いでフルオロウラシル(46時間かけた2400〜3000mg/m
2の静脈内点滴)である。頻度は用量に依存できる(たとえば、2週間ごとの静脈内点滴による5mg/kgまたは3週間ごとの静脈内点滴による7.5mg/kg)が、ベバシズマブは普通、14日ごとに静脈内に与えられる。結腸癌では、それは、化学療法剤である5−FU(5−フルオロウラシル)、リューコボリン及びオキサリプラチンまたはイリノテカンと併用で与えられる。セツキシマブのための推奨される用量とスケジュールの1つは、最初の投薬としての120分間点滴としての静脈内に投与される400mg/m
2、その後、好ましくはFOLFIRIとの併用での週ごとに30分間で点滴される250mg/m
2である。
【0025】
用語「同時投与される」及び「同時投与」は、広義的に、2以上の成分、化合物または組成物(たとえば、化学療法剤とエルシグルチド)の投与を指し、その際、前記成分、化合物または組成物は同時に(1つの組成物で)または2以上の別々の組成物で投与することができる。
【0026】
それが本明細書で引用される疾患状態のいずれかに関する限り、本発明の文脈では、用語「治療する」及び「治療」等は、そのような状態に関連する少なくとも1つの症状を緩和するもしくは和らげる、またはそのような状態の進行を遅らせるもしくは反転させることを意味する。本発明の意味の範囲内で、用語「治療する」は発症(すなわち、疾患の臨床的兆候に先立つ期間)を止める、遅延させる、及び/または疾患を進展させるまたは悪化させるリスクを減らすことも意味する。たとえば、癌と関連して、用語「治療する」は、患者の腫瘍の負担を排除するもしくは減らす、または転移を防ぐ、遅延させる、もしくは抑制する、等を意味してもよい。
【0027】
本明細書で使用されるとき、用量または量に適用される用語「治療上有効な」は、それを必要とする対象への投与の際、所望の活性を生じるのに十分である化合物または医薬組成物のその量を指す。本発明の文脈の範囲内で、用語「治療上有効な」がエルシグルチドと併せて使用される場合、それは、癌の化学療法の副作用を改善するかもしくは予防する、または、癌の化学療法の有効性を高めるのに効果的であるエルシグルチドまたはエルシグルチドを含有する医薬組成物の量を指す。有効成分が併用して投与される場合(たとえば、エルシグルチドと、癌の化学療法の副作用を改善するもしくは予防するのに有効な別の化合物との併用)、当該併用における有効量は、個々に投与されると有効である各成分の量を含んでもよいし、または含まなくてもよい。
【0028】
語句「薬学上許容できる」は、本発明の組成物に関連付けて使用されるときには、そのような組成物の分子実体及び他の成分が、対象(たとえば、ヒトのような哺乳類)に投与された場合に、生理的に忍容可能であり、典型的には、望ましくない反応を生じないことを指す。好ましくは、本明細書で使用されるとき、用語「薬学上許容できる」は、哺乳類での、さらに詳しくはヒトでの使用について連邦政府もしくは州政府の規制当局によって認可されているか、または、米国薬局方もしくは他の一般に認識された薬局方にリストされていることを意味する。
【0029】
本明細書で使用されるとき、用語「対象」は任意の哺乳類を指す。好ましい実施形態では、対象はヒトである。
【0030】
(本発明の治療法)
第1の主要な実施形態では、本発明は、化学療法の開始に先立って、当該化学療法の間、及び/または、当該化学療法の後に、対象の免疫状態を改善して、前記対象への細胞傷害性療法によって宿主組織に誘発される組織学的な損傷を保護し、その再生を促進する方法を提供する。
【0031】
第2の主要な実施形態では、本発明は、細胞傷害性療法のサイクルを対象に実行するのに先立って、当該サイクルの実行中、及び/または、当該サイクルの実行後に、エルシグルチド投薬計画を前記対象に実行することを含む、細胞傷害性療法の結果、骨髄抑制を患っている前記対象にて骨髄活性を高める方法を提供する。
【0032】
第3の主要な実施形態では、本発明は、細胞傷害性療法のサイクルを対象に実行するのに先立って、当該サイクルの実行中、及び/または、当該サイクルの実行後に、エルシグルチド投薬計画を前記対象に実行することを含む、癌の治療のために細胞傷害性療法を受けている対象にて細胞傷害性療法の有効性を高める方法を提供する。
【0033】
第1及び第2の主要な実施形態の種々の実施形態では、前記細胞傷害性化学療法は、白血球数、リンパ球数、単球数、平均赤血球容積、好酸球数、及び平均赤血球ヘモグロビン濃度から成る群から選択される1以上の血液学的マーカーの低下を特徴とし、前記エルシグルチド投薬計画は、前記エルシグルチド投与がない場合に観察されるものより、前記1以上の血液学的マーカーにて小さな低下を生じる。
【0034】
第1及び第2の主要な実施形態の他の実施形態では、前記対象は、白血球数、リンパ球数、単球数、平均赤血球容積、好酸球数、及び平均赤血球ヘモグロビン濃度から成る群から選択される1以上の血液学的マーカーの低下に悩まされており、前記エルシグルチド投薬計画は、前記1以上の血液学的マーカーの上昇を引き起こす。
【0035】
第1及び第2の主要な実施形態の他の実施形態では、前記細胞傷害性化学療法は、貧血(少ない赤血球数)、好中球減少症(少ない好中球数)、白血球減少症(少ない白血球数)、及び血小板減少症(少ない血小板数)から成る群から選択される1以上の状態に関連し、前記エルシグルチド投薬計画は前記1以上の状態を治療する。
【0036】
第1及び第2の主要な実施形態のさらに他の実施形態では、対象は、貧血(少ない赤血球数)、好中球減少症(少ない好中球数)、白血球減少症(少ない白血球数)、及び血小板減少症(少ない血小板数)及びそれらの組み合わせから成る群から選択される状態を患っている。
【0037】
その上、さらなる独立した実施形態は、以下を提供する:
・治療上有効な量のエルシグルチドを対象に投与することを含む、1以上の細胞毒性薬の投与が原因で任意で生じた白血球数の低下を患っている、またはそれを患うリスクがある前記対象を治療する方法。
・治療上有効な量のエルシグルチドを対象に投与することを含む、1以上の細胞毒性薬の投与が原因で任意で生じたリンパ球数の低下を患っている、またはそれを患うリスクがある前記対象を治療する方法。
・治療上有効な量のエルシグルチドを対象に投与することを含む、1以上の細胞毒性薬の投与が原因で任意で生じた単球数の低下を患っている、またはそれを患うリスクがある前記対象を治療する方法。
・治療上有効な量のエルシグルチドを対象に投与することを含む、1以上の細胞毒性薬の投与が原因で任意で生じた平均赤血球容積の低下を患っている、またはそれを患うリスクがある前記対象を治療する方法。
・治療上有効な量のエルシグルチドを対象に投与することを含む、1以上の細胞毒性薬の投与が原因で任意で生じた好酸球数の低下を患っている、またはそれを患うリスクがある前記対象を治療する方法。
・治療上有効な量のエルシグルチドを対象に投与することを含む、1以上の細胞毒性薬の投与が原因で任意で生じた平均赤血球ヘモグロビン濃度の低下を患っている、またはそれを患うリスクがある前記対象を治療する方法。
・治療上有効な量のエルシグルチドを対象に投与することを含む、1以上の細胞毒性薬の投与が原因で任意で生じた貧血を患っている、またはそれを患うリスクがある前記対象を治療する方法。
・治療上有効な量のエルシグルチドを対象に投与することを含む、1以上の細胞毒性薬の投与が原因で任意で生じた好中球減少症を患っている、またはそれを患うリスクがある前記対象を治療する方法。
・治療上有効な量のエルシグルチドを対象に投与することを含む、1以上の細胞毒性薬の投与が原因で任意で生じた白血球減少症を患っている、またはそれを患うリスクがある前記対象を治療する方法。
・治療上有効な量のエルシグルチドを対象に投与することを含む、1以上の細胞毒性薬の投与が原因で任意で生じた血小板減少症を患っている、またはそれを患うリスクがある前記対象を治療する方法。
【0038】
化学療法剤(複数可)の投与の開始前にエルシグルチドの投与を実行するか又は少なくとも開始するか、もしくは、化学療法剤(複数可)の投与の終了後(すなわち、化学療法剤(複数可)が投与されていない化学療法サイクルの日の間)にエルシグルチドを投与するのがもっともらしいことではあるが、前述の実施形態のいずれかでは、エルシグルチド及び化学療法剤(複数可)は、好ましくは2日以上同時に投与され、エルシグルチドの投与は化学療法サイクルを開始するのと同じ日に開始される。化学療法が、2、3、4以上のサイクルのような複数のサイクルを含む場合、エルシグルチドは、好ましくは、各サイクルの間に投与される。毎日投与される場合、エルシグルチドを1日の間で複数回投与することも可能であるが、1日1回だけ投与することが好ましい。
【0039】
エルシグルチドの投薬計画は、4日が適切であると思われるが、好ましくは、1、2、3、4、5、または6日の化学療法サイクルについて毎日、またはこれらの期間(たとえば、1〜5日)のどこかでエルシグルチドを投与することを含んでいる。投薬計画は、また、化学療法サイクルの開始1、2、3、4または5日前に開始することも可能であるが、好ましくは、化学療法サイクルの開始時に開始される。また、不連続な日周期の投薬も考えられるが、投薬計画は、連続日で実施されるのが好ましい。
【0040】
化学療法サイクルは、サイクルの間の1以上、3以上、5以上、7以上、9以上またはさらに10以上の連続日数での、またはこれらの期間(たとえば、1〜5日まで)の間のどこかでの化学療法の投与を含む。化学療法サイクルは1週間、2週間、3週間、4週間以上、またはこれらの時間の間のどこかまで続いてもよい。一実施形態では、14日間の化学療法サイクル全体を通して、本発明の方法では、限定された期間のエルシグルチドの投与が効果的である。
【0041】
前述の主要な実施形態は、いずれも、広い範囲の化学療法剤と共に実践することができる。そのような作用剤の非限定例としては、代謝拮抗物質、たとえば、ピリミジン類似体(たとえば、5−フルオロウラシル[5−FU]、フロクスウリジン、カペシタビン、ゲムシタビン及びシタラビン)及びプリン類似体、葉酸アンタゴニスト及び関連する阻害剤(たとえば、メルカプトプリン、チオグアニン、ペントスタチン及び2−クロロデオキシアデノシン(クラドリビン));天然産物、たとえば、ビンカアルカロイド(たとえば、ビンブラスチン、ビンクリスチン及びビノレルビン)、微小管破壊剤、たとえば、タキサン(たとえば、パクリタキセル、ドセタキセル)、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ノコダゾール、エポチロン及びナベルビン、エピジポドフィロトキシン(たとえば、エトポシド、テニポシド)、DNA損傷剤(たとえば、アクチノマイシン、アムサクリン、アントラサイクリン、ブレオマイシン、ブスルファン、カンプトテシン、カルボプラチン、クロラムブシル、シスプラチン、ネダプラチン、サイクロホスファミド、サイトックス及びアクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、アクラルビシン、プラルビシン、ヘキサメチレンアミンオキサリプラチン、イフォスファミド、メルファラン、メルクロルエタミン、マイトマイシン、ミトキサントロン、ニトロソ尿素、ニムスチン、ラニムスチン、エストラムスチン、プリカマイシン、プロカルバジン、タキソール、タキソテレ、テニポシド、トリエチレンチオホスホルアミド及びエトポシド(VP16))を含む抗増殖剤/抗有糸分裂剤;抗生剤(たとえば、ダクチノマイシン(アクチノマイシンD)、ダウノルビシン、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、イダルビシン、アントラサイクリン、ミトキサントロン、ブレオマイシン、プリカマイシン(ミトラマイシン)、プレオマイシン、ペプロマイシン、マイトマイシン(たとえば、マイトマイシンC)、アクチノマイシン(たとえば、アクチノマイシンD)、ジノスタチンスチマラマー);酵素(たとえば、L−アスパラギナーゼ);ネオカルジノスタチン;抗血小板剤;抗増殖/抗有糸分裂アルキル化剤、たとえば、ナイトロジェンマスタード(たとえば、メクロルエタミン、サイクロホスファミド及び類似体、イミダゾールカルボキサミド、メルファラン、クロラムブシル、ナイトロジェンマスタード−N−酸化物塩酸塩、イフォスファミド)、エチレンイミン及びメチルメラミン(たとえば、ヘキサメチルメラミン、チオテパ、カルボクオン、トリエチレンチオホスファルアミド)、スルホン酸アルキル(たとえば、ブスルファン、トシル酸イソプロスルファン)、ニトロソ尿素(たとえば、カルムスチン(BCNU)及び類似体、ストレプトゾシン)、トラゼン−ダカルバジン(DTIC);エポキシド型化合物(たとえば、ミトブロニトール);抗増殖/抗有糸分裂代謝拮抗剤、たとえば、フォリン酸類似体(たとえば、メソトレキセート);白金配位錯体(たとえば、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン)、プロカルバジン、ヒドロキシ尿素、ミトタン、アミノグルテチミド;ホルモン、ホルモン類似体(たとえば、エストロゲン、タモキシフェン、ゴセレリン、ビカルタミド、ニルタミド)及びアロマターゼ阻害剤(たとえば、レトロゾール、アナストロゾール);抗凝固剤(たとえば、ヘパリン、合成ヘパリン塩及びトロンビンの他の阻害剤);線維素溶解剤(たとえば、組織プラスミノーゲン活性化剤、ストレプトキナーゼ及びウロキナーゼ)、アスピリン、ジピリダモール、チクロピジン、クロピドグレル、アブシキマブ;移動防止剤;抗知覚剤(たとえば、ブレベルジン);免疫抑制剤(たとえば、シクロスポリン、タクロリムス(FK−506)、シロリムス(ラパマイシン)、アザチオプリン、ミコフェノレートモフェチル);血管新生阻害化合物(たとえば、TNP−470、ゲニステイン、ベバシズマブ)及び増殖因子阻害剤(たとえば、線維芽細胞増殖因子(FGF)阻害剤);アンギオテンシン受容体遮断剤;酸化窒素ドナー;アンチセンスオリゴヌクレオチド;抗体(たとえば、トラスツズマブ);細胞周期阻害剤及び分化誘導剤(たとえば、トレチノイン);mTOR阻害剤、トポイソメラーゼ阻害剤(たとえば、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、アムサクリン、カンプトテシン、ダウノルビシン、ダクチノマイシン、エニポシド、エピルビシン、エトポシド、イダルビシン、ミトキサントロン、トポテカン、イリノテカン);増殖因子シグナル伝達キナーゼ阻害剤;ミトコンドリア機能不全誘導剤;クロマチン破壊剤;ソブゾキサン;トレチノイン;ペントスタチン;フルタミド;ポルポヒマーナトリウム;ファドロゾール;プロカルバジン;アセグラトン、及びミトキサントロンが挙げられる。他の作用剤には、単独で使用される及び従来の小分子化学療法剤と併用で使用される、血管内皮増殖因子(VEGF)及びその受容体(VEGFR)または表皮増殖因子(EGF)を標的とするモノクローナル抗体及び他のモダリティが挙げられる。方法はまた、エルロチニブ、ソラフェニブ、ベバシズマブ、アキシチニブ、スニチニブ及びラパチニブを含むが、これらに限定されない生物学的に標的とされる作用剤の投与と併せて実践することができる。
【0042】
本発明の方法は、広い範囲の癌を患っている対象に使用することができ、その対象は有害な副作用を生じる抗癌化学療法治療を受けている。関連する癌の非限定例としては、たとえば、乳癌、前立腺癌、多発性骨髄腫、従来の細胞癌腫、肺癌(たとえば、非小細胞肺癌(NSCLC))、腎臓癌、甲状腺癌及び副甲状腺機能亢進症を引き起こす他の癌、腺癌、白血病(たとえば、慢性骨髄性白血病、急性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、急性リンパ性白血病)、リンパ腫(たとえば、B細胞リンパ腫、T細胞リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫)、頭頚部の癌、食道癌、胃癌、結腸癌、腸管の癌、結腸直腸癌、直腸癌、膵臓癌、肝臓癌、胆管の癌、胆嚢の癌、卵巣癌、子宮内膜癌、膣癌、頸癌、膀胱癌、神経芽細胞種、肉腫、骨肉腫、悪性黒色腫、扁平上皮細胞癌、原発骨癌(たとえば、骨肉腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、線維肉腫、悪性線維性組織球腫、アダマンチノーマ、巨細胞腫瘍、及び軟骨腫)及び二次(転移性)骨癌の双方を含む骨癌、軟組織肉腫、基底細胞癌、血管肉腫、血管肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、骨肉腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、滑膜腫、精巣癌、子宮癌、消化器癌、中皮腫、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、腺癌、汗腺癌、皮脂腺癌、乳頭癌、ワルデンストロームのマクログロブリン血症、乳頭腺癌、嚢胞腺癌、気管支癌、絨毛癌、精上皮腫、胚性癌腫、ウィルムス腫瘍、上皮癌、神経膠腫、神経膠芽腫、星状細胞種、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体種、血管芽細胞種、聴神経腫、乏突起膠腫、髄膜腫、網膜芽腫、髄様癌、胸腺腫、肉腫、等が挙げられる。
【0043】
本発明の方法で有用な具体的なエルシグルチドの用量は、治療される化学療法副作用の種類、これらの副作用の重症度及び経過、以前の治療法、患者の既往歴及び化学療法やエルシグルチドに対する応答、と同様に主治医の裁量に左右されるであろう。具体的な一実施形態では、そのような用量は5〜80または10〜40mg/日の範囲に及ぶ。
【0044】
投与の有用な経路の具体的な非限定例には、皮下、静脈内(IV),腹腔内(IP)及び筋肉内が挙げられる。
【0045】
特定の実施形態では、エルシグルチドは、薬学上許容できるキャリアまたは賦形剤と共に医薬組成物にて製剤化される。特定の実施形態では、エルシグルチドは、癌化学療法の副作用を改善するまたは予防するのに有効な別の化合物と一緒に医薬組成物にて配合される。本発明の方法で使用される製剤は、好都合に単位剤形で提示されてもよく、当該技術で既知の方法によって調製されてもよい。単一剤形を製造するためにキャリア物質と共に配合することができる有効成分の量は、治療される宿主及び投与の特定の様式に応じて変化するであろう。単一剤形を製造するためにキャリア物質と共に配合することができる有効成分の量は、一般に治療効果を生じる化合物のその量であろう。
【0046】
一般に、製剤は、液体キャリアまたは微細に分割された固形キャリアまたはその双方と共に調製することができ、次いで必要に応じて製品を成形する。非経口投与に好適な医薬組成物は、1以上の薬学上許容できる無菌の等張水溶液または非水性の溶液、分散液、懸濁液、またはエマルション、または使用直前に注射用の溶液もしくは分散液に再構成されてもよい無菌粉末との併用でエルシグルチドを含んでもよい。
【0047】
本発明のさらなる目的は、以下の条項によって定義される方法である:
1.細胞傷害性療法の結果としての骨髄抑制を患っている対象にて骨髄活性を高める方法であって、前記細胞傷害性療法のサイクルを前記対象に実行する前、当該サイクルの実行中、または、当該サイクルの実行後に、前記対象にエルシグルチド投薬計画を投与することを含む、方法。
2.細胞傷害性療法の結果として免疫力が低下した対象の免疫状態を改善する方法であって、前記細胞傷害性療法のサイクルを前記対象に実行する前、当該サイクルの実行中、または、当該サイクルの実行後に、前記対象にエルシグルチド投薬計画を投与することを含む、方法。
3.癌の治療のために細胞傷害性療法を受けている対象にて細胞傷害性療法の有効性を高める方法であって、前記細胞傷害性療法のサイクルを前記対象に実行する前、当該サイクルの実行中、または、当該サイクルの実行後に、前記対象にエルシグルチド投薬計画を投与することを含む、方法。
4.前記細胞傷害性化学療法が、白血球数、リンパ球数、単球数、平均赤血球容積、好酸球数及び平均赤血球ヘモグロビン濃度から成る群から選択される1以上の血液学的マーカーの低下を特徴とし、前記エルシグルチド投薬計画が、前記エルシグルチド投与がない場合に観察されるものより、前記1以上の血液学的マーカーにて小さな低下を引き起こす条項1または2の方法。
5.前記対象が、白血球数、リンパ球数、単球数、平均赤血球容積、好酸球数及び平均赤血球ヘモグロビン濃度から成る群から選択される1以上の血液学的マーカーの低下に悩まされており、前記エルシグルチド投薬計画が前記1以上の血液学的マーカーの上昇を引き起こす条項1または2の方法。
6.前記細胞傷害性化学療法が、貧血(赤血球数の低下)、好中球減少症(好中球の数の低下)、白血球減少症(白血球数の低下)、及び血小板減少症(血小板数の低下)から成る群から選択される1以上の状態に関連し、前記エルシグルチド投薬計画が前記1以上の状態を治療する条項1または2の方法。
7.対象が、貧血(赤血球数の低下)、好中球減少症(好中球の数の低下)、白血球減少症(白血球数の低下)、血小板減少症(血小板数の低下)及びそれらの組み合わせから成る群から選択される状態を患っている条項1または2の方法。
8.前記エルシグルチド投薬計画が2〜6日間のエルシグルチドの毎日投与を含み、細胞傷害性療法の前記サイクルが8〜24日間である条項1、2または3の方法。
9.前記エルシグルチド投薬計画が、細胞傷害性療法のサイクルの開始から連続して複数日についてエルシグルチドの毎日投与を含む条項1、2または3の方法。
10.細胞傷害性療法のサイクルの開始から少なくとも最初の2連続日の間にエルシグルチドが投与される条項1、2または3の方法。
11.細胞傷害性療法のサイクルの開始から少なくとも最初の4連続日の間にエルシグルチドが投与される条項1、2または3の方法。
12.細胞傷害性療法の各サイクルの開始から最初の4連続日の間に細胞傷害性療法の2サイクルについてエルシグルチドが投与される条項1、2または3の方法。
13.細胞傷害性療法のサイクルが14日まで長い条項1、2または3の方法。
14.細胞傷害性療法のサイクルが14日以上長い条項1、2または3の方法。
15.エルシグルチド投薬計画が約10〜40mg/日の治療上有効な量のエルシグルチドを含む条項1、2または3の方法。
16.エルシグルチド投薬計画が約10mg/日、約20mg/日及び約40mg/日から選択される治療上有効な量のエルシグルチドを含む条項1、2または3の方法。
17.細胞傷害性療法が、代謝拮抗剤、アルキル化剤、抗癌抗生剤、微小管−ターゲッティング剤、トポイソメラーゼ阻害剤、アルカロイド、抗体、ピリミジン類似体、プリン類似体、葉酸アンタゴニスト、エピジポドフィロトキシン、DNA損傷剤、抗血小板剤、白金配位錯体、ホルモン、ホルモン類似体、アロマターゼ阻害剤、抗血管新生化合物、増殖因子阻害剤、アンギオテンシン受容体遮断剤、酸化窒素ドナー、アンチセンスオリゴヌクレオチド、細胞周期阻害剤、分化誘導剤、mTOR阻害剤、ミトコンドリア機能不全誘導剤、クロマチン破壊剤から成る群から選択される1以上の化合物の投与を含む条項1、2または3の方法。
18.細胞傷害性療法が、5−フルオロウラシル(5−FU)、フロクスウリジン、カペシタビン、ゲムシタビン、シタラビン、イリノテカン、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、アムサクリン、カンプトテシン、ダウノルビシン、ダクチノマイシン、エニポシド、エピルビシン、エトポシド、イダルビシン、ミトキサントロン、トポテカン、オキサリプラチン、シスプラチン、カルボプラチン、フォリン酸、メソトレキセート、ならびにエルロチニブ、ソラフェニブ、ベバシズマブ、アキシチニブ、スニチニブ及びラパチニブから選択される生物学的に標的とされる作用剤から成る群から選択される1以上の化合物の投与を含む条項1、2または3の方法。
19.細胞傷害性療法が5−フルオロウラシルまたはイリノテカンの投与を含む条項1、2または3の方法。
20.細胞傷害性療法が、FOLFOXまたはFOLFIRI細胞傷害性療法投薬計画として投与される条項1、2または3の方法。
21.エルシグルチドが皮下(s.c.)で投与される条項1、2または3の方法。
22.エルシグルチドが静脈内または腹腔内に投与される条項1、2または3の方法。
23.対象がヒトである条項1、2または3の方法。
24.対象が、米国東海岸癌臨床試験グループ(ECOG)に従って≦2の一般状態を伴う癌を有する条項1、2または3の方法。
25.対象が、細胞傷害性療法の最初のサイクルの開始に先立って細胞傷害性療法を受けていない条項1、2または3の方法。
【0048】
(実施例)
本発明はまた、以下の実施例により、記載され、実証される。しかしながら、これらの使用及び本明細書の他の実施例は、例示に過ぎず、決して、本発明または例示されたいかなる用語の範囲及び意味を限定するものではない。同様に、本発明はここで記載されている特定の好ましい実施形態に限定されない。実際、本発明の多数の改変及び変化が本明細書を読んだ際、当業者に明らかであってもよく、そのような変更は、本発明の技術思想または範囲から逸脱しない範囲にて可能である。従って、本発明は、これらのクレームに与えられた同等物の完全な範囲と共に添付のクレームの用語によってのみ限定されるべきである。
【0049】
数(たとえば、量、温度等)に関する精度を確保するための努力はしているが、いくらかの誤差及び偏差は含まれているはずである。指示されない限り、部分は重量部であり、温度は°Cで表すかまたは常温であり、圧力は大気圧またはほぼ大気圧である。
【0050】
実施例1:フィッシャー系ラットにおける造血に対する単独での及びイリノテカン化学療法との併用でのエルシグルチドの効果の評価。
試験は、フィッシャー系ラットにおける造血に対する単独での及びイリノテカン化学療法との併用でのエルシグルチドの効果を評価するために企てられた。
【0051】
(材料及び方法)
動物:8〜12週齢メスのフィッシャー344/N系ラット(体重160〜200g)をHarlan Sprague Dawley Inc.(Indianapolis,IN)から入手した。
【0052】
薬剤及び製剤:イリノテカンは、20mg/ml(5mlバイアルに100mg)の濃度でのすぐに使える製剤溶液として購入した。150〜200gのラットに2ml(200mg/kg/日×3の用量)までの溶液の投与が必要だった。
【0053】
薬剤用量及びスケジュール:エルシグルチドは、1.8mg/kg/日で1日1回4日間、皮下(s.c.)経路で投与した。3回の投薬は、イリノテカンの毎日の静脈内(I.V.)投薬の30分前に実行した。エルシグルチドの4回目の投薬のみ、イリノテカンの最後の投薬の24時間後に実行した。イリノテカンは、最大忍容された治療用量100、150、200mg/kg/日で静脈内(I.V)注射によって3日間投与した。
【0054】
各実験群に5匹のラットを使用し、統計的有意性のために幾つか繰り返した。
【0055】
剖検:未処理のフィッシャー系ラット、及び100、150、及び200mg/kg/日×3のイリノテカンのみで処理したラット及びエルシグルチド(1.8mg/kg/日×4)との併用でのイリノテカンで処理したラットの脾臓及び胸骨の骨髄を組織学的に調べた。
【0056】
(血液学的(CBC)解析)
・完全な血球数(CBC)解析(0、4及び9日目)
・末梢血由来の14マーカー、WBC(分画:好中球、リンパ球、好酸球、単球、好塩基球)及びRDW−SD、RBC、HGB、HCT、MCV、MCH、MCHC及び血小板を解析した。
【0057】
組織病理:胸骨骨髄及び脾臓を用いた組織学的な解析を9日目(3日目におけるイリノテカンの最終投薬の投与の6日後)に行った。骨髄及び脾臓の検体を緩衝化ホルマリン(10%)で48時間固定した。9日目での実験の終了時での剖検の間に、胸骨及び脾臓全体を取り出した。適当な固定を得るために、試料を10%緩衝化ホルマリンに48時間入れた。その後、胸骨は、Apex Engineering Products Corporation(Aurora,IL,USA)のRapid Decalcifier(RDO)にて17分間脱灰することで、胸骨は指で容易に曲げることができるようになった。脱灰が完了すると、試料を溶液から取り出し、冷却流水のもとに60分置いて有効成分としての塩酸を含有する脱灰溶液を除いた。次いで、脱灰骨髄及び脾臓の検体を処理し、パラフィンに包埋し、切片(5μ)にし、ヘマトキシリンとエオシン(HE)で従来通り染色した。種々の倍率を用いた光学顕微鏡下での一般的な位置付け及び評価のためにHE染色したスライドを使用した。
【0058】
生存実験:処理の後、4週間までの生存について10匹のラットを評価した。試験の間、動物にて薬剤が誘発した毒性の動態(体重の減少/増加、口内炎、致死性)を最初の2週間は毎日、その後、生存期の4週間まで週に2回モニターした。生存期の終了時、ラットを屠殺した。
【0059】
統計的解析:完全血球細胞(CBC)の結果の統計的解析を行った。様々な処理群における平均値間の差異を有意性について解析した。
【0060】
組織の具体的な取得が得られた処理群及び時間を以下にまとめる。体重150〜180g(8〜12週齢)のフィッシャー系ラット(メス)を利用した。
・対照、組織学、9日目及びCBC、ベースライン、4日目と9日目
・対照溶媒、組織学、9日目及びCBCベースライン、4日目と9日目
・イリノテカン100mg/kg/日×3、I.V.、組織学、9日目及びCBC、ベースライン、4日目と9日目
・イリノテカン150mg/kg/日×3、I.V.、組織学、9日目及びCBC、ベースライン、4日目と9日目、及びCBC、ベースライン、4日目と9日目
・イリノテカン200mg/kg/日×3、I.V.、組織学、9、CBC、4日目と9日目
・エルシグルチド1.8mg/kg/日×4、S.C.、組織学、9日目及びCBC、ベースライン、4日目と9日目
・CBC、ベースライン、4日目と9日目
・エルシグルチド1.8mg/kg/日×4、S.C.+イリノテカン150mg/kg/日×3、I.V.組織学、9日目及びCBC、ベースライン、4日目と9日目
・エルシグルチド1.8mg/kg/日×4、S.C.+イリノテカン200mg/kg/日×3、I.V.組織学、9日目及びCBC、ベースライン、4日目と9日目
各治療群は骨髄、脾臓の組織学、及び末梢血の解析、及び生存について10匹のラットから成った。末梢血の評価はゼロ(0)、4及び9日目に、(剖検)後の骨髄及び脾臓の解析は9日目に行った。
【0061】
(結果)
14の生体マーカーの解析は、表1、2及び3にて要点が述べられているように、生存しているラットでの4日目及び9日目のエルシグルチドの評価によって6つの生体マーカーが有意に変更されることを示した。200mg/kg/日×3のイリノテカンで処理したラットの50%、及び、150mg/kg/日×3のイリノテカンで処理したラットの10%が、毒性のために6日目及び7日目で死亡した。イリノテカンで処理して死亡したラットと、イリノテカン単独による処理を生き残り(50%)、及び、エルシグルチドとの併用での処理を生き残り(100%)、観察できる毒性がなかった動物とにおける6つの生体マーカーの解析の対比結果は、以下の6つの生体マーカー、すなわち、表2及び3で要点が述べられているような白血球(WBC)、リンパ球、単球、平均赤血球容積(MCV)、好酸球及び平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)に対するエルシグルチドの保護効果を示した。死亡した及び生存しているラットにおいて処理によって有意に改変されなかった4つの生体マーカーには、RBC、HGB、HCT及びMCHが含まれる。
【0062】
表1.致死用量のイリノテカン200mg/kg×3日間で処理したラットにおけるエルシグルチドによって変化した血液マーカーの調節の動態、4日目と9日目における評価。
【表1】
【0063】
表2.イリノテカン単独及びエルシグルチドとの併用で9日目に生存のラット(13匹)に対比させて6及び7日目にイリノテカンで死亡したラット(5匹)を比較する、エルシグルチドによって有意に変化したマーカー。
【表2】
【0064】
表3.イリノテカン(200mg/kg/日×3)による処理で6及び7日目に死亡したラット(5匹)及びイリノテカン単独及びエルシグルチド/イリノテカンの併用で9日目に生存したラット(13匹)において有意に変化した血液マーカー。
【表3】
【0065】
実施例2:エルシグルチド、イリノテカン単独及びその併用で処置した後のラット胸骨の骨髄及び脾臓の組織学的な評価。
イリノテカンによって誘発された骨髄毒性の逆戻りにおけるエルシグルチドの潜在性を判定するために別の試験を行った。骨髄の評価の間、公開された文献に従った規制指針及び推奨を守った(Reagen WJ,et al,Toxicologic Pathology,39:435−448,2011)。
【0066】
(胸骨骨髄及び脾臓の組織病理学的な評価の結果(群当たり5匹のラット))
(a)未処理の対照及び溶媒対照(群1〜2)
胸骨の骨髄は、正常な組織学的構造を示した。これらのメスのフィッシャー系ラットでは、骨髄全体の約30%で常に特徴的に浸潤する脂肪(adipose)(脂肪(fat))組織が存在するために(Swissマウスの骨髄とは異なり)造血に利用できる空間が完全には利用されないのは、正常な組織学的構造の一部である。脂肪組織で覆われる骨髄の領域はかなり一貫していて、有意な個体差を示さなかった。未処理の動物では、造血組織領域は骨髄領域全体の約70%であり、残りの30%が脂肪組織だった。脾臓は、正常な組織学的構造を示した。赤脾髄は、脾臓の縦断面全体で平均8(5〜10の範囲)の分散した単一の成熟した巨核球を含有した。赤脾髄には余分な髄質造血巣は見られなかった。
【0067】
(b)エルシグルチド1.8mg/kg処理(群3)
4匹の動物に由来する骨髄は、約30%の脂肪組織含量を伴った正常な組織学的構造を示した。脾臓の組織学的構造は正常だった。巨核球の平均数は、未処理のラットの脾臓で見られた巨核球の数(平均8、5〜10の範囲)と比べて有意差があるとは見なすことができない10(6〜15の範囲)だった。
【0068】
(c)イリノテカン100mg/kgのi.v.処理(群4)
2匹の動物は、正常な組織学及び造血組織(70%)と脂肪組織(30%)の全体的な比を示した。3匹のラットでは、骨髄切片にて骨髄のやや増加した細胞充実度及び低下した量の脂肪組織(10〜20%)が見られた。5匹の動物すべての脾臓は、多数の位置での赤脾髄にて余分な髄質造血巣の存在を示した。これらの造血系細胞は、成熟した分葉した顆粒球が存在しない未成熟のものだった。巨核球の平均数は23(10〜60の範囲)に増加した。巨核球は、正常なラットの脾臓で見られる縮んだクロマチンの暗く染まる核を伴った成熟巨核球に比べて、未成熟な巨核球に特徴的な複数の大きな丸い形状の核を含有する多核の巨細胞のように見えた。
【0069】
(d)イリノテカン150mg/kgのi.v.処理(群5)
1匹のラットは、骨髄細胞充実度が低下し、脂肪組織の量が増加(70%)した状態で、8日目に死亡した。骨髄は、約40%の骨髄抑制を伴う骨髄毒性を示す小さな壊死領域、出血を含有していた。すなわち、骨髄全体の約40%が破壊され、造血に関与していなかった。脾臓では、赤脾髄は、ヘモジデリンの大きな領域及びヘモジデリンを含有するマクロファージを含有した。ヘモジデリンは赤血球の分解産物である。脾臓の赤脾髄で余分な髄質造血巣が見られなかったということは、イリノテカンが骨髄で骨髄毒性を誘発した後、脾臓での代償性の二次的な造血を阻害し得たことを示している。もう1匹の動物は、瀕死状態で8日目に屠殺した。脾臓のスライドは、1〜3日目でのイリノテカンが原因で生じた前の骨髄毒性を示す(しかし、この場合、証明されていない)脾髄における造血巣及び有意なヘモジデリンを含有するマクロファージを示した。他の2匹のラットの骨髄では、有意な巨核球による上昇した細胞充実度、低下した脂肪組織含量(20%)が見られ、壊死の兆候は見られなかった。脾臓は増加した数(1625)の巨核球を伴って有意な髄質造血巣を示した。9日目の骨髄及び脾臓におけるこれらの知見は、1〜3日目でのイリノテカンが原因で生じた早期の骨髄毒性の結果として、反応性の自然発生的な代償性の骨髄再生を示している。1匹の動物は、骨髄及び脾臓にて正常な組織学的構造を示した。
【0070】
(e)エルシグルチドを伴ったイリノテカン100mg/kgi.v.(群6)
この併用処理群では、3匹の動物の骨髄は、正常な組織学的構造を示した。2匹の動物では、有意な巨核球による細胞充実度の上昇と低下した脂肪組織(約10%)が見られた。脾臓では、4匹のラットにおける十分な数の巨核球(範囲=25〜90)を伴った赤脾髄全体のほとんどにて盛んな造血が観察された。
【0071】
(f)エルシグルチドを伴ったイリノテカン150mg/kgi.v.(群7)
この群では死亡及び瀕死の状態は生じなかった。骨髄の正常な組織学的構造が、5匹のラットのうち3匹で見られた。十分な数の巨核球を伴った細胞充実度の上昇及び低下した脂肪組織含量(約10〜20%)が、5匹のラットのうち2匹で見られた。脾臓の1つは正常な組織学的構造を示し、他の4つの脾臓では幾つかの造血巣が赤脾髄で見られたということは、エルシグルチドが、骨髄における40%骨髄抑制を伴う死亡の1例、及びイリノテカン150mg/kgのみで処理した群5における重要な知見である非常に可能性の高い骨髄抑制を伴う瀕死状態の1例の発生を防いだことを示している。
【0072】
(g)イリノテカン200mg/kgのi.v.処理(群8)
1匹の動物は、重度の下痢で7日目に死亡した。他の4匹のラットは、急性の下痢で瀕死状態であり、完全な処理の後、9日目の前に屠殺した。これにより、死亡が遅れていれば自己消化によって引き起こされたであろう組織損傷を生じさせることを回避して、信頼できる組織学的検討のための骨髄及び脾臓を確保できた。5匹の死亡動物の骨髄及び脾臓の組織は、非常に類似していた。2×MTD用量のイリノテカンによって、重度の骨髄抑制(骨髄毒性)が引き起こされた。胸骨骨髄の独特の特徴は、造血の95〜98%の低下(骨髄抑制)だった。それは、非常に低レベルの造血系細胞の充実度によって証拠付けられた。実際の造血組織を基本的に置き換えている増加した脂肪組織にわずかなリンパ球、芽細胞(幹細胞)の核断片が残っていた。ほとんど空の骨髄において、種々のサイズの顕微鏡的な出血が見られた。これらの動物の脾臓は、髄外造血の兆候を示さなかった。有意なヘモジデリン及びヘモジデリンを含有するマクロファージが、脾臓の赤脾髄で見られた。生存していた他の5匹の動物は、予定どおり9日目に剖検した。これらの動物では、骨髄はそのときまでに再生されていた。それは、脂肪組織の低下を伴って正常または過形成性(再生を示す)であった。しかし、脾臓は、脾髄における赤血球と混合した幾つかの造血巣によって証拠付けられた特徴的な髄外造血を示した。これは、イリノテカンによって引き起こされた前の骨髄毒性に対する、9日目でまだ存在する代償性効果である。
【0073】
(h)エルシグルチドを伴ったイリノテカン200mg/kgi.v.処理(群9)
10匹の動物のうち1匹は、7日目に下痢で死亡した。これらの動物における骨髄及び脾臓の組織は非常に類似していた。骨髄は、非常に低い細胞充実度(20%)及び脂肪組織の領域の増加(80%)を示した。複数の顕微鏡的な出血も見られた。これらの動物では、推定された現実の骨髄抑制は約80%だった。これらの動物の脾臓では、造血は見られなかった。生き残っていた8匹の他の動物は、予定通り9日目に屠殺した。8匹の動物すべての骨髄は正常な組織、すなわち、70%の骨髄造血組織及び30%脂肪組織を示した。骨髄造血の細胞組成は何らの異常も示さなかった。しかし、脾臓は脾髄にて赤血球に混じった髄外造血巣の幾つかの巣を含有した。これは、以前の骨髄毒性に対するラットの脾臓における代償性メカニズムであり、9日目でまだ可視である。
【0074】
(WBC/RBC/血小板/群の要約)
図1A〜1Cは、4日目と9日目での種々の群における末梢血の主要細胞種(WBC、RBC、血小板)の平均数の変化を示す。4日目では(
図1B)、WBC/群はイリノテカンの各投薬ののち低下した。RBC/群及び血小板/群は変化しなかった。エルシグルチドは併用群で存在した骨髄の損傷によって示される好中球減少症の発生を防がなかった。9日目では(
図1C)、エルシグルチドは併用群にてWBC数/群を正常レベルまで増やした。イリノテカン単独で処理した群におけるWBC/群は自然発生的な再生のために増加を示したが、正常レベルには達しなかった。血小板数/群は200mg/kgのイリノテカンののち低下し、エルシグルチドの併用によって9日目までに正常レベルに達しなかった。
【0075】
実施例3:エルシグルチドはマウス及びラットにて化学療法に対する治療応答を高め、化学療法剤によって誘発された臓器特異的な毒性に対する選択的な保護を提供する。
正常ラット、結腸腫瘍の担癌ラット、及び、ヒト結腸癌HCT8及びHT−29の異種移植ラットにて試験を行った。エルシグルチドが5−フルオロウラシル(5−FU)及びイリノテカン誘発の毒性に対して選択的な保護を提供し、抗腫瘍活性を潜在的に高めるという仮説を調べるために試験を行った。各5−FU/イリノテカンの投薬の30分前に、非毒性であるが、治療上有効な用量の1.8mg/kg/日でエルシグルチドを毎日4日間皮下に投与した。5−FUの調べた用量は、100mg/kg(MTD)及び200mg/kgであり、イリノテカンの用量は、100mg/kg(MTD)及び200mg/kgであり、それぞれ毎日×3または毎週×4で投与した。
【0076】
生成された結果は、エルシグルチドが5−FU/イリノテカンに対する選択的な保護を提供することを示している。致死用量の5−FU及びイリノテカンによって誘発された組織学的な損傷は、正常組織及び腫瘍組織の増殖指数に有意な影響を及ぼすことなく、エルシグルチドによって修復された。さらに、担癌齧歯類では、エルシグルチドの投与により、5−FU及びイリノテカンで観察された応答の動態が数日まで延長され、腫瘍増殖全体の阻害が30%(5−FU/イリノテカン単独)から80%に上昇した。まとめて、これらの結果は、エルシグルチドが、5−FU及びイリノテカン誘導の臓器特異的な毒性に対して選択的な保護を提供し、高い治療応答のための潜在力を提供することを実証している。
【0077】
本発明は本明細書に記載されている具体的な実施形態によって範囲で限定されるべきではない。実際、本明細書に記載されているものに加えて本発明の種々の改変が前述の記載から当業者に明らかになるであろう。そのような改変は、添付のクレームの範囲内に入るように意図される。
【国際調査報告】