(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2018-531951(P2018-531951A)
(43)【公表日】2018年11月1日
(54)【発明の名称】局所麻酔薬の徐放性製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20181005BHJP
A61P 23/02 20060101ALI20181005BHJP
A61K 31/445 20060101ALI20181005BHJP
A61K 9/52 20060101ALI20181005BHJP
A61P 25/04 20060101ALI20181005BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20181005BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20181005BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20181005BHJP
A61K 47/51 20170101ALI20181005BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P23/02
A61K31/445
A61K9/52
A61P25/04
A61P17/02
A61K47/12
A61K47/32
A61K47/51
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2018-520592(P2018-520592)
(86)(22)【出願日】2016年10月27日
(85)【翻訳文提出日】2018年6月7日
(86)【国際出願番号】US2016059141
(87)【国際公開番号】WO2017075232
(87)【国際公開日】20170504
(31)【優先権主張番号】62/247,159
(32)【優先日】2015年10月27日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA
(71)【出願人】
【識別番号】517093511
【氏名又は名称】ユープラシア ファーマシューティカルズ インク.
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヘリウェル,ジェームズ,エー.
(72)【発明者】
【氏名】マロン,アマンダ
(72)【発明者】
【氏名】チャパニアン,ラフィ
(72)【発明者】
【氏名】リギンズ,リチャード
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA22
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4C086ZA08
4C086ZA21
4C086ZA89
(57)【要約】
本明細書に記載されるのは、ポリマーコーティングされた局所麻酔剤の徐放性製剤、および、術後疼痛を含む疼痛を緩和または管理するためのその使用方法である。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬組成物であって、
複数の微粒子を備え、各微粒子が、
(1)局所麻酔剤の1つまたは複数の結晶と、
(2)前記1つまたは複数の結晶を完全にカプセル封入するポリビニルアルコール(PVA)コーティングと、
を含み、前記PVAコーティングは、少なくとも85%加水分解されていると共に前記微粒子の約1〜30重量%であり、前記局所麻酔剤の前記1つまたは複数の結晶は、前記微粒子の約70〜99重量%であり、各々が35〜500μmの範囲内の少なくとも1つの寸法を有する、ことを特徴とする医薬組成物。
【請求項2】
前記PVAコーティングが少なくとも99%加水分解されている、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記PVAコーティングが架橋されている、請求項1〜2のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記PVAコーティングが熱硬化され、物理的に架橋されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記熱硬化が100〜135℃で2〜8時間行われる、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記PVAコーティングが、架橋剤の存在下で化学的に架橋されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記PVAコーティングが、5重量%未満の前記架橋剤を含む、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記架橋剤がクエン酸である、請求項6または7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記PVAコーティングが2〜200kDaの分子量を有する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記PVAコーティングが140〜190kDaの分子量を有する、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記局所麻酔剤が、同じ溶解媒体中において、コーティングされていない場合の前記局所麻酔剤の溶解速度よりも少なくとも5倍遅い溶解速度を有する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記局所麻酔剤が、同じ溶解媒体中において、コーティングされていない場合の前記局所麻酔剤の溶解速度よりも少なくとも7倍遅い溶解速度を有する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記局所麻酔剤が、同じ溶解媒体中において、コーティングされていない場合の前記局所麻酔剤の溶解速度よりも少なくとも10倍遅い溶解速度を有する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記局所麻酔剤がアミノアミド薬物である、請求項1〜13のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記局所麻酔剤が、治療上不活性な薬剤によって結合された2つ以上の結晶を備える、請求項1から14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記局所麻酔剤がロピバカインである、請求項1〜15のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
創傷部位における術後疼痛を管理するための、請求項1〜16のいずれか一項に記載の医薬組成物の使用。
【請求項18】
局所麻酔剤が術後3〜5日間徐放される、請求項17に記載の医薬組成物の使用。
【請求項19】
請求項1〜16のいずれか一項に記載の医薬組成物の治療有効量を創傷部位に注入することを含む、それを必要とする患者の創傷部位における術後疼痛を管理する方法。
【請求項20】
請求項1〜16のいずれか一項に記載の医薬組成物の治療有効量を末梢神経筋膜または末梢神経筋膜周囲の領域に注射可能な剤形で投与することを含む、それを必要とする患者の創傷部位における術後疼痛を管理する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、局所麻酔薬の徐放性製剤、および、疼痛、特に術後疼痛の管理のためのその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
術後疼痛は様々な合併症と関連し、長期化する可能性がある。患者は、典型的には、手術直後に急性疼痛を経験し、退院後最初の24時間に中等度から重度の疼痛を経験する。その後、痛みは経時的に減少するが、一般に、術後数日間は日常活動および治癒を妨げるほど深刻なままである。
【0003】
従来、術後疼痛はオピオイド剤によって管理され得る。オピオイド剤は、中枢神経系のオピオイド受容体と相互作用することによって鎮痛作用を生じる。しかしながら、オピオイドは、低用量でも呼吸抑制、眠気および鎮静などの重大な有害事象が生じる可能性がある。
【0004】
オピオイドとは異なり、局所麻酔薬は、神経細胞の原形質膜に位置するナトリウムチャネルの細胞内部分に直接的かつ可逆的に結合する。ナトリウムイオンの流入の減少が神経に沿ったインパルスの伝播を妨げるので、痛覚消失が生じる。神経ブロックの程度は、ナトリウムチャネルが開放されて薬物に曝露される頻度によって左右される。典型的には、より小さい、痛みを伝達する神経線維は、接触および圧力を仲介するより大きな神経線維に比べて局所麻酔薬に対して敏感である。
【0005】
手術直後の期間には、手術部位の閉鎖部への局所麻酔薬の浸潤、または適切な末梢神経筋膜もしくはその周辺領域への局所麻酔薬の注射によって、一時的な鎮痛を達成することができる。しかしながら、局所麻酔薬は、術後疼痛の期間よりもずっと短い期間で鎮痛作用を有する。従って、患者は、オピオイドのような強力な非経口鎮痛剤の使用を必要とする突出痛を経験することがある。
【0006】
局所鎮痛薬の持続時間を延長することは、オピオイドの必要性を減少または排除しつつ術後疼痛を管理するのに効果的であり得る。例えば、リポソームブピバカインの徐放製剤(EXPAREL(登録商標))の単回投与注射は、従来のブピバカインの作用持続時間(7時間以下)よりも約10倍長く、最大72時間の術後疼痛制御を達成すると報告されている。特に、EXPAREL(登録商標)は、多胞体リポソーム薬物送達システムからのブピバカインHClの徐放を提供する。リポソーム送達システム(DepoFoam(登録商標))は、薬物をカプセル封入する数百の非同軸水性チャンバから構成される顕微鏡的な球状粒子を含む。各チャンバは、脂質二重層膜によって隣接するチャンバから分離される。一旦投与されると、リポソーム構造は徐々に侵食され、薬物が長期間にわたって放出されることを可能にする。
【0007】
しかし、脂質二重層によって形成された膜は動的であるため、pH、温度、多量の薬物負荷などの多数の因子によって不安定化する可能性がある。そのような不安定化は、カプセル封入された薬物の漏出またはバースト放出を引き起こすことによって所望の放出プロファイルを乱す可能性がある。さらに、リポソーム送達システムは、水溶性薬物のみが水性チャンバ内に封入されるのに適しているため、薬物の選択においてしばしば制限される。
【0008】
したがって、局所麻酔薬の徐放を達成するための代替的な送達システムを探求する医学的必要性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】(特になし)
【発明の概要】
【0010】
本明細書には、疼痛、特に術後疼痛を治療または管理するための医薬製剤、注射剤形およびそれらを使用する方法が記載されている。より具体的には、本開示は、注射可能な微粒子を提供し、各粒子は、実質的にポリビニルアルコール(PVA)コーティングに包まれた結晶性局所麻酔剤を含む。PVAコーティングは、送達期間中実質的に無傷のままであり、一方、局所麻酔剤はPVAコーティングを通して拡散することにより放出される。放出速度および持続時間は、他のパラメータの中でもPVA構造(分子量、加水分解レベルおよび結晶性を含む)、PVAコーティングの硬化プロセスおよびPVAコーティングの厚さによって制御される。
【0011】
したがって、一実施形態は、複数の微粒子を備える医薬組成物を提供し、各微粒子は、(1)局所麻酔剤の1つまたは複数の結晶と、(2)1つまたは複数の結晶を完全にカプセル封入するポリビニルアルコール(PVA)コーティングであって、PVAコーティングは少なくとも85%加水分解され、微粒子の約1〜30重量%であり、局所麻酔剤の1つまたは複数の結晶は微粒子の約70〜99重量%であり、各々が35〜500μmの範囲内の少なくとも1つの寸法を有する。
【0012】
更なる実施形態では、局所麻酔剤は、アミノアミド薬物、特にロピバカイン(ropivacaine)である。
【0013】
更なる実施形態では、アミノアミド薬物またはロピバカインは遊離塩基形態である。
【0014】
更なる実施形態では、局所麻酔剤は、治療上不活性な薬剤によって結合された2つ以上の結晶を含む。
【0015】
様々な実施形態において、PVAコーティングは、2〜200kDaの分子量(Mn)を有し、少なくとも85%加水分解されている。他の実施形態では、PVAコーティングは140−190kDaの分子量(Mn)を有し、少なくとも99%加水分解されている。
【0016】
特定の実施形態では、PVAコーティングを熱硬化させ、100〜135℃で2〜8時間硬化させるなどの条件で物理的に架橋させる。
【0017】
他の実施形態では、PVAコーティングを架橋剤の存在下で化学的に架橋させる。
【0018】
更に特定の実施形態では、PVAコーティングは、5重量%未満の架橋剤を含む。
【0019】
有利には、本明細書に記載の医薬組成物は、同じ溶解媒体中のコーティングされていない局所麻酔剤の溶解速度よりも少なくとも5倍遅いか、または少なくとも7倍遅いか、または少なくとも10倍遅い局所麻酔剤の溶解速度を示す。
【0020】
更なる実施形態は、その必要のある患者の創傷部位における術後疼痛を管理する方法であって、治療有効量の本明細書に記載のコーティングされた局所麻酔剤を創傷部位に注入するか、またはコーティングされた局所麻酔剤を適切な末梢神経筋膜または周辺領域に注射することを含む方法を提供する。
【0021】
以下の図は実施形態を示し、同様の参照番号は同様の部分を示す。実施形態は、添付図面の全てにおいて限定ではなく例として例示される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1A】より微細な結晶である市販のロピバカイン及びより大きな再結晶化したロピバカインの溶解挙動を示す。
【
図1B】市販のロピバカイン微細粉末の粒度分布を示す。
【
図1C】ふるい分けしたロピバカイン再結晶化結晶の粒度分布を示す。
【
図2】PVA膜でコーティングされたロピバカインと比較した、コーティングされていないロピバカインの固有溶解を示す。
【
図3】PVA膜(146〜186kDa、87%加水分解)の様々な架橋度での最初の5時間の拡散速度を示す。
【
図4】PVA膜(146〜186kDa、99%加水分解)の様々な架橋度での最初の5時間の拡散速度を示す。
【
図5】PVA膜(20〜220kDa、87%加水分解)の様々な架橋度での最初の5時間の拡散速度を示す。
【
図6】PVAコーティング(熱硬化)の含有量(例えば厚さ)によって影響を受けるコーティングされた微粒子からのロピバカインの溶解速度を示す。
【
図7】PVAでコーティングされていない粒子(A、B)およびコーティングされた粒子(C、D)のSEM画像を示す。
【
図8A】コーティングされたロピバカイン結晶の緩慢な溶解がPVAコーティング量に比例したことを示す。
【
図8B】コーティングされたロピバカイン結晶の緩慢な溶解がPVAコーティング量に比例したことを示す。
【
図9】市販のPVA、PVA膜および熱硬化PVA膜のDSC曲線を示す。
【
図10】PVA膜(未硬化)および熱硬化PVA膜のFTIRスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書に記載されるのは、疼痛、特に術後疼痛を治療または管理するための医薬組成物、注射用剤形およびそれらを使用する方法である。より具体的には、本開示は、注射可能な微粒子を提供し、各粒子は、実質的にポリビニルアルコール(PVA)コーティングに包まれた結晶性局所麻酔剤を含む。PVAコーティングは送達期間中無傷のままであり、局所麻酔剤はPVAコーティングを通して拡散することによって放出される。放出速度および持続時間は、他のパラメータの中でも、PVAコーティングの硬化プロセスおよびPVAコーティングの厚さによって制御される。
【0024】
本明細書でさらに詳細に論じるように、注射可能な微粒子は、軟組織(例えば、外科手術後の創傷部位)内、または皮下、または身体区分、または末梢神経筋膜、または末梢神経筋膜を取り囲む領域における一定期間にわたる多量の薬物負荷、狭いサイズ分布および持続的で安定した放出プロファイルによって特徴づけられる。特に、術後疼痛管理のために、安定した放出が好ましくは72時間、より好ましくは96時間にわたって行われる。
【0025】
持続的で安定した放出送達機構は、溶解に基づく。特定の作用機序に縛られることは望まないが、半透性PVA膜でコーティングされた結晶性薬物が組織に注入されると、組織からの流体(水)がポリマー性コーティングを通して拡散し、結晶性薬物コアが部分的に溶解することが見出されている。その結果、薬物の飽和溶液がポリマーコーティングの内部に形成され、ポリマーコーティングは放出期間全体を通して無傷のままである。微粒子が注入されて存在する流体には本質的に沈下状態が存在するため、薬物を微粒子の外へ、および周囲の流体の中へ連続的に移動させる濃度勾配が作り出される。ポリマーシェル内にいくつかの薬物コアが残っていて飽和溶液を維持する限り、コーティングされた微粒子からの薬物の一定で安定した放出が得られる。放出機構は、国際出願US2014/031502号に記載されており、その出願は、その全体が本明細書に組み込まれる。
【0026】
[微粒子]
本明細書に記載のコア/シェル形態の微粒子は、局所麻酔剤、特に、アミノアミド局所麻酔剤の高度に局在化した長期間の送達に独特に適した徐放性プロフィールを示すように構築され、ポリビニルアルコール(PVA)でコーティングされた結晶形態である。
【0027】
より具体的には各々の薬物負荷微粒子は、(1)局所麻酔剤の1つまたは複数の結晶と、(2)1つまたは複数の結晶を完全にカプセル封入するポリビニルアルコール(PVA)コーティングとを含み、PVAコーティングは少なくとも85%加水分解され、微粒子の約1〜30重量%であり、局所麻酔剤の1つまたは複数の結晶は微粒子の約70〜99重量%であり、各々が35〜500μmの範囲内の少なくとも1つの寸法を有する。
【0028】
[局所麻酔剤(「薬物」)]
2種類の局所麻酔剤、アミノアミド局所麻酔薬およびアミノエステル局所麻酔薬が適切である。
【0029】
アミノアミド局所麻酔剤には、ロピバカイン、アルチカイン、ブピバカイン(レボブピバカイン)、ジブカイン、エチドカイン、リドカイン、メピバカイン、プリロカインおよびトリメカインが含まれるが、これらに限定されない。特に好ましい実施形態では、局所麻酔剤はロピバカインである。
【0030】
アミノエステル局所麻酔剤には、ベンゾカイン、クロロプロカイン、コカイン、シクロメチカイン、ジメトカイン(Larocaine)、ピペロカイン、プロポキシカイン、プロカイン(Novocaine)、プロパラカインおよびペトラカイン(Amethocaine)が含まれるが、これらに限定されない。
【0031】
薬物化合物のより大きな結晶は、同じ薬物の非晶質形態または微細結晶よりも遅い溶解速度を有し、より長い溶解半減期およびより少ない初期バーストをもたらすことが見出されている。局所麻酔剤のより大きな結晶は、非晶質粉末または薬物の小さな微細結晶(典型的な市販形態である)を再結晶化することによって調製することができる。
【0032】
図1Aは(微細粉末形態で)受け取ったままの市販のロピバカインおよび再結晶化ロピバカインの溶解挙動を示す。示されているように、より大きな再結晶化ロピバカイン結晶の溶解速度は、市販のロピバカインと比較して約10倍遅くなる。
【0033】
再結晶化は大きな結晶寸法を生じ、薬物結晶を実質的に均一な寸法にサイズ変更することを可能にする。例えば、(100μm以下の範囲の)ロピバカインの微細結晶を(例えば、低速蒸発によって)再結晶化して、ミリメートル範囲の寸法を有する大きな結晶を生成することができる。より大きな結晶をサイズ変更(短縮)して、コーティング前にふるい分けすることができる。
図1Bは、市販のロピバカイン微細粉末のサイズ分布を示す。比較として、
図1Cは、サイズ変更およびふるい分け後の再結晶化ロピバカイン結晶のサイズ分布を示す。示されているように、再結晶化結晶は平均して大きいだけでなく、市販の微細粉末よりも狭い粒度分布(粒子サイズ分布)を有し得る。
【0034】
再結晶化、サイズ変更およびふるい分けされた薬物結晶は、均一なサイズまたは形状の薬物結晶を提供するように、より良好に制御することができる。特定の実施形態では、薬物結晶は、サイズが実質的に同じである少なくとも2つの寸法を有し、アスペクト比(すなわち、長さ/直径)が1になる。
【0035】
したがって、局所麻酔剤は、35〜500μmの範囲内、より典型的には75〜300μmの範囲内、またはより典型的には50〜200μmの範囲内の少なくとも1つの寸法(例えば、最も長い寸法)を有する1つまたは複数の再結晶化薬物結晶を含む。様々な実施形態において、結晶は、35〜200μm、または75〜200μm、または100〜300μm、または100〜200μm、または200〜300μm、または200〜400μmの範囲の少なくとも1つの寸法を有する。より大きな結晶(例えば、≧200μm)は、個別にコーティングされてもよいが、1つまたは複数のより小さな結晶が、コーティング前に結晶凝集物またはクラスターに結合されてもよい。凝集物の場合、薬物結晶は、接着剤として作用する薬学的に不活性な薬剤によって結合または接着され得る。
【0036】
様々な実施形態において、結晶性薬物の全重量の少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも98%、または100%が局所麻酔剤である。薬物負荷量(薬物充填量)、すなわち微粒子の全重量における純粋な局所麻酔剤の含有量は、約70〜99重量%である。
【0037】
本明細書中で使用される場合、アミノアミド局所麻酔剤は、典型的には遊離塩基形態であり、その塩形態(例えばHCl塩)に比べて水性媒体中でより低い溶解度を有する。低い溶解度(例えば、1mg/ml未満)は、PVAコーティングまたはシェル内の飽和溶液の迅速な形成を可能にする。表1は、PBS緩衝液(pH7.4)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、またはウシ血清アルブミン(BSA)を含む様々な水性媒体におけるロピバカインの溶解度を示す。
【0039】
PVAコーティングは、高温(例えば、約125℃)での硬化を必要とするため、アミノアミド局所麻酔剤は、少なくとも硬化温度において熱安定性でなければならない。例えば、ロピバカイン(市販または再結晶化)は、約148−149℃のピークT
mを有し、融解温度未満で安定であることが示されている。
【0040】
[PVAコーティング/膜]
局所麻酔剤(例えば、再結晶化ロピバカイン)の1つまたは複数の結晶をポリビニルアルコール(PVA)でコーティングする。PVAは、一定の分子量以上で容易にフィルムを形成する水溶性ポリマーである。PVAコーティングは実質的に結晶を包む。完全な(100%)被覆率が好ましいが、必須ではない。
【0041】
PVA膜とも呼ばれるPVAコーティングは、水に対して透過性であり、カプセル封入された局所麻酔剤の飽和溶液の形成を可能にする。次いで、溶解した局所麻酔剤は、飽和溶液がもはや維持されなくなるまで(すなわち、局所麻酔剤が枯渇するまで)、持続的かつ安定的にPVAコーティングから拡散する。術後疼痛管理のために、持続的で安定した放出の期間は、典型的には投与後または術後72〜96時間、または72〜120時間(3〜5日)続く。
【0042】
PVAコーティングの透過性は、分子量、加水分解度、結晶化度、架橋度、およびコーティングの厚さを含む複数の因子によって決定される。いずれの理論にも拘束されることを望むものではないが、PVAが膨潤し、液体媒体に徐々に溶解するにつれて、透過性が増大し、薬物の拡散が起こると考えられる。
【0043】
好適なPVAは、20〜220kDa、より好ましくは140〜190kDaの範囲の分子量(Mn)を有する。様々な実施形態において、PVAは、146〜187kDaの範囲の分子量(Mn)を有する。他の実施形態では、PVAは、90〜120kDaの範囲の分子量(Mn)を有する。
【0044】
市販のPVAポリマーは、一般に、ポリビニルアセテートから加水分解(すなわち、アセテートをヒドロキシに変換する)によって導出される。したがって、PVAポリマーは、異なる加水分解度で入手可能である。
【0045】
ヒドロキシル基はPVA鎖間に水素結合を形成することによってPVA鎖を規則正しい様式で配向させることができるため、加水分解度はPVAコーティングの結晶化度に影響する。したがって、ヒドロキシル基の含有量が多い(すなわち、加水分解度が高い)ことは、典型的には、より高い結晶化度を伴う。より高い結晶化度は、PVA膜の溶解を遅くし、カプセル封入された薬物のより遅い拡散をもたらす。したがって、本明細書中で使用される場合、PVAは少なくとも85%加水分解され、または少なくとも87%加水分解され、または好ましくは少なくとも98%または少なくとも99%加水分解されている。
【0046】
所望の透過性を達成するために、高度に加水分解されたPVAコーティングのさらなる熱硬化(物理的架橋)、化学的架橋、またはその両方が可能である。
【0047】
PVAコーティングの結晶化度は、硬化温度が結晶性局所麻酔剤の融点未満であれば、特定の温度で一定時間熱硬化させることによって制御することができる。様々な実施形態において、適切な硬化温度は、2〜8時間で100〜135℃の範囲であり得る。特定の実施形態では、硬化温度は、4〜8時間で120〜135℃の範囲である。好ましい実施形態では、PVAコーティングを125℃で6時間硬化させる。熱硬化の結果として、PVA鎖は物理的に架橋され得る。
【0048】
PVAコーティングの透過度(溶解性)は、ヒドロキシル基間の化学的架橋によって制御することもできる。ポリマー構造内の付加的な共有結合は、ポリマー鎖の解離を妨害し、それによってPVAの溶解を遅くするかまたは妨げる。適切な架橋剤には、有機多価酸(すなわち、2つ以上のカルボキシル基を有する酸)が含まれる。様々な実施形態において、架橋剤は、クエン酸、酒石酸、シュウ酸、コハク酸、グルコン酸などであり得る。好ましい実施形態において、架橋剤は、3つのカルボン酸基を有するクエン酸である。様々な実施形態において、架橋は、コーティング前にPVA溶液に架橋剤を組み込むことによって起こる。典型的には、必要な架橋剤の量は、PVAの加水分解レベルに依存する。本明細書で使用される高度に加水分解されたPVA(87%以上)については、20%未満、または12%未満、または8%未満の架橋剤が用いられる。
【0049】
結晶化度は、融解エンタルピーによって測定することができる。より高い結晶化度は、より高い融解エンタルピーおよびより高いガラス転移温度に関連する。表2は、PVAフィルムの結晶化度に及ぼす加水分解度、熱硬化度および架橋度の影響を示す(すべてのPVAはMn=146〜186kDaであり、データは1回目の加熱サイクルから得た)。
【0051】
示されるように、高度に加水分解されたPVA(>99%)の場合、架橋剤への曝露は結晶化度を上昇させず、低下させる可能性がある。クエン酸などの架橋剤による化学的架橋は、高度に加水分解されたPVA鎖に自然に存在する水素結合を破壊し、結晶化度の低下をもたらした可能性があると考えられている。
【0052】
PVAコーティングは、徐放期間中実質的に無傷のままであるべきであるが、膨潤(水和による)または軽微/部分的な溶解は薬物放出と同時に起こるであろう。PVAは、ヒドロキシル基の含有量が高いため水溶性である。しかしながら、高度に加水分解されたPVAまたは架橋PVAは、それぞれ高度に秩序化された構造または付加的な固有の共有結合のために、より遅い溶解速度を有する。したがって、(130℃で6.5時間硬化後の)87%加水分解PVAコーティングは1日で水に溶解することができるが、6%クエン酸に曝露し同様の条件下で硬化させた87%加水分解PVAコーティングは、最長158日間無傷で残る。
【0053】
化学的架橋と比較して、加熱および硬化による物理的架橋が有利であり得る。高度に加水分解されたPVA鎖中の自然に整列した水素結合を破壊することなく物理的架橋点を形成することにより(例えば、追加の水素結合を生成することにより)、物理的に架橋したPVA膜を最適化して所望の架橋度および結晶化度をもたらすことができる。
【0054】
表3は、市販のPVA、PVA膜および熱処理PVA膜(125℃で6時間硬化、2回目の加熱サイクルから得られたデータ)のDSC分析を示す。全てのPVAは、分子量が146〜186kDaで99%加水分解された。示されているように、硬化したPVA膜は、融点の僅かな変化によって証明されるように、結晶化度をほとんど又は全く失うことなく物理的に架橋された。
【0056】
[微粒子の形成方法]
粒子上にポリマーコーティングを形成する方法は、当該技術分野において周知である。例えば、標準的な技術としては、溶媒蒸発/抽出技術、水中乾燥技術(例えば、米国特許第4,994,281号参照)、有機相分離技術(例えば、米国特許第5,639,480号参照)、スプレー乾燥技術(例えば、米国特許第5,651,990号参照)、エアサスペンション技術、および浸漬コーティング技術が挙げられる。
【0057】
典型的には、水中のPVA溶液(1〜15%)を調製し、再結晶化およびサイジング後に薬剤結晶にスプレーコーティングする。1つまたは複数の結晶は、PVAの連続膜に実質的に包まれてもよい(100%の被覆率は必要ない)。架橋が必要な場合(例えば、99%未満が加水分解されたPVA)、コーティング前に架橋剤をPVA溶液に溶解することができる。
【0058】
コーティングされた粒子を、約100〜135℃の温度で2〜8時間熱硬化させる。
【0059】
PVAコーティングは、典型的には微粒子の全重量の約1〜20%、より典型的には約1〜10%である。PVAの含有量は、特定の選択されたピーク領域(例えば、3.7〜4.0ppm)を標準化された量のPVAと比較することによって、NMR定量によって確認することができる。
【0060】
様々な実施形態において、PVAコーティングの厚さは、5〜60μmの範囲、または10〜30μmの範囲であり得る。厚さは、SEM画像で直接測定することができる。例えば、コーティングされたロピバカイン粒子については、10(重量)%のPVAが15μm未満の厚さであることが示された。PVAコーティングの厚さは、コーティングのためのPVA溶液の濃度およびコーティングの回数によって制御することができる。より厚いコーティングはより遅い拡散をもたらす。
【0061】
PVAコーティングは、カプセル封入された結晶性薬物と比較して薄いため、形成される微粒子は実質的に、カプセル封入された結晶の形状およびサイズをとる。したがって、様々な実施形態において、微粒子は(コーティングの厚さを考慮する場合)35〜500μm、またはより典型的には75〜300μmの少なくとも1つの(例えば、最も長い)寸法を有する。特定の実施形態では、コーティングされた粒子は、カプセル封入された薬物結晶と同じアスペクト比を有する。これらのサイズの微粒子は、局所麻酔剤の大量の負荷量に対して十分に大きいが、針を介して注射するのに十分に小さい。
【0062】
[インビトロ溶解特性]
インビボでの徐放プロファイルはインビトロでの微粒子の溶解特性に相関し、これは、他の要因の中でも、局所麻酔剤の溶解度およびPVAコーティングの透過性によって決定される。
【0063】
溶解モデルは、インビボでの放出と比較して溶解の近似を与えるように設計されていることを認識することが重要である。国際出願PCT/US2014/031502号は、コルチコステロイド薬物に関してインビトロでの溶解特性を定量する方法を実証しており、この方法はまた、本明細書に記載の微粒子の溶解特性を定量化するために拡張することもできる。
【0064】
溶解特性は、時間に対する溶解の割合として測定することができ、溶解プロファイルとしてグラフ化することができる。線形溶解プロファイルは、線形プロファイルの傾きによって表される一定の溶解速度を有する。一定の溶解速度はゼロ次放出に関連しており、すなわち放出速度はPVAコーティング中にカプセル封入された薬物の量に無関係である。時間の関数として溶解量を定量的に提供することに加えて、プロファイルの曲率は初期バーストの程度を定性的に示す。例えば、曲率の急激な上昇は、より緩やかな上昇と比較した場合、より早い初期放出(バースト)を示す。
【0065】
特に明記しない限り、微粒子の溶解半減期を測定するために使用する溶解システムは、USPタイプII(パドル)である。溶解モデルはインビボでの放出と比較して溶解の近似を与えるように設計されていることを認識することが重要である。PCT/US2014/031502号は、コルチコステロイド薬物に関してインビトロでの溶解特性を定量する方法を実証しており、この方法はまた、本明細書に記載の微粒子の溶解特性を定量化するために拡張することもできる。
【0066】
本明細書で用いられる典型的な溶解モデルは、USP装置I(USP Apparatus I)である。典型的な小容量装置は150mlの溶液槽を有する。他のパラメータは、例えば、25〜200rpm、37℃および0.1%SDS/PBSを含む。
【0067】
コーティングされていない薬物と比較して、コーティングされた粒子は、カプセル封入された局所麻酔剤の溶解速度を遅くする。コーティングされた薬物結晶の溶解速度は、PVAコーティングの透過性に直接関係し、これは、PVAコーティングの厚さ、分子量、架橋度、結晶化度などによって決定される。したがって、特定の実施形態では、コーティング薬物結晶の溶解特性は、同じ溶解媒体中で測定して、同じであるがコーティングされていない薬物結晶の溶解速度と比較して、コーティングされた薬物結晶の溶解速度が低下することによって定義することができる。様々な実施形態において、コーティングされた微粒子は、同じ溶解媒体中の同じ寸法のコーティングされていない薬物結晶の溶解速度と比較した場合、少なくとも10倍の溶解速度低下を示す。他の実施形態では、溶解速度の低下は、コーティングされていない薬物結晶と比較して、8倍、7倍、6倍、5倍、4倍または3倍であり得る。
【0068】
溶解速度の低下は、PVA膜の架橋度(物理的又は化学的)、厚さ、結晶化度を調節することによって調整することができる。溶解速度からインビボ放出期間を設定することができる。様々な実施形態において、コーティングされた微粒子は、3〜5日間の局所徐放が可能である。
【0069】
図2は、PVA膜(Mn=20−200kDa、87%加水分解、12%クエン酸を用いて架橋し、125℃で6時間硬化)でコーティングしたロピバカインよりもはるかに速いロピバカインの固有溶解を示す。
【0070】
図6(実施例7も参照)は、コーティングされていないロピバカイン結晶の溶解速度と比較して、コーティングされたロピバカイン結晶の溶解速度がはるかに遅いことを示す。より具体的には、1%PVA(99%加水分解、MW=146−187kDa)では溶解速度の低下は約3.5倍であるが、より厚いコーティング(9%のPVA)を有する粒子では低下は約6.5倍である。
【0071】
[インビトロ拡散特性]
コーティングされた微粒子を患者に投与すると、周囲の組織からの水分がPVA膜を通して浸透し、膜内にカプセル封入された薬物の飽和溶液が形成される。0次または擬似0次放出では、溶解した薬物はPVA膜を通して安定的かつ持続的に拡散される。
【0072】
インビボでのカプセル封入された薬物の拡散挙動は、フランツ細胞拡散システムで測定される拡散係数に基づいて予測することができる。特に、拡散係数(D)は、式1に従って定量化することができる。
【0074】
ここで、
D:拡散係数(cm
2/s)
L:膜厚(cm)
J:フラックス:(μg×cm
−2×s
−1)=傾き(μg/mL/h)×体積(9.8mL)÷(3600s/h×Acm
2)
A:フランツセルの表面積(0.650cm
2)
ΔC:ロピバカインの濃度勾配(μg/mLまたはμg/cm
3)=339.98μg/mL(測定されたレセプター流体濃度)−0μg/mL(ドナー濃度を想定)
【0075】
表4は、ある範囲の硬化条件(温度/時間)および架橋条件(様々な量のクエン酸を含む)を用いて膜として調製した4つのポリマーを通した拡散をまとめたものである。表4はまた、膜のない緩衝液に対して、ロピバカイン拡散係数の倍数変化(減少)に関する値を比較する。
【0077】
表4に示すように、(熱硬化および物理的架橋後の)146〜186kDaおよび>99%加水分解のPVA膜は拡散に最も大きな影響を与え、PBS中のロピバカインの拡散(4.97×10
−6)と比較して拡散係数が50倍低下した。
【0078】
[医薬組成物]
本開示は、複数の薬物負荷微粒子を備える医薬組成物を提供し、各薬物負荷微粒子は、(1)局所麻酔剤の1つまたは複数の結晶と、(2)1つまたは複数の結晶を完全にカプセル封入するポリビニルアルコール(PVA)コーティングとを含み、PVAコーティングは、少なくとも85%加水分解され、微粒子の約1〜30重量%であり、局所麻酔剤の1つまたは複数の結晶は、微粒子の約70〜99重量%であり、各々が35〜500μmの範囲内の少なくとも1つの寸法を有する。
【0079】
更なる実施形態では、医薬組成物は、複数の微粒子が懸濁した薬学的に許容されるビヒクルをさらに含む。治療剤の微粒子は、注射の直前にビヒクルと混合し、局所麻酔剤がビヒクル中に溶解する時間がなく、注射前に薬物の初期バーストが存在しないか、または実質的に存在しないことが好ましい。
【0080】
[単位剤形]
単位剤形は、所定量の薬物負荷微粒子を有する医薬組成物(上記の全ての実施形態を含む)であり、薬物負荷微粒子は単回注射後、所定の期間にわたって局所的麻酔薬の徐放を提供する。
【0081】
術後疼痛の場合、単位投与量中の微粒子の量は、手術部位、およびその領域を覆うか又は満たすのに必要な容積を含む、いくつかの要因に依存する。様々な実施形態において、単位剤形は、100〜3000mgの局所麻酔剤を含む。他の実施形態では、単位剤形は500〜2000mgの治療剤を含む。例えば、軟組織手術(痔核切除術)では、3mlの容量で構成された約1600mgの局所麻酔剤が投与され得る。整形外科モデル(バニオン切除術)では、8mlで約600mgの用量が投与され得る。他の要因には、患者の体重および年齢、痛みの深刻度、または治療される人の一般的な健康状態を考慮した潜在的な副作用のリスクが含まれる。
【0082】
有利には、本明細書に記載された薬剤負荷微粒子は初期バーストがほとんどない安定的な放出が可能であるため、単位剤形における薬物の初期負荷量は、所望の徐放期間に応じて合理的に設計することができる。様々な実施形態において、徐放期間は、72時間または96時間である。
【0083】
様々な実施形態において、単位剤形は、適切な量の微粒子を予め充填した注射器であってもよい。注入の直前に、ビヒクルを注射器に引き込み、微粒子を再構成することができる。好都合なことに、初期バーストの欠如により、注射準備における通常の取り扱い時間中に薬物がビヒクルに溶解することは重要ではない。対照的に、多くの既知の薬物負荷徐放性製剤は、初期バーストにより取り扱い時間中にビヒクルを飽和させることができる。
【0084】
[使用方法および投与経路]
本明細書に記載の医薬組成物および剤形は、皮下、末梢神経遮断、髄腔内、硬膜外または腹腔内投与に使用することができる。
【0085】
医薬組成物は、局部麻酔剤の高度に局在化した徐放のために、身体区分に注射(注入)するのに特に適している。身体区分は、典型的には、包囲体または半包囲体内の軟組織および/または流体を含む。注射(注入)は軟組織または流体に向けられ、そこに薬剤負荷微粒子が放出される。必要に応じて、超音波またはX線装置などのイメージングシステム(画像システム)によって注射(注入)を誘導することができる。
【0086】
一実施形態は、注射可能な剤形を体の創傷部位に閉鎖前に投与することによって、例えば外科的疼痛による疼痛を軽減または管理する方法を提供する。有利には、放出は、全身的な薬物レベルを低くまたは検出不能に維持しながら、創傷部位の局所組織または流体媒体内に高度に局在して、長時間作用する局所治療レベルを確保する。
【0087】
更なる実施形態では、この方法は、注入の前に、即時の鎮痛をもたらすために投与され得るリドカインまたはコーティングされていないロピバカインなどの速効性局所麻酔剤を投与することを含む。
【0088】
別の実施形態は、末梢神経筋膜または末梢神経筋膜を取り囲む領域に注射可能な剤形を投与することによって、例えば外科的疼痛による疼痛を軽減または管理する方法を提供する。有利には、放出は、全身的な薬物レベルを低くまたは検出不能に維持しながら、特定の神経に高度に局在して、長時間作用する局所治療レベルを確保する。
【実施例】
【0089】
[実施例1]
ロピバカインの再結晶化
市販のロピバカインは、かなりの量の微粒子(約50%)を含有していた。非常に小さな粒子の存在は、ロピバカイン粒子の最初の急速な溶解の原因であると考えられる(
図1A)。この問題を克服するために、市販のロピバカインを再結晶化し、標準ふるいを用いてサイズを変更した。
【0090】
メタノール、2−プロパノールまたは両方の混合物中で調製したロピバカインの飽和高温溶液を室温に冷却すること(自然冷却)によって、ロピバカインを再結晶化した。真空濾過によって結晶を分離した。2000μmまでの大きな結晶が得られた。
【0091】
特定の再結晶化プロセスは、ロピバカインの亜飽和メタノール溶液のゆっくりとした蒸発を含んでいた。より具体的には、20gのロピバカインを165mlのメタノールに室温の攪拌下で溶解し、溶液を5〜7日間ゆっくりと蒸発させた。このプロセスによって長さ数ミリメートルのロピバカイン結晶が生成された。
【0092】
50/50のメタノール/水などの適した溶液中で乳鉢と乳棒を用いて湿式粉砕することによって大きな結晶をサイズ変更し、50:50のメタノール/水などの適する溶液を噴出させることによって標準ふるいを通過させた。106,212,250および300μmのメッシュサイズ範囲のふるいを使用した。
図1Cは、再結晶化(ゆっくりとした蒸発)、湿式粉砕および湿式ふるいの後に形成されたロピバカイン結晶の粒子サイズ分布(粒径分布)を示す。
【0093】
表5は、異なる再結晶化プロセス(異なる溶媒系を含む)から得られたロピバカイン結晶の粒子サイズ(粒径)をまとめたものである。比較として市販のロピバカイン結晶も提示する。
【0094】
【表5】
【0095】
より大きな再結晶化粒子は、表面に付着したより小さい/より微細な結晶を有することがある。これらのより微細な結晶を除去するために、再結晶化粒子をPVA溶液に懸濁させ、水で洗浄した。あるいは、湿式ふるい分けプロセス中にメタノールと水との混合物で洗浄することによって微結晶を除去することができる。
【0096】
[実施例2]
溶液中のロピバカインの定量
PDA検出器を備えたWaters UPLCシステムを用いて緩衝溶液中のロピバカインを単離および定量した。寸法2.1×50mm、粒径1.7μmのWaters BEH C18カラムを用いた逆相クロマトグラフィーによって分離を行った。アセトニトリルと組み合わせてpH10に調整した10mM酢酸アンモニウムの水性移動相を勾配様式で使用してロピバカインを保持し、溶出させた。最適応答のために206nmの検出波長を使用した。
【0097】
この方法は、10μLの注射容量を用いて、50/50の水アセトニトリル(ACN)中、およびPBS中の0.1%SDS中で、ロピバカイン0.5〜50μg/mLの範囲にわたって評価した(フルループ)。両方の溶媒系の定量下限は0.5μg/mLであり、関連する精度は2%RSD以内、平均精度(理論値からのパーセント偏差)は1%であった。較正曲線は、上限(50μg/mL)で線形性がいくらか失われたが(飽和)、低い範囲では線形は優れた正確さと精度で1/xに一致した。この実験は、飽和効果を回避するために0.5〜25μg/mLの範囲で実施される。
【0098】
[実施例3]
ロピバカインの溶解
ロピバカインの固有溶解を評価する前に、大型(1L容量、500mLまで充填)または小型(150mL)の溶解浴のいずれかを備えたUSP I装置を用いて、懸濁液における結晶溶解の反応速度論を評価した。攪拌速度は、大型容器の方法では50rpm、小型容器の方法では100rpmであり、温度は37℃であった。媒体は0.1%SDSを含むPBSであった。市販のロピバカインは、30分以内に溶解物質の60%超が急速に溶解した。大型容器に溶解している17mgの試料は4時間以内に平衡状態に達した、但し実験に加えたロピバカインの約80%のみを占めるに過ぎなかった。
【0099】
対照的に、メタノールから再結晶化したロピバカインは、同じバースト相を示さなかったが、最初の6時間にわたって徐々に溶解し、材料の60%を占めた。このアッセイでは、化合物の約100〜120%を占めた。回帰分析は、小型容器の装置内の溶解が、最初の30分以内の溶解の「バースト段階」後に、本質的に線形であることを実証している。回帰のY切片値は、「バースト」の規模を表し、市販の試料では再結晶化された試料と比較して25倍大きかった。
図1Aも参照されたい。
【0100】
[実施例4]
PVA膜を通したロピバカイン結晶の拡散
フランツ拡散セルシステムを用いてPVA膜を通したロピバカインの拡散を測定した。このシステムは、実験の間パラフィルムで封止されたドナー流体を含有する上部ドナーチャンバと、レセプター液(9.8mLのPBS、pH7.3)を含有する下部レセプターチャンバとを含む。ドナー流体は、全ての拡散実験に使用するために単一のバッチで調製し、PBS pH7.3で構成されていた。媒体中の過剰の固体ロピバカインを3日間撹拌し、0.22μmフィルターで濾過して固体を除去することにより調製した。アッセイした量は339.98μg/mLであった。
【0101】
フランツ細胞レセプター液中のロピバカインの出現率(濃度の傾き対データの時間プロットにレセプター細胞容積9.8mLを乗じたもの)および測定した膜厚(水和後)を用いて、フィックの法則の式(式1)を用いて、膜を通るロピバカインの拡散係数を計算した。
【0102】
レセプター(下部)チャンバ内のロピバカインの濃度を異なる時点で測定し、拡散係数をFickの拡散の第1法則から決定した。レセプター液量(すべての実験について9.8mL)で乗じることによって、測定した濃度を総薬物輸送(μg)に変換した。
図3〜
図5は、様々な量のクエン酸によって誘発された様々な架橋度における3つのPVA膜の最初の5時間の拡散速度を示す。3つ全てのPVA膜は、線形のロピバカイン拡散速度を示した。特に、
図3は、PVA(146〜186kDa、87%加水分解)の拡散速度を示す。
図4は、PVA(146〜186kDa、99%加水分解)の拡散速度を示す。
図5は、PVA(20〜220kDa、87%加水分解)の拡散速度を示す。
【0103】
[実施例5]
ロピバカイン結晶のコーティング
必要に応じて架橋剤を含むPVA溶液を最初に調製することにより、結晶をスプレーコーティングによってコーティングした。再結晶化したロピバカインの1つまたは複数の結晶をコーティングし、SEMで可視化してコーティングの完全性を判断した。より大きな結晶は個別にコーティングしてもよいが、2つ以上の結晶がコーティング内にカプセル封入される可能性がある。
【0104】
図7は、コーティングされていない粒子(A、B)と、8%クエン酸を含有するPVA(90kDa、99%加水分解)でコーティングした後125℃で6時間熱処理した粒子(C、D)のSEM画像を示す。示されているように、コーティングは完全に(定性的に)見え、コーティングされた結晶は連続的な線条の外観を有していた。コーティングはまた、薄く且つコンフォーマル(等角的)であるようにも見えた。下にある結晶の形状の歪みはなかった(例えば、エッジおよび不連続性は、コーティングしても明確に画定されているように見えた)。
【0105】
[実施例6]
PVA含量決定のためのNMR分析
NMR分析を使用して、PVAの量が既知である試料を用いて較正することによって微粒子中のPVAの量を決定した。PVAおよびロピバカインを含有する試料中のPVAの量を定量するための標準曲線は、二成分のプロトンNMRスペクトルの非重複領域を同定し(3.7〜4.0ppmの間のピークを選択した)、基準量のPVAを含有する溶液に選択したピークを統合することによって生成した。濃度依存性ピーク面積は、溶液中のPVA濃度(R2=0.999)の4〜20%w/vの範囲にわたって線形関係を示した。
【0106】
[実施例7]
微粒子溶解分析
ロピバカイン微粒子の溶解は、コーティングされていない結晶と比較して、PVAコーティング後に遅くなり、その効果はPVAコーティングの量に比例した。
【0107】
図6は、PVAコーティングの含有量(例えば、厚さ)によって影響されるロピバカインの溶解を示す。示されているように、高度に加水分解されたPVAコーティング(Mn=146〜187kDa、99%加水分解)では、より低いPVA含量またはコーティングされていない粒子と比較して、PVAの含有率が高い(9%)ほどロピバカイン拡散が著しく遅くなる。特に、9%PVAコーティング粒子は、コーティングされていない粒子よりも約7倍遅い溶解速度(%/時間)を示した。
【0108】
図8Aに示すように、全ての微粒子は少なくとも6時間、線形的な溶解速度を示した。9%のPVAでコーティングされ、架橋されていない微粒子は、29時間にわたって一定の溶解速度を有した。コーティングされていない結晶と1%コーティング微粒子とを比較すると、溶解速度(線形の溶解プロファイルの傾き、
図8Bも参照)に10倍の低下が観察された。
【0109】
図8Bにも示されているように、1%含量で高度に加水分解されたPVA(99%)の場合、穏やかな化学的架橋(4%クエン酸)は、熱硬化コーティング粒子(0%クエン酸)と比較して溶解速度の低下を引き起こすように見え、架橋剤によって形成された追加の共有結合が、ポリマー鎖の解離および膜透過性を減少させることを示唆している。しかしながら、化学的架橋(8%クエン酸)の増加は溶解速度の上昇をもたらし、このことは、増強された化学的架橋がPVA膜の結晶化度を低下させ、膜透過性をかえって増加させたことを示唆している。
図8Bは、9%PVA(より厚い膜)における熱硬化または物理的架橋(0%クエン酸)が、最も遅い溶解速度を有したことを示す。
【0110】
[実施例8]
PVA膜の物理的架橋
熱硬化したPVA膜は化学的に改変されることなく物理的に架橋された。PVA膜(99%加水分解、MW=146−186kDa)を125℃、6時間で硬化させた。
【0111】
図9は、PVA膜、硬化したPVA膜および市販のPVAのDSC曲線(2回目の加熱サイクルから得られた)を示す。示されているように(表3も参照)、熱硬化し物理的に架橋されたPVA膜は、未硬化のPVA膜または市販のPVAと同様のガラス転移温度および融点を示した。
【0112】
図10は、PVAおよび硬化したPVA膜のFTIRスペクトルを示す。FTIR分析では新しい官能基の形成は観察されなかった。
【0113】
硬化したPVA膜中に新たに形成された化学結合が存在しないことは、NMWスペクトルによっても確認された。
【0114】
米国特許出願第62/247,159号(2015年10月27日出願)を含め、本明細書で言及されている、および/または出願データシートに列挙されている上記米国特許、米国特許出願公開、米国特許出願、外国特許、外国特許出願および非特許刊行物は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【国際調査報告】