(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2018-532677(P2018-532677A)
(43)【公表日】2018年11月8日
(54)【発明の名称】ガラス表面を処理して粒子の付着を低下させる方法
(51)【国際特許分類】
C03C 17/28 20060101AFI20181012BHJP
C03C 23/00 20060101ALI20181012BHJP
【FI】
C03C17/28 A
C03C23/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2018-516751(P2018-516751)
(86)(22)【出願日】2016年9月29日
(85)【翻訳文提出日】2018年5月30日
(86)【国際出願番号】US2016054303
(87)【国際公開番号】WO2017058988
(87)【国際公開日】20170406
(31)【優先権主張番号】62/236,302
(32)【優先日】2015年10月2日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA
(71)【出願人】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】フォン,ジアンウェイ
(72)【発明者】
【氏名】ハミルトン,ジェイムズ パトリック
(72)【発明者】
【氏名】リアン,ジー−ウェイ
【テーマコード(参考)】
4G059
【Fターム(参考)】
4G059AA08
4G059AB05
4G059AB11
4G059AC22
4G059FA01
4G059FB01
(57)【要約】
ガラス基板を処理する方法であって、ガラス基板の表面を、その表面の少なくとも一部の上にコーティングを形成するのに十分な時間に亘り少なくとも1種類の炭化水素を含むプラズマと接触させる工程を有してなる方法が、ここに開示されている。少なくとも1つの表面を有するガラス基板であって、その表面の少なくとも一部が、少なくとも1種類の炭化水素から作られた層で被覆されており、その表面の被覆部分が、約15度から約95度に及ぶ接触角、および/または約65mJ/m
2未満の表面エネルギーを有する、ガラス基板もここに開示されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの表面を有するガラス基板であって、該表面の少なくとも一部が、少なくとも1種類の炭化水素から作られた層で被覆されており、該表面の被覆部分が、約15度から約95度に及ぶ脱イオン水との接触角を有する、ガラス基板。
【請求項2】
前記表面の被覆部分の表面エネルギーが約65mJ/m2未満である、請求項1記載のガラス基板。
【請求項3】
前記表面の被覆部分の極性表面エネルギーが約25mJ/m2未満である、請求項1または2記載のガラス基板。
【請求項4】
前記表面の被覆部分の分散表面エネルギーが約10mJ/m2超である、請求項1から3いずれか1項記載のガラス基板。
【請求項5】
前記層が、少なくとも1種類のC1〜C12炭化水素のプラズマ蒸着により調製された非晶質炭化水素層である、請求項1から4いずれか1項記載のガラス基板。
【請求項6】
少なくとも1つの表面を有するガラス基板であって、該表面の少なくとも一部が、少なくとも1種類の炭化水素から作られた層で被覆されており、該表面の被覆部分が、約65mJ/m2未満の表面エネルギーを有する、ガラス基板。
【請求項7】
前記表面の被覆部分の極性表面エネルギーが約25mJ/m2未満である、請求項6記載のガラス基板。
【請求項8】
前記表面の被覆部分の分散表面エネルギーが約10mJ/m2超である、請求項6または7記載のガラス基板。
【請求項9】
前記表面の被覆部分が、約15度から約95度に及ぶ脱イオン水との接触角を有する、請求項6から8いずれか1項記載のガラス基板。
【請求項10】
前記層が、少なくとも1種類のC1〜C12炭化水素のプラズマ蒸着により調製された非晶質炭化水素層である、請求項6から9いずれか1項記載のガラス基板。
【請求項11】
ガラス基板を処理する方法であって、
前記ガラス基板の表面を、該表面の少なくとも一部の上にコーティングを形成するのに十分な滞留時間に亘り、少なくとも1種類の炭化水素を含むプラズマと接触させる工程、
を有してなり、
前記コーティングは、以下の特性:
(a)約65mJ/m2未満の表面エネルギー;
(b)約25mJ/m2未満の極性表面エネルギー;
(c)約10mJ/m2超の分散表面エネルギー;または
(d)約15度から約95度に及ぶ脱イオン水との接触角
の少なくとも1つを有するものである、方法。
【請求項12】
前記少なくとも1種類の炭化水素がC1〜C12炭化水素から選択される、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1種類の炭化水素がC1〜C6揮発性炭化水素から選択される、請求項11または12記載の方法。
【請求項14】
前記コーティングを乾式または湿式洗浄で除去する工程をさらに含む、請求項11から13いずれか1項記載の方法。
【請求項15】
前記コーティングを除去する工程の後、前記ガラス基板の表面が、約10℃未満の脱イオン水との接触角を有する、請求項14記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本出願は、その内容が依拠され、ここに全て引用される、2015年10月2日に出願された米国仮特許出願第62/236302号の米国法典第35編第119条の下での優先権の恩恵を主張するものである。
【技術分野】
【0002】
ガラス基板を処理してそのガラス基板の表面への粒子の付着を低下させる方法、およびより詳しくは、耐汚染性が改善されたガラス基板を製造するためのガラス表面のプラズマ安定化処理方法が、ここに開示されている。
【背景技術】
【0003】
液晶ディスプレイおよびプラズマディスプレイなどの高性能表示装置の消費者需要が、これらの装置の非常に優れた表示品質、減少した質量と厚さ、低消費電力、および増加した値頃感のために、近年、著しく成長してきた。そのような高性能表示装置は、画像、図形、および文章などの様々な種類の情報を表示するために使用できる。高性能表示装置は、典型的に、1つ以上のガラス基板を利用している。表面清浄度などのガラス基板の表面品質要件が、解像度および画像性能の改善の要求が増すにつれてより厳しくなってきている。表面品質は、基板の形成から、最終的な出荷までの貯蔵まで、ガラス処理段階のいずれによっても影響を受けるであろう。
【0004】
ガラス表面は、一部には、そのガラス表面上の表面ヒドロキシル(X−OH、X=陽イオン)、例えば、シラノール(SiOH)の存在のために、高い表面エネルギーを有し得る。ガラス表面が空気中の水分と接触したときに、表面ヒドロキシルが迅速に形成し得る。その表面ヒドロキシル基間の水素結合は、さらなる水分吸収を誘発し得、これは転じて、ガラス表面上に水分子を含む粘性の水和層をもたらし得る。そのような粘性層は、例えば、ガラス表面上の粒子のより強力な付着を誘発するかもしれない「毛管」効果および/または特に高温で、表面に対する粒子の強力な付着をもたらし得る共有酸素結合を形成する表面ヒドロキシルの縮合を含む様々な有害作用を有し得る。
【0005】
高い表面エネルギーを有するガラス基板は、出荷、取扱い、および/または製造中に空気中の粒子を引き付け得る。その上、強力な付着力は、貯蔵中に粒子とガラスとの間の共有結合をもたらし得、これは転じて、仕上げ過程および洗浄過程中の収率を減少させ得る。ある場合には、ガラス基板の貯蔵が長いほど、例えば、数ヶ月に亘ると、粒子とガラス表面との間の潜在的な共有結合のために、粒子を表面から除去するのが難しくなる。
【0006】
粒子の付着を防ぐための様々な潜在的な方法の例として、熱蒸発、噴射法、または被覆転写紙の使用が挙げられる。しかしながら、そのような方法は、信頼できないおよび/または一貫性がないことがあり得、ガラス仕上げ過程に組み込むことが難しいおよび/または非現実的であり得る。表面保護は、それ自体、ガラス表面に汚染物質、例えば、堆積膜からの有機化合物または保護紙からのセルロース粒子も導入することがある。あるいは、ある表面処理は、末端消費者がガラス製品を洗浄し、利用しようとするときに、除去するのが難しいことがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、上述した欠陥の1つ以上を改善する、ガラス基板上の粒子の付着を低下させる方法、例えば、より経済的、より実際的、および/または現行のガラス成形および仕上げ過程により容易に組み込む方法を提供することが都合よいであろう。いくつかの実施の形態において、ここに開示された方法を使用して、所定の貯蔵期間に亘り低下した粒子の付着などの、改善された取扱いおよび/または貯蔵特性および低い表面エネルギーを有するガラス基板を製造することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、様々な実施の形態において、ガラス基板を処理する方法であって、そのガラス基板の表面を、その表面の少なくとも一部の上にコーティングを形成するのに十分な期間に亘り、少なくとも1種類の炭化水素を含むプラズマと接触させる工程を有してなり、そのコーティングは、以下の特性:(a)約65mJ/m
2未満の表面エネルギー;(b)約25mJ/m
2未満の極性表面エネルギー;(c)約10mJ/m
2超の分散表面エネルギー;および(d)約15度から約95度に及ぶ脱イオン水との接触角:の少なくとも1つを有するものである、方法に関する。
【0009】
少なくとも1つの表面を有するガラス基板であって、その表面の少なくとも一部が、少なくとも1種類の炭化水素から作られた層で被覆されており、その表面の被覆部分が、約15度から約95度に及ぶ脱イオン水との接触角を有する、ガラス基板もここに開示されている。さらに、少なくとも1つの表面を有するガラス基板であって、その表面の少なくとも一部が、少なくとも1種類の炭化水素から作られた層で被覆されており、その表面の被覆部分が、約65mJ/m
2未満の表面エネルギーを有する、ガラス基板がさらに開示されている。
【0010】
様々な実施の形態によれば、そのプラズマは、大気圧の熱または非熱プラズマであり得る。そのプラズマの温度は、例えば、約25℃から約300℃に及び得る。いくつかの実施の形態において、そのプラズマは、C
1〜C
6揮発性炭化水素などの、線状、分岐または環状であってよい、C
1〜C
12炭化水素から選択される少なくとも1種類の炭化水素、および必要に応じて、アルゴン、ヘリウム、窒素、酸素、空気、水素、水蒸気、およびそれらの組合せから選択される少なくとも1種類の気体、および少なくとも1種類の炭化水素を含み得る。その少なくとも1種類の炭化水素は、非限定的実施の形態において、そのプラズマの約1体積%から約20体積%を構成することがある。ここに開示された方法は、例えば、ガラス表面上の表面ヒドロキシル基の少なくとも約50%を安定化処理することができる。ここに開示された方法は、例えば、湿式または乾式洗浄によって、最終使用の前に、ガラス表面から炭化水素コーティングを洗い落とす工程をさらに含み得る。
【0011】
さらなる実施の形態において、前記表面の被覆部分は、約25mJ/m
2未満の極性表面エネルギー、および約10mJ/m
2超の分散表面エネルギーを含み得る、約50mJ/m
2未満の表面エネルギーを有し得る。またさらなる実施の形態において、そのガラス基板は、実質的に平面または非平面のガラスシートであり得、例えば、アルミノケイ酸塩、アルカリ・アルミノケイ酸塩、無アルカリアルカリ土類アルミノケイ酸塩、ホウケイ酸塩、アルカリ・ホウケイ酸塩、無アルカリアルカリ土類ホウケイ酸塩、アルミノホウケイ酸塩、アルカリ・アルミノホウケイ酸塩、および無アルカリアルカリ土類アルミノホウケイ酸塩ガラスから選択されるガラスから作られ得る。特定の実施の形態において、その表面の被覆部分は、約15度から約95度に及ぶ脱イオン水との接触角を有し得、随意的な洗浄工程後に、約10度未満の脱イオン水との接触角を有し得る。
【0012】
追加の特徴および利点が、以下の詳細な説明に述べられており、一部は、その説明から当業者に容易に明白となるか、または以下の詳細な説明、特許請求の範囲、並びに添付図面を含む、ここに記載された方法を実施することによって認識されるであろう。
【0013】
先の一般的な説明および以下の詳細な説明の両方とも、本開示の様々な実施の形態を示しており、請求項の性質および特徴を理解するための概要または骨子を提供することが意図されているのが理解されよう。添付図面は、さらなる理解を与えるために含まれ、本明細書に包含され、その一部を構成する。図面は、様々な非限定的実施の形態を示しており、説明と共に、本開示の原理および作動を説明する働きをする。
【0014】
本開示の様々な特徴、態様および利点は、以下の詳細な説明を、可能な場合、同様の構造が同様の参照番号により示されている添付図面を参照して読まれたときに、より良く理解される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】水素結合および共有結合によりガラス表面に結合した粒子を有する例示のガラス基板の説明図
【
図2】水素結合により粒子が炭化水素表面に結合している、本開示の様々な実施の形態による炭化水素層を備えた例示のガラス基板の説明図
【
図3】プラズマの走査数の関数としての表面エネルギーを示すグラフ
【
図4A】様々な未処理とプラズマ処理ガラス試料に関するガラス表面上の粒子数を示すグラフ
【
図4B】様々な未処理とプラズマ処理ガラス試料に関するガラス表面上の粒子数を示すグラフ
【
図5A】様々な未処理とプラズマ処理ガラス試料に関する粒子除去効率を示すグラフ
【
図5B】様々な未処理とプラズマ処理ガラス試料に関する粒子除去効率を示すグラフ
【
図6】様々な酸性溶液に暴露した後の炭化水素層を備えたガラス基板に関する接触角を示すグラフ
【
図7A】様々な温度に暴露した後の炭化水素層を備えたガラス基板に関する接触角を示すグラフ
【
図7B】様々な温度に暴露した後の炭化水素層を備えたガラス基板に関する接触角を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0016】
延伸されたまたは洗浄されたガラス表面は、非常に高い表面エネルギー(ある場合には、90mJ/m
2ほど高い)を有し得る。そのような高い表面エネルギーは、空気からの粒子吸着に対する表面の感受性を増加させ得る。理論で束縛する意図はないが、高い表面エネルギーは、少なくとも一部には、ガラス表面上にある、利用できる粒子と水素結合を形成し得る表面ヒドロキシル基(X−OH)、例えば、SiOH、AlOH、および/またはBOHの存在のためであると考えられる。その上、ガラスまたは酸化物粒子などの粒子がその表面に付着したままである場合、初期の水素結合付着および/またはファンデルワールス力は、縮合により強化されることがあり、次いで、それによって、より強力な共有結合が生じ得る。ガラス基板の表面に共有結合された粒子は、除去するのがなおさら困難であり、仕上げ収率が低下し得る。
図1は、粒子P
HおよびP
Cが、それぞれ、水素結合(実線で丸く囲まれている)および共有結合(点線で丸く囲まれている)により付着している例示のガラスシートGの表面を示している。
【0017】
例えば、水平または垂直方向いずれかの罫書きおよび分割に関する延伸底部(BOD)での移動アンビル装置(TAM)により、またはガラスのエッジ仕上げ、出荷、取扱い、および/または貯蔵により、様々なサイズと形状のガラス粒子が生じ得る。様々な業界において、そのような粒子は付着ガラス(AGD)と称される。ガラス表面への粒子の付着および/または吸着は、時間の経過と共に増加し得、貯蔵環境の温度、湿度、清浄度などの大気条件の変化に応じて変わり得る。3ヶ月を超える貯蔵中のガラスは、高エネルギー(例えば、共有)結合による粒子の付着を特に受けやすくなり得、厳しい品質管理の指針を満たす許容可能なレベルまで仕上げることは、不可能でなくとも、難しくなり得る。
【0018】
方法
ガラス表面を処理して、そのガラス表面上の表面ヒドロキシルの存在を減少させまたはなくし、それゆえ、縮合により生じる共有結合によるガラス表面への粒子の付着を減少させるまたはなくす方法が、ここに開示されている。ここに用いたように、「粒子」という用語およびその変形は、ガラス表面上に付着したおよび/または吸着したいずれの形状またはサイズの様々な汚染物質をも称することが意図されている。例えば、粒子は、ガラス粒子(例えば、ADG)、セルロース繊維、埃、M−OX粒子(M=金属;X=陽イオン)などの有機および無機汚染物質を含み得る。粒子は、例えば、切断、仕上げ、エッジ研磨、搬送(例えば、吸引カップ、コンベヤベルト、および/またはローラによる)、または貯蔵(例えば、箱、紙など)中などの、ガラス物品の製造、輸送、および/または貯蔵中にガラス物品の表面に生じ得る。
【0019】
ここに開示された方法は、例えば、ガラス表面を、そのガラス表面の少なくとも一部の上にコーティングを形成するのに十分な時間に亘り、少なくとも1種類の炭化水素を含むプラズマと接触させる工程を有してなる。
図2を参照すると、ガラスシートGの表面は、少なくとも1種類の炭化水素で被覆されていると示されている。その炭化水素層は、ガラス表面を安定化処理する、例えば、ガラス表面上の表面ヒドロキシル、例えば、SiOHの量を減少させるまたはなくす働きをし得る。それゆえ、表面に付着することのあるどの粒子P
Hも、水素結合などのより低いエネルギー結合によってそうすることがあり、共有結合した粒子は、減少させるまたはなくすことができる。
【0020】
ここに開示された処理方法は、いくつかの実施の形態において、ガラス表面上に存在することがある表面ヒドロキシル基(X−OH)の少なくとも一部を安定化処理することができる。ここに用いたように、「安定化処理」という用語およびその変形は、表面ヒドロキシル基を中和する、例えば、それらを粒子または他の潜在的な反応体と反応するのに利用できなくする処理を称することが意図されている。安定化処理は、共有結合およびイオン結合などの化学吸着により、または水素結合およびファンデルワールス相互作用などの物理吸着により、行われ得る(例えば、共有結合を示す
図2を参照のこと)。様々な実施の形態によれば、その処理方法は、少なくとも約30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または99%など、例えば、間の全ての範囲と部分的範囲を含む、約25%から約99%に及ぶ、表面ヒドロキシル基の少なくとも約25%を安定化処理することができる。
【0021】
様々な実施の形態によれば、安定化処理は、ガラス基板の表面をプラズマと接触させることにより行われる。ここに用いたように、「接触」と「接触した」という用語およびその変形は、ガラス表面のプラズマとの物理的相互作用を意味することが意図されている。例えば、プラズマは、ガラス基板の表面上に、その表面が、少なくとも1種類の炭化水素成分などのプラズマを構成する成分の1つ以上と接触するように、当該技術分野で公知のどの方法または装置、例えば、プラズマジェットまたはトーチを使用して、走査されてもよい。ガラス表面のプラズマとの物理的接触の結果として、少なくとも1種類の炭化水素と少なくとも1種類の表面ヒドロキシル基との間に、化学結合が形成されるであろう(例えば、
図2参照)。
【0022】
ここに用いたように、「プラズマ」、「大気プラズマ」という用語、およびその変形は、入射高周波電界を通過する気体を意味することが意図されている。電磁場との遭遇により、気体原子および自由電子がイオン化され、それらは、高速に加速され、よって高運動エネルギーが生じる。この高速電子のいくらかが、それらの最も外側の電子との衝突により他の原子をイオン化させ、それらの解放された電子は、次に、追加にイオン化され、カスケードイオン化効果を生じ得る。このように生じたプラズマは、流れで流動することができ、この流れに巻き込まれたエネルギー粒子が、物体、例えば、ガラス基板に向けて発射され得る。
【0023】
そのプラズマは、様々な実施の形態において、大気圧(AP)プラズマおよび熱または非熱プラズマであり得る。例えば、プラズマの温度は、室温(例えば、約25℃)から約300℃までなどのより高い温度に及び得る。非限定的例として、プラズマの温度は、間の全ての範囲と部分的範囲を含む、約50℃から約250℃、または約100℃から約200℃などの、約25℃から約300℃に及び得る。プラズマは、いくつか例を挙げると、アルゴン、ヘリウム、窒素、空気、水素、水蒸気、およびそれらの混合物から選択される少なくとも1種類の気体を含み得る。いくつかの実施の形態によれば、プラズマガスとして、アルゴンを利用できる。
【0024】
非限定的実施の形態において、プラズマは少なくとも1種類の炭化水素も含み得、これは、気体の形態で存在し得る。適切な炭化水素としては、以下に限られないが、いくつか例を挙げると、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、およびそれらの組合せなどの線状、分岐、または環状であることがあるC
1〜C
12炭化水素が挙げられる。様々な実施の形態によれば、沸点が低い(例えば、100℃未満)揮発性炭化水素、例えば、C
1〜C
6炭化水素を使用してもよい。またさらなる実施の形態において、その炭化水素は、メタン、エタン、プロパン、またはヘキサンであり得る。プラズマは、少なくとも1種類の炭化水素を、例えば、間の全ての範囲と部分的範囲を含む、約2%から約18%、約3%から約15%、約4%から約12%、約5%から約10%、または約6%から約8%などの約1体積%から約20体積%の量で含み得る。
【0025】
プラズマとガラス表面との間の接触は、当該技術分野で公知のどの適切な手段を使用して行っても差し支えなく、例えば、プラズマジェットまたはトーチを使用して、ガラス基板の表面を走査することができる。その走査速度は、特定の用途にとって所望のコーティング密度および/または効率を達成するのに必要に応じて変えることができる。例えば、その走査速度は、間の全ての範囲と部分的範囲を含む、約10mm/sから約75mm/s、約25mm/sから約60mm/s、または約40mm/sから約50mm/sなどの約5mm/sから約100mm/sに及び得る。
【0026】
滞留時間、例えば、プラズマがガラス表面に接触する期間は、同様に、走査速度および所望のコーティング特性に応じて変わり得る。非限定的例として、その滞留時間は、間の全ての範囲と部分的範囲を含む、約1秒から約10分、約30秒から約9分、約1分から約8分、約2分から約7分、約3分から約6分、または約4分から約5分などの1秒未満から数分に及び得る。様々な実施の形態において、ガラス表面は、1回通過でプラズマと接触させることができ、または他の実施の形態において、2回以上の通過、3回以上の通過、4回以上の通過、5回以上の追加、10回以上の通過、20回以上の通過などの多数の通過を使用してもよい。
【0027】
ここに開示された方法は、非限定的実施の形態において、粒子の付着に対する改善された耐性および/またはそのような粒子のガラス表面からの改善された除去性を示すガラス表面処理を提供することがある。例えば、水および/または穏やかな洗浄剤による洗浄後のガラス表面に付着した粒子の除去効率は、間の全ての範囲と部分的範囲を含む、約60%超、約70%超、約80%超、約90%超、約95%超、または約99%超、例えば、約50%から約99%に及ぶなどの50%ほど高くあり得る。例示の洗浄技法は、間の全ての範囲と部分的範囲を含む、約30秒から約4分、約45秒から約3分、約60秒から約2分、または約75秒から約90秒などの、約15秒から約5分に及ぶ期間に亘り、Semi Clean KGなどの洗浄剤のような穏やかな洗浄剤溶液による洗浄を含み得る。非限定例の洗浄剤の濃度は、間の全ての範囲と部分的範囲を含む、約1体積%から約5体積%、約1.5体積%から約4体積%、または約2体積%から約3体積%などの約0.5体積%から約6体積%に及び得る。いくつかの実施の形態において、洗浄は、間の全ての範囲と部分的範囲を含む、約25℃から約80℃、約30℃から約75℃、約35℃から約70℃、約40℃から約65℃、約45℃から約60℃、または約50℃から約55℃などの室温または高温で行われることがある。
【0028】
プラズマとの接触前に、ガラス基板は、ガラス基板の表面またはエッジの研磨、仕上げ、および/または洗浄などの1つ以上の随意的工程を使用して処理しても差し支えない。同様に、プラズマとの接触後、ガラス基板をこれらの随意的工程によってさらに処理しても差し支えない。そのような追加の工程は、当該技術分野に公知のどの適切な方法を使用して行っても差し支えない。例えば、例示のガラス洗浄工程は、乾式または湿式洗浄方法を含み得る。洗浄工程は、いくつかの実施の形態において、いくつか例を挙げると、Semi Clean KG、SC−1、紫外オゾン、および/または酸素プラズマを使用して行うことができる。
【0029】
プラズマ処理されたガラス基板に、いくつかの実施の形態において、エッジ仕上げまたはエッジ洗浄過程などの様々な仕上げ工程が行われることがある。このように、これらの実施の形態において、以下により詳しく述べられるように、例えば、脱イオン水との表面の接触角の減少がほとんどまたは全くないことで分かるように、表面処理が水のみによる除去に抵抗することが望ましいであろう。それに加え、表面処理が、以下により詳しく述べられるように、約10度未満の脱イオン水との接触角の減少で分かるように、洗浄剤による、または先に概説した他の洗浄工程を使用して、容易に除去できることが望ましいことがある。もちろん、プラズマ処理されたガラス基板は、これらの特性の1つまたは全てを示しても示さなくてもよいが、それでも、本開示の範囲に入ることが意図されている。
【0030】
ガラス基板
本開示は、ここに開示された方法を使用して製造されたガラス基板にも関する。例えば、そのガラス基板は少なくとも1つの表面を有し得、その表面の少なくとも一部が、少なくとも1種類の炭化水素から作られた層で被覆されており、その表面の被覆部分が、約15度から約95度に及ぶ脱イオン水との接触角を有する。追加の実施の形態において、そのガラス基板は少なくとも1つの表面を有し得、その表面の少なくとも一部が、少なくとも1種類の炭化水素から作られた層で被覆されており、その表面の被覆部分が約65mJ/m
2未満の表面エネルギーを有する。
【0031】
前記ガラス基板は、以下に限られないが、アルミノケイ酸塩、アルカリ・アルミノケイ酸塩、無アルカリアルカリ土類アルミノケイ酸塩、ホウケイ酸塩、アルカリ・ホウケイ酸塩、無アルカリアルカリ土類ホウケイ酸塩、アルミノホウケイ酸塩、アルカリ・アルミノホウケイ酸塩、無アルカリアルカリ土類アルミノホウケイ酸塩、および他の適切なガラスを含む、当該技術分野で公知のどのガラスから作られてもよい。特定の実施の形態において、そのガラス基板の厚さは、約3mm以下である、例えば、間の全ての範囲と部分的範囲を含む、約0.1mmから約2.5mm、約0.3mmから約2mm、約0.7mmから約1.5mm、または約1mmから約1.2mmに及ぶことがある。市販ガラスの非限定例としては、Corning IncorporatedからのEAGLE XG(登録商標)、Iris(商標)、Lotus(商標)、Willow(登録商標)、およびGorilla(登録商標)ガラスが挙げられる。
【0032】
様々な実施の形態において、前記ガラス基板は、第一面と反対の第二面を有するガラスシートを含み得る。それらの面は、特定の実施の形態において、平面または実質的に平面、例えば、実質的に平坦および/または平らであることがある。そのガラス基板は、実質的に平面または二次元であり得、いくつかの実施の形態において、非平面または三次元、例えば、凸面または凹面基板などの少なくとも1つの曲率半径の周りで湾曲しても差し支えない。第一面と第二面は、様々な実施の形態において、平行または実質的に平行であることがある。そのガラス基板は、少なくとも1つのエッジ、例えば、少なくとも2つのエッジ、少なくとも3つのエッジ、または少なくとも4つのエッジをさらに含むことがある。非限定例として、そのガラス基板は、4つのエッジを有する矩形または正方形のガラスシートを含むことがあるが、他の形状と構造も、考えられ、本開示の範囲に入ることが意図されている。様々な実施の形態によれば、そのガラス基板は、約80mJ/m
2までまたはそれより大きい、例えば、約70mJ/m
2から約90mJ/m
2、または約75mJ/m
2から約85mJ/m
2に及ぶなど、処理前に高い表面エネルギーを有することがある。
【0033】
前記ガラス基板は、ここに開示された方法に関して先に記載されたような少なくとも1種類の炭化水素から作られた層で被覆することができる。そのコーティングまたは層の厚さは、間の全ての範囲と部分的範囲を含む、約2nmから約90nm、約3nmから約80nm、約4nmから約70nm、約5nmから約60nm、約10nmから約50nm、約20nmから約40nm、または約25nmから約30nmなどの約1nmから約100nmに及び得る。
図2に示されるように、そのガラス表面は、その炭化水素層によって被覆または安定化処理され得る。そのような炭化水素層の存在は、表面ヒドロキシル基の存在を低下させるまたはなくすことができ、それゆえ、縮合の発生といずれの結果として生じた共有結合も低下させるまたは防ぐことができる。粒子は、様々な実施の形態において、
図2に示されるように、炭化水素層に結合することができる;しかしながら、これらの結合は、水素結合またはファンデルワールス相互作用などの弱い結合でろう。
【0034】
前記方法に関して先に述べたように、前記炭化水素層は、少なくとも1種類の炭化水素のプラズマ蒸着によって生成されることがあり、その炭化水素は、例えば、線状、分岐、または環状C
1〜C
12炭化水素から選択されることがある。理論により束縛する意図はないが、プラズマ蒸着中、その少なくとも1種類の炭化水素は、完全にまたは部分的に分解され、ガラス表面上に再堆積されることがあると考えられる。いくつかの実施の形態において、その炭化水素層は非晶質炭化水素層を含むことがある。他の実施の形態において、その炭化水素層は非晶質炭化水素高分子層を含むことがある。特定の実施の形態において、所定の炭化水素前駆体(例えば、C
1〜C
12炭化水素)を含むプラズマは、少なくとも、より短いまたはより長い炭化水素の部分を含む炭化水素層を生じることがある。それに加え、環状炭化水素前駆体を含むプラズマは、少なくとも、線状または分岐炭化水素などの部分を含む炭化水素層を生じることがある。さらに、所定の炭化水素前駆体を含むプラズマは、少なくとも部分的にまたは完全に重合されている炭化水素膜を生じることがある。
【0035】
前記ガラス表面の少なくとも一部は、前記プラズマとの接触後、前記炭化水素層で被覆されるであろう。特定の実施の形態において、全ガラス表面がその炭化水素層で被覆され得る。他の実施の形態において、例えば、制限なく、ガラス基板のエッジまたは周囲、中央領域、もしくは要望通りの任意の他の領域またはパターンなどの、そのガラス表面の所望の部分が被覆され得る。そのガラス表面の被覆部分は、様々な実施の形態において、約60mJ/m
2未満、約55mJ/m
2未満、約50mJ/m
2未満、約45mJ/m
2未満、約40mJ/m
2未満、約35mJ/m
2未満、約30mJ/m
2未満、または約25mJ/m
2未満、例えば、間の全ての範囲と部分的範囲を含む、約25mJ/m
2から約65mJ/m
2に及ぶ、などの約65mJ/m
2未満の全表面エネルギーを有することがある。極性表面エネルギーは、例えば、約20mJ/m
2未満、約15mJ/m
2未満、約10mJ/m
2未満、約9mJ/m
2未満、約8mJ/m
2未満、約7mJ/m
2未満、約6mJ/m
2未満、約5mJ/m
2未満、約4mJ/m
2未満、約3mJ/m
2未満、約2mJ/m
2未満、または約1mJ/m
2未満、例えば、間の全ての範囲と部分的範囲を含む、約1mJ/m
2から約25mJ/m
2に及ぶ、などの約25mJ/m
2未満であり得る。その被覆部分の分散エネルギーは、特定の実施の形態において、約15mJ/m
2超、約20mJ/m
2超、約25mJ/m
2超、約30mJ/m
2超、約35mJ/m
2超、または約40mJ/m
2超、例えば、間の全ての範囲と部分的範囲を含む、約10mJ/m
2から約40mJ/m
2に及ぶ、などの約10mJ/m
2超であり得る。
【0036】
ある材料の表面張力(または表面エネルギー)は、ペンダントドロップ法、デュヌュイ円環法(du Nouy ring method)、またはウィルヘルミープレート法(Physical Chemistry of Surfaces, Arthur W. Adamson, John Wiley and Sons, 1982, pp. 28)を含む当該技術分野でよく知られた方法により決定することができる。さらに、ある材料の表面エネルギーは、水およびジヨードメタンなどの極性が公知の液体で表面を調査し、各プローブ液体に関するそれぞれの接触角を決定することによって、極性および非極性(分散)成分に分解することができる。したがって、未処理(対照)ガラス基板の表面特性、並びに炭化水素プラズマで処理したガラス基板の表面特性は、上述した表面張力法のいずれか1つを、単独で、または以下の式:
σ
T=σ
D+σ
P
との組合せで使用して、各基板の、例えば、水およびジヨードメタン対照角を測定することによって、決定することができる。上記式中、σ
Tは全表面エネルギーであり、σ
Dは分散表面エネルギーであり、σ
Pは極性表面エネルギーである。
【0037】
様々な実施の形態によれば、前記ガラスの被覆部分は、プラズマとの接触後に、間の全ての範囲と部分的範囲を含む、約20度から約90度、約25度から約85度、約30度から約80度、約35度から約75度、約40度から約70度、または約50度から約60度などの約15度から約95度に及ぶ脱イオン水との接触角を有することがある。その炭化水素層は、特定の実施の形態において、要望通りに、例えば、最終使用用途のために基板を仕上げる前に、ガラス基板から除去することもできる。
【0038】
ここに開示された方法に関して先に述べたように、前記炭化水素層を除去するために、湿式および/または乾式洗浄方法を使用できる。先に被覆された表面の接触角(脱イオン水との)は、洗浄後、著しく、例えば、0度ほど低く、減少し得る。例えば、被覆されたときの接触角(脱イオン水との)は、約95度ほど高くあり得、洗浄後の接触角(脱イオン水との)は、約15度未満、約10度未満、約5度未満、約3度未満、約2度未満、または約1度未満、例えば、間の全ての範囲と部分的範囲を含む、約1度から約20度に及ぶ、などの約20度未満であり得る。
【0039】
さらに、前記炭化水素層は、いくつかの実施の形態において、水だけによる除去に対して中程度の抵抗性を示すことがあり、このことは、被覆基板に、最終使用の前に、エッジ仕上げまたはエッジ洗浄などの様々な仕上げ工程を行うことになっている場合に有用であり得る。このように、これらの実施の形態において、被覆表面の接触角(脱イオン水との)は、水との接触(例えば、約5分までの期間に亘る)後に、約20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、または95度超、例えば、間の全ての範囲と部分的範囲を含む、約15度から約95度に及ぶ、などの約15度超であることがある。いくつかの実施の形態において、被覆表面の接触角(脱イオン水との)は、水との接触(例えば、約60分までの期間に亘る)後に、約20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、または95度超、例えば、間の全ての範囲と部分的範囲を含む、約15度から約95度に及ぶ、などの約15度超であることがある。最後に、前記炭化水素層は、様々な実施の形態において、高温/湿潤環境に対して中程度の抵抗性を示すことがあり、このことは、被覆基板が、環境が制御されずに倉庫内に貯蔵される場合に有用であり得る。このように、これらの実施の形態において、被覆表面の接触角(脱イオン水との)は、50℃および85%の相対湿度での経時変化(例えば、約2週間までの期間に亘る)後に、約20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、または95度超、例えば、間の全ての範囲と部分的範囲を含む、約15度から約95度に及ぶ、などの約15度超であることがある。もちろん、プラズマ処理されたガラス基板は、これらの特性の1つまたは全てを示しても示さなくてもよいが、それでも、本開示の範囲に入ることが意図されている。
【0040】
本開示のガラス基板および方法は、従来技術の基板および方法を上回る多数の利点の内の少なくとも1つを有するであろう。例えば、ここに開示された方法は、従来技術の方法と比べて、より高いスループット、より低い費用、および/または改善された統合可能性、拡張性、信頼性、および/または一貫性に関して優れた性能を示すことがある。さらに、そのような方法にしたがって処理されたガラス基板は、粒子の付着が低下していることがある、洗浄がより容易であることがある、および/または長期の貯蔵期間に亘り性能が改善されることがある。もちろん、ここに開示された基板および方法は、上述した特徴の内の1つ以上を有しても有さなくてもよいが、それでも、本開示の範囲および特許請求の範囲に入ることが意図されていることが理解されよう。
【0041】
様々な開示された実施の形態は、その特定の実施の形態に関して記載された特定の特徴、要素または工程を含むことがあるのが認識されよう。特定の特徴、要素または工程は、1つの特定の実施の形態に関して記載されているけれども、様々な説明されていない組合せまたは置換で、代わりの実施の形態と交換されるまたは組み合わされることがあることも認識されよう。
【0042】
ここに用いたように、名詞は、「少なくとも1つ」の対象を指すことを意味し、特に明記のない限り、「たった1つ」の対象に制限されるべきではないことも理解されよう。それゆえ、例えば、「炭化水素」への言及は、特に明記のない限り、そのような炭化水素を2種類以上有する例も含む。
【0043】
範囲は、「約」ある特定の値から、および/または「約」別の特定の値までとここに表現することができる。そのような範囲が表現された場合、例は、そのある特定の値から、および/または他方の特定の値までを含む。同様に、値が、先行詞「約」を用いて近似として表現されている場合、特定の値は別の態様を形成することが理解されよう。範囲の各々の端点は、他方の端点に関してと、他方の端点とは関係なくの両方で有意であることがさらに理解されよう。
【0044】
特に明記のない限り、ここに述べられたどの方法も、その工程が特定の順序で行われることを必要とするものと考えることは決して意図されていない。したがって、方法の請求項が、その工程がしたがうべき順序を実際に列挙していない場合、またはその工程が特定の順序に限定されるべきことが、請求項または説明に他に具体的に述べられていない場合、どの特定の順序も暗示されることは決して意図されていない。
【0045】
特定の実施の形態の様々な特徴、要素または工程が、「含む」という移行句を使用して開示されることがあるが、「からなる」または「から実質的になる」という移行句を使用して記載されることがあるものを含む、代わりの実施の形態が暗示されることが理解されよう。それゆえ、例えば、A+B+Cを含む構造または方法に対して暗示される代わりの実施の形態は、構造または方法がA+B+Cからなる実施の形態、および構造または方法がA+B+Cから実質的になる実施の形態を含む。
【0046】
本開示の精神および範囲から逸脱せずに、本開示に様々な改変および変更を行えることが当業者に明白であろう。本開示の精神および範囲を含む開示された実施の形態の改変、組合せ、下位の組合せおよび変更が当業者に想起されるであろうから、本開示は、付随の特許請求の範囲およびその等価物の範囲に全てを含むと解釈すべきである。
【0047】
以下の実施例は、非制限的であり、説明に過ぎないことが意図されており、本発明の範囲は請求項によって定義される。
【実施例】
【0048】
表面エネルギー
Corning「EAGLE XG」ガラス基板に様々なプラズマ処理を行って、表面エネルギーに対する滞留時間の影響を評価した。直線プラズマヘッドを使用して、2回、4回、または10回の通過で、ガラス試験片にメタンコーティングを施した。
【0049】
図3に示されるように、ガラス表面がプラズマとより多く接触するほど(例えば、より長い滞留時間、プラズマジェットのより多い通過回数など)、表面エネルギー測定により示されているように、その表面は炭化水素層でより効果的に被覆される。全表面エネルギーEは、概して、通過回数が増えるにつれて(例えば、増加したプラズマ接触)減少する傾向にあった。特に、極性表面エネルギー成分Pは、通過回数が増えるにつれて減少したのに対し、分散表面エネルギー成分Dは、通過回数が増えるにつれて増加した。理論により束縛する意図はないが、極性はガラス表面上のヒドロキシル基の濃度により強く影響を受けるので、極性表面エネルギーは、追加回数が増えるにつれて減少するのに対し、炭化水素コーティング自体は著しい極性基を持たないと考えられる。
【0050】
接触角
Corning「EAGLE XG」ガラス基板に様々なプラズマ処理を行って、様々な炭化水素表面処理に関する接触角に対する滞留時間の影響を評価した。様々な方法を使用してガラス試料を被覆し、表面処理したガラス基板の脱イオン水との接触角を測定した。次に、それらの基板を5分間に亘り脱イオン水で濯ぎ、接触角を再び測定した。最後に、基板を超音波浴内において50℃でアルカリ性洗浄剤により洗浄し、接触角をもう一度測定した。その結果が、下記の表Iに示されている。
【0051】
【表1】
【0052】
先の表Iに示されるように、炭化水素コーティングを備えたガラス試料は、脱イオン水との比較的高い接触角を示し、疎水性、すなわち水に対する表面の抵抗性がその処理によって増加した(例えば、未処理ガラスに関する10度以下の接触角と比べて)ことを示す。脱イオン水との高い接触角は、表面は水で容易には濡れず、それゆえ、より耐水性であることを示す傾向にある。耐水性は、5分間に亘る脱イオン水により洗浄後でさえも、プラズマ処理試料の比較的高い接触角によっても示された。いくつかの実施の形態において、洗浄によって表面処理を容易かつ迅速に除去することが望ましいことがある。上記の表Iに示されるように、プラズマ処理したガラス基板を2分間に亘り洗浄剤と接触させた後、基板の接触角は著しく減少し、これは、表面処理がうまく除去されたことを示す傾向にある。いくつかの実施の形態において、約10度未満の接触角は、「清浄な」ガラス表面を示し得る。もちろん、所望の量の表面処理を除去するために、および/または所望のレベルの表面清浄度を得るために、洗浄方法、時間、洗浄剤などを変えることができる。
【0053】
粒子の付着
プラズマ処理したガラス試料、並びに未処理試料にエッジ研磨過程を行い、次いで、洗浄過程を行って、ガラス表面をガラス粒子の付着から保護する、および/または洗浄によるいずれの付着粒子の除去も促進する、プラズマコーティングの能力を評価した。ガラス試料(4インチ×4インチ(約10cm×約10cm))のエッジを、ガラス粒子(ガラス表面に放出された)を生じる様式で、研磨した。次に、粒子計数器を使用して、エッジ研磨過程によってガラス表面上に堆積した粒子の数を計数した。次に、ガラス試料を60秒間または90秒間のいずれかに亘りアルカリ性洗浄剤で洗浄した。次いで、洗浄後にガラス表面上に残った粒子を再び計数した。これらの試験の結果が、
図4〜5に示されている。標準解像度は、1μm超の直径を有する粒子を計数するのに対し、高解像度は、0.3μmほど小さい直径を有するより小さい粒子を計数する。
【0054】
図4A〜Bは、未処理ガラスと比べて、全てのプラズマ処理ガラスについて、実質的により少ない粒子数を示す。様々なプラズマ処理の中で、メタン、プロパン、およびヘキサンによるプラズマ処理は、堆積した粒子の数について、多かれ少なかれ等しく機能したようである。60秒間の洗浄後に残った粒子の数に関して、プロパンおよびメタンのプラズマ処理は比較的等しく機能するようであり、これらの処理の両方とも、ヘキサンによるプラズマ処理より機能が優れているようである。しかしながら、90秒間の洗浄後では、全てのプラズマ処理試料が多かれ少なかれ等しく機能したようである。
【0055】
図4A〜Bを参照すると、2つのプロパンプラズマ処理の間では、プロパン(P1)はプロパン(P2)より機能が優れ、後者はより速い走査速度を使用していた。2つのヘキサンプラズマ処理の間では、ヘキサン(H1)はヘキサン(H2)より機能が優れ、後者は、一回少ないプラズマジェットの通過を使用していた。同様に、メタン(M3)はメタン(M4)より機能が優れ、後者はより速い走査速度を使用しており、メタン(M1)はメタン(M2)より機能が優れ、後者は、より速い走査速度およびより少ないプラズマ通過を使用していた。このように、理論により束縛する意図はないが、プラズマ処理により長く暴露すると、粒子の付着に対するガラス表面の抵抗性を改善することができる、および/または洗浄の際のそのような粒子の表面からの除去可能性を改善することができると考えられる。
【0056】
洗浄後の粒子除去効率を示す
図5A〜Bを参照すると、プロパンでプラズマ処理したガラス試料は、メタンでプラズマ処理したガラス試料と比べて、多かれ少なかれ等しく機能し、その両方とも、60秒間に亘り洗浄した試料について、ヘキサンでプラズマ処理したガラス試料より機能が優れたようである。90秒間の洗浄後、全てのプラズマ処理したガラス試料は多かれ少なかれ等しく機能したようである。全ての場合で、プラズマ処理した試料は、未処理試料より機能が著しく優れていた(60秒間と90秒間の洗浄後の両方で)。
【0057】
表面結合
前記炭化水素コーティングがどのようにガラス表面に結合しているかを評価するために、CH
4 APプラズマ処理したガラス基板を、塩化水素酸(HCl)の2つの異なる溶液(0.1Mおよび1M)中に浸漬した。ガラスと炭化水素の結合がSi−O−Cである場合、少なくとも、より短い鎖(例えば、C
4以下)を有する炭化水素の場合、酸性または塩基性溶液のいずれかに暴露した際に加水分解反応が生じるであろうと仮定する。
図6は、酸性溶液によるそのような実験の結果を示している。2回または4回走査されたガラス基板は、両方の酸性溶液に暴露された際に、接触角の迅速かつ著しい低下を示した。この低下は、加水分解が生じ、その結果、SiOHが形成されたことを示唆し、潜在的に、
図2に示されるように、ガラス表面がSi−O−C結合を介して炭化水素層に結合することを示す。対照的に、プラズマで10回走査されたガラス基板について、接触角は、酸性溶液に20分間暴露された後でさえも、比較的一定のままであった。理論により束縛する意図はないが、10回の通過を使用して得られた改善された被覆率は、炭化水素分子間の架橋の向上をもたらすことがあり、これは、転じて、酸性条件下での加水分解を妨げ得ると考えられる。しかしながら、全ての場合において、接触角は5度未満まで完全には減少せず(観察された最低の接触角は20度辺りであった)、これは、ガラスと炭化水素の界面に少量のSi−C結合が存在したかもしれないことを示し得ることも気付いた。
【0058】
下記の表IIa〜cは、プラズマで4回または10回走査したCH
4 APプラズマ安定化処理したガラス基板に関する、それぞれ、原子濃度、炭素の百分率、およびケイ素の百分率を示す(X線光電子分光法(XPS)で決定した)。
【0059】
【表2a】
【0060】
【表2b】
【0061】
【表2c】
【0062】
表IIa〜cに示されるように、プラズマの通過回数が多いと、C強度が高くなり、Si強度が低くなり、並びに、Al、B、Ca、およびOなどの他のガラス成分の強度が低くなった。このことは、ガラス表面上のより厚い炭素層を示す。XPSは、COOまたはN≡H結合も検出しなかったが、C−C、C−O、C−H、Si−O、およびSi−C結合を検出した。おそらくSi−CまたはSi−O−C結合によりケイ素原子と結合した有機側鎖基を有するSi−O主鎖を持つケイ素が検出されたが、XPSは、2つのピークの間の区別も、その定量もできなかった。同様に、XPSは、C−HおよびO−H結合の間も区別できなかった。
【0063】
熱耐久性
図7A〜Bを参照すると、高温(それぞれ、300℃および400℃)での炭化水素コーティングの耐久性が示されている。
図7Aは、そのコーティングが約10分以上に亘り300℃の温度に耐えられることを示す。
図7Bは、そのコーティングが、400℃で比較的迅速に揮発し、約5分以下しか存続しないことを示す。このように、このデータに基づくと、処理パラメータに応じて、おそらくガラス製造過程のBOD区域においてさえ、高温でガラス基板上に炭化水素コーティングを含ませることが実現可能であろうと考えられる。
【0064】
以下、本発明の現在好ましい実施形態を項分け記載する。
【0065】
実施形態1
少なくとも1つの表面を有するガラス基板であって、該表面の少なくとも一部が、少なくとも1種類の炭化水素から作られた層で被覆されており、該表面の被覆部分が、約15度から約95度に及ぶ脱イオン水との接触角を有する、ガラス基板。
【0066】
実施形態2
前記層の厚さが約1nmから約100nmに及ぶ、実施形態1に記載のガラス基板。
【0067】
実施形態3
前記表面の被覆部分の表面エネルギーが約65mJ/m
2未満である、実施形態1に記載のガラス基板。
【0068】
実施形態4
前記表面の被覆部分の極性表面エネルギーが約25mJ/m
2未満である、実施形態1に記載のガラス基板。
【0069】
実施形態5
前記表面の被覆部分の分散表面エネルギーが約10mJ/m
2超である、実施形態1に記載のガラス基板。
【0070】
実施形態6
前記層が、少なくとも1種類のC
1〜C
12炭化水素のプラズマ蒸着により調製された非晶質炭化水素層である、実施形態1に記載のガラス基板。
【0071】
実施形態7
少なくとも1つの表面を有するガラス基板であって、該表面の少なくとも一部が、少なくとも1種類の炭化水素から作られた層で被覆されており、該表面の被覆部分が、約65mJ/m
2未満の表面エネルギーを有する、ガラス基板。
【0072】
実施形態8
前記表面の被覆部分の極性表面エネルギーが約25mJ/m
2未満である、実施形態7に記載のガラス基板。
【0073】
実施形態9
前記表面の被覆部分の分散表面エネルギーが約10mJ/m
2超である、実施形態7に記載のガラス基板。
【0074】
実施形態10
前記層の厚さが約1nmから約100nmに及ぶ、実施形態7に記載のガラス基板。
【0075】
実施形態11
前記表面の被覆部分が、約15度から約95度に及ぶ脱イオン水との接触角を有する、実施形態7に記載のガラス基板。
【0076】
実施形態12
前記層が、少なくとも1種類のC
1〜C
12炭化水素のプラズマ蒸着により調製された非晶質炭化水素層である、実施形態7に記載のガラス基板。
【0077】
実施形態13
ガラス基板を処理する方法であって、
前記ガラス基板の表面を、該表面の少なくとも一部の上にコーティングを形成するのに十分な滞留時間に亘り、少なくとも1種類の炭化水素を含むプラズマと接触させる工程、
を有してなり、
前記コーティングは、以下の特性:
(a)約65mJ/m
2未満の表面エネルギー;
(b)約25mJ/m
2未満の極性表面エネルギー;
(c)約10mJ/m
2超の分散表面エネルギー;または
(d)約15度から約95度に及ぶ脱イオン水との接触角
の少なくとも1つを有するものである、方法。
【0078】
実施形態14
前記少なくとも1種類の炭化水素がC
1〜C
12炭化水素から選択される、実施形態13に記載の方法。
【0079】
実施形態15
前記少なくとも1種類の炭化水素がC
1〜C
6揮発性炭化水素から選択される、実施形態13に記載の方法。
【0080】
実施形態16
前記プラズマが約1体積%から約20体積%の前記少なくとも1種類の炭化水素を含む、実施形態13に記載の方法。
【0081】
実施形態17
前記コーティングの厚さが約1nmから約100nmに及ぶ、実施形態13に記載の方法。
【0082】
実施形態18
前記ガラス基板の表面をプラズマと接触させる工程が、約5mm/sから約100mm/sに及ぶ速度で前記表面をプラズマで走査する工程を含む、実施形態13に記載の方法。
【0083】
実施形態19
前記コーティングを乾式または湿式洗浄で除去する工程をさらに含む、実施形態13に記載の方法。
【0084】
実施形態20
前記コーティングを除去する工程の後、前記ガラス基板の表面が、約10℃未満の脱イオン水との接触角を有する、実施形態19に記載の方法。
【符号の説明】
【0085】
P
H、P
C 粒子
G ガラスシート
【国際調査報告】