特表2018-532880(P2018-532880A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スコペルタ・インコーポレイテッドの特許一覧

特表2018-532880非クロム及び低クロム耐摩耗性合金
この文献は図面が300枚以上あるため,図面を表示できません.
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2018-532880(P2018-532880A)
(43)【公表日】2018年11月8日
(54)【発明の名称】非クロム及び低クロム耐摩耗性合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20181012BHJP
   B23K 35/30 20060101ALI20181012BHJP
   C22C 29/14 20060101ALI20181012BHJP
   C22C 29/02 20060101ALI20181012BHJP
【FI】
   C22C38/00
   B23K35/30 340C
   C22C29/14 A
   C22C29/02 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】234
(21)【出願番号】特願2018-512298(P2018-512298)
(86)(22)【出願日】2016年9月1日
(85)【翻訳文提出日】2018年4月25日
(86)【国際出願番号】US2016049889
(87)【国際公開番号】WO2017040775
(87)【国際公開日】20170309
(31)【優先権主張番号】62/214,485
(32)【優先日】2015年9月4日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/311,507
(32)【優先日】2016年3月22日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/335,988
(32)【優先日】2016年5月13日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】517095766
【氏名又は名称】スコペルタ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】SCOPERTA, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100170900
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 渉
(72)【発明者】
【氏名】エイブル, キャメロン
(57)【要約】
低クロム量であるか又はクロムを含まない、ハードフェーシング/ハードバンディング材料、合金、又はパウダー組成物の実施態様がここに開示されている。いくつかの実施態様において、合金は、特別な金属成分重量パーセンテージにて、遷移金属のホウ化物及びホウ炭化物を含むことができる。開示された合金は、ハードフェーシング/ハードバンディングアプリケーションに有利な、高硬度及びASTM G65性能を有することができる。
【選択図】図1
[この文献は図面を表示できません]
【特許請求の範囲】
【請求項1】
約3重量%以下のクロムを含む、低クロム又は非クロム鉄合金であって、
材料へと形成されるか、又は材料を形成するように構成され、
前記材料が、平衡凝固条件下で、
総モル分率が約5%と約50%との間であり、その金属部分が約15重量%以上のW+Moを含む、遷移金属のホウ化物及びホウ炭化物と、
該材料におけるモル分率が約5%と約40%との間であり、以下の元素:V、Ti、Nb、Zr、Hf、W、Moの1つ又はそれ以上を有するMC型炭化物と定義される、単離炭化物と
からなる、低クロム又は非クロム鉄合金。
【請求項2】
前記単離炭化物が、バナジウムが約50重量%以上の金属成分を有する、請求項1に記載の合金。
【請求項3】
約0.01重量%以下のクロムを含む、請求項1に記載の合金。
【請求項4】
前記材料における、FeB、M23(C,B)、M(C,B)、及びM(C,B)(ここで、Mは、Feが約75重量%以上である)からなる脆化硬質相(embrittling hard phase)のモル分率が、マトリクス固相線温度で測定したときに、約10%以下である、請求項1に記載の合金。
【請求項5】
前記遷移金属のホウ化物及びホウ炭化物の前記金属部分が、約35重量%以上のW+Moを含む、請求項1に記載の合金。
【請求項6】
平衡凝固条件下で、前記材料のFCC−BCC遷移温度が、約1300K以下である、請求項1に記載の合金。
【請求項7】
第1硬質相が凝固する形成温度とマトリクス液相線温度との差と定義される、前記材料の融解幅が、平衡凝固条件下で、約250℃以下である、請求項1に記載の合金。
【請求項8】
前記材料が、約55HRC以上の堆積硬度(deposited hardness)を有し、
オーステナイト化及び焼入れ後の前記材料の硬度が、約55HRC以上である、
請求項1に記載の合金。
【請求項9】
摩耗保護のために、パウダー、ワイヤー、キャスティング、及び/又はハードフェーシング層へと製造されてなる、請求項1に記載の合金。
【請求項10】
鉄と、以下の元素(重量%):
B:約0.5〜約4、
C:約0〜約3、
Cr:約0〜約3、
Mo+W:約2.1〜約25、及び
V:約0〜約20
とからなり、
Ti、Nb、Ta、Zr、及び/又はHfが、約1:1のモル比でVと置き換えられていてもよく、
Bに対する(Mo+1.9×W)の重量比が、6と10.25との間である、
請求項1に記載の合金。
【請求項11】
鉄と、以下の元素(重量%):
B:1.64、C:2、Mo:13.6、V:8.5;
B:1.8、C:2.2、Mo:15、V:9.35;
B:2.2、C:2.8、Mo:17.7、V:12;
B:2.05、C:2.6、Mo:16.3、V:11.1;
B:1.1、C:2.85、Mo:10、V:11.7;
B:0.95、C:2.45、Mo:8.6、V:10;
B:1.64、C:2、Mn:1、Mo:13.6、Ni:1.3、Si:0.5、V:8.5;
B:1.8、C:2.2、Mn:1、Mo:15、Ni:1.5、Si:0.5、V:9.35;
B:2.2、C:2.8、Mn:1、Mo:17.7、Ni:1.7、Si:0.5、V:12;
B:2.05、C:2.6、Mn:1、Mo:16.3、Ni:1.6、Si:0.5、V:11.1;
B:1.1、C:2.85、Cr:1、Mn:1.2、Mo:10、Ni:1.4、Si:0.6、V:11.7;
B:0.95、C:2.45、Cr:0.8、Mn:1、Mo:8.6、Ni:1.2、Si:0.5、V:10;
B:2.0、C:2.8、Mo:18、V:13;
B:2.0、C:2.8、Mo:18、V:11.5;
B:1.85、C:2.6、Mo:18、V:12;
B:2.0、C:2.8、Mn:0.5、Mo:18、Ni:1.5、Si:0.5、V:13;
B:2.0、C:2.8、Mn:0.5、Mo:18、Ni:1.5、Si:0.5、V:11.5;
B:1.85、C:2.6、Mn:0.5、Mo:18、Ni:1.5、Si:0.5、V:12;又は
B:0.65、C:1.7、Cr:0.5、Mn:0.7、Mo:6、Ni:0.8、Si:0.4、V:7
とからなり、
Ti、Nb、Ta、Zr、及び/又はHfが、約1:1のモル比でVと置き換えられていてもよく、
Wが、約1:1のモル比でMoと置き換えられていてもよい、
請求項1に記載の合金。
【請求項12】
摩耗保護のために、請求項1に記載の合金が組み入れられてなる、採鉱装置。
【請求項13】
グランド係合工具、作業工具、リップシュラウド、刃、ブレード、摩耗板、及び粉砕装置を備える、請求項12に記載の採鉱装置。
【請求項14】
約3重量%以下のクロムを含む、低クロム又は非クロム鉄合金であって、
材料へと形成されるか、又は材料を形成するように構成され、
前記材料が、
総体積分率が約5%と約50%との間であり、その金属部分が約15重量%以上のW+Moを含む、遷移金属のホウ化物及びホウ炭化物と、
該材料における体積分率が約5%と約40%との間であり、以下の元素:V、Ti、Nb、Zr、Hf、W、Moの1つ又はそれ以上からなるMC型炭化物と定義される、単離炭化物と
からなる、低クロム又は非クロム鉄合金。
【請求項15】
前記MC型炭化物が、バナジウムが約50重量%以上の金属成分を有する、請求項14に記載の合金。
【請求項16】
約0.01重量%以下のクロムを含む、請求項14に記載の合金。
【請求項17】
前記材料の、FeB、M23(C,B)、M(C,B)、及びM(C,B)(ここで、Mは、Feが約75重量%以上である)からなる脆化硬質相(embrittling hard phase)の体積分率が、約10%以下である、請求項14に記載の合金。
【請求項18】
前記材料が、約55HRC以上の堆積硬度(deposited hardness)を有し、
オーステナイト化及び焼入れ後の前記材料の硬度が、約55HRC以上である、
請求項14に記載の合金。
【請求項19】
鉄と、以下の元素(重量%):
B:約0.5〜約4、
C:約0〜約3、
Cr:約0〜約3、
Mo+W:約2.1〜約25、及び
V:約0〜約20
とからなり、
Ti、Nb、Ta、Zr、及び/又はHfが、約1:1のモル比でVと置き換えられていてもよく、
Bに対する(Mo+1.9×W)の重量比が、6と10.25との間である、
請求項14に記載の合金。
【請求項20】
鉄と、以下の元素(重量%):
B:1.64、C:2、Mo:13.6、V:8.5;
B:1.8、C:2.2、Mo:15、V:9.35;
B:2.2、C:2.8、Mo:17.7、V:12;
B:2.05、C:2.6、Mo:16.3、V:11.1;
B:1.1、C:2.85、Mo:10、V:11.7;
B:0.95、C:2.45、Mo:8.6、V:10;
B:1.64、C:2、Mn:1、Mo:13.6、Ni:1.3、Si:0.5、V:8.5;
B:1.8、C:2.2、Mn:1、Mo:15、Ni:1.5、Si:0.5、V:9.35;
B:2.2、C:2.8、Mn:1、Mo:17.7、Ni:1.7、Si:0.5、V:12;
B:2.05、C:2.6、Mn:1、Mo:16.3、Ni:1.6、Si:0.5、V:11.1;
B:1.1、C:2.85、Cr:1、Mn:1.2、Mo:10、Ni:1.4、Si:0.6、V:11.7;
B:0.95、C:2.45、Cr:0.8、Mn:1、Mo:8.6、Ni:1.2、Si:0.5、V:10;
B:2.0、C:2.8、Mo:18、V:13;
B:2.0、C:2.8、Mo:18、V:11.5;
B:1.85、C:2.6、Mo:18、V:12;
B:2.0、C:2.8、Mn:0.5、Mo:18、Ni:1.5、Si:0.5、V:13;
B:2.0、C:2.8、Mn:0.5、Mo:18、Ni:1.5、Si:0.5、V:11.5;
B:1.85、C:2.6、Mn:0.5、Mo:18、Ni:1.5、Si:0.5、V:12;又は
B:0.65、C:1.7、Cr:0.5、Mn:0.7、Mo:6、Ni:0.8、Si:0.4、V:7
とからなり、
Ti、Nb、Ta、Zr、及び/又はHfが、約1:1のモル比でVと置き換えられていてもよく、
Wが、約1:1のモル比でMoと置き換えられていてもよい、
請求項14に記載の合金。
【請求項21】
鉄と、以下の元素(重量%):
B:約0.5〜約4、
C:約0〜約3、
Cr:約0〜約3、
Mo+W:約2.1〜約25、及び
V:約0〜約20
とからなり、
Bに対する(Mo+1.9×W)の重量比が、6と10.25との間であり、
Ti、Nb、Ta、Zr、及び/又はHfが、約1:1のモル比でVと置き換えられていてもよい、
低クロム又は非クロム合金。
【請求項22】
鉄と、以下の元素(重量%):
B:約0.6〜約2.4、
C:約1.6〜約3、
Mo:約5.5〜約20、及び
V:約6.5〜約14
とからなる、請求項21に記載の合金。
【請求項23】
さらに、鉄と、以下の元素(重量%):
Mn:約0〜約3、
Ni:約0〜約3、及び
Si:約0〜約1.5
とからなる、請求項22に記載の合金。
【請求項24】
鉄と、以下の元素(重量%):
B:1.64、C:2、Mo:13.6、V:8.5;
B:1.8、C:2.2、Mo:15、V:9.35;
B:2.2、C:2.8、Mo:17.7、V:12;
B:2.05、C:2.6、Mo:16.3、V:11.1;
B:1.1、C:2.85、Mo:10、V:11.7;
B:0.95、C:2.45、Mo:8.6、V:10;
B:0.65、C:1.7、Mo:6、V:7;
B:1.64、C:2、Mn:1、Mo:13.6、Ni:1.3、Si:0.5、V:8.5;
B:1.8、C:2.2、Mn:1、Mo:15、Ni:1.5、Si:0.5、V:9.35;
B:2.2、C:2.8、Mn:1、Mo:17.7、Ni:1.7;Si:0.5、V:12;
B:2.05、C:2.6、Mn:1、Mo:16.3、Ni:1.6、Si:0.5、V:11.1;
B:1.1,C:2.85、Cr:1、Mn:1.2、Mo:10、Ni:1.4、Si:0.6、V:11.7;
B:0.95、C:2.45、Cr:0.8、Mn:1、Mo:8.6、Ni:1.2、Si:0.5、V:10;
B:0.65、C:1.7、Cr:0.5、Mn:0.7、Ni:0.8、Si:0.4、Mo:6、V:7;
B:2.0、C:2.8、Mo:18、V:13;
B:2.0、C:2.8、Mo:18、V:11.5;
B:1.85、C:2.6、Mo:18、V:12;
B:2.0、C:2.8、Mn:0.5、Mo:18、Ni:1.5、Si:0.5、V:13;
B:2.0、C:2.8、Mn:0.5、Mo:18、Ni:1.5、Si:0.5、V:11.5;
B:1.85、C:2.6、Mn:0.5、Mo:18、Ni:1.5、Si:0.5、V:12;又は
B:0.65、C:1.7、Cr:0.5、Mn:0.7、Mo:6、Ni:0.8、Si:0.4、V:7
とからなり、
Ti、Nb、Ta、Zr、及び/又はHfが、約1:1のモル比でVと置き換えられていてもよく、
Wが、約1:1のモル比でMoと置き換えられていてもよい、
請求項21に記載の合金。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[優先権主張出願の参考としての編入]
本出願は、米国仮出願第62/214485号(発明の名称「非クロム及び低クロム耐摩耗性合金」、2015年9月4日出願)、米国仮出願第62/311507号(発明の名称「非クロム及び低クロム耐摩耗性合金」、2016年3月22日出願)、及び米国仮出願第62/335988号(発明の名称「非クロム及び低クロム耐摩耗性合金」、2016年5月13日出願)の利益を主張するものである。これらの内容は、本明細書に参考として組み込まれている。
【0002】
本開示の実施態様は、一般に、低クロム量であるか又はクロムを含まない鉄合金に関する。
【背景技術】
【0003】
研磨及び腐食摩耗は、表面を摩耗する砂、岩、又は他の硬いメディアを伴うアプリケーションにおけるオペレーターにとって、重大な懸念である。重篤な摩耗が見られるアプリケーションでは、典型的には、該重篤な摩耗による材料破壊に耐える高硬度を有する材料が利用されている。これらの材料は、典型的には、研磨に耐え、材料の塊状硬度を上昇させる硬い析出物としての炭化物及び/又はホウ化物を含んでいる。これらの材料はしばしば、種々の溶接加工又はある部分への直接的なキャスティングによって、ハードフェーシング(硬化肉盛)として既知のコーティングとして適用される。
【0004】
最も一般に用いられるキャスティング及びハードフェーシングのための耐摩耗性鉄材料は、合金素材としてクロムを含んでいる。合金素材としてのクロムは、典型的に、2つの役割を果たす。すなわち、硬化性の向上と、炭化物、ホウ化物、及び/又はホウ炭化物を含むクロムの形成と、である。これら2つの役割により、材料の摩耗性能は向上する。しかしながら、クロムを含む合金がキャスティングされるか又は溶接されると、発癌性六価クロム蒸気が放出される。放出されるクロムの量は、合金のクロム含量に大きく左右され、クロムレベルが上昇するにつれて、放出量が多くなる。これらの合金から放出される六価クロムレベルは、一般に、OSHA、NIOSH、CARB,及び他の取締機関により設定された基準、基準案、及びガイドラインを超える。クロムベアリング合金を製造している区域では、クロムレベルがEPA特定最大値を遥かに超えている。近年、より低い許容安全レベルさえも提案されてきており、現在及び将来的な法律並びに取締の順守を促進する新規材料が必要とされている。
【0005】
米国特許第8474541号明細書及び米国特許第6702905号明細書は、各々その全文がここに参考として組み込まれており、これらの明細書には、遷移金属ホウ化物を形成するクロムベアリング鉄系合金が記載されている。
【0006】
非クロム及び耐摩耗性鉄合金を開発すべく、いくつかのある試みがなされてきた。例えば、米国特許公開第2013/0294962号明細書(「Wallin」)は、その全文がここに参考として組み込まれており、該明細書には、非クロムハードフェーシング消耗品が記載されている。該明細書における合金の耐摩耗性は、ニオブ又はチタンの炭化物と、その金属構成要素が主に鉄であるホウ化物又はホウ炭化物との組合せに基づいている。
【0007】
同様に、米国特許第7569286号明細書、米国特許第8268453号明細書、米国特許第4673550号明細書、及び米国特許第4419130号明細書は、各々その全文がここに参考として組み込まれており、これらの明細書には、その耐摩耗性が実質ホウ化物に委ねられている非クロム合金を含む合金が記載されている。該ホウ化物の大部分は、Fe及びTiのホウ化物からなる。
【0008】
米国特許第4235630号明細書(「Babu」)は、その全文がここに参考として組み込まれており、該明細書には、フェロボロンとモリブデンとの混合物からなる耐摩耗性合金が記載されている。Babuには、本開示における基準を超えるホウ化物の体積分率及びモル分率が記載されている。さらに、Babuには、マトリクスが実質量の共晶Fe−Mo金属間化合物又は鉄ホウ化物からなる合金が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第8474541号明細書
【特許文献2】米国特許第6702905号明細書
【特許文献3】米国特許公開第2013/0294962号明細書
【特許文献4】米国特許第7569286号明細書
【特許文献5】米国特許第8268453号明細書
【特許文献6】米国特許第4673550号明細書
【特許文献7】米国特許第4419130号明細書
【特許文献8】米国特許第4235630号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、現在及び将来的な法律並びに取締の順守を促進する安全な新規材料が、耐摩耗性合金の製造に必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る実施態様は、これらに限定されないが、ハードフェーシング(硬化肉盛)/ハードバンディング(硬化結束)材料、このようなハードフェーシング/ハードバンディング材料を製造するために用いられる合金又はパウダー組成物、該ハードフェーシング/ハードバンディング材料を製造する方法、及びこれらのハードフェーシング/ハードバンディング材料を組み込んでいるか又はこれらの材料によって保護される成分もしくは基材を含む。
【0012】
ここに開示されているのは、約3重量%以下のクロムを含む、低クロム又は非クロム鉄合金の実施態様であり、前記合金が、材料へと形成されるか、又は材料を形成するように構成される。前記材料は、遷移金属のホウ化物及びホウ炭化物からなり、該遷移金属のホウ化物及びホウ炭化物は、平衡凝固条件下で、総モル分率が約5重量%以上であり、その金属成分が約15重量%以上のTi+W+Mo+Vを含む。
【0013】
いくつかの実施態様においては、単離炭化物のモル分率を、5%と40%との間とすることができ、該単離炭化物の金属成分が、50重量%を超えるバナジウムを含む。
【0014】
いくつかの実施態様においては、前記合金が、約0.5重量%以下のクロムを含むことができる。いくつかの実施態様においては、前記合金が、約0.01重量%以下のクロムを含むことができる。いくつかの実施態様においては、前記合金が、クロムを含まないことができる。
【0015】
いくつかの実施態様においては、前記材料の平衡状態で1300Kでの総硬質相モル分率が、約10%以上であり得る。該硬質相は、ホウ化物、ホウ炭化物、チッ化物、炭化物、酸化物、ケイ化物、ラーベス相、アルミニウム化物、及び炭チッ化物からなる群より選ばれる。いくつかの実施態様においては、前記材料における脆化硬質相(embrittling hard phase)のモル分率が、マトリクス固相線温度で測定したときに、約10%以下であり、該脆化硬質相が、FeB、M23(C,B)、M(C,B)、及びM(C,B)(ここで、Mは、Feが約75重量%以上である)からなる。
【0016】
いくつかの実施態様においては、平衡凝固条件下で、前記材料のFCC−BCC遷移温度が、約1300K以下であり得る。いくつかの実施態様においては、第1硬質相が凝固する形成温度とマトリクス液相線温度との差と定義される、前記材料の融解幅が、平衡凝固条件下で、約250℃以下であり得る。
【0017】
いくつかの実施態様においては、前記材料が、約55HRC以上の堆積硬度(deposited hardness)を有することができる。いくつかの実施態様においては、オーステナイト化及び焼入れ後の前記材料の硬度が、約55HRC以上であり得る。いくつかの実施態様においては、オーステナイト化及び焼入れ後の前記材料の硬度が、約60HRC以上であり得る。
【0018】
いくつかの実施態様においては、前記材料が、特定のASTM G65性能を備えた合金を含むことができる。いくつかの実施態様においては、前記材料が、オーステナイト化、焼入れ、及び焼戻し後に、特定のASTM G65性能を備えた合金を含むことができる。
【0019】
いくつかの実施態様においては、前記合金が、パウダーであり得る。いくつかの実施態様においては、前記合金が、ハードフェーシング層に形成され得る。
【0020】
ここに開示されているのは、約3重量%以下のクロムを含む、低クロム又は非クロム鉄合金の実施態様であり、前記合金が、材料へと形成されるか、又は材料を形成するように構成される。前記材料は、遷移金属のホウ化物及びホウ炭化物からなり、該遷移金属のホウ化物及びホウ炭化物は、総体積分率が5%と50%との間であり、その金属成分が約15重量%以上のTi+W+Mo+Vを含む。
【0021】
いくつかの実施態様においては、前記合金が、約0.5重量%以下のクロムを含むことができる。いくつかの実施態様においては、前記合金が、約0.01重量%以下のクロムを含むことができる。いくつかの実施態様においては、前記合金が、クロムを含まないことができる。
【0022】
いくつかの実施態様においては、前記材料の総硬質相体積分率が、約10%以上であり得る。該硬質相は、ホウ化物、ホウ炭化物、チッ化物、炭化物、酸化物、ケイ化物、ラーベス相、アルミニウム化物、及び炭チッ化物からなる群より選ばれる。いくつかの実施態様においては、前記材料の脆化硬質相の体積分率が約10%以下であることができ、該脆化硬質相が、M23(C,B)、M(C,B)、及びM(C,B)(ここで、Mは、Feが約75重量%以上である)からなる。いくつかの実施態様においては、前記材料において、単離炭化物の体積分率は約5%以上であることができ、該単離炭化物が、以下の元素:V、Ti、Nb、Zr、Hf、W、Moの1つ又はそれ以上を有するMC型炭化物からなる。
【0023】
いくつかの実施態様においては、前記材料が、約60HRC以上の堆積硬度を有することができる。いくつかの実施態様においては、前記材料の、ASTM G65 procedure Aに準拠した質量損失が、約0.16g以下であり得る。
【0024】
いくつかの実施態様においては、前記合金が、パウダーであり得る。いくつかの実施態様においては、前記合金が、ハードフェーシング層に形成され得る。
【0025】
ここに開示されているのは、低クロム又は非クロム合金の実施態様であり、前記合金が、重量%基準で、残部の鉄と、以下の混じり物、すなわち、B:約0.8〜約4、C:約0〜約3、Cr:約0〜約3、Mo+W:約2.1〜約25、Ni:約0〜約5、及びV:約0〜約20、とからなり、Nb、Ti、Zr、及び/又はHfが1:1の比でVと置き換えられていてもよく、Nb、Ti、Zr、V、及びHfの総量が約0と約20との間である。
【0026】
いくつかの実施態様においては、前記合金がさらに、重量%基準で、残部の鉄と、以下の混じり物、すなわち、B:約0.9〜約1.8、C:約1.0〜約2.2、Cr:約0〜約1.0、Mo:約6.0〜約14.0、Ni:約0〜約2、及びV:約6.0〜約9.0、とからなることができ、Nb、Ti、Zr、及び/又はHfが1:1の比でVと置き換えられていてもよく、Nb、Ti、Zr、V、及びHfの総量が約6.0と約9.0との間である。いくつかの実施態様においては、前記合金がさらに、重量%基準で、残部の鉄と、以下の混じり物、すなわち、B:約0.95〜約1.4、C:約1.4〜約2.0、Cr:約0〜約0.5、Mo:約9.0〜約14.0、Ni:約0〜約2、及びV:約6〜約8.5、とからなることができ、Nb、Ti、Zr、及び/又はHfが1:1の比でVと置き換えられていてもよく、Nb、Ti、Zr、V、及びHfの総量が約6と約8.5との間である。いくつかの実施態様においては、前記合金がさらに、重量%基準で、残部の鉄と、以下の混じり物、すなわち、B:約1.1、C:約1.7、Cr:約0、Mo:約9.5〜約12、Ni:約1〜約2、及びV:約6.5〜約8、とからなることができる。いくつかの実施態様においては、前記合金が、約0.1重量%以下のクロムからなることができる。
【0027】
いくつかの実施態様においては、前記合金がさらに、重量%基準で、残部の鉄と、以下の混じり物、すなわち、B:約0.3〜約0.95、C:約1.2〜約2.1、Cr:約0〜約3、Mo:約3〜約9、Ni:約0〜約3、及びV:約4〜約9、とからなることができる。
【0028】
いくつかの実施態様においては、前記合金がさらに、重量%基準で、残部の鉄と、以下の混じり物、すなわち、B:約1.6〜約2.2、C:約2〜約2.8、Cr:約0〜約3、Mn:約0〜約3、Mo:約12.5〜約19.5、Ni:約0〜約4、及びV:約8〜約14、とからなることができる。いくつかの実施態様においては、前記合金が、約1.5重量%未満のクロムからなることができる。
【0029】
ここに開示されているのは、低クロム又は非クロム合金の実施態様であり、前記合金は、本開示の他の部分で、熱力学的及び微細構造的基準に合致する化学的性質の範囲にて説明されている。
【0030】
いくつかの実施態様においては、前記合金が、約55HRC以上の堆積硬度を有する材料を形成するように構成され得る。いくつかの実施態様においては、前記合金が、約0.16g以下のASTM G65 procedure Aに準拠した質量損失を有する材料を形成するように構成され得る。
【0031】
いくつかの実施態様においては、前記合金が、ハードフェーシング層へと形成され得る。いくつかの実施態様においては、前記合金が、パウダーであり得る。
【0032】
いくつかの実施態様においては、前記合金が、材料へと形成されるか、又は材料を形成するように構成されることができ、前記材料は、遷移金属のホウ化物及びホウ炭化物からなり、該遷移金属のホウ化物及びホウ炭化物は、平衡凝固条件下で、総モル分率が約5重量%以上であり、その金属成分が約15重量%以上のTi+W+Mo+Vを含む。いくつかの実施態様においては、前記合金が、材料へと形成されるか、又は材料を形成するように構成されることができ、前記材料は、平衡凝固条件下で、総硬質相モル分率が約10%以上であり、該硬質相は、ホウ化物、ホウ炭化物、チッ化物、炭化物、酸化物、ケイ化物、ラーベス相、アルミニウム化物、及び炭チッ化物からなる群より選ばれる。いくつかの実施態様においては、前記合金が、材料へと形成されるか、又は材料を形成するように構成されることができ、前記材料における、平衡凝固条件下で、マトリクス固相線温度で測定したときの脆化硬質相のモル分率は約10%以下であり、該脆化硬質相は、M23(C,B)、M(C,B)、及びM(C,B)(ここで、Mは、Feが約75重量%以上である)からなる。いくつかの実施態様においては、前記合金が、材料へと形成されるか、又は材料を形成するように構成されることができ、平衡凝固条件下で、前記材料における単離炭化物のモル分率は約5%以上であり、該単離炭化物は、以下の元素:V、Ti、Nb、Zr、Hf、W、Moの1つ又はそれ以上を有するMC型炭化物からなる。いくつかの実施態様においては、前記合金が、材料へと形成されるか、又は材料を形成するように構成されることができ、平衡凝固条件下で、前記材料は、約1300K以下のFCC−BCC遷移温度を有する。いくつかの実施態様においては、前記合金が、材料へと形成されるか、又は材料を形成するように構成されることができ、平衡凝固条件下で、融解幅は約250℃以下であり、該融解幅は、第1硬質相が凝固する形成温度とマトリクス液相線温度との差と定義される。
【0033】
ここに開示されているのは、ハードフェーシング層を形成する方法の実施態様であり、該方法は、前述のいずれか1つの合金層を熱的に適用することを含む。
【0034】
ここに開示されているのは、約3重量%以下のクロムを含む、低クロム又は非クロム鉄ハードフェーシング層の実施態様であり、遷移金属のホウ化物及びホウ炭化物の総モル分率が、約5重量%以上であり、該遷移金属のホウ化物及びホウ炭化物の金属成分が、約15重量%以上のTi+W+Mo+Vを含む。ここに開示されているのは、約3重量%以下のクロムを含む、低クロム又は非クロム鉄ハードフェーシング層の実施態様であり、遷移金属のホウ化物及びホウ炭化物の総体積分率が、約5%以上であり、該ホウ化物及びホウ炭化物の金属成分が、約15重量%以上のTi+W+Mo+Vを含む。
【0035】
ここに開示されているのは、約3重量%以下のクロムを含む、低クロム又は非クロム鉄合金の実施態様であり、前記合金は、材料へと形成されるか、又は材料を形成するように構成されることができ、平衡凝固条件下で、遷移金属のホウ化物及びホウ炭化物の総モル分率が、約5%と約50%との間であり、該遷移金属のホウ化物及びホウ炭化物の金属部分が、約15重量%以上のW+Moを含み、前記材料における単離炭化物のモル分率が、約5%と約40%との間であり、該単離炭化物が、以下の元素:V、Ti、Nb、Zr、Hf、W、Moの1つ又はそれ以上を有するMC型炭化物と定義される。
【0036】
いくつかの実施態様においては、前記単離炭化物が、約50重量%以上のバナジウムを含む金属成分を有し得る。いくつかの実施態様においては、前記合金が、約0.01重量%以下のクロムを含み得る。いくつかの実施態様においては、前記材料における、マトリクス固相線温度で測定したときの脆化硬質相のモル分率が約10%以下であることができ、該脆化硬質相が、FeB、M23(C,B)、M(C,B)、及びM(C,B)(ここで、Mは、Feが約75重量%以上である)からなる。いくつかの実施態様においては、前記遷移金属のホウ化物及びホウ炭化物の金属部分が、約35重量%以上のW+Moを含み得る。いくつかの実施態様においては、平衡凝固条件下で、前記材料のFCC−BCC遷移温度が、約1300K以下であり得る。いくつかの実施態様においては、平衡凝固条件下で、前記材料の融解幅が、約250℃以下であることができ、該融解幅が、第1硬質相が凝固する形成温度とマトリクス液相線温度との差と定義される。いくつかの実施態様においては、前記材料が、約55HRC以上の堆積硬度を有することができ、オーステナイト化及び焼入れ後の前記材料の硬度が、約55HRC以上である。
【0037】
いくつかの実施態様においては、本開示の合金が、摩耗保護のために、パウダー、ワイヤー、キャスティング、及び/又はハードフェーシング層へと製造され得る。
【0038】
いくつかの実施態様においては、前記合金が、重量%基準で、Feと、以下の元素、すなわち、B:約0.5〜約4、C:約0〜約3、Cr:約0〜約3、Mo+W:約2.1〜約25、及びV:約0〜約20とからなることができ、Ti、Nb、Ta、Zr、及び/又はHfが、約1:1のモル比でVと置き換えられていてもよく、Bに対する(Mo+1.9×W)の重量比が、6と10.25との間である。いくつかの実施態様においては、前記合金が、重量%基準で、Feと、以下の元素、すなわち、B:1.64、C:2、Mo:13.6、V:8.5;B:1.8、C:2.2、Mo:15、V:9.35;B:2.2、C:2.8、Mo:17.7、V:12;B:2.05、C:2.6、Mo:16.3、V:11.1;B:1.1、C:2.85、Mo:10、V:11.7;B:0.95、C:2.45、Mo:8.6、V:10;B:1.64、C:2、Mn:1、Mo:13.6、Ni:1.3、Si:0.5、V:8.5;B:1.8、C:2.2、Mn:1、Mo:15、Ni:1.5、Si:0.5、V:9.35;B:2.2、C:2.8、Mn:1、Mo:17.7、Ni:1.7、Si:0.5、V:12;B:2.05、C:2.6、Mn:1、Mo:16.3、Ni:1.6、Si:0.5、V:11.1;B:1.1、C:2.85、Cr:1、Mn:1.2、Mo:10、Ni:1.4、Si:0.6、V:11.7;B:0.95、C:2.45、Cr:0.8、Mn:1、Mo:8.6、Ni:1.2、Si:0.5、V:10;B:2.0、C:2.8、Mo:18、V:13;B:2.0、C:2.8、Mo:18、V:11.5;B:1.85、C:2.6、Mo:18、V:12;B:2.0、C:2.8、Mn:0.5、Mo:18、Ni:1.5、Si:0.5、V:13;B:2.0、C:2.8、Mn:0.5、Mo:18、Ni:1.5、Si:0.5、V:11.5;B:1.85、C:2.6、Mn:0.5、Mo:18、Ni:1.5、Si:0.5、V:12;又は;B:0.65、C:1.7、Cr:0.5、Mn:0.7、Mo:6、Ni:0.8、Si:0.4、V:7とからなることができ、Ti、Nb、Ta、Zr、及び/又はHfが、約1:1のモル比でVと置き換えられていてもよく、Wが、約1:1のモル比でMoと置き換えられていてもよい。
【0039】
ここに開示されているのは、摩耗保護のために、ここに開示の合金を組み入れることができる採鉱装置である。いくつかの実施態様においては、前記採鉱装置が、グランド係合工具、作業工具、リップシュラウド、刃、ブレード、摩耗板、及び粉砕装置を備えることができる。
【0040】
ここに開示されているのは、約3重量%以下のクロムを含む、低クロム又は非クロム鉄合金の実施態様であり、前記合金は、材料へと形成されるか、又は材料を形成するように構成されている。前記材料は、遷移金属のホウ化物及びホウ炭化物と、単離炭化物とからなる。該遷移金属のホウ化物及びホウ炭化物は、総体積分率が約5%と約50%との間であり、その金属部分が約15重量%以上のW+Moを含む。該単離炭化物は、前記材料における体積分率が約5%と約40%との間であり、以下の元素:V、Ti、Nb、Zr、Hf、W、Moの1つ又はそれ以上からなるMC型炭化物と定義される。
【0041】
いくつかの実施態様においては、前記MC型炭化物が、バナジウムが約50重量%以上の金属成分を有し得る。いくつかの実施態様においては、前記合金が、約0.01重量%以下のクロムを含むことができる。いくつかの実施態様においては、前記材料の、FeB、M23(C,B)、M(C,B)、及びM(C,B)(ここで、Mは、Feが約75重量%以上である)からなる脆化硬質相の体積分率が、約10%以下であり得る。いくつかの実施態様においては、前記材料が、約55HRC以上の堆積硬度を有することができ、オーステナイト化及び焼入れ後の前記材料の硬度が、約55HRC以上である。
【0042】
いくつかの実施態様においては、前記合金が、重量%基準で、Feと、以下の元素、すなわち、B:約0.5〜約4、C:約0〜約3、Cr:約0〜約3、Mo+W:約2.1〜約25、及びV:約0〜約20とからなることができ、Ti、Nb、Ta、Zr、及び/又はHfが、約1:1のモル比でVと置き換えられていてもよく、Bに対する(Mo+1.9×W)の重量比が、6と10.25との間である。
【0043】
いくつかの実施態様においては、前記合金が、重量%基準で、Feと、以下の元素、すなわち、B:1.64、C:2、Mo:13.6、V:8.5;B:1.8、C:2.2、Mo:15、V:9.35;B:2.2、C:2.8、Mo:17.7、V:12;B:2.05、C:2.6、Mo:16.3、V:11.1;B:1.1、C:2.85、Mo:10、V:11.7;B:0.95、C:2.45、Mo:8.6、V:10;B:1.64、C:2、Mn:1、Mo:13.6、Ni:1.3、Si:0.5、V:8.5;B:1.8、C:2.2、Mn:1、Mo:15、Ni:1.5、Si:0.5、V:9.35;B:2.2、C:2.8、Mn:1、Mo:17.7、Ni:1.7、Si:0.5、V:12;B:2.05、C:2.6、Mn:1、Mo:16.3、Ni:1.6、Si:0.5、V:11.1;B:1.1、C:2.85、Cr:1、Mn:1.2、Mo:10、Ni:1.4、Si:0.6、V:11.7;B:0.95、C:2.45、Cr:0.8、Mn:1、Mo:8.6、Ni:1.2、Si:0.5、V:10;B:2.0、C:2.8、Mo:18、V:13;B:2.0、C:2.8、Mo:18、V:11.5;B:1.85、C:2.6、Mo:18、V:12;B:2.0、C:2.8、Mn:0.5、Mo:18、Ni:1.5、Si:0.5、V:13;B:2.0、C:2.8、Mn:0.5、Mo:18、Ni:1.5、Si:0.5、V:11.5;B:1.85、C:2.6、Mn:0.5、Mo:18、Ni:1.5、Si:0.5、V:12;又は;B:0.65、C:1.7、Cr:0.5、Mn:0.7、Mo:6、Ni:0.8、Si:0.4、V:7とからなることができ、Ti、Nb、Ta、Zr、及び/又はHfが、約1:1のモル比でVと置き換えられていてもよく、Wが、約1:1のモル比でMoと置き換えられていてもよい。
【0044】
ここに開示されているのは、低クロム又は非クロム合金の実施態様であり、前記合金が、重量%基準で、Feと、以下の元素、すなわち、B:約0.5〜約4、C:約0〜約3、Cr:約0〜約3、Mo+W:約2.1〜約25、及びV:約0〜約20とからなり、Bに対する(Mo+1.9×W)の重量比が、6と10.25との間であり、Ti、Nb、Ta、Zr、及び/又はHfが、約1:1のモル比でVと置き換えられていてもよい。
【0045】
いくつかの実施態様においては、前記合金が、重量%基準で、Feと、以下の元素、すなわち、B:約0.6〜約2.4、C:約1.6〜約3、Mo:約5.5〜約20、及びV:約6.5〜約14とからなり得る。いくつかの実施態様においては、前記合金がさらに、重量%基準で、Feと、以下の元素、すなわち、Mn:約0〜約3、Ni:約0〜約3、及びSi:約0〜約1.5とからなり得る。
【0046】
いくつかの実施態様においては、前記合金が、重量%基準で、Feと、以下の元素、すなわち、B:1.64、C:2、Mo:13.6、V:8.5;B:1.8、C:2.2、Mo:15、V:9.35;B:2.2、C:2.8、Mo:17.7、V:12;B:2.05、C:2.6、Mo:16.3、V:11.1;B:1.1、C:2.85、Mo:10、V:11.7;B:0.95、C:2.45、Mo:8.6、V:10;B:0.65、C:1.7、Mo:6、V:7;B:1.64、C:2、Mn:1、Mo:13.6、Ni:1.3、Si:0.5、V:8.5;B:1.8、C:2.2、Mn:1、Mo:15、Ni:1.5、Si:0.5、V:9.35;B:2.2、C:2.8、Mn:1、Mo:17.7、Ni:1.7;Si:0.5、V:12;B:2.05、C:2.6、Mn:1、Mo:16.3、Ni:1.6、Si:0.5、V:11.1;B:1.1,C:2.85、Cr:1、Mn:1.2、Mo:10、Ni:1.4、Si:0.6、V:11.7;B:0.95、C:2.45、Cr:0.8、Mn:1、Mo:8.6、Ni:1.2、Si:0.5、V:10;B:0.65、C:1.7、Cr:0.5、Mn:0.7、Ni:0.8、Si:0.4、Mo:6、V:7;B:2.0、C:2.8、Mo:18、V:13;B:2.0、C:2.8、Mo:18、V:11.5;B:1.85、C:2.6、Mo:18、V:12;B:2.0、C:2.8、Mn:0.5、Mo:18、Ni:1.5、Si:0.5、V:13;B:2.0、C:2.8、Mn:0.5、Mo:18、Ni:1.5、Si:0.5、V:11.5;B:1.85、C:2.6、Mn:0.5、Mo:18、Ni:1.5、Si:0.5、V:12;又は;B:0.65、C:1.7、Cr:0.5、Mn:0.7、Mo:6、Ni:0.8、Si:0.4、V:7とからなることができ、Ti、Nb、Ta、Zr、及び/又はHfが、約1:1のモル比でVと置き換えられていてもよく、Wが、約1:1のモル比でMoと置き換えられていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1図1は、本開示の合金(X1)の実施態様の平衡凝固図例である。
図2図2は、B:2.2、C:2.2、Mo:12、Ni:2、V:8を含有する組成の、本開示の合金の実施態様の平衡凝固図例である。
図3図3は、B:3.8、C:0.8、Mn:1.8、Nb:3、Ni:1.9、Si:0.6、W:0.8を含有する組成の、本開示範囲外の合金の実施態様の平衡凝固図例である。
図4図4は、本開示の合金(X1)の実施態様の顕微鏡写真例である。
図5図5は、本開示範囲外の合金の実施態様の顕微鏡写真例である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
ここに開示されているのは、クロムベアリング材料と比較して、同等かそれを上回る耐摩耗性を呈することが可能な、クロムを全く含まないか又は最少量でしか含まない鉄合金の実施態様である。特に、ここに開示されている合金の実施態様は、硬質鉄マトリクスにおいてタングステン及び/又はモリブデンの主要部分を含む複合共晶ホウ化物及び/又はホウ炭化物を形成し得るものであり、該主要部分により、クロムを含まないか又は低レベルのクロムしか含まないにも係らず、該合金がハードバンディング/ハードフェーシング合金として適したものとなる。さらに、これらの合金は、MC型の単離炭化物を形成することができ、該単離炭化物は、耐衝撃性又は靱性を殆ど低下させることなく、耐摩耗性を付与する。
【0049】
さらに、ここに開示されている合金の実施態様は、摩耗性能のために、中間金属又は鉄ホウ化物の形成を回避するものである。その代わりに、本開示の実施態様における合金は、その摩耗性能を、ホウ化物及び/又はホウ炭化物から誘導し、該ホウ化物及び/又はホウ炭化物の金属成分は、タングステン及び/又はモリブデンの実質部分からなる。これらの鉄ホウ化物は、しばしば、数種の理由により望ましくない。典型的に、鉄ホウ化物は実質、モリブデン及び/又はタングステンのホウ化物よりも軟質であり、ホウ化物の既定の相分率について摩耗性能を低下させる。また、特に過共晶相として存在するとき、これらは針様形態を形成する傾向があり、靱性及び耐衝撃性を低下させる。チタンは、溶接又は他の加工工程における高温状態で非常に急速に酸化するので、チタンホウ化物含有合金は、しばしば、溶接性及び主要酸化物含量が乏しいか、又は多孔性である。したがって、本開示におけるいくつかの実施態様の合金は、耐摩耗性について、チタンに依存しないかもしれない。
【0050】
ここに開示のとおり、「ハードバンディング/ハードフェーシング合金」という用語は、一般に、種々の摩耗メカニズム:摩耗、衝撃、浸食、ガウジング等への耐性を有する硬質層を製造することを目的として、基材上に堆積させた材料の分類をいう。本開示の実施態様は、ハードフェーシング/ハードフェーシング層と、ここに開示されている合金で形成されたハードフェーシング/ハードフェーシング層にて保護されている成分とに関することができる。ここに開示の合金は、一般に、耐摩耗性材料に関する。これらの合金は、表面コーティングとして用いられてもよく、キャスティング、焼結、高圧処理、鋳造、又は金属成分の製造に用いられる他の製造工程によって塊状材料を生産するために加工されてもよい。
【0051】
ここに開示のとおり、「合金」という用語は、開示のパウダーを形成する化学組成物、パウダーそのもの、並びにパウダーの加熱及び/又は沈殿によって形成される金属成分の組成物をいうことができる。さらに、前記合金は、ワイヤー、キャスティング、又は塊状合金であり得る。
【0052】
いくつかの実施態様においては、特定の微細構造及び性能が達成されるように、形態、相分率、及び相の組成がコントロールされ得る合金組成範囲を調査するために、コンピューターによる冶金を使用することができる。Fe−B−C−W−Mo系は充分に複雑であり、相の分率、種類、組成、及び形態をコントロールすることは、当業者であっても自明ではない。次の元素:V、Ti、Zr、Hf、Si、Mn、Ni、Nbの1つ又はそれ以上を添加することにより、これはさらに挑戦的なことになる。コンピューターによる冶金で、これらの元素を含む合金の、熱力学的特徴、並びに結果として、微細構造及び物理的性質を、密接にコントロールすることができる。
【0053】
<金属合金組成>
本開示の実施態様は、特定の金属合金組成にて定義され得る。前記のとおり、個々に開示されている合金の実施態様は、クロムを含まないか、限定されたクロム含量を有し得る。該合金におけるクロムレベルが限定されているのは、少なくとも次の理由による。
1)非クロム合金は、クロムベアリング材料上の堆積物として適用されるかも知れず、希釈により、合金中にクロムが組み込まれる結果となる。このような工程から放出されるクロム蒸気は、まだ、より高いクロム量の堆積物から放出されるものよりは少ないであろう。
2)低レベルのクロムが合金に組み込まれるかも知れず、まだ、標準的な合金と比較して、クロム放射が大きく減少するかも知れない。この減少は、少なくとも以下の規制基準:OSHA−1910.1026、1915.1026、1926.1026(各々その全文がここに参考として組み込まれている)に合致するのに充分であろう。
3)意図的ではないクロム不純物が、種々の経路によって合金に組み込まれるかも知れない。
【0054】
いくつかの実施態様においては、低クロム合金は、3重量%以下(又は、約3重量%以下)のクロムを含むことができる。いくつかの実施態様においては、低クロム合金は、2重量%以下(又は、約2重量%以下)のクロムを含むことができる。いくつかの実施態様においては、低クロム合金は、1.5重量%以下(又は、約1.5重量%以下)のクロムを含むことができる。いくつかの実施態様においては、低クロム合金は、1重量%以下(又は、約1重量%以下)のクロムを含むことができる。いくつかの実施態様においては、低クロム合金は、0.5重量%以下(又は、約0.5重量%以下)のクロムを含むことができる。
【0055】
いくつかの実施態様においては、非クロム合金は、0.5重量%以下(又は、約0.5重量%以下)のクロムを含むことができる。いくつかの実施態様においては、非クロム合金は、0.25重量%以下(又は、0.25重量%以下)のクロムを含むことができる。いくつかの実施態様においては、非クロム合金は、0.1重量%以下(又は、0.1重量%以下)のクロムを含むことができる。いくつかの実施態様においては、非クロム合金は、0.05重量%以下(又は、0.05重量%以下)のクロムを含むことができる。いくつかの実施態様においては、非クロム合金は、0.01重量%以下(又は、0.01重量%以下)のクロムを含むことができる。いくつかの実施態様においては、非クロム合金は、0重量%(又は、約0重量%)のクロムを含むことができる。
【0056】
いくつかの実施態様においては、低クロム又は非クロム合金は、残部のFeと共に配合された特定の組成(重量%基準)によって表され得る。表1に記載の合金は、コンピューターによる冶金を用いて同定されたものであり、実験的な製造に成功している。いくつかの実施態様においては、表1の合金は、最終溶接化学組成を表している。これらの合金は、本開示における特定の熱力学的及び微細構造的な実施態様に合致している。表1中には、硬度及びASTM G65 procedure Aに準拠した摩耗試験の結果が含まれており、これらについては後述する。
【0057】
【表1】
[この文献は図面を表示できません]
【0058】
いくつかの実施態様においては、低クロム又は非クロム合金は、化学組成の範囲で表され得る。この範囲は、ワイヤー又はパウダーを製造するために用いられる供給原料化学組成で表されてもよく、最終合金化学組成で表されてもよい。例えば、いくつかの実施態様においては、合金は、残部の鉄、混じり物、及びクロムベアリング基材での希釈からのクロムと共に、以下の組成(重量%基準)にて得ることができる。
B:0.8〜4(又は、約0.8〜約4)、
C:0〜3(又は、約0〜約3)、
Cr:0〜3(又は、約0〜約3)、
Mo+W:2.1〜25(又は、約2.1〜約25)、
Ni:0〜5(又は、約0〜約5)、
V:0〜20(又は、約0〜約20)
もしくは
B:0.5〜4(又は、約0.5〜約4)、
C:0〜3(又は、約0〜約3)、
Cr:0〜3(又は、約0〜約3)、
Mo+W:2.1〜25(又は、約2.1〜約25)、
V:0〜20(又は、約0〜約20)
【0059】
いくつかの実施態様においては、チタン、ニオブ、ジルコニウム、タンタル、及び/又はハフニウムが、1:1(又は、1:1近く、又は、約1:1)のモル比でバナジウムと置き換えられ得る。いくつかの実施態様においては、バナジウム、チタン、ニオブ、ジルコニウム、タンタル、及び/又はハフニウムの総量が0〜20(又は、約0〜約20)である。これらの元素はいずれも、強力な、炭化物/ホウ化物形成材であり、微細構造的形態及び摩耗性能をさらに改善するために、区別なく用いられ得る。
【0060】
いくつかの実施態様においては、合金はさらに、残部の鉄と共に、以下の組成(重量%基準)からなり得る。
B:0.9〜1.8(又は、約0.9〜約1.8)、
C:1.0〜2.2(又は、約1.0〜約2.2)、
Cr:0〜1.0(又は、約0〜約1.0)、
Mo:6〜14.0(又は、約6.0〜約14.0)、
Ni:0〜2(又は、約0〜約2)、及び
V:6.0〜9.0(又は、約6.0〜約9.0)
【0061】
いくつかの実施態様においては、合金はさらに、残部の鉄と共に、以下の組成(重量%基準)からなり得る。
B:0.95〜1.4(又は、約0.95〜約1.4)、
C:1.4〜2.0(又は、約1.4〜約2.0)、
Cr:0〜0.5(又は、約0〜約0.5)、
Mo:9.0〜14.0(又は、約9.0〜約14.0)、
Ni:0〜2(又は、約0〜約2)、及び
V:6.0〜8.5(又は、約6.0〜約8.5)
【0062】
いくつかの実施態様においては、合金はさらに、残部の鉄と共に、以下の組成(重量%基準)からなり得る。
B:0.3〜0.95(又は、約0.3〜約0.95)、
C:1.2〜2.1(又は、約1.2〜約2.1)、
Cr:0〜3(又は、約0〜約3)、
Mo:3.5〜9.0(又は、約3.5〜約9.0)、
Ni:0〜3(又は、約0〜約3)、及び
V:4.0〜9(又は、約4.0〜約9)
【0063】
いくつかの実施態様においては、合金はさらに、残部の鉄と共に、以下の組成(重量%基準)からなり得る。
B:1.6〜2.2(又は、約1.6〜約2.2)、
C:2.0〜2.8(又は、約2.0〜約2.8)、
Cr:0〜3(又は、約0〜約3)、
Mn:0〜4(又は、約0〜約4)、
Mo:12.5〜19.5(又は、約12.5〜約19.5)、
Ni:0〜4(又は、約0〜約4)、
Si:0〜3(又は、約0〜約3)、及び
V:8.0〜14.0(又は、約8.0〜約14)
【0064】
いくつかの実施態様においては、合金はさらに、残部の鉄と共に、以下の組成(重量%基準)からなり得る。
B:0.6〜2.4(又は、約0.6〜約2.4)
C:1.6〜3(又は、約1.6〜約3)
Mo:5.5〜20(又は、約5.5〜約20)
V:6.5〜14(又は、約6.5〜約14)
【0065】
いくつかの実施態様においては、合金はさらに、残部の鉄と共に、以下の組成(重量%基準)からなり得る。
Cr:0〜3(又は、約0〜約3)
Mn:0〜3(又は、約0〜約3)
Ni:0〜3(又は、約0〜約3)
Si:0〜1.5(又は、約0〜約3)
【0066】
いくつかの実施態様においては、合金は、残部の鉄と共に、以下の組成(重量%基準)からなり得る。
B:1.6〜2.3(又は、約1.6〜約2.3)
C:2〜3(又は、約2〜約3)
Cr:0〜3(又は、約0〜約3)
Mo:13〜20(又は、約13〜約20)
Mn:0〜3(又は、約0〜約3)
Ni:0〜3(又は、約0〜約3)
Si:0〜1.5(又は、約0〜約1.5)
V:8〜14(又は、約8〜約14)
【0067】
いくつかの実施態様においては、Bに対する(Mo+1.9×W)の重量比が、6と10.25との間(又は、約6と約10.25との間)であればよい。いくつかの実施態様においては、Bに対する(Mo+1.9×W)の重量比が、7.75と10との間(又は、約7.75と約10との間)であればよい。
【0068】
いくつかの実施態様においては、脱酸素剤として作用するように、及び融解物の特性を修飾するように、マンガン、ケイ素、チタン、及び/又はアルミニウムが、前記組成のいずれかに添加されてよい。一般に、5重量%未満(又は、約5重量%未満)のマンガン、ケイ素、及び/又はアルミニウムが添加されてよい。炭化物を形成させるために、さらなるチタンが添加され得る。いくつかの実施態様においては、6重量%未満(又は、約6重量%未満)のチタンが添加され得る。
【0069】
前記複数の段落で記載の全ての組成において定義されるFe含量は、前記のとおり、組成の残部であればよいか、又はその代わりに、該組成の残部は、Fe及び他の元素からなればよい。いくつかの実施態様においては、該残部は、本質的にFeからなればよく、付随的な混じり物を含んでいてもよい。
【0070】
いくつかの実施態様においては、ここに開示されている合金は、PTA又はレーザーでの金属被覆のための、及び最終部品への他の粉末冶金加工のための、噴霧パウダーへと製造されてよい。これらのパウダーそのものは、表2に示す化学組成によって充分に記載されている。表2の合金及びこれらの合金からの溶接物は、本開示における熱力学的な、微細構造的な、性能的な、及びその他の実施態様の少なくともいくつかに合致している。溶接加工には、冶金的結合を達成するために、基材材料での希釈を含めることができる。その結果、溶接物の化学組成は、前記リストから変化しているかも知れないが、まだ、後述する基準のいくつか又は全てを満足し得る。
【0071】
【表2】
[この文献は図面を表示できません]
【0072】
いくつかの実施態様においては、溶接のために、又は他の工程用の供給原料として用いるために、固体もしくは硬化ワイヤーへと製造された合金は、特定の化学組成で表されてよい。表3に、製造された、本開示の特定基準のいくつか又は全てに合致し得る硬化ワイヤーを示す。前記のとおり、溶接されると、基材での希釈がある程度関与されるかも知れない。鋼及び/又は他の鉄系基材上に溶接されたとき、特定されたかつ希釈された組成によってこれらの合金が記載され、該組成は、本開示における他のいずれかに記載の熱力学的及び微細構造的実施態様に合致する。希釈の典型的な範囲は、0%〜60%(又は、約0%〜約60%)であり得る。
【0073】
【表3】
[この文献は図面を表示できません]
【0074】
いくつかの実施態様においては、本開示における合金の溶接堆積物はまた、種々の分光学的技術にて直接的に測定した特定組成によって表されてもよい。表4に、グロー放電分光分析法(GDS)にて測定した、基材上の堆積物としての合金化学組成を挙げる。該合金化学組成は、本開示における熱力学的な、微細構造的な、及びその他の実施態様のいくつかもしくは全てに合致し得る。種々の要因に依存している精度を有する分光学的技術のいずれかにおいて、各元素について得られた値に関与する、誤差等のある程度の不正確さが存在する。
【0075】
【表4】
[この文献は図面を表示できません]
【0076】
いくつかの実施態様においては、本開示における合金の溶接堆積物はまた、種々の分光学的技術にて直接的に測定した特定組成によって表されてもよい。表5に、本開示における基準に該当する合金化学組成を挙げる。これらの化学組成は、ICP、Leco C、及び/又はXRFの分光学的技術を用いて測定される。種々の要因に依存している精度を有する分光学的技術のいずれかにおいて、各元素について得られた値に関与する、誤差等のある程度の不正確さが存在する。
【0077】
【表5】
[この文献は図面を表示できません]
【0078】
いくつかの実施態様においては、本開示における合金は、塊状プロセスによって溶接されてよい。これらの合金を、名目上のパウダー組成及び最終化学組成にて、表6に示す。本プロセスの実施態様においては、その塊状化学組成が目的とする(最終)化学組成となるように、パウダー合金が用いられるか、又はパウダーが他の合金パウダー(類)から配合される。該パウダーは基材上に堆積され、鋼製ワイヤーが、該パウダー及び基材の上面に溶接され得る。このように、最終化学組成は、用いる溶接棒のいずれかと併せて、パウダー、基材、及び/又は鋼製ワイヤーの組み合わせであってよい。これにより、その溶接化学組成、微細構造、性能、及び熱力学性が、用いられたパラメータ及びパウダーの化学組成によって決定され得る、溶接堆積物が生産される。これらの特性を変化させる主な溶接パラメータは、ワイヤーに対するパウダーの比と、基材での溶接溜りの希釈とである。記載されたパウダーを用いる際の、ワイヤーに対するパウダーの比は、0.6:1〜2.2:1(又は、約0.6:1〜約2.2:1)の範囲であればよい。希釈は、0%〜50%(又は、約0%〜約50%)の範囲であればよい。
【0079】
【表6】
[この文献は図面を表示できません]
【0080】
このように、前記表1〜6に示された組成は、パウダーそのもの、他の材料(ワイヤー、基材等)と組み合わされたパウダー、ワイヤー、キャスティングの組成、又は溶接物そのものの最終組成であることができ、これらの組成は、特別なアプリケーションに限定されない。
【0081】
<合金添加元素の説明>
本開示において、後述する種々の熱力学的及び微細構造的基準に合致させるために、ある特定の合金添加元素が用いられてよい。ここに記載の合金添加元素は、本発明を限定することを目的とするものではなく、例示として扱われるものである。
【0082】
本開示の実施態様により、特定タイプのホウ化物の形成が認められる。ホウ素は、合金においてホウ化物を形成するのに必要な合金添加元素である。ホウ化物、特に、鉄合金系にて生じる遷移金属ホウ化物は、鉄マトリクス相よりも硬質になり得る。より硬質な相を有することにより、摩耗性能が向上し、本開示の合金の実施態様が、ハードフェーシングアプリケーションに特に適するようになる。これらのホウ化物は、ほぼ全体的に鉄及びホウ素からなる前記Wallinに記載のホウ化物とは異なる。
【0083】
大半が鉄及びホウ素からなるホウ化物とは異なる化学組成、構造、及び特性を有する複合ホウ化物を形成するのに充分な量で、タングステン及び/又はモリブデンが合金に添加され得る。これらの複合ホウ化物の特性には、以下のものが含まれ得る。
1)より低いホウ化物相分率及びより高い靱性を備え、同等の摩耗性能を維持しながらの、より高い硬度
2)それ程、さらに靱性を向上させる脆化形態ではない、ロッド様相の不在
3)合金に存在する特定タイプのホウ化物に対して詳細な制御が可能な熱力学的に有利な相
【0084】
前記3つの合金添加元素は、単独で、本開示におけるある特定の実施態様の微細構造的及び熱力学的基準に合致するのに充分である。しかしながら、材料の特性を修飾するための、及び/又は、製造性及び加工性を向上させるための種々の理由で、さらなる合金添加元素が添加されてもよい。
【0085】
炭素は、主に次の2つの理由で添加される。
1)炭素は、フェライト、オーステナイト、パーライト、及びベイナイトを含む他のマトリクス系よりも硬質なマルテンサイトマトリクスの形成を促進させる。
2)炭素は、遷移金属と組み合わされて、摩耗性能を向上させる炭化物を形成し得る。
【0086】
バナジウム、チタン、ニオブ、ジルコニウム、ハフニウム、タンタル、及びタングステンは、炭素に加えて合金に添加されてよい。これらの元素は、炭素と組み合わされて、MC型炭化物を形成する。該MC型炭化物は、単離形態を形成し、極めて硬質であり、その結果、強靭な耐摩耗性合金となる。これに対して、鉄及び/又はクロム等によって形成される他の炭化物は、単離形態を形成せず、前記MC型炭化物よりも非常に軟質である。前記MC型炭化物はまた、凝固の間に、広範囲の凝固条件に亘って液体中の炭素量の制御が可能である充分な高温状態において、形成される。これにより、脆化ホウ炭化物相の除去と、合金性能のさらなる制御とが認められる。
【0087】
本開示のいくつかの実施態様においては、バナジウムは、チタン、ニオブ、ジルコニウム、ハフニウム、タンタル、及び/又はタングステンと比較して、炭化物形成材として優先的に使用されてよい。これにより、主にバナジウムを含むMC型炭化物は、粘度が向上する低温で形成される傾向があるので、高温での液状合金の流動性が向上することが認められる。これにより、合金をより容易に微粒子化してパウダーとすること、溶接の間に向上したビーズ形態とすること、及び、より容易にキャスティングすることが認められる。
【0088】
異なる温度で起こる種々の熱処理におけるオーステナイト化工程を見越して、FCC−BCC遷移温度を修飾するために、ニッケル及びマンガンを合金に添加してよい。ニッケルはまた、凝固の間のパーライト、フェライト、及びベイナイトの形成を遅くして、低冷却速度でのマルテンサイトマトリクスを認める焼入性を向上させる。
【0089】
ケイ素、マンガン、アルミニウム、及び/又はチタンは、酸素が存在する種々のプロセスで利用される際に、合金に対して、性能を向上させ、多孔性を回避する脱酸素効果を有する。
【0090】
ニッケル、ケイ素、マンガン、バナジウム、モリブデン、ホウ素、炭素、及び銅はいずれも、マトリクスの炭素当量を増加させることにより、合金の焼入性を向上させることができる。
【0091】
<熱力学的基準>
本開示の合金の実施態様は、ある特定の平衡熱力学的基準によって充分に説明され得る。前記合金は、開示された熱力学的基準のいくつか又は全てに合致し得る。
【0092】
いくつかの実施態様においては、熱力学的基準は、その金属成分が15重量%以上(又は、約15重量%以上)のW+Moを含む、遷移金属のホウ化物及びホウ炭化物の総モル分率である。いくつかの実施態様においては、熱力学的基準は、その金属成分が25重量%以上(又は、約25%以上)のW+Moを含む、遷移金属のホウ化物及びホウ炭化物の総モル分率である。いくつかの実施態様においては、熱力学的基準は、その金属成分が50重量%以上(又は、約50重量%以上)のW+Moを含む、遷移金属のホウ化物及びホウ炭化物の総モル分率である。
【0093】
いくつかの実施態様においては、熱力学的基準は、その金属成分が15重量%以上(又は、約15重量%以上)のTi+W+Mo+Vを含む、遷移金属のホウ化物及びホウ炭化物の総モル分率である。いくつかの実施態様においては、熱力学的基準は、その金属成分が25重量%以上(又は、約25%以上)のTi+W+Mo+Vを含む、遷移金属のホウ化物及びホウ炭化物の総モル分率である。いくつかの実施態様においては、熱力学的基準は、その金属成分が50重量%以上(又は、約50重量%以上)のTi+W+Mo+Vを含む、遷移金属のホウ化物及びホウ炭化物の総モル分率である。
【0094】
この基準を「複合ホウ化物」と略するであろう。複合ホウ化物のモル分率が増加すると、合金の摩耗性能が向上する結果となる。これらの複合ホウ化物相は、主に鉄及び/又はクロムからなる金属成分を有するホウ化物よりも硬質なので、同等な摩耗性能を達成するためには、より低い相分率が要求される。例えば、鉄及び/又はクロムのホウ化物は1700HV(又は、約1700HV)の硬度を有するであろうが、ここに開示のホウ化物は2000HVを超える(又は、2000HVを超える)硬度を有し得る。殆どの合金において、靱性は逆に、ホウ化物相分率と相関し、よって、より低い分率で同等の摩耗性能を提供することは利点である。
【0095】
複合ホウ化物モル分率は、平衡での全てのホウ化物の合計として測定される。本開示において、複合ホウ化物モル分率及び化学組成は、平衡凝固図中、1300K(又は、約1300K)で測定される。固体鉄マトリクスにおけるホウ素の溶解度は非常に低いので、1300Kは、実際の現相分率の非常に近い近似値である。化学的要求に合致するかも知れない相は、MB、M、及びBMを含んでよい。図1において、複合ホウ化物相分率は、1300Kで、M[101]のモル分率として測定して、15.6%である。Mの金属成分は、〜74重量%のMoを含み、化学組成の限定を満足する。図1における合金は、最も特定の複合ホウ化物モル分率の実施態様に合致する。
【0096】
これに対して、Wallinに記載された非クロム溶接堆積物は、この基準の実施態様に合致しない。この合金の凝固図を図3に示す。ホウ化物及びホウ炭化物相は全て、W+Moが15重量%未満である。
【0097】
いくつかの実施態様においては、合金の複合ホウ化物モル分率は、5%以上(又は、約5%以上)であり得る。いくつかの実施態様においては、合金の複合ホウ化物モル分率は、10%以上(又は、約10%以上)であり得る。いくつかの実施態様においては、合金の複合ホウ化物モル分率は、15%以上(又は、約15%以上)であり得る。いくつかの実施態様においては、合金の複合ホウ化物モル分率は、5%と50%との間(又は、約5%と約45%との間)であり得る。いくつかの実施態様においては、合金の複合ホウ化物モル分率は、10%と35%との間(又は、約10%と約35%との間)であり得る。いくつかの実施態様においては、合金の複合ホウ化物モル分率は、10%と25%との間(又は、約10%と約25%との間)であり得る。いくつかの実施態様においては、合金の複合ホウ化物モル分率は、5%と45%との間(又は、約5%と約45%との間)であり得る。いくつかの実施態様においては、合金の複合ホウ化物モル分率は、5%と30%との間(又は、約5%と約30%との間)であり得る。いくつかの実施態様においては、合金の複合ホウ化物モル分率は、5%と25%との間(又は、約5%と約25%との間)であり得る。いくつかの実施態様においては、合金の複合ホウ化物モル分率は、7.5%と30%との間(又は、約7.5%と約30%との間)であり得る。いくつかの実施態様においては、合金の複合ホウ化物モル分率は、7.5%と25%との間(又は、約7.5%と約25%との間)であり得る。いくつかの実施態様においては、合金の複合ホウ化物モル分率は、10%と30%との間(又は、約10%と約30%との間)であり得る。いくつかの実施態様においては、合金の複合ホウ化物モル分率は、10%と25%との間(又は、約10%と約25%との間)であり得る。いくつかの実施態様においては、合金の複合ホウ化物モル分率は、12.5%と25%との間(又は、約12.5%と約25%との間)であり得る。いくつかの実施態様においては、合金の複合ホウ化物モル分率は、12.5%と20%との間(又は、約12.5%と約20%との間)であり得る。
【0098】
いくつかの実施態様においては、熱力学的基準は、単離炭化物のモル分率である。前記単離炭化物の例には、以下の元素:V、Ti、Nb、Zr、Hf、W、Moの1つ又はそれ以上を有するMC型炭化物が含まれる。これらの元素から形成される炭化物は、合金の靱性に対する影響を低減することが可能な、不連続で単離された形態となり得る。M、M23、及びMCは、単離形態とならない炭化物の例である。単離炭化物分率が上昇することにより、合金を脆化させることなく、摩耗性能の向上が認められる。
【0099】
単離炭化物のモル分率は、平衡での、前記組成に従う炭化物相全ての合計として測定される。この基準は、1300Kで測定される。図1の合金において、唯一の単離炭化物はVCであり、該単離炭化物[102]のモル分率は、14.1%である。
【0100】
いくつかの実施態様においては、単離炭化物モル分率は、0%(又は、約0%)である。いくつかの実施態様においては、単離炭化物モル分率は、5%以上及び40%未満(又は、約5%以上及び約40%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、単離炭化物モル分率は、10%以上及び40%未満(又は、約10%以上及び約40%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、単離炭化物モル分率は、15%以上及び40%未満(又は、約15%以上及び約40%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、単離炭化物モル分率は、10%以上及び30%未満(又は、約10%以上及び約30%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、単離炭化物モル分率は、5%以上及び45%未満(又は、約5%以上及び約45%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、単離炭化物モル分率は、5%以上及び30%未満(又は、約5%以上及び約30%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、単離炭化物モル分率は、5%以上及び25%未満(又は、約5%以上及び約25%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、単離炭化物モル分率は、5%以上及び20%未満(又は、約5%以上及び約20%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、単離炭化物モル分率は、7.5%以上及び30%未満(又は、約7.5%以上及び約30%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、単離炭化物モル分率は、7.5%以上及び25%未満(又は、約7.5%以上及び約25%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、単離炭化物モル分率は、10%以上及び30%未満(又は、約10%以上及び約30%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、単離炭化物モル分率は、10%以上及び25%未満(又は、約10%以上及び約25%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、単離炭化物モル分率は、12.5%以上及び25%未満(又は、約12.5%以上及び約25%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、単離炭化物モル分率は、12.5%以上及び20%未満(又は、約12.5%以上及び約20%未満)であり得る。
【0101】
いくつかの実施態様においては、単離炭化物の大部分は、金属成分としてバナジウムを含んでよい。これらの単離炭化物は、パウダー、キャスティング、及び他の成分の製造を促進する、より低い温度で形成するMC型炭化物(ここで、Mは、50%以上(又は、約50%以上)のバナジウムを含む)と定義される、バナジウム炭化物として知られる。バナジウムはまた、その耐摩耗性への貢献度に関連して、費用効果の高い合金添加元素である。
【0102】
いくつかの実施態様においては、バナジウム炭化物モル分率は、0%(又は、約0%)である。いくつかの実施態様においては、バナジウム炭化物モル分率は、5%以上及び40%未満(又は、約5%以上及び約40%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、バナジウム炭化物モル分率は、10%以上及び40%未満(又は、約10%以上及び約40%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、バナジウム炭化物モル分率は、15%以上及び40%未満(又は、約15%以上及び約40%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、バナジウム炭化物モル分率は、10%以上及び30%未満(又は、約10%以上及び約30%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、バナジウム炭化物モル分率は、5%以上及び45%未満(又は、約5%以上及び約45%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、バナジウム炭化物モル分率は、5%以上及び30%未満(又は、約5%以上及び約30%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、バナジウム炭化物モル分率は、5%以上及び25%未満(又は、約5%以上及び約25%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、バナジウム炭化物モル分率は、5%以上及び20%未満(又は、約5%以上及び約20%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、バナジウム炭化物モル分率は、7.5%以上及び30%未満(又は、約7.5%以上及び約30%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、バナジウム炭化物モル分率は、7.5%以上及び25%未満(又は、約7.5%以上及び約25%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、バナジウム炭化物モル分率は、10%以上及び30%未満(又は、約10%以上及び約30%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、バナジウム炭化物モル分率は、10%以上及び25%未満(又は、約10%以上及び約25%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、バナジウム炭化物モル分率は、12.5%以上及び25%未満(又は、約12.5%以上及び約25%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、バナジウム炭化物モル分率は、12.5%以上及び20%未満(又は、約12.5%以上及び約20%未満)であり得る。
【0103】
次の平衡熱力学的基準は、総硬質相モル分率である。この場合の硬質相は、ホウ化物、ホウ炭化物、チッ化物、炭化物、酸化物、ケイ化物、ラーベス相、アルミニウム化物、及び炭チッ化物である。いくつかの場合、この合金スペースにおいて、前記複合ホウ化物を補足するために、さらなる硬質相を有することは有利であり得る。これにより、微細構造、熱力学的性質、及び合金特性の微調整が認められる。例えば、硬質相分率をさらに増加させ、その結果、複合ホウ化物の形態を実質変化させることなく、合金の摩耗性能を向上させるために、炭化物が微細構造に添加されてもよい。これにより、複合ホウ化物単独による摩耗性能よりもさらに一層良好な摩耗性能が、合金において認められる。
【0104】
総硬質相モル分率は、平衡での、全ての硬質相の合計として、1300Kで測定される。図1において、これは、1300Kで存在する2つの硬質相、すなわち、15.6%のM[101]及び14.1%のVC[102]、の合計として計算される。図1における合金の総硬質相モル分率は、29.7%であり、いくつかの実施態様に合致する。
【0105】
いくつかの実施態様においては、総硬質相モル分率は、5%以上(又は、約5%以上)であり得る。いくつかの実施態様においては、総硬質相モル分率は、10%以上であり得る。いくつかの実施態様においては、総硬質相モル分率は、15%以上(又は、約15%以上)であり得る。いくつかの実施態様においては、総硬質相モル分率は、20%以上(又は、約20%以上)である。いくつかの実施態様においては、総硬質相モル分率は、25%以上(又は、約25%以上)であり得る。いくつかの実施態様においては、総硬質相モル分率は、30%以上(又は、約30%以上)であり得る。いくつかの実施態様においては、総硬質相モル分率は、35%以上(又は、約35%以上)であり得る。
【0106】
次の平衡熱力学的基準は、脆化硬質相のモル分率である。本開示において、脆化硬質相は、固相線以前に形成する、FeB、M23(C,B)、M(C,B)、及びM(C,B)(ここで、Mは、Feが75重量%以上(又は、約75重量%以上)である)の合計である。これらの硬質相は、凝固の間に液体から形成されるときに、衝撃性能及び靱性を低減させながら合金を脆化させてしまう、相互関連した形態を形成する。
【0107】
脆化硬質相のモル分率は、平衡での、FeB、M23(C,B)、M(C,B)、及びM(C,B)の合計として、固相線温度で測定される。図1において、固相線でこれらの相は存在しないので、値は0%である。図2において、この基準は、固相線でのM(C,B)[201]のモル分率、16%である。ここで、固相線は、液相[202]が存在する最低温度よりも下の、1つの温度ステップとして定義される。この合金において、液相[202]温度は1300Kである。
【0108】
これに対して、Wallin合金「Wallin #2」は、図3に示すように、約57%の総脆化硬質相分率を有する。これは、1300Kで測定されたFeB[301]及びM(C,B)[302]のモル分率の合計として計算される。これらの値は、各々35%及び22%である。
【0109】
いくつかの実施態様においては、脆化硬質相モル分率は、10%以下(又は、約10%以下)であり得る。いくつかの実施態様においては、脆化硬質相モル分率は、5%以下(又は、約5%以下)であり得る。いくつかの実施態様においては、脆化硬質相モル分率は、3%以下(又は、約3%以下)であり得る。いくつかの実施態様においては、脆化硬質相モル分率は、0%(又は、約0%)であり得る。
【0110】
次の平衡熱力学的基準は、FCC−BCC遷移温度である。オーステナイト(FCC)とフェライト(BCC)との間のこの遷移温度は、種々の熱処理に供されたときに、合金がどのように振る舞うかを示す。一例は、鋼の焼入れ及び焼戻し等の、合金が鋼基材上へのコーティングとして適用され、引き続き鋼基材が硬化されるときである。鋼の硬化のための熱サイクルは、しばしば、オーステナイトからマルテンサイト及び/又はベイナイトへの変化を引き起こす。これは、オーステナイト化工程において、合金を800℃と1000℃との間まで加熱し、その後、油、水、又は空気にて焼入れすることによってなされ得る。このプロセスの成功は、加熱の間の、マトリクスのオーステナイトへの完全な変化に依存し得る。もし、FCC−BCC遷移温度が、熱処理サイクルのオーステナイト化温度に近いか又は高ければ、マトリクスのオーステナイトへの完全な変化は起こらず、後続の焼入れによってマルテンサイト又はベイナイトが形成されない。
【0111】
FCC−BCC遷移温度は、平衡凝固条件下で、BCC相(フェライト)の第1形成温度よりも上の、1つの温度工程として定義される。図1において、FCC−BCC遷移温度は1200K[103]であり、図2においては、1050K[203]である。
【0112】
いくつかの実施態様においては、FCC−BCC遷移温度は、1350K以下(又は、約1350K以下)であり得る。いくつかの実施態様においては、FCC−BCC遷移温度は、1300K以下(又は、約1300K以下)であり得る。いくつかの実施態様においては、FCC−BCC遷移温度は、1200K以下(又は、約1200K以下)であり得る。いくつかの実施態様においては、FCC−BCC遷移温度は、1150K以下(又は、約1150K以下)であり得る。いくつかの実施態様においては、FCC−BCC遷移温度は、1100K以下(又は、1100K以下)であり得る。いくつかの実施態様においては、FCC−BCC遷移温度は、1050K以下(又は、約1100K以下)であり得る。
【0113】
次のさらなる平衡熱力学的基準は、合金の融解幅である。図1において、該融解幅は、第1硬質相形成温度[104]とマトリクスの液相線温度[105]との差である。もし、炭化物がマトリクスの凝固に対して上昇した温度で液体から析出するのならば、これによって、これらに限定されないが、パウダー詰まり、粘度上昇、所望のパウダーサイズでの低収率、及び不適切な粒子形状を含む種々の問題が、パウダー製造プロセスにおいて生じる。このように、極めて硬質な粒子の形成温度を低下させることは有利であり得る。
【0114】
合金の硬質相形成温度は、硬質相が合金中に熱力学的に存在している最も高い温度として定義される。この温度は、鉄マトリクス相の液相線温度と比較され、すなわち、オーステナイトなのか又はフェライトなのかが検討され、前記融解幅の計算に用いられる。パウダー製造プロセスにとっては、前記融解幅を最小化することが望ましい。図1において、硬質相(M)形成温度[104]は1650Kで、液相線温度[105]は1550Kであり、融解幅は100Kである。この値は、最も特定の実施態様の範囲内である。図2における合金では、融解幅([204]と[205]との差)は250Kである。
【0115】
いくつかの実施態様においては、融解幅は、250K以下(又は、約250K以下)であり得る。いくつかの実施態様においては、融解幅は、200K以下(又は、約200K以下)であり得る。いくつかの実施態様においては、融解幅は、150K以下であり得る。いくつかの実施態様においては、融解幅は、100K以下(又は、約100K以下)であり得る。
【0116】
いくつかの実施態様においては、前記MC型炭化物において、ホウ素は、いくつかの炭素と置き換えられていてもよい。いくつかの実施態様においては、前記複合ホウ化物相において、炭素は、いくつかのホウ素と置き換えられていてもよい。いくつかの実施態様においては、10%まで(又は、約10%まで)、20%まで(又は、約20%まで)、30%まで(又は、約30%まで)、40%まで(又は、約40%まで)、もしくは50%まで(又は、約50%まで)の量で、炭素はホウ素と置き換えられることができる。
【0117】
以下の表7に、本開示において請求されている43個の合金の化学組成を示す。一方、以下の表8に、特定の熱力学的特徴を示す。また、以下の表7、表8には、本開示の範囲外の2つの合金(Wallin #1及び#2)も含まれる。これらWallin合金は、本開示の特定の熱力学的基準に合致しないことが分かる。
【0118】
【表7】
[この文献は図面を表示できません]
【表8】
[この文献は図面を表示できません]
【0119】
表8に、表7に挙げた合金の特性を示す。表8において、ラベル「1」のカラムには、15重量%以上のMo+Wを含む金属成分を有する複合ホウ化物のモル分率を示す。ラベル「2」のカラムには、25重量%以上のMo+Wを含む金属成分を有する複合ホウ化物のモル分率を示す。ラベル「3」のカラムには、50重量%以上のMo+Wを含む金属成分を有する複合ホウ化物のモル分率を示す。ラベル「4」のカラムには、複合ホウ化物の金属成分におけるMo+Wの重量%を示す。ラベル「5」のカラムには、単離炭化物のモル分率を示す。ラベル「6」のカラムには、バナジウム炭化物のモル分率を示す。ラベル「7」のカラムには、総硬質相モル分率を示す。ラベル「8」のカラムには、FCC−BCC遷移温度を示す。ラベル「9」のカラムには、合金の融解幅を示す。
【0120】
【表9】
[この文献は図面を表示できません]
【表10】
[この文献は図面を表示できません]
【0121】
以下の表9に、前記合金におけるホウ化物相の塊状平衡熱力学的化学組成を示す。
【0122】
【表11】
[この文献は図面を表示できません]
【表12】
[この文献は図面を表示できません]
【0123】
以下の表10及び表11に、本開示の熱力学的実施態様に合致する合金リストについての、化学組成及び熱力学的基準を示す。表10に挙げられた合金は、単離炭化物が、バナジウム炭化物を含むかも知れないが、全体的にはバナジウム炭化物で構成されていないものである。チタン炭化物及びバナジウム炭化物は、潜在的単離炭化物の限定的な例ではない。表11に挙げられた合金は、単離炭化物の全てが、バナジウム炭化物で構成されているものである。
【0124】
表10及び表11において、ラベル「1」のカラムには、15重量%以上のMo+Wを含む金属成分を有する複合ホウ化物のモル分率を示す。ラベル「2」のカラムには、25重量%以上のMo+Wを含む金属成分を有する複合ホウ化物のモル分率を示す。ラベル「3」のカラムには、50重量%以上のMo+Wを含む金属成分を有する複合ホウ化物のモル分率を示す。ラベル「4」のカラムには、複合ホウ化物の金属成分におけるMo+Wの重量%を示す。ラベル「5」のカラムには、単離炭化物のモル分率を示す。ラベル「6」のカラムには、バナジウム炭化物のモル分率を示す。ラベル「7」のカラムには、総硬質相モル分率を示す。ラベル「8」のカラムには、FCC−BCC遷移温度を示す。ラベル「9」のカラムには、合金の融解幅を示す。
【0125】
【表13】
[この文献は図面を表示できません]
【表14】
[この文献は図面を表示できません]
【表15】
[この文献は図面を表示できません]
【表16】
[この文献は図面を表示できません]
【表17】
[この文献は図面を表示できません]
【表18】
[この文献は図面を表示できません]
【表19】
[この文献は図面を表示できません]
【表20】
[この文献は図面を表示できません]
【表21】
[この文献は図面を表示できません]
【表22】
[この文献は図面を表示できません]
【表23】
[この文献は図面を表示できません]
【表24】
[この文献は図面を表示できません]
【表25】
[この文献は図面を表示できません]
【表26】
[この文献は図面を表示できません]
【表27】
[この文献は図面を表示できません]
【表28】
[この文献は図面を表示できません]
【表29】
[この文献は図面を表示できません]
【表30】
[この文献は図面を表示できません]
【表31】
[この文献は図面を表示できません]
【表32】
[この文献は図面を表示できません]
【表33】
[この文献は図面を表示できません]
【表34】
[この文献は図面を表示できません]
【表35】
[この文献は図面を表示できません]
【表36】
[この文献は図面を表示できません]
【表37】
[この文献は図面を表示できません]
【表38】
[この文献は図面を表示できません]
【表39】
[この文献は図面を表示できません]
【表40】
[この文献は図面を表示できません]
【表41】
[この文献は図面を表示できません]
【表42】
[この文献は図面を表示できません]
【表43】
[この文献は図面を表示できません]
【表44】
[この文献は図面を表示できません]
【表45】
[この文献は図面を表示できません]
【表46】
[この文献は図面を表示できません]
【表47】
[この文献は図面を表示できません]
【0126】
【表48】
[この文献は図面を表示できません]
【表49】
[この文献は図面を表示できません]
【表50】
[この文献は図面を表示できません]
【表51】
[この文献は図面を表示できません]
【表52】
[この文献は図面を表示できません]
【表53】
[この文献は図面を表示できません]
【表54】
[この文献は図面を表示できません]
【表55】
[この文献は図面を表示できません]
【表56】
[この文献は図面を表示できません]
【表57】
[この文献は図面を表示できません]
【表58】
[この文献は図面を表示できません]
【表59】
[この文献は図面を表示できません]
【表60】
[この文献は図面を表示できません]
【表61】
[この文献は図面を表示できません]
【表62】
[この文献は図面を表示できません]
【表63】
[この文献は図面を表示できません]
【表64】
[この文献は図面を表示できません]
【表65】
[この文献は図面を表示できません]
【表66】
[この文献は図面を表示できません]
【表67】
[この文献は図面を表示できません]
【表68】
[この文献は図面を表示できません]
【表69】
[この文献は図面を表示できません]
【表70】
[この文献は図面を表示できません]
【表71】
[この文献は図面を表示できません]
【表72】
[この文献は図面を表示できません]
【表73】
[この文献は図面を表示できません]
【表74】
[この文献は図面を表示できません]
【表75】
[この文献は図面を表示できません]
【表76】
[この文献は図面を表示できません]
【表77】
[この文献は図面を表示できません]
【表78】
[この文献は図面を表示できません]
【表79】
[この文献は図面を表示できません]
【表80】
[この文献は図面を表示できません]
【表81】
[この文献は図面を表示できません]
【表82】
[この文献は図面を表示できません]
【表83】
[この文献は図面を表示できません]
【表84】
[この文献は図面を表示できません]
【表85】
[この文献は図面を表示できません]
【表86】
[この文献は図面を表示できません]
【表87】
[この文献は図面を表示できません]
【表88】
[この文献は図面を表示できません]
【表89】
[この文献は図面を表示できません]
【表90】
[この文献は図面を表示できません]
【表91】
[この文献は図面を表示できません]
【表92】
[この文献は図面を表示できません]
【表93】
[この文献は図面を表示できません]
【表94】
[この文献は図面を表示できません]
【表95】
[この文献は図面を表示できません]
【表96】
[この文献は図面を表示できません]
【表97】
[この文献は図面を表示できません]
【表98】
[この文献は図面を表示できません]
【表99】
[この文献は図面を表示できません]
【表100】
[この文献は図面を表示できません]
【表101】
[この文献は図面を表示できません]
【表102】
[この文献は図面を表示できません]
【表103】
[この文献は図面を表示できません]
【表104】
[この文献は図面を表示できません]
【表105】
[この文献は図面を表示できません]
【表106】
[この文献は図面を表示できません]
【表107】
[この文献は図面を表示できません]
【表108】
[この文献は図面を表示できません]
【表109】
[この文献は図面を表示できません]
【表110】
[この文献は図面を表示できません]
【表111】
[この文献は図面を表示できません]
【表112】
[この文献は図面を表示できません]
【表113】
[この文献は図面を表示できません]
【表114】
[この文献は図面を表示できません]
【表115】
[この文献は図面を表示できません]
【表116】
[この文献は図面を表示できません]
【表117】
[この文献は図面を表示できません]
【表118】
[この文献は図面を表示できません]
【表119】
[この文献は図面を表示できません]
【表120】
[この文献は図面を表示できません]
【表121】
[この文献は図面を表示できません]
【表122】
[この文献は図面を表示できません]
【表123】
[この文献は図面を表示できません]
【表124】
[この文献は図面を表示できません]
【表125】
[この文献は図面を表示できません]
【表126】
[この文献は図面を表示できません]
【表127】
[この文献は図面を表示できません]
【表128】
[この文献は図面を表示できません]
【表129】
[この文献は図面を表示できません]
【表130】
[この文献は図面を表示できません]
【表131】
[この文献は図面を表示できません]
【表132】
[この文献は図面を表示できません]
【表133】
[この文献は図面を表示できません]
【表134】
[この文献は図面を表示できません]
【表135】
[この文献は図面を表示できません]
【表136】
[この文献は図面を表示できません]
【表137】
[この文献は図面を表示できません]
【表138】
[この文献は図面を表示できません]
【表139】
[この文献は図面を表示できません]
【表140】
[この文献は図面を表示できません]
【表141】
[この文献は図面を表示できません]
【表142】
[この文献は図面を表示できません]
【表143】
[この文献は図面を表示できません]
【表144】
[この文献は図面を表示できません]
【表145】
[この文献は図面を表示できません]
【表146】
[この文献は図面を表示できません]
【表147】
[この文献は図面を表示できません]
【表148】
[この文献は図面を表示できません]
【表149】
[この文献は図面を表示できません]
【表150】
[この文献は図面を表示できません]
【表151】
[この文献は図面を表示できません]
【表152】
[この文献は図面を表示できません]
【表153】
[この文献は図面を表示できません]
【表154】
[この文献は図面を表示できません]
【表155】
[この文献は図面を表示できません]
【表156】
[この文献は図面を表示できません]
【表157】
[この文献は図面を表示できません]
【表158】
[この文献は図面を表示できません]
【表159】
[この文献は図面を表示できません]
【表160】
[この文献は図面を表示できません]
【表161】
[この文献は図面を表示できません]
【表162】
[この文献は図面を表示できません]
【表163】
[この文献は図面を表示できません]
【表164】
[この文献は図面を表示できません]
【表165】
[この文献は図面を表示できません]
【表166】
[この文献は図面を表示できません]
【表167】
[この文献は図面を表示できません]
【表168】
[この文献は図面を表示できません]
【表169】
[この文献は図面を表示できません]
【表170】
[この文献は図面を表示できません]
【表171】
[この文献は図面を表示できません]
【表172】
[この文献は図面を表示できません]
【表173】
[この文献は図面を表示できません]
【表174】
[この文献は図面を表示できません]
【表175】
[この文献は図面を表示できません]
【表176】
[この文献は図面を表示できません]
【表177】
[この文献は図面を表示できません]
【表178】
[この文献は図面を表示できません]
【表179】
[この文献は図面を表示できません]
【表180】
[この文献は図面を表示できません]
【表181】
[この文献は図面を表示できません]
【表182】
[この文献は図面を表示できません]
【表183】
[この文献は図面を表示できません]
【表184】
[この文献は図面を表示できません]
【表185】
[この文献は図面を表示できません]
【表186】
[この文献は図面を表示できません]
【表187】
[この文献は図面を表示できません]
【表188】
[この文献は図面を表示できません]
【表189】
[この文献は図面を表示できません]
【表190】
[この文献は図面を表示できません]
【表191】
[この文献は図面を表示できません]
【表192】
[この文献は図面を表示できません]
【表193】
[この文献は図面を表示できません]
【表194】
[この文献は図面を表示できません]
【表195】
[この文献は図面を表示できません]
【0127】
<微細構造的基準>
いくつかの実施態様においては、前記非クロム合金が、微細構造的基準によって充分に説明され得る。該合金は、開示された微細構造的基準のいくつか又は全てに合致し得る。
【0128】
主な微細構造的基準は、その金属成分が15重量%以上(又は、約15重量%以上)のW+Moを含む、遷移金属のホウ化物及びホウ炭化物の総体積分率である。いくつかの実施態様においては、熱力学的基準は、その金属成分が25重量%以上(又は、約25重量%以上)のW+Moを含む、遷移金属のホウ化物及びホウ炭化物の総体積分率である。いくつかの実施態様においては、熱力学的基準は、その金属成分が50重量%以上(又は、約50重量%以上)のW+Moを含む、遷移金属のホウ化物及びホウ炭化物の総体積分率である。
【0129】
主な微細構造的基準は、その金属成分が15重量%以上(又は、約15重量%以上)のTi+W+Mo+Vを含む、遷移金属のホウ化物及びホウ炭化物の総体積分率である。いくつかの実施態様においては、熱力学的基準は、その金属成分が25重量%以上(又は、約25重量%以上)のTi+W+Mo+Vを含む、遷移金属のホウ化物及びホウ炭化物の総体積分率である。いくつかの実施態様においては、熱力学的基準は、その金属成分が50重量%以上(又は、約50重量%以上)のTi+W+Mo+Vを含む、遷移金属のホウ化物及びホウ炭化物の総体積分率である。
【0130】
この基準を「複合ホウ化物及びホウ炭化物」と略する。複合ホウ化物の体積分率が増加すると、合金の摩耗性能が向上する結果となる。これらの複合ホウ化物相は、主に鉄及び/又はクロムからなる金属成分を有するホウ化物よりも硬質なので、同等な摩耗性能を達成するためには、より低い相分率が要求される。殆どの合金において、靱性は逆に、ホウ化物相分率と相関し、よって、より低い分率で同等の摩耗性能を提供することは利点である。
【0131】
複合ホウ化物体積分率は、前記のごとき化学的要求に合致する全てのホウ化物及びホウ炭化物の合計として測定される。本開示において、複合ホウ化物体積分率は、定量的金属組織学を用いて測定される。化学的要求に合致するかも知れない相は、MB、M、及びBMを含んでいてよい。図4において、複合ホウ化物相分率は、薄く着色したM相[401]の体積分率として測定され、20%である。該複合ホウ化物相の金属成分は、〜25重量%のMoを含み、化学組成の限定を満足する。図1における合金は、最も特定の複合ホウ化物体積分率の実施態様に合致する。
【0132】
これに対して、Wallinに記載された非クロム溶接堆積物は、この基準の実施態様に合致しない。この合金の顕微鏡写真を図5に示す。鉄ホウ化物[501]とニオブホウ炭化物[502]とを含むホウ化物及びホウ炭化物相は全て、W+Moが15重量%未満である。この堆積物は、微細構造中に大きなホウ炭化物及び/又はホウ化物相を多数有するので、耐衝撃性及び靱性がより低い。これにより、より低い衝撃性能及びその後のより短い使用寿命が齎される結果となる。
【0133】
いくつかの実施態様においては、合金の複合ホウ化物体積分率は、5%と50%との間(又は、約5%以上)であり得る。いくつかの実施態様においては、合金の複合ホウ化物体積分率は、5%と35%との間(又は、約10%以上)であり得る。いくつかの実施態様においては、合金の複合ホウ化物体積分率は、10%と40%との間(又は、約15%以上)であり得る。いくつかの実施態様においては、合金の複合ホウ化物体積分率は、15%と4%との間(又は、約5%と約45%との間)であり得る。いくつかの実施態様においては、合金の複合ホウ化物体積分率は、10%と35%との間(又は、約10%と約35%との間)であり得る。いくつかの実施態様においては、合金の複合ホウ化物体積分率は、5%と45%との間(又は、約5%と約45%との間)であり得る。いくつかの実施態様においては、合金の複合ホウ化物体積分率は、5%と30%との間(又は、約5%と約30%との間)であり得る。いくつかの実施態様においては、合金の複合ホウ化物体積分率は、5%と25%との間(又は、約5%と約25%との間)であり得る。いくつかの実施態様においては、合金の複合ホウ化物体積分率は、7.5%と30%との間(又は、約7.5%と約30%との間)であり得る。いくつかの実施態様においては、合金の複合ホウ化物体積分率は、7.5%と25%との間(又は、約7.5%と約25%との間)であり得る。いくつかの実施態様においては、合金の複合ホウ化物体積分率は、10%と30%との間(又は、約10%と約30%との間)であり得る。いくつかの実施態様においては、合金の複合ホウ化物体積分率は、10%と25%との間(又は、約10%と約25%との間)であり得る。いくつかの実施態様においては、合金の複合ホウ化物体積分率は、12.5%と25%との間(又は、約12.5%と約25%との間)であり得る。いくつかの実施態様においては、合金の複合ホウ化物体積分率は、12.5%と20%との間(又は、約12.5%と約20%との間)であり得る。
【0134】
次の微細構造的基準は、単離炭化物の体積分率である。前記単離炭化物の例には、その大半が以下の元素:V、Ti、Nb、Zr、Hf、W、Moの1つ又はそれ以上からなるMC型のものが含まれる。これらの元素から形成される炭化物は、合金の靱性に対する影響を低減する、不連続で単離された形態となり得る。このことにより、合金を脆化させることなく、硬質相分率の上昇及び摩耗性能の向上が認められる。これに対して、M23、M、及びMCは、単離形態とならない炭化物の全ての例である。
【0135】
単離炭化物の体積分率は、断面において、前記組成に従う炭化物相全ての合計として測定される。図4の合金において、唯一の単離炭化物は(Mo,V)Cであり、該単離炭化物[402]の体積分率は、13%である。
【0136】
いくつかの実施態様においては、単離炭化物体積分率は、0%(又は、約0%)であり得る。いくつかの実施態様においては、単離炭化物体積分率は、5%以上及び40%未満(又は、約5%以上及び約40%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、単離炭化物体積分率は、10%以上及び40%未満(又は、約10%以上及び約40%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、単離炭化物体積分率は、15%以上及び40%未満(又は、約15%以上及び約40%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、単離炭化物体積分率は、10%以上及び30%未満(又は、約10%以上及び約30%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、単離炭化物体積分率は、5%以上及び45%未満(又は、約5%以上及び約45%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、単離炭化物体積分率は、5%以上及び30%未満(又は、約5%以上及び約30%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、単離炭化物体積分率は、5%以上及び25%未満(又は、約5%以上及び約25%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、単離炭化物体積分率は、5%以上及び20%未満(又は、約5%以上及び約20%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、単離炭化物体積分率は、7.5%以上及び30%未満(又は、約7.5%以上及び約30%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、単離炭化物体積分率は、7.5%以上及び25%未満(又は、約7.5%以上及び約25%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、単離炭化物体積分率は、10%以上及び30%未満(又は、約10%以上及び約30%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、単離炭化物体積分率は、10%以上及び25%未満(又は、約10%以上及び約25%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、単離炭化物体積分率は、12.5%以上及び25%未満(又は、約12.5%以上及び約25%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、単離炭化物体積分率は、12.5%以上及び20%未満(又は、約12.5%以上及び約20%未満)であり得る。
【0137】
いくつかの実施態様においては、単離炭化物の大部分は、金属成分としてバナジウムを含んでよい。これらの単離炭化物は、パウダー、キャスティング、及び他の成分の製造を促進する、より低い温度で形成するMC型炭化物(ここで、Mは、50%以上(又は、約50%以上)のバナジウムを含む)と定義される、バナジウム炭化物として知られる。バナジウムはまた、その耐摩耗性への貢献度に関連して、費用効果の高い合金添加元素である。
【0138】
バナジウム炭化物の体積分率は、前記化学組成の限定に合致するMC型炭化物全ての合計として測定される。この基準は、X線回折及び定量的顕微鏡観察を含む、体積分率を決定するための種々の技術を用いて測定される。
【0139】
いくつかの実施態様においては、バナジウム炭化物体積分率は、0%(又は、約0%)であり得る。いくつかの実施態様においては、バナジウム炭化物体積分率は、5%以上及び40%未満(又は、約5%以上及び約40%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、バナジウム炭化物体積分率は、10%以上及び40%未満(又は、約10%以上及び約40%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、バナジウム炭化物体積分率は、15%以上及び40%未満(又は、約15%以上及び約40%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、バナジウム炭化物体積分率は、10%以上及び30%未満(又は、約10%以上及び約30%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、バナジウム炭化物体積分率は、5%以上及び45%未満(又は、約5%以上及び約45%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、バナジウム炭化物体積分率は、5%以上及び30%未満(又は、約5%以上及び約30%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、バナジウム炭化物体積分率は、5%以上及び25%未満(又は、約5%以上及び約25%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、バナジウム炭化物体積分率は、5%以上及び20%未満(又は、約5%以上及び約20%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、バナジウム炭化物体積分率は、7.5%以上及び30%未満(又は、約7.5%以上及び約30%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、バナジウム炭化物体積分率は、7.5%以上及び25%未満(又は、約7.5%以上及び約25%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、バナジウム炭化物体積分率は、10%以上及び30%未満(又は、約10%以上及び約30%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、バナジウム炭化物体積分率は、10%以上及び25%未満(又は、約10%以上及び約25%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、バナジウム炭化物体積分率は、12.5%以上及び25%未満(又は、約12.5%以上及び約25%未満)であり得る。いくつかの実施態様においては、バナジウム炭化物体積分率は、12.5%以上及び20%未満(又は、約12.5%以上及び約20%未満)であり得る。
【0140】
微細構造的基準は、熱力学的基準と非常に密接に関連し得る。例えば、組成がB:1.4、C:1.9、Mo:14、V:10、Fe:残部の合金では、算出した複合ホウ化物モル分率が17%で、バナジウム炭化物モル分率が18%である。定量走査電子顕微鏡を用いた測定により、複合ホウ化物の体積分率は20%であり、バナジウム炭化物の体積分率は14%であった。
【0141】
次の微細構造的基準は、総硬質相体積分率である。この場合の硬質相は、ホウ化物、ホウ炭化物、チッ化物、炭化物、酸化物、ケイ化物、ラーベス相、アルミニウム化物、及び炭チッ化物である。いくつかの場合、この合金スペースにおいて、前記複合ホウ化物を補足するために、さらなる硬質相を有することは有利であり得る。これにより、微細構造及び合金特性の微調整が認められる。例えば、硬質相分率をさらに増加させ、その結果、複合ホウ化物又は他の相の形態を実質変化させることなく、合金の摩耗性能を向上させるために、炭化物が微細構造に添加されてもよい。これにより、複合ホウ化物又はホウ炭化物単独による摩耗性能よりもさらに一層良好な摩耗性能が、合金において認められる。
【0142】
総硬質相体積分率は、全ての硬質相の合計として測定される。ここで、硬質相は、1000HV以上の硬度を有するいずれかの相である。図4において、これは、最も明るい相[401]の値20%と最も暗い相(Mo,V)C[402]の値13%との合計として計算される。図4における合金の総硬質相体積分率は、33%であり、いくつかの実施態様に合致する。
【0143】
いくつかの実施態様においては、総硬質相体積分率は、5%以上(又は、約5%以上)であり得る。いくつかの実施態様においては、総硬質相体積分率は、10%以上(又は、約10%以上)であり得る。いくつかの実施態様においては、総硬質相体積分率は、15%以上(又は、約15%以上)であり得る。いくつかの実施態様においては、総硬質相体積分率は、20%以上(又は、約20%以上)である。いくつかの実施態様においては、総硬質相体積分率は、25%以上(又は、約25%以上)であり得る。いくつかの実施態様においては、総硬質相体積分率は、30%以上(又は、約30%以上)であり得る。いくつかの実施態様においては、総硬質相体積分率は、35%以上(又は、約35%以上)であり得る。
【0144】
次の微細構造的基準は、脆化硬質相の体積分率である。本開示において、脆化硬質相は、固相線以前に形成する、M23(C,B)、M(C,B)、及びM(C,B)(ここで、Mは、Feが75重量%以上(又は、約75重量%以上)である)の合計である。これらの相は、EBSD、XRD、及び/又はEDXによって同定される。これらの硬質相は、衝撃性能及び靱性を低減させながら合金を脆化させてしまう、相互関連した形態を形成する。
【0145】
脆化硬質相の体積分率は、断面において、FeB、M23(C,B)、M(C,B)、及びM(C,B)の合計として測定される。図4において、固相線でこれらの相は存在しないので、値は0%である。
【0146】
いくつかの実施態様においては、脆化硬質相体積分率は、10%以下(又は、約10%以下)であり得る。いくつかの実施態様においては、脆化硬質相体積分率は、5%以下(又は、約5%以下)であり得る。いくつかの実施態様においては、脆化硬質相体積分率は、3%以下(又は、約3%以下)であり得る。いくつかの実施態様においては、脆化硬質相体積分率は、0%(又は、約0%)であり得る。
【0147】
<パウダー製造>
塊状製品の生産又は基材へのコーティングの適用における中間工程として、合金からパウダーを製造することは、しばしば有利である。パウダーは、微粒子化又は他の製造方法によって製造され得る。特別な合金のためのこのようなプロセスの実現可能性は、しばしば、合金の凝固作用と、そして熱力学的特徴とに応じる。
【0148】
PTA、HVOF、レーザー溶接、及び他のパウダー冶金プロセス等のプロセス用のパウダーを重大視するうえで、該パウダーを、高収率で、前記のごとき特定のサイズ範囲で製造し得ることが利点である。前記製造プロセスには、合金の融解物を形成すること、ノズルに該融解物を押し込み、材料のスチームを形成すること、及び、調製された融解物のスチームに水又は空気をスプレーし、凝固させてパウダー形状にすることが含まれ得る。該パウダーはその後、特定のサイズ必要条件に合致しない何らかの粒子を除去するために、篩にかけられる。
【0149】
開示された合金の実施態様により、このようなプロセスで用いられるべきパウダーが、高収率で製造され得る。一方、Wallinに開示されたものや、他の一般的な耐摩耗性材料といった多くの合金は、パウダーへと微粒子化された際には、その熱力学的特性等の特性に起因して、低収率でしか得られないであろう。したがって、これらはパウダー製造に適していない。
【0150】
製造可能性は、一般に、製造プロセスの間に調製されたパウダーの、意図するパウダーサイズ及びその収率によって特徴付けられる。いくつかの実施態様においては、合金は、50%(又は、約50%)もしくはそれ以上の収率で、53μm〜180μm(又は、約53μm〜約180μm)のパウダーサイズ分布のパウダーへと製造され得る。いくつかの実施態様においては、合金は、60%(又は、約60%)もしくはそれ以上の収率で、53μm〜180μm(又は、約53μm〜約180μm)のパウダーサイズ分布のパウダーへと製造され得る。いくつかの実施態様においては、合金は、70%(又は、約70%)もしくはそれ以上の収率で、53μm〜180μm(又は、約53μm〜約180μm)のパウダーサイズ分布のパウダーへと製造され得る。
【0151】
<ワイヤー製造>
GMAW、GTAW、ホットワイヤーGTAW、OAW、SAW、レーザークラッディング、及び他のアプリケーション方法によってハードフェーシングコーティングを保護するための供給原料として、合金からワイヤーを製造することは、しばしば有利である。ハードフェーシングワイヤーは、典型的に、合金パウダーのコア又はフィルの周りに金属片を巻き付ける、コアードワイヤープロセス(cored wire process)を用いて生産される。ワイヤーの最終的な化学組成は、本開示の他の部分で特定の実施態様に一致し得る。
【0152】
このような製造プロセスの代価及び実現可能性は、達成可能なパウダーフィル/金属片比の関数である。この比は、ワイヤーサイズ及び他の要因に基づいて変化する。さらに、異なるワイヤーは、異なるアプリケーションプロセスに用いられてよい。典型的に、これらのプロセス全てにより、適用時に希釈範囲を変化させることができる。
【0153】
本開示における合金は、5%〜50%(又は、約5%〜約50%)の希釈範囲によって特定の熱力学的及び微細構造的実施態様に合致する合金が生産されるであろうワイヤーへと、処方されてよい。いくつかの実施態様においては、5%〜15%(又は、約5%〜約15%)の希釈範囲によって、特定の熱力学的及び微細構造的実施態様に合致する合金が生産されるであろう。いくつかの実施態様においては、10%〜25%(又は、約10%〜約25%)の希釈範囲によって、特定の熱力学的及び微細構造的実施態様に合致する合金が生産されるであろう。いくつかの実施態様においては、15%〜35%(又は、約15%〜約35%)の希釈範囲によって、特定の熱力学的及び微細構造的実施態様に合致する合金が生産されるであろう。いくつかの実施態様においては、20%〜40%(又は、約20%〜約40%)の希釈範囲によって、特定の熱力学的及び微細構造的実施態様に合致する合金が生産されるであろう。いくつかの実施態様においては、25%〜35%(又は、約25%〜約35%)の希釈範囲によって、特定の熱力学的及び微細構造的実施態様に合致する合金が生産されるであろう。
【0154】
本開示における合金はまた、得られたワイヤーサイズに対して最大限に可能なフィルを達成するように処方されてよい。ワイヤーはまた、代価を低減させるために、コアへの鉄合金パウダー添加物を用いるように処方されてよい。これらの鉄合金添加物は、コアフィルの全て又は部分からなってよい。
【0155】
<性能>
耐摩耗性合金は、しばしば、実験室内試験に基づくそれらの性能によって類型化される。開示された試験は、使用されている耐摩耗性成分と深く関係している。
【0156】
いくつかの実施態様においては、合金硬度は、55HRC以上(又は、約55HRC以上)であり得る。いくつかの実施態様においては、合金硬度は、58HRC以上(又は、約58HRC以上)であり得る。いくつかの実施態様においては、合金硬度は、60HRC以上(又は、約60HRC以上)であり得る。いくつかの実施態様においては、合金硬度は、62HRC以上(又は、約62HRC以上)であり得る。いくつかの実施態様においては、合金硬度は、64HRC以上(又は、約64HRC以上)であり得る。
【0157】
いくつかの実施態様においては、合金のASTM G65 procedure Aに準拠した質量損失が、0.2g以下(又は、約0.2g以下)である。いくつかの実施態様においては、合金のASTM G65 procedure Aに準拠した質量損失が、0.16g以下(又は、約0.16g以下)である。いくつかの実施態様においては、合金のASTM G65 procedure Aに準拠した質量損失が、0.12g以下(又は、約0.12g以下)である。いくつかの実施態様においては、合金のASTM G65 procedure Aに準拠した質量損失が、0.1g以下(又は、約0.1g以下)である。いくつかの実施態様においては、合金のASTM G65 procedure Aに準拠した質量損失が、0.08g以下(又は、約0.08g以下)である。
【0158】
<熱処理及び性能>
多くのアプリケーション、特に鉱業及び他の産業におけるアプリケーションのいたる所で、さらなる摩耗保護を供給するために、鋼の焼入れ・焼戻し型をハードフェーシングすることには有利であり得る。ハードフェーシングプロセスにより、焼入れ及び焼戻し基材において、基材の強度及び靱性を低下させるかも知れない熱影響部が生じる。このような靱性の低下により、操作中の衝撃又は過剰な応力に起因する不具合が、成分に導かれる。
【0159】
このような不具合のメカニズムに対抗するために、本開示における合金は、溶接されたときと焼入れ及び焼戻しサイクル後との両方の性能が同程度であるように、処方されてよい。これらの合金は、産業基準であるASTM G65試験に供されたときも、同程度の硬度及び高い耐摩耗性を維持している。
【0160】
表12に、化学組成がB:2.2、C:2.8、Mn:1、Mo:17.7、Ni:1.7、Si:0.5、及びV:12である、名目上の塊状ワイヤーで生産されたハードフェーシング堆積物についての、摩耗試験の結果を示す。このハードフェーシング層のサンプルを、2時間に亘って種々の温度でオーステナイト化し、次いで水中で焼入れをした。次に、サンプルを5時間に亘って150℃で焼戻した。この原料ワイヤーを用いて生産したハードフェーシングについての、基準ASTM G65範囲を、参考として併せて記載する。これにより、種々の熱処理サイクルの前後で高い耐摩耗性を得るためには、このスペースの合金が容易に選択されてよいことが実証されている。
【0161】
【表196】
[この文献は図面を表示できません]
【0162】
本開示における合金の鋳塊と2つのクロムベアリング合金商品とを、オーステナイト化及び焼入れサイクルの前後において比較した。表13に、900℃、2時間のオーステナイト化及びその後の油での焼入れサイクルの前後における、各合金の硬度を示す。表中の化学組成は、重量%で表されており、残部は鉄である。これにより、本開示における合金は、熱処理サイクルの前後で、同一か又は同程度の硬度を有することが実証されている。表13より、熱処理後の硬度の保持は、C及びBを含むハードフェーシング合金に固有の特徴ではないことが実証されている。
【0163】
【表197】
[この文献は図面を表示できません]
【0164】
<溶接及び性能>
本開示における合金は、従来のハードフェーシング材料よりも、向上した靱性、衝撃力、及び耐摩耗性を有する。以下の表14に、本開示における2つの合金(I#1及びI#2)と、クロムベアリングハードフェーシング材料の2つの商品(スタンダード#1及びスタンダード#2)との試験結果を示す。これらを、標準的な溶接手順によって溶接し、幅25mm、厚さ6mmの堆積物を生産した。次いで、溶接されたサンプルについて、硬度、ASTM G65試験に準拠した耐摩耗性、及び20Jの衝撃エネルギーに供したときに破損するまでの衝撃力を試験した。
【0165】
合金I#1と指定したワイヤー供給原料は、名目上の化学組成が、B:1.8、C:2.2、Mn:1、Mo:15、Ni:1.5、Si:0.5、V:9.35、Fe:残部である。合金I#2ワイヤーは、名目上の化学組成が、B:2.2、C:2.8、Mn:1、Mo:17.7、Ni:1.7、Si:0.5、V:12、Fe:残部である。スタンダード#1ワイヤーは、名目上の化学組成が、C:5.0、Cr:23、Mn:2.0、Si:1.0、Fe:残部である。スタンダード#2は、SHS 9192として販売されており、グロー放電分光分析法を用いて測定したクロム含量が16%である。SHS 9192のデータシートによると、該材料の化学組成は、クロム:20%未満、モリブデン:10%未満、ニオブ:10%未満、タングステン:10%未満、アルミニウム:5%未満、ホウ素:5%未満、炭素:5%未満、マンガン:5%未満、ケイ素:2%未満、鉄:残部である。表14より、開示の耐衝撃性は、ハードフェーシング合金に固有の特徴ではないことが実証されている。
【0166】
【表198】
[この文献は図面を表示できません]
【0167】
<アプリケーション>
本件に開示の合金は、各種アプリケーション及び工業において使用され得る。制限なしで、使用アプリケーションの例がいくつか挙げられる。
【0168】
採掘アプリケーションには、以下の部品と、以下の部品のためのコーティングとが含まれる。該部品とは、スラリーパイプライン用の耐摩耗性スリーブ及び/又は耐摩耗性ハードフェーシング(硬化肉盛);ポンプハウジング、又は羽根車、又は泥水ポンプ部品用のハードフェーシングを含む泥水ポンプ部品;シュートブロック、又はシュートブロックのハードフェーシングを含む給鉱シュート部品;限定はされないが、ロータリーブレーカースクリーン、バナナスクリーン、及びシェーカースクリーンを含むセパレーションスクリーン;自生粉砕ミル及び半自生粉砕ミル用のライナー;グランド係合ツール、及びグランド係合ツール用のハードフェーシング;バケツ及びダンプトラックライナー用の摩耗プレート;ヒールブロック、及び採鉱ショベル上のヒールブロック用のハードフェーシング;グレイダーブレード、及びグレイダーブレード用のハードフェーシング;スタッカリクレーマ;整粒クラッシャ;採鉱部品及び他の粉砕部品用の一般的な摩耗パッケージである。
【0169】
終了段階のオイル及びガスアプリケーションには、以下の部品と、以下の部品のためのコーティングとが含まれる。該部品とは、ダウンホールケーシング;ドリルパイプ、及びハードバンディングを含むドリルパイプ用のコーティング;泥水マネージメント部品;泥水モーター;水圧破砕ポンプスリーブ;水圧破砕羽根車;水圧破砕ブレンダ―ポンプ;停止カラー;ドリルビット、及びドリルビット部品;方向掘削装置、及び安定化装置と中心化装置とを含む方向掘削装置用のコーティング;噴出防止装置、並びに噴出防止装置、及びシェアー・ラムを含む噴出防止装置部品用のコーティング;油田管、及び油田管用のコーティングである。
【0170】
開始段階のオイル及びガスアプリケーションには、以下の部品と、以下の部品のためのコーティングとが含まれる。該部品とは、プロセス容器、及び蒸気発生装置を含むプロセス容器用のコーティング;アミン容器;蒸留塔;サイクロン;触媒クラッカー;一般的な精製配管;絶縁保護下でのコロージョン;硫黄回収装置;対流型フード;酸性ストリッパーライン;スクラバ;炭化水素ドラム;並びに他の精製装置及び容器である。
【0171】
パルプ及び紙アプリケーションには、以下の部品と、以下の部品のためのコーティングとが含まれる。該部品とは、ヤンキードライヤー及び他のドライヤーを含む抄紙機に用いられるロール;カレンダーロール;マシンロール;プレスロール;ダイジェスター;パルプミキサー;パルパー;ポンプ;ボイラー;シュレッダー;ティッシュマシン;ロールベールハンドリングマシン;ドクターブレード;蒸発器;パルプミル;ヘッドボックス;ワイヤー部;プレス部;MGシリンダ;ポープリール;巻き取り機;真空ポンプ;デフレーカー;並びに他のパルプ及び紙に係る装置である。
【0172】
発電アプリケーションには、以下の部品と、以下の部品のためのコーティングとが含まれる。該部品とは、ボイラーチューブ;集塵器;火室;タービン;発生器;冷却塔;コンデンサー;シュート及び槽;オーガー;バグハウス;ダクト;IDファン;石炭配管;並びに他の発電に係る部品である。
【0173】
農業アプリケーションには、以下の部品と、以下の部品のためのコーティングとが含まれる。該部品とは、シュート;ベースカッターブレイド;槽;第1ファンブレード;第2ファンブレード;オーガー;サトウキビ収穫;サトウキビミル;及び他の農業アプリケーションである。
【0174】
建築アプリケーションには、以下の部品と、以下の部品のためのコーティングとが含まれる。該部品とは、セメントシュート;セメント配管;バグハウス;混合装置;及び他の建築アプリケーションである。
【0175】
機械要素アプリケーションには、以下の部品と、以下の部品のためのコーティングとが含まれる。該部品とは、シャフトジャーナル;ペーパーロール;ギアボックス;ドライブローラー;羽根車;一般的な開墾及び寸法復元アプリケーション;並びに他の機械要素アプリケーションである。
【0176】
鋼アプリケーションには、以下の部品と、以下の部品のためのコーティングとが含まれる。該部品とは、コールドローリングミル;ホットローリングミル;ワイヤーロッドミル;溶融亜鉛メッキライン;継続酸洗ライン;連続キャスティングロール及び他の鋼ミルロール;並びに他の鋼アプリケーションである。
【0177】
本件に記載の合金は、種々の技術で効果的に、製造され得る、及び/又は、沈殿し得る。制限なしで、プロセスの例がいくつか挙げられる。
【0178】
熱スプレープロセスには、ツインワイヤーアーク、スプレー、高速アークスプレー、燃焼スプレー等のワイヤー原料を用いるプロセスと、高速酸素燃料、高速エアスプレー、プラズマスプレー、デトネーションガンスプレー、コールドスプレー等のパウダー原料を用いるプロセスとが含まれる。ワイヤー原料は、金属コアワイヤー、ソリッドワイヤー、又はフラックスコアワイヤーの形状であり得る。パウダー原料は、単独均質合金、又は共に融解したときに所望の化学構成となる複合合金パウダーの組み合わせであり得る。
【0179】
溶接プロセスには、制限されないが、金属不活性ガス(MIG)溶接、タングステン不活性ガス(TIG)溶接、アーク溶接、サブマージアーク溶接、オープンアーク溶接、バルク溶接、レーザークラッディングを含むワイヤー原料を用いるプロセスと、制限されないが、レーザークラッディング及びプラズマ移行アーク溶接を含むパウダー原料を用いるプロセスとが含まれる。ワイヤー原料は、金属コアワイヤー、ソリッドワイヤー、又はフラックスコアワイヤーの形状であり得る。パウダー原料は、単独均質合金、又は共に融解したときに所望の化学構成となる複合合金パウダーの組み合わせであり得る。
【0180】
キャスティングプロセスには、制限されないが、砂型キャスティング、永久鋳型キャスティング、チルキャスティング、インベスティメントキャスティング、消失性キャスティング、ダイキャスティング、遠心キャスティング、ガラスキャスティング、スリップキャスティングを含む、鋳鉄を製造するのに代表的なプロセスと、連続キャスティングプロセスを含む、錬鋼物を製造するのに代表的なプロセスとが含まれる。
【0181】
ポストプロセス技術には、制限されないが、圧延、鍛冶、浸炭、チッ化、浸炭チッ化、ホウ化等の表面処理、制限されないが、オーステナイト化、正常化、アニール化等の熱処理、応力除去、焼戻し、エイジング、焼入れ、低温処理、炎焼入れ、誘導加熱焼入れ、差別焼入れ、肌焼入れ、脱炭化、機械加工、摩砕、冷間加工、加工硬化、及び溶接が含まれる。
【0182】
先の記載から、発明に値する非クロム及び低クロム合金の産物及びアプローチが開示されていることが分かるであろう。数種の成分、技術及び側面が、ある程度の特別性を伴って記載されているが、ここでは、本開示の精神及び範囲を超えない範囲で、特定のデザイン、構成、及び形態における多くの変更を、先の記載に加えることができる。
【0183】
別々に実装することに関連して本開示に記載されたある特定の特徴はまた、単独の実装を組み合わせた状態で、実装に供され得る。逆に、単独で実装することに関連して記載された種々の特徴はまた、複合的な実装で別々に、又はいずれかの適したサブコンビネーションの状態で、実装に供され得る。さらに、特徴は、ある特定の組み合わせにおいて作用すると上述されているかもしれないが、いくつかの場合、請求された組み合わせからの1つ又はそれ以上の特徴を、該組み合わせから切り離すことができ、該組み合わせは、いずれかのサブコンビネーションとして、又はいずれかのサブコンビネーションの変形として請求されてもよい。
【0184】
さらに方法は、特定の順序で、図面に描かれているか、又は明細書に記載されているかもしれないが、望ましい結果を得るために、このような方法は、示された特定の順序、又は連続した順序で採用される必要がなく、全ての方法が採用される必要もない。描かれていないか、又は記載されていない他の方法を、例示した方法及びプロセスに組み込むことができる。例えば、1つ又はそれ以上の追加の方法を、記載した方法のいずれかの、前に、後で、同時に、又は間で採用することができる。さらに、他の実装において、これらの方法は再編成又は再整理されてもよい。また、前記実装における種々のシステム部品の分離は、全ての実装において必要とされるものである、と理解されるべきではない。記載された部品及びシステムは一般的に、単一の製品において一緒に合体されるか、又は複合的な製品へと包括されることが可能である、と理解されるべきである。加えて、他の実装が本開示の範囲内に含まれる。
【0185】
特に言及しない限り、又は文脈中で用いられているとおりであると理解される限り、例えば「〜できる(し得る)(can)」、「〜できる(し得る)(could)」、「〜して(も)よい(might)」、又は「〜して(も)よい(may)」といった条件的な用語は、一般的に、ある特定の実施態様が、ある特徴、要素、及び/又はステップを含むか、もしくは含まないことを伝える、ということを目的としている。よって、このような条件的な用語は、一般的に、特徴、要素、及び/又はステップが多少なりとも1つ又はそれ以上の実施態様のために必要とされていると暗示する、ということを目的とはしていない。
【0186】
特に言及しない限り、又は文脈中で用いられているとおりであると理解される限り、例えば「X、Y、及びZの少なくとも1つ(at least one of X,Y,and Z)」といった表現の結合した用語は、一般的に、ある項目、言葉等が、X、Y、又はZであってよいことを伝える、ということを目的としている。よって、このような結合した用語は、一般的に、ある特定の実施態様が、Xの少なくとも1つ、Yの少なくとも1つ、及びZの少なくとも1つの存在を必要としていると暗示する、ということを目的とはしていない。
【0187】
ここで用いられる、例えば「approximately(およそ)」、「about(約)」、「generally(一般的に)」、及び「substantially(実質的に)」といった程度を示す用語は、まだ所望の機能を発揮するか又は所望の結果を達成させる、提示した体積、量、又は特徴に近い体積、量、又は特徴を示す。例えば「approximately(およそ)」、「about(約)」、「generally(一般的に)」、及び「substantially(実質的に)」という用語は、提示した値の10%以下、5%以下、1%以下、0.1%以下、及び0.01%以下の範囲内にある値をいう。もし提示した値が0(例えば、値なし、値を有しない)であれば、新しく定めた前記範囲は、特定の範囲となることができ、特定体積%の範囲内には入らない。例えば、提示した値の10w/v%以下、5w/v%以下、1w/v%以下、0.1w/v%以下、0.01w/vo以下の範囲内である。
【0188】
いくつかの実施態様が、添付の図面に関連して記載されている。図面は一定のスケールで描かれているが、示されている以外の寸法及び比率は、熟考され、開示した発明の範囲内にあるので、このスケールには制限がない。距離、角度等は、単なる一例であり、例示されたデバイスの実際の寸法及びレイアウトに対して正確な関係を有する必要はない。構成要素の追加、削除、及び/又は再配列が可能である。さらに、種々の実施態様と関連している、いずれかの特別な特徴、側面、方法、特性、特徴、品質、特質、要素等の本開示は、ここで説明する全ての他の実施態様において使用され得る。加えて、ここに開示のいずれかの方法は、列挙されたステップを遂行するのに適したいずれかのデバイスを用いて実行される、ことが認められる。
【0189】
多くの実施態様及びその変更が詳細に記載されているが、他の実施態様及びそれを用いる方法が、当業者に明らかになるであろう。したがって、種々の応用、修飾、材料、及び置換は、特有で発明となり得る本開示及び請求項の範囲から逸脱することなく、同等となり得る。

図1
[この文献は図面を表示できません]
図2
[この文献は図面を表示できません]
図3
[この文献は図面を表示できません]
図4
[この文献は図面を表示できません]
図5
[この文献は図面を表示できません]
【国際調査報告】
[この文献は図面を表示できません]
[この文献は図面を表示できません]